井口健二のOn the Production
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2008年01月27日(日) 裸足のギボン、デッド・サイレンス、ビルマ/パゴダの影で、窯焚、ジェリーフィッシュ、軍鶏、死神の精度、靖国

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『裸足のギボン』“맨발의 기봉이”
幼い頃に罹った熱病で脳の成長が8歳で止まってしまった男
性の実話に基づく物語。
主人公のギボンは40歳。身体は生長したが心は純粋な少年の
ままだ。ギボンは母親と2人暮し、年老いた母親は自分が先
に逝ったときのことを考え、そんな息子にも厳しく躾をして
いる。そしてギボンは、近所の人たちが与える半端仕事で僅
かな金を稼いでいた。
ところがある日、町で開かれたマラソン大会の沿道で、選手
の落としたゼッケンを拾ったギボンは、そのゼッケンを届け
ようとレースに飛び入り参加、落とした選手を探す内に、一
番でゴールに入ってしまう。
それを知った村長は、ギボンを全国的なハーフマラソン大会
に出場させ、迫っている次期村長選挙での自分への人気獲得
に利用しようと考える。一方のギボンは、母親の健康維持に
必要な入れ歯がマラソン大会の賞金で買えることを教えられ
る。
そんな思惑が重なり、町長は自らトレーナーを買って出て、
マラソン大会優勝を目指すトレーニングが始まるが…
このギボンを、『家門の危機』の好漢シン・ヒョンジュンが
演じ、母親役を、やはり『家門の危機』に出演のキム・スミ
が演じる。この他、『トンマッコルへようこそ』のイム・ハ
リョン、『誰にでも秘密がある』のキム・ヒョジン、『家門
の危機』のタク・チェフンらが共演。
同様の韓国作品では、2002年の『オアシス』、05年の『マラ
ソン』などが思い浮かぶところだが、今回は主人公の年齢が
40代ということで、特に『マラソン』と比べるとキム・スミ
演じる母親の存在が大きくなってくる。その点では、息子の
行く末を気遣う老いた母親の姿は、見事に演じられていた。
それに対してシンが演じたギボン役は、『オアシス』でのム
ン・ソリの演技などに比べると、多少物足りなさも残るとこ
ろだが、身体の不自由さに対する演技を伴った『オアシス』
と比べるのは酷というものだろう。それより実話に則した主
人公の無邪気さ、明るさがそれなりに表現されていたことを
評価するべきものだ。
感動的な実話の映画化だが、あまりお涙頂戴になっていない
のも良い感じがした。またエンディングのナレーションは、
「すべての人生は、神様の手で書かれた童話のようである」
という製作の意図をよく現していた。

『デッド・サイレンス』“Dead Silence”
『ソウ』シリーズの脚本家リー・ワネルと監督ジェームズ・
ワンが、再び仕掛けるホラーサスペンス。
主人公は幼い頃から父親に疎まれ、家を出て都会で新家庭を
築こうとしていた。しかしある日、新居に差出人不承の荷物
が届き、届いた箱の中にはビリーという名の腹話術人形が納
められていた。そして彼が家を空けた僅かの間に、妻が舌を
抜かれて惨殺されてしまう。
その人形が届いたとき、主人公と同郷の妻は、故郷に伝わる
伝説めいた詩の話をしていた。それは、“Beware the stare
of Mary Shaw / She had no children only dolls / And if
you see her in your doreams / Be sure to never ever
scream”というもの。
この詩に登場するメアリー・ショウは、腹話術師だった。
その詩に隠された意味を探り、妻の死の謎を解くため、主人
公は故郷へと向かう。そこで見出すのは車椅子に乗った父親
の変わり果てた姿。そして、メアリー・ショウの腹話術人形
が引き起こす悪夢のような連続殺人が開幕する。
腹話術と言われると、SFファンには星新一の長編『夢魔の
標的』が思い浮かぶところだが、映画には意外と登場してい
ないのだそうで、1978年にアンソニー・ホプキンスが主演し
た『マジック』が数少ない例として挙げられていた。
(なお1月19日公開で、『すみれ人形』という日本映画が腹
話術を扱っているらしい)
それにしても腹話術の人形というのは、そのままでもちょっ
と無気味な感じもするもの。その人形が殺人鬼、しかもその
手口は舌を引き抜くというのだから、これはかなりの無気味
さだ。さらに古い劇場が背景とされるなど、その雰囲気がた
まらない作品だった。
因に人形のビリーという名前は、『ソウ』で登場する人形と
同じもので、その辺も遊び心のようだ。また『ソウ』に登場
するビリーは手作りだったが、今回は専門家の手になるもの
だそうで、その人形の無気味さも見事に描かれていた。
『ソウ』で造り出したソリッドシチュエーションとは違い、
どちらかと言うとオーソドックスなホラー作品。巻頭には、
地球の周りを複葉機が飛ぶモノクロ時代のユニヴァーサルの
ロゴが登場し、その後にも無声映画の字幕に似せたテロップ
が用いられるなど、往年のユニヴァーサル・ホラーの味を再
現しようという思いも込められていたようだ。

『ビルマ、パゴダの影で』
   “In the Shadow of the Pagodas: The Other Burma”
1962年の軍事クーデター以来、45年を超える軍政が続くビル
マ(ミャンマー)の現状を描いたドキュメンタリー作品。
ビルマの民主化運動というとアウン・サン・スー・チー女史
の軟禁が思い浮かぶが、それとは別にビルマ国内には、シャ
ン族、カレン族、ラカイン族など130を超える少数民族が存
在し、彼らもまた軍政による弾圧を受けている。
この作品は、それらの少数民族の存在に目を向け、弾圧の中
で困窮する彼らの生活が描かれる。特には、ビルマ−タイの
国境地帯で、ビルマ国内の村に居住しながら軍隊が来る度に
タイに越境して難民生活を送るカレン族の人々や、両親をビ
ルマ軍に殺され、タイの難民村に設立された学校で学ぶ子供
たちの姿も紹介される。
実際、これらの難民の存在は今までにも少しずつ紹介されて
はいたものだが、隣国のタイやバングラディシュの政府が表
向きの取材を禁じているなど、なかなか実態が掴めないもの
で、それらが取材されていたのは価値あるものと言える。
しかし、弾圧の実態が難民による証言だけで描かれるのは、
如何にもインパクトが乏しいもので、特にそこで難民学校の
子供たちへの取材が長々と続くのは、子供の証言が大人の心
を揺さぶることは確かであっても、何かが不足しているよう
に感じられた。
弾圧の実態を映像取材することが極めて困難であることは理
解する。しかし、例えば弾圧に至る歴史的な背景や、それが
スー・チー女史らの民主化運動とどのように関わっているか
など、より具体的な経緯の紹介がないと、これがビルマの実
態を描いているのかどうかすら不明になる。
また弾圧を受けるからにはそれなりの理由もあるはずだが、
その辺の説明も明確でないと、何か実態が把握できない歯痒
さも感じてしまう。勿論それは、他で調べれば判ることかも
知れないが、どうせならこの作品の中で、そこまでも描き切
って欲しかったものだ。
監督自身は充分に判っていて、今更繰り返すまでもないこと
と判断したのかも知れない。しかし、一般観客へのアピール
を考えるのなら、いろいろな配慮は必要だったと考える。こ
れでは、アピールすべき重要な問題が、ただ眼前を通り過ぎ
るだけで終ってしまいそうなのも、心配に思えたところだ。

『窯焚−KAMATAKI−』
カナダ生まれで、1970年代には日本に在住、79年にATG作
品『Keiko』でデビューしたクロード・ガニオン監督の
2005年作品。同年のモントリオール映画祭で最優秀監督賞な
ど5冠を達成、2006年のベルリンでも部門特別賞を受賞して
いる。
大福帳をさげたたぬきの置物でも有名な日本六古窯の一つ信
楽を舞台に、父親の死によって心を閉ざした日系カナダ人青
年の再生を描く。その青年が、世界的な陶芸家とされる叔父
の家に身を寄せ、日本文化や叔父の生活態度に翻弄されなが
ら自分を見つめ直す。
日本六古窯とは、瀬戸、常滑、越前、信楽、丹波立抗、備前
を指し、中でも信楽は、人工的な釉薬を一切使用せず、高温
の窯で生地そのものを熔かし、そこに炎の中を舞う薪の灰が
付着して自然の釉が施されるのだそうだ。
このため窯は長時間に渡って高温に保たれる必要があり、そ
の間の8〜10日間は不眠不休で昼夜7〜8分おきに薪を焼べ
続けなければならない。その過酷な作業(窯焚)がお互いの
信頼を生み、青年の心を開いて行くことになる。
とだけ書くと根性系の物語のように見えてしまうが、実は、
藤竜也が演じる陶芸家の酒や女にも奔放な生活ぶりが青年に
いろいろな影響を与えて行くもので、その上、藤がほとんど
のせりふを英語で、含蓄のある言葉を吐き続ける。
そんな日本文化に根差した物語が、日本人ではない監督の視
点から描かれる。なおガニオンは、本作の脚本と編集も手掛
けているもので、従って極めて個人的な作品ではあるが、そ
の視点は普遍的なものに感じられた。
信楽焼は自然釉でもあることから、一見しただけではあまり
美しいとは言えない。しかしじっと見つめているとその中か
ら美が見えてくる。そんな信楽焼の魅力も、映像的に見事に
表現されていた。そしてそれが物語にもマッチしていた。
藤の他の出演者は、カナダ人のマシュー・スマイリー、東京
育ちで、2003年の『ロスト・イン・トランスレーション』の
他、「鉄拳」などのヴィデオゲームで声の出演をしているリ
ーソル・ウィルカースン、それに吉行和子、渡辺奈穂。
映画の大半は、叔父と甥の2人の会話シーンになるもので、
その間の台詞はほとんどが英語。藤竜也の訥々とした英語が
不思議な味を出していた。

『ジェリーフィッシュ』“Meduzot”
2007年のカンヌ映画祭で新人監督賞を受賞したイスラエル映
画。テルアビブの街を背景に、3つの物語で構成される。
その1つ目は、結婚式場のウェイトレスをしてるパディアの
物語。自分の気持ちを人に伝えることが苦手で、恋人とも最
近別れたばかり。そんな彼女が海岸で浮き輪を付けた迷子の
少女を保護する。
2つ目は、新婚カップルの物語。式場でのトラブルで花嫁が
足を捻挫してしまい、カリブへの新婚旅行をあきらめて海岸
のホテルに宿泊する。しかし希望したスィートには先客がい
て、充てがわれた部屋は不満だらけ。
3つ目は、フィリピンから来た介護ヘルパーの女性と老女の
物語。幼い息子を祖国に残して働く女性は子供を抱きしめら
れないことに苦しみ、成長した娘から疎まれる老女は娘との
交流のきっかけを得られない。
そんな人生に迷い、海に漂うクラゲのような状況にある人々
が、人生を見つめ直し、新たな希望に向かって行く姿が描か
れる。因に、原題もクラゲを意味するヘブライ語のアルファ
ベット表記のようだ。
いくつかの物語が交錯しながら同時に進行して行く形態は、
最近の映画の流行りのようでもあるが、本作でも多分2、3
日間の話が巧みに描かれている。
作品は、実は互いの物語が時系列ではなかったというような
トリックもなく、物語はストレートに展開する。その善し悪
しは観客の判断になるが、本作のような素朴な物語ではあま
りトリッキーなことはして欲しくないもので、その意味では
満足できる作品だった。
ヘブライ語、英語に、ドイツ語なども飛び交い、ホロコース
トやシリア人との争いなどといった台詞も登場する本作は、
イスラエルらしい映画とも言えるが、描かれている内容は普
遍的なものだ。
共同監督のエドガー・ケレットとシーラ・ゲフェンは、実生
活でもパートナーの人気作家と劇作家だそうで、その視点の
確かさも映画の完成度を高めている。また撮影は、2001年の
フランス映画『まぼろし』などのアントワーヌ・エベルレが
手掛けており、こちらはちょっとトリッキーなところもある
映像も見事だった。

『軍鶏(Shamo)』“軍雞”  
2006年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品された
『ドッグ・バイト・ドッグ』ソイ・チェン監督による新作。
『スケバン刑事』などの脚本家・橋本以蔵が原作を手掛けた
人気漫画の映画化で、脚本を橋本が担当、舞台も登場人物も
日本という設定だが、監督と出演者の大半は中国人で、台詞
もすべて広東語という作品になっている。
同様の作品では『頭文字D/The Movie』がすでにあるが、
日本製コミックスのある種のケレンは香港映画の方が似合う
感じもする。しかも本作は典型的な格闘技もの。ちゃんと身
体を動かせる香港俳優を使うのも、必要なことだったと言え
そうだ。
物語の主人公は、16歳で両親を殺害した若者。少年院に入れ
られるが、そこでも親殺しの罪は別格として迫害を受ける。
そんな主人公は、首相暗殺で捕まった過激派右翼の空手家に
よって救われ、身体を鍛練して社会に戻される。そして行方
知れずになった妹を探すが…
やがて裏社会で名を売るようになった主人公だったが、彼の
生活は組織の間で翻弄され、その証として総合格闘技大会で
の覇権を目指すことになる。そのためには、前に立ち塞がる
相手を敵味方かまわず倒さなければならなかった。
この主人公を、『インファナル・アフェア』や『頭文字D』
にも出ていたショーン・ユーが演じ、彼を指導する日本人空
手家役に、『インファナル・アフェア』でも共演のフランシ
ス・ンが扮する。
また、日本人格闘家で香港映画『忍者』などに出演した魔裟
斗やハリウッド版『呪怨』などの石橋凌も出演しているが、
彼らの台詞もすべて広東語に吹き替えられているものだ。他
には台湾出身のディラン・クォや、『カンフーハッスル』の
ブルース・リャンも登場する。
地名やキャラクターの名前も全部日本語なのに台詞が日本語
でないというのは、本来なら違和感を感じるのだろうが、彼
らの身体の動きを見ていると納得できるし、それはそれで面
白くもあった。
なお、公開はゴールデン・ウィークで、その時には日本語吹
き替え版になるのだろうか…

『Sweet Rain 死神の精度』
2005年発表の伊坂幸太郎原作「死神の精度」の映画化。
この物語の死神は、不慮の死を遂げる人の許にその7日前に
現れ、その人がその死に値するか否か、つまり不慮の死を実
行するか、見送るかを判定するという設定。
ところが本作で金城武が演じる死神は、常に「実行」の判定
を下し、今までは「見送り」の判定をしたことはなかった。
その死神の今回の判定の対象者は若い女性、彼女は今までに
愛した人がすべて早死にし、その哀しみの中で人生を送って
いた。
そんな中でも必死に生きてきた彼女だったが、彼女の人生が
好転する兆しはない。そして死神は、彼女にも「実行」の判
定を下すつもりで、最後の7日間を彼女と共に過ごすことに
するのだが…
死神は、彼が人類最大の発明と考えるミュージックが大好き
で、特に近年は、暇なときにはCDショップに入り浸って試
聴版のミュージックに聞き入っていた。そしてその場所は、
いろいろな人々の判定に携わっている死神たちの情報交換の
場でもあった。
3つの時代、3つの場所を背景に、それぞれの物語が展開す
る。その最初の物語で死神が下した判定、それは時代を越え
ていろいろな出来事の連鎖をもたらして行く。果たして死神
の下した判定は正しかったのか…?
ささやかな幸せ、そんな言葉がお似合いのささやかなドラマ
が展開する。歴史が激動するような大袈裟な物語が展開する
訳ではない。でも何かが心に残る、そんな暖かい物語が描か
れる。
伊坂原作の映画化は3作目のようだが、最初に観た作品は、
何と言うか物語全体が空回りしている感じで、あまり良いと
は思わなかった。しかし今回は、設定そのものには多少無理
も感じたが、物語自体はメルヘンとして良い感じのものに思
えた。
金城以外の出演者は、小西真奈美、富司純子、光石研、それ
に『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』などの石田卓也。
監督は、漫画家、作家でもある筧昌也、脚本は筧と小林弘利
の共同執筆。物語は、1985年と2007年、そして2028年へと広
がり、因果の巡る話でもある。

『靖国』
2003年10月2日付で、『味〜Dream Cuisine〜』という作品
を紹介している日本在住中国人の監督リー・インによる新作
ドキュメンタリー。
靖国神社の御神体は靖国刀(日本刀)であり、靖国刀匠と呼
ばれる刀匠たちの手によって昭和8年から12年間に8100振り
もの靖国刀が神社内で作られていたのだそうだ。映画は、そ
の刀匠の最後の一人である90歳の老人による靖国刀の再現の
過程を追いながら、現在の靖国神社が置かれている状況を検
証して行く。
そこでは、8月15日に旧帝国軍の軍服を来て参拝するグルー
プの姿や、小泉首相(当時)の発言、石原都知事の演説など
が紹介される。一方、合祀の取り下げを要望する台湾戦没者
の遺族の姿や、南京大虐殺の首謀者とされた将校の汚名を濯
ごうとする遺族の姿なども紹介される。
さらには「小泉首相を支持する」と書いたプラカードを持っ
ていても、星条旗を掲げていたために入場を拒否されるアメ
リカ人や、小泉参拝に抗議しようとして排除される中国人な
ども写し出される。これらの映像が特別なコメントを付すこ
ともなく羅列される。
映画の全体はどちらの側にも平等に描こうとしているように
感じられる。つまりこの作品は、論議の引き鉄にはなるかも
知れないが、この映画自体は排撃の対象になるものではない
ようにも見える。多分それが監督の狙いなのだろう。
ただし、僕には靖国問題の最大の論点とも思える戦犯の合祀
の問題が、南京問題に関わる部分で僅かに触れられている程
度でほとんど無視されるなど、いろいろ疑問に感じる点はあ
る作品だった。実は、東條由布子にインタヴューはしたが、
編集でカットしたという情報もあって、この辺は微妙だった
ようだ。
個人的には、僕の父は4人兄弟で全員出征したが無事帰還、
母には弟が2人いたが共に学徒の勤労奉仕に行っただけで、
親族に戦死したものはおらず、従って、僕自身は靖国神社に
は何の関わりもない。でも関係者だったらやはり一言は言い
たくなるのかな、そんな感じの作品だった。
なお本作の製作には、文化庁からの出資金を運用する独立行
政法人・日本芸術文化振興会の基金と、韓国・釜山国際映画
アジアドキュメンタリーネットワーク基金による助成が行わ
れている。日本側は公的基金の助成によって製作された作品
ということだ。
また本作は、全世界の作品が集まるアメリカ・サンダンス映
画祭において、本年1月18日の映画祭初日に“Yasukuni”の
題名でオープニング作品の1本として上映されたようだ。
日中合作映画の扱いで、中国、韓国での題名は『靖国神社』
となっている。



2008年01月20日(日) 永遠の魂、タクシデルミア、黄金の羅針盤、恋する彼女西へ、トゥヤーの結婚、アメリカン・ホーンティング、結婚しようよ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『永遠の魂』“별빛 속으로”
昨年の東京国際映画祭「アジアの風」部門でも上映された作
品。実はその時にも見ているのだが、物語が複雑で容易に理
解できなかった。そこでもう1度見直して今回紹介する。た
だし、物語は理解できたつもりだが、かえって解釈に迷うと
ころのある作品だった。
物語の主人公は、大学で教鞭を取る中年の教授。ある日、彼
の前に2匹の蝶が現れ、それに誘われるように教室へと向か
う。そこには何人かの学生がいて彼に初恋の話をせがむ。そ
して彼は、20年前のまだ上京したてで内気な大学生だった頃
の話を始める。
ドイツ語科の学生だった彼は、ある日、教室で奇矯な態度を
取る1人の女学生と出会う。年上の彼女に仄かな恋心を持っ
た彼だったが、学内で行動を共にする内、突然彼女は自殺を
遂げてしまう。そしてその日から、彼の周囲に不思議な事が
起こり始める。
死んだはずの彼女が目の前に現れ、彼にアルバイト先を紹介
する。それは先輩男性の妹の家庭教師だったが、先輩は自分
のことは妹に話すなと指示する。そして、長いエントランス
を持ち、居間にはビリヤード台のある屋敷での家庭教師が始
まるが…
1980年代が背景なのだろうか、朝鮮半島はまだかなりの緊張
状態にあるらしく、突然、市内に空襲警報が鳴り響いて対空
砲火が始まったりする。また、毎日夕方には国旗降納の放送
が行われ、その間は全員が直立不動で国旗を見つめなければ
ならないようだ。
そんな中で、屋敷に1人で住む謎めいた少女と、主人公との
不思議な恋物語が始まる。
実は、主人公とその少女は対空砲火の流れ弾で死亡して、そ
の後の49日間を地上で過ごしている間の話だというのだが、
その後にどんでん返しがあって彼らは現世に戻される。その
辺の経緯が不明瞭で、どうやら兄と自殺した女学生の思惑が
あるらしいのだが…
これが単純に2人を引き合わせるだけのことなら、回りくど
いだけの話でしかもその間の妹の所在が変なことになる。結
局、映画を解釈しようとしても、その辺りの辻褄合わせがう
まくできなくなってしまったものだ。
ただ、中年の教授のエピソードを見ると、主人公は人々の死
と生を司る能力を備えているようで、それは、ジャン・コク
トーの『オルフェ』を思い出させるオートバイの登場でも暗
示されている感じがした。
結局、主人公は死と生を司る能力を持っているがそれに気付
いておらず、少女の兄と自殺した女学生がそれを気付かせる
ために工作した物語という解釈が成立しそうだが、それで良
いのだろうか。

出演は、いずれもテレビ出身で、主人公は日本でも人気があ
るというチョン・ギョンホ、それにキム・ミンソン、チャ・
スヨンの女優陣が共演している。また、ミュージシャンのキ
ム・Cが出演して主題歌も提供しているものだ。
因に、監督のファン・ギュドクは韓国映画アカデミーの第1
期生で、現在はそこで教鞭を取る傍ら作品を発表しており、
特に溝口健二監督の『雨月物語』を敬愛しているそうだ。
なお本作は、以前に紹介した『黒い土の少女』『俺たちの明
日』などと共に、「韓国アートフィルムショーケース2008」
の1本として公開される。

『タクシデルミア』“Taxidermia”
2007年の米アカデミー賞外国語映画部門にハンガリー代表と
してエントリーされた作品。因に、脚本はNHK/サンダン
ス映画祭に出品され受賞したもので、本来、受賞作の映画化
には出資と、日本公開を手掛けるNHKが、本作ではそれを
拒否したとのことだ。
題名は「剥製師」という意味だそうで、映画ではその剥製師
にまつわる親子3代の物語が綴られる。その最初は、祖父の
物語で、雪に閉ざされたとある屋敷に一兵卒として駐留する
男の行状が描かれる。
続いては、大食いチャンピオンだった父親の話で、共産主義
のソ連影響下のハンガリーでライヴァルやソ連代表との戦い
が繰り広げられる。最後はその息子の剥製師の話で、巨大化
した父親の剥製を完成させ、そして…と続くものだ。
まあ文章で書くとこんなものだが、実際の映像はかなりグロ
テスクで、しかも破廉恥で、NHKが拒否したのも理解でき
るところだ。しかし、それを乗り越えたところにこの作品の
価値があると言われれば、それもそうとも言える。
試写会では、特に女性からは「気持ちが悪くなった」などの
発言が聞かれたが、僕自身の正直な感想は、やるならもっと
突き詰めて欲しかったところで、その辺はちょっと中途半端
にも感じられた。
物語は、結末として主人公が自分の剥製を作る過程を描き、
生命維持装置を使って行動力を保ちながら身体の末端部分か
ら剥製化して行き、最後は右腕と頭部だけになって…という
作業が描写される。実はこれがなかなかのもので、これは見
ていて納得ができた。
そう言えば、昔のソ連で自分の盲腸に手術をしたという医者
のニュースを見た記憶があるが、監督はそこからのインスパ
イアされたのかな。

それにしてもこの最後の話は、SF映画ファンならニヤリと
するかなり強烈な話ではあった。でもここまでやれるなら、
もっとこの部分を突き詰めて描いて欲しかった感じもすると
ころで、特に、ただ下品なだけの祖父の話などは飛ばして、
最後をちゃんと描いて貰いたかった。勿論、だからといって
NHKが認める作品になる訳ではないが。
なお前半2つの物語は、本作に出演もしているLajos Parti
Gagyという作家の短編小説の原作によるようで、最後の息子
の話だけが監督の創作とのことだ。それで前半もちゃんと描
かなくてはならなかったのかも知れないが、出来ることなら
監督の創作部分だけでの再映画化を期待したいものだ。

『ライラの冒険・黄金の羅針盤』“The Golden Compass”
海外では、His Dark Materialsと呼ばれるフィリップ・プル
マン原作のファンタシー3部作、その第1部の映画化。
その世界は、我々の住む世界とはちょっと違う。そこに生き
る人々には、皆ダイモンと呼ばれる守護動物がいて、精神の
一部を分かち合っている。そして世界は、教権という組織に
支配され、その教権はさらに力を増そうとしていた。
物語の主人公のライラは、お転婆で嘘も平気で吐くような少
女。オックスフォードの大学に務める叔父の庇護の許にいる
が、叔父は研究のために出掛けて滅多に帰ってこない。そん
な叔父から、一つの品物がライラに託される。
「黄金の羅針盤」それは物事の真実を指し示すもので、昔は
沢山あったが、今はほとんどが教権によって回収され、ライ
ラが受け取ったのは、正にその残された最後の1個だった。
そしてそれを巡って教権が動き出す。
一方、ライラの叔父は教権の権力の許となっている主張を覆
す事実を北の地で発見し、その確認のために旅立つ。そして
ライラも、1人の女性の手助けによってその後を追うことに
なるが…
ちょっと中世のような町並や、その中に不思議なメカを搭載
した飛行船が登場するなど、雰囲気には宮崎駿や大友克洋の
アニメを感じさせるものがある。物語も少女が主人公だし、
1995年に発表された原作がそれらの影響を受けた可能性はあ
りそうだ。
そんな訳で、異世界ファンタシーの物語ではあるが、どちら
かというと日本の観客にも親しみやすい作品と言える。
ただし『LOTR』のような壮大なスケールを期待すると、
それほどのものではない訳で、上映時間が2時間弱というこ
ともあるが、多少物足りなさを感じるところもある。しかし
基本お子様向けの作品と考えれば、これで充分なものではあ
るのだろう。
出演は、ライラ役に15,000人のオーディションで選ばれた新
星ダコタ・ブルー・リチャーズ。原作のファンで、演じるの
は自分しかいないと考えて応募したという読者の代表だ。
他に、ダニエル・クレイグ、ニコール・キッドマン、エヴァ
・グリーン、サム・エリオット。また、ダイモンの声を、フ
レディ・ハイモア、クリスティン・スコット・トーマス、キ
ャシー・ベイツ、イアン・マッケランらが担当している。
脚本、監督は、2002年の『アバウト・ア・ボーイ』を手掛け
たウェイツ兄弟の片割れクリス・ウェイツ。海外では37カ国
で初登場第1位の興行を記録したそうだ。

『恋する彼女、西へ』
広島ものという情報だけを得て試写を見に行った。
昨年には『夕凪の町、桜の国』が公開されたし、その前にも
『父と暮らせば』があって、原爆=広島ものは、次はどんな
手立てで来るか…という感じにもなってしまうところだが、
今回は少し自分のテリトリーにも近付いて、多少意見の述べ
たくなる作品だった。
物語の舞台は現代、主人公は30路に差し掛かったキャリアウ
ーマン。元々は建築家を目指していたが、今はホテルチェー
ンの建設を行う会社の営業担当で、社内ではオツボネ様との
陰口もあるが、今回は新人が失敗した地主との交渉再開のた
め広島にやってくる。
そして2005年の夏の暑い日、平和公園の近くにある古い橋の
上で、真新しい帝国海軍の軍服に身を包んだ若い男に遭遇す
る。その時、街には戦後60年を記念して60年前の旧型の路面
電車が復活運行されていた。
SFの題材が、こんなにも簡単に物語に入ってきてしまうと
いうのは、何とも感慨というところだが、原作脚本を手掛け
たのは、今年の大河ドラマ『篤姫』も担当している田淵久美
子で、そういう脚本家がこのような題材を扱うということに
も驚かされた。
しかも、主人公が原爆投下直前の過去に飛ばされて、そこで
右往左往させられるという話は、脚本としては作りやすいと
思われるが、本作では逆に過去から現代にやってくるという
もので、それで話を作るというのは案外難しいものだ。
しかし本作では、それをキャリアウーマンの恋愛という形で
見事に昇華させて、素敵にロマンティックな物語に仕立て上
げている。そしてその物語を、主演の鶴田真由と池内博之が
見事に演じている作品だ。
それがこの作品の目的だし、その点では何の問題もない作品
だろう。しかし、SF映画の観点ではいろいろ注文が生じて
しまうのが残念なところだ。しかもこれが、ちょっとした工
夫でもっと良くできたと思われるのだ。
この作品の問題点は、過去から来た男が、死ぬことが判り切
っている過去に帰る必要があるのかという一点に絞られる。
その理由付けがこの作品では、彼が現代で1人の老人に出会
うことによっているのだが、それが本作では過去の自分だっ
たからと説明される。しかしこれでは過去に戻る理由付けに
はならない。
何故なら過去に戻らなくても自分はここにいるのだし、それ
によって生じるのは、1人の老人が過去の世界で消えたとい
うことでしかないからだ。そしてその老人が消えたことによ
る歴史の改変は微々たるものでしかない。それが『サウンド
・オブ・サンダー』になる可能性はあるが、本人的には戻る
必要はないとするのがSF的な解釈だろう。
では、この物語で過去に戻る必要が生じるのはどのような場
合か。それはこの老人がその男によって救われたとする場合
だ。この時点で彼は、自分が過去に戻っても人々を救えると
は確信していないはずだ。でもここにたった1人かも知れな
いが、少年を救ったという事実がある。それなら自分は過去
に戻らなくてはいけない。
そして、その彼の行為が最後老人によって語られたときに、
この物語はSFとして完結する。自分自身のためより他人の
ため、その方が物語としても感動的なものになると思うのだ
が…

本来この作品はラヴロマンスとして構築されたものだし、そ
の目的は充分に果たされていると思われる。しかしそこにS
F的な題材を持ち込んだのなら、SFとしても完結して欲し
いと思うのが僕の立場だ。
その意味でこのサイトでは、そのちょっとしたヒントを提示
することをこれからもしていくつもりだ。

『トゥヤーの結婚』“圖雅的婚事”
2007年のベルリン映画祭でグランプリの金熊賞を受賞した作
品。内モンゴルを舞台にある女性の特別な結婚が描かれる。
トゥヤーは内モンゴルの草原で夫と2人の幼い子供と一緒に
暮らしていた。ところが、その夫がダイナマイトの事故で下
半身不随になってしまう。
羊の放牧で暮らしを立てる一家には、水の確保が最重要事項
だったが、乾燥化が進むその土地の井戸は10kmも離れ、駱駝
を引いてそこに水を汲みに行くのがトゥヤーの日課になる。
しかしそれは、女性には過酷な労働だった。
そこで夫は離婚を申し立てトゥヤーに健常な男との再婚を促
すが、トゥヤーは離婚は認めるものの、再婚相手には元の夫
と同居し、その面倒を見ることを条件とする。そして美人の
トゥヤーの許にはいろいろな再婚相手が次々に現れるが…
再婚にこのような条件を付けることが、現地においてどのく
らい非常識なことかは判らないが、元の夫との愛情の板挟み
の中でトゥヤーの苦しみが見事に描かれている。一方、再婚
相手の男たちの事情もいろいろな側面で描かれ、それが中国
の現状を顕してもいる。
そんな社会的な側面も持った物語が、内モンゴル自治区の広
大な荒野(少し前までは草原だったはずだ)を背景に展開さ
れる。それにしても、このような荒野を背景にした作品を何
度見ていることか。映画は、砂漠化の恐ろしさも伝えている
ものだ。
脚本監督は、2000年の『月蝕』で注目を浴びたワン・チュア
ンアン。脚本には、チェン・カイコー監督『さらば、わが愛
/覇王別姫』なども手掛けたルー・ウェイも参加している。
撮影は、ベルリン映画祭で『月蝕』を観て以来、監督の作品
に参加しているドイツ人のルッツ・ラテマイヤーが担当。
トゥヤー役は、監督の全作に主演し、各地の映画祭の主演賞
を受賞しているユー・ナン。今後は、ウォシャウスキー兄弟
監督が日本製アニメの『マッハ Go!Go!Go!』を実写映画化す
る『スピード・レーサー』にも出演しているそうだ。
またその他の夫や隣人の役などには、現地の素人の人たちが
起用されているようだ。それにしても、映画の背景となった
この土地に、緑の草原が復活することはないのだろうか。

『アメリカン・ホーンティング』“An American Haunting”
ドナルド・サザーランド、シシー・スペイセク共演、2005年
製作のオカルトスリラー。
1817−1935年にアメリカのテネシー州アダムスに住むベル一
家を襲ったBell Witchと呼ばれる怪奇現象を題材に、現代的
な解釈も加えてホラー作家のブレント・モナハンが1997年に
発表した長編小説の映画化。
映画の物語の発端は現代。とある家に引っ越してきた母子の
娘が怪奇な悪夢にうなされるようになる。それには屋根裏で
見つかった品物が影響しているようだった。そして心配する
母親はその中から古く変色した書状を発見。それには驚愕の
物語が綴られていた。
1817年、それはベル一家の1人娘ベッツィーがポルターガイ
スト現象に襲われたことから始まる。彼女を襲った現象は、
教会の神父たちの徐霊にも関わらず、その激しさを増して行
く。そしてその矛先は父親にも向き始める。
実話とされる物語は、1894年に刊行された出版物もあるほど
の歴史的なもので、その後も数多くの書物が出版されている
ようだ。因に2002年にも“Bell Witch: The Movie”という
映画化があって、その作品は本作の公開後にDVDでリリー
スされたそうだ。
ただまあ、今回の映画化された物語の解釈がどこから出てき
たものかはよく判らないが、年頃の娘を持つ父親としてはか
なり厳しいもので、その点では現代の部分も含めてちょっと
考えさせられてしまった。最近この手の話が多いのも、時代
なのだろうか。

上記の他の出演者は、ベッツィー役に、2003年の『ピーター
・パン』のウェンディ役でデビューし、最近では『パフュー
ム』のヒロイン役の他、製作中のロバート・E・ハワード原
作“Solomon Kane”にも出演しているレイチェル・ハード=
ウッド。
また、『マスター・アンド・コマンダー』や、レニー・ハー
リン版『エクソシスト:ビギニング』では神父役を演じたジ
ェームズ・ダーシーも登場する。
脚本監督は、『ダンジョン&ドラゴン』のコートニー・ソロ
モン。また特殊効果を、『エイリアン』や『スター・ウォー
ズ/帝国の逆襲』のニック・アルダーが手掛けている。

『結婚しようよ』
吉田拓郎の楽曲に載せて、中年の父親の家族に対する思いを
描いた作品。
自分自身のフォーク体験でいうと、一番聴いていたのは、高
石、岡林、フォークル、五つの赤い風船の辺りで、拓郎はあ
まり思い入れもないし、歌も本当の代表作しか知らない。で
も、拓郎を中心としたつま恋などが、日本フォークの全盛期
だったことは理解するし、そういったことでは、この物語の
主人公の父親の心情も理解できるものだ。
物語の主人公は、三宅裕司演じる不動産屋の営業マン。郊外
の駅からは少し離れた住宅地の一戸建てに住み、家族は学生
結婚した妻と、大学4年生と2年生の娘の4人。その家では
主人公の決めたルールで、夕食は一家4人が揃って食べるこ
とになっている。その団欒が主人公にとって一番の幸せを感
じるときだ。
そんな主人公が、ある日、帰宅途中の駅前で吉田拓郎を歌う
路上バンドに遭遇。思わず口ずさんでいる姿を若い男に目撃
されてしまう。その男は阪神大震災で蕎麦屋だった両親を亡
くし、叔父を頼って上京後、現在は一人暮しで蕎麦屋で職人
の修業しているという。そんな若者を、主人公は一家の夕食
に招くのだが…
その一家では、長女はすでに春からの就職も決まり、次女は
バンド活動で華やかな舞台を目指している。そして主人公の
思いとは裏腹に、それぞれ夕食に合わせての帰宅が難しくな
ってきている。一方、主人公には職場の第一線から退くこと
が勧められ、主人公は最後に手掛けた老夫婦の家の修繕に腐
心するようになる。
それでも主人公は、夕食には一家4人が揃うことを願い続け
たが…。これに主人公と妻との出会いの話や次女のバンド活
動の様子などが、吉田拓郎の楽曲に載せて織り込まれる。
脚本監督は、『出口のない海』『夕凪の街、桜の国』などの
佐々部清。1958年生まれの監督が、20代の頃から作りたかっ
た作品だそうだ。ただし、元々の構想は拓郎の楽曲だけを使
用した映画というもの。それが、今の監督の心情に合わせて
このような作品になったようだ。
同じような年頃の娘を持つ父親の心情というか、長く勤めた
職場を離れることになった主人公の心情なども、今の自分と
してはいろいろ感じてしまうところではある。しかも妻との
関係なども、思わず納得してしまう作品だった。
50代の男性が、自分の人生を振り返って観るのに良い作品と
思うし、「夫婦50割」は、制度としては去年夏で終了したが
そのまま継続している映画館も多いようで、そんな夫婦で観
るのにも良い映画にも思えた。
出演は、三宅の他には真野響子、藤澤恵麻、中ノ森BAND
のAYAKOの一家に、金子勇太、田山涼成、入江若葉、松
方弘樹。さらに中ノ森BANDとガガガSPが拓郎の楽曲を
熱唱する。
挿入曲は20曲、全曲が拓郎の作品というものだ。特に中ノ森
BANDで、『やさしい悪魔』と『アン・ドゥ・トロア』が
聴けたのは嬉しかった。



2008年01月15日(火) 第151回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は賞関連のこの続報から。
 前回、アカデミー賞VFX部門の予備候補15本を報告した
が、今回はさらにそこから7本に絞られた。ところがこれが
ちょっと波紋を広げているようだ。
 まず、選ばれた7作品は、『ボーン・アルティメイタム』
“Evan Almighty”『ライラの冒険/黄金の羅針盤』『アイ
・アム・レジェンド』『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワ
ールド・エンド』『300』『トランスフォーマー』。
 何とここで、前の2作でオスカーを連続受賞した『スパイ
ダーマン3』が落選してしまったのだ。しかもその一方で、
VFXがさほど重視されていない『ボーン…』や“Evan…”
が選ばれていることには異論を挟む声も高くなっている。
 実は、その直前に発表されたVES賞では、『スパイダー
マン3』は4部門で候補に挙がっており、その違いも話題に
なっているものだ。
 そこでVES賞候補(映画関係のみ)を紹介しておくと、
まず、VFX主体の映画におけるVFX賞候補は、『…レジ
ェンド』『トランスフォーマー』『ライラの冒険』『パイレ
ーツ…』『スパイダーマン3』
 VFX主体でない映画におけるサポートVFX賞候補は、
『レミー…』『ゾディアック』“We Own the Night”『君の
ためなら千回でも』『俺たちフィギュアスケーター』
 単独VFX賞候補は、『トランスフォーマー』の砂漠のハ
イウェイ、『パイレーツ…』のジャックとデイヴィの決闘、
『300』の暴れ馬、『サーフズ・アップ』のチューブ・ラ
イド、『スパイダーマン3』のサンドマン誕生。因に、この
サンドマン誕生のシーンはVFX史にも残ると言われている
ものだ。
 実写映画でのアニメーションキャラクター賞候補は、『ス
パイダーマン3』のサンドマン、『ウォーターホース』のク
ルーソー、『パイレーツ…』のデイヴィ・ジョーンズ、『魔
法にかけられて』のピップ、『トランスフォーマー』のオプ
チマム・プライム、『…レジェンド』の感染者のリーダー。
 アニメーション映画でのキャラクター賞候補は、『サーフ
ズ・アップ』のチキン・ジョー、『シュレック3』のハロル
ド王、『ベオウルフ』のベオウルフ、『サーフズ・アップ』
のコディ、『レミー…』のコレット。
 アニメーション映画でのFX賞候補は、『ベオウルフ』の
ドラゴンの追跡、『シュレック3』の各効果、『レミ…』の
料理、『サーフズ・アップ』の波、『レミー…』の速さ。
 実写映画での背景賞候補は、『スウィーニー・トッド』の
古い町並、『パイレーツ…』の渦潮、『ゾディアック』のワ
シントンと桜、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の予
言の部屋、『ラッシュアワー3』(対象の特定なし)、『…
レジェンド』のタイムズスクエア。
 ミニチュア賞候補は、『パイレーツ…』の海賊船、『ダイ
・ハード4.0』のF-35、『トランスフォーマー』(対象の特
定なし)、『ハリー・ポッター』のホグワーツ校、『スパイ
ダーマン3』のビルとクレーン。
 合成賞候補は、『トランスフォーマー』全体、『パイレー
ツ…』のベケットの死、『パイレーツ…』全体、『…レジェ
ンド』の港湾、『ウォーターホース』のクルーソー、『ハリ
ー・ポッター』の予言の部屋。
 また『ハリー・ポッター』は、特殊効果(SFX)賞の候
補に1本だけ選出されている。
 なお作品別では、『パイレーツ…』が6部門7候補、『ト
ランスフォーマー』が5部門、『スパイダーマン3』『…レ
ジェンド』がそれぞれ4部門、『レミー…』『サーフズ・ア
ップ』『ハリー・ポッター』が3部門4候補、『ゾディアッ
ク』『ウォーターホース』『シュレック3』『ベオウルフ』
が2部門、他は1部門となっている。
 つまりVES賞の候補には、『ボーン…』も“Evan…”も
選ばれなかったもので、これには異論が湧くのも当然という
ところだろう。とは言え、『スパイダーマン3』の3作連続
オスカーVFX賞受賞はなくなった訳で、『LOTR』に続
く偉業はならなかったものだ。
 ついでにアカデミー賞メイクアップ部門の予備候補7本も
報告されたので紹介しておくと、こちらの予備候補は、『潜
水服は蝶の夢を見る』『ハリー・ポッター』『エディット・
ピアフ』“Norbit”『パイレーツ…』『スウィーニー・トッ
ド』『300』ということで、何とフランス映画が2本も名
を連ねたが、それに異論を挟む人はいないようだ。
        *         *
 賞関係は以上にして、ここからはいつもの製作ニュースを
紹介する。
 まずは一般映画の話題で、スティーヴン・スピルバーグが
次の作品に予定しているとも言われる法廷劇“The Trial of
the Chicago Seven”の主演に、『スウィーニー・トッド』
の好演が注目されたサッシャ・バロン・コーエンの起用が噂
されている。
 作品は、1968年8月イリノイ州での民主党全国大会におけ
る反戦運動で逮捕され、その裁判でのパフォーマンスが話題
となったシカゴ・セブンと呼ばれる活動家たちの物語。その
中でもコーエンが演じるのは、特に注目を集めたアボット・
ホフマンの役ということだ。因にホフマンは、裁判中に判事
の法衣を着て法廷に現れたり、無罪の判決が出ると裁判官に
LSDの効用を語って知人のディーラーを紹介することを申
し出たとも伝えられている人物だ。
 という実在でも相当に奇矯な人物のようだが、これにコー
エンの演技が填ったら…かなり面白くなりそうだ。脚本は、
1998年ウィル・スミス主演『エネミー・オブ・アメリカ』な
どのアーロン・ソーキン。ソーキンは昨年公開されたトム・
ハンクス主演“Charlie Wilson's War”の評価も高い。
 ただしスピルバーグには、ピーター・ジャクスンと共働の
“Tintin”と、リーアム・ニースンの主演が予定されている
“Lincolin”の計画も進行中で、タイミング的には今回の作
品がベストのようにも見えるが、さてどうなりますか。
 なお、コーエンは先のインタヴューで、『アリG』『ボラ
ット』のキャラクターを封印する発言もしているそうだ。今
回の計画と発言との関係は不明だが、シカゴ・セブンは僕の
世代では一番興味を引かれるところでもあり、いずれにして
も早期の実現を期待したい。
        *         *
 次は続報で、第149回で報告したジョニー・デップ主演、
マイクル・マン監督の“Public Enemies”の計画が進行し、
相手役にクリスチャン・ベールの起用が発表されている。
 物語は、デップが扮する史上に名高い銀行強盗犯ジョン・
デリンジャーを描くもので、ベールはデリンジャーを追いつ
めるFBI捜査官メルヴィン・パーヴィスを演じるとのこと
だ。脚本は、マンがすでに書き上げており、撮影は3月にシ
カゴで開始される。
 ということでベールの出演が発表されたが、ベールには、
第148回で紹介した3月15日に撮影開始予定の“Terminator
Salvation: The Future Begins”でジョン・コナーを演じる
ことも発表されている。そこでそのスケジュールが心配にな
るところだが、実は“Terminator”の新3部作でのコナーの
活躍は、第2作、第3作が中心になるとのことだ。
 これに関して、製作者のジェームズ・ミドルトンの発言に
よると、新3部作ではまず『T3』で描かれた破滅後の世界
が舞台となり、そこでの生き残った人々の生活が描かれる。
そして彼らのレジスタンスが始まり、やがてその中からジョ
ン・コナーが登場してくるという展開になるそうだ。従って
“Terminator Salvation”では、ベールが演じるコナーは、
まだ脇役ということのようなのだが…それでどんな話が展開
されるのか、完成が楽しみだ。“Terminator Salvation”の
全米公開は2009年夏に予定されている。
 因にミドルトンの発言によると、前回報告したシュワルツ
ェネッガーの出演も今はなくても良い展開になっているそう
で、それぞれの発言者は異なるが、脚本家のストライキの最
中に、このような設定に関する発言がころころ変更されるの
も、ちょっと心配な感じのするところだ。
        *         *
 ということで、ここからはSF/ファンタシー系の情報を
紹介しよう。
 まずは、12月14日の公開以来、年末までの全米興行で2億
4000万ドルを達成し、すでに史上第51位の成績となっている
『アイ・アム・レジェンド』に続編の情報が報告された。し
かもこの続編の計画を、原作者のリチャード・マシスンが承
認したとのことだ。
 この続編に関しては、公開に先立って行われた主演ウィル
・スミスらの来日記者会見の際に、会場に紛れ込んでいた某
テレビタレントが「続編に出演したい」と発言してスミスの
顰蹙を買っていたもので、その時にスミスは、「前日譚なら
作れるかも知れない」としていたが、今回の情報は正に続編
が検討されているとのことだ。
 確かに、元々のマシスンの原作は続編の作りようのないも
のだったが、今回の映画化では物語が大幅に改変されて、そ
の改変された物語からなら続編は作れないこともない。つま
りそういうことも想定された上での映画造りがされていた訳
で、ここにはハリウッドのしたたかさが見えるものだ。
 具体的なことは何も発表されていないが、製作脚本のアキ
ヴァ・ゴールズマンを中心に、主なスタッフは戻ってくると
考えられ、この計画は案外早く進むかも知れないとのこと。
某テレビタレントがそれに登場するかどうかは、その時にな
れば判るだろう。そして続編が成功したら、後はシリーズ化
にまっしぐらとなる。
        *         *
 E・E‘ドク’スミス原作の“Lensman”シリーズの映画
化が、『アポロ13』などのユニヴァーサルとイマジンで計画
されている。
 スミスは、スペースオペラの創始者とも呼ばれるSF作家
で、彼が1928年から発表したSkylarkシリーズの第1作“The
Skylark of Space”によって、人類は想像上で初めて太陽系
を越えて大宇宙に飛び出したと言われている。そして、スミ
スが1937年に誕生させたLensmanシリーズでは、スケールは
さらに拡大し、高度な存在によって選ばれた人類と邪悪な敵
との戦いが、大宇宙を舞台に壮大なスケールで描かれた。
 このLensmanシリーズは、実は1984年に日本でアニメシリ
ーズ化されたことがあり、さらに1987年の続編シリーズと、
2000年に単発の作品も製作されている。しかし今回の計画で
は、このアニメ版の存在は無視されているようで、スミスの
孫に当る版権の管理者が、ユニヴァーサルとの間で18ヶ月の
オプション契約を結んだとのことだ。
 因にこの契約は、必要に応じて18ヶ月の延長が認められる
ものだが、契約を履行するためには、少なくとも最初の1年
半以内に製作の目途は立てられることになる。
 なお“Lensman”シリーズの映画化に関しては、2004年の
6月頃にも1度、ビバリー・ヒルズにあった新興のプロダク
ションで計画が立上げられたことがあるが、そのまま情報が
途切れてしまったもので、今回は大手が動くことでもあり、
何とか実現してもらいたいものだ。
        *         *
 2005年2月15日付の第81回で紹介した『ダレン・シャン』
シリーズ第1作“Cirque du Freak”(奇妙なサーカス)の
映画化が進められ、2月8日の撮影開始が発表された。
 この原作は、著者名をダレン・シャンによって発表された
ファンタシーシリーズで、親友と共に「奇妙なサーカス」の
チケットを手に入れた少年ダレン・シャンが、そこでの出来
事によって命が危うくなった親友を救うため、自ら半ヴァン
パイアとなってしまうというもの。そしてその後のシリーズ
では少年がヴァンパイアとして成長する姿を描き、全12巻が
発表されているという作品だ。
 そしてこの映画化では、以前に紹介したように『Rock
 You!』や『マイ・ボディガード』などのブライアン・
ヘルゲランドが脚色を担当し、当時の情報では原作の第1〜
第3巻を映画化の第1作として製作するとなっていた。
 その計画が進み始めたもので、まず監督には『アバウト・
ア・ボーイ』などのポール・ウェイツが起用され、ダレン・
シャン役に1992年生まれのクリス・J・ケリーが扮する他、
サルマ・ハエック、ジョン・C・ライリー、『テラビシアに
かける橋』のジョッシュ・ハッチャーソン、さらに日本から
渡辺謙の出演が発表されている。因にハエックは、産休明け
の最初の仕事になるそうだ。
 以前の紹介では、シリーズの全体を3部作で映画化すると
いうことだったが、シリーズの後半ではヴァンパイアの世界
をかなりの広がりを持って描いているようで、その世界感の
映画化が楽しみになりそうだ。
        *         *
 ウォシャウスキー兄弟監督の『マッハGo!Go!Go!』の映画
化“Speed Racer”の予告編の上映が開始され、ジェームズ
・ウォン監督による“Dragonball”の撮影も開始されている
が、それに続いてまたまた日本製アニメシリーズからの映画
化の計画が発表された。
 作品の題名は“Vicky the Viking”。1974−75年に『小さ
なバイキングビッケ』の邦題で放送されていたシリーズで、
元々日本=ドイツの合作で製作されていたようだが、今回は
その作品の実写版がドイツで製作される。
 原作は、スウェーデンの作家ルーネル・ヨンソンが1963年
に発表した児童書で、ヴァイキングの族長の息子だが父親に
似ず身体の小さい少年ビッケが、知恵を使って父親との力比
べに勝ち、遠征航海に参加していろいろな冒険を繰り広げる
というもの。本国では全7冊のシリーズで発表されたが、日
本での翻訳は5冊で止まっているようだ。
 そしてオリジナルのアニメーションは、日本では放送から
30年以上たった今でも根強い人気があり、さらに2006年には
『パイレーツ・オブ・カリビアン』の公開に絡めてDVDBoxが
発売されるなど、人気は再燃しているとのこと。
 一方、ドイツでもオリジナルは1974年に放送されて大成功
を納めていたとのことで、その映画化が、最近3作の興行収
入合計が1億9000万ドルを越えるという人気監督ミヒャエル
・ヘルビヒの手で行われる。因にヘルビヒ監督は、俳優とし
てはブリーの名で、フランス映画のアステリックスシリーズ
最新作“Asterix aux jeux olympiques”などにも出演して
いるそうだ。
 一応、本作には原作小説があるものだが、今回はVariety
紙の報道でも日本のアニメシリーズからの映画化となってお
り、日本アニメの人気を再確認する感じだった。
 製作は、『パフューム』『ファンタシティック・フォー』
などの製作にも参加したドイツ最大手のコンスタンティン。
因にコンスタンティンは、ワーナーに続いてBlu-Rayの単独
採用を決定したことでも話題になっている。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 サム・ライミ監督主宰のゴーストハウスから“Burst”と
いう計画が発表されている。作品の具体的な内容は明らかに
されていないが、吹雪に閉ざされた村をエイリアンが襲うと
いうもので、同社が先に公開した吸血鬼ものの“30 Days of
Night”の流れを汲む作品になりそうとのことだ。因にゴー
ストハウスは、『呪怨』シリーズなど低予算ホラー映画専門
プロダクションとして地盤を固めてきたが、そろそろ新しい
分野への進出も検討されているのだそうで、エイリアンの登
場はその一環なのだそうだ。
 『イーオン・フラックス』などのカリン・クサマ監督が、
“Jennifer's Body”というコメディック・スリラーの計画
を進めている。この作品は、ホリデーシーズンの興行で全米
第2位を記録したティーンエイジコメディ“Juno”の脚本家
ディアブロ・コディの作品を映画化するもので、いつも眠っ
ているような地方の町を舞台に、主人公のチアリーダーが、
完全な人生を求めて関係した若い男たちを殺し続ける(!)
というもの。かなり強烈なお話になりそうだが、コメディと
のことで、『ガールファイト』の監督がどのような作品を描
き出すか面白そうだ。なお主演には『トランシフォーマー』
に出演のミーガン・フォックスが決まっている。
 マーヴェル製作の“Iron Man”がポストプロダクションに
入っているジョン・ファヴロー監督が、次のコミックスの映
画化には“The Avengers”の映画化を希望しているそうだ。
Avengersは、DCコミックスのJustice Leagueと同様に、い
ろいろなキャラクターが勢揃いする作品で、作り方次第では
面白くなること請け合いの作品。しかし製作するマーヴェル
としては、登場する各キャラクターがそれぞれ単独での人気
を確立してからにしたいと考えているとのことで、監督自身
は、逆にそこでキャラクターを紹介してからそれぞれの物語
に進めれば良いと考えているようだが、監督の希望はまだ叶
えられなさそうだ。
 一方、その“Justice League of America”に関しては、
ジョージ・ミラー監督の計画で、VFXをWetaディジタルが
契約したところまでは製作が進んだとされている。しかし、
キャスティングの方は一向に進んでいないとのことで、この
ままでは夏のDGA/SAGのストライキまでに撮影完了で
きるかどうか微妙な段階に来ているようだ。
        *         *
 最後に記者会見の報告で、『スウィーニー・トッド』の日
本公開を前に、監督のティム・バートンと主演のジョニー・
デップ、それに製作者リチャード・ザナックの来日記者会見
が行われた。
 そこで今回は、プレス資料の中でバートン監督が、共演者
のアラン・リックマンに関して「ヴィンセント・プライスの
ようだ」と発言していたのを見て、他のサッシャ・バロン・
コーエン、ティモシー・スポール、それにデップは誰に例え
るか質問してみた。
 ところが監督の回答は要領を得ないもので、ついでに『シ
ザーハンズ』のミュージカル版の映画化はしないかとも聞い
てみたのだが、これも言葉を濁されてしまった。
 僕としては、コーエンは背の高さやいろいろな言語を操る
ところからクリストファー・リー、スポールはいろいろいる
と思うが、特にデップが誰か聞きたかったものだ。僕の質問
の仕方が悪かったのか、ちょっと気になっている。
 なお会見では、デップとバートンのそれぞれから、役作り
のために、ボリス・カーロフのフランケンシュタインの怪物
や、ロン・チェニーSr.の演技などを参考にしたことが語ら
れ、ホラーマニアであることを再確認することができたが、
もう1歩踏み込んだことが聞けなかったのは残念だった。
 なお、今年のゴールデン・グローブ賞で、『スウィーニー
・トッド』は作品賞とジョニー・デップの主演男優賞(ミュ
ージカル/コメディ部門)に輝いている。デップは、メジャ
ーの賞の受賞は初めてのことのようで、受賞式が行われなか
ったのは残念だが、取り敢えずおめでとうというところだ。



2008年01月13日(日) ウォーター・ホース、団塊ボーイズ、クリアネス、君のためなら千回でも、シスターズ、東京少年、NEXT

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ウォーター・ホース』
        “The Water Horse: Legend of the Deep”
1934年に発表された湖面から長い頸を上げて泳ぐネッシーの
写真。その写真によってネッシーは一躍有名になる。ところ
が1993年に亡くなった男性が、死に際に「写真はトリックだ
った」と告白し、その話題も世間を賑わした。
そんな状況も踏まえたネッシーにまつわる物語を、1995年の
ヒット映画『ベイブ』の原作者としても知られるディック・
キング=スミスが著わした原作小説の映画化。
時代は1930年代の初めの頃、ヨーロッパ本土ではナチスドイ
ツが台頭し、イギリスもその侵略に怯え始めている。その影
は、当時8歳の主人公の住むスコットランドにも忍び寄って
いた。
主人公の父親はその土地の領主だったようだが、海軍の兵士
として戦地に行ったまま長く家を空けている。一方、主人公
は幼い頃から水に対する恐怖心があったが、ある日、水辺で
不思議な楕円球状の石のようなものを見つけ、父親の研究小
屋に運び込む。
その主人公一家の住む屋敷にはイギリス軍が駐留を開始し、
司令官の大尉の許、ネス湖の防衛陣地を構築する。さらに、
1人の青年が屋敷に現れ、母親に雇われたその青年は、研究
小屋を片付けてそこに住み込むようになる。
そして主人公が持ち込んだ石が割れ、中から…。こうして、
ネス湖のネッシーの伝説の物語が開幕する。
僕は1975年の夏休みにロンドンを訪れた際に、鉄道でネス湖
まで行ったことがある。一時のブームは去った頃と思うが、
夏の暑い日の湖畔は静かで、立ち寄った古城には、僕と乗っ
てきたタクシーの運転手の他は、数人しかいなかったように
覚えている。
その運転手は、実際にネッシーを見たことがあるそうで、公
式の目撃者登録番号も持っていると自慢げに語って、ネッシ
ーの絵葉書をプレゼントしてくれたものだ。
そんな訳で、僕には多少思い入れもあるネス湖ネッシーの話
なのだが、物語は実に判りやすく少年の成長を描いており、
『ベイブ』と同じ原作者と聞いて成程とも思わされた。そし
て映画では実在するネッシーをWETAディジタルが描き出
して、これはもう見事なものになっている。
特に、幼いネッシーが猛犬と引き起こす騒動は良くできてい
たし、また問題の写真以外のネッシーを写した有名な写真の
数々が、映画の中で本物のネッシーの姿として動画で再現さ
れているのは嬉しかった。
ただ、現実のネス湖は淡水湖で海からは切り離されているも
のだが、この物語では海に繋がったフィヨルドのように描か
れていて、その点は疑問を挟まざるを得なかった。物語上、
そうしなければならない理由も余りないし、不思議に感じた
ところだ。

出演者は、主人公の少年に2005年9月に紹介した『ミリオン
ズ』のアレックス・エテル、母親役にエミリー・ワトスン、
大尉にデヴィッド・モリッシー、謎の青年にベン・チャップ
リン、ナレーターにブライアン・コックスなど。
監督は、2000年の『マイ・ドッグ・スキップ』が印象に残る
ジェイ・ラッセルが巧妙な演出を見せている。

『団塊ボーイズ』“Wild Hogs”
ジョン・トラヴォルタ、ティム・アレン、マーティン・ロー
レンス、ウィリアム・H・メイシーの共演で、中年後半に差
し掛かった男たちの焦りや不安を、バイクに託して解消する
姿を描いた作品。
トラヴォルタが演じるのは破産宣告された元実業家、アレン
の役は仕事中のストレスとメタボリックが気になる歯科医、
ローレンスはベストセラー作家を目指し1年間休職中の配管
工(成果は出ていない)、そしてメイシーはこの歳になって
もオタクのコンピュータプログラマー。
この4人も、昔は「Wild Hogs=野性の豚」と名告り、揃い
の革ジャンでバイクを飛ばしていたのだが…今では週末に郊
外を走る程度。そんな4人が、ある日、家を飛び出し家族も
捨てて、西海岸を目指すロングライドに乗り出す。しかし、
行く先々には週末ライダーには過酷な、いろいろな苦難が待
ち構えていた。
上記の4人にレイ・リオッタやメリサ・トメイらが絡んで、
言ってみれば中年男の願望充足のような物語が展開する。そ
して締めには、バイク映画には付き物のピーター・フォンダ
も登場する仕組みだ。
結構派手な爆発シーンやそこそこのバイクアクションもあっ
て、願望充足とは言っても部外者にも充分に楽しめる作品に
なっている。その辺は、さすがにこのメムバーが揃うだけの
ことはあるという作品だ。そして本作は、2007年アメリカの
年間興行成績で堂々第11位にランクインしている。
まあ、物語は単純で良いなあという感じのものだし、その展
開にも奇を衒ったところもほとんど無く、そういった純粋さ
が興行成績を押し上げたのかも知れない。そういう作品で勝
負できるのも、ハリウッド映画の強みなのだろう。
なお、登場するバイクはハーレーが中心だが、テレビ番組の
“American Chopper”が人気となっているポール・タトル父
子の協力で、いろいろ著名なバイクが登場するのも、バイク
ファンには評判のようだ。

『クリアネス』
最近、何かと話題の多いケータイ小説からの映画化。
昨年公開の『恋空』にはパクリ疑惑が出ているそうだが、今
回チェックのためにその情報を検索していたら、主人公と並
んで金髪の男のいる写真が出てきて笑ってしまった。
実は本作のポスターにも同様の写真が登場しているはずで、
それがパクリであるかどうかは別として、ケータイ小説のレ
ベルというのは所詮そんなものなのだろうという感じがした
ものだ。
パクリの他にも、ケータイ小説というのは会話ばかりで情景
描写が疎かだとか、いろいろ批判があるようだ。
従ってその映画化には、情景描写を相当に補わなくてはなら
ないということで、脚本家の腕の見せ所となるが、今回の作
品はこれが『時効警察』のスタッフと聞いて、テレビ出身者
に危惧を感じている者としては、それも少し心配になった。
ということで、かなり心配しながら行った試写会だったのだ
が、これが意外とまともに観られる作品になっていた。
物語は、一人暮しの自宅マンションでウリをやっている女子
大生が主人公。彼女の部屋の窓からは向かいのオフィスが見
えるが、そこはどうやら出張ホストの事務所らしい。そして
彼女は、その中の髪を金髪に染めた若者に目を留める。
その彼は、仕事が終るとベランダで熱心にメールを打ち、ど
こかに送信している。そんな彼を見ているのが好きな彼女だ
ったのだが…。ある日、面倒な客に手を焼いていたとき、突
然、彼が彼女の部屋にやってくる。
こんな風俗絡みの話が一般的になってしまったのかというの
も感慨だったが、実は本作では、そんな設定の物語なのに、
若者の男性が映画の中でアルコール飲料を一切口にしないと
いう点が気に入ってしまった。
物語の中で、主人公より年下の男性は未成年で、実際に演じ
ている俳優も未成年ということもあるのかも知れないが、彼
の部屋の冷蔵庫にはポンジュースがぎっしりというも愉快だ
ったし、旅先でもジュースしか飲まない。
最近の風潮として未成年の飲酒が容認されているというか、
特にホストという役柄では飲酒の描写は避けられないように
も思えたが、実際に飲酒のシーンはないし、またそれが取り
立てて説明されてもいない。これには感心した。
因に監督は、『地下鉄に乗って』などのベテラン篠原哲雄と
いうことで、そこに大人の見識が感じられたのも気に入った
ところだ。
主演は、新人だがキム・ギドク作品に出演経験があるという
杉野希妃と、テレビドラマ『ライフ』などの細田よしひこ。
他に哀川翔らが脇を固めている。
物語の展開はかなり強引だし、他愛ない男女の物語ではある
が、舞台は東京を起点に関西から沖縄にまで広がって、主人
公2人の行動などは意外としっかり描かれていた。

『君のためなら千回でも』“The Kite Runner”
“Bond 22”も担当している『ネバーランド』などのマーク
・フォースター監督作品。イスラム革命前後のアフガニスタ
ンを舞台に、アメリカに亡命した富裕層の息子と、彼の家の
召使の息子との交流と確執を描く。
主人公は、母親を誕生の時に亡くし、それからは厳格な父親
のもとで育てられたが、父親は周囲からも人望を集める人物
で、家庭環境も裕福だった。そして家には、父親と生涯を共
にしてきた召使がいて、その召使の息子は彼の親友とも呼べ
る存在だった。
主人公は幼少の頃から物語を書くのが好きで、召使の息子は
それを読み聞かせてもらうのが好きだった。しかしその関係
は、結局主従の関係でしかなかったのか…主人公の裏切りに
よって2人の絆は失われてしまう。
やがて、アフガニスタンへのソ連侵攻を契機に主人公と父親
はアメリカに亡命。主人公は亡命生活の苦難の中で大学を卒
業し、作家の道へと進む。そして彼の処女作が世に出た日、
母国の恩師からの電話が繋がる。その恩師は、彼に「絆は取
り戻せる」と告げた。
原題は、アフガニスタンの冬の風物詩「凧合戦」に関るもの
で、相手の凧糸を切って勝利したときに、その相手の凧を拾
ってくる召使の息子を指すようだ。その息子はいち早く凧の
落下点を見つけるのが得意だった。そしてその凧は額に入れ
て家に飾られた。
タリバン政権下でのアフガニスタンの様子を垣間見せたり、
亡命先のアメリカでも権勢を維持する元将軍の姿など、政治
的なメッセージは声高ではないが、うまく物語に取り込まれ
ていた。
そんな政治に翻弄される主人公の物語だが、物語の主題は、
主人公と召使の息子の関係に絞られ、友情と主従の関係が痛
々しく描かれる。脚本は『25時』などのデイヴィッド・ベ
ニオフ。政治から友情までの目配りは確かなものだ。
また、凧合戦のシーンでは、大空を自由に舞う凧の映像が素
晴らしく、もちろんVFXも多用されたシーンではあるが、
その描き方が美しかった。そして、映画後半の思いも掛けな
いアクションシーンには、さすが007に起用される監督だ
と思わせた。

『シスターズ』“Sisters”
1973年ブライアン・デパルマ監督作品『悪魔のシスター』の
リメイク。といっても、オリジナルから持ってきたのは基本
設定の部分だけで、そこから展開する物語は自由に発想され
ている。
本作の舞台は、小児病院と思われる医者のいる施設。巻頭の
シーンは、そこで何かのパーティが開かれており、潜り込ん
だ女性レポーターと院長との対立が露にされる。その病院で
は過去に医療ミスがあり、レポーターはそれを追っているよ
うだ。
そしてレポーターは居合わせた若い医師に救われるが、その
医師と共に不思議な事件に巻き込まれることになる。それに
は、院長の元妻が絡んでいるようだが、目撃したはずの殺人
事件は、何の証拠も残さず消去されてしまったりする。
それでも執拗に事件を追ったレポーターは、やがて驚愕の真
相を知ることになる。
オリジナルは見たはずだが、今回の作品の結末は何か変と言
うか物語の辻褄が合わない。これがオリジナルと同じだった
かどうか、今一つ釈然としないのだが、オリジナルもこうだ
ったとしたら、もう少しはその記憶が残っているはずのもの
だ。
オリジナルと同じ設定は、シャム双生児の分離手術でその一
方が死に、その思念が他方に乗り移って一種の2重人格とな
っているというもの。その乗り移った人格が凶暴で殺人も厭
わないというものだが…
本作ではさらにレポーターもそれに関るという結末が付いて
いる。しかしこれが、描かれた物語のままだと全く辻褄が合
わなくなる。この部分がオリジナルにあったかどうか思い出
せないのだ。
無理矢理辻褄を合わせようとすれば、分離手術で死んだ片割
れの思念が他人に憑衣する能力を持っていて…ということに
なりそうだが、映画の中にはその辺の説明が無かったように
思う。

脚本、監督は、1997年にカナダで開かれたFant-Asiaという
映画祭の短編部門で第3位に入ったことがあるというダグラ
ス・バック。監督の頭の中を正確に知りたいところだ。
出演は、女性レポーター役に『ゾディアック』で主人公の妻
を演じていたクロエ・ゼヴィニー。院長役に『リーピング』
にも出ていた怪優スティーヴン・レイが扮している。

『東京少年』
昨年末に紹介した夏帆主演の『東京少女』と同じBS−i製
作の作品で、本作は堀北真希が主演する。タイトルも似通っ
ているが、両作の間に物語上の関連性は全くない。
堀北が演じるのは2重人格の少女。幼い頃に両親を同時に亡
くし、その心の支えとして第2の人格が現れた。しかもそれ
は少年で、少女の人格は、少年の人格をペンフレンドだと思
っているが、少年の人格は全てを理解しているようだ。
多重人格ものというと、最近ではダニエル・キイスの諸作で
有名になったが、映画では、1957年製作でジョアン・ウッド
ワードがオスカーに輝いた“The Three Faces of Eve”とい
う作品が名作とされる。
僕はこの映画は見ていないが、たまたま実話に基づくとされ
る原作小説は昔に読んだことがあって、その中で記憶に残っ
たいくつかのシーンが、本作にも描かれていたのには感心し
た。脚本家が、何を基にこの作品を描いたかは判らないが、
その辺は納得したものだ。
しかも描かれた物語は、その2つの人格同士が恋をするとい
うもので、学術的に起こり得るかどうかは別として、この展
開には脱帽した。究極の悲恋物語であることは確かだし、今
までの多重人格ものを超える新たな物語が造り出されたとも
言えそうだ。

脚本は渡辺睦月。テレビドラマの『杉浦千畝物語』なども手
掛けた人のようだが、他には『怪談新耳袋』などというタイ
トルもあって気になった。監督の平野俊一と共に、『ケータ
イ刑事』のスタッフだが、これで新しい境地に進み出したの
かな。
共演は、『夜のピクニック』『キトキト』などの石田卓也。
他に平田満、『Shall we ダンス?』の草村礼子らが脇を固
める。                        
なお、堀北は最近のテレビドラマでも男装の役を演じていた
ようだが、本作は全くの少年の役となるものだ。その演技に
はかなりの注意が払われたと思うが、特に巻頭のシーンでの
見事に少年になり切った演技に感心した。
『東京少年』と『東京少女』どちらも気に入った作品だ。

『NEXT−ネクスト−』“Next”
フィリップ・K・ディックが1954年のif誌に発表した短編小
説“Golden Man”の映画化。
2006年の『スキャナー・ダークリー』に続いて、またまたデ
ィックの映画化が登場した。『スキャナー…』はかなり実験
的な作品だったが、今回はストレートなアクション映画とな
っている。
原作の短編を含む短編集は1992年に翻訳されているようだ。
その原作の舞台は核戦争後の未来、その極限状態となった世
界で2分間だけ先を見ることのできる男が、その能力を駆使
して神になれるか…という物語だ。
しかし、その物語は映画化に当って大幅に改変されている。
映画化の舞台は現代、そしてロシアで盗まれた核弾頭が合衆
国に持ち込まれ、未来を予知できる男がその爆発を阻止でき
るか…というストーリーが展開される。
2分間だけ先を見ることのできる男が、その能力で暴漢のパ
ンチを躱したり、事故を避けたりというシーンは、いろいろ
なパターンを繰り返し検証して行くシーンを順番に描くとい
う演出で、それなりに面白く表現されていた。
特に、女性へのアプローチをいろいろ試みるシーンなどは、
主演のニコラス・ケイジの風貌と相俟ってニヤリとするシー
ンになっている。他にも、隠れた敵を探すシーンでは検証の
パターンごとに主人公が次々分離して行く表現法なども工夫
されたものだ。
ただしそれがディックの世界かと言われると、ちょっと悩む
ところではある。因にこの映画化をデータベースで引くと、
脚本の欄でディックの名前は最初のページには出ないように
なっている。そういう感じのものだ。
ディップの映画化では、一般的には『ブレード・ランナー』
が代表作とされるが、興行成績で見ると、全米及び全世界で
300位以内に入ってくるのは、『トータル・リコール』と、
『マイノリティ・リポート』の2本だけ。『ブレード…』は
300位に入らない。
その『トータル…』で最終脚本を担当、『マイノリティ…』
では製作総指揮を手掛けたゲイリー・L・ゴールドマンが、
本作では脚本と製作総指揮を手掛けている。今回の改変はそ
のゴールドマンのアイデアによるようだ。現在の状況では、
原作通りの映画化は不可能だったとも思えるし、難しいとこ
ろだ。

監督は、『ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリ。共演
は、『ハンニバル』のジュリアン・モーアと、『ステルス』
のジェシカ・ビール。
なお、今後のディックの映画化では、著者の死後に発表され
た“Radio Free Albemuth”が撮影完了、著者の伝記を絡め
て描くとされる“The Owl in Daylight”が製作中となって
いる。



2008年01月06日(日) スウィーニー・トッド、俺たちの明日、うた魂♪、魔法にかけられて、奈緒子、胡同の理髪師、L、マイ・ブルーベリー・ナイツ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』
  “Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street”
ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演のゴールデン
コンビで、1979年のトニー賞受賞ミュージカルを映画化した
作品。
18世紀のロンドンの下町を舞台に、復讐に燃える理髪師と、
彼を助けるパン屋の女主人を巡る物語。この物語について、
以前は実話に基づくという説もあったが、最近は19世紀に発
表された創作が基になっているという説が有力だそうだ。
ロンドン下町のとある建物の2階で理髪店を営む主人公は、
美しい妻と生まれたばかりの娘と共に平穏な暮らしをしてい
た。ところが妻に美しさに目をつけた判事の策略によって彼
は無実の罪で捕えられ、15年の刑を処されてしまう。
そして15年後、刑期を終えた主人公がロンドンに帰ってくる
と、店の在った一帯は荒れ果て、妻子の姿もそこにはなかっ
た。
彼の理髪店の階下にはパン屋があったが、ミートパイが売り
物のその店は、肉の高騰でろくな商品が作れず、店も寂れて
いた。そして店に立ち寄った主人公は、女主人に正体を見破
られるが…彼は自らを判事への復讐を誓ったスウィーニー・
トッドと名告る。
これに、成長した娘や彼女に想いを寄せる若者、さらに『ボ
ラット』のサッシャ・バロン・コーエン扮するライヴァルの
理髪師とその助手などが絡み、世にも恐ろしい復讐劇が展開
する。
アメリカではRレイト、日本での公開もR−15。つまり未成
年者は鑑賞が制限されているものだが、それもうなずける内
容で、『チャーリーとチョコレート工場』の気分で観に行っ
たデップ+バートン・ファンには、かなり強烈な体験になり
そうだ。
でも、バートン監督の作風はこれが本来のものだし、その意
味では元からの監督のファンには納得という感じの作品にな
っている。それに、血の流れがチョコレートに見えないこと
もないが…いやいやこれは間違いなく血の色だ。
その他の共演者は、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リ
ックマン。それに、『ハリー・ポッター』シリーズに出演の
ティモシー・スポール。さらに脇役陣には、ロンドンの舞台
ミュージカルなどから若手が起用されている。
ボナム=カーターの歌は、『コープス・ブライド』でも披露
されていたが、リックマン、コーエン、それにデップの歌声
は未知だった。でも全員が見事な歌を披露しているもので、
特にデップは、楽曲自体があまり音域を要求されるものでは
なかったとは言え、堂々とした歌いっぷりで映画に納まって
いた。

『俺たちの明日』“우리에게 내일은 없다”
社会の底辺で暮らす2人の若者の物語。
主人公はレンタカー屋の車庫で働き、ビルの地下にあるスタ
ジオに住んで、気晴らしはドラムを叩くこと。そんな主人公
には弟のように保護している若者がいるが、実は以前に主人
公が彼に性的な障害を与え、以来負い目もあって目が離せな
くなっているようだ。
その若者は母親との2人暮らし、母親は彼の父に捨てられて
から宗教に填るなど、精神的に少しおかしくなっている。そ
して若者は、常々銃さえ手に入れば…と思っていたが、風俗
店で働いていたある日、偶然その銃が手に入ってしまう。
日本の映画でも過去にあったような、そんな若者たちの物語
だ。恐らくはこれが映画の生み出し続ける基本のテーマの1
つなのだろうし、こういう映画が連綿と作られているのが映
画の意味というものかも知れない。
どの作品も同じようなことが起き、同じような結末に終始す
るものではあるが、その作られる時代や場所の状況を背負っ
て映画は作られて行く。それは悪いことではないし、映画に
とって必要なもののようにも思える。
監督のノ・ドンソクは、韓国の映画アカデミーで学んだ俊英
で、本作が2作目。当然過去の作品も知っているだろうし、
その中で自分が今作るべき作品を作っているはずだ。その本
作で韓国の若者たちを熱狂させたというのだから、その考え
は正しいことになる。
出演者の中で、弟分を演じたユ・アインは、いわゆるイケ面
俳優として人気急上昇中の若手とのことだが、本作が映画デ
ビュー作。次回作は、日本製のコミックス『アンティーク〜
西洋骨董洋菓子店』の韓国版映画化だそうで、これから日本
でも話題を呼びそうだ。
そして主人公は、監督の第1作にも主演しているキム・ビョ
ンソク。プロフィールが公にされていない謎の俳優とのこと
だが、演技は的確にされていた。その他の脇役も、ほとんど
が監督の友人たちとのことで、そういうスタンスの作品のよ
うだ。
なお、撮影はパナソニックの760pヴィデオカメラで行われた
ようだが、監督インタヴューによると、ソニーのカメラに比
べて色調が淡くフジフィルムのような感じだったそうだ。と
いうことはソニーの色調はコダックなのかな?

『うた魂♪』
12月に主演作『東京少女』を紹介したばかりの夏帆主演で、
全国大会出場を目指す高校コーラス部の活動を描いた作品。
2004年函館港イルミナシオン映画祭・第8回シナリオ大賞を
受賞した脚本「あたしが産卵する日」の映画化。
夏帆が演じるのは、全国大会常連校のコーラス部でソプラノ
のパートリーダーを務める荻野かすみ。自分の歌声と容姿に
異常なくらいに自信を持ち、性格も自己中心的で、カメラが
趣味の生徒会長とも相思相愛と思い込んでいる。
そんなかすみは、実は周囲からは多少煙たがられているのだ
が、そんなことは全く意に介していない。ところがある日、
生徒会新聞に掲載された歌っているかすみの写真が、産卵中
の鮭の表情に似ていたことから、一気に自信を喪失してしま
うことになる。
これに、ガレッジセールのゴリが率いるヤンキー風の高校コ
ーラス部や、薬師丸ひろ子が扮する合唱部顧問(産休代員)
などが絡んで、青春を謳歌する物語が展開する。
2008年は「合唱」の年になるようで、すでにママさんコーラ
スが登場する『歓喜の歌』を紹介しているが、今度は高校コ
ーラス部の物語となった。
ここで同じような題材の作品が並ぶということには、多少の
危惧も感じてしまうところだが、内容的には、『歓喜の歌』
は舞台裏のすったもんだを描いているのに対して、本作は純
粋にコーラスで歌うことの喜びを描いたもので、その方向性
には違いがあるものだ。
実際に本作では、コーラス部員の発声訓練の様子や、コーラ
スを合わせていく過程なども描かれており、それだけコーラ
スが中心に据えられた作品であることがよく判る。
と言っても、それがコーラスのシーンになると、その画面か
ら受け取られる感動はいずれも同じようなものになってしま
うのだが…それを繰り返し感じたい思うのであれば、どちら
も観れば堪能できるという作品だ。
映画では夏帆たちのコーラスも見事だったが、ゴリたちの歌
う尾崎豊には異様な迫力があった。因に、夏帆たちのコーラ
ス部の指導はオペラ系の王真紀、ゴリたちの指導はゴスペル
系の吉田英樹が担当して、それぞれ実際に出演者たちが歌声
を披露しているそうだ。
また、審査員の役で男性コーラスグループのゴスペラーズが
登場し、夏帆たちが最後に歌うコーラスでは彼らの新曲が使
用されている。そして、映画の中では薬師丸も久しぶりに歌
声を披露している。
実は、娘が社会人のコーラスグループに参加していて、先日
もそのコンサートを見に行ったのだが、コーラスの迫力とい
うのは特別な感動を呼ぶもので、その感動がこの映画では特
に上手く表現されているように感じられた。

『魔法にかけられて』“Encanted”
ディズニーが、『白雪姫』や『眠れる森の美女』などの正統
派プリンセスを久しぶりに生み出したと言われる作品。最近
のディズニー映画でオープニングロゴとなっているお城が発
端の舞台となっている物語。
その城を支配する女王は、長年自分の地位が脅かされるのを
心配している。そして義理の息子である王子に運命の花嫁が
現れないようにしていたのだが、ある日、王子は森の中で動
物たちと一緒に暮らす女性ジゼルと出会ってしまう。
そして王子の求愛を受け、動物たちと手作りしたドレスで城
に向かったジゼルだったが…。そこで待ち受けていた女王の
策略に填って遠い世界へと飛ばされてしまう。そのジゼルが
辿り着いたのは、何と現実のニューヨークだった。
この最初の城の建つ世界(アンダレーシア)がアニメーショ
ンで表現され、ニューヨークに到着してからは実写で物語が
進行する。
ところが、この実写ではエイミー・アダムスが演じるジゼル
が、現実世界の中でも、まるでアニメーションの世界のよう
に「真実の愛」について歌ったり、踊ったりするものだから
話がややこしくなる。
しかも現実世界で彼女を助けるのが、自身もバツ1の離婚専
門弁護士なのだから、いくら「真実の愛」だといっても信じ
てくれるはずもない。そこに彼女の後を追って来た王子や、
さらに女王の手先までもがニューヨークに現れて…
共演者は、王子役に『X−メン』でサイクロプス役のジェー
ムズ・マースデン、弁護士役にテレビ『グレイズ・アナトミ
ー』などのパトリック・デムプシー、さらに、スーザン・サ
ランドン、『スウィーニー・トッド』にも出ていたティモシ
ー・スポールらが登場する。
カルチャー間のギャップというか、ディズニーが普段アニメ
ーションで追求している世界感を全部覆すのだから、これは
思い切ったことをしてくれた作品だ。でも最後には、ちゃん
と修復が在るのもディズニーらしいというところだろう。
なお映画は、『白雪姫』『シンデレラ』などへのオマージュ
やパロディも満載で、そんなものを探しながら観ているだけ
でも充分に楽しめる。その他、ジゼルがセントラルパークで
歌うシーンは『サウンド・オブ・ミュージック』だったり、
ディズニー以外のシーンも次々登場する。もちろんお子様向
け、でも大人は大人の楽しみ方もある作品だ。

『奈緒子』
「ビッグコミック・スピリッツ」に連載された同名原作の映
画化。
長崎県の離島の高校を舞台に、駅伝県代表の座を目指す陸上
部員たちが厳しい夏の合宿訓練に励む姿が描かれる。そして
そこには、小学校の頃に喘息療養のためにその島を訪れ、そ
の後は東京に戻っていた同年代の少女の姿もあった。
駅伝の国際名称はroad relayなのだそうだが、元々が日本発
祥の競技ということで、海外でもekidenのローマ字書きで通
用するそうだ。
その駅伝競走の距離、区間などは大会ごとに任意に決めてよ
いそうだが、本作の背景となる高校駅伝男子は、フルマラソ
ンと同じ42.195kmを7区間に分け、それぞれの距離は10km、
3km、8.1075km、8.0875km、3km、5km、3kmとなっている。
つまり、各選手が走る距離は10km〜3kmと幅がある訳で、こ
れにそれぞれの選手の特質や力量などに合わせて、出場メム
バーや走る順番などのチーム構成を決める面白さもある。そ
こにも駅伝のドラマが存在するものだ。
その辺のドラマについて、多分原作ではもっと克明に描かれ
ていると思われるが、映画ではその辺が省略されたのは残念
なところだ。でもまあ、2時間の上映時間ではそれも仕方が
ない。映画の中でそれなりに新人の抜擢などが描かれていた
のは、その片鱗とも言えるのだろう。
物語は、少女が過去の来島中に海に転落した事故が背景にな
る。それによって過去を引き摺らなくてはならなくなった少
女と、やはりその事故の影響を受けた陸上部のエースの再生
の物語が描かれる。それは駅伝の襷を繋ぐことの意味と重ね
合わされるが…
確かに最後に皆が繋がるということは描かれているが、それ
がレースの結果であったり、コーチの病気であったり、いろ
いろな要素で形成されるから、何か肝心なところが暈けてし
まった感じも持つ。昔のスポ根物の域を出ていない感じがし
たのは、その辺りにも原因がありそうだ。
とは言え、主演の上野樹里と三浦春馬が揃っていれば、そん
なことは別段問題にもされないのだろう。この他にも、ライ
ヴァル校を含む駅伝のメムバーとして、今が旬と言えそうな
若手俳優が大挙出演している。
最近のこの種の作品にはお決まりのようなオカマキャラも出
てこないし、あまりオチャラケることもなくスポ根物が描か
れているということでは、今の時期に作られるのも良いとい
う感じの作品と言えそうだ。

『胡同の理髪師』“剃頭匠”
北京の紫禁城も望める胡同(フートンと読み、路地の意味だ
そうだ)の古い住宅に1人で暮らす93歳の老人。毎朝6時に
起床し、1日に5分遅れる時計の針を合わせてネジを巻く。
そして仕事は、80年以上のキャリアを持つ現役の理髪師。
この老人の日常を、実際に92歳の現役理髪師の人を主演にし
てドキュメンタリーのように描いた作品。しかもそこには、
独居老人の問題や北京オリンピックを控えた街区の再開発の
問題なども描かれる。
フィクションで描かれた作品なので物語は判りやすく、また
ドラマティックにいろいろな問題が浮き彫りにされる。それ
は決して中国だけの問題ではないし、特に日本ではほとんど
共通の話題として語られそうな物語だ。
でも、映画はそんなことは別として、この老人がいろいろ機
智に富んだ語録を発したり、また古き良きものと殺伐とした
現代のものとが対比されたり、老人を軸としていろいろな出
来事が描かれている。
中には、正装の人民服を新調しようとする老人に対して、そ
のようなものはもう作る人もいないという、日本人には関係
ないけれどちょっと意外なエピソードもあったりで、いろい
ろ面白く観ることができた。
舞台の胡同は、そこに溢れる人情も描かれ、これこそ古き良
き時代というものだ。でも、それを形成する建物群には取り
壊しの表示が書かれていて、オリンピックイヤーを迎えて、
今はもう無いのかも知れない。そんな時代に対する思いを込
めた作品にも見えた。
なお、監督のハスチョローはモンゴル族の出身者だそうで、
従って北京のこの風景が原風景ではない訳だが、美しく描か
れた胡同やその周辺の映像は素晴らしかった。
一方、老人を演じたチン・クイ理髪師は、昔の京劇のスター
や日本軍の占領中には官僚の理髪も手掛けたとのことだが、
93歳の今もその技術は衰えていないようだ。その髭剃りのシ
ーンなどは見事だった。

『L』
2006年に公開された『デス・ノート』からスピンオフされた
作品。オリジナルで「死神のノート」を操る殺人鬼キラと対
決した天才プロファイラーLのその後の行動が描かれる。
物語の発端はタイ。その山間の村に致死性のウィルスが撒か
れ、住民が全滅する。しかしそこから罹病せずに脱出した少
年がいた。
一方、日本の細菌研究所では究極の致死性ウィルスの研究が
進められていた。それは人類の将来的な存在を懸念し、逆に
人類を絶滅させることで地球を救済しようとする過激組織の
目的に沿うものだった。そして、そのキーが1人の少女に託
された。
この2つの出来事がLの許で交錯し、人類が生み出した新た
な「死神」と、Lとの最後の闘いが描かれる。
オリジナルでLを演じた松山ケンイチが再びLに扮する。実
はオリジナルを観ていたときには、Lの存在を余りに戯画化
した演出が気に入らなかった。それが、キラの存在を際立た
せるための方策であったことは明らかだが、それにしても…
という感じを持ったものだ。
そして本作でも、Lの戯画的な演出は踏襲されてはいるのだ
が、今回の全体的なLの存在はバランスが良く感じられた。
それはキラの存在がないせいもあるのかも知れないが、今回
はLの存在が戯画化された中にもいきいきとした存在感を見
せていた。
もちろんこの描き方が原作の読者にどう受け取られるかは、
原作を知らない僕には未知数だが、この作品1本を取り上げ
るなら、このLのキャラクターは理解できる。
ただしその分、他の新登場キャラクターに戯画化の印象が強
いことは否めない。元々、マンガが原作なのだから戯画化は
認められるべきかもしれない。しかしそこにおける存在感は
必要なはずだ。その存在感が今回のLには感じられたと思え
る。だが、その他のキャラクターに関しては…
実は、試写会で配られたプレス資料によると、一部の出演者
には監督の演技指導がされなかったようだ。その辺が原因か
とも思えるところだが、ハリウッドでも認められた中田秀夫
監督をして、何故そうなのかを知りたいところだった。

他の出演者は、福田麻由子と福田響志の子役に加えて、工藤
夕貴、鶴見辰吾、高嶋政伸、南原清隆ら。また、CGIのリ
ュークを含めて前作の登場人物たちも顔を見せる。

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』“藍莓之夜”
ウォン・カーウァイ監督で、2007年のカンヌ映画祭オープニ
ングを飾った作品。
監督の前作『2046』は、SFという事前の情報もあって
期待して観に行ったものだが、まあ何と言うかストーリーも
支離滅裂で、何とも評価に困る作品だった。
それで今回も多少心配をしながら試写会に向かったのだが、
さすが2作連続で同じ轍を踏むことはなかったようだ。その
意味では、かなりの安全作とも言える感じの作品で、落ち着
いて観られる物語が展開していた。
物語の発端はニューヨーク。その街のとあるカフェに、1人
の女性客が現れる。彼女は売れ残りのブルーべリーパイを食
べ、カフェの男に預けたアパートの鍵の話をする。その店で
は、いろいろな人から預かった鍵が、大きなガラス瓶の中に
保管されていた。
そして彼女は立ち去るが、やがて彼の許に彼女からの手紙が
届き始める。それにはニューヨークから遠く離れた場所で、
彼女が関った人々の物語が綴られていた。
このカフェの男にジュード・ロウが扮し、旅をする女性を歌
手のノラ・ジョーンズが演じて映画デビューを飾っている。
さらに彼女が旅先で出会う人々として、『グッドナイト&グ
ッドラック』でオスカーにノミネートされたデイヴィッド・
ストラザーン、『ナイロビの蜂』で受賞のレイチェル・ワイ
ズ、『クローサー』で候補になったナタリー・ポートマンら
が登場する。
物語は、ニューヨーク、メンフィス、そしてラスヴェガスで
展開されるが、それぞれいろいろな形の愛を描いたもので、
その物語がまず素晴らしかった。
『2046』では、監督は事前に脚本を書かず、当日俳優や
スタッフにメモを渡して撮影を行ったと聞いたが、本作では
事前にローレンス・ブロックと共同で脚本が作られたという
ことで、その辺は多少やり方が違っていたようだ。
それでも俳優の役作りはかなり自由に任され、撮影中に監督
と俳優が一緒になって役を作り上げていったそうだ。
その中でジョーンズの演技は、初めてとは信じられないくら
なもので、さらにその彼女を暖かい目で見つめ続けるロウの
演技が素晴らしく、それだけでも観る価値を感じる作品だ。
なお本作は、カーウァイ初の英語作品となっている。



2008年01月01日(火) 第150回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 明けましておめでとうございます。
 年初に個人的な話で恐縮ですが、実は昨年末に勤務先を退
職し、しばらくはフリーで映画中心の生活を満喫することに
なりそうです。そこで、今まで遅れ気味だった製作ニュース
の更新も出来るだけ1日、15日の定期に行うようにし、また
映画紹介は、毎週日曜日に週報の形で更新したいと思ってい
ます。出来る限り頑張りますので、これからもよろしくお願
いいたします。
        *         *
 では、新年最初のニュースは、この待望の話題から。
 “Lord of the Rings”を巡るピーター・ジャクスンと、
配給会社ニューラインの裁判が最終的に決着し、“LOTR”の
前日譚となる“The Hobbit”(ホビットの冒険)の映画化が
正式に発表された。しかもこの映画化には、1977年に同作の
アニメ版を手掛けたMGMが共同製作で参加、万全の体制で
の製作が進められそうだ。
 なお映画化は、ビルボ・バギンズが「指輪」を手に入れる
までを描いたJRR・トールキンの原作と、さらにそこから
発展させて、ジャクスンらが検討した『旅の仲間』までを繋
ぐ新たな物語が作られ、これらの物語がそれぞれ実写で2本
同時に製作される。また撮影は2009年に開始され、2010年、
2011年の連続公開が予定されている(一時は、3部作という
情報もあったが、今のところは2部作になるようだ)。
 ただし、ジャクスン自身が監督を手掛けるかという点はか
なり微妙で、実は現在製作中の“The Lovely Bones”が完了
するまでは具体的には動けないという事情もあるようだが、
その後にはスティーヴン・スピルバーグと共同でコミックス
を映画化する“The Adventure of Tintin”の計画も進んで
いて、スケジュールは満杯の状態。
 このため『ホビット』の監督は他人に任せる可能性が高い
とのことで、その監督には、以前にも紹介した『スパイダー
マン』のサム・ライミが最有力候補として取り沙汰されてい
る。因にライミ監督は、以前インタヴューで、「ジャクスン
が監督するなら、それに越したことはない」とも発言してい
るが、やれるならやりたいという意志表明も行っており、製
作者たちも替えるならライミしかないという意見のようだ。
さてどうなるのだろうか。
 映画の配給は、アメリカ国内ニューライン、海外はMGM
という振り分けになるようだ。
        *         *
 ところで、ジャクスンとスピルバーグが進めている“The
Adventures of Tintin”の製作では、原作のキャラクターの
イメージを壊さないために、フルディジタルの3Dアニメー
ションによる映画化が発表されているが、そのためのモーシ
ョンキャプチャーを行う演技者として、アンディ・サーキス
の出演契約が発表されている。
 サーキスは、“LOTR”でゴラム=スメアゴルを演じ、さら
にジャクスン監督版“King Kong”でもコングの動きを担当
した人だが、今回の契約では、Tintin以外の1または複数の
役柄を演じるとされている。つまり、主人公Tintinのモーシ
ョンキャプチャーには別の俳優が起用されるようだが、サー
キスにも複数本の出演契約がされているとのことで、3部作
が予定されているシリーズに繰り返し登場する役柄の配役と
なりそうだ。
 なお撮影は、最初の1本が2008年9月に開始の予定で、ジ
ャクスンとスピルバーグはキャスリーン・ケネディと共に製
作も担当し、それぞれが少なくとも1本を監督するとなって
いる。撮影は、ジャクスン主宰のニュージーランドのVFX
工房Wetaディジタルで行われ、製作会社はドリームワー
クス、配給はパラマウントが担当する。
        *         *
 一方、『ホビット』の監督にも取り沙汰されているサム・
ライミ監督に関しては、次回作の“Drag Me to Hell”で、
久々に彼のルーツであるホラー映画のジャンルに戻って来る
ことが発表された。
 この作品の内容は、超常現象を扱ったものとしか報告され
ていなかったが、実は兄のアイヴァンとの共同で執筆された
脚本は、1992年の“Evil Dead 3”(キャプテン・スーパー
マーケット)の頃にすでに完成されていたものとのことで、
元々は“The Curse”という題名の付けられた“Evil Dead”
シリーズにも繋がる恐怖満載の作品だそうだ。
 因に監督は、自らの主宰でゴーストハウスというジャンル
映画プロダクションを設立して、アメリカ版の『呪怨』シリ
ーズや、パン兄弟監督の『ゴースト・ハウス』なども手掛け
ているが、今回は初めてそのプロダクションで「ライミ監督
作品」が製作されることになる。
 またゴーストハウス社では、スティーヴ・ナイルズ原作・
脚本、デイヴィッド・スレイド監督、ジョッシュ・ハートネ
ット主演によるコミックスの映画化“30 Days of Noght”が
2007年10月に全米公開された他、ライミ監督の出世作となっ
た1981年“Evil Dead”(死霊のはらわた)のリメイクを準
備中とのことだ。
 なお、今回報告された作品の撮影は、2008年早期に予定さ
れているが、配給会社は未定とのこと。そして監督は、この
作品の後に“The Hobbit”に入る体制を整えているとの証言
も報告されていた。
        *         *
 ここからは、少しだけ一般映画の情報を紹介する。
 まずは前々回にブラッド・ピットの降板(ラッセル・クロ
ウが代演する)を報告した“State of Play”から、さらに
エドワード・ノートンも離脱することが発表された。
 その理由に関しては、ノートンが自ら製作も担当している
コメディ作品“Leaves of Grass”の撮影が重なったためと
発表されているが、ユニヴァーサルが親友のピットを訴える
としたことも原因ではないかと噂されているようだ。
 そしてその代役には、ベン・アフレックが発表された。ア
フレックは、『ハリウッドランド』にジョージ・リーヴス役
で主演した後は、初監督作品の“Gone Baby Gone”を手掛け
ていたために少し間が開いていたが、すでに脇役作品1本に
出演し、実現すれば主演復帰作となるものだ。
 一方、先に降板したピットには、テレンス・マリック監督
作品“Tree of Life”への出演が噂されている。この作品で
ピットは、先に降板したヒース・レジャーへの代演となる。
因にピットは、“State…”での出演料は2000万ドルだった
が、“Tree…”では金額が明記されていないそうだ。ただし
この計画では、共演のショーン・ペンが、ガス・ヴァン・サ
ント監督の“Harvey Milk”にも関っていて、どちらを撮る
かという状況もある。
 まさに玉突き状態という感じだが、いずれにしても脚本家
に続いて、夏には俳優(SAG)、監督(DGA)の参戦も
予定されるストライキのお陰で映画の都は大混乱のようだ。
        *         *
 お次はテレビからの映画化で、1983−87年にジョージ・ペ
パード主演で製作されたアクションシリーズ“The A-Team”
(特攻野郎Aチーム)の映画版がジョン・シングルトン監督
で進められることになった。
 オリジナルは、ヴェトナム戦争を背景に、極秘の特殊任務
に従事する多彩なメンバーの活躍を描いたもの。そして今回
の映画化では、オリジナルでMr.Tが演じた副主人公のBA役
に、監督のデビュー作『ボーイズ'ン・ザ・フッド』に主演
したアイス・キューブの出演も噂されている。
 また物語も、ヴェトナム戦争からイラク戦争を背景にした
ものにアップデイトされ、石油の利権を巡っての特殊任務が
遂行されることになるようだ。製作は、オリジナルも手掛け
たスティーヴン・J・キャネルが担当している。製作会社は
フォックス。ただし会社としては夏のSAG/DGAのスト
ライキ前の計画進行はないとしているものだ。
 ところがこの発表に伴って、前々回紹介したSFスリラー
“Executive Order: Six”からのシングルトン監督の離脱も
報告されたようだ。“Executive…”の撮影は、2008年初旬
となっていたもので、それなら今回の計画とはぶつからない
はずだが、これは一体どうしたことだろうか?
        *         *
 ダコタ・ファニングの次回作で、クイーン・ラティファ、
ソフィー・オコネド、ジェニファー・ハドソンとの共演が発
表された。
 この作品は、2002年に発表されたスー・モンク・キッド原
作の小説“The Secret Life of Bees”を映画化するもの。
物語は、1964年のサウスカロライナを舞台に、幼くして母親
を亡くした14歳の主人公が、父親との確執からハドソン演じ
る家政婦と共に家出を決意する。そして助けを求めて養蜂家
の3姉妹と出会い、そこでいろいろな出来事の中、成長して
行く姿が描かれるというものだ。この養蜂家の3姉妹役に、
ラティファ、オコネドと、歌手のアリシア・キーズの出演が
予定されている。
 ジーナ・プライス=バイスウッドの脚色・監督で、撮影は
1月9日に開始される。なお第146回で紹介したファニング
姉妹共演の“My Sister's Keeper”の撮影は、2月に開始の
予定になっている。
        *         *
 ヨーロッパ発の情報で、コンスタンティン・コスタ=ガヴ
ラス監督が、1969年の『Z』以来となる母国ギリシャでの映
画製作を発表した。
 作品は“Eden Is West”と題されているもので、内容は、
EU諸国の中で苦しい生活を続けている違法入国者に関する
ものということだ。脚本はコスタ=ガヴラスと、彼の長年の
協力者のジャン=クロード・グルンバーグが執筆。こちらも
長年の相棒のパトリック・ブロシエルの撮影監督で、撮影は
3月に開始される。
 コスタ=ガヴラスの作品では、2005年の“Le Couperet”
(斧)が同年のフランス映画祭横浜で上映されているようだ
が、『Z』などは自分の映画経験の中でも大きな位置を占め
ているもので、今回の作品が話題となって日本でも正式に上
映されることを期待したいものだ。
        *         *
 第148回で脚本家ストライキによる頓挫を報告したトム・
クルーズ主演、コロムビア作品“Edwin A.Salt”について、
俳優監督のピーター・バーグが監督を引き継いで、計画通り
実現する可能性が出てきた。
 この作品は、第140回でも紹介したようにCIAの係官が
上司から二重スパイと疑われ、身の潔白を証明するために自
らの家族関係を再構築しなければならなくなるというお話。
『リクルート』などのカート・ウィマーの脚本で、クルーズ
はタイトルロールのCIA係官を演じるものだ。
 そして監督に名前の挙がったバーグは、2003年にドウェイ
ン“ザ・ロック”ジョンスンが主演した『ランダウン』など
の監督で知られるが、実は俳優としてもテレビの『シカゴ・
ホープ』で5年間に渡ってレギュラーを務めるなど活躍して
いる人。今回の起用ではクルーズを監督するのはもちろん初
めてだが、2004年の『コラテラル』と、新作の“Lions for
Lambs”では俳優として共演もしており、その点では気心の
知れた人材からの起用と言えそうだ。
 なおバーグ監督は、ウィル・スミスの主演で、6月公開予
定の“Hancock”という作品をコロムビアで撮り終えたとこ
ろだが、実はこの作品は、第21回などで紹介した“Tonight,
He Comes”がいろいろ変遷の末に実現したもの。零落れたス
ーパーヒーローを描くこの作品は、最近You Tubeに予告編が
公開されたが、それを観るとかなり面白そうだ。今回報告の
監督が決まると、そのポストプロダクションとの並行作業も
予想されることになるが、同じスタジオでならそれもやりや
すいと考えられ、実現を期待したいところだ。
        *         *
 というところで、ここからはSF/ファンタシー系の情報
を紹介するが、最初の話題はもう1本ピーター・バーグ監督
で、1984年にデヴィッド・リンチの監督で映画化されたフラ
ンク・ハーバート原作“Dune”(砂の惑星)のリメイクが、
バーグの監督で進められることになったようだ。
 この計画は、実は昨年の10月頃から噂には上っていたもの
だが、今回はバーグ監督が自らインタヴューの中で認めたも
ので、その発言によると「ストライキがなければ、今頃は脚
色の作業に掛かっているところだ」とのことだ。
 1984年版は、ファンの間での評価は高かったが、興行的な
成功は得られなかったもので、その後にテレビでのミニシリ
ーズ化などもされているが、原作の壮大なスケールは、やは
り映画館の大スクリーンで観たいという意見も強いものだ。
そして今回のバーグ監督の発言では、「(自分は)リンチ作
品の大ファン」とも話しており、リンチ版のイメージを踏襲
した作品が期待できそうだ。
 因に1984年版では、VFXなどへの不満も聞かれたものだ
が、現在のディジタル技術を持ってすれば、それも存分なも
のが期待できる。現状は脚本も完成してはいない状況だが、
バーグ監督は“Edwin…”に続けてリメイクに取り掛かりた
いとしているもので、成功すればこれまた壮大なシリーズと
なる作品を期待したい。
        *         *
 ここからは続報で、3月15日の撮影開始が予定されている
McG監督、クリスチャン・ベール主演による“Terminator
Salvation: The Future Bigins”に関して、3部作が予定さ
れている新シリーズの第2作以降には、アーノルド・シュワ
ルツェネッガーの出演が期待できそうだとのことだ。
 これは製作者の1人のモリッツ・ボーマンが雑誌のインタ
ヴューに答えているものだが、まず物語について、実は新作
シナリオのラスト6〜7ページは、まだ製作に参加している
スタッフにも公開されていないのだそうで、そこでは第2作
以降に続く重大な秘密が明らかにされ、さらに映画はクリフ
ハンガーの状態で終ることになるようだ。
 そして第2作以降では、タイムトラヴェルが前のシリーズ
以上に重要なテーマとされ、全世界を支配しようとするコン
ピュータ=スカイネットとの闘いが時間軸も絡めて展開され
るとのことだ。従ってそこには、当然シュワルツェネッガー
によるターミネーターが登場することになる、これは物語の
構築上避けられないとしている。
 一方、その出演の可能性については、「アーノルドは常に
我々に協力的だし、彼には他にも重要な仕事のあることは確
かだが、それが出演の障害になるというものではない」との
ことで、結局出演が確定している訳ではないが、シリーズと
しては出演がないと成立しない、だから何としても出演を勝
ち取りたいという意向のようだ。
 まあ、政務に支障がなければ、日本の県知事だってテレビ
のヴァラエティ番組に出ている訳だから、アメリカの州知事
が映画に出られないことはないと思われるが、果たして出演
は叶うものかどうか。もちろんその前に映画のヒットが条件
にはなるものだが…。
        *         *
 2004年10月1日付第72回で紹介のヘンリー・セリック監督
“Coraline”について、その一部の映像がYou Tubeサイトの
“Coraline Sneak Preview”などで公開されている。
 作品はヒューゴー賞受賞作家のニール・ゲイマンが2002年
に発表した児童書の映画化で、物語は、主人公の少女が引っ
越してきた新しい家の秘密の扉を潜り抜けると、そこには別
世界が開けていて、その世界で彼女はヒロインになる資質を
備えていたというもの。そしてこの主人公の声を、ダコタ・
ファニングが演じることになっている。
 因に、公開された映像に登場のキャラクターはかなり大人
びた感じだが、1994年生まれのダコタも14歳になっている訳
で、そろそろ子役は妹に譲って、本人はこんな感じになりた
いのかなというところだ。
 なお他の声の出演者では、『シュレック3』でフック船長
を演じたイアン・マクシェーン、『デスパレートな妻たち』
のテリ・ハッチャーも登場するようだ。製作会社はフォーカ
ス。アメリカでの公開は2008年中に予定されている。
        *         *
 2005年5月15日付第111回で紹介した1981年レイ・ハリー
ハウゼン特撮作品“Clash of the Titans”(タイタンの闘
い)のリメイクについて、2003年『リーグ・オブ・レジェン
ド』を手掛けたスティーヴン・ノリントンの監督で進められ
ることが発表された。
 オリジナルは、ローレンス・オリヴィエのゼウス、クレア
・ブルームのヘラ、ウルスラ・アンドレスのアフロディーテ
などの豪華キャストでも話題を呼んだ作品だが、興行的には
成功しなかった。その作品のリメイクとなるものだが、今回
は脚本に、以前に紹介したトラヴィス・ビーチャムに加え、
何とローレンス・カスダンがリライトを担当しているとのこ
とで、『レイダース/失われた聖櫃』の手腕がどのように活
かされるか期待したいところだ。
 因に、カスダンがリライトを担当するのは、リー・ブラケ
ットの遺作を完成させた『帝国の逆襲』以来のことになるそ
うだが、それだけの魅力がこの作品にあるのならそれは期待
したいところだ。製作会社はワーナー。撮影は2008年に開始
され、公開は2010年に予定されている。
        *         *
 ゲームの映画化で、ナムコが発売している“Tekken”(鉄
拳)が、2004年『アナコンダ2』などのドワイト・リトル監
督で進められることが発表された。
 因にリトル監督は、最近はテレビで活躍していたようで、
その中には『プリズン・ブレイク』や『24』も含まれてい
る。しかし元々は1992年ブランドン・リー主演の『ラピッド
・ファイアー』なども手掛けており、今回のような近未来を
舞台にした格闘技アクションには向いていると言えそうだ。
脚本は『ラピッド・ファイアー』や、1997年の『スポーン』
なども手掛けたアラン・マッケルロイが担当している。
 製作会社は、『ゴースト・ライダー』なども手掛けたクリ
スタル・スカイ。撮影は2月4日開始の予定とのことだ。
        *         *
 最後は、昨年も新年第1回で報告したアカデミー賞VFX
部門の予備候補を紹介しておこう。
 まず、予備候補に挙げられたのは、原題のアルファべット
順に、『ベオウルフ』『ボーン・アルティメイタム』“Evan
Almighty”『ライラの冒険/黄金の羅針盤』『ハリー・ポッ
ターと不死鳥の騎士団』『アイ・アム・レジェンド』『ダイ
ハード4.0』『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者
の日記』『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エン
ド』『レミーのおいしいレストラン』『スパイダーマン3』
『サンシャイン2057』『300』『トランスフォーマー』、
そして『ウォーター・ホース』の15本。
 今回は、『ベオウルフ』『レミーのおいしいレストラン』
のアニメーション2本がVFX賞の候補になったことが特徴
とのことだが、それだけアニメーションの力が増してきたと
いうことでもあるようだ。しかしこれによって、『魔法にか
けられて』『ファンタスティック・フォー/銀河の危機』な
どがこの時点で落選と決まってしまったもので、その点に関
しては疑問をはさむ声も上がっている。
 基本的に、この時点で15本に絞るというのも変な話だが、
実はこの後にアカデミーVFX部門の会員が15本を全部観て
まず7作品に絞り、さらにそこから最終候補の3本を選ぶと
いう段取りだそうで、その手順のためにはここで15本に絞る
ことが必要だということだが…いずれにしても公にならない
ところでの落選というのは不満も湧きそうなものだ。
 因に、今年度のVFX部門の会員は264人、最終的な投票
権を持つアカデミー会員数は5829名だそうだ。


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井口健二