井口健二のOn the Production
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2008年10月26日(日) 英国王給仕人に乾杯、悪夢探偵2、戦場のレクイエム、ソウ5、クローンは故郷をめざす

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『英国王給仕人に乾杯』
         “Obsluhoval jsem anglického krále”
第2次大戦前から、共産政権樹立、そしてその後までのチェ
コの歴史を、1人の給仕人の目を通して語った歴史絵巻。
1997年に亡くなったチェコの反体制作家ボフミル・フラバル
が、1971年に執筆した原作の映画化。因にこの原作は、ソ連
支配下にあっては発表が禁じられ、地下出版により流布され
たものだそうだ。
また、監督のイジー・メンツェルも、1967年に同じフラバル
原作による“Ostre sledované vlaky”(厳重に監視された
列車)の映画化でアカデミー賞外国語映画部門を28歳で受賞
し、当時は「プラハの春」の時代に一躍国際的スター監督と
なったが、その後は弾圧され、当時の作品は次々上映が禁止
されたという。
そんな2人のコンビでは、過去5作品が映画化されており、
今回は6本目、フラバルの死後では初めての作品となる。
物語の主人公は、生涯を一給仕人として過ごしてきた男。体
格は小柄で、「お前は小さな国の小さな人間、それを忘れな
ければ人生は美しくなる」という給仕長の教えの下、百万長
者になることを夢見て人生を送って行く。しかしその人生は
歴史に翻弄されたものとなる。
最初は、駅のホームの駅弁売り。発車間際にゆっくり釣銭を
勘定して余分に金を取るのが手口の主人公は、一方で小銭を
ばらまき、紳士淑女が右往左往する姿を観ることも楽しみと
している。
そんな主人公は、やがて田舎のビアホールから、高級娼館、
プラハの高級ホテルへと人生の階段を昇って行くが…
物語の舞台となるチェコのズデーデン地方は、元々はドイツ
系住民とチェコ系住民が一緒に暮らしていた場所だったよう
だ。しかし、ナチス支配下ではチェコ系住民が排斥され、戦
後はドイツ系住民が追放されてしまう。
そんな中で主人公はチェコ系の男性だが、ドイツ人女性を愛
したり、ユダヤ人に教えを請うたり…あるときは要領よく、
またあるときは気儘に人生を送って行く。そんな主人公は金
持ちになったために共産政権下で投獄されたりもする。
物語は波乱万丈と言う程のものではないが、今も続く世界の
歪みの中で、人々が受けた苦しみや簡単には言葉で言い表せ
られないものが見事に描かれた作品だ。

『悪夢探偵2』
2006年10月31日付で紹介した塚本晋也監督によるシリーズ作
品の第2作。前作ではいきなり事件に遭遇したが、今回は事
件に絡めて悪夢探偵・影沼京一の生い立ちや背景なども語ら
れる。つまり本作は、『悪夢探偵・ビギンズ』といった感じ
でもある作品だ。
その事件は、同級生をいじめた少女がその同級生の登場する
悪夢を見るというもの。最初はいつものように、「いやだ、
いやだ」と言って取り合わない京一だったが、やがてその少
女の周囲で不可解な死亡事件が発生、重い腰を上げることに
なる。
そして依頼者と共にいじめ被害者の同級生の家を訪ねた京一
は、異常に恐がりだったというその同級生に自分の母親に似
たものを感じ取る。そこで京一は、同級生の行為を止めるた
め、依頼者の少女の悪夢に侵入してその同級生に会おうとす
るのだが…
悪夢の中のシーンと、京一の回想と、現実とが綯い交ぜにな
って、なかなか面白い物語が展開する。そこにいじめなどの
現代的な問題や、またある種の超能力者だったらしい母親と
京一との絆のようなものもうまく描き込まれていた。
出演は、悪夢探偵役に前作に引き続いて松田龍平。依頼者役
に300人のオーディションで選ばれたという三浦由衣。同級
生役に『誰も知らない』などの韓英恵。また、光石研、市川
実和子、内田春菊、北見敏之らが共演している。
因に、本シリーズは元々が3部作で構想され、その第2作が
いじめの話、第3作で母親の話を描く予定だったようだ。し
かし、今回その2つの話を1つに纏めたことで、当初構想さ
れた3つの物語は完成となった。
従ってそれで終りかと思いきや、塚本監督の考えはそうでは
ないようで、逆にこれからは自由に続編が描けるとのこと。
監督の頭の中には実験的なものも含め、いろいろな構想がす
でに挙がっているようだ。
特に本作では、作品中に同級生が描いたという設定で登場す
る絵画にインパクトがあり、不思議な雰囲気を作り出してい
たので、そのアニメーション化なども面白そうだ。これから
はそれらの作品が実現することにも期待したい。

『戦場のレクイエム』“集結號”
第2次大戦後の新中国が建国に向かう国共内戦の中で、3大
戦役の1つに数えられる1948年11月6日に始まった淮海戦役
と、その戦いに従軍し歴史に翻弄された1人の男性の人生を
描いた人間ドラマ。
主人公は、人民解放軍中原野戦軍第2師139団3営第9連隊の連
隊長。華東地方での市街戦で国民党軍を包囲するも待ち伏せ
に遭い、仲間の多くを失ったことから激昂、捕虜を虐待した
ことで軍律違反に問われる。そして、連隊は淮河の最前線に
送られることになる。
そこでの命令は、「旧炭坑を正午まで守り切り、集合ラッパ
を合図に随時撤収する」というもの。しかし激戦の中、重傷
を負った部下の1人が集合ラッパを聞いたと主張するものの
部下たちの意見は分かれ、主人公は戦闘続行を命令する。
その結果は主人公を残して連隊は全滅、主人公は部下たちの
遺体を炭坑に安置するが…
やがて、主人公は戦場から救出される。ところが中原軍はす
でに再編されて記録が散逸。彼自身の身分も不明で第2師団
の隊員は消息不明の扱いとなっていた。しかも、彼が遺体を
安置した炭坑は戦闘で入り口が埋もれ、発見することができ
なかった。
その上、新国家の中では内戦での戦死者は「烈士」として遺
族への配給が優遇されるのに対して、行方不明者は「失踪」
として冷遇される現実が待ち構えていた。そんな中で主人公
は自分が集合ラッパを聞き逃し、部下を死に追いやったとの
自責の念に駆られる。
こうして主人公は、部下たちの遺体を発見し、彼らの名誉を
回復する責務を負うことになる。
物語は実話に基づくもののようだが、原作とされるのはわず
か3ページの短編小説。それは戦友の名誉回復に奔走した男
性を描いたもので、その物語に感銘を受けた監督が一大絵巻
に作り上げた。
その映画の中で主人公は、淮海戦役の後も義友軍として朝鮮
戦争に赴くなど、映画の前半は戦闘シーンの連続するものに
なっている。そこには中国映画史上最大の製作費が注ぎ込ま
れたというリアルな戦闘が展開される。
しかし本作で最重要なのはその後の人間のドラマであって、
それを『女帝[エンペラー]』などのフォン・シャオガン監督
が見事に描き出した作品だ。
主演は、シャオガン監督の『ハッピー・フュネラル』『イノ
セント・ワールド』に出演し、本作が初主演のチャン・ハン
ユー。それに『レッドクリフ』に出演のフー・ジュン、若手
のダン・チャオ、ユエン・ウエンカン、タン・ヤンらが共演
している。特に若手には、中国映画界のこれからの注目株が
揃っているそうだ。

『ソウ5』“Saw 5”
毎年、今頃の定番となった『ソウ』シリーズの第5弾が、日
本では11月28日に公開されることになった。
2004年にスタートした本シリーズの監督は、第1作のジェー
ムズ・ワンの後、第2作から第4作はダーレン・リン・ボウ
スマンが担当したが、今回は新たに第2作以降のプロダクシ
ョン・デザインを担当していたデイヴィッド・ハックルが起
用されている。
一方、脚本には第4作のパトリック・メルトン、マーク・ダ
ンスタンが起用されており、実は、第4作以降はオリジナル
から発展したいわゆるシリーズものとしての新たな展開を求
めるとしていた方針が、ここで確立されたものだ。
と言っても、狂気の死刑執行人が仕掛ける死の罠を、如何に
潜り抜けて行くかというメインのテーマは同じで、そこに今
回は、すでに死亡したはずのジグソウの後を誰が継いだのか
という真(新)犯人捜しがサブプロットとして展開されるこ
ととなる。
でも、見ものはやはりいろいろ趣向を凝らした死の罠で、今
回は5人の対象者を相手に手の込んだ仕掛けが展開される。
そして、実はそれが…と言うところもシリーズの定番として
活かされているものだ。
駄目な人には元々駄目なものだが、好きな人には今回もその
期待は裏切らないし、これでシリーズも安泰と言う感じ。
因に、本作の宣伝コピーには「遂に最期か」とあるが、確か
に本作では以前に提示された謎の回答はいくつか示されるも
のの新たな謎もてんこ盛り。その上、試写会の後に行われた
恒例の監督へのQ&Aでは、「その謎の答えは“Saw 6”で
描かれるであろう」という発言まで飛び出して、シリーズの
継続は決定済みのようだ。
なおこのQ&Aでは、僕も「監督自身、本シリーズの前の作
品に勝ったと思っているところ」という質問をしてみたが、
その回答は「エモーショナルな部分を強くした」とのこと。
実際、今までシリーズでは封じられていた長回しのシーンも
今回は採用されているとのことだ。
また、別の質問で「日本映画で好きな作品は」と訊かれて、
監督は2001年公開の『殺し屋1』を挙げていたもので、なる
ほどと思わせるシーンも登場する作品であった。

『クローンは故郷をめざす』
1994年度ぴあフィルムフェスティバルの受賞者で、その後は
海外の映画祭などでも受賞歴のある中嶋莞爾脚本・監督によ
る近未来SF作品。
物語は、宇宙ステーションが完成して、日本人パイロットも
宇宙空間での作業に従事している時代が背景。その1人が事
故で亡くなり、特殊技能を持った人材を失うことによる計画
の遅滞を恐れた政府は、クローン再生による人材(技能)の
確保を検討する。
その時代、移植のための本人細胞によるクローン臓器の再生
技術は確立されており、計画はその技術を応用して採取され
たDND時点での全身体を再生、メモリーに保存されたそれ
までの記憶を移植して、その時点の技術を持った人材を再生
しようというものだ。
そして主人公も事故に遭い、その技術によってクローン再生
が行われるのだが…
当然、そこには人格の同一性などの問題が生じて行くことに
なる。そしてそこには、オリジナルの自分との確執や、過去
の記憶が再生されることによる様々な問題が生じてくる。
そんなSFとしてもかなり興味の曳かれる物語が、再生され
たクローンを主人公にすることによって判りやすく展開され
て行く。いや正直に言って、映像作家と呼ばれるこの手の監
督の作品で、これほど真面目にSFが描かれていることは期
待していなかった。
もちろん映像的には、タルコフスキーを手本にしていること
はすぐに思いつくが、その一方で、ある意味『ソラリス』の
別ヴァージョンとも言える作品を見事に構築してみせてくれ
た。しかも、『ソラリス』では曖昧にされた理論的な考察も
されているように思える。
実際にこのようなクローン技術が可能なものであるかどうか
は別の問題として、その架空の理論の中では物語が首尾一貫
していることは認めるべきものだろう。この首尾一貫性が日
本のSF映画ではなかなか望めなかったもので、その意味で
は、この映画をSF作品として大いに評価したいものだ。
主演は『日本沈没』などの及川光博。他に、石田えり、永作
博美、嶋田久作、品川徹らが共演。また、美術監修を86歳の
木村威夫が手掛けていることも注目される。
なお本作は、監督自身の手になるオリジナル脚本が2006年の
サンダンス・NHK国際映像作家賞を受賞したもので、その
時の審査委員長だったヴィム・ヴェンダースの製作総指揮に
より映画化された。
(本作は東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で上映
された)

今年の第21回東京国際映画祭では、コンペティション作品の
事前試写を含めて40作品を鑑賞することができました。その
内、今回紹介した『クローン…』と、7月31日付で紹介済み
のコンペティション作品『ブタがいた教室』以外の作品は、
ごく一部を除いて日本公開の見込みが立っていません。今年
もコンペティションの全15作品と、残りは「アジアの風」、
「ワールド・シネマ」の両部門を中心に観たものですが、そ
れらの作品については改めて紹介することにします。



2008年10月15日(水) 第169回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回は記者会見の報告から。
 12月5日に日本公開されるディズニー=ピクサー・アニメ
ーション『ウォーリー』の監督アンドリュー・スタントンと
製作者のジム・モリス、それに音響デザイナーでウォーリー
の声も担当したベン・バートの来日記者会見が行われた。
 この内、『スター・ウォーズ』でのR2−D2の音声の制作者
としても知られるベン・バートは初来日とのこと。会見では
技術畑のバートに対する質問が出るかどうか心配で、自分な
りの質問は用意して出掛けてみた。ところが会見は思いの他
バートに質問が集中することになり、僕は質問できなかった
が、いろいろ興味深い話は聞くことができた。
 その会見によると、この作品は、当初冗談で“R2-D2: The
Movie”と呼ばれていたとのこと。それなら本人を呼んだら
どうかという発想でバートへのアプローチがされたのだそう
だ。それに対してバート側が直ちに応じたもので、このため
かなり初期の段階から計画に参画していたようだ。
 そこでバートは、ストーリーの骨子や極初期のコンセプト
アートなどを観ながらアイデアを練り、さらに保存してあっ
たいろいろな音の中から今まで使ったことのない音を選び、
それらに人間の声(ウォーリーに関してはバート本人)を加
味して、今回登場するロボットたちの声を設計したとのこと
だ。
 そしてさらに、その声をアニメーターたちに聞かせ、彼ら
との意見交換で声を完成させて行ったとのこと。このため、
ロボットのキャラクターの形成にも、その声が直接の影響を
与えたとのことで、そこではかなり主導的な立場にもあった
ようだ。従って、バート自身もこの作品にはかなり満足して
いる様子で、終始にこやかに会見に応じていた。
 僕は以前に、バートの愛弟子で、『タイタニック』の音響
などでオスカーを受賞しているゲイリー・ライドストローム
にインタヴューをしたことがあり、そのときバートの人とな
りを訊いてみた。その回答は、「学校の先生のような人」と
いうものだったが、その記憶から今回の会見を観ていると、
確かにバートは、雰囲気も柔らかく質問に対する回答も丁寧
で、本当に生徒に好かれる先生という感じがしたものだ。
 データベースによると1948年7月12日生まれ、今年60歳に
なったばかりのバートだが、どんどんコンピュータ化される
一方の映像に対して、音響は自然の音を使ったり、自分の耳
が頼りだったり、まだまだ手作りの部分も残る分野で、これ
からもますます頑張ってもらいたいものだ。
 ところでこの会見には、映画の設定上の実物サイズで製作
されたウォーリーのレプリカも登場し、ゲストの「タカ&ト
シ」とのパフォーマンスも披露した。このレプリカは遠隔操
作で操演されているもののようだったが、前後の移動や回転
は基より、身体を伸ばしたり、目も自在に動かせるなど優れ
もので、映画はCGIアニメーションだが、現実にもここま
での動きができるのだと感心した。
 このレプリカは東京国際映画祭への登場もありそうだが、
グリーンカーペットをちゃんと歩けるかどうか、昨年も登場
したお掃除ロボットや、TOYOTAの2輪車との共演も楽
しみだ。
        *         *
 ではここからは製作ニュースを紹介しよう。
 まずは新規の話題で、ニール・モリッツ率いるオリジナル
・フィルムスが、“Battle: Los Angeles”と題されたSF
作品をコロムビア向けに製作すると発表した。
 この作品は、1999年に公開されたジョン・トラヴォルタ主
演の軍隊ミステリー『将軍の娘』を脚色したクリストファー
・ベルトリーニによるオリジナル脚本を映画化するもので、
基本の物語は、海兵隊の小隊がエイリアンの侵略軍と遭遇、
ロサンゼルスの市街地で戦闘を繰り広げるというもの。解説
には、『ブラックホーク・ダウン』と『インディペンデンス
・デイ』を一緒にしたような作品と紹介されていた。
 そしてこの計画に、2006年の『テキサス・チェーンソー/
ビギニング』を手掛けたジョナサン・リーベスマン監督の起
用が報告されている。因に、脚本は今年4月頃にモリッツの
手元に届いたそうで、モリッツは直ちにその映画化を決定。
さらにオファーを受けたリーベスマン監督は、8月にはサン
タモニカからダウンタウンまでのロサンゼルス各所でロケハ
ンを行い、VFX合成用の背景映像の撮影もすでに行ってい
るとのことだ。
 またリーベスマン監督は、CGIで描写されるエイリアン
本体の演出も自ら手掛けるとのことで、監督のSF的センス
にも期待したい。なお監督は、他にもいくつもあった作品の
オファーを全て断って本作の企画に飛び込んだそうだ。因に
監督のデビュー作は、ロアルド・ダール原作“Genesis and
Catastrophe ”(誕生と破局:短編集『キス・キス』所載)
というものだそうで、これも気になるところだ。
 一方、ロサンゼルスを舞台にした市街戦ということでは、
韓国映画の『ディー・ウォーズ』が日本はソニー配給で近く
公開されるが、本作のVFXには市街描写が得意のソニー・
イメージワークスが参加するものと思われ、一層の迫力ある
市街戦を期待したいものだ。
        *         *
 12月に『ワールド・オブ・ライズ』(Body of Lies)が日
本公開されるレオナルド・ディカプリオとリドリー・スコッ
ト監督が再び組み、イギリスの作家オルダス・ハックスリー
が1932年に発表した小説“Brave New World”(すばらしい
新世界)を映画化する計画が報告されている。
 ハックスリーの原作は、同じくイギリスの作家ジョージ・
オーウェルが1949年に発表した『1984年』と並ぶアンチ
ユートピア小説の古典とされてるものだが、オーウェル作品
がネット社会を予言したとも言われる視覚的な未来図を描い
ているのに対して、ハックスリー作品は人間の精神的な面を
中心的に描いていて、映像化は困難とされていた。
 実際、『1984年』が原作発表から7年後の1956年に最
初の映画化が行われ、ずばり1984年にも映画化されたのに対
して、『すばらしい新世界』の映像化は、テレビはあるもの
の映画では製作されていなかったようだ。
 また今回の報道でも、スコット本人が「自分ではこのよう
な題材は選ばないだろう。しかしディカプリオの会社が映画
化権を所有していて、僕にオファーしてきた。そこでこれは
大きなチャレンジだと考えた。2人の偉大な先人が、60年と
75年前にこれらの予見の物語を描いた。中でもハックスリー
の原作を脚色するのは本当に難しいことと思える。しかし、
今が正にその予見に向かうかどうか時代にあって、これは本
当に大きなチャレンジになる」と述べて、製作への意欲を示
しているものだ。
 物語は、人間の生涯の身分から生殖まで管理された未来の
理想社会を舞台に、その管理者の立場にいた男と、無管理の
「蛮人保存地区」で生まれ育ったが管理社会に迎えられるこ
とになった男の運命が描かれる。今後の人類が向かって行く
かも知れない未来の管理社会、もちろんそこには映像的な未
来シーンも描かれることにはなるだろうが、その中での人間
の葛藤が主なテーマとなる作品だ。
 スコット監督は、『ブレードランナー』でも未来社会に生
きる人間の精神的な葛藤を描いていたが、ハックスリーの原
作はさらに人間そのものの存在にも迫るもので、確かに脚色
は難しいがやりがいのある作品と言えそうだ。
        *         *
 ところでスコット監督には、もう1本、SF映画の計画が
発表されている。その作品の題名は、“The Forever War”
(終りなき戦い)。アメリカのSF作家ジョー・ホールドマ
ンが1975年に発表したデビュー長編の映画化で、この原作は
ヒューゴー、ネビュラ両賞を同時受賞しているものだ。
 物語は、人類がブラックホールを応用したワープ航法を開
発して大宇宙に進出した未来が舞台。その遠い宇宙で異星人
と遭遇した人類は彼らと戦争状態になる。その戦争に主人公
は兵士として参戦する。しかし数ヶ月の兵役の後に帰還して
みると、その間に地球では20年の歳月が流れ、故郷は見慣れ
ぬ土地になっていた…というもの。
 この原作についてスコット監督は、「『オデュッセイア』
と『ブレードランナー』を足して2で割った様な作品」と称
しているが、原作の発表当時は「ベトナム帰還兵だった作者
の心情が色濃く出ている」と理解された作品だったようだ。
 そしてこの映画化に関しては、スコット監督は、1982年の
『ブレードランナー』の公開直後にも希望をしていたが、そ
の時は映画化権がすでに設定されていたため手が出せなかっ
たのだそうだ。実はその時、映画化権を所有していたのは、
『スター・ウォーズ』などを手掛けたVFXマンのリチャー
ド・エドランド。彼は1983年の『ジェダイの復讐』を最後に
ILMから離脱した後、40万ドルの自費でこの映画化権を獲
得。自らの監督デビュー作としてその映画化を検討していた
とのことだ。
 なお、僕は1983年に来日したエドランドにインタヴューを
させてもらっているが、この時、次回作の予定を訊いたとこ
ろ、「幽霊ものと、もう1本、絶対秘密のプロジェクトがあ
る」と答えてくれた。この「幽霊もの」が1984年『ゴースト
バスターズ』だったことはすぐに判明したが、「もう1本の
プロジェクト」と言うのがどうやらこの作品だったらしい。
しかしこの計画は、結局実現しなかった。
 その計画にスコット監督が満を持して再挑戦するもので、
スコット監督は6カ月の交渉の末にエドランドから原作の映
画化に関する全権利を獲得し、自ら製作も兼ねて計画を進め
るというものだ。脚本家などはこれから選考することになる
が、出来るだけ早期に実現したいとしている。
 上記の“Brave New World”と、どちらが先に実現される
かは未定だが、いずれにしても『ブレードランナー』以来と
なるスコット監督の本格SF映画への挑戦には、期待大とい
うところだ。
        *         *
 ここからはコミックスの映画化で、まずは、ヴァージン・
コミックスから派生したリキッド・コミックスが発行してい
たグラフィックノヴェル“Ramayan 3392 AD”の映画化を、
2003年にアンジェリーナ・ジョリー主演『すべては愛のため
に』などを手掛けたマンダレイ・ピクチャーズが行うと発表
した。
 原作の物語はインドの伝説に基づくもので、ラーマ王子と
呼ばれる青い肌の戦士を主人公に、祖国を襲う悪の軍団から
愛する者を救うため戦う姿が描かれているとのこと。ただし
“…3392 AD”というのには何か意味がありそうだ。そして
この原作から、『ハッピー・フィート』などを手掛けたジョ
ン・コーリーが脚色することも発表されている。
 因に、この原作は2006年に初版発行されたものだが、実は
リキッド・コミックスは現在は出版を廃業しているもので、
現在同社では、過去に出版した作品の権利の管理などを行っ
ている。そしてこの原作に関しては、すでにソニー・オンラ
インからRPGとしての展開も契約されているとのことだ。
 つまり映画とゲームの両面から製作が進められるもので、
うまく行けばかなり大きな事業になりそうだ。なおリキッド
・コミックスの関連では、ニュー・リジェンシーでジョン・
モーア監督が進めている“Vuruents”と、2007年8月1日付
第140回で紹介したガイ・リッチー監督によるワーナー作品
“The Gamekeeper”も同社の管理している作品とのことだ。
 今回の計画は、まだ監督も発表されていないものだが、脚
本家のコーリーは、前々回に紹介したダーウィンの伝記映画
“Creation”の脚色も担当している人。一方、映画化を行う
マンダレイも、過去『ジャケット』や現在も“The Birds”
のリメイクなど、面白い作品をいろいろ提供してくれている
会社なので楽しみだ。
        *         *
 もう1本、コミックスの映画化は、ワーナー=DCコミッ
クスから、新たに“Jonah Hex”という計画が発表された。
 この原作コミックスは、1970年代前半に刊行されていたも
ので、物語の背景は南北戦争が終結した頃。主人公のヘック
スは顔の右側に大きな傷を持った賞金稼ぎの拳銃使いという
ことだ。特に超能力を持ったスーパーヒーローというもので
はないようだが、そのキャラクターは、クリント・イースト
ウッドの西部劇の主人公にも影響を与えたとも言われている
ようだ。
 従って映画は西部劇ということになりそうだが、その監督
にジェイスン・ステイサム主演の『アドレナリン』を手掛け
たマーク・ネヴェルダインとブライアン・テイラーの起用が
発表され、さらに主演には、オリヴァ・ストーン監督“W”
にジョージ・W・ブッシュ役で主演したジョッシュ・ブロー
リンの出演も発表されている。
 一方、製作は、『アイ・アム・レジェンド』などのアキヴ
ァ・ゴールズマンと、『ゲット・スマート』のアンドリュー
・ラザラーが担当しており、この内、ラザラーは、2001年に
製作した『キャッツ&ドッグス』の続編“Cats & Dogs: The
Revenge of Kitty Galore”と、“Get Smart 2”の製作も進
めているようだ。
        *         *
 後半は続報を中心に纏めて紹介しておこう。
 まずは続編の情報で、今夏公開されたドリームワークス・
アニメーション『カンフー・パンダ』の続編が、2011年6月
3日に全米公開され、その題名が“Pandamonium”になると
発表された。
 この発表は、DWAトップのジェフリー・カツェンバーグ
が、同社をバックアップしている投資会社ゴールドマン・サ
ックスの年次総会の席で行ったもので、それによると第1作
の全世界での興行収入は6億2600万ドルで、これはDWA史
上の最高金額であるとのこと。そして第1作で声優を務めた
ジャック・ブラックとアンジェリーナ・ジョリーはすでに同
じ役柄での再演を契約しているそうだ。
 また第2作は、2009年以降のDWA作品は全て3Dで製作
するとした方針に従って3Dで製作される。そして上映は、
全米のIMaxシアターを中心に行われるとのことだ。ただし、
製作自体がIMaxのフォーマットで行われるかどうかは今回は
明言されてはいなかった。さらに監督には、第1作のストー
リー製作でヘッドを務めたジェニファー・ヨー・ネルスンが
起用されることも発表された。
 その第2作の物語は、カンフーオタクのポーが「選ばれし
者」を目指す旅はまだまだ続いているという展開で、そこに
AJの再演があるということは、マスター・タイガーがその
指導をすることになりそうだ。因に、11月9日に全米発売さ
れる第1作のDVD及びBlu-rayと同時に、5人のマスター
たちを描いた“Secrets of the Furious Five”という作品
もリリースされるようだ。
 DWAとしては、2010年5月21日全米公開予定の第4作で
完了する『シュレック』に替わるシリーズとしての期待も高
い『カンフー・パンダ』だが、北京オリンピックも終って、
新たな展開が得られるかどうかというところになりそうだ。
        *         *
 お次は、日本公開が迫っている『ダイアリー・オブ・ザ・
デッド』の続編というか、ジョージ・A・ロメロ監督のゾン
ビシリーズの新作の情報で、題名は未定の作品の撮影がすで
に開始されている。
 この新作に関しては、8月17日付で前作を紹介したときに
も報告したが、その時に言われていた題名はキャンセルされ
たようで、直接的な続編ということではないようだ。しかし
この作品には、『ダイアリー…』に出演のアラン・ヴァン・
スプラングがキャスティングされており、さらに前々作『ラ
ンド・オブ・ザ・デッド』に出ていたデヴォン・ボウティッ
クも出演するとのことで、これには何かの仕掛けもあるかも
しれない。
 公表された新作の物語は、北アメリカの沖合に浮かぶ孤島
を舞台にしたもので、そこの住人の一部にもゾンビ化の現象
が現れ、島のリーダーは彼らを抹殺するか、回復の期待を持
つかの選択に迫られるというもの。今までのゾンビシリーズ
とは、また少し違った局面での物語となりそうだ。
 因にロメロ自身は、常々死者への敬意を払うことの重要性
を述べており、最近のリメイク作品が必ずしもそうはなって
いないことへの不満もありそうだが、そんな状況でのこのス
トーリー展開は興味を引かれるものだ。
 撮影はすでにカナダのオンタリオで10月上旬に開始されて
おり、海外配給は『ダイアリー…』と同じくヴォルテージ・
ピクチャーズが担当している。
        *         *
 ロメロの関連で、1973年公開“The Crazies”のリメイク
が、オーヴァーチュア・フィルムスの製作配給で進められる
ことになった。
 この計画に関しては、2004年6月1日付第64回などで紹介
したが、その時はパラマウントで進められていた計画が変更
になったようだ。しかし、その当時にも関っていた脚本家の
スコット・コーサーとロメロの製作総指揮は継続されている
ようで、さらに2005年『サハラ』のブレック・アイズナーの
監督起用も発表されて、来年早期の撮影が計画されている。
 オリジナルの物語は、ペンシルヴェニアの小さな町が突然
軍隊によって封鎖され、その封鎖された町の住民たちの行動
を描いたもの。ロメロ監督によるかなりリアルでドライな演
出が印象に残っている作品だが、リメイクでは舞台をカンザ
スに移して、現代化した物語が描かれることになるようだ。
 因に監督に起用の決まったアイスナーは、『サハラ』では
いろいろトラブルに見舞われたが、現在は“Creature from
the Black Lagoon”のリメイクと、“Flash Gordon”のリメ
イクにも関っており、気になる監督というところだ。
        *         *
 もう1本、ワーナーが16世紀に成立したとされるイギリス
の民話“Tom Thum”(親指トム)を『魔法にかけられて』の
ケヴィン・リマ監督で製作すると発表した。
 この物語に関しては、1958年のジョージ・パル監督による
MGM作品“tom thum”(主人公に合わせて全て小文字で表
記される)があり、ワーナーではそのリメイク権も所有して
いるものだが、今回は敢えてそのリメイクとは言わず、新た
なテントポール作品として進めるとしているもので、その脚
本を、『プライベート・ライアン』などのロバート・ロダッ
トが執筆することも発表されている。
 物語は、不遜な騎士だった男が身長6インチに縮められ、
それでも姫を保護する任務に着くうちに、本当の英雄である
ことの意味に気付いて行くというもの。この物語を『プライ
ベート…』の脚本家なら面白くなりそうだ。
 なお、リマ監督とワーナーでは、この他にも、1700年代を
舞台に10代の少年がエクソシストを目指して訓練を積むとい
う“Spook's Apprentice”と題された作品も進めているよう
だ。
        *         *
 最後に、4月15日付の第157回で紹介した“The Matarese
Circle”の映画化に、デイヴィッド・クロネンバーグ監督が
交渉されていると報告された。
 MGMが争奪戦の上権利を獲得したロバート・ラドラムの
原作は、冷戦時代を背景にアメリカとソ連のスパイが協力し
て事件を解決するという異色の作品で、すでにデンゼル・ワ
シントンが主演することも発表されているものだが、そこに
クローネンバーグ監督の起用は、これもかなり意外性のある
ものだ。期待したい。
 なおMGMでは、この他にも“RoboCop”シリーズの再開
をダーレン・アロノフスキー監督に任せるという計画も進め
ているそうだ。



2008年10月12日(日) ワンダーラスト、アイズ、天使のいた屋上、猫ラーメン大将、未来を写した子どもたち、ワールド・オブ・ライズ、ホルテン、チェチェンへ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ワンダーラスト』“Filth and Wisdom”
女性歌手のマドンナによる初監督映画。
ロンドンでルームシェアして暮らす男1人と女2人の物語。
男はウクライナからの移民で本業は歌手だが、生計はSMの
調教師などで立てている。そして、同じアパートに住む盲目
の詩人の面倒も見ている。
一緒に暮らす女の1人は医科大を中退してインド人経営の薬
局で働いているが、アフリカで恵まれない子供たちを助ける
ことが夢だ。もう1人は、クラッシックバレーを学んでいる
が成果は上がらず、生活のためにストリップダンスを勧めら
れる。
そんな3人とその周囲の人々の姿が、マドンナ自身の若い頃
とも重なるのか、どちらかと言うと甘く優しい眼差しで描か
れる。
映画は主人公の男のモノローグで始まる。その構成は、最初
は多少迷いがあるのか混乱もしているが徐々にそれも解消さ
れて、収まるところに収まって行く。それは映画の成立の経
緯にも関わっているようだが、それなりに上手く行っている
ように思われた。
ミュージシャンとしては功なり名を遂げている人が、大上段
に振りかぶることはせずに、自分なりのスタンスで映画を作
り上げている。そんな雰囲気も心地よく感じられる。
それに加えて、マドンナが熱望し、ストーカー紛いのことま
でして出演交渉したという、カリスマ的ロマ系バンドのヴォ
ーカリスト=ユージン・ハッツの演じる主人公が瓢々として
良い感じで、さらにバンドの演奏や歌唱がフィーチャーされ
ているのも聞き物だった。
共演は、新進女優のホリー・ウェストンとヴィッキー・マク
ルア。その他、『ペネロピ』などのリチャード・E・グラン
ト、アジア系スタンダップ・コメディアンのインダー・マノ
チャ、舞台俳優のエリオット・レヴィら多彩な顔ぶれが脇を
固めている。
物語自体はよくあるものかも知れないし、演出も取り立てて
何かあるものでもないが、まあ、新人監督の分を弁えて真面
目に撮っているという感じはする作品。マドンナ本人は、ゴ
ダール、ヴィスコンティ、パゾリーニ、フェリーニに憧れて
いるようだが、確かにハリウッド映画ではないヨーロッパの
香りのする作品にはなっていた。
因にマドンナは、先にH&Mのコマーシャルの演出を手掛け
たことがあるそうで、その経験が今回の映画監督の切っ掛け
になっているようだ。

『アイズ』“The Eye”
2002年、パン兄弟監督で発表された『the EYE〔アイ〕』の
ハリウッド版リメイク。ただしこの話の大元は、手塚治虫原
作、大林宣彦監督の1977年作品『瞳の中の訪問者』だと言い
たいところだが、今回もそれは無視されたようだ。
主人公は盲目の女性バイオリニスト。5歳の時に事故により
失明した彼女は、コンサートでは指揮者の隣でソロを務める
ほどの名手となっていた。そんな彼女が、ついに角膜移植に
よって視力を取り戻す決心をするのだが…
手術も成功し、視力も少しずつ戻り始めた彼女は、同室の寝
た切りだったはずの老人が夜中に起き上がり何かの影に導か
れて立ち去って行くのを「目撃」する。そして翌朝、その老
人が昨夜息を引き取ったことを教えられる。
彼女が見たものは一体何だったのか。さらに彼女は街でいろ
いろな現象に遭遇し、また悪夢を見るようにもなる。そして
それらは、彼女に何かを伝えようとしているようにも見え始
める。
パン兄弟のオリジナルでは、墓地のシーンでの心霊写真のよ
うな仕掛けなどいろいろ楽しませてくれたが、リメイク版は
もっとストレートなホラー映画の作りで、そのような小細工
は余り講じていないようだ。この辺は文化の違いというとこ
ろなのだろうか。
それに対して本作では、瞬間に現れるものの恐怖感や交錯す
る人体の擦り抜けなど、ハリウッド映画らしいVFX的な仕
掛けは満載で、それは楽しめるようになっている。そしてそ
の恐さという点では、甲乙付けがたいという作品だろう。
主演は、『シン・シティ』などのジェシカ・アルバ。それに
『GOAL!』のアレッサンドロ・ニヴォラ、『スーパーマン・
リターンズ』のパーカー・ポージーらが共演。
監督は、今春に日本公開された『THEMゼム』のダヴィッド・
モロ&ザヴィエ・パリュ。脚本は、ベネズエラ出身で2003年
『ゴシカ』などを手掛けたセバスチャン・グティエレスが担
当している。
オリジナルは、確か続編も作られたはずだが本作はどうなる
かな。それから本作の製作は、トム・クルーズの盟友ポーラ
・ワグナーが担当しているものだが、本作にクルーズの出演
はなかったようだ。

『天使のいた屋上』
本作の原作は、女子中高生対象の携帯小説サイトで映画化を
前提として募集された作品とのことだ。以前にも同様の経緯
で製作された映画を紹介したことがあるはずだが、今回はそ
のときとは別の製作会社の作品で、こういう動きがいくつも
進んでいるようだ。
それに前回の時は、ちょっとファンタスティックなテーマの
物語だったが、今回はそれなりに現実的な内容で、募集して
いるサイトによってテーマの方向性が異なるのも、良い傾向
のように感じられる。
その本作の物語は、とある高校が舞台。主人公の男子生徒が
授業をサボり、音楽を聴きにやってきた立入禁止の校舎の屋
上で、周囲の風景を写メしている女子生徒に出会う。
その主人公はサッカー部員だったが、ある事件によって部は
休部になっているらしい。そのため目標を失った主人公は、
授業もサボり勝ちになっているのだが、屋上での女子生徒と
の交流が、彼に新たな目標を見出させるようになって行く。
自己責任以外の原因で長年の目標が失われるというのは辛い
話だが、集団スポーツなどではかなり起り得る話なのかも知
れない。そんな学生生活に起り得る話を、上手く物語に取り
込んだ作品ということは言えそうだ。
ただし本作では、その元になる事件が謎解きのように徐々に
明らかになる構成となっているのだが、本作の全体の物語の
中で、主人公が屋上にいる理由まで謎解きの対象する必要が
あったかどうか。これは前提として描いた方が良かったので
はないかと感じた。
実際、物語では後半にいろいろな事実が明らかになり、特に
AEGNの英文字の使い方は上手くできているものだが、前
半から謎だらけの展開が全体の謎解きの興味を散漫にしてし
まっているようにも思えた。
その辺の脚色にはもう少し工夫が欲しい感じはしたが、全体
的には、いろいろ考えて作られた作品で、特に中高生の生に
近い声が聞けるということでは、企画として大事にしたいも
ののようにも思える。
出演は、『トウキョウソナタ』などの小柳友、『恋空』など
の波瑠。監督は、ドキュメンタリー出身の高木聡が担当して
いる。

『猫ラーメン大将』
『日本以外全部沈没』などの河崎実監督の新作。河崎監督に
は『いかレスラー』『コアラ課長』など着ぐるみを用いた一
連の作品があり、本作はその流れで猫がラーメン屋の大将に
なるというものだ。
主人公の大将(ウィリアム・トーマス・ジェファーソン3世)
はキャットアイドル(2世)の息子だったが、父親のスパル
タ教育に耐え切れずアイドルの世界を飛び出す。そして職を
転々とし、挫折して橋の欄干に佇んでいるところをラーメン
屋の親父に救われる。
その親父が作ってくれた一杯のラーメンに感激した大将は修
業を積み、ついには自らラーメン屋を開店するまでになる。
その店は大将にアイドル的な人気も出て順調な営業となるが
…。その近所に派手なパフォーマンスが売りの「猫ラーメン
将軍」なる店が開店する。
この大将と将軍が、スーパー・ギニョールと称する要はパペ
ットで操演され、それに人間の俳優たちが絡む作品となって
いる。ただし、一部の町を歩くシーンなどでは操作棒を消す
程度のVFXは使われていたようだ。と言っても画面の一部
をぼかす程度のものだが。しかしこのチープさが河崎作品の
信条でもある…というところだ。
そしてこの大将と将軍の声優を、古谷徹、加藤精三の『巨人
の星』飛雄馬、一徹コンビが担当。またラーメン屋の親父役
には黒沢年雄が出演して「時には醤油のように〜」とちょっ
と照れながら歌うなど、分かり易いパロディも満載の作品と
なっている。
その他、河崎監督の前作『ギララの逆襲』に出演の加藤和樹
や、『ラバーズ★ハイ』『ロックンロール☆ダイエット!』
の長澤奈央、沙綾らが共演。さらに実在のキャットアイドル
のたま駅長や、かりん&くりんなども登場する。
原作は、そにしけんじという人の4コマ漫画だそうで、とい
うことは原作は単発ギャグが中心と思われるが、そこに親子
の確執や芸能界の裏話的なストーリーを入れ込んで、長編映
画に仕上げている。
さらにグルメブームやテレビの対決シリーズなどの要素も取
り入れて、正にてんこ盛りのサーヴィス精神の作品。細かい
ことには眼を瞑って、まずは気楽に楽しもう。

『未来を写した子どもたち』
   “Born into Brothels: Calcutta's Red Light Kids”
カルカッタ(近頃ではカルカタと呼ぶようだ)の売春地帯で
暮らす子供の姿たちを追ったドキュメンタリー。
中心となるのはニューヨーク在住の女性フォトジャーナリス
ト=ザナ・ブリスキ。彼女は1998年からカルカタの売春街に
入り込み、住人たちの信頼を得て写真を撮り続けている。そ
して彼女は、そこに暮らす子供たちにカメラを渡し、自由に
撮影させることを始めた。
そこには8人の子供たちが集まり、彼らが撮影した写真は豊
かな感性に満ちあふれたものばかりだった。そしてそこから
は、若手写真家の登竜門でもあるアムステルダムで開かれる
ワールドフォトプレス・ファウンデーションに招待される子
供も誕生する。
しかしその渡欧のためのパスポートの取得にも障害が発生す
る。そんな過酷な環境の中でも懸命に生き抜いて行こうとす
る子供たちを、彼女も懸命に支援しているのだが…
映画の巻末には、必ずしも全ての子供たちを救い出せなかっ
たことが告白されている。それほどに厳しい環境の中でも、
子供たちは、あるときは屈託のない笑顔を見せてくれる。そ
の姿には、誰しも支援したいという気持ちが湧くが、それも
叶わない現実が描かれる。
もちろんそこには、対外的な表面だけを繕うのに懸命な政府
の無策もあるのだろうが、実は差別的な身分制度カーストの
中で娼婦というのは比較的上の方に属するという歴史的な背
景も、状況を改善できない理由の一つであるようだ。
その一方でニューヨークでの展示会が成功したり、その凱旋
展示会に取材が入ったりというメディアの力が彼らの意識を
変えて行くことはあるようだ。それで、現在はアメリカに留
学してM・ナイト・シャマランらが学んだ大学に進学する子
供もいるものだ。
従ってこういう状況にメディアが利用できることは確かなよ
うだ。でも全てを変えることはできない。因に、今も売春街
に暮らす子供たちは、折角入学できた寄宿学校から親たちが
連れ出したというものだ。その中には親元に戻されても大学
進学を夢見ている子供もいるようだが…
もちろん軽々しく何をできるかなどと論じられる問題ではな
い。現実の重さがひしひしと感じられる作品。そんな現実と
の狭間が歯痒く感じられる作品でもあった。

『ワールド・オブ・ライズ』“Body of Lies”
元ワシントン・ポスト紙の外信部長で、イラクのクウェート
侵攻に関する特集記事で同紙にピュリッツアー賞をもたらし
たデイヴィッド・イグネシアス原作の長編小説の映画化。因
に原作はフィクションだが、限りなく現実に則したものと言
われる。
主人公は中近東で活動するCIAのエージェント。アラビア
語も堪能な彼が追っているのは爆弾テロ組織の首謀者。とこ
ろがその組織は、犯行声明も出さず、携帯電話やeメールも
使わない。犯行の指令は全て口伝えで連絡されるのだ。その
ため電子諜報戦に馴れたCIAはその足跡を追うこともでき
なかった。
そんな実体の見えない組織だったが、ついに主人公はその尻
尾をつかむことに成功する。そして決死の覚悟で奪った資料
からは、その組織のアジトがヨルダンの首都アンマンにある
ことまで判明する。しかもその資料の存在は敵組織には知ら
れていないようだ。
そこで主人公は、ヨルダンの諜報部とも連携して首謀者を追
い詰めようとするのだが…。CIA本部にデスクを置く上司
は彼をヨルダン支局のトップにし、裁量権は与えるものの、
ヨルダン諜報部に情報を渡すことには懸念を示し、彼の動き
を牽制し始める。
原題は「嘘の本体」とでも訳せばいいのかな、お互いの信頼
関係がなければ成立しないはずの諜報戦で、大元のCIAの
内部で虚々実々の工作が繰り広げられる。そこには、これが
現代アメリカの弱体化の真相かと思わせるような馬鹿げた官
僚主義が展開される。
原作が何を描いているかは知らないが、ここで告発されてい
るのは、官僚主義に毒されたCIAの姿であって、それには
格好の良いスパイの活躍もなければカーチェイスすらほとん
ど登場しない。ただ嘘で塗り固められた組織の弱さと横暴さ
が暴露される。
全体の雰囲気は、2005年の『シリアナ』を思い出させるが、
ジョージ・クルーニー主演作が個人レヴェルの悪であったの
に対して、本作では組織の悪が追求される。ただしどちらも
アメリカ政府への不信感が横溢したものだ。それがハリウッ
ドで映画化されている。
出演はレオナルド・ディカプリオとラッセル・クロウ。『シ
リアナ』にも出演のマーク・ストロングや、イランの国際的
女優ゴルシフテ・ファラハニらが共演。監督はリドリー・ス
コット。脚色は『ディパーテッド』でオスカー受賞のウィリ
アム・モナハンが担当した。

『ホルテンさんのはじめての冒険』“O'Horten”
2004年3月に『キッチン・ストーリー』と、07年7月に『酔
いどれ詩人になる前に』という作品を紹介しているベット・
ハーメル監督の新作。2008年カンヌ映画祭「ある視点部門」
で上映され、アカデミー賞外国語映画部門のノルウェー代表
にも選ばれている。
勤続40年の真面目な列車の運転士が最後の乗務に乗り遅れて
…。この広告文を見て、乗り遅れた列車に追いつくべく大冒
険が始まるのかと思ったら、そうではなくて、乗り遅れる前
の乗務から乗り遅れた後へと続く彼の周囲の様子が描かれて
いるものだった。
その作品は、監督の前2作と同様に人を優しく見つめるもの
で、終着駅の宿舎の女主人や、同僚、その階下の子供、老い
た母親や町での行き摩りの人々、そして犬などとの交流が、
柔らかく暖かい筆致で描かれる。
個々のエピソードは、特に取り上げて説明するほどでもない
ものだが、市井の出来事のちょっとした描写であったり、痴
呆気味の親との会話であったりの普通にありそうなことと、
他人の住居に侵入して子供に見つかったり、目隠しで運転す
る男の車に同乗したりの少し異様なものとが綯い交ぜになっ
て、主人公の最後の大冒険へ盛り上げて行く。
そのありそうなことと、なさそうなこととのバランスも絶妙
という感じの作品だ。
主演は、1936年生れ『デュカネ・小さな潜水夫』などのボー
ド・オーヴェ。その他に、1935年生れ『愛の風景』のギタ・
ナービュ、1947年生れ『キッチン・ストーリー』にも出てい
たビョルン・フローバルグ、1924年生れ『ソフィーの世界』
のエスペン・ションバルグなど北欧の名優たちが顔を揃えて
いる。
そしてもう1つの注目される登場は、主人公の運転する列車
として描かれる「ベルゲン急行」。ノルウェーの首都オスロ
と第2の都市ベルゲン間を結び、トーマスクック時刻表で毎
年「ヨーロッパ鉄道景勝ルート」に選ばれているという路線
が、雪原を驀進する列車の姿として撮影されている。鉄道フ
ァンにはこれも見所のようだ。
それから本作で主人公が遭遇する犬のモリーは、今年のカン
ヌ映画祭で「パルム・ドッグ」に選ばれているそうだ。

『チェチェンへ/アレクサンドラの旅』“Alexandra”
1999年の第2次紛争勃発から9年、1994年の第1次紛争から
はすでに15年が経過しようとしているロシア−チェチェン戦
争の最前線で撮影されたアレクサンドル・ソクーロフ監督の
最新作。
1人の老女が、最前線のロシア軍基地に将校として赴任して
いる孫を訪ねるという設定の物語。彼女が最前線に向かう輸
送列車に乗り込むところから始まり、基地やその周辺の市場
などでの兵士や民間人の様子が描かれる。
その基地は土埃にまみれ、物資も不足して食事もろくなもの
ではない。そして、駐屯する若い兵士たちは訪れた老女に自
らの祖母のように思慕の情を示す。一方、周辺の市場には物
資が揃っているが、その価格は兵士と将校で異なると言う。
そんな基地内と市場を老女が彷徨い歩く。もちろん基地の出
入りには許可証がいるが、老女はそんなことお構いなしだ。
そして兵士たちもその行為を黙認している。基地の中も外も
暮らしは最低限だが、そこでも人々は頑張っている。
撮影されたのはロシア軍の最前線の基地とのことで、当然、
戦場の中ということになるが、この映画の中に戦闘は描かれ
ない。もちろん離着陸するヘリコプターや兵士が武器を取り
扱う姿などは描写されるが、銃撃のシーンはない。
監督は、「戦争に美学などない」という信条で、あえて戦闘
シーンのない戦争映画を撮ったのだそうだ。しかもそれを如
実に知るには、一度戦場に身を置くだけでいいという考えか
ら、この作品をその戦場で撮影することにしたようだ。
撮影の方法論はともかく、反戦を描く映画に戦闘シーンは不
要という考えには賛同する。従ってこの作品は、反戦思想に
基づいて描かれているものだが、それでも登場する兵士が国
への奉公を口にするあたりは、戦争当事国であるロシアの苦
しみでもありそうだ。
因に、今年5月に退任した前ロシア連邦大統領プーチンは、
監督の以前の作品『エルミタージュの幻想』には最大の賛辞
を述べたものだが、本作には嫌悪感を露にしたとも伝えられ
ている。
そして主演のガリーナ・ヴィシネフスカヤは、1926年生れ、
以前は夫ともにアメリカに亡命していたこともあるロシアオ
ペラ界きってのソプラノ歌手とのこと。彼女は、「この役は
断れない」として出演に応じたそうだ。
ロシア−チェチェン戦争の現実を知る上でも貴重な作品と言
える。



2008年10月05日(日) ターミネーター:サラ・コナー、イーグル・アイ、最強☆彼女、青い鳥、旅立ち、ノン子36歳

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』
      “Terminator: The Sarah Connor Chronicles”
2008年1月に米国Foxテレビで放送開始されたシリーズの
シーズン1が、来年1月にDVD及びBlu-Rayで日本発売さ
れることになり、その第1話、第2話の試写が行われた。
ところで、映画の『ターミネーター』シリーズは、1984年公
開の第1作(背景も1984年)に始まり、1991年公開の第2作
(1994年が背景)、2003年公開の第3作(2004年が背景)と
続いているものだが、今回のテレビシリーズの背景は1999年
に始まる。
そして物語は2007年へと時代を移し、現代を背景にしたスカ
イネットとの新たな戦いが展開されるものだ。その戦いの全
貌は、第1話、第2話ではまだ明らかにはならないが、まず
は未来から敵味方2体のターミネーターが転送され、コナー
母子の戦いが始まる。
つまりこのテレビシリーズは、映画の『T2』に続いている
もので、『T3』のストーリーラインは除外されていること
になる。しかし、そこには一応の繋がりも着けられていて、
その辺がタイムパラドックスとして面白い仕掛けにもなって
いた。
さらに物語では、『T2』で犯した行為により母子ともに殺
人犯として指名手配される展開となっており、これはなるほ
ど当然だと思わせるものだ。その他にも『T2』との繋がり
はかなり丁寧に描かれているようだ。
そして現在製作中の映画版第4作は、本テレビシリーズに繋
がるものとなるそうだ。とは言うものの、物語は、『ターミ
ネーター』『T2』『T3』のいずれからも微妙にずれてい
るもので、タイムパラドックスはいろいろと発生しているよ
うだ。という言い訳の付けられるのが、本作の便利なところ
ではある。
出演は、サラ役に7月に紹介した『ブロークン』のレナ・ハ
ーディ、ジョン役はテレビの『ヒーローズ』第2シーズンに
出演のトーマス・デッカー。さらにターミネーター役で、テ
レビ『ファイアフライ』のサマー・グローと、映画『ノー・
カントリー』などに出演のガーネット・ディラハント。
その他、『バンテージ・ポイント』のリチャード・T・ジョ
ーンズや、この後には『ビバリー・ヒルズ高校白書』のブラ
イアン・オースティン・グリーンも登場するようだ。
因にシリーズは、シーズン1が全9作、9月8日に本国で放
送開始されたシーズン2は全13作が予定されている。なお、
試写はBlu-Rayのプロジェクターで行われたが、その画質は
期待以上のものだった。

『イーグル・アイ』“Eagle Eye”
スティーヴン・スピルバーグが10数年前に思いついたという
アイデアを映画化した作品。そのアイデアは、思い付いたと
きにはSFとしてしか描けなかったが、情報化社会の現代で
は、現実に起こりうる物語として描けたというものだ。
主人公は、大学を中退してコピーショップに勤めているよう
な男性。彼には双子の兄がいたが、優秀な成績で軍隊に行っ
ていたその兄が事故死する。ところがその直後から、彼の周
囲には不審な出来事が起こり始める。
それは彼の銀行口座に大金が振り込まれたり、大量の物騒な
物資が部屋に届けられたり…と続いて行く。しかも、そのた
めにFBIのオフィスに連行された主人公は、今度は途轍も
なくド派手なやり方でそこからの脱出に成功してしまう。
一方、シングルマザーの女性が子供をネタに脅迫される。そ
の子供は国会議事堂で行われる小学生の演奏会のためにワシ
ントンに向かっていたが、その安全と引き換えにある命令に
従わざるを得なくなる。そして男性と遭遇するが…
携帯電話や電光掲示板、その他、ありとあらゆる手段で指示
が伝えられ、その指示に否応なく従わされる仕組みになって
行く。それは最初は主人公たちの安全を守っているようでも
あるが、やがて大きな陰謀が明らかにされて行く。
何故その男女が選ばれたのかなどの謎が巧みな展開で明らか
にされて行く。その脚本も見事だったが、それに勝るのがド
派手なアクション場面の映像。次から次へのべつまくなしの
VFXの洪水は、そのエネルギーだけでも大したものだ。
CGIになれば何でも可能という時代ではあるけれど、それ
を適所にピタリとはめることが映画の面白さを倍加する。そ
の意味でもこの作品のVFXは計算され尽くしていると言え
るものだ。
主演は、『ディスタービア』などのシャイア・ラブーフと、
『近距離恋愛』などのミシェル・モナハン。さらに『シン・
シティ』のロザリオ・ドースン、『チョコレート』などのビ
リー・ボブ・ソーントンらが共演している。
監督は、『ディスタービア』のD・J・カルーソ。前作では
家庭用のヴィデオ機材などを用いて巧みに盗聴劇を描いてみ
せたが、今回はさらに大掛かりな最新テクノロジーが駆使さ
れ、見事な展開が繰り広げられる。
基本のアイデアの部分では、1983年のジョン・バダム作品な
どいろいろと先駆的な作品はあると思うが、その物語を、見
事に市中で展開させてみせたことは、現在のハリウッドの実
力発揮と言えるところだろう。

『ダイハード4.0』が、ほんの前哨戦でしかなかったことが
よく判った。

『最強☆彼女』“무림여대생”
2001年公開の『猟奇的な彼女』などのクァク・ジェヨン監督
の最新作。
韓国語での原題は関係ないようだが、2004年の『僕の彼女を
紹介します』、08年の『僕の彼女はサイボーグ』と続く作品
群は、スティーヴン・セガールの『沈黙』シリーズに並ぶ、
『彼女』シリーズとでも呼びたくなるものだ。
ただしこの「シリーズ」、最初の2作はちょっと捻りの利い
たラヴコメディのストーリーだったが、今年の2作はVFX
も使ったアクション作品となっており、アクションコメディ
の様相が強くなっている。と言っても「彼女」が強いことは
共通しているものだが。
そして今回の物語は、武芸集団・武林の名門四家の一つカン
家の一人娘が主人公。彼女は幼い頃から神童と呼ばれるほど
の武芸の達人だったが、花も恥じらう年頃の女子大生となっ
た今では、その人並み外れた武芸の技が学生生活での重荷に
なっている。
そんな彼女は、大学アイスホッケー部のエースに一目惚れ、
自分が主役だった怪力部を辞めてホッケー部のマネージャー
となってしまう。その娘の態度を心配した父親は、密かに幼
馴染みの若者を彼女に近づけようとしていた。
一方、武林四家の長老たちには魔の手が忍び寄り、その内の
1人が重症を負う事態が発生していた。そして、武林四家の
存続を賭けたその戦いに、彼女も否応無しに巻き込まれてい
くことになるが…
アクションは、ワイアーも駆使した格闘技が中心となるが、
彼女が母親譲りの剣の達人という設定もあって、そのチャン
バラも見所となるものだ。そのアクション監督は、香港映画
『インファナル・アフェア』なども手掛けたディオン・ラム
が担当している。
出演は、「彼女」役に『火山高』などのシン・ミナ。『ピー
ター・パンの公式』でダーバン映画祭主演賞を受賞したオン
・ジュワン、『多細胞少女』に主演のユゴンらが共演。また
ディオン・ラムも武林の最長老役で出演している。
普通にアクションコメディとしては面白い作品だが、彼女と
幼馴染みとの関係などはもう少し掘り下げて欲しくもあり、
何か勿体無い感じもした。その辺は、『…サイボーグ』の時
にも感じられたものだが、でもまあ映画はヒットしているの
だから、これでいいのかな。


『青い鳥』
いじめなど教育現場の問題をテーマとした重松清原作の連作
短編集からの映画化。
前学期に事件を起こした中学2年のクラスに、休職した担任
の代理として教育委員会から吃音の臨時教師が派遣されてく
る。その教師は、倉庫に片づけられた事件当事者の生徒の机
をクラスに戻し、毎朝机に向かって挨拶をするようになる。
そんな教師のやり方に、クラスの生徒たちはもちろん、事件
は解決済みだとする学校側も反発するが、教師は頑として態
度を改めようとしない。しかしその波紋は、徐々に生徒たち
の心に広がり、そこに閉ざされていたものを解いて行くこと
になる。
映画に描かれる生徒の反発や、学校側の事なかれ主義は正に
リアルで、本当の現場はこんなものなのだろうと思わせる。
その点での本作は、現代の教育現場の問題を見事に描き切っ
たと言えるものだろう。
しかも映画では、阿部寛演じる臨時教師の吃音が最初は煩わ
しくも感じられ、その時点で自分も生徒の立場に立っている
ことに気付かされる。つまりこの時点で、観客は生徒の立場
に立たされ、以後の彼らの思いにも真剣に立ち向かわざるを
得なくなる仕組みだ。
そして生徒たちは自分で考え、自分で答えを見つけ出して行
く。この生徒の行動こそが、現在の日本の教育現場で最も欠
けているところであり、それに気付かせようとする原作者の
意図がこの映画化にもはっきりと描かれている。
実際、この作品のオーディションに参加した1200人を超える
若手俳優の中で、3割がいじめを受けたことがあり、残りの
7割は自分の周囲にいじめがあると認識していたそうだ。そ
んな時代にこの作品は重要なメッセージを発信する。
もちろん、これでも甘いと言われればそれまでのことだが、
こんなところにでも希望を抱かなければ、今後の日本の教育
は全くお先真っ暗と言わなければならない。そしてそんな現
実を何とかして変えて行かなければならないのだ。
生徒側の主演は、『HINOKIO』『シルク』などの本郷
奏多。また『水の旅人』『遠くの空に消えた』などの伊藤歩
が同僚教師役で共演している。

『旅立ち〜足寄より〜』
1955年生れ、今年53歳を迎えた北海道在住フォークシンガー
松山千春が23歳の時に発表した自伝の映画化。
昭和50年、札幌で開催された「全国フォーク音楽祭・北海道
大会」に出演した松山は、ステージ上での言動が禍して落選
するが、その会場に審査員として出席していたSTVラジオ
のディレクター竹田に声を掛けられる。
そして足寄に戻った松山は、地元新聞を一人で発行している
父親を手伝いながら、竹田の言葉を信じて曲を作り続ける。
一方、竹田は札幌で松山を番組に起用しようとするが、すで
にフォークの時代は終ったとする上層部の許可はなかなか得
られない。
それでも、北海道出身の歌手を育てたいと願い続ける竹田の
努力は、ようやく実を結ぶ日が来るが…
僕は60年代後半の反戦フォークは学園紛争とも重なってよく
聴いていたし、高石友也、岡林信康、五つの赤い風船などの
渋谷公会堂で開かれるコンサートにも通っていたものだ。し
かしその後の軟弱なフォーク路線には興味も湧かず、以後は
聴くこともなかった。
従って松山千春もほとんど聴いたこともなかったし、正直に
言って最近の彼が発する特定の政治家に関する言動には、あ
まり良い印象も持っていなかった。
だからこの映画を観て一番驚いたのは、松山がまるっきりの
フォークシンガーで、歌っている内容も土に根差した全くの
フォークソングであったことだ。そうと知っていれば、この
映画を観ることにも躊躇はなかったと思ったところだ。
そんな訳で、ちょっと蟠りが解けながら観た作品と言うこと
もあるかも知れないが、映画の後半では見事に填められて、
涙を流す羽目にも陥ってしまった。
ただしこれは、映画の中でも事前に述べられているように、
実にうまく泣きが入るように仕組まれた構成の見事さにもあ
るもので、その辺に演出家の手腕も感じられたところだ。そ
の監督は、長島一茂主演『ポストマン』などの今井和久が担
当している。
出演は、松山役に『クローズZERO』などの大東俊介。な
お劇中の歌唱は全て松山本人の音源が使用されているが、ギ
ターの演奏や特に前半のアマチュア時代のシーンは上手く作
られていた。
他に、竹田役の萩原聖人、尾野真千子、石黒賢、泉谷しげる
らが共演。

『ノン子36歳(家事手伝い)』
『青春☆金属バット』『フリージア』などの熊切和嘉監督の
最新作。
実は、監督の前の2作は試写会で観せて貰ったが、何となく
性に合わないと言うか、僕には評価できなかった。それは、
例えば登場人物の設定であったり、その行動であったりが自
分の理解の範囲にないもので、中途半端でいい加減な人物像
に嫌気が挿したものだ。
でもこういった人物が世間にはいるのかもしれないし、そう
いう見地に立てば映画祭などでの評価が得られていることも
理解しなければならないものなのだろう。でも、今までに観
た2作品は、許せない部分が拭い切れなかった。
そういう負のバイアスがあって本作も観ているものだが、本
作の場合は、その人物設定が意外と理解できた。それは本作
の主人公が女性で、もちろんそれは女性なら良い男性では駄
目というものではないが、何となく自分が男性として、こう
いう女性なら保護したい気持ちにもなるかも知れないと思え
たものだ。
そんな女性の姿を坂井真紀が見事に演じている。実際に坂井
は、R−15指定になるようなシーンも体当たりで演じている
もので、その辺の女優魂みたいなものも本作を応援したくな
る気持ちにさせてくれたのかも知れない。
物語の主人公は、一度はTVタレントとしてスポットライト
も浴びたが、その後の結婚に破れて今は実家に戻って家事手
伝いをしているという女性。その生活態度も気ままだし、酒
や煙草に日頃の憂さを晴らしているような状態だ。
そんな彼女がある切っ掛けで1人の若者の面倒を見ることに
なり、2人は互いに引かれるものも感じる。ところがそこに
彼女が昔結婚していた男性が現れる。そして彼女は、その男
性に誘われるままに情を交わしてしまう。
こんないい加減な女性ではあるけれど、やはり男性としては
保護したくなってしまうのが本心だろう。そんな男女の関係
が上手く描かれている感じもしたものだ。
坂井の相手役は星野源。他に、鶴見辰吾、津田寛治、斉木し
げる、宇都宮雅代、新田恵利ら、ちょっと捻った顔ぶれが共
演している。



2008年10月01日(水) 第168回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回は早速この話題から。
 ディズニーが、アカデミー賞受賞式の行われるハリウッド
コダックシアターにメディアやインサイダーなど2000人を集
めての大々的な製作計画発表会を行い、その中で、ジョニー
・デップがファンタシー系3作品に出演すると報告された。
 その1本目は、8月1日付の第164回でも紹介したティム
・バートン監督によるCGIアニメーション作品“Alice in
Wonderland”に、噂通りマッド・ハッター役で登場すること
が発表された。マッド・ハッターは原著の挿絵では3頭身の
異形の怪人だが、この作品は、昨年11月に紹介した『ベオウ
ルフ』などと同様パフォーマンス・キャプチャーの技術を用
いて製作されるもので、声優と共にその仕種や表情もデップ
自身が演じることになる。
 ただし、これは一旦全てがデータ化されてCGIに反映さ
れるもので、従って本人の姿を直接観られる訳ではないが、
『ベオウルフ』でのアンジェリーナ・ジョリーやアンソニー
・ホプキンスのように、それなりに本人と判るような映像に
はなってくれるものと思われる。すでに撮影は開始された模
様で、公開は2010年に予定されている。
 2本目は“Pirates of the Caribbean”の第4作で、これ
も以前から噂のあったものだが、前3作が世界中で26億ドル
を稼いだとされるジャック・スパロー船長の冒険はまだまだ
続くことになりそうだ。ただし、この作品の製作状況はまだ
初期段階とされており、公開時期などは発表されていない。
 しかしこの発表会には、デップ自身がスパロー船長の衣裳
を着て登場したとのことで、シリーズ再開に向けた意気込み
はかなり高そうだ。ところがこのスパロー船長、当日は目に
黒いマスクを着けていたとのこと、その意味は…3本目とし
て“The Lone Ranger”の映画化にトント役で出演すること
も発表されたものだ。
 この作品の映画化については、2002年4月1日付第12回の
記事で、当時はコロムビアの計画として報告したことがある
が、元はラジオ番組でスタートした開拓時代末期を背景とす
る西部劇。開拓者たちの守り神だったテキサスレンジャーが
卑劣な待ち伏せに遭ってほぼ全滅。その唯一人の生き残りと
なった主人公が謎のインディアンに助けられて一命を取り留
め、復讐に立ち上がる…というお話だ。
 ところがコロムビアの計画はその後キャンセルされていた
ようで、実は、昨年10月に『POTC』と同じ製作者のジェ
リー・ブラッカイマーが映画化権を獲得。同じく脚本家チー
ムのテリー・ロッソとテッド・エリオットによる準備もすで
に進んでいるようだ。
 という作品にデップが出演するものだが、トントと言えば
シャーロック・ホームズのワトスンのように、いわゆるサイ
ドキックと呼ばれる副主人公で、決してヒーローではない。
しかも、その設定はインディアンということだが、こちらは
デップ自身が微かにインディアンの血を引くそうで、過去に
そういう役柄も演じているから問題ないとしても、やはり副
主人公というのは気になるところだ。
 ここで思い出すのは2000年に製作中止となった“The Man
Who Killed Don Quixote”で従者サンチョ・パンザに相当す
る役柄を演じていたことだが、これは飽く迄も主人公。それ
ならトントを主人公にした映画化を行うのかと思ったら、レ
ンジャー役にはジョージ・クルーニーがオファーされている
との情報もあり、なかなか複雑なものだ。なお撮影は来年に
行い、公開は2010年の予定と発表されている。
 この他、ディズニーでは、2006年公開『カーズ』の続編で
“Cars 2”を2012年の公開に向け準備中としており、これは
2011年にアナハイムのディズニーランドにオープンする新ア
トラクション‘Cars Land’に連動した計画となっている。
因に“Cars”にはテレビシリーズ化の計画もあるそうだ。
 また、『POTC』に続くアトラクションからの映画化と
して、テーマパークの一角をなす‘Tomorrowland’にインス
パイアされた作品を、ドウェイン“ザ・ロック”ジョンスン
主演で映画化する計画も発表された。具体的な内容は公表さ
れていないが宇宙物とのことで、脚本には、ニューライン製
作の“Ghost of Girlfriends Past”などを手掛けたジョン
・ルーカスとスコット・モーアが契約しているそうだ。ただ
し計画はごく初期の段階とされている。
 さらに、“National Treasure 3”の計画も、ブラッカイ
マーとニコラス・ケイジの登場で発表されており、ここまで
来ると何処までが本気なのかちょっと心配になってくるが、
ディズニーでは、今年終盤から2009年に掛けては“Bolt”を
手始めに、“High School Musical 3”“Bedtime Stories”
“Race to Witch Mountain”“Hannah Montana:The Movie”
“Old Dogs”“The Princess and the Frog”“A Christmas
Carol”“Up”など、今より先の展望を見据えた作品が多く
続くだけに、今回は多少大仕掛けな発表会となったようだ。
今後の推移を注目したい。
        *         *
 ところで前の記事に登場した“The Lone Ranger”だが、
この作品の姉妹編として“The Green Hornet”のあることは
今年7月1日付の第162回などでも紹介している。そしてそ
の映画化が、何とチャウ・シンチーの監督、共演で実現する
ことになった。
 この計画は、元々はユニヴァーサルで立上げられ、その時
はジョージ・クルーニー、ジェット・リーという配役も紹介
されたが実現しなかった。その企画が、一時はミラマックス
でも検討されたが、最終的にソニー傘下の製作者ニール・H
・モリッツが権利を獲得、コメディアンのセス・ローガンを
脚本、主演に据えて準備が進められていたものだ。
 そしてこの計画では、ローガンが当初からシンチーの共演
を希望していたもので、テレビシリーズではブルース・リー
が演じたカトー役へのシンチーの登場が期待されていた。
 一方のシンチーは、中国映画の『カンフー・ハッスル』と
『ミラクル7号』を続けてソニーの現地出資により製作監督
しているもので、製作会社とは気心も知れ合っている。そこ
でアクションコメディでは実績のあるシンチーに、共演だけ
でなく監督も依頼することになったようだ。
 因にシンチーは会見で、「子供の頃にはテレビシリーズの
大ファンだった。ブルース・リーの足跡を継ぐことには恐れ
と期待が半ばしている。このチャンスを与えてくれたソニー
に感謝したい。夢が実現した」と語ったそうだ。これでシン
チーは、初めてハリウッド映画監督に進出することになる。
 なおこの会見において、本作の公開日は2010年6月25日と
発表されている。これはつまり、上記のディズニー版“The
Lone Ranger”と同じ年になる訳で、これはもしかすると同
時期のライヴァル作になる可能性もある。どちらもコメディ
の可能性も高いし、相乗効果も期待したいところだ。
        *         *
 新規の情報を少し紹介しておこう。
 ドリームワークスが、1962年に映画化された“The Day of
the Triffids”(人類SOS)や、1995年ジョン・カーペン
ター監督“Village of the Damned”(光る眼)などの原作
者としても知られるイギリスのSF作家ジョン・ウィンダム
の長編小説“Chocky”の映画化権を獲得し、スティーヴン・
スピルバーグの監督で進めることを発表した。
 原作は、1968年に発表され『宇宙知性チョッキー』の邦題
で翻訳されたこともある作品で、イマジナリーフレンドのい
る少年の父親が、空想だと思われていたその友達が実は異星
人だったことに気付いて行くというもの。邦題がかなりネタ
バレだと思ってしまうところだが、これを『E.T.』のスピ
ルバーグがどのように料理してくれるか、監督自身が久々に
本格SFへの挑戦ということでも楽しみなところだ。
 因に同じ原作からは、1984年にイギリスで全6話のテレビ
シリーズが製作されており、さらに85年、86年にもウィンダ
ム創作のキャラクターに基づくスピンオフのシリーズが製作
されるほどの人気だったようだ。そして今回の計画では、一
応、2010年の公開予定で進められることになっている。
 ただし、この計画で問題なのは配給会社が決まっていない
ことだ。実はドリームワークスに関しては、昨年一旦はパラ
マウントに買収されたものの、その後にスピルバーグが海外
資金を集めるなどして再独立に成功。現在はどこの会社とも
配給権を結べる状態になっている。ところが、先にスピルバ
ーグとピーター・ジャクスンで進めているベルギーコミック
原作“Tintin”の映画化は、当初はユニヴァーサルの配給が
契約されたもののキャンセルされる事態となっており、ヒッ
トメーカーと言えどもリスクの高い作品には配給会社も躊躇
する状況になって来ているようだ。
 現状で、興行的にSF映画のリスクが高いのは承知だが、
本作は正に大ヒット作『E.T.』の流れを汲む作品でもあり
そうだし、なんとか早めに配給が決まって、製作のゴーサイ
ンが出てほしいものだ。
        *         *
 お次は、ロバート・ゼメキス率いるイメージ・ムーヴァー
スの計画で、『モンスター・ハウス』でオスカー候補になっ
たジル・ケナン監督と再びチームを組み、オーエン・コルフ
ァー原作“Airman”の映画化を進めることを発表した。
 この原作は来年1月1日に出版予定とされているもので、
実はコルファーが7月に発表した“Artemis Fowl: The Time
Paradox”の巻末にその第1章が掲載されている。僕はこの
本を8月に購入して読み始めたが、まだそこまで読んでいな
かった。その原作は、今回の報道によると、19世紀を舞台に
熱気球を操る若きヒーローの物語とのことで、大空を舞台に
した海賊物といった感じの冒険物語のようだ。ただし空想科
学的な要素もあると紹介されていた。
 コルファー作品では、すでに6巻が出版された“Artemis
Fowl”シリーズに以前から映画化の計画があるものだが、今
回はそちらが実現する前に新計画の発表となった。製作会社
も異なるしどちらが先行するかはまだ判らないが、互いに相
乗効果が得られると良い感じになる。
 因に、イメージ・ムーヴァースの計画ということでは、パ
フォーマンスキャプチャーを使った作品になりそうだが、本
来が子供向けに書かれた作品ということではそれも良い方向
に考えられそうだ。
 一方、2002年5月1日付第14回以来、何度も紹介している
“Artemis Fowl”については前々回に脚本家の名前も紹介し
たが、これを機に本格的な始動になってほしいものだ。
        *         *
 日本から菊地凛子が出演したことでも話題になっている、
来年1月全米公開予定の“The Brothers Bloom”を監督した
ライアン・ジョンスンが、次回作ではタイム・トラヴェル物
に挑戦する計画が発表された。
 計画されている作品は“Looper”と題されたもので、紹介
された内容によると、未来から転送されて来るターゲットを
始末する殺し屋グループの活動を描くとのこと。題名からは
そこにタイムループが発生することもありそうだが、大体、
未来から処刑のためだけにタイムトラヴェルをさせるという
のにも何か事情がありそうで、いろいろ興味をそそられるも
のだ。
 なおジョンスン監督は、2005年の“Brick”という作品で
認められたものだが、フィルモグラフィーによると1996年に
“Evil Demon Golfball from Hell!!!”という短編作品があ
るようでちょっと気になる。タイムトラヴェル物はパラドッ
クスの処理が難しいが、こういうデビュー作を持つ監督なら
多少期待してもいいかなと思えるところだ。
 製作会社はEndgame Entertainmentで、撮影は来年に予定
されている。因に同社では“The Brothers Bloom”も手掛け
ているもので、それが当ると本作が大型予算の作品に化ける
可能性もあるようだ。
        *         *
 1956年のジョン・ヒューストン監督作品でも知られるハー
マン・メルヴィル原作“Moby Dick”(白鯨)を、『ウォン
テッド』が好調のティムール・ベックマベトフ監督でリメイ
クする計画が発表されている。
 しかもこの計画は、2006年公開の“Accepted”というコメ
ディ作品が好評のアダム・クーパーとビル・カレッジのコン
ビが立上げたとのことで、これは何か起こりそうな計画だ。
そしてコンビは、計画を『ナショナル・トレジャー』などを
手掛けたコーマック&マリアン・ウィバリーに持ち込み、彼
らの製作で進められることになっている。なお、クーパー=
カレッジの脚本には、6桁($)の高い方で契約が結ばれた
そうで、その期待値は大だ。製作会社はユニヴァーサル。
 因に、ヒューストン版の脚本はSF作家のレイ・ブラッド
ベリが担当したものだが、ヨーロッパで撮影中のヒュースト
ンが現場で必要になった脚本の改訂のためにアメリカに住む
作家を呼び寄せたら、今から行くと連絡したまま音信不通と
なり、2週間後に船でやってきた…という、ブラッドベリの
飛行機嫌いを象徴する逸話も残している作品でもある。
 原作の物語は、巨大な白鯨を執拗に追い続けるエイハブ船
長の姿を、若い船員イシュメルの語りで描いたものだが、今
回の映画化では、脚本家たちは、より映像的なグラフィック
ノヴェル・スタイルで描くとしており、エイハブ船長はより
カリスマ的になって、全体的にアクションアドヴェンチャー
の趣を強くするとのことだ。
 実は、原作に最も忠実といわれるヒューストン版は、その
重苦しい雰囲気のために興行的な成功は納められなかったも
ので、今回のグラフィックノヴェル・スタイルがどのような
結果を残すかにも興味が湧く。そして今回の発表では監督も
決まり、計画は順調に進み始めたようだ。公開予定は2011年
となっている。
        *         *
 次もリメイクで、1987年にミッキー・ローク、ロバート・
デ=ニーロが共演した“Angel Heart”の再映画化が計画さ
れている。
 オリジナルの物語は、私立探偵の主人公が謎めいた男から
人捜しの依頼を受け、その調査を進める内に彼の周囲で殺人
事件が連続する。そして、最初はハードボイルドのように始
まった物語は、徐々に超常現象の世界へと踏み込んで行くと
いうもの。元々はウィリアム・ヒョーツバーグの“Falling
Angel”(堕ちる天使)を原作としており、この原作は、ス
ティーヴン・キングが、「レイモンド・チャンドラーがオカ
ルトを書いたような作品」と絶賛した小説だそうだ。
 また、オリジナルの映画化では、共演のリサ・ボネーがヤ
ング・アーチスト賞を受賞した他、アメリカSF・ファンタ
シー&ホラー映画アカデミー主催のサターン賞では、ボネー
とデ=ニーロが助演賞、監督のアラン・パーカーは脚色賞に
ノミネートされている。
 という作品のリメイクだが、今回の計画では、『21』や
『ゴースト・ライダー』などを手掛ける製作者のマイクル・
デ=ルッカが、以前はカロルコが手掛けた映画化のリメイク
権を獲得したもので、原作小説の大ファンだという映画製作
者は、「2つのジャンルの見事な融合で、さらに文学性とコ
マーシャリズムも兼ね備えている」として映画化に意欲を燃
やしている。
 脚本家や監督、出演者なども未定だが、前作との関係では
配給はソニーが行う可能性は高そうだ。因に1987年の映画化
は、コロムビアの姉妹会社トライスターが配給していた。
        *         *
 マーヴェル・コミックスの映画化で、2006年5月15日付の
第111回などで紹介した北欧神の化身“Thor”を主人公とす
る計画に、『スルース』などのケネス・ブラナー監督と交渉
していることが発表された。
 この計画は、最初の報道では『ポセイドン』『アイ・アム
・レジェンド』などのマーク・プロトセヴィッチが脚本を担
当していたもので、一時は『バットマン・ビギンズ』のデイ
ヴィッド・ゴイヤーが参加しているとの情報もあったが、今
回の発表では脚本はプロトセヴィッチの単独となっている。
 その物語は、父親オーディンによって地球に派遣された主
人公が、医学生となって人類について学びながら、あるとき
はヒーローThorとなって活躍するというもの。マーヴェル版
のSupermanといった感じにもなる作品だ。
 そしてその監督に交渉されているブラナーは、ロイヤル・
シェークスピア・カンパニーでの演出も手掛けるイギリス演
劇界の正に重鎮だが、彼が1989年のアカデミー賞で監督及び
主演賞の候補になって注目された『ヘンリー5世』は、その
アクション演出などで、『アイアンマン』のジョン・ファヴ
ロー監督や、『バットマン・ビギンズ』のクリストファー・
ノーラン監督からも手本にしたと称されており、ある意味、
本家帰りとも言える監督交渉となっているものだ。
 なお計画では、2010年7月16日の公開予定とされており、
撮影は来年中に行われる。そして配給は、アメリカ国内をパ
ラマウントが担当する。ただし、日本は別契約となっている
ようだ。
 因に、上記したようにドリームワークスに離脱されたパラ
マウントでは、マーヴェルへの接近を強力に進めているよう
で、すでに“Irin Man 2”の公開を2010年5月7日と発表し
た他、2011年には“The First Avenger: Captain America”
を5月6日、“The Avengers”を7月15日に公開するとも発
表しているものだ。
        *         *
 最後は、短いニュースを3つほど紹介しておこう。
 ワーナーが、ウィル・スミス主演“I Am Legend”の前日
譚を製作すると発表した。昨年公開されたオリジナルは、全
世界で5億8400万ドルの興行収入を挙げたものだが、作品の
展開上、スミスの主演で物語を発展させるためにはこれしか
方法がなかったようだ。従って、主演にはスミスが復帰し、
監督のフランシス・ローレンスも再登板する計画となってい
る。物語は、伝染病の発生から主人公が独りぼっちになるま
でを描くということで、前作で端折られた部分を克明に描く
ことになる。脚本には、D・B・ウェイスという人が起用さ
れているが、この脚本家は、2006年11月15日付第123回でも
紹介したように、頓挫した“Helo”や“Ender's Game”にも
参加していた人だ。
 コロムビアが進める“Spider-Man”の続編で、4と5の製
作が決定し、主演のトビー・マクガイアには何と5000万ドル
の出演料が支払われるとの噂が流れている。これは新記録に
なるもののようだが、さらにこの契約では、「撮影中も毎日
の朝晩に幼い娘と遊ぶ時間も設ける」という付帯条件もある
とのことで、何とも破格の契約のようだ。一方、キルスティ
ン・ダンストが演じたメリー・ジェーン・ワトスンに関して
は、女優は出演を希望しているものの、役柄を物語に登場さ
せるかどうかは検討中とされており、シリーズに変化を付け
るための設定変更の可能性はあるようだ。なお脚本は、『ゾ
ディアック』などのジェームズ・ヴァンダービルトが初稿を
担当したとされている。
 今年5月15日付第159回で紹介したトライベカ映画祭グラ
ンプリ作品“Let den ratte komma in”の英語リメイクに、
『クローバーフィールド』のマット・リーヴス監督の起用が
発表された。オリジナルはスウェーデン製作で、そのリメイ
ク権を昨年復活したホラー映画の老舗ハマー・フィルムスが
獲得したことでも話題になった作品だ。なおリーヴスは脚本
と監督を契約しており、その脚本はこれから手掛けるようだ
が、公開は来年の予定となっている。コケ脅しの利かないヴ
ァンパイア映画でどんな手腕が発揮されるかも楽しみだ。


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井口健二