井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2007年08月31日(金) サッド ヴァケイション、アフター・ウェディング、レター、ジャンゴ、北京の恋、カタコンベ、ナンバー23

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『サッド ヴァケイション』
2000年の『EUREKA』でカンヌ映画祭国際批評家連盟賞
を受賞。同作のノヴェライズで第14回三島由紀夫賞を受賞し
た青山真治監督の新作。
デビュー作の『Helpless』、『EUREKA』に続いて、監
督の出身地である北九州を舞台にした3部作の完結篇という
位置づけの作品のようだ。と言っても、僕は前の2作は観て
いないのだが、物語は本作だけでも成立しているもので鑑賞
には全く問題はなかった。
そして本作では、観終えてちょっと意外な展開に感心もさせ
られた。
物語の主人公は、浅野忠信が演じる代行運転手の男。彼はあ
る事情を抱える知的障害者の少女と、中国人の少年と共に暮
らしている。
そんなある日、彼は送り届けた運送会社の社長の家で、幼い
頃に別れた母親を目撃する。母親の家出後、父親も亡くした
彼は、母親を見付けたら殺すと誓ってきたが、面と向かった
彼女の前では何もできない。そして母親は、彼に一緒に暮ら
すことを求める。
その運送会社には、免許を剥奪された元医師や、借金取りに
追われてびくびくと暮らしている男や、その他にもすねに傷
を持つ連中が集まって暮らしていた。そんな怪しげな連中を
社長は何も聞かずに保護していた。そしていろいろな事件が
起きるのだが…
この母親を石田えりが演じ、社長を中村嘉葎雄、従業員を宮
崎あおい、オダギリジョー、川津祐介、島田久作らが演じて
いる。その他、光石研、とよた真帆らが共演。
因に、浅野の役柄は『Helpless』と同じ人物、宮崎も『EU
REKA』と同じ人物で、光石や他にも前作に登場している
人物はいるようだ。でも本作での彼らの登場は自然で、前作
との絡みが問題になるような部分はほとんどなかった。
主人公は浅野が演じる男性だが、描かれているのは実は彼を
取り巻く女たちの物語のようにも観える。特に、母親像が鮮
烈に描かれている。その母親は観音様のような慈愛の笑みを
浮かべて、掌の上の男たちを操っている。そんなイメージが
湧いてくる作品だ。
男としては、こんな母親の前では手も脚もでないのだろう。
そんな女性の底深いしたたかさが描かれた作品。これはもし
かしたら、男にとっては最恐のホラー映画かも知れない。
なお本作は、8月末開催のヴェネチア映画祭で、<オリゾン
ティ部門>のオープニング作品として上映される。

『アフター・ウェディング』“Efter Brylluppet”
今年のアカデミー賞外国語映画部門にノミネートされたデン
マークのスサンネ・ビア監督作品。
内容に関しては全く予備知識なしに観ていて、何とも不思議
な感覚の作品だった。
物語の発端はインド。孤児を集めて学校を開いているヨーロ
ッパ人の男性が、資金援助を申し出たデンマークの資産家に
呼び出されるところから始まる。その学校には、特に彼が目
を掛けている少年がいて、彼は少年の誕生日までには戻ると
言い置いて出発するが…
そして訪れたデンマークでは、資産家の娘の結婚式に招待さ
れ、嫌とは言えない彼は招待を受ける。しかしそこには重大
な事態が待ち受けていた。
メロドラマということなのだろうが、かなり強引な展開で、
観客も主人公と同じくらいに翻弄される。しかし、こんな強
引な話なのに嫌みが無く、主人公に同化して事態の先行きに
悩まされるというのには、脚本の巧みさと言うか映画づくり
の上手さを感じた。
結局、主人公は資産家の思う壺に填ってしまう訳だが、それ
も資産家の描き方に嫌みが無いから、そのやり口にも納得さ
せられてしまうというところだ。
デンマークの俳優人には馴染みが少ないが、主演は、2004年
のジェリー・ブラッカイマー作品『キング・アーサー』にも
出演してたマッツ・ミケルセン。資産家役は、『マルティン
・ベック』シリーズに出ているロルフ・ラッセゴード。
また、1999年の『ミフネ』に出演のシセ・バベット・クヌッ
センが資産家の妻を演じ、その娘役を、本作でデンマーク・
アカデミー助演女優賞を獲得した弱冠20歳のスティーネ・フ
ィッシャー・クリステンセンが初々しく演じている。
古城で行われるデンマーク式結婚式の様子やコペンハーゲン
など北欧の風景も楽しめる。その一方で、インドのスラム街
で撮影された巻頭のシーンも圧巻だった。
なお監督は、すでにハリウッドに招かれ、ドリームワークス
の製作で、ハリー・ベリー、ベニチオ・デル=トロ共演によ
る“Things We Lost in the Fire”という作品を撮り終えて
いるそうだ。

『レター/僕を忘れないで』(タイ映画)
1997年製作の韓国映画をタイでリメイクした2004年の作品。
オリジナル版は、今年の韓流映画フェスティバルで上映され
た。
オリジナルは観ていないが、この種の作品をアジアでリメイ
クする場合には、ハリウッド的リメイクと異なり、舞台だけ
を変えて物語はそのまま映画化することが多いようだ。
ただしこの物語では、題名の通り手紙が重要な意味を持つも
のだが、本作では電子メール全盛の時代に手紙の持つ意味を
見事に捉えており、それが1997年のオリジナルでどうだった
のかは気になるところだ。
バンコクでIT企業に勤める女性が、唯一の肉親だった大叔
母の葬儀のためにチェンマイを訪れる。そこには大叔母の残
した住居があり、また、ある切っ掛けから地元で農業の研究
をしている青年と知り合い、電話での交際が始まる。
やがて彼女の側にちょっとした出来事が起こり、彼女はチェ
ンマイに戻ってくる。そして青年と結婚。在宅勤務の体制も
整えて、彼女は新生活をスタートさせるが…
実は物語の本筋はここからなのだが、映画はここまでの経緯
もたっぷり見せてくれるし、ここまでの物語も良い感じのも
のだった。また、ここから後半はちょっと捻った感動ものに
なるが、それも上手く構成されて全体にバランス良く作られ
た作品と言える。
オリジナルの韓国映画もあるから、物語はしっかりと練られ
ていたというところかも知れないが、先に書いたように手紙
と電子メールの関係などもあって、それが本作独自の脚色だ
としたらこの脚色は見事なものだ。
手紙のトリックは、この状況でここまでやれるかという辺り
では、ちょっと考えてしまうところだが、お話というところ
ではまあこれもありだろう。
個人的にはもっとファンタスティックな展開も期待したが、
これはこれで充分に満足できるものだ。それにその切っ掛け
となるエピソードがちょっと不思議な雰囲気を出しているの
も気に入ったところだ。
なお、脚本には、一昨年の東京国際映画祭で一番気に入った
『ミッドナイト、マイ・ラブ』の脚本/監督を務めたコンデ
イ・ジャトゥララスミーが参加している。彼は他に、昨年の
『ヌーヒン』の脚色や、『トム・ヤム・クン』の共同脚本に
も参加しているそうだ。

『スキヤキウェスタン・ジャンゴ』
6月に特別映像を紹介した三池崇史監督による全編英語台詞
の和製西部劇。
壇之浦の合戦から数100年後。平家の落人が暮らす寒村に、
1人のガンマンが現れる。根畑<ネバダ>の湯田<ユタ>と
いう名のその村には、平家の財宝が隠されているという噂が
あるらしい。
実は、同様の噂のあった別の村で実際に財宝が発見されたと
いうことで、その村にも平家と源氏の残党が集まってきてい
た。そして対立する両者の間で甘い汁を吸おうというのが、
どうやらガンマンの魂胆のようだ。
ところがその村には、美しい酒場のダンサーや、怪しげな雑
貨屋の女主人などがいて…
『ジャンゴ』というのは、フランコ・ネロ主演『続荒野の用
心棒』の原題なのだそうで、実は、本編の物語はその1966年
作の設定を巧みに利用したというか、オマージュを捧げたも
のになっている。
映画は、「平家物語」の書き出しの部分の台詞で始まって、
日本ムードを強調する反面、その裏にはマカロニウェスタン
の名作を踏まえる。この辺りには、三池監督の強かな計算を
感じさせる。これなら、特別映像の時に感じた危惧はかなり
緩和されるとも言えるし、特にヴェネチア映画祭には好適と
言えそうだ。
ただし映画のプロローグは、「新春スター隠し芸」の英語劇
を思わせるかなりトリッキーな始まり方で、ここで乗り損な
うとしばらくは辛くなる。多分この感覚は海外の観客には生
じないと思うが、日本人にはトラウマになりそうだ。
しかし、ここは特別出演のタランティン・クェンティーノが
うまく救っていて、本編はそれなりにちゃんとしたものにな
っている。その後も何度かあるタランティーノの登場シーン
は、それぞれが良いタイミングで、映画のバランスを良く整
えている感じがした。
記者会見では、香川照之が英語に苦労したと言っていたが、
僕は一番様になっていたようにも感じた。ダイアローグコー
チの発音を正確に真似たのだろうが、さすがプロの役者とい
うのは凄いと思わせてくれた。ネイティヴの人たちがどう聞
くかは判らないが…
ただ、彼の演じた二重人格という設定が、今の時期にはスメ
アゴルを思い出させてしまうのが、ちょっともったいなくも
感じられたものだ。
後は、ヴェネチアでどのような評価が下されるか。結果が楽
しみだ。

『北京の恋−四郎探母』“秋雨”
京劇を背景に、日中の若者の交流を描いた作品。
邦題に添えられている「四郎探母」は京劇の名作の一つで、
敵国に捕えられ身分を隠して生き長らえた男が、母親への思
慕に耐え切れずその国の王女でもある妻に自分の出自を打ち
明ける。そこで2人の愛の強さと歴史の重みが試されるとい
うもののようだ。
そんな物語をクライマックスに据えて、日中間の戦争の歴史
の重みの下で、京劇ファンの若い日本人女性と、新進の京劇
役者の中国人青年の恋愛が描かれる。
北京京劇院の元俳優・河は、北京の鉄道駅でネットで知り合
った橋社長を出迎えていた。しかしそこに現れたのは若い日
本人女性・梔子。京劇ファンの彼女は、祖父のネットの友人
が京劇関係者であることを知り、それだけを頼りに来てしま
ったのだ。
そんな梔子が河の家に住み込み、直弟子の徐や河の息子の鳴
と共に京劇を学んで行くが…
物語の中で旧暦大晦日の夜に4人が餃子を作りながら、「四
郎探母」の一節を掛け合いで歌うシーンがある。ここでは、
元女形の河と徐、梔子が交代で王女を演じ、鳴は四郎を演じ
るもので、歌唱は吹き替えだとは思うが、そのシーンは圧巻
だった。
ところがその直後に物語は暗転する。ここから後に語られる
事柄は、日本人としては真実であって欲しくないものだが、
真実であるかどうかは別として、中国の人たちの心の底にこ
ういう物語が真実として伝えられていることは知っておくべ
きことだろう。
上海の大虐殺もそうだが、日本の政治家がいくら事実ではな
いと高圧的に言い張っても、一種の都市伝説のようにもなっ
ている中国の人たちを説得できるものではない。それなら、
それが事実であるかどうかは別にして、真心からの交流を深
めることの必要性をこの映画は訴えているものだ。
そうとは採らない人がいることも、予想はされるが…

梔子役は、東京出身で外国人として初めて北京電影学院に合
格したという前田知恵。現在は帰国してNHK中国語講座な
どにも出演中のようだが、2004年製作のこの作品では初々し
く役を演じている。
脚本は、『北京ヴァイオリン』のシュエ・シャオルー、監督
のスン・ティエはテレビでのヒットメーカーだそうだ。

『カタコンベ』“Catacombs”
『SAW』シリーズなどを手掛けるツイステッド・ピクチャ
ーズ製作のサイコ・ハラスメント・スリラー。パリに実在す
る地下墓地を舞台に、迷路のようなその場所に迷い込んだア
メリカ人女性の運命を描く。
主人公のヴィクトリアは、何事にも積極的に立ち向かって行
けない内気な女性。そんな彼女に、ソルボンヌ大学に通う姉
からパリ訪問の誘いが掛かる。自分自身も変えたいと考えて
いた彼女はその誘いを受けてパリにやってくるが…
到着して早々、姉はその夜に開かれる秘密パーティにヴィク
トリアを誘い出す。それは本来なら許可がなくては立ち入り
禁止の地下墓地で、無許可で行うものだった。そしてヴィク
トリアは迷宮に迷い込んで行く。
パーティ会場内は英語が通じるという設定が、アメリカの観
客にはフレンドリーかなと思わせておいて、徐々にそれが転
換して行く展開は、なかなか巧みに作られていた。
脚本監督は、トム・コーカーとデイヴィッド・エリオット。
共に監督はこれが初作品のようだが、この内、エリオットは
ウィル・スミス主演予定の『プロ・スパイ』の映画版の脚本
なども手掛けている。
またコーカーは、元々が『X−MEN』や『バットマン』も
手掛けるイラストレーターで、コミックシリーズのクリエー
ターでもあるとのこと。映像的な構成などには、それなりに
ツボを得ている感じもした。
物語に特別な意味があるわけでもなく、謎解きやアクション
もあるものでもないが、追いつめられる恐怖を描く単目的で
は楽しめる。多分、観る人を選ぶ作品だし、一般の人には勧
めるつもりもないが、さすがに『SAW』のツイステッドと
いう感じのものだ。
ヴィクトリア役は、2001年公開のブライアン・ヘルゲランド
監督作品“A Knight's Tale”(ロック・ユー!)のヒロイ
ンでデビューしたシャニン・ソサモン、姉役をグラミー賞歌
手のP!NKことアリシア・ムーアが演じている。
また、メインテーマを元X-JapanのYOSHIKIが担当していて、
彼のプロジェクトVIOLET UKによる“Blue Butterfly”とい
う曲がエンディングに流れるのも話題になりそうだ。

『ナンバー23』“The Number 23”
マヤの暦では2012年12月23日に世界は終わるのだそうだ。そ
んな数字の23にまつわる神秘に取り付かれることを、23エニ
グマと呼ぶらしい。
本作は、そんな23エニグマを背景に、ふと手にした本の登場
人物の生い立ちが自分の人生に酷似し、しかも23エニグマに
取り付かれていることを知った瞬間から、主人公に襲いかか
る恐怖を描いた作品。
自分を描いているとしか思えない本で、しかもその主人公が
破滅的な結末に向かっているとしたら、これはかなり恐怖に
陥りそうだ。そんな恐怖をこの作品では、見事に捻りを利か
せた展開で納得のできる物語に仕上げている。
ウィリアム・S・バロウズも取り憑かれたという23エニグマ
については、多少知識はあったものだが、こんなに深い状況
になっているとは知らなかった。
心理学的にはアポフェニアと呼ばれる現象で、確か数学的に
もこの数字に帰着しやすいことは証明されていたようにも思
うが、『ビューティフル・マインド』と同じで、ちょっとし
たタイミングで取り憑かれると恐ろしいことになりそうだ。
そんな興味深い背景の物語だが、本作ではさらにそれに2重
3重の展開が物語を深くしている。脚本は、ファーンリー・
フィリップス。プロとして売り込んだのはこれが最初という
新人だが、早くも次の作品はブライアン・シンガー監督で予
定されているようだ。
主演は、ジム・キャリー、ヴァージニア・マドセン。それぞ
れ現実と本の登場人物の2役を演じるが、キャリーには最初
にもう一役あったようにも思える。
監督は、『オペラ座の怪人』のジョエル・シューマッカー。
初期には『フラットライナーズ』や『ロストボーイズ』など
ちょっとオカルト的な題材も手掛けているから、この手の心
理的恐怖はお得意という感じのものだ。
ただ、巻頭のタイトルバックで、「タイタニック号の沈没は
1912年4月15日」とか、「ヒトラーの自殺1945年4月」など
出てくるが、これが1+9+1+2+4+1+5=23などの解説がないと、
何やらさっぱり判らない。アメリカでは、これだけで判るほ
ど23エニグマが有名なのかも知れないが、日本では字幕だけ
でも何か工夫が欲しい感じがした。



2007年08月20日(月) 自虐の詩、ロケットマン、ローグ・アサシン、4分間のピアニスト、クワイエットルームにようこそ、さらばベルリン、幸せのレシピ、シッコ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『自虐の詩』
1985〜90年に週間宝石で連載された業田良家原作の4コマ漫
画を、中谷美紀と『ケイゾク』、阿部寛とは『トリック』を
手掛けた堤幸彦監督が、その2人の共演で映画化した作品。
田舎では、幼い頃に母親が家出、父親も銀行強盗で刑務所送
り。そんな女が都会に出ても、結局寄り添う相手は元やくざ
で定職もなく、何かというと暴力を振るって警察沙汰になる
ような男。それでも女は、最悪の時期を救ってくれた男から
離れることができない。
そんな社会の最底辺で生きる男女を軸に、人生の機微をユー
モラスに描いた作品。
男は、気に触ることがあると卓袱台をひっくり返す。「巨人
の星」でも有名なこのシーンが、多分4、5回はあったと思
うが、本作では実写で見せてくれる。ご飯や味噌汁、湯飲み
のお茶などが見事に吹っ飛ぶものだ。
本作はHDで撮影されたもののようだが、ということは、こ
のシーンの撮影はスーパースローで行われたのだろう。見事
なスローモーションに、さらにCGIも合成して、かなり見
栄えの良いシーンが展開されていた。
CGIはこの他にも、幻想的なアニメーションから、最後は
超低空で飛ぶジェット旅客機まで要所要所にさりげなく、う
まく使われていて、そのセンスも良い感じだった。
まあそれだけ観ていても面白い作品だが、さらにストーリー
では、何でこんな男について行くのだろうという女の性が、
丁寧に描かれていて、最後はほろりとさせられる見事な展開
になっていた。もちろん御都合主義もいろいろあるが、所詮
はこんなものだ。
自分の信条としては、小市民の小さな幸せというのは、バブ
ル崩壊後の日本政府が国民に押しつけた最悪の理想像だと考
えているが、現実にそこから脱出したくてもできない人々が
大半なのだから、ここまで極端ではないにしても共感を呼ぶ
ところは多い物語だ。
共演は、遠藤憲一、カルーセル麻紀、松尾スズキ、竜雷太、
名取裕子、西田敏行。他に、ミスターちん、Mr.オクレ、斉
木しげるなど。また、主人公とその親友の中学生時代を演じ
た岡珠希と丸岡知恵の子役2人がなかなか良かった。

『ロケットマン』(タイ映画)
タイ米の輸出品としての価値が高まり、その増産を助けるた
めに必要な場所への農耕用牛の移動が行われている。一方、
農業の近代化のためトラクターの導入も始まっている。そん
な1920年代のタイ農村部を舞台にしたアクション映画。
ナイホイと呼ばれる牛飼いたちが盗賊団に襲われる事件が頻
発し、主人公の両親も盗賊団に殺害される。そして傷を負い
ながらも寺に匿われて生き延びた主人公は、寺の許可の許、
復讐に立ち上がる。その仇は胸に紋章を彫られた男だった。
そして主人公は、タイ古来の豊穣の祭りに打ち上げられる竹
筒ロケットの技術を習得し、ロケットマンとして盗賊団の征
伐に乗り出す。ところが、盗賊団の中に胸に紋章の彫られた
妖術師が現れ、その術を破ることができない。
そこで主人公は、別の呪われた妖術師の許を訪ね、妖術を破
る方法を教えられるが…
これに、妖術師の娘やトラクターの輸入業者らも絡むから、
話は結構複雑だ。しかも、これがちゃんと整理されていない
から、なぜそうなるのか今いちピンと来ないところもある。
タイ映画の脚本の弱さについては、2005年11月頃に紹介した
『バトル7』でも指摘したが、実は本作の監督は、その同じ
人でこれは仕方がなかった。結局、脚本の弱さをアクション
の面白さで誤魔化してしまおうという魂胆のようだ。
そこで本作では、アクション監督に『マッハ!』『トム・ヤ
ム・クン』などのパンナー・リットグライがタッグを組んだ
もので、さらにVFXも絡めたアクションはなかなかの観も
のになっている。なお、リットグライは妖術師役で10数年ぶ
りに出演もしている。
主人公を演じるのは、『七人のマッハ!!!!!!』で主演デビュ
ーしたダン・チューポン。ムエタイを基本にした格闘技と、
今回はワイアーも使って大掛かりなアクションも見せてくれ
る。それに大量の竹筒ロケットが飛び交う光景は、なかなか
壮観だった。
タイの竹筒ロケットは、先日日本のテレビ局がお笑い芸人を
現地に送り込んで、その製作過程のレポートを放送していた
が、いろいろノウハウもあるようで面白かった。本作でも製
作過程はそれなりの紹介されていて興味深いものがあった。
それから、本作では1920年代トラクターの多分本物が現役で
動くシーンも登場し、それも面白かった。

『ローグ・アサシン』“Rogue Assassin”
『SIIRIT』のジェット・リーと『トランスポーター』
のジェイスン・ステイサムがバトルを繰り広げるアクション
作品。
ステイサムが演じるのはFBI捜査官。ある日の捜査で彼は
同僚と2人でアジア系の組織を壊滅させ、そこに現れたロー
グと呼ばれる殺し屋を同僚が銃撃。ローグは川に転落する。
ところが数日後、その同僚の住む家が襲われ、一家は全滅。
そしてそこには、ローグが襲った証拠が残されていた。
それから数年後、主人公の前に再びローグの姿が現れる。仕
事の度に整形で顔を変えるローグは人相不明だったが、主人
公はジェット・リーの演じるその男がローグであることを確
信する。そしてローグは、中国系組織と日本のやくざが抗争
する西海岸で暗躍を開始する。
中国系組織のトップを『ラストエンペラー』などのジョン・
ローンが演じ、日本やくざのボスを石橋凌が演じている。他
に、デヴォン青木、ケイン・コスギらが共演。まさに日中の
共演で、このキャスティングは納得した。
そしてアクションは、銃撃戦からチャンバラ、格闘技、さら
にはリーお得意のワイアーアクションまで、たっぷりと観せ
てくれる。しかもどれもがかなりリアルに描かれているのは
良い感じだった。アクション監督は、『トランスポーター』
のコーリー・ユエンが担当している。
なお、試写状には、上映はアメリカ公開版で、日本公開では
ヴァージョンが変わるという注意書きがされていた。それで
試写会では、日本公開版ではせりふの一部が吹き替えになる
という説明だった。
というのは、本編は英語、中国語、日本語がそのまま飛び交
うものだが、一部日本語の台詞がたどたどしくて聞き辛かっ
たものだ。従ってその辺が公開版では吹き替えになるようだ
が、実は前半でステイサムが日本語を話すシーンがあって、
それはなかなか良い雰囲気だった。できたら、ここだけは残
してほしいものだ。
また中国語、日本語の台詞には英語の字幕が付くが、これが
最初にちらっと原語の字幕が出てから、それが英語に変化す
る処理がされていた。全部がそうなっていた訳ではないが、
そのセンスも良い感じだった。
話は荒唐無稽だが、アクションは本物だし、その他にもいろ
いろ楽しめる作品だ。

『4分間のピアニスト』“Vier Minuten”
殺人犯として収監されている少女と、暗い過去を持つピアノ
教師の交流を描くドラマ。
その少女は、幼い頃から天才と謳われ、アムステルダムやニ
ューヨークへの演奏旅行も経験したが、養父との確執から反
抗的になり、ついには罪を犯し囚われの身となった。一方、
女教師もまた将来を属望されたピアニストだったが、ある出
来事が彼女にその栄光を捨てさせた。
そんな2人が巡り会い、少女の才能を見抜いた教師は、自分
の過去を償う最後のチャンスとして、少女の成功を夢見る。
しかしそこには数々の障害が待ち構えていた。そしてそれら
の障害を乗り越え、最後に許された4分間に少女が演奏した
曲は…
昨年以来、日本ではクラシックブームが訪れているようで、
その影響もあってか音楽演奏を絡めた映画が目に付くように
なってきた。本作もそんな1本と言えるものだ。しかしこの
作品では、そこに歴史的な背景を絡めて、深く心に残るドラ
マに仕上げている。
日本は、戦犯の孫が祖父を神に祀れと主張して選挙に出るよ
うな国だが、ドイツにおける戦争犯罪の重さは、常に被害者
意識の日本人とはかなり違うものだ。その女教師の罪の重さ
を、そしてそれが彼女の行動の原動力になっていることを、
本作は見事に描き出す。
しかも、その行動がかなり尋常でないことも、本作の魅力に
なっているところだ。その傾向は、映画の中で演奏される音
楽にも共通に現わされていて、クラシック音楽が主題の作品
の巻頭に、ハードロックが鳴り響いた辺りから見事に作品が
作られて行く。
この感覚が映画全編にリアリティを与え、最後の感動へと導
く構成も見事に感じられた。
少女役は、本作までほぼ無名の新人だったハンナー・ヘルシ
ュプルング、老女教師役は、『ラン・ローラ・ラン』などの
モニカ・ブライブトロイ。本作では2人揃ってドイツ映画ア
カデミーの主演女優賞にノミネートされ、ブライブトロイが
受賞しているものだ。
また、ピアノ演奏には2人の日本人女性ピアニストが参加し
ており、劇中のシューベルトの楽曲は木吉佐和美、そして、
最後の圧倒的な演奏は白木加絵という人が担当している。特
に最後の曲は、それだけのためにもう一度映画が観たくなる
ほどのものだった。

『クワイエットルームにようこそ』
劇団「大人計画」の主宰松尾スズキが、2006年芥川賞候補に
もなった自らの原作を映画化した長編監督第2作。目覚めた
ら精神病院の閉鎖病棟に収容されていた女性ライターの、退
院するまでの14日間を描く。
主人公は、駆け出しの女性ライター。依頼された800字のエ
ッセーが締め切りの日になっても仕上がらず、アルコールと
睡眠薬の過剰摂取で昏睡状態となる。そして自殺の可能性あ
りとの診断で、閉鎖病棟の保護室に5点拘束されてしまう。
自分も物書きの端っこにいる人間だから、主人公の追い込ま
れた心情もよく判るし、他に個人的な体験もあって、比較的
重く感じる作品だった。
監督自身が舞台挨拶で、思いのほかヘヴィな作品になったと
言っていたが、この題材を真摯に捉えれば、重くなるのは仕
方がない。でもその重さを、重苦しくは感じさせずに、しか
も前向きに描いている点では気持ち良く観られたものだ。
女子精神病棟ということでは、1999年に公開された“Girl,
Interrupted”(十七歳のカルテ)が思い出されるが、共通
するところもあり、しないところもあって、それぞれが現代
の病を丁寧に描いているように思える。
それは、決して精神病と呼べるようなものではないのだが、
何かの(誰かの)都合で精神病として括ってしまえば都合が
良い、そんな現代人なら誰でも陥ってしまう可能性のある状
況の物語だ。
出演は、主人公に内田有紀、摂食障害患者に蒼井優、過食症
患者に大竹しのぶ、看護婦にりょう、主人公の夫に宮藤官九
郎、その子分に妻夫木聡。他に、映画監督の塚本晋也、庵野
秀明、お笑いのハリセンボン、さらに俵万智、漫画家の河井
克夫、しりあがり寿など、出演者も普通と普通でない顔ぶれ
が揃っている。
作品は、先に重いと書いてしまったが、それは取り様で、笑
いの要素はコメディ映画の水準以上のものになっている。そ
れもかなりスマートな笑いで、苦笑というようなものではな
いから、映画としては気持ち良く観られたものだ。
でも、現代人ならどこかにぐさりと来るところもある作品。
現代人が、自分自身を確認するために観たい作品と言えるか
も知れない。

『さらば、ベルリン』“The Good German”
ヨーロッパ戦線は終結したが、まだ日本との闘いはまだ終っ
ていない。そして終戦に向けてのポツダム会議が開かれる。
そんな時期のベルリンを描いたドラマ。そこでは、英米ソ連
の軍隊が地域を仕切って占領管理をしている。
その中で1人の女性を巡って、各国の駆け引きが行われる。
スティーヴン・ソダーバーグ監督とジョージ・クルーニー、
ケイト・ブランシェット、トビー・マクガイアが描き出す終
戦秘話。
1945年、ベルリン。クルーニー扮するジャーナリストが空港
に降り立つ。彼の来訪は、ポツダム会議の取材という名目だ
が、実は戦前のベルリンで恋人だったドイツ人女性を国外に
脱出させることが目的だった。
そんな彼の運転手を努めるのが、マクガイア扮する伍長。好
青年を装う彼は、実は軍用車で各地域がフリーパスなのを利
用して、闇物資で荒稼ぎをしていた。そして彼の愛人は、ジ
ャーナリストが探している女性(ブランシェット)だった。
彼女の元夫はナチ親衛隊、その関係で彼女の交通は極めて制
限されている。そんな中で彼女を脱出させることに腐心する
ジャーナリスト。しかし、そこにいろいろな事件が起こりは
じめ、やがてそれは大きな秘密へと辿り着く。
戦中、戦後の混乱期のいろいろな出来事が暴露される。そこ
にあるのは、V2ロケットの開発やユダヤ人収容所の問題な
ど、現代史を揺り動かした大きな出来事の陰の部分だ。物語
はもちろん架空のものだろうが、当時の次の敵はソ連と見据
えたアメリカの暗躍が暴かれる。
全体の雰囲気は、『カサブランカ』を思わせるように創られ
ている。しかしその内容は、ロマンティックと言う言葉から
は程遠く、もっと現実的に醜いものだ。特に最後の女性の言
葉には、改めて真実の恐さを知らされた感じがした。

なお、作品は完全なモノクロームで製作されていて、最初に
ちょっと縦長のWBのマークが出たときには思わずニヤリと
したものだ。ただし、モノクロ画面では打ち抜きの字幕が白
い背景で多少見辛くなっていて、その辺は公開までに修正し
てもらいたいと思った。

『幸せのレシピ』“No Reservations”
キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アアロン・エッカート、ア
ビゲイル・ブレスリンの共演で描くニューヨーク人気レスト
ランの厨房物語。
主人公は、ニューヨークで人気のレストランの女性シェフ。
腕は超一流、部下との関係も良好で、仕事も順調だが、多少
短気で、料理に少しでも文句を付けられると、客も追い返す
剣幕になる。そして、それを心配した店主からは、カウンセ
リングを受けることを命じられている。
そんなある日、彼女の姉が交通事故で死亡、幼い娘が残され
る。その娘は姉との約束で彼女が引き取ることになるが、も
ともと人付き合いも下手な彼女には、母親を亡くした幼い少
女の気持ちなど理解できるはずもなく、懸命の努力もなかな
か報われない。
しかも、彼女の先行きの仕事ぶりを心配した店主は、彼女に
無断で男性の副シェフを雇ってしまう。その副シェフは、実
は彼女の料理に憧れて、その下で働けるならと志願してきた
のだが、その仕事の態度は彼女とは相容れないものだった。
こんな男女と、幼い少女の物語が展開する。
ブレスリンは、昨年の東京国際映画祭に出品された『リトル
・ミス・サンシャイン』で主演女優賞を獲得したが、幼さが
目立つ中での受賞にはいささか疑問を感じたものだった。し
かし今回の作品を見ると、確かに彼女の演技力には脱帽せざ
るを得ない。
本作の撮影中に10歳になったということで、受賞作の当時の
幼さからは一歩脱却して少女らしさも出てきたところという
感じでもあるが、とにかく母親を亡くした直後の様子から、
自分だけ幸せになってしまう事への後ろめたさを表わす後半
まで、演技力と芝居に対する理解力には感心させられた。
共演は、店主役のパトリシア・クラークスンと、セラピスト
役のボブ・バラバン。監督は『アトランティスのこころ』の
スコット・ヒックス。この作品でも子役をうまく使いこなし
ていたことを思い出した。
なお、料理は、ウズラ、スズキ、フォアグラ、ホタテなど、
まともな料理がおいしそうに登場する。

『シッコ』“SiCKO”
『ボウリング・フォー・コロンバイン』のマイクル・モーア
監督が、アメリカの医療保険の問題を取り上げた新作。
WHOのランキングで、アメリカの医療システムの順位は世
界の37位。先進国の中では最も低いのだそうだ。その理由
は、国民皆保険の制度がなく、一方、医療保険が大手保険会
社に牛耳られ、会社がOKを出さない限りは、支払い拒否や
医療の打ち切りが横行する事態になっているとのことだ。
『ER』の原作とされるマイクル・クライトンの医療ノンフ
ィクション『5人のカルテ』の中で、担ぎ込まれた患者が病
名不明のまま大量の投薬で回復し、その医薬費が数千ドルに
上ったが、保険のお陰で数ドルで済んだというエピソードが
印象に残っている。
『5人…』が題材にしているのは、1960年代後半の話と思わ
れ、それを読んだ頃には「アメリカの保険制度はすごい」と
感心したものだったが、その後のアメリカの医療システムは
悪化の一途を辿ったようだ。
その信じられない個々の状況については映画で観てもらいた
いものだが、映画の製作に先立ってインターネットで医療保
険のトラブルの実例を募集したら、1週間で25,000通以上も
集まったというのだから、その根の深さが知れるものだ。他
に、手紙による内部告発もかなりの数があったとされる。
そもそも先進国では唯一国民皆保険の制度がないのが何故か
というと、それが社会主義に繋がるという理論だそうだが、
1992年にはヒラリー・クリントンが制度の導入を提唱したも
のの議会圧力で引き下がるなど、今もその亡霊は生きている
ようだ。



2007年08月15日(水) 第141回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずはこの話題から。
 前回、レナード・ニモイ、ウィリアム・シャトナーの登場
と、若き日のスポック役に“Heroes”のザカリー・クィント
の起用が決定したことを紹介したが、その時に未定だった若
き日のカークを含む出演者募集の案内が紹介された。それに
よると、各役柄の条件は
 まず、若き日のカークは、23−29歳。身長180cm以下。美
形。生意気で自信家。生真面目なタイプで、運動能力に優れ
ている。
 若き日のマッコイは、28−32歳。黒髪で碧眼。スマートで
知性があり、少し危険を好むタイプ。
 若き日のウーラは、25歳前後。アフリカ系アメリカ人。聡
明で美人。勇気があって快活、お転婆なところもある。大勢
の男の兄弟の中で育ったという設定。
 若き日のスールーは、25−32歳。アジア系アメリカ人。日
本人が望ましい。順応性があり、有能で献身的。多少向こう
見ずなところもある。
 若き日のスコッティは、28−32歳。完璧なスコットランド
訛りが必要
となっている。
 ということは、エンタープライズ号のクルーはほぼ全員登
場することになるようだ。ここで海外のメディアでもチェコ
フの名前がない…と言うことになっていたが、実はこの役に
関しては、すでにアントン・イェルチンというロシア生まれ
の俳優が決定済だそうだ。
 つまり、オリジナルの主要クルーは全員顔を揃えることに
なる訳だが、ここで問題になるのは、チェコフはオリジナル
シリーズの第1シーズンにはいなかったということ。第1シ
ーズンにはジャニスという別のレギュラーがいたもので、チ
ェコフの登場は第2シーズンになってからだった。
 一方、スポックはカークの前のパイク船長の頃からエンタ
ープライズに乗り組んでいたもので、この流れから、今回の
“Star Trek XI”の物語は、カークとスポックの宇宙アカデ
ミーでの出会いと、エンタープライズでの再会を描くことに
なりそうだが、そこにチェコフの登場は…?と、いろいろ考
えてしまうところだ。
 そしてそのパイク船長役には、実は監督のJ・J・エイブ
ラムスが、当初は『M:I3』で協力したトム・クルーズの
カメオ出演を希望していたというのだが、昨年来の事情でそ
れは叶いそうもなくなった。そこで替ってラッセル・クロウ
に交渉しているという噂もあるようだが、このクラスの男優
というのはなかなか難しそうだ。いっそトム・ハンクスも良
いと思うが…。この役が誰に決まるかも注目になりそうだ。
 なお、オリジナルのレギュラークルーでは、もう一人、マ
ッコイの助手の看護婦チャペルも名前が挙がるところだが、
オリジナルでメイジェル・バレットが演じたその役柄の募集
は、今回はされていないようだ。
 撮影は、11月5日に開始、全米公開は2008年12月の予定に
なっている。評判が良ければシリーズ化も期待されるところ
だが、さてどうなりますか。
        *         *
 次はキネ旬にも載せる情報で、
 まずは、2005年7月1日付第90回で紹介した故スティーヴ
・マックィーンの遺品から見付かった企画“Yucatan”につ
いて、ワーナーと新たに優先契約を結んだ監督のMcGが、そ
の映画化を手掛けることを発表した。
 今回の契約は、McGが『チャーリーズ・エンジェル』で成
功を納めたコロムビアから移籍するものだが、実はMcGは、
昨年ワーナーから公開した“We Are Marshall”が成功し、
さらにテレビ番組の製作契約もワーナーと結んでいて、それ
らを交々併せての契約となったようだ。
 そしてその最初の3本の計画が発表され、まずは、『リト
ル・ミス・サンシャイン』を手掛けたマイクル・アーントと
の共同脚本で、「僕らの『MIB』を目指す」とするVFX
アクションコメディ“Nightcrawlers”と、フィル・アルデ
ン・ロビンスンがリライト中の題未定のスパイもの、そして
“Yucatan”の計画となっている。
 因に、メキシコ・ユカタン半島でのマヤの財宝捜しを、ス
ペイン征服下のメキシコの歴史を踏まえて描いているとされ
る“Yucatan”に関しては、すでに2年前から『プリズン・
ブレイク』のポール・ショイリングが脚色を進めていたもの
だが、McGの参加ではその見直しから始められることになり
そうだ。映画化には、ワーナー側製作者として『ハリー・ポ
ッター』を手掛けるデイヴィッド・ヘイマンが参加する他、
マックィーンの息子と孫も製作総指揮を勤めている。
 ただし、McGは無類の旅行嫌いとして知られており、実は
“We Are…”の時には、先に“Superman Returns”の監督も
オファーされていたが、撮影場所がオーストラリアと知って
断ったという話もある。同じ米大陸内とはいえ国外のユカタ
ン半島での撮影は大丈夫なのだろうか?
 いずれにしても実現は少し先になりそうだが、モトクロス
の演出は『CA2』で経験済のMcGによる、華麗なマックィ
ーン流バイクアクションの再現を期待したい。
        *         *
 お次は、ユニヴァーサルから新たなスパイシリーズの計画
が発表された。
 このシリーズは、原作者のダニエル・シルヴァが2000年に
発表した“The Kill Artist”という作品を第1作とするも
ので、ミュンヘン復讐事件にも関係したとされる元モサドの
エージェント=ゲイブリエル・アーロンという男が主人公。
妻子をテロリストに殺され、一度は引退して美術品の修復師
となっていた主人公が、活動を再開するところから始まった
シリーズは、今年7巻目の“The Secret Servant”が発表さ
れて、いずれもベストセラーになっているとのことだ。
 そのシリーズの映画化権が7桁($)の金額で契約され、
ユニヴァーサルでは2006年発表の第6巻“The Messenger”
から映画シリーズをスタートさせるとしている。そして映画
化の監督には、リュック・ベッソン監督の下で長年撮影監督
を勤め、2004年に公開されたフランス製作の未来スパイ映画
“Banlieue 13”でのアクション監督を経て、最近はリーア
ム・ニーソン主演の元スパイもの“Taken”の監督を終えた
ばかりのピエール・モレルの起用が発表されている。
 なおユニヴァーサルでは、シリーズ第3作の“The Bourne
Ultimatum”が初登場全米1位を記録したところだが、この
シリーズは、原作者の故ロバート・ラドラムの残した物語が
3作しかなかったもので、一時はハリウッド的な続編も検討
されたが、それには主演のマット・デイモンが絶対反対の意
向とのこと。従って“Bourne”シリーズではこれで打ち止め
の可能性が高く、それに替ってのシリーズ化が期待されてい
るものだ。因に、新シリーズの製作は“Bourne”を手掛けた
マーク・ゴードンが担当している。
        *         *
 2002年9月17日付第23回で紹介したビデオゲーム“Return
to Castle Wolfenstein”の映画化について、『バイオハザ
ード』シリーズの製作者サミュエル・ハディダが新たに権利
を獲得、昨年公開の『サイレント・ヒル』の脚本を手掛けた
ロジャー・アヴェリーの脚本監督で進めることを発表した。
 なおこの計画は、以前の紹介ではコロムビアが、製作者の
マーク・ゴードンと進めていたものだが、実現しないまま映
画化権が返還され、その権利についてハディダが、権利元の
IDソフトウェア社と新たな契約を結んだということだ。
 物語は、第2次大戦を背景に、ウルフェンスタイン城で行
われたナチスの秘密研究を暴くというもの。そこでは異形の
怪物たちが究極の兵士として育成されていた…というお話。
最初のゲーム“Wolfenstein 3D”は1992年に発表され、この
種のホラーゲームの元祖とも言われている。
 なお、11月16日に全米公開されるロバート・ゼメキス監督
“Beowulf”の脚本も手掛けているアヴェリーは、前回紹介
したように“Silent Hill 2”からは降板を表明しているも
のだが、製作者のハディダとの関係は問題ないようだ。また
今回の計画に関しては、「ゲームは、第1作の時からプレイ
している。その時から主人公がダムや橋を破壊したり、残壕
を急襲するこの冒険をスクリーンで描きたいと思っていた」
とのこと。気合いの入った作品が期待できそうだ。
 因にアヴェリーは、1994年の『パルプ・フィクション』で
クエンティン・タランティーノと共にオスカー脚本賞を受賞
している。
 一方、権利元のIDソフトウェア社は、本作の他にも、以
前に映画化の計画を紹介している“Doom”や“Quake”など
も手掛けており、また現在は“Wolfenstein”の新作を開発
中だそうだ。それからハディダは、クリストフ・ガンズ監督
の“Onimusha”の計画はまだ進めているようだ。
        *         *
 『ミス・ポター』では絵本作家に扮したレニー・ゼルウィ
ガーが、エド・ハリス、ヴィーゴ・モーテンセンと共演する
西部劇の計画が発表された。
 この作品は、サスペンス作家として知られるロバート・B
・パーカーが発表した2作目の西部劇“Appaloosa”を映画
化するもので、無法地帯の町を守るために雇われた2人の男
が、魅力的な未亡人の出現で計画が狂って行くというお話。
その通りの配役を3人が演じることになりそうだが、内、ハ
リスとモーテンセンは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
に継ぐ共演となる。
 また、“National Treasure: Book of Secrets”への出演
を終えているハリスは、『ポロック』以来の監督も務めるも
ので、ロバート・ノットと共に脚色も担当している。撮影は
10月1日にニューメキシコでの開始が予定され、来年の夏に
計画されているハリウッド俳優組合のストライキ前の完了を
目指すとされている。製作はニューライン。
 なおゼルウィガーは、主役を演じている“Bee Movie”の
声の出演と、“Leatherheads”“Case 39”の撮影が完了し
ているようだ。
        *         *
 2006年にスティーヴ・マーティン主演で再開された『ピン
ク・パンサー』シリーズの続編が計画され、その新作にアン
ディ・ガルシア、ジョン・クリース、アルフレッド・モリー
ナらの新登場が発表された。また前作に登場したジャン・レ
ノ、エミリー・モーティマも再登場するとのことだ。
 この計画自体は、2006年3月の前作の公開直後に発表され
ていたものだが、当時はMGMの買収劇などで混乱し、その
後の状況が報告されていなかった。それがようやく進展した
ものだが、前作は全世界で1億4000万ドル以上の興行収入を
上げており、その期待に応える続編となるものだ。
 物語は、クルーゾー警部が世界中の美術品を盗みまくる窃
盗犯を捕まえるというもので、今回新登場の俳優たちは全員
クルーゾーに協力する刑事の役とされている。つまりクルー
ゾーの奮闘に振り回される役柄ということ?
 脚本は、ローウェル・ガンツ、ババルー・マンデル、スコ
ット・ニュースターター、マイク・ウェバーとマーティンが
執筆。監督は、前作のショウン・レヴィに替って、2003年の
『エージェント・コディ』を手掛けたハラルド・ツワートが
担当する。因にこの作品は、日本では不遇な公開だったが、
アメリカのガイド本では星3つの高評価を得ているものだ。
 “The Pink Panther 2”の全米公開は、2009年2月13日と
されている。
        *         *
 8月10日に全米公開された“Rush Hour 3”の製作者アー
サー・サーキシアンが、1971年にショーン・コネリー主演、
シドニー・ルメット監督で映画化されたローレンス・サンダ
ース原作“The Anderson Tapes”(ショーン・コネリー盗聴
作戦)の映画化権を獲得し、ニュー・ヴァージョンの映画化
を目指すことを発表した。
 1971年版はニューヨークを舞台にして、コネリー扮する泥
棒が高層マンションに挑むが…というものだったが、今回の
舞台はマイアミに移して、南国ムードに溢れた作品にすると
いうことだ。
 なおサーキシアンは、個人資金で映画化権を獲得し、そこ
に協力者を募って映画化を進めているもので、すでに同じや
り方では、ジャン=ピエール・メルヴィル監督の1970年作品
“Le Cercle Rouge”(仁義)のリメイク権を獲得し、“The
Red Circle”としてジョニー・トー監督による撮影が10月か
ら開始予定になっている。この計画には、スタジオカナルが
製作に参加しているようだ。
 また、この他に世界の料理を探訪するウィリアム・スタデ
ィアムとマーラ・ギブス著“Everybody Eats There: Inside
the World's Legendary Restaurants”の映画化権を獲得、
こちらはコメディとして映画化を目指すそうだ。
        *         *
 『ラスト・サムライ』『ブラッド・ダイヤモンド』のエド
ワード・ズウィック監督が、パラマウント傘下のヴィンテー
ジの製作で今秋からの撮影を予定している“Defiance”に、
ダニエル・クレイグ、レイヴ・シュライバー、ジェイミー・
ベルの共演が発表された。
 この作品は、第2次大戦中のナチス占領下のポーランドを
舞台に、収容所を脱走したユダヤ人3兄弟が、森林地帯に向
かって、そこに潜むロシア人のレジスタンス部隊に参加、他
のユダヤ人たちの救出を試みるというもので、物語は実話に
基づいているということだ。
 この種の第2次大戦秘話というのは、これからも次々登場
しそうだが、ズウィック監督ということではかなりシヴィア
な作品になりそうだ。
 なお、『父親たちの星条旗』などのベルは、ダグ・リーマ
ン監督のSF作品“Jumper”の撮影が完了しており、また、
タイトルロールを演じた“Hallam Foe”がエジンバラ映画祭
でプレミア上映されることになっている。
 一方、クレイグは、年内に“Bond 22”の撮影が開始の予
定のはずだが、今回の計画はその前に終るということなのだ
ろうか。
        *         *
 今回はいろいろな情報を紹介したが、後はSF/ファンタ
シー系の作品の紹介をやれるだけやっていこう。
 ユニヴァーサルは、ジャック・ブラック主演向けの計画と
される“The Lost Adventures of Stone Perlmutter Jr.”
という脚本の権利を獲得、計画を進めることを発表した。
 作品は、1979年頃に行われた冒険の記録映像が新発見され
た…という設定のもので、インディ・ジョーンズスタイルの
冒険家が、雪男や黄金郷、イエスの最後の墓などを探して世
界中を旅するドキュメンタリー?となっている。この冒険家
をブラックが演じることになりそうだ。
 脚本は、コロムビアで進められている“Bronze God”とい
うコメディ作品も手掛けているピーター・ヒュイックとアレ
ックス・グレゴリー。ブラックは企画が目白押しだが、本作
は彼自身が主宰するユニヴァーサル傘下のプロダクション=
エレクトリック・ダイナマイトで進められるものだ。
        *         *
 第130回で紹介した“Justice League of America”の映画
化が本格化しそうだという情報が流れている。
 この計画に関しては、前回の情報はカーナン&マイクル・
マルローニが脚本を担当するというものだったが、その脚本
が7月に完成し、それを読んだワーナーの担当者が非常に気
に入って、一気に進める可能性が出てきたということだ。そ
してその監督に、『マッド・マックス』のジョージ・ミラー
の名前が挙がっているそうだ。
 ミラーは、CGIアニメーションで手掛けた『ハッピー・
フィート』が、ワーナー配給で好成績を残したところで、次
を実写作品というのは判りやすい。それにしても、このペー
スで進むと公開は2009年の夏に間に合いそうで、一方、ブラ
イアン・シンガー監督の“Superman: Man of Steel”も同じ
時期の公開となるが、一度に2本のスーパーマンが登場する
かどうかというところだ。
 因に、ブランドン・ラースの出演は、同じワーナーの製作
なので問題ない。バットマンについては特に書かれてはいな
かったが、他にフラッシュ、ワンダー・ウーマン、グリーン
・ランターンの配役も楽しみなところだ。
        *         *
 1964年に1シーズンだけ放送されたハナ=バーベラのアニ
メーション“Jonny Quest”の実写による映画化がワーナー
で計画され、“Land of Lost Things”というファンタシー
作品がパラマウントで進められているダン・マズーとの脚本
の契約が発表されている。
 物語は、科学者の父親と共に世界を旅する少年が、いろい
ろな科学的な謎に挑戦するというもの。オリジナルのシリー
ズは1シーズンだったが、1980年代の後半から1990年代にア
ップデートされた“The Real Adventures of Jonny Quest”
が放送され、さらにDCからコミックスも出版されたという
ことだ。
 製作は、10月にフォックスから全米公開が予定されている
ヴィデオゲームの映画化“Hitman”を手掛けたエイドリアン
・アスカリアーとダニエル・アルターが担当。特にアスカリ
アーはテレビシリーズの長年のファンだったとのことで、本
作を家庭向けの冒険シリーズに展開したいと希望を語ってい
る。またワーナーも、『ハリー・ポッター』の後釜の路線を
考えているようだ。
        *         *
 南米のコロンビアで製作されたホラー映画“Al final del
espectro”を、ニコール・キッドマンの製作主演でリメイク
することが発表された。
 物語は、悲劇に遭遇した女性を巡る幽霊もののようだが、
脚本は、ジム・キャリーの主演で今秋公開される『ナンバー
23』を手掛けたファーンリー・フィリップスが執筆し、監督
にはオリジナルを手掛けたジュアン・フェリペ・オゾルコが
起用されることになっている。
 キッドマンの製作主演によるホラー作品では、2001年公開
の『アザーズ』が思い出されるが、あの時も監督にはアレハ
ンドロ・アメナーバルを起用したもので、そういう志向で動
いているようだ。製作は、キッドマン主宰のブロッサムとヴ
ァーティゴが行い、配給はユニヴァーサルが担当する。
 なおヴァーティゴでは、先にキッドマンが主演した“The
Invasion”を製作しており、さらにタイ映画“The Eye”の
ハリウッドリメイクや、スペイン語で製作されたホラー映画
をリメイクする“Rec”という作品も手掛けているようだ。
        *         *
 最後にまた変な話題で、1973年のカルト映画“The Wicker
Man”をリイメージした作品が、オリジナルと同じクリスト
ファー・リー主演、ロビン・ハーディ監督で9月に撮影開始
されることになった。
 この計画については、2002年4月15日付第13回でも紹介し
ているが、今秋日本公開されるニコラス・ケイジ主演作とは
別に製作されるもので、このため題名も変更されて、現在は
“Cowboys for Christ”となっている。また舞台は、テキサ
スとスコットランドになるそうで、さらにリーの役名もLord
Summerisleから、Sir Lachlan Morrisonになるようだ。



2007年08月10日(金) 呉清源、リトル・レッド、ヴィーナス、バイオハザード3(特別映像)、大統領暗殺、ストレンヂア

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『呉清源』(中国映画)
昭和初期に来日し、戦前戦後の日本囲碁界で永く頂点の座に
君臨した天才棋士・呉清源の人生を、中国第5世代の監督・
田壮壮が描いた作品。
映画は、2004年に撮影された呉清源本人の現在の姿から始ま
り、チャン・チェンが演じる戦中・戦後の動乱期を生きた棋
士の姿へと繋いで行く。
物語では、棋士としての対局の様子だけでなく、日本人女性
との結婚や戦後の耐乏生活。さらに宗教にのめり込んでしま
う姿なども描かれる。それは、日本人にとっての昭和史を観
るようでもあり、ちょっと不思議な感覚にも襲われるものだ
った。
ただし映画は、その辺の状況が必ずしも克明に描かれたもの
ではなく、随所に呉清源の内面の言葉らしきものが字幕で挿
入されたりもするが、今一つ物語の展開は明確ではない。特
に宗教と女性の関係の辺りは、映画を観ている間はほとんど
理解できなかった。
事前に伝記を読んでいたりすれば、恐らくは個々の場面の意
味ももっと理解できたのだろうが、そうではない観客にはか
なり戸惑いが生じるのではないかとも思える。
でもまあ、物語は実際に呉清源が歩んだ道筋を辿っているも
のだし、そこに何があってもそれが真実である訳だから、そ
れをどうこうと言えるものでもない。その意味では、ただ黙
って観ていればいい、というものかも知れない。
日本側の共演は、柄本明、仁科貴、松坂慶子、大森南朋、井
上堯之、野村宏伸、伊藤歩、南果歩、宇都宮雅代、米倉斉加
年。さらに中国側では、母親役でシルビア・チャンが出演し
ている。
因に、衣装を担当したワダエミの言葉によると、シナリオで
は最初に中国のシーンがもっと長くあり、70歳代になってか
らのシーンもあったということだ。その辺についての監督の
説明では、主人公の内面に迫るためにカットしたということ
のようだ。
しかし、1時間47分の上映時間は、人一人の人生を描くには
決して長いものではないし、人の人生は内面だけでもない訳
で、撮影されたフィルムがあるのなら、別ヴァージョンの編
集も観てみたいところだ。


『リトル・レッド』“Hoodwinked”
童話の赤ずきんをモティーフに、新たな視点で描かれたCG
Iアニメーション。アメリカ公開では、第1週に興行1位を
記録した。
主人公のレッドは、おばあさんの作るお菓子を自転車で配達
している元気な女の子。
ある日、森の奥のおばあさんの家を訪ねたレッドは、おばあ
さんの振りをしてベッドに寝ていたオオカミに襲われそうに
なる。そこにぐるぐる巻きに縛られたおばあさんがタンスか
ら飛び出し、さらに半ズボンのきこりも窓から飛び込んでき
て…
この事件の捜査に警察隊が出動するが、冬眠中だったクマの
所長は不機嫌で事件を早く決着させろと言うばかり。ところ
が、現場に現れたカエルが、森で頻発しているレシピ泥棒の
事件との関連を調べ出す。
そのレシピ泥棒の事件とは、森で営業しているお菓子屋が、
次々レシピを盗まれて廃業に追い込まれているというもの。
そしてその最後の狙いはおばあさんのレシピと思われる。
ところが尋問が開始されると、レッド、おばあさん、オオカ
ミ、きこりの証言は食い違うばかり、しかも意外な素顔が観
えはじめ…
赤ずきんをモティーフにしてはいるが、パロディではなく、
推理劇からアクションまでいろいろ盛り込まれたサーヴィス
満点の作品と言える。特に後半のアクションになってからの
処理が見事で、これならアメリカでNo.1ヒットになったのも
頷ける作品だ。
またこの手の作品によくある映画のパロディも満載。ねたば
れにつながるのでその説明は割愛するが、その辺も実に丁寧
に作られていて、大人にも充分楽しめる作品であることは間
違いない。
なお僕が観たのは日本語吹き替え版だったが、上野樹里の主
人公は、恐ろしくぶっきらぼうな言い回しがキャラクターに
よく合っていて予想外に良い雰囲気だった。またオオカミの
加藤浩次、カエルのケンドーコバヤシもそれなりで、他はプ
ロの声優が担当している。
因に原語版は、アン・ハサウェイ、グレン・クローズ、ジム
・ベルーシらが当てているようだ。
すでに続編“Hood vs.Evil”の製作も開始されており、その
内それも楽しめそうだ。

『ヴィーナス』“Venus”
老境の男性の生き方を描いて、主演のピーター・オトゥール
が今年のアカデミー賞の候補にもなった作品。
主人公は老境の俳優。昔は女優と浮き名も流したようだが、
最近来るのは死に掛けの老人の役ばかり、実生活も病院に通
いながらの一人暮しのようだ。
そんな主人公の親友でやはり一人暮しの男優の家に、田舎の
親戚の家から若い女性が看護兼身の周りの世話にくることに
なる。そこでその友人と共に女性を迎える準備を整えるが、
やってきたのは一言で言えばあばずれだった。ところが主人
公は…
映画のチラシには、「男って、いくつになっても…。」とい
うコピーが添えられている。
最近の映画館の観客はほとんどが女性のようだから、このコ
ピーも仕方がないと思えるところだが。その男である自分と
してはこの主人公の気持ちもよく判るし、いつまでもこんな
風に生きられたらなあ、とも思ってしまうところだ。
確かに主人公は、馬鹿みたいな行動もしてしまうし、それに
よって多分損もしているのだろうけど、でもそれによって本
来なら得られない経験もできている訳だし、それ自体は男も
女もない人生の一シーンであったと言いたくなるものだ。
オトゥールは1932年生まれということだから、今年で75歳。
映画の中のよれよれぶりは演技で行われているものだが、映
画の中で若い頃の写真なども出てくると、確かに年は取って
しまったものだと言いたくなる。
共演はレスリー・フィリップスとリチャード・グリフィス。
2人とも舞台やテレビでの出演が多い人のようだが、フィリ
ップスは「ハリー・ポッター」シリーズの組み分けの帽子の
声でも知られている。またグリフィスは、ハリーの叔父さん
役をやっている人だ。
その他、主人公の元妻の役をヴァネッサ・レッドグレーヴが
演じていて、登場シーンは短いながら見事な演技を見せてく
れる。
そして本作の注目は、主人公がヴィーナスと呼ぶ若い女性役
を演じるジョディ・ウィッテカー。2005年に演劇学校を卒業
したばかりで、その後はテレビと舞台の経験しかないようだ
が、オトゥールを相手にして堂々とした演技は見事なものだ
った。

『バイオハザード3』(特別映像)
2004年に公開された第2作から3年。アメリカは9月25日の
公開で、日本では11月に公開される第3作の22分間の特別映
像が上映された。特別映像と言っても予告編に毛の生えた程
度のものも時々あるが、そんな中で22分というのはなかなか
の大盤振舞だ。
見せてもらったのは、まずはいつもの死のトラップ通路。ゲ
ーム感覚そのままのこのシーンは今回も登場している。しか
も今回ここには特別な意味もあるようで、そこから一気に世
界がどうなっているかの展開に進むようだ。
その世界は、アンデッドを生み出したT−ウィルスが蔓延し
て、ほとんどの人々はアンデッドに変身。さらにその影響で
地上の動物や植物もほとんどが死に絶えたとされる。しかも
生き残った動物たちはアンデッドと化している。
そしてアリスは、バイクで砂漠を突っ走っている。一方、前
作でラクーンシティを脱出した仲間達は大型車両によるコン
ボイを組んで砂漠を進んでいる。彼らはアンデッドの集まる
都会の廃虚を避けて砂漠で暮らしているが、そこにも脅威は
訪れる。
という展開と、新たにアリスに備わった能力の一部が映像で
紹介された。中でも、ゲームでもお馴染みのゾンビ犬との闘
いや、今回新登場のアンデッドカラスの群れは、CGIの映
像で見事に描かれている。
また今回は、ゲームのキャラクターからクレアが新登場する
ようで、『ファイナル・デスティネーション』や、テレビの
“Heroes”などのアリ・ラーターがその役を演じていた。
一方、3度目のアリス役のミラ・ジョヴォヴィッチは、今回
は妊娠6カ月の身重でプロモーションに来日したものだが、
記者会見では、「毎作これが最後と思って作っているので、
次回作の考えはない」としたものの、「観客の反応次第」と
次回作への含みも残していた。
チラシのコピーは「アリス、砂漠に死す」となっているが、
シリーズはまだまだ続きそうな雰囲気だ。

『大統領暗殺』“Death of a President”
2007年10月19日、遊説先のシカゴでアメリカ大統領が暗殺さ
れるという顛末を、記録映像を巧みに編集して描いた超近未
来ポリティカル・フィクション。
映画は、アラビア語のナレーションで始まる。それは一人の
アラブ系の女性がカメラに向かって喋っているもので、そこ
では彼女の夫が全く罪のない存在であることが訴えられ続け
る。しかし9/11以降、何か事があると最初に疑われるのは
アラブ系の男性なのだ。
その日のシカゴは異様な緊張に包まれていた。ブッシュ大統
領が経済団体の式典で演説することになっており、空港から
式典会場のホテルまでの沿道には、警備の警官隊とデモ隊の
群集が対峙していた。
そんな中、エアフォース1はオヘア空港に着陸し、車列の移
動が始まる。ところがその日はデモ隊の力が大きく、途中で
車列は予定された経路の変更を余儀なくされる。それでも無
事ホテルに到着するが、その時、警備体制の情報が外部に漏
れている疑いが出始める。
この状況が、警備担当者や、大統領車に同乗する演説原稿の
ライターなどの証言によって綴られて行く。それがどれも真
に迫っていて、しかも登場する大統領と報道官の映像は全て
本物の記録映像を編集したものだから、まさにフェイクの真
骨頂という作品だ。
製作脚本監督のガブリエル・レンジは、イギリスのテレビで
ドキュメンタリードラマを数多く手掛けている人だそうで、
その手腕が見事に活かされている。
このような架空事件ものは、以前はSFの一分野として成立
していたものだが、最近はあまり見かけなくなっていた。そ
んな作品が見事に復活したものだが、実は本作は昨年のトロ
ント国際映画祭で国際批評家賞を受賞し、その後も各地の映
画祭で上映されてはいるものの、一般興行は拒否されている
国が多いのだそうだ。
それが本当かどうかは知らないが、実際に僕の観た試写会で
も、上映後に宣伝担当者にこの作品の意図は何かと喰って掛
かっている若者がいて、何か異様な感じを受けた。
映画では、暗殺後にアラブ人の夫が逮捕され、実は他に白人
の犯人がいるのでは?という情報も無視されて訳が判らない
まま有罪にされるという展開になるもので、その部分の製作
意図こそ重要に思えるのだが…若者には大統領暗殺を描くこ
とが問題だったらしい。

因に日本では、当初『ブッシュ暗殺』という邦題が映倫の指
示で変更され、ポスターも大統領の苦悶の顔の部分をカット
するなど規制が加えられている。また公開はR−12指定にな
っているようだ。
僕は、映画の前半はフィクションとして充分に楽しめたし、
むしろ後半の裁判の顛末にはアメリカの危険性が見事に描か
れて出色の作品だと思った。何を慮ってこういう作品を公開
禁止にするのか、その意図こそが問題に思えるものだ。

『ストレンヂア無皇刃譚』
テレビアニメの『鋼の錬金術師』などを手掛ける制作会社の
ボンズと、監督の安藤真裕、脚本の高山文彦が揃って作り出
したアニメーション時代劇。
普段アニメーションはあまり観ている方ではないが、最近の
アニメの時代劇というと、何となく妖術使いが出てきたり、
魔物が出てきたりで、どうもそういう方向に流れる傾向を感
じる。本作も背景にあるのは、明国の皇帝が不老不死の仙薬
を求めて…というお話だ。しかし本作では、比較的まともな
時代劇が描かれていたように思えた。
舞台は戦国時代の日本。最初に登場するのは犬を連れて山道
を走る少年。背後で炎上する寺を逃れてきたものらしいが、
一緒にいた僧侶は、少年にある寺を訪ねることを指示して戻
って行ってしまう。
一方、とある山間の小国に異国の装束の一団が現れる。彼ら
は雑兵の群れなら一人で全滅させられるほどの戦士の集団。
彼らはその国の領主と密約して、怪しげな砦の建設を進める
と共に、鍵を握る少年の行方を追っていた。
そして犬と共に旅を続ける少年に追手が迫ったとき、少年は
名無しと名告る剣士と巡り会い、その助けによって指示され
た寺を目指すことになるが、名無しは剣の鍔を鞘に結んで容
易に抜けないようにしていた。
明国から来た戦士たちが、鎖鎌やら長刀やらと、通常の刀剣
以外の武器を駆使して戦うのが結構見せ場になっているし、
その中心になる金髪碧眼の戦士というのも面白い存在になっ
ている。
他にも、小国の武士の中にもそれなりのキャラクターが立っ
ているし、異国の集団と密約を結んでいるという設定もかな
り捻りが利いている感じだ。さらに主人公の出自に係る話も
良いアイデアに思えた。
ということで、作品全体は結構面白い作品になっていた。
声優は、名無しをTOKIOの長瀬智也、少年を同じくジャ
ニーズ系の知念侑季が演じているが、それほど違和感もなく
普通に楽しめた。
なお、主人公ではないが登場人物のせりふで、「自分の身の
丈に合った目標を定めるか、より高い目標を定めてそれに自
分の身の丈を合わせて行くか」というような言葉があって、
ちょっと気に入った。

『Tokyo Real』
集英社から出版もされているケータイ小説の映画化。高校生
の少女がクラブの駐車場で輪姦に遭い、その後巡り会った男
と恋に落ちるが、本人はドラッグに手を出して身を滅ぼして
行く。
Jリーグの観戦に行くと、場内にドラッグ撲滅キャンペーン
のアナウンスメントが流れさる。このアナウンスメントも、
以前はスポーツをしたいなら手を出しちゃいけないというよ
うな曖昧なものだったが、今年はより具体的に個々の危険性
を訴えるものになった。
本作の巻頭には、この作品はドラッグの危険性を訴えるもの
であるというテロップが表示される。作り手はそういう意図
なのかも知れない。しかし出来上がった作品は、到底そのよ
うな意図が描かれているとは思えない代物だった。
まずこの映画にはドラッグの危険性が全く描かれていない。
むしろ描かれるのは、ドラッグによる快楽の増長で、まるで
ドラッグの良さを強調しているようなものだ。
それに、物語で罰を受けるのが主人公だけという結末は、こ
の作品の主人公のような馬鹿さえやらなければ良いというこ
とにも繋がる訳で、Jリーグのアナウンスメントで流される
「私だけは大丈夫」という論調そのものだ。
このようなことは、おそらくは脚本を読めば判るはずのもの
で、その程度のことも考えられないで、何がドラッグの危険
性を訴えると言えるのかと思ってしまう。
ドラッグの危険性を訴えるなら、例えば『エディット・ピア
フ』のような作品は一つの方法だろう。自分の容姿に関わる
となれば、特に女性には強烈なはずだ。この作品でも主演女
優にその程度のことはさせられなかったものか。
あるいは、完全に発狂してしまうような結末もあり得るかも
知れない。少なくともこの作品の結末のような甘っちょろい
ものでは、誰もその危険性には気が付くものではない。
特にこの作品では、ドラッグ反対だったはずの恋人が、突然
掌を返すようにドラッグは自由と唱え始める辺りの、結末直
前の展開に唖然とした。もちろんこれはその後の伏線になっ
ているのだが、この映画でそこまでの先読みを強いることに
は無理を感じる。

何かを訴えようとする作品であるなら、このような回りくど
い表現は、誤解を招くだけのものだ。訴えはもっとストレー
トに真摯にやらなくてはいけない。この辺にもこの映画の制
作意図に真剣さが感じられなくなったものだ。
(本来このサイトでは、自分の気に入らなかった作品は掲載
しないことにしているものですが、敢えてこの作品に関して
は掲載することにします。その意図はお汲み取りください)



2007年08月01日(水) 第140回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はこの人の話題から。
 『パイレーツ・オブ・カリビアン』3部作の完了に続いて
は、ティム・バートン監督のミュージカル“Sweeney Todd”
の撮影も終了しているジョニー・デップに、その後の計画が
続々発表されている。
 まずは、第128回で紹介したミラ・ナイール(三省堂の固
有名詞発音辞典ではネアという発音のみの掲載だが、インド
風にはこうなるようだ)監督による“Shantaram”の撮影が
来年1月に開始される。デップはクリスマスの休暇明けから
現地に入るようだが、製作準備の中で監督はインド映画音楽
の大家ヴィシャール・バハダワイに4種類の音楽を発注した
ということで、その内の1曲はインド映画風のミュージカル
シーンの音楽、デップの出演シーンに使われるとのことだ。
 “Sweeney Todd”では、ミュージカルの大家が認めた歌声
を披露していると言われるデップだが、今度はインド風のダ
ンスも披露することになるのだろうか。
 なお、撮影は原作の舞台でもあるインドのムンバイで行わ
れるが、大半の撮影は現地のスタジオ内で行われる。このた
め主人公が暮らしたスラム街もスタジオ内に再現されている
とのことで、撮影隊が街に出ることはほとんどないようだ。
 オーストラリアの銀行強盗で麻薬中毒だった男が、脱獄・
逃亡してインドのスラム街でもぐりの医者となり、さらには
アフガニスタンのゲリラ戦にも参加するという波乱万丈の物
語は、インドミュージカル風にどのように脚色されるのか、
楽しみな作品になりそうだ。
 そしてこの撮影は、インド人の共演者には5月までの撮影
期間が提示されているようだが、それに続いてデップには、
2005年6月1日付第88回などで紹介したハンター・S・トム
プスン原作“The Rum Diary”の撮影が予定されている。
 1998年に、デップ主演で映画化された『ラスベガスをやっ
つけろ』などの原作者としても知られるトムプスンとの関係
では、2005年に作家が死去したときに、ほとんど葬儀委員長
とも言える立場を務めたほどのデップだったが、その頃から
準備を進めていた作品がようやく実現するものだ。監督は、
以前にも紹介した『キリング・フィールド』の脚本家として
も知られるブルース・ロビンスン。ロビンスンは脚本のリラ
イトも行っていたようで、製作の遅れは、デップのスケジュ
ールの都合だけではなかったようだ。
 1950年代のプエルトリコを舞台に、22歳の駆け出しのジャ
ーナリストの生活を描いた原作は、1959年に執筆されたもの
の1998年まで出版されなかったとのことで、原作者の初心が
描かれた作品でもある。
 ということで、この作品は“Shantaram”の次に撮影され
ることになるようだが、さらにその後の計画には、ちょっと
意外な題名が登場した。
 その題名は“Dark Shadows”。1966年から71年にアメリカ
ABCネットワークで週日昼間に放送された主婦向けの所謂
昼メロのドラマシリーズだが、主人公が何と吸血鬼というも
の。内容の特異性もあってか、6年間に亙って1225回以上が
放送されたほどのカルト人気を誇っていた作品だ。なお、こ
のシリーズからは1970年と71年にも、シリーズの出演者その
ままの映画版が製作されており、その1作目は『血の唇』の
邦題で日本公開もされている。
 そして、このテレビシリーズを製作し、映画版も監督した
ダン・カーティスは、実は昨年亡くなっているのだが、その
カーティスが生前から再度の映画版の製作を希望していたと
いうことで、今回の計画はそれに反応してのもののようだ。
一方、デップ自身も以前から、「子供の頃に観ていたテレビ
シリーズの大ファンで、主人公のバーナバス・コリンズには
常に憧れていた」としていたもの。相思相愛の念願かなって
の映画化となりそうだ。
 因にシリーズは、今でも全米各地で年次のコンヴェンショ
ンが開催されるほどの人気を保っているものだが、その作品
に、今や全米一とも言える人気スターの登場は、ファンたち
への最高のプレゼントという表現もされていた。また、SF
/ファンタシー系の映画サイトなどへの書き込みでも概ね好
印象で迎えられているようだ。
 製作時期は未定だが、製作はワーナーとデップ主宰のイン
フィニタム・ニヒル、それにグラハム・キングの共同で進め
られ、製作者には元ダン・カーティスの腹心だった人も名を
連ねている。
 ただし、デップとキングは第127回で紹介した毒殺された
旧ソ連KGBのエージェントの生涯を描く“Sasha's Story:
The Life and Death of a Russian Spy”の計画も進めてお
り、どちらが先になるかは、今後の脚本その他の進捗状況に
よることになりそうだ。いずれにしても来年というよりは、
2009年の計画になりそうだが。
        *         *
 お次は、第124回にニコラス・ケイジとの関係で紹介した
ヴァージン・コミックスから、いよいよ第1号の映画化の契
約が発表された(なお、ケイジの計画は、まだ正式契約には
至っていないようだ)。
 その作品は“The Gamekeeper”と題されたもので、原作は
映画監督ガイ・リッチーのオリジナルコンセプトに基づき、
アンディ・ディギルという作家の手で発表されている。内容
は、スコットランドの原野を舞台に、暗い過去を持った東欧
出身の猟場管理人の男と、その周囲で起きる殺人事件との繋
がりを描くというもの。ただし、物語の背景には、主人公と
自然界との特異なつながりが在るようだ。
 そして、この原作を一読したワーナーの製作担当重役ジェ
フ・ロビノフが、アクション映画としての可能性を見抜き、
直ちに契約を取り決めたとされている。もちろん監督はガイ
・リッチーが担当、製作にはジョエル・シルヴァが起用され
ている。なおリッチーは、シルヴァ主宰のダーク・キャッス
ル製作でワーナーが配給する“RocknRolla”という作品の監
督中で、流れは良い感じで進むことになりそうだ。
 一方、ヴァージン・コミックスでは、すでにケイジやジョ
ン・ウー、テリー・ギリアム、ジョナサン・モストウらのコ
ンセプトに基づく作品を発表しているが、さらに俳優で監督
の実績もあるエドワード・バーンズもこれに参画、1920年代
ニューヨークに暮らすアイルランド系住人の姿を描いた作品
を計画している。
 この作品は、“Dock Walloper”と題されているもので、
バーンズは以前からこの計画を持っていたものの、1920年代
のニューヨークを描くには、製作費に8000万ドルが必要と言
われていたそうだ。ところがバーンズ自身が、「『シン・シ
ティ』や『300』を観ていて、自分のコンセプトをまずコ
ミックスにし、そこからCGIなどを利用した映像化の道を
考える方法もあると思った」のだそうで、その一歩目として
コミックス化を進めることにしたものだ。なお、バーンズは
コミックのストーリーも執筆する。
 コミックスの映画化が数多くの成功を納める中、映画人の
コミックスへの参加も、ヴァージンだけでなく第105回で紹
介したような別の動きも出ているものだが、積極的にそれを
利用しようとすることでは、バーンズの考え方は一石を投じ
ることにもなりそうだ。結果が期待される。
        *         *
 第132回で紹介したコロムビア製作“Green Hornet”の映
画版の計画に、ジャド・アプトゥ監督の全米ヒットコメディ
“The 40-Year-Old Virgin”の共演者としても注目のセス・
ローガンの起用が発表され、脚本の執筆と主人公ブリッド・
レイド役での出演の契約が発表された。
 ローガンは、元々はアプトゥ監督のテレビシリーズに出演
したのが切っ掛けで、監督から脚本の執筆を勧められ、上記
の“40-Year…”は共演のみだが、すでに主演と脚本も手掛
けた“Superbad”というコメディ作品が、今夏にコロムビア
から全米公開される。さらに“The Pineapple Express”と
いう作品が脚本・主演でコロムビアで進められており、また
“Drillbit Taylor”という脚本がパラマウントと契約され
ているそうだ。
 一方、“Hornet”の主演者には、ジョージ・クルーニーや
マーク・ウォールバーグ、ジェイク・ギレンホールらの名前
も挙げられていたものだが、そこに自作自演のコメディで実
績を積むローガンの起用は注目される。また、オリジナルで
ブルース・リーが演じたカトー役には、ローガンがスティー
ヴン・チョウこと『小林サッカー』などのチャウ・シンチー
(周星馳)の共演を希望しているという情報も流れており、
これはちょっと面白くなりそうだ。
 物語的には多少オールドファッションとも言われる原作の
映画化には、いろいろな方策が考えられているようだ。ただ
しローガンは、先に開催されたComic Con.でのQ&Aに登場
し、映画化のジャンルは得意のコメディになるのかという質
問に対しては、「コメディではない。これはアクション映画
だ」と宣言したそうで、その意気込みは買える。
 それにカトー役がチャウ・シンチーということは、単純に
風貌が似ているということかも知れないが、コミカルな面も
考慮されているとも思えるもので、コメディではないにして
も現代的なセンスでの映画版の登場を期待したい。
        *         *
 お次もコロムビアの情報で、トム・クルーズの主演が予定
されている“Edwin A.Salt”の監督について、『ホテル・ル
ワンダ』のテリー・ジョージ監督と交渉中であることが公表
された。
 この作品は、『リクルート』などのカート・ウィマーの脚
本で、CIAの係官が上司からロシアの二重スパイと指摘さ
れ、身の潔白を証明するために家族関係の再構築をしなけれ
ばならなくなるというお話。題名はこのCIA係官の名前に
なっており、クルーズがその役を演じる予定となっているも
のだ。『ミッション・インポッシブル』とはかなり違った雰
囲気になりそうだが、Variety紙などでは、「クルーズがス
パイに再挑戦」といった感じの紹介になっていた。上司に不
正を指摘されて、潔白を証明すると言うことでは『マイノリ
ティ・リポート』も似ているが…
 クルーズは、『M:i3』のプロモーション中のトラブルな
どでパラマウントから契約解除されて以降は、盟友ポーラ・
ワグナーがトップを務めるUAで、すでに完成しているロバ
ート・レッドフォード監督の“Lions for Lambs”と、現在
はブライアン・シンガー監督の“Valkyrie”を撮影中という
状況だが、今回の計画が進行すれば、同じソニー傘下の会社
とはいえ、初めてのUA以外の作品ということになる。
 ただしクルーズには、『ラスト・サムライ』などのワーナ
ーからも、トッド・フィリップス監督がドイツのコメディ映
画をリメイクする“Men”という計画のオファーもされてい
るということで、そろそろPを除く各社からのオファーが届
き始めているようだ。
 なお、今回のコロムビア作品については、実は数ヶ月前か
らクルーズとの間で計画が策謀されていたもので、ウィマー
の脚本にマッチする監督の選考が進められていた。そこにジ
ョージ監督の名前が浮上してきたものだが、そのジョージ監
督は、フォーカス・フィーチャーズ製作で、ホアキン・フェ
ニックス、マーク・ラファーロ、ジェニファー・コネリー、
ミラ・ソルヴィノ共演による“Reservation Road”という作
品の撮影が終了したところで、タイミング的には全く問題は
ないようだ。
        *         *
 続いては、パラマウントで進められている2本の続編に懐
かしい顔の登場が報告されている。
 まずは、“Star Trek XI”に、レナード・ニモイの出演と
若き日のスポック役を、テレビシリーズ“Heroes”での演技
が評判のザカリー・クィントが演じることが公式に発表され
た。
 この作品ではカークとスポックの出会いが描かれるとされ
ているものだが、ウィリアム・シャトナーの出演は公表され
ているものの、若き日のカークを演じる俳優は未発表。因に
クィントは1977年生まれで、その年代の俳優に絞られそう?
そうなると一時噂に上っていたマット・デイモンの出演は無
さそうだ。全米公開は2008年12月の予定。
 一方、撮影開始された“Indiana Jones IV”には、カレン
・アレンの出演が報告された。彼女の役柄は『レイダース/
失われた聖櫃』と同じマリオン・レイヴェンウッドとのこと
だが、新登場のインディの息子との関係は明らかにされてい
ない。
 因に、第1作と第2作の関係では、第2作の方が時間軸は
遡るとされていたもので、従って、第2作のケイト・キャプ
ショーとはその後別れたことがはっきりしている。ただし、
アレンが演じたマリオンとは、第1作以前にも関係があった
ことが示唆されており、実は第3作がさらに時間軸を遡った
ものになっていれば、マリオンとの最初の出会いが描かれる
という期待もあったものだ。
 実際の第3作ではその期待は裏切られたが、時間を経ての
マリオンの再登場は、今回果たされることになるようだ。な
お、全米公開は2008年5月22日に決定されている。
        *         *
 お次はちょっと変な話題で、ハリー・ポッターという少年
を主人公にした映画作品のリメイクが計画されている。
 このオリジナルは、1986年に公開された“Troll”という
ホラー作品で、データベースで調べると確かに主人公の名前
はハリー・ポッターJr.。他に、ジェームズではないSr.も登
場するようだ。物語は、少年ハリー・ポッターが、魔法使い
がいて魔法の通用するパラレルワールドに連れて行かれ、そ
の世界を悪いトロルから救うため活躍するというもの。
 リメイクは、86年版を監督したジョン・カール・ビューク
ラーが再び手掛けるもので、同じ俳優を使って同じシナリオ
で撮影することが報告されている。しかし、同じ俳優(『ネ
バーエンディング・ストーリー』のノア・ハサウェイ)とい
うことは、俳優はもはや少年ではないはずで、どのようなリ
メイクになることやら。
 それにしても、J・K・ローリングは知っててこの主人公
の名前にしたものではないはずだが、偶然というのは恐ろし
いものだ。まあ、リメイクする側もここは一発頑張って、面
白い作品にして欲しい。
        *         *
 次はまともにワーナーから、新たにマイクル・ヘイグス原
作の“In the Small”というグラフィックノヴェルの映画化
権を獲得したことが発表された。
 この原作は、謎の現象によって全世界の人類だけが6イン
チの背丈に縮小してしまうという事態から始まり、生き残っ
た人々の、もはや食物連鎖の頂点とは言えなくなった状況で
のサヴァイヴァルが描かれるというものだそうだ。因に、原
作者のヘイグスは、“The Hobbit”などの挿絵を手掛けたイ
ラストレーターと紹介されていた。
 そしてこの原作を、“I Am Legend”なども手掛ける製作
者で、脚本家としても有名なアキヴァ・ゴールズマンのプロ
ダクションのスタッフが見つけ出し、ワーナーに企画が上げ
られて映画化権の獲得となったものだ。
 人間だけが小さくなってのサヴァイヴァルというのは、テ
レビシリーズの“Land of the Giants”(巨人の惑星)など
いろいろあったと思うが、それを現代のVFX技術で映像化
するとどうなるか。技術の粋を凝らした作品が期待される。
 ただし、脚本家としてのゴールズマンは、来年製作が予定
されている『ダ・ヴィンチ・コード』の関連作品で、ロン・
ハワード監督と主演のトム・ハンクスが再結集する“Angels
& Demons”の脚色中とのことで、彼の脚色で進めるのは少
し先になりそうだ。
        *         *
 アメリカPEN主催のヘミングウェイ賞などを受賞してい
る作家ジョーダン・アニスレイが発表する吸血鬼3部作につ
いて、その映画化権をリドリー&トニーのスコット・フリー
とフォックス2000が、7桁($)の契約金で獲得したことが
発表された。
 原作は、400ページの抜粋と概要の提示に対してバランタ
イン社が375万ドルの契約金で出版権を獲得し、2009年夏に
第1巻の“The Passage”が出版される。物語は、南米で発
生した不治の伝染病が、実は吸血鬼を生み出すものであった
という発端で、人類社会が荒廃して行く中での人々の必死の
行動が描かれるとのことだ。物語には、“28 Weeks Later”
や“The Stand”のような要素もあるとされている。
 スコット兄弟と吸血鬼というと、トニーの監督デビュー作
の“The Hunger”(ハンガー)がそのテーマを扱っていたも
のだが、今回はどちらが監督を担当することになるのか、現
状では明らかにされていない。いずれにしても映画化は原作
の出版以降になると思われる。
        *         *
 最後は短いニュースをまとめておこう。
 ポール・WS・アンダースン監督で進められているリメイ
ク版“Death Race”に、ジェイスン・ステイサムの主演と、
タイリーズ・ギブスン、ジョアン・アレンの共演が発表され
た。1975年ロジャー・コーマンのオリジナルでは、デイヴィ
ッド・キャラダインの主演に、シルヴェスター・スタローン
らが出演していたものだが、今回も面白い顔ぶれになりそう
だ。撮影開始は数週間以内、全米公開は2008年9月26日とさ
れている。
 第129回で紹介した“Repo! The Genetic Opera”の映画化
に、お騷わせ娘のパリス・ヒルトンの出演が発表された。こ
の作品では、すでにアレクサ・ヴェガやポール・ソルヴィノ
らの出演も発表されている。作品は、“Saw 4”の監督も担
当しているダレン・リン・ボウスマンが新たな路線で進めて
いるもので、2056年を背景に、人クローンの問題なども扱う
というもの。オペラということでは歌も歌うことになるもの
だが、どうなりますか。なおパリスが演じるのは、ソルヴィ
ノが演じる悪役の娘だそうで、30人ほどの候補の中から選ば
れたということだ。因に、彼女は昨年自己のアルバムも出し
ている。
 “Spider-Man 4”について、監督のサム・ライミとソニー
との間の会談が行われ、まず脚本家を選考するということで
話し合いがまとまったそうだ。その後のライミの発言では、
「作品を応援することでの自分の立場は変わらない。監督を
するかどうかは判らないが、脚本家が見つかって、その人と
共同作業が出来るようであれば、考えることになるかも知れ
ない」とのことで、まずは“4”の製作は確定、後は脚本家
次第となりそうだ。ライミもソニー側も、新しい方向性が必
要ということでは意見は一致しているようで、新展開が期待
される。
 本当の最後は残念な情報で、カプコンとパラマウントで進
められている続編“Silent Hill 2”の計画から、脚本家の
ロジャー・アヴェリーも離脱を公表した。この計画ではオリ
ジナルを監督したクリストフ・ガンスも、創造上の意見の相
違を理由に離脱を表明しており、今回アヴェリーも「クリス
トフがやらないなら、僕も…」という結論になったようだ。
これで続編は、監督・脚本家のいない状態で企画のみが存在
することになった。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二