井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2010年06月27日(日) トイ・ストーリー3/3D、最後の忠臣蔵、石井輝男/映画魂+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『トイ・ストーリー3/3D』“Toy Story 3”
すでに先月に一度紹介したが、3D(日本語版)での試写を
観たので改めて報告しておこう。
物語は前回も書いたので省略して、今回は特に3Dの効果に
関して報告したい。と言ってもあまり特別ではなくて、ディ
ズニー/ピクサーの3Dでは、『カールじいさん』と同様、
特に飛び出してくる効果は考えられていないようだ。
その点で言うと、先の『トイ・ストーリー1/2』の3Dと
同じ…と言うか、『1/2』と比較してもまったく違和感が
ないのは、正に最初からシリーズ全体が3Dで設計されてい
たということなのだろう。
ところで、最近週刊誌の広告で「3Dが映画を駄目にする」
といった聞いた風な論調を観かけたが、元々人間は3Dを認
識できるように作られている訳で、それを自然に表現してい
るだけの3Dが、映像を記録する映画を駄目にと言うことは
有りえない。
もちろん、3D効果だけを狙った歪な作品や、3D撮影のた
めの製作費の増大などは問題としてあるだろうが、映画界の
人間の全てがそれほどの無能者でもないし、その辺は自然淘
汰もされて、その中から映画としての3Dが共存共栄して行
くことは間違いない。
なお以前の3Dが定着しなかったのは、システム的にいろい
ろ問題のあったものだが、近年のものはそれが解消されてい
る。だから映画人がこぞって挑戦している。その辺の見極め
もされているということだ。
そんな意味でも、今回の『トイ・ストーリー3/3D』は、
そのお手本になりうる作品と言えるものだ。
ただし併映の『デイ&ナイト』に関しては、短編作品なので
もう少し何か実験的な試みが有るかと期待したが、切り抜き
の画面と言うだけで特別な感じのものはなく、間違いなく3
Dではあるが、多少の物足りなさは残った。まあそれが併映
作品ではあろうが。
ここから話は変わるが、実は先日大阪は天保山のサントリー
IMaxに出掛けて3D作品を1本観てきた。以前にも書いたと
思うが、ここは多分日本最大のIMaxスクリーンが設置されて
いるところで、映像ファンにはぜひ一度は訪れて欲しい場所
だ。
そこでその日に上映中の海洋物の作品を観たのだが、その作
品では目の前の1mくらいのところに被写体が有るという正
に3Dを堪能できた。しかし、さすがにそれが連続すると目
が非常に疲れるということも再認識した。
IMaxの広大なスクリーンでは、他の部分も観るようにすれば
疲労は軽減されると思うが、やはり目の前に被写体が寄って
くるとそこに注目してしまう。そういう問題には馴れている
はずのIMaxでもこれなのだから、この辺の検討はして欲しく
感じたところだ。
今回の記事の後半は取り上げた作品と関係なかったが、今回
は2度目の紹介なので、3Dの全般に関して少し書かせても
らった。


『最後の忠臣蔵』
2003年に『ラスト・サムライ』を製作したワーナーが改めて
日本の侍の姿を描く作品。池宮彰一郎の原作に基づき、吉良
邸討ち入りに加わらなかった男と、四十七士の中にあって唯
1人切腹しなかった男が辿る『忠臣蔵』の後日談。
赤穂浪士による吉良邸討ち入りから16年が経った頃の物語。
寺坂吉右衛門は、討ち入りに加わりながらもその際の大石蔵
之助の指示で切腹をせず、その後は諸国を巡って亡き浪士の
遺族たちに小判を届けていた。それは大石が残された人たち
の辛苦を和らげるために準備したものだった。
そんな寺坂の旅も終りを迎えようとしていた頃、彼は立ち寄
り先で1人の男の姿を観る。その男は討ち入りの前夜に逐電
した瀬尾孫左衛門に相違なかった。しかし寺坂には、自らの
親友であり大石に直接仕えていた瀬尾が、なぜ逐電したのか
理由が判らなかった。
その瀬尾は、彼のことを「孫左」と呼び捨てにする若い女性
と暮らしていたが、表向きは古美術商として地方に埋もれた
美術品を都で売り捌くなどの商いをしていた。そして、彼は
新たに手に入れた壺をとある豪商に売ろうとしていた。
一方、寺坂は大石の又従兄弟で公家に仕える進藤長保の許に
身を寄せていたが、ある日、豪商の招きで流行の人形浄瑠璃
を見物に行き、そこで1人の若い女性に目を留める。しかし
女性に付き添っていた瀬尾がいち早く寺坂に気付き2人は芝
居半ばで帰ってしまう。
ところがそこに同席していた豪商の息子がその女性に焦がれ
るようになり、彼女を探し始める。こうして徐々に寺坂と瀬
尾の居場所が近付いて行く。何故、瀬尾は討ち入りの前夜に
逐電したのか、16年間の秘められた謎が解かれる。
昔、『忠臣蔵』を観ていて、討ち入りを果たした浪士たちが
雪の江戸市中を行進する姿に何故か涙が止まらなくなってし
まったことがある。この作品でも最後の行列のシーンでは見
事に泣かされてしまった。
いまさら忠義だの何だのというものに心が動かされるかどう
か判らないが、少なくとも主人公たちが艱難辛苦の果てにそ
の信念が全うされる姿には、それだけで感動を呼ぶものがあ
るのだろう。そんなある種の根元的な感動がうまく描かれた
作品のように思えた。

主役の2人の侍を演じるのは役所広司と佐藤浩市。共演は、
桜庭ななみ、片岡仁左衛門、安田成美、伊武雅刀。他に、田
中邦衛、風吹ジュンらが脇を固めている。
監督は、テレビシリーズ『北の国から』などの杉田成道、脚
本は、1981年『セーラー服と機関銃』などの田中陽造。ベテ
ランの味が存分に発揮された作品と言えそうだ。

『石井輝男/映画魂』
一般的には『網走番外地』の監督として、SF映画ファンに
は『鋼鉄の巨人/スーパー・ジャイアンツ』の監督として、
さらに『ねじ式』などカルト映画の監督としても勇名を馳せ
ながら、2005年に急逝した石井輝男監督の映画人生を綴った
ドキュメンタリー。
1924年東京麹町に生まれ、戦前の東宝撮影部に入社。終戦後
の東宝争議で誕生した新東宝の助監督部に移籍、成瀬巳喜男
らの許で名助監督として名を馳せ、監督に昇格して『鋼鉄の
巨人』などを発表する。さらに東映に移籍して『網走…』な
どを監督。
しかし東映京都撮影所では、『徳川女刑罰史』など一連のエ
ログロ作品で助監督らのボイコットにも遭ってしまう。その
後は一時仕事を止めた時期もあるが、回顧上映などで再評価
が高まり、自らプロダクションを興して2001年まで映画監督
を続けたとのことだ。
という石井監督の映画人生が、助監督当時からの仲間や出演
俳優らの証言で綴られる。その証言者には、丹波哲郎、三ツ
矢歌子(以上音声のみ)から、佐野史郎、ひし美ゆり子、賀
川ゆき絵、砂塚秀夫、さらに造形の原口智生まで、いろいろ
な世代の人々が登場する。
本作監督は、映画評論家で監督のダーティ工藤。工藤は生前
の石井監督とも親交があったそうで、その間に撮影されたメ
イキングフィルムなども合わせて本作が作られている。さら
に石井監督が生前に撮った土方巽の舞踏の様子なども収めら
れている。
実は、試写の前に工藤監督の挨拶があって、その中で「石井
さんは人徳はなかったけど、エピソードは多かった」と言う
ような発言があり、そこで場内爆笑。そんな楽しい雰囲気が
作品の中にも溢れていた。
昔の映画人にはいろいろ破天荒な人も多かったようだが、石
井監督はその中の1人なのだろう。そんな古き良き時代の映
画界のことも垣間見られる作品だ。特に、高倉健との関りな
どは聴いているだけで嬉しくなる。
なお公開は、石井監督の命日の8月12日から東京渋谷のユー
ロスペースで行われ、さらに本作の公開に併せて7月31日か
ら同館4階のシネマヴェーラで石井監督作品の特集上映も行
われるそうだ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、まずは気になるこの作品から。
 MGMの資産売却の遅れで延期されている『指輪物語』の
前日譚“The Hobbit”の映画化で、『指輪』3部作を手掛け
て今回は製作に廻るとされていたピーター・ジャクスン監督
が、本作でも監督する可能性が示唆されている。
 この映画化に関しては、『ヘル・ボーイ』などのギレルモ
・デル・トロ監督が2008年から監督として参加。ジャクスン
らと共に脚本の執筆にも当っていたものだが、先に書いたよ
うに製作の一翼を担うMGMのトラブルで製作開始の時期が
確定できないまま、今月初めに報告したようについに降板を
決意してしまった。
 その後は、実は『ハリー・ポッター』を撮り終えたばかり
のデイヴィット・イェーツ監督や、『第9地区』のニール・
ブロムカンプ監督の名前も取り沙汰されていたのだが、結局
のところ撮影時期が確定できないのでは彼らのスケジュール
を拘束しておく訳にも行かず。そこにジャクスン自身なら問
題はないだろうという状況になってきているようだ。
 とは言えジャクスン監督には、すでにスティーヴン・スピ
ルバーグ監督が第1部の“The Adventures of Tintin: The
Secret of the Unicorn”を撮り終えた“Tintin”シリーズ
の続編の計画もあり、その他にも2、3本の計画が進行中と
のことで、おいそれと新しい計画を割り込ませるのも難しい
状況のようだ。
 いずれにしてもMGMの去就が決らなければ先には進めな
いものではあるが、ワーナーからは2012年12月の第1部公開
と、2013年12月の第2部公開は変更なく発表されているとの
ことで、それを実現するためには遅くとも今年12月撮影開始
のスケジュールは動かせない状況とのこと。果たしてそれま
でにMGMのトラブルが解消されるかどうか、ジャクスン側
は製作準備は着実に進めていると言っているようだが…。
 因に、ジャクスンが監督する計画のシリーズの続編“The
Adventures of Tintin: Red Rackham's Treasure”(仮題)
の公開も2012年に予定されているそうだ。
        *         *
 お次も前日譚の計画で、『不思議の国のアリス』の後日譚
となる『アリス・イン・ワンダーランド』を大ヒットさせた
ディズニーから、今度はL・フランク・ボウム原作『オズの
魔法使い』の前日譚を描く“Oz, the Great and Powerful”
という計画が発表され、その監督にサム・ライミの名前が挙
げられている。
 物語は、1939年の映画化でも知られるエメラルド・シティ
の支配者=オズの魔法使いが、実は元サーカスの猛獣使いの
男で、その男が竜巻と共にオズの国に現れ、そこで「偉大で
強力な魔法使いオズ」に成り上がって行くまでを描くという
もの。このオズの設定はボウムの原作にも基づくものだが、
そこからの展開を、2000年にジェット・リー主演で映画化さ
れた『ロメオ・マスト・ダイ』などのマイクル・カプナーが
オリジナルの脚本として執筆したもののようだ。
 そしてこの脚本を『アリス』も手掛けた製作者のジョー・
ロスが取り上げ、実は計画は今年4月頃に始動して、その時
にはサム・メンデス、またはアダム・シャンクマンの監督、
主演にはロバート・ダウニーJr.が期待されていた。
 その計画に今回はライミ監督の名前が登場してきたものだ
が、ライミには先にソニーで進めていた“Spider-Man 4”の
計画が頓挫し、監督からの降板が発表されていたもので、正
に渡りに船という感じでもある。ただしこの発表は決定では
ないし、さらにダウニーJr.の主演はあるのかなど、流動的
な面は数多く残されており、これから製作までにはまだ紆余
曲折もありそうだ。
 なお、『オズの魔法使い』に関連した計画では、今年3月
15日付第183回でも紹介したように、いろいろな計画が進行
中のもので、それらがタイミングよく実現したら一大ブーム
が巻き起こる可能性もある。その切っ掛けとするためにも、
今回のディズニーの計画には期待がもたれるものだ。
        *         *
 続いては続編の情報を2つ。
 まずは、2007年公開された『ゴースト・ライダー』の続編
“Ghost Rider 2”が進められることになり、主演のニコラ
ス・ケイジと、監督には、2007年日本公開された『アドレナ
リン』と2009年の続編を手掛けたマーク・ネヴェルダイン、
ブライアン・テイラーの監督チームが交渉中と発表された。
 この計画に関しては昨年9月27日付でも紹介しているが、
前作では製作総指揮として参加していたデイヴィッド・S・
ゴイヤーに原案が依頼され、その原案からやはりゴイヤー原
案のテレビシリーズ“Flash Forward”などを手掛けるスコ
ット・ギンプルとセス・ホフマンのコンビによる脚本が準備
されていた。
 そして今回はその脚本を持って、ケイジとの出演交渉が行
われているものだが、元々この企画はケイジが中心で進めら
れていたから出演の期待は高いものの、実は前にも書いたよ
うにマーヴェルとの映画化権の契約期限が今年11月に迫って
いるとの状況もある。その一方でケイジには、8月からの撮
影でニコール・キッドマンと共演の“Trespass”というアク
ション・アドヴェンチャー作品の出演契約が結ばれていて、
その間隙を縫っての契約はかなり厳しい条件になりそうだ。
 因に、オリジナルで相手役を務めたエヴァ・メンデスには
今回の出演は期待されていないそうで、問題はケイジのスケ
ジュール次第となるようだが。
        *         *
 そしてもう1本は、今年日本公開された『シャーロック・
ホームズ』で、この続編の計画についてはすでに紹介してい
るが、そこに登場する予定の宿敵モリアティ教授を誰が演じ
るかに注目が集まっている。
 その第1候補はダニエル・デイ・ルイスのようだが、ブラ
ッド・ピットが期待されているという情報もあり、さらにハ
ヴィエル・バルデム、ゲイリー・オールドマン、ショーン・
ペンといった名前も挙がっているようだ。いずれにしても、
シリーズが継続すれば、3年に1作程度のペースでスケジュ
ールが必要になる可能性もあり、そう簡単には決められない
のが難しいところだ。
 なお“Sherlock Holmes 2”の製作には、ガイ・リッチー
監督の許、ロバート・ダウニーJr.、ジュード・ロウ、レイ
チェル・マクアダムスの再共演で、2011年12月の全米公開が
予定されており、そこから逆算すると、撮影は遅くとも今年
の秋には開始される必要がある。従ってモリアティの配役も
早急に動き出しそうだ。
        *         *
 最後に、SF映画界では最も歴史のある賞として知られる
アメリカSF、ファンタシー&ホラー映画アカデミー選出の
サターン賞が発表されたので報告しておこう。
 と言っても今年の受賞は、『アバター』がSF作品、主演
男優(サム・ウォーシントン)、主演女優(ゾーイ・サルダ
ナ)、助演男優(スティーヴン・ラング)、助演女優(シガ
ニー・ウィーヴァー)、監督(ジェームズ・キャメロン)、
脚本(ジェームズ・キャメロン)、音楽(ジェームズ・ホー
ナー)とプロダクションデザイン、特殊効果の10部門を独占
し、特にキャメロンは製作者としての作品賞、さらに特別賞
と併せて4個の受賞に輝いている。
 その他の部門では、各作品賞は、ファンタシーが『ウォッ
チマン』、ホラーが『スペル』、アクション/アドヴェンチ
ャーが『イングロリアス・バスターズ』、アニメーションは
『モンスターvsエイリアン』、海外作品は『第9地区』が受
賞した。
 また、若手演技賞を『ラブリーボーン』のシアーシャ・ロ
ーナンが受賞した他に、衣裳賞を『ウォッチマン』、メイク
アップ賞を『スター・トレック』が受賞している。
 何と言っても『アバター』の大勝と言ったところだが、あ
れだけの規模の作品で、興行成績も抜群と言うことではこれ
も仕方のないところだろう。内容的には、SFファンとして
はいろいろ引っ掛かるところもある作品ではあったが…。



2010年06月20日(日) 星砂の島のちいさな…、トラブル・イン・H'ウッド、パラレルライフ、瞳の奥の秘密、セラフィーヌ、30 ROCK、ネコを探して+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『星砂の島のちいさな天使』
NHK教育『天才てれびくん』にテレビ戦士として出演して
いた飯田里穂と、共にD-BOYSの牧田哲也、三上真史共演で、
沖縄県八重山諸島の竹富島を舞台にしたちょっとファンタス
ティックなお話。
主人公は、星砂の浜としても知られる竹富島のカイジ浜近く
で、民宿を営む母親を手伝っている若者。兄は島の役場の観
光課で観光客の誘致に悪戦苦闘しているが、その弟は父親の
遺品のカメラを片手に、島の自然や島民の笑顔を撮り続けて
いる。
そんな兄弟がある日、浜で若い女性が倒れているの見つけた
ことから物語は始まる。その女性は、彼女がそこに居た経緯
や素性を語らなかったが、兄弟の母親は彼女を民宿で働かせ
ることにする。そんな彼女に人魚の噂が立ち始める。そして
兄は、彼女を観光誘致に利用しようと考えるが…
兄が考える島の振興のための観光誘致と、島の生活を守ろう
とする人々との対立や、その島に心身の平安を求めてやって
くる人々の話。その背景にはニライカナイの伝説も存在して
いる。

上記以外の出演者では、美保純、大地康雄、プロレスラーの
長州力。さらに矢口真理、前田憂佳、相島一之、津田寛治ら
が脇を固めている。
監督は、2009年4月紹介『海の上の君は、いつも笑顔。』な
どの喜多一郎。監督は2004年のデビュー作もモーニング娘。
の新人3人が主演した『星砂の島、私の島』という竹富島が
舞台の作品だったとのことで、監督にとっての永遠のテーマ
のようだ。
でもまあ本作は、主演の3人が上記の顔ぶれということで、
作品もそれ相応の作品と言えるところだ。何も小難しいとこ
ろもないし…。観光誘致と島の生活など、それなりの問題提
起はあるが、それをどうしようなどと言うものでもない。
ただ美しい島の風景と島の住人たちの温かい心が、三線や地
元民謡などの癒し系の風物と共に、これでもかとばかりに描
かれている。特に悪いところも何も見当たらないが、折角の
女性の設定がこうであるなら、何かもう一捻りぐらいは有っ
てもいいかなあ…とは思ってしまう作品だった。

本作は、東京のキネカ大森、池袋テアトルダイヤで6月19日
に公開された後、全国順次公開される。

『トラブル・イン・ハリウッド』“What Just Happened”
1987年『アンタッチャブル』や2008年5月紹介『イントゥ・
ザ・ワイルド』などのベテラン映画製作者アート・リンスン
が自ら執筆した本を脚色、1985年『ヤング・シャーロック』
や1998年『スフィア』などのバリー・レヴィンスンが監督し
た作品。
VanityFair誌選出の「活躍する映画プロデューサー30人」に
選ばれた主人公が、その直前の2週間に体験した怒濤の物語
が展開される。
その2週間前、主人公は新作映画の覆面試写会に立ち会って
いた。その作品はショーン・ペン主演のノアール物らしいの
だが、映画は結末のワンシーンで観客の総スカンを食ってし
まう。しかし会場には監督は来場しておらず、会社幹部の矛
先は主人公に向けられる。
一方、芸能紙の一面にはベテランエージェントの不慮の死が
報じられていた。そんな事態の中、次回作の準備を進める主
人公に、今度は次回作の主演を契約したブルース・ウィリス
が駄々を捏ねているとの連絡が入る。
さらに主人公は、離婚調停中の妻には未練が有るらしく何か
と懐柔策を試みるが、いつもその直前で緊急の電話が入って
しまう。しかも、彼女のベッドの下から自分のものでない紳
士用の靴下を見付けて…
他にも、前妻との間の高校生の娘を学校に送っていこうとす
ると、娘が目を真赤に泣き腫らした跡を発見してしまうなど
…兎に角、映画プロデューサーの生活は公私に渡って大忙し
だ。果たして主人公はこれらの難局を乗り切れるのか。

主演はロバート・デ・ニーロ、映画会社の女社長役にはキャ
サリン・キーナー、離婚調停中の妻役にはロビン・ライト・
ペン、前妻との娘役にはクリスティン・スチュアート。さら
にスタンレー・トゥッチ、ジョン・タトーロなど。もちろん
ペンとウィリスは本人登場だ。
何ともしっちゃかめっちゃかな状況の中で、それでも時間だ
けが着実に進んで行く。そんな映画界の舞台裏が面白く可笑
しく描かれた作品で、特にペンの淡々とした物腰や、ウィリ
スの暴れん坊ぶりなどは本当にそうなのかな…?とまで思っ
てしまうところだった。

映画ファンには正しく豪華なプレゼントという作品だろう。

『パラレルライフ』“평행이론”
2人のアメリカ大統領リンカーンとケネディの生涯が100年
を隔てて符合する。そんな同じ人生を歩むものが存在すると
いう「平行理論」に基づいて、韓国司法界を描いた作品。
主人公は36歳の若さで裁判所の部長判事に就任する。しかも
美しい妻と可愛い1人娘にも恵まれ彼の人生は順風満帆だ。
しかし彼が下す判決は、適法に厳格すぎるために関係者の反
感を買っていることも事実だった。
そんな中で彼は「平行理論」を唱える学者が起こした事件の
裁判を担当する。その学者は、自らが過去の学者と同じ人生
を歩んでいると主張し、犯行を認めないでいたのだが…
一方、主人公は30年前に自分と同じ36歳で部長判事に任命さ
れた人物が居て、彼の人生が主人公と一致していることを教
えられる。そして、その部長判事の一家が後に惨殺されたと
いう事実も…。果たして主人公は彼の家族を救うことができ
るのか。
SFファンとしては、仮に「平行理論」が成立するとして、
30年前の出来事なら詳細に調べれば次の事態を予測して回避
できるのではないかと考えてしまうところだが、その点でも
この作品が上手く描かれていることに感心した。
しかもそれが、韓国特有の問題に根差しているところも上手
いと思えるし、さらにそれによって現在の事件が生み出され
て行くという因果関係も、物語を「平行理論」だけに終らせ
ない巧みさを感じたものだ。

主演は『チャングムの誓い』などのチ・ジニ。その周囲を、
2006年11月紹介『Mr.ソクラテス』に出演のイ・ジョンヒョ
ク、2008年3月紹介『ブレス』に出演のハ・ジョンウらが固
めている。
監督は、本格的な映画作品は初めてというクォン・ホヨン。
恐らくは脚本も書いていると思われるが見事な作品だ。因に
物語の展開にはエッシャーの絵画を参考にしたとのことで、
2004年1月紹介『殺人の追憶』などの撮影監督キム・ソンミ
ンと共に作り上げた映像も見事だった。
ただクライマックスの展開では何か1シークェンス落ちてい
る感じで、自分で辻褄は合わせることができるが、ちょっと
戸惑いは感じてしまった。些細なことでは有るのだが…。


『瞳の奥の秘密』“El secreto de sus ojos”
今年のアメリカアカデミー賞で外国語映画賞に輝いたアルゼ
ンチンの作品。本国アルゼンチンのアカデミー賞では13部門
を受賞したそうだ。
物語の開幕は1999年が背景。初老の男性がかつての職場だっ
たブエノスアイレスの裁判所を訪れる。そこで検事の職にあ
る女性に面会した男性は、25年前の殺人事件のことを小説に
書いていると告げる。それは彼が精算しなければならない過
去の出来事だった。
その事件は、アメリカの大学で法学を修め判事補の資格を持
つ女性が、彼=主人公の所属する裁判所書記課の上司として
着任した日に起きた。各書記課の持ち回りで事件を担当する
仕組みで主人公が順番に当ったのは、目を背けたくなるよう
な惨状の暴行致死事件。
ところが彼が訪れた犯行現場で、警察は直ちに不審者を割り
出し、容疑者として連行した上で犯行を自白をさせる。だが
それは明かな拷問で引き出した虚偽の自白だった。そのため
容疑者は彼の指摘で釈放されるが、以後の捜査はほとんど行
われなくなってしまう。
その一方で主人公は、被害者の昔の写真から1人の不審な男
を割り出す。しかしその捜査も進展することはなかった。こ
うして1年が経った頃、主人公は通勤客でごった返す駅のベ
ンチで人々を監視する被害者の夫の姿を観る。
その夫は、主人公の割り出した男がブエノスアイレスに通勤
していると考え、毎日の就業後に各駅を回って監視を続けて
いるのだという。その姿に心を動かされた主人公は、助手と
共に多少の法を犯してまで捜査を続け、ついにその男を発見
逮捕するのだが…
25年前の1974年は、ファン・ペロン大統領の病死によってア
ルゼンチンの政情が不安に陥れられている頃であり、政界な
どに腐敗が蔓延る中、犯罪者にも常に正しく罰が下されると
は限らなかったのだ。
そして25年の歳月が流れ、主人公は過去の過ちを検証するた
めに小説を書き始めたのだが、それは彼自身の秘めた心情も
甦らせて行くことになる。
先に書いた韓国作品と同様、過去の暗い時代の陰が色濃く漂
う作品。そんな時代を生きざるを得なかった人々の苦悩が甦
るような作品だ。しかし本作では、その中に大いなる解決も
描かれている。その一部は苦渋に満ちたものでもあるが。

出演は、リカルド・ダリンとソレダ・ビジャミル。それぞれ
50代と40代の男優と女優のようだが、25年に跨がる物語を特
殊メイクなども駆使して見事に演じ切っている。
監督は、一時アメリカに渡ってアメリカのテレビ界で活躍、
デイタイムエミー賞などの受賞歴も有るというファン・ホセ
・カンパネラ。脚本は、エドゥアルド・サチェリの原作から
作者自身と監督が共同で脚色している。
2時間9分の上映時間をたっぷりと映画に浸らしてくれる。
恐らく今年のベスト10に選ぶであろう作品だ。

『セラフィーヌの庭』“Seraphine”
20世紀初頭のフランス画壇でアンリ・ルソーと並ぶ素朴派の
画家と称された女流画家セラフィーヌ・ルイの波乱に満ちた
生涯を描いた作品。
物語の始まりは1912年。すでに48歳のセラフィーヌは、家政
婦として働きながら天使の啓示を受けたと称する絵画の製作
を続けていた。それは、絵の具も手作りの板をカンバスにし
た作品で、普通とはちょっと違う画風を持っていた。
そんなある日、彼女が掃除などをしている屋敷の貸間に1人
の男性が入居してくる。彼の名前はヴィルヘルム・ウーデ。
ドイツ人の美術品収集家だったウーデは、その土地の美術愛
好家との交流も行うが、その中で1枚の絵に目を留める。
その絵こそは、彼が入居した屋敷の家政婦セラフィーヌの手
になるものだった。こうしてセラフィーヌの才能に気づいた
ウーデは、彼女の生活を支援しようとするのだが…第1次世
界大戦や1930年の世界恐慌などが2人の関係を翻弄して行く
ことになる。
セラフィーヌの絵画は映画の中でも何点か紹介されるが、一
部には女ゴッホとの評価も有るようで、その大胆な構図や色
彩にはかなり圧倒された。ルソーと並ぶ素朴派という評価も
有るようだが、実際映画の中でもウーデはその呼び名を嫌っ
ており、単純な素朴派とは言えない作風のものだ。
また映画の中で彼女は、賛美歌を歌いながら製作をしていた
り、天使の啓示を受けたとの台詞も有って、これは正にその
種の天才が描いた作品なのだろう。そんな彼女が、一度は脚
光を浴びて至福の時を迎えたりもするのだが…

主演は、2001年『アメリ』や2008年6月紹介『ベティの小さ
な秘密』などに出演し本作でセザール賞を受賞したヨランド
・モロー。共演は、今年1月紹介『アイガー北壁』にも出演
していたウルリッヒ・トゥクール。
脚本と監督は俳優出身のマルタン・プロヴォスト。彼はこの
作品でセザール賞の脚本賞を受賞した。また2009年のセザー
ル賞では、この他に作品、撮影、作曲、美術、衣裳デザイン
の各賞も受賞して、最多7部門に輝いている。
なお、映画の中では、20世紀初頭のフランス郊外の緑溢れる
自然の風景も美しい作品だった。

『30 ROCK/サーティー・ロック』“30 Rock”
2006年からアメリカはNBCネットワークで放送されている
30分間のコメディシリーズ。そのシリーズが日本ではDVD
で紹介されることになり、シーズン1の第1話と第3話、第
4話のサンプルが送付された。
物語の舞台は、ニューヨーク5番街・ロックフェラープラザ
の30階(30 ROCKefeller)にスタジオを構えるNBC放送。
そのスタジオで製作・放送されている公開ヴァラエティ番組
“The Girlie Show”の製作現場が描かれる。

シリーズの主人公リズ・レモンを演じるのは、原案、脚本、
製作総指揮も務めるティナ・フェイ。同じ30 Rockのスタジ
オで製作される『サタデー・ナイト・ライヴ』が出身の彼女
は、自身を投影したようなキャラクターを生き生きと演じて
いる。因に、ティナはエリザベスの略称でもあるようだ。
共演は、今年アカデミー賞の受賞式でも活躍したアレック・
ボールドウィン。他に、『寝取られ男のラブ♂バカンス』に
出演のジャッジュ・マクブレイヤー、『Gフォース』で声優
を務めていたトレイシー・モーガン、『ダレン・シャン』な
どのジェーン・クラコフスキーらが脇を固めている。
物語の骨子は番組製作の裏方たちのすったもんだとなるが、
親会社からパラシュート派遣された訳の分からない上司の存
在など、一般のビジネスマンにも共感できるお話も多く描か
れる。また男性陣の中で孤軍奮闘する女性主人公の姿に共感
する人も多そうだ。
また送付された3話には無かったが、番組のゲストという形
での多数の各界スターの登場も楽しめるようだ。なお、上記
のアルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』のカンパネラ監督も、
本作シーズン1の第6話の演出を手掛けている。
DVDはシーズン1の全21話が2Boxに分けられて8月25日
と9月、シーズン2の全15話は1Boxで10月に発売が予定さ
れている。また以前に紹介した『ブレイキング・バッド』は
シーズン1が6月16日に発売され、シーズン2も8月18日に
発売されるとのことだ。
どちらもアメリカの現状を見るには面白い作品。特に『30
ROCK』では『セックス・アンド・ザ・シティ』とは違っ
たニューヨークも楽しめそうだ。

『ネコを探して』“La voie du chat”
フランス在住の女性ドキュメンタリー監督ミリアム・トネロ
ットによる猫と人間の関係を描いた作品。題名からは1996年
のセドリック・クラピッシュ監督作品『猫が行方不明』を思
い出したが、本作はドキュメンタリーだった。
映画の発端ではアニメーションで黒猫が鏡の中に消えるシー
ンが描かれ、次いでグレーの猫と主人公の女性も鏡の世界に
入り込む。
その彼女は、鏡の中で黒猫を追い掛けながら時空を超える旅
をし、昔のフランスのサロンで猫を賛美する作家や画家たち
に出会う。また、現代の日本やアメリカにおける猫事情や、
民営化されたイギリス国鉄と猫との関わりなど、様々な猫の
様子が綴られる。
特に日本のパートでは、水俣病の発見に関った猫の話や、和
歌山県の鉄道で駅長を務めるタマ。さらに猫カフェの様子、
猫に針を打つ獣医や大学教授のコメントなども紹介され、作
品のかなりの部分を占めている。
一方、アメリカのパートでは、猫の首にカメラを取り付けて
知られざる猫の行動を記録したり、老人ホームで逝く人を送
る猫の話。さらにホテルの客室で宿泊客を持て成す猫の姿な
どが写されている。
そしてイギリスのパートでは、民営化以前は信号ケーブルな
どのネズミによる被害を防ぐために職員として雇われていた
猫。その猫たちは民営化後には無駄としてリストラされてし
まうが、今でも猫を懐かしむ人々の姿や猫の効用などが報告
される。

内容としては、特に日本の猫事情がかなりの部分を占めるの
で、すでに知っていることも多かったが、単に事象を写すだ
けでなくその背景や影響などにも言及していて、それなりの
作品にはなっていた。
猫好きの監督が丁寧に描いている感じの作品で、猫好きの観
客なら我が意を得たりという感じもするだろう。
なお、監督の前作は社会の腐敗を扱った硬派のものだったよ
うだが、その際にも状況説明などにアニメーションが使用さ
れていたようで、これが監督の常套手段のようだ。次回作は
東京の猫事情を描く作品がすでに編集中とのことで、それも
面白そうだ。
        *         *
 今回の製作ニユースは、まずはちょっと面白いこんな情報
から。
 6月18日にハワイで開始されたシリーズ第4作“Pirates
of the Caribbean: On Stranger Tide”の撮影に関連して、
製作者ジェリー・ブラッカーマーのツイッターに撮影現場の
写真などがアップされ始めている。同様のツイッターでは、
以前“Iron Man”の撮影時にジョン・ファヴロー監督が実施
したものも有るようだが、製作者の立場だとまた違った側面
が観られそうだ。BruckheimerJBという名前でつぶやいてい
るようなので興味の有る方はご覧ください。本文は英語だけ
ど文章は短いので分り易いし、添付の写真などを観るだけで
も面白いものだ。
        *         *
 お次は続報で、ワーナーが権利を所有し、2007年8月15日
付の第141回でも紹介した故スティーヴ・マックィーン企画
のアクションアドヴェンチャー作品“Yucatan”の製作に、
同社公開の『シャーロック・ホームズ』が好調のロバート・
ダウニーJr.と妻スーザンが主宰する映画製作会社チーム・
ダウニーの参画が発表された。
 この企画の関連では、以前の情報には監督のMcGや、『ハ
リー・ポッター』シリーズ製作者のデイヴィッド・ヘイマン
らの名前も挙がっていたが、いずれもうまく行かなかったよ
うだ。その企画が、実は昨年『シャーロック…』の撮影中に
製作者のスーザンの許に届けられ、今年初めにチーム・ダウ
ニーとワーナーとの間で優先契約が結ばれたのを機に、正式
の計画として取り上げられることになったものだ。
 因にスーザンは、元はジョール・シルヴァのプロダクショ
ンの重役として映画製作に携わり、ロバートとは2004年1月
紹介『ゴシカ』など、『シャーロック…』も含めて5作品で
共同作業をしているとのことで、先に進んでいる“Sherlock
Holmes 2”と共に本作の計画も進むことになるようだ。
 なお、“Yucatan”の内容に関しては、2005年7月1日付
第90回をご参照ください。
        *         *
 最後に新しい情報を1つ。日本では今年4月にようやく公
開された『ファンボーイズ』の原案脚本を執筆したアーネス
ト・コリンの新作で、北米ではランダム・ハウス社から出版
が決っているSF小説“Ready Player One”の映画化権が、
争奪戦の末に6桁($)でワーナーと契約され、2008年10月紹
介『ワールド・オブ・ライズ』などを手掛けたドナルド・デ
・ラインの製作で映画化を進めると発表された。
 物語は、落ちこぼれの若者がヴァーチャル世界での一攫千
金を狙ってゲームに参加するが、そのゲームの創始者が死去
したことから、その遺産がゲームの勝者に与えられることに
なって…というもの。『アバター』と『マトリックス』、そ
れに『チャーリーとチョコレート工場』が一緒になったよう
な作品…と紹介されていた。
 実はコリンの前作は僕はあまり評価できなかったが、今回
は自分で脚色も手掛けるとのことで、真価を観たいものだ。



2010年06月13日(日) ヤギと男と男と壁と、終着駅、老人と海、スープ・オペラ、オカンの嫁入り+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ヤギと男と男と壁と』“The Men Who Stare at Goats”
ジョージ・クルーニー、ユアン・マクレガー、ジェフ・ブリ
ッジス、ケヴィン・スペイシーの共演で、日本では文春文庫
に収録されているノンフィクション『実録・アメリカ超能力
部隊』からインスパイアされて作られた真実に基づくドラマ
作品。
1980年代のアメリカ陸軍に密かに存在したとされる第一地球
大隊(映画の中では新地球軍)を題材に、当時のアメリカが
やろうとしていた超能力兵士の育成の顛末が、それを取材す
るジャーナリストの行動と共に描かれる。
主人公は地方新聞の記者。ある日、彼は超能力者を自称する
男を取材し、そこで陸軍に創設された超能力者を集めた部隊
の情報を得る。しかしその時はあまり真剣でもなく聞いてい
たのだったが…
やがて彼は個人的な事情からイラク取材を敢行。そこで出会
った男の名前は、彼が以前の超能力者の取材で記憶した名前
だった。そしてその男と行動を共にすることを決めた主人公
は、男の奇妙な言動と共に徐々に超能力部隊に実体に迫って
行く。
元々はアメリカのタブロイド紙に、「アメリカ海軍が潜水艦
との交信用にテレパシーの研究を行っている」との記事が掲
載され、それを真に受けた当時のソ連軍が超能力の研究を開
始。それに対抗してアメリカ軍も研究を進めたのだそうだ。
それは、「ジェダイ計画」の別名も持ち、愛を武器に地球に
平和をもたらすために創設されたというのだが…。部隊は隊
員間の確執などで内部から崩壊。そして主人公が出会ったの
は、部隊の中でもNo.1と言われた超能力の持ち主だった。

何とも有り得そうな、でも如何にもインチキ臭いお話だが、
それを最初に書いたような錚々たる顔触れで描いてしまう。
しかもこの顔触れというのが、実はバットマンにオビワン・
ケノービ、スターマンにレックス・ルーサーを演じた人たち
なのだから恐れ入る。
ジョン・カーペンター監督の『スターマン』なんて、プレス
資料に書いてあっても知る人も少ないだろうし(ブリッジス
はこれでオスカー候補になった)、他の人たちではオビワン
以外はあまり触れられてもいないようだったが、ファンなら
押さえておきたい作品だ。
脚本は、イギリス生まれのコメディ脚本家のピーター・スト
ローハンが担当。監督には、元俳優でクルーニーの盟友でも
あり、クルーニー監督の『グッドナイト&グッドラック』で
は共同脚本も手掛けたグラント・ヘスロヴが本作でデビュー
を飾っている。
本作は、直接的な笑いを狙ったコメディではないが、全体が
実にユーモラスに物語が描かれる。しかもSF映画ファンに
は『スター・ウォーズ』との絡みなども面白く感じられる。
その上に共演者の顔触れも堪能できる作品だ。

『終着駅』“The Last Station”
『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などのロシアの文豪
トルストイの晩年を描いたドイツ・ロシア合作作品。
ロシアの伯爵家の出身で上記の作品でも世界的な人気を得た
トルストイは、晩年は多くの人々にその名声を謳われたが、
その一方でトルストイ主義と呼ばれる禁欲的な自然主義を唱
え、その信奉者によるコロニーなども運営されていた。
そのトルストイ主義者のリーダーからの信任を受けた1人の
男性が、秘書として作家の許に向かうところから物語は開幕
する。その男性には、特に伯爵婦人と呼ばれる作家の妻の言
動を逐一記録するように、との密命も与えられていた。
その男性は、作家の邸宅の近くに創設されたコロニーに宿舎
を与えられ、そこから作家の家に通い始めるが、そこで彼が
観たものは、お互いに信頼し愛し合いながらも激しく言い争
いを繰り広げる作家夫妻の姿だった。
やがてその夫妻の関係に決定的な出来事が訪れ、作家は82歳
にして家出を実行する。そしてそれは作家にとって生涯最後
の旅となる。
トルストイの妻は、その作家の死去の際の経緯などから悪妻
との評判が高いようだ。しかしこの物語では作家夫妻の真実
の姿が描かれている。それは家族を愛し夫を愛する妻の姿で
あり、そこには悪妻と呼ばれるような事実はない。
なお本作の物語は、ジェイ・パリーニという作家の小説に基
づいているが、残されている当時の文献などから類推して、
真実はこのようなことと解釈できるようだ。そんな夫婦の愛
憎劇が描かれる。

出演は、本作でオスカーとゴールデングローブ両賞の主演女
優賞候補になったヘレン・ミレンと同じく助演男優賞候補に
なったクリストファー・プラマーが作家夫妻を演じ、他に、
ジェームズ・マカヴォイ、ポール・ジアマッティらが脇を固
めている。
なお台詞は全て英語になっているが、この演技陣を観ればそ
れで充分だろう。作中で複数の言語が使われる訳でもなく、
敢えて言語に拘わる必要のない作品だ。
脚本と監督は、2004年2月紹介『卒業の朝』などのマイクル
・ホフマン。比較的寡作な監督だと思うが、本作でもじっく
りと構えて見事な演出を見せてくれる。因に撮影は、ヤース
ナヤ・ポリャーナのトルストイの邸宅などでも行われている
ようだ。

『老人と海』
沖縄県与那国島在住の老漁師が、サバニと呼ばれる小型船を
使った漁で、100kgを超えるカジキを追う姿を追ったドキュ
メンタリー。1988年に撮影を開始、1990年に完成公開された
作品の再公開。
題名はアーネスト・ヘミングウェーの名作と同じだが、この
映画の製作者は、名作の舞台のハバナ港の緯度が与那国島と
ほぼ同じで海流なども似ていることに着目、その島での老漁
師の姿を追ったドキュメンタリーを企画したのだそうだ。
そして監督には、名作の作者と同じアメリカ人で、先に広島
が題材のドキュメンタリー作品『劫火』でアカデミー賞候補
になっていたジャン・ユンカーマンを招請、当時すでに唯一
のサバニ漁の継承者だった糸数繁氏を追ってアジア版『老人
と海』が撮影された。
しかし、撮影の開始された1988年は14年ぶりとも言われる不
漁でカジキは不発。漁の撮影は2年間に及び、さらに島での
祭りの様子や編集から生じた追加撮影などで、結局完成まで
に製作者が企画を立ててから5年が掛かったとのことだ。
作品の中では、最後に171キロの大物を仕留めるまでの正に
伝統の漁法を守る老漁師の姿だけでなく、ハーリー祭や金比
羅祭などの島の文化も紹介され、また老漁師の妻との生活の
様子なども納められている。
因に漁の撮影は、サバニ船にカメラマンが同乗しての撮影と
同時に、大型船を並走させてその船上からの撮影。さらに海
上で船を繋いでカメラマンを移乗させてからの全景撮影など
で行われており、見事なドキュメンタリーが完成された。
音楽は、フォークグループ六文銭の小室等が担当。またその
演奏にはジャズミュージシャンの坂田明、佐藤充彦らが参加
しているのも聞きものだ。
なお、完成された映画の上映会は最初に与那国島で行われ、
次いで沖縄本島でも行われて老漁師は一躍ヒーローになった
そうだ。しかし、東京での上映が行われる1カ月前の1990年
8月、老漁師は漁に出たまま帰らぬ人となった。
恐らくは大魚によって海に引き摺り込まれたのだろうと言わ
れているが、彼の死によってサバニ漁を継承する人もいなく
なったということで、この作品は正にその伝統を記録した貴
重な作品とも言えるのだ。
本作は、7月31日(土)より銀座シネパトス、テアトル新宿、
キネカ大森ほか全国順次公開される。

『スープ・オペラ』
阿川佐和子の原作小説によるちょっとファンタスティックな
ところもある映画化作品。
主人公は、大学の図書館に勤めるちょっと婚期に遅れたかな
と思わせる女性。彼女は両親を幼くして亡くし、その後は古
びた洋館で洋裁店を営む母方の叔母に育てられてきたが、あ
る日、その叔母が結婚して家を出ていってしまう。
こうして孤独を味わいながらの1人暮らしとなった主人公の
許に、庭に入った猫を追ってきたと称する初老の男性と、親
友の女性編集者から紹介された若い男性(編集部のアルバイ
ト)が居候することになるが…
こんな主人公の物語に、勤務先の図書館の館長や占い好きの
大学教授、お隣の老婦人や商店街の肉屋の店主、さらに親友
の女性編集者と彼女が担当する奇癖を持つ男性作家。そして
主人公の通勤路の脇にある廃園した遊園地などが彩りを添え
て行く。
特に、この草に埋もれたメリーゴーランドや観覧車の点在す
る遊園地の風景が素敵で、主人公はその前を通り掛かる度に
「回れ」と掛け声を掛け続けているのだが…
主人公の職場での姿などは現代を感じさせる一方で、職場を
離れてからの生活にはどこか現実離れしたメルヘンな雰囲気
が漂う。それが遊園地の風景に添えられた楽団の演奏などに
よって倍加される。
そんな敢えて現実味を取り除いた映像が、映画の全体を心地
よいものにしてくれている。

出演は坂井真紀、西島隆弘、藤竜也。他に加賀まりこ、萩原
聖人、鈴木砂羽、田山涼成、余喜美子、平泉成、嶋田久作、
塩見三省、入江若葉らが脇を固めている。
また、映画の主役の1つとも言える主人公たちが住む家は、
東京都新宿区中井で築90年に近いという実際の家で撮影。も
う1つの廃園した遊園地は、1979年に開園し、2000年に閉園
した宮城県大崎市の「化女沼レジャーランド」という場所で
撮影されているそうだ。
さらに、そこで演奏される楽団には、日本バンドネオン界の
第1人者といわれる京谷弘司氏を中心にクラシック系のメム
バーが揃えられているとのこと。
また題名にもなっているスープなどの劇中の料理には六本木
に店を持つオーナーシェフが参加。食器やテーブルウェアな
どにも、映画のために製作された特別のものが使われている
とのことで、そんな端々にも気の使われた作品のようだ。
監督は、2005年4月紹介『樹の海』などの瀧本智行。以前の
作品と同様、登場人物の心情が丁寧に描かれた心の温まる作
品だった。

『オカンの嫁入り』
2008年第3回日本ラブストーリー大賞でニフティ/ココログ
賞を受賞した咲乃月音による原作から、2006年11月紹介『酒
井家のしあわせ』の呉美保が脚色監督した作品。前作以降は
TVドキュメンタリーを撮っていた呉監督の劇映画第2作と
なる。
物語は題名の通り、母1人娘1人の母子家庭の母親が、深夜
3時の帰宅で息子ほどの歳のしかも頭髪は金髪リーゼントと
いう若者を連れてきて結婚を宣言。それに戸惑った娘は家を
飛び出さざるを得なくなって…というお話。
実は上の作品と同じ日に試写を観ておやおやという感じにな
った。もちろん具体的な内容は異なるが、物語の発端はかな
り似ている。ただし2人の年齢が上の作品に比べてかなり若
く、その点で上の作品がメルヘンなのに対して本作では多少
生々しい感じのするものだ。
でもまあ、その生々しさが本作の眼目でもあろうし、その点
で呉監督は、このちょっと変わったシチュエーションの物語
を、監督第1作の時と同様に上手く描き込んでいる。特に若
い女性の置かれた状況などは共感を呼ぶところも多そうだ。
ただし男性の自分としては、ここまで生々しいと多少戸惑っ
てしまうところも生じるもので、僕自身の好みで言えば上の
メルヘン作品の方が好きだが、女性の評価は違うかも知れな
いと思える作品だった。

出演は宮崎あおい、大竹しのぶ。他に桐谷健太、絵沢萠子、
國村隼、林泰文、斎藤洋介、春やすこ、たくませいこ、友近
らが脇を固めている。
関西のウナギの寝床のような貸家の様子やそこに集まる人々
の生活などには、東京に住んでいると忘れてしまったような
日本の風景が展開されている。そんなところも描きたかった
のだろうと思わせた。
ただし、主人公の負った深いトラウマが、あれだけのことで
解消されるものか否か、その部分が物語の本筋と違う話から
始まるだけに、このエピソード自体が必要か否か、ちょっと
気にもなった。
その他にも、母親と結婚相手の状況も説明が進めば了解でき
るものにはなって行くのだが、当初はどうしても気になって
しまう。それは恐らく原作からそうなのだろうが、映画では
もう少し何かの工夫が欲しかった感じはした。
ただまあ、全体が女性の目線なのだろうとは感じる作品で、
その辺で僕は消化し切れない部分があったかもしれない。

        *         *
 製作ニュースは今回も続編の情報を4つ程。
 まずは前回に引き続いてシリーズの再開の話題で、この情
報は、2008年12月15日付第173回でも一度紹介しているが、
『飛翔伝説』シリーズ“The Crow”の第5作を『ブレイド』
のスティーヴン・ノリントン監督が手掛ける計画にようやく
ゴーサインが出そうになってきた。
 この情報は、シリーズ製作者のエドワード・プレスマンが
語っているもので、それによると撮影は今年の後半に開始さ
れる計画とのことだ。また撮影は2カ所のロケーションで行
われ、その一方は以前のシリーズと同じデトロイトのような
都市の中心。そしてもう一方は南西部の荒野が舞台になると
のこと。
 従って、ノリントンのコンセプトは以前のシリーズからは
かなり異なったものになりそうだが、特にヴィジュアルに関
しては『アバター』のプロダクションデザインを手掛けたロ
ブ・ストロムバーグが参加して、相当に新規なものが加えら
れているようだ。ただし、本シリーズの元々のコンセプトは
ゴシック調のアクションホラーとされるものだが、ノリント
ン監督の『ブレイド』もオリジナルではゴシック調の雰囲気
が強かったもので、その点での心配は要らないだろう。
 因にプレスマンの発言では、「コンセプトを多少いじって
も、Godzillaのようにはしない」と語っていたようだ。また
以前の情報で、製作には『ハムナプトラ』などのリレイティ
ヴィティ・メディアが参加しており、相応の大作が期待でき
そうだ。
        *         *
 次も第5作で、日本ではいろいろな邦題で公開されて前作
の『ファイナル・デッドサーキット』を2009年9月に紹介し
ている“Final Destination”シリーズの続編が計画され、
その監督にジェームズ・キャメロンの盟友で、『アバター』
などの第2班監督を務めたスティーヴン・クエイルの起用が
発表されている。
 なおクエイル監督はUSCの映画スクールで学んでいたと
ころをキャメロン監督にスカウトされ、1986年『アビス』の
製作に参加したとのことで、その後は1991年『T2』の特殊
効果を手掛けたり、1997年『タイタニック』の第2班監督も
担当しているようだ。また、2005年に発表された海洋ドキュ
メンタリー“Aliens of the Deep”では、キャメロンと共同
監督も務めている。
 その監督が、今回は単独で劇映画を撮るものだが、前作で
3D化されたこのシリーズは、当然本作でも3Dで挑まれる
もので、前作の時はちょっと3D効果に物足りないと感じた
観客としては、『アバター』の実績がどのように発揮される
かにも大いに興味が湧くところだ。
 脚本には、5月に紹介したリメイク版『エルム街の悪夢』
を手掛けたエリック・ハイセラーが起用されており、『エル
ム』でもオリジナルの設定をよく活かしたシナリオ作りがさ
れていたと感じたが、その手腕を今回も期待したい。
 『ゴースト・ライダー』に出ていたドーナル・ローグとい
う俳優に出演の噂がある他は配役等も未発表だが、撮影は、
今年9月13日に開始され、全米公開日は来年8月26日に決定
されている。因に前作の原題では通し番号が取れたり、先頭
にTheが付いたりしていたが、今のところ本作の紹介では、
“Final Destination 5”と呼ばれていたようだ。
        *         *
 続いては第4作の情報で、2002年、2004年、2007年と発表
された“Jason Bourne”シリーズの続編が計画され、“The
Bourne Legacy”と題されたその作品の脚本執筆を、前3作
を担当したトニー・ギルロイと契約したことが報告された。
 このシリーズに関しては、原作者のロバート・ラドラムは
2001年に他界しており、そのラドラムが残したボーン・シリ
ーズは3作までしかなかった。ところが、シリーズの映画化
が開始された後に、エリック・ヴァン・ラストベーダーとい
う作家が、原作者の遺族の許可を受けて続編の執筆を開始。
その作品が、2004年に発表された“The Bourne Legacy”。
またラストベーダーは2007年にも“The Bourne Betrayal”
と“The Bourne Sanction”という2作品も発表している。
 その小説の続編と同じ題名の映画が計画されているものだ
が、ギルロイの契約ではその小説の脚色を求められているの
ではなく、前3作のキャラクターに基づいた別の物語が描か
れるとのこと。これは、『ターザン』の時代から続いている
ハリウッド映画の慣習に基づくもので、映画会社は同じキャ
ラクターの作品を3本作れば、その後はそのキャラクターを
使って自由に続編を作れるとのことだ。そんな権利を駆使し
ての今回の第4作の計画となっている。
 ただし今回の計画では、実は前3作で主人公を演じたマッ
ト・デイモンの再演が決定されていない。この点に関して、
この再演にはデイモン側が前2作を手掛けたポール・グリー
ングラス監督の起用が条件としているのだが、監督には再度
挑戦する気がない、ということのようだ。
 とは言え、ギルロイの脚本が抜群に良ければ、監督もデイ
モンも気が変わる可能性がない訳ではないが、計画を進める
ユニヴァーサルでは2012年の全米公開を期待しているとのこ
とで、彼らの変心を待つには多少時間が短いようだ。それに
同じJBの頭文字で長期に渡って最も成功していると言われ
るシリーズでも、主演俳優は次々と交替している訳で、その
辺はそれほど気にすることでもないとも言えるところだ。
       *         *
 そして最後は、正に続編の計画で、今春公開された『タイ
タンの戦い』に“Clash 2”の計画が発表されている。
 この計画では、元々『タイタン』は1981年作品のリメイク
で、そのオリジナルの物語はほぼ描かれてしまっているもの
だが、今回は2009年9月に紹介したホラー映画『エスター』
のデイヴィッド・レスリー・ジョンスンと、2008年6月16日
付第161回で紹介した“Jonny Quest”の脚本も担当している
ダン・マゼウの2人が脚本を契約して、新たな物語が作られ
ることになっている。
 製作時期などは未定だが、物語ではデミゴッドのペルセウ
スが挑戦する新たな冒険を描くもので、そのため前作に主演
したサム・ウォーシントンの再演は大いに期待されていると
のこと。ただし、監督のルイス・テリエは続編を担当しない
決意だそうで、監督には新たな人材が起用されることになり
そうだ。
 因に今春公開された作品の興行収入は全世界で5億ドルを
突破しているとのことで、ワーナーとしては手堅く稼げる作
品という評価のようだ。また映画の製作は、前作で使われた
2D→3Dのコンヴァージョンではなく、最初から3Dで撮
影する方針とのことだ。



2010年06月06日(日) マエストロ6、北京の自転車、アウトレイジ、ちょんまげぷりん+製作ニュース+検索方法

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はこのサイトに紹介文が載っているか否かの問い合わ
せを受けたので、最初に簡単な検索方法を記述します。
 まず、INDEXページ上部の月名を表示したウィドウで右の
下矢印をクリック、次にキーボード右側のendボタンを押し
てウィドウ右側のlistをクリック。これで過去ページの目次
(ALL LIST)が表示されますので、ページ検索(ctrl+F)
で題名を入れ検索してみてください。ただし、目次の題名は
文字数の制限で短縮している場合がありますので、ご注意く
ださい。
 またはGoogleで、「site:www.enpitu.ne.jp“"井口健二」
と記入し、“"の間に題名を入れると全文の検索ができます。
しかしこの検索は完全ではないようなので、上手く行かない
ときは題名の一部を削るなど工夫をしてみてください。また
この方法では、原題や関係者名などでも検索できます。
 以上で、過去に掲載した紹介文を検索できると思いますの
で、よろしくお願いいたします。なお、お問い合わせの紹介
文に関しましては3月14日付で掲載しておりました。
 では、今週の作品を紹介します。
        *         *
『シネ響/マエストロ・シックス』
           “Silvesterkonzert Berlin 2009”
クラシックコンサートのライヴ映像全6作品が、上記シリー
ズタイトルの許で連続公開される内の第1弾。
昨年12月31日にベルリン・フィルハーモニーで行われたサー
・サイモン・ラトラル指揮、ベルリン・フィルハーモニー管
弦楽団によるジルヴェスターコンサートの模様を収録したH
D映像作品が、5・1チャンネル音響で劇場公開される。
松竹が行っている歌舞伎のライブ映像やソニーのLivespire
に続き、昨年12月紹介したゲキ×シネ『蜉蝣峠』と同じティ
・ジョイの配給で、今回はクラシックコンサートのHD映像
が上映されるものだ。
演奏内容は、ソリストに中国人ピアニストLang Langを迎え
てのラフマニノフ作曲ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18と、
アンコール曲としてショパン練習曲:変イ短調作品25第1番
「牧童」。
さらに、管弦楽団の演奏でチャイコフスキー作曲バレエ音楽
「くるみ割り人形」第2幕と、アンコール曲に同じく「くる
み割り人形」から雪のワルツが児童合唱団のコーラス付きの
構成。因にこのコンサートは、「ロシアン・ナイト」という
コンセプトだそうだ。
撮影カメラは、僕が視認出来ただけでも、1階観客席の後方
に2台と、舞台上の左後方に1台、さらに楽団の後部に左右
に移動するレールに載せられたリモコンカメラと、指揮者の
左すぐ前にリモコン雲台付きの小型カメラ。
また、左右の2階席部分に1台ずつと、3階席の左後方にも
少なくとも1台が設置されていたようだ。因に、エンディン
グのクレジットにはカメラマンの名前が10人はいて、他にも
リモコン担当の人もいたようだったから、本当はもっと多い
のかも知れない。
これだけのカメラを使って多角的に撮影されているから、そ
れはもう見事な映像が展開されるものだ。特にピアニストの
指先をアップで撮影した映像は、多分1階席後方のカメラか
ら望遠で寄せて撮影ているのだろうが、その安定した映像に
も感動した。
作品は、クラシックファンのためにコンサートの舞台を撮影
しただけのものではあるが、映画ファンの目で観ても見事な
映像が堪能できる作品だった。

『北京の自転車』“十七歳的單車”
中国第6世代の旗手とも呼ばれるワン・シャオシュアイ監督
が2000年に完成し、2001年のベルリン国際映画祭で銀熊賞・
審査員グランプリ及び新人男優賞を受賞したものの、本国で
は政府から上映禁止処分を受けたとされる作品。
オリンピック招致が決まる直前の経済発展さ中の北京を舞台
に、地方出身でようやく自転車配達便の仕事を得た若者と、
貧しいけれど著名な高校に進学した少年の生活が、1台の自
転車を介して交錯する。
若者の就職の条件は、高性能の自転車を会社から借り受け、
最初は2割の手取り。やがて自転車代を返し終えたら以後は
5割の手取りとなるシステム。そして1ヶ月を頑張り通した
若者は、後1日で自転車代を返し終えることになる。
ところがその日、集荷に訪れた店内でトラブっている内に、
店先に置いた自転車を盗まれてしまう。しかもそのトラブル
で会社からも馘を言い渡されてしまうが…。復職を懇願し自
転車を探し出したら認めるという了解も得る。
一方の少年には自転車で通学する仲間や女友達もいるが、彼
が高性能の自転車をどこで手に入れたかは謎だ。しかも彼は
その自転車を親に内緒で隠し持っている。そして女友達との
デート中に、若者がその自転車を発見する。
仕事に必要な自転車を盗まれるという設定は、ヴィットリオ
・デ・シーカ監督による1948年の『自転車泥棒』と同じで、
そこからの展開も同作をモティーフにしている感じもする。
しかし本作は、2000年の北京を舞台に見事にその時代と人々
を写し出したものだ。
そしてそこには、主人公となる若者たちだけでなく、若者が
暮らす胡同やそこに隣接して建つ高級アパートの窓辺に立つ
女性の姿など、高度成長の狭間でもがき苦しんでいる民衆の
姿がリアリティを持って描かれている。

出演は、若者役にハルピン出身のツイ・リン、少年役に北京
出身のリー・ピン。共に当時18歳だった2人が新人賞をW受
賞した。他に、『始皇帝暗殺』のジョウ・シュン、『藍宇』
のリー・シュアン、『スパイシー・ラブスープ』のカオ・ユ
アンユアンらが共演。
胡同の路地裏での自転車同士のチェイスシーンなど、見事な
躍動感も感じられ、若者たちの姿がリアルに描き出された作
品。青春映画としても秀作で、このような作品まで上映禁止
にする中国政府の偏狭さにも驚かされた。

『アウトレイジ』
北野武監督最新作。
2007年5月『監督・ばんざい!』を紹介したときには、もう
1本「ギャグ映画」を観せてもらってから「ギャング映画」
への再挑戦を期待したい、とエールを贈った。そのもう1本
は2008年7月紹介の『アキレスと亀』になったが、その次の
ギャング映画にはちゃんと再挑戦してくれたようだ。
物語は、やくざたちの黒社会を背景に、権勢を張る組織とそ
の配下の組、さらに組織には加われていない組などが入り乱
れ、上部組織の思惑に踊らされて血を血で洗う抗争を繰り広
げるが…というもの。
ここで中心になるのは末端の大友組。その上部の池元組は親
分が上部組織・山王組会長の盃を受けている。一方、村瀬組
の親分は会長の盃を受けられないでいたが、池元組の親分と
は兄弟分の契りを交わしている。
そんな組織の相関図の中で、村瀬組の縄張りを巡って組織の
思惑が動きだす。その指示は初は池元組を通じて大友組に伝
えられ、大友組の手下たちが動き始めるが、やがてそれは、
互いの組の撲滅を目指す抗争へと発展して行く。
僕はやくざ映画というのはあまり観ていないが、この作品に
描かれた顛末は観ていて理路整然としているし、それなりに
よく考えて作られていたように思えた。現実のやくざがどん
なものかも知らないが、発砲事件はよくニュースにもなると
ころだ。
ただまあ、最後の方の上部組織内での抗争には多少現実味を
削がれたが、本作のそれまでの展開の延長ではこれも仕方が
ない範囲ではありそうだ。つまり作品の全体はカリカチャラ
イズされたやくざ映画として面白く観られた。

出演は、俳優としてのビートたけし、國村準、北村総一朗、
石橋蓮司がそれぞれの親分や会長を演じ、さらに椎名桔平、
加瀬亮、杉本哲太、三浦友和、中野英雄、塚本高史、小日向
文世らが脇を固めている。
それにしても悪そうな人相の顔触れだが、実際映画の中には
善人は1人も出てこないという究極のギャング映画で、その
コンセプトは面白いし、特に一般人が全く巻き込まれないと
言うのは、観ていてすっきりする作品にはなっていた。
ただし、あまりにすっきりした鑑賞後の感覚が、北野監督作
品にしてはちょっと物足りない感じもするところで、その辺
がカンヌでも評価を得られなかった原因とも感じられる。特
に予定調和のような結末が、もっと常識を覆してほしい感じ
はしたかも知れない。
それと、北野監督の演出は1発撮りが特徴だそうだが、登場
人物の襟のバッジが曲がっていたり、特に前後して立ち並ぶ
大勢の人物を舐めて撮るときにはパンフォーカスが当然と思
うが、カメラマンにそれを要求していないのは、納得できな
いところだ。
死体が息をしているのも論外だが、後半で1人の役者がしっ
かりと息を止めていたのにはかえってほっとしてしまった。
そんな些細なことと言うのだろうが、出来ることをしていな
いのは、やはり観客として納得ができないものだ。


『ちょんまげぷりん』
江戸時代の侍がタイムスリップで現代の東京巣鴨に現れて…
というファンタシー映画。新聞記者出身という作家荒木源が
2006年に発表した「ふしぎの国の安兵衛」の映画化で、原作
は映画に合わせて改題されたようだ。
シングルマザーのひろ子は、勤務先のソフトの開発会社では
クライアントとプログラマーの板挟みに遭い、それでも定時
には退社して保育園に預けた1人息子の友也を迎えに行く。
その生活は大変だが、友也の笑顔が彼女の心の安らぎだ。
そんなひろ子が、その日はちょっと寝坊して友也と慌ただし
く出かける途中、2人は近所のスーパー前で呆然と立ち尽く
す侍姿の男を目撃する。しかしその時は何かの撮影だろうぐ
らいに見過ごした2人だったが…
夕方になり友也を迎えての帰宅中、2人は再びその侍姿の男
に出会い、事情のありそうなその男を部屋に連れて戻ってし
まう。しかしその男の言うことは奇想天外、それを信じると
すれば、男は約180年前の江戸時代からタイムスリップして
きたようなのだ。
こうして何となく2人の部屋に居候することになった男は、
やがて部屋の掃除や洗濯、友也の送り迎えなども担当するよ
うになり、ひろ子は会社での作業も順調にはかどって勤務先
での評価も高まって行く。
ところが、男がとある才能を発揮し始めたことから、事態は
思わぬ方向に発展し…。設定は間違いなくSFだし、物語の
結末に向かってはプロローグにその示唆があることからその
纏め方にも興味が生じて、観客をぐいぐい引きつけて行く感
じの展開になる。
しかし物語の全体は、原作の題名にもあるように「ふしぎの
国」に紛れ込んだ江戸時代の侍を描いたものであって、その
カルチャーギャップなどに主眼がおかれている。従ってこの
作品は、あえてSFというジャンルには拘わらないものだ。
しかもこの作品では、SFとは全く異なる第2のテーマが与
えられていて、それがまた主人公たちの物語に上手くマッチ
ングされており、映像的なインパクトも含めて感心するほど
上手く描き込まれていた。

主演はジャニーズ事務所「関ジャニ∞」の錦戸亮。ともさか
りえと子役の鈴木福が現代の母子を演じ、さらに佐藤仁美、
今野浩喜、忽那汐里らが共演。また堀部圭亮、中村有志、井
上順らが脇を固めている。
異常なシチュエーションの物語だが、それを周囲の人たちが
しっかりと支えている雰囲気も良く、従前のSF映画ではな
かなか味わえない良さも感じられた。
脚本と監督は、2006年1月紹介『ルート225』などの中村
義洋。前作でもSFの設定で描かれた物語がSFとして評価
できるかどうかに疑問を持ったが、本作ではそれが良い意味
で裏切られている感じもする。現代を上手く反映させた部分
も含めて評価したい作品だ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、かなり残念なこの話題から。
 『LOTR』ファンには待ち遠しい“The Hobbit”を2部
作で映画化する計画から、ギレルモ・デル・トロ監督の離脱
が発表されてしまった。
 この計画では、『LOTR』を手掛けたピーター・ジャク
スン監督の製作総指揮の許、2008年4月からは2006年『パン
ズ・ラビリンス』などのデル・トロ監督が参加して、JRR
・トーキンの原作『ホビットの冒険』に基づく第1部の脚色
と、その物語でビルボ・バギンスが手に入れた指輪を巡って
『LOTR/旅の仲間』に繋がる新たな物語が第2部として
創造されることになっていた。
 このため、デル・トロはニュージーランドに居を移して、
ジャクスンのパートナーのフラン・ウォルシュ、フィリッパ
・ボイエンスと共に、約2年間を『LOTR』以前の豪華絢
燗とした「中つ国」の創造に向け、全身全霊を注ぎ込んでき
たとのことだ。
 ところがこの作品の製作には、『LOTR』の3部作を製
作したニューラインと、1969年に原作の権利を獲得していた
というMGMの2社が関っており、その両社間での製作費の
分担が、MGMの破綻によって交渉出来なくなっている。
 つまり、今年前半から続けられているMGMの資産売却に
向けたオークションが未だに決着せず、現状では最速で今年
11月、そこでも不調ならさらに遅れることになって、その先
さらに約2年は掛かると見られる映画製作期間を考えると、
デル・トロとしても、もはや限界と判断されたようだ。
 しかもデル・トロには、この計画に参加した直後の2008年
9月にユニヴァーサルと結んだ4作品の映画製作を行うとす
る優先契約が1本も履行されていないという状況もあって、
そのスケジュールも先延ばしが難しくなっていたようだ。
 ということで監督の離脱が発表されたものだが、デル・ト
ロからは「地球上の最も偉大な国の一つで過ごした日々は、
最高の人々との出会いもあり、自分のこれからの人生を変え
てしまうような素晴らしい体験だった。自分は離れてしまう
けれど、新たな監督との引き継ぎがスムースに行くように、
最善を尽くしたい」とのコメントも紹介されていた。
 それにしても“Bond 23”に続く本作の問題で、MGMの
売却には四の五の言わずにさっさと決着を付けてもらいたい
ものだ。因に映画化とは関係ないが、『ボンド』シリーズの
小説の新作を、1999年にデンゼル・ワシントン、アンジェリ
ーナ・ジョリー共演で映画化された“The Bone Collector”
などの原作者ジェフリー・リーヴァが、2011年5月の出版に
向けて執筆する契約が結ばれたそうだ。
 一方、デル・トロとユニヴァーサルとの計画では、ダン・
シモンズの小説を映画化する“Drood”、さらに“Dr.Jekyll
and Mr.Hyde”“Frankenstein”と、“Slauterhouse-Five”
のリメイクが予定されているようだ。
        *         *
 後半は続編の話題を3つほど紹介しよう。
 まずは、全米では昨年末に公開されて、最終的に全世界で
4億7660万ドルを稼ぎ出したという“Sherlock Holmes”の
続編を2011年12月に全米公開することがワーナーから発表さ
れ、この作品にロバート・ダウニーJr.とジュード・ロウ、
それにレイチェル・マクアダムスが再結集するとのことだ。
 また監督にはガイ・リッチーの再登板が期待されており、
撮影は今年の夏の後半に開始される計画となっている。なお
この計画に関しては昨年9月27日付でも報告していたが、今
回はその計画に正式のゴーサインが出たものだ。
 ところでマクアダムスが出演するということは、前作の最
後に名前の呼ばれたあの人も登場することになると思われ、
これでいよいよ、本格的なホームズの冒険が始まることにな
りそうだ。
        *         *
 お次は、2008年8月紹介『センター・オブ・ジ・アース』
(Journey to the Center of the Earth)の続編で、この計
画については昨年3月15日付第179回でも紹介したが、こち
らも正式発表となっている。
 ただしこの計画では、前作に主演したブレンダン・フレー
ザーの再出演がキャンセルされてしまった。というのは、フ
レーザーが再出演の条件として前作の監督のエリック・ブレ
ヴィグの起用を求めていたのだが、ブレヴィグ監督にはハナ
・バーベラのアニメーションを映画化する“Yogi Bear”の
計画が持ち上がってスケジュール調整が困難になった。
 そこで本作には、2001年公開のワーナー作品『キャッツ・
アンド・ドッグズ』の続編“Cats & Dogs: The Revenge of
Kitty Galore”を手掛けたブラッド・ペイトン監督の起用が
決定されたが、結局フレーザーは戻らなかったとのことだ。
 しかし、前作で主人公と一緒に冒険を繰り広げた甥っ子の
ショーンを演じたジョッシュ・ハッチャースンは参加すると
のことで、続編はそのショーンを中心にした物語になるよう
だ。このため現在は、脚本の改訂が行われているとのこと。
物語は、前作の最後に示唆された通りなのかな。それとアニ
タ・ブリエムの再登場も期待したいが難しいのかな。
 公開は2011年の予定で、3Dは期待できるようだ。
        *         *
 もう1本はホラー映画の話題で、『エルム街の悪夢』など
のウェス・クレイヴン監督が1996年と1997年、さらに2000年
に発表した『スクリーム』シリーズに、第4弾“Scream 4”
(アメリカのプロモーションでは“Scre4m”という表記も使
われているようだ)の計画が発表されている。
 オリジナルは、郊外の小さな町を舞台に連続殺人鬼に襲わ
れる恐怖を描いたもので、スプラッター映画のファンを自認
する10代の若者たちを主人公にして、そのパロディのような
設定から見事に本格的な恐怖が描かれていた。そしてその作
品は、2本の続編と共に3部作として完結するものにもなっ
ていた。
 その第4弾の計画が発表されたものだが、前作から10年が
経っての本作は、前3部作の続きとするのでなく、新たな物
語の起点となる作品とも位置付けられているようだ。そして
その新作に、今年1月紹介『バレンタインデー』『誰かが私
にキスをした』に出演のエマ・ロバーツ、『ヒーローズ』の
クレア役ヘイデン・パネッティーア、『恋するベーカリー』
に出演のレイク・ベル、マコーレーの弟で『ゾディアック』
などに出演のローリー・カルキンの共演が発表されている。
 ただし前シリーズから、ネーヴ・キャンベル、コートニー
・コックス、デイヴィッド・アークエットらの再演も発表さ
れており、新旧のメムバーの共演も楽しめそうだ。
 オリジナルの第1作ではプロローグのドリュー・バリモア
のシーンにも驚かされたものだが、今回はどのような仕掛け
で観客を楽しませてくれるか。撮影はクレイヴン監督の許、
今月ミシガン州でスタートされることになっている。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二