2006年09月30日(土) |
アンノウン、とかげの可愛い嘘、スネーク・フライト、カオス、エレクション、アジアンタムブルー、イカとクジラ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『アンノウン』“Unknown” 脱出不能の建物に閉じ込められた5人の男。彼らは全員が記 憶を失っている。しかし、彼らの内、2人は人質で3人は誘 拐犯らしい。ところが、記憶喪失のために自分が被害者なの か犯人なのかも判らない。こんなシチュエーションで繰り広 げられる心理ドラマ。 映画を観るまでは、この設定自体が如何にして成立するか疑 問だった。しかし観ると実に納得できる展開で、その辺から 嬉しくなる作品だった。しかも、それぞれの記憶は徐々に蘇 ってくるのだが、それがまたお互い嘘を付いているのか真実 を喋っているのか… つまり彼らは、お互いに誰を信用して良いかも判らず、疑心 暗鬼のままそれでも協力して状況を打開しようとするのだが …その上、蘇り始めた記憶は細部が曖昧で、それが一層混乱 を招いて行く。なお映画では、蘇った記憶の描写もあるが、 それも実に上手かった。 設定を聞いたときには『SAW』の亜流かと思ったが、ちゃ んと理詰めで進んで行く物語には感心させられ通しだった。 もちろん『SAW』とは全く違う展開だから、一概に比較で きるものではないが、一面では『SAW』よりも興奮させら れた感じだ。 という素晴らしい脚本を書いたのは、マシュー・ウィニー。 初めて聞く名前だが、インターネットのデータベースによる と、この前には8分の短編を脚本監督した記録があり、その 短編は10人の投票者ではあるが10点満点の平均9点という高 い評価を得ていた。 因にその短編は、24時間で映画を作るコンテストに応募され た作品ということで、撮影開始から編集、音入れまで23.2時 間で完成されたということだが、その評価の高さと今回の作 品の出来を考えると、この名前はちゃんと記憶して置いた方 が良さそうだ。 監督は、トヨタやベンツのCM、それにミュージックヴィデ オなどで国際的な賞をいくつも獲っているというサイモン・ ブランド。ただし、インターネットのデータベースでは、フ ォード・ノースという共同監督の名前が挙がっており、その 経緯は不明。 出演は、ジム・カヴィーゼル、バリー・ペッパー、グレッグ ・キニア、ジョー・パントリアーノ、ジェレミー・シスト。 他に、『アイ,ロボット』のブリジット・モイナハンらが共 演している。 なお本作はアメリカ映画だが、本国は公開待機中で、日本で の公開が先行するようだ。
『とかげの可愛い嘘』(韓国映画) 小学生の主人公の前に現れた黄色い合羽を着た女子転校生。 主人公は一目で彼女を好きになるが、その子は、「自分は呪 われた子で、触ると呪いが罹る。合羽はその防護服だ」と言 い出す。そして実際に、彼女に触れた先生が自転車で転んだ りもしてしまう。 しかもその子は、「自分は宇宙人で、大きくなったら宇宙へ 帰る」などと、真実とは思えないことを言い続ける。でも、 主人公は彼女のことを思い続けるが…ある日、偶然彼女に触 れた後で病気になり、その間に彼女は消えてしまう。 そして10年後、再び彼女と巡り会う。彼女は学業も優秀で、 一緒に大学受験の勉強をするが、急接近した彼が再び病気に なり、「自分は銀行員と結婚する」と言い残して、また行方 不明になる。そして主人公は大学を卒業して銀行員となり、 彼女を待ち続けるが… こんな一途な主人公と、不思議な嘘をつき続ける少女の、ち ょっとファンタスティックなラヴストーリー。 主演は、『マラソン』のチョ・スンウと『トンマッコルへよ うこそ』のカン・ヘジョン。2人とも、美男美女のカップル とは違うかも知れないが、その分親しみやすくて良い感じの キャラクターだ。特にヘジョンは、『トンマッコル…』で受 賞も果たし、韓国映画の次代を担う2人とも言える。 それに加えて、2人の幼年時代を演じるのが、パク・コンテ とピョン・ジョヨン。特にヘジョンの子供時代を演じるジョ ヨンの愛くるしい笑顔は、すでに受賞経験もある小さな名優 たちと言えそうだ。 監督は、『シルミド』などの助監督を務め、本作が監督デビ ューのカン・ジウン。本人は男性映画でデビューするつもり だったようだが、この一風変わったラヴストーリーの脚本が 気に入り、実に丁寧に、そしてファンタスティックに撮り上 げている。特に、後半の物語が急展開し始めてからのテンポ に緩急を付けた演出は、見事だった。 なお、韓国語の原題は「トカゲ」ということだが、これは幼 少のヒロインがペットとして飼っているもので、さらに尻尾 を残して消えて行くヒロインも表しているものだそうだ。
『スネーク・フライト』“Snakes on a Plane” ホノルル発L.A.行きのジャンボジェット機が、毒蛇の大群 に襲われるというパニック映画。パニック映画という言葉は 久しぶりに使ったが、正にそういう感じの作品だ。 物語の発端は殺人事件。休暇でホノルルを訪れていたロスの 地方検事が殺されたものだが、その犯人は、検事局が総力を 上げて起訴に持ち込もうとしている犯罪組織のボスだった。 そしてそれを1人のサーファーが目撃する。 そこで、FBIでは目撃者を保護し、ロサンゼルスへ警護移 送することを決定。その任務を、サミュエル・L・ジャクス ン扮するベテラン捜査官とその同僚が遂行することになるが …そのフライトには壮絶な罠が仕掛けられていた。 深夜便がホノルルを発って、ロスとの中間点に達した頃、貨 物室に隠された荷物が開封され、そこからフェロモンで発情 し攻撃性を増した大量の毒蛇が放たれたのだ。その毒蛇の大 群は、最初に電気系統を襲い、その後は客席や操縦席にもに 雪崩れ込んでくる。 次々に襲われて絶命して行く乗客やパイロット。この緊急事 態の中で、果たしてフライトは完遂され、目撃者は無事ロサ ンゼルスに辿り着けるのか… 映画で一番嬉しくなるのが、集められた蛇の多様なこと。実 際、物語的にも、蛇の多様性によって血清をどのように準備 するかなどのエピソードも織り込まれるものだが、ガラガラ 蛇からまむし、マンバなど、一方、巨大なニシキ蛇なども含 めていろいろな蛇が登場する。 大量の蛇というと、僕らの年代では『レイダース/失われた 聖櫃』を思い出すものだ。このことは、実はプレス資料には 言及がなかったが、映画の中ではちゃんとオマージュが捧げ られているのも嬉しかった。 本来、貨物室は暖房がないので、蛇は冬眠してしまうという 意見もあるようだが、それはお話として、ちょっとエッチな 部分も含めて、これでもかのパニック演出は、久しぶりに堪 能できる作品だ。 なお共演者では、『ER』のハサウェイ看護士ことジュリア ナ・マーグリーズが、『ゴーストシップ』以来久々にスクリ ーンで観られる。監督は、『セルラー』のデイヴィッド・エ リス。
『カオス』“Chaos” ローレンツの「バタフライ効果」などでも知られるカオス理 論に基づくと称する銀行強盗計画を描いた作品。単純な銀行 強盗に見えた事件が、謎が謎を呼んで、全く違う様相を見せ るまでが描かれる。 物語の主人公は、ジェイスン・ステイサム扮するシアトル市 警のコナーズ刑事。彼はその前に担当した人質事件で被害者 を殺してしまい、世論の総攻撃を受けて相棒は免職、彼も停 職の身にあった。 しかし、銀行強盗団が人質立て籠り事件を起し、犯人は彼を 交渉人に指名。このため警察幹部は彼の復職を認め、彼が現 場に乗り込んでくるが…周囲との軋轢は大きく、彼の指示を 無視したSWAT隊の突入で現場は混乱、それに乗じて犯人 は逃亡してしまう。 ところが、立て籠り中に貸金庫を爆破したりした犯人は、結 局、金品は何も盗らずに逃げ出したことが判明。では犯人の 目的は何だったのか、コナーズ刑事は、新たに起用された若 い刑事(ライアン・フィリップ)を相棒に、ローレンツと名 告る犯人(ウィズリー・スナイプス)を追うが… 防犯カメラが巧妙に避けられていることが判明すると、直ち に報道の映像を押収して逃亡した犯人を特定するなど、刑事 たちが知恵を絞って犯人を追いつめて行く様が見事に描かれ る。しかも、犯人の知性がかなり高い設定なので、その対決 は正に知能戦という感じのものだ。 それでも着実に犯人を追いつめ、また犯人がそれを巧みにか わして行くという展開も、爆破などのアクションも絡めてな かなか上手く描かれていた感じだ。脚本監督は、『Uボート ・最後の決断』などのトニー・ギグリオ。 犯人側が手の内を晒し過ぎで、自分の首を絞めているような 面もあるが、全体は緊迫感も充分だし、フラッシュバックに よる種明かしも、あまりわざとらしい感じではなかった。全 体としては佳作という感じで、特にがっぷり組んだ3人の男 優の演技は楽しめた。 それにしてもステイサムは見事な主役ぶりで、『トランスポ ーター』でファンになった僕としては嬉しい限りだ。他に、 『ドラキュリア』『リーグ・オブ・レジェンド』などのジャ スティン・ワデルが共演している。
『エレクション』“黒社會” 17世紀に中国本土が満州民族の清王朝に征服された際、漢民 族王朝の復活を目指して結成された三つの漢民族秘密結社、 その一つ洪門会は、戦前の抗日運動や戦後は中国共産党とも 対抗し、1960年当時には300万香港市民の内、6人に1人が 何かの関係を持つとさえ言われた。 しかしその存在意義は徐々に変質し、今では黒社会と呼ばれ るいわゆる組織暴力団と見なされている。その中でも和連勝 会は、構成員50000人を数える香港最大の組織だった。 その和連勝会で2年に1度の会長選挙が行われる。候補者は 2人、その一方は沈着冷静で誰の目にも会長の器と考えられ ているロク。他方は短気で暴力的だが、会の勢力拡大にも熱 心なディー。そのディーは大金をばらまいて自分への支援を 取り付けようとしていた。 ところが、選挙の趨勢を握る幹部会は、秘密会を開いてロク の会長を決めてしまう。だが実際に会長となるためには、前 会長から「竜頭棍」と呼ばれる代々会長職に受け継がれてき た彫刻を受け取らなくてはならない。ディーはただちにその 奪取を狙うが… この選挙の裏取り引きや竜頭棍の争奪戦。それに、選挙結果 が内部抗争に発展することを恐れる警察の動きなどが絡み合 って、事態は緊迫の度を高めて行く。 基本的にはやくざものだが、描かれている人間関係は、多分 どこかの国の政党の総裁選挙も同じなのだろうな…何てこと を思わせる、そんな面白さがあった。まあ香港の特殊性で、 本土との関係なども描かれるが、それも常に人間を中心に置 いて描いているものだ。 そして勝者は、負けた側の陣営にも配慮して次代を構築して 行かなければならない、その辺のシビアな描き方も納得する ところだった。また、勝者が行う洪門会伝統の儀式の様子な ども紹介されていて、それも面白かった。 監督は、『ターンレフト・ターンライト』などのジョニー・ トー。出演は、ロク役に『トゥームレイダー2』などのサイ モン・ヤム、ディー役を『愛人/ラマン』などのレオン・カ ーファイ。 なお、映画の全体はドキュメンタリータッチで統一され、特 に、その雰囲気を醸し出すカメラワークや色彩を含む映像に は出色のものがあった。撮影は『男経ちの挽歌』などのチェ ン・シウケン。本作は、カンヌ映画祭のコンペティションに 出品された。
『アジアンタムブルー』 大崎喜生原作によるラヴストーリーの映画化。 エロ雑誌の編集者が巡り逢った一人の女性カメラマン。水溜 りに写る映像ばかりを追い続ける彼女に心引かれた編集者は …物語は、東京からニース近郊のジャン・コクトーが愛した 町ヴィルフランシュ・シュル・メールへと拡がって行く。 多分、今の日本の女性にはこういうのが一番受けるのだろう なあという作品。主演の阿部寛、松下奈緒は共にテレビのそ の手のドラマで人気があるようだし、まさに狙い撃ちという 感じの作品だ。その狙いが的中することを祈りたい。 エロ雑誌だの、その現場に登場する清純な女性カメラマンだ のと言われると、僕には話を作り過ぎのようにも感じてしま うが、原作本は映画化されるほどに売れたのだから、その辺 のもの珍しさが評価されたのかな。正直に言ってその感覚は よく判らない。ただこんなファンタシーも、たまにならあっ ても良いかなという感じの作品ではあった。 なお、映画には女性の主人公が写したとされる水溜りの写真 が多数挿入されるが、これがなかなかの雰囲気を作り上げて いた。これらの写真は矢部志保という人が映画のために撮り 下ろしたもののようだが、テーマの捉え方の面白さもあって かなり生きている感じがした。 できたら上映館で写真展でも開いてもらって、近くでじっく り見たい気もした。 後は、映画の後半を締めるフランスのシーンも良い感じだっ た。コクトーと言われても、今の日本の若い世代にどれだけ 通用するものか判らないが、『オルフェ』に驚嘆した世代と しては素敵なプレゼントをもらった感じだ。 また、港町の前の小さな入り江を大きな水溜りと見なす、空 撮も含めた撮らえ方は、この作品に対する製作者たちの愛情 も感じられて素晴らしいものだった。 監督の藤田明二は1948年生まれ、脚本の神山由美子は1958年 生まれ、共に今まではテレビで主に仕事をしてきた人たちの ようだが、安定したストーリー展開や演出の巧みさはさすが ベテランという感じがした。 共演は、小島聖、佐々木蔵之介、村田雄浩、小日向文世、高 島礼子。この顔ぶれも見慣れてきた感じだ。また、劇中音楽 のピアノ演奏は、現役音大生でもある松下が行っているそう だが、その演奏場面は登場しない。
『イカとクジラ』“The Squid and the Whale” ウェス・アンダースン監督が2004年に発表した『ライフ・ア クアティック』で共同脚本を担当したノア・バームバックの 脚本・監督による作品。製作はアンダースン。なお、本作の 脚本は今年のアカデミー賞脚本賞にノミネートされた。 両親が作家という家庭。しかも父親の作品は高尚でなかなか 売れないが、母親は人気作家になりつつある。そんな家庭環 境は当然危うさに満ちている。そんな家庭に暮らす2人の息 子の物語。そしてある日、父親が家を出ると宣言する。 この両親の離婚によって、子供の養育は共同監護で行うこと になるが、それは曜日ごとに2つの家を行き来するという子 供の人権を全く無視した制度。そんな環境の下で兄弟は共に 問題を起してセラピー通いとなるが、それでも本当の悩みに は誰も気づいてくれない。 実は、バームバック監督自身が両親ともに映画評論家という 家庭に育っており、この作品は多分に実体験に基づいている ようだ。とは言うものの、描かれている物語は、多かれ少な かれどんな家庭にも起こりそうなものであり、アメリカほど ではないにしても離婚が増加している日本でも共感を呼ぶ内 容といえる。 特に、子供の意向を無視した共同監護というシステムは、日 本では認められているものかどうか知らないが、かなり非人 間的なシステムで、アメリカでこのようなことが通常行われ ているということには驚かされた。 出演は、両親役にジェフ・ダニエルスとローラ・リニー。2 人息子をジェス・アイゼンバーグとオーウェン・クライン。 なおクラインは、ケヴィン・クライン、フィービー・ケイツ 夫妻の子供だそうだ。他に、アンナ・パキン、ウィリアム・ ボールドウィンが共演。 なおバームバックは、アンダースン監督の次回作で、ロアル ド・ダールの原作を映画化する“Fantastic Mr.Fox”の共同 脚本も手掛けている。因に、本作の製作はアンダースンが行 っているもので、2人の関係はかなり良好のようだ。 ただし、本作の字幕で、家を出た父親の引っ越し先が「公園 の向こう側」というのは、確かに原語の台詞もparkだったよ うだが、ニューヨークでパークと言うとセントラルパークを 指すもので、そこらの町中の公園とは訳が違う。その辺のニ ュアンスがちょっと気になった。 それにoysterを、単純に「貝」と訳しているのも気になる。 貝の「蠣」は果物の「柿」と混同されるので難しいところだ が、何か工夫が欲しい感じだ。その他のカルチャーの部分は いろいろ気を使っているようだが、もっと基本的な部分にも 気を使って欲しかった感じだ。
2006年09月29日(金) |
百年恋歌、合唱ができるまで、レディ・イン・ザ・ウォーター、世界最速のインディアン、13の月、椿山課長の七日間、アントブリー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『百年恋歌』“最好的時光” 台湾の名匠・侯孝賢監督による2005年作品。 1966年、1911年、2005年、それぞれの時代を背景にした3つ の恋物語を、『グリーン・ディスティニー』などのチャン・ チェンと、『トランスポーター』などで国際的にも活躍する スー・チーの主演で描く。 第1話(1966年)は、兵役で入営の通知が来た若者と、彼が 通っていたビリヤード場の女店員が主人公。2人はそれほど 深くつきあっていたわけではないが、入営から3カ月後、休 暇でビリヤード場を訪れた若者は、姿を消した女性を追って 各地をさ迷う。 第2話(1911年)の主人公は、遊郭の芸伎と常客の外交官。 2人の間には客と芸伎以上の通い合う想いがあったが、外交 官には国を背負った使命があり、芸伎の愛をた易く迎え入れ る訳には行かない。申亥革命前夜の物語。 第3話(2005年)は、クラブ歌手とカメラマンの恋。出逢か ら互いに惹かれ合うものを感じる2人だったが、現代の愛の 顛末は単純なものではない。 まずは、たった100年足らずで人の姿や風景がこうも変って しまったのかと驚かされる。この変化は、台湾に限らず日本 も同じなのだろうが、戦前を描く第2話は別としても、第1 話と第3話の違いは、これらの時代を知る自分にとっては、 特に衝撃的だった。 それにしても、第1話の大らかな描き方と、第3話の閉塞感 で一杯の描き方は、監督の心情をそのまま表わしているのだ ろうか。その一方で、不自由だが人々が雄々しく生きている 第2話と、自由だが生きる方向性の見いだせない第3話の対 比も鮮やかだ。 結局、これらの対比が強く印象に残る作品だが、その順番が 閉塞した現代で終ることが、何とも観終えたときの気持ちを 沈んだものにさせてしまう。 正直に言って、自分がこの映画の編集者なら、第1話を分割 して第2話、第3話の前後に割り振った構成にする。その方 がまだしも救いが感じられるはずだが、監督はそのような救 いをも否定したい気持ちなのだろうか。 なお、第2話はサイレント映画の形式で、主人公らの会話の 演技の後に字幕が出る仕組みになっている。それと伴奏音楽 が流れるが、その「南管」と呼ばれる歌曲をスー・チーが歌 うシーンだけ、音楽と口が合わされているというのも不思議 な感じだった。 因に、音楽では、第1話には「煙が目にしみる」など共に、 「星は何でも知っている」「江差恋しや」の日本歌曲の台湾 語版が使用されていた。また第3話のクラブのシーンでは、 スー・チー自身が歌っている姿も写されているものだ。 侯孝賢監督作品は、1998年の『フラワーズ・オブ・シャンハ イ』以降、『ミレニアム・マンボ』『珈琲時光』と見てきて 4本目だが、ちょうどその3本のまとめのような作品だ。次 からは、また別の顔の侯孝賢が見られるのだろうか。 なお、9月30日から東京渋谷で侯孝賢作品15本などを上映す る映画祭も行われている。
『合唱ができるまで』“Les Metamorphoses du Choeur” パリ13区にあるアマチュアの合唱団が、教会でのミサ・コン サートで歌うために練習を重ね、それが完成するまでを描い たドキュメンタリー。 その合唱団には子供のグループと大人のグループがあって、 それぞれが独立して練習を積んで行く。そのジェスチャーを 交えた特異な指導法から、発声の訓練、また演奏されるミサ 曲の説明まで、音楽への多面的な取り組みがみごとに98分の 中に描かれている。 合唱の指導をしているクレール・マルシャンは、合唱指導の 第一人者と言われる女性のようだが、その巧みな指導ぶりに は、思わず自分もその指導を受けてみたい気持ちになった。 実際、映画を見ながら、密かに声を出したり呼吸を整えたり もしていたものだ。 もちろん子供のグループの中には、最後まで落ち着きの無い 子などもいるのだが、それも見事に気を逸らせないように指 導して行く。そして、映画の中では、徐々にコーラスが完成 して行く喜びも感じられた。 映画の後半では、伴奏の楽団が入って全体が完成されて行く 様子も描かれるが、指揮者も思わず弱音を吐くような状態か ら、それが一瞬にして纏まるシーンは、ある種の奇跡を見る ような感動さえも憶えてしまった。 演奏される音楽は、マルカントワーヌ・シャルパティエ作曲 『真夜中のミサ曲』と、ヨハン・ミヒャエル・ハイドン作曲 『幼子殉教者の祝日の晩課』。普段聞き慣れないミサ曲も心 地よく聞かれた。 なお作品は、一切のナレーションも排して純粋に現状音だけ で綴られている。それは、題材が合唱の指導であるから、指 導者が充分に語ってくれているものではあるが、それにして も、最近の製作者の意見ばかりが饒舌なドキュメンタリーに 比べると、それだけで心地よさも感じてしまう作品だった。 歌うのはカラオケも苦手な自分だが、こんなアマチュア合唱 団でなら歌ってみたい気持ちにもなった。
『レディ・イン・ザ・ウォーター』“Lady in the Water” 『シックス・センス』や『ヴィレッジ』のM.ナイト・シャ マラン監督の最新作。 物語の元は、監督が2人の我が子に語って聞かせたbedtime storyだそうで、完成された映画も、見事にお伽話になって いる。そのお伽話を、納得して楽しめるかどうかということ で、観客の心の純粋さも試されるという感じの作品だ。 そのお話は、プールの底に隠れ家があって、1人の女性が隠 れていたというもの。彼女は水の世界からの使者で、その使 命は人類の特定の人物と会って、その人物を目覚めさせるこ と。その人物を目覚めさせることで、人類は正しい未来へと 導かれるのだ。 一方、彼女は使命を果たした後には水の世界に帰還しなけれ ばならないが、地上には、彼女の使命と帰還を妨害するため の怪物も放たれている。だが、目覚めた人物の周囲には、彼 女を守るための人々も、その職務を認識しないまま居るはず だった。 そして、映画の主人公は、とあるアパートの管理人。そのア パートには、人種や職業もばらばらな人々が暮らしていた。 ある夜、彼は夜間使用禁止のプールの中に1人の女性を発見 する。その女性を保護した彼は、彼女の言葉を信じ、その人 物捜しと彼女を守る組織作りを始めるが… 何しろ、主人公も含めて登場する人たちが彼女の言うことに 全く疑問を持たず、主人公を中心に職務を全うしようする。 それがこの物語のお伽話らしさというところだ。 実際、この映画の登場人物の大半は、全く無償で彼女のため に尽くそうとする。そんな他人を無条件に信じる気持ちは、 恐らく現代人が最も忘れているものだろう。そんな寓意も含 む物語ともいえる。 ただし映画自体は、特定の人物の割り出しや、使命を持った 人々の探索などがちょっとしたゲーム感覚で描かれていて、 さすがに現代の子供に聞かせるお伽話という感じもする。そ の辺の感覚も楽しみたいところだ。 出演は、『シンデレラマン』のポール・ジアマッティーと、 『ヴィレッジ』に引き続いてブライス・ダラス・ハワード。 特にハワードは、監督の2人の娘から直々のご指名だったそ うだが、彼女自身、父親のロン・ハワードから『ウイロー』 などのbedtime storyを聞かされて育ったということで、こ のオファーには感激もひとしおだったようだ。
『世界最速のインディアン』 “The World's Fastest Indian” 1962年、ユタ=ネヴァダ州境のボンヌヴィルにあるソルトフ ラッツで、2輪車の世界最速記録を樹立したニュージーラン ド男=バート・マンローの実話に基づく物語。 使われるマシンは1920年型インディアンスカウト。マンロー は、本来の最高時速は80kmというこのバイクを、40年掛けて 自分の理論に基づき手作りで改良し、63歳のときに初めてボ ンヌヴィルに挑む。しかも企業などの支援は一切なく、独力 で全てを成し遂げたのだ。 瀟洒な家が並ぶ住宅地の中、草ぼうぼうの敷地に建つガレー ジ兼用の住居。マンロー自身が小屋と呼ぶこの家で、彼はバ イクの改良を続けてきた。それはエンジンのピストンまで自 作する徹底したもので、しかも資金のない彼はほとんどを廃 品の再利用で賄う。 それでも彼は、ニュージーランドでの2輪車のスピード記録 を次々に塗り替え、やがて地上のスピード記録のメッカ=ボ ンヌヴィルを目指すようになる。しかしバイクの輸送費や、 彼自身の渡航費もままならない。そんな彼をバイク中間達も 支援はしてくれるが… それでも彼は、老いて行く自分の身体を考え、一世一代の冒 険に旅立って行く。そこにはいろいろな出逢があり、トラブ ルもあるが、ついに彼は聖地で世界記録を樹立するのだ。 監督は、ニュージーランド出身で、『13デイズ』や『リクル ート』など最近はハリウッド活躍するロジャー・ドナルドソ ン。実は、彼は1971年にマンロー自身に会ってドキュメンタ リーを制作しており、以来念願の企画だったという。 しかし、もっと物語を派手にしろと言うハリウッドで映画化 することを拒み、ニュージーランド資本と、日本からの資金 提供で実現したもののようだ。製作総指揮には3人の日本人 の名前が並んでいた。 主演は、アンソニー・ホプキンス。ハンニバル・レクター役 でオスカーも受賞したサーの称号を持つ名優は、BBCのテ レビドラマで水上最速記録を作ったドナルド・キャンベルを 演じたこともあるということで、よくよくスピード記録に縁 があるようだ。 そのホプキンスが演じたのは、頑固一徹ではあるが誰にでも 好かれるという希有な性格の持ち主。しかも最後は真の勝利 者になるというこのキャラクターを、実に生き生きと描き出 している。 これも、人々が大らかだった時代の物語と言えるかも知れな い。そんな中で、不断の努力で目標に突き進んで行った男の 物語。努力と勇気が見事に表現された作品だ。 なお、物語の中では電気毛布から取ってきたというアスベス トのシートを、こんなものは要らないと言って外すシーンが あり、それにもニヤリとした。
『13の月』 俳優池内博之による初監督作品。 都会での会社勤めを辞めて、海辺の故郷に帰ってきた男が、 12年前にある事情で別れた女性と再会する。彼女も同じ事情 で12年間を悔恨の想いで生きてきた。しかし彼女は、その後 に巡り会った男と共に生きる決心をしていたが… 1年を13月に分けた暦。それは毎年が全く同じ暦になるとさ れるものだが、そこには1日だけ暦から外れた日が生じる。 そんな日に起きた密かな過ち、しかしそれは永遠の悔恨を生 んでしまう。 青春時代には起こりがちな出来事と、それに引き摺られた男 女。誰にでも起きてしまったかも知れない、そんなドラマを 丁寧に描いた作品だ。 何せプレス資料が乏しいので、どういう状況で製作された作 品なのか皆目判らないが、脚本家には3人の名前が並んでい て、脚本はかなり練り込まれているものに感じた。そして監 督の池内は、その脚本を無理をせず丁寧に撮り上げている。 僕は最初、残される家族側に感情移入を持って観てしまった が、純愛ものとして観ればこの結論も有りうることだろう。 その意味では物語に破綻もなく、脚本は日本映画にしては良 くできているものに感じられた。 主演は、柏原崇と大塚寧々。柏原はトラブル明けの復帰作と して、撮影時に話題になっていた記憶がある。それに津田寛 治、吉沢京子、ミッキー・カーチスらが共演する。 題名の由来などでちょっとファンタスティックな側面はある が、全体的には普通のドラマだ。取り立てて言うべきものも あまりない。ただ監督に真摯な姿勢は感じられるし、今後の 作品にも少し期待を持ちたくなった。 実は内容的に、日本人よりも海外での評価が受けられそうな 感じがした。出来たら海外の映画祭にでも出して、ちょっと 箔を付けてからの公開でも良かったようにも思える。東京国 際映画祭のマーケットには出品してもらいたいものだが。
『椿山課長の七日間』 浅田次郎原作によるファンタシーの映画化。 突然死した主人公が、天国へ向かう前、初七日までの間だけ 地上に戻って最後の想いを遂げることを許される。ただし、 地上に戻ることを許されるには厳しい審査があり、その日は 75人の希望者の中から3人だけが選ばれる。 その1人は生前はやくざの親分で、彼の想いが通じないと無 益な殺生が行われてしまう。もう1人は12歳の少年で、生み の親に会いたいという。そして主人公は、重大な秘密を知る ために地上に戻されるというのだが… 西田敏行演じる主人公が甦った姿は、伊東美咲演じる女性。 綿引勝彦のやくざの親分は、成宮寛貴の美容師。伊藤大翔の 少年は志田未来の少女へと姿を変えられ、それがいろいろな ドラマを生み出して行く。 浅田原作のファンタシーの映画化は、『地下鉄に乗って』に 続けてだが、前の作品と同様、この作品でも、主人公たちが 状況を的確に把握して、それを最大限利用して行くところは 気持ちが良い。SFやファンタシーに対する理解が充分に感 じられる。 そして物語では、主人公に隠された重大な秘密が徐々に解き 明かされ、それが笑いや涙を誘って行く。そこには、矛盾や 御都合主義もあまりないし…と言うか、天国の案内人は、こ うなることを最初から把握してこの3人を選んでいるのだか ら、最後は見事にパズルが納まるものだ。 上記以外の配役は、天国の案内人役に和久井映見、この人の 笑顔は何時も後ろに何か隠しているように感じるが、その雰 囲気がこの作品にはピッタリだ。また主人公の息子に須賀健 太、この夏公開の『花田少年史』に続いて死者の甦りに憑か れる役。他に、國村隼、余貴美子、桂小金治、市毛良枝らが 共演している。 監督は『子ぎつねヘレン』の河野圭太、脚色は『風花』の川 口晴。CGIの制作者を確認できなかったが、中陰役所と呼 ばれる天国への入り口の雰囲気はなかなか良かった。
『アントブリー』“The Antbully” いじめられっ子で、その腹いせに庭の蟻の巣に水を注入する など蟻いじめ(antbully)していた少年が、蟻サイズにされ て蟻の社会で活躍する冒険物語。 ジョン・ニックルの原作から、アカデミー賞候補にもなった 『ジミー・ニュートロン』のジョン・A・デイヴィスが脚色 監督したCGIアニメーション。製作は、『ポーラー・エク スプレス』を手掛けたトム・ハンクス主宰プレイトーン。 主人公のルーカス・ニックルは、小柄で華奢で眼鏡で、何時 も近所のがき大将から「押しつぶし」などのいじめに逢って いる。そんなルーカスは腹いせに庭の蟻の巣を水浸しにする など蟻いじめを続けていた。 一方、その巣に暮らす雄蟻の魔法使いゾックは、長年の研究 の末、ついに人間の体を縮小する魔法の薬を完成する。そし てその薬を使って、何時も蟻いじめしているルーカスを蟻サ イズにしてしまうことに成功する。 こうして蟻の国に連れてこられたルーカスは、女王蟻の裁決 でゾックの親友の雌蟻ホーバに預けられ、蟻の社会での基本 教育として、友情やチームワークの大切さを学ぶことになる が…元から人間嫌いのゾックはそれに大反対だ。 しかし、雄の偵察蟻フーガックスや、食料調達隊長の雌蟻ク リーラから、蟻社会に大切なことを教育されるルーカスは、 徐々に蟻の知恵を身に付けて行く。 友情だのチームワークだのと言われると、普通に作るとかな り臭くなりそうな題材だが、そこはハリウッド作品、純粋に 冒険物語として楽しめるように作られており、大人の目でも 結構楽しめる作品だった。特に後半は、他の昆虫たちも巻き 込んだ大騒動が繰り広げられるものだ。 他愛もないと言われればそれまでだが、別段悪い作品でもな いし、子供たちに夢を与えられればそれで充分だろう。 ただ、日本での上映は、お子様向けに吹き替え版のみとなる ようで、試写も吹き替えで行われたものだが、大人の意見と しては、ジュリア・ロバーツ、ニコラス・ケイジ、メリル・ ストリープ、ポール・ジアマッティらが声を宛てたオリジナ ルも一度聞いてみたかったというところだ。 なお、日本語版の吹き替えはプロの声優が担当しており、よ くあるタレント起用のような聞き辛いところはなかった。
『アンノウン』“Unknown” 脱出不能の建物に閉じ込められた5人の男。彼らは全員が記 憶を失っている。しかし、彼らの内、2人は人質で3人は誘 拐犯らしい。ところが、記憶喪失のために自分が被害者なの か犯人なのかも判らない。こんなシチュエーションで繰り広 げられる心理ドラマ。 映画を観るまでは、この設定自体が如何にして成立するか疑 問だった。しかし観ると実に納得できる展開で、その辺から 嬉しくなる作品だった。しかも、それぞれの記憶は徐々に蘇 り始めるのだが、それがまたお互い嘘を付いているのか真実 を喋っているのか… つまり彼らは、お互いに誰を信用して良いかも判らず、疑心 暗鬼のままそれでも協力して状況を打開しようとするのだが …その上、蘇り始めた記憶は細部が曖昧で、それが一層混乱 を招いて行く。なお映画では、蘇った記憶の描写もあるが、 それも実に上手かった。 設定を聞いたときには『SAW』の亜流かとも思ったが、ち ゃんと理詰めで進んで行く物語には感心させられ通しだった もちろん『SAW』とは全く違う展開だから、一概に比較で きるものではないが、一面では『SAW』よりも興奮させら れた感じだ。 という素晴らしい脚本を手掛けたのは、マシュー・ウィニー 初めて聞く名前だが、インターネットのデータベースによる と、この前には8分の短編を脚本監督した記録があり、その 短編は10人の投票者ではあるが10点満点の平均9点という高 い評価を得ていた。 因にその短編は、24時間で映画を作るコンテストに応募され た作品ということで、撮影開始から編集、音入れまで23.2時 間で完成されたということだが、その評価の高さと今回の作 品の出来を考えると、この名前はちゃんと記憶して置いた方 が良さそうだ。 監督は、トヨタやベンツのCM、それにミュージックヴィデ オなどで国際的な賞をいくつも獲っているというサイモン・ ブランド。ただし、インターネットのデータベースでは、フ ォード・ノースという共同監督の名前が挙がっており、その 経緯は不明。 出演は、ジム・カヴィーゼル、バリー・ペッパー、グレッグ ・キニア、ジョー・パントリアーノ、ジェレミー・シスト。 他に、『アイ,ロボット』のブリジット・モイナハンらが共 演している。 なお本作はアメリカ映画だが、本国は公開待機中で、日本で の公開が先行するようだ。
2006年09月20日(水) |
ヘンダーソン夫人の贈り物、ハヴァナイスデー、家門の危機、出口のない海、武士の一分、敬愛なるベートーヴェン、ダンジョン&ドラゴン2 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ヘンダーソン夫人の贈り物』“Mrs.Henderson Presents” 第2次大戦中のナチスドイツによる空襲の下でも、興行を止 めなかったというロンドン・ウエストエンドに在ったウィン ドミル劇場の実話に基づく物語。 70歳で資産家の夫に先立たれたヘンダーソン夫人は、その遺 産の使い道としてロンドン・ソーホー街の劇場を買い取る。 そして、その出し物を取り仕切らせるためにオランダ出身の ヴィヴィアン・ヴァンダムという支配人を雇い入れる。 その劇場では、最初はミュージカルやボードヴィルを織りま ぜたショウをノンストップで上演するという興行を行って評 判を呼ぶが、それはやがて別の劇場にも真似され収入が落ち 込んでくる。そこでヘンダースン夫人が思いついたのは… 戦前のイギリスでは実演のヌードショウは禁止されていたよ うだ。しかし、そこは政界にも顔の利く夫人が手を回して、 女性が動かないことを条件にショウの上演を認めさせてしま う。こうして劇場はさらに評判を呼ぶことになるが… 女性が動かないヌードショウは、額縁ショウという名で戦後 の日本でも一時期興行されたことがあるものだが、ルーツは 戦前のベルリンに在ったようだ。従ってこのショウ自体は特 別なものではないが、これがロンドン空襲のさなかも興行を 止めなかったということが物語のポイントになる。 実際、劇場は地下にあったもので、空襲にもびくともしなか ったということだが、出演者やスタッフはその劇場に泊まり 込みで興行を続けたというものだ。 映画では、このヌードショウも含めて、当時の歌や踊りのシ ョウの様子も再現されるし、その興行に至るバックステージ も紹介されて、その辺の興味も満足させてくれる。 特に、ゲイをカミングアウトしているイギリスの人気歌手ウ ィル・ヤングが、映画初出演で歌い踊る「グディ・グディ」 などの懐メロに乗せたショウの再現は、それだけでも存分に 楽しめるものだった。 物語は、甘いものばかりでなく、夫人が後悔の念に苛まれる ようなエピソードも起きてくるが、それでも前に進んで行く 人々の姿を欧い上げたものだ。主演は、ジュディ・ディンチ とボブ・ホスキンズ。2人の丁々発止のやりとりは、ユダヤ 人ネタのジョークも含め見事だった。ホスキンズは本映画の 製作総指揮も務めている。 なお原題にあるPresentsというのは、昔は「提供」と訳して いたものだが、今で言う製作総指揮のような感じの肩書で、 映画の中では、‘Mrs.Henderson Presents and Vivian Van Damm Produce’のように使われていた。 因に、映画の中でも「ヘンダーソン夫人の贈り物」というせ りふは出てくるが、そこでの原語はgiftが使われていたもの だ。従って、せりふにも出てくるから邦題はそれでも良いの だが、原題の意味も知っておいて欲しい言葉だ。
『ハヴァ、ナイスデー』 『夜のピクニック』の長澤雅彦ら、総勢18人の監督が作り上 げた短編オムニバス。公開は9本ずつ2プログラムに分けて レイトショウ公開されるようだが、試写会はその内の8本が セレクトされて上映された。 今回の作品は「短編.jp」というインターネットのサイトか ら生まれたということで、もしかしたら素人の原作を映画化 したということかも知れない。ただし、映画化に当っては、 24時間以内の物語という縛りがあったようで、その中で監督 の腕が発揮されている。 短編といっても、今回の作品はそれぞれが10分前後で、ここ までくると短編というより掌編、ショートショートという感 じだ。その短い時間の中で、起承転結、あっと驚く結末が付 けられれば最高だが。それはなかなか難しい。 毎年秋の終りごろに映画学校の生徒さんの作品を見せてもら っている。それも大体10分前後の作品な訳で、それと比較し て今回はさすがにプロの作品と言いたかったところだが…さ すがにこの短さでは、俳優の演技などには差があるものの、 ピシリと決まる作品にはなかなかならなかったようだ。 特に今回の8本では、どれも結末がうまく決まっていない。 どの作品も余韻が残るような感じの終わらせ方で、それはそ れでも良いのだが、どれもこれも同じような終り方では、全 体の印象が弱くなってしまう。 セレクトの基準がどこにあったかは判らないが、これはセレ クトの仕方にも問題がありそうだ。 なお、見せてもらった8本の中では、長澤監督の『birthday girl』、矢崎仁司監督『大安吉日』、富永まい監督『風見 鶏と煙突男』、安里麻里監督『夕凪』、中野裕之監督『全速 力海岸』などは気に入ったが、それぞれ結末にはもう一工夫 欲しかった感じはしたものだ。
『家門の危機』(韓国映画) 本国では昨年公開され、同時期公開の『四月の雪』、『デュ エリスト』を押さえて堂々の第1位、年間でも2位の興行記 録を残し、韓国ラヴコメでは歴代1位と言われる大ヒットコ メディ作品。 女頭目に率いられた白虎組は、全羅南道を拠点にしたヤクザ 組織だが、昔ながらの任侠道に根差した組で、中央の検察が 注目するような問題も起していないようだ。しかしソウル進 出を目指して指定暴力団の斧組との軋轢も生じている。 主人公は、そのヤクザ組織の跡取り。組は今は亡き父親が興 し、現在の頭目は母親というものだ。その母親は長男が結婚 しないことを心配し、次男と三男に自分の還暦の誕生日まで に、長男に嫁を見つけることを命令する。 一方、長男は高校時代に女番長だった亡き同級生の思い出に 囚われており、次男や三男の勧める女たちにもなかなか目が 行かない。そんな長男が、ある日、一人の女性に目を奪われ る。それは昔の同級生の面影を持つ女性だったが… 実は、彼女はソウル地方検察庁で広域暴力団摘発を担当する 敏腕検事だった。そして2人は、ひょんな事からお互いの身 分を隠したまま付き合いを始めてしまう。 何と言ってもヤクザはヤクザだし、任侠道に根差すと言われ ても、映画の中では平気で暴力を揮うシーンも登場する。で もまあこの作品の物語では、ヤクザの跡取りと検察官という 図式でしか成り立ちそうもないし、お話はお話として楽しむ ところだ。その意味では、この映画はお話の展開には無理は ないし、なかなか面白く出来上がっている。 主演は、『銀杏の木のベッド』『アウトライブ−飛天舞−』 で見事なアクションを見せてくれたシン・ヒョンジュンと、 韓国テレビのヴァラエティ番組での人気者と言うキム・ウォ ニ。特に、シンのアクションは迫力十分で楽しめる。 監督は、『アウトライブ』で助監督を務め、『人形霊』でデ ビューしたチョン・ヨンギの第2作。 本国では、続編も今年6月に公開されたそうで、それも早く 見てみたいものだ。
『出口のない海』 横山秀夫原作、佐々部清監督で、第2次世界大戦の末期に投 入された人間魚雷「回天」を巡る物語。 戦争映画は好きではない。非戦の考えを持っていることもあ るが、それがこの作品のように反戦思想に基づくものであっ ても、戦争を描いた作品には二の足を踏んでしまう。 なおこの作品は、甲子園で活躍し、明治大学野球部でエース ピッチャーだった主人公が、「回天」に乗るようになるまで の軌跡を描いている。 元々の原作者の執筆の動機は、「回天」という非人間的な兵 器があったことを、歴史の中に記録したいということだった ようだが、確かに神風特攻隊などに比べると「回天」の存在 はあまり知られていないものだ。 僕も、「回天」という自殺型兵器のあったことは知っていた が、この映画を見て、その性能が如何に凄まじいものであっ たかを改めて教えられた。特に、酸素混入燃料を使うことで 航跡を出さない技術。また、1.55tもの炸薬を搭載していた というのも驚きだった。 それにしても、これだけのものを作り上げる技術力を、なぜ もっと他の事に使えなかったのかというところだ。 物語は、全体として戦争の愚かさを伝えようとしているもの だが、それにしても余りに愚かしい話で、ここまで来ると、 僕としてはちょっと退いてしまう感じもあった。もっともそ のようなシーンで周りはハンカチが忙しかったようだが… まあ、これで涙に暮れてくれれば、反戦の意味も伝わると思 うが、それ以前に国威発揚的な言動が繰り返されるシーンが あったりすると、僕としては疑問も感じてしまうところだ。 ましてや予告編ではそこが強調されてしまう訳で…。結局、 反戦映画というのは難しいものだ。 CGを使った艦船の姿や、戦災の東京の風景などは概ね良く できていたと思う。ただし、太平洋上のはずの米国艦船との 対峙シーンで、手前の海面に定置網のブイと思われるものが 見えるのはいかがなものか。何となく波も内海のもののよう に思えてしまった。
『武士の一分』 最近邦画を紹介することが多くなっているが、それらは基本 的に洋画配給会社が日本映画を製作したり、独立系の作品だ ったりするもので、特別な場合を除いて、いわゆる邦画大手 の試写会を見る機会はなかったものだ。ところが、この夏頃 から松竹映画が試写状を送ってきてくれるようになった。 ということで、この作品は、松竹製作の山田洋次監督による 時代劇三部作の完結編と呼ばれているものだが、上記の経緯 のため、僕は前の2作を見ていない。といっても別段つなが りのある話ではないようだから問題はないものだが。 前の2作では、それぞれ父と娘の絆と身分の違う男女の愛を 描いたそうだ。そして今回は夫婦の愛が描かれる。毎回テー マが違うのは大したものだが、その中で完結編が夫婦愛とい うのは、昨今の家族関係が希薄になりつつある日本では一石 を投じる感じだ。 物語の背景は、天下泰平の江戸時代。主人公はとある小国で 禄高三十石の下級武士。両親はすでになく、若い妻と父の代 から仕える中間と共に、穏やかに暮らしてはいるが、実は剣 術は免許皆伝、藩校でも秀才とうたわれた男だった。 しかし、城でのお役目は毒味役、それは台所の隅で他の武士 たちと共に椀のものを一口食べるだけのこと。そんなお役に は不満もあるが、それは仕方のないこと、彼には早目に引退 して子供たちに剣術を教えたいという夢もあった。 ところがその生活が暗転する。毒見で食べた貝毒に当り、一 時は意識不明、妻の必至の看病でそれは脱するが、失明して しまう。これでは城のお役は御免必至で、そうなれば家名を 保つこともできず、住む家も返さなければならなくなる。 この事態に妻は、以前から好意を寄せてくれていた上級武士 に援助を求めに行くのだったが…そして後半は、全くの絶望 の縁に立たされた主人公が、それでもただ一つの信ずるもの のために生きて行く姿が描かれる。 出演は、主人公に木村拓哉、その妻に元宝塚娘役トップの檀 れい。他に笹野高史、桃井かおり、坂東三津五郎。 木村は、幼い頃から剣道を習っていたということだが、その 剣捌きは、特に木刀での練習シーンに迫力があった。まあ、 決闘のシーンは演出も入るからそれなりになってしまうが、 それまでの本気で振っているシーンは見事だったと思う。 しかも、盲目という設定では、目を見開いたままうつろとい う演技を見事に行っていて、それも迫力のあるものだった。 実は山田洋次監督には、ずっと以前に某アメリカSF映画の ムック本を編集した際に、コメントを取りに行ってもらった 編集員から、「一言『関係ないですね』という返答だった」 と聞かされて以来、自分の映画観とは関係ない人だと感じて いた。だからそれ以降は作品も見ていなかった。 それを今回、数10年振りに山田監督作品を見たものだが、も ちろんこれだけで認識が変ったという訳ではない。しかし、 壺を心得た物語の展開のさせ方にはさすがと思えたものだ。 作品的には、これでひとまず時代劇三部作は終えたというこ となので、次回作には少し注目してみようかとも思ってしま った。
『敬愛なるベートーヴェン』“Copying Beethoven” 難聴となりながらも「交響曲第9番」を完成させたベートー ヴェンの晩年を描いた作品。 「交響曲第9番」の初演を4日後に控えた日。作曲家はまだ 合唱の譜面を完成させていなかった。この事態に音楽出版社 は、作曲家の許で写譜を行わせるため音楽学校に最優秀の生 徒の派遣を依頼する。そしてやって来たのは、うら若き女性 アナ・ホルツだった。 気難しい作曲家の許に若い女性を送ることには危惧もあった が、彼女はベートーヴェンの名前に目を輝かせる。こうして ベートーヴェンの許で写譜の仕事を始めたホルツは、素晴ら しい才能を発揮して作曲家を助けて行くことになる。 ベートーヴェンの生涯を描いた伝記映画は過去にも作られて いると思うが、この作品は、作曲家の最晩年、「交響曲第9 番<合唱付き>」の完成から、最後の作品「大フーガ」の作 曲とその初演までを中心に描かれる。 物語の主人公でもある女性の存在が実話であるかどうかは知 らないが、映画のハイライトは、彼女との二人三脚で「交響 曲第9番」の初演の指揮をやり遂げる演奏会のシーンで、演 奏後の有名なエピソードも感動的に再現されているものだ。 資料によると、このシーンのサウンドトラックには1996年の アムステルダムの楽団による録音が使われているが、映像は 作曲家に扮したエド・ハリスの指揮に従い、55人の管弦楽団 と60人の合唱団が実際に演奏を行い撮影したものだそうだ。 このためハリスは、撮影前に何ヶ月も掛けてピアノ、ヴァイ オリン、そして指揮の勉強をし、実際の撮影でも見事に最後 までタクトを振り、演奏家たちもそれに合わせて演奏を続け たと紹介されていた。 しかしそれでは、音源と映像が合うはずがないものだが、エ ンドクレジットによると、ここにはCGIによるリップシン クが行われたということで、VFXというのはこういうこと にも使われるようになったのかと感心してしまった。 物語は、「交響曲第9番」の成功から「大フーガ」の失敗に 至る栄光と挫折を描いているが、その展開自体はあまり重く せず、むしろ軽めに描いている。その分気軽に楽しめる作品 とも言えそうだ。それに「エリーゼのために」を含む数々の 楽曲が聞けるの楽しいものだ。 共演はダイアン・クルガー。彼女も、音楽や指揮の勉強を積 んで撮影に臨んだということだが、如何にもドイツ人女性と いう雰囲気が良い感じだった。ただし、台詞はすべて英語の 作品となっている。
『ダンジョン&ドラゴン2』 “Dungeons & Dragons: The Elemental Might” 1974年に発売された元祖RPGとも呼ばれる同名のゲームか ら映画化された作品。2000年にアクション専門のジョール・ シルヴァ製作、ジェレミー・アイアンズ主演による第1作が 作られ、その第2作が5年ぶりに作られたものだ。 実は、その第1作は見逃してしまったのだが、ガイドブック などであまり芳しい評価は受けていない。従って、今回はあ まり期待しないで見に行ったのだが、確かに一級品と言う程 のものではないが、それなりに楽しませてくれる作品にはな っていた。 ついでに言うと僕はオリジナルのゲームについても知らない のだが、「ドラクエ」程度の知識で見ていてもニヤリとする 感じだし、プレス資料にはゲームの日本版翻訳者の人が寄稿 していたが、ゲームを知っているとさらに楽しめる仕掛けも いろいろあるようだ。 結局のところ、この手のゲームは設定がかなり完成されてい るから、映画化ではそれをうまく利用すればいいものだが、 映画製作者はなかなかそれをしてくれない。第1作の失敗は そこらにあったようだが、今回はその轍は踏まなかったとい うことのようだ。 物語は、魔法が機能している中世の時代。前作で破れた前宰 相ダモダールがとあるオーブを手に入れ、復讐に燃えて復活 するところから始まる。しかしそれは、3000年前に山に封じ られたドラゴンをも呼び覚ますことになる。 そのドラゴンの復活を察知した現宰相ベレクは、それぞれ特 殊な能力を持つ4人の勇者を呼び集め、ドラゴンが完全復活 を遂げる次の新月の夜までに、魔術師である妻の力も借りて ダモダールの手からオーブを奪い取り、ドラゴンの復活を阻 止しようとするのだが… その妻は、ダモダールの呪いによって徐々に命を奪われよう としていた。 最近のこの種の作品は、正にCGI無しには考えられない。 実際、この作品でも、ドラゴンや翼手竜のような異形の人間 の造形や動きは見事なものだし、中世の町並やそこで行われ る魔法を交えた戦闘もCGIの威力がまざまざという感じの ものだ。 それでも以前は、多少稚拙な映像という感じがすることもあ ったが、最近はそれすらも感じられなくなった。因にこの作 品には、リトアニアのスタッフが参加しているようだが、そ の辺りでも充分なものが作れるということだ。 上にも書いたように一級品という作品ではない。それに物語 的にもあまり変な捻りもないし、まあ気楽に楽しめばいいと いう感じのものだ。後はオリジナルのゲームを知っている人 がどのような評価を下すか、その辺の意見は聞いてみたいと 思うところだ。 なお原題は、フィルム上も上記のものだと思ったが、ウェブ のデータベースでは、副題が“Wrath of the Dragon God” になっていることもあるようだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回はこの話題から。 ブライアン・デ=パルマ監督によるジェームズ・エルロイ 原作“The Black Dahlia”の映画化は、ヴェニス映画祭の開 幕を飾るなど話題になっているが、迷宮入りとなっているそ の元とされる事件も含めた1940年代のロサンゼルスで起きた 殺人事件を検証したドキュメント“Black Dahlia Avenger” の映画化をニューラインで行うことが発表された。 エルロイが序文を寄せているこの原作は、元ロサンゼルス 市警・殺人課の刑事だったスティーヴ・オデルがまとめたも のだが、実はこの本の中でオデルは、自らの実父を連続殺人 事件の犯人に名指ししているという強烈なものだ。 殺人課刑事として18年のキャリアを持つ原作者は、その間 に300件以上の殺人事件の捜査を行ったということだが、実 父のジョージ・オデル博士の死を機会に退職。ところが父親 の残した古い写真アルバムを見ているうちに2枚の写真に目 を留めることになる。そこには扇情的なポーズをとったエリ ザベス・ショートが写っていたのだが…。その写真から父親 の真の姿を追い始めた息子は、やがて聡明で魅力的に見える 父親が、実はハンニバル・レクターのような殺人鬼で、12件 もの殺人事件に関ったと結論付けるに至る。 翻訳本は、文庫上下2冊というヴォリュームで綿密に書か れていることが感じられるものだが、現実には、原作者が調 査に行っても警察の捜査資料などは散逸したり退色して目も 当てられない状態だったそうだ。しかしその中から、父親の 真の姿を探り当てたもので、その信憑性はともかく、熱意は 被害者の息子であるエルロイも認めるものだとされる。 なお原作は数年前に発表され、以来複数の監督から映画化 の申し入れがあったがオデルは許可していなかった。しかし 今回は、先にテレビで紹介されたオデルの物語に触発された ニューライン社の重役ジェフ・カッツが非常な熱意を持って オデルと交渉し、オデル自身が製作総指揮に加わる形で映画 化が実現することになった。 製作時期や監督などの陣容は未定だが、脚色にはラルフ・ ペズーロという脚本家が起用されているようだ。 * * 今やトップスターのジム・キャリーとキャメロン・ディア スが、共に出世作と言われる1994年の『マスク』以来、13年 振りに共演する計画が、ユニヴァーサル傘下のフォーカスか ら発表された。 作品は、“A Little Game”という題名のロマンティック コメディで、2人が演じるのはマンハッタンに暮らす婚約中 のカップル。ところが2人は、つきあっている友人たちが、 2人の関係が長くは続かないと考えていることに気付いて… というお話。そこからはいろいろな人間模様が描かれそうだ が、オリジナルはフランスの舞台劇で、それをアラン・レー ブが脚色、さらにリズ・タッシロがリライトしている。 監督はイタリア出身のガブリエル・マッシノ。マッシノ監 督は、年末公開予定のウィル・スミス主演“The Pursuit of Happyness”に続くアメリカ進出第2作とするものだ。 因にキャリーは、フォックス製作の“Uesd Guys”と、パ ラマウント製作の“Believe It or Not”の2本の大作が相 次いでキャンセルされたところだが、ティム・バートン監督 の“Believe…”は、6月15日付第113回で報告したように、 前回紹介した“Sweeney Todd”の完了後に再開の予定と言わ れており、本作もその前に撮影することになるようだ。本作 の撮影は10月にニューヨークで開始と発表されている。 なお、キャリーの新作はジョエル・シュマッチャー監督に よる殺人スリラー“The Number 23”が公開待機中。一方、 ディアスはナンシー・メイヤー監督のロマンティックコメデ ィ“The Holiday”が完成している他、三度フィオナ姫の声 を演じる“Shrek the Third”の公開が来年5月18日に予定 されている。またキャリーとディアスは、2003年10月15日付 第49回で紹介したように、昨年公開された『ディック&ジェ ーン/復讐は最高!』でも、再共演の情報が流れていたが、 その時は実現しなかったものだ。 * * ジョエル・シュマッチャー監督の名前が出たついでにもう 1本シュマッチャー監督の情報で、“Town Creek”と題され たオカルトスリラーの計画が進められている。 この作品は、2005年8月15日付第93回で紹介したニコール ・キッドマン主演の“Invasion”(その後“The Visiting” に改題されたようだ)を手掛け、本来はジャック・フィニー 原作『盗まれた町』のリメイクだったはずの作品を、独自の 作品に作り替えてしまったデイヴ・カジャニッチによるオリ ジナル脚本を映画化するもので、物語の骨子は、2人の兄弟 が悲惨なオカルト実験に捕えられてしまうというもの。それ 以上の詳しい内容は紹介されていなかったが、この脚本家な ら相当のものを期待できそうだ。 なお、シュマッチャー監督は、現在は“The Number 23” のポストプロダクション中ということだが、『バットマン& ロビン』などでも知られる監督は、“Flatliners”や“The Lost Boys”など超常現象を扱った作品もいろいろ手掛けて おり、今回の脚本家との顔合せは、ちょっと目新しいものが 出てきそうな期待もするところだ。 製作は、“How I Met My Boyfriend's Dead Fiance”など の作品を手掛けるゴールド・サークル。出演者等は未発表だ が、撮影開始は来年3月に予定されている。 * * 2004年公開『アルフィー』のリメイクでは、1966年のオリ ジナル版でマイクル・ケインが演じた主人公に扮したジュー ド・ロウが、1972年公開“Sleuth”(探偵スルース)のリメ イクで、再びケインの演技に挑むことになった。しかもこの リメイクでは、ケイン自身もオリジナル版でローレンス・オ リヴィエが演じた役に挑戦することになるというものだ。 オリジナルは、ジョセフ・マンキウィッツ監督作品。オリ ヴィエ扮する聡明で社会的地位もある作家が、ケイン扮する 若い美容師の男に妻を奪われ、その復讐を企むというお話。 アンソニー・シェイファーの舞台劇から、ハロルド・ピンタ ーが脚色したもので、翌年のアカデミー賞ではケイン、オリ ヴィエが揃って主演男優賞の候補になった他、監督賞、音楽 賞の候補にもなった。 そのリメイクが計画されているものだが、計画は3年前に 製作会社のキャッスル・ロックが映画化権を獲得したときに 始まり、この時からロウの製作、主演が報告されていた。そ こにケインの参加が発表されて注目を集めていたものだが、 さらに今回は、この監督に俳優でもあるケネス・ブラナーの 参加が発表されて、製作が本格的に動き出したものだ。撮影 は、来年1月にロンドンに在るトゥンケンハム撮影所で開始 される。 因に、キャッスル・ロックの製作作品は、通常はワーナー が配給しているものだが、今回の作品は映画が完成してから 配給権の売り出しを始めるということで、ちょっと強気に動 いているようだ。 * * 次もリメイク計画で、1978年に公開されたグルメ系ダーク コメディ“Who Is Killing the Great Chefs of Europe?” (料理長殿ご用心)を、ラス・ヴェガスを舞台にリメイクす る計画がワーナーから発表されている。 オリジナルは、ジョージ・シーガル、ジャクリーヌ・ビセ ットの主演で、原題の通りヨーロッパの有名な料理長(シェ フ)たちが順番に殺され、そのシェフたちに特別料理を注文 したグルメ評論家の男に嫌疑が掛けられるが…というもの。 これに対して、今回リメイクを計画している製作者のエリッ ク・ゴールドは、「今やラス・ヴェガスには世界中の有名シ ェフたちが顔を揃えている。だから、ここを舞台にリメイク しない手はない」とのことで、殺されるシェフには西洋料理 は基より、寿司職人なども含まれることになるようだ。 脚本は、“Family Guy”などテレビではヴェテランのデイ ヴィッド・A・ゴールドマンが起用されている。また、物語 はオリヴァ・プラット扮するグルメ評論家がラス・ヴェガス を訪れるという展開で進められることになるようだ。 なおリメイクのタイトルは、少し縮めて“Who is Killing the Great Chefs?”となる。 * * 『THE JUON/呪怨』の続編“The Grudge 2”の全 米公開が10月13日金曜日に予定されているサラ・ミッシェル ・ゲラーが、またまたアジアンホラーのハリウッドリメイク で、2002年に公開された韓国映画『純愛中毒』に基づく作品 に主演することが発表された。 オリジナルは、『猟奇的な彼女』などのクァク・ジョヨン 脚本、イ・ビョンホンの主演によるものだが、欧米向けには “Addicted”の題名で紹介されているようで、今回のリメイ クもその題名で行われる。ただし物語は、中心的なアイデア だけを利用して独自に構築したものになるそうで、新たにマ イクル・ペトローニという脚本家の名前も発表された。 監督は、スウェーデン映画“The Invisible”を手掛けた ジョエル・バーグヴァルとサイモン・サンドクィスト。製作 は、『THE JUON』『ザ・リング』を手掛けたヴァー ティゴが担当する。 因に、オリジナル版のファンサイトを覗いていたら、邦題 のことが問題にされていた。確かに変な邦題だが、実は今回 のVarietyの記事によると、オリジナルの題名は“Jungdok” と表記されていて、これは恐らく漢字表記は『中毒』となる ものだ。また英題名の“Addicted”というのは依存症の意味 で、つまり中毒といっても食中毒や薬中毒ではないというこ とになる。そこでオリジナルの題名をもう一度見てみると、 何となく邦題の付いた訳も判る感じのものだ。意味不明の邦 題だが、付けた本人は案外◎という感じかもしれない。 なおゲラーは、“The Grudge 2”に続いて“The Return” というスリラー作品も11月に公開される。また“The Girl's Guide to Hunting and Fishing”というノンフィクション に基づくコメディ作品が撮影完了したところだそうだ。 * * 2004年9月15日付第71回で紹介したジョン・ウー監督によ る歴史大作“The Battle of Red Cliff”(以前の紹介では “The War of the Red Cliff”だった)の製作が正式に契約 され、主演のチョウ・ユンファに加えて、日本から渡辺謙、 香港からトニー・レオン、台湾からはスーパーモデルのリン ・チーリンらが参加。汎アジア的陣容で撮影が行われること が発表された。 物語は、以前の紹介では不明瞭だったが、今回の記事では 明確に『三国志』に基づくとされており、西暦208年の漢王 朝の終焉から、「赤壁の戦い」によって魏、呉、蜀の三国が 成立するまでが描かれる。因に、この「赤壁の戦い」では、 歴史家によると100万の兵士が戦ったとされるが、ウー監督 は、このシーンの撮影には6つの撮影班を投入して、多面的 な戦いを一気に撮影する計画を立てているということだ。 脚本は、『グリーン・ディスティニー』のワン・ホエリン が担当。撮影開始は来年3月の予定だが、セットの建設はす でに開始されているとのことだ。公開は2008年の北京オリン ピックに合わせるとされている。 また製作費は、以前の報告からさらに上がって5000万ドル が計上されており、その内の70%をウーの盟友テレンス・チ ャン主宰のライオンロックが支出、残りも中国の出資者から 提供されることになっている。 なお『三国志』の映画化では、1989年に北京電影製片厰の 製作による作品が1990年に日本公開もされているものだが、 今回は欧米での公開も視野に入れた製作となるもので、最新 の映画技術を駆使した作品を期待したいものだ。 * * 2004年6月15日付第65回では『ダ・ヴィンチ・コード』の 対抗馬として紹介したものの、不発に終った“The Da Vinci Legacy”の製作者マーク・バーネットが、今度は来年5月 にランダムハウス社から出版開始予定のマイクル・スコット 原作による新たなファンタシー・シリーズ“The Secrets of the Immortal Nicholas Flamel”の映画化権を獲得、製作 に乗り出すことになった。 このシリーズは、来年5月に第1巻の“The Alchemyst” が出版予定のものだが、シリーズ名に登場するFlamelという のは15世紀に実在した錬金術師の名前で、これは『ハリー・ ポッター』にもダンブルドア校長の昔の友人として名前が出 てきたりしているものだ。その錬金術師が、このシリーズで は不死のキャラクターとして現代に生きているという設定。 従って彼の年齢は600歳以上になるはずだが、見た目は50代 でサンフランシスコに住んでいる。 そして物語では、ソフィーとジョッシュ・ニューマンとい う双子の姉弟を中心として、彼らが錬金術師の指導と助けを 借りながら、長い年月に渡って続いている善と悪の戦いに加 わって行くというもの。初期の物語では、彼らはいろいろな 国の伝説に基づく怪物たちに追われながら、古代からの魔法 を体得するためにアメリカ中を旅するものになるようだ。 それにしても、本の出版もまだ大分先のものだが、出版元 のランダムハウスでは、今年の夏前からこのシリーズに関す る事前のアピールを行っており、すでに11カ国での出版が契 約されているそうだ。それだけの自信作とも言えそうだが、 その過程でバーネットのスタッフが原稿を入手。バーネット は一読してその歴史観に共鳴し、直ちに映画化権の獲得に乗 り出している。もちろんそこには他社も名告りを挙げていた ものだが、バーネットには他にも原作者との繋がりがあった そうで、そのお陰で獲得に成功したということだ。 なお、ランダムハウスでは、すでに“Eragon”シリーズの 映画化がフォックスで製作、また“The Golden Compass”の 映画化がニューラインで進められており、さらに先日はユニ ヴァーサル傘下のフォーカスと包括的な映画製作の契約を結 んだところだが、今回のシリーズに関してはその範囲外とい うことで、製作者は自由に映画会社を選べるようだ。 またバーネットは“Survivor”などで知られるテレビ番組 製作者で、同番組ではいろいろ物議を醸しているようだが、 全6巻とも言われるシリーズとなれば各社争奪戦は必至で、 映画会社がどこに決まるかも興味津々というところだ。 * * 後半は短いニュースをまとめておこう。 まずは日本アニメのハリウッドリメイクに関する情報で、 最初に『鉄腕アトム』こと“Astro Boy”の映画化権が、 手塚プロダクションからImagi Animation Studiosという会 社に契約されたことが報告された。この会社はCGアニメー ションの製作会社ということだが、すでに“Teenege Mutant Ninja Turtles”の劇場版も手掛けているということで、こ の計画は確かTWCとワーナーの共同製作で進められていた はずだから、その技術水準などはかなり信頼が置けそうだ。 ソニーとの関係がどうなっているものかは知らないが、報告 では同社の次回作となっているようだ。 手塚治虫に対するのは石ノ森章太郎で、コミック・ブック ・ムヴィ(CBM)というプロダクションが石ノ森のアニメ 作品を実写映画化する計画を進めていて、その製作に日本で 石ノ森のプロダクションに49%出資している商社の伊藤忠が 関心を持っているということだ。なおCBMの計画では、第 1作を2008年に日米で公開するとしているもので、具体的な 作品名は明らかにされていないが、“Cyborg 009”が有力と 書かれていた。因に紹介記事によると、この作品は日本最初 のスーパーヒーローチーム物なのだそうだ。 * * 続編の情報で、 1本目は、2000年度アカデミー賞で、作品、主演男優など 5部門を受賞したリドリー・スコット監督“Gladiator”の 続編を、ラッセル・クロウ主演で計画していることが、スコ ット監督の口から公表された。この計画は、当初は2003年に も製作することで検討されていたものだが、その時は続編と する適当なストーリーのアイデアが浮かばず諦めたのだそう だ。しかし、今はそのアイデアがあるということで、実現が 可能になったとしている。ただし、残る唯一の問題はクロウ のスケジュールだそうで、彼の身体が空くのが何時になるか 判らないようだ。なお、前作の結末については問題ないとし ているものだ。 お次は、1999年“The Mummy”(ハムナプトラ)と2001年 “The Mummy Returns”(ハムナプトラ2)に続く、シリー ズ第3弾が計画され、その主演にブレンダン・フレイザーと レイチェル・ワイズの再登場が期待されている。この計画で は、前2作の脚本、監督を手掛けたスティーヴン・ソマーズ は降板が表明されており、替って脚本はアルフレッド・ゴー フとマイルズ・ミラー、監督にはジョー・ジョンストンの起 用が発表されている。そして、すでにフレーザーの契約は行 われたとの噂もあるようだが、さらにフランス・ドウヴィル 映画祭に出席したワイズから「まだ読んでいないけど、新し い脚本は出来たようです。来年の夏にはやるんじゃないかし ら。私も出ることは間違いないわ」との発言があったという ことだ。なお物語は、前2作からは設定が少し変るというこ とで、題名は“The Mummy 3”にはならないそうだ。 続編の最後は“Bond 22”で、2008年5月2日と発表され ていた公開日を、11月7日に変更することが発表された。こ れは、監督に予定されていたロジャー・ミッチェルの降板が 主な理由だが、その後、一時は『ラブ・アクチュアリー』の リチャード・カーティスの名前も挙がっていたが決定には至 っていないようだ。なお、以前に用意された脚本は全て白紙 に戻されたという情報もあるようで、半年の延期というのは 多分“Casino Royale”の公開まで凍結という意味だと思わ れるが、そこから仕切り直しというのは多少心配になるとこ ろだ。もっとも、元々『007』の封切りは秋が定番だった ものだし、特に11月7日というのは過去にも選ばれた日付と 思われるから、この方が落ち着く感じはする。後は、早めに 監督を決めて、来年前半には撮影開始に漕ぎ着けてもらいた いものだ。 * * 最後に、前回第3作の副題が“At Worlds End”と正式に 決まったことを紹介した『パイレーツ・オブ・カリビアン』 で、第2作『デッドマンズチェスト』の興行収入が全世界の 合計で10億ドルを突破したことが報告された。これは『タイ タニック』(18億ドル)『LOTR王の帰還』(11億3000万 ドル)に次ぐ快挙となるものだが、この先1億3000万ドルの 積み上げはちょっと難しそうで、当面3位の座は確定という 感じのようだ。ただし、『王の帰還』は3部作の3作目が記 録したもので、そうなると同じ第3作の“At Worlds End” にも、記録更新の期待が集まる。しかし来年5月25日に予定 されている全米公開の直前には、4日に“Spider-Man 3”、 18日に“Shrek the Third”と、いずれも人気シリーズ第3 作の公開が計画されており、これはかなりハイレベルの戦い になりそうだ。
2006年09月10日(日) |
キング/罪の王、アタゴオルは猫の森、人生は奇跡の詩、シャギー・ドッグ、スキャナー・ダークリー、オーロラ、ライアンを探せ! |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『キング/罪の王』“The King” ハリー・ベリーにオスカーをもたらし、自らも脚本賞の候補 となった『チョコレート』のミロ・アディカの脚本を、『天 国の口、終りの楽園。』などのガエル・ガルシア・ベルナル 主演で映画化した作品。監督は、ドキュメンタリー出身のジ ェームズ・マーシュ。 脚本家は前作と同様、本作でもアメリカの抱える問題という か、社会の矛盾を鋭くえぐり出して見せる。前作も本作も、 物語の背景は特殊なシチュエーションではあるけれど、その 本質は、ある意味普遍的な人間の愛憎を描いたものだ。 映画の冒頭で、主人公は海軍を退役する。水兵だった彼は、 支給されていたM−1ライフルやセイラーのユニフォームを バッグに詰めてバスに乗り込み、テキサスのとある町を目指 す。そこでは、1人の牧師が熱狂的な信者の前で説話を繰り 広げていた。 主人公の目的はただ一つ、その牧師に家族として認めてもら うこと。彼の母親は、その牧師の精を受け彼を身籠もったの だ。しかし、主人公の話から事実を悟った牧師は、彼を冷た く拒絶する。それは現在の家族を守るためだったが…。そし て、その仕打ちに主人公は… Kingという単語を王様の意味で使うときは冠詞は付けないも のだ。だから“The King”という原題は、ただの王様を指す のではない。それはthe King of Kingsの意味とも取れる。 つまりキリスト教では全能の神のことだ。 物語の全体は復讐劇だが、主人公は恐らく最初から全てを計 画的に行ったものではないだろう。しかし、ある時点からは 明らかに全てを見通して行動を起して行く。だから、邦題の 『罪の王』というのも、その意味では的を突いたものだ。 牧師とその家族のシーンでは、ロック音楽まで演奏される最 近のアメリカの宗教の様子が描かれる。また、ダーウィン進 化論を否定するインテリジェント・デザインの理論なども紹 介される。そしてその牧師の取る行動の非情さなども克明に 描かれて行く。 映画の全体には聖書からの引用や暗喩の様なものも随所に見 られ、作品はキリスト教へのかなり強烈な批判のようにも取 れる。しかもそれが極めて巧みに描かれている。実際、平穏 な描写の中に点描的に描かれる事の異常さが見事な効果を出 している。 主人公の行動は、本来なら嫌悪すべきものだろう。しかし、 余りに強烈な物語に、その全てが吹き飛んでしまうような作 品でもある。特に、ガルシア・ベルナルの巧みな演技が、甘 いマスクとは裏腹な非情さを浮き彫りにして行く。 因に、物語の舞台となる町の名前は、コープス・クリスティ (キリストの死体=キリストが生きた証の意味だそうだ)。 町は実在し、映画は現地で撮影されている。
『アタゴオルは猫の森』 漫画家のますむらひろしが、1976年から書き続けている猫の ヒデヨシを主人公にした漫画シリーズのアニメーション化。 ピクサーやドリームワークス・アニメーションなどの海外作 品ではおなじみの3D−CGアニメーションだが、日本では 初の長編作品とのことだ。そのアニメーションは、『デス・ ノート』の死神リュークなども手掛けたデジタル・フロンテ ィアが制作している。 物語は、アタゴオルの森のお祭りの日、浮かれたヒデヨシは 湖の底から怪しい箱を引き上げ、食物が入っていないかと箱 をこじ開けてしまう。その箱にはブヨブヨした物体が入って いたが、それは地上の支配を狙う植物の女王だった。 こうして覚醒した植物の女王は、アタゴオルの住民たちを歌 声で酔わせ、住民たちを植物に変えてしまおうとする。しか し、食べることと遊ぶことにしか興味のないヒデヨシは、女 王の歌声にも惑わされることがない。 その一方で、女王の覚醒に合わせて植物の王・輝彦宮が誕生 する。しかし輝彦宮はまだ幼子で、これから女王と対抗する ため立派な父親の許で正しく成長しなければならなかったの だが…その輝彦宮はヒデヨシを父親に選んでしまう。 こうして、史上もっともいい加減な植物の王が誕生してしま うことに…、果たして輝彦宮は女王を倒し、地上を元の状態 に戻すことができるのか… 原作は初期のものしか知らないが、ヒデヨシのキャラクター は、山寺宏一の声も含めて、よく描かれている感じがした。 また本作では、石井竜也が音楽を担当して、作詞作曲による 7曲を提供しているが、米米CLUBでも知られる石井の楽 曲は見事に映画の雰囲気に填っていた。 これなら、恐らく原作のファンにも躊躇なく受け入れられる ことだろう。その意味では、この作品は極めて幸せな映像化 が行われたと言えそうだ。 と、ここまでは文句なしだが、物語の結末はこれで良かった のだろうかと考えてしまう。恐らくこの結末は、原作の通り で動かしようがなかったのだろうが、これでは最近の日本ア ニメと変わらないものになってしまった感じだ。まあ、本作 も日本アニメだから当然ではあるけれど… 実際、その直前までのヒデヨシのせりふでは、もっと違う結 末を期待したものだ。無い物ねだりは百も承知で言わせて貰 えれば、ここはヒデヨシの馬鹿パワーで、もっとあっけらか んとした結末でも良かったのではないかとも考えた。 でも、まあ映画自体は悪くはない。これでキャラクターのデ ータはできたのだから、もっと他の物語も作って欲しいと思 うところだ。
『人生は、奇跡の詩』“La Tigre e la neve” 1998年のアカデミー賞で主演男優賞に輝いた『ライフ・イズ ・ビューティフル』のロベルト・ベニーニ脚本、監督、主演 による2005年作品。ベニーニは2002年に『ピノッキオ』を発 表しているが、本作は『ライフ…』以来の人の愛情を全面に 描いた作品だ。 主人公は大学教授で詩人。最近出版した『タイガー・アンド ・スノー』と題された詩集も好評に迎えられ、大学の女性職 員から想いを寄せられて戸惑ったり、2人の娘の通学の送り 迎えを忘れたりすることはあるが、概ね順調な生活を送って いる。 しかし彼には一つの悩みがある。それは夜毎見る夢のこと。 その夢ではファンタスティックな結婚式が行われているが、 新郎の彼に素晴らしい愛の詩を捧げてくれる花嫁は、実在の 女性なのだ。しかも、かなり間近にいる。 そんな訳で、彼は彼女を理想の女性として愛を捧げようとす るのだが、彼女は全くつれない反応しか示してくれない。そ してある日、作家の彼女は、彼の友人でもあるイラク出身の 詩人の本を完成させるため、戦乱納まらない彼の国へと旅立 ってしまう。 とは言え、やがて帰ってくると信じていた彼の許に、ある夜 恐ろしい知らせが届く。彼女が爆発の巻き添えで意識不明の 重体となったというのだ。その知らせに彼は直ちに行動を起 し、戦乱のバグダッドへと彼女の救出に向かうのだが… そしてここからは、ベニーニ特有のユーモアに満ちた語り口 で、主人公の孤軍奮闘振りが描かれるのことになるのだが、 何しろ脳水腫で余命数時間という患者を、医薬品も何もない 状況で救うというのだから、これはもう大変な騒ぎだ。 しかもこれが、多分医学的に嘘はないと思うのだが、見た目 は極めて理論的に行われて行くのだから、その顛末は見事と しか言いようのない物語だった。 というところで、実は僕はプレス資料を読まずに映画を見て いたのだが、映画ではある事実が見事に隠されていて、ある 意味のシャマラン的な落ちが付いているものだった。ところ がこれがプレス資料の物語には完全に書かれていて、後で読 んで愕然としてしまった。 そんな訳でこの映画を見るときには、ぜひとも物語の紹介は 事前に読まずに見て欲しいのだが、こんなことを書くだけで やはりネタばれしてると言われてしまうのだろう。 『ライフ・イズ・ビューティフル』もそうだったが、ぜひこ の映画は、上記以外の物語は知らずに見て欲しい。そして、 物語を知った上でもう一度見て欲しい作品だ。
『シャギー・ドッグ』“The Shaggy Dog” 1959年にディズニーがアメリカ国内では初の実写作品として 製作した『ぼくはむく犬』をオリジナルとする2006年作品。 オリジナルは、犬恐怖症の郵便配達の父親の許で暮らす息子 が、古代の魔除けの呪いで犬に変身させられたものだが、実 は1976年にはその続編が作られ、続編ではその息子が成長し て、突然犬に変身する体質を隠しながら、地方検事に立候補 する話だったようだ。 そして本作は、両方の物語にインスパイアされたもので、主 人公は前2作とは異なるが、地方検事という設定。しかし犬 嫌いで、さらに仕事に追われ家庭も顧みない駄目父親。その 父親が突然犬に変身させられ、家族との絆に気付かされると いうお話だ。 映画は、チベットで1匹のむく犬が拉致されるところから始 まる。そのむく犬は、300年以上生存していると推定され、 そのDNAから長寿の秘密を解明するためにアメリカの製薬 企業が拉致を決行したのだ。 一方、その製薬企業には動物実験の疑いがあるとして、近く の高校の教師や生徒たちが真相究明のデモを行っている。そ のデモ隊の中には主人公の長女も入っていた。そして、その 教師が企業の施設への放火の罪で起訴され、主人公はその検 察官に任命される。 ところが、研究施設から逃亡したむく犬が主人公の手に噛み つく。そしてそこから注入されたDNAは、主人公を徐々に むく犬に変身させ始める。こうして変身の始まった主人公の 奇行で裁判は目茶苦茶。そして、変身の完成した主人公は、 人間との言葉も通じなくなって… この変身に至る過程での主人公の奇行振りが、犬好きには堪 らないシーンの連続。演じているティム・アレンは相当の愛 犬家らしいが、如何にもありそうな犬の動作を見事に再現し てくれる。実際に見ていてニヤニヤし通しだった。 多分、足を挙げての放尿などは誰でも思いつくだろうが、そ れ以外にも実にいろいろな、犬ならやってしまいそうなこと をやって見せてくれるのだ。 一方、研究施設内のシーンでは、VFXも駆使して犬になり 掛けのいろいろな動物が登場する。さりげなく登場するから 特別な感じはあまりしないのだが、かなりグロテスクなもの やVFXによる名演技もあって、実はかなり見ものだった。 VFXは、初期の『スター・ウォーズ』で活躍し、その後に ILMから独立したフィル・ティペット主宰のティペット・ スタジオが担当している。 また、変身したむく犬やその他の動物の実写の演技は、『1 01』から『オーシャン・オブ・ファイアー』まで多数の作 品手掛けてきたアニマル・トレーナーが担当しており、こち らも素晴らしい演技を見せてくれる。 関東地区では、舞浜にあるシネマイクスピアリ1館での限定 公開のようだが、犬好きにはぜひお勧めしたい作品だ。
『スキャナー・ダークリー』“A Scanner Darkly” フィリップ・K・ディック原作の映画化。 近未来の物語。人々は物質Dと呼ばれる麻薬に取り憑かれて いる。その麻薬を捜査するための組織が作られ、その捜査員 たちは各方面で内偵を続けているが、その中にはDに侵され てしまう者も少なくない。 主人公のボブ・アークターは、そんな内偵捜査員の1人だっ たが、彼が内偵しているグループはテロをも辞さない危険な 組織になろうとしていた。ただしそれは、Dがもたらす妄想 の一つかも知れない。 そしてアークターには、捜査本部からも精神状態に疑念が出 されている。それでも彼は精神状態のテストを受けながら、 任務を続けていたが… 身分を明かせない捜査員たちが人前に出るときには、数100 万通りの人間の姿が写し出されるというマスクとジャケット を着用するなど、近未来的な要素も多少は登場はするが、描 かれている物語の本質は人間の内面に関わるものだ。 つまり映画では、ディック特有のアイデンティティー喪失の 問題が描かれる。しかしそれは、見る側にも多分に挑戦的に 描かれており、僕は、1度見ただけでは物語をちゃんと把握 できたかどうか自信が持てない。 しかもその混乱を助長しているのが、撮影された映像の全編 をロトスコーピングによってアニメーションまがいの映像に 変換している手法だ。このため、俳優の微妙な演技などはほ とんど消されて、観客は全体的な流れの中でそれを把握する しかなくなってしまう。 この手法が、ディックの異様な世界を描くのに適切だったも のかどうかは、議論の的になりそうだ。確かに『ブレード・ ランナー』以降の定番化したディック的未来世界とは一線を 画しているし、僕にはこの方が正しいと思えるところもある にはあるのだが… 出演者は、キアヌ・リーヴス、ロバート・ダウニーJr.、ウ ッディ・ハレルソン、ウィノナ・ライダー。脚本・監督は、 『テープ』『スクール・オブ・ロック』などのリチャード・ リンクレーター。本作は、後者より前者の雰囲気だ。 日本公開は12月の予定だが、ちゃんと理解するためにはもう 一度ぐらいは見る必要がありそうだ。
『オーロラ』“Aurore” パリのオペラ座を舞台にしたドキュメンタリー作品『エトワ ール』を手掛けたニルス・ダヴェルニエ監督が、オペラ座に 所属する35人のトップダンサーをキャスティングして作り上 げたフィクション作品。踊りの禁じられた王国を舞台に、踊 ることをやめなかった王女の愛を描く。 物語の舞台は、中世と思われる時代の小国の王宮。その国の 王には、美しい王妃と王女と王子がおり、互いに慈しみ合っ て暮らしていた。問題はただ一つ、その国では王の命令で踊 りが禁じられていたことだ。しかし年頃の王女には踊ること が最高の楽しみだった。 ところが、その王国の財政が逼迫し、王は娘を金持ちの国の 王子と結婚させて持参金をもらうしか手がなくなる。そこで 止むなく花婿候補の王子を招いて舞踏会を開くことにするの だが…。王女は、その招待状に添える肖像画を描くために呼 ばれた画家に想いを寄せてしまう。 王女の名前がオーロラということで、『眠れる森の美女』を 予想したが、映画は別のものだった。この物語が何かの伝説 に基づくものかどうかは知らないが、映画は成程オペラ座の トップダンサーをキャスティングしただけのことはある踊り 満載の作品になっている。 主人公のオーロラを演じるのは、若干16歳のマルゴ・シャト リエ。まだ学生のバレリーナということだが、その正確なバ レーの振りは、素人の僕が見ていても納得してしまうほどの ものだ。 そして彼女の回りを囲むのは、僕は名前を聞いても全く判ら ないのだが、数々の受賞歴に輝くパリのオペラ座のトップダ ンサーたちということだ。なおその中には、竹井豊という日 本人ダンサーも重要な役柄で登場する。 そして、このダンサーたちが、日本を含む各国の踊りや、さ らに屋外や雲の上などの舞台で華麗な踊りを繰り広げる。そ の踊りは、門外漢の僕が見ても素晴らしく感じられるのだか ら、恐らくバレーファンの人が見たら堪らない作品だろう。 ただし、その日本人ダンサーの登場するシーンが、何やら暗 黒舞踊のようなものだったのはちょっと衝撃だったが、それ はご愛嬌と言うか、物語の流れでそれも重要なポイントでは あったようだ。 ダンサー以外では、王妃の役で『ユア・アイズ・オンリー』 のキャロル・ブーケ、国王役で『コーラス』のフランソア・ ベルレアンらが共演している。
『ライアンを探せ!』“The Wild” ディズニー制作による3D−CGアニメーション。 主人公はニューヨークの動物園で暮らすライオン父子。父親 は野性味たっぷりの吠え声が自慢だったが、幼い息子は父親 の真似をまだできない。そんな息子が誤って連れ去られ、父 親とその仲間が、その後を追って大都会からジャングルへと 大冒険を繰り広げる。 物語のテーマは『ファインディング・ニモ』、流れは『マダ ガスカル』という感じだが、実際にジャングルに行ってから の動物たちの群舞のシーンなどが始まると、あまりの共通点 にちょっと驚かされてしまったものだ。 もっともこのような群舞のシーンは、動物をキャラクターに したアニメーションでは定番のような気もするが、それにし ても去年の今年ではちょっと間隔が近すぎるという感じもし ないでもない。 という訳で、最初からかなり厳しい目で見られてしまいそう な作品だが、実際に展開される物語は当然違うものだし、目 先だけで軽々しい批判はするべきではない。しかもこの作品 には、ちょっと驚かされる展開も用意されているのだ。 この映画で僕が何に一番驚いたかというと、ヌーが肉食獣に なろうとしているというエピソードだ。彼らのリーダーは、 自分たちが草食だから肉食獣に狙われるのだと主張する。そ してそのシンボルとして、ライオンを食おうと言うのだから かなり過激だ。 こんな話を、ましてやディズニーのアニメーションで聞かさ れようとは思ってもみなかった。それに『ファインディング ・ニモ』の父親は息子を見つけ出すだけで良かったが、本作 ではさらにそこにも捻りがある。この辺の話は父親である身 にはぐさりと来るところだ。 『マダガスカル』もいろいろ捻った物語だったが、本作はそ れをギャグに落とさず、正面から真剣に考えようとしている ところは、さすがディズニーとも言える。もちろんギャグも それなりに挿入されるが、もっといろいろ考えさせてくれる 作品だ。 特に、皮肉屋のコアラのキャラクターは、人間でも実にあり そうな感じで面白かった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 最初は、前回約束した“The Prisoner”について、もう少 し詳しく紹介しておこう。 “The Prisoner”(邦題:プリズナーNo.6)は、1967年に 17話だけ製作されたイギリス製のテレビシリーズで、アメリ カでは1968年にCBSテレビで放送され、日本では1969年の 3月からNHKで放送されたものだ。 主演はパトリック・マッグーハン。彼は、1961年放送開始 の“Danger Man”(秘密命令)というモノクロ30分のシリー ズで、ジョン・ドレイクという名のNATOのスパイ役を演 じて人気を得、やがてそれが1964年放送開始のカラー60分シ リーズ“Secret Agent”(秘密諜報員ジョン・ドレイク)に 発展してアメリカでも知られるようになる。 因に“Secret Agent”というのはアメリカでの題名で、イ ギリスでは新シリーズも“Danger Man”のタイトルで放送さ れていたようだ。そしてこのシリーズは、アメリカで付けら れた主題歌“Secret Agent Man”も大ヒットするなど話題と なり、マッグーハンの人気を確定させた。 その人気を背景に、自らの製作総指揮、主要なエピソード では脚本監督も務めて発表されたのが、“The Prisoner”と いうシリーズだった。 物語は、一人の秘密諜報員と思われる男が激昂し、辞表を 叩き付けるところから始まる。そして彼の記録カードを抹消 する映像が続くのだが、帰宅した男は催眠ガスで眠らされ、 目覚めるとリゾート地を思わせる小さな家の点在する「村」 と呼ばれる場所に幽閉されている。そこでは個人の名前は使 われず、住民たちは番号だけで呼ばれる。そして、主人公の 呼び名はNo.6とされる。 村は姿を見せないNo.1によって支配されているらしいが、 実際はNo.2と呼ばれる人物が全てを仕切っている。しかしそ のNo.2は、エピソードごとに人物が変わってしまうような存 在だ。そんな中でNo.6は、毎回変わるNo.2から、辞表を提出 した理由を問い詰められるのだが… 主人公にとっては、その場所が敵国の施設で母国の秘密を 探ろうとしているのかも知れず。あるいは今まで所属してい た組織の施設で忠誠心を試されているのかも知れない。しか し、いずれにしても彼の持つ秘密は絶対に明かしてはいけな いものだ。そんな状況下で主人公は、毎回No.2の裏を掻いて 脱出を試み続けるというお話だった。 実際、物語は不条理劇とも言えるエピソードの連続で、中 でも主人公の脱出を最後に阻止するRoverと呼ばれる白い巨 大な球体(吹き替えで「オレンジ警報」というのは覚えてい るが球体の名前は記憶にない)の存在は、その象徴とも言え た。また、No.2が情報を聞き出すのに用いる手口も、かなり 奇想天外なものが実行されていた。このような内容から、こ のシリーズはスパイものと言うよりはSFとして評価される ことが多く、当時出版されたノヴェライズもSF作家によっ て書かれたものだ。 一方、製作の時期からこのシリーズは“Secret Agent”= “Danger Man”の続きとの見方もされ、実際上記のノヴェラ イズでは、主人公の本名はジョン・ドレイクとなっていた。 また、今回調査した中では、“The Prisoner”のイギリスで の放送は1967年9月29日から翌年2月2日までされたものだ が、実はその間の1月5日と1月12日には“Danger Man”の 最終2話の放送も行われている。 この2話は、1964年にスタートした番組の第3シーズン用 として1966年に製作されたものだが、番組がキャンセルされ たために以降の製作は中止され、1966年に2話合体して単発 で放送されたもののシリーズとしては放送されていなかった ようだ。その2話が突如放送されているものだが、実はこの 中には“The Prisoner”にも登場する同じ役名のキャラクタ ーが同じ俳優によって演じられているものもあるということ で、製作者でもあるマッグーハンは否定しているが、No.6= ジョン・ドレイク説はかなり固いようだ。 因にこの2話は、題名が“Koroshi”と“Shinda Shima” とされており、物語の舞台は日本。『金星ロケット発進す』 などの国際女優谷洋子も出演していたというものだ。 と言う、謎に満ちたシリーズの映画版が計画されているも のだが、実は、この計画が報告されたのは今回が初めてでは ない。1999年11月には、『コン・エアー』と『将軍の娘』で ヒットを連発していたサイモン・ウェストの監督で、映画版 の計画が発表された。この時にはマーク・ローゼンタール、 ローレンス・コナー、クリス・カマリーが脚本を書き、主演 には『ワイルド・スピード2』に出演する以前のタイリーズ ・ギブスンの起用も噂に上っていた。しかし、計画は実現に 至らずウェスト監督は2001年の“Lara Croft Tomb Raider” に行ってしまうことになる。 その計画が再燃してきたものだが、今回ユニヴァーサルか ら発表された計画によると、監督には、『バットマン・ビギ ンズ』と、新作の“The Prestige”が10月27日に全米公開さ れるクリストファー・ノーランが起用される。また脚本は、 1995年の『12モンキーズ』を手掛けたジャネット&デイヴ ィッド・ピープルズのコンビが当るということだ。因に、デ イヴィッドは1982年の『ブレード・ランナー』の脚色を手掛 けた脚本家の一人でもある。 『メメント』『インソムニア』の作品歴もある監督のノー ランについては適材の感じがする。一方、脚本家のコンビに ついても、『12モンキーズ』は、1962年に発表されたクリ ス・マルケル監督による中編映画『ラ・ジュテ』の長編化リ メイクだが、オリジナルの特異な雰囲気を長編化にも見事に 再構成して見せたもので、その手腕は期待できるものだ。 配役などは未発表だが、いずれにしても、ノーラン監督は 来年撮影の“The Dark Knight”の後に取り掛かるというこ とで、製作は来年以降、期待して待ちたい。 ちょっと長々と書いてしまったが、待望の作品ということ でご容赦ください。 * * 次は、前回の更新直後に飛び込んできたニュースで、6月 15日付第113回で紹介したティム・バートン監督、ジョニー ・デップ主演によるミュージカル“Sweeney Todd”の映画化 が実現されることになった。しかも、以前に懸念したワーナ ーとの関係に関しては、何とドリームワークスとワーナーの 共同で映画製作を進めるということだ。 ここに至る経緯については前の記事を参照していただくと して、ここでは追加の情報を一つ。実は、今回の報道の直前 に、デップがオリジナルのミュージカルの作曲家スティーヴ ン・ソンドハイムの前でヴォイステストを受けたという情報 が流れていた。デップは、13歳の時にロックバンドを結成、 ロサンゼルスにはミュージシャンを夢見てやってきたという 経歴が発表されているが、映画で歌を披露したことはほとん どなく、昨年の『コープス・ブライド』でも他の配役は歌が あったが、デップの役にはなかったものだ。 しかし、音楽に関する素養はあると思われていたのだが、 今回、特に作曲家が心配したのは、彼の歌い方がロックの歌 唱法に陥っているのではないかということだったようだ。そ のテストの結果について作曲家からの発言は紹介されていな いが、いずれにしてもデップの配役は、『ウェストサイド物 語』なども手掛けた75歳のベテラン作曲家のお墨付きで決定 されたようだ。 撮影は来年2月に開始され、公開は来年の秋の予定。また 配給は、アメリカ国内をドリームワークス、海外はワーナー が担当することが発表されている。 * * ところでデップの出演予定については、7月15日付第115 回で報告した“I Am Legend”に関しても噂は消えていない ものだが、こちらの撮影は、今年9月23日から来年3月31日 までという異様な長丁場が発表されている。この半年にも及 ぶ撮影期間の意味は、主人公以外の出演者がやせ衰えて行く 姿を描くなどの理由は考えられるが、それにしても最近のハ リウッド映画では珍しいこととされている。 ということで、主人公とともに活動する生き残りの一人を 演じるとされているデップの出番は、カメオということなら この期間の中のどこかでということになるのだろうが、これ は実際に行われるまでちょっと(?)となりそうだ。 もう一つデップ関係で、来年5月に公開される『パイレー ツ・オブ・カリビアン』の第3作の題名が、“The Pirates of the Caribbean: At Worlds End”に決まったようだ。こ の副題では当初から“At World's End”というのが噂されて いたものだが、最終的に「'」が取れて決まったということ だ。といってもこの「'」、付いていれば「世界の果て」と いう意味になるが、取れると「世界の終わり」の意味にもな りそうで、お話の内容がそのどちらなのか、ちょっと気にな るところだ。 * * 次も続報で、今年1月1日付第102回で紹介したイアン・ ソフトリー監督によるファミリーファンタジー“Inkheart” の計画が進み始めている。 物語は、以前にも紹介したように、小説の文章を読み上げ ることでその登場人物を実在化させてしまう能力を持つ父親 と、その娘を巡るもので、ある日その父親が誤って実在化さ せてしまった悪人に誘拐され、娘が現実の友人と物語の中の 友人たちの助けを借りて、父親の救出に向かうというもの。 そして、その父親役に『ハムナプトラ』ブレンダン・フレ ーザーが発表され、さらにダストフィンガーという名前の登 場人物(fire-eaterと紹介されていた)が、『ダヴィンチ・ コード』のポール・ベタニーにオファーされているというこ とだ。 さらに主人公の少女役には、9月9日からイギリスでオー ディションを行うと発表されている。製作のニューラインで は、今月撮影開始の“The Golden Compass”でも大掛かりな オーディションを行ったばかりだが、またやるようだ。因に 原作は、ドイツ人作家のコーネリア・ファンケが発表したも ので、昨年の秋には第2作の“Inkspell”が発表され、来年 第3作の“Inkdawn”が発表予定とのこと。こちらも3部作 になるようだ。 一方、“The Golden Compass”の撮影は、クリス・ウェイ ツ監督の許で9月4日に撮影開始されるが、こちらもオーデ ィションで選ばれた主演のダラス・ブルー・リチャーズを囲 んで、ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ、エヴァ ・グリーンらの出演が発表されている。なお新007のクレ イグが演じるのは、主人公ライラの叔父の役で、この役柄は 原作では3部作の全てに登場するようだ。また、クレイグと グリーンは“Casino Royale”に続いての共演ということで も話題になっている。因にこの役は、当初ポール・ベタニー にもオファーされていたようだ。 “The Golden Compass”の公開は、2007年12月に予定され ている。 * * 以下は、短くニュースを纏めて行こう。 『シカゴ』では味わいのある歌声を披露したジョン・C・ ライリー主演で、架空のミュージシャンの伝記映画の計画が ソニーで進められている。 この作品は、“Walk Hard”と題されているもので、これ は説明するまでもなく今年のオスカーを賑わせた“Walk the Line”からのインスパイアだが、直接のパロディというわ けではなく、最近次々に発表される音楽伝記映画の全体を網 羅したコメディということだ。脚本監督は、ベン・スティラ ーと共に『オレンジカウンティ』などの作品を発表している ジェイク・カスダン。物語的には、浮き沈みの激しい芸能界 を生き抜く一人のミュージシャンの生涯を描くということだ が、ライリーは劇中で歌はもちろんハーモニカの演奏も披露 するということだ。 なおライリーは、ウィル・フェレルと共演の“Talladega Nights”がこの夏に大ヒットを記録したばかりだが、同じコ ンビでは、いい年をしたそれぞれの親が結婚して、突然義兄 弟になってしまった男2人を描く“Step Brothers”という コメディの計画もソニー進められている。 * * 昨年ロマン・ポランスキー監督で『オリバー・ツイスト』 が映画化されたが、同じディケンズ原作の『クリスマス・キ ャロル』の映画化が、ラッセ・ハルストレム監督で計画され ている。 物語は、強欲なスクルージーという男が、クリスマスの夜 に3人の幽霊の訪問を受け、それぞれ過去、現在、未来の自 分の姿を見せられて改心して行くというもの。クリスマスス トーリーの定番として1930年代から繰り返し映画化されてい る作品だが、それを『サイダーハウス・ルール』や『シッピ ング・ニュース』などの骨太の作品で知られる監督でという のが面白いところだ。また、過去の作品ではジョージ・C・ スコットやパトリック・スチュアートが演じたスクルージを 誰が演じるかも楽しみになる。 なおハルストレムの作品では、『カサノヴァ』に続いて、 リチャード・ギア主演の“The Hoax”という作品がミラマッ クスで待機中になっている。 * * ワーナーから“Fool's Gold”と題されたアドヴェンチャ ー・コメディの計画が発表された。 この作品は、『メラニーは行く!』などのアンディ・テン ナント監督で進められているもので、主演は『10日間で男を 上手にフル方法』以来の共演となるマシュー・マコノヒーと ケイト・ハドソン。2人は夫婦のトレジャー・ハンターだっ たが、ある宝物を8年探し続けたが成果が上がらず、それを きっかけに夫婦生活も破綻してしまう。ところが離婚した後 でそれぞれが謎解きに成功。しかし最後の謎の解明には、お 互いが持っている鍵が必要になるというもの。 前回、続編の情報をお伝えした“National Treasure”の パロディみたいな感じだが、元々はジョン・クラフリンとダ ン・ゼルマンによるオリジナル脚本があり、ワーナーではそ の権利を2001年から保有していたとのこと。そして今回は、 その企画をテンナントが立て直し、再出発となったものだ。 ロマンティックコメディの代名詞のような顔ぶれだが、楽し い作品を期待したい。 * * 前回は日本人作家の原作を映画化する計画を紹介したジョ ージ・A・ロメロ監督の新たな情報で、再びゾンビ映画を手 掛けることが発表された。 この作品は、“George Romero's Diary of the Dead”と 題されているもので、ロメロが脚本と監督を担当。内容は、 森の中でホラー映画の撮影をしていた大学生たちが、本物の ゾンビと出会ってしまうというものだ。パロディではなく、 ドキュメンタリータッチを取り入れた「シネマ・ヴェリテ」 スタイルの作品になるとしている。 ロメロのゾンビ作品では、昨年『ランド・オブ・ザ・デッ ド』が公開されたが、大手映画会社で行ったその映画化を実 現するまでのトラブルが身に染みたのか、今回はインディー ズ系での製作が報告されており、製作にはアートファイアと いうプロダクションが全製作資金を提供するとされている。 撮影は、ちょっと情報が錯綜しているが、10月11日にトロ ントで撮影開始という報告もあるようだ。 * * JJ・エイブラムス監督で進められることは決定し、予告 ポスターも登場した“Star Trek XI”に、レナード・ニモイ とウィリアム・シャトナー出演の情報が流されている。 これは、ニモイがトロント・サンのインタヴューに答えて いるもので、「パラマウントの映画製作のトップが僕のエー ジェントに打診してきた」ということだ。そしてニモイは、 「これは至極当然のことだ。これは僕の推測だけど、彼らは 僕とビル(シャトナー)にフラッシュバックスタイルのドラ マのきっかけを作ってもらいたいのだと思うよ」とも語って いるようだ。 今回の“XI”の物語が、カークとスポックの出会いを描く ということはすでに報告されているが、それにオリジナルの 2人の登場は鬼に金棒というところだ。またパラウントとし ては、トム・クルーズとの契約解除で、折角のシリーズ作品 “Mission: Impossible”を失った所だけに、“Star Trek” に掛ける意気込みも違ってきそうで、ファンには楽しみなこ とになりそうだ。 * * 来年5月に公開される“Spider-Man 3”に関して、急遽再 撮影が行われるという情報が流れている。 これは、主演トリオの1人ジェームズ・フランコがインタ ヴューで述べたもので、それによると、「(自分の)次の撮 影予定は、来月(9月)に行う“Spider-Man”のreshoot」 だとのこと、またフランコは、「監督(サム・ライミ)はも っとアクションが欲しいと考えたようだ」とも語っている。 これには8月に行われたテスト上映での観客の反応を見ての こともあるようだが、公開までにはまだ半年以上あり、じっ くりと仕上げてほしいものだ。 一方、直接映画製作に乗り出しているマーヴルの新CEO ケヴィン・フェイジからは、“Spider-Man”の映画シリーズ を継続する発言も飛び出している。これはCEOが、MTV の行ったインタヴューに答えたもので、それによると「シリ ーズを続ける考えはある。実際に次回作のアイデアも生まれ ている。原作のコミックスには50年の歴史があるから、映画 も今後20年は続ける物語を持っている」とのことだ。 ただし継続には俳優の問題もあるわけだが、それについて CEOは、「映画は1本、1本、その時々に検討すればいい ものだ」と、現状にはこだわらない姿勢も示したようだ。 * * 最後に、ちょっと希望の沸く情報で、ドリームワークスが 進めているスティーヴン・キング、ピーター・ストラウヴ共 著の“The Talisman”の映画化に、マイクル・J・フォック スの出演が噂されている。 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などで人気のあった フォックスは、難病に冒されて芸能活動を休止していたが、 最近“Atlantis”というプロジェクトに参加しているとの情 報も流され、俳優業への復帰も可能性が出てきているという ことだ。そしてその作品として、“The Talisman”が挙がっ ているということだが、回復といっても完治する病気ではな いはずで、撮影にはかなり制約はあることになりそうだ。し かし、ドリームワークスは『BTTF』を製作したスティー ヴン・スピルバーグの許で体制が整えられており、制約を加 味して万全の体制を作ることも可能と考えられる。 物語は、1人の少年が死の床にある母親を救うためにパラ レルワールドを旅するというもの。原作の発表直後から一時 はスピルバーグの監督も計画されるなど、映画化も待望され ている作品だが、これを機会に、一気に実現に進んでもらい たいものだ。
|