2011年10月31日(月) |
第24回東京国際映画祭(2) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月22日から30日まで行われていた第24回東京※ ※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※ ※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※ ※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 《コンペティション部門》(続き) 『J.A.C.E./ジェイス』“J.A.C.E.” ギリシャ・ポルトガル・マケドニア・トルコ・オランダ合作 による犯罪社会に生きる男の数奇な人生を描いた作品。映画 祭では無冠に終ったが、僕は本来なら本作が監督賞に値する と思っていた。 ギリシャの犯罪社会で有名を馳せた殺し屋ジェイスが死体で 発見され、その殺し屋の謎に満ちた人生が検証される。そこ には物乞いから臓器売買まで、子供を利用する様々な犯罪組 織の実態が描かれ、その中で殺し屋として成長して行く少年 の姿が描かれる。 しかしその一方で、少年は幼い頃から大事に持ち続ける「パ パの写真」を頼りに実の父親の姿を追い続け、その過程では 象の飼育場など様々な環境が彼の人生を彩って行く。そして 彼の人生が行き着いた先は… 題名は主人公の腕にある入墨に記されたもので、それが主人 公の呼び名になっているが、同時に各文字にピリオドが付さ れていることから解るようにある言葉の頭文字にもなってい る。その言葉の意外な意味などは映画の興味を面白く彩って いた。 しかし肝心の父親の真相の方は、僕としてはちょっと物足り ない感じがしたもので、実際このような話が最近多く作られ ている中では時流に乗っているとは言えるが、もう少しイン パクトのある結末を考えて欲しかったという感じはした。 ただし本作も実話に基づいているようで、これが実話という のは凄いという感じもするが、実話なら仕方がないという感 じもしたところだ。 映画は各章ごとにサブタイトルの付された上映時間153分の 堂々たる作品で、登場人物の数もかなり多く。それらを整然 と纏め挙げた監督の手腕にも感服する作品だった。
『より良き人生』“Une Vie Meilleure” 2007年2月紹介『チャーリーとパパの飛行機』などを手掛け たセドリック・カーン監督が、より良き人生を目指して奮闘 し、運命に翻弄されるカップルの姿を描いたフランス映画。 主人公は35歳のコック、彼は職を求めて訪れたレストランで 28歳子持ちのウェイトレスと出会い、夢を語り合った2人は 一緒に暮らすようになる。そして郊外に素敵な建物を見つけ た2人は銀行ローンを借りて改築に乗り出すのだが…。 完成したレストランは法律的な問題で営業許可を得られず、 さらに銀行ローンも手続き上の問題で条件を厳しくされてし まう。この状況に切羽詰った女性は、手続きのためフランス に残らざる得ない主人公の許に子供を残し、賃金の良いカナ ダに出稼ぎに行くが、やがて音信が途絶えてしまう。 理想のレストランを目指して頑張る2人が法律や規則などの 様々な壁に阻まれる。日本でもありそうなお話だが、そんな 物語がフランスとカナダの大西洋を跨いで展開される。こう なるとちょっと日本とは条件が違ってくるが、それでも描か れる内容は夢と理想を求めて奮闘するカップルの姿であり、 そこには誰もが応援したくなるような素敵な物語が描かれて いた。 以前に紹介した監督の作品も、厳しさの中に暖かい人間味が 描かれていたが、本作でもそんな厳しくて暖かい物語が描か れていた。僕はこの映画で奮闘する主人公に男優賞を贈りた いと思ったものだ。
以下はコンペティション以外の作品で、 《アジアの風》 『哀しき獣』“황해(黄海)” 2008年『チェイサー』が評判となったナ・ホンジン監督の新 作。中国北部の朝鮮族自治州に住む男性が、ギャンブルで抱 えた借金を解消して貰える約束で殺人を請負、韓国に密航す る。大連で現地ロケしたと思われる映像の迫力と見事なアク ションに彩られた作品。すでに日本公開も決定している一級 のエンターテインメント。
『鏡は嘘をつかない』“Laut Bercermin” 海の上に立つ集落に暮らす少女を主人公に、海釣りに出たま ま帰らない父親を思う少女の心と、集落に調査のため訪れて 少女の家に宿泊することになった青年との交流をファンタス ティックに描いた作品。題名の一部をなす「鏡」の意味が深 く素敵なもので、その詩情も豊かに感じられた。映画祭では TOYOTA Earth Grand Prixを授賞した。
『われらの大いなる諦め』“Bizim Büyük Çaresizliğimiz” アラフォーの男性2人が暮らすアパートに、親友の妹の女子 大生が居候することになって…というシチュエーションコメ ディ。筆者も一応男性だから、このような状況はどうなんだ ろうかとは考えてしまうが、映画はそれほどの嫌みもなく素 直に笑える作品になっていた。
『ボリウッド〜究極のラブストーリー』 “Bollywod: The Greatest Love Story Ever Told” 『ザッツ・エンターテインメント』のインド版と言えそうな 作品。各時代の代表と思われる作品から歌と踊りのシーンが 次々に登場する。残念ながら僕が観た記憶のあるのは1本だ けだったが、華やかな踊りの連続はそれだけで楽しめるし、 最近はヒップホップ調の踊りも踊られていることが解った。 ただ途中に挿入されるニュース映像が、意味は解るけど…。
『孤独な惑星』“Planeta Acheret” 第2次大戦中に狼の群れと一緒に暮らしたという老人を探し て、シベリヤに向かう撮影隊のフェイクドキュメンタリー。 基になっているのは2009年2月紹介『ミーシャ』で描かれた ユダヤ少女の話と思われる。ただし本作では調査のためと称 して1人が地元警察署長の娘と結婚式を挙げるなど無茶苦茶 な展開で、何が言いたいのかさっぱり解らなかった。
『TATSUMI』“TATSUMI” 「劇画の父」と言われる日本の漫画家辰巳ヨシヒロの自伝的 な作品から、シンガポールのエリック・クー監督がアニメー ションで描いた作品。巻頭に「地獄」の映像化が据えられ、 以下に手塚治虫氏との交流や劇画というジャンルを作り上げ て行く辰巳の姿が丁寧に描かれている。カンヌ「ある視点」 部門にも出品された作品には、辰巳本人も満足のコメントを 寄せているようだ
《日本映画・ある視点》 『春、一番最初に降る雨』 カザフスタンの草原で、シャーマンの老女と暮らす一家を描 いた作品。その老女が亡くなり、両親はその遺体を埋葬地に 運ぶ。その間の出来事と、家に残った兄と幼い妹弟、さらに バイクに乗った父と娘の旅行者などが交流する。製作者と監 督に日本人の名前はあるが、監督はカザフスタンの人と共同 で、出演者もすべて現地の人とロシア人という作品。
『ももいそらを』 実はこの映画は映画祭期間中ではなく、後日外国特派員協会 で行われた上映会で鑑賞した。しかし映画祭の主体行事とし ての上映なのでここで紹介する。 世間のいろいろな出来事を少し斜に構えて見ている女子高生 を主人公に、彼女が大金の入った財布を拾ったことから始ま るちょっとファンタスティックなところもある作品。全編が モノクロで撮影され、少しトリッキーな要素もあってなかな か楽しめた。一般公開の可能性もあるので、できたらその時 に改めて紹介したい。
《WRLD CINEMA》 『チキンとプラム』“Poulet aux prunes” 楽器を壊されて絶望し死を決意した音楽家が、最後の8日間 で自らの人生を振り返る。2007年10月紹介『ペルセポリス』 のマルジャン・サラトピが、再び自作のコミックスを映画化 した作品で、今回は実写に挑んでいる。元々自殺テーマは好 きではないが、本作では後半に多少の捻りがあり、それは巧 みな作品だった。
《natural TIFF》 『地球がくれた処方箋』“Tra terra e cielo” ハーブと共に生きる人たちを取材して、その利用法などを紹 介するドキュメンタリー。そこでは伝統的な時間を掛けた抽 出法なども説明され、万人が活用できるものとして紹介され るが、一方でその成分が製薬会社によって特許申請されてい るなどの話題も登場していた。ただ、話が途中から多少宗教 じみてくるところが少し気にはなったが…。
『少女の夢の足跡』“A Pas de Loup” 両親が自分を見ていないと信じ込んだ少女が、それを確かめ るため別荘の裏の森に隠れ、1人で生活しようと決心する。 そして少女が隠れた森は思いのほか優しく彼女を受け入れて くれるが…。まるで夢のような話をファンタスティックに描 いている。特にカメラを少女の目線に合わせ、台詞も少女の モノローグだけという設定を見事に達成していた。 * * 以下は、第24回映画祭の全体に対する講評ということで 書かせてもらうが、まず僕が選んだ各賞は、 最優秀女優賞:ジャネット・マクティア(アルバート・ノッ ブス) 最優秀男優賞:ギョーム・カネ(より良き人生) 最優秀芸術貢献賞:転山 審査員特別賞:デタッチメント 最優秀監督賞:メネラオス・カラマギョーリス(J.A.C.E.) サクラグランプリ:ガザを飛ぶブタ 因に僕は、観客賞は『最強のふたり』と考えていた。
これに対して実際の結果は、 最優秀女優賞:グレン・クローズ(アルバート・ノッブス) 最優秀男優賞:フランソワ・クリュゼ/オマール・シー(最 強のふたり) 最優秀芸術貢献賞:デタッチメント/転山 審査員特別賞:キツツキと雨 最優秀監督賞:リューベン・オストルンド(プレイ) サクラグランプリ:最強のふたり 観客賞:ガザを飛ぶブタ となったものだが、僕の方は2作品授賞と同じ作品に2つの 授賞を避けたもので、結果はかなり似通っている。ただここ に挙がった作品と、挙げなかった作品では、多少レヴェルに 差があったようにも感じたもので、今回はある意味消去法の 選択にもなっている。 正直に言って今回は、多少全体のレヴェルが低かったよう にも感じたが、その一方で今回は、すでに実績のある監督の 名前も並んでいたもので、特にそれらの監督の作品に期待外 れが多かったことは、観客としての失望感も大きく感じられ たところだ。 実際問題として、以前のように新人監督ばかりなら、期待 外れでも仕方がないで済ませられるが、そこそこの名前でこ の結果は映画祭そのものに対する失望感も大きくなる。次回 はぜひとも監督の名前でなく作品を選んで欲しいものだ。 * * さて講評はここまでにして、以下には今回発生した問題を 書き残しておきたい。 まず今回の映画祭では、少し前に「お断り」として書いた ようにマスコミに対するコンペ作品の事前試写が実施されな かった。本当は行われていたのだが、参加条件が厳しくて僕 のような者には案内がされなかった。その条件というのは、 会期中にインタヴューを行う人ということで、僕のように映 画を観ることを優先する人間は除外されてしまったものだ。 さらには前年の事前試写では満席で必要な人たちが入れな かったということなのだが、確かに朝10時から毎日3本ずつ 行われた事前試写では、僕を含めた何人かは3回の席を取り 切りで、1本だけ観に来る人より有利だったことは認める。 しかしそれをしていたのは本当に一握りの人たちだし、実際 に超満員になったのは、前年では最終日に1本のみ会場が狭 い場所に変更になった『一枚のハガキ』だけだったよう記憶 している。 とは言え、僕は今回事前試写に参加できなかったもので、 このため今回の映画祭ではコンペティション15本+その他の 部門11本の計26本しか観られなかった。これは前年がコンペ ティション14本(1本は先に別の機会に観ていた)+その他 の部門31本の計45本に比べると激減したものだが、ここには 春の震災の影響なども多少あって、それがなければあと6、 7本は観られたかも知れない。それでも前年に比べると10本 以上少なくなっている感じだ。 ただまあ、前週のスケジュールが空いたお陰で、事前には 諦めていた北九州・本状競技場でのサッカーの応援には行く ことができたもので、この時の観戦記は[J's GOAL]の投稿 で好評を得ることもできた。 * * ということで開会を迎えることになったが、今回は会期中 のマスコミ向け上映でも鑑賞ルールの変更や上映会場の分散 などがあって、各上映間の時間を多く取る必要があり、また 上映会場間の移動距離も大きくなって、鑑賞できる作品数が さらに制限されることになった。 しかも僕自身は、映画祭の顔であるコンペティション部門 の作品を最優先で観ることにしているが、そのスケジュール を決めると他の部門で観たかった作品をほとんど観ることが できなくなってしまった。その影響は、特に主な上映会場が 六本木以外に設定されたWorld Cinemaに顕著で、前回は9本 観られた作品数が、今回は1本だけになってしまった。 とは言うものの、前回はヴェネツィアで審査員特別賞及び 男優賞の『エッセンシャル・キリング』、ベルリン監督賞の 『ゴーストライター』、カンヌ特別グランプリの『神々と男 たち』、サンダンス映画祭グランプリの『ウィンターズ・ボ ーン』などが並んだのに対して、今回は受賞作ではない出品 レヴェルの作品がほとんどで、強いて観たい作品は少なかっ た。それでもサンダンス映画祭で脚本賞の『アナザー・ハッ ピー・デイ』、ベルリン監督賞の『スリーピング・シックネ ス』、それにサンダンス映画祭外国映画監督賞の『ティラノ サウルス』が観られなかったのは残念だった。 またアジアの風部門も、前回の16作品から今回は6本だけ で、しかも、韓国映画の『U.F.O.』や台湾映画の『運命の死 化粧師』、インド映画の『ラジニカーントのロボット』など 映画祭側でSF/ファンタシー系に分類されている作品をほ とんど観ることができなかったのは、僕としては悔しい思い だった。 因に今回のルール変更については、『プレイ』の紹介文の 中で触れておいたが、一般的に映画は結末が重要であって、 例外はあるがプロローグが問題になる作品は少ないと思われ る。しかし今回のルール変更では、中途退出をせざるを得な い場合が生じるもので、幸い該当の作品では僕が耐えられな かったが、このルールは何とかして欲しいと思うものだ。 その他、当日にチケットの配布と指定されていた作品が、 配布開始の30分以上前から並んでいたのに、チケットが1枚 も無かったり、常識では考えられない事態も発生していたも ので、僕自身は幸い他からチケットを回してもらえたが、危 うく受賞したコンペ作品を1本落とす可能性もあった。 まあ僕が1本落としたからといって、何が変わる訳でもな いが、こんな状況が繰り返されるようなら、次回からは最初 にコンペ作品は諦めるなど、こちらの考えも改める必要が生 じそうだ。
2011年10月30日(日) |
第24回東京国際映画祭(1) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月22日から30日まで行われていた第24回東京※ ※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※ ※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※ ※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 《コンペティション部門》 『ヘッドショット』“ฝนตกขึ้นฟ้า” 2007年4月紹介『インビジブル・ウェーブ』などのタイ人監 督ペンエーグ・ラッタナルアーンによるかなり捻りの利いた ノアール・サスペンス。 主人公は元警察官の暗殺者。その暗殺者が、仕事中の頭部に 受けた銃弾によって視野の天地が逆様になってしまう。つま り、テレビも逆様に置かなければ観ることが出来なくなって しまう。それでも仕事は続けなければならない主人公は、や がてある達観を得る。 という主人公の、正義感の強い刑事から一種の仕置人のよう な正義に基づくと思われる暗殺者になるまで経緯や、暗殺者 としての仕事振り、さらにその仕事に隠された真の目的など が、時系列をばらばらにして描かれて行く。 監督は元々ノアール調の作品が得意なので、それは雰囲気の ある作品になっていた。ただし肝心の天地が逆様に見えると いう設定が物語として活し切れていない。描きたかったのは 先に書いた「それで達観を得る」ことの方なのかもしれない が、その達観自体の内容も不明確で、観客に充分に伝わって こないのでは、作品としては意味不明だ。 テーマ的には僕のテリトリーのものだし、期待も大きかった のだが、その期待は見事に外されたという感じの作品になっ てしまった。
『キツツキと雨』 2009年『南極料理人』が話題になった沖田修一監督のオリジ ナル脚本による作品。今回のコンペティションに日本映画で は唯一の参加となり、審査員特別賞を受賞した。 山間の林業で成り立っているらしい村にゾンビ映画の撮影隊 がやってくるというシチュエーションの、かなりコメディ調 の作品だが、物語では若い監督の成長やそれに巻き込まれる 周囲の人々の人情のようなものも巧みに描かれていて、映画 としてはすっきりと鑑賞できた。 しかし作品としては可もなし不可もなしというか優等生過ぎ る感じで、果たしてこれが審査員特別賞に値するかというと 多少疑問には感じられた。僕としては、この賞にはもっと尖 った作品を期待してしまうところだ。 ただし、僕は役所広司の最優秀男優賞ならありかなと思って いたものだが、役所は1997年の『CURE』で主演男優賞を 受賞しているから、2度目は難しかったかも知れない。その 代わりの受賞のような感じもしてしまった。 映画の中では、「ゾンビは走りません」という監督の台詞が あってそこはニヤリとしたが、沖田監督自身はゾンビには興 味はなくて、その種の映画も観たことはなかったそうだ。で もこういう台詞は書けたということで、それには感心した。
『最強のふたり』“Intouchables” 事故で頸から下が完全に麻痺してしまった富豪と、その介護 人に選ばれた黒人青年との実話に基づくフランス作品。映画 祭では、最高賞のサクラグランプリと、主演の2人が最優秀 男優賞を受賞した。 刑務所から出てきたばかりの黒人青年が、失業保険の手続き に必要な面接を受けにやってくる。従って本人には受かるつ もりもないから面接もいい加減な態度なのだが、それが多少 へそ曲がりの富豪に気に入られてしまう。 そこからは趣味も生活も正反対の2人がすったもんだを繰り 広げるが、徐々に互いを理解し合いやがて「最強のふたり」 を作り上げて行く。まあどちらから見ても夢みたいな話で、 正直にはこんなに巧く行くはずないとも思ってしまうが、こ れは実話に基づくものなのだ。 コメディとしてナチュラルで、その点に感心した。実はこの 前に上記の日本映画を観て、「コメディは映画祭には難しい けどこれなら行けるかな」と思っていた矢先の本作で、これ には負けたと思わされた。オープニングがかなり強烈で、そ こから一気に物語に引き込む構成も巧みに感じられた。個人 的には観客賞かなとも考えていたが、グランプリも妥当なと ころだろう。 ただエンドロールに実際の2人の写真が登場して、黒人青年 が実はアラブ系だったことが解かり、フランスの話だしそれ は当然だなとは思いつつも、映画化で敢えてアフリカ系に変 更したのは…?とは考えてしまった。
『羅針盤は死者の手に』“La brújula la lleva el muerto” アメリカとの国境地帯を舞台に、違法越境者たちの姿を描い たかなりシュールなメキシコ映画。 主人公はシカゴに暮らす兄の許を目指している少年。少年は 国境に向かう道で老人が御すラバの牽く荷馬車に乗せて貰う が、間もなく老人は羅針盤を握ったまま死んでしまう。それ でも死体を隣りに座らせたまま旅を続ける少年だったが、や がてその荷馬車に様々な人が乗り込んでくる。 画面には同じ背景が何度も登場して、荷馬車が堂々巡りをし ていることを伺わせる。それは老人から少年に渡った羅針盤 のせいのようにも思われ、もしかしたら登場人物全員がすで に死んでいる物語かとも考えさせられた。が、結末を観ると そうでもないようだ。 乗り込んでくる様々な人の姿がメキシコの現状を象徴してい るのかも知れないが、その辺は知識がないから判断もできな かった。また途中で登場する鉄道駅や、開校したばかりの小 学校のエピソードなど、それぞれに何かが象徴されているの かもしれないが、その寓意も解からない。 物語の全体はシュールという感じで、それは面白く観られた 作品ではあったが、何か理解し切れないもどかしさが残る作 品だった。
『夢遊/スリープウォーカー』“夢遊” 2007年5月紹介『ゴースト・ハウス』などのオキサイド・パ ン監督による香港=中国製作の3Dホラー作品。ただしプレ ス向けの上映は2Dで行われた。 主人公は未解決幼児誘拐事件の当事者の女性。その女性が、 寝ている間の自分の行動に疑問を持ち始め、自身が殺人者で あるかも知れない状況に追い込まれる。一方、彼女が観る夢 の中では、誘拐事件の犯人像も示唆されるが… 映画では、巻頭のタイトルから3Dを伺わせる映像が登場し て、本編中も3D効果はいろいろ発揮されたと思わせたが、 それは観られていないので評価のしようがない。ただそれを 除くと、お話自体はまあ有り勝ちという感じで、ホラーとし ての魅力も余り感じられず、パン兄弟としたものがこれでは どうかという作品だった。 特に、映画の中で語られる夢の設定というか定義が曖昧で、 さらにそのシンクロニティみたいなものがもっとちゃんと描 ければそれなりに面白くなったとも考えられたが、その辺の 描き込みも充分ではない感じがした。 それにホラー映画自体が映画祭のコンペ部門で上映するのに 似合っていない感じだが、1997年に受賞した『CURE』は ジャパニーズホラーの先駆的な作品だったから、東京国際映 画祭にはそういうイメージもあるのかな。でもあの頃はファ ンタスティック映画祭も併催されていたものだが。 いずれにしても、映画としてのまとまりも余り感じられない 作品で、3Dで観ればそれなりのものはあったのかも知れな いが、僕にはその判断もできなかった。
『ホーム』“Yurt” 雄大な自然とそこに忍び寄る開発の影、そんな世界中が直面 している問題を扱ったトルコ映画。 主人公は欝病になり、医師の勧めで休暇を取って故郷の町に やってくる。しかしそこにはダム建設の計画が進んでおり、 自然が失われようとしていた。そしてトルコ国内では1500の 河川で開発が進められ、今後10年間に400のダムが建設され るなどの状況が紹介される。 と言っても、主人公は欝病の静養に来ている訳で、別段声高 に自然破壊反対を唱えるようなものではない。その辺は映画 を観ていれば解かるように描かれているのだが、その割りに は主張が生で、何というか生硬な感じがしてしまった。これ ならもっと直截に描いた方がすっきりしたのではないか、と も思わせたものだ。 トルコ辺りでもこのような開発問題に直面しているのか…と いうのは失礼な認識だとは思うが、正直なところはその違和 感も少なからずあった。その辺から僕はこの映画に乗り切れ なかったものだが、その描き方も余り巧みではなかったよう に感じる。 それは妙にローカルな感じで、映画としての普遍性に欠ける 思いがしたものだ。これではたぶんトルコ国内の状況を解っ ている人の共感は得られるが、それが国際的な共感には繋が らない。そんな感じの作品だった。 結局、制作者は自然破壊反対を唱えたいのだろうが、自らの 主張を嫌みでなく描くのにはかなりのテクニックを要するも のだ。東京国際映画祭でならナチュラルTIFF部門の方で上映 するのが良かったのではないかとも思った。
『ガザを飛ぶブタ』“Le Cochon de Gaza” 中東パレスチナの現状を背景にしたフランス・ベルギー合作 のコメディ映画。映画祭では観客賞を受賞した。 物語の発端は、パレスチナ人の漁師が豚を釣り上げてしまう というもの。しかしイスラム教徒にとって豚は不浄の生き物 であり、さらにはパレスチナを支配するユダヤ教徒にとって も豚は不浄で、つまりパレスチナでは豚は行き場所のない存 在なのだ。 そこで困惑した漁師は、取り敢えず豚を自分の船の中に隠し てしまうのだが、やがてその豚に思わぬ利用法が見つかった り、さらにいろいろな混乱と笑いを生み出して行く。 豚がイスラム教とユダヤ教の両方で不浄の存在だと言うのは 知っていたが、このように描かれるとパレスチナの状況が一 層不思議に思えてくる。それもこの映画の制作者たちの意図 なのだろう。そして豚の周囲で展開されるエピソードも秀逸 で、パレスチナの現状の異常さが見事に描かれている感じが した。 因に主演のカッソン・ガーベイは、2007年のサクラグランプ リを受賞した『迷子の警察音楽隊』(2007年9月紹介)にも 主演していた人。その時も見事な演技を見せていたが、本作 でもそれは変わらない。困難な状況の中で何とかそれを打開 しようとする姿が印象的に演じられていた。 個人的には、この作品が審査員特別賞で、観客賞は『最強の ふたり』かなとも予想していたが、これは投票の結果だから この通りなのだろう。お陰で審査員特別賞の席が空いたよう な感じもした。
『プレイ』“Play” 移民社会との軋轢に揺れるスウェーデンの現状を描いた同国 及びデンマーク・フランス合作映画。映画祭では最優秀監督 賞を受賞した。 東京国際映画祭のコンペティションでは何年かに1本極めて 不愉快な作品がある。また今回は後で書くように次の上映開 始まで時間が無いときには、前の上映を途中で退出しなけれ ばならない状況もあって、この作品は途中で観るのを止めて しまったものだ。 題名は子供の「遊び」の意味だと思うが、内容は、黒人少年 のグループがアジア人と白人の少年グループをネチネチと苛 めまくる展開を、生理的な不快感を催す描写も含めてリアル に描いたもので、僕にはどうにも耐えられなかった。 しかしこの作品は受賞しているのだが、審査委員長の報告に よると、この受賞は1人の審査員の強力な推薦によったらし い。そしてその審査員というのが、実は僕は彼の作品を何本 か観ているが、サイトには1本しか掲載していない監督で、 この結果はそれで納得したものだ。 作品に対する不快感というのは、思想的なものなどいろいろ あるが、生理的なものはそれを超越すると思う。その点で本 作はヨーロッパやアメリカの上映でも物議を醸したとされて おり、この時点では東京のみで受賞となっていたもの。まあ そんな作品が選ばれてしまったと言うことだ。 因に、後で最後まで観た人(複数)に話を聞いたら、結末は さらに不快だったのだそうで、不快に感じていたのは僕だけ ではなかったようだ。
『デタッチメント』“Detachment” 背景は現代のニューヨーク。その街で荒れ切った公立高校に 赴任する代理教師を主人公に、アメリカの教育現場が直面し ている様々な問題を描いたアメリカ作品。映画祭では最優秀 芸術貢献賞を受賞した。 主演はエイドリアン・ブロディ。共演者には2010年5月紹介 『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストン、同 12月紹介『かぞくはじめました』のクリシュティーナ・ヘン ドリック。さらにルーシー・リュー、ジェームズ・カーン、 ブライス・ダナーら錚々たる顔触れが並んでいる。 巻頭にはアニメーションが飾られる一方で、途中には教師の インタヴュー映像がモノクロで挿入されるなど、かなり凝っ た演出も施されている。この辺が芸術貢献賞の所以でもあり そうだ。 そして主人公が直面する様々な問題が提示されるが、それら が綺麗事ではなく、さらに主人公自身も完璧ではないなど、 正にリアルな教育問題が描かれている。そこには当然のごと くHIVやレイプなども描かれるが、それらが生理的な嫌悪 感を越えた現実として描き切られていることが、この作品の 崇高さにも繋がっている感じがした。 そしてそれら物語を、上記の俳優たちが見事なアンサンブル で演じ切っている。正に社会派の問題作と言えるもので、個 人的にはグランプリでも良かったと思える作品だった。
『トリシュナ』“Trishna” トマス・ハーディの古典小説「ダーバヴィル家のテス」を、 2011年2月紹介『キラー・インサイド・ミー』などのマイク ル・ウィンターボトム監督がインドに舞台を移して映画化し たイギリス作品。実は、スケジュールの都合で日本語字幕の 付かない上映で観ることになったが、ヒンドゥー語の台詞に は英語字幕が付くし、インド人の英語は聞き取りやすいので 鑑賞に支障はなかった。 物語の背景は現代。インドの宮殿のようなホテルを舞台に、 ホテルの経営者の息子と、そのホテルにメイドとして就職し た農村出身の女性との恋が、急激に変化する社会情勢や農村 と都会の生活の違いなどによって翻弄されて行く。 原作は19世紀末のイングランドを舞台にしていたものだが、 その当時の状況と現代のインドの状況が似ているということ なのかな。物語自体は余り違和感もなく受け入れられるもの になっていた。 ただまあ元々のお話がああいうものなので、その点は変えら れないし、結局はそういう物語が展開されてしまう。それは 原作物だから仕方がないが、現代ならもう少し変わってくる のではないか…という感じはしてしまった。 主演は、『スラムドッグ$ミリオネア』などのフリーダ・ピ ント。悲劇のヒロインを見事に演じていた。 なお背景にはインドの古い宮殿や寺院なども登場して、観光 映画的に楽しむこともできたが…。
『別世界からの民族たち』“Cose Dell'Altro Mondo” 移民問題が21世紀最大の社会問題とも言われるヨーロッパの 現状を背景にしたイタリア作品。その社会問題をファンタス ティックな偶意に満ちた風刺コメディに仕立てている。 舞台は、イタリア北東部のそれなりに富裕層の暮らす街。そ の街では移民労働者の割合も比較的高かったが、彼らはみな 合法的な居住者だ。そして彼らの雇主でもある元からの住人 たちは、そんな移民労働者たちを差別的な目で見詰め、嫌み で皮肉なお笑いのネタにもしていた。 ところがある日、そんな街から移民労働者の姿が消え始め、 それまで彼らに頼り切っていた人々の生活が混乱し始める。 それは彼らを皮肉の目で観てきた人々にも彼らの存在を再確 認させることになって行くが… 今まで差別してきたものがいざ居なくなると…。そんなドタ バタのコメディは有り勝ちのものだろう。それに対して本作 が何か新規な見識を持っているかというと、それは余り感じ られなかった。 結局、この映画の制作者は何を言いたかったのか。移民労働 者の存在に反対なのか、それとも彼らを正当に受け入れるべ きと言いたいのか。その辺の態度の曖昧さというか、その態 度を明確にできない優柔不断さが、作品そのものの価値を下 げてしまっている感じもした。 実際には、映画の前半の移民労働者に対する差別的な発言の 部分がかなり生き生きと描かれており、そういう思想の制作 者なのかも知れないが…
『転山』“转山” 台湾在住の青年が兄の遺志を継いで自転車でチベットのラサ を目指す行程を描いた中国映画。映画祭では、最優秀芸術貢 献賞を受賞した。 大学を卒業した主人公は、敬愛していた兄が自転車でラサに 向かう途中死亡したことを知らされ、その遺志を継ぐことを 決心する。それは今まで甘えて過ごしてきた自分自身への挑 戦でもあった。 しかしラサへの行程は厳しい山岳路や事故の起き易い悪路、 さらにチベッタン・マスティフの群れとの遭遇や食中毒など 様々な試練の連続となる。そんな行程でのいろいろな人々と の出会いや別れ、それが主人公を成長させて行く。 この作品はプレス向け上映ではなく、一般上映で鑑賞した。 そのため上映後のQ&Aにも出席したが、撮影中の苦労話は 尽きなかったようだ。そしてそんな厳しい撮影で得られた素 晴らしい自然の景観が、見事に映画に表現されたと言うこと もできる作品だった。 ただ、その撮影の厳しさが伺える一方で取って付けたような 事故のエピソードが必要だったかなど、ドラマ作りには疑問 を感じるところもあったもので、それはドキュメンタリーで はないから作り物はあっても良いが、それが浮いてしまった り違和感を持たせてはいけないようにも感じられた。 つまりは策を弄しすぎて却って誠実さが失われているような 感じで、勿体無い感じもしたものだ。
『アルバート・ノッブス』“Albert Nobbs” 19世紀のダブリンを舞台に、生きて行くために性別を偽らな くてはならなかった女性の物語。2008年12月紹介『パッセン ジャーズ』などのロドリゴ・ガルシア監督の作品で、映画祭 では主演のグレン・クローズが最優秀女優賞を受賞した。 主人公のアルバートは、内気だが真面目で気の利くベテラン 執事。ホテルに務めるアルバートには目当ての客も多く訪れ ていたが、その執事には人には言えない秘密があった。それ はその実体が女性であったということ。その時代に結婚を欲 しない女性が1人で生きて行くためには、「男性」になるし かなかったのだ。 この主人公アルバートをクローズが演じて、それは正に圧巻 の演技を見せる。その演技は勿論女優賞に値するものだが、 でもそこは、何をいまさらクローズに授賞かと言う気分にも なってしまうもので、僕はむしろ共演した女優の方に演技賞 を贈りたい気持ちにもなった。 なお本作もプレス向け上映ではなく、一般上映で鑑賞したも のだが、実はこちらの上映ではその後のQ&Aはなし。つま りこの上映に際して監督、出演者など関係者の来日はなかっ たようで、これにはかなり寂しい思いがした。 今回の東京国際映画祭では、福島原発災害の影響で開催直前 まで審査員も決定しないなど、運営面での問題も多くあった が、その中で敢えて受賞者の登壇しない受賞式が演出された のも、今回を象徴していたと言えるのかも知れない。
(今回の掲載は各部門ごとの映画祭での鑑賞順で、以下は翌 日に続きます)
2011年10月23日(日) |
リアル・スティール、1911、ブリューゲル、ビッグバン、ゾンビ処刑人、フライトナイト、マジック・ツリーハウス、フラガール2+TIFF |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『リアル・スティール』“Real Steel” リチャード・マシスン原作の短編小説を基に、2001年『陽だ まりのグラウンド』や、2006年3月紹介『夢駆ける馬ドリー マー』などのスポーツドラマで実績の高い脚本家ジョン・ゲ ティンズが描いた近未来映画。 時代背景は2020年。その時代のボクシングは人間同士が闘う スポーツではなく、ロボット同士が互いを破壊する迄を観せ る過激な見世物だった。そんな世界で、主人公は元は人間最 後のボクサーだったが、今はロボットを連れて全米を転戦す るのが生業の男。 その主人公の許に、ある日、急死した元妻の所にいた幼い息 子が現れる。しかしその息子と暮らす余裕のない主人公は、 親権を金で金持ちの親戚に譲り、その金で新しいロボットを 購入する算段を立てる。 そして夏休みの終りには親戚の家に連れて行く約束で、息子 が彼の許にやってくる。ところが、その息子は親譲りなのか 意外とロボットボクシングに詳しく、何かと父親のやり方に 口を出し始める。そして廃品置場で1台の旧式ロボットを見 付けた息子は… 正直に言って、機械のロボット同士が闘うというお話で、ど こに感動が生まれるのか観るまでは半信半疑だった。しかも 本作のロボットは、それ自体に感情があるというものでもな く、人間の指示通りに動くだけのただのメカなのだ。 ところが本作の脚本には見事に填められた。さすがに涙を流 す程ではなかったが、本作には見事な人間/親子のドラマが 描かれていた。しかもその設定がSFでしか起こりえないも のになっているのも、ファンには嬉しいところのものだ。 出演は、ヒュー・ジャックマン、今年5月紹介『マイティ・ ソー』で主人公の幼い頃を演じていたダコタ・ゴヨ。他に、 2010年2月紹介『ハート・ロッカー』で主人公の妻を演じて いたエヴァンジェリン・リリー。 さらに2008年5月紹介『スピード・レーサー』などのカール ・ユーン、先月紹介『ラブ・アゲイン』に出演のオルガ・フ ォンダ、『ハート・ロッカー』に出演のアンソニー・マッキ ー、昨年4月紹介『レギオン』に出演のケヴィン・デュラン トらが脇を固めている。 監督は、『ピンク・パンサー』や『ナイト・ミュージアム』 などのコメディシリーズをヒットさせたショーン・レヴィ。 本作はコメディではないが、まさかの感動の物語を見事な手 腕で描き上げている。
『1911』“辛亥革命” 1911年に始まり現代中国の礎となった民主革命の発端を描い た歴史作品。その革命の開始から100年を記念した作品が、 本作でちょうど映画出演100本目となるジャッキー・チェン の主演・総監督によって製作された。 そのチェンが演じるのは黄興。革命の先導者孫文とは東京で 出会って以来の同志であり、国外退去を命じられて海外で活 動するしかない孫文に代って国内の戦地を転戦し、革命軍の 総司令として民衆たちを鼓舞し勝利へと導いた人物だ。 物語は、そんな日本人が今まであまり知ることのなかった革 命軍総司令官の生き様と、彼と共に革命を夢見て闘い、戦場 に散って行った若者たちの姿が描かれる。それと共に海外で の孫文の活動の様子や、末期の清王朝、さらに袁世凱の暗躍 なども描かれる。 それは日本人には、よほど興味のある人にしか知られていな かったようなお話だが、革命によって旧体制を打破しようと する人々の燃え上がるような情熱は、革命のないままだらだ らとした国体の続く国の人間には、強く憧れも感じてしまう ものだ。 チェン以外の出演者は、孫文役に2009年7月紹介『孫文』な どのウインストン・チャオ、黄興の妻役には2007年3月紹介 『インセント・ワールド』などのリー・ビンビン。 他に、チェンの息子のジェイシー・チャンやチェンが育てた フー・ゴー、チェンと同様にアメリカでも活躍するジョアン ・チェン。さらに2008年12月紹介『花の生涯』などのユイ・ シャオチュン、2008年『レッドクリフ』に出演のスン・チュ ンらが脇を固めている。 またチェンの総監督を助ける実務監督には、『イノセント・ ワールド』や『レッドクリフ』などのカメラマンで、近年は テレビドラマの演出も多数手掛けているというチャン・リー が抜擢された。 なおジャッキー・チェンの歴史作品では、先月『新少林寺』 を紹介したばかりだが、先月の作品は1912年が舞台背景。本 作はその前年に当るもので、その雰囲気などがかなり異なる のは、さすがに広い国のことだとも思わせる。 普段は余り耳にすることもない隣国の歴史を垣間見るという ことでも興味を引かれる作品だった。
『ブリューゲルの動く絵』“The Mill and the Cross” 16世紀ネーデルランドの画家ピーテル・ブリューゲルにより 1564年に製作された「十字架を担うキリスト」の絵画を基に 製作された作品。この絵画に描かれたいくつもの物語が、か なり奇想天外な手法で映画化されている。 この風変わりな作品を、1996年『バスキア』の脚本などでも 知られるポーランドのアーチストで映画作家のレフ・マイェ フスキ監督が、共同脚本、撮影監督、音楽、サウンド・デザ インなども兼任して作り上げた。 物語の主役は画家ブリューゲル。彼は、友人であり収集家の ニクラース・ヨンゲリンクに渡すための大作の絵画を描いて いる。それはゴルゴダの丘に向かうキリストの姿を描いたも のだが、何とそれをブリューゲルは実際の風景の中で描いて いるのだ。 そしてブリューゲルは、ヨンゲリンクの求めに応じて、収集 家が憂える16世紀ネーデルランドの現状を、聖書の物語に準 えて描いて行く。そこにはキリストや現場に居合わせて十字 架を代りに担うことになってシモン、聖母マリア、ユダなど も登場し、最後の晩餐から磔刑までの物語が描かれる。 ただしこの物語は、本作の共同脚本にも参加しているマイク ル・フランシス・ギブスンによる著作に基づくもので、一般 的なブリューゲル絵画の解釈とは異なるようだ。 出演は、画家役に前回『ホーボー・ウィズ・ショットガン』 とは180度異なる演技のルトガー・ハウワー、収集家役には 1976年『2300年未来への旅』などのマイクル・ヨーク、 さらに聖母マリア役に、昨年10月24日付「東京国際映画祭」 で紹介した『私を離さないで』にも出演のシャーロット・ラ ンプリング。 キリストと兵士たちの関係や人々の日々の生活ぶりなど、絵 画の表面には現れない様々な出来事が物語として映画に描き 込まれている。それは聖書の物語を知らないと解り難い部分 もあるが、それは別にしても、CGIとVFXが可能にした 映像だけでも充分に驚嘆できる作品だ。 特に、絵画に描かれたファンタスティックとも言える巨大な 風車の内部は、メカニカルな構造の面白さもあってそれを観 るだけでも楽しめた。
『ザ☆ビッグバン!!』“The Big Bang” アントニオ・バンデラスの主演で、『24』のトニー・クラ ンツ監督、『バンド・オブ・ブラザース』のエリック・ジェ ンドレセン脚本という2人のエミー賞受賞者が顔を揃えたク ライム・アクション作品。 バンデラス扮する主人公は3人の刑事が取り囲む中で意識を 回復するが、彼は一時的に視力を失っている。そんな彼に刑 事たちは今までの経緯を話すように強く尋問を繰り返す。そ して彼が語り始めたのは… 主人公の職業は私立探偵。そんな探偵が雇われたのは、終身 刑から突然釈放された元ボクサー。その依頼は、収監中に文 通を続けたストリッパーの女性の行方。依頼人が出所して訪 れた差出人の住所には家屋がなかったという。 こうして女性の行方を追い始めた探偵の後ろには、何故か死 体の山が築かれて行く。果たして犯人は? その魔手はやが て探偵自身にも迫ってくる。こうして物語の全容が徐々に明 らかにされて行くが…。 共演は、2005年5月紹介『ヒトラー〜最後の12日間〜』など のトーマス・クレッチマン、テレビ『プリズン・ブレイク』 などのウィリアム・フィクトナー、2004年8月紹介『バイオ ハザード 』などのシエンナ・ギロリー。 他に、スヌープ・ドッグ、サム・エリオット、テレビ“The O.C.”などにレギュラー出演のオータム・リーサー、2003年 4月紹介『ザ・コア』に出演のデルロイ・リンド、今年6月 紹介『ザ・ウォード』に出演のショーン・クックらが脇を固 めている。 映画は後半においおいと思わせるような大仕掛けがあって、 アメリカ人は本当にこんな話が好きなんだとも思わせる。そ の一方で主人公の探偵事務所には懐かしく感じてしまうとこ ろもあって、古き良き時代のクライムサスペンスの雰囲気も 漂わせている。 そのバランスが、多少ずるい部分もあったりはするが、全体 としては纏まり良く作られている感じがした。そこに上記の 顔ぶれの登場は、まずファンには嬉しい作品というところだ ろう。
『ゾンビ処刑人』“The Revenant” 元ドリーム・クェスト・イメージス(VFX)のスタッフと して、ドン・コスカレリ監督の『ファンタズム』シリーズ、 1989年『アビス』、1997年『エアフォース・ワン』などを手 掛けたケリー・プリオーが、製作、脚本、監督、編集の4役 で作り上げた作品。 本作では、オーストラリア映画祭の最優秀作品賞を始め、ザ ナドゥSF映画祭、ファルスタッフ国際映画祭、シネヴェガ ス映画祭、NYホラー映画祭などでも作品賞や観客賞を受賞 している。 物語は、埋葬から甦った主人公が不死身にはなったものの、 昼間は意識がない上に、人の生血を摂取し続けないと身体が 腐ってしまう事態に直面。それなら悪人の生血を吸えば良い だろうという考えで、夜の街で悪人の成敗に乗り出す…、と いうもの。 なお、吸血の設定はヴァンパイアの起原の中にそういう説も あるのだそうで、本作はそれを活かしたものになっている。 しかもそれに対する主人公らの反応や行動が、これは見事な 脚本に仕上げられているものだ。 それに本作の宣伝文句は、「クサっちゃいるが、俺たちヒー ロー!」。これが正に字義通りで、それにも感心した。 出演は、テレビ『ヒーローズ』でのケンセイ・タケゾウ役や 『24』のジョゼフ・バザエフ役のデイヴィッド・アンダー ス、2000年『コヨーテ・アグリー』に出ていたというクリス ・ワイルド。 他に、2010年1月紹介『鉄拳/TEKKEN』に出演のルイーズ・ グリフィス、主にテレビで活躍するジェイシー・キング、エ ミリアーノ・トーレスらが脇を固めている。 なお、ゾンビの視点から描くということでは、今年の1月に 『コリン』を紹介しているが、同作の製作は2008年で、本作 は2009年。奇しくも同じ時期に同様の作品がイギリスとアメ リカで作られたようだ。その雰囲気はかなり違うが。 また原題で検索をしていたら、2006年8月紹介『奇跡の朝』 “Les Revanants”が出てきた。この作品もゾンビものとし ては出色だったが、本作はエンターテインメント性というこ とではフランス、イギリスの作品に勝っているようだ。
『フライトナイト−恐怖の夜−』“Fright Night” 1985年に公開されて、僕的には元祖ホラコメと呼んでいた作 品が3Dでリメイクされた。ただし、今回は内覧試写なので 2Dでの鑑賞となったが、お陰で物語は冷静に追うことがで きたものだ。 ホラコメの歴史では、第2次大戦直後“Abbot & Costello” の時代からホラーとコメディは融和していたが、1969年にロ マン・ポランスキー監督主演の『吸血鬼』が日本公開(製作 は1967年)されてそのジャンルは確立された。 そして、1985年に本作のオリジナルが公開されたものだが、 この年の夏には『BTTF』や『コクーン』『ときめきサイ エンス』『グーニーズ』などが目白押しで、当時夏休みにな ると西海岸に出かけていた僕には最高の年だったと言える。 そんな訳で僕は、オリジナルを初は字幕なしで鑑賞したが、 それでも存分にコメディとして楽しめた記憶がある。そこで 僕は、この作品をホラコメの元祖として認めることにしたも のだ。従ってこの『フライトナイト』との再会は、僕にとっ ては待望のものだった。 因に、『吸血鬼』は、その後にポランスキー監督が『ローズ マリーの赤ちゃん』を撮ったので、そちらに敬意を払って元 祖の座は降りて貰うことにしている。 そんな待望のリメイクの物語は、オリジナルからは多少の改 変はあるものの、流れはほぼ同じ。その改変の中では、オリ ジナルでロディ・マクドウォールが演じたホラー番組の司会 者が、ヴェガスのイリュージョニストになっていたのには、 感心したりもした。 その一方で、変身したヴァンパイアの造形がオリジナルのま まなのには嬉しくなったもので、それらがパワーアップした アクションと共に、最新のCGI−VFXで見事に再現され ているものだ。 出演は、新版『スター・トレック』などのアントン・イェル チン、前回紹介『ロンドン・ブルバード』などのコリン・フ ァレル。他に、2007年『28週間後』などに出演のイモージェ ン・プーツ、新版のテレビ“Doctor Who”で主演の英国俳優 デイヴィッド・テナント。 さらに、2006年11月9日付「東京国際映画祭」で紹介『リト ル・ミス・サンシャイン』などのトニ・コレット、昨年10月 紹介『キック★アス』などのクリストファー・ミンツ=プラ ッセらが脇を固めている。 ただし、本作は厳密にはホラコメではない。むしろ真面目に 青春ホラーとして描かれている。その点では僕自身は、最初 はちょっと戸惑ったが、この作品のオリジナルを本当に好き なら、これもまた納得できるものだったと言える。 正直に言って最近のコメディめかしたホラーには辟易するも のもあるが、本作にはそのようなところもなく、純粋に作品 として楽しめるものになっていた。前回紹介『ブラディ・パ ーティ』に続いて、素敵な作品に出会えた感じだ。
『マジック・ツリーハウス』 全世界で9800万部以上出版されているというメアリー・ポー プ・オズボーン原作の児童書シリーズからの映画化。その映 画化が日本のアニメーションで行われた。 原作は、誰が作ったとも判らないツリーハウスの中で、そこ に置かれた本を指差し、「この世界に行きたい」と言うと、 時空を越えてその世界に行けるという物語。それぞれ異なる 世界で繰り広げられる冒険が、オリジナルでは既に100巻近 く刊行されているとのことだ。 そんな原作から映画化では、恐竜の国と中世の城、ポンペイ の街に海賊船という4つの物語が選ばれ、それらを繋ぐ4個 のメダルを探すクエストとして再構成されている。そして主 人公の読書好きの少年とその妹の大冒険と、その中での彼ら の成長なども描かれる。 まあお話は御都合主義満載のお子様向けのものだが、大人も 子供に戻って楽しむ分には、それなりの冒険も描かれるし、 兄弟愛や歴史上の出来事なども描かれて、悪くはない出来の ものだ。自分の子供が幼かったら観させてやりたい作品とも 思えた。 脚本は2006年『ブレイブ ストーリー』などの大河内一楼、 監督は2000年『ザ・ドラえもんズ』などの錦織博。また音楽 を、2007年2月紹介『鉄人28号』などの千住明が担当して いる。さらに主題歌は…。これはまだ情報解禁になっていな いものだ。 声優は、2010年3月紹介『瞬』などの北川景子、同10月紹介 『ゴースト』などの芦田愛菜。他に山寺宏一、水樹奈々、元 宝塚花組トップの真矢みきらが脇を固めている。なお北川は 主人公の少年役だが、予想とは違う声の感じで良かった。 約100分の上映時間の中に4つのエピソードと、それらを繋 ぐ全体の物語を構成しているので、個々のエピソードは多少 駆け足な感じもするが、最近の落ち着かない子供たちには、 これくらい目先が変る方がよいのかな。 実は、『ブレイブ…』は試写で観せて貰っていたがサイトに はアップしなかった作品。その時は物語全体の流れが気に入 らなかったと思うが、本作ではそのようなこともなく、そん な中にそれなりのスリルやサスペンスを盛り込んでいるのは 好ましい感じがした。
『がんばっぺ フラガール!』 2006年6月紹介の『フラガール』は実話に基づくドラマ作品 だったが、本作は常磐炭鉱閉山の危機から立ち上がった人々 を45年後に襲ったさらなる危機と、その後の様子を描いたド キュメンタリー。 今年3月11日の大震災の直後、「スパリゾート・ハワイアン ズ」は被害は受けたものの、早期の営業再開に向けて動いて いた。ところが4月11日、再び襲った福島直下型の地震で施 設は壊滅的な被害となってしまう。 今回の震災では津波の被害が大きく報道されたが、本作で建 造物の無惨な姿を目の当りにすると、改めて地震の恐ろしさ が観えてくる感じがした。それは修復できるとは到底思えな いほどの惨状であり、「炭鉱の閉山よりきつかった」という 発言も頷けたものだ。 これにより当然「スパリゾート・ハワイアンズ」は休業とな り、フラガールたちも踊る場所を失ってしまう。しかしそん な中でも希望を失わず、再建に向けて動き出した人々の姿が 本作では描かれている。 その中では、2006年の映画でも描かれたフラガールたちの全 国キャラバンを、46年ぶりに復活した様子が紹介される一方 で、自身が震災及び原発災害の被害者でもあるサブリーダー の姿を中心に、災害被害の現実も描かれていた。 特にペットとの再会の話や、待避命令の出ている区域に建つ 実家を一時帰宅で訪問する姿などは、話として聞いていたり はしていても、現実に映像で見せられると、また違った衝撃 を受けるものだ。 さらに映画の後半では、再建に向かう様子も紹介される。そ こでは10月1日の仮営業再開までの動きや、実際の再開当日 の様子まで紹介されていた。それはあくまで仮の姿であり、 本来の姿を取り戻したものではないが、その確実な足取りは 明日への希望を感じさせるものだ。 監督はテレビ『世界ウルルン滞在記』などの小林正樹。小林 監督は、2006年映画公開時のメイキング番組や『真実のフラ ガール』というドキュメンタリーDVDも手掛けている。 またナレーションを、映画『フラガール』で日本アカデミー 賞助演女優賞などを獲得し、一気にブレイクしたともいえる 蒼井優が担当している。 なお本作は、今年の東京国際映画祭で特別上映作品として紹 介される。 この他に今年の映画祭では、9月4日紹介『ハラがコレなん で』、11日紹介『第7鉱区』『私だけのハッピー・エンディ ング』、18日紹介『マネーボール』(クロージング)『新少 林寺』、25日紹介『三銃士』(オープニング)。 さらに、10月2日紹介『永遠の僕たち』、16日紹介『Pina』 『指輪をはめたい』、それに今回紹介の『1911』(特別 オープニング)『ブリューゲルの動く絵』『マジック・ツリ ーハウス』などが特別招待作品として上映される。
いよいよ第24回東京国際映画祭が開催された。今年はコンペ 作品の事前試写が中止され、例年に比べて鑑賞作品が激減す ることは間違いないが、できる限りの本数は鑑賞して、次回 はその結果などを報告することにしたい。
2011年10月16日(日) |
Pina、ロンドンBlv、ブラディP、指輪をはめたい、Xマスのその夜に、不惑のアダージョ、王様ゲーム、ホーボー/ショットガン+お断り |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』“pina” 1999年の高松宮殿下世界文化賞を受賞したドイツのダンサー /振付師ピナ・バウシュの姿を追ったヴィム・ヴェンダース 監督によるドキュメンタリー。 1940年生まれのバウシュは、1973年にヴェンダースの同年作 『都会のアリス』の舞台にもなったドイツ東部の工業都市ヴ ッパタールのバレイ団の芸術監督に就任。以来団名をヴッパ タール舞踊団と改称してダンスと演劇を融合した様々な舞台 を作り出した。 そしてヴェンダース監督とは1985年以来の親交を結び、その 時から共同で映画を作る計画が持ち上がるが、ヴェンダース はバウシュの作品を映像化する手段が見付からないとして長 らく保留されていた。 しかし、2007年のカンヌ国際映画祭で3D映画の上映を観た 監督は、これこそが舞踊家の全てを写す最良の手段と確信、 準備を開始する。ところが撮影の準備が整った2009年6月、 バウシュが突然のガンで他界、監督も一旦は撮影を断念する が…。 喪に服した後、ヴェンダースは遺族の同意や舞踊団の団員た ちの強い要望に押されて本作の撮影を開始したものだ。 その作品は、バウシュ自身が生前に選んでいた「春の祭典」 「カフェ・ミュラー」「コンタクトホーフ」「フルムーン」 の演目に加えて、バウシュ自身のアーカイヴ映像や団員たち の語る思い出などが収録される。 その一方でヴェンダースは、バウシュの振付をヴッパタール の街頭や大自然の中で再現する壮大な映像を作り上げ、そこ には『都会のアリス』にも登場した世界最古の懸垂式モノレ ールなども登場して、見事に感動的な作品に仕上げている。 なお撮影には、ソニー製のスタジオカメラ(HDC-1500)2台を 3D撮影用ミラーリグに装着して伸縮クレーンに設置したも のや、撮影後半には小型カメラ(HDC-P1)をステディカムに取 り付けたものなども使用され、舞台上のダンサーたちを正に 多角的に捉えている。 そしてその3D効果は、ヴェンダースが『アバター』などを 徹底的に研究したというもので、実は劇場で行われた完成披 露試写では、僕は最後列端という極めて条件の悪い席で鑑賞 したが、それでも圧倒的な3D感を堪能できた。 ヴェンダースの音楽ドキュメンタリーは、2000年『ブエナ・ ビスタ・ソシアル・クラブ』などの名作が知られるが、本作 はさらに3D映画の地平を広げた作品としても金字塔と言え るものになっている。
『ロンドン・ブルバード』“London Boulevard” 2008年10月の紹介『ワールド・オブ・ライズ』などの脚本家 ウィリアム・モナハンが監督デビューを果たした作品。 1950年ハリウッド映画の名作『サンセット大通り』(Sunset Boulevard)にインスパイアされたアイルランド人作家ケン ・ブルーエンの原作小説をモナハンが脚色し、現代ロンドン の闇社会に蠢く男女の姿が描かれる。 主人公は重傷害罪での3年の刑期を終えて出所してきた男。 彼はこれを機に堅気になろうとしているが、彼の技量を認め る闇社会の連中が、そうた易くそれを許すはずはない。そん な彼のためには盛大の出所祝いパーティまで開かれる。 ところが、自身は乗り気でなかったパーティで、彼は1人の 女性記者と知り合う。そして彼女の紹介である仕事にありつ くことになる。それは若くして引退したセレブ女優のボディ ・ガードの仕事だった。 しかし彼の周囲には依然として闇社会の連中が関り、その柵 は徐々に彼の身動きを取れなくしていた。それでもそこから の脱出を図る主人公だったが… この主人公を今年9月紹介『モンスター上司』などのコリン ・ファレルが演じ、女優役をキーラ・ナイトレイ。 他に2009年5月紹介『縞模様のパジャマの少年』などのデイ ヴィッド・シューリス、今年8月紹介『リミットレス』など のアナ・フリール、さらに今年6月紹介『復讐捜査線』など のレイ・ウイィンストンらが脇を固めている。 監督のモナハンは、2006年『デパーテッド』でオスカー脚本 賞を受賞しているが、香港ノワールをアメリカ東部に舞台を 移してリメイクした受賞作に対して、本作では原作通りのロ ンドンが舞台とされる。 そして受賞作が男同士の物語であったのに対して、本作では 主人公の妹や女優への想いなど男女の関係が描かれる。しか し、それでもノワールの雰囲気は色濃く残され、さしずめロ ンドンノワールとでも呼べそうな作品になっていた。 ファレルの2面性を持った男の演技や、ナイトレイの儚さを 感じさせる女優役の演技も見事だった。
『ブラディ・パーティ』“Wir sind die Nacht” 2010年製作のドイツ製ヴァンパイア映画。なお題名は、英語 では“We Are the Night”となっているものだ。 映画は、いきなり惨劇の繰り広げられた旅客機の機内から始 まり、3人の女吸血鬼の存在が紹介される。 そして物語の主人公は、ベルリンの街でスリ稼業をしている 若い女性。彼女はポン引きから財布をスリ取るが、それは手 配中だった警察の捜査妨害となり、配備されていた刑事に追 い回されることになる。 そんな彼女が次に訪れたのは、深夜の遊園地で行われている 秘密パーティ。そのパーティは旅客機を襲った女吸血鬼たち が主催していた。そして主人公は、リーダー格の女吸血鬼に 見初められるが…。 吸血鬼の設定は、不死だが太陽光に晒されると燃え尽きてし まうという基本通りのもの。さすが1922年に“Nosferatu” を生み出したドイツ映画界は、正統派で攻めてきている。し かも現存する吸血鬼社会の設定にはかなりマニアを唸らせる ものがあった。 その上で、主人公の風体には、鼻ピアスにタトゥーという、 2009年10月紹介『ミレニアム』を髣髴とさせるものがあった り、展開には今年5月紹介『モールス』にオマージュを捧げ ているようなシーンもあって、まさにマニア泣かせという感 じの作品だ。 そこにアクションやVFXも多彩だし、ベルリンという舞台 背景も、この物語には見事に調和している感じがした。 監督は、2007年『THE WAVE/ウェイヴ』という作品が高い評 価を受けているデニス・ガンゼル。実は本作の“The Dawn” と題されたオリジナル脚本は10年以上前に執筆されたが、当 時のヨーロッパ映画はアート指向で本作のようなジャンル映 画の制作は難しかった。しかし近年のハリウッド映画の動向 やガンゼル監督自身への評価から実現した作品だそうだ。 出演は、2007年1月紹介『パフューム/ある人殺しの物語』 に出演のカロリーネ・ヘルフルト、2007年のベルリン国際映 画祭で銀熊賞受賞のニーナ・ホス。さらに2006年『素粒子』 などのジェンファー・ウールリッチ、ドイツのテレビで人気 のアンナ・フィッシャー。 因に、ヘルフルトはガンゼル監督2001年作『GIRLS★GIRLS』 に出演しており、その後に演技学校を卒業し、さらにブレイ クしてからの再会になっている。またホスは当初からの充て 書きだったものだが、彼女は1999年にシナリオの初稿を見せ られて以来、10年越しの約束を守ったのだそうだ。
『指輪をはめたい』 2009年8月紹介『大洗にも星はふるなり』などの山田孝之の 主演で、かなり捻った男女の恋愛事情を描いた作品。 主人公は配置薬の営業マン。人当たりが良く、成績も抜群の 彼が突然記憶喪失になる。それはスケートリンクで転んだせ いというのだが、本人にはその記憶もない。しかし取り敢え ずその現場で営業の鞄を取り戻した主人公は、その中に婚約 指輪を発見する。 ということは誰かに婚約を申し込もうとしていたはず。しか し彼はその記憶も喪失していた。ところが勤務先や営業先で 3人の女性が彼の前に現れる。つまり彼は三股を掛けていた らしいのだが、果たして彼が「指輪をはめたい」と思ったの は誰なのか? 仕事のことは覚えていて、女性のことだけが記憶から欠落し ている。そんな都合の良い…と思われそうだが、その理由付 けもちゃんとあり、それはちゃんとしたお話になっていた。 日本の監督はなかなかこの手の作品をうまく作れないが、こ れは合格だ。 その脚本と監督は岩田ユキ。原作は、芥川賞作家伊藤たかみ による同名の小説があるが、脚本では主人公の設定などをか なり大幅に変更しているそうだ。そしてその脚本から、主演 の山田がさらに見事な役作りをしている。 共演は、小西真奈美、真木よう子、池脇千鶴。日本映画では 主演も張る3人の女優が、主人公を巡るそれぞれ個性的な役 柄を見事に演じている。他に、山内健司、佐藤哲広、マギー 司郎、水森亜土らが脇を固める。 また、主人公が訪れるスケートリンクにいるスケーター役の 二階堂ふみは、沖縄出身の1994年生まれだが、元々沖縄唯一 のスケートリンクに通っていたとのことで、プロスケーター 村主千香のコーチの許、半年間の練習で見事なスケーティン グを披露している。 さらに映画では、山田と二階堂を取り巻くアイススケートに よるレビューシーンなども登場し、それがなかなか様になっ ていた。これも日本映画ではなかなかうまく描けないことが 多いものだが、その感覚にも監督の非凡さを感じさせたもの だ。 なおこのレビューシーンは、東京シンクロナイズド・スケー ティング・クラブというチームの協力で撮影されているそう だ。 お話自体も悪くはないし、雰囲気にはファンタスティックな ところもあって、なかなかの作品だった。
『クリスマスのその夜に』“Hjem til jul” 2004年3月に『キッチン・ストーリー』、2007年7月に『酔 いどれ詩人になる前に』、2008年10月に『ホルテンさんのは じめての冒険』をそれぞれ紹介しているノルウェーの映画監 督ベント・ハーメルによる2010年の作品。 ある年のクリスマスに、ノルウェーの小さな街で繰り広げら れる様々な人間模様が描かれる。そこには別れた妻の許にい る子供にプレゼントを渡すために奮闘する父親や、家に帰る 列車の切符を買う金もないほどに落ちぶれてしまった男。 さらに不倫中の男女や、小さな嘘と引き換えに素敵な時間を 貰った少年、恋人とのクリスマスの一夜を過ごすこともでき ない多忙な医師、そして世界情勢の中で苦難の時を過ごしな がらも希望を失わない男女などが登場する。 実は、映画はかなり衝撃的なシーンから開幕する。その衝撃 がどこに向かって行くのか、そんなことを心の片隅で心配し ながら、ハーメルワールドとも言える心優しい人々の物語が 展開されて行く。 物語は、ノルウェーのベストセラー作家レヴィ・ヘンリクセ ンの短編集によるものだが、その個々の物語から脚本も手掛 けたハーメル監督は、見事なアンサンブル劇を再構築してい る。その物語の展開のうまさにも心を奪われる作品だ。 出演はノルウェーの映画やテレビで活躍する俳優たちだが、 中に『ホルテンさん…』に出演のクリスティーネ・ルイ・シ ュレッテバッケンや、『キッチン・ストーリー』に出演のヨ アキム・カルマイヤー、トマス・ノールストロムらが顔を出 している。 また音楽を、日本では「カーダ」の名前でアルバムリリース されているヨン・エーリク・コーダが担当して、素敵な楽曲 を聞かせてくれる。その他のスタッフには、『キッチン』と 『ホルテン』の担当者たちが再結集しているそうだ。 撮影は、スウェーデンのエステルスンドとノルウェーのステ ィョールダル、さらに巻頭のシーンはドイツのデュイスブル グという場所で行われている。小さな街や雪深い森、それに 工場の廃虚のそれぞれが見事な雰囲気を醸し出している。
『不惑のアダージョ/大地を叩く女』 『大地…』で2008年「夕張国際ファンタスティック映画祭」 オフシアター部門グランプリを獲得した井上都紀監督による 長編第1作『不惑…』が、短編の前作と共に一般公開される ことになり試写が行われた。 で、試写は新作を先に行われたものだが、ここでは製作順に 紹介する。その2008年製作『大地』は恋人からの暴力に苦し んでいる女性が、職場でその欝憤を晴らし、それがロックド ラムの演奏に繋がって行くというもの。 主演に女性ドラマーのGRACEを起用して、それは演奏シーン などには迫力もあるが、お話的には有り勝ちかな。映像的に 8月紹介『LIFE IN A DAY』の中で穀物を打ち続ける女性た ちの姿と重なったのが、僕的にはちょっとマイナスになった かも知れない。 そして2009年製作『不惑』は、GRACEともバンドを組むキー ボーディスト/シンガー・ソングライターの柴草玲を主演に 起用して、アラフォーの女性を巡る物語が展開される。 主人公は教会で賛美歌のオルガンを弾くシスター。若くして 宗教に帰依し、純潔のまま過ごしてきた彼女には更年期も早 く訪れているようだ。そんな彼女の周囲はいろいろな人々に 取り囲まれているが、彼女が悩み打ち明けられるような人は いない。 そんな彼女がバレエ教室のピアノ伴奏を頼まれ、そこでも譜 面通りの演奏を心掛けていた彼女は、ダンス教師からもっと 自由に弾くことを求められる。そしてふと彼女が演奏を始め たとき…、それは彼女の生き方も変えることになる。 ちょっと特殊な境遇の女性が主人公の物語ではあるが、女性 にとっては普遍的な要素があるのかな。その辺は僕には解ら ない。でも物語の展開は自然で、まあ男性の目から見ると多 少引っ掛かる要素はあるが、全体的にはうまく纏められてい る感じはした。 主演の柴草は、役柄上それほどの演技力は要求されていない が、純粋さを前面に出したような演技は違和感も然程なかっ た。そして当然オルガンやピアノ、アコーディオンなどの演 奏は自身が行っており、それは不安もなかったものだ。 共演は、2008年2月紹介『あの空をおぼえている』などの千 葉ペイトン、2004年に『ラッパー慕情』という作品に主演し ている渋谷拓生。他にバレエダンサーの西島千博、橘るみが 特別出演で華麗な舞いを観せてくれる。
『王様ゲーム』 ハロー!プロジェクト・キッズから誕生したユニットBerryz 工房と℃-uteのメムバー12人の出演で、サイトの累計閲覧数 3900万、書籍化された小説(5巻)、コミックス(3巻)の総発 行数が200万部を超えているという人気ケータイ小説の映画 化。 物語の始まりは、深夜クラス全員の携帯に届いたメール。そ こではクラス全員参加による「王様ゲーム」の開始が告げら れ、最初の命令が発せられる。そしてその命令に服従しなか った者は抹殺されるという。 そんなメールに、最初は悪戯として取り合わなかったクラス の生徒たちだったが…、実際に命令に服従しなかった生徒が 「抹殺」されたことから事態は急転。その首謀者捜しが始ま るが…。そこには過去の怨念が見え始める。 BS-TBS(旧BS-i)製作による劇場用作品で、プロデューサー は2007年12月紹介『東京少女』などの丹羽多聞アンドリウ。 監督は、2000年『リング0〜バースデイ〜』や、2007年3月 紹介『ドリーム・クルーズ』などの鶴田法男。 主演は、Berryz工房の熊井友理奈と℃-uteの鈴木愛理。それ ぞれ1993年と1994年の生まれだそうだが、役柄が本人たちの 世代に近いせいもあるのだろうが違和感なく無難に演じられ ていた感じだ。他のユニットのメムバーたちの演技にも問題 はなかった。 なお熊井は、2003年11月9日付「東京国際映画祭」で紹介の 『ほたるの里』にも出ていたようだ。 共演は、2008年2月紹介『アクエリアンエイジ』などの桜田 通、2010年10月紹介『ライトノベルの楽しい書き方』や今年 6月紹介『行け!男子高高演劇部』などの佐藤久典。他に元 モーニング娘。の吉澤ひとみが登場。 BS-TBSの作品は『ケータイ刑事』シリーズなどいろいろ観て いるが、『東京少女』では監督に小中和哉が招請され、本作 の監督には鶴田が起用されるなどファンタシー/ホラー系の 作品はそれなりの仕上がりになっている。 お話は、元々がケータイ小説だから他愛もないが、それなり に現代の若野の風俗も取り入れられていて、これなら携帯世 代の連中にヒットするだろうとは思えるものだ。またそんな 風俗が映画でも巧みに描かれていたようだ。
『ホーボー・ウィズ・ショットガン』 “Hobo with a Shotgun” 昨年公開された『マチューテ』に続いて、2007年7月紹介の 『グラインドハス』に挿入されたフェイク予告編から作られ た作品。昨年の作品は試写では観せて貰えなかったが、今回 は案内が届いた。 その物語は、1973年の『北国の帝王』などでも描かれたホー ボーを主人公にしたもの。その主人公が貨物列車からとある 街に降り立つところから始まる。その街は暴力が支配し、支 配者一族による残虐行為が横行していた。 しかし、住民たちはそれを見て見ぬ振りというか、自らへの 暴力を恐れてそれらを支援している有様。その態度は警察組 織までも巻き込んでいた。そしてそんな街で、主人公も最初 は周囲に関わらないよう行動していたが…。 脚本と監督はカナダ出身のジェイスン・アイズナー。高校時 代から映画製作を始め、すでに短中編作品での評価も高かっ たという監督が、2007年『グラインドハウス』の公開に合せ て行われたフェイク予告編のコンテストに応募。 製作費$150で作られたその作品がロベルト・ロドリゲス監督 の目に留まり、『グラインドハウス』の全米公開時に本篇と 共に上映された。そして今回は、その予告編の本篇を自らの 手で製作することになったものだ。 主演はルトガー・ハウアー。元々1986年『ヒッチャー』など で彼のファンだという監督がオファーしたものだが、ハウワ ーは最初は二の足を踏んでいたようだ。しかし取り敢えず行 ったSkypeを通じての監督との歓談で意気投合、出演を決め たのだそうだ。 他には、2008年4月紹介『あの日の指輪を待つきみへ』に出 演のグレゴリー・スミスらが共演している。 因に本作は残酷描写などが指摘されてR+18の指定になってい るが、映画は無修正で公開されるものだ。 また、映画は巻頭で麗々しくTechnicolorの表示が出るが、 エンドクレジットによると撮影はRedディジタルカメラで行 われており、日本公開では上映もディジタルで行われる。し かし全米公開用のフィルム化は、Technicolor社の現像所で 行われたようだ。 ただ、折角Technicolorの表示を出すなら、フェイクのフィ ルム傷を緑色にするくらいの洒落っ気は欲しかった。それは 僕らが若い頃にフィルム方式を見分ける方法として教えられ たものだが、若い監督たちにはそのような情報は欠如してい たようだ。 * * いよいよ今週末の土曜日から第24回東京国際映画祭が開催 されるが、今年は例年行われてきたコンペティション作品の マスコミ向け事前試写が実施されないことになり、それらの 作品を映画祭の期間中に観なければならなくなった。 僕としては映画祭の顔であるコンペ作品は最優先で観るこ とにするつもりだが、それによって「アジアの風」や「ワー ルドシネマ」などの注目作品を例年ほどには観ることができ ないことになってしまった。 またコンペ作品も諸般の事情で全部を観られるか覚束ない 状態で、本ページで行う映画祭の報告も例年ほどのものには できないと思われる。映画祭は来週だが、一応そういう事情 なので予めお断りさせて貰うことにした。
2011年10月09日(日) |
吉祥寺の朝日奈くん、CUT/カット、ウォーキング・デッド、月光ノ仮面、人喰猪、ミツコ感覚、宇宙人ポール、天皇ごっこ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『吉祥寺の朝日奈くん』 恋愛小説で人気が高いという中田永一原作(祥伝社刊)同名 小説の映画化。 舞台は東京都下の吉祥寺。井の頭公園や動物園、神田川など を背景に、ちょっとほろ苦い男女の恋愛物語が展開される。 主人公は、前は演劇を目指していたらしいが今はフリーター の若者。その若者が喫茶店で働く少し年上の女性に憧れの眼 差しを向け、ある切っ掛けから話を交わすようになる。しか しその女性は既婚で、1人娘もいる境遇だった。 ところがその女性の夫は、時折暴力も振るうと言い、徐々に 親しくなった2人は、吉祥寺の街でデートを重ねて行く。そ んな若者には、元バイト先の先輩だった男のアドヴァイスも あって恋を進展させて行くのだが… この主人公を、2008年2月紹介『カフェ代官山』などの桐山 漣が演じ、共演は2009年8月紹介『携帯彼氏』などに出演の 星野真里。他に要潤、柄本佑、田村愛、徳井優、水橋研二ら が脇を固めている。また平澤宏々路という子役もなかなかの 演技だった。 まあ、お話自体は他愛もないものだが、展開にはちょっとし た捻りもあり、それなりに面白く観ることができた。それに 僕にとって吉祥寺は知らない街ではないし、その風景がいろ いろ出てくると、それだけでも親しみが湧いてくるものだ。 監督は、テレビで『サラリーマン金太郎』や『ケータイ刑事 ・銭形泪』を担当してきた加藤章一による劇場映画デビュー 作。脚本は、2010年『森崎書店の日々』では脚本と監督も務 めている日向朝子。音楽は『森崎書店…』も手掛けた野崎美 波が担当している。 脚本は壺を得て、演出も落ち着いて嫌みもない。またピアニ カなども使った音楽も心地よい感じのものだった。それがそ れ以上でもなく、それ以下でもないのが、多少物足りない感 じではあるが、まあそういう作品なのだろう。 そこに人気の高い原作ファンの動員が掛かれば…。一般公開 は11月19日から、地元の吉祥寺バウスシアターと渋谷ユーロ スペースを皮切りに、全国順次ロードショーとなるようだ。
『CUT/カット』 “Vegas: Based on a True Story”という作品が、2008年の ヴェネチア映画祭で名誉賞を受賞しているイラン出身アミー ル・ナデリ監督の新作。本作も今年のヴェネチア映画祭でオ リゾンティ部門のオープニングを飾っている。 そのナデリ監督が脚本と編集も手掛けた本作は、日本のやく ざ事務所を舞台に、そのやくざによって兄を殺された日本人 映画監督の壮絶な姿が描かれる。 主人公は自主映画を作り続けているが、なかなか上映の機会 を得られない映画監督。その彼は娯楽映画一辺倒の日本映画 界の現状を憂えており、独自に名作の上映会なども開いてい るが、その開催場所も条令などで規制が厳しくなっているよ うだ。 そんな彼には資金の援助をしてくれる兄がいたが、ある日、 その兄が死んだとの知らせが届く。そしてやくざ事務所に呼 ばれた主人公は、兄が借金を返せず、その制裁で殺されたこ とを告げられ、主人公にはその借金の返済を迫られるが… こうして兄の援助資金の出所を知った主人公は驚愕し、同時 にその金額が現在の自分には到底返せない額であることも知 る。そこで主人公が思い付いた返済の方法は…、それは兄と 映画への思いを込めた究極の手段だった。 脚本はナデリ監督のオリジナルだが、クレジットには共同脚 本として2007年8月紹介『サッド・ヴァケイション』などの 青山真治監督の名前が記載されていた。またスペシャル・ア ドヴァイザーとして2003年1月紹介『アカルイミライ』など の黒沢清監督の名前も掲載されていた。 主演は、2008年7月紹介『真木栗の穴』などの西島秀俊。共 演は常盤貴子、笹野高史、菅田俊。他に、でんでん、2010年 『ゲゲゲの女房』の監督鈴木卓爾らが脇を固めている。 またこの作品には、2007年「TVチャンピオン特殊メイク王 選手権」優勝者で現チャンピオンの梅沢壮一が関っていて、 その仕事ぶりもなかなかのものになっていた。 さらに映画には、主人公が思い浮かべる過去の名画のフィル ムクリップなども挿入されていて、それは映画マニアには堪 らないものになっている。そしてそこにはベスト100のよう なものも登場するが、その最後の10本には僕にとって嬉しい 驚きもあった。 ただし、本作の9月中に行われた試写では、上映時間が2時 間12分であったようだが、今回の上映は2時間のヴァージョ ン。しかも僕が観たのは、エンドロールが未完成とのことで 1時間56分だった。 それに関しては試写の前に、作品中の引用の問題との説明も あったが、確かベスト1の作品はすでにパブリックドメイン のはずで、何が揉めたのか多少気になったところだ。
『ウォーキング・デッド』“The Walking Dead” 1994年『ショーシャンクの空に』などで3度のアカデミー賞 ノミネートを獲得している脚本家フランク・ダラボンが手掛 けるゾンビテーマのテレビシリーズ。日本では11月に衛星系 で放送開始、来年2月にDVDリリース予定の作品の第1話 の試写が行われた。 主人公は、ジョージア州アトランタ郊外で保安官を務めてい た。ところがある日、逃走犯の追跡中に犯人の撃った銃弾が 命中し、意識不明の重傷を負ってしまう。そして主人公の意 識が戻ったとき、病院は無人で同僚が持ってきた花も枯れ果 てていた。 そんな主人公が病室を抜け出すと、そこには野積みにされた 遺体の山や、下半身を千切られても両手だけで這いずって主 人公を襲おうとする女、さらにふらふらと歩きながら主人公 に向かってる男などがいて… やがて、夜は一軒家に立て籠る黒人父子に救助された主人公 は、世界中がゾンビに犯されて、生き残った人々は各所に隠 れ住むか軍施設に逃げ込んだという情報を得る。そんな世界 で、家に残した妻子の無事を案じながら主人公のサヴァイヴ ァルが開始される。 ゾンビは、ジョージ・A・ロメロ風のふらふらと歩くスタイ ルで、その点では違和感のない作品になっている。しかもテ レビ用と高を括って観ていたら、予想以上のグロテスクなシ ーンもあって、それにはかなり驚かされもした。 ただし今回の試写は飽く迄もシリーズの第1話で、本来は観 られるはずのサヴァイヴァルで繰り広げられる様々な人間模 様などは、まだその萌芽が描かれる程度に終っている。しか しその中でも、仕掛けの大きさなどはかなり感じられる作品 だった。 原作には、ロバート・カークマン作グラフィック・ノヴェル シリーズがあるようだが、本TVシリーズのクレジットは、 企画、製作総指揮、脚本、監督フランク・ダラボンとなって いるようだ。 そして第1話の主演は、2003年4月紹介『ギャングスター・ ナンバー1』などのアンドリュー・リンカーン。他に、今年 7月紹介『ゴーストライター』などのジョン・バーンサル。 また2005年4月紹介『サハラ』に出演のレニー・ジョーンズ がゲスト出演していた。 なおシリーズは、アメリカでは第1シーズンの6話が2010− 11年シーズンに放送されて、2011年度のゴールデン・グロー ブ賞作品賞にノミネートされたもので、すでに第2シーズン 13話の放送も始まっている。
『月光ノ仮面』 2009年11月紹介『脱獄王』の板尾創路脚本監督による第2回 作品。前作では、第29回藤本賞・新人賞を受賞し、釜山国際 映画祭に正式出品されるなど高評価を受けている。その第2 作ということで、本作もモントリオール世界映画祭に正式招 待を受けたそうだ。 その内容は、前作以上にシュールというか…。お話は第2次 大戦後、米軍占領下の東京を舞台に、戦前には真打ち目前と 期待されながらも召集され、戦死公報も届いていた噺家が、 ひょっこり帰ってくるところから始まる。 顔に大きな傷を負い風貌も前から掛け離れてしまったその男 は、さらに健忘症で爆笑王と呼ばれた話芸も覚束ない。しか し師匠や一門の兄弟弟子は暖かく彼を迎え入れようとし、と りわけ出征前に将来を誓いあった師匠の娘は彼の記憶を取り 戻そうと必死になるが… 映画の音声には、落語「粗忽長屋」の中の行き倒れの下りが 繰り返し挿入され、物語がそれなりにその噺をモティーフに していることが暗示される。つまりそれは「死んでいるのが 俺なら、俺は一体誰なんだ?」というものだ。 しかし描かれているのはそれだけではなく、もっとシュール で曖昧模糊とした前作以上の板尾ワールドが展開される。 出演は、板尾の他に浅野忠信、石原さとみ。また噺家の師匠 役を前田吟、その一門を六角精児、柄本佑、矢部太郎、佐野 泰臣、千代将太。さらに木村祐一、津田寛治、國村隼、宮迫 博之、木下ほうか、根岸季衣、平田満らが脇を固める。 実は結末がかなりシュールというか、ブッ飛んだ物になって いて、その辺をどう解釈すれば良いのか判断が難しい。しか し僕は、本作の巻頭クレジットに西村喜廣の名前を見付けた 瞬間からある程度の期待を持っていた。 とは言え映画では、その後に続く描写からもう1歩先の闇の ようなものも感じられ、これは正に参りましたというものに なっていた。これは前作の時にも書いたが、本作も「板尾ワ ールド恐るべし」という感じのものだ。 作品の評価は以上だが、映画の中ではカラテカ矢部が独特の 口調で語る落語が面白くて、これは一度全編を聴きたくなっ た。
『人喰猪、公民館襲撃す!』“차우” 映画の宣伝文句に「怪獣映画史上最小スケール」と書かれた 韓国製の怪獣パニック作品。 物語の発端は、山里の墓地が荒らされ、その近くで惨殺死体 が発見されたというもの。その捜査には本庁から刑事もやっ てくるが、10年以上も事件のなかった寒村の巡査たちはなか なか刑事の指示通りには動かない。 一方、村の村長は開発業者と結託して都会人を招いた週末農 園の計画を進めており、そこに惨殺死体は不都合な存在だ。 そこで開発業者はハンターを手配し、彼らは首尾よく1頭の 大型の猪を捕えるが…。 これに地元の猟師やソウルから転勤してきた巡査、野性の生 態系の調査にやってきた大学の研究者などが絡んで、外来種 との交配で巨大化し、且つ凶暴化して、人間も襲うようにな ったイノシシの恐怖が描かれる。 この外来種との交配が、日本占領時代に行われたというのは 成程と思わせるところだが、映像では体重300〜500kgとされ るイノシシがCGIで縦横に暴れまくり、確かにゴジラほど には大きくはないが、その分リアルな「怪獣」映画になって いた。 また、地元巡査たちが繰り広げるドタバタぶりも、ギャグな どのバランスも良く、全体的に巧みに作られた作品と言える ものだ。実際、上記の宣伝文句から予想された以上の出来映 えの作品だった。 脚本と監督は、1974年生まれミュージックヴィデオ出身で、 2004年に発表したホラー作品が高評価を受けたというシン・ ジョンウォン。本作はその第2作だが、前作でも「韓国のテ ィム・バートン」と称されたという才能は見事に開花してい る。 出演は、テレビ『魔王』などのオム・テウン、2010年5月紹 介『グッドモーニング・プレジデント』に出演のチョン・ユ ミ、2009年5月紹介『セブンデイズ』などのチャン・ハンソ ン、2009年8月紹介『母なる証明』などのユン・ジェムン、 2010年8月紹介『義兄弟』などのパク・ヒョクォン。他にも いろいろゲスト出演がいたようだ。 またCGIを、1980年『帝国の逆襲』から2004年『デイ・ア フター・トゥモロー』までのハリウッド大作も手掛けてきた というハンス・ウーリクが担当して、獣の毛並みや筋肉の動 きなどを詳細に作り出している。 イノシシの怪獣というと、1984年のラッセル・マルケイ監督 作品『レイザーバック』を思い出してしまうが、当時はあま り詳細には描けなかった巨大イノシシの姿が見事に映像化さ れている。 物語の展開は、『ゴジラ』『ジョーズ』から『ターミネータ ー』まで、様々な作品の影響も見られるものだが、それはあ る意味、怪獣映画の本質も捉えているもので、この監督には これからも期待したいものだ。
『ミツコ感覚』 ソフトバンクモバイル「白戸家」シリーズなどのCMを手掛 ける演出家で、すでに舞台の演出や、ショートフィルムの監 督などは手掛けている山内ケンジの脚本・監督による長編映 画デビュー作。 郊外の街で暮らす、小さな会社のOLで勤め先の上司と不倫 関係にある姉と、写真学校に通っている妹。その妹がストー カーに遭い、その男は姉妹の家にまで押しかけてくる。これ に姉の不倫相手も絡んで、あまり日常的とは言い難い物語が 展開される。 なかなか噛み合わない会話や、常識では有り得ないような状 況。それらは日常的とは言い難いが、ちょっと足を踏み外す と其処らに幾らでもありそうな、そんな日常と非日常の狭間 のような世界が描かれている。 前回紹介『東京オアシス』とはまた違った感覚で、これも現 代日本を描いている作品なのかも知れない。ただし、『東京 オアシス』を含む一連の作品が人間を優しく見守っているの に対して、本作が描くのはかなり冷え切った人間関係のよう でもある。 その辺が長年のCM業界で身に付いた監督の処世なのかな。 そう考えると多少寂しい感じもしてくる作品だ。とは言え、 本作の方がより現実に近いものであることは事実なのかもし れないが。 主演は、NHK『おひさま』に出演の初音映莉子と、1996年 の映画『女優霊』などの石橋けい。他に、今年3月紹介『マ イ・バック・ページ』などの古舘寛治、NHK『祝女』に出 演の三浦俊輔らが脇を固めている。 正直に言ってかなり捕らえ所のない作品で、結局監督が何を 言いたいのかも良く理解できなかった。ただしこの作品は、 今年10月7〜16日に開催されるワルシャワ国際映画祭に出品 されるとのことで、それなりの評価はされているのだろう。 映画祭では、これが日本の現実として紹介されるのかな。だ からといってそれに反論する気はないが…。因にこの映画祭 では、過去には、2010年北野武監督の『アウトレイジ』と、 2009年松本人志監督の『しんぼる』が公式上映されているそ うだ。
『宇宙人ポール』“Paul” 2008年5月紹介『ホット・ファズ』などのサイモン・ペッグ とニック・フロスト共演で、アメリカ西部のUFOスポット を訪れたイギリス人のオタク2人組が、本物の異星人と遭遇 する顛末を描いた作品。 主人公は、イギリス人のSF作家の卵とその親友のイラスト レーター。2人は毎年夏に開かれるサンディエゴ・コミコン に初参加し、その後はトレーラーハウスを借りてアメリカ西 部のUFOスポットを訪問する計画を立てていた。 ところが勇躍サンディエゴを出発した2人は、いきなりトラ ブルに巻き込まれ、さらにハイウェイで後からきた車をやり 過ごすとそれがクラッシュ。しかもその車を運転していたの は、アメリカ軍の秘密基地から逃亡してきた宇宙人! 斯くして宇宙人と遭遇した2人だが、その宇宙人はすでに何 10年も地球にいて英語はぺらぺらでやたらとフレンドリー。 そしてその宇宙人は2人に北に向かってくれと頼み、2人は その願いを聞き入れ彼を送って行くことにするのだが… その後を、政府機関の密命を受けたFBIの捜査官や、キリ スト教原理主義者の男などが追跡していた。 出演は、ペッグとフロスト、そして宇宙人役には今年1月紹 介『グリーン・ホーネット』などのセス・ローゲン。他に、 先月紹介した『モンスター上司』などのジェイスン・ベイト マン、昨年2月紹介『ローラーガールズ・ダイアリー』など のクリスティン・ウィグ。 さらに2007年4月紹介『ゾディアック』などのジョン・キャ ロル・リンチ、先月紹介『グリー』のジェーン・リンチ。ま たブライス・ダナー、シガーニー・ウィーヴァーらが脇を固 めている。 脚本は、ペッグとフロストが実際にアメリカ西部を旅しなが ら練り上げたもので、宇宙人以外のエピソードは彼らの実体 験に基づくそうだ。そして宇宙人に関るエピソードは、これ は幾多のSF映画やアメリカ映画にオマージュを捧げたもの になっている。 そこには、『宇宙大作戦』や『未知の遭遇』『E.T.』は基 より、『イージーライダー』などのUFOに関る作品が次々 登場してくるし、さらにヴァスケス・ロックスなどの有名な スポットも撮影されているものだ。 さらに、巻頭に登場するコミコンのシーンはアルバカーキで 撮影されたフェイクだが、その撮影には本物のコミコンの関 係者や参加者たちが多数協力しているそうだ。 そして監督は、2007年“Superbad”などのグレッグ・モット ーラ。セス・ローゲンの脚本でスマッシュヒットを記録した コメディの名手が、『ホット・ファズ』などのエドガー・ラ イトに替って起用され、その落ち着いた演出は本作の雰囲気 にピッタリだった。
『天皇ごっこ』 1959年生まれ、右翼と左翼の狭間を彷徨い、2005年に自死し た反体制の活動家で作家の見沢知廉を検証したドキュメンタ リー。2006年10月紹介『9.11-8.15 日本心中』の大浦信行監 督作品。 題名は、見沢が1994年に発表した小説に拠っているが、内容 的にはその小説自体を映画化したものではなく、生前に見沢 との親交のあった人たちへのインタヴューを中心に、見沢自 身の行動などを検証している。 その見沢の行動は、常に体制に大きな不満を抱き、その打破 を夢見ていたようだが、結局その夢は果たせず自死に至って しまうものだ。そこには生前のアジテーションの録音も挿入 されているが、その絶望感はかなりひしひし感じ取れる。 しかしそれは2005年以前のものな訳で、今の時代に生きてい たらさらにその絶望感は大きくなっていたかな? 逆にそこ に至ったときにこそ、本来の彼自身が出現したであろうとも 思え、その点では残念な気持ちもしてしまうところだ。 僕自身は、1970年安保闘争の当時に大学生だったが、それは 1960年の条約締結から自動延長が決っていたもので、1970年 にはすでに挫折感で一杯だった。それは同年の三島事件で、 右翼陣営も同じ想いだったはずだ。 ところが僕より丁度10歳年下の見沢は、そんな中にも夢を追 い続けていられたようだ。そして三里塚闘争で左翼に失望し た後は、三島の行動を慕って右翼となり、右翼として反体制 行動を進めて行くことになる。 大浦監督自身は、前作の時にも右翼なのか左翼なのか判らな かったが、本作でもその姿勢は判然としない。しかしそれが 日本の社会思想そのもののようにも思え、その右翼と左翼が ごちゃごちゃになってしまうところに、日本の反体制の迷い があるようにも感じる。 その混沌こそが見沢知廉であり、それは結局、今の日本の社 会そのものであって、それが日本人の政治離れも招いてしま っているのではないか。そんな迷いが見事に炙り出されてい る感じの作品でもあった。
2011年10月02日(日) |
永遠の僕たち、明日泣く、東京オアシス、密告者、灼熱の魂、一谷嫩軍記、エイリアン・ビキニの侵略、コンテイジョン、ラブ・アゲイン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『永遠の僕たち』“Restless” 昨年急逝した俳優デニス・ホッパーの遺児のヘンリー・ホッ パーと、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコ ウスカ、それに日本から加瀬亮の共演で、昨年9月紹介『神 の子どもたちはみな踊る』には俳優として参加していたジェ イソン・リュウのオリジナル脚本を映画化した作品。 この脚本から2008年『MILK』などのガス・ヴァン・サントが 監督し、また製作は、9月紹介『フィフティー・フィフティ ー』などのブライス・ダラス・ハワードが初プロデュースを 手掛けている。 ホッパーが演じるのは、ある出来事から死に取り憑かれた若 者。彼は葬儀所に遺族のような顔をして入場し、いろいろな 葬儀の模様を見て廻るのが趣味だ。そんな彼の脇には、加瀬 扮する戦死した特攻隊員の亡霊が寄り添っていた。 その主人公が窮地に陥ったところを1人の少女に救われる。 その少女には秘密があり、その秘密を共有することになった 主人公は、彼女を愛するようになって行くが…。そこには主 人公が乗り越えなければならない現実があった。 プレス資料に掲載された加瀬のインタヴューによると、基に は脚本家の描いた絵本があり、そこでは亡霊がいろいろな死 に取り憑かれた子供たちの許を訪れ、その子供たちを救って 行くが、最後に訪れたのは最大の難関だった…、というもの だったそうだ。 その原作からリュウ本人が脚色した本作では、亡霊が訪れる 最後の難関だけを抽出して、そこには人の死を巡る様々な思 いが見事に凝縮して描かれていた。 最近、何となく死に纏わる話を連続して観ているような気が するが、一方で不死性を持つヴァンパイアの話がブームにも なっているハリウッド映画で、この流れには興味も感じると ころだ。 なお、本作の音楽は『MILK』と『アリス…』も手掛けたダニ ー・エルフマンが担当して、繊細な楽曲を聞かせてくれる。 また、衣裳を『MILK』などのダニー・グリッカーが担当し、 こちらも素晴らしいものになっていた。
『明日泣く』 1980年代に筒井康隆原作の『俗物図鑑』『スタア』などを発 表した内藤誠監督が、23年振りに手掛けたという長編作品。 色川武大原作による同名の自伝的小説の映画化。 主人公は、高校生時代から賭け麻雀屋などに出入りしていた 若者。しかし将来の目標は小説家で、学校ではいつも1人で 読書に耽ったり、喫茶店でノートに下書きを綴ったりしてい る。そしてその同級生には、天才的にピアノを弾く女生徒が いた。 やがて主人公は、応募した小説が新人賞に入選し、編集者も 付くが、それ以降は1行も書けず、金を前借りしてはギャン ブル場に入り浸る日々が続いていた。そんなある日、彼は立 ち寄ったバーで、前座のピアノを弾く女性に目が留まる。 そして主人公は、トラブルで高校を退学した後の、彼女が送 ってきた数奇な人生の取材を始めるが…。 この主人公を、2008年8月紹介『春琴抄』などの斎藤工が演 じ、ピアニスト役には昨年3月紹介『パーマネント野ばら』 に出ていたという汐見ゆかり、それにジャズメン役で、バン ド「勝手にしやがれ」のリーダーの武藤昭平。 他に島田陽子、梅宮辰夫、色川文学に精通する文芸評論家の 坪内祐三らが特別出演している。また主人公付き女性編集者 役に起用されているのは、監督の大学での教え子だそうだ。 さらに音楽を、『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞を 受賞のジャズピアニスト渋谷穀が担当し、バンド「勝手にし やがれ」や、渋谷が招集したメンバーなど、新旧のジャズミ ュージシャンによる演奏が作品を彩っている。 因に本作に主演した斎藤は、自身がジャズファンであり、ま た彼をジャズファンにした父親が映画マニアで、内藤作品に は父親の強い要望で出演が決まったのだそうだ。 なお作品は、11月19日から東京渋谷のユーロスペースでレイ トショウ公開されるもので、公開時には内藤監督のレトロス ペクティヴとして特集上映なども計画され、さらに梅宮らの ゲストによるトークイヴェントも予定されているようだ。
『東京オアシス』 2010年8月紹介『マザーウォーター』の脚本家白木朋子と、 監督の松本佳奈、それにCMディレクターの中村佳代の3人 がそれぞれ脚本を執筆し、松本が自作と白木の脚本を映画化 し、中村が自作を映画化したオムニバス作品。 自身も人生に迷っているのかもしれない女優を狂言廻し的に 配して、それぞれが都市東京の中で迷子になっている3人の 男女の姿が描かれる。 その1人目はレタスを運んでいる男性。その途中で立ち寄っ たコンビニでも、何を買うか決められない彼が、駐車場の前 の道を走行するトラックに向かって走る女性(女優)を見つ け、思わず彼女を止めようと駆け寄るが… 2人目は映画館で働いている女性。最後の上映が終った後、 客席を見回った彼女は、眠りこける女優を見つける。そして 女優との会話から、彼女が迷い込んだ過去の物語が語られ始 める。 3人目は動物園のアルバイトに応募してきた美大を目指す浪 人生。ツチブタの小屋の前で女優に話し掛けられた彼女は、 ツチブタは夜行性で、昼間見られるのは給餌のときだけだと 教えられるが… タイトルには「東京」とあるが、出てくるのは郊外のコンビ ニであったり、映画館や動物園など、途中には繁華街のシー ンも挿入されるが、描かれるのは大都会の片隅とでも言いた くなるような風景ばかりだ。 しかしそこは、ある種の「オアシス」であるのかも知れず、 そこを訪れた人たちには心の奥の何かが満たされ、次に向か って行く足掛かりが得られる場所なのかも知れない。そして 女優自身も、そこから何かを得ている感じだ。 出演は、女優役に小林聡美。1人目の男性役に加瀬亮、2人 目の女性役に原田知世、そして3人目の美大生役には舞台女 優の黒木華。他に、光石研、市川実日子、もたいまさこらの いつものメムバーが登場。音楽は大貫妙子が担当している。 一連の作品のファンには、いつものムードが存分に味わえる 作品だ。
『密告・者』“綫人” 今年3月紹介『孫文の義士団』や9月紹介『新少林寺』など のニコラス・ツェー主演で、警察への密告者となった男の壮 絶な姿を描いた香港作品。 主人公はもう1人、香港警察気鋭の捜査官。捜査官は密告者 を巧みに操って組織犯罪の摘発に成果を挙げていたが、重要 な麻薬捜査で密告者の正体がばれ、密告者に瀕死の重傷とト ラウマを負わせてしまう。 そんな捜査官の今回のターゲットは、台湾から舞い戻った宝 石強盗団の首領。なかなか証拠を掴ませないその首領を捕え るため、捜査官は出獄したばかりの天才的な運転技術を持つ 男を新たな密告者に仕立て一味に潜入させる。 ところが、全てに周到な首領は仲間にも襲う宝石店の場所を 教えず準備を進めて行く。そんな中で密告者の男は、首領の 愛人の運転者として、街中の宝石店の下見に行かされるが… これに、実は捜査官自身も負っている心の深い傷の話などが 絡まるが、それでもその展開によって物語が停滞することも なく、壮絶なカーアクションや銃撃戦なども織り込まれた見 事なドラマが描かれる。 ツェー以外の出演者では、もう1人の主人公の捜査官役に、 2006年9月紹介『エレクション』などのニック・チョン。他 に、最初の密告者役で2006年2月紹介『SPL』などのリウ ・カイチー、またヒロイン役に台湾出身で、2002年10月31日 に紹介した東京国際映画祭の出品作品『藍色大門』で主演デ ビューのグイ・ルンメイが共演している。 原案と監督は、2004年7月紹介『ティラミス』や2010年2月 紹介『スナイパー』などのダンテ・ラム。 物語は、かなり多岐に渡るエピソードが複雑に絡み合うが、 相互が無駄に干渉することもなく、全体は良く整理されて、 それぞれが登場人物の人間像を巧みに描き出して行く。その 構成も見事な作品だった。 さらに壮絶なアクションなども見応えのある作品だ。
『灼熱の魂』“Incendies” 昨年のアメリカアカデミー賞外国語映画部門にノミネートさ れたカナダ(フランス語圏)映画。カナダのジニー賞では、 作品賞、監督賞、主演女優賞など8部門を独占した。 物語の始まりは、カナダ在住の中東出身女性の死去。その女 性は生前に公証人の秘書を勤めており、彼女の双子の息子と 娘がその公証人に呼ばれて遺言書の開示を受ける。そこには 2通の手紙が同封され、母親はそれらを双子の父親と兄に渡 せと言い残していた。 しかし双子にとっては、父親はすでに死んだものと思ってお り、また兄の存在など知りもしなかった。その事態に反発す る息子に対して、娘は母親の祖国である中東に赴き事実を調 べることを決意する。が、それは母親の数奇な運命を炙り出 すことになって行く。 キリスト教とイスラム教の狭間にあって、その宗教や政治に 翻弄され続けた1人の女性の生涯。内戦の続く中東の国家を 舞台に、壮絶なサヴァイバル劇が展開される。 物語は、レバノン出身のカナダの劇作家ワジディ・ムアワッ ドが2003年に発表した同名の戯曲によるもので、この舞台は 2009年に日本でも上演されているそうだ。そしてその原作か ら、2000年『渦』などのカナダの俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴ が脚色監督している。 その映画化は、上映時間2時間11分を8章に分けて、そのそ れぞれで現在の娘の調査の模様と過去の母親の姿が描かれて 行く。そしてその構成の巧みさと描かれる女性の壮絶な境遇 に、片時もスクリーンから目を離せなくなる、そんな圧倒的 な力強さを持った作品だ。 主演は、2007年1月紹介『パラダイス・ナウ』などのルブナ ・アザバル。また共演には、主にカナダで活動しているメリ ッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデッド、レミ ー・ジラールらが選ばれているが、その他の配役はシリア、 レバノン、パレスチナなど中東で選考されているそうだ。 なお僕が参加した試写会はカナダ大使館で行われたもので、 上映後には監督とのQ&Aセッションも設けられた。そこで 監督は、「物語はあくまでもフィクションで、これで子供に 歴史を教えようとしないで欲しい」と語っていたが、そのフ ィクションの中に見事に現代世界が浮き彫りにされている感 じの作品だった。
『一谷嫩軍記・熊谷陣屋』 「シネマ歌舞伎」の新作で、平成22年4月「歌舞伎座さよな ら公演」の最後の月に上演された演目をHD収録した作品。 「平家物語」を基に、「菅原伝授手習鑑」などの作者並木宗 輔が1751年に人形浄瑠璃として著わし、その翌年には歌舞伎 としても上演されたという古典歌舞伎の1作。「シネマ歌舞 伎」は本作が14作目になるが、本格的な古典歌舞伎の上映は 初めてのものだ。 物語は、一ノ谷の合戦において源氏の武将・熊谷次郎直実が 被る悲劇を描く。当時16歳の息子小次郎が初陣を飾ったその 合戦で、直実は平清盛の甥・敦盛の首を取ったとされている ものだが… その熊谷の陣屋には、戦場には来るなと申し渡してあった妻 の相模や、敦盛の母とされる藤の方も訪れて、熊谷は敦盛最 後の経緯を藤の方に語ることになる。そしてそこには、源義 経が敦盛の首を自ら検分すると現れる。 正直に言って、古典歌舞伎はかなり敷居が高い。本作でも浄 瑠璃によって語られる物語の経緯や、直実の高札の口上など は、聞いているだけではその内容も理解できないし、これで は物語自体もなかなか把握できないものだ。 そこで今回は、「シネマ歌舞伎」の上映館でも歌舞伎座と同 様の音声ガイドのイヤホンを貸し出すとのことで、僕もそれ を聞きながらの鑑賞とした。そのガイドは、舞台の台詞に被 らないように聞き取りやすく、適切に行われていた。 それでも、やはり物語の経緯などはなかなか複雑だが、実は 僕は本作の物語自体は別の機会に知ることがあって、今回は その予備知識によって物語を鑑賞することができた。お陰で 最後の場面では直実の心情に涙も込み上げてきたものだ。 とは言え、高札に隠された謎などはかなり難しいものだが、 昔の人はこういうことを全て知識として持って歌舞伎を観に 来ていたのだろうし、そういう文化が消えつつある事も憂え る心境になった。 主演は、中村吉右衛門。因にこの芝居は初代吉右衛門が完成 させたと言われているそうで、上演の前には別撮りでの役者 自身による解説も付けられている。他に、中村富十郎、中村 魁春、中村梅玉、坂田藤十郎らが共演。 なお本作の上映は10月8日から、全国37館で行われる。
『エイリアン・ビキニの侵略』“에일리언 비키니” 今年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」でグラン プリを受賞した作品。 主人公は、テコンドーの腕前を活かし個人で街の治安を守る 仕事に従事してきた男。その男がその日4人組の暴漢から救 出したのは、何やら謎めいた美女だった。そして男はその美 女を自宅に匿うのだが… 男は純潔の誓いを立てて、30歳を過ぎてもなお童貞を守って いる。一方の女はエイリアンで、その種族は生涯で1日しか 子供を産む機会が訪れないという。そして彼女にはその1日 が今日だった。 こうして純潔を守ろうとする男と、何としても男の精子が欲 しい女の駆け引きが始まるのだが…。しかも女が子供を産む と、何故か地球が滅びるのだということで… まあアイデアは馬鹿々々しいけど悪くはないと思う。しかし ストーリーの展開のさせ方がこれで良かったかどうか。特に 女性の目的がなかなか明らかにされないのは、観客としてか なり間怠っこしい感じが否めなかった。 また途中でエイリアンは、「女はすでに死んでいた」と発言 するのだが、その経緯などはちゃんと示されているべきもの だろうし、いくら低予算でも、その程度を描けなかったとは 思えない。 ただ、それを描かないのが監督の意志だったとしたら、それ は大いに考え違いだとは指摘しておきたいところだ。 脚本と監督のオ・ヨンドウは、2007年に短編映画で監督デビ ュー。その後に映画集団を立上げ、2009年製作の『隣のゾン ビ』というホラー・オムニバスがプチョン国際ファンタステ ィック映画祭で観客賞や審査員特別賞を受賞し、本作が長編 第1作のようだ。 で、その前作がどんなものだったのかは判らないのだが、本 作を観る限りでは、低予算をアイデアだけでは補い切れてい ない感じがした。これはまあ、短編だったら誤魔化せたかも 知れないが、長編では無理が生じている感じのものだ。 ただしその監督の次回作には、「ゆうばり」の支援を受けて 本作と同じホン・ヨングンとハ・ウンジョンの主演により、 未来から来た女と一緒にタイムマシンを探す探偵を主人公に したSFアクション映画がすでに製作中のこと。 それがどのようなものになるか…。それは「ゆうばり」の試 金石にもなりそうだ。
『コンテイジョン』“Contagion” 2007年6月紹介『オーシャンズ』や2008年12月紹介『チェ』 などのスティーヴン・ソダーバーグ監督による伝染病の恐怖 を描いた作品。 物語はいきなり「2日目」から始まる。それは香港に出張し ていた女性が高熱を発して倒れるというもの。そしてその症 状は家族にも広がって行く。一方、同じ頃の香港でも同様の 症状が現れ始める。 その状況は直ちに世界保険機関WHOや,アメリカ疾病管理 予防センターCDCの知るところとなるが、そこに政治的な 思惑や人間の感情、さらにインターネットによる情報の広が りなど、現代の世界を取り巻く様々な要素が絡まって行く。 そして物語は、ソダーバーグ監督の作品らしく、アメリカ、 ヨーロッパ、アジアの世界を股に架けた壮大な展開に広がっ て行く。 題名は「接触感染」という意味だが、同様の作品では1995年 の『アウトブレイク』が頭に浮かぶところだ。ただしそれが 極めて個人的なドラマに収斂された前の作品に比べて、本作 では、正に今日、今すぐにも起こりそうな群像劇に描かれて いる。 しかも監督はその物語を極めてクールに、簡潔な描写で描き 出し、それは実際に起きた事件のドキュメンタリーを観るよ うな感覚で観客を魅了する作品になっていた。いやあ、実際 に1時間46分の作品は、片時もスクリーンから目を離せなか った。 出演は、マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ロー レンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ。 さらにグウィネス・パルトロウ、ケイト・ウィンスレット、 昨年5月紹介『ブレイキング・バッド』などのブライアン・ クランストン、今年1月紹介『英国王のスピーチ』のジェニ ファー・イーリーらが脇を固めている。 脚本は、2009年10月紹介ソダーバーグ監督作品『インフォー マント!』などのスコット・Z・バーンズ。因に脚本家は、 現在、年末撮影開始予定のデイヴィッド・フィンチャー監督 作品“20,000 Leagues Under the Sea: Captain Nemo”と、 ソダーバーグ監督予定“The Man from U.N.C.L.E.”の脚本 も担当しているようだ。
『ラブ・アゲイン』“Crazy, Stupid, Love.” 2008年7月紹介『ゲット・スマート』などのスティーヴ・カ レルと、2011年1月紹介『ブルー・バレンタイン』などのラ イアン・ゴズリング共演で、突然妻から離婚を言い渡された 中年男性の姿を描いたコメディ作品。 安定した職場に勤め、家族にも恵まれて、生涯をそのまま過 ごせると思っていた男性が、突然妻から離婚を要求される。 それは妻の不倫も原因だったが、ン10年を妻一筋に過ごして きた主人公には、男性の魅力も消え失せていた。 そんな主人公がふと訪れたバーで見掛けたのは、女性の間を 渡り歩く魅力的な遊び人。しかもその遊び人は主人公の惨状 を見兼ねたのか声を掛けてくる。そしてその遊び人の指南に よって主人公の変身作戦が始まるが… 共演は、ジュリアン・モーア、2010年5月紹介『ゾンビラン ド』などのエマ・ストーン。他にマリサ・トメイ、ケヴィン ・ベーコン、2007年4月紹介『ゾディアック』などのジョン ・キャロル・リンチ。 さらに、2005年11月紹介『ザスーラ』などのジョナ・ボボ、 2011年1月紹介『グリーン・ホーネット』では主人公の恋人 役を演じたアナリー・ティプトンらが脇を固めている。 脚本は、ピクサー社の共同創業者で、2006年6月紹介『カー ズ』や2011年2月紹介『塔の上のタプンツェル』などのダン ・フォーグマン。監督は、2009年12月紹介『フィリップ、き みを愛してる!』のグレン・フィカーラ、ジョン・クレアの コンビが担当した。 製作は、2007年5月紹介『ラッキー・ユー』などのデニース ・ディ・ノーヴィ。因に製作者は現在、ザック・スナイダー 監督でレイ・ブラッドベリ原作“The Illustrated Man”の 計画も進めているようだ。 自分がすでに中年過ぎの男性の目から観ると、かなり耳の痛 い指摘もあるし、それは心して観なければいけない作品にも なっている。でも、それはまた僕らのような男性に対するエ ールのような感じにも取れるもので、その辺では嫌みもなく すっきりとした気分で観られる作品だった。
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