2008年04月27日(日) |
セルラー・シンドローム、バカバカンス、敵こそ我が友、キング・ナレスワン、ミー・マイセルフ、ST3、シチズン・ドッグ、ダイブ! |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『セルラー・シンドローム』“วิดีโอคลิป” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 タイのティーンエイジャーには「盗撮」への興味が蔓延して いるのだそうだ。実際にタイの大学生未満が2006年1年間に 「盗撮」とサーチエンジンで検索した回数は250万件に達す ると言われ、その世代の人口がどれほどかは判らないが由々 しき問題であるらしい。 そんな状況を踏まえて作られた作品。実は題名からは単純な ホラーを連想して、『着信あり』のパクリだったら困るなと 思って観に行ったが、実体はもっと深刻な、社会性の高い作 品だった。 物語は、1人の女子高生が携帯電話を握って自殺する衝撃的 なシーンから始まる。次に物語は大人の男女の話へと進み、 最初のシーンとの関連は明かされないままとなる。そして、 徐々にその関連が明かされて行くことになるものだ。 先にホラーを連想したと書いたが、映画が始まってからもそ の作りはホラーの乗りで進んで行く、その流れが徐々に現実 に摺り替わるものだが、その構成はそれなりにうまいと感じ られた。 この手の作品では、普通は現実からホラーに入って行くもの だが、その逆では後から出てくる現実シーンをかなりしっか り撮らなければならず、これは案外難しそうだ。因に監督の 前作はホラーだったのだそうで、そちらのテクニックは充分 だったようだが。 出演は、元ミュージシャンのパウポン・テープハサディン・ ナ・アユタヤーと、この映画のために発掘されたという現役 女子大生のガームシリ・アーシラルートシリ。特にガームシ リは、ちょっと竹内マリアにも似た日本人的な顔立ちで評判 になりそうだ。 それにしても、画像の流出の様子などには、この春に芸能欄 を賑わした香港の映画スターのPCからの流出事件を思わせ るものもあって、製作年度は昨年の作品だが、香港の事件を 予言していたような感じもした。 と言うか、先にこの映画を観ていたら、香港の映画スターも もう少しはPCの修理に気を使ったかも知れない。そんな意 味での警鐘にもなりそうな作品だった。
『バカバカンス』 フリーの助監督として、唯野未歩子監督の『三年身籠もる』 や、富樫森監督の『あの空をおぼえている』にも参加してい る宮田宗吉の監督デビュー作。宮田は、本作の脚本も自ら執 筆しているものだ。 上映時間78分。ちょっと人をおちょくったようなタイトル。 日本映画でこの手のものは、あまり良い印象を持たない。で も、まあ時間が合えば観に行くのが僕の信条と言うことで… と言うときに、案外な拾い物に出会えると嬉しくなる。これ はそんな作品だった。 物語の主人公は、オムライス作りには自信があるらしい独身 のコック。同棲していた女性は別の彼氏のところに行ってし まったが、いまだに表札から彼女の名前は消せないでいる。 そして留守電に残った彼女の声を聞きながら夜食を食べてい る。 そんな主人公の勤めていたレストランが、オーナーの金の持 ち逃げで閉店。一方、彼氏に振られて元カノの女性が戻って くる。そこに、元の同僚がオーナーの妻の車を借りて現れ、 元カノも乗せて、逃げたオーナーの逃亡先を探すことになる が… つまらないギャグや奇を衒った演出も無しで、基本的に真面 目に物語を描いていることに好感が持てる。しかしこのシチ ュエーションでは、傍から見れば可笑しいことは沢山ある訳 で、その辺のユーモアが自然に描かれているのも作品の良さ と言えそうだ。 それにこのシチュエーションの中で、男性主人公の心情など もいろいろ考えられていて、その辺もよく理解できるものだ った。 出演は、須田邦裕、奥田恵梨華、渋川清彦。基本的には脇役 で頑張っている若手たちのようだが、しっかりとした演技を してくれるのは見ていて安心感があった。それに須田は実際 にオムライスを作っているようで、その手際にも感心した。 上映前の監督の挨拶では、「自主映画のようなものです」と 言っていたが、意ばかり先走っているようないわゆる自主映 画とは違って、映画というものがよく判っている地に足が着 いた感じのする作品。これからも頑張って欲しいと思える監 督の作品だった。
『敵こそ、我が友』“Mon Meilleur Ennemi” 2006年『ラストキング・オブ・スコットランド』で、フォレ スト・ウィティカーにオスカー主演賞をもたらしたケヴィン ・マクドナルド監督によるドキュメンタリー作品。 ナチの戦犯でありながら、1983年にフランス政府によって逮 捕されるまで南米ボリビアで勢力を保ち、一時は南米に第4 帝国の設立を目指したクラウス・バルビーの生涯を追う。 バルビーはドイツ生まれだが、1942年から44年までフランス のリヨンで現地のゲシュタポを指揮し、特に、ドゴールの命 を受けてレジスタンスの統一を目指していたジャン・ムーラ ンの逮捕処刑に関与したとされている。 しかし、それ自体は戦犯の容疑ではなく、彼がリヨンの孤児 院から34人の幼いユダヤ人の子供を強制収容所に送ったこと が、最終的な罪の根拠となっている。実際、戦時中の戦闘員 に対する行為は裁判の対象とされず、それが裁かれた東京裁 判とは違う様相を見せる。 それはともかくとして、映画は、戦後のバルビーが対共産主 義戦略の一環としてアメリカ諜報機関の手先となっていたの ではないかと言う疑問を検証して行く。 その戦後に、バルビーがアメリカ陸軍情報部(CIC)に所 属していたことは事実のようで、その庇護の下、彼とその一 家はフランスの訴追を逃れてボリビアに移住している。そし てボリビアでは、チェ・ゲバラの活動を恐れるアメリカの意 向に沿って、その逮捕にも貢献したということだ。 しかしそれは、彼自身にとっては第4帝国の創設の夢へとつ ながり、彼の許には各国からの訴追を逃れた元ナチの残党た ちが集まり始める。そして彼らはボリビアの軍事政権の設立 にも関って行くが、結局その軍事政権が麻薬組織とつながっ たことから、アメリカ政府は世論に押されて彼を見捨てるこ とになる。 まさに、戦後の隠された歴史と言えそうな物語だ。しかしこ こに描かれたバルビーの人生は、よくいう歴史に翻弄された と言うものではない。彼自身が信念のものとに繰り広げたも のだ。ただしそれは、明かな犯罪者の人生でもある。 そして映画は、その犯罪者を利用しようとして、結局は民衆 に多大な被害をもたらしたアメリカのやり方を痛烈に批判し ているものでもある。南米の、今まであまり詳しくは知るこ ともなかった側面が描かれた興味深い作品であった。
『キング・ナレスワン』“ตำนานสมเด็จพระนเรศวรมหาราช” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 14~18世紀に亙って栄えたタイ(シャム)のアユタヤ王朝に あって、西暦1600年前後に王位に就き、中興の祖と讃えられ るナレスワン大王の生涯を描く3部作の第2章。ビルマの支 配下に置かれたタイ中部で、アユタヤ王朝を独立に導く戦い が描かれる。 上映時間169分の超大作。事前の情報では2部作とあったの で、2作一緒の上映かと思っていたら、第1章は別に167分 あるそうだ。これで製作中と言われる第3章も同様の長さな ら、合計は8時間半近い超大作となる。 第1章では、ナレスワンが、傀儡政権と化していたタイ王朝 からの人質としてビルマにいた頃の話が中心となるようで、 第2章ではそのビルマに反旗を翻すまでが描かれる。なお、 映画祭では第1章も上映されるが、試写会は第2章のみ行わ れた。 当時のアユタヤは交易で栄えていたようだが、軍事的に優位 に立つビルマの支配下に置かれていた。しかしビルマ国王の 崩御に伴い各地で反乱が勃発。最初はその制圧に力を貸して いたナレスワンだったが、やがてアユタヤの独立を目指すよ うになる。 しかもナレスワンは、ビルマでの人質(国王の養子という名 目だった)時代に戦術などの軍事的な教育を受けており、そ れを基礎にさまざまな戦術を編み出し、それが功を奏して行 くことになる。 この辺の状況は、第2章だけを観ていると多少判り難いが、 そういうことだったらしい。 そして映画の物語は、最初は戦術に長けただけの軍師であっ たナレスワンが、国王としての資質を高め人望を集めて行く 様なども描かれて行く。この辺の人間描写はかなり分厚くし っかりと描かれているものだ。 さらに映画では、幾多の戦闘も描いて行くことになるが、こ れがタイ映画に特有の、特に火薬などの物量を注ぎ込んだも ので、迫力と言うか、本当に大丈夫かというシーンも続出す る凄まじいものになっている。 因に、映画の製作にはタイの軍隊も協力しているようで、戦 闘シーンの迫力は正に本物。さらに主人公のナレスワンを演 じているのも、実際の陸軍少佐という人だそうだ。しかしこ れが実に逞しく歴史上の大王を見事に演じ切っている。 この他には、タイの人気モデル兼俳優や、ロック歌手という 人も出演しているが、男優も女優も身体はちゃんと動くし、 特にヒロインを演じた女優の弓を射るシーンの凛々しい姿は 気持ち良く楽しめるものだった。 また山田長政も登場するが、これはちょっとコミカルな表現 で、映画の中ではコメディリリーフ的な扱いとなっている。 この役は現地在住の矢野かずきという人が演じているが、こ の人はタイ版の『ウルトラマン』にもレギュラー出演してい るようだ。 ただし史実に従うと、長政とナレスワンは直接には出会って いないようだが、当時のタイに戦国時代の日本を離れた武将 は既に数多くいたようで、エンターテインメントとして判り 易くしたということでは認められる範囲だろう。このため扱 いも上記のようであったとも思われる。 東南アジアの歴史というのは、僕らにはあまり良くは判らな いところで、その辺のことをこのような映画作品で教えても らえるのは嬉しいことだ。時間が合えば映画祭で第1章も見 たいと思っている。
『ミー・マイセルフ/私の彼の秘密』“ขอให้รักจงเจริญ” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 タイの映画の特徴として、いわゆるゲイの人がかなり頻繁に 登場する。実は今回の試写会で鑑賞した作品では、その傾向 の作品は少なかったのだが、本作は正にそのテーマの作品と いうことになる。 物語は、キャリアウーマンの女性を主人公に、彼女が偶然に 起してしまった交通事故の被害者の男性の面倒を見る羽目に 陥るところから始まる。その男性は実は事故の前に何者かに 襲われていたらしく、その影響で記憶を喪失していたが… 女性の主人公は、以前に同棲していた男性と別れた経験があ り、その後は仕事一筋で実績を上げ、ついに独り立ちの仕事 も任せられるようになっていた。そしてそれまでの過去を引 き摺っていた彼女は、男性の登場で徐々に自分らしさを取り 戻して行く。 一方、男性には記憶喪失の境遇から正に自分を取り戻すこと が必要だったが、それには彼女との絆を損なう危険が伴って いた。 まあ、元々のテーマが上記のものなので、いまさらネタバレ ということにはならないかもしれないが、つまり映画はオカ マを好きになってしまった女性の物語となる。そこにはいろ いろ微妙な問題もからんでくるが、物語としてはそれなりに 面白いものになっていた。 ただ、最初に書いたようにタイ映画にはゲイの人がよく登場 するので、それなりに市民権があるのかと思っていたら、こ の映画によるとやはり迫害は受けているようで、結局そんな ものかなあというのが率直な感想だ。 これなら他の国でもいい話だったし、ここにタイ映画らしさ があれば申し分なかったが、現実はそういうものでもないら しい。逆に言えばそれだけ一般的な物語になっている訳では あるが、その辺は難しいところだ。 なお、主人公の女性がイヴェントの企画会社に勤めていると いう設定で、映画にはそのイヴェントのシーンも登場する。 これもなかなか面白かった。
『スターシップ・トゥルーパーズ3』 “Starship Troopers 3: Marauder” ロバート・A・ハインライン原作『宇宙の戦士』の映画化第 3弾。映画化第1作は1997年の製作、第2作は2003年に製作 されており、今回は2008年作品。ほぼ5年置きにシリーズが 作られていることになる。 監督は、第1作が『ロボコップ』などのポール・ヴァーホー ヴェン。第2作は『スター・ウォーズ』にも参加していたス トップモーション・アニメーターのフィル・ティペット。そ して、本作では第1作から一貫して脚本を担当してきたエド ・ニューマイヤーが初監督している。 因に、ヴァーホーヴェンは、第2作以降のクレジット上では 直接の製作者ではないが、第2作では“Special Thanks”と 記載されているし、今回もニューマイヤーは助言を求めるな ど、映画の製作にはかなり深く関っているようだ。 一方、ニューマイヤーは全作に関っているものだが、第2作 は彼自身にフラストレーションが残る作品だったそうで、本 作は満を持して自らの監督で実現したものだ。さらに本作で は、第1作に主演したキャスパー・ヴァン=ダインも主演に 返り咲いている。 物語は、軍事政権となって全体主義的な色も見える地球連邦 と、昆虫から進化したバグズとの戦いを描いているが、特に 今回は地球連邦政府の全体主義的な色合いがかなり戯画化し て描かれており、この辺に脚本家=監督の意図も見えるよう だ。 そして本作では、ついに原作で有名なあれが登場する。実際 のところ、『宇宙の戦士』の日本での評価は、これに関する 部分が大きいはずだが、前2作の映画化では何故か登場して いなかった。 この点に関してニューマイヤーは、「第1作のときにも登場 させるべきだったが、当時の技術では製作費が膨大に掛かる ことが予想され踏み切れなかった。それが今ではCGIの進 化で、低予算でも容易に実現できるようになった」とのこと だ。 従って、物語はようやくここから出発となる訳で、また5年 後とは言わず続編を期待したくなるものだ。 ヴァン=ダイン以外の出演者では、テレビシリーズの『エン タープライズ』でバルカン人女性副司令役を演じていたジョ リーン・ブラロックらが共演している。 なお、配給会社では本作に『ST3』という略称を使わせた いようだが、“Star Trek”と紛らわしくなりそうだ。
『シチズン・ドッグ』“หมานคร” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 2001年11月18日付で紹介した『快盗ブラック・タイガー』の ウィシット・サーサナティアン監督による2004年作品。実は 2005年の東京国際映画祭でも上映されたが、その時は時間の 都合で観ることができなかった。 物語の背景は現代だが、監督の前作と同じくかなりシュール レアリスティックな雰囲気の作品で、実際バンコックの町中 にペットボトルを積み上げた巨大な山が出来上がっていると いうような風景が登場する。 そんな作品の主人公は、田舎からやってきた青年。彼は最初 は単純労働者として缶詰工場で働き始めるが、かなり奇想天 外な展開で友人ができたり、不思議な雰囲気を持つ少女と巡 り会って付き合い始めたりする。 その物語の背景には、上記のペットボトルによる環境破壊な どの問題意識はあるが、それも本筋とは着かず離れずで、全 体的にはファンタスティックなラヴストーリーが展開される ものだ。 まあ、監督に言いたいことも判るし、映画の全体の雰囲気は 悪いものではない。観れば観たなりにいろいろ感じることの できる作品だろう。その辺が好きな人には、堪らなく好きに なりそうな作品でもある。 なお今回の映画祭では、2007年1月9日に紹介した『ヌーヒ ン』も上映される。今回の試写は観なかったが、1年以上も 前の印象がまだしっかりと残っている作品で楽しめた記憶も 確かなものだ。ただ以前に紹介したとき主演を子役と書いた のは、今回の情報によるとそこそこの年齢の女優さんだった ようで、その点は訂正しておく。 この他にタイ式シネマ・パラダイスでは、『アルティメット ・エージェント』というコミカルアクション作品も上映され て長編は全部で8本。さらに回顧上映やCM集の上映、また アーティストによるライヴパフォーマンスやトークショウ、 ティーチインなども行われることになっている。
『ダイブ‼』 オリンピック種目でもある飛び込み競技を描いた直木賞作家 ・森絵都原作の青春小説の映画化。角川文庫創刊60周年記念 作品。 主人公は子供の頃に偶然飛び込み台を見て、その姿に憧れて 企業がスポンサードするクラブに所属している。そのクラブ には父親が競技者だったサラブレッドの選手もいるが、実は クラブの経営は赤字で閉鎖寸前の状態にある。 そんなクラブに、アメリカで学んできたという女性コーチが やってくる。彼女は、オリンピック代表選手を出すことを条 件に、そのクラブの存続を企業に約束させたのだという。そ して彼女は、主人公を名指しで特訓を開始する。 さらにそのクラブには、彼女が青森からスカウトしてきた野 性児のような選手もやってくる。こうして、サラブレッドの 選手を含めた3人の切磋琢磨が開始される。 基本的に天賦の才能を持った選手たちの物語で、変な根性ド ラマなどは介在しない。そういう中でのかなり素直な子供た ちが頑張るお話。これは観ていて気持ちの良いものだ。しか も、それなりにいろいろなドラマがあるのには感心するとこ ろだった。 それと、飛び込みという競技に関して今まで知らなかったこ とが勉強できたのも面白かった。特に、特異な採点システム などが丁寧に説明されているのは、オリンピックイヤーの公 開にはちょうど良い感じのものだ。 出演は、『ちーちゃんは悠久の向こう』の林遣都、『ラスト サムライ』の池松壮亮、ジュノン・スーパーボーイ・コンテ ストでグランプリ受賞の溝端淳平。他に、瀬戸朝香、蓮佛美 沙子、光石研らが共演している。 なお主演の3人は、猛特訓の末に実際に高さ10mからの飛び 込みも実演しているとのことだが、さらに本作では、その姿 が最新の技術で見事に撮影されている。 この撮影は、『スパイダーマン』の撮影にも使用されたワイ アー操作の空中撮影システムSpidercamで行われたもので、 高さ10mの飛び込み台に立つ彼らの周囲を旋回する映像は、 特に屋外プールのシーンでは大きく広がる風景の中で最高の 効果を上げていた。
2008年04月20日(日) |
メモリー~君といた場所~、シャークウォーター、きみの友だち *熊本遠征記後編 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『メモリー~君といた場所~』“รักจัง” 5月31日に開催されるタイ式シネマ・パラダイスの1本とし て上映される作品。 人気アイドルの男性が山中のドライヴで事故に遭い、身体は 異常なかったが記憶を喪失してしまう。それを偶然発見した 女性パパラッチが素性を隠して接近し、スクープをものにし ようとするが… 記憶喪失というと、最近ではアルツハイマー症絡みの作品が 数多く作られているが、この作品で描かれるのはそのような 現実的なものではなく、もっとオーソドックスな事故による 記憶喪失。 その事故による記憶喪失物では、1942年製作の『心の旅路』 が頭に浮かぶ。『失われた地平線』などのジェームズ・ヒル トン原作を、マーヴィン・ルロイ監督、ロナルド・コールマ ン、グリア・ガースン共演で映画化したこの作品は名作とし て名高いものだ。 と書いただけでかなりのネタバレになってしまう。つまりこ の作品が描くのは、2度の事故によってその間の記憶を再度 失ってしまった男性と、その間に巡り会った女性の物語とい うものなのだが、この作品はこのオリジナルを巧妙に現代に アレンジしている。 しかも、主人公の男性が人気アイドルと女性がパパラッチと いうのもうまい捻りで、オリジナルの切なさとは別の、現代 らしい心の葛藤が巧妙に描かれて行く。 そしてその舞台が、僕らのあまり知らないタイ山岳部という ロケーションも美しく心に染みるものだった。 主演は、役名と同じ「フィルム」の芸名で、タイでは人気ア イドルのラッタプーム・トーコンサップと、日本のファッシ ョン雑誌などにも登場しているモデル/女優のポーラ・テイ ラー。この2人が等身大で恋物語を演じている。 そしてその脇を固めるのは、見るからにお笑いの人という感 じのイード・ポーンラーンサオーンと、女性コンビのラーラ ーとルールー。特にこの女性コンビがかなり飛んでもない演 技を見せてくれる。 この種の物語で脇役にコメディアンを使うのは日本映画でも よくあることだが、これが案外難しい。本作でも最初はちょ っと浮いているかなとも感じたが、それがだんだん填ってく るのは、かなり強引ではあるが納得できた。 『心の旅路』は、原作も映画化も著作権は切れているはずだ が、本作はそのリメイクではないにしてもインスパイアはさ れたと考えられる。しかもそれを下敷きに見事に現代にアレ ンジした作品と言えるもので、その点では嬉しくも感じられ たものだ。
『シャークウォーター』“Sharkwater” 8歳の時のフリーダイビング中に遭遇したサメの姿に魅せら れたという海洋生物学者で、水中カメラマンのロブ・スチュ ワートが、サメの美しさを世界に広めるために作り始めたド キュメンタリー。しかし作品は思わぬ展開を見せる。 子供の頃からサメが好きだったと言う監督は、純粋にサメの 美しさを求めて作品を撮り始めたようだ。しかし、そのサメ を撮影するためコスタリカのココス諸島のサメ棲息地に向か った船には環境保護活動家が乗り組んでいた。 そしてその航路で彼らはサメの密猟に遭遇し、それを止めよ うとした活動家たちは、中国料理で珍重されるフカヒレを巡 ってその海域で繰り広げられる裏ビジネスの実体に迫ること になってしまう。 さらには、その裏ビジネスで暗躍する台湾マフィアや彼らと 結託する政府・警察との対決など、アクション映画さながら の展開となる。 実のところ、この環境保護活動家なる連中が、グリーンピー スとは別の、おそらく日本の調査捕鯨も妨害して日本政府か らも訴追されている連中と思われ、その辺は日本人としては ちょっと考えてしまうところもあったが、台湾マフィアの存 在など今まであまり考えていなかった事柄も紹介されていて それなりに面白くはあった。 それにサメのヒレ部分だけを切り取って、泳ぎもままならず 死を待つだけになったサメの身体を無造作に海に投げ捨てる 映像は、人間の横暴さを見事に表して、観ていて心が痛むも のだった。 ただし、サメは人間を襲わないという監督の主張は、現実に 日本近海でもサメに襲われて亡くなった人のニュースも何度 も耳にしているもので、簡単に鵜呑みにしてしまう訳には行 かない。いろいろな条件も重なってのことなのかも知れない が、その辺は明確にして欲しかったものだ。サメは人間にと って必ずしも無害ではない。 なお監督の主張では、映画が人食いザメの印象を植えつけ、 サメの乱獲を助長したということだが、できることならこの 作品をスティーヴン・スピルバーグに観せて、その反応を観 てみたいものだ。
『きみの友だち』 直木賞受賞作家の重松清の原作を、2003年寺島しのぶ主演作 『ヴァイブレータ』などの廣木隆一監督で映画化した作品。 子供の頃の交通事故で足が不自由になった主人公と、生来の 持病で運動のできない同級生との交流を通じて、喪失と再生 の中で揺れる少年少女の姿を描く。 その2人の通う学校では、クラス全員が参加する縄跳び大会 があるらしい。その大会で縄を回す役は、自動的にその2人 に決まってしまう。そんな境遇には反発を感じる主人公だっ たが、病弱の同級生の健気な姿に徐々に心を開いて行く。 その主人公は、大人になってからはフリースクールで子供た ちに絵を教えている。そこで主人公は取材に訪れたカメラマ ンと会話を交わすようになる。主人公もカメラが好きで、そ の写真にはいろいろな思い出が詰まっていた。 物語は、主人公と同級生の話だけではなく、主人公の弟の話 などいろいろなものが交錯する。しかもその時系列も様々に それらの話が進むので、正直に言ってちょっと混乱を感じる ところもあった。 結局それは最後にはちゃんとまとまりを見せ、そこに感動も 湧き上がる構成だが、でも、特に弟のエピソードなどは、も う少しその辺の時間の流れなどは判りやすくして欲しかった ところだ。 と言っても、観ていれば判る話ではあるのだが、観ている間 にあやふやな気持ちにさせられるのは、やはり余り気持ちの いいものではない。多分監督は原作を読み込んでいるからこ れで良しとしたのだろうが、もう少し考えて欲しい感じはし た。 と苦言は呈してしまったが、映画の全体は心地よく楽しむこ とができた。特に青い空に浮かぶ白い雲の映像は、今の季節 にピッタリの感じもしたものだ。その中で揺れ動く子供たち の心情は、観ていて感じるところも多かった。 出演は、ホリプロ・タレントキャラバン出身の石橋杏奈と、 『誰も知らない』で長女役を演じていた北浦愛。他に、吉高 由里子、福士誠治が共演。さらに大森南朋、柄本明、田口ト モロウ、宮崎美子らが脇を固めている。また、主題歌を一青 窈が担当している。 なお、石橋は高校生から20歳の大人の女性まで演じるが、撮 影当時はまだ14歳だったそうで、これはなかなかのものだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は紹介する映画が少なかったので、3月21日~24日※ ※に青春18切符を使って実行した熊本旅行について報告し※ ※ます。映画紹介のページの趣旨とは相違しますが、途中※ ※で観たIMAXの話なども書きますので、ご了承ください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ (承前) 試合後は、応援団の前に来た選手を迎えた後に、ダッシュで バス乗場まで行き、光の森駅行の第1便の連絡バスに乗車す ることが出来た。そこから15時31分発の熊本行に乗車。熊本 で16時01分発鹿児島本線上りに乗り換えることになったが、 ここでトラブルに見舞われた。 ここでの乗り換えは、元々余裕が3分しかなかったのだが、 熊本駅に着いて出発ホームに行ったら電車が見当たらない。 しかし、乗客の列が出来ていたのでそこに並ぼうとしたら、 突然発車ベルが鳴り出した。実はその時に出来ていた列は、 その後に発車するエル特急のもので、僕の乗る計画の普通列 車はホームの中央部に短く2両編成で止まっていたのだ。 つまり、鹿児島本線も都市間の特急は現在も10両編成以上で 運行されているようだが、その他のローカル線は豊肥本線と 同様の2両編成のワンマンカーとなっており、その車両は長 いホームの中央付近に止まっていたのだ。しかし、跨線橋の 階段を中央側でない方に降りてしまった僕には、階段の陰で その車両が見えなかったという訳だ。 それに気付いて慌てて電車のところまで走ったが、目の前で 扉が閉まってしまった。しかし、このとき僕の走って行った のが運転席の側だったために、運転士が気付いて扉を開けて くれた。これでことなきを得たが、この電車を逃すと門司着 が1時間ほど遅れるところだった。ここでの教訓としては、 時間に余裕を持つのが一番だが、そうもできないときは、地 方の駅では、ホームは長いが列車は短いこともある、という ことを忘れてはいけない。 この後は、久留米で準急に乗り換え、小倉からは普通電車に 乗り継いで20時04分門司に到着した。そして予定通り2時間 半の余裕を持って、門司駅から徒歩5分ほどにある「もじ楽 の湯」というスーパー銭湯で入浴できた。 この銭湯は天然温泉ではないようだが、この日は曜日と時間 の関係か入浴客も少なくゆったりと入浴できた。特に、玄界 灘に臨む露天風呂は、夜間で真暗だったし、また雨上がりと いうことで多少のカルキ臭はあったが、広々とした玄界灘は 実感でき、格別の気持ちの良さだった。 さらに入浴後は、試しに下関まで行ってみたが、弁当などの 売店はすでに閉まっていて、結局ふぐ弁当は買えなかった。 今回の旅行で一番残念だったのは、これを食せなかったこと になりそうだ。そして、下関駅から帰路のムーンライト九州 に乗り込んだ。 * * 旅の4日目は、ムーンライト九州が06時47分新大阪着、ここ で07時08分米原行の新快速に乗り込むことから始まった。 実は、計画では大阪での始発に乗り込む予定だったのだが、 行きに物色したお土産を買うために新大阪まで来たものだ。 ところが狙っていたお土産は販売時間が8時からで購入でき ず、結局ありきたりな土産となってしまった。それなら大阪 で始発に乗れば良かったのだが、新大阪では比較的込み合っ ていた電車もほどなく空き始めて、途中からは着席すること もできた。 米原から大垣は普通電車を乗り継ぎ、大垣からは新快速で浜 松に向かった。その後は、興津、沼津、熱海、小田原と乗り 継いで小田原へ。小田原では、そのまま東京まで乗って行っ ても良かったのだが、目的地が新宿方面なので湘南新宿ライ ンに乗り換えることにした。 それにしても、浜松から東京まで3回も乗り換えなければな らないのはどうしたものか。沼津-熱海間は運行会社が変る から仕方ないにしても、浜松-沼津くらいは1本で来て欲し かったものだ。 出来たら浜松-三島間に快速列車があったらもっと良い。逆 に沼津-東京間は朝夕に直通列車があるのだから、静岡県内 のダイヤももう少し考えてほしいと思ったところだ。なお、 浜松-熱海という列車はあるが、浜松着11時03分の新快速に 接続する列車がないものだ。 実際、この日に浜松から小田原(東京)に一緒に乗り継いだ 人はかなり多く、青春18切符を使って京都近辺から東京に向 かっていた人もいたようだ。これを新幹線の集客の障害にな るとでも考えているのなら哀しいことだ。 なお、車内で隣に座った人のメモが見えてしまったが、その 人は京都駅を05時30分頃に出たようだった。たぶん始発だっ たのだろうが、始発からの乗り継ぎでも、僕が07時30分頃に 京都駅を通過したのと同じ電車になっているのだから、乗り 継ぎダイヤの悪さが解る気がしたものだ。 * * ということで、どうにか4日間の熊本遠征を終えることが出 来た。大阪以外はほとんど観光もできなかったし、多少のト ラブルはあったが、初期の目的は果たす旅にはなった。 なお、今後のことも含めて、旅行中や計画中などにいろいろ 考えたことを、以下にまとめて記載しておくことにします。 同様の旅を試みる人は参考にでもしてください。 * * まずは、上記もしたJRダイヤの乗り継ぎの悪さについて、 特に静岡県内の状況は相当のもので、この辺は何か改善して もらいたいと思ったものだ。なお、名古屋からは中央線経由 で新宿に向かうルートも検討したが、普通列車を乗り継ぐに はさほど変らない状況であることも判った。 と言っても、鉄道の状況が悪いのはここだけでなく、実は試 みに仙台、山形に普通電車で行くルートを検討したのだが、 この方面には長距離の普通夜行列車がないために、ほとんど 不可能であることが判った。 一方、徳島に関しては関西から高速バスを利用すれば、競技 場の近辺にバス停があり、また、愛媛にはムーンライト松山 というのが運行しているようだが、いずれも試合が青春18切 符の期間中ではないので諦めた。広島についても同様。 これに対して、岐阜、福岡、鳥栖の試合は、青春18切符の期 間中に行われるもので、これは何とかなりそうだ。この内、 岐阜に関しては19時キックオフなので、行きは中央線の普通 列車で行っても良いし、帰りは岐阜駅23時29分発のムーンラ イトながらが使える。 しかし福岡に関しては、19時のキックオフでは、博多発20時 28分のムーンライト九州には到底間に合わない。ところが、 ここで博多-小倉間に新幹線を利用すると、小倉駅で追い付 くルートがありそうだ。鳥栖に関しては、18時のキックオフ なので、これも何とか間に合いそうな気がする。現状では、 ムーンライト九州の運行が不明なので、まだ詳細な計画を立 てられないが、出来たら行きたいものだ。 因に、ムーンライト九州に関しては、専用の車両が老朽化し て、その更新がないと廃止の可能性もあるとの噂を聞いた。 従って、今年行かなければ来年以降は走っているかどうかも 判らないもので、出来るだけ今年実現したいと思っているも のだ。ムーンライトながらについては、使用している車両も 通常の特急列車の車両なので問題はなさそうだが… 鉄道は、最も省エネな交通機関と言われているものだが、そ の割りにはローカル線が新幹線との狭間で次々に廃止されて 行くのも哀しいことで、それらを出来るだけ利用してその有 効性を訴えたいとも思っているところだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回はこの話題から。 ジェイスン・ボーン・シリーズの原作者で、2002年に亡く なったミステリー作家ロバート・ラドラムが、『ボーン・ア イデンティティー』の原作本の刊行の前年1979年に発表した 長編小説“The Matarese Circle”(邦訳題:マタレーズ暗 殺集団)の映画化権を、MGMがリレイティヴィティー・メ ディアと共同で獲得したことが発表された。 この原作は、米ソ冷戦時代を背景にしたものだが、アメリ カのCIAとソ連のKGBの敏腕捜査官が、マタレーズと名 告る国際的な暗殺団の撲滅のため協力せざるを得なくなると いう、ちょっと捻った作品。そしてこの作品には、1997年に “The Matarese Countdown”(マタレーズ最終戦争)という 続編も発表されており、映画化ではシリーズ化も期待される ものとなっている。 このためこの映画化権に対しては、ボーン・シリーズを手 掛けるユニヴァーサルを始め各社も獲得を目指していたもの だが、前ユニヴァーサルの首脳でボーン・シリーズにも関っ たメアリー・パレントが、現MGM代表として300万ドルの 契約金で獲得に成功した。その他に200万ドルで、『ワイル ド・スピード2』や“3:10 to Yuma”のリメイクなどを手掛 けたマイケル・ブラント、デレク・ハースによる脚色も契約 されているようだ。 製作時期などは未定だが、主演にはデンゼル・ワシントン が期待されているとの情報もある。 因に、ジェイスン・ボーン・シリーズは、既に映画化され た3作でラドラムの原作は終っているものだが、実は映画化 後に同じ主人公による続編が他の作家によって書き継がれて おり、現在その映画化を続けるかどうか検討が進められてい るようだ。それと同様のことは『マタレーズ』2作の主人公 ブランドン・アラン・スコフィールドにも言えることで、ワ シントンによる映画化が成功したら、MGMとしては第2の ジェームズ・ボンドを狙うことになりそうだ。 * * 『ホテル・ルワンダ』などを手掛けたエンドゲーム社が、 2006年にキム・ベイシンガーとダニー・デヴィートが共演し た“Even Money”なる作品を手掛けているロバート・タネン という脚本家が執筆した“Hungry Rabbit Jumps”と題され たオリジナル脚本の権利を獲得し、トビー・マクガイアの主 演で映画化する計画を発表した。 この作品の詳しい内容は明らかにされていないが、ジャン ルはドラマティック・スリラーとされおり、デイヴィッド・ フィンチャー監督の1997年作“The Game”(邦題:ゲーム) を継承する作品とも言われている。 因に、“Spider-Man 4”の噂も絶えないマクガイアの動き は活発で、この発表の前には、“Afterburn”と題された太 陽の変動によって高温化し荒廃した地球を舞台に、美術品の 回収を行う人々を描いたSF作品の計画や、発表の直後にも ワーナー・インディペンデンスとの共同で“Marry Him! The Case for Settling for Mr.Good Enough”という雑誌記事の 映画化権を獲得したことも発表されている。 また、第144回で紹介したジェイク・ギレンホールと兄弟 役で共演の“Brothers”(スサンネ・ビア監督『ある愛の風 景』のリメイク)の撮影が完了している他、『ズランダー』 などのベン・スティラー監督主演作品“Tropic Thunder”に もゲスト出演している。 さらに、障害者に扮する“Quiet Type”や、日本製アニメ 『超時空要塞マクロス』を映画化する“Robotech”、父子詐 欺師物の“Hot Plastic”、コロンビアで進めている“Tokyo Suckerpunch”“Everything Changes”等々、マクガイアの スケジュールはスパイダーマン以上に大忙しのようだ。 * * 『トップガン』や『ライト・スタッフ』など航空機の登場 する作品はいろいろあるが、さらに1歩進んだエアロバティ ックと呼ばれる究極のスタント飛行術を描く作品が計画され ている。 計画を進めているのは、2006年『FLYBOYS』などを 製作したディーン・デブリン。実は同作には俳優として参加 していた25歳スタントパイロットのデイヴィッド・エリソン が執筆した脚本を基にするもので、物語は、3人の若者パイ ロットを中心に、彼らが地上10フィートでの逆様飛行や、超 高速のヘアピン飛行など様々なテクニックを競い合う中での いろいろな冒険が繰り広げられることになりそうだ。 そしてこの映画化に、1994年『マスク』や、2002年『スコ ーピオン・キング』などのチャック・ラッセルが参加、脚本 のリライトと監督を務めることも発表された。因に、題名は “Northern Lights”。撮影は今秋開始の予定で、ラッセル は、「エアロバティックのパフォーマンスは日夜進化する。 その世界をVFXも駆使して観客がパイロット席にいるよう な臨場感で描く」としている。 ただし、ラッセルには、『奇跡のシンフォニー』のジョナ サン・リース=メイヤース主演で、コミックスを映画化する “Mandrake”という計画もあって、どちらが先かはまだ明確 ではない。しかしながら、本作“Northern Lights”では、 デイヴィッドの父親で、IT会社オラクルの創始者ラリー・ エリスンが出資を表明しており、資金繰りが早ければこちら が先になる可能性は充分にある。因にラリー・エリスンは、 『FLYBOYS』にも資金提供していたそうで、今回はそ れに続いての映画への出資。息子の計画に親馬鹿で出資して いる可能性もあるが、そんな論調を払拭するような作品を期 待したいものだ。 * * パラマウントに本拠を置くブラッド・ピット主宰のプロダ クション=プランBが、“Lost City of Z”と題されたノン フィクションの映画化権を獲得し、ピット主演で実現を目指 すことになった。 デイヴィッド・グランが著した原作は、南米アマゾンを舞 台に、その奥地に眠る失われた都市の存在を確信し、1925年 にその探索に向かったまま行方不明になったイギリスの探検 家パーシー・ハリソン・フォーセット(ピットが扮する)を 描いたもの。実はフォーセットはその都市を発見したとの情 報もあり、以来80年以上に亙ってその経路を辿って都市を再 発見しようとする試みが行われてきたが、それらはことごと く失敗に終ったというものだ。 そしてこのノンフィクションは、元々は2005年2月発行の 雑誌ニューヨーカーに掲載された記事を拡大したものだが、 実はパラマウントでは、グランがその前に同じ雑誌に発表し た“City of Water”という、100年以上に亙ってニューヨー ク市の地下水道網の構築に携わってきた人々を描いたノンフ ィクションの映画化も進めており、こちらは、2003年『タイ ムライン』などを手掛けたジョン・ゴールドウィンの製作で 進められることになっている。 なおグランの作品では、この他に“The Old Man and the Gun”と題された78歳でカーチェイスの末に逮捕されたとい うギャングを描いた作品が、ウォルフガング・ペーターゼン 監督でワーナーで進められているそうだ。 一方、ピットの出演作では、コーエン兄弟監督の“Burn After Reading”と、デイヴィッド・フィンチャー監督によ る“The Curious Case of Benjamin Button”の撮影がすで に完了しており、それぞれ本年9月と12月に公開予定になっ ている。 * * “The Treehouse Gang”と題されたオリジナルの脚本が、 争奪戦の末に150万ドルでワーナーと契約され、『ハリー・ ポッター』シリーズを手掛けるデイヴィッド・ハイマンの製 作で映画化が進められることになった。 この脚本は、1999年に発表されて話題を呼んだ8分間の短 編映画“George Lucas in Love”で、原案と出演もしていた 俳優兼脚本家のティモシー・ドウリングが執筆したもので、 物語は、子供時代には宝捜しに明け暮れていた4人の仲間が 高校の同窓会で再会し、彼らがやり残した最後の宝捜しを完 遂しようとするもの。 実は、この内容だけ読むと、2005年10月14日付で紹介した 『トレジャー・ハンターズ』を思い出してしまうところもあ るが、ワーナーとハイマンが、しかもこれだけの金額で契約 したのだから、相当の作品ということなのだろう。 因にドウリングは、俳優では2003年『T3』に救急救命士 の役で出演していたそうだが、脚本家としては、現在ドリー ムワークスで“She's Out of My League”という作品が撮影 中の他、コロムビアで“Outsourced”という作品が製作準備 中となっている。 1999年の作品は、確か前年に公開された“Shakespeare in Love”に引っ掛けたコメディだったと思うが、それを手掛け たドウリングは基本コメディの人と思われ、今回も楽しい作 品を期待したいものだ。 * * 『オーシャンズ13』の後は、ベニチオ・デル=トロが革 命家チェ・ゲヴァラに扮した2部作の“Guerrilla”“The Argentine”を製作監督していたスティーヴン・ソダーバー グの次回作として、“The Informant”と題された作品の準 備が進められている。 この作品は、2005年にエンロン事件を扱ったベストセラー “Conspiracy of Fools”などを発表しているカート・エイ チェンワルドが、2001年に発表した大手食品会社による商品 の価格操作に関る詐欺事件を描いた実話に基づく作品で、実 は2003年にソダーバーグの次回作として、マット・デイモン の主演と共に紹介されたことがある。しかしその時は頓挫、 それがようやく実現することになったものだ。 物語は、デイモン扮する科学者が、スコット・バクラが演 じるFBIの捜査官と協力して事件を暴いて行くことになる ものだが、これがかなり危険な潜入捜査だったようで、相当 にドラマティックな展開が期待できそうだ。なおソダーバー グ作品では、2000年の『エリン・ブロコビッチ』も同様の社 会的な題材を扱っていたが、実はソダーバーグは、今年のオ スカー候補になった『フィクサー』の製作にも関っており、 基本的にこの種の作品がお気に入りのようだ。 脚色は、デイモン主演の『ボーン・アルティメイタム』を 手掛けたスコット・Z・バーンズ。つまり、2003年当時から 主演が決まっていたデイモンが彼の脚本を気に入って推薦し たようだが、それがさらにソダーバーグのお眼鏡に掛かった とあれば大したものだ。因にバーンズは、2006年のオスカー 長編ドキュメンタリー部門受賞作『不都合な真実』の製作も 務めており、元々その方面の素養はあったとも言えそうだ。 なお、脚本家のバーンズは、デイモンの主演で検討されて いるシリーズ続編“Untitled Jason Bourne Project”にも 起用が決まっているようだ。 * * ここからはSF/ファンタシー系の情報を紹介しよう。 まずは、リュック・ベッソン監督、フレディ・ハイモア、 ミア・ファーロー共演で、日本では昨年公開された“Arthur et les Minimoys”(アーサーとミニモイの不思議な国)の 続編についての発表が行われた。 この続編については、元々ベッソンが執筆した原作にも、 “Arthur et la vengeance de Maltazard”と“Arthur et la guerre des deux mondes”という続編があり、今回の発 表では、それがそのまま映画化されることになったものだ。 因に、当初の計画では、第2作と第3作はまとめて1本にし て映画化するという話もあったが、第1作の世界的なヒット で3部作は3部作として映画化することになったらしい。 そしてその2作を、本国フランスでは“…Maltazard”が 2009年12月9日、“…mondes”は2010年12月に公開すること も報告されている。 さらに製作状況に関しては、実はハイモアとファーローの 実写の出演シーンは、ベッソン監督によって昨年の夏にノル マンディで撮影済だそうで、現在はCGIアニメーションの 製作中。マドンナ、デイヴィッド・ボウィ、スヌープ・ドッ グらの声の出演がどうなっているかは不明だが、取り敢えず 製作費には、“…Maltazard”の分だけで前作を15%上回る 9600万ドルが計上されているとのことだ。 なお、“…Maltazard”の物語の発端は、前作でボウィが 演じたMaltazardの脅威が復活、マドンナが演じたSelenia姫 の救難連絡に応えて、アーサーが再びミニモイの世界に向か うというものだ。 * * お次は、1986年に公開のロボット映画“Short Circuit” (ショート・サーキット)のリメイクが計画されている。 オリジナルは、アリー・シーディーとスティーヴ・グテン バーグの共演で、ジョン・バダムが監督。ナンバー5と呼ば れる軍事用ロボットが平和な町にさ迷い出る物語は、1988年 には第1作に助演して最近では2005年『ダウト』などのプロ デューサーとしても活躍しているフィッシャー・スティーヴ ンス主演による続編『ショート・サーキット2/がんばれジ ョニー5』も作られている。 そのリメイクが、TWC傘下ディメンション・フィルムス で行われることになったもので、製作は、オリジナルの2作 を手掛け、最近では2003年の『ザ・コア』なども担当したデ イヴィッド・フォスター。また脚本も、オリジナルの2作を 手掛け、その後に1990年の『トレマーズ』などを発表したS ・S・ウィルソンとブレント・マドックに依頼されていると いうものだ。 そしてこの計画について、ディメンションの主宰ボブ・ワ インスタインは、「ファミリー映画として位置づける」とし ており、フォスターは「オリジナルのテーマは変えないが、 VFXには最新の技術を採用する」と語っている。 まだ監督やキャストも未定の計画だが、オリジナルのナン バー5は、最近では『NEXT』なども手掛けたエリック・ アラードが当時の最新の技術で製作操演したもので、それが どのように再現されるかも楽しみだ。 * * ユニヴァーサルが争奪戦の末に、“Earth vs. Moon”と題 されたSFオリジナル脚本の権利を6桁($)後半の契約金 で獲得したことが報告された。 この脚本の具体的な内容は全く明かされていないが、執筆 したのはポール・ウェアニックとレット・リーズの2人。こ の内のリーズは、2001年『モンスターズ・インク』の脚本家 の1人として知られており、また2人のコンビでは、スパイ クTVの番組などで人気を得ているとのことだ。 と、報道はこれだけだが、SFということとこの題名から は、当然地球-月間戦争が想像されるもので、SFファンと しては第37回などで紹介した故ロバート・A・ハインライン 原作の“The Moon Is a Harsh Mistress”(月は無慈悲な夜 の女王)を思い出してしまうところだ。このハインライン原 作の映画化に関しては、その後は情報が跡絶えてしまってい るが、一応計画としては、現在も『ゾディアック』などのフ ェニックスと、『ハリー・ポッター』シリーズのヘイデイの 共同製作として生きている。 ということで、今回の計画がそれとどう違うかも気になる ところだが、ハインラインの原作に描かれたいろいろな月- 地球間の特性は科学的な事実として物語の中で利用すること はできるものだし、その辺も充分に吟味して面白い作品が作 られることを期待したい。そしてできれば、その相乗効果で ハイライン作品の映画化も実現するとさらに嬉しくもなると ころだ。 なおウェアニックとリーズのコンビでは、“Zombieland” という「地球一臆病な男が、ゾンビに支配された世界で生き 残りの人々のリーダーになってしまう」作品もコロムビア製 作で進められているようだ。 * * 後は短いニュースをまとめて紹介する。 最初は、ベルリンの本拠を置くラザー・フィルムが、昨年 のロカルノ映画祭でグランプリを獲得したハンガリー人監督 ベネディク・フリーガウフによる初の英語作品で、未来を舞 台にした“Womb”という作品を進めている。この作品は、遺 伝子技術によって人の死が克服された世界を描いているとい うもの。詳しい内容は不明だが、製作資金にはEUのメディ ア支援プログラムや、ハンガリーの映画基金などの援助も受 けて、近日中にベルリンと北海沿岸で撮影が開始されること になっている。 『エリザベス』の2部作を完成させたシャカール・カプー ル監督が、フィリップ・リーヴ原作“Larklight”の映画化 を進めることが発表された。原作本は既に翻訳もあるようだ が、今回の報道に添えられた物語の概要によると、舞台背景 はヴィクトリア王朝時代を思わせる世界。しかも人類は、ア イザック・ニュートンの時代から宇宙進出が始めているとい う、そんな設定の中で物語の主人公は兄妹。その兄妹が宇宙 海賊と組んで、狂人の手から世界を救う冒険が描かれるそう だ。製作は『ラッキー・ユー』などのデ・ノヴィ・ピクチャ ーズ、配給はワーナーで、製作費には2億ドルが計上されて いるとのことだ。 “Last Blood”と題されたコミックスの映画化が、『バタ フライ・エフェクト』などのベンダースピンクスで計画され ている。物語は、ゾンビによって支配された終末世界を背景 に、人類最後の生き残りたちを保護するヴァンパイアの集団 を描いているもので、かなり捻った作品になりそうだ。因に コミックスの原案は、ボビー&クリス・クロスビーという兄 弟によるものだが、実は、彼らは1997年にネット上に出版社 を設立。そして2006年末から“Last Blood”の連載を開始。 その後に4巻本にまとめられて昨年出版されたとのことだ。 なお、ベンダースピンクスでは、第153回で紹介した“Y: The Last Man”をニューライン(ワーナー)進めている他、 “Power and Glory”“The Ghouly Boys”“Area 52”“Pet Robots”などのコミックスの映画化をハリウッド各社と共同 で進めているそうだ。 1997年『キューブ』で衝撃をもたらしたヴェンチェンゾ・ ナタリ監督が、エイドリアン・ブロディ、サラ・ポーリーの 共演で“Splice”と題されたSF作品を撮影完了している。 物語は、DNA操作で新しい生物を生み出そうとした男女の 科学者を描いたものということで、H・G・ウェルズの『モ ロー博士の島』以来、この手の作品もSFの分野としては大 切なものだ。なお本作の製作総指揮はギレルモ・デル=トロ が担当しており、アメリカ配給は2009年に予定されている。 * * 最後に、4月3日付のアメリカの芸能紙に、サングラスの 人気ブランドRay-Banが、3D映画用の個人所有の眼鏡を発 売するという記事が紹介された。記事によると、3D技術開 発会社のKerner Opticalというところと共同でデザイン化さ れた眼鏡を開発し、年内にも発売すると言うのだが…実は、 この記事には非常に疑問を感じている。 実際問題として、現在3D映画で実用化されている方式は 少なくとも3種類あり、それぞれ偏向レンズの形式も異なっ ている。従ってそれらを統一して使える眼鏡は存在しないは ずで、それをどうやって1個の眼鏡にするのか疑問なのだ。 確かに将来的に方式が統一されれば、かっこよくデザイン 化された眼鏡を持ち歩くのも面白いかも知れない。ただしそ の場合でも、本来サングラスとしては使用できない3D眼鏡 をサングラスブランドが発売して良いものかどうか、問題は 山積している感じがする。 年内に本当に発売されたら、参りましたと言う他ないが、 その時には一体どのような技術が使われるのか、興味津々と いうところだ。
2008年04月13日(日) |
奇跡のシンフォニー、ハブと拳骨 *熊本遠征記前編 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『奇跡のシンフォニー』“August Rush” フレディ・ハイモアの主演で、アカデミー賞の主題歌賞にも ノミネートされた音楽映画。 赤ん坊の時から孤児院にいて、11年を過ごしてきた少年が、 心の中に湧き上がる音楽の力に従って、まだ見ぬ両親を探し 始める。 それは11年前の満月の夜に、1夜だけ出会ったチェロ奏者の 女性とロックミュージシャンの男性の恋。しかしその出会い は、2人を音楽の道から遠ざけることになってしまう。そし て11年後、少年の行動が奇跡を起こして行く。 このチェロ奏者の女性役を、『M:I: 3』に出ていたケリー・ ラッセルが演じ、ロックミュージシャンの男性役を、同じく 『M:I: 3』に出演のジョナサン・リース=マイヤースが演じ ている。他に、テレンス・ハワード、ロビン・ウィリアムス らが共演。 ハイモアとウィリアムスの共演ということでも充分に魅力の ありそうな作品だが、この作品の最大の魅力は何と言っても 音楽。全編にちりばめられた40曲とも言われる既存及び新作 の音楽が、見事なハーモニーを作り出している。 その音楽も、クラシックからゴスペル、ロックまで、多様な ジャンルに跨がるもので、僕は音楽が趣味という者ではない が、ヴァラエティに富んだ音楽には大いに魅力を感じた。さ らに、それらが一体化して行く音楽の構成も素晴らしく感じ られたものだ。 しかもこの作品の脚本を書いたのは、1981年『ニューヨーク 1997』や、1991年『フック』などのニック・キャッスル と、『フック』や2003年『トゥームレイダー2』などのジェ ームズ・V・ハート。ジャンル専門と思っていた人たちが、 意外な面を見せてくれている。 そういえば、『エルム街の悪夢』のウェス・クレイヴン監督 も、メリル・ストリープ主演の『ミュージック・オブ・ハー ト』なんて音楽映画を監督したことがあるから、これが特に 変という訳ではないのかも知れない。 それに、今回の2人は脚本を提供したものだが、映画の中に はファンタスティックな雰囲気のところも多々設けられてお り、その辺の感覚では、なるほどジャンル映画の人たちとい う感じもしたものだ。 正直に言って、ストーリー展開の中にはファンタシーと割り 切る必要のある部分も多少はあるが、クライマックスの音楽 とドラマの両面から盛り上げられる演出には、スクリーンが ぼやけて見えてしまうところもあった。非常に特殊なシチュ エーションの物語ではあるが、面白く観られた作品だ。
『ハブと拳骨』 昨年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品された作 品。 ベトナム戦争当時の沖縄を舞台に、駐留米軍やその他との折 り合いの中で暮らす沖縄人一家の姿が描かれる。 主人公は三線を弾かせたらかなりの腕のある若者。しかし、 英語が多少話せることから、基地の兵隊に取り入って物資の 横流しなどで小金を稼いでいる。一方、彼の母親は沖縄そば 店で生計を立てており、その店には彼女を母と呼ぶ若い女性 もいた。 そして1人の男が刑務所から帰ってくる。その男は町の顔役 の許で用心棒のようなことをしているが、その男もまた彼女 を母親と呼んでいた。そんな彼女を母親と呼ぶ3人は、お互 いを兄弟のように睦まじく生活していた。 ところが、そんな彼らの生活に本土のやくざの陰が落ち始め る。そのやくざは、沖縄である物を入手しようとしていた。 そんな連中が基地内にルートを持つ主人公に近づいてくるの は時間の問題だったが… 特殊な状況に置かれ続けた沖縄の人たちの苦しみは理解した いと思う。その中での本土の行ってきた役割も、映画の中の 本土やくざに象徴されるように理不尽なものであったことも 理解したいところだ。 しかし、多分作っている本人たちは戯画化しているつもりな のだろうが、そのあまりにもステレオタイプの本土やくざの 描き方には、見ていて辟易すると言うか、とにかく退いてし まった。これでは製作者たちが最も言いたかったことがぼや けてしまう感じだ。 中でも、主人公が本土やくざが貯めた物資を盗みに行くと言 うのは、盗みに行くなら米軍基地のはずだし、その意味が判 らない。何か特別な状況があるのだろうか。あるならその状 況を説明してほしかった。 それに最後に主人公の兄が反撃もせずに耐え忍ぶと言うのは 中での台詞のように「沖縄をほっといてくれ」というのを言 わせたいのかも知れないが、常識的に考えてこれはないだろ う。反撃できない理由を何か明確に付けるべきだったように 感じた。 出演は、沖縄出身俳優の尚玄、虎牙光揮、宮崎あおい、石田 えり。原案と音楽は『殴者』も手掛けたミュージシャンの田 中雄一郎。田中は、脚本やタイで行われたロケーション撮影 など、映画の制作全般に関ったようだ。 テーマは理解できる。でも語り口が違うように感じられた。 最後に聞こえる列車の音は良かったが。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は紹介する映画が少なかったので、3月21日~24日※ ※に青春18切符を使って実行した熊本旅行について報告し※ ※ます。映画紹介のページの趣旨とは相違しますが、途中※ ※で観たIMAXの話なども書きますので、ご了承ください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ この旅行の計画は、1月に2008年のJ2リーグの試合日程が 発表されたときから考え始めた。正確には、昨年熊本のJ2 昇格が決ったときから考えてはいたが、日程が定まらないこ とには計画も立てられなかったものだ。 その日程が3月23日と判明し、青春18切符の期間でもあり、 さらに自分に時間の余裕もあったので、思い切ってやってみ ようと思い立ったのだ。それに、以前に息子が同切符で四国 まで行ったことも、自分の憧れでもあった。 と言うことで考え始めたが、まず大垣までは夜行快速のムー ンライトながらが利用できるものの、そこから先を鈍行の乗 り継ぎはかなりの時間を要することが判明した。それでも何 とか深夜に博多に到着して、一泊後、早朝熊本に向かう計画 は立てたが、ここで宿を取るのは手間も掛るし、多少めげそ うになったことは事実だ。 ところがそこにムーンライト九州という、新大阪-博多間の 夜行の快速があることが判明した。しかしこの列車は、年末 年始や夏休み限定で春のこの時期に走るかどうか判らない。 そこで気をつけて情報収集を続けている内に、ついにちょう どその時期に運行されることが発表された。ただし、これら の夜行快速は、いずれも普通列車扱いで青春18切符は使える ものの、全席指定席制で、その指定席券の入手が覚束ないと いうことも判ってきた。 そこで、まずは「JR東日本えきねっと」に登録してムーン ライトながらの座席券は優先的に確保できるようにしたが、 「JR西日本おでかけネット」には優先予約の制度がなく、 しかもムーンライト九州はネット購入の対象にもなっていな いことが判明。結局発売日にみどりの窓口に並ぶことが必要 になった。この時点で、行きのムーンライトながら及び九州 と、帰りのムーンライト九州の座席が取れたら、計画を実行 しようと決心したものだ。 そして2月22日と23日の両日、最寄りJR駅みどりの窓口で 座席を購入、併せて、窓口の人には「買っていいのですか」 と訊ねられもしたが、青春18切符も購入して熊本遠征の決意 を固めた。 * * 続いて、スケジュールの詳細を検討した。 ここで、ムーンライトながらから九州への乗り継ぎは、半日 以上の余裕があるので問題なかったが、ムーンライト九州が 博多に着いてから競技場最寄り駅の熊本県光の森駅までは、 通常のルートでは開門時間に間に合わないことが判明した。 普段、開門前の現地到着を旨としている僕としては、これは 譲れないところだった。 しかし、ムーンライト九州の時刻表を調べている内に、門司 から博多までが異様に時間が掛っていることに気付いた。し かも門司では先に区間快速が出発していることも発見した。 そしてその列車で、途中駅から熊本行に乗り換え、熊本から 豊肥本線に乗り継ぐことで、10時23分に光の森駅到着。連絡 バスで開門前に競技場に着けることが判明したのだ。 そこで、さらに帰路も同じルートで検討すると、門司に20時 04分到着。同駅をムーンライト九州が発車するまで2時間半 近い時間の余裕が出来ることも判明した。 実は今回の旅行日程では宿を取らないので、入浴の問題が生 じていた。春先で涼しい時期とはいうものの、出来れば毎日 の入浴は欠かしたくないものだ。このため、初日は家で入浴 後に出発と決め、2日目は大阪でスーパー銭湯を使うことと し、3日目を門司にある同様の銭湯に入ることにした。この ため2時間半の余裕は好適のものとなった。 なお、スーパー銭湯は各地にできているので、このような旅 には好都合と言えるが、実は大阪では最初に行こうと決めて いた銭湯が、ネット上の評価で極めて低いレヴェルにあるこ とを発見し、別の銭湯を探し直したこともあった。 と、ここまでは全てネット上での情報だけで組み立てたもの で、まさに机上の計画を作り上げたものだ。なお4日目大阪 に着いてからは、昼間の鈍行を乗り継いで東京に向かうこと にした。これは1度くらいはそんなことをしても良いかな… とも思ったからだ。 * * さて、出発日は3月21日。前日の平塚競技場での応援の後は 心静かに出発の時を迎えたかったが、実はこの日にちょっと 大きな映画の完成披露試写会もあって、昼間はそれに出かけ て一旦帰宅、夜10時頃に改めて出発とした。このため、当初 は小田原まで小田急を使って、青春18切符を1日分浮かせる ことも考えたが、昼間の試写会行きにも使えばその方が効率 が良いことも考えて、東京駅からの乗り込みとした。 こうして22時51分、ムーンライトながらの東京駅出発で旅行 が始まった。 * * 2日目の最初の目的地は大垣。僕は子供の頃に東海道線の沿 線に住んでいたこともあり、列車の音は子守歌のようでもあ ったので、車内でも熟睡して終点へと向かって行った。ただ し、事前の検討で大垣での乗り継ぎ時間が2分しかないと判 っていたので、多少早めに起きて準備はした。そして大垣で は、跨線橋を駆け足で渡って米原行へ乗り継いだ。 次の米原からは山陽本線直通の新快速。これで約1時間半、 大阪まで行く予定だが、この列車の扉が手動釦で開閉式のも の、ここで3人目くらいに並んでいたら先頭の人が扉を開け てくれない。他の入り口からは乗車が始まっているし、席が 取れないかと焦ったが、何とか扉も開いて着席できた。 大阪からは環状線、市営地下鉄を乗り継いで天保山。ここで は、サントリーミュージアムでIMAX-3Dの上映を観るのと、 少し前にテレビ番組で紹介された3D-Memoriesを作ること、 それに時間があれば海遊館を見学したいと思っていた。 そこでまずはサントリーミュージアムに向かい、IMAX-3Dを 鑑賞した。上映されていたのは、『ダイナソー・アライブ! 3D』(Dinosaurs Alive !)と、『ブルー・オアシスⅡ 3D』 (Deep Sea 3D)の2作品で、それぞれ前者はマイクル・ダ グラス。後者はジョニー・デップとケイト・ウィンスレット のナレーションということでも話題になっていたものだ。 そこで僕は、2作品とも原語のナレーションで鑑賞すること にした。因に、IMAX-3Dでは字幕が付けられないため、吹き 替えが基本となっているが、会場ではヘッドフォンによる原 音の提供も行われており、それを借りたものだ。 こうして鑑賞した2作品だったが、『ダイナソー…』では、 ダグラスの外連味たっぷりのナレーションは面白かったが、 全体的には普通の3D映画という感じで、CGIで再現され た恐竜の姿も、学術的に正確に再現されているのだろうが、 それなりという感じのものだった。 それに対して『ブルー…』の方は、デップとウィンスレット のナレーションはむしろ淡々としていて、情報を正確に伝え るようにされていたが、映像は特に海底の小動物が乱舞する ようなシーンでは、まさに視野一杯のIMAXスクリーンの中が 全て3Dになる訳で、さながら自分が海中にいるような気分 が味わえたものだ。 IMAX-3D作品は、東京にも上映館があった頃には何本か観て いるが、その特性が存分に活かされたということでは、この 作品はベストの作品に選んでも良いと思える。特に、海底の サンクチュアリーという作品のコンセプトは、この全身を包 み込まれるような映像を体感することで、まさに実感できた という思いがしたものだ。 なおサントリーミュージアムでの上映は、『ダイナソー…』 は9月12日までの予定だが、『ブルー…』は7月24日までと なっており、気になる人はお早めに。因に『ブルー…』の後 番組には、『ポケモン3Dアドベンチャー』と題された2本 の短編3D作品が、7月25日から8月31日までの上映になる ようだ。その後に『ブルー…』が復活するかどうかは判らな いが、その価値はあると思えた。 というIMAX-3D作品を鑑賞した後は、計画通り3D-Memoriesを 作ってもらい、さらに時間があったので海遊館を見学した。 因に3D-Memoriesは、3眼のカメラで撮影した映像から3D の深さを計算し、それでプラスティックの材料の中に点描し て行くもの。カメラの3眼が縦に配置されているのも面白か ったし、途中で見せてもらえる3D映像もなかなかで、結構 楽しめるものだった。 一方、海遊館はリニューアルしたばかりとのことでかなり混 んでいたが、大きい水槽を中央に置いた形式は観やすくて、 特に細々した水槽を見て歩くより楽に見られたように感じら れた。もちろん個々の生物については解りにくいなど、一長 一短はあるのだろうが、気楽に楽しむにはこの方が良いよう にも感じられたものだ。 以上の予定をこなした後は、その日の入浴をユニヴァーサル シティ近くにある「上方温泉 一休」というところに決めて いたので、まずは天保山からキャプテンラインという海路で ユニヴァーサルシティに渡り、JRゆめ咲線で西九条、そこ から送迎バスを待ってスーパー銭湯へとたどり着いた。 この銭湯は、地底深くから汲み上げた天然温泉とのことで、 東京の各所にもあるスーパー銭湯と似たようなものだが、場 内の管理は比較的行き届いていて、ゆっくりと入浴を楽しむ ことが出来た。それに従業員の態度も良くて、実は帰りの送 迎バスでは運転手の人との会話も弾んだのだが、ここで1つ 自分の失敗に気付かされてしまった。 と言うのは、この日の行程では上記のように、市営地下鉄で 天保山に入ってキャプテンラインでユニヴァーサルシティに 移動したのだが、実は、ユニヴァーサルシティの先の桜島と 天保山の間には無料の渡し船があると聞かされたのだ。つま り、この桜島まではJRなので青春18切符で無料で行けた訳 で、そこから無料の渡し船なら、市営地下鉄と海路の船賃は 使わずに天保山に行けて、帰っても来れたということだ。こ れにはちょっとがっかりしたが、後の祭りだった。 という話も聞かされたが、このバスの運転手さんには、途中 でJRの駅にも寄り道してもらうなど、お世話になった。 この後は、大阪駅でガード下の大盛の店で腹ごしらえをし、 新大阪駅で帰りのお土産を物色するなどして、21時59分発の ムーンライト九州に乗り込んだ。 * * 3日目は、05時53分に門司で途中下車なので、この日も多少 早目に起きて準備していたが、ここで2つ目の失敗をしてし まった。実は、門司の前の下関では機関車付け替えのために 10数分停車するのだが、ここで車掌からホームでふぐ弁当を 売っていますという車内放送があったのだ。 しかし僕は、どうせ門司での乗り換えもあるし、そこで買え ば良いと思っていた。ところが関門トンネルを通過して到着 した門司駅には売店は無し、弁当も何も買うことが出来なか った。つまり名物のふぐ弁当は下関で買わなければいけなか ったのだ。これも後の祭り、気になるものは速攻入手しなけ ればと思い知った。 しかも、この門司駅では区間快速の荒木行というのに乗り換 えなくてはいけないのだが、駅の案内板にはそのような列車 の表示がない。これには同じ乗り継ぎらしい他の乗客も駅員 に問い合わせていたが、駅員も判らないという始末だった。 そこで取り敢えず、他の乗客と一緒に時刻表通り06時01分の 普通列車に乗り込んだが、車内の放送でもそれが区間準急に なるとも放送されない。 これにはかなり焦ったが、博多を過ぎた辺りで漸く9両編成 の前6両が途中から切り離されて区間準急になり、後3両は そのまま普通列車で運行するとの放送があった。何ともいい 加減な話で、恐らく普段から使っている人には分かり切った ことなのかも知れないが、少なくとも休みの時期には、もう 少し判りやすくしておいて欲しかったものだ。 なお、途中で乗ってきた若い女性にも、「この車両は準急で しょうか」と聞かれたから、地元の人でも判っていないこと もあるようだった。 ここからは、途中の乗り換えも含めて順調に進んだが、ここ で車窓から眺めると、市街地では東京と同じコンビニエンス ストアが並んでいたり、紳士服のチェーン店の見慣れた看板 や大型量販店の看板など、地方も東京も変らなくなってきた なとは感じさせられた。このまま行ったら、何時か旅の風情 も消えてしまいそうだ。 それに、博多-熊本間では沿線に高架鉄道の工事も進んでい たが、もしかして九州新幹線の工事かと思ったときに、乗っ ている在来線の行く末も心配になってきたものだ。とは言う ものの、熊本から乗った豊肥本線は、本線とは言っても2両 編成のワンマンカーで、この日の乗客はそれなりの人数が乗 っていたように見えたが、鉄道の衰退も仕方ないのかも知れ ないと思わされた。 と言うことで、光の森駅から連絡バスで競技場へ。この頃に は雨足も多少強くなっていたが、アウェイ側の入り口にはわ ざわざヴォランティアの人に案内もしてもらって、無事開門 前に到着することが出来た。 * * さて試合の模様は、いまさらレポートしても仕方がないが、 田村、石原のゴールなどで見事今期2勝目を飾ったものだ。 その他の競技場の印象を述べておくと、ピッチはかなりの雨 なのに水が浮くこともなく、パス回しも出来て選手はやりや すそうだった。平塚競技場は昨年のベストピッチ賞を受賞し たが、今期J2に上がって来た熊本のこのピッチも、きっと 良い評価を得られることと思う。 ただし、大きな競技場で雨のため屋根のあるバックスタンド のアウェイ応援席に陣取ったが、そこから売店までの距離が 遠かったのはちょっと弱った。試合前に昼食などは確保した が、近ければもう少しお土産なども探せたと思ったものだ。 アウェイ応援団の人数がもっと多ければ、別売店も開かれた のかも知れないが、もう少し何とかして欲しい感じはした。
と言うことで、往路はここまで、帰路に関しては、また別の 日に報告させてもらうことにします。 (後編は4月20日に掲載しました)
2008年04月06日(日) |
フールズ・ゴールド、シューテム・アップ、サンシャイン・デイズ、百万円と苦虫女、あの日の指輪を待つ…、シークレット・サンシャイン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『フールズ・ゴールド/カリブ海に沈んだ恋の宝石』 “Fool's Gold” 『10日間で男を上手にフル方法』のマシュー・マコノヒーと ケイト・ハドソンが再共演したロマンティック・コメディ・ アドヴェンチャー。 カリブ海を舞台に、1715年に沈んだとされるスペイン艦隊に 積まれたスペイン王から妃への贈り物(宝箱40個分の財宝) を巡って、トレジャーハンターの男とその元妻が冒険を繰り 広げる。 主人公は、長年スペイン王の財宝を探していたがその資金も 尽き、地元のギャングから借りた金も返せないまま、頼りの ボートが爆発沈没してしまう。ところがその沈没の副産物で 彼は探し求めていた財宝の手掛かりを掴む。 しかし、地元のギャングがそんな彼の話に耳を傾けるはずも なく、彼は敢えなく海の藻屑に…。しかもそのギャングは、 彼の掴んだ手掛かりを主人公の師匠だったトレジャーハンタ ーのベテランに持ち込んで財宝捜しを続行する。 一方、辛くも海底からの脱出に成功した主人公は、離婚調停 中の妻の待つ判事の許に急ぐが…。そこにクルーザーでやっ てきた大金持ちの男性やその愛娘も加わって、財宝捜しの大 冒険が開幕する。 昨年末の『ナショナル・トレジャー2』に続いて、今年5月 には『インディ4』と、大掛かりなトレジャー・ハンター映 画が続く中で、本作はどちらかというと小振りな作品になっ てしまいそうだ。 でも本作は、その分人間的な面白さを追求している面もある 作品で、その辺はマコノヒー+ハドソンのコンビに、ドナル ド・サザーランド、レイ・ウィンストンらが脇を固めて盛り 上げている。また、サザーランドの娘役を演じたアレクシス ・ジーナという新人女優がちょっと光っているようにも感じ られた。 原案脚本は、『アナコンダ2』などのジョン・クラフリンと ダニエル・ゼルマン。監督は、2005年のウィル・スミス主演 作『最後の恋のはじめかた』などのアンディ・テナント。 もっと、パロディ的な要素があっても良かったか…とも思え るが、まあ、堅実に楽しめるという感じの作品だ。
『シューテム・アップ』“Shoot'em Up” 上映時間86分。その間に25,000発の銃弾が発射される。しか もその射撃戦はトリッキーというより荒唐無稽。正にBムー ヴィの典型のような作品だが、そんな作品に、クライヴ・オ ーウェン、モニカ・ベルッチ、ポール・ジアマティが共演し ている。 しかも観ていると、この3人が出演したのも判るような気が してくる。何しろアクションが無茶苦茶に面白い。その上、 そのアクションの裏で進んでいる政治的な大陰謀。その辺の 物語のうまさも出色と言える作品だ。 物語は、オーウェン扮する男が道端のベンチに座っていると ころから始まる。そこに1人の妊婦が通り掛かる。そしてそ の後を、拳銃を構えた男が追って行く。その様子に何かを感 じた主人公はその後を追うが… 主人公は最初は銃器は持っていない。ところがさすが銃の国 アメリカでは、瞬く間に銃器が手に入り、最初は女性をかば いながら、次には産まれたばかりの赤ん坊を抱いて、主人公 の逃亡劇が始まる。 その逃亡劇に巻き込まれるのがベルッチで、さらに彼らを追 うボスがジアマッティ。このボスが、何しろ赤ん坊を目指し て大量の兵隊を投入してくる。何でそこまでするのかは…話 が進むにしたがって徐々にその背景が明らかになって行く。 この物語の展開も抜群に巧いし、しかもその間に繰り広げら れるガンファイトの面白さ。主人公は百発百中だし、対する 敵の銃弾はまず当らない。さらに、主人公は敵の繰り出す作 戦を尽く事前に見破って対処して行くのだ。 この辺は本当に荒唐無稽なのだが、そんなことはどうでも良 くなるようなスピード感と、いろいろな仕掛けが、思わずニ ヤリとしてしまえるくらいのものになっている。しかもその 展開が、こちらの予想をかなり越えて進んで行くから本当に 面白いと言えるものだ。 脚本監督は、ジョン・マクティアナンやローランド・ジョフ ィ監督作品でストーリーボードの製作に関わっていたという マイクル・デイヴィス。その後に脚本家から監督に転進し、 初期の作品ではサンダンス映画祭の観客賞なども受賞してい るそうだ。 本作を観る限りでは映画のことはちゃんと判っている監督の ようで、今後の作品も楽しみになりそうだ。
『サンシャイン・デイズ』 1975年から78年まで神奈川県茅ヶ崎市に実在した「カフェ・ ブレッド&バター」をモティーフにした青春ドラマ。 ブレッド&バターは1969年にデビューし、現在も活躍中の兄 弟デュオの名前。その2人が、当時、茅ヶ崎市の岩倉家の別 宅で1人暮しをしていた岩倉具視の子孫の女性と知り合い、 その別宅に居候を始める。 そこには、さらにミュージシャン仲間などが集まって住むよ うになり、やがてその邸内の一角にカフェをオープンする。 そしてそのカフェには、さらに多くのミュージシャンやモデ ル、文化人などが集まり、コミュニティを形作って行くこと になるが… このカフェに関する実話は、ブレッド&バターのオフィシャ ルサイト(http://www.bread-n-butter.net/)中の「わずか 9坪のユートピア」に詳しく紹介されているが、映画は脚色 はされているものの、大きな流れとしては、概ね事実に基づ いて描かれているようだ。 実は僕自身、隣の平塚市に産まれ育った者だが、その当時に ブレッド&バターという名前は記憶にあるが、このようなカ フェがあったことは全く知らなかった。もっとも当時の僕は すでに社会人だったし、この頃には東京でのSFの活動にも 忙しかったから、地元のことなどは、あまり気にもしていな かったのかもしれない。 しかし今回、オフィシャルサイトの記事を読んでいて、活動 している場所や内容は違っても、同じようなコミュニティを 自分たちも作っていたということには気がついた。結局、当 時の若者文化というのは、こうしたコミュニティの中で形成 され、それが発信されて行ったということなのだろう。 そういった若者文化が現在はどのような状況にあるのか、こ の記事を書きながら、ふとそんなことも考えてしまった。 とは言えこの映画は、当時の音楽や若者風俗も満載で、その 点ではノスタルジーに浸ることもできる作品になっている。 また、映画には岩崎家が経営に関った今は無き茅ヶ崎パシフ ィックホテルの景観も再現され、それも知る人にはノスタル ジーを掻き立てられるものにもなりそうだ。 出演は、西原亜希、斎藤慶太、三津谷葉子、松田悟志、浅利 陽介。他に、窪塚俊介、大杉漣、黒田福美、峰岸徹、キャシ ー中島らが共演している。 なおこの作品は、先にtvkで全12回の連続ドラマとして放 送された番組をまとめて編集したもののようだ。
『百万円と苦虫女』 蒼井優主演で、ひょんな事から刑事罰を受けてしまった女性 が、周囲の無理解を避けて流浪の旅をするロードムーヴィ。 主人公の女性はある事情で他人の男性とルームシェアをする ことになるが、その同居人の態度に腹を立てその荷物を捨て てしまったことから、器物損壊の罪で刑事告訴を受けてしま う。そして警察もいろいろ方策は考えてくれたのだが、結局 罰金刑に処せられる。 こうして実家に戻った主人公だったが、親や彼女を前科者と 呼ぶ周囲の住民たちの無理解に耐え切れず、100万円を貯め たら町を出て行くと宣言。その宣言通り、100万円を貯めた 彼女は町を出て流浪の生活を開始する。 彼女の考えは、まず100万円を貯めること。それがあれば新 しい町で部屋を借り暮らしを始めることができる。そして、 それに掛かった費用の引かれた通帳の残高が再び100万円に 達したら、また旅に出るという計画だ。 こうして最初に辿り着いたのは海辺の町。そこで部屋を借り た彼女は海の家でアルバイトを開始する。そこには彼女に気 を掛ける若者の男性客などもいて、それなりの暮らしが始ま るが… 次に彼女が現れたのは、山間の桃農園が並ぶ過疎の村。そこ で彼女は桃農家に住み込みで収穫を手伝うことになる。とこ ろが、老人ばかりの村で彼女は外部へのPRのための桃娘に なることを頼まれる。 3番目に彼女がやって来たのは地方都市。そこで彼女は部屋 を借り、ホームセンターの種苗売り場のアルバイトを見つけ る。そこには同い年の男の先輩アルバイターがいて、住まい の近かった2人はやがて互いの部屋を行き来し始める。 ところがその職場に新人の女性アルバイターが配属され、男 は主人公に金を無心するようになって…。これに主人公の弟 との手紙の遣り取りや、その弟が学校でいじめに遭っている エピソードなどが挿入されて、物語が進んで行く。 作品は、最初に蒼井優の主演で映画を作るという企画があっ て、それから物語が作られたようだ。従って、主人公の女性 は蒼井のイメージにピッタリと填っている。その点は蒼井の ファンにもアピールしそうな作品だ。 それに物語は、意外と細部にも拘わっていて、例えば最初の 前科者にされてしまうエピソードでは、警察側の説明にも納 得できて面白かったものだ。 蒼井以外の出演者は、森山未来、ピエール瀧、竹財輝之介、 齊藤隆成。他に、笹野高史、嶋田久作、モロ師岡、佐々木す みえらが共演している。 脚本監督は、昨年の映画『さくらん』の脚本を手掛けたタナ ダユキ。女性監督が、女性らしい感性で作り上げられた作品 でもある。
『あの日の指輪を待つきみへ』“Closing the Ring” シャーリー・マクレーン主演、リチャード・アッテンボロー 監督で、戦争に翻弄された男女を描いた作品。 物語の背景は、50年の歳月を挟む1941年と1991年。41年はい うまでもなく太平洋戦争勃発の直前であり、91年は北アイル ランドがまだ紛争の真っ只中という頃のことだ。 その1991年、北アイルランドの首府ベルファストを望む山の 山腹を1人の男性が発掘している。そこには第2次大戦中に アメリカ軍の爆撃機が墜落したのだという。そして、そこで 発見された1個の指輪に彫られた刻印から、1人のアメリカ 女性の所在が判明する。 一方、1941年のアメリカでは、3人の男性と1人の女性が交 際していたが、彼女の心はその内の1人に定まっているよう だった。 そして1991年のアメリカで、その女性は夫の葬儀に出席して いる。しかし、あまり悲しそうなそぶりを見せない女性の態 度に実の娘が苛立ちを隠せないでいる。そしてそこには、昔 の仲間の1人だった男性の姿もあった。 こうして50年の歳月を挟んだ壮大なドラマが展開される。そ こには戦争によって翻弄される男女の姿があり、また紛争に よって追いつめられた若者の姿もあった。 日本人としては、日米の開戦が報じられるシーンには感慨を 持つが、直接それがテーマとなる物語ではない。しかしその 戦争によって人々の心が踏みにじられて行く。それは、闘い の場所がどこであっても関係ないことだ。 映画はこれらの物語を、実に巧みな構成で描き出して行く。 しかも、そこにはいろいろな謎が存在し、その謎が徐々に解 き明かされて行く。その謎は、過去や現在のいろいろな事象 に関るものであり、その謎解きの答えにも心にしみるものが あった。 また航空機ファンには、山腹から発掘される品々にも興味を 曳かれるかも知れない。とにかくいろいろな要素が盛り込ま れた作品だ。 因に、北アイルランド紛争は2005年に終結宣言が出されてい るが、一部強行派は今でも闘争を続けているようだ。しかし 現状は、この映画に描かれたようなものではないようで、物 語はあくまでも1991年の話となっているものだ。 マクレーン以外の出演者は、クリストファー・プラマーと、 テレビシリーズ“The O.C.”が評判のミーシャ・バートン。 他に、ネーヴ・キャンベル、イギリスのピート・ポスルスウ ェイト、ブレンダ・フリッカーらが共演している。
『シークレット・サンシャイン』“밀양=密陽” 夫と死別し、幼い息子と共に夫の故郷に引っ越してきた女性 の物語。そこで女性はピアノ教室を開き、夫の遺産で不動産 投資を始めようとしているようだったが…やがて彼女を悲劇 が襲う。 その悲劇で苛まれた心を癒すために彼女はキリスト教に帰依 し、悲劇の基となった犯罪者を許せるようにまでなる。とこ ろがそれは、彼女に更なる苦渋を与えることになる。 韓国は、いろいろな意味で宗教の強い国だと感じているが、 その韓国映画でのこの宗教の扱いは、無神論者の自分として はちょっと小気味よくも感じられたところだ。それくらいに 宗教に対して厳しく描いた作品でもある。 もっともこの作品は1980年代に発表された原作小説に基づく もので、その背景には光州事件にからむ事実があるそうだ。 その辺のことは僕にはよく判らないが、いずれにしても宗教 のいい加減さみたいなものは明白に感じられる作品だった。 ただし物語は、それにもめげずに生き抜いて行く女性と、そ れを見守る男性を描いている。そしてそこには、「大切なも のは身近にある」というメッセージが込められていると言う ことだが…。監督は必ずしもそうとは捉えていないようだ。 つまりこの物語は、メロドラマのようで実はそうではない。 その辺の微妙なところが、見事なドラマを作り上げている作 品だ。そしてそれは、人が人生を生き抜く上での人間の本質 にも迫るものになっている。 従って登場する男女は、必ずしもラヴストーリーを演じるも のではなく、それぞれの生き方を代表しているものだ。 監督は、2002年『オアシス』が鮮烈な印象を残すイ・チャン ドン。実は監督は、その後にノ・ムヒョン政権下で文化観光 部長官の要職にあったりして、映画作品はそれ以来の5年ぶ りとなっている。 主演は、『ユア・マイ・サンシャイン』などのチョン・ドヨ ン。本作ではカンヌの主演女優賞を受賞している。共演は、 『殺人者の追憶』『グエムル』などのソン・ガンホ。その他 の共演者には、地元の劇団の俳優や素人の人たちが起用され ているそうだ。 そしてその地元は、実在する「密陽」という韓国南部の地方 都市。実は、原作小説の「虫の物語」には場所は特定されて いないそうで、映画化に当ってその地名のイメージでこの場 所が選ばれたそうだが、その地方都市の雰囲気が地元の俳優 たちによって見事に再現されている。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 最近は訃報が続くが、今度はアカデミー賞受賞監督のアン ソニー・ミンゲラの急死が報道された。状況はよく判らない が、頚部の簡単な手術を受けた後に大量出血をしたとのこと で、この報道通りなら医療ミスを疑うところかもしれない。 それはともかく、ミンゲラはシドニー・ポラックと共にミ ラージュ・プロダクションを率いて、今年のオスカー候補に なった『フィクサー』を始め自作以外で製作に関った作品も 多く、その影響が徐々に広がっているようだ。 その一つは、スティーヴン・ダルドリー監督、ケイト・ウ ィンスレット主演による“The Reader”という作品。第2次 大戦後のドイツを舞台に戦犯裁判に関る物語という作品が、 すでにポストプロダクション中にも拘らずアメリカでの公開 が未定になったと伝えられている。この作品は、以前はTW Cがアメリカ配給権を契約していたものだが、その契約がキ ャンセルされたとのことだ。 一方、ミンゲラ監督作品では、製作中とされていた“New York, I Love You”は、脚本が完成していたとのことで、そ の監督を『エリザベス』のシャカール・カプールが引き継ぐ ことが発表されている。因に、『パリ、ジュテーム』の姉妹 編とされるオムニバス作品の監督には、日本から岩井俊二、 中国の徐静蕾の他、アラン・ヒューズ、ミラ・ナイール、ブ レット・ラトナー、『そして、一粒のひかり』のジョシュア ・マーストン、『父、帰る』のアンドレイ・ズビャギンツェ フ。さらに女優のスカーレット・ヨハンソン、ナタリー・ポ ートマンらも監督として参加しているものだ。 そして、そのミンゲラ編を引き継ぐことになったカプール だが、実は彼が9年を置いて完成させた『エリザベス』の2 部作では、その製作にミンゲラが相当力を貸していたとのこ とだ。その他にもミンゲラは、映画の製作が行き詰まった時 に、製作と監督の両面から打開策を見つける名手として、特 にインディペンデンス系映画会社の守り神のような存在だっ たとも言われている。その一端が、『つぐない』の最後に自 ら出演した事にも現れているもので、この作品でもミンゲラ は製作の初期の段階からいろいろな力を貸していたのだった そうだ。 この他にも、数多くの企画がミンゲラの力によって実現し てきたとのことで、1954年1月6日生まれ54歳の死は、特に イギリス映画界には、相当の影響が及ぶことになりそうだ。 * * 次は、1930年6月31日生まれ77歳で益々盛んなクリント・ イーストウッドが、2004年『ミリオン・ダラー・ベイビー』 以来となる監督と俳優の2役に挑む計画が発表されている。 作品の題名は“Gran Torino”というもので、今年12月に ワーナーから公開予定とのことだ。ただしこの発表では、作 品の内容には全く触れられておらず、また脚本の進捗状況や 撮影が何時開始されるか、あるいはすでに開始されているか などの製作状況についても、12月の公開という以外には詳し い説明はなかったとのこと。さらにイーストウッドの役柄も 不明で、共演者についても報告されていないものだ。 因に、イーストウッドの監督作品では、昨年3月15日付の 第131回で紹介した“Changeling”がアンジェリーナ・ジョ リー、ジョン・マルコヴィッチらの出演ですでに撮影完了し ており、この作品は11月7日にユニヴァーサルから全米公開 の予定になっている。従って、今回紹介したワーナー作品が 12月に公開されるとなると、『父親たちの星条旗』『硫黄島 からの手紙』が公開された2006年に続いて、同じ年に2本の 監督作品の公開となる。しかも1カ月差というのは、10月と 12月の公開だった2006年よりさらに短期間になるものだ。 イーストウッド監督の早撮りは知られたことではあるよう だが、それにしても一体どんな作品が登場してくるか、興味 津々の作品だ。 なお、イーストウッド監督作品では、この他にネルソン・ マンデラ前南ア大統領を描く“The Human Factor”という作 品が製作準備中となっている。 * * 続いては、会社の運営の話題で、ワーナーによる姉妹会社 ニューラインの解消と、その作品の配給を一括して行うとい う発表について、以前から海外での権利をばら売りしてきた ニューライン作品の配給権がいろいろ問題を生じそうだとい うことだ。 実際、3部作となる『ライラの冒険』の続編“The Subtle Knife”と“The Amber Spyglass”に関しては、すでに各国 の配給権が確立されているため、ワーナーが一括することは できないものだが、逆にアメリカ国内よりも海外での興行が 強いこのシリーズの製作を認めるかどうかに注目が集まって いる。因に“The Subtle Knife”に関しては、2009年の公開 予定と、脚本に1997年『鳩の翼』などのハッサン・アミニの 起用が報告されているものだが、その後の具体的な進捗の情 報はないようだ。 一方、ピーター・ジャクスンが製作と脚本を担当すること になった『LOTR』の前日譚“The Hobbit”については、 海外配給はMGMが扱うことになっているものだが、2009年 の撮影と、2010、2011年に連続で2部作として公開する計画 は実現可能とされている。 それに関連して魔法使いガンダルフ役のイアン・マッケラ ンからは、「ピーターと(共同脚本の)フラン・ウォルシュ が、『オリジナルのガンダルフ抜きには“The Hobbit”の製 作は有り得ない』と言ってくれたことは、役者として最高の 喜びだ。2009年のスケジュールはちゃんと空けてある」とし て、映画化への意欲が語られているそうだ。ただし、一部で 報道されている監督をギレルモ・デル=トロが担当するとい う情報は、まだ確定ではないようだ。 この他のニューライン作品では、『センター・オブ・ジ・ アース3D』“Sex and the City”“Ghost of Girlfriends Past”“Final Destination 4”“My Sister's Keeper”が すでに海外配給権が契約されていたものだが、これらの作品 は、2009年中に全ての公開が完了するとしている。 つまりワーナーの発表に従うと、“The Subtle Knife”の 公開が2009年中に完了となれば問題はない。しかし、現状で は2009年の年末がぎりぎりのところだし、さらに2010年以降 となる“The Amber Spyglass”の製作は、このままではかな り難しいことになりそうだ。この契約問題がどのように決着 するか、注目しておきたい。 * * 日本では5月31日公開される『シューテム・アップ』でも 揃って怪演ぶりを見せているポール・ジアマッティとクライ ヴ・オーウェンが、撮影中の“Duplicity”という作品で再 共演を果たしている。 この作品は、企業間の熾烈な戦いを描く内容とのことで、 ジアマッティが扮するのは覇権を争う一方の企業の経営者、 対するライヴァル企業の経営者には『フィクサー』のトム・ ウィルキンスンが扮している。因にジアマッティは、HBO 製作のミニシリーズで、第2代アメリカ大統領ジョン・アダ ムスに扮しているが、その作品“John Adams”にはウィルキ ンスンがベンジャミン・フランクリン役で共演していたそう だ。 そしてオーウェンは、ジュリア・ロバーツと共に、その争 いに巻き込まれる元産業スパイのカップルを演じるものだ。 さらに企業戦士の役でビリー・ボブ・ソーントンの共演も期 待されている。 脚本と監督は、『フィクサー』でも企業内部のドラマを描 き、アカデミー賞の両部門と、作品賞にもノミネートされた トニー・ギルロイ。製作も『フィクサー』を手掛けたジェニ ファー・フォックスとケリー・オレントが担当している。 なお、『フィクサー』は『エリン・ブロコビッチ』との繋 がりを感じさせた作品だが、その次の作品にロバーツを呼ぶ というのも大胆なことだ。 * * 2月1日付の第152回で紹介したオリヴァ・ストーン監督 が、現アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュの人生を描く 作品で、現大統領役にジョッシュ・ブローリン、夫人役にエ リザベス・バンクスと、父親の元大統領役にジェームズ・ク ロムウェル、その夫人役にエレン・バーンスティンが報告さ れ、4月末からの撮影スケジュールが発表された。 因に題名に関しては、当初ストーン監督は“Bush”として いたものだが、最近の会見では“W”と呼んでいるそうだ。 アルファベット1文字の題名では、戦前にはフリッツ・ラン グ監督の『M』、戦後はコスタ=ガブラス監督の『Z』など が有名だが、それに続く名作の誕生となるのだろうか。 脚本は、1987年『ウォール街』でもストーン監督と組んだ スタンリー・ワイザー。製作は、『ワールド・トレード・セ ンター』『アレキサンダー』のモリッツ・ボウマンと、『ア レキサンダー』と“Pinkvill”を担当していたジョン・キリ ク。さらに3月2日付で作品紹介した『ハンティング・パー ティ』のビル・ブロックも参加している。 公開は、出来るだけ11月の大統領選投票日前を目指すが、 遅くとも来年1月にブッシュ大統領がホワイトハウスを離れ るまでには世に出したいとしている。ただし、配給会社はま だ未定のようだ。 * * 後半は、SF/ファンタシー系の情報を紹介しよう。 まずは、1984年にデヴィッド・リンチ監督で映画化された たことのあるフランク・ハーバート原作“Dune”(デューン /砂の惑星)の映画版リメイクが計画されている。 計画しているのは、パラマウントに本拠を置く製作者のケ ヴィン・マイシャーと、2000年にSci-Fiチャンネルで、同作 及びその続編“Children of Dune”のテレビミニシリーズ化 を手掛けたリチャード・ルーベンスタイン。そしてこの計画 に、今年7月にソニーからウィル・スミス主演のスーパーヒ ーロー作品“Hancock”の公開が予定されているピーター・ バーグ監督の参加が発表された。 因に、バーグ監督と製作者のマイシャーは、2003年にバー グ監督の第2作で、ザ・ロック主演のアクション映画『ラン ダウン』をユニヴァーサルで手掛けて以来の固い絆に結ばれ ていたのだそうで、俳優出身で監督の実績もさほど多くない 監督に、この大作はかなり思い切った起用になるようだ。ま た脚本は、現在検討中とのことで、ヒューゴー/ネビュラ両 賞受賞のSF名作に挑む脚本家が求められている。 ところで1984年の映画化は、ディノ・デ=ラウレンティス の製作総指揮で行われたもので、スタッフにはヨーロッパの 映画人が多数起用され、ヨーロッパ映画の風格を持った見事 な作品だった。実際、建物内部の階段が見事にすり減ってい る様子など、その美術的なリアルさなども注目に値するもの だった。しかし巨額の製作費を掛けた割りには、興行的には 大きく成功したものではなく、その後のリンチは『ブルー・ ベルベット』などの純粋に芸術的な作品に向かい、さらに、 『ツイン・ピークス』などで成功して行くことになる。 実はこの1984年版の日本公開に先立って行われたリンチの 来日記者会見では、僕がMCを担当した。場所は銀座のホテ ルだったと思うが、リンチと製作者のラファエラ・デ=ラウ レンティスらが出席しての会見だった。そのMCになぜ僕が 選ばれたかというと、映画の内容が難しくて、SFに詳しい 人間が進行した方が良いだろうとの判断だったようだ。 ところが、当時のリンチはあまり会見に出たがらないとい う話があり、そのリンチが会見するということで記者席には 海外のSFメディアの記者も出席するなど大盛況。その質問 もかなり深いもので、中では、リンチが趣味として魚の解体 を挙げ、それは魚を丁寧に解体してそれを再び組み立てるの だとか、興味ある話題もたくさん登場したものだ。今にして 思えば夢のような会見だった。そして続編の質問も出たが、 ラファエラが「それは興行成績次第」と言っていたのが、そ のまま消滅してしまった訳だ。 今回はそのリメイクとなるもので、ピーター・バーグ版の 公開予定は一応2010年となっている。ただしバーグ監督には 2005年8月1日付第92回で紹介したロバート・E・ハワード 原作“Bran Mak Morn”をユニヴァーサルで映画化する計画 もまだ生きているようで、その公開も2010年と予告されてい る。どちらもその後のシリーズ化も期待される作品で、どち らが先に実現するか楽しみなことだ。 * * フランス人のグラフィック・ノヴェル作家アレクシス・ノ ラントの原作による“Cyclops”の映像化の権利をワーナー が獲得し、『ウォーク・ザ・ライン』などのジェームズ・マ ンゴールド監督で映画化する計画が発表されている。 物語は、近未来の戦場を舞台にしたもので、ヘルメットに 1つ眼のサイクロプスのようなカメラを装着し、その映像を 作戦本部とお茶の間にも送り届けるようにされた兵士が、実 はその闘いが、正義や自由のためのものではないことを明ら かにして行くというもの。その映画化を目指すマンゴールド 監督からは、原作について、「最高のSFとアクションが、 予見的なテーマの中で一体化した素晴らしい作品」とするコ メントが紹介されていた。 また、『コップランド』以降のマンゴールド作品の製作を 務めるキャシー・コンラッドは、「ワーナーが早急に動くこ とを期待していて、すでに脚本家の絞り込みも行っている。 近日中にその人たちにオファーを掛けることになるだろう」 と話しており、正にマンゴールドの次回作という感じで進む ことになりそうだ。因にワーナーでは、来年夏の公開予定が 完全には埋まっていないという情報もあり、今回の作品には その辺の狙いもありそうだ。 一方、原作者のノラントに関しては、3月1日付第154回 で触れたデヴィッド・フィンチャー監督“The Killer”が、 彼のグラフィック・ノヴェル“Le Tueur”を映画化するもの となっている。こちらの作品はブラッド・ピットのプランB が計画を進めているもので、突然良心に目覚めた一流の暗殺 者を主人公にした物語。時代や舞台背景は違っても、1本筋 の通ったテーマを追求している作家のようだ。 * * ヴァージン・コミックスがハリウッドスターの原案による オリジナルシリーズを発行していることは、昨年8月1日付 第140回などで紹介しているが、新たにその作家にヒュー・ ジャックマンが参加することが発表された。 作品は“Nowhere Man”と題されているもので、人々が安 全を得るためにプライヴァシーを放棄してしまった未来社会 を背景に、その考えに反対して『アイ・アム・レジェンド』 のように孤独に生きる主人公を描いているとのこと。それ以 上の詳細は明らかにされていないが、創作はジャックマンと 『CSI:マイアミ』なども手掛けるテレビ脚本家のマーク ・グッゲンハイムとの共同で進められたということだ。 因に、グッゲンハイムはテレビ脚本の他に、ジャックマン の主演で映画化されている“Wolverine”のマーヴル・コミ ックス版の原作や、同じくマーヴル版の“Blade”の原作、 さらにDCコミックス版の“Flash”の原作なども手掛けて いるそうだ。 それにしても“Nowhere Man”のアイデアは見事なものだ が、ジャックマン自身は「『X-メン』のお陰でグラフィッ ク・ノヴェルに興味を持つようになり、自分でもっとそれに 関りたいという希望も持つようになった。今回はヴァージン とマークと共にキャラクターと物語を完成できたことに興奮 しているが、さらにこれを映画化することも希望している」 と抱負を語っているものだ。 なお“Nowhere Man”は、ヴァージン・コミックスのヴォ イセズというシリーズの中で刊行されるもので、ここでは、 ニコラス・ケイジが息子ウェストンと共に創作した“Voodoo Child”や、ガイ・リッチー創作の“Gamekeeper”、脚本家 のジョン・コックス創作による“Virulents”なども刊行さ れている。この内、“Gamekeeper”の映画化が第140回で紹 介したようにワーナーで進められている他、“Virulents” もフォックスでの映画化が進んでいるとのことだ。 * * “Saw V”の製作が3月17日に開始され、今年も10月24日 に新作が観られることになった。 新作には、ジグソウ役のトービン・ベルの他、『ソウ4』 に登場した捜査官役のスコット・パタースンが再登場し、さ らに2004年公開『パニッシャー』の続編で、今秋公開予定の “Punisher: War Zone”にも主演しているジュリー・ベンツ が、新たな主人公として登場することになっている。 脚本は、『フィースト』でプロジェクト・グリーンライト に合格し、その後『ソウ4』も手掛けたマーカス・ダンスタ ンとパトリック・メルトン。また監督には、『ソウ2』以降 のプロダクション・デザインと、『ソウ3』以降の第2班監 督も務めてきたデヴィッド・ハッケルが抜擢されている。 因に、『ソウ』シリーズ創始者のジェームズ・ワンとリー ・ワネルは、前作から製作総指揮となって映画への直接的な 参加はしておらず、また、『ソウ2』から『ソウ4』までの 監督を務めたダレン・リー・ボウスマンは今回は完全にノー タッチとなっている。これは『ソウ3』の来日会見でボウス マンが言っていたように、シリーズ化したら製作の一線から は身を退くとしていた計画を実践しているもので、ボウスマ ンは予定より1作遅れて希望が叶えられたようだ。 なおボウスマンは、2007年2月15日付第129回などで紹介 した“Repo! The Genetic Opera”が完成して、4月25日に 全米公開の予定になっている。 * * ブライアン・シンガー監督の『X-MEN2』や『スーパ ーマン・リターンズ』などを手掛けた脚本家のマイクル・ド ハーティが、ディズニーでロバート・ゼメキスが主宰するイ メージムーヴァースと組んで、新たなパフォーマンス・キャ プチャー作品の監督に挑戦することが発表された。 作品の題名は“Calling All Robots”というもので、詳し い内容は公表されていないが、ドハーティ自身からは「昔の ゴジラ映画のような物語だ。僕はゴジラ映画を観て育ってき たが、この作品はそれらの映画をルーツとしている」という 発言があったとのことだ。 因にドハーティは、“Trick'r Treat”というハロウィン テーマのホラー作品をワーナーで監督しているとのことで、 同作に協力したブリーン・バーンズとシメオン・ウィルキン スが本作にも参加、3人でアイデアを出し合うと共に、彼ら はストーリー・ボードやコンセプトアートなどのヴィジュア ル・デザインも手掛けることになっている。 一方、パフォーマンス・キャプチャー作品では、『ポーラ ー・エクスプレス』『ベオウルフ』に続いての第3弾となる “A Christmas Carol”が、ゼメキス監督、ジム・キャリー 主演で2009年11月6日の全米公開の予定になっており、ゼメ キス以外では初の監督起用(『モンスター・ハウス』は違っ たのか?)となるドハーティの作品は、それより後の公開と なるものだ。 題名がRobotsで、内容がゴジラというのも、ちょっと不思 議な感じだが、まさか着ぐるみをパフォーマンス・キャプチ ャーで再現するのではないだろうし、どんな作品になるか楽 しみだ。
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