2010年03月28日(日) |
さんかく、冷たい雨に撃て、シュアリー・サムデイ、ザ・エッグ、ソフトボーイ、矢島美容室、鉄男+製作ニュース |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『さんかく』 『クローズZERO』などの高岡蒼甫、AKB48の小野恵 令奈、テレビ『私の青空』などの田畑智子の共演による青春 ドラマ。都会のマンションで同棲中の20代後半男女の許に、 その女性の中学生の妹がやってきて…というお話。 映画の巻頭は、通勤電車の横長の座席で隣の男性に頭を預け てしどけなく寝ている少女の姿。ミニスカートを多少ローア ングル気味に撮影した映像が、この物語の行く末を暗示して いる感じだ。 次に写るのはリアにドライヴァーの男がエアブラシで描かれ た周囲を圧するようなカスタマイズカー。その助手席に乗っ た女性が携帯電話で連絡を取っている。その女性はてきぱき としているようではあるが…。 その女性は化粧品の店頭販売員をしているが、何だかマルチ 商法にも引っ掛かりそうだ。一方、運転をしている男性は釣 り具店の販売員をしているが、趣味の車のカスタマイズには 相当の金を注ぎ込んでいるらしく、また周囲には先輩風を吹 かせているようで… そんなカップルの許にやってきた少女は、最初は殊勝にして いるが徐々に小悪魔ぶりを発揮し始める。そしてカップルの 間にも波風が立ち始め、それは取り返しの付かない方向へと 進んで行く。 まあ大人の目から見れば馬鹿々々しいかも知れないが、当事 者にとっては案外真剣かなと思えるようなお話が展開してい る。脚本・監督は吉田恵輔。本作が3作目で実は前の2作も 観ているがサイトにはアップしなかった監督だ。 というのは、前の2作では物語の展開などに何か常識とずれ ているような感じがして、その感じに僕が着いて行けなかっ たものだ。それに前2作ではメインの登場人物で中年男性が 出てくるが、その役柄も僕にはしっくり来なかった。 そんな監督の作品だが、今回は中学生と20代後半カップルと いう人物配置で、その関係が何となく僕には理解できる感じ がした。もっともそれがその年代の人にも同じ理解かどうか は判らないが…。取り敢えず今回は、僕にとっての常識の範 囲に納まっていた。 共演は谷沢心、他にAKB48の大島優子も出演している。 他愛ない話だが、それなりに現代の若者像が描けている感じ もした。
『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』“復仇” 2006年9月紹介『エレクション』などのジョニー・トー監督 の最新作。同監督の1999年『ザ・ミッション/非常の掟』、 2006年『エグザイル/絆』に続くノアールアクション3部作 の完結篇とされる作品。 マカオの高級住宅に住む一家4人が襲われ、主人と幼い息子 2人が殺され、主婦も瀕死の重傷を負わされる。そしてその 主婦のフランス人の父親が母国から見舞いに訪れるが、折し も父親が逗留したホテルで殺人事件が起き、父親はその犯人 を目撃する。 ところがその父親は、警察での面通しで犯人を認めながらも 偽証。その彼らに接触を図り、一家を襲った奴らへの復讐を 依頼する。この依頼を受けた彼らは、父親と共に襲撃現場に 赴き、鋭く検分して瞬く間に犯人を特定するのだが…。 この父親がパリでレストランを営むシェフであったり、さら に過去に頭に負った怪我のために徐々に記憶を失って行くな どの設定が絡んで、その父親と依頼を受けた殺し屋たちとの 物語が、壮絶な銃撃戦と共に描かれる。 この父親役に、1963年『アイドルを探せ』や最近では『クリ ムゾン・リバー2』などの映画出演、さらに66歳を迎えた昨 年もレコードセールス及びツアー興行でフランス国内第1位 を獲得するなどフランスの国民的歌手と言われるジョニー・ アリディが扮し、その渋さを漂わせる演技がタランティーノ やコーエン兄弟の注目も浴びているようだ。 共演は、以前の『ザ・ミッション』『エグザイル』でも同じ 役クワイを演じてきたアンソニー・ウォン、同じく前2作に 出演のラム・シュ、そして『エグザイル』から参加のラム・ カートン。さらに敵役のサイモン・ヤム、主人公の娘役には 『エディット・ピアフ』に出演のシルヴィー・テステューら が登場する。 主人公の記憶が徐々に失われて行くという設定が見事に活か されていて、その明かし方や結末の着け方などにもうまさを 感じた。最近流行りの痴呆症テーマを見事にアクションテー マに融合した作品とも言えそうだ。 因に、2004年9月紹介『ターンレフト・ターンライト』など 様々なジャンルの作品を手掛けるトー監督は、本作では見事 なガンアクションを描いてみせてくれたが、今後暫くはアク ションテーマから離れる予定とのことだ。
『シュアリー・サムデイ』 昨年7月紹介『TAJOMARU』などの俳優小栗旬が監督 に初挑戦した作品。因にこの企画は小栗が長年温めてきたも のだそうで、脚本家に『クローズZERO』などの武藤将吾 を入れて当初の計画とは多少違う物語にはなったようだが、 念願の企画を実現したものだ。 その物語は、高校時代に校舎の占拠事件と爆破事件を起こし 退学処分になった5人組が大人になってからのお話。彼らは それぞれ父親の経営するバーを手伝ったり、大検に受かって 進学したりしていたが、そんな彼らが過去の事件の落とし前 を着ける羽目に陥る。 そこでは、やくざの資金の強奪事件や女性の誘拐事件、さら に幼い頃の淡い恋心やそこで誓った将来の夢、さらに自分の せいで刑事を退職した父親の姿など、さまざまな出来事が微 妙に絡み合い、時間を超えて繋がって行く。 それぞれの事件には直接の繋がりはないのだが因果が巡って そうなって行く。その辺の経緯が、10秒間のフラッシュバッ クなどを利用して手際良く説明されていた。当初の小栗のア イデアがどういうものだったかは判らないが、この脚本はな かなか良かった。 出演は小出恵介、勝地涼、鈴木亮平、ムロツヨシ、綾野剛、 そしてヒロイン役に小西真奈美。他に竹中直人、岡村隆史ら が脇を固め。さらにモト冬樹、大竹しのぶ、津田寛治、妻夫 木聡、上戸彩ら多彩なゲストが登場する。 勿論、お話は相当に強引だし、御都合主義的なところも多分 にあるが、まあこれも映画というところだろう。それにこの 企画の全体が、取り敢えず観客を楽しませようという思いに 溢れており、その小栗の心意気にも拍手を贈りたいものだ。 2時間をちょっと超える上映時間は、多少思いが溢れ過ぎた かなという感じもしないではないが、最近多くあるこの手の 長さの作品の中では、飽きさせることなく良く纏まっていた ように思える。 特に、小栗が何度も頭の中で予習したというシーンのカット 割りなどは、変にくどかったりすることもなく、すっきりと 観やすい作品に仕上がっていた。1982年生まれ、まだ27歳の 初監督は良好だったと言えるだろう。
『ザ・エッグ』“Thick as Thieves” オスカー俳優モーガン・フリーマンと、『ゾロ』などのアン トニオ・バンデラスの初共演。『ER』『ディープ・インパ クト』などのミミ・レダー監督によるheistドラマ。 プロローグは大きな浴室での殺人。続いて地下鉄での強盗事 件となる。ここまでにフリーマンとバンデラスが登場し、さ らに地下鉄からの逃走アクションも描かれる。これはかなり テンポの早い展開の作品だ。 因に本作の舞台設定はニューヨークだが、撮影は主に東欧の ブルガリアで行われており、この地下鉄も実はソフィア市内 のもの。そのため車両はロシア製だったそうだが、僕はその どちらにも乗ったことがないので判別は着かなかった。 こうして2大スターが顔を合わせ、泥棒とロシアマフィア、 さらにNYPDにFBIも絡んだ犯罪ドラマが展開される。 そして彼らが狙うのは、ニューヨークに店舗を構えるロシア 系宝飾店の地下金庫に秘蔵されたロマノフ王朝末期の宝飾品 「ファベルジェの卵」。しかしその金庫には、指紋・声紋の 生体認証からモーションセンサーまで、最強のセキュリティ が仕込まれている。 一方、NYPDの刑事が何度逮捕しても裁判で無罪になって しまうフリーマン扮する宝石泥棒を執拗に追い掛けており、 さらにFBIは宝飾店にマネーロンダリングの疑いを持って 捜査を続けている。そんな2重3重の物語が入り組んだ作品 でもある。 ただまあ、主人公がフリーマン扮する泥棒側なもので、結論 がすっきり勧善懲悪という訳には行かず。その辺が、多少古 い価値観を持つ自分のような人間にはちょっと引っ掛かる感 じもしてしまう作品ではあった。 でもまあ、最近はこんな作品も受け入れられてしまう風潮な のだろう。ただし僕自身は別の展開も予想していたので、結 末は意外というか、ちょっとはぐらかされてしまったような 感じもしてしまったものだが…。 共演は、『サロゲート』などのラダ・ミッチェルと、1997年 『ジャッキー・ブラウン』でオスカー候補になったロバート ・フォースター。他に、クロアチア出身で『ザ・フォッグ』 などのラデ・シェルベッジア、ルーマニア出身で『レイヤー ケーキ』などのマーセル・ユーレスらが登場している。 それから挿入曲にt.A.T.u.の‘Not Gonna Get Us’が使われ ていて、騒々しいその楽曲が懐かしくもあった。
『ソフトボーイ』 県内に対抗するチームがなければ即県代表=全国大会に出場 =ヒーローになれると考えた男子高校生が、無理矢理部員を 集めて県内唯一の男子ソフトボール部を創部してしまうとい う実話に基づくとされる作品。 如何にも今時の高校生にありそうな…という感じだが、物語 は実際に家庭科専科で生徒の9割が女子という佐賀県立牛津 高等学校で起きたお話とのことだ。それで今回の映画化に当 っても牛津高校の生徒がエキストラ出演するなど全面協力で 撮影が行われている。 大体、工業や農業、商業の専科の高校は知っていたが、家庭 科専科の高校が実在するとは知らなかった。でも、佐賀県公 立高校の公式サイトの下に牛津高校のホームページも開かれ ていたから実際にあるようだ。 そんな高校で、多少落ちこぼれ気味の生徒たちが全国大会出 場でヒーローになることを夢見て活動を開始すある。しかし 現実はそんなに甘くはない訳で…。どこまでが本物の実話に 基づくかは判らないが、取り敢えずはあまり嫌みでない青春 ドラマが描かれていた。 出演は『フレフレ少女』などの永山絢斗、『ぼくたちと駐在 さんの700日戦争』などの賀来賢人。他に『テニスの王子 様』出身の加治将樹、『山形スクリーム』などの波瑠。また 顧問役で『デトロイト・メタル・シティ』などの大倉孝二ら が共演している。 さらに、いしのようこ、はなわ、山口紗弥加。そしてゲスト として北京オリンピックのソフトボール日本代表で金メダル を獲得した上野由岐子らが登場する。 監督は、PFF出身でBS−iのテレビドラマや映画『怪談 新耳袋』、それに2006年12月紹介『ユメ十夜』の一篇などを 手掛けた豊島圭介。脚本は2006年1月紹介『ルート225』 や2008年1月紹介『奈緒子』などの林民夫。 脚本家の前作と同じスポ根ものとも言えるが、その割りには あまり努力している様子が観えなくて、でも最近の映画はこ んな風なのが多いから、これが時代の要求なのかな。 因に、牛津高校の公式サイトによると、男子ソフトボール部 は現在でも佐賀県唯一のチームとして継続しているようで、 九州高校総体3位という記録も見たが全国大会では未勝利。 後輩たちは全国大会1勝を目指して頑張っているそうだ。
『矢島美容室−THE MOVIE−夢をつかまネバダ』 フジテレビ系のヴァラエティ番組『とんねるずのみなさんの おかげでした』から誕生した音楽ユニット「矢島美容室」を 題材にした作品。ユニットの設定をそのまま使って、その誕 生までの前日譚が描かれる。 アメリカはネヴァダ州の片田舎、そこの住宅地の外れに建つ 矢島美容室。それは夫婦と2人の娘の一家で営まれていた。 ところがその父親が、「探さないでくれ」との書き置きを残 していなくなる。それでも健気に生活を続ける母親と娘2人 だったが… これにソフトボール部で活躍している次女ストロベリーと親 友のメアリー、ライヴァルのラズベリーを巡るお話や、長女 ナオミが目指すビューティ・コンテスト、さらに母親マーガ レットの昔のお仕事の話などが歌や踊りも交えて盛り沢山に 描かれる。 出演は、矢島美容室の3人(とんねるずとDJ OZMAは企画者 として名を連ねるが、出演はネヴァダから来た3人というこ とになっている)。他に黒木メイサ、『パコと魔法の絵本』 のアヤカ・ウィルソン、『きな子』の山本裕典、2007年12月 紹介『東京少女』の佐野和真。 さらに『風が強く吹いている』のダンテ・カーヴァー、柳原 可奈子、伊藤淳史、振り付けも担当しているKABA.ちゃん、 水谷豊、大杉漣、松田聖子。因に伊藤の出演シーンでは、以 前に番組に出ていた頃のことが仄めかされていた。 また、スペシャルゲストとしてやはり以前に番組に出ていた 女優や日本アカデミー賞の受賞俳優らが登場している(この 情報は、ネットではすでにオープンになっているようだが、 一応伏せて置くことにする)。 脚本は、番組の構成作家で「矢島美容室」の楽曲の作詞家で もある遠藤察男。監督は日清カップヌードルのCMで1993年 カンヌ広告祭グランプリ受賞や、とんねるず出演の出光興産 のCMと、そこから映画化された『ウルトラマンゼアス』も 手掛けた中島信也が担当している。 基本的にアヤカ・ウィルソンを除く、とんねるず石橋貴明や 黒木メイサが11歳という設定で登場するような作品だから、 そういう気持ちで観なければ何も始まらない。そうして観れ ば、ベタなギャグもあまりないし、案外気持ち良く観られる 作品だった。
『鉄男 THE BULLET MAN』 2008年10月に紹介した『悪夢探偵2』などの塚本晋也監督が 1989年と1992年に発表したシリーズの最新作。 本当は、前の2作が海外でも高く評価された後で海外からの リメイクのオファーがあって、アメリカの都市を舞台にした 物語も検討したが上手く行かず、結局東京を舞台にした物語 に帰結したそうだ。 その経緯もあって本作では、中心となる登場人物には日本在 住だがアメリカ出身とカナダ出身の出演者を起用し、台詞も ほぼ全てが英語で進行される作品となっている。 物語は、日本の企業に勤める白人男性が主人公。妻と幼い息 子と共に平穏な生活を送っているが、主人公の父親は日本人 の妻が癌死した後は、健康管理と称して主人公とその息子の 血液検査を執拗に行っている。 そんなある日、血液検査を終えて帰宅途中の主人公と息子を 乗用車が襲い、息子が殺害される。ところが、そんな事態に も拘らず主人公は冷静を努める。そんな夫に妻は怒りを爆発 させるが…。主人公には亡き母親からの怒りを抑えるための 教えがあった。 しかし妻の行動に徐々に冷静さを失って行く主人公。そして 彼の身体に異変が起こり始める。 基本的にはかなり過激なヴァイオレンスを描く作品であるか ら、映画ではここからのアクションや造形が着目される。そ こでは英語の副題にもつながる造形はユニークだし、アクシ ョンの背景に流れる強烈なロック音楽との連携にも、さすが と思わせるものはあった。 しかし物語の流れは『ハルク』であり、それが容易に観えて しまうのは残念なところだ。その辺でもう少し塚本らしい捻 りが欲しかった感じもした。因に本作の上映時間は、昨年海 外の映画祭で上映されたときは80分だったようだが…試写会 では71分だった。 出演は、主人公にアメリカ出身で日本ではダンサーや写真家 としても活躍しているエリック・ボシック。その父親役に、 「カイエ・デュ・シネマ」誌などに寄稿しているカナダ出身 の評論家のステファン・サラザン。 他に、2009年3月紹介の『THE CODE』などに出演の 桃生亜希子、同年4月紹介の『真夏の夜の夢』などに出演の 中村優子らが共演。それに塚本監督もちゃんと登場する。 なお本作は、スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルー カス、マーティン・スコセッシ、オリヴァ・ストーンらが選 出する第1回グリーンプラネット・フィリム・アワードで、 MOST ANTICIPATED INTERNATIONAL FILM of 2010という賞に 選ばれている。また、ロバート・デニーロがニューヨークで 主催するトライベカ映画祭(4月22日開催)での全米プレミ ア上映も決定されたそうだ。 * * 今回の製作ニュースは続報を2つ。 3月15日付第183回で紹介した“Men in Black 3”の計画 に関連して、主演の期待されているウィル・スミスが別の作 品との間で、どちらを取るか決断を迫られているそうだ。そ の別の作品とはフォックス製作の“The City That Sailed” というもの。実は、スミス主宰のプロダクションOverbrook が企画を開発してフォックスに持ち込んだ作品とのことで、 もしその企画が動き出したらスミスとしても退くに退けない ことになるようだ。 その内容は、1997年『ガタカ』や2003年8月紹介『SIM ONE』などのアンドリュー・ニコルが執筆した脚本に基づ くもので、ニューヨークに住むストリートマジシャンの娘が 家庭の事情で1人でロンドンに渡ることになり、彼女は1人 寂しい生活を送ることになるが、ある日、どんな願いも叶え てくれる魔法のロウソクを手に入れる。そして彼女は、彼女 の家族の住むマンハッタン島がもっとロンドンに近付くよう に願ってしまい…というもの。ジャンルはファンタシー・ア ドヴェンチャーとされており、スミスが願う家族愛をテーマ にした作品のようだ。 ということで、スミスはそのストリートマジシャンの父親 役にも期待されていると言うことなのだが…実際、フォック スの作品はまだ監督は未定とのことだが、ニコルは上記の作 品の監督も手掛けているもので、やるならそれも可能となり そうだ。ただしこのお話では、本当の主人公は娘の方のよう でもあるし、やろうと思えばスミスは両方に出演も可能のよ うにも思えるが、2008年に『7つの贈り物』『ハンコック』 に主演以来の出演作のないスミスは、その間に息子のジェイ ダンが主演する“The Karate Kid”の製作やプロモーション で大忙しで、この後に続けて2作に出演は、それこそ家族と の時間が取れないことにもなってしまうことのようだ。 * * もう1本は、2008年6月1日付第160回で報告した“Buck Rogers”のリメイクに、『バイオハザード』などのポール・ W・S・アンダースン監督と、『アイアン・マン』の第1作 を手掛けたアート・マーカム、マット・ホロウェイの脚本家 の契約が発表された。製作は、現在マーカス・ニスペル監督 による“Conan”のリメイクも進めているパラドックス・エ ンターテインメントで、撮影は3Dで行う計画だそうだ。 前回紹介したときのフランク・ミラー監督の線は実現しな かったようだが、アンダースン監督はすでに9月公開予定の “Resident Evil: Afterlife”(バイオハザード4)で3D 撮影も実施済とのことで、この手の作品はお得意の監督に期 待したいところだ。
2010年03月21日(日) |
P野ばら、ボローニャ…、瞬、上海アニメ、アリス・イン・ワンダーランド、ハーツ & マインズ、蜘蛛の拍子舞/身替座禅+製作ニュース |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『パーマネント野ばら』 一部には無頼派とも呼ばれている西原理恵子原作の漫画から の映画化で、原作者の故郷でもある高知県の漁港の町を舞台 にした、男運に恵まれない女性たちを描いた作品。 西原の原作による映画化は昨年は2本公開されているが、い ずれも試写は観せて貰ったがサイトにはアップしなかった。 その1本はファンタシーらしいのだがどうしても物語が納得 できなくて、もう1本は中に描かれるDVを正視できなかっ たものだ。 だから僕は西原原作の映画化には多少臆病になったりもして いた。しかし今回の作品は、流れとしては後者に近いものだ が、そこに描かれるユーモアやシビアな内容のバランスが良 くて、全体として落ち着いて観ることが出来た。 主人公は幼い女児を連れて離婚し、母親が女手一つで美容院 「野ばら」を営む実家に帰ってくる。そこは町で唯一のパー マネント屋で、町の中年主婦の溜まり場のようにもなってい る。そしてそこでは彼女らの男運の無さが、ある意味大らか にも語り合われている。 そんな中に帰ってきた主人公だったが、そこには浮気が発覚 して離婚した夫が娘宛に電話を掛けてきたり、別居中の母親 の夫(主人公の実父ではないようだ)を訪ねたり、さらに山 の掘っ立て小屋で暮らす老人の家に出張散髪に出掛けたり、 幼い頃からの親友の2人の女性との交流があったり… そんな日々が続く中、彼女の生活には高校の教師という恋人 も登場するのだが… 女たちの男運の無さの表現ではDVも味付け程度には出てく るが、全体的に女たちが積極的で、その点では観ていて心地 よさもあった。それに途中から徐々に観え始める後半の展開 も、無理無く納得できる程度に描かれていたように思える。 主演は、8年ぶりの映画主役という菅野美穂。共演は、親友 役の小池栄子と池脇千鶴、母親役の夏木マリ、父親役の宇崎 竜童、恋人役の江口洋介、娘役の畠山紬。いずれもが填り役 だが、特に小池と池脇が良い感じの演技を観せてくれるし、 彼女らの幼い頃を演じる子役たちも良かった。 脚本は、『サマーウォーズ』などの奥寺佐渡子、監督は、僕 は観ていないが『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』などの 吉田大八。同じ作者の原作でもこうも違ったものになるのか と感心させられた。
『ボローニャの夕暮れ』“Il papà di Giovanna” 第2次世界大戦前後のイタリア・ボローニャを舞台に、高校 教師の父親が家族を守ろうとして苦闘する姿を描いた作品。 第2次世界大戦の前、ボローニャにもファシズムが台頭し、 一般の人々の生活も窮屈になり始めている。そんな中で高校 の美術教師を務める主人公の悩みは、同じ学校に通学する年 頃の我が娘に恋人が出来ないことだ。 そんなある日、父親は転校生の男子生徒が娘と親しげに話し ているのを目撃し、2人が付き合うように策略を巡らせるが …。やがて地元のファシストの名士の娘が殺され、彼女がそ の男子生徒と付き合っていたことが判明して、主人公の娘に 嫌疑が掛かる。 こうして我が娘を守るため父親の奮闘が始まる。そこにはか なり尋常でない部分もあったりはするが、自分も娘を育てた 父親としては、この主人公の行動には理解もするし、結局父 親というものは世界中どこへ行っても同じなんだなあ、とい う感じもした。 しかもこの父親が、特に自分からは何かをしている訳ではな く、時の流れに流されている側面も多いことが、多分自分も その立場なら同じだった、あるいは自分でもそうなってしま うのではないか、というような共感も覚えたものだ。 そんな父親と家族、そして周囲の人々姿が第2次大戦の後ま で、丁寧に描かれた時代背景と適度のユーモアも込めて描か れて行く。 主演は、本作でヴェネチア国際映画祭の主演男優賞を受賞し たシルヴィオ・オルランド。その娘役にイタリア・アカデミ ー賞で主演女優賞受賞のアルバ・ロルヴァケル。さらに共演 のフランチェスカ・ネリ、エツィオ・グレッジョらも助演賞 を受賞している。因に母親役のネリは2001年『ハンニバル』 にも出演していた国際派女優だ。 監督は、韓国で開催されたファンタスティック映画祭での受 賞記録などもあり、カンヌやヴェネチア国際映画祭の審査員 なども務めたことのあるプーピ・アヴァーティ。1968年に監 督デビュー。ピエル・パオロ・パリーニの『ソドムの市』の 脚本なども手掛けたベテラン脚本家・監督が、自らの故郷を 舞台に家族愛の物語を作り上げている。
『瞬』 交通事故で恋人と共にその瞬間の記憶を失った女性が、その 瞬間を取り戻そうとする姿を描いた河原れん原作の映画化。 主人公は事故の夢に苦しめられている。その悪夢の中で彼女 は恋人に何かをしてあげようとしているのだが、それが何な のかも判らない。そして彼女自身にはその事故の前後の記憶 が失われていた。 彼女は美大生の恋人とのデートも順調に重ね、夏休みには彼 の生家も訪ねることになって幸せ一杯だった。しかし彼のバ イクで出掛けた花見の帰路で事故は起きる。そして彼女自身 は比較的軽症だったが、彼は帰らぬ人になってしまう。 その事故は異常走行のトラックにバイクが激突したもので、 トラックの運転手も死亡していたために示談となり、事故の 詳細も彼女には知らされないままだった。そこで彼女は偶然 に知り合った女性弁護士の助けも借りて事故の真相を調べ始 めるが… 結論として何が起きるという話でもないが、物語のほぼ全体 が悲しみに満ち溢れているもので、映画は唯々悲しみだけを 表現し続けて行く。それもまたエネルギーの要る話ではあろ うし、それ描き切った監督には敬意を表したいくらいのもの だ。 しかも、撮影は北海道から山陰出雲にまで及んでいるから、 それを撮り切っただけでも大変なことだったと思わせる。そ れくらいに見事なロケーションが撮影された作品にもなって いる。 主演は『間宮兄弟』『ハンサム・スーツ』などの北川景子。 共演は大塚寧々、岡田将生。他に永島暎子、田口トモロウ、 清水美沙、菅井きんらが出演している。それから原作者の河 原もどこかに出ていたようだ。 脚本・監督は2003年『船を降りたら彼女の島』などの磯村一 路。ヒロインを撮ることでは定評のある監督のようだが、今 回の北川も大塚も本当に美しく撮って貰っている。だから彼 女たちのファンには格好の作品だろう。 ただ、映画の後半に登場するシーンではちょっとやりすぎか なと感じるところもあって、それは主人公が記憶傷害を引き 起こすほどのものだから、それなりには必要だったのだろう が、何か他の展開はなかったのかな?とも考えたところだ。
『美と芸術の上海アニメーション』(中国映画) 東京では5月に行われる中国アニメーション12本を連続上映 する企画で、A〜Cの3プログラムに分けて上映される中か ら、日本では劇場未公開だった作品を含むAプログラムのみ 試写が行われた。 中国では1926年に万兄弟と呼ばれるグループがアニメーショ ンの製作を開始し、1941年にはアジアで最初の長編のアニメ ーションとされる『鉄扇公主』を完成。この作品は日本でも 上映されて手塚治虫らに影響を与えたとのことだ。 その万兄弟らも参加して1957年に発足されたという中国アニ メーションの中心・上海美術電影製片厰で製作された中短編 アニメーションの中から、1962年製作の1本と1980〜85年に 製作された6本を観せて貰えた。 その中では、1962年製作の作品『おたまじゃくしが母さんを 探す』が、水墨画をそのままのタッチでアニメーションにし ているもので、その技法も見事だった。 物語は、一緒に生まれた沢山のおたまじゃくしが母親を探す 内にいろいろな水辺の生物と出会うというお話で他愛ないも のだが、おたまじゃくしの中にはちょっと色の違うものもい たりして、それらがちゃんとアニメートされていた。 ただ、物語の後半でナマズと訳されていた生物に手足があっ たようで、でも山椒魚にしてはナマズ髭があったし…あの生 物は一体なんだったんだろう。水墨画なので絵柄は素朴なの だが、それだけによけい作るのが大変な作品のようにも思え た。 他にAプログラムでは、1980年製作『三人の和尚』、83年製 作の切り絵水墨画アニメーション『鴫と烏貝』、84年製作の 切り絵アニメーション『火童』、85年製作の水墨画アニメー ション『鹿を救った少年』が上映される。いずれも素朴な民 話に基づく作品のようだ。 その他、Bプログラムでは1979年製作『ナーザの大暴れ』、 81年製作『猿と満月』、82年製作『鹿鈴』、Cプログラムで は88年製作『不射の射』、63年製作『牧笛』、83年製作『蝴 蝶の泉』、88年製作『琴と少年』が上映される。 最近では、ハリウッド資本によるCGIアニメーションの製 作でも頭角を表わしてきている上海アニメーションだが、今 回はその歴史を垣間見られる企画のようだ。
『アリス・イン・ワンダーランド』 “Alice in Wonderland” 『チャーリーとチョコレート工場』などのゴールデン・コン ビ=ジョニー・デップとティム・バートン監督による2007年 『スウィーニー・トッド』に続く最新作。 ディズニーが1951年にアニメーション化したルイス・キャロ ルの原作に基づく物語から、その13年後、アリスが19歳に成 長した時に起きる新たな冒険が、実写3Dによる映像化で描 かれる。 今回の物語の発端でアリスは悪夢にうなされている。それは 子供の頃から見続けている服を着たウサギや、いかれた帽子 屋が開催する奇妙なお茶会、それにしゃべる芋虫などが登場 するものだ。しかし貿易商を営む父親は、言葉巧みに彼女を 励ましていた。 そんなアリスも19歳に成長し、とある貴族の屋敷でその息子 の求婚を受けることになる。そのため盛大なパーティも催さ れるのだが。そこでアリスは、庭の片隅に服を着たウサギが 居るのを観てしまう。そしてその後を追って行くと… オリジナルが夢おちのお話だからこの発端はなるほどと思わ せる。因にプレス資料によると、幼いアリスは自分の訪れた 世界がアンダーランドと呼ばれていたのに、ワンダーランド と聞き違えていたのだそうだ。 ということで、キャロルの原作に基づく1951年のアニメーシ ョンに登場した摩訶不思議な住人たちが次々に現れるアンダ ーランドでの大冒険が開幕する。そこは以前のアリスが消え てから赤の女王が復活した、昔以上の恐怖の世界だった。 アリス役は、2008年Variety紙選出「10人の観るべき女優」 にも選ばれたミア・ヴァシュイコヴスカ(海外データベース ではこのように発音すると書かれていたようだ) 他に、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン ・ハサウェイ、クリスピン・グローヴァーらが共演。さらに 声の出演でマイクル・シーン、アラン・リックマン、マイク ル・ゴーフ、クリスファー・リーらが登場する。 物語は、キャロルの原作というより、ディズニーのアニメー ションに基づいているから、予習をするならDVDを観た方 が良さそうだ。ただし、グローヴァーの演じるハートのジャ ックが片目だったり、原作に関わらないトリヴィアも沢山あ ったようだ。 脚本は、1991年『美女と野獣』、94年『ライオン・キング』 なども手掛けたリンダ・ウルヴァートン。運命論と女性の成 長を巧みに織り込んで、特に若い女性にアピールしそうな作 品になっている。そこにデップの出演なら申し分ない作品だ ろう。
『ハーツ・アンド・マインズ』“Hearts & Minds” 1975年4月30日のサイゴン陥落で終結するヴェトナム戦争の 真実を描いて1974年に製作され、1975年のアカデミー賞で長 編ドキュメンタリー部門を受賞した作品。 この中では、北ヴェトナム軍の捕虜から解放されてアメリカ 国内の戦意高揚のシンボル的存在だったジョージ・コーカー 元中尉や、ナパーム弾で大火傷を負ったヴェトナム人少女キ ム・フックの姿なども写し出されている。 その他には、歴代のアメリカ大統領によるヴェトナム戦略に 関するアーカイヴ映像や、作品の製作時にはすでにアメリカ が手を引くことが発表されており、それを踏まえた上でのそ れぞれの立場の人物が過去を振り返っての証言などが綴られ ている。 さらに1968年6月6日に暗殺されたロバート・F・ケネディ が、その時に用意していたと言われるヴェトナムからの撤退 を求める演説の草稿を書いた人物や、南ヴェトナム政権下で 政治犯だった人たちの証言なども紹介される。 またこの作品は、その後の『ディア・ハンター』や『地獄の 黙示録』などにも影響を与えたと言われる通り、ハリウッド がヴェトナム戦争を映像化するに当っての手本ともなってい るもので、確かにそれらの作品に登場した「ヴェトナム」が 描かれていた。 ただ、その作品を製作から35年も経って観ていると、当時は 日本国内でも反戦運動などで関心を持っていたはずなのに、 その前後の時間関係などが判らなくなっていたりもして、今 やそれを思い出として観ている自分に気付いたことにも愕然 とした。 しかも今それを我々が観た場合には、ジョン・F・ケネディ が大増兵を発表する映像などに、同じ民主党のオバマがイラ クへの追加派兵を発表する姿が重なって、歴史に学ばないア メリカの実像を観ている感じもしたものだ。 なお本作は反戦ドキュメンタリーとして著名な作品であった が、日本での公開は過去に1度テレビで深夜に放送されたの み。一時はヴィデオテープが日本発売されていたようだが、 それも廃盤になっていた。 今回は、その作品がアメリカで映画科学アカデミーが所蔵し ていた35mmフィルムからHDによるリマスタリングされたも ので、昨年2月に全米でも再公開されたノーカットのヴィデ オが輸入されて、日本初の劇場公開が行われることになって いる。
『蜘蛛の拍子舞/身替座禅』 4月末日で閉館される木挽町歌舞伎座のさよなら公演として 上演された2演目をハイビジョンで収録したシネマ歌舞伎の 第14作と第15作。東京では閉館翌日の5月1日から歌舞伎座 もよりの東劇で、その他の地区は15日からそれぞれ2本立て で公開される。 『蜘蛛…』は、天皇の出家で空御所となった京都御所に現れ るという物の怪を検分するため源頼光、渡辺綱、碓井貞光、 卜部季武の四天王が宿直するというもの。そこに刀鍛冶の娘 と自称する女が現れ酒宴などを行うが、その女が蜘蛛の化身 と判って… この蜘蛛の化身を坂東玉三郎が演じて、最初は妖艶、後半は 隈取りをした化粧で立ち回りも演じる。さらにその間には、 大小3段階の蜘蛛の操りや着ぐるみが登場して、四天王や兵 士たちとの立ち回りが演じられる。 元々物の怪退治という筋書きなので興味深い演目だったし、 特に後半では玉三郎が次々に蜘蛛の糸を繰り出して、その映 像も華やかなもので大いに楽しめた。因に拍子舞とは演者が 自ら歌いながら踊る演目だそうで、それは前半に刀鍛冶の娘 と頼光らの掛け合いで観られる。 共演は、頼光に四代目尾上松緑、綱に五代目尾上菊之助。若 手のホープたちが頑張っている舞台でもあったようだ。特に 松緑は、父親の尾上辰之助、祖父の二代目松緑の生前の活躍 をテレビなどで観ていた自分には感慨深いものがあった。 『身替…』は、奥方に頭の上がらない大名が、旅先で知り合 った女から近くに来ているとの手紙を貰い、逢いたくて仕方 がない。しかし奥方も恐い。そこで大名は太郎冠者を呼び、 策略を使って奥方の目をごまかし外出に成功するが… この大名を中村勘三郎、奥方を坂東三津五郎、太郎冠者を市 川染五郎が演じる。因にこの演目は、勘三郎の祖父と三津五 郎の曽祖父との共演で初演されたものだそうだが、特に勘三 郎は途中にアドリブを入れるなどの堂々とした演じぶりが楽 しめた。 またこの演目は元々狂言から発生したものだそうで、その舞 台は松を描いた能舞台のような背景の前で演じられていたも のだが、物語の前半は浄瑠璃による語りで、後半その背景が 転換して長唄衆が現れる艶やかさにも目を見張った。 * * 後は製作ニュースを一つ。 『LOTR』を手掛けたピーター・ジャクスン製作、『ヘ ル・ボーイ』などのギレルモ・デル=トロ監督で、2部作で 計画されている“The Hobbit”の撮影が、今年7月にニュー ジーランドで開始されるとの情報が報告された。 この情報は、『LOTR』に引き続いてこの作品でも魔法 使いガンダルフ役を演じることになっているイアン・マッケ ランが、自らのウェブサイトに掲載したもので、それによる と、「“The Hobbit”の2部作の撮影は7月に開始されて、 ほぼ1年掛けて行われる。この撮影のために、ロサンゼルス とニューヨーク、ロンドンでのオーディションも行われた。 ジャクスンらが執筆した脚本には、古い友や新しい友と共に ミドアースでの新たな探索の旅を行う物語がぎっしり詰め込 まれている。監督のデル=トロはすでにウェリントンに逗留 して、ジャクスンとの最終的な打ち合わせを行っている」と のことだ。 ただしこの情報に関しては、映画の製作を担当するニュー ラインからはこの後の発表でも公式報告はされなかったとの ことで、その経緯が不明となっている。とは言えマッケラン が虚偽の報告をする理由もないし、ファンとしては取り敢え ずはガンダルフの言葉を信じたいものだ。一方、ニューライ ンと共同で製作を行うMGMは現在資産の一括売却を行って いるところだが、その入札の期限日が突然延期されたとの情 報もあり、その裏には“The Hobbit”の製作が正式に発表さ れるのを待っているとの憶測もあって、正式発表が行われる のも近日中との観測が高まっている。 * * 最後にこれは製作ニュースではないが、一つ気になったこ とを書いておきたい。 先日、親戚の家を訪問したら、その家の母親と次女が『ア バター3D』を観に行ったとのことだった。ところが母親の 方は興奮気味なのだが、次女の乗りが今一つ悪い。そこで訊 いてみると、彼女は上映中ずっと画面が2重に観えていて、 それは自分の目のせいだと思っていたと言うのだ。しかしそ れは目のせいではなく、液晶シャッター式の眼鏡が故障して いたことに他ならない。 実は、その前にソニービルで新発表の3Dテレビを見学し たときに2重にしか観えず、案内の女性に指摘したら眼鏡の スイッチが切られていたという経験がある。また昨年の東京 国際映画祭の折にパナソニックが公開した3Dテレビでも、 係員がいちいち眼鏡をチェックして観客に渡しており、訊い たらかなりの率で不具合があるとのことだった。さらに東京 で3D試写が行われるアキバシアターでは、上映前に不具合 があったら眼鏡を交換するとの告知があり、上映中も係員が 立ち会っていることもある。 つまり液晶シャッター式3D眼鏡は不具合率が高いものだ が、急速に普及している中でどこまで手当ができているもの か心配になった。実際に親戚の次女はその被害者になったも のだが、余分に金を払ってさらに3時間近くも見難い画面に 付き合わされたら、それは拷問でしかなく不憫にも思えた。 全国の映画館にはよくよく注意をして貰いたいし、上映前 に観客が何らかのチェックをできる体制も整えて貰いたいと 思ったものだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※ ※僕が気になった映画の情報を掲載しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ まずはアカデミー賞の結果報告ということで、その結果で は、もと夫婦対決が話題となった『ハート・ロッカー』は作 品賞、監督賞を含む6部門、『アバター』が視覚効果賞など 3部門ということになった。僕自身、両作品を観比べた上で この結果は順当だとは思うが、『アバター』がSF/ファン タシーというよりは、初の実写3D作品での受賞を逃したの は残念と言いたいところだ。 ただまあ、選前のもと夫婦対決という盛り上がりで、一気 に『ハート・ロッカー』の評価が高まったのも否めないとこ ろで、本来このシチュエーションが無かったら候補に挙がっ たかどうかも判らない規模の作品が、作品賞まで駆け登った のだから、これはラッキーとしか言いようがない。結果的に これをお膳立てしてくれたジェームズ・キャメロン監督には 敬意を表したいくらいだ。 そしてこれが、プレゼンターのバーブラ・ストライサンド に「時代が動いた」と言わせたキャサリン・ビグローの監督 賞受賞にも繋がった訳だが…。それにしても、ストライサン ドも女性としては小柄ではないはずだが、そのミュージカル 女優がさらに見上げるほどのビグローの身長にも驚かされた もので、その後の作品賞の受賞で壇上に来た男性スタッフた ちよりも頭一つ分大きいのだから、これなら戦場アクション を大局から観て描けると、妙な納得もしてしまった。 それにしても、直前には今まで問題にもされなかった事前 運動の暴露という、恐らくは大手配給会社の差し金と思われ る妨害工作があったにも拘らずの受賞だから、これは見事。 まあ妨害工作が裏目に出たということも考えられるが… その他の結果は、SF/ファンタシー映画関連を中心に報 告するが、主な賞を逃した『アバター』は、視覚効果賞の他 に撮影賞と美術賞を受賞。美術賞の発表前にはプロダクショ ンアートと実際の画面の比較がされたが、CGIとは言え、 そのイメージがそのまま映像化されているのには感激した。 一方、作品賞にもノミネートされた『第9地区』は無冠に 終ったが、これについては昨日書いた通りだ。 また『スター・トレック』がメイクアップ賞を受賞。この 賞では、ここ数年『エディット・ピアフ』『ベンジャミン・ バトン』といった年齢の変化を観せる作品が多く受賞してい たが、今回は基本的なエイリアンのメイクで、これも嬉しい 受賞だった。なおこのプレゼンターを担当したベン・スティ ラーが受賞式で見せた『アバター』のメイクは皮肉のつもり なのかな。本当はサシャ・バロン・コーエンとの共演でもっ と過激なギャグもあったという噂だが。 この他では、作品賞にもノミネートされた『カールじいさ んの空飛ぶ家』はアニメーション作品賞と作曲賞を受賞。こ の辺も順当という感じだろう。 それからもう1本、長編ドキュメンタリー賞を、昨年10月 20日付で紹介した『ザ・コーヴ』が受賞したが、この作品に ついての僕の評価はその時に書いた通りのものだ。でも今回 も受賞してしまったのは、やはりアメリカ国内の世論の強さ だろう。個人的に候補作の中では前回3月7日付で紹介した 『ビルマVJ』の方が面白かったが、どちらも恣意的な作品 であることに変わりはない。 ただ今回の長編ドキュメンタリー賞では、『THIS IS IT』 や『キャピタリズム』が最初から漏れているのが全体として は不満には感じられたところだ。因に、『ザ・コーヴ』は、 昨年11月8日付で紹介したように1986年『ショート・サーキ ット』などに出演のフィッシャー・スティーヴンスが製作を 担当していたもので、彼にオスカー像の手渡されるところが テレビにも写っていた。 * * ということで、ここからはテレビ中継について少し述べて おきたいものだが、放送中にゲストが作品賞受賞作を観てい ないことを暴露する司会者は論外としても、アメリカの3大 ネットワーク(死語?)で番組を持っていると言いながら、 質問する度にWhat you say?と聞き返されるレポータも何様 という感じだった。 それに、何故か現地アメリカ人の記者ではない外国人記者 クラブの人間ばかりをゲストに呼んでおいて、しかも彼らが 先に選出したゴールデングローブ(GG)賞については殆ど 言及しないというのもおかしな話だった。 実際、今回のアカデミー賞作品賞では、以前の候補作紹介 の時にも書いたように、GG賞のコメディ/ミュージカル部 門の候補がすべて無視されてしまった訳で、これに言及して いれば、コメディ主演女優賞のメリル・ストリープの受賞は 無いと断言出来たはずなのに、その辺の分析もできないで、 よく記者と言えたものだという感じもした。 もっとも、自分たちが賞を贈った『アバター』より、贈ら なかった『ハート・ロッカー』の方を平然と持ち上げるとこ ろは、さすがに機を観るのは敏という感じもしたが、GG賞 の結果からストリープとサンドラ・ブロックの対決という図 式を出して、さらにドラマ主演女優賞ブロックの受賞も予言 すれば、GG賞の権威も多少は保てたと思えたところだが… いずれにしても、毎年観ている生中継には例年苛々させら れてきたが、今年は特にそれが顕著に出てきた感じもした。 現地にスタジオを設けるより、日本のスタジオでもっと正確 な分析のできるゲストを呼んで番組を作る方が良かったので はないだろうか。 * * 続いては記者会見の報告で、ちょっと遅れたが3月6日に 公開された『プリンセスと魔法のキス』のプロモーションで 製作者と2人の監督が来日し会見が行われた。そこで僕は、 作品の中でちょっと気になっていた魔法にブードゥー教を選 んだ理由について訊いてみた。 その答えは、「元々のアイデアでは舞台は特定されていな かった。しかし企画をディズニーアニメーションの責任者に なったジョン・ラセターに説明したとき、ラセターがニュー オーリンズを舞台にすることを提案。元々ウォルト・ディズ ニーがその街が好きで、ディズニーランドにも人気スポット のフレンチ・クォーターを設けていることを思い出して決定 した。そしてニューオーリンズに取材に行ってみると、そこ では今でも一般の生活の中にブードゥー教が根差していて、 それを選ぶのは自然の成りゆきだった」とのことだ。僕の質 問はもっと単純なつもりだったが、答えは製作の経緯までも 含めた思いの外に大きなものになって満足した。 またその製作の経緯では、ディズニーは5年前にCGIへ 全面転換を発表してセルアニメーションの機材はすべて廃棄 していたものだが、今回のセルへの回帰を目指したところ、 実は廃棄されたはずの機材がこっそり倉庫の隅に保管されて いて、その機材がほとんど利用できたとのこと。その機材を 廃棄せずに保管していた担当者は、一躍英雄扱いされたそう だ。さらに、今回はアニメーターに美術大学を出たばかりの 新人を数多く雇い入れたが、監督たちは最初にウォルトと一 緒に仕事をしていた初代のアニメーターから直接指導を受け た世代で、さらにその教えを後世に伝えることが出来て嬉し かったとのことだ。 そしてディズニーでは、次のセルアニメーションの作品も 計画中であることも紹介された。それは未だ決定ではないよ うだが、画面を直接観ながらアニメーションを製作できるセ ルの良さをこれから追求して行くとのことだった。 * * もう一つ記者会見の報告は、『ウルフマン』で製作主演を 務めたベニチオ・デル・トロの来日会見も行われた。 そこでは僕は質問できなかったが、他の記者の質問でリッ ク・ベイカーのスペシャルメイクを採用したことを訊かれ、 デル・トロは以下のように答えていた。 「それはまずこの作品が1941年の作品のリメイクであり、 その作品に主演したロン・チャニーJr.とメイクアップアー チストのジャック・P・ピアースにオマージュを捧げたいと 考えていた。そのためCGIによる変身は最初から考えてお らず、当初はリックに参加してもらえるかどうかも判らなか ったが、オファーをしたところ快く引き受けてくれた」との ことだ。 そしてそのリックとの作業は、「毎日がLove & Hateの繰 り返しで、毎朝4時間掛けてメイクをして徐々に狼男になっ て行くとき時には嬉しさで一杯だったが、1日の撮影を終え て2時間掛けてメイクを剥がす時は憎しみが湧いてきた」と のこと。本当にこの作品を愛して止まないデル・トロという 感じの回答だった。 また、撮影開始の直前になって監督が交替したことに関し ては、「当初の監督の狙いも素晴らしいものだったが、主人 公が変身する以前からかなり凶暴で変身の意味が…。それに 比べてジョー・ジョンストンの狙いは直線的で判りやすいも のに作品を仕上げてくれた」とのこと。作品を観た感じは、 そつ無く撮っているという風にも取れたが、監督自身の狙い がそこにあったということらしい。そしてデル・トロは本作 の製作者でもある訳で、その製作者がジョンストンの狙いを 理解した上での交替劇だったようだ。 * * ここからは製作関連のニュースを紹介しよう。 先週報告したデイヴィッド・S・ゴイヤーが“Superman” に参加するという情報に関連して、監督のクリストファー・ ノーランがロサンゼルス・タイムズ紙に語ったという記事が 紹介された。 それによると、ノーランとゴイヤーが“Batman”の第3作 の検討中にゴイヤーから突然、「“Superman”をやるならこ んなアプローチではどうか?」というアイデアが出されたと のことだ。そしてノーランはそのアイデアに感激、直ちに妻 で製作者のエマ・トーマスに報告して、ワーナーにもそのア イデアが紹介されたということだ。 従って、前回ワーナーがゴイヤーにコンタクトしたという のは、このゴイヤーのアイデアにワーナーが反応したという ことになる訳で、これは実現の可能性が極めて高いと言えそ うだ。勿論そのアイデアの内容に関してはノーランは明らか にしていないし、ノーランが監督するかどうかも明確にはし ていないものだが、ノーラン自身がそのアイデアには非常に 興奮したと発言しており、このまま行けば“Batman”の2作 に続くコラボレーションは実現しそうだ。 ただし“Superman”の次回作は、前回も紹介したようにそ の製作のタイムリミットが切られていて、それに従うと公開 は遅くとも2013年に予定される。一方、『ダーク・ナイト』 に続く“Batman”の新作の公開もその頃が予定されており、 このままではノーランはどちらかを選ばなければならない情 勢となる。 さらに、ゴイヤーはこれから脚本の執筆に取り掛かるが、 “Batman”の新作の脚本にはすでに監督の兄弟のジョッシュ ・ノーランが取り掛かっているとの情報もあって、このまま では“Batman”の新作が先行して製作されることになりそう だ。さてこの状況で、ノーラン監督はどのようにして2本の 映画製作を進めるのか、これは本当に楽しみなことになりそ うだ。 * * 次は、2008年11月15日付第171回で紹介の“The Wonderful Wizard of Oz”の計画が、日本では4月に公開予定の『アリ ス・イン・ワンダーランド』の大ヒットのお陰で再燃してい るようだ。 この計画では、当初はジョン・ブアマン監督が1939年版の MGM作品“The Wizardof Oz”(オズの魔法使い)をリメ イクするというものだったが、現在はいろいろな方向性で検 討が行われているようだ。そしてその中では、“Shrek”の 第4作を手掛けたダーレン・レムケがミステリー調の物語を 構築しているものや、1997年『スポーン』を手掛けたトッド ・マクファーレンのアイデアから2005年『ヒストリー・オブ ・バイオレンス』のジョッシュ・オルスンが脚本を執筆して いる“Oz”と題された作品も進められているとのことだ。 しかし今回の計画では、その後にL・フランク・バウムの 原作に基づくシリーズ化も考慮されているとのことで、勢い その第1作には慎重にならざるを得ないという側面がある。 従って一体どちらの計画がゴーサインとなるか、状況はなか なか難しい局面のようだ。 その一方で『オズ』関連の作品では、日本でも上演された ミュージカル版の“Wicked”を映画化する計画もユニヴァー サルで進められているし、さらにPCゲーム版の“American McGee's Oz”の映画化権もジェリー・ブラッカイマーが持っ ているはずで、これらのタイミングが揃ったらなかなか面白 い展開にもなりそうだ。 * * 最後に、昨年11月8日付で紹介した“Men in Black 3”の 計画に関して、『トロピック・サンダー』などのイーサン・ コーエンが進めている脚本のお話が少しだけ聞こえてきた。 それによると、第3作の物語は、ウィル・スミスが扮した エージェントJが時間を遡って、トミー・リー・ジョーンズ が扮したエージェントKの若い頃とチームを組むという展開 になっているようだ。そしてその若い頃の配役には、『ノー ・カントリー』などのジョッシュ・ブローリンが立候補して いるという情報も報告されている。 さらに新登場のキャラクターの配役として『スウィニー・ トッド』などのサシャ・バロン・コーエンと、“The Flight of the Conchords”というテレビシリーズで、製作、脚本、 主演から音楽まで担当したジェマイン・クレメントの出演が 期待されているという情報もあり、その一方でヤズという役 柄に出演者(不詳)が契約したという情報もあるようだ。 つまり、製作準備は着々と進んでいる感じだが、果たして ウィル・スミスは再登場するのか、またトミー・リー・ジョ ーンズのカメオ出演はあるのか、さらにコーエンとクレメン トは本当に出演するのか、そして肝心の監督は誰になるのか など、今は公式の製作発表が待たれるところだ。
2010年03月14日(日) |
第9地区、孤高のメス、フェーズ6、エンター・ザ・ボイド、ソウル・パワー、きな子、ヒーローショー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『第9地区』“District 9” 先日発表されたアメリカのアカデミー賞では、受賞は逃した ものの作品、脚色、編集、視覚効果の4部門で候補に挙げら れていた、地球を訪れたエイリアンと人類との関係を描いた SF映画。 物語の発端は1982年。一隻の巨大な円盤が南アフリカの首都 ヨハネスブルグ上空に現れ、空中に停止したままとなる。こ の事態に軍隊が船体上に進出し、外壁を破って侵入すると、 そこには栄養失調で死にそうな100万体を越すエイリアンが ひしめいていた。 その状況に国連は直ちに彼らを難民と認定し、停止した宇宙 船の真下に収容施設を建設して彼らを住まわせた。それから 28年、その場所は「第9地区」と呼ばれ、そこにはエイリア ンだけでなく、彼らを食い物にするギャングも入り込んでス ラムと化している。 一方、エイリアンが所有する強力な武器が発見される。それ は生物学的にエイリアンにしか操作できない仕組みになって いた。そこで地区の管理を任されていた民間の兵器会社は、 彼らの移住を名目にその武器を取り上げることを画策。その 責任者に主人公が任命される。 こうして主人公は、傭兵部隊を引き連れて「第9地区」に赴 き、エイリアンとの移住交渉を始めることになるのだが…。 これに主人公がエイリアンの武器を操作できるようになって しまう経緯や、何やら秘密の研究を行っているエイリアンの 親子などが絡んで、物語が進められる。 脚本と監督は、南アフリカの出身でナイキのCMなどを監督 していたニール・ブロムカンプ。実は、当初の計画で彼は、 ピーター・ジャクスン製作でPCゲーム「HALO」の映画 化に起用されていたのだが、その計画が頓挫、その替りとし て浮上したのが本作となる。 そして、監督自身が2005年に製作した6分の短編“Alive in Jo'burg”(YouTubeにアップされている)を基に、そこに描 かれたエイリアンやその武器などを発展させた物語が創作さ れ、ジャクスン製作の許で本作の映画化が行われた。 都市の上空に停止したUFOというと、小説では『幼年期の 終り』(確かヨハネスブルグもあったはずだ)があるし、映 像でもテレビシリーズの『V』や映画は『インディペンデン ス・デイ』などいろいろ作られてきた。 しかしそこからの展開では、確かにこの作品の物語はユニー クだし秀逸なものだ。そこにはアパルトヘイトを始めとする 南アフリカの社会情勢への暗喩などがあるとも言われるが、 単純にSFとして観るだけでも充分に面白い作品だった。 アカデミー賞での無冠は残念だったが、『2001年宇宙の 旅』は視覚効果賞は受賞しても作品賞の候補にはなれなかっ た訳だし、作品賞候補が10作品に拡大された恩恵とはいえ、 この規模の作品で候補に挙げられたことは、SF映画にとっ ても快挙で立派なことだ。
『孤高のメス』 脳死の法制化がされる1997年より前の1989年を時代背景に、 近隣の大学病院に依存してまともに外科手術も出来ない地方 自治体運営による市民病院に赴任してきた孤高の医師の活動 を描く、大鐘稔彦原作の映画化。 物語は、看護婦だった母親の葬儀のために帰郷した新米医師 の姿から始まる。彼は母親の遺品を整理する内、ふと表紙に 1989年と書かれたノートに目を留める。そこには「手術がい やで堪らない」という書き出しの脆弱な市民病院に勤める母 親の愚痴のような日記が綴られていた。そして彼は、その日 記を読み進める… その孤高の医師が、市民病院にやってきたのは、難しい手術 は救急車で1時間半も掛かる大学病院に依存したままという 市民病院を守る院長の決断だった。その市民病院には大学か ら医師が派遣されている外科があったが、ろくな手術もでき ず、失敗すれば無理矢理大学病院に搬送という状態だったの だ。そして誤診も相次いでいたようだ。 そんな病院に赴任した孤高の医師は、いきなりそこでは無理 と言われた難手術を見事に成功させる。それは手術道具もま ともに揃っていない中での執刀だったが…。その手術室で医 師のサポートを担当した母親は、「初めてナース帽を被った とき以来の感動を覚えた」と日記に書き記していた。 やがて孤高の医師は次々に難手術を成功させるが、そんな活 躍は大学から派遣されている無能な医師たちには面白いはず がない。そんなとき、市民病院を支えてきた市長が議場で倒 れたとの報が入る。そして搬送されてきた市長の診断結果は 肝硬変。もはや移植手術以外に助ける術のない状態だった。 1989年。日本の移植医療は端緒に着いたばかりで、脳死判定 の基準も定まらず、認められるのは生体肝移植のみ。しかし 家族の肝臓は手術に適合するものではなかった。そしてその 同じ病院で1人の若者が脳死状態となり、その家族は、命を 繋ぐことの重要さを認識し、臓器の提供を申し出る。 その手術を行うことは、結果に拘らず医師は施術後に殺人罪 の訴追を受ける恐れがあり、市民病院もその矢面に立たされ る。それでも孤高の医師は、目の前の患者を救うことが医師 の務めと言い切るが… ちょっと長めに物語を書いてしまったが、何となくこんな風 に書き残したいと思うくらいの感動を覚える作品だった。主 演は堤真一、共演は夏川結衣。堤はこの手の演技には定評が あるところだが、今回は夏川に注目した。 夏川は、僕にはちょっと整い過ぎた顔立ちが馴染めない感じ の女優だったが、今回は多少エキセントリック気味の演技が サマンサ・モートンのような雰囲気もあって好印象だった。 それに少し現実離れした雰囲気が正にこの物語の語り手には ピッタリで、僕が女性の登場人物に感情移入して泣けたのは 今回が初めてかと思うほどのものだ。 他には、吉沢悠、中越典子、松重豊、成宮寛貴、矢島健一、 平田満、余貴美子、生瀬勝久、柄本明、隆大介らが出演。監 督は、2008年8月紹介『ラブファイト』などの成島出。地域 医療の問題点なども指摘しながら、2時間6分をたっぷりと 観せてくれる。
『フェーズ6』“Carriers” 終末世界を背景に、過酷な条件の中を生き抜こうとする若者 たちを描いたサヴァイヴァルドラマ。 荒野を貫く街道を男女4人の若者を乗せたベンツが走って行 く。やがてその先に、道を塞ぐように停められたワゴン車が 現れる。乗っているのは父親と幼い娘。父親はガソリンを分 けて欲しいと頼むが、若者たちにもその余裕はない。さらに 娘の異状が見出される。 ところがその場を強行突破した若者たちは、その際に車体が 損傷し、止むなくガソリンを移して親子と一緒に父親の言う 「ワクチンが用意された」とする場所に向かうことになる。 ただし、その条件は… 若者たちは時には無軌道でもあるけれども、最低限のモラル は持ち合わせているようで、それなりに懸命に生き抜こうと する姿が描かれている。しかし暴力に訴えるときには決断も 早く、その辺で違和感を感じることの少ない作品だった。 脚本監督のアレックス&デイヴィッド・パストー兄弟は共に スペインバルセロナ出身で、今までは別々に短編映画などを 撮っていたが、今回はアメリカ資本のそれなりに俳優も揃っ た作品ということで共同作業が行われたようだ。 その出演者は、昨年の『スター・トレック』でカーク船長役 に抜擢されたクリス・パイン、2005年『サム・サッカー』に 主演のルー・テイラー・プッチ、2007年『プレステージ』な どのパイパー・ペラーボ、そして2005年『ザ・リング2』に 出演のエミリー・ヴァンキャンプ。 他に、2008年『最後の初恋』などに出演のクリストファー・ メロニーと、テレビシリーズ“Mad Man”にレギュラー出演 していた子役のキーナン・シプカなどが共演している。 ロードムーヴィ・スタイルでハリウッド規模で言えば低予算 の作品ではあるし、1978年生まれと1981年生まれという比較 的若い兄弟による脚本監督の作品ではあるが、物語に破綻も 少なく、しっかりと作られていたように思える。 主人公たちの無軌道ぶりなどには多少気になるところもあっ たが、確かに最近の若者がこういう状況に置かれたら、多分 こんなことをするのだろうなあ、と思わせる程度には現実的 だった。最近のスペイン映画の好調が感じられる作品だ。
『エンター・ザ・ボイド』“Enter the Void” 2002年に『アレックス』という作品で物議を醸したというフ ランスのギャスパー・ノエ監督による7年ぶりの新作。東京 の新宿は歌舞伎町の歓楽街を舞台に、海外から集まってきて ドラッグに溺れる若者たちの生態が、サイケデリックな映像 と共に描かれる。 映画の巻頭には、一昔前のLSD映画を髣髴とさせ、さらに それをCGIによって進化させたと言えそうな、正にサイケ なアニメーション映像が展開される。それは昔はいろいろな 映像技術を駆使して作られたものが、今ではかなりお手軽に なっているようだ。 そんな巻頭の映像に続いては、歌舞伎町のワンルームマンシ ョンに暮らすアメリカ人らしい若者の視点映像となり、そこ ではいろいろトリッキーな映像と、さらにドラッグでハイに なっている感覚が映像でも描かれて行く。 そしてその若者にドラッグの配達の依頼が来て、若者は歓楽 街にあるクラブにそれを届けるのだが、その依頼は官憲が仕 掛けた罠だった。そして若者はトイレに逃げ込むが…そこか ら若者の幻想ともつかない世界が繰り広げられて行く。 物語自体は、最近の歌舞伎町辺りに巣くう不良外人の話とし ては有り勝ちと言えそうなものだし、そんな若者の生態を描 いた物語が2時間23分(先に海外映画祭に出品されたときは 2時間41分あったようだ)に亙って延々と描かれて行く。 そこには時間の脈絡もあまり無くて、現在が等時間で描かれ たり、過去(遠い過去や近い過去)がフラッシュバックされ たり、それもまたサイケと言えそうな展開となっている。こ れは確かにドラッグによって描かれた作品なのだろう。 ということで、レーティングもR−18だし、ほとんどポルノ まがいのシーンも登場して、正直にはなかなか評価し辛い作 品ではあった。ただ、シッチェスの映画祭でも受賞した撮影 技術は見事なもので、歓楽街上空を自由自在に動き回る映像 には正に刮目した。 撮影監督のブノア・デビーは、実は上記の『フェーズ6』の 撮影も担当しているが、特に本作に於ける変幻自在の映像は それだけで観るに値する作品と言えそうだ。 出演は、主に新人の俳優たちのようだが、中に2009年8月紹 介『リミッツ・オブ・コントロール』に出演していたという パス・デ・ラ・ウエルタが主人公の妹役で登場している。 因にフランス映画の本作は、本国では“Soudain le vide” という題名でも知られているようだが、国際的には上記の英 語題名が公式のようだ。
『ソウル・パワー』“Soul Power” 1974年、ザイール(現コンゴ共和国)の首都キンシャサで行 われたヘヴィ級タイトルマッチ「モハメド・アリ対ジョー・ フレージャー」の一戦を前に現地で開催されたコンサート= Zaire 74の模様を記録したドキュメンタリー。 このコンサートでは、奴隷としてアメリカに連れ去られたア フリカ人たちの末裔がルーツに帰ることを旗印に、アメリカ で活躍する黒人アーチストたちがザイールに集まり、地元ア フリカのアーチストたちと交流する。 映画は最初に状況を説明するテロップが入るだけで、後は当 時撮影されてそのまま眠っていた映像とそれに伴う現状の音 声で綴られている。そこでは、アリも出席して行われたプロ モーターによる実施の発表や、ニューヨークに集まって来た アーチストたちの様子。 また、現地での会場設営の模様やザイールに向かうチャータ ー機内でのアーチストたち大騒ぎの様子。さらに現地で3日 間行われたコンサートの合間にアーチストたちが地元の人々 と交流する姿など。コンサートを取り巻くものも網羅的に描 かれている。 そしてコンサートでは、B・B・キングやジェームズ・ブラ ウン、さらにミリアム・マケバやザ・クルセイダースなど、 僕でも知っている往年のアーチストたちが次々に登場し、ま た知っている曲も次々に演奏されていた。 個人的には、1960年代に『パタ・パタ』の大ヒットで知られ るマケバの登場が嬉しかったが、1974年当時の彼女は過激派 黒人活動家との結婚でアメリカでは活動が出来なかった時代 のようだ。それでも特有のクリック音を響かせる歌声には感 激した。 その一方でアーチストたちが街に出て、地元の音楽家たちと 一緒に演奏するシーンや、集まってきた子供たちにリズムを 教えるシーンなども感動的だし、また舞台裏で若い女性のア ーチストがアメリカで流行っている最新のダンスのステップ を地元のダンサーに教えるシーンなどにも、本当に彼らが交 流を楽しんでいる雰囲気が伝わってきた。 3日間も行われたコンサートのシーンが正にハイライトとい う感じで、その点では物足りない人もいるかも知れないが、 このコンサートのコンセプトがアフリカ系アーチストの帰還 ということでは本作はそのテーマに沿ったものだし、これで 良い作品だ。 後は、その膨大なコンサートシーンはDVDボックスにでも して、世間に出して貰いたいと思うものだ。
『きな子』 地元のテレビ局の取材中に見事なズッコケ振りを見せてしま ったことから、全国的に名前を知られることになった香川県 丸亀警察署の見習い警察犬を主人公にした作品。 映画の物語自体はフィクションで、かなりドラマティックに 作られているが、警察犬の仕事ぶりや訓練・コンテストの様 子などはそれなりに判りやすく描かれており、特に動物もの としてはOKの作品と言えそうだ。 それに、現実の「きな子」がその後に置かれた状況には、映 画の中にも描かれている各種のキャンペーンに担ぎ出される 「きな子」の映像と併せて、いろいろ考えさせられる部分も ある作品だった。 出演は夏帆、戸田菜穂、寺脇康文、山本裕典、平田満、広田 亮平、遠藤憲一、大野百花、浅田美代子。夏帆は、犬に食わ れないだけの可愛らしさを今回も発揮しているし、広田、大 野の子役もしっかりとした演技を見せてくれている。 それから「きなこ」は幼犬時代を除いて本物が登場している ようだが、肝心のズッコケのシーンがCGIなのはちょっと 残念。当時に取材されたテレビ映像があるはずだが、それは 使用できなかったのかな。 また、現実の「きな子」のいる訓練所が丸亀市飯野町で、主 人公の実家が土器川の近くということでは、そこに向かう際 に鳥坂は越えないはずだが…。実は映画の訓練所のセットは 三豊市に作られたそうで、それならと納得したところだ。 因に、鳥坂は丸亀市と三豊市の間にあって、そこで売られて いるまんじゅうが地元では有名な場所。ついでにその近辺を Googleマップで調べたが、鳥坂山というのはこの付近にはな かったようだ。これもフィクションということになる。 監督は、2007年11月紹介『SS』の小林義則。本作が3作目 だがそれなりにそつ無くまとめている。脚本は、共に本作が 映画デビュー作の浜田秀哉と俵喜都。この内の浜田は香川県 の出身とのことで脚本には地元らしさもあるが、上記の点は 止む終えなかったのかな。 なお、警察犬の訓練・コンテストにはその他の課目もあるよ うだし、訓練士の資格にもいろいろ階級などもあるようで、 その辺のことももう少し描いて欲しかった気もするが、基本 「きな子」ファンのお子様に見せる映画としてはこの程度で 充分の作品だろう。
『ヒーローショー』 2005年『パッチギ!』などの井筒和幸監督による2007年同作 の続編以来となる長編作品。その間には2008年11月に紹介し た短編集『はじめは、みんな子供だった』の一編を監督して いるが、長編は上記以来となるようだ。 完成披露試写会を観てきたが、その上映前の舞台挨拶で監督 は、最近、若者の暴力行為を描いた映画が多いことに触れ、 「そういう流れを作ってしまったのは自分のようにも感じる が、今回はそれに一石を投じる作品を作った」といったよう なことを語っていた。 物語は、客寄せの「ヒーローショー」に出演するヒーロー役 の若者が、悪役の男の恋人を寝取ったことに始まる。そこで 悪役の男は知人のやくざに頼んで復讐をするのだが、その際 にやくざが金を要求したことから、若者側もちょっと危ない 系の先輩に話を持って行く。 そして危ない系の先輩は元自衛官の同級生を誘い、その元自 衛官は個人的な苛々もあって加担を決める。こうして若者の 地元にやくざたちを呼び出した元自衛官たちは、人数を掛け てやくざたちを袋叩きにし、その内の1人を埋めてしまうの だが… 監督の言う最近流行りの映画というのが具体的にどの作品を 指すのかは判らないが、僕自身、試写は観てもサイトにアッ プしなかった作品の中には、この手の復讐が成功して万々歳 という単純な作品が多いようにも感じていたところだ。 であるから本作が、ここから後の展開でかなり厳しい話を描 いていたのには、ある種の我が意を得たりという感じもした し、大人が描く映画ならこうあるべきだという思いもした。 少なくとも思い上がりの餓鬼が作った、暴力さえかっこ良く 撮れば良いというような作品ではないものだ。 出演はお笑いコンビ・ジャルジャルの後藤淳平と福徳秀介。 この配役は、監督に言わせると「吉本映画だから仕方ないだ ろう」だが、監督自身が多数の候補の中から選んだもので、 他の候補にはもっと周りが押す有名なタレントもいたが…、 「その名前は絶対言えない」としていた。 他には『パッチギ!』にも出演していた女優のちすん、本業 はダンサー兼振り付け師の桜木涼介、『デトロイト・メタル ・シティ』などの米原幸佑、『ワルボロ』などの安部亮平、 『わたし出すわ』などの林剛史、『うた魂♪』などの永井彬 らが共演している。 若者向けのちゃらちゃらした作品の多い中、それなりに社会 性もあり重い部分もある作品。上映時間は2時間14分だが、 上映中はスクリーンから目が離せなかった。 * * 先日発表されたアカデミー賞結果についての僕なりの講評 及びその他のニュースは明日付で更新します。
2010年03月07日(日) |
アヒルの子、ビルマVJ、桃色のジャンヌ・ダルク、BOX 袴田事件 命とは+製作ニュース他 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『アヒルの子』 愛媛県出身で映画監督を目指している女性が、自分の幼い頃 からのトラウマである家族との諸々の関係を精算して行く姿 を追ったドキュメンタリー。 作品は、最初に自殺をほのめかす監督自身の姿から始まり、 自らが家族と過ごしてきた期間の自分自身の思いや、両親と 2人の兄及び1人の姉に対する思いを綴って行く。そこには かなり厳しい現実も語られるものだ。 さらに監督は5歳のときにヤマギシ会の幼年部に1年間入れ られたことがあり、そのことについても検証が行われる。因 に監督自身には、ヤマギシ会に入れられたこと=親に捨てら れたという想いがあり、その一方でヤマギシ会にいた期間の 思い出が全くない。 そこで映画の後半では、ヤマギシ会で何が行われていたのか を、当時の名簿を頼りに全国に散らばる同級生を訪ね歩いて その思い出を聞きながら、それによって自らの記憶を蘇らせ て行く旅にもなっている。 なお、監督が時折見せる過剰な感情表現に関しては、1999年 の映画『17歳のカルテ』に描かれた「境界性人格障害」と 診断される部分もありそうだが、僕自身が以前にこの障害に 関して学ぶ機会があったこともあり、その点では興味深かっ た。 ただ、20代後半になってもこの障害が克服できていないのは かなり心配だが、試写会場に現れた監督本人の様子はそれな りに良好だったから、この作品を作ったことで克服できてい るのかな。それならそれも良いことだろう。 作品はヤマギシ会の協力も得て製作されているので、批判的 な部分は極力押さえられているが、それでも監督の思いが伝 わってくるのは、上手い構成ということなのだろう。僕自身 が以前からこの会に感じていたことが上手く描けているよう にも感じられた。 実際、全国のヤマギシ会の同級生を訪ねて、徐々にその隠さ れた実態が明らかにされて行く映画後半の下りには、ミステ リーの謎解きのような面白さもあり、その結末も見事なもの だった。因に、僕自身が考えていたヤマギシ会の実態は当ら ずも遠からずのようだ。 公開は、沖縄にルーツのある監督が同じく家族の問題を描い たドキュメンタリー『LINE』と併映で、今年5月のポレ ポレ東中野を皮切りに全国順次の予定になっている。
『ビルマVJ』“Burma VJ” オスロに本拠を置く、在外ビルマ人活動家による民主化支援 メディア「ビルマ民主の声」から発信される軍政ミャンマー 国内の圧制の模様を伝える映像。その衝撃的な映像がどのよ うにして撮影され、如何にして海外に発信されたかを追った ドキュメンタリー。 もちろんそこには、軍事政権による民主化勢力弾圧の様子も 克明に描かれる。そこでは、2007年9月に僧侶たちが立ち上 がった民主化要求デモとその弾圧の様子や、その中で起きた 日本人ジャーナリストに対する銃撃の瞬間などが実写の映像 で綴られている。 軍政ミャンマーの国内事情に関しては、2008年『ランボー/ 最後の戦場』などでも多少は描かれたが、本作が描くのは都 市部に於ける正に民主化運動の最前線。それが若きヴィデオ ジャーナリスト(VJ)たちが生命を賭して撮影した映像に よって描かれる。 しかし、その素材となっているビルマVJたちによる記録映 像は断片的且つ膨大であり、その撮影場所や日時なども不明 確であったようだ。本作は、それらの場所をGoogleアースな どで特定し、時系列に並べ直して構成・編集されたものだ。 さらに本作では、状況の流れを理解しやすくするために、海 外に逃れた1人のVJを設定し、彼の許に情報を集約すると いう形式で物語が整理されている。従ってここには一部に再 現映像が含まれてはいるが、それが真実を歪めているような ことはなさそうだった。 ただし、日本人ジャーナリスト長井健司氏の射殺の情報に、 外国人ジャーナリストが殺されたことで状況が変わると期待 するシーンには、その後の日本政府の腰砕けに見える対応も 含めて複雑な気分にさせられた。 それにしても長井氏の銃撃シーンは、明らかに2メートルも 離れていない位置からの彼個人を狙った射殺に観えるが、こ れを至近距離からの銃撃に特有の火傷がないなどの理由で、 10メートル以上離れた流れ弾として日本政府が言い包められ ていることには納得できなかった。 まさかこのシーンが再現映像にも観えなかったが… 現状で、アウンサンスーチー女史の軟禁は解かれていないま まだし、ビルマの民主化への道はまだ遠くも見えるが、小型 カメラのヴィデオ映像がその目的達成への道程を克明に伝え てくれることに、今後も期待を寄せたい。
『桃色のジャンヌ・ダルク』 1976年生まれ、一浪して入学の国立東京芸術大学は中退する も、2005年には「幼なじみのバッキー」という絵本作品で、 第10回岡本太郎現代芸術賞に入賞という女流アーティスト・ 増山麗奈を追ったドキュメンタリー。 映画は、巻頭で国会議事堂前にピンクのビキニ姿で登場し、 その示威行動が警察の妨害を受けるシーンから始まり、母乳 アートと称するパフォーマンスや、さらに米軍占領下のイラ クに赴いての地元芸術家と交流など、とにかく行動力溢れる 彼女の姿が綴られる。 その間には、芸大在学中からの卒業製作を拒否=中退などの 行動や、結婚・不倫・離婚・再婚などの彼女自身の生き様も 再現ドラマを含めて描かれるが、それらは何れも現状社会へ の不満に基づくものであり、それらがある種小気味よく描か れた作品だ。 監督の鵜飼邦彦は1950年生まれ。1970年代までの日活でアク ションやロマンポルノの編集を手掛け、独立後は武智鉄二監 督による1980年『白日夢』を始め多数を担当したベテラン編 集者が、2006年に増山のパフォーマンスに興味を持ち、以来 撮影を続けているそうだ。 つまり監督は、なし崩し的に終ってしまった70年安保世代の 人でもあった訳で、僕自身も同じ感覚と思われる監督自身の 欝々とした現代社会への不満が、増山麗奈という素材を得て 表現された作品とも言えそうだ。 そしてそれは、大人の見識も踏まえて見事に表現されたもの であり、興味本位や生半可な過激さに走ることもなく、情に も流されずに増山自身を捉えることに務めている。その監督 の誠実さがこの作品を観やすくし、彼女自身の訴えも明確に 伝えているものだ。 今の世の中、女性が元気とは常々言われているところだが、 こんなに元気な女性の姿を観せられると、確かにその通りだ なあとも思ってしまう。この年代の男性で彼女に対抗できる 男子など果たしているのだろうか。 それからこの作品では、中に登場する彼女の絵画の素晴らし さも注目したいところだ。特にそのデッサンの確かさは誰の 目に明らかで、その才能が彼女を支えていることも理解でき た。 それにしてもこの映画では、国会議事堂前で撮影された最初 のシーンの掴みが見事で、それで僕は一気に引き込まれてし まったものだ。
『BOX 袴田事件 命とは』 死刑判決が最高裁で確定している裁判に対して、その第一審 地方裁判所で死刑判決文を作成した元判事本人が裁判のあり 方に疑問を呈し、死刑囚の無罪を主張し、現在行われている 再審請求への支持を表明するという異例の事態となっている 実話に基づく作品。 昭和41年6月30日の未明、静岡県清水市の味噌工場が放火さ れ、焼け跡から経営者一家4人の惨殺死体が発見される。そ の後、工場の従業員で元プロボクサーの袴田厳が逮捕され、 一旦は証拠不十分で釈放されるものの再逮捕。その拘留期限 の3日前に犯行が自白される。 しかし起訴された裁判で被告人は一貫して無実を主張。とこ ろが事件から1年半もたった裁判の途中で「新証拠」が発見 され、検察官による起訴状の書き直しという異例の手続きの 末に死刑判決が下された。 しかもその判決は、本来は全員一致でなければならない3人 の判事の多数決で決定され、判決に反対していた主任判事が 慣例に従い判決文を作成するも、そこでも異例の付記によっ て警察の捜査のあり方に疑問が呈されていたという。 という実話に基づく作品だが、映画は袴田死刑囚は無実とい う主張に沿ったもので、その中では、警察の捜査が一刑事の 直感で犯人を決定した上での見込み捜査であったことや、暴 力的な尋問の様子、「新証拠」の捏造の証明などが克明に再 現されている。 それはまあ、何処までが真実かは部外者の僕らには判断でき かねる問題だが、「新証拠」の捏造の解明に至る部分などは それなりに納得できるものにもなっていた。しかしそれでも 再審請求は認められていないのが現実のようだ。 出演は判事役に萩原聖人、袴田役に新井浩文。他に石橋凌、 葉月里緒奈、村野武範、保坂尚希、ダンカン、須賀貴匡、中 村優子、雛形あきこ、大杉蓮、志村東吾、吉村実子、岸部一 徳、塩見三省、國村隼らが共演している。 脚本監督は、2008年11月紹介『ZEN−禅−』などの高橋伴 明。監督はこの作品で裁判員制度の発足によって人が人を裁 くことの重大さを訴えたかったとのことだ。 自供偏重だった以前の警察で、このような自白の強要が行わ れていたことは想像に難くないし、それが現在はなくなった のかと言うことでは、それも疑問に感じるところだ。そんな でっち上げの証拠で裁判が行われる。 しかも今後の裁判では、裁くのは一般市民による裁判員。一 般人がこのような不正を見抜けるものか…。取り敢えず僕が 選ばれたら、警察が出す証拠は全てでっち上げという立場で 行くことにしよう。 * * ニュースの最初は1月25日付第182回で紹介したVES賞 の結果報告で、『アバター』はほぼ予想通り、作品賞、単独 VFX賞、アニメーションキャラクター賞、マットペインテ ィング賞、ミニチュア賞、背景賞を獲得、『第9地区』に譲 った合成賞を除く6部門の受賞となった。その内の複数候補 となっていた単独VFX賞はネイティリのシーン、背景賞は ジャングルのシーンでの受賞となっている。 その他の部門では、VFX主導でない映画のVFX作品賞 は『シャーロック・ホームズ』、アニメーション作品賞及び アニメーション映画におけるキャラクター賞、エフェクトア ニメーション賞は、それぞれ『カールじいさんの空飛ぶ家』 が受賞。結局、合成賞以外は『アバター』と『カールじいさ ん』が取れるだけ取った形で、特に『カールじいさん』のア ニメーション賞は完勝となったものだ。 まあ大体この手の賞では特定の作品に受賞が集中する傾向 が強いが、『アバター』はこのままアカデミー賞にも雪崩れ 込めるのだろうか。その結果ももう直ぐ判るところだが… * * 後は製作ニュースで、まずは共同製作で『9』を成功させ たティム・バートンとティムール・ベックマンベトフの両製 作者が再度手を組んで、セス・グラハム=スミス原作による “Abraham Lincolin: Vampire Hunter”という作品の映画化 を手掛けることが報告されている。 この作品は、題名通り第16代アメリカ大統領が吸血鬼ハン ターになるもののようだが、その背景には歴史的な事実もい ろいろ織り込まれていて、そこではリンカーンがホワイトハ ウスの住人となった真の目的や、南北戦争の真の原因などが 別の側面から描かれるとのことだ。 因にこの原作者のグラハム=スミスは、先にナタリー・ポ ートマンが製作主演することでも話題になった“Pride and Prejudice and Zombies”という作品の原作者でもあって、 どちらもかなり捻った作品になりそうだ。なおこちらの作品 は2011年の公開予定ですでに準備が進められている。 そして今回の計画では、バートンらが自己資金でグラハム =スミスに脚本の執筆を依頼したとのことで、その脚本が出 来上がってから製作会社との交渉や、投資家の募集などが開 始されることになるようだ。つまり『9』の時も先に製作を 開始させて、その後からフォーカス・フューチャーズとリレ イティヴィティ・メディアの製作参加が決まったものだが、 本作でも同様の手法が取られることになるようだ。 何れにしても、バートンと『ウォンテッド』のベックマン ベトフのコラボレーションなら信用度はかなり高そうだが、 どこが製作会社に選ばれるか、それも話題になりそうだ。 * * お次も配給会社等が未定の計画で、『シュレック』シリー ズなどの脚本・監督・製作を手掛けたアンドリュー・アダム スンが、“Fountain City”と題された製作費100億ドル以上 とされる実写の大型ファンタシーの計画を発表した。 この作品は、2007年にヘイデン・クリステンセンが主演し た“Awake”という作品の脚本監督を手掛けたジョビー・ハ ロルドの原案からハロルド自身が脚色し、アダムスンが監督 するとなっているものだが、具体的な内容に関しては題名と 大型ファンタシー・アドヴェンチャーという以外は秘密にさ れている。 そしてこの計画では、すでにロサンゼルスに本拠を置くラ イトストリーム・ピクチャーズという会社が製作を担当する ことになっており、ハロルドによる脚本の執筆が進められて いる。従ってこの脚本が完成されたら、こちらも配給会社な どの交渉が開始されることになるようだ。 因にアダムスン監督は、先に『ナルニア国物語』の第1章 と第2章の監督も務めているが、同シリーズの配給権がディ ズニーからフォックスに移ったのを機会にシリーズ監督から 降板。現状では最終話となる“Shrek Forever After”と、 第3章の“The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader”の製作は担当しているものの、監督としての スケジュールは開いており、じっくり準備をして大作に臨め そうだ。 内容は不明だが、題名からは美しい街の風景が目に浮かん できそうで、その風景を背景に繰り広げられる冒険が楽しみ だ。 * * もう1本ファンタシー系の話題で、サンテグジュッペリ原 作による世界的なベストセラー“Le Petit Price”(星の王 子様)を、3Dアニメーションで映画化する計画がフランス 人の製作者から発表された。 この原作は1943年に発表され、現在までに180以上の言語 に翻訳され、全世界で8000万部以上が出版されたと言われて いるものだが、同原作からはすでに1974年、『シャレード』 などのスタンリー・ドーネン監督による実写での映画化も行 われている。その物語を今回は3Dアニメーションで映画化 しようというもので、原作に添えられたイラストレーション 通りの世界が映像化されることになりそうだ。 因に計画を進めているフランス人の製作者は、2007年2月 に紹介した『ルネッサンス』なども手掛けた人たちとのこと で、モーションキャプチャーを駆使した前作の評価も高く。 4500万ユーロという今年度フランス映画では最大の製作費が 投じられる作品には、相当の期待が寄せられているようだ。 実際の製作は2011年初旬に開始の予定とのことで、公開は その1年後ぐらいになるのかな。 * * 2004年2月15日付第57回や、2006年12月15日付第125回で も少し触れたケネス・ロブスン原作“Doc Savage: The Man of Bronze”の再映画化の計画が再燃している。 この原作に関しては、1975年にワーナーでジョージ・パル 製作脚本、マイクル・アンダースン監督による映画化が行わ れており、僕自身は当時旅行先のロンドンで観た記憶のある ものだが、1930年代のパルブ雑誌のイメージをそのままにし たどちらかというと他愛ないお話が展開されていた。 その原作から以前の報告ではフランク・ダラボンが脚色を 担当し、パラマウントでの製作が予定されていた。しかしそ の計画は頓挫したようで、今回は改めてソニー傘下のコロム ビアが計画を発表している。 その発表によると、脚本には『リーサル・ウェポン』シリ ーズなどのシェーン・ブラックが契約し、ブラックは2006年 3月に紹介した『キスキス,バンバン』以来の監督にも再挑 戦することになっている。製作は『ワイルド・スピード』な どのニール・モリッツが担当するとのことだ。 お話は、原作通りなら北極に秘密基地を持つ科学に裏打ち された超能力を持つヒーロー=ドク・サヴェジが仲間達と共 に世界の悪と対決して行くというもので、そこに登場する珍 発明なども楽しめる作品になっていたはずだ。 何れにしても前回の映画化はかなりお子様向けに作られて いたもので、今回はブラックの脚本監督でどのような作品が 登場するか、それも興味津々というところだ。因にブラック は、ハリウッド有数のパルプ雑誌のコレクターとのことで、 その辺の思い入れにも期待できそうだ。 * * 後は続報で、2月14日付で紹介のローランド・エメリッヒ 監督による“Foundation”の計画について、その時も報告し たロバート・ロダットによる脚本がエメリッヒの許に届けら れたようだ。しかしこの脚本は240ページもあり、このまま 映画化すると上映時間が4時間近いものになってしまうとの こと。そこで現在はそれを200ページ以下に縮める作業が行 われているとのことだが、それでも3時間を超える作品には なりそうだ。元々壮大な物語だから、そのくらいは覚悟でき そうというところではあるが…。 因にエメリッヒ自身は、その前にシェイクスピアの時代を 背景にした“Anonymous”という作品を手掛けることになっ ており、脚本の圧縮作業には多少の時間は掛けられそうだ。 * * 最後に、これも2月14日付で紹介した“Superman”の次作 の計画に関して、さらにワーナーがデイヴィッド・ゴイヤー ともコンタクトしていることが報告された。今回の報告によ ると、すでに前作を手掛けたブライアン・シンガー監督と、 主演のブランドン・ルースに対しては映画会社側は期待を持 っていないのだそうだが、ワーナーとしても2011年中に新作 の製作を開始しないと、原作者たちと交わした契約が失効す るタイムリミットも迫っているとのことで、多少焦り気味の 状況にはなっているようだ。 ということでゴイヤーの登場となったものだが、ゴイヤー 自身はすでに敵役としてレックス・ルーサー及び最強の敵ブ レイニアックの登場するアクション満載のストーリーを考え ているとのことで、『バットマン・ビギンズ』で組み『ダー ク・ナイト』のストーリーにも協力したクリストファー・ノ ーラン監督との再度のタッグも期待できそうだ。
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