井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2010年08月29日(日) マザーウォーター、ふたたび、レオニー、ビッチ・スラップ、裁判長!ここは懲役4年でどうすか、ドアーズ、義兄弟、リトル・ランボーズ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『マザーウォーター』
2006年1月紹介『かもめ食堂』、07年9月紹介『めがね』、
09年7月紹介『プール』の3作品を作ってきたプロジェクト
による最新作。ヘルシンキ、与論島、チェンマイに続く今回
の舞台は京都。鴨川や疎水の流れを脇役にゆったりとした物
語が描かれる。
古い家並みが連なる京都の街の一角で、3人の女性がそれぞ
れ自分の店を開店する。それはウィスキーしかないバーと、
コーヒー専門店と豆腐屋。それともう1軒、銭湯があって、
それらの店を巡って、4人の女性と3人の男性、それに赤ん
坊の物語が展開される。
物語は、前3作と同様に有って無いようなもので、そんな物
語が静かな京都の街を背景にゆったりと展開されてゆく。で
も全く変化が無い訳ではなくて、そこでは人々の関係が徐々
に構築され、またそこから旅立って行く人も現れる。
そんな少しずつ変化して行く人々の関係が、静かな雰囲気の
中でしっかりと着実に描かれて行く。
前々回紹介したハリウッド映画の『食べて、祈って、恋をし
て』は、主人公が移動することによって新たな自分を発見し
て行ったが、本作では逆に動かないことで自分自身を見付け
出す、そんな感じの物語だ。

出演は4作連続の小林聡美ともたいまさこ、『めがね』にも
出演の市川実日子、光石研、加瀬亮。加瀬は『プール』にも
出ていた。それに本作では、小泉今日子と今年3月紹介『ソ
フトボーイ』などの永山絢斗が新たに加わっている。
初参加の小泉は、今までの作品の雰囲気からはちょっと華や
かすぎないか懸念したが、光石とのシーンではその華やかさ
が活き、市川、小林とのシーンでは上手く溶け込んでいる感
じがした。
他には、オーディションで選ばれた地元の人たちが出演して
いるようだが、特に登場人物の皆から愛情を注がれるポプラ
役で出演の赤ん坊の存在が、映画の全体の雰囲気を見事に整
えている。
監督は、前2作でのメイキングを手掛けたという松本佳奈。
フードスタイリストの飯島奈美、スタイリストの堀越絹衣、
美術の富田麻由美ら常連のメムバーと共に、前3作と変わら
ない世界観を丁寧に描き出した。
何も変わらないように観えても、何かが少しずつ変化して行
く。それはドラマティックではないかもしれないが、僕には
いつも愛しく感じさせる物語だ。特に本作では、市川の店で
出される器の変化が嬉しかった。


『ふたたび』
50年の時を超えて戻ってきた祖父を巡って、その存在が家族
に与える様々な影響を描いた作品。
その祖父は50年前に亡くなったと家族には伝えられていた。
しかしそれはある理由から真実が伝えられなかったもので、
その理由とは、祖父がハンセン病で療養所に強制隔離されて
いたという現実だった。
主人公となるのはその一家の大学生の息子。現在大学生とい
うことは1990年前後の生まれと考えられるが、人権差別法の
「らい予防法」が廃止されたのは1996年。主人公が生まれた
頃には祖父はまだ強制隔離中だったのだ。
1960年代には治療法が確立していながら、政府の無策で近年
まで廃止されなかった法律により、今なお日本全国の療養所
に約2500人の元患者が社会復帰できないでいるハンセン病。
今でも続いているその苦しみが描かれる。
ただし物語は、ハンセン病の暗い面だけでなく、実は優秀な
JAZZマンだった祖父が、自分が発症したために叶わなかった
LIVEステージデビューを目指して、同じくJAZZに傾倒してい
る孫と共に昔の仲間の所在を訪ね歩くロードムーヴィの形式
も採っている。
その旅は、神戸から和歌山を経て名古屋にまで及ぶが、それ
ぞれの場所での老人が迎えている現実の厳しさも描き出して
いる。そしてハンセン病と言うだけで、結婚式目前の婚約を
破棄されたり、恋人が去ったりという、今も続く謂われない
差別も描かれている。

出演は、今年3月紹介『シュアリー・サムデイ』などの鈴木
亮平、祖父役に財津一郎。他に、2008年9月紹介『252』
などの韓国人モデルMINJI。さらに古手川祐子、陣内孝則、
藤村俊二、犬塚弘、佐川満男。それに渡辺貞夫が演奏シーン
に登場している。
ただ映画では、祖母を襲った悲劇に関しては克明に描くが、
現在も続く差別に関してはさっと流している程度で、その部
分が多少綺麗事になってしまっている感じは否めない。謂わ
れ無き差別が今も続いている現実を描くことには、何か支障
があったのだろうか?
それに演奏シーンでは、渡辺、犬塚、佐川はよいが、鈴木、
財津、藤村は…頑張ってはいるのだろうがやはり多少は目を
瞑らなければいけなかった。編集のテクニックなどもあると
思うが、ここはもう少し何かしてほしかったところだ。


『レオニー』
第2次大戦後の日米で建築家・芸術家として活躍したイサム
・ノグチの母親レオニー・ギルモアの生涯を描いた作品。
レオニーはフランス留学の後にアメリカの大学で学んだが、
そこでは教授に真向反論するなど、ちょっと普通でない女性
だったようだ。そんなレオニーが就職したのはニューヨーク
の小さな出版社、そこは日本からやってきた野口米次郎とい
う詩人が経営していた。
やがて米次郎は、在米日本人少女を主人公にした小説の執筆
を始め、彼女はその編集者として英語表現に手を加えるなど
手腕を発揮する。こうして出版された本は評判になり、そん
な中で2人は結ばれるのだが…
その後の日露戦争の激化で米次郎は帰国を余儀なくされ、妊
娠していたレオニーは1人でその子供を生むことになる。そ
して日露戦争が終結し、レオニーは1人息子を連れて来日、
米次郎はその子供に勇=イサムと名付ける。
ところが米次郎は、レオニーに英語教師の仕事や編集者とし
ての仕事を与えて生活の面倒は見るものの、家にはなかなか
顔を出さない。というのも彼は、先の帰国時に日本人の妻を
娶っており、レオニーは妾の扱いだったのだ。
そんな中でもレオニーは懸命に子供を育て、さらにイサムの
妹も誕生するが…

元々はドウス昌代原作によるイサム・ノグチの伝記にインス
パイアされた脚本とのことで、原作の中に描かれた母親のエ
ピソードから再構築された物語のようだ。とは言えイサム誕
生の状況や日本に来てからの話などは実話に沿っているのだ
ろうし、この状況の許で敢然と生きた素晴らしい女性の姿が
見事に描かれている。
この女性がイサム・ノグチを誕生させた…、それがよく判る
物語だ。
出演は、2006年6月紹介『マッチ・ポイント』などのエミリ
ー・モーティマ。米次郎役に中村獅童。他に、原田美枝子、
竹下景子、吉行和子、中村雅俊、大地康雄、クリスティーナ
・ヘンドリックス、メアリー・ケイ・プレイスらが共演して
いる。
製作・脚本・監督は、2002年『折り梅』などの松井久子。撮
影は、2007年7月紹介『エディット・ピアフ』でセザール賞
受賞の永田鉄男が担当したものだ。

『ビッチ・スラップ』“Bitch Slap”
荒野の一角にお宝を捜しにやってきた3人の女性が、それを
邪魔する男たちと壮絶なバトルを繰り広げるという女性中心
のアクション作品。
ストリッパーのトリクシーと麻薬売人のカメロ、そして高級
娼婦のヘルの3人がキャンピングカーなどが放置された荒野
の一角に車でやってくる。彼女らは最初にキャンピングカー
の中を捜索するが目当てのものはないようだ。
その彼女らが乗ってきた車のトランクには1人の男が閉じ込
められており、3人は男を引き摺り出してお宝の隠し場所を
尋問し始める。そこにシェリフが現れたり、危険なヨーヨー
を操る日本人女性を連れたパンク野郎が現れたり…
そしてそれらバトルの間に、フラッシュバックで彼女たちを
襲った過去の出来事が挿入されて行くが、それはやがて驚愕
の事実へと繋がって行くことになる。

主人公の3人を演じるのは、モデル出身で本作が映画初出演
のジュリア・ヴォス、ジュリアード学院のオペラ演劇科卒で
2008年『アイアン・マン』にも出演のアメリカ・オリヴォ、
TVシリーズに出演し格闘技の訓練も受けているというエリ
ン・カミングス。
他には、TVシリーズ“Xena”などに出演と監督も務めてい
るマイクル・ハースト、TVシリーズ“General Hospital”
などのレギュラー出演もしているロン・メレンデス、同じく
“General Hospital”にレギュラー出演のミナエ・ノジらが
共演している。
因にノジは、カリフォルニア生まれの日系人だそうで、劇中
ではかなり怪しげな日本語を操っているが、エンディングの
クレジットでは自らの役に合わせた歌も披露しているなど、
頑張っているようだ。それに麻宮サキばりのヨーヨー捌きも
面白かった。
製作・脚本・監督のリック・ジェイコブスンは、ロジャー・
コーマンの門下生だそうで、コーマンの下で15本の長編映画
を手掛けた後にTV界に転向、TVでは“Xena”などを含め
100本以上を監督しているそうだ。
そのジェイコブスンが、1950年代から70年代のB級映画の雰
囲気を取り戻したいとして作り挙げたのが本作で、そこには
タランティーノ=ロドリゲスによる『グラインドハウス』の
影響があるとされる。
ということで本作では、その『グラインドハウス』でも話題
になったスタントウーマンのゾーイ・ベルが、出演及びスタ
ント・コーディネータとして参加しているのも注目されると
ころだろう。
日本での公開はR15+指定とのことで、その手のシーンも登
場するが、それが正しくB級という感じで、これこそが映画
本来(?)の楽しさを観せてくれる作品になっている。

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』
北尾トロ原作による実際の裁判法廷のルポルタージュから、
『世にも奇妙な物語』などのアサダアツシが脚色して、今年
3月紹介『ソフトボーイ』などの豊島圭介監督で映画化した
裁判所ドラマ。
主人公はあまり売れていない放送作家。今もプロモーション
ヴィデオまで作った企画が没にされ、腐っていたところに裁
判の映画を作らないかと誘いが舞い込む。彼には以前に1本
だけ映画化の実現した裁判物の脚本があったのだ。
その誘いを受けて取材のために訪れた地方裁判所では、いく
つもある法廷で、他人の目からは馬鹿馬鹿しくも観える人間
ドラマが繰り広げられていた。そんな中で彼には傍聴マニア
の仲間もでき、彼らとの交流の中で裁判所のいろいろな事情
も判ってくる。
ところがある日、彼は裁判所一の美人と名高い女性検事から
「楽しいでしょうね。他人の人生高みの見物して!」と言わ
れてしまう。それは彼にある決意をさせることになるが…

主演は、お笑いコンビ「バナナマン」の設楽統。その脇を片
瀬那奈、蛍雪次朗、村上航、尾上寛之、鈴木砂羽らが固め、
さらに、堀部圭亮、斉藤工、大石吾朗、前田健、日村勇紀、
モト冬樹、平田満らが出演している。
何とも軽い感じの題名や出演者の顔ぶれなどからは、ただの
おふざけ作品かとも思って観に行ったが、予想外にしっかり
した作品だった。その中で前半のいろいろな法廷を見聞する
シーンには何ともおかしな裁判の模様が紹介されるが、これ
らは恐らく実話なのだろう。
その一方で後半のドラマには、もちろんフィクションなこと
は見え見えだが、それなりに感心もさせられたし、こんなこ
とあってもいいかなあと思えるお話が、ちゃんとコメディに
して描かれていた。
裁判員制度の実施で、日本の裁判所もいろいろ変わってきて
いるようだが、そんな事実も踏まえてのこの作品は、それな
りに解りやすく日本の裁判の現状を伝えているようでもある
し、いろいろな点で面白く観ることの出来る作品だった。

『ドアーズ/まぼろしの世界』“When You're Strange”
1971年、ヴォーカリスト=ジム・モリソンの死去によって終
焉したアメリカのロックバンドThe Doorsの始まりから終り
までを当時の映像記録を基に再構成したドキュメンタリー。
ナレーションをジョニー・デップが担当している。
バンドは、1965年にUCLA映画科の学生だったモリソンが
オルガニストのレイ・マンザレクに自作の詩と歌を聴かせ、
そこにフラメンコギタリストのロビー・クリーガーと、ジャ
ズドラマーのジョン・デンスモアが加わって結成された。
因にバンドの名は、オルダス・ハックスレーが18世紀の詩人
ウィリアム・ブレークの詩の一節から取った書物のタイトル
『知覚の扉』から名付けられたものだそうで、ちょっと文学
的な香りのするバンド名だったようだ。
そしてモリソンが元々映画科の学生だったこともあってか、
映像記録はいろいろ残されていたようで、本作の巻頭には、
モリソンの脚本で製作された作品の一部が使われてもいる。
またマンザレクがUCLAで製作した作品なども登場する。
それ以降は、LAのウィスキーアゴーゴーでのデビューから
コンサートの映像などとなって行くが、そこにはモリソンの
ドラッグ/アルコールによるいろいろなトラブル、それに時
代を反映した過激な言動などが綴られて行く。
僕自身は、The Doorsというバンドにはあまり思い入れはな
いが、この作品を観ていると「ああこんな時代だったんだな
あ」という感慨は湧いてくる。それくらいに時代を象徴する
バンドであったことは確かなようだ。
なおデップのナレーションは、妙なケレンを利かせることも
なく、むしろ淡々とした感じのものだが、そこにたっぷりと
した愛情が感じられるのは、2007年12月紹介『ジプシー・キ
ャラバン』の時と同じ感覚だ。
モリソンが詩人としても優れていたことは確かだし、そこに
ドラッグなどの時代の影響が破滅をもたらしてしまう。今な
らもっといろいろな処置も講じられたのだろうが、そうでは
なかった時代の物語だった。

『義兄弟』“의형제”
2008年4月紹介『シークレット・サンシャイン』などのソン
・ガンホと、2005年2月紹介『オオカミの誘惑』などのカン
・ドンウォン共演で、韓国に潜入した北朝鮮の工作員と、そ
の影を追う国家諜報員がやがて義兄弟と呼び合うまでに至る
人間ドラマを描いた作品。
ソンが演じる国家諜報員のイ・ハンギュは北朝鮮から送り込
まれた暗殺団を追っていた。しかし功名心もあってか独断専
行したハンギュのグループは、暗殺を実行された上にその実
行犯にも逃げられてしまう。
その失敗の責任を問われたハンギュは、国家的な対朝鮮政策
の変化の中で、諜報部の規模縮小もあってリストラされてし
まう。そして6年、ハンギュは昔の経験を活かして民間で家
出人の捜索を請け負うなどの仕事で餬口を凌いでいた。
そんなある日、ハンギュは6年前の犯行現場から立ち去った
男を偶然発見する。その男=カン扮するソン・ジウォンもま
た、犯行が察知されたことで情報を漏らした疑いを受け、工
作員の組織を追われていたのだった。
しかし、ハンギュが家出人を捜しに行った工場でそこを見張
る男たちに襲われたとき、その男たちを手早く打ちのめした
ジウォンの武術を目の当りにしたハンギュは、自分の来歴を
隠したまま彼に一緒に働くことを打診する。
それは彼の腕を見込んだこともあったが、彼を見張ることで
さらに大物の工作員を捕え、諜報員に復帰するという期待も
あったのだ。そしてジウォンにも、ある事情から早急に大金
を稼ぐ必要があった。こうして2人の協力が始まるが…
朝鮮半島の実情というのは日本人の我々にはなかなか解り難
いが、脱北者に対する粛正=暗殺などはさもありそうな出来
事に描かれている。そして政策の変化でその対策機関の規模
が縮小されるというのも如何にもありそうな話だ。
そんな物語が、派手な銃撃戦やカーチェイス、それに格闘技
などのアクションをたっぷりに綴られて行く。

監督は、2009年1月紹介『映画は映画だ』などのチャン・フ
ン、脚本は、2004年11月5日付東京国際映画祭<コンペティ
ション>で紹介した『大統領の理髪師』などのチャン・ミン
ソク。
結末が甘すぎるかなあ…という感じはするが、プレス資料に
添えられた蓮池薫氏の文章によると、「朝鮮半島の未来への
新たな期待と希望を見よう」としている思いがするそうで、
なるほど当事者にはそういう思いなのか、という認識を新た
にした。


『リトル・ランボーズ』“Son of Rambow”
2005年7月紹介『銀河ヒッチハイク・ガイド』のガース・ジ
ェニングス脚本・監督による2007年の作品。本作でジェニン
グスは、2008年のロカルノ映画祭で観客賞を受賞の他、英国
アカデミー賞の脚本賞にもノミネートされた。
主人公は、戒律の厳しいプリマス同胞教会信者の母親と暮ら
す11歳の少年ウィル。家族は他に妹と祖母がいるが、母親と
共に出入りする男性信者の指導の許、家にはテレビやラジオ
も置くことができないという厳格な戒律が守られている。
しかし想像力豊かなウィルは、別棟の納屋に篭もっては聖書
の各ページにぎっしりとカラフルな想像画を描いていた。そ
んなウィルが学校でのテレビ授業の日、戒律にしたがって廊
下で自習をしていると、如何にも悪餓鬼の少年が近づいてく
る。
その少年リーは、郊外に建つ老人ホームの経営者の息子だっ
たが、両親は常に旅行に出ていて、家で暮らすのは兄と2人
きり、その兄は弟を良いように扱っていたが、それでも弟は
兄を愛して止まなかった。そしてリーは兄のヴィデオカメラ
を無断で借りて映画を作ろうとしていた。
その映画に参加することになったウィルは、リーの家で『ラ
ンボー』の違法ヴィデオを鑑賞、それにインスパイアされた
物語を思いつく。そしてウィルの描く絵にしたがって撮影は
開始されるが…
この『ランボー』の映像は、シルヴェスター・スタローンの
特別許可によって実際のフィルムが使われており、映画にそ
れなりの魅力を与えている。ただまあそれが盗撮というのは
ちょっとあれだが、物語の背景は1980年代でそんな時代だっ
たということだ。

出演は、『X−メン』シリーズの新作“First Class”への
出演が発表されているビル・ミルナーと、『ナルニア国物語
/第3章:アスランと魔法の島』にも出演しているウィル・
ポールター。
他にも、2007年3月紹介『こわれゆく世界の中で』などに出
演のエド・ウェストウィック、2004年5月紹介『ぼくセザー
ル10歳半』でセザールを演じたジュール・シトリュクなど、
将来の期待される若手が顔を揃えている。
また大人の役では、2004年『ショーン・オブ・ザ・デッド』
に出演のジェスカ・ハンズや、1965年『素晴らしきヒコーキ
野郎』から2005年『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』に
も出演のエリック・サイクスなど、多彩な俳優が脇を固めて
いる。
ヨーロッパ製の子供が主人公の作品には秀作が多いが、本作
もその前例に違わない作品だ。
        *         *
 今回は映画の紹介が多かったので、製作ニュースはお休み
します。



2010年08月22日(日) 食べて祈って恋をして、三国志、遠距離恋愛、アブラクサスの祭、脇役物語+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『食べて、祈って、恋をして』“Eat Pray Love”
ニューヨーク在住ジャーナリストのエリザベス・ギルバート
が2006年に発表して、世界の40カ国以上で翻訳、総売り上げ
700万部のベストセラーになった自伝的小説の映画化。
結婚8年目で30歳を迎え、平穏な暮らしの中でふと自分の望
んでいたのがそんな暮らしではないことを感じた女性ジャー
ナリストが、離婚してイタリア、インド、バリ島を巡る旅に
出発。その旅の中で自分を発見して行く姿が描かれる。
ひと頃、日本でも話題になった自分捜しの旅。人間誰しもが
やりたいと思っていながら、そう簡単に実践できるものでは
ない。それを実践した女性の、しかも実話に基づく物語だか
ら、これはもう憧れ以外の何物でもない作品だ。
ただ傍目からすると、この自由さを認められるのも、彼女の
職業がジャーナリストという特殊なものであるなど、多少は
一般人と異なるからであって、その辺がちょっと悔しい思い
もしてしまう。
でも、もしかしたらそれは自分に多少の勇気がなかったせい
でもあって、やろうと思えば出来たのかな。今にすれば、そ
う思ったこと自体が夢になってしまっているが、そんな勇気
をちょっとだけ発揮した人の物語でもあるのだろう。
そんな共感が、この作品の観客層を支えているようにも感じ
られた。そして映画は、その観客層が満足するように、主人
公が辿る旅をそれぞれの現地ロケーションで再現し、主人公
の旅を観客も実感できるように作られている。

出演はジュリア・ロバーツ。そんな彼女の旅に、ジェームズ
・フランコ、リチャード・ジェンキンス、ビリー・クラダッ
プ、ハビエル・バルデムらが彩りを添えて行く。他にヴィオ
ラ・デイヴィスらが共演。
監督は、2006年に“Running with Scissors”という作品を
発表しているライアン・マーフィ。ジャーナリスト出身で、
1998年にホラー・コメディの脚本が売れて映画界入りしたと
のことだが、以後の活動はテレビが中心で映画は上記の作品
以来の2作目となっている。
そんな監督に、世界を股に駆けた撮影の行われる本作への起
用は冒険のようにも感じるが、彼が脚本・監督・製作総指揮
を務める“Nip/Tuck”“Glee”というテレビシリーズでの実
績がかなり評価されているようだ。
ニューヨークでの恋の顛末の後、イタリアでは食に開眼し、
インドでの瞑想。そしてバリ島の大自然と…それらが主人公
の心の変化と共に丁寧に描かれていた。さあジュリアと一緒
に旅に出よう、そんな気分にさせてくれる作品だ。


『三国志/第8話・第9話』“三国志”
中国で製作開始から6年を掛けて完成され、本国で今年5月
に放送開始された全95話(各話45分)に及ぶ歴史ドラマシリ
ーズが、日本ではDVDでの紹介となり、10月にレンタル開
始、12月に前編第42話までが販売される。その内の第8話、
第9話の試写が行われた。
『三国志』というと最近ではジョン・ウー監督の『レッド・
クリフ』が日本でも大ヒットを記録したが、これは本シリー
ズでは第33話から第42話までの10話だけのお話。物語の全体
はその10倍にもなる壮大なものだ。
という『三国志』の全貌がこの秋から日本でも紹介されるこ
とになる訳だが、試写が行われたのはまだ序章の「群雄割拠
の時代」を背景としたもので、後漢の存亡を巡っての董卓と
呂布、それに貂蝉と王允の物語が上映された。
その物語は、天子を戴く傲慢な支配者董卓とその義理の息子
で将軍の呂布。信頼の厚い2人の仲を裂くため、朝廷の重臣
王允が、こちらも義理の娘の貂蝉を使った謀略を仕掛けると
いうもの。愛国のため自らを犠牲にする人たちの厳しい人間
ドラマが展開される。
物語の全体では、この前に曹操による董卓暗殺未遂事件や、
劉備、関羽、張飛らが参加する反董卓軍の動きなどもあるよ
うだが、試写の行われた2話では、それとは別の朝廷内での
出来事が綴られる。それは謀略のため嘘で嘘を塗り固める壮
絶なものだ。

出演は、呂布役に日本でも『仮面ライダー555』や、NHK
ドラマ「上海タイフーン」などに出ていたピーター・ホー、
貂蝉役に2001年日本公開の『山の郵便配達』に出演の後、日
本で歌手デビューしているチェン・ハオ。他に、中国台湾の
俳優たちが大挙出演している。
『レッド・クリフ』や2008年11月紹介『三国志』などでは、
戦略や戦闘に明け暮れている物語の印象を受けるが、今回の
2話は正に人間ドラマ。謀略や策略、それらが真心の愛と愛
国の板挟みになる舞姫貂蝉を中心に描かれる。
ただし、全95話の全体では当然戦闘シーンも多数描かれてい
るようで、それは現在も中国人民解放軍空軍政治部電視芸術
中心の役職にあるガオ・シーシー監督の許、延べ15万人のエ
キストラ(人民解放軍)と1万頭の乗馬を駆使して、さらに
“LOTR”に参加した中国人VFXスタッフらによる壮大
な戦闘絵巻きが繰り広げられているものだ。
因に、試写会の案内には35分の特別映像のDVDが添えられ
ていたが、そこに収録された戦闘シーンは見事に凄まじいも
のだった。
試写会ではシリーズの全体を観られた訳ではないが、そのス
ケールには圧倒されたし、物語としては今まで描かれること
の少なかった人間模様が描かれているのも面白そうだ。

『遠距離恋愛/彼女の決断』“Going the Distance”
ドリュー・バリモアとジャスティン・ロング共演で、ニュー
ヨークとサンフランシスコ、時差3時間のアメリカ大陸の東
と西に暮らす男女の恋愛を描いた作品。
バリモア扮するエリンはサンフランシスコ在住。30代を迎え
てジャーナリストを目指し、ニューヨークの新聞社に夏休み
の研修に来ている。その滞在期間は後6週間。一方のロング
扮するギャレットはニューヨークのレコード会社に務める駆
け出しの業界人だ。
そんなギャレットが何度目かの失恋をし、男友達2人とバー
で傷心を癒していたとき、研修先で厳しい評価を受けたエリ
ンがそのバーに入ってくる。そしてちょっとレトロなゲーム
機の前で遭遇した2人は意気投合、6週間限定の恋愛ごっこ
をスタートさせる。
ところが6週間後、2人の気持ちは本気になり、それでもエ
リンはサンフランシスコへ。こうして遠距離恋愛が始まり、
2人は高価な航空券や、時差で電話のタイミングも合わせら
れない不自由さを感じながらも順調に愛を育てて行くが…。
就職や転職、人生の一大転機を迎えている2人に本当に必要
なものは、夢、それとも愛? そのどちらを選ぶか、決断の
時が迫ってくる。日本より何倍も広い国土のアメリカで、3
時間の時差を乗り越えた恋愛の結末は…

共演者には、主にテレビで活躍しているチャーリー・デイ、
ジェイスン・サダキス、クリスティナ・アップルゲイトらが
顔を揃えている。
製作は、『セブンティーン・アゲイン』のアダム・シャンク
マンと、『ザ・ラスト・ソング』のジェニファー・ギブゴッ
ト、それに『ヘアスプレー』のギャレット・グラント。正に
現代ハリウッド映画の担い手が集まっての作品だ。
監督は、1999年“On the Ropes”という作品でアカデミー賞
長編ドキュメンタリー部門にノミネートされているナネット
・バーンスタイン。フィクション映画の監督は初めてだそう
だが、名うての俳優たちを相手に見事にその実力を発揮して
いる。脚本は新人のジェフ・ラテュリップ。
携帯電話や電子メール、コミュニケーションの手段はいろい
ろ増えていても、本当の愛は一緒にいなければ育たない?
遠距離恋愛の実践者が670万人とも言われるアメリカで、今
までの映画にはなかった、新たな形式の現代恋愛事情が描か
れた。

『アブラクサスの祭』
現役住職で芥川賞受賞作家の玄侑宋久による原作小説からの
映画化で、ミュージシャンのスネオヘアーが主演する音楽を
テーマにした作品。
主人公は、田舎町の田園に囲まれた寺で住職の手伝いをして
いる通いの僧侶。実直な性格でいろいろな悩みを抱えている
ようだが、その発露が思うように見出せない。そんな中で彼
は、以前にはCDを出したこともある音楽が自分の道である
ことに気付く。
その考えには住職やその妻も理解を示し、檀家の人の紹介で
Liveを開く会場も決まるのだが、その準備が進む内にも彼の
周囲の状況はいろいろ変化をし続ける。そして彼の悩みもよ
り深くなって行く。その一方で、彼の行動に反対する人たち
も現れ始め…
僧侶と音楽という組み合わせで、それに反対運動が起こると
いう展開では、これは在来りな懐かしバンドものかなと思い
きや、さすがに芥川賞受賞者の原作というのは、一味も二味
も違っていた。
それは普遍性のあるテーマかと言われると、ちょっと違うか
なと思う部分はあるけれど、主人公の抱える問題は解決方法
は違っても現代人の多くが抱えているものだろう。そしてそ
の解決方法は主人公のように自分自身で見付け出さなければ
いけないのだ。
そんな現代人の抱える問題に、ある種の解決の糸口を見付け
てくれるような、そんな感じもする作品だった。

共演はともさかりえ、小林薫、本上まなみ、ほっしゃん。、
それに『仮面ライダーディケイド』などの村井良太。
監督は、東京藝術大学大学院映像研究科の監督領域第一期生
という加藤直輝、脚本は2008年3月紹介『休暇』などの佐向
大。因に脚本家は、昨年12月紹介『ランニング・オン・エン
プティ』の監督でもあるが、どの作品も人間の悩みを的確に
描いている感じのものだ。
なお劇中には、スネオヘアーのかなりハードな演奏シーンな
どもあり、ファンにはそれもお楽しみと言う感じの作品だ。
それから題名の「アブラクサス」とは、善も悪も引っ括めた
神の名前だそうで、呪文の「アブラカダブラ」の語源とも言
われるものだそうだ。

『脇役物語』
元国連難民高等弁務官・緒方貞子女史の息子で、2006年の短
編『不老長寿』などで評価されている緒方篤が原案・脚本・
製作・監督を務めた長編デビュー作品。その『不老長寿』に
出演していたベテラン脇役・益岡徹を主演に据えて脇役俳優
の人生が描かれる。
主人公は、番宣広告に小さく写真が載るくらいには売れてい
る脇役専門の俳優。父親は高名な劇作家だが、彼はそんな父
を利用はせず自らの役者人生を歩んでいる。そんな彼には現
在、ウディ・アレン作品を日本でリメイクする計画での主演
の話があったが…
ある日、彼はふとした切っ掛けで女優の卵と付き合うように
なるが、ブロードウェイ留学を夢見る彼女は何事にも積極的
で、彼の父親にも気に入られてしまう。その一方で、彼は代
議士の妻の不倫相手に間違われ、代議士の差し金で主演の話
も消えそうになる。
このため彼は、代議士の妻との不倫疑惑を解かなければなら
なくなって…という、半分シリアス、半分ドタバタなドラマ
が、それなりのバランスを持って繰り広げられて行く。

共演は永作博美、津川雅彦、松坂慶子。この他、柄本明、前
田愛、佐藤蛾次郎、柄本佑、イーデス・ハンソン、角替和枝
らが脇を固めている。
試写の後で監督とのQ&Aがあって、そこでウディ・アレン
のリメイクには何を想定しているか訊いてみた。その答えは
「『タロットカード殺人事件』でスカーレット・ヨハンソン
が演じていた役」とのことだったが、そこに益岡徹の主演は
ちょっとおかしな感じだ。
僕は、もっと初期の『ボギー!俺も男だ』のような、アレン
自身が主演している作品の方が本作にはマッチしているよう
に思えたが、どうだろうか。少なくとも女性が主人公の作品
ではないと思うのだが。
まあそれは別として、物語の全体は悪くはないと思えるが、
途中の代議士宅を訪れる際に銃に模したものを構えるという
のは…? ドタバタの部分を強調したいのは理解するが、現
実及び常識からあまりかけ離れるのは本作では適切でないよ
うにも感じた。
それからもう一点、巻頭近くのシーンで家を出てきた主人公
が手に持っていたペットボトルをほぼ逆さにして飲み切って
いるシーンがあるのに、続きのシーンでは同じボトルから普
通に飲んでいるように観える。些細なことだが、こんなこと
も気になるものだ。

        *         *
 製作ニュースは多少余裕があるので、インディペンデント
の情報から。
 昨年8月に『PUSH−光と闇の超能力者』という、ちょ
っと不思議な感覚の作品を紹介しているポール・マクギガン
監督の次回作に“Tomorrow”というタイムトラヴェルものの
作品が計画され、その主演に、監督とは2006年11月に紹介の
『ラッキーナンバー7』でも組んだことのあるジョッシュ・
ハートネットの起用が発表されている。
 物語は、家族を殺された主人公がその事実を消すためにタ
イムトラヴェルを試みるが、その行動が新たな罠に主人公を
引き摺り込んでしまう…というもの。この概要だけ読むと、
2005年3月紹介『バタフライ・エフェクト』に共通する匂い
を感じるが、そこからの捻りはいろいろ作れるものだ。そこ
にハートネットの主演ならさらに期待もできる。
 因にハートネットは、2004年の“Wicker Park”(邦題:
ホワイトライズ)でもマクギガン監督と組んでおり、本作が
実現すれば3回目になるとのこと。同じ俳優との顔合せは、
バートン=デップの例を挙げるまでもなく、映画製作ではい
ろいろ良い効果がありそうで、そこにも期待したい。
 監督の作品は、2003年4月紹介『ギャングスター・ナンバ
ー1』以来、どれも相当に不思議な感覚の映画ばかりだが、
今回はSFの中でも王道のタイムトラヴェルということで、
ますます楽しみになるところだ。
        *         *
 続いては、日本のマンガ/アニメーションを海外で映画化
する情報が2つほど届いているので紹介しておこう。
 まずは、1980年代にそのアメコミ調の画風などから人気を
博していた寺沢武一原作『コブラ』を、2008年5月1日付の
第158回などで紹介した“Piranha”の3Dリメイクが全米公
開されたばかりのアレクサンドル・アジャの監督で実写映画
化する計画が報告されている。
 2006年6月紹介『ハイテンション』などのフランス人監督
は、その後は『サランドラ』のリメイクや『ミラーズ』など
の作品でハリウッドに進出。最新作の“Piranha”は、先週
金曜日に全米公開され、3D映画のハンデ(上映劇場が限定
される)を負いながらも、初日の興行がtop 5に入るなど評
価も良好なようだ。
 そのアジャ監督が、小学生だった80年代後半は、ちょうど
フランスなどのヨーロッパのテレビ局で、アニメーションの
“Cobra: The Space Pirate”が放送されていた頃だったの
だそうで、その放送日にアジャ少年は学校から走って帰って
テレビを点け、それを観るのが大好きだったとのことだ。
 またアジャ自身は、「当時のヨーロッパで周囲の人たちに
は『スター・ウォーズ』があるだけだったが、僕と脚本執筆
でのパートナーのグレゴリー・レヴァサールには、『SW』
と『コブラ』があったのさ」と当時の思い出を語って、自分
への影響の大きさを説明していた。
 ただしこの計画は、報道の時点では原作者の了承がまだ得
られていないようで、アジャは何とか寺沢を説得して映画化
を行えるようにしたいと希望を語っていたものだ。もっとも
これだけの発言をするのは、それなりの勝算があってのこと
だろうとは思われるが…
 一方、原作に関しては、日本でもここ数年に亘ってOVA
やテレビシリーズの再製作など再評価が進んでいるようで、
その中で海外に映画化権を認めるのもいろいろ柵はありそう
だが、アジャ監督なら現時点では悪い選択とも思えないし、
何とか実現してほしいものだ。
 なおアジャ監督は、本作の製作に関しては3Dでの撮影を
考えているようで、「3DとSFは最高の組み合わせだと考
えている。だから出来るだけ早く脚本の執筆を始めたいし、
『アバター』や『スタートレック』のようなクリーチャーの
デザイン、新しい世界の構築に一刻も早く取り掛かりたいん
だ」と語るなど、かなり入れ込みモードのようだった。
 因に物語は、左腕にサイコガンと呼ばれる武器の仕込まれ
た身体で銀河中にその名を轟かせた「海賊コブラ」が、銀河
パトロールはもとより海賊ギルドからも賞金を賭けられる身
となり、一旦は自分の記憶も消して身を隠すが、ふとしたこ
とからそれが甦って、再び冒険を繰り広げるというもの。主
人公はほぼ不死身で、登場する女性たちは皆セクシーという
エンターテインメント性の高い作りになっている。
 それをアジャ監督がどのように料理するかも楽しみだ。
        *         *
 そしてもう1本の情報は、3D+SF映画『アバター』を
大成功させたジェームズ・キャメロン監督に関するもので、
以前から何度も紹介している“Battle Angel Alita”につい
て、監督自身はまだ断念してはいないとのことだ。
 この原作は、日本では1990年〜95年に雑誌連載された木城
ゆきと原作の『銃夢』という作品が、海外版出版時に上記の
英語題名とされたもので、その際に主人公の名前もAlitaに
変更されているものだ。
 その主人公は、投棄されたスクラップの山の中から再生さ
れた記憶を失った少女型戦闘サイボーグという設定で、その
主人公がいろいろな強敵と戦う物語が展開される。そしてそ
の戦いの度に彼女の脳裏に過去の記憶が甦ってくるが、それ
は彼女たちの暮らす未来社会の根底を揺るがすものになって
行く、というお話のようだ。
 その実写映画化に関しては、2004年頃からキャメロン監督
が進めていることを公言していたものだが、監督にはその後
『アバター』の企画が進められるなどで遅れが生じていた。
 その計画に関して今回は“Avatar Special Edition”の公
開を前にしたインタヴューの中で回答したもので、それによ
ると、「計画は今も進行中だ。あの作品はまだ僕のレーダー
の中にある。脚本は『アバター』に着手する前に書き上げて
おり、僕の最も愛するストーリーだ。原作は有名なものでは
ないが、それを皆さんにお観せしたいのだ。だが僕は無限の
時間を持っている訳ではないんだ。」とのことだ。
 つまり、キャメロン自身はやりたいが、周りの状況がそれ
を許してくれないということで、実際キャメロンには、すで
に“Avatar 2”の計画がスタートしているし、実在のフリー
・ダイヴァーを描く“The Dive”の計画も進められている状
況では、あまり有名でない作品の映画化は、キャメロンとい
えども進め難いというのが本音のようだ。
 それなら、他の監督に脚本を渡して、キャメロン自身は製
作で参加すれば良いという意見もあるようだが、それ以上に
愛している作品なら、それも難しいということなのだろう。
今回はとりあえず計画は消えていないということで報告がさ
れていたものだ。
        *         *
 最後に昨年8月30日付で紹介したほくほく線のイヴェント
列車ゆめぞら号に機会があってまた乗ってきた。
 ところが今回は、デッキ部分の照明が明るくて、肝心の映
像を充分に楽しめなかった。いろいろな乗客からの注文もあ
るのだろうが、デッキ部分からの光が入らないようにするな
ど、もう少し工夫をしてほしいものだ。これではせっかくの
映像がもったいない感じがした。



2010年08月15日(日) 隠された日記、アワ・ブリーフ・エタニティ、桜田門外ノ変、C&D3D、大江戸LD、ゴスロリ処刑人、さらば愛しの大統領+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『隠された日記』“Meres et filles”
2007年9月紹介『レディ・チャタレー』でセザール賞主演女
優賞に輝いたマリナ・ハンズと、フランスを代表する女優の
カトリーヌ・ドヌーヴ、それに2003年7月紹介『アララトの
聖母』などに出演のマリ=ジョセ・クローズの共演で、母娘
3代の愛憎を描いたドラマ。
ハンズ扮する娘が、突然カナダからフランスの実家に帰って
くる。娘はドヌーヴ扮する母親に何か言いたげだが、開業医
で忙しい母親とは話し合う時間が取れない。そして休暇中も
仕事を持ち帰っている娘は、近所で空き家になっている亡き
祖父の家に住むことにする。
そこで祖父の家の中を片付けていると、家具の間から一冊の
古い手帳が見つかる。その手帳は、母親がまだ幼い頃に家出
したまま消息の判らないクローズ扮する祖母が、家出の直前
まで綴っていた日記だった。そしてそこには多額の紙幣も挟
まっていた。
さらに日記には、自ら働くことを希望しながらも、夫がその
意欲を認めてくれず、家の中で悶々と暮らさなければならな
かった祖母の苦悩が綴られていた。その苦悩は娘(母親)と
の確執を生み、それがさらに現代の母親と娘の関係にも影を
落としていた。

脚本と監督は、日本ではフランス映画祭での作品紹介が多い
ジュリー=ロペス・クルヴァル。物語は監督のオリジナルの
ようだが、ちょっとトリッキーな展開の中で母親と娘の確執
のようなものが見事に描かれている。
と言っても、僕は娘は持っているが父親なのでこの感覚は正
確には判らないが、家内と娘を観ていると「こんなかなあ」
とも思える。理解しているようで本当の理解ができない、そ
れは父親と息子でも同じかも知れないし、親子の関係という
のは、結局そんなものなのだろう。
共演は、昨年10月紹介『ジャック・メスリーヌ』などのミシ
ェル・デュショーソワ、昨年6月紹介『96時間』などのジ
ェラール・ワトキンス、テレビのベテラン女優というエレオ
ノール・イルト、2007年11月紹介『潜水服は蝶の夢をみる』
などのジャン=ピエル・エコフェ。因に、『潜水服…』には
ハンズ、クローズ、ワトキンスも出演していた。
最後の意外な展開が、物語のテイストを多少変えてしまって
いるような感じもするが、その日記の謎が解かれたときに母
親と娘の絆はいっそう深いものになっていた。そんな感じ物
語だ。


『アワ・ブリーフ・エタニティ』
昨年の東京国際映画祭に出品されていたが、スケジュールの
都合で観られなかった作品に一般公開が決定し、改めて試写
が行われた。
元気だった人間が突然気を失い、数日経って何事もなかった
ように目を覚ます。そんな奇病が伝染病のように広がってい
る。しかし失神の前後で生活に支障がなく、病気はそれだけ
のものと思われていたのだが…、実はその病気には重大な後
遺症が隠されていた。
その後遺症とは、長期記憶の障害。つまりアルツハイマーな
どのように今何をしていたという短期記憶の喪失ではなく、
過去の思い出などの長期記憶が失われる。しかもそれが過去
の恋人ような、肉親以外で特に親しかった人の記憶について
選択的に失われるようなのだ。
というシチュエーションを前提として、自分のことを全く覚
えていない昔の恋人と再会した主人公が、彼女との恋愛を再
体験したり、また別のケースでは恋人の関係が破綻したり…
といったいろいろな恋愛関係が描かれる。

脚本と監督は、2001年に初長編作品だった『PRISM』という
作品が、レイトショウ枠から一般公開に昇格するなど評判に
なった福島拓哉。しかしその後は、企画を出しても潰れるの
挫折を繰り返し、ようやく8年目に実現した作品だそうだ。
その作品は、「ある意味で初心に立ち返って企画した」と、
試写前の挨拶に立った監督が語っていた。その間の潰れた企
画がどのようなものだったかは判らないが、確かに本作は、
インディペンデンスの味わいが濃い作品ではある。
それで実は映画祭で観なかったのは、このインディペンデス
臭さにもあって、内容がSFであることは判っていたが、今
まで何度もこの手のSF風インディペンデンス作品の駄作に
付き合ってきた自分としては食手が動き難かった。もちろん
スケジュールの問題が先にはあったが…。
と言うことで不安を感じながら観に行った試写会だったが、
作品は予想に反してと言うか、思いの外に物語が上手く作ら
れていて、特に同じシチュエーションで異なる結論が提示さ
れているところなどは、よく考えられている感じもした。

VFXギンギンという作品ではないが、昔、トリュフォーの
『華氏451』を初めて観たときのような、静かにSFを味
わえる感じのする作品だった。因に題名は、ウィリアム・ギ
ブスン作の詞の一節で、黒丸尚の翻訳によると「僕らの短い
永遠」となっているようだ。

『桜田門外ノ変』
安政7年3月3日(1860年3月24日)、元水戸藩士によって
江戸城桜田門外で決行された幕府大老井伊直弼の刺殺事件。
明治維新の出発点とも言われるその事件の全貌を描いた吉村
昭原作からの映画化。
元々は茨城県で郷土に根差した映像文化を育もうという気運
があり、最初は水戸黄門の若かりし頃を描くなどのアイデア
もあったが、検討を進める内に、水戸藩が中心にありながら
歴史的に今一つその経緯が知られていない幕末の事件を描く
ことになったとのことだ。
このため映画製作には水戸市、茨城県などの全面的な協力が
得られ、水戸偕楽園のすぐ脇の千波湖畔に2億5000万円を掛
けた巨大なオープンセットが建てられるなど、大々的な地元
の支援で撮影が行われている。
なおこのオープンセットは、併設された映画記念展示館と共
に、来年3月末まで一般公開されているそうだ。
物語は、1853年浦賀に来航したペリーの黒船を水戸藩郡奉行
与力・関鉄之介が目撃するところから始まる。その事態に、
阿片戦争による中国清の窮状を目の当りにしていた井伊大老
を中心とする江戸幕府は開国止むなしの結論を出すが、水戸
藩主徳川斉昭はそれに猛反発する。
これに対して権力を嵩に着た井伊らは、斉昭に永蟄居を命じ
るなど反対派の声を封じ込め、京都御所の聖断を得ないまま
開国の条約を結んでしまう。このため尊皇攘夷の意志を固め
た斉昭は、薩摩藩などと連携して一気に事を起こそうとし、
その切っ掛けが桜田門外での襲撃になるはずだった。
ところが、連携するはずだった薩摩藩による京都での挙兵は
行われず。大義を失った襲撃に参加した薩摩藩士1名を含む
水戸の浪士たちは逆賊とされ、自刃や処刑、または逃亡の生
活を余儀なくされる。
だが、この襲撃が尊皇攘夷の勢力を後押しし、襲撃から8年
後にはその桜田門から天皇が入城して明治元年を迎えること
になる…。という物語が、上記のオープンセットで撮影され
た襲撃シーンと共に描かれる。因にこの襲撃シーンは、史実
に基づいてかなり正確に再現されたもののようで、その迫力
なども見事だった。
ただし、物語はこの襲撃の成功のみを描くのではなく、それ
によって歴史の流れに翻弄された水戸の浪士たちの姿が見事
に描き出されている。
もちろん物語は水戸中心の史観に基づいているし、井伊が一
方的に悪人にされている面は否めないが、明治維新の陰で流
された多くの血の一部がここに描かれている。それは井伊や
彦根藩士の血も含めて、近代日本の礎となったものであるこ
とは間違いない。

出演は、大沢たかお、柄本明、西村雅彦、長谷川京子、加藤
清史郎、北大路欣也、伊武雅刀らを始め、日本映画の現在を
支えている面々が多数出演している。
脚本と監督は佐藤純彌。因に、吉村原作では大沢が演じた関
のキャラクターはほとんど描かれていないそうで、そこに人
間的な肉付けをした脚色には、2008年12月紹介『レスキュー
フォース』の併映作品『爆走!!トミカヒーローグランプリ』
や、先月紹介した『GARO<我狼>』などの江良至が参加
している。
前回紹介した『半次郎』『武士の家計簿』に続いての幕末−
明治維新を背景とした作品となっているが、今回紹介の桜田
門外ノ変がちょうど150年前の出来事で、それを検証する時
期に来ているのかな。それにしても、その8年後が明治維新
ということは、後8年で明治150年。明治100年で騒いだ頃を
覚えている身としては、何ともあっと言う間の50年だった気
がしてきた。

『キャッツ&ドッグズ3D』
    “Cats and Dogs: The Revenge of Kitty Galore”
本作は月初にも一度紹介しているが、今回は3D・日本語吹
き替え版での試写が行われ、再度鑑賞したので、その評価と
前回書き忘れたことを少し紹介しておく。因に本作の日本公
開は、ほぼこのヴァージョンで行われるようだ。
まず日本語の吹き替えについては、今回はいわゆるタレント
が声優を務めているものではなく、プロの声優が起用されて
いるので、それは何の心配もないと言う感じだった。オリジ
ナルの名優たちの共演も楽しめたが、これはこれでOKの吹
き替えだろう。
また3Dに関しては、VFXを昨年12月紹介『スパイアニマ
ル/Gフォース』なども手掛けたソニー・イメージワークス
が担当しており、これも手慣れたものという感じ。画面から
飛び出してくる感はあまりないが、全体的に落ち着いた3D
感が楽しめた。
それともう1点、前回書き忘れたのは、本編の前に“Looney
Tunes”の短編が併映されることだ。しかもこれが“Wile E.
Coyote and Road Runner”の1篇で、昔からのファンの自分
としては嬉しいおまけだった。
内容は、いつものように獲物を狙う腹ぺこコヨーテと、その
罠を見事に掻い潜ってしっぺ返しをするロードランナーのど
たばたが描かれる。さらにこの作品も3Dで、特に今回は、
テーマが「バンジージャンプ」なので、その3D感も抜群と
いう感じのものだった。
ただし、この併映作に関しては、情報がほとんど伝えられて
おらず、ウェブ上で探しても見付からない。実は正式な原題
やコピーライトも把握できなかったのだが、内容がバンジー
ジャンプということでは、それほど昔の作品とも思えず、こ
れは新作なのかな?
でもお話は、昔通りの過激な内容で、昔からのファンとして
は大いに満足できた。
本編の方は、多少お子様向けという感じではあるが、この併
映作品は大人にも楽しめること請け合い。特に、コヨーテの
何度失敗しても負けない不屈の精神は、社会でもがいている
今の日本人に勇気を与えてくれる作品とも言える。

子供に付き合わされて観に来たお父さんが、ここでは大いに
沸いてくれそうだ。
なお、前々回の記事に少し誤りがありましたので、記事の修
正を致しました。

『大江戸りびんぐでっど』
歌舞伎座の舞台面をHD撮影して映画館で上映する「シネマ
歌舞伎」シリーズの第12弾。昨年12月に「歌舞伎座さよなら
公演」の一環として上演された宮藤官九郎脚本・演出による
新作歌舞伎がHDカメラによって撮影されている。
物語は、江戸で新島のクサヤを売っている女が主人公。女は
新島で夫を殺され、その夫が代々受け継いできた秘伝のクサ
ヤ汁による干物を江戸で販売していたのだが、その匂いのせ
いで売れ行きははかばかしくない。
その頃、品川宿には甦り=「らくだ」の一群が現れていた。
そいつらはいくら刀で切りつけても死なず、その上、生きた
人間の肉を食らってその仲間を増やす。この事態に奉行の登
場となるが、ここで1人の男が事を取り成して「らくだ」の
管理を任される。
その後の男は、殺しても死なない「らくだ」たちを、危険な
仕事に従事する「はけん」と呼ばれる労働力に仕立て上げ、
江戸中の危険な仕事場に送り出していた。しかしそれは、江
戸の庶民の生活にも影響を及ぼし始める。
一方、「らくだ」の管理を任された男=半助は、クサヤ売り
の女=お葉に近づいて行くが…。実は半助も新島の出身で、
「らくだ」というのはクサヤ汁を浴びて甦った新島の人々の
死骸だったのだ。

というお話が、長唄調の「りびんぐでっどぅ」という歌に合
わせた「らくだ」の群舞などを絡めて、半助=市川染五郎、
お葉=中村七之介、他に中村獅童、中村橋之介、坂東三津五
郎、中村勘三郎らの豪華な顔ぶれにより、歌舞伎座の大舞台
で演じられる。
演出的には、回り舞台の特徴を活かした場面転換の技術など
は面白かったし、さらに回想シーンなどを見事に描き分けた
照明等の効果も素晴らしく感じられた。
ただ僕としては、立場上「ゾンビ」作品としても評価しなけ
ればならないのだが、その点ではゾンビの設定が不明確で、
特にゾンビには新鮮な人肉が必要らしいのに、その調達をど
うしているかなど疑問が残る。それに「死神」を登場させた
りした分、話が混乱している感じもした。
他にも半助の立場などももう少し丁寧に描くべきだが、元々
この点ではルール違反的な感じの展開もあって、この辺はど
うなんだろう? またクライマックスは、大掛かりなセット
の割には、結局何が言いたいのかよく理解ができなかった。
ゾンビ物ならやはり結末は全滅、若しくは現場からの脱出に
して欲しかったものだ。
甦り=「らくだ」というネーミングの辺りは面白く感じて、
それで期待もしたのだが、「らくだ」が踊るのは「看看踊」
ではないし…。引用するのならその作品へのリスペクトも、
もう少しちゃんとして欲しかった感じだ。


『ゴスロリ処刑人』
2001年に15歳で『仮面ライダーアギト』のヒロインを演じ、
その後にオシリーナの愛称でも知られるようになった秋山莉
奈主演によるスプラッターアクション作品。
母親を目の前で殺され、父親も車椅子の生活となった一家の
中で、唯一健常のまま生き延びた娘が、ゴスロリの衣裳に身
を包み、武器を仕込んだ黒いアンブレラを手に襲撃した男女
に復讐劇を繰り広げる。
物語は次から次への殺戮シーンの連続、しかもその特殊造形
を担当したのが昨年6月紹介『吸血少女対少女フランケン』
などの西村喜廣。ということで、かなり強烈なシーンは観ら
れる作品だが…。多少見慣れた感があるのは、もう少し何か
工夫が欲しい頃なのかな。
ただし本作では、特殊造形だけでなく身体的なアクションの
方も頑張っていて、主役クラスにはそれぞれ吹き替えによる
スタントも入っての、かなりしっかりしたアクションが展開
される。他にワイアーワークもかなり頑張っていろいろ観せ
てくれていた。

共演は、たけし軍団の柳憂怜、シェイプUPガールズの中島
史恵、「テニスの王子様」出身の青柳塁斗、ホリプロタレン
トキャラバン審査員賞受賞の桃瀬美咲。他にはアクション俳
優の佃井皆美、岡本正仁、白善哲。さらに北米出身のパフォ
ーマンス集団Team 2Xなどが脇を固めている。
監督、編集、アクション総監督は、スタントマン出身でアク
ション監督が本業の小原剛。監督としては2008年『芸者vs忍
者』に続く第2作のようだ。脚本は、2008年10月紹介『悪夢
探偵2』や今年3月紹介『鉄男』なども手掛けている黒木久
勝。
ただ、最近の日本映画ではこの傾向がよくあるが、本作でも
物語の設定を全く説明せずに話が始まっている。本作の場合
は、それが謎解きに繋がっている面もありはするが、状況説
明なしのいきなりドラマというのは、観客にはかなり不親切
なものだ。そこは謎解きとの兼ね合いにもなるが、それを工
夫するのが脚本家の仕事とも言える。
本作はアクションの羅列だけで成立すると思っているのかも
知れないが、このやり方では作り手の本人は判っていても、
埒外の観客には物語に入り込むのが難しい感じがする。少な
くとも僕自身はなかなか物語に入れず、その間の気分が多少
後に残った。


『さらば愛しの大統領』
『リング』などの一瀬隆重プロデューサーがお笑いの吉本興
業と組んで企画したコメディ作品。
コメディアンの「世界のナベアツ」が大阪府知事選に出馬、
まさかの当選をしてしまう…という、横山ノック、橋下徹の
両知事を誕生させた大阪なら、もしかしたらあるかも知れな
い状況を描いた架空政治ストーリー。
しかも、その「世界のナベアツ」。失業問題や犯罪増加など
への対策で頼りにならない日本政府を見限って、3カ月後に
大阪府を独立させると宣言。同時に大阪合衆国初代大統領へ
の就任を発表する。
これに対して謎の組織から暗殺予告が大阪府警に届けられ、
大阪府警では警備に万全を期す一方で、通常の犯罪捜査では
失敗ばかりのお荷物刑事コンビに暗殺組織の解明捜査を命じ
るのだが…
その暗殺が何故か偶然の作用で未遂に終り続ける中、「世界
のナベアツ」が発表する奇想天外な政策が景気浮揚や犯罪防
止の効果を上げ始める。そして大阪合衆国の独立宣言の日が
近づいてくる。

「世界のナベアツ」が出演と、「ノバウサギ」などのCM監
督・柴田大輔との共同で監督を務め、主人公の刑事コンビに
宮川大輔とケンドーコバヤシ。他に、吹石一恵、釈由美子、
大杉蓮、前田吟、中村トオルらが共演。その他、吉本の芸人
たちが大挙出演している。
脚本は、両監督にコピーライターの山田慶太と、吉本芸術学
院出身の遠藤敬という人たちが協力しているとのことで、つ
まりお笑い系2人とCM系2人のコンビネーションが、見事
にバランスの取れた作品を作り上げた感じだ。
もちろん基本は関西吉本のベタな笑いではあるが、出演芸人
たちの個人芸に頼ることもなく、きっちり芝居で笑いを取っ
ている点は、過去の吉本企画の作品とは一味違った作品に仕
上がっている。
これなら、吉本が好きでない人たちにも観て貰えそうだが…
「世界のナベアツ」が大統領というお話では、最初からその
手の人たちは観客の対象外かな。いずれにしても、特に吉本
ファンのつもりはない僕でも、普通に楽しめる作品だった。
        *         *
 今回の製作ニュースは公開日の決定で、待望のエドガー・
ライシ・バローズ原作“John Carter of Mars”の全米公開
を、2012年6月8日に開始するとディズニーから正式発表が
行われた。
 この作品に関しては、今年1月3日付などでも紹介してい
るが、『スパイダーマン2』の映画用ストーリーを手掛けた
マイクル・シェイボンの脚本から、『ウォーリー』などのア
ニメーション監督アンドリュー・スタントンが改訂を施し、
初の実写作品として監督も担当するもので、撮影は3Dで行
われている。
 そして出演者には、主演のジョン・カーター役テイラー・
キッシュ、デジャー・ソリス役リン・コリンズは比較的若手
だが、その脇をウィレム・デフォー、サマンサ・モートン、
トーマス・ヘイデン・チャーチら多少癖のある俳優たちが固
めており、かなり面白い作品になりそうだ。もちろん続編、
シリーズ化も期待される超大作となっている。
 因に、本作が全米公開される6月8日は、直前の5月末に
“Men in Black 3”の公開が予定され、また直後の6月後半
には“Star Trek”の新シリーズの続編も計画されているも
ので、SF大作シリーズに挟まれての公開となる。これらの
作品の相乗効果も期待したい。
 なおディズニーの3D作品では、2012年3月9日にティム
・バートン監督による長編リメイク版“Frankenweenie”の
全米公開も併せて発表された。



2010年08月08日(日) 名前のない女たち、半次郎、超強台風、ヌードの夜、蛮幽鬼、武士の家計簿、玄牝+製作ニュース・他

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『名前のない女たち』
渋谷でスカウトされた女性がAV業界で生きて行く姿を描い
た中村淳彦著ノンフィクションの映画化。
主人公は小さな建設会社で事務職の女性。口うるさい母親の
許の母子家庭で育ったせいかちょっと根暗で、男友達もなく
勤務先でも浮いた感じだ。そんな女性が、ふと降り立った渋
谷の街頭でスカウトマンに声を掛けられる。
その男は言葉巧みに彼女の気を引き、その誘いに乗った女は
AV業界に足を踏み入れることに…。そんな彼女は最初こそ
戸惑いもあったが、自らのキャラクターを作り上げたときか
ら、過去から脱皮したように積極的になって行く。
しかし業界の常として内容は次第にエスカレートし、ついに
は主演女優が自殺してしまうような過酷な作品もオファーさ
れるようになる。こんな彼女の姿に、同僚のAV女優との交
流や彼女のファンとなったオタクの行動なども絡めて物語が
進んで行く。

出演は新人の安井紀絵と、2008年7月紹介『真木栗の穴』な
どに出演の佐久間麻由。それに今年1月紹介『BOX袴田事
件』などの新井浩文、2008年2月紹介『ねこのひげ』などの
渡辺真起子、昨年7月紹介『白日夢』などの鳥肌実、2008年
8月紹介『キズモモ』などの河合龍之介等が共演している。
監督は2006年1月紹介『刺青』などの佐藤寿保。
前々回にみひろ原作の『nude』を紹介したばかりだが、
また良く似た題材の作品が登場した。映画にとってAVは正
直目の上の瘤のようにも思えるが、それを題材にするとは、
それだけAV業界の動きが目立ってきていると言うことなの
かな。
ただ、先に紹介した作品が一応はメイジャーっぽい作りで、
内容的にも多少綺麗ごとのようにも観えたのに対して、本作
はインディペンデントの手触りで、絵作りなどもそれなりの
感じがした。特に後半は、シュールな雰囲気やスプラッター
調のシーンなど、インディペンデンスの臭気がプンプンする
作品だ。

なお、映画宣伝のキャッチコピーは、「生きているふり、や
めた。」というもの、それが作品のテーマとも言える。また
主題歌に戸川純1990年の楽曲「バージンブルース」がフィー
チャーされていた。

『半次郎』
日本最後の内戦と言われる官軍と薩摩軍による西南戦争で、
西郷隆盛の側近として戦い戦死した薩摩藩士・中村半次郎の
生涯を描いた作品。
半次郎は薩摩藩の下級武士の家に生まれ、薩摩に伝わる武道
自顕流の使い手として頭角を現し、京に上る西郷吉之助(後
の隆盛)には直接同行を志願、大久保一蔵(後の利道)らに
自顕流の腕を披露して彼らの側近となる。
そして京都では長州藩や新選組との闘争で活躍、維新後は桐
野利秋と名告って陸軍少将にも任じられる。しかし明治6年
の政変による西郷隆盛の下野に伴って辞職して帰郷、やがて
西郷らと共に西南戦争を戦う。
これに、京都での豪商の娘さととの仄かな恋心や、東京での
愛人藤との暮らしなどのエピソードが加わるが、全体的には
西南戦争のスペクタクルシーンを中心とした映画の描き方と
なっている。
中村半次郎と言えば、幕末の京都で人斬り半次郎の異名でも
知られるが、実際に彼は戦争以外で人を切ったのは唯1人、
それも正当な理由が有ってのことだそうだ。映画ではその辺
のエピソードも取り込んで、半次郎の真の姿を描こうとして
いるものだ。
因に真の半次郎の姿は、豪放磊落な人柄で若い志士たちをよ
く纏め、彼らからも慕われていたということのようだ。ただ
まあ、映画ではさとが女1人で戦場に赴くなど、ちょっと首
を傾げたくなるシーンも登場したものだが。

主演は、鹿児島県出身で自らジゲン流の使い手でもある榎木
孝明。榎木は本作の企画者として映画の実現に尽力もしてい
る。共演は、EXILEのAKIRA、2008年12月紹介『カフー
を待ちわびて』などの白石美帆。
他に、津田寛治、坂上忍、雛形あきこ、竜雷太らが脇を固め
ている。また西郷隆盛役は、一般公募で選ばれた人が演じて
いるそうだ。
監督は、2006年12月紹介『長州ファイブ』も手掛けている五
十嵐匠。監督本人は青森県の出身のようだが、薩長両方の維
新の偉人たちを演出したというのも珍しいことだろう。

『超強台風(仮題)』“超強台風”
2008年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、
マスコミ向けの事前試写で大受けだった作品が日本公開され
ることになり、再度試写が行われたので報告する。実は、こ
の年は個人的な事情で映画祭の報告が全くできなかったもの
で、その中で本作を紹介しそびったことは大いに気になって
いた。それができることも嬉しいものだ。
ただし事前試写で大受けだったとは言うものの、これがコン
ペティション出品なの?とは驚いた作品だったが、結構好き
者ばかりが揃った試写会では、終るなり「懐かしい特撮だっ
たねえ」とか、「昭和の味だね」なんて声が聞かれた。
物語の舞台は、中国沿岸部の浙江省温州市。低地帯には経済
特区を目指す高層ビル群の建設も進められている台湾海峡よ
り少し北に位置するその都市を、「藍鯨」と命名された未曾
有の勢力を持った台風が襲う可能性が出てくる。
そこでまず市長には、市民に避難勧告を出すか否かの決断を
迫られる。そこには、避難を勧告することによる経済的な損
害の大きさを指摘する反対意見も提示される。しかし市長は
人命優先と避難勧告を発令するが…
迷走しながらもどんどん勢力を強める台風に、市長以下の市
のスタッフや警察、軍隊、それに気象学者らが振り回され、
その中での台風への準備のあり方が問われて行く。そこには
常に市長の決断が求められるものだ。
しかもこの市長は八面六臂、問題が生じたところには自ら出
動してしまうから話が面白くなる。何しろこの市長は、台風
が直撃する低地の漁港で貧弱な避難所に漁民たちと共に閉じ
込められてしまうのだから。
その上その避難所には、波に浚われた自動車や陸に打ち上げ
られた漁船、それに…などが襲い掛かってくる。
その一方で、医師が不在で研修医だけの離島の診療所で、妊
婦が研修医の手に負えない難産になったり、次から次へ難題
が持ち上がり、市長はそれらの難題にも対処をしなければな
らなくなる。
実はその地域では、1956年に4000人を越す犠牲者を出す台風
災害が起きており、それが市長の決断にも繋がっているのだ
が、その辺の歴史的な話も織り込みながら、たった93分の映
画に良くもまあこれだけのエピソードを詰め込んだと思う物
語が展開される。
その上、その台風災害を描くのがミニチュアワークによる特
撮。これが上記の「懐かしい」の発言にも繋がるのだが、C
GI全盛のこの時代に、よくもここまで手間を掛けたと思わ
れる見事なミニチュア特撮が展開される。
もちろん水の動きなどには大きさが出てしまうし、それは最
近のCGIVFXを見慣れた観客には物足りないかも知れな
いが、正に水の恐ろしさを描き切るにはこのミニチュアの方
がふさわしい、そんな感じも抱かされた。

出演は、主に本土のテレビで活躍している男優ウー・ガン、
2008年8月紹介『初恋の思い出』に出演の女優ソン・シャオ
イン、それに研修医役で愛らしい演技を見せるリウ・シャオ
ウェイは監督の奥さんだそうだ。
その監督のフォン・シャオニンには、映画祭でのティーチ・
イン情報によると、以前に『大気圏消失』という作品も発表
しているそうで、本作も地球温暖化などの環境破壊への警鐘
として描いているとのことだ。
登場するミニチュアにはレトロな感じもしてしまうが、それ
も映画の楽しみという感じもするし、かなり荒唐無稽な展開
の中にもちょっと心の隙間を突かれてしまう部分も有って、
再見すると1度目より深い思いのする作品だった。

『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』
1980、90年代に『天使のはらわた』シリーズで人気を博した
劇画作家出身の石井隆監督が、1993年に発表した映画作品の
『ヌードの夜』から17年ぶりに製作された続編。竹中直人が
前作と同じ何でも代行屋の紅次郎を演じる。
物語は、保険金詐欺が発覚し相手の男を殺してしまった母親
と娘2人の一家が、その男を解体して富士の樹海に捨てたの
が発端。ところが一緒に男のロレックスを投棄してしまい、
見付かれば製造番号から足が着くと考えて末娘がそれを探す
羽目に陥る。
そこで末娘は紅に一緒に探すことを依頼するが、末娘が負傷
して同行しなかった日に紅は血塗れのロレックスを発見。そ
の様子に疑問を感じた紅は、そのロレックスを知り合いの女
性刑事の安斎に調査してもらう。
その後、紅は安斎から戻されたロレックスを末娘に渡し、そ
の仕事は完了する。ところが末娘は、続けて昔世話になった
女性を探してくれと紅に依頼。そしてその依頼は、紅を怪し
げな裏の世界へと導いて行く。
一方、ロレックスに付着していたのが人肉との報告を受けた
安斎は、密かに紅に携帯電話を持たせ、彼の動向を監視し始
めるが…
紅は前作でも女の情に絆されて殺人の濡れ衣を着せられそう
になるが、本作でもその展開はほぼ同じ。ただし前作の経験
から紅の方も多少は考えを巡らせているのだが…、それでも
巻き込まれてしまうのが、紅=男のサガという捉え方のよう
だ。

出演は、末娘役にグラビアアイドルの佐藤寛子が扮する他、
過去の石井作品でヒロインを務めた大竹しのぶと井上晴美が
母親役と姉役を演じている。特に佐藤は、題名通りの体当た
りの演技を見せている。他に宍戸錠、津田寛治、旧真中瞳の
東風万智子らが共演。
脚本は10年ほど前に完成していたのだそうで、その脚本を竹
中に送ったが、なかなか応えてもらえなかったそうだ。それ
が約10年目に竹中側からコンタクトがあり、同時に角川映画
のプロデューサーが興味を持って製作が実現したとのこと。
石井監督にとっては正に念願の映画化になったようだ。
それから、これは物語には直接関係しないが、映画の中でチ
ラリと映る調書で紅の本籍地が神奈川県平塚市になっていて
びっくり。監督は宮城県出身のはずだが、何でそんな住所を
選んだんだろう?


『蛮幽鬼』
昨年12月紹介『蜉蝣峠』と同じ「劇団☆新感線」によるゲキ
×シネ作品。本業は双葉社の編集者という劇団座付作家中島
かずきによる脚本から、劇団主宰のいのうえひでのりが演出
した舞台をHD撮影により再現している。
10年間、異国の監獄島に囚われていた男が脱獄に成功する。
目指すは自分を陥れた男たちへの復讐。その思いを胸に帰国
した男を待っていたのは、国の中枢で権力を揮う自分を陥れ
た男たちの姿と、唯一つの希望だった昔の婚約者が国王の妃
となっていた姿だった。
こうして陥れた男たちだけでなく、昔の婚約者や国王、国家
をも復讐の対象とした壮絶な男の復讐劇が開幕する。
これに、主人公を助けるいつも笑顔のまま人を殺す希代の殺
し屋や、主人公と行動を供にする南の島の王女、さらに国家
の体制を左右する宗教の存在や国の中枢での権力争いなどの
要素が絡まって、壮大なスケールの物語が展開される。
いや、物語の発端では単純な復讐劇かと思って観ていると、
劇の後半ではこれが国の問題にまで発展し、さらに真に陰謀
を図った者の存在など、驚くほど壮大な物語になって行く。
そして…結末には思わず胸を打たれてしまった。

主演は、本作で作品賞と共に演劇雑誌の2009年度チャートで
第1位に輝いたという上川隆也。共演は稲森いずみ、大衆演
劇の早乙女太一、それに堺雅人。他に橋本じゅん、高田聖子
ら「劇団☆新感線」のメムバーが脇を固めている。
以前の『蜉蝣峠』では群舞の迫力が見事だったが、本作の見
所は壮絶な殺陣。これも一種の群舞ではあるが、かなり高速
の剣戟シーンには目を見張った。特に堺の、いつも笑顔のま
まの殺陣と言うのも、表情が変えられないのはかなりの苦労
が有ったと思われる。それがゲキ×シネでは大画面のアップ
で観られるのだ。
ただこの種の演劇では常にあることだが、挿入されるアドリ
ブの時事ネタというのが撮影から数ヶ月も経つとかなりきつ
くなるもので、僕はそこで興を削がれた。ただし同じ客席に
いた演劇ファンらしい人たちには受けていたようで、この辺
をどう判断するか…。
少なくとも記録された映像はこの先の何10年も上映される訳
で、その歴史的価値をどのように捉えるかも難しい問題にな
りそうだ。


『武士の家計簿』
幕末から明治維新、そして新政府成立の混乱期にあって、加
賀藩御算用者だった猪山家に残された詳細な家計簿を基に、
当時の下級武士の生活を再現した歴史ドラマ。
御算用者とは、藩の会計を管理する主計官のような役職。百
万石と言われた加賀藩ではその数約150人が日々算盤を片手
にその任に当たっていた。しかし刀の代りに算盤を手にする
その職は、武士の間ではどちらかと言うと蔑まれる役職だっ
たようだ。
そんな中で猪山家は、代々御算用者を務め、特に幕末期には
江戸屋敷の御算用者も兼任しての功績から70石の知行(領地)
を拝領するなど、それなりの家柄を保っていた。しかし武士
の体面や天保の大飢饉などの影響で猪山家の財政は逼迫。つ
いには年収の2倍の借財を持つにいたってしまう。しかもそ
の利息は年1割8分と現代のサラ金並だった。
という事態に猪山家では家族会議を開き、家財を売って借財
を減らすことを決め、武士の体面を捨てて財政の立直しを図
る。そして詳細な入拂帳(家計簿)が付けられることになる。
その家計簿は天保年間から明治中期までが現存しているそう
だ。
そんな家計簿を基に再現された下級武士の生活。そこには、
苦しい中でも暖かい彼らの生活、無駄を省く工夫などが見え
てくる。

という物語が、磯田道史の原作から2008年『GOTH』など
の柏田道夫の脚色、森田芳光監督により映画化されている。
出演は、堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、西村雅彦、草笛光
子、中村雅俊。
物語の基になっているのは家計簿だけだが、猪山家は明治政
府でも海軍の主計監を務めるなど混乱期を堅実に生き抜いた
一家のようだ。そんな一家の生活ぶりが丁寧に再現されてい
る。
また映画では、加賀友禅屋加賀蒔絵、金沢漆器、九谷焼など
加賀藩の伝統工芸品が画面に彩りを添え、特に友禅染めの川
洗いのシーンなどは美しく描かれていた。またその友禅の技
が物語のキーの一つになっているのも素敵だった。
それに五珠算盤が使われている様子や、鶴亀算や円周算など
の算術を記した書物がチラリと写るのも楽しめた。


『玄牝』
2007年のカンヌ国際映画祭に出品された『殯の森』がパルム
ドールに次ぐグランプリを獲得した河瀬直美監督による出産
をテーマにしたドキュメンタリー。河瀬監督には2006年にも
自らの出産をテーマにした『垂乳女』という作品があり、そ
れに続く作品のようだ。
愛知県にある吉村医院という産院にカメラを持ち込み、そこ
で出産の準備をする女性たちの姿が記録されている。その中
には、夫が行方不明になっているという女性や、定期検診で
胎児の心音が消えていたという女性、出産予定日を過ぎた女
性なども登場する。
僕自身が家内が妊娠したときにはラマーズ法による自然分娩
を採用し、お産の学校に同行して学んだり、上の子の時には
出産の立ち会いも経験した者で、その点では興味を持って作
品を鑑賞した。
その吉村病院では、自然分娩を前提として、妊婦には薪割り
や壁拭きなどの古典労働を奨励し、その力によって自然な出
産が行われるように指導しているとのことだ。その一方で妊
婦同士の意見交換なども行われる。そんな様子が撮影されて
いる。
ただし、上記のように出産について学んだ目から見ると、出
産で痛みを訴える妊婦になぜ合理的な無痛のための呼吸法を
採用していないのか疑問に感じたし、さらには吉村医師が平
然と産褥死は神の意志と言い放っているのにも驚かされた。
もちろんどんなに手を尽くしても不慮の死はあるものだが、
それを迎える前から肯定するは全く理解ができない。正に、
『孤高のメス』で「目の前で救える命を救わないのは罪」と
しているのと対極で、このような医者には掛りたくないとい
う感じもした。
正直には、作品の全体で神という言葉が繰り返されるなど宗
教じみたところがあって、宗教というのは信仰している人に
は都合が良いが、それを周囲から見るとばかばかしいと言う
か哀れさも感じる。そんな感じもする作品だった。
まあ鰯の頭も信心で、それを信じるならそれでも良いが、最
後は救急車で別の病院に搬送しなければならないような場所
に自分の家族は預けたくない。そんな感じが、僕がこの作品
を観ての結論だったようだ。
少なくとも、いくら自然のままとは言え、薄暗い灯火の下で
の出産は不測の事態を招来する恐れがあるし、幼い子供の出
産の立ち会いには僕は賛成しない。それに作品的には、前半
に登場した女性たちと後半のエピソードとの繋がりが、1人
以外で不明確のように感じられた。

        *         *
 今回の製作ニュースは、何か状況がよく判らなくないが、
MGMから1963−65年に放送されたSFアンソロジー“The
Outer Limits”の映画版を製作するとの発表が行われた。
 同様のアンソロジーでは“Twilight Zone”が、1985年に
スピルバーグらによって映画版を作られ、今もそのリメイク
の計画もあるようだが、“The Outer Limits”についても、
テレビでリメイクシリーズが製作されるなど、人気を保持し
ている作品だ。
 その作品に今回は、『ソウ』シリーズを手掛けたパトリッ
ク・メルトン、マーカス・ダンスタンとの脚本の契約が発表
されたもので、今年の秋以降にその製作に向けた準備が開始
されるとのことだ。
 それにしてもMGMは、現在も資産売却のオークションの
期限が再々延長されて、現在は9月までとなっているようだ
が、それに対して今回の計画ではライオンズゲイトやスパイ
グラス、サミットなどのプロダクションに呼びかけて資金を
調達しているとのことで、かなりの綱渡りで会社運営が行わ
れているようだ。
 今回の作品がしっかりと製作されることを期待したい。
        *         *
 最後に、実は前回の記事を少し修正しているが、前回紹介
の「青春H」シリーズで、製作担当の円谷エンタープライズ
というのは、あの円谷プロダクションとは関係のない別会社
とのご指摘をいただいた。
 それで、記事自体を書き直そうかとも思ったが、以前にも
何回か同様の紹介をした記憶もあり、それをいまから訂正し
ても意味がないように思える。そこで、ここに事実だけ記載
して個々の訂正は行わないことにした。手抜きのようではあ
るが、検索だけでは見つからない記事もあり、全てに対処で
きる保障もないので、以後は気を付けることにして、これで
ご容赦お願いします。



2010年08月01日(日) making of LOVE、ゴーストキス、ANPO、美人図、ナイト&デイ、メッセージ、キャッツ&ドッグス、純情+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『making of LOVE』
「青春H」と題し、セックスと青春という括りのみで気鋭の
監督に作品を作らせるという企画シリーズ第1弾の1作目。
2006年に沢尻エリカ、小栗旬の共演で『オトシモノ』という
作品のある古澤健監督が、原案・脚本・編集・出演も兼ねて
制作した。
映画製作の裏を撮影するmaking videoを模した構成で、フル
サワ監督が自主製作していた作品の失敗に至る顛末がちょっ
と捻った展開も含めて描かれる。その作品は、撮影途中で主
演男優が失踪して頓挫したというのだが…
監督のフルサワ達は「愛」をテーマにした自主映画の制作を
進めていた。しかしヒロインを務める女優が見付からず苦慮
していたところで、1人のすれ違った女性に目が留まる。そ
の女性はヴィデオカメラで連れの男性を撮影していた。
そこで映画にも興味の在りそうな彼女をフルサワは仲間に引
き込もうとするのだが…。彼女が撮り貯めたVHSテープを
デッキを所有する主演男優の部屋に持ち込んだとき、彼女は
意外な行動を始める。
一方、VHSテープの検証を続けたフルサワは被写体に知人
の男性がいることを発見し、その知人に会いに行くが、その
男性は何故か相手の女性のことを一切記憶していないことが
判明する。
その間、主演男優と女性はつきあいを続けていたが、男優が
セックスを迫っても彼女はやんわりと拒否を続けていた。そ
して主演男優は、過去の家出事件のことを思い出す。それは
彼の記憶では3日間の家出だったが、家族は1年いなかった
と証言していた。
と言った具合に、徐々に不思議な雰囲気が漂い始める作品に
なって行く。
映画の製作は円谷エンターテインメントが担当しているが、
別段それが要求されている訳ではないようだ。でもまあそれ
的なお話にはなっている。ただ、後半の合成シーンは円谷に
してはちょっと…という感じで、その辺はもう少し何とかし
て欲しかったところだ。(と書いたら、あの円谷とは無関係
の別会社との指摘があった。時間が出来たら修正します)

主演は、グラビアモデルの藤代さや。グラビアモデルの初脱
ぎというのも本シリーズのコンセプトであるようだ。他に、
2003年3月紹介『武勇伝』に出ていたという川上洋一郎、日
本代表と戦ったこともあるバトミントン選手ということで話
題になった元AV女優の佐伯奈々らが共演している。

『ゴーストキス』
「青春H」と題し、セックスと青春という括りのみで気鋭の
監督に作品を作らせるという企画シリーズ第1弾の2作目。
2009年7月紹介『白日夢』で愛染恭子との共同監督を務めて
いた[いまおかしんじ]の脚本・監督・編集による作品。
キャバクラ嬢の住むマンションの一室がお話の舞台。ある晩
のこと彼女が帰宅すると突如地震に見舞われ、その時から部
屋でおかしなことが起こり始める。部屋のトイレから見知ら
ぬ女子高生やその他の男たちが出現してきたのだ。
しかし彼らは部屋から外には出られないようで、玄関を飛び
出してもトイレから戻ってきてしまうという状況。しかも主
人公の同棲相手の男にはその姿は見えない(手を出せば物理
的な衝撃は与えられる)ようだった。
そして彼らは勝手に主人公の部屋を物色し、酒を見付けて宴
会を始めたりしてしまうが、その一方で主人公の同棲相手の
浮気の証拠を彼女に報告したりもする。そんな中で最初に現
れた女子高生には何か心に秘めた思いがあるようで…
つまり出現したのはあの世の幽霊で、地震のせいであの世と
この世が繋がってしまったということ。ただしその現象には
タイムリミットがあって、それまでに女子高生がこの世に残
した思いを遂げられるか…という展開になる。
まあお話は有り勝ちだが、それなりの捻りもあって楽しむこ
とはできた。ただ監督にはもう少し演技指導を期待したいも
の。本作では何となく演技がぎこちなくて、それで興を削が
れる感じがあったのは残念なところだった。

出演は、AV女優の春野さくらと、ネットで調べるとかなり
際どいDVDにも出演している白井みなみ。他には舞台俳優
や俳優養成所出身者、それに『白日夢』の出演者などの男優
たちが脇を固めていたようだ。
まあ、演技の訓練を受けていない女優を使う難しさはあるの
だろうが、そこを何とかするのも監督の仕事だろう。それに
白井にはもう少し大胆な演技が期待されたはずで、その辺は
多少もったいなくも感じた。

なお、今回紹介した「青春H」の2本は、8月28日から9月
10日まで東京のポレポレ東中野にて交互に日替りレイトショ
ウで上映され、その間にイヴェントの開催も予定されている
そうだ。

『ANPO』“ANPO: Art×War”
京都生まれで日本育ち、現在はニューヨーク在住で日本映画
の英語字幕の翻訳などを手掛けているリンダ・ホーグランド
という女性が、1960年安保闘争を中心に戦後の日米関係を検
証したドキュメンタリー。
僕自身が1970年安保世代で、全学連が占拠封鎖した母校に機
動隊が突入したときには、新聞部の連中に誘われて校舎の屋
上から戦況の記録などもしていた人間だったもので、従って
安保にはそれなりの思い入れもあり、興味深く作品を観るこ
とができた。
その本作では、1960年前後に描かれた絵画の検証に始まり、
『仁義なき戦い』や『火垂の墓』などのフィルムクリップ。
さらに60年安保闘争を撮影した記録映像なども織り込んで、
当時を記憶する人々へのインタヴューなどが綴られる。
そのインタヴューには、横尾忠則や加藤登紀子といった人た
ちを始め、現在の沖縄で基地問題に取り組んでいる住民や、
横須賀どぶ板通りで風俗の写真を撮り続けている女性カメラ
マンなども登場する。
その一方で本作では、安全保障条約そのものの問題点につい
ても検証し、A級戦犯だった岸信介が首相になって日米安全
保障条約を改訂・恒久化するに至った経緯や、それを実現し
たCIAの働きなどにも言及する。
ただこれだけの内容を89分に納めたのはかなり駆け足の感じ
もして、安保についてそれなりの知識を持っている我々世代
の観客にはこれでもよいが、作品の中にも登場する修学旅行
生のような子供たちに理解して貰えるかどうかは多少心配に
なった。
とは言え、日本のマスコミがほとんど口を噤んでその実態を
検証することもない安保の問題を作品にしてくれたことは嬉
しかったし、一方、監督自身が言っているアメリカ人の理解
とは異なる占領の実態などを彼らの国民に知らせる効果も本
作にはあるものだ。
「戦後は終わった」と言っておきながらアメリカ軍の占領は
継続され、自動延長だけのはずがいつのまにか巨額の「思い
やり予算」を提供している。その辺の安保の問題点はもっと
追求すべきだが、それは日本人のやるべき仕事だろう。
なおテーマ音楽として、武満徹作曲の「死んだ男が残したも
のは」が繰り返し流れるのも印象的だった。

『美人図』“미인도”
朝鮮画壇でエロチシズムの祖とも呼ばれ、18世紀末の朝鮮王
朝に実在した宮廷絵師・申潤福(シン・ユンボク)の姿を描
いた官能歴史絵巻。
韓国で国宝に指定されている画集「惠園傳神帖」の作者とし
ても名高いシンは、1758年の生まれで、一旦は宮廷の図画署
に勤めるがすぐその職を追われたとされる他には、公式記録
にほとんど記述が無く、謎に満ちた人物なのだそうだ。
そのシン=女性という大胆な仮説を立て、シンの生誕250年
に当たる2008年に発表された小説が評判を呼び、本作もその
仮説に乗って描かれた作品ということになる。
主人公は、4代続く宮廷絵師の一家に生まれた末娘。彼女に
は類希な絵師の才能があったが、その時代に絵師は男の仕事
で女がなることは出来ず。ましてや宮廷絵師の役職に就くな
ど有り得ない話だった。
ところが彼女はある事情から宮廷絵師の道を目指さねばなら
なくなる。そこで彼女は、男装で女であることを隠し、当代
切っての宮廷絵師・金弘道(キム・ホンド)に弟子入り。宮
廷の図画署にも出入りして才能を発揮して行く。
その一方で彼女は市井の風俗にも興味を持ち、その姿を好ん
で描くようになる。その行動の中で彼女は恋を知り、それが
彼女の絵を一層深めて行くことになる。こうして「惠園傳神
帖」が描かれるが…
実際にシンが女性であったかどうかは別として、本作では、
「惠園傳神帖」の中の何点かについてその絵が描かれた経緯
などを再現しながら巧みな物語が構築されて行く。それは確
かに絵師が女性であった方が辻褄が合う様にも見える。
そんな物語が、豪華絢爛に再現された18世紀朝鮮王朝の様子
と、かなり激しい官能描写と共に描かれる。因に韓国ではこ
の官能描写も大きな話題になったようだ。

主演は、2004年『下流人生』などのキム・ミンソン、共演は
2006年『モダン・ボーイ』などのキム・ナムギル。他に、キ
ム・ヨンホ、チュ・ジャヒョン等が出演している。監督は、
2006年5月紹介『僕の、世界の中心は、君だ。』などのチョ
ン・ユンスが担当した。
なお本作は、2008年に本国で公開され4週連続興行第1位の
大ヒットを記録したもので、日本では8月21日から開催され
る「韓流シネマフェスティバル2010」でオープニング作品と
して上映された後、9月25日から一般公開される。

『ナイト&デイ』“Knight and Day”
『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズと、『チ
ャーリーズ・エンジェル』のキャメロン・ディアスの共演、
昨年6月紹介『3時10分、決断のとき』のジェームズ・マン
ゴールド監督によるロマンティック・アクションドラマ。
ふと乗り合わせた旅客機でスパイ同士の闘争が始まり、居合
わせた女性がそれに巻き込まれる。そして彼女の窮地を救っ
た男は、彼女を世界を股に掛けた冒険アクションへと導いて
行く。
前回紹介した『ソルト』が元々は男性主人公だった時に主演
をオファーされていたクルーズが、それを蹴って主演したこ
とでも注目されていた作品だが、どちらも007ばりに強烈
なアクションが展開されるスパイ・アクションだった。
ただ、どちらかと言うと『ソルト』の主人公が単独行動で、
007やジェイスン・ボーンに似ているのに対して、本作で
はヒロインとのバランスもあり、その辺がクルーズにこちら
を選ばせた理由とは考えられる。
でも、いずれにしても荒唐無稽とも言えるアクションが連続
して描かれる作品ということには変りはないのだが…
ただ本作では、それに加えてウイチタ、ニューヨーク、ボス
トンのアメリカ国内から、セビリアの闘牛祭や古都ザルツブ
ルグでの闘争劇、アルプスを走る列車内での格闘にアゾレス
諸島など、ヨーロッパ各地でのロケーションも楽しめる作品
になっている。

共演は、今年1月紹介『17歳の肖像』などのピーター・サ
ースガード、2006年11月3日付で紹介した『リトル・ミス・
サンシャイン』などのポール・ダノ、それに2008年12月紹介
『ダウト』でオスカー助演女優賞の候補になったヴィオラ・
デイヴィス。
ところで、これは映画の本編とは関係ないが、この試写会は
東京西銀座の有楽座で行われた。ところが上映中に会場の前
方ドアから出入りする連中がいて、扉が開く度に廊下の照明
が目に入り鑑賞の妨げになった。
他にもスクリーン裏に光が入っていて影が写っているのも気
になった。一般興行が同じかどうか判らないが、もしそうな
らこれには観客は文句を言うべきだろう。

『メッセージ そして、愛が残る』“Afterwards”
2004年にフランスで出版され、120万部突破のベストセラー
を記録したギヨーム・ミュッソ原作の小説“Et Après...”
からの映画化。
主人公のネイサンは敏腕弁護士だった。しかし現在の彼は幼
い息子を予期せずに亡くし、以後は自らの心を閉ざし妻と娘
も遠避けるようになっていた。そんな彼の許を1人の男が訪
れる。その男は人の死期を予見しているようで、彼の訪れに
死期を予感したネイサンは…
人間の死期を知ることの出来る能力を持った人たちが、それ
によって人々の最後を優しく導いて行く姿を描いた物語が展
開される。
映画の原題から、1998年の是枝裕和監督作品『ワンダフルラ
イフ』の英題名が“After Life”だったことを思い出した。
どちらも人の死の前後の悲しみを和らげようとする人々の姿
を描いた素晴らしい作品だ。
人の死が避けられないものとして、いつか自分も同じ時を迎
えたら、こんな風に見守られていたら良いなあとも思ってし
まう。ただ僕の時にはもう少しはっきりと伝えて貰えたらい
ろいろしたいこともあるのに…とは思うが、それはルールと
して出来ないようだ。
人の死というのは常に尊厳を持って描かれなくてはいけない
と思うが、本作はその点でも素晴らしい作品と言える。
ただし本作では、物語のプロローグにかなりトリッキーな展
開があって、途中までその意味の把握に戸惑った。でもそれ
が最終的な物語の結論にも繋がっていたようで、その点でも
納得することが出来たものだ。

出演は、2005年7月紹介『真夜中のピアニスト』などのロマ
ン・デュリス、2008年12月紹介『チェンジリング』などのジ
ョン・マルコヴィッチ、テレビシリーズ『LOST』や、今
年2月紹介『ハート・ロッカー』などのエヴァンジェリン・
リリー。
脚色監督は、フランス人で長編は3本目のジル・ブルドス。
撮影は、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』や昨年6月
紹介の是枝監督作品『空気人形』なども手掛けた台湾出身の
リー・ピンビンが担当している。

『キャッツ&ドッグス 地球最大の肉球大戦争』
    “Cats and Dogs: The Revenge of Kitty Galore”
2001年公開『キャッツ&ドッグス』の続編。
太古より、犬と猫は人間のペットNo.1の座を争って戦いを繰
り広げてきた。その戦いは、人間の知らないところで彼ら独
自の科学技術の進歩も生み、地下には巨大な基地も設けられ
…という設定で、犬と猫が大活躍するアクション作品。
基本的な物語の中心は犬で、前作の時は明確に犬=善、猫=
悪という図式だった。その設定が本作ではちょっと捻りが加
えられている。それをどう取るかは、今の世界情勢の中では
多少微妙な感じもするところだ。
それは兎も角、今回もまた人間の目に触れないところで続い
ている犬と猫との熾烈な闘争が描かれる。しかも本作では、
前作ではそれなりに描かれた人間側のドラマがほとんど無く
て、ほぼ全部が犬と猫のお話になっている。
その今回のお話では、キティ・ガロアという元エージェント
猫が人間にも反旗を翻し、まずは犬を狂わせてペットの座か
ら追いやる作戦を準備する。この事態に猫側の陣営も危機感
を強め、対キティの作戦を開始するが…というもの。
そして物語の中心は、警察犬のディッグス。彼は勇猛果敢だ
がちょっとやり過ぎての失敗が続き、再訓練を受けることに
なっている。それは相棒の人間と別れて行われる過酷で辛い
ものだった。そしてディッグスが署内のケージで訓練場への
移送を待っていると…
突然、目の前の床が開いてエージェント犬のブッチが出現。
ディッグスは彼に誘われてエージェント犬の道を目指すこと
になる。その最初の任務はキティ・ガロアの追跡だったが…
ここでもディッグスは独自の能力を発揮してしまう。
それでも助っ人のシーマスやキャサリンの協力でガロアを追
い詰めて行く。

動物たちの声優は、ジェームズ・マースデン、ニック・ノル
テ、クリスティーナ・アップルゲート、カット・ウィリアム
ス、ベット・ミドラー、ロジャー・モーア、マイクル・クラ
ーク・ダンカン。いつもながらの名優揃いだが、それにして
もモーアの役名が、レーゼンビーというのは…?
他に実写の出演者では、クリス・オドネル。それに何度も犬
猫の活動に驚かされる少女役で今年3月紹介『フェーズ6』
に出ていたキーナン・シプカが出演していた。
実は前作では人間が関わっている分、戦いの跡を修復するお
掃除部隊のようなエピソードもあってそれも面白かったもの
だが、今回はそのような遊びはあまり無くて、ほぼ純粋にア
クションストーリーが展開している感じだ。それが今の観客
の要望なのかな?

(本作には8月15日付で追加の記事があります)

『純情』
先月紹介した『愛の言霊』と同様のBLコミックスの映画化
で、本作は富士山ひょうたという女流漫画家の原作に基づい
ている作品。
主人公はフリーライター。彼は高校生の時に同級生に初恋を
感じたが、あまり話もしないまま彼は転校していった。そん
な主人公が取材で出会ったのは、なんとその彼。しかも取材
の後で親密なつき合いに誘われる。
こうして再会し、愛を深め始めた2人だったが、2人の周囲
にはそれぞれ彼らのことを気に掛けてくれる人たちがいて、
その人たちとの関係が2人の間にも微妙な影を落として行く
ことになる。
基本的にBLというのはよく判らないが、全員が同性の三角
関係というのは、確かに従来の男女の恋愛を描く作品とは違
う展開を生むものにはなっているようだ。そんなことに何と
なく納得しながら作品を観ていた。

監督は『愛の言霊』と同じ金田敬。脚本は、『星空のむこう
の国』などの小林弘利の原案ストーリーからテレビ『アザミ
嬢のララバイ』などの小鶴が女子向けに仕上げている。
因に金田と小林は2008年8月紹介『春琴抄』でも組んでいた
が、そのコンビネーションは確かなものだ。この2人に『愛
の言霊』の脚本家の金杉弘子を加えた3人の名前が出ている
と、この手の作品では安心して観ていられる感じがする。
主演は、テレビ『仮面ライダー響鬼』や2005年5月紹介『逆
境ナイン』に出演していた栩原楽人。彼はNHK『竜馬伝』
で沖田総司を演じているそうだ。それに今年2月紹介『月と
嘘と殺人』などに出演の高橋優太。共演は2009年公開『カイ
ジ』などの篠田光亮。
他に、2008年の昼メロ『愛讐のロメラ』というのに出ていた
伊佐美紀、以前『おたっくビーム』という番組でキャスター
を務めていたという渡邊まき等が出演している。
プロローグで主人公のいるバス停に停車する路線バスの窓に
マイクの風防が写り込んでいた。後半の同様のシーンでは、
カメラがもう少しバスに寄って写り込みが無いようにされて
いるが、監督も気になったのかな。次からは注意してもらい
たいものだ。

        *         *
 製作ニュースは1つだけ。
 昨年6月21日付でも報告した“Total Recall”のリメイク
について、監督にレン・ワイズマンの起用が発表された。
 ワイズマンは、元は映画の美術部門の出身で1997年『メン
・イン・ブラック』や1998年『GODZILLA』なども手掛けてい
たが、2003年妻のケイト・ベッキンセールと共に作り上げた
『アンダーワールド』の監督で評判となり、その後は『ダイ
・ハード4.0』なども手掛けている。
 リメイクの脚本は、以前にも報告したように前回紹介した
『ソルト』のカート・ウィマーが執筆しており、期待ができ
そうだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二