2012年02月27日(月) |
けの汁、別離、きっとここが帰る場所、KOTOKO、シネマ歌舞伎・高野聖、裏切りのサーカス、ファウスト+Oscar,VES |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『けの汁』 つがる市フィルムコミッション製作による33分の短編作品。 昨年5月地元公開され6月の第20回あおもり映画祭で上映さ れた作品が、「東日本大震災復興支援上映プロジェクト」の 一環として、3月11日に東京芸術学舎・外苑キャンパスで上 映されることになり試写が行われた。 主人公は、高校時代に東京から津軽に転校してきた少年。そ の少年はちょっとした偶然もあって同級生の女子と付き合う ようになり、やがて愛を実らせて結婚する。それから30年ほ どが経った祭りの日、都会に出ていた1人娘が恋人を連れて 帰ってくる。 そんな娘たちのため地元料理の「けの汁」を作って饗う主人 公だったが、そんな主人公の姿に、娘は何か不思議な雰囲気 があるとつぶやいている。 主演は、青森出身フォーク歌手の三上寛と、2007〜2009年の 「中学生日記」で最年少の先生役を務めたという浜丘麻矢。 他に元青森放送アナウンサーの経歴もある2006年『暗いとこ ろで待ち合わせ』などの小林あずさ、2004年『仮面ライダー 剣』などの天野浩成、2004年12月紹介『カナリア』の石田法 嗣らが脇を固めている。 脚本と監督は、2008年12月紹介『トミカヒーロー/レスキュ ーフォース』の後番組『レスキューファイアー』の監督や昨 年5月紹介『デンデラ』の助監督なども務めた千村利光。 お話は有り勝ちという感じのものではあるが、三上の朴訥と した感じや浜丘の結構ピュアな感じもそれなりに良い雰囲気 で捉えられていた。また登場する馬っこ祭りというものも興 味深かった。 全体として端折るべきところはちゃんと端折って、純粋な物 語だけが際立つように丁寧に描かれている。33分の上映時間 にしてはしっかり物語が描かれている点にも感心したところ だ。 なお題名の「けの汁」は、大根、人参、ごぼう、わらび、ふ き、ずんだ(大豆)、凍り豆腐、こんにゃくなどの具沢山の 椀もので、謂れはいろいろあるようだが中々美味しそうに見 えるものだった。
『別離』“جدایی نادر از سیمین Jodái-e Náder az Simin” 昨年のベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞と、男優賞、女 優賞の3冠を独占した他、すでに世界の74冠に輝いているア スガー・ファルハディ監督作品。今年のアカデミー賞では外 国語映画部門と脚本賞部門の候補にもなっている。 主人公は家族と共に海外移住の準備を進めている主婦。しか し夫には介護の必要な父親がいて、彼女は離婚も考えなくて はならなくなる。そして夫も離婚は了承するが、1人娘の養 育権を巡って対立が始まる。 それでも取り敢えず妻が別居を始めた一家では、父親の介護 のために人を雇わなくてはならなくなるが…。伝を頼って来 て貰った女性の仕事は彼女の夫には内緒だった。しかも信心 深い女性は老人と言えども男性の裸体を観ることができなか った。 そんな様々な制約の中で発生したちょっとした手違いが、や がて2つの家族を巻き込んだ大きな騒動へと発展して行く。 社会情勢や宗教上の問題など、我々の生活とはかけ離れた部 分も多い作品ではあるが、同じ地球上にこのような生活を送 っている人々が現にいることを忘れてはいけない、そんなこ とを思わさせてくれる作品ではあった。 しかしその一方で男尊女卑や他人との争いなどには、それが 人間の本性を現しているような感じもしていろいろ考えてし まう部分も多い作品だった。これらは必ずしも宗教に絡んで の問題だけではない。 その一方で、このような国でも女性の立場は向上しているこ とも伺わせる作品ではある。しかもそれが本国でも大ヒット して、アカデミー賞の国代表に選ばれているのは素晴らしい ものだが、その陰で監督が国内でかなりのバッシングを受け たことも事実のようだ。 主演は、イラクの名匠・故アリ・ハタミ監督の娘でモントリ オール世界映画祭での受賞経験などもあるレイラ・ハタミ。 他はファルハディ監督の前作などにも出演している常連俳優 たちが共演。また両親の間で揺れる娘役では、監督の実の娘 のサリナ・ファルハディがデビューを飾っている。
『きっとここが帰る場所』“This Must Be the Place” 2008年ベルリン国際映画祭審査員賞を『イル・ディーヴォ』 で受賞したパオロ・ソレンティーノ監督が、その際の審査員 長だったショーン・ペンを主演に迎えて描いた作品。 主人公はアイルランドで暮らす元パンク・ロッカー。彼はあ る事情から音楽活動を止め、以後は女性消防士の妻に支えら れてほぼ隠遁生活を続けている。しかし街を出歩くときのフ ァッションは、今もロッカー時代のままだ。 そんな彼の周囲には、ロッカー時代からの追っかけの少女や プロデューサーとしての再起を画策するプロモーターなども いたが、彼自身が重い腰を上げる切っ掛けにはなりそうもな い。しかしそんな彼に行動を起こさなければならない事情が 訪れる。 それは危篤状態になった父親の想いにも拠るものだったが、 こうしてアメリカの地に舞い戻った主人公の不思議な旅が開 始される。それは彼自身のアイデンティティーを求める旅で もあった。 監督は、2008年の受賞式後のパーティでペンに受賞作を激賞 され、一緒に仕事をしたいと言われたのだそうだ。しかし本 当に実現するとは思えず、それでも書き上げたシナリオをペ ンに送り気長に待つつもりでいたら、何と1日も待たずに返 事が届いたのだそうだ。 その作品は、2008年5月紹介のショーン・ペン監督作品『イ ントゥ・ザ・ワイルド』にも通じる感じのするちょっとシュ ールなところもあるロード・ムーヴィで、ペンもこれならや り易かっただろうと思わせるものだ。 しかも最近の流行り風なところもあるから、これなら出資者 も募りやすいという感じのものでもあった。ただしこの流行 りの部分は僕には最近食傷気味ではあったが、本作では全体 の醸し出すシュールな雰囲気が僕にも心地良く感じられる作 品だった。 共演は、オスカー女優で2011年7月紹介『トランス・フォー マーズ』などのフランシス・マクドーマンド、同年12月紹介 『ペントハウス』などのジャド・ハーシュ、それに新人のイ ヴ・フーソン。 また元トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンが音楽を 担当し、自身の役で出演しているのも話題になりそうだ。
『KOTOKO』 2010年3月紹介『鉄男 THE BULLET MAN』などの塚本晋也監 督の最新作で、沖縄県出身のアーティストのcoccoを主演に 迎え、昨年のベネチア国際映画祭で先鋭的な作品を選出する オリゾンティ部門に出品されて日本映画では初の部門グラン プリを受賞した作品。 主人公は都会に暮らすシングルマザー。ところがある日、街 で行き交う人が2重に見えるようになり、その一方が自分を 襲ってくる幻覚に捉らわれるようになる。そして騒ぎを引き 起こした結果は、子供を故郷に住む姉に預けさせられること になる。 しかしその後は彼女のことを一途に思う男性に巡り会うこと で、2重に見えていた世界も1つに纏まり、生活態度も落ち 着いて行く。そして故郷の沖縄で暮らす子供に会いに行くこ とも許されるが… 共演は塚本晋也。監督は過去の作品でも一部のシーンに出演 していることはあったが、今回は本格的な主人公の相手役と して、かなりの登場シーンでアクションなどもたっぷりと演 じてみせている。 なおクレジットでは、coccoは企画・原案・主演・美術・音 楽となっており、一方の塚本は、企画・製作・監督・脚本・ 撮影・編集・出演とされている。この原案と脚本の関係がど のようなものかは不明だが、発端の人が2重に見えるという 発想は中々のものだ。 これに対して中盤のスプラッター風の展開は有り勝ちのよう にも感じるが、ここでも若い女性の心理面という形で一本筋 が通っており、今までの塚本作品では何となくこの辺で破綻 を感じていたような部分にも纏まりが感じられた。 因に海外では「様々なジャンルを超越した作品」というよう な評価も観られたが、それは一面では纏まりの無さと紙一重 のような感じもする。しかし本作は主人公の存在がかなりし っかりと描かれており、その点では以前の作品より理解のし 易さも感じられた。 これは本作が主演者coccoの原案に基づくものであり、他人 の意見を監督が受け入れた結果であるのかも知れない。この 点で今回のコラボレーションは成功と言えそうだ。それがフ ァンの目にどのように写るかは、これからの公開を待たねば ならないところだが。
『シネマ歌舞伎・高野聖』 今年最初に紹介した『天守物語/海神別荘』に続く、泉鏡花 +坂東玉三郎による幻想舞台を「シネマ歌舞伎」で公開する 3作目。先の2作は鏡花の戯曲を演じたものだが、本作は鏡 花の原作小説から新たに玉三郎自身が脚色して舞台化した作 品だ。 物語の舞台は、飛騨から信州に抜ける山路。その道を辿って きた修業僧はどちらも松本に繋がるという追分で、一方の新 道は水に漬かっているが安全で、他方の旧道は道程は短いが いろいろな危険が待ち構えていると教えられる。 しかしある事情から旧道を選ばざるを得なかった修業僧は蛇 や蛭に難渋しながらも何とか峠の一軒家に辿り着く。そこに は、美しい女と女が養っているらしい男が暮らしており、さ らに出入りの老人の姿があった。 そして一夜の宿を願い出た修業僧を女は快く迎えてくれるの だが… 出演は、女の役に玉三郎、修業僧を中村獅童、老人役に中村 歌六。舞台は昨年2月に博多座で撮影されたものだが、通常 のシネマ歌舞伎のように公演舞台の撮影ではなく、公演後の 舞台上にカメラも設置して別撮りされているものだ。 これは同時上映される特別映像によると、極小のものが極大 に通じるという鏡花の思想に沿ったものだそうで、細かい仕 種なども明確に伝えたいという玉三郎の意向によったものの ようだ。それに沿って今回は野外ロケのシーンなども挿入さ れている。 ただ僕としては、前半の回り舞台を使った場面転換などは大 写しでも観たかったもので、そこがアップショット中心なの は少し残念な感じもした。とは言え、獅童や歌六がかなりの 長台詞を蕩々と語るシーンなどは見所にもなっている。 それに何より、鏡花の幻想シーンが見事に再現されている点 も堪能できる作品だった。 なお本作は3月17日から全国公開となるが、その後4月14日 からは東京築地の東劇で、3作品の追加上映と1995年劇場公 開された坂東玉三郎監督、宮沢りえ出演による映画版『天守 物語』の特別上映も行われるとのことで、鏡花の舞台を存分 に堪能できそうだ。 因に『シネマ歌舞伎』の入場料は2000円の入れ替え制だが、 『映画天守物語』は1000円の特別料金で観られるようだ。
『裏切りのサーカス』“Tinker, Tailor, Soldier, Spy” 元英国諜報部員とされる作家ジョン・ル・カレが1974年に発 表した原作を、ル・カレ自身の製作総指揮により映画化した 作品。主人公のスマイリーを演じたゲイリー・オールドマン がアカデミー賞主演男優賞の候補になっている。 原作の発表当時の1973年を背景に、熾烈な闇の戦いを繰り広 げる英国情報部とソ連の諜報機関の姿が描かれる。そしてそ こでは英国情報部の中枢に20年以上も潜り込んでいたという 2重スパイ<もぐら>を叩き出す作戦が展開される。 まあ2重スパイものは、誰が敵で誰が味方かも判らないのだ から話は複雑。しかも物語は時間軸を入れ替えて描くから、 これは1回観たぐらいでは理解はできない。しかし本作では 1970年代の風景や雰囲気なども満喫でき、それだけでも満足 できる作品になっていた。 大体この原作は、1979年にイギリスBBCで全7回のミニシ リーズで映像化されていて、その時には300分以上の時間が 掛けられていたのだから、それを128分に凝縮しただけでも 大変なものだ。 従って物語はかなりシンプルにされているはずだが、それで も複雑怪奇なスパイの内幕が感じられるのは、それだけ丁寧 に脚色されているということなのだろう。観ていてそんな満 足感も得られる作品だった。 共演は、昨年1月紹介の『英国王のスピーチ』でオスカーを 受賞したコリン・ファース。他に、昨年11月紹介『インモー タルズ』などのジョン・ハート、今年1月紹介『マリリン・ 7日間の恋』などのトビー・ジョーンズ、今年1月紹介『第 九軍団のワシ』に出演のマーク・ストロングらが脇を固めて いる。 監督は、昨年5月紹介『モールス』のオリジナルの『僕のエ リ200歳の少女』を手掛けたスウェーデンの俊英トーマス・ アルフレッドスン。 脚本は、2010年6月紹介『ヤギと男と男と壁と』などのピー ター・ストローハンと、ストローハンの夫人で本作の執筆後 に急逝したブリジット・オコナー。本作のクレジットは彼女 に捧げられていたようだ。
『ファウスト』“Faust” 2008年10月紹介『チェチェンへ/アレクサンドラの旅』など のアレクサンドル・ソクーロフ監督の最新作で、昨年ヴェネ チア国際映画祭でグランプリの金獅子賞を受賞した作品。 ゲーテの原作に基づく作品だが、映画の巻頭には「自由な解 釈による」との但し書きが添えられて、原作にはあまり縛ら れない映画化とされている。とは言え人工生命体「ホムンク ルス」などはちゃんと登場しているものだ。 ではあるのだけれど、壮大なファンタシーを期待して行くと 多少思惑外れの感じはしてしまうところで、メフィトフェレ スは高利貸しの姿のままだし、特に超自然的な能力を発揮す るわけでもない。 でもまあ作品の全体に流れる雰囲気はこれは見事なもので、 金獅子賞の受賞も頷けるものだ。ギリシャ神話の世界は登場 しないが、これがゲーテの描いた「ファウスト」の真髄とい うところなのだろう。 脚本は、ソクーロフ監督とロシアとドイツの文化交流が専門 の文化史研究家のマリーナ・コレノワ、それに全ロシア国立 映画大学脚本科で教鞭を取っているユーリー・アラボフ。彼 らは1999年『モレク神』でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞 している。 出演は、2009年のアメリカアカデミー賞で外国語映画部門に ノミネートされたオーストリア映画“Revanche”に出演のヨ ハネス・ツァイラー、ロシア出身の俳優・ダンサーのアント ン・アダシンスキー、ロシア出身でドイツで活躍しているイ ゾルダ・ディシャウク。 他に、昨年7月紹介『ミケランジェロの暗号』などのゲオル ク・フリードリッヒ、2008年9月紹介『そして、私たちは愛 に帰る』で全米映画批評家協会賞助演女優賞を受賞したハン ナ・シグラらが脇を固めている。 また撮影は、2001年『アメリ』や2008年『ハリー・ポッター と謎のプリンス』などでアカデミー賞候補になったブリュノ ・デルボネル。因に現在は、ティム・バートン監督、ジョニ ー・デップ主演による往年のTVシリーズ“Dark Shadows” の映画化を手掛けているようだ。 * * 日本時間27日に発表された今年のアカデミー賞は、昨日紹 介の『アーチスト』が作品、監督、主演男優の主要3部門に 加えて衣裳、作曲の5部門を制し、昨年12月紹介『ヒューゴ の不思議な発明』は美術、撮影、音響編集、録音、視覚効果 の受賞で、同じく5部門は制したものの、主要部門の受賞は ならなかった。 その他の作品では2月紹介『マーガレット・サッチャー/ 鉄の女の涙』が主演女優とメイクアップの2部門を受賞。メ イクアップは映画紹介の時にも述べたようにイギリス同士の 争いだったが、スーパーヴァイザーを務めている人は格上な のかな。 後は1部門ずつの受賞で、昨年11月紹介『人生はビギナー ズ』が助演男優、今年1月紹介『ヘルプ・心をつなぐストー リー』が助演女優、昨年7月紹介『ランゴ』が長編アニメー ション、今年1月紹介『ファミリー・ツリー』が脚色、次回 紹介予定の『ミッドナイト・イン・パリ』が脚本、今年1月 紹介『ドラゴン・タトゥーの女』が編集、今回紹介『別離』 が外国語映画、そして歌曲部門は“The Muppets”が受賞し た。 他は、長編ドキュメンタリー部門が“Undefeated”、短編 ドキュメンタリー部門が“Saving Face”、短編アニメーシ ョン部門が“The Fantastic Flying Books of Mr. Morris Lessmore”、短編実写部門が“The Shore”という作品の受 賞になった。 事実上、ドキュメンタリーと短編を除く殆どの作品はこの ページで紹介することができていたもので、これはページの 執筆者としても嬉しいところだ。まあ個人的には、『ヒュー ゴ』には11部門制覇も期待したし、主演女優賞はミシェル・ ウィリアムスも期待だったが、その辺は仕方がないところだ ろう。 ただ作品賞は、去年がイギリス映画、今年はフランス映画 の受賞になった訳で、アメリカのアカデミー賞がこれで良い のか…という気分にはなってしまったが。 * * それから以前の紹介ではページの関係で端折ってしまった VES賞も、少し細かく紹介しておこう。その結果は、 VFX主導映画のVFX賞が、“Rise of the Planet of the Apes” VFX主導でない映画のVFX賞が、『ヒューゴの不思議 な発明』 長編アニメーション賞は『ランゴ』 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞は“Rise of the Planet of the Apes”のCaesar アニメーション映画におけるアニメーションキャラクター 賞は『ランゴ』のランゴ 実写映画における背景賞は『トランスフォーマー』の155 Wacker Drive アニメーション映画における背景賞は『ランゴ』のMain Street Dirt 実写映画におけるヴァーチャル撮影賞は『ヒューゴの不思 議な発明』 アニメーション映画におけるヴァーチャル撮影賞は『ラン ゴ』 実写映画におけるモデル賞は『トランスフォーマー』の Driller 実写映画における合成賞は『キャプテン・アメリカ/ザ・ ファースト・アベンジャー』 となった。 ということで、アニメーション関連を『ランゴ』が独占し た他は、“Rise of the Planet of the Apes”と『ヒューゴ の不思議な発明』『トランスフォーマーズ』『キャプテン・ アメリカ』が実写映画部門の各賞を分け合うことになったも のだが、この結果を受けたアカデミー賞は、長編アニメーシ ョン賞が『ランゴ』、視覚効果賞は『ヒューゴの不思議な発 明』ということで、これはまあ納得できる結果というところ だろう。 (この項2月28日更新)
2012年02月26日(日) |
マンイーター、ルート・アイリッシュ、父の初七日、それぞれの居場所、アーティスト、テイク・シェルター、アポロ18、イップ・マン誕生 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『マンイーター』“Rogue” 2009年『アバター』のサム・ワーシントン、2010年3月紹介 『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ、 2006年5月紹介『サイレントヒル』のラダ・ミッチェルが共 演する2007年オーストラリア製作のワニ・パニック映画。 2009年7月紹介『ブラック・ウォーター』に先行するオース トラリア大陸北部地区に生息する凶暴な入り江ワニを題材と したサヴァイヴァルドラマ。先に紹介した作品は実話に基づ くとされていたものだが、本作はフィクションのようだ。 しかし物語は同様のアドヴェンチャー・クルーズを背景にし たもので、フィクションが実話に先行したというか。本作も 実話にインスパイアされているということなんだろうが…。 それにしてもこういうことは、本当によく起きているという ことなのかな? ただし本作ではフィクションらしく、いろいろなことが起き るが、それがまあ多少常識外れだったりするところをご愛嬌 として許せるか…というところが評価の分れ目になる。それ はそれなりにスリリングだったりはしているものだが。 共演というか主演は、テレビシリーズ“Alias”のマイクル ・ヴァルタン。他には『ダンシング・ヒーロー』のバリー・ オットー、『オスカーとルシンダ』のジョフ・モレル、『ミ リュエルの結婚』のヘザー・ミッチェル、『バーティカル・ リミット』のロバート・テイラーなどオーストラリアを代表 する俳優たちが脇を固めている。 製作・監督・脚本は、2005年の“Wolf Creek”というホラー 作品で高い評価を得たグレッグ・マクリーン。本作が第2作 で、現在は前作に主演し本作にも出演しているジョン・ジャ レットと共に“Wolf Creek 2”の準備を進めているようだ。 また本作のVFXには『アイアンマン2』や『キャプテン・ アメリカ』、『マイティ・ソー』などのスタッフが参加し、 クレジットには『LOTR』を手掛けたWeta Workshopの名 前もあったようだ。本作ではオーストラリア・アカデミーの VFX賞も受賞している。 なお、エンディングに流れるコミカルな歌は、Never Smile at a Crocodile。1953年のディズニー版『ピーターパン』で 流れたフック船長の後を追いかけるワニのテーマ曲に歌詞を 付けたもので、本作ではThe Paulette Sistersによる歌が使 用されていた。
『ルート・アイリッシュ』“Route Irish” 2010年11月紹介『エリックを探して』などのケン・ローチ監 督による社会派ドラマ。 題名の意味は映画の開幕からすぐに明らかにされるが、イラ クのバグダッド中心部の安全地帯「グリーンゾーン」から空 港まで続く道のこと。世界で最も危険な道路とも言われるそ のルートで起きた襲撃事件の謎を、事件で死亡した男の戦友 が追求する。 物語の舞台はイギリス国内。イラクで活動する民間警備会社 に務める主人公は、自分が警察に拘留されてきた間に受信し ていた戦友からの留守番電話に愕然とする。そこには切羽詰 った様子で助けを求める戦友の声が録音されていたのだ。そ してその直後に戦友は死亡していた。 やがてその遺体が送還され、その葬儀の場で死の状況が会社 側から説明される。しかしその説明に納得できない主人公は 独自に調査を開始する。そしてそれはある驚愕の事実へと繋 がっていった。その事実をさらに追求する主人公は… 出演者は、ほとんどが映画初出演のマーク・ウォーマック、 アンドレア・ロウ、ジョン・ビッショプ、トレヴァー・ウィ リアムズ、ジャック・フォーチュン。そして2004年2月紹介 『真珠の耳飾りの少女』などに出演のジェフ・ベル。 さらにクルディスタン出身ミュージシャンのタリブ・ラスー ルと、実際にイラクで活動中の戦闘で失明、現在はヨーロッ パ盲人サッカー選手権のイギリスチームに所属しているとい うクレイグ・ランドバーグがぼぼ自身の役を演じている。 僕は、この作品を観るまでこの題名の言葉にこのような意味 があること知らなかったし、映画に登場するOrder 17という 言葉に関しても無知だった。さらにこのような違法行為がイ ラクで行われているということもほとんど知らなかった。 しかしこれは現実であって、このような違法行為にイギリス 人も我々日本人も加担しているのだ。これもまた、1月紹介 『誰も知らない基地のこと』で語られた産軍共同体の一環と 言えものなのかも知れない。 そしてその現実を知ったときに主人公が採った行動こそが、 今我々に求められているものを象徴しているのだろう。そん な監督のメッセージも感じられた。
『父の初七日』“父後七日” 父親が亡くなって出棺までの7日間を描いた台湾映画。 元々は昨年春に公開予定だったが、震災の影響で公開が延期 されていた作品。その作品がようやく3月3日から公開され る。個人的には昨年3月には試写会場まで行ったが、試写が 中止されて観ることのできなかった作品で、その作品をよう やく観られたものだ。 主人公は台北で働いている女性。その女性に突然父親の訃報 が届く。そして台中の田舎町に帰ってきた女性は、その町で 父と共に暮らしていた兄と共に葬儀の準備を始めるが…。そ れは宗教に基づく7日間にも及ぶ混乱の始まりだった。 葬儀がテーマの作品は、1984年『お葬式』や2008年6月紹介 『おくりびと』、さらに中華圏では2003年3月紹介『ハッピ ー・フューネラル』などいろいろ公開されているが、本作は 儒教に基づく台湾でのお話。 僕自身が3年前に父を亡くして、その際には一応喪主として 葬儀を行ったが、通夜と告別式の2日間はただ葬儀社の人の 指示にしたがっているだけで、感情や涙もほとんど湧いてこ なかった気がする。 それがある切っ掛けで涙が出始めたら、それからは本当に止 まらなくなってしまった。そんな思いを経験している者とし ては、本作の主人公の心情は理解できた。ただし台湾式の葬 儀というのは尋常ではないもので、これは大変だ、という感 じもしたものだ。 出演者はほとんどが新人だが、父親役はジャッキー・チェン の相手役などでも知られるタイ・パオが演じている。また主 演のワン・リーウェンは脚本家としても活躍中。さらに共演 のウー・ポンフォンとジャン・シーインは本作の演技で助演 賞を受賞したそうだ。 脚本と監督は、ワン・ユーリンとエッセイ・リウという2人 の共同で、この内のワンはすでにドキュメンタリーの実績が あるようだ。一方の原作も提供したリウはジャーナリストで 本作がデビュー作、ただし今後は監督を続ける気持ちはない とのこと。因に散文で書かれた原作では台湾の文学賞を受賞 しているそうだ。
『季節、めぐり それぞれの居場所』 2010年に『ただいま それぞれの居場所』という作品で文化 庁映画賞を受賞している大宮浩一監督による新作。3・11後 の状況も含めた日本における介護の現状を描いたドキュメン タリー。 介護という言葉には、自分の置かれている状況からまず老人 介護の問題を考えてしまったが、介護の現場はそれだけでは ない。心身に障害を持つ人たちの介護もここには含まれる。 そんな様々な介護の問題が描かれる。 作品では、千葉県で若者が立上げたNPO法人が運営する宅 老所、埼玉県の老舗の福祉施設、千葉県のNPOが運営する デイサービス、また雪深い青森県のデイサービスセンターな どが紹介される。 そこではそれぞれに高齢者の介護の様子や、働き盛りで障害 者になってしまった父親を見守る家族の姿、また様々な経歴 で介護の現場に携わるスタッフたちのそこに至った心情など が紹介される。 そしてさらに作品は震災後の東北地方に目を向け、岩手県宮 古市で自らが被災者で生活基盤の立て直しを迫られながら、 施設に来ていた老人たちの身を案じる施設長や、宮城県石巻 市で個人の住宅の一部を借りて介護を再開するスタッフの姿 などが紹介される。 こういう活動をされている方たちには、本当に頭が下がる。 僕自身はもはや介護を受ける側に近付いてしまったからいま さら何もできないと思うが、それでもこういう方たちの活動 には憧れも持ってしまう。 最近何かの作品で、患者の最後を看取ることの素晴らしさを 描いたものがあったが、正にそういう心情でこの人たちも活 動を続けているのだろう。そんな介護の現場の素晴らしさが 描かれている。 でも現実はもっと厳しいのだろうな。そんな中でもこのよう な活動を続けている人たちは正に賞賛に値する人たちだ。こ のような人たちにもっと手厚い支援が得られることを願いた いものだ。
『アーティスト』“The Artist” ハリウッド創世期の物語をモノクロスタンダードのサイレン トで描き、昨年のカンヌ国際映画祭に急遽出品されて、主演 男優賞とパルムドッグ賞を受賞した作品。 主人公は無声映画で絶大な人気を誇っていた男優と、そんな 彼が偶然に出会った女優の卵。その彼女には偶然も幸いし、 また彼女自身の努力もあって女優は1歩1歩スターへの階段 を登って行く。 一方、その頃の映画界にはトーキーの波が到来していた。し かし男優は、「サイレントは芸術だ」と称して無声映画に固 執してしまう。その結果は…。過去にも幾多の名作を生んだ サイレント→トーキー転換期のドラマに新たな名作が誕生し た。 しかもその世界を、モノクロスタンダードのサイレントの側 から描いている。それは開幕からタイトルやクレジット、伴 奏音楽など、正しく無声映画の感覚で繰り広げられ、中には 無声映画独特の演出も随所に再現されているものだ。 つまり、今まで作られた同種の作品がカラー・サウンドの側 から描いていたのに対して、本作は正に忘れ去られようとし ている側から描いている。その心情が、2重3重の想いとな って観客に押し寄せてくるものだ。 しかもそこにピュアなロマンスや愛犬の活躍などが織り込ま れるから、これはもう古き良き時代を懐かしむには最高の作 品となっている。 脚本と監督は、2006年11月5日付「東京国際映画祭2006 コンペティションその1」で紹介した『OSS117カイロ ・スパイの巣窟』などのミシェル・アザナヴィシウス。なお 本作は監督が初めてハリウッドで撮影したものだ。 出演は、『OSS』にも主演し本作でカンヌの主演男優賞を 受賞したジャン・デュジャルダン。共演は監督夫人で『OS S』にも出演のベレニス・ベジョ。他に、ジョン・グッドマ ン、ジェームズ・クロムウェル、ペネロープ・アン・ミラー らのハリウッドスターが脇を固めている。またマルカム・マ クダウェルも顔を出していたようだ。 さらに主人公の愛犬役で名演技を見せるアギーは、昨年12月 紹介の『恋人たちのパレード』にも出演していたタレント犬 で、本作では先週発表された‘Dog News Daily’主催Golden Collar Awardsの長編映画部門で、映えある第1回の受賞犬 に選出された。 なおこの部門には、アギーが『恋人たち…』の演技でも候補 になっていた他、『ヒューゴ』のブラッキー、昨年11月紹介 『人生はビギナーズ』のアーサー、9月紹介『50/50』 のスケルター、今年2月紹介『ヤング≒アダルト』のドルス が候補になっていた。 ということで本作はアカデミー賞の作品賞にもノミネートさ れているが、今回はマーティン・スコセッシが『ヒューゴの 不思議な発明』でフランスでの映画誕生秘話を描き、それに フランス人監督のハリウッド創世期の物語が対抗するのも面 白いところだ。
『テイク・シェルター』“Take Shelter” 2010年12月紹介『ランナウェイズ』などのマイクル・シャノ ンと、2011年6月紹介『ツリー・オブ・ライフ』などのジェ シカ・チャスティンの共演で、シェルター(退避壕)の製作 に取り憑かれた男を描いたドラマ作品。 主人公は、工事現場で地質調査のボーリング作業に従事して いた男。その男が悪夢にうなされるようになり、その悪夢は 災厄の訪れを予感させる。そこで男は、庭にあった退避壕の 拡充を開始するが…それは家族の生活基盤を揺るがすものに もなって行く。 共演は、2010年1月紹介『バッド・ルーテナント』などに出 演のシア・ウィグハム、昨年7月紹介『ドライブ・アングリ ー3D』などに出演のケイティ・ミクソン。また主人公の幼 い娘を演じているトーヴァ・スチュワートは本作がデビュー 作のようだ。 神の啓示を受けて災厄を逃れる準備を始める話は、旧約聖書 の「ノアの箱船」から様々に語られてきているものだが、そ れが待避壕の話だと1960年代には核シェルターにまつわる話 がいろいろ描かれていた。 その中でも、TV「ミステリーゾーン」でロッド・サーリン グが描いた“The Shelter”というエピソードは、本作と同 様に周囲から疎まれながらもシェルターを完成させた男の物 語で、本作の鑑賞中、僕にはその記憶も重なってかなり緊張 した。 脚本と監督はジェフ・ニコルズ。2007年に発表のデビュー作 “Shotgun Stories”が数々の賞を獲得し、本作が第2作と いう俊英だが、脚本、監督共に手堅く纏めていた感じだ。 そして製作総指揮は、『アバター』などにも参加したVFX 製作会社ハイドラックス創設者のグレッグ&コリン・ストラ ウスが担当して、本作でも主人公が観る啓示のシーンなどを 見事に描き出している。 また製作総指揮にはもう1人、『ツリー・オブ・ライフ』や 2003年6月紹介『フリーダ』なども手掛けたサラ・グリーン が参加して、その参加が作品の風格を高めている感じだ。
『アポロ18』“Apollo 18” 2004年『ナイト・ウォッチ』がロシア国内で記録的なヒット となり、2010年『ウォンテッド』でハリウッドに進出したテ ィムール・ベクマンベトフ監督が、本作では製作を担当して いるNASAアポロ計画を背景にした作品。 1969年のアポロ11号以降、NASAは1972年の17号まで13号 を除く計6回の有人月面探査に成功したが、当初予定された 20号までの計画は予算の問題などで短縮され、18号以降の探 査は中止になったとされている。 しかしアポロ18号は1974年に国防総省の要請によって極秘に 打ち上げられ、その記録映像がネット上で発見された…。と いう設定のドキュメンタリー形式の作品。映画の巻頭では、 「本作はネット上の映像を編集しただけである」旨の掲示が されている。 その計画は、遂行する3人の宇宙飛行士の家族にも秘密にさ れ、3人は極東への派遣という名目でアポロ18に搭乗する。 そして目指したのは月面の南極に当る地帯。それは着陸船の 到着までは順調に進んで行ったが… 2011年7月紹介『トランスフォーマーズ/ダークサイド・ム ーン』でも、プロローグではアポロ計画に隠された「真実」 が題材にされたが、本作ではその「真実」の部分だけが描か れている。そしてそこに隠された「真実」は…これで計画を 中止しちゃっていいのか?てなものだ。 この手のフェイクドキュメンタリーは、最近特に流行のよう になっているが、僕が観た中では1970年代にイギリスBBC の老舗科学番組が、アメリカとソ連が結託して密かに火星移 住計画を進めているという内容を「4月1日」に放送したの が傑作だった。 実は今回の作品では、その結末の部分の映像がかなり似てい たのも気に入ったところだ。ただ、どうせやるなら最後まで 押し通して欲しかったところで、やはりこれらの映像が得ら れた根拠は提示するべきだろう。その点では多少詰めが甘い 感じはした。 でもまあBBCの番組は、その後に某UFOディレクターが 「4月1日」放送という事実を隠してドキュメンタリー番組 の中で流したりしたから、本作もその内そんな扱いを受ける のかも知れない。そのくらいには上手く作られていた。
『イップ・マン誕生』“葉問:前傳” 2010年11月紹介『イップ・マン葉問』の前日譚に当る作品。 前作の後に一般公開された『イップ・マン序章』は観に行け なかったが、今回は『誕生』なので物語の流れとしては問題 ないようだ。 その物語の背景は、1905年の中国広東省佛山市。資産家のイ ップ家の実子として生まれたマンと、一家の養子に迎えられ た義兄ティンチーは幼い頃から別け隔てなく育てられてきた が、武道修業のため2人揃って詠春武館に預けられる。 そこで2人と妹弟子のメイワンを加えた3人は、一緒に鍛練 に励んで行くが…それは微妙な三角関係にもなって行く。そ して青年となったマンは香港の学院に留学し、1人の老達人 に巡り会う。こうして詠春拳の新たな一面を学んだマンは武 館に帰ってくるが… 一方、武館で腕を上げたティンチーは副館長として武館を守 っていたが、中国本土には日本帝国の影が落ち始め、武道界 にもその影響が出始める。そして詠春武館にも魔の手は伸び ていた。 さらにマンには意中の女性も現れ、そんなロマンスも織り込 みながら、大陸支配を強めようとする日本帝国の手先と、中 国人民の壮絶な戦いが描かれて行く。 主演は、1999年香港史上最年少で世界武術選手権に優勝し、 『イップ・マン序章』で映画デビュー。昨年10月紹介『19 11』にも出演のデニス・トー。『序章』『葉問』でマンを 演じたドニー・イェンに何となく風貌が似ているのは考慮さ れた結果だろうか。 他に、前2作にも出演のルイス・ファン、サモ・ハン・キン ポー。さらにユン・ピョウ、2007年8月紹介『呉清源』に出 演のクリスタル・ホワン、デニス・トーの弟子のローズ・チ ャン、昨年8月紹介『アクシデント』などのラム・シューら が脇を固めている。 また、メイワイの少女時代の役には2008年3月紹介『ミラク ル7号』で主演デビューしたシュー・チャオが扮する。そし てマンが香港で教えを乞う老達人役には、イップ・マンの実 の息子のイップ・チュンが扮し、90歳近い高齢に関らず見事 な武術を魅せている。 まあ、日本人の描き方にはいろいろ言う人もいるかも知れな いが、我々の先代が実際にこのようなことをやっていたとい うことは認識しておくべきものだろう。
2012年02月19日(日) |
モンスターズクラブ、寒冷前線コンダクター、ある秘密、SHAME、青い塩、ほかいびと、僕等がいた、私が生きる肌、捜査官X+VES賞 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『モンスターズクラブ』 2005年7月紹介『空中庭園』などの豊田利晃監督による最新 作。アメリカの爆弾魔セオドア・カジンスキー(通称:ユナ ボマー)に着想を得て、雪深い森の中で暮らす1人の男の姿 が描かれる。 主人公は森の中で1人で暮らしている。それでも毎日の身な りはちゃんと整え、森では鹿や兎を撃ってその肉を調理して 食糧に当てている。それは世捨て人のようでもあるが、その 一方で彼は爆弾を作り、企業トップなどへ送り付けていた。 何故彼はそのようなことをしているのか、その謎が彼の前に 現れる両親や兄たちの幻影によって解き明かされて行く。と 言っても動機などが具体的に明かされるのではなく、作中で 宮澤賢治の詩「告別」が引用されるように、それは象徴的に 描かれる。 しかしそこにあるのは、ユナボマーが考えていたかも知れな い社会への不満であり、翻ってそんな社会に打ち勝てない自 分への失望かもしれない。そんな社会に順応できない男の姿 が描かれる。 主演は、前回紹介『僕達急行』にも主演していた瑛太。他に 窪塚洋介、ミュージシャンのKenKen、草刈正雄の娘の草刈麻 有、2011年1月にドキュメンタリーを紹介したパフォーマー のピュ〜ぴる、松田美由紀、國村隼らが共演している。 なお監督は、本作の脚本を書くに当ってユナボマーをかなり 研究したようだ。従って本作に登場する主人公が暮らす山小 屋や、製造する小包爆弾の形状などは全て現物に則している ものだそうだ。 とは言え、ユナボマー自身は司法取り引きによってほとんど 裁判も行われないまま終身刑に服しており、爆弾魔が本当に 何を考えていたかは推測するしかない。一方で監督には山中 で1年間1人暮らしをした経験があり、それらが重なって本 作が作り出されたようだ。 だが作品は多分に観念的で、それらを明確に理解することは 凡人には難しい。ただ幻想ということでは自分のテリトリー に近い作品であるようにも感じるし、その点ではあまり違和 感もなく観ることができた。
『寒冷前線コンダクター』 1994年に第1巻が出版されて以来、外伝を含めて40巻以上を 出版、累計発行部数で400万部が売られているという秋月こ お原作「富士見二丁目交響楽団シリーズ」の映画化。 2011年6月紹介『あの、晴れた青空』などの「たくみくん」 シリーズも原作本は累計発行部数が400万部を超えているそ うだが、本作もそれと類似のBLをテーマとした作品だ。た だし「たくみくん」シリーズは早くから映像化もあったが、 本作は今回が初映画化。そんな満を持した作品だ。 主人公は、郊外都市という設定?の富士見市にある市民交響 楽団のコンサートマスター。その市には行政がバックアップ するセミプロ楽団もあるが、こちら本当に市民だけの素人楽 団だ。ところがそこに全国規模の楽団で副指揮者の男性が指 揮者として就任する。 しかもこの指揮者はかなりの上から目線で指導を開始し、主 人公はのっけから印象が悪くなってしまう。しかしその指導 は適切で楽団のレヴェルはどんどん高みに引き上げられる。 それでも指揮者の存在自体が主人公には許せなかった。 さらに彼が密かに思いを寄せていた女性までもがその指揮者 に思いを寄せ始め、耐えられなくなった主人公はついに退団 を決意するのだが… 本作の映画化が何故今まで待たれていたかと言うと、「たく みくん」シリーズでは第5作にして描写がかなりのレヴェル になったものだが、本作では最初から…と言うところかな。 実際、これがかなり強烈に描かれていた。 でもまあそれは、原作のファンには先刻ご承知のことなのだ し、それはファンの期待を裏切らないものなのだろう。しか し原作を知らないで観ていると、それはかなり強烈なものだ った。 主演は、ミュージカル「テニスの王子様」でも共演している という高崎翔太と新井裕介。他に「金八先生」第7シリーズ でデビューという岩田さゆり、「テニスの王子様」出身の林 明寛、2月末スタートの「特命戦隊ゴーバスターズ」に出演 の馬場良馬。 また木下ほうか、宮川一朗太、徳井優、国広富之らが脇を固 め、さらにヴァイオリニストNAOYTOがゲスト出演している。 その他、俳優以外の楽団のメムバーはプロの音楽家たちが演 じているようだ。 監督は、2009年12月紹介『アンダンテ』などの金田敬。 因にポスターには「富士見二丁目交響楽団シリーズ」と書か れているが、映画もこれからシリーズになるのだろうか。
『ある秘密』“Un secret” 「フランス映画未公開傑作選」と題して3作品が連続公開さ れる内の1本。ゴダール、トリュフォーの助監督を務め、ヌ ーヴェル・ヴァーグの正統な後継者とされるクロード・ミレ ール監督による2007年の作品。 物語の始まりは1950年代。主人公は両親とヴァカンスに来て いる少年。母親は飛び込み台から颯爽と飛躍し、父親もマッ チョだが、少年にはどこかひ弱い感じがある。そして少年は 父親には疎まれていると思っている。 そんな少年には兄と呼ぶイマジナリー・フレンドがいたが、 彼は独りっ子。そんな彼が食卓に余分の食器を並べることが 特に父親の気に触るようだ。そして父親には「うっかりでき てしまった」とまで言われてしまう。 しかし少年が屋根裏部屋に隠された見知らぬぬいぐるみを見 付けたとき、家族に隠されたある秘密が明らかにされる。そ んな家族の秘密が、第2次世界大戦前から1980年代までのフ ランス近代史を背景に、壮大なロマンとなって描かれる。 物語は、「エル」誌の読者大賞を受賞し、フランスでベスト セラーになったフィリップ・フランベールの同名小説に基づ くもので、近年フランスで数多く描かれている第2次世界大 戦にまつわる負の遺産を背景にしている。 しかし本作ではそれを直接的に描くのではなく、それによっ て生じた悲劇の顛末を現代に近い視点から描いている。それ は昨年9月紹介『サラの鍵』にも通じるが、それがより身近 な感じで描かれていた。 出演は、2010年11月紹介『ヒアアフター』などのセシル・ド ゥ・フランス、昨年11月紹介『デビルズ・ダブル』などのリ ュディヴィーヌ・サニエ、昨年10月紹介『さすらいの女神た ち』でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞したマチュー・アル マリック。 また、父親役を人気歌手でもあるパトリック・ブリュエル、 物語の鍵を握る女性役を名優ジェラールの娘のジュリー・ド パルデューが演じて、正にフランス映画渾身の1作という感 じの作品だ。
『SHAME-シェイム-』“Shame” 前回紹介した『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』も 手掛けたアビ・モーガンの脚本で、昨年のヴェネチア映画祭 で主演のマイクル・ファスベンダーが最優秀男優賞に輝いた 作品。 主人公はニューヨークで働く独身の男性。勤務先での評価も あり、一見ハンサムな普通の男性だが、彼はセックス依存症 だった。しかし彼が体を交すのは行き摩りの女のみ、彼は真 剣に女性を愛せない性癖でもあったのだ。 ところが、そんな主人公のアパートに恋人に振られた妹が転 がり込んできたことから、彼の生活が変わり始める。その妹 は常に誰かに愛を求める性格だった。そして彼女は主人公の 上司にも不倫をせがみ始める。 こうして妹に振り回されるようになった主人公は、普通の恋 も試みるのだが… 共演は、昨年11月紹介『ドライブ』などのキャリー・マリガ ン、2006年『ディパーテッド』などのジェームズ・バッジ・ デール。他に、テレビで活躍するルーシー・ウォルターズ、 2008年“American Violet”という作品で評価の高いニコル ・ベーハリーらが脇を固めている。 共同脚本と監督は、2008年“Hunger”でカンヌ国際映画祭の カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞したスティーヴ・マッ クィーン。1980年に他界したアメリカの俳優とは別人のアフ リカ系イギリス人監督の第2作となっている。 2010年1月紹介『17歳の肖像』や10月24日付紹介『わたしを 離さないで』などでマリガンの魅力に取り憑かれた者には、 彼女の魅力が堪能できる。ただしアメリカではNC-17、日本 でもR18+に指定されている作品なので、その点の覚悟は必要 だ。 それと異性の兄弟を持つ、特に男性には多少微妙な感じにも なる作品で、その点ではいろいろ考えさせられる部分も含ま れる作品だった。脚本家がその点まで描こうとしているのか 否かは定かではないが。
『青い塩』“푸른소금” ハリウッド・リメイクもされた2000年のファンタシー『イル マーレ』のイ・ヒョンスン脚本監督による11年ぶりの新作。 2010年8月紹介『義兄弟』などのソン・ガンホと、1990年生 れ、韓国テレビで人気の新星シン・セギョンの共演で、韓国 裏社会の抗争に巻き込まれた男女の姿が描かれる。 主人公はプサンで調理師学校に通っている中年男性。同じ調 理台では若い女性も学んでいるが、年も離れて器用そうな彼 女に比べると主人公の手はかなり遅い。それでも何となく相 性は良さそうだ。 一方、ソウルでは組織のボスが交通事故に遭い、その瀕死の ベッドで組織を離れた男の名前が呼ばれる。その名前に困惑 する組員たちだったが、その名前の主はプサンにいる男性だ った。こうしてプサンの2人は組織の跡目争いに巻き込まれ て行くが… 監督は自ら「フェミニズム」を標榜しているそうで、本作で もソン演じる主人公が、シン扮する若い女性を守り抜いて行 く姿が描かれる。そんな物語がプサンの美しい海岸線などを 背景に写し出される。 共演は、韓流ドラマを通じて日本でもファンが多いというチ ョン・ジョンミョンとキム・ミンジュン。他に、2010年6月 紹介『パラレルライフ』などのイ・ジョンヒョク、昨年5月 紹介『ハウスメイド』などのユン・ヨジョンらが脇を固めて いる。 映画の後半では、政治も絡む陰謀とソウルの高層ビルを使っ た少しトリッキーなガンアクションなども展開され、上映時 間2時間2分の作品は全編がかなりのテンションで描き切ら れている。それは観客にも心地よい緊張感を与える作品にな っていた。 因に題名の「塩」は、調理師学校での調味料として登場する が、取りすぎると死期を早めるなど、様々な意味合いで使わ れている。本作は、『イルマーレ』のファンタシーを期待し て行くと多少違うが、フェミニズムという点では間違いなし の作品だ。
『ほかいびと 伊那の井月』 幕末から明治期にかけて長野の伊那谷を放浪した漂泊の俳人 ・井上井月の伊那谷での姿をドキュメントとフィクションで 描いた作品。作中の井月を舞踏家の田中泯が演じている。★ 井月は、越後・長岡藩士の子として1822年に生れたとされる が、その前半生は定かではない。その井月は1858年頃に伊那 谷に現れ、以来1887年に生涯を閉じるまでの約30年間を家も 持たず、祝い事があれば祝いの句を詠み、祝杯を楽しみつつ その地に暮らした。 そんな井月の伊那谷での暮らしぶりが、田中が墓所などを訪 ね歩くドキュメントと再現ドラマ、また一部には田中のパフ ォーマンスも織り込んで描かれる。さらにそこには伊那谷の 四季の風景や風物詩なども写されている。 そして伊那谷での井月は、最初は珍しがられ、その後には重 宝がられ、最後は疎まれていたようだ。そこには幕末に幕府 側に付いて官軍と戦った長岡藩と井月との関係や、明治新政 府が行った戸籍制度などの政策の事情も描かれる。 また、芥川龍之介が賞賛したという書や、大正期の放浪俳人 ・種田山頭火に慕われたという俳句(伊那谷に約60基の句碑 があり、愛好家によって1800句が集められたという)なども 随所に登場し、俳人としての井月も克明に描かれている。 監督は、伊那出身でNHKスペシャル「チベット大河紀行」 などのドキュメンタリーを制作している北村皆雄。本作の制 作では2008年に取材が開始され、2011年の完成までに足掛け 4年の歳月が費やされているようだ。 その完成された作品は、昨年11月に伊那市で上映が開始され て県外からも観客が集まるほどの評判となり、年明けからは 長野県各地で上映が続けられ、ついに3月24日からの東京東 中野での公開が行われるものだ。 なおこの井月に関してはつげ義春がマンガでも描いているそ うだが、僕には不知の人物だった。しかし本作は、樹木希林 によるナレーションなども判り易く、井月の人物像や当時の 状況をかなり理解できた感じがした。 人物を描いたドキュメンタリーとして優れた作品と言えるも のだ。
『僕等がいた(前篇/後篇)』 2002年に連載が開始され、今年2月に完結する小畑友紀原作 ・少女コミックの映画化。連載は10年に及んだ物語が2部作 で製作され、3月17日と4月21日から連続公開される作品を 続けて観させてもらえた。 物語の舞台は釧路の高校。そこで出会った男女の恋物語が、 7年の歳月を掛けて描かれる。始まりは2人が2学年の時、 七美は校内の女子の3分の2が好きになるという人気者元晴 と同じクラスになる。しかしそんな人気者には興味のない七 美だったが… 同じクラスには、成績優秀だが雰囲気の暗い有里と元晴の幼 馴染みの匡史もいて、七美以外の3人には過去の経緯があり そうだ。そんな中で何も知らない七美は元晴に恋するように なって行く。しかしそれは元晴の過去との対決だった。 映画は前篇で過去に気付きながらも恋を成就させて行く七美 の姿が描かれ、後篇では舞台を東京に移して、元晴にさらに 重くのしかかる過去と現実の厳しさが描かれて行く。それは 作られた物語ではあるけれど、なるほど原作が10年も続いた という感じはしたものだ。 出演は、2011年1月紹介『婚前特急』などの吉高由里子と、 2009年11月紹介『人間失格』などの生田斗真。 吉高は、2008年6月紹介『蛇にピアス』も観ているが、今ま では何となく作品の話題性が先行している感じだった。しか し本作では、特に前篇で高校生を演じる姿の初々しさに演技 力を感じさせられ、さすがに蜷川幸夫が認めた女優という感 じがした。 他には2010年3月紹介『さんかく』などの高岡蒼佑、2011年 12月紹介『ワイルド7』などの本仮屋ユイカが共演。また比 嘉愛未、小松彩夏、柄本佑、須藤理彩、麻生祐未らが脇を固 めている。 監督は、2010年1月紹介『ソラニン』の三木孝浩。脚本は、 2004年に『め組の大吾』のテレビ化などを担当した吉田智子 が手掛けている。また前篇、後篇の各エンディングテーマを Mr.Childrenが手掛けているのも話題になりそうだ。
『私が、生きる肌』“La piel que habito” 2009年11月紹介『抱擁のかけら』などのスペインの巨匠ペド ロ・アルモドバル監督による最新作。1月紹介の『長ぐつを はいたネコ』では声優を務めていたアントニオ・バンデラス が、1989年『アタメ』以来となる監督とのコラボレーション を実現している。 そのバンデラスが演じるのは整形外科医。学会でも発表を行 う医師は皮膚移植の世界的権威とされているが、その移植皮 膚の強化のため、彼はヒト遺伝子に関る禁断の研究も進めて いるようだ。 そんな彼の家の2階には全身をボディタイツに包んだ1人の 女性が幽閉されていた。その女性の正体は…。それは6年前 の忌まわしい事件へと繋がって行く。そしてそこに、老メイ ドの粗暴な息子なども絡んで物語は繰り広げられる。 『抱擁のかけら』の時にも書いたが、アルモドバルの作品は 常にフィクションの面白さに溢れている。本作には、ティエ リー・ジョンケというフランスのミステリー作家の原作はあ るようだが、それがアルモドバル流のトリッキーな物語に仕 上げられている。 しかも先に「禁断の研究」と書いたが、そこには『フランケ ンシュタイン』にオマージュを捧げているような雰囲気もあ り、正に巧みなフィクションの世界が展開される。特に結末 では、これは見事にしてやられたと思わされてしまった。 いやはや、本当にこれこそが物語と言えるものだろう。 共演は2011年7月紹介『この愛のために撃て』などのエレナ ・アナヤ、アルモドバル監督の1998年作『オール・アバウト ・マイ・マザー』にも出演のマリサ・バルデス、2011年1月 紹介『悲しみのミルク』などのスシ・サンチェス。 他には、いずれもスペインのテレビで活躍するジャン・コル ネット、ロベルト・アラモ、ブランスカ・スアレスらが脇を 固めている。 また本作では、衣装をフランスのファッションデザイナー、 ジャン=ポール・ゴルティエが担当している。因に、リュッ ク・ベッソン監督『フィフス・エレメント』の衣装も手掛け たゴルティエは、1993年『キカ』以来のアルモドバル作品へ の参加となっている。
『捜査官X』“武侠” 2011年3月紹介『孫文の義士団』などを製作したピーター・ チャンの監督で、同作主演のドニー・イェンと、2008年8月 紹介『レッド・クリフ』などの金城武の共演によるかなりト リッキーなアクション作品。 物語の背景は1917年。とある寒村で強盗をしようとした2人 の屈強な男が死に至る。それにはその村に住む紙職人の男が 関っていたが、全ては偶然の結果と主張していた。しかも死 んだのは手配中の凶悪犯と判り、男は一躍村の英雄となる。 ところがその死体の検分に来た捜査官はその死に方に疑問を 抱く。果たしてそれは本当に偶然の結果なのか…。調べを続 ける捜査官はやがてある事実に行き当たるが、それはさらに 大きな闇の扉を開くものだった。 映画では最初に証言に沿った場面が示され、その後に捜査官 の視点からの真相の場面が展開される。その少しずつ異なる 2つの場面がそれぞれに納得できるような見事なアクション で描かれる。それらのアクションをドニー・イェンが的確に 演じていた。 昔、アメリカのMADというパロディ雑誌で、背中にナイフ を刺され、首に紐の巻き付いた死体に対して、それを偶然の 事故死と言い切る探偵映画のパロディを読んだがあるが、本 作を観ていてそんなことも思い出した。 そんな正にトリッキーな展開を見事に映像で描き切った作品 だ。しかもそれぞれが破綻なく描かれているのだから、この ようなトリックの好きな観客には堪らない作品と言える。そ れを実現したドニー・イェンのアクション演出にも拍手した い。 共演は2007年『ラスト、コーション』などのタン・ウェイ、 2003年『インファナル・アフェア無間序曲』などのクララ・ ウェイ、2007年11月紹介『中国の植物学者の娘たち』などの リー・シャオラン。 そして香港映画から誕生した最初のカンフースターとも言え るジミー・ウォングが重要な役柄で出演している。彼が主演 した1972年『片腕ドラゴン』は記憶されるべき作品だ。 * * VES賞の受賞者が発表されたが、アニメーション関連を 『ランゴ』が独占した他は、“Rise of the Planet of the Apes”と『ヒューゴ』『キャプテン・アメリカ』『トランス フォーマーズ』が分け合っている。この結果が26日のアカデ ミー賞にどう影響するか。
2012年02月12日(日) |
COTE2、ゴーストライター・ホテル、M・サッチャー、不良少年、セットアップ、アンダーワールド4、桜蘭高校、ポテチ、ピラミッド |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『センター・オブ・ジ・アース2/神秘の島』 “Journey 2: The Mysterious Island” 2008年8月紹介『センター・オブ・ジ・アース』の続編。前 作の最後でヒントのあったジュール・ヴェルヌの別の冒険に 向かって、前作にも登場のジョッシュ・ハッチャースンと、 本作ではドウェイン・ジョンスンが冒険を繰り広げる。 映画のコンセプトは、ヴェルヌが発表した数々の冒険小説は 実話に基づいている…というもの。従ってそれぞれの冒険の 世界は実在し、その驚異の世界を求めて冒険家たちは日々小 説に書かれたヒントと謎を解き明かそうとしている。 と言うことで、本作の主人公たちが向かうのは「神秘島」と なるものだが、そこに今回はヴェルヌ以外の小説も関ってく る辺りは、映画がこの先、他の作家の作品にも手を広げる伏 線でもあるのかな。 そしてヒントを基に謎を解き、今回も何とか島に辿り着くの だが、ここからの展開が実に巧みにヴェルヌの原作を下敷き にしており、それは原作を読んでから観に行くと映画を倍以 上楽しめる仕組みにもなっている。 さらに本作では、1961年のレイ・ハリーハウゼン版(邦題: SF巨大生物の島)にもオマージュを捧げているのではない かと思われるシーンまで登場した。それは昔だったら情報誌 に解説を書きたくなるくらいのものだ。 そんなファン泣かせの作品が、今回も3Dで展開される。 共演はマイクル・ケイン。他に2009年7月紹介『サブウェイ 123 激突』などの出演のルイス・ガスマン、2008年11月 紹介『ハイスクール・ミュージカル』に出演のヴァネッサ・ ハジェンズらが脇を固めている。 監督は、2010年8月紹介『キャッツ&ドッグス地球最大の肉 球大戦争』のブラッド・ペイトン。2作続けての3Dアクシ ョン作品で壺も良く心得た演出ぶりだった。脚本は、1989年 “Little Nemo”などのリチャード・アウッテンによる原案 から、ブライアン&マーク・ガンという2人が担当。 なお、本作でも最後に次回の冒険の目的地が紹介されるが、 ヴェルヌの原作は…。さてそれをどうやって映画に料理する かも楽しみなところだ。
『ゴーストライター・ホテル』 テレビ朝日と吉本興業の共同製作によるコメディ作品。前回 も同じような作品を紹介したが、本作には予め3月17日から の一般公開が決定しているようだ。 物語の舞台は明治開業という老舗の「本店堂ホテル」。そこ は明治時代から著名な作家たちが執筆のため籠もったホテル として知られていた。そのため現在でも若手の作家たちが、 文豪たちに肖ろうと執筆に訪れていたが…。実はそこは、文 豪たちが執筆の苦しみ呻き声を上げていた、怨念の場所でも あったのだ。 そして主人公は、作家志望だが未だに1作も完成させていな い作家の卵。彼は評論で食いつないでいたが、ついに第1作 を執筆するべくそのホテルに宿泊する。しかし明治の文豪た ちに肖ることはできず、宿泊費も嵩んで妻からも離婚を言い 渡され、愛用のPCも妻に取り上げられてしまう。 それでもホテルに未練のある主人公は、ホテルでアルバイト の清掃員となり、やがてそのホテルに残る文豪たちの遺産に 巡り会う。しかもそれには執筆に苦しんだ文豪たちの亡霊が 取り憑いていた。 こうして明治の文豪たちのパロディというか、彼らを題材に したコメディが展開される。登場するのは、夏目漱石、森鴎 外、宮沢賢治、太宰治、林芙美子、江戸川乱歩。と言っても 所詮は吉本だからそれほど深くもなく、気楽に笑っていられ る作品だ。 出演は。昨年12月紹介『ワイルド7』などの阿部力、2008年 7月紹介『しゃかりき!』などの坂本真、昨年5月紹介『犬 飼さんちの犬』などの池田鉄洋。それに世界のナベアツ、ケ ンドーコバヤシ、村上健志、かたつむり林、おかもとまり、 カンニング竹山が亡霊を演じ、さらに鈴木亜美、片桐仁、岡 田圭右、栗山千明らが脇を固めている。 監督は、「ミュージック・ステーション」などを手掛ける伊 東寛晃。笑いやオマージュに彩られた脚本は、アニメ「ワン ピース」なども手掛けるますもとたくやが担当した。 演出には芸人たちの暴走も感じられるが、脚本をしっかり踏 まえた感じの部分もあり、全体としては面白く観ることがで きる作品だった。特に、最初に登場するホテルの名称でまず は掴まれてしまう感じの作品でもあった。
『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』 “The Iron Lady” 1979年に西欧圏では初の女性宰相となり、以後11年間、ヨー ロッパの国家指導者としては戦後最長の在任期間を誇った第 71代イギリス首相の半生をメリル・ストリープの主演で描い た作品。ストリープは本作で17回目のオスカー候補にもなっ ている。 2008年に元首相が認知症に罹っていることが公表され、その 事実を基にドラマは描かれている。そしてそこには、国家指 導者として制度改革の断行やフォークランドで勝利した栄光 と、ヨーロッパ連合への参加を拒んでその座を追われた挫折 などが描かれ、その一方で先立たれた夫や家族への想いなど が綴られて行く。 それは、表面的には報道(特にフォークランドの経緯)など でも知られていたものだが、本作ではその陰での首相の心の 内の苦しみなども描かれている。そして老境に至った彼女に 訪れる最後の想いとは… 監督は、2008年『マンマ・ミーア!』でもストリープとコラ ボレートしたフィリダ・ロイドによる第2作。脚本は、昨年 のヴェネチア映画祭で話題の『SHAME-シェイム-』も手掛け るアビ・モーガン。 共演は、『ハリー・ポッター』にも出演のジム・ブロードベ ントの他には、主にイギリス出身の俳優たちが脇を固めてい る。 なお本作はアカデミー賞メイクアップ部門の候補にも挙げら れている。この候補に関しては、予備候補の段階で『J・エ ドガー』の落選を報告したが、本作の見事なメイクを観ると それも納得できた。 特にストリープが、30代から80代までを1人で演じ切ること ができたのには、このメイクアップの貢献は大きそうだ。こ れにはディカプリオの老けメイクも勝ち目はなかった。 因に、ストリープ専属のJ・ロイ・へランドと共にこのメイ クアップを手掛けたマーク・クーリアーは、同じく候補作の 『ハリー・ポッターと死の秘宝Part 2』ではメイクアップ部 門のスーパーヴァイザーを務めており(候補者には名を連ね ていない)、『アルバート・ノッブス』と併せてイギリス同 士となるこの対決は興味深い。
『不良少年/3,000人の総番』 総番はアタマと読むらしい。2011年10月紹介『明日泣く』な どの斎藤工と、2005年5月紹介『屋根裏の散歩者』などの窪 塚俊介の共演で、1970年代の工業高校を舞台にしたツッパリ 映画。 主人公は2学年の総番。と言っても前の総番の横暴を見兼ね てタイマンを張り、そいつを倒してその座に着いたもので、 ツッパリではあるがそれなりに人格はあるようだ。そして彼 女からは「もう喧嘩はしないで」と言われ続けている。しか し総番である以上、避けられない喧嘩も待っている。 そんな主人公は機械科の生徒だったが、その学校では代々総 番は建築科の生徒というのが伝統だった。そのため3学年の 番長グループには危機感が募り、やがてそれは主人公を追い 落として建築科の前総番を返り咲かせる画策へと進む。そし てそれは、2学年vs3学年の全面対決へとエスカレートして いった。 タイトルだけ観て地域社会も巻き込んだかなりの大スケール の話なのかと思っていたら、学校が1学年1000人、3学年で 3000人なのだそうで、1970年代の工業高校ってそんなに大規 模だったんだと改めて感心した。 という訳で本作は基本的に校内抗争の話になるもので、僕と しては見境なく喧嘩を売って歩くようなチンピラ映画は認め ないが、こういう作品はそれなりに筋も通っているし、まあ 陰湿な苛め映画よりは良いかなと思ってしまうところだ。 それに主演の斎藤はそれなりに身体も動くし、窪塚も演技力 はある。さらに須藤温子、堀田眞三、岩永洋昭、秋吉久美子 らの脇役陣も揃っていて、あまり違和感もなく観ることがで きた。 原作・原案・脚本は元暴走族のリーダーという遠藤夏輝。監 督と共同脚本の宮野ケイジは暴走族がテーマのドキュメンタ リーなども手掛けているそうで、それなりにリアルな作品に は仕上がっていたようだ。赤電話など1970年代の再現もまず 破綻は観られなかった。 まあその手の映画ではあるけれど、特に違和感なく描けてい たことは認められる作品だ。
『セットアップ』“Setup” 2011年5月紹介『ロシアン・ルーレット』などに出演のラッ パー“50¢”=カーティス・ジャクスンの製作・主演による クライム・アクション。 物語の中心は幼馴染みの男性3人組。その3人がダイヤモン ドの運び屋から宝石を強奪することからドラマは開幕する。 ところが3人の内の1人が運び屋を射殺し、それを咎めたも う1人と残る1人も銃撃して宝石を独り占めしてしまう。 そして銃撃された1人は死亡し、主人公のサニーは辛くも一 命を取り留めるのだが…何故犯人は仲間を裏切ったのか、そ の手掛かりを求めて動き出したサニーに、地元ギャングの大 ボスなども絡んで血を血で洗う闘いが勃発する。 巻頭のクレジットでランダル・エメットの名前を見付けて、 これはかなりになるなという予感はした。彼は、2006年8月 紹介『16ブロック』などアクション映画専門の製作者で、 2008年5月紹介『ランボー最後の戦場』も彼の製作だ。 そんな製作者の作品だから、本作でも言うならば箍が外れた ような尋常でないお話が展開される。それはご都合主義もお 構いなしで、正しくあれよあれよという感じ。でまあ、そこ にあまり目くじら立てても仕方のないような作品になってい る。 共演は、2008年2月紹介『アメリカを売った男』などのライ アン・フィリップ。他には2006年2月紹介『沈黙の脱獄』な どに出演の元プロレスラーのランディ・クートゥア、2007年 6月紹介『レッスン!』に出演のジェナ・ディーワン、そし て『16ブロック』にも出ていたブルース・ウィリスらが脇 を固めている。 脚本と監督は、『マトリックス』の後半2作や2011年7月紹 介『ワイルド・スピードMEGA MAX』、それにウィリス主演の 『ダイ・ハード 4.0』などのスタントを手掛けてきたマイク ・ガンサー。本作は長編監督2作目だそうだが、やりたいこ とをやっているという感じだ。 それにしても人がバタバタと死んで行く作品で、それは多少 呆気にもとられるが、そこはあまり目くじらは立てずにお気 楽に楽しみたいものだ。
『アンダーワールド覚醒』“Underworld: Awakening” 2003年11月、2006年3月、2009年2月にそれぞれ紹介したケ イト・ベッキンセール主演『アンダーワールド』シリーズの 最新作。 前作では一旦過去に戻された物語が再び前に向かって動き出 す。それは前作の最後で少しだけ描かれたシーンからの発展 となるが、物語はそこから急展開が始まっていたものだ。そ して本作では再び処刑人セリーンの活躍が3Dで描かれる。 物語は元々ヴァンパイアと狼人間ライカンの闘いを描くもの だが、前作の闘いの後で彼らの存在は人類に知られ、人類は 彼らの粛正を開始していた。その中でセリーンは捕えられ、 とある研究所で冷凍保管されていたようだ。 ところがその冷凍処置が何者かによって解除され、セリーン は甦る。しかしその間に12年の歳月が流れていた。こうして 甦ったセリーンは新たに人類も敵にした闘いに巻き込まれて 行くが、そこには新たな要素も加わっていた。 共演は、2007年4月紹介『リーピング』などのスティーヴン ・レイ、2009年1月紹介『7つの贈り物』などのマイクル・ イーリー、イギリス出身のテオ・ジェームズ、2005年3月紹 介『ラヴェンダーの咲く庭で』の監督でもあるチャールズ・ ダンス、それにオリビア・ハッせーの娘のインディア・アイ ズリーらが脇を固めている。 監督は、2009年12月紹介『シェルター』などのモンス・モー リンドとビョルン・スタインのコンビ。スウェーデン出身の 2人組のハリウッド進出第2作になるようだ。 脚本は、シリーズのキャラクター創造者であるレン・ワイズ マンと、今回の原案を提供したジョン・フラヴィン、さらに 2008年12月紹介『チェンジリング』などのJ・マイクル・ス トラジンスキー、2008年3月紹介『ブラックサイト』のアリ スン・バーネットらが手掛けている。 撮影には、ディジタルカメラメーカーRED社の最新5Kの 解像力を持つ“エピック”が使用され、さらに毎秒120フレ ームの実験機も初使用されているそうだ。その圧倒的な解像 度による3Dも存分に堪能できる作品になっている。
『桜蘭高校ホスト部』 2002年に少女マンガ雑誌「LaLa」で連載が始まった葉鳥ビス コ原作コミックスの映画化。本作は2006年にTVアニメ化、 2011年に実写ドラマ化されており、本作はその実写ドラマ作 品のスタッフ・キャストにより制作されている。 物語の舞台は、超お金持ちの子女ばかりが通う桜蘭学園。そ の中でもホスト部は須王財閥の社長の息子環が率いる超セレ ブ集団だった。そして主人公のハルヒは、学園で唯一の庶民 の女子。ところがある事情で彼女は性別を隠してホスト部に 入部させられてしまう。 しかしそんなハルヒは、毎回馬鹿騒ぎを繰り返す部員たちに うんざりしながらも、何となく馴染んでいる自分にも気づい ていた。そして学園では学園祭の開催が近づき、学園祭では 次期部室の使用権を賭けた恒例のバトルが行われることにな っていた。 一方、そんな学園にシンガポールから短期留学の女子学生が やってくる。その留学生はホスト部の中に波風を立たせ、そ れはバトルの勝利に欠かせない部員たちの結束にも影響を及 ぼし始めるが… 出演は今年1月紹介『POV』にも主演していた川口春奈、 JUNONボーイ出身で2011年4月紹介『Pradise Kiss』などの 山本裕典。他に、2009年3月紹介『腐女子彼女』などの大東 駿介、AKB48の篠田麻里子。さらに竜星涼、中村昌也、 千葉雄大、高木心平、高木万平らが脇を固めている。 監督の韓哲と、脚本の池田奈津子は共にテレビドラマを手掛 けており、本作で長編デビューとなっている。また脚本には 原作者の葉鳥も協力したようだ。 原作はギャグマンガなのかな、そこに描かれるハチャメチャ なギャグ描写がCGI=VFXによってそのまま映像化され ているという感じの作品。2005年5月紹介『逆境ナイン』辺 りから普通に使われているようになってきたCGI=VFX だが、その使い方はますます巧みになっているようだ。 それはテレビシリーズでも使われたものかも知れないが、そ れらが大画面で炸裂する。シリーズのファンならそれだけで 堪能できる作品だろう。
『ポテチ』 2008年12月紹介『重力ピエロ』などの井坂幸太郎の原作を、 2010年6月紹介『ちょんまげぷりん』などの中村義洋脚本・ 監督で映画化した作品。 因に中村監督は2007年『アヒルと鴨のコインロッカー』と、 2008年『フィッシュストーリー』、2010年『ゴールデンスラ ンバー』でも井坂作品の映画化を手掛けて、本作は4作目。 その作品は中短編集『フィッシュストーリー』所載の一編の 映画化となっている。 主人公は空き巣が稼業の男。そんな男が仕事中の部屋に架か ってきた電話。そして留守番電話に吹き込まれるメッセージ がドラマを作り出す。それはプロ野球選手の自宅に若い女性 の声で助けを求めてきたものだった。 映画の前半はかなり緩いテンポで、このままだったらどうし ようと思い始めた辺りから、流れが加速し始める。そしてテ ーマも2転3転して、最後は飛んでもないテンションに駆け 登って行く。その結末が実に見事だった。 上映時間は68分の作品で、その中に見事なストーリーが盛り 込まれている。前半のテンポもこれなら納得できるし、この ような構成のしっかりした作品に久しぶりに出会えた感じも した。 出演は、井坂×中村作品にすべて出演している濱田岳。昨年 6月紹介『極道めし』のヒロインを演じた木村文乃。他に、 大森南朋、石田えりらが脇を固めている。また監督の中村も 重要な役柄で出演している。 なお映画化は、『ゴールデンスランバー』以降、自作の映画 化をしばらく止めると語っていた井坂が、3・11の震災直後 に中村に何でもいいから何かやりたいと連絡を入れ、すでに 本作を構想していた監督が即座に決めたものだそうだ。 そして撮影はオール仙台ロケで行われ、8日間というタイト なスケジュールで行われたその撮影には、『ゴールデン…』 にも協力した地元のヴォランティアが再結集して、クライマ ックスシーンを盛り上げている。
『ピラミッド 5000年の嘘』 “La révélation des pyramides” 2005年に出版されたジャック・グリモーの著作に基づき、そ の原作者と2001年に“Qui veut devenir une star?”という SF映画の監督歴があるパトリス・プーヤールの制作による ドキュメンタリー作品。 エジプトで5000年前に建設されたとされるピラミッドがメー トル法に基づいて設計され、また円周率πや黄金数φに基づ く数値が各所に使われている、というグリモーの主張を検証 し、さらにそこから導かれる驚愕の事実を描き出す。 実は昨年12月にも試写を観せて貰ったが、グリモーとプーヤ ールの台本によるナレーションの情報量が多くて字幕ではそ れが追い切れない感じがした。そこで今回は日本語吹き替え ナレーションによる日本公開版を観せて貰ったのだが…。 作品は前半でピラミッドの検証を行っているが、この辺は何 というか飛んでも学説的な雰囲気で、事前に知っているとい うか本作がフランスで公開された後でネットに流れた情報な どで判っている部分も多く、字幕版でも理解できていた。 これに対して問題は、そこから導き出される「事実」の部分 なのだが…。これがオリジナルのテキストもそうなのか実に 判り難い。しかも肝心のところが妙にぼやかされていて、主 張が明確に伝わってこない。そこで以下は僕なりの解釈をし てみる。 制作者たちの主張は危機が迫っているということで、それに 沿って考えると、重要と思われるのは、検証された地球を取 り巻く古代遺跡の示す点が現在の北磁極に一致し、移動する 磁極が一致するのには長い年月が掛かるという点だろう。 これによって地磁気の反転の近いことが予想され、その際に 地球規模の災厄が訪れるというものだ。そしてその危機の到 来をピラミッドを始めとする地球を取り巻く古代遺跡の配列 が示しているということだ。 ところが映画はその点を充分には主張せず、しかもその後に 数万年におよぶ星座の動きの話などが出てきて主張がぼやか されてしまう。その上この部分では科学的に墓穴を掘ってい る内容もあって、映画を胡散臭くもしてしまっている。 何故そのようなことをしているのかも判らないのだが、その 直前まではそれなりに興味も湧いていただけに、何とも勿体 無い感じもしてしまった。 なお、超ナレーションと称する日本語版のナレーションは、 トム・クルーズの吹き替えなどを手掛ける森川智之が担当し ている。
2012年02月05日(日) |
へんげ、夢の教室、FLY!、幸運の壺、ヤング≒アダルト、トテチータ、スーパー・チューズデー、ももへの手紙、僕達急行 |
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『ピナ・バウシュ/夢の教室』“Tanzträume” 2011年10月紹介『Pina』がアメリカアカデミー賞長編ド キュメンタリー部門の候補になっているドイツの舞踊家ピナ ・バウシュを描いた別のドキュメンタリー作品。 1940年生まれのピナ・バウシュは2009年に急逝し、先に紹介 したヴィム・ヴェンダース監督の作品は、舞踊家の死後に彼 女が振り付けたダンスを再現し、アーカイヴの映像と共に彼 女の業績を検証するものだった。 それに対して本作は、2008年、すなわち彼女の死の前年に自 らの代表作である「Kontakthof」を14〜17歳の素人の若者た ちに演じさせるという試みを記録したもので、そこには40人 もの若い男女が集められ、10カ月でダンスを完成させて行く 様子が描かれる。 元々「Kontakthof」というダンスは、男女の微妙な関係を描 くもので、それは成熟した男女には予めの理解があって創作 されて行くが、経験の少ない若者たちにそれをどのように演 じさせるのか、それが計画の目論見でもあったのだろう。 因にピナは、2000年には65歳以上の男女に演じさせることも 行ったそうで、正に全てを知り尽くした老人たちの後で、今 度は何も知らない若者たちに同じことを演じさせようという ものだ。 またそこには、黒人やロマ(ジプシー)や、いろいろな状況 を抱える若者たちがいて、彼らの思いもインタヴューで挿入 され、10カ月の間に成長を遂げて行く姿も描かれる。そして そこにピナ・バウシュ本人も加わって、若者たちを導きダン スを完成させて行く。 最初は男女が触れあうことにも恥じらい見せていた若者たち が、徐々に大胆に演じるようになって行く。そんな成長の様 子が丁寧なカメラワークで撮影されている。 監督は、ピナの本拠地であるヴッパタール在住のアン・リン セル。芸術と文化のジャーナリストであり評論家でもある監 督は、ピナが1973年に舞踊団に来たときからの親交で、過去 にも何度も密着取材をしたことがあり、その信頼関係がこの 作品を生み出している。 なお、ヴェンダース作品にも写し出されていたヴッパタール 名物のモノレールが随所に登場しているのも、僕には嬉しか ったものだ。
『FLY!〜平凡なキセキ〜』 大阪の朝日放送と吉本興業の共同製作で、昨年3月に開催さ れた第三回沖縄国際映画祭の長編プログラム・Peace部門に 出品された作品の一般公開が決定し、マスコミ向けの試写が 行われた。 物語の背景は下町の町工場。そこに働く主人公は、身体はで かいがあまり風采の上がらない男。彼はその町工場の経理で 働くシングルマザーの女性に憧れを持っているが、その胸の 内を話したことはない。 そんな主人公が数合わせで誘われた草野球の試合中。飛球を 追って入った草叢で何やら銀色に光る不思議な物体を発見す る。それは緑色の顔をした宇宙人の乗った宇宙船だった。し かも負傷している宇宙人を主人公は自宅に連れて行くが… 吉本興業の作品なので基本はお笑いだが、昨年10月紹介『宇 宙人ポール』ほどのマニアックではないものの、それなりに 壺を押さえた民間人による接近遭遇のお話が展開される。そ こに町工場の同僚や町の人々が絡んで騒動になるものだ。 そして宇宙人の存在が、主人公とシングルマザーの関係にも 微妙に絡んでくる。 主演は、現吉本新喜劇の座長を務める小藪千豊。共演は、相 武紗季、温水洋一、本仮屋ユイカ、笹野高史、池乃めだか、 関西のテレビで活躍のなるみ、西田敏行、大杉漣。他に吉本 の若手芸人がいろいろ出演している。 監督は、朝日放送「探偵!ナイトスクープ」などを担当する ディレクターの近藤真広による初長編作品。脚本は、2005年 『サマータイムマシン・ブルース』などのヨーロッパ企画の 上田誠と山脇唯が担当した。 映画の後半でアクションが絡み始めるとテンポも良くなって くるが、前半は多少映画としてはテンポが緩い感じがする。 ただそれぞれのシーンはそれなりの伏線になっているから切 り難かったとは思えるが、ここはもう少し整理した方が良か ったと思う。 特にこれらのシーンでは若手芸人たちの話芸に頼っている感 じもするが、それもちゃんとシナリオを用意して演出を施す べきだった。それはまあ、芸を見せたい芸人たちとの鬩ぎ合 いにはなりそうだが。 お話は悪くはなかったし、この感じでまた観たいものだ。
『幸運の壺 Good Fortune』 大阪の日本テレビと吉本興業の共同製作で、昨年3月に開催 された第三回沖縄国際映画祭の長編プログラム・Laugh部門 に出品された作品の一般公開が決定し、マスコミ向けの試写 が行われた。 主人公は売れない俳優。学生時代は監督主演の自主製作映画 で評価されたようだが、今は短い台詞も噛みまくって仕事も 少なくなっている。その原因には、彼の生活を支える一方で 過大な要求をし続ける鬼嫁の存在もあるようだ。 そして主人公は保険の掛った妻の事故死も夢見るが…、「自 宅でそんなことが起きたらまず夫が疑われる」と俳優仲間か らは釘を差されてしまう。こんな状況で帰宅した主人公にマ ンションの女管理人が「幸運の壺」を押しつけたその夜、何 と事故が発生する。 斯くして妻の死体を前にした主人公は、仲間の発言を思い出 しその死体を密かに始末しようと考えるが、そこにマンショ ンの管理人や主人公の妹とその同棲相手や、妻の父親まで現 れて主人公の行動は妨害され続け…。 目の前で事故死した遺体を何とか隠そうとするお話は、シチ ュエーションコメディの定番みたいなもので昔からいろいろ あり、これはその一編という感じのものだ。でまあ擽りは現 代風にアレンジされていて、それなりに面白く観ることはで きた。 特に「幸運の壺」の捻りはオカルトか何なのか、いろいろ想 像させてくれたから、それは当たりというところだろう。試 写の終わりでは、これはおかしいと文句を言っている人もい たようだが、吉本新喜劇にその文句はお門違いだ。 出演は、ほっしゃん。、麻生久美子、戸田恵子。他に佐津川 愛美、前田公輝、蛍原徹、福田転球、藤森慎吾、ヨネスケ。 さらに渡辺哲、麿赤兒。そして吉本の若手芸人らが脇を固め ている。 監督は、日本テレビ「踊る!さんま御殿!!」などの総合演出 を担当する小川通仁による初映画監督作品。脚本は「金田一 少年の事件簿」などの福間正浩。因に福間は小川が演出した テレビドラマでも組んでいるようだ。 まあ、日本では定番のシチュエーションコメディだが、本作 はニューヨークで開催されたフライヤーズクラブ・コメディ 映画祭というところにも出品されたようだ。
『ヤング≒アダルト』“Young Adult” 2007年『JUNO』の脚本でオスカー受賞のディアブロ・コ ーディと、監督賞の候補になったジェイスン・ライトマンが 再び組み、2004年8月紹介『モンスター』でオスカー受賞の シャーリズ・セロンを主演に迎えたヒューマンコメディ。 主人公は、執筆中のヤングアダルト小説のシリーズが評判に なっている30代の女流作家。都会に出てそれなりの地位は築 いたが、満たされているという感じではない。そんな彼女の 許に元カレの一家から子供の名付け式への招待状が届けられ る。 その元カレとは高校時代に周囲も認める仲だったが、何故か 2人は結婚しなかった。そして彼女は都会に出て行き、彼は 地元で平凡だが幸せな家庭を築いたのだ。しかし彼女には未 練が残っていた。 そんな彼女が何故式に招待されたのかは謎だったが、取り敢 えず彼と会えることに希望を繋いだ主人公は、故郷に戻って 来る。しかしそには彼女の過去が様々な形で残っていた。 故郷にいれば周囲と一緒に成長できたのかも知れない。しか し1人都会に出たために周囲から切り放されて大人になれな かった主人公。そんな女性が故郷に帰ってきたら、それはも う悪夢でしかなくなる。周囲にとっても、そして彼女にとっ ても… 僕自身、物書きの端くれとしては、常に感性を若く保つこと に心掛けている面はある。ただ対象が映画だと、同世代の監 督や俳優が一緒に成長してくれるから、それなりの自覚が得 られるが、作家それもYAの作家だとさらに感性を若く保つ 必要もありそうだ。 そんなこんなで、僕としてはかなりこの主人公を理解したつ もりだが、それでもやはりこんな奴が周囲にいたらそれは迷 惑だとは思える。それくらいにリアリティの感じられる作品 でもあった。 共演は、2007年6月紹介『レミーのおいしいレストラン』で レミーの声を担当したパットン・オズワルドと、20072010年 12月紹介『恋とニュースのつくり方』などのパトリック・ウ ィルスン。他に『トワイライト』シリーズにエズミ役で出て いるエリザベス・リーサーらが脇を固めている。 キャッチコピーには「あなたは、私を、笑えない。」とある が、正しくそういう感じの作品だった。
『トテチータ・チキチータ』 震災及び原発災害後の福島を舞台にしたかなりファンタシー の要素の強いドラマ作品。 主人公は連帯保証人になったことから借金取りに追われるよ うになり、ふとビルの屋上に上がったところを見知らぬ少女 から「あなたを待っている人がいる」と告げられる。そして 少女が指差していた福島にやってくる。 その少女も家庭の事情から福島に引っ越してくるが、彼女の 周囲ではちょっと不思議な現象が起きていた。やがて町の公 園で出会った少女は、主人公をお兄ちゃんと呼び、自分はお 母さん、もう1人の高校生をお父さんと呼んで3人の交流が 始まる。 一方、主人公は住宅地に1人で住む老女の家の土地を狙う不 動産屋で働いていたが…。戦争で家族を失った女性と、その 家族の身代わりになる人々。それはやがてある奇跡を生み出 して行く。 出演は、豊原功補、松原智恵子、新人の寿理菜、テレビドラ マ「鈴木先生」などの葉山奬之。他に、大鶴義丹、佐藤仁美 らが脇を固めている。また小学生などのエキストラはほとん どが地元の人たちだそうだ。 脚本と監督は、長年映画やテレビドラマの助監督を務め、ま た岡本喜八監督の下でシナリオを学んできたという古勝敦。 CM製作や教育映画製作等に関ってきた監督の本作が長編映 画デビュー作となっている。 なお、試写後に製作者とのQ&Aがあっていろいろ伺った。 それによると、元々シナリオは5年ほど前に書かれていたと のことだ。それを福島の現状を踏まえて改訂して昨年春に撮 影を開始した。しかし資金難で何度も頓挫し掛けたのだそう だ。 そのため撮影では、セットや小道具なども新たに制作するこ とは出来なかったが、例えば老女が住む家は地元の製作者の 知人の家で、仏壇などもそこにあったもの。特に震災の爪痕 が残る外回りの様子などが見事に取り入れられていた。 また、重要な小道具となるゼロ戦の模型はロケハンで行った 先の茶店の店頭に飾られていたもので、美術で製作したら数 10万円は掛るものが、偶然手に入って無償で使用することが できたとのこと。エキストラも含めて地元の支えで完成され た作品のようだ。
『スーパー・チューズデー〜正義を売った日〜』 “The Ides of March” 2004年の大統領選挙で、民主党のオハイオ州における予備選 挙キャンペーンのスタッフを務めたボー・ウィリモンが執筆 した戯曲に基づき、ジョージ・クルーニーが自らの出演と共 同脚本、監督、製作で描いた政治サスペンス。2005年12月紹 介『シリアナ』でオスカー助演賞受賞のクルーニーは本作で 脚色賞の候補にも名を連ねている。 物語の背景はアメリカ大統領選挙戦のオハイオ州予備選挙。 主人公は、その予備選で民主党候補の座を狙う州知事のキャ ンペーンスタッフ。そのキャンペーンにはベテランの参謀か らインターンまで多数が関っていた。 そして主人公の手腕は共和党の選挙スタッフからも注目され るほどのもの。そんな彼は、理想の政治家と心酔する州知事 のため全身全霊を捧げていたが…。ある夜をインターンの女 性と過ごした主人公は、彼女の携帯に架かってきた不審な電 話を受けてしまう。 こうして彼が思い描いてきた政治の世界ががらがらと崩れ始 める。演説で理想を語り続ける州知事の陰で、薄汚い駆け引 きや裏取り引きやが繰り広げられ、それらの全ては選挙に勝 つためと言われて行くが…。 主演は2011年11月紹介『ドライブ』などのライアン・ゴズリ ング。クルーニーは大統領候補を狙う州知事を演じ、他に、 フィリップ・シーモア・ホフマン、ポール・ジアマッティ、 マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド、ジェフリ ー・ライトらが脇を固める。 脚本のクルーニー自身が「政治ドラマではない」と言ってい るように、物語は裏で巨大な政治陰謀が動いているようなも のではなく、むしろ人間ドラマ。それは所詮政治家も人間と いう考えのようにも観えるし、それがある意味政治批判のよ うにも観える作品だ。 ただ、それでなくても判りにくいアメリカ大統領選挙の、中 でも特異なオハイオ州予備選挙が背景では、政治に無関心な 日本の若者がどれだけ興味を持ってくれることか。実際試写 会で横に座った男女は、取材と言いながら「意味分んない」 と宣っていた。 まあ取材するなら「それくらい勉強して来い」とも言いたい が、何の取材かは知らず、これを切っ掛けに少しでも勉強し てくれたら、それもこの映画の価値とは言えそうだ。スター 俳優の監督出演で若い観客が動員されることを祈りたい。
『ももへの手紙』 2000年発表の監督作品『人狼 JIN-ROH』でファンタスポルト 最優秀アニメーション賞や毎日映画コンクールアニメーショ ン賞を受賞した沖浦啓之監督による第2作。 主人公は、母子家庭の娘。研究者だった父親が遭難で亡くな り、母親が幼い頃を過ごした瀬戸内の島に引っ越してくる。 さらにその後を追って雫のような怪しい物がやってくる。と ころがそのときにちょっとした接触で彼女は彼らの姿が観え るようになっていた。 そして引っ越し先の古い家の屋根裏で、彼女は祖父が収集し ていたという妖怪を描いた黄表紙本を発見し、その中から開 放されたという妖怪3人組と遭遇する。その妖怪たちはその 家に居着いていろいろ悪戯を始めるが… 父親を亡くした娘がその痛手から立ち直り、人として成長し て行く。まあなんと言うか、日本のアニメのかなりの部分が こんな話に占められているような気もするが、それはそれな りに需要のあるものなのだろう。 そこに妖怪が絡んでくるものだが、本作の妖怪は正に黄表紙 本から採られたとのことで、そこは和のテイストもしっかり の妖怪が描かれていた。しかもクライマックスでの活躍ぶり は、ジブリ作品などとは少し違っているかなあという感じは したものだ。 製作は、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセン ス』など押井守作品を手掛けるProduction I.G。因に沖浦監 督は上記作品のアニメーターを務めている。 声優は、主人公の少女に2011年『アイリス』などに出演の美 山加恋、その母親役に優香。また妖怪3人組を、西田敏行、 山寺宏一、それに『LOTR』のゴラム役の吹き替えなどの チョーが担当している。
『僕達急行・A列車で行こう』 2009年7月紹介『わたし出すわ』などを発表し、昨年12月に 急逝した森田芳光監督による遺作。小町と小玉という2人の 男性を主人公に、京浜急行から九州新幹線までの鉄道情報を 満載にした青春ドラマ。 小町は大手ディベロッパーに務める営業マン。趣味は鉄道だ が、そのスタイルはローカル列車で音楽を聞きながら車窓を 眺めているというもの。しかしガールフレンドからは理解さ れず、旅先で別れを告げられてしまう。 小玉は町工場の工場主の息子。メカには強く、モーターの音 だけで列車や製造会社を判別できるほど。しかし父親の工場 は銀行融資を断られ、技術はあるのに製造機械の老朽化で先 行きは明るくない。 そんな2人が旅先で出会い、お互いの趣味を尊重し夢を育ん で行く。そこに日向に北斗、天城、谷川、湯布院、筑後、大 空、さらにアクティ、ユーカリ、サンダーバードといった外 国人まで絡んで物語は展開される。 映画は最初から渓谷を走るローカル列車の車窓で、そこで語 られる鉄道情報など鉄道マニアに一直線という感じの作品だ が、さらに2人の名前には文字通り吹いてしまった。その後 も青春18切符やトレインヴューなど、正に「鉄」の映画と言 う感じの作品だ。 まあ僕も、今年は春と夏の青春18切符ではそれぞれ九州まで 行く予定だから、この映画に出てきた話題にはいろいろ関心 も湧いた。そんな興味満載の作品。日本中の鉄道マニアはこ の映画を残してくれた森田監督に感謝し、こぞって支援する べきだろう。 出演は、松山ケンイチ、瑛太。他に貫地谷しおり、伊東ゆか り、ピエール瀧、伊武雅刀、村川絵梨、星野知子、笹野高史 西岡徳馬、松阪慶子らが脇を固めている。 森田監督の作品では、1992年『未来の想い出』はもちろん、 1996年『(ハル)』にもSF的興味を引かれた。それからは あまりその種の作品はなかったが、『わたし出すわ』には、 思わず手を叩きたくなる展開が隠されていた。 もっと本格的なSFにも挑んで欲しかった監督の逝去が悔や まれると共に、ご冥福をお祈りしたい。
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