2005年11月30日(水) |
サウンド・オブ・サンダー、マクダル/パイナップルパン王子、アメノナカノ青空 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『サウンド・オブ・サンダー』“A Sound of Thunder” タイムトラヴェラーが過去で犯したちょっとした過ちによっ て、現代に大変なことが捲き起ってしまうというレイ・ブラ ッドベリの短編小説の映画化。 2055年。タイム・サファリ社は、開発されたばかりのタイム マシンを使って独占的に事業を展開していた。この会社は、 一応は政府の管理下にあるものの、利潤の追求のために金持 ちを集め、巨額の料金で恐竜狩りを実施しているのだ。 その管理とは、①過去のいかなるものも変えてはいけない。 ②過去にいかなるものも置いてきてはならない。③いかなる ものも持ち帰ってはいけない…というもの。 そのため狩りの実施では、TAMIと呼ばれる超コンピュー タで死亡寸前の個体を割り出し、その5分前に現地に赴く。 そして現地には、割り出された死亡位置まで浮遊回廊が敷か れ、客がそこから足を踏み出すことは禁じられていた。 ところがちょっとしたハプニングからこの管理が破られ、そ の結果は現代に重大な影響を及ぼすことになってしまう… というお話は、ブラッドベリの読者なら先刻ご承知のことと 思うが、この展開は小説では良くても、ちょっとこれだけで は映画には物足りない。そこで今回の映画化は、実はここか ら始まると言っても過言ではないもので、つまり映画では、 改変されてしまった現代を元に戻すことがテーマとなる。 一方、通常のタイムトラヴェルものでは、戻ってくると現代 は全て変ってしまっているのが普通だと思うが、この作品で は進化の過程に従って徐々に影響が現れるというのが味噌。 まず植物が変り、次に爬虫類、そしてその進化の頂点が人類 という発想だ。 従って、人類が影響を受けるまでには時間差があり、その時 間差がタイムリミットとなって、主人公はこの間に原因を究 明し、それを修復しなければならないことになる。 この発想にはなるほどと思わされたが、このストーリーは、 『サラハ』も手掛けたトーマス・ディーン・ドネリーとジョ シュア・オッペンハイマーによるもののようだ。 そして、この映画化の計画は2000年頃に立上げられ、2002年 には準備が整えられて撮影も開始されたのだが、その直後に 撮影地チェコの水害などで撮影が遅延し、当初予定されてい た2003年の公開が2年近くも遅らされてしまったものだ。 因に映画では、舞台となる2055年のシカゴの景観などは、改 変の前後共にCGIで形成され、そこに登場人物だけが合成 される仕組みになっている。これは昨年公開の『スカイキャ プテン』などにも先立って試みられたもので、公開の遅れで 先を越されてしまったのは残念なところだ。 しかもこの間のCGIの進歩が微妙に影響して、全体にちょ っと古臭さを感じてしまう。ただし映画は、未来デザインを シド・ミードの事務所が担当するなど、ちょっとレトロな感 じにも作られていて、意外とそれが映像にマッチしているの は怪我の功名というところだろう。 また映画では、前提として人類以外の哺乳類が絶滅している という説明があるなど、細かな考証がされていて、意外と慎 重に作られている。その辺の2人の脚本家の見識には、これ からもちょっと期待してみたいところだ。 なお、字幕では訳されていなかったが、登場人物の発言で、 コロンブスのアメリカ上陸、アームストロングの月着陸、ブ ルベイカーの火星着陸に次ぐ偉業という台詞が出てくる。 ここでブルベイカーというのは、本編の監督ピーター・ハイ アムズの1977年作品『カプリコン1』の主人公の名前で、セ ルフオマージュといったところだが、「あの映画では火星に 行かなかっただろうが…」というのがSF映画ファンとして は突っ込みたいところだ。 『マクダル/パイナップルパン王子』“麥兜・菠蘿油王子” 香港で人気絶大という絵本『マクマグ』シリーズから発展し たテレビアニメーションのシリーズのスタッフが手掛けた長 編作品の第2作。本作は、香港3大映画賞の一つ電影評論学 会大賞をアニメーションで初めて獲得した。因に第1作は、 アヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞して いるそうだ。 マクダルは来年小学校に上がる予定の子ブタの幼稚園児。ち ょっと行動が遅れ気味で、勉強もあまりできる方ではない。 しかも貧乏揺すりがひどくなり、それを心配した母親はその 対策(?)として、今はいない父親マクビンの話を始める。 マクダルの父親は実は王子だった。ところが偶然、王子は宮 殿を飛び出し旅に出ることになってしまう。しかし何の取り 柄もない王子は、そのまま謙虚で平凡な大人に成長。そして 料理人となって母親と結婚したのだが、ある日、元の自分に 戻ることを決心する。 これに、幼稚園やマクダルの生活の様子や、九龍地区の再開 発の話などが絡んで、物語はほのぼのとした雰囲気の中、リ アルにそしてシュールに進んで行く。 主人公の画像などは他で見ていただきたいが、何しろ可愛い というか誰にでも好かれそうなキャラクターだ。このキャラ クターが香港では、マクドナルドや携帯電話、銀行、赤十字 などでもイメージキャラクターとなり、町中にあふれている という。 そんな大人気のキャラクターの映画化だが、その内容は、巻 頭で描かれるリアル教育と称する幼稚園の授業風景からして 飛んでもなくシュールなもので、子供は笑って済ませるかも 知れないが、大人の目で見るとかなりズシンと来るものだ。 作品は全体的にそんな感じで、それを楽しむと言うか、多分 いろいろ身につまされるところを感じながら見てしまう作品 というところだろう。なお本編の物語は、原作絵本にはない オリジナルだそうだが、かなりシビアな内容で、映画ならま だしも本で読むにはきついかも知れないと思えるものだ。 そのシビアな物語を可愛いキャラクターで描くというのは、 手法としては正しいと思う。そしてこの作品が大人鑑賞にも 耐える作品であることは間違いない。しかし、これをこのま ま子供に見せて良いかというと、親としては多少悩んでしま うところだ。多分、子供は気にせず見てしまうのだろうが。 『アメノナカノ青空』“..ing” 難病で余命のない少女の恋愛を描いた韓国映画。 主人公の少女は、左手を分厚い手袋で隠している以外は見た 目には全く異常がない。しかし彼女の身体には生まれつきの 問題があり、医者は今まで生きているのが奇跡とまで言う。 そんな少女が病院を出て学校に通い始める。 さらに、彼女の前には一人の青年が現れる。彼は写真学校の 学生であり、カメラマン助手として海外旅行の経験もある。 そしてマンションの一階下に引っ越してきた青年は、窓辺で 夜空を楽しんでいた彼女に図々しくも話しかけ、彼女に生活 に踏み込んでくる。 一方、彼女の家は母子家庭だが母親は事業に成功しており、 そんな母親を名前で呼ぶ彼女は、母親を姉のようにも慕って いる。そんな恵まれた生活、しかし彼女に残された時間は少 ないのだ。 見るからに泣かせるために作られた作品。でも、映画の中は あくまでも明るく、その一点に辿り着くまでは、ちょっと変 だなと感じさせはするもののほとんど泣きの要素は見せてこ ない。 実は、試写会には最終試写にぎりぎりで行ったのだが、その 際に、事前に紹介されていた物語は、最初に書いた1行以外 はほとんど忘れていた。それで見ていると、この映画は、泣 かせるタイミングなどが実に巧みに作られていると思える作 品だった。 以下ネタバレがあります。 ところが、映画を見終ってからプレスブックのストーリーを 読むと、映画では隠されている部分が前提として掲載されて いて、ちょっと驚かされた。確かに青年を演じた俳優で売る にはそれも仕方ないのだが… 僕自身、泣け泣けと責め立てられるような作品は好きではな いし、そういう映画は敬遠することが多いが、このプレスに 書かれたストーリーではそうなってしまう。実は、自分が最 初のうちに見に行かなかった理由はこれだったかも知れない と思ったものだ。 多分、観客は韓流俳優が目当てなのだろうし、それで売れれ ばそれも結構だと思う。しかし、上記のことを忘れて見られ ると、見終ってカタルシスのようなものも感じられるし、そ の意味では優れた作品だとも感じたものだが。
2005年11月29日(火) |
ピーナッツ、スタンド・アップ、バトル7、Mr.&Mrs.スミス、イヌゴエ、ホテル・ルワンダ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ピーナッツ』 ウッチャンナンチャンの内村光良第一回監督作品。内村の主 演に、三村マサカズ、大竹一樹、ゴルゴ松本、レッド吉田、 ふかわりょうらが共演する。 内村は、元々が横浜放送映画専門学院の出身で、以前テレビ 番組でも、監督の真似事(当時の‘a Uchan Film’の表記に は、冠詞の使い方が間違っているとテレビを見ながら突っ込 んでいたものだ)のようなコーナーを持つなど、監督への思 い入れが強く感じられたものだ。 その内村監督の第一回作品ということだが、正直に言って、 出演者の顔ぶれを見たときにはかなりの危惧を感じた。実際 この顔ぶれで真面な演技が期待できるとは思えなかったし、 ヴァラエティの延長のような作品だったら、それこそ怒り心 頭というところだ。 それでも試写会を見に行ったのは、上記の内村の思い入れが どれほどのものだったのか、自分の目で確認したかったとい うところもある。そんな気持ちで行った試写会だったが、思 いの外と言ったら失礼になるが、映画は予想以上のしっかり とした作品だった。 物語は、地方都市の商店街が舞台。そこには昔ピーナッツと いう名前の軟式野球チームが存在し、伝説のサードと呼ばれ た秋吉を擁したチームは優勝の栄光を勝ち取ったこともあっ た。しかし、現在の商店街には人通りもまばらで、野球どこ ろではなくなった商店街には、商店の大半を廃業に追い込む 再開発の計画も持ち上がっていた。 そんな町に秋吉が帰ってくる。彼は10年前、チームの優勝の 軌跡を綴った文章が認められてスポーツライターとして東京 に進出し、一時は売れっ子だったのだが、最近はスランプに 陥っていた。そんな秋吉は、昔のチームをネタに起死回生の ドキュメントを書こうとしていたのだ。 こうして昔のチームメイトを再招集して、チームの再興を画 策した秋吉だったが、その先には故郷の未来を決定する大一 番が控えていた。 ということで、後半のかなりの部分を野球の試合が占めるこ とになるが、試合の展開にはあまり無理もなく納得できた。 実際、強豪チームを相手にしてこのような展開はあり得るこ とだし、まあ多少の夢の入った部分はあるが、全体的には納 得してそれなりに手に汗握る感じだった。 それにこのシーンでも、またそれ以前のシーンでも、出演者 たちの演技がしっかりと演出されていることもさることなが ら、お笑いの人たちがちゃんとお笑いの顔を出しながらドラ マを作り上げている点には感心した。それもテレビの使い回 しのギャグでお茶を濁すようなこともない。その辺のバラン ス感覚にも感心したものだ。 実際、お笑い劇団系の人の映画も最近見る機会があったが、 中には常連の観客にアピールすることしか考えていないので はないか、と思うような独り善がりの作品もあって、困って しまったものだ。その点でも今回の内村作品は、普通にコメ ディ映画になっているもので、その点の一般向けのアピール 度は合格点と言えそうだ。 北野武監督は別格として、コメディアンが監督した作品は過 去に何本か見ているが、得てしてシュールな芸術作品だった り、北野の場合もそうだがコメディではないものを見せられ ることも多い。 そんな中で、内村監督が正面切ってこのようなコメディ作品 を作ってくれたことには拍手を贈りたいし、これから監督業 にも力を入れて欲しいと思ったところだ。なお、映画の最初 には‘a Teruyoshi Uchimura Film’と書かれており、この 冠詞の使い方は正しい。 『スタンド・アップ』“North Country” シャーリズ・セロン、フランシス・マクドーマンド共演で、 アメリカ北部の鉄鉱山を舞台に実際に行われたセクシャルハ ラスメント訴訟の裁判を追った社会派ドラマ。『クジラの島 の少女』のニキ・カーロ監督作品。 映画の最初にテロップが出て、年号は正確には覚えていない が、アメリカでは1970年代に男女の雇用機会の均等化が憲法 で保障されたが、その時に今回の映画の舞台となる鉄鉱山で 採用された女性は1人だけ、そして映画の背景となる1980年 代の末になっても雇用者の男女比は30:1だったと明記され る。そんな鉄鉱山での物語だ。 物語の主人公は、元々がシングルマザーで、その後に結婚は したが夫の暴力に絶え切れず、2人の子供と共に故郷である 鉄鉱山の町に帰ってくる。その彼女の父親は長年鉄鉱山で働 いており、娘が同じ職場で働くことは快く思っていない。 しかし、労働組合の会合にも代表として出席する先輩女性の 紹介もあって、彼女は普通の女性の6倍の給料が得られると いう鉄鉱山に務めることとなる。それは女手一つで2人の子 供を育てるためには絶対に必要なことでもあった。 ところが職場では、女性が同等の仕事をすることにに対して 快く思っていない男性従業員も多く、また男性だけの職場に 有り勝ちな女性を蔑視する発言や、それを表わすような落書 きもそこら中に氾濫していた。 それに対して主人公以外の女性従業員たちは、仕方のないこ とと甘んじており、またそれを会社の上層部に訴えても、自 分たちの立場を危うくするだけと諦めている。そんな中で主 人公は、ただ一人立ち上がるのだが… 試写会の後で、「あんな裁判どう考えても勝てるだろう」と いう声が聞かれた。でも時代は1980年代、今とは社会の常識 も違う。そしてここに描かれた裁判が、アメリカでの女性雇 用に関する認識を変化させ、現在の情勢を生み出したという ことこそが事実なのだ。 一方、試写会の後で、「会社の女性には見せられないな」と 言う声も聞こえてきた。多分それが日本の現実だろうし、ま だまだ社会はそんなものだろうということも考えさせられた ものだ。恐らくアメリカもそれほど変らないのだろうが。 それにしても、姑息ないじめやセクシャルハラスメントが、 戯画化されているのではないかと思うほどに描かれる作品だ が、それは実際にあったとしてもおかしくないと考えられる ものだし、そんな世の中だったとも思えるものだった。 男性にはきつい作品かも知れないが、男性だって最近は同じ ような状況に置かれる人は多いと思うし、その意味では男女 を問わず考えて欲しい問題を提起している作品だった。 なお、セロンとマクドーマンドは、アクション・ファンタシ ー作品の“Aeon Flux”でも共演しているが、本作はそれと は別の作品だ。 『バトル7』(タイ映画) 1958年に第1作が製作され、その後の10年以上に渡って何本 もの続編が発表されたというタイ屈指の人気アクションシリ ーズのリメイク版。本作は、タイでは2002年に公開されて大 ヒットし、2005年には続編が公開されてそれも大ヒットして いるそうだ。 物語の背景はベトナム戦争末期、タイに駐留するアメリカ軍 は密かに枯れ葉剤やナパーム弾の使用を検討し、その準備の ための武器の輸送を極秘にタイ国内で行っていた。 これを見たタイ人のボスは、アメリカ軍がベトナムの財宝を 運び出していると考え、それを奪い取る作戦を立てる。そし て主人公たちは、いろいろな柵からそれに協力することとな り、首尾よく作戦は成功するのだが…その後にボスの裏切り や、秘密の発覚を恐れたアメリカ軍の追求を受けることにな ってしまう。 以前に紹介したタイ映画の『デッド・ライン』もそうだった が、この作品も何か途中で物語が飛んでいるように思える。 この作品ではボスの裏切りの状況がよく判らないし、アメリ カ軍の行動も、多分上に書いた通りだとは思うのだが、それ も映画の中ではあまりちゃんとは説明されていなかったと思 えるものだ。 とは言うものの、この作品はタイでは大ヒットしたというの だから、それでも良いというのがタイの映画ファンの気質な のだろうか。その辺の事情はよく判らないが、ちょっと不思 議な感じもするところだ。 アクションの方は、ミニチュアの合成などは今一だったが、 タイ映画特有の爆破シーンなどもしっかり描かれていたし、 ムエタイなどの身体を張ったアクションは面白かった。まあ それを楽しめばいいという作品なのかも知れない。 なおプロデューサーのブラッチャヤー・ピンゲーオは、本作 の翌年に日本では先に公開されて話題となった『マッハ!』 の監督を手掛けており、『マッハ!』はそれなりにお話もち ゃんとしていたから、本作はその礎となった作品というとこ ろだろう。その辺の位置付けで見るべき作品かもしれない。 因に、今年公開された続編では、大東亜戦争を背景に日本軍 を相手にしているのだそうで、それから考えると、本作はア メリカ軍との闘いが主眼ということになるようだ。そうして 見ると、それなりに描かれていたようにも思えるところだ。 『Mr.&Mrs.スミス』“Mr.and Mrs.Smith” ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー共演によるア クション作品。 政府公認なのかどうかは判らないが、それぞれ秘密の暗殺組 織に所属する男女の殺し屋が、お互いの正体を知らないまま に愛し合って結婚し、お互い秘密を守ったまま生活を続ける のだが、やがて2人に倦怠期が訪れて…というお話。 映画は、主人公たちが夫婦でセラピーを受けているところか ら始まる。2人は、それぞれ自分が秘密を持っていることが 原因だと考えているのだが、それを明かすことはできない。 しかし依頼された事件が交錯し、事態の修復のためには互い を標的としなければならなくなる。 物語の中で、2人の出会いの状況などはそれなりに理解でき るが、その秘密が何年も守られ続けるなんて到底考えられな いもの。大体、互いに秘密で家の中にあんな仕掛けがあるな んて…ということで説得力も何もない物語だが、見ている間 は文句なく面白かった。 基本的に主演の2人は本作をコメディという位置付けで演じ ているということで、何事も笑って許してという感じの作品 だろう。その意味ではブラックな笑いや、ブラックでない笑 いも随所に盛り込まれている。 とは言うものの、ハリウッドスターの2人が共演した作品の 割には、実に大勢の人が死ぬ映画だ。物語の展開上で仕方が ないところはあるが、ある意味その辺を吹っ切った作品とも 言えるかも知れない。まあアクション映画であれば登場人物 の死は付きものだし、本作ではそれをちょっと大げさにやっ てみたというところなのだろう。 その一方で、それぞれが演じる殺しの手口やいろいろな仕掛 けなど、描かれるアクションは実に多彩で本当に楽しめる。 特に、ちょっとしたところにいろいろな特殊効果やVFXが 仕掛けられているのには、さすがハリウッド映画という感じ がした。 以下ネタばれあります。 それから、クライマックス近くの2人の会話は、多分某アカ デミー賞受賞作の台詞をそのまま使ったものだと思われる。 それまで気をつけては見ていなかったが、思い返してみると 他にもいろいろあったような気もする。その作品へのオマー ジュなのだろうか。 『イヌゴエ』 犬の言葉が理解できるようになった臭気判定士の主人公を巡 る物語。 主人公は臭気判定士の肩書きを持ち、悪臭公害対策協会に所 属して住宅の臭気の判定や、地域住民の苦情対策を主な仕事 としている。そんな主人公が薬品メーカーの芳香剤の実験に 駆り出され、ある匂いを嗅がされたことから物語は始まる。 その日、その匂いを嗅いで昏倒した主人公は自宅で寝かされ ていたのだが、その間に故郷での同窓会に行くという父親が 犬を置いていき、やがて目覚めた主人公には、その犬の声が 言葉として聞こえるようになっていたのだ。 そしてその犬のおかげで、臭気の源を発見できたり、犬を連 れた女性と近づきになれたりもするのだが、同時にいろいろ なトラブルにも巻き込まれることになってしまう。こうして 平凡だった主人公の生活に変化が生まれるが… 匂いの元はラヴェンダーではないけれど、何となくそこから ヒントを得ているような気もする作品だ。それはともかくと して、映画は、それ以外の部分では極々市井の出来事が普通 に進んで行き、まったく等身大の無理のない物語に仕上げら れている。 実は映画を見るまではあまり期待していなかった。犬の言葉 が判るといっても、ドリトル先生を始めいろいろな物語があ る訳で珍しくもないし、それをうまく捻れるほどのセンスは あまり期待できるとも思えない。 という感じで見に行ったのだが、映画を見ていて感心したの は、実にいろいろな問題がうまく話の中に織り込まれている ことだった。 それは家庭内の臭気をきっかけにして、ゴミの片づけのでき ない主婦の問題であったり、下水に含まれる微生物の話であ ったり、さらには幼児虐待や犬と人間の信頼の物語であった りもする。そんないろいろな問題がさりげなく、見事に取り 込まれていた。 そして提示される問題の多くは映画の中で解決される訳でも ないのだが、そういうことは抜きにして、描かれた問題提起 が今の日本のある側面を見事に描き出しているようで、見て いて納得してしまう作品だった。 なお試写会はヴィデオで行われて、画質などには多少不満が あったが、物語的には納得できるものだったし、犬の台詞の ユーモアも含めて面白い作品だった。 『ホテル・ルワンダ』“Hotel Rwanda” アフリカのルワンダで起きた部族間抗争によるの大量虐殺を 背景にした実話に基づくドラマ。今年のアカデミー賞で主演 男優、助演女優、脚本の3部門の候補になった。 1994年の物語。ルワンダ国民は主にフツ、ツチの2つの大き な部族で構成されているが、彼ら共に黒人で西欧人には区別 がつかず、同じ言語を喋り、同じ宗教で、部族間の結婚も頻 繁に行われていた。 ただし植民地としてベルギーが支配していた頃には、どちら かと言うとツチの人々が厚遇され、人数的には多いフツの人 たちは冷遇されていた経緯はあったようだ。そんなわだかま りも遠因となり、ベルギーからの独立が成った後、部族間の 抗争が勃発する。 この抗争に対しては、国連の平和維持活動(PKO)が実施 され、カナダ軍を中心とした300人の兵士によって治安の監 視が行われていた。そしてこの年、フツ出身の大統領の許で 部族間の和平が調印される。しかし、それは逆に抗争の火に 油を注いでしまう。 物語の舞台は、ルワンダの首都キガリにある高級ビジネスホ テル=ミル・コリン。そこで支配人を務めるポールはフツの 出身だが、彼の妻タチアナはツチの出身者だった。また、ホ テルの従業員には両部族の人たちが入り混じっていた。 そんな中、一応抗争も気掛かりなポールだったが、ホテル支 配人の立場を利用した各方面への賄賂攻勢などで、もしもの 時には家族だけでも身の安全が守られるよう手は打っている つもりだった。従って和平が崩れ始めたときも、多少はたか を括っていたのだが… 西欧人が多く宿泊し、外国マスコミも滞在しているホテルは 聖域と思われたのか、和平が崩れるや否や難を逃れたツチの 人々がホテルに雪崩れ込んで来る。これにより一転、ツチを 匿っていると見なされたホテルはフツの民兵の標的となって しまう。 しかし最初の内は、事前の賄賂などが功を奏してルワンダの 正規軍が派遣されて安全が守られる。だが、和平崩壊の報道 によって急遽派遣された英米仏軍は、西欧人だけを救出して 去ってしまい、やがて避難者の数は1280人にも膨れ上がる。 そんな状況の中で、ポールの孤軍奮闘が始まる。 ジェノサイド(部族の皆殺し)を描いた作品では、1984年の 『キリング・フィールド』が思い出される。あの作品でも虐 殺の模様はいろいろ描かれていたが、外国人の目で描いた物 語と当事者の物語では、当然その切実さがまったく違う。 特にポールは、上記のようにたかを括っていたような人物だ から、事態が一変してからの焦りや恐怖の様子は、もし自分 だったら同じことになってしまうだろう…そんな直接的なイ ンパクトを感じてしまうものだ。 また1984年の作品が、ある意味、自然の美しさと人間の行為 との対比のような描き方をした部分があったのに対して、本 作はそのような余裕など全くなく、ほとんどが緊迫した状況 のまま描かれている点には、現実の世界情勢の緊迫度の違い も感じさせた。 出演は、主人公の夫婦役に、共にオスカー候補になったドン ・チードルとソフィー・オコネド。他にニック・ノルティ、 ホアキン・フェニックスらが共演。また、ジャン・レノがか なり重要な役で出演しているが、ノンクレジットだそうだ。 製作、脚本、監督は、北アイルランドの出身で拘留経験もあ るというテリー・ジョージ。映画の緊張感は、彼の出自にも 関係がありそうだ。 なおこの作品は、当初は日本公開の予定がなかったが、ネッ ト上で展開された署名運動によって配給会社が動かされ、公 開が実現したというもの。自分も昔『2001年宇宙の旅』 の再上映運動に加担したので、このような話にはちょっとう れしくなったものだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回は普通に製作ニュースから始めることにしよう。 まずは、今年の夏に公開された『アイランド』では未来系 アクションに挑戦したスカーレット・ヨハンソンから、今度 は太古の女戦士アマゾンを演じる計画が発表された。 この物語は、紀元前2世紀を時代背景としたもので、祖国 を外敵によって破壊された主人公が復讐に立ち上がるという 内容。題名は“Amazon”と発表されている。因にアマゾンと いうのは南米の河の名前ではなく、ギリシャ神話に出てくる 女戦士のことだ。 そしてこの計画は、元々は『アイランド』の撮影中にヨハ ンソンの方から提案されたもので、同作の脚本を担当してい たアレックス・カーツマンとボブ・オーチにアイデアが提示 された。しかし彼らは自分たちの得意分野ではないと判断し たのか、概要のみをまとめて以後は製作を引き受けることと し、代って来年6月にワインスタインCo.で製作される予定 の“Outlander”というヴァイキング映画を手掛けるダーク ・ブラックマンとハワード・マッケインに脚本をオファー。 彼らが執筆を契約したということだ。 なお、執筆を契約したブラックマンは計画について、「映 画は『ワイルドバンチ』と『七人の侍』を合わせたようなも のになる」と発言しているようだ。また、ヨハンソン主演の 新作“The Black Dahlia”の製作を担当し、本作も製作する シグネチャー・ピクチャーズのモッシュ・ディアマントは、 「このような美しくてセクシーな女性が、こんなアイデアを 出してくるなんて…これは本当に特別な計画だ。神秘的な舞 台で繰り広げられる物語で、ラヴストーリーの要素もある」 と物語の概要を説明している。 実際に計画が動き出すのは、マッケインが監督も担当して いる“Outlander”以後となるが、勢いに乗るヨハンソンが どのような女戦士ぶりを見せてくれることか。脚本家が挙げ ている作品から察すると、仲間を集め策略を張っての戦いと なりそうだが…これは楽しみな作品だ。 因にヨハンソンの予定では、上記の“The Black Dahlia” はブライアン・デ・パルマの監督ですでに撮影完了。他には ニール・ジョーダン監督で“Borgia”という作品と、さらに ワインスタインCo.が彼女の主演用に“The Nanny Diaries” というベストセラーの映画化権を獲得したことも発表されて いる。 * * 続いては、上の記事にも名前が出てきたが、1969年のサム ・ペキンパー監督作品“The Wild Bunch”の現代版リメイク が、『U-571』などの脚本家デイヴィッド・エイヤーの 監督で行われることになった。 このリメイク計画については、2003年5月15日付け第39回 でも紹介しているが、元々ワーナー傘下のジェリー・ワイン トローブの製作で数年前から進められていたものだ。そして 前回の情報では、エイヤーがこの脚本を契約したことが報告 されたものだった。しかしその脚本は、物語を現代化して全 体を大幅に改変するということもあって、それを任せられる 監督がなかなか見つけられないでいた。 ところがここに来てエイヤーは、クリスチャン・ベールと エヴァ・ロンゴリアの主演による“Harsh Times”と題され た潜水艦アクション映画を、自宅を抵当に入れた自己資金で 製作して監督デビュー。しかもこの作品がトロント映画祭で 上映されて好評を博し、全米配給権が600万ドル以上という 好条件で契約されることになった。そしてこの成功を受けて エイヤーは、ワイントローブに自らのリメイクに賭けるヴィ ジョンを改めて説明、それが認められて監督も担当すること になったということだ。 つまりこの一件は、なかなか監督を見つけられない現状に 対して、止むに止まれなくなったエイヤーが賭けに出たとい うようにも取れるが、本人は「恐ろしい体験だったが、映画 製作に自分の資金を使ってはいけないという基本ルールを破 ることが、今回は一番のやり方だった」とも発言しており、 その賭けに勝ったということのようだ。なおリメイクの撮影 は、できれば来年夏に行いたいとしている。 因にオリジナルは、第1次世界大戦前夜のメキシコ国境を 舞台に、荒くれ者の盗賊団と戦うロートルガンマンの姿を描 いたものだったが、リメイクされる現代版では同じ国境線で の麻薬組織とCIAの闘いが背景になるということだ。ただ し主人公などのキャラクターはオリジナルの設定を活かすと している。またオリジナルでは、強烈なガンアクションと鮮 烈な血飛沫の描写も話題となったものだが、『トレーニング ・デイ』『S.W.A.T.』の脚本家がどのような映像を造り出す かも楽しみだ。 * * 続いてもリメイクの情報で、1976年にニコラス・ローグ監 督、デイヴィッド・ボウイの主演で映画化された“The Man Who Fell to Earth”(地球に落ちてきた男)の再映画化を ワーナー傘下のインディペンデスで行うことが発表された。 この作品は、ウォルター・ティヴィスが1963年に発表した 同名の小説を映画化するもので、瀕死の惑星から地球にやっ てきた異星人が、卓越した科学技術で産業を築き上げ、その 資金で故郷の惑星を救おうとするのだが…というお話。オリ ジナルは、ボウイの哀愁を帯びた表情とそれを食い物にしよ うとする地球人の横暴さが好対照となる鮮烈な作品だった。 そして今回のリメイクでは、1998年にアリスン・マクリー ン監督、ビリー・クラダップ、サマンサ・モートン、ジャッ ク・ブタック、ホリー・ハンター、デニス・ホッパーらの出 演で映画化された“Jesus' Son”などを手掛けるオーレン・ ムーヴァマンが脚色を契約したもので、現代にマッチした新 たな脚色が行われることになっている。製作時期は未定。 因に“Jesus' Son”という作品は、1970年代のドラッグ・ カルチャーを題材にしたもので、不連続なフラッシュバック などを多用したかなり複雑な構成のもののようだが、評価は 悪くないようだ。また、ムーヴァマンは、『エデンより彼方 に』などのトッド・ハインズ監督の次回作“I'm Not There: Suppositions on a Film Concerning Dylan”の脚本も担当 しているということだ。 * * もう1本リメイクの話題で、1985年に発表されたジョージ ・ロメロ監督作品“Day of the Dead”(死霊のえじき)の 再映画化が、スティーヴ・マイナー監督の手で行われること が発表された。 オリジナルは、言うまでもなくロメロのゾンビシリーズの 第3作で、Night、Dawnときたシリーズがついに昼間になっ たという作品。オリジナルの物語は、すでに地上のほとんど がゾンビに支配されてしまった時代を背景に、軍の地下壕で 研究を続ける軍人と科学者たちの姿を描いたもので、そこに 拉致されて研究材料にされているゾンビの知性が研究された り、何となく交流が始まる雰囲気も漂わせていた。 ただし映画は、後半アクションになっては来るが、前半は どことなく牧歌的という感じの描写が続くもので、封切りで 見たときにはあまり好印象は持たなかった記憶がある。今見 直すといろいろ発見もありそうな気もするが、当時は“Dawn of the Dead”の鮮烈なイメージに比べるとちょっとという 感じもしたものだ。 その作品をリメイクする訳だが、監督のマイナーは、『13 金』のパート2や『ハロウィン』の20周年記念作を手掛けて いる他、『ガバリン』というちんけな邦題で公開されたが、 ホラーコメディの元祖とも呼べる1986年の“House”なども 監督しており、映画のセンスはそれなりの人と考えている。 またリメイクの脚本は、2000年の『ファイナル・デスティ ネーション』などを手掛けるジェフリー・レディックが担当 しているもので、この組み合わせならホラーとしてもそれな りのものが期待できそうだ。それに製作を、アクション専門 のエメット/ファーラが担当しているのも期待を持たせると ころで、間違っても『ドーン・オブ・ザ・デッド』にはなっ て欲しくないものだ。 * * お次は、『マダガスカル』が好調のドリームワークス・ア ニメーションから、またまた動物を主人公にしたCGIアニ メーションの計画が発表されている。 今回の作品は“Kung Fu Panda”と題されているもので、 お話の舞台は、いろいろな動物たちが集まって暮らす平和な 谷間。ところがある日、その谷間の出入り口に強力な敵が現 れ、谷間の住人たちはその敵と戦うヒーローの登場を待ちわ びることとなる。 そして主人公は、その谷間に住む動物たちの中でも一番怠 け者と思われているポーという名前のジャイアントパンダ。 彼は何となく武道大会に参加するのだが、彼が何気なく繰り 出す技はそれを見つめる師範たちに目を見張らせるものばか り。このため彼には「選ばれし者」の称号が与えられること になるのだが… あのジャイアントパンダが空手とは…という感じのお話だ が、さらにこの声をジャック・ブラックが演じているという から、まあお似合いというか、これは面白いことになりそう だ。そしてこの作品の声の出演者には、この他にもオールス ターキャストが発表されている。 その顔ぶれは、ダスティン・ホフマン、ジャッキー・チェ ン、ルーシー・リュー、イアン・マクシェーン。この内、ホ フマンはシフという名の伝説のカンフーマスター、チェンは 猿の師範、リューは毒蛇の師範の役ということで、彼らがパ ンダを闘士に仕立てることになるようだ。またマクシェーン はタイ・ランという名の敵役の雪ヒョウとされている。 ホフマンは、今春公開の『レーシング・ストライプス』で もシマウマを競争馬に訓練するポニーの声を宛てていたが、 この手の役をやらせると、正しくはまり役というところだ。 それにチャンの猿というのも判る。一方、リューが演じる毒 蛇はシャイで女性的な見かけだが、内には戦士の魂を持つと いうことで、これもはまりそうだ。 作品は、ジョン・スティーヴンスンとマーク・オズボーン の監督で、公開は2008年5月の予定とされている。 * * 前回も紹介したが、第4作の『炎のゴブレット』が11月18 日に全米公開されたハリー・ポッターシリーズで、第5作の “The Order of the Phoenix”の撮影計画と、第6作“The Half-Blood Prince”の脚本家の名前が発表された。 まず第5作の撮影は、前回報告したように来年2月にリヴ ァースデン撮影所で開始されるものだが、この撮影には1億 5000万ドルの製作費が計上されているということだ。そして 実は、今までイギリスでの映画撮影には税制上の優遇措置が 採られていたものだが、その措置が3月31日に撤廃されるこ とになっており、製作費3500万ドル以上の撮影では7%近い 税金の増加が見込まれるとされている。 このため、一時はチェコに撮影が移されるのではないかと いう憶測も流れたようだが、ワーナーでは撮影開始を2月に 繰り上げることで旧税法での取り扱いが得られるようにし、 ロケーション撮影も含めた全編の撮影をイギリス国内で行う と発表したものだ。従って、次回以降の撮影がどうなるかは 不明だが、税法の改正でイギリス国内で撮影されるハリウッ ド映画の総製作費が40%(約6億ドル)落ち込むという試算 も発表されているということで、先行きは不透明なようだ。 そしてその2月に撮影開始される第5作の脚本は、1997年 の『コンタクト』などのマイクル・ゴールデンバーグが担当 したものだが、第6作ではスティーヴ・クローヴスが復帰す ることも発表された。 因にクローヴスは、第4作までの脚色を担当していたが、 第5作の脚色を行う時期には、自ら“The Curious Incident of the Dog in the Night-Time”という作品を脚色監督す る計画があったために降板を余儀なくされていた。しかしそ の計画が頓挫してしまい、改めて第6作の脚色に復帰となっ たもので、いよいよ佳境となる物語をどのように脚色するか 注目されるところだ。 なお、僕は原作の第6巻をすでに読み終えているのだが、 この巻は、次回の最終巻に向けてかなり溜めに入っている感 じもして、派手なアクションなどは相当に抑えられている。 その分、人間関係などは克明に描かれているのだが、さてこ れを映画化するには、脚色に相当の力量が要求されそうだ。 ここにベテランの復帰は心強いが、大変な作業になることは 変わりがないものだ。 * * 東京国際映画祭では、女性タレントとの2ショットばかり が話題になっていた『ブラザーズ・グリム』のテリー・ギリ アム監督だが、続いて行われたロンドン映画祭の記者会見で は、今後の映画製作の計画についての質問にも答えている。 そしてその回答として、2000年9月に撮影開始されて直後に 中断された“The Man Who Killed Don Quixote”の製作に再 開の可能性が出てきたということだ。 この製作が中断に至った経緯については、2003年2月に紹 介したドキュメンタリー作品“Lost in La Mancha”でも詳 しく報告されていたものだが、撮影の行われたスペインの高 地が突然大雨に見舞われたり、上空をNATOのジェット戦 闘機が飛び交ったり、挙げ句にキホーテ役に起用されたフラ ンス人俳優ジャン・ロシュホールの体調が不良となって、結 局それが引金で撮影開始6日目に製作が断念されたものだ。 この結果、それまでの撮影準備などに掛かった経費に対し ては保険金が支払われることになったが、その引き換えに映 画の脚本は保険会社の管理下に置かれ、その許可無しにはこ の映画の製作は出来ないこととなっていた。 しかしここに来て、フランスの製作会社が保険会社に対し て脚本を取り戻すための交渉を開始、つまりそれは必要な金 を払って脚本を買い戻すと言うことだが、その交渉がまとま りつつあるようだ。またギリアムは、先に行われたトロント 映画祭で主演のジョニー・デップと会って話し合ったことも 認めており、デップも再度主演することを了承しているとい うことだ。 ということで、“The Man Who Killed Don Quixote”の製 作が再開できるかも知れないことになったものだが、撮影が 中断された2000年当時と今とでは、主演のデップの人気のス ケールもずいぶんと拡大してきており、この時期に本人が乗 り気の作品となったら、これは製作会社としては、いくらお 金を積んでもぜひとも実現したいと言うのが本音だろう。も ちろんギリアムもそれを見込んで、最初にデップの了承を得 に行ったのだろうし、これは再開の可能性もかなり高いと見 て良さそうだ。 ただし、現状では前回製作が中断された原因については何 も解消されていないもので、このまま再開しても同じ事態に なる恐れは多分にある。しかしこの点についてギリアムは、 「前の撮影では自分のやり方を守れなかったところがある。 そのことは後で皆に指摘されたが、今度は自分のやり方を貫 いてやれる」としており、ギリアム自身も前の時とはずいぶ んと違ってきているようだ。 因にデップは、“The Pirates of the Caribbean”の2本 の続編の撮影とその仕上げに来年の初旬までは掛かりそうだ ということだが、その他にも、以前から紹介している“The Rum Diary”や“Shantaram”、“The Diving Bell and the Butterfly”などの計画が山積みになっている状態。でも、 ここはぜひとも再開を祈りたいものだ。 * * またまたヴィデオゲームからの映画化で、コナミから発表 されているヴァンパイアもののシリーズ“Castlevania”の 映画化をポール・S・アンダースンの脚色と監督で進めるこ とが発表された。 このゲームは1986年に第1作が発表されたという長寿シリ ーズで、その最新作の“Castlevania: Curse of Darkness” は今年11月8日に全米で発売されたばかりということだ。物 語は、ドラキュラと、ヴァンパイア・キラーの一族ベルモン ト・クランとの闘いを描いたもので、この一族が人類最後の 希望になると思われている…という設定のもののようだ。 そしてこのゲームの映画化権を、ニコラス・ケイジ主演の コミックスの映画化“Ghost Rider”などを手掛けるクリス タル・スカイ・ピクチャーズが獲得し、この計画にアンダー スンが参加することになったものだ。 なおアンダースンは、1995年の“Mortal Kombat”を手始 めに、2002年と2004年の“Resident Evil”(バイオハザー ド)、さらに2004年“Alien vs. Predator”と、ヴィデオゲ ームの映画化では、第1人者という感じだが、ドラキュラと なると、それなりに決まりごともあるもので、その辺をどの ように料理してくれるかも楽しみになりそうだ。 撮影は2006年の中頃に行われる予定だが、キャスティング 等はまだ発表されていない。ただしアンダースンには、以前 に紹介したように“Resident Evil 3”の計画もあるはずだ が、そちらはどうなっているのだろう。 * * 最後はワインスタインCo.の計画で、アダム・A・ゴール ドバーグとアーネスト・クラインという脚本家による“Fan Boys”と題された脚本を契約したことが発表されている。 この作品は、アメリカ中西部に住む『スター・ウォーズ』 ファンの若者たちを主人公にしたもので、彼らの仲間の一人 が不治の病に罹り、その仲間に一目撮影のセットを見せよう と、皆で西海岸のスカイウォーカー・ランチを目指すという もの。この手のお話は、今までにもいろいろ作られていると いう意見もあるようだが、目的地が『スター・ウォーズ』の 製作地というのも良いし、それにワインスタイン兄弟が契約 したということでも期待できそうだ。 来年2月1日に撮影開始の予定で、監督は新人のカイル・ マン。また製作は、ケヴィン・スペイシー主宰のプロダクシ ョン=トリガー・ストリートが行うことになっている。 * * もう一つ、訃報というか悲惨な事件だが、9日に発生した アンマンの爆弾テロで、『ハロウィン』シリーズ全8作の製 作総指揮を務めたムスタファ・アッカドが亡くなったことが 報道された。 アッカドは名前からも判るようにアラブ系の人で、監督と してイスラム教を扱った『メッセージ』『砂漠のライオン』 などの作品でも知られている。特に後者は、20世紀前半のリ ビアでの対イタリアレジスタンスを描いたもので、この映画 化にはリビアのカダフィ大佐も資金提供をしたとも言われて いる。従って、どちらかと言うとテロリストの側にも近い人 のようにも見え、そんな人がなぜ…というところだが、正に 無差別テロという感じで恐ろしいものだ。 映画人として優秀な人だったかどうかはよく判らないが、 取り敢えずはジョン・カーペンターにチャンスを与えた人と して記憶されることになりそうだ。冥福を祈りたい。
2005年11月14日(月) |
レジェンド・オブ・ゾロ、ザスーラ、クラッシュ、好きだ、プルーフ、ロード・オブ・ドッグタウン、エンパイア・オブ・ザ・ウルフ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『レジェンド・オブ・ゾロ』“The Legend of Zorro” 1998年に公開された『マスク・オブ・ゾロ』の続編が、アン トニオ・バンデラス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ共演、 マーティン・キャンベル監督の前作の顔ぶれそのままに実現 された。 前作の時は、ゼタ=ジョーンズはまだイギリスから渡ってき たばかりの新人。バンデラスもヒスパニック系俳優として人 気は出始めていたが、確か本格的に英語で演技をするのは初 めてで大変だったとインタヴューに答えていた記憶がある。 そんな2人が、アンソニー・ホプキンスの共演なども得て、 一躍飛躍のきっかけとなったのが前作だった。特にゼタ=ジ ョーンズは、前作を試写で見たマイクル・ダグラスが「絶対 に彼女と結婚する」と宣言して、今に至ったというのも有名 な話だ。 それから7年。続編の計画は前作の公開直後からずっとあっ たものだが、それが期を熟したというか、映画の内容のタイ ミングにも合わせての本作となったもので、義理堅くもそれ に出演した2人にも拍手を贈りたい作品だ。 物語は前作の数年後。2人の間には一人息子のホアキンが生 まれ、その子は多分6、7歳という感じだ。そしてカリフォ ルニアは、アメリカの31番目の州として合衆国への併合の是 非を問う住民投票の真っ只中。しかしそれに反対する勢力も 存在し、投票の妨害も起きていた。 それに対して主人公アレハンドロ・デ・ラ・ヴェガは、人々 からの教会の鐘を打ち鳴らす呼び出しがあれば、黒マスクを 付けゾロとなってそこに馳せ参じていたが、危険に満ちたそ の暮らしは、妻エレナにも、息子にも負担となっていた。特 に父親の正体を知らない息子には…そしてその陰では、合衆 国の未来を決定付ける大きな陰謀が進み始めていた。 時代背景は1850年。大陸横断鉄道完成を目前にする一方で、 南北戦争の匂いも漂い始めている。またヨーロッパでは、予 言書に書かれた西の大国の誕生が懸念され、その阻止のため には、戦争での南部連合の勝利が近道と考えられていた。 そんな裏の流れがしっかりと押さえられ、その設定の上に立 って、ゾロとエレナ、それに息子ホアキンの家族愛の物語が 描かれる。さらにそこには、鉄道架橋での剣戟や暴走列車上 での闘いなど、身体を張ったアクションが描かれるというも のだ。 2時間を超える作品で、多少テンポが緩いかなと思う部分は あるが、歴史を背景にしたいろいろな謎解きも含めて、連続 活劇の味わいをしっかりと出した作品と言える。 またバンデラスの魅力はいつも通りだが、特にゼタ=ジョー ンズの円熟味を増した美しさが抜群で、さすがに前作で彼女 の最高の美しさを引き出させたキャンベル監督の腕は今も健 在というところだ。 それに、ホアキンを演じた10歳のメキシコ人の子役エイドリ アン・アロンゾの演技も見事で、これこそが映画…という感 じのする作品だった。 『ザスーラ』“Zathura” 1995年にロビン・ウィリアムス、キルスティン・ダンストの 主演で映画化された『ジュマンジ』と同じクリス・ヴァン= オールズバーグ原作によるリアルボードゲーム(RBG?) アドヴェンチャーの第2弾。 実は、映画会社では『ジュマンジ』の続編も計画されていた のだが、その前に原作者からこの原作が発表され、急遽その 映画化が進められたものだ。 今回のボードゲームの名前は、題名の通りのザスーラ。原作 ではジュマンジの裏側にあったという設定だったようだが、 映画化では別個のゲームとして描かれている。そして、その ゲームの舞台は、前作のジャングルに替って大宇宙での冒険 が繰り広げられるものだ。 発端は前作同様、大人のいない屋敷で留守番をしていた兄弟 が、ふと見つけ出したゲーム盤を作動させると、彼らは否応 なしにゲームの世界に連れて行かれるというもの。そして家 (地球)に帰るためには、ゲームを最後まで進めなければい けないのだが… そこには、流星雨の襲来や暴走するロボット、異星人の襲撃 など、飛んでもない危険が待ち構えている。しかも遊び方を 間違えると、2度と地球に戻れないかも知れないのだ。 前作も相当にお子様向けの作品だったが、今回も前作以上に お子様向けという感じのものだ。でも、そのお子様向けを、 ここまで丁寧に、そしてお金を掛けて作っているところが、 この作品の価値というものだろう。 何しろ上記の流星雨やロボット、異星人などが次から次に襲 いかかってくる。しかも1時間40分足らずの上映時間の中で それが全部起きるのだから、これはどんなに飽きっぽい子供 でも最後まで目を離せないという感じのものだ。 しかもその異星人やロボットの造形をスタン・ウィンストン が手掛けていたり、大人のファンにも充分に満足が得られる 水準のものになっている。もっとも、異星人などはちょっと グロテスクで、幼い子供には刺激が強い過ぎるのではないか と心配する位のものだ。 一方、ブリキのおもちゃという感じのゲーム盤のレトロさも よく描かれていて、中で歯車が動いている様子や、チェーン によって駒を移動させる仕組みなども、手抜きなく本当に良 く考えられているという感じのものになっていた。 なお、監督のジョン・ファヴローには、パラマウントで進め られているE・R・バローズ原作『火星』シリーズの映画化 に起用の情報もあるが、この水準で作れるのなら期待したく なる。子供は子供らしく、大人は童心に帰って、存分に楽し みたいと思える作品だ。 『クラッシュ』“Crash” 初冬のロサンゼルスを舞台に、交通事故が引き起こす様々な 出来事を描いたアンサンブルドラマ。『ミリオンダラー・ベ イビー』の脚色でオスカーノミネートを果たしたポール・ハ ギスの原案・脚本・製作による自身の監督デビュー作だ。 深夜フリーウェーで起きた接触事故。その事故に巻き込まれ たロサンゼルス市警の黒人刑事グラハム(ドン・チードル) は、その現場で偶然発見された若者の死体に目を奪われる。 そこには、前日の午前から始まる長い連鎖の物語があった。 登場人物は、黒人刑事の他には、ブレンダン・フレーザーと サンドラ・ブロックが演じる地方検事夫妻。テレンス・ハワ ードとサンディ・ニュートンが演じる黒人TVディレクター の夫妻。マット・ディロン演じる人種差別主義者の白人ベテ ラン警官とその相棒の若い巡査。 その他、ウェストウッドを徘徊する若い黒人の2人組や、ア ラブ人と間違われて店を荒らされ続けているペルシャ人の親 子、その店の錠の修理に来た黒人の錠前屋の一家など…いろ いろな人物が交錯して、最後の物語へと進んで行く。 映画では、白人警官による黒人ディレクターの妻への暴行な ど、アメリカの抱える病巣とも言える姿が次々に描かれる。 その描き方は、これがアメリカの現実だと主張しているよう なリアルさで辟易するほどだが、その現実から目を逸らすこ とは到底できない。 そんなアメリカの真実の姿が曝け出された作品だ。 しかし映画の製作者はそんな中にも僅かな希望を見出そうと し、無理を承知の夢を語りかける。勿論それが偽善であるこ とは観客は百も承知だが、それを言わずにはいられない。そ んなぎりぎりのアメリカが描かれた作品とも言えそうだ。 主演のチードルは製作にも名を連ねていて、その意味では黒 人主導で作られた作品の可能性はある。しかし映画は、黒人 の立場に偏って作られたものではなく、あえて黒人社会の悪 い面も描いている。でも、結局のところはそれも描かなくて はならないような混沌とした現実が、真にこの映画の描きた かったところかも知れない。 結末の曖昧さが、それを象徴しているようにも見えた。 『好きだ、』 CF監督で、2002年に映画作品『tokyo sora』を発表してい る石川寛の第2作。17歳の高校生の恋愛と、その17年後の再 会が描かれる。 高校3年生のユウは、野球部を辞め音楽で生きると宣言して ギターを始めたヨースケが気になっている。ユウはヨースケ が弾くギターのフレーズを口ずさむが、その曲はまだ完成し ていないようだ。 しかしヨースケは、ユウよりも最近恋人を事故でなくした彼 女の姉に好意を持っており、ユウの引き合わせでヨースケと 会った姉もまた、そのフレーズを口ずさみながら家事をする ようになる。そしてある出来事がきっかけでユウとヨースケ は会わなくなる。 17年後、音楽業界の片隅で仕事をしているヨースケは、自分 の続けている仕事や生活に疑問を持ち始めている。そんなあ る日、レコーディングスタジオに入ってきた女性が、ギター で聞き覚えのあるフレーズを爪弾く。 17年間に変わってしまったことと変わらなかったこと。17年 前にしたかったことと出来なかったこと。青春ってこんなも のだったのだろうと思いながら、こんな偶然にも憧れてしま う。そんな青春と夢を、石川監督は端正な映像と、落ち着い た演出で描き出す。 作品は、今年9月のモントリオール映画祭に出品されて、審 査委員長のクロード・ルルーシュから「グランプリに匹敵す る監督賞」と絶賛されたということだが、正にルルーシュの 『男と女』や『パリのめぐりあい』を髣髴とさせる作品だ。 ただし、物語を高校時代から始めなければならない辺りが、 この作品の弱点とも言えるところで、これを大人だけの物語 で描き切れたときが、本当のルルーシュの後継者と認められ るときだろう。1963年生まれの石川監督にはそんな脱皮も期 待したい。 こういう作品は、観客の好き嫌いが激しく分かれるものと思 われる。だからといって観客に迎合する必要はないが、何か 観客を唸らせるような、そんな作品を期待したいものだ。 出演は、若いときの2人を演じる宮崎あおいと瑛太、大人の 2人を演じる永作博美と西島秀俊。他に姉役の小田切サユリ など。いずれも嫌みのない演じ方で好感が持てた。 『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』“Proof” 1998年の『恋に落ちたシェークスピア』でオスカー主演女優 賞受賞のグウィネス・パルトローと、同作で監督賞の候補に なったジョン・マッデンが再度手を組んだ作品。 劇作家のデイヴィッド・オーバーンが、ピュリツァー賞、ト ニー賞を受賞した自らの原作を脚色し、アンソニー・ホプキ ンス、ジェイク・ギレンホール、ホープ・デイヴィスの共演 で映画化された。 偉大な業績を残した数学者、しかしその晩年は精神を病んだ 悲惨なものだった。そんな父親を5年に渡って介護した娘。 彼女もまた数学では天分を発揮していたが、父親の介護のた めにその道を閉ざしていた。そして彼女には、自分も父親と 同じようになってしまうのではないかという不安がつきまと っていた。 そんな数学者の書斎に出入りし、その業績を検証しようとし ている弟子の青年。彼は数学者が残した100冊以上のノート に目を通し続けたが…ある日、彼は数学者の娘から別にしま われていた1冊のノートを渡される。そこには新たな大発見 と言える証明が記述されていた。 2001年の『ビューティフル・マインド』に続いて、最近では 日本映画の『博士の愛した数式』でも数学者が扱われていた が、どの作品もちょっと異常に描かれるのは、数学という学 問が醸し出す特殊な雰囲気にあるのだろうか。 たった1ページの証明に国際的な賞が贈られたり、その一方 で、ゲーム理論などという怪しげな名称の研究が話題を呼ん だり…確かに数学には一般には容易に理解できない部分があ って、それが作家たちの興味を引くところでもあるようだ。 そんな背景で作られた本作だが、作品自体は数学というより も愛と信頼の物語であり、父子、姉妹、男女、さらに自分自 身との関係でその物語が描かれている。 しかも、そのいずれもが一人の女性を中心にしたものであっ て、これはハリウッド中の女優がこぞって出演を希望したこ とも判るという作品だ。そして、監督の信頼の許その役を勝 ち取ったパルトローは、見事にその女性を演じ切っている。 さらに、ホプキンスはそんなパルトローの演技を絶妙に支え るし、ギレンホール、デイヴィスも彼女の演技を見事に受け とめているという感じだ。特にギレンホールは、今まで注目 はされても、さして印象に残らない俳優だったが、本作では かなり良い感じに見えた。 『ロード・オブ・ドッグタウン』“Lords of Dogtown” 1970年代半ばの頃。サーフィンに端を発して、陸上の道路や 空っぽのプールに進出したスケートボード、そのムーヴメン トの中で中心的な役割を果たしたZ-BOYSたちの栄光と挫折を 追った青春ドラマ。 ステイシーとトニー、そしてジョー。彼らはサーフショップ のゼファーを溜まり場とした若者たちで、海では先輩たちの 後でしか波に乗させて貰えなかったが、陸では流行り始めた スケートボードを巧みに操り、もはや他の追随を許さない存 在となっていた。 そんな彼らに目をつけたショップの共同経営者スキップは、 彼らを中心としたチームZ-BOYSを結成し、スケートボードの 全国大会へと進出する。そして、その大会で彼らが演じたス ケーティングの技は一躍センセーションを巻き起こし、彼ら を人気の頂点に押し上げるが… やがて、ただ滑ることだけでなく、栄光のもたらす蜜の味も 知った彼らは、それぞれの夢見る方向に向かって離れ離れの 道を進んで行くことになる。 物語は、Z-BOYSの一人でもあったステイシー・ペラルタが自 ら監督して2001年のサンダンス映画祭に出品されたドキュメ ンタリー“Dogtown & Z-BOYS”に基づき、ペラルタ自身が執 筆した脚本を映画化したもので、『サーティーン あの頃欲 しかった愛のこと』のキャサリン・ハードウィックが監督し ている。 実話に基づいているせいもあるのだろうが、物語はあまりド ラマティクではない。それがこの作品の良さでもあり、物足 りなく感じるところでもあるのだが、事実関係を知っている ボーダーの人たちやそのファンにとっては、おそらく感銘を 受ける作品なのだろう。 残念ながら僕は、そのような感銘は得られなかったが、それ は別にしても、映画は1970年代の西海岸の風景や生活を正確 に再現したもので、その部分では充分に楽しめる作品になっ ていた。特に、渇水で各所に空っぽのプールの出現したこと が、彼らの技に磨きをかけたというエピソードなどは納得し て見ていたものだ。 Z-BOYSたちの離別から再会までの展開は、もっとドラマティ ックに描けるようにも感じたが、事実へのこだわりがそのよ うな歪曲を拒んだと言うところだろうか。それはそれで仕方 がないとも言えるが、ちょっともったいなくも感じられたと ころだ。なお映画の製作には、ステイシーは元より、トニー ・アルヴァ、ジェイ・アダムスらも直接参加して、物語の再 現に協力したということだ。 『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』“L'Empire des loups” 2000年に公開された『クリムゾン・リバー』の原作者ジャン =クリストフ・グランジェが2003年に発表した長編小説の映 画化。原作者自らの脚色により、CF監督のクリス・ナオン が監督した作品で、主人公は『クリムゾン…』と同じジャン ・レノが演じている。 映画の宣伝には『クリムゾン…』が引き合いに出されるだろ うが、本作も2つの事件が絡み合い、その陰に潜む大きな謎 に挑むという点では、シリーズと呼んでも良い作品だ。ただ しレノが演じる主人公の設定はかなり違うものだが。 トルコからの不法移民の女性が連続して惨殺される事件が発 生する。その事件を追う刑事ポールはトルコ移民に詳しい引 退した刑事シフェール(レノ)に協力を求めるが… 一方、内務省の高級官僚の妻アンナは、記憶喪失の症状に悩 まされていた。それは、歴史的な出来事などは鮮明に覚えて いるのに、夫の顔だけが思い出せなくなるというもの。その 治療に夫が紹介した精神科医は、脳の断片を取り出す検査が 必要と言い始める。 その恐怖におののく彼女は夫の許を逃げ出すが、その捜査に は異様とも言える体制がとられる。そして彼女の存在が、シ フェールの捜査と絡み合ったとき、恐怖の事件の全貌が浮か び上がってくる。 かなりトリッキーな展開で、観客によっては呆れてしまう人 も出るかも知れない。しかし僕は、物語はこれくらいに大胆 な方が面白く感じられるもので、その辺も『クリムゾン…』 に共通する作品と言える。お好きな人はこちらもどうぞとい う感じのものだ。 ずっと降り続く雨の描写も良かったし、パリのトルコ人街の 雰囲気も初めて見た感じのもので、何か良いエキゾチズムを 感じさせてくれた。またかなり大仕掛けのセットもいくつか 登場してそれも楽しめるものだった。 ただし、脚本には何点か勇み足と言うか、辻褄の合わないと ころもあって、もう少し気を使って欲しかった感じもする。 それから、原作を読んでいないので何とも言えないが、結末 は本当は違うのではないかという感じもした。僕の想像通り なら…まあ、事情は察せられるところだが。
2005年11月12日(土) |
東京国際映画祭2005(アジアの風・日本映画ある視点) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、東京国際映画祭のコンペティション、※ ※アジアの風および日本映画・ある視点部門で上映された※ ※作品から紹介します。なお紹介する作品は、コンペティ※ ※ション部門の作品が14本と、その他の作品が14本です。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <アジアの風> 『月光の下、我思う』 1960年代の台湾で離婚した母親と、教師になったばかりの娘 を巡るドラマ。厳格な母親は娘の恋愛にも口を出すが、やが て娘宛の恋人からの手紙を盗み読むようになり… 親子は東京からの帰国者という設定で、身の回りの世話をす る福さんと呼ばれる日本人女性がいたり、娘は「黄色いサク ランボ」の中国語盤のレコードを聴いていたり、何とも不思 議なムードが漂う作品だった。そんな中で、外省人と呼ばれ る本土からの亡命者の存在や、政府を批判したために終身刑 になったものが送られるという離島の監獄の話など、日本で は中々聞こえてこない台湾の現実が垣間見えて、それだけで も興味深く見ることができた。 と言っても、物語の主眼はそこにあるのではなく、母親と娘 の異常な確執が描かれるのだが、それもまたちょっと驚かさ れる展開となるもので、何かいろいろな意味で教えられるこ との多い作品のように感じられた。物語には原作があるよう だが、少し注目してみたくなるような作品だった。
『チョコレート・ラップ』 台湾映画初のヒップ・ホップムーヴィと称せられた作品。ブ レイクダンスに興じる若者たちの生態が描かれる。 日本でも、ヒップ・ホップムーヴィと称する作品を最近見た ように思うが、つまりは最近の流行に乗せられた作品という ところだろう。演じられるブレイクダンス自体は、かなりト リッキーでそれなりに面白かったが、手をついて足を振り上 げるような仕種は、何となく鞍馬な何かの体操競技を見てい るようで、これがダンスかという感じもしたものだ。 正直なところ、激しいダンスと言われても、つい最近『RI ZE』を見せられた後では…というところもある。もっとも この映画はドラマであって、お芝居のなのだし、その中で完 結していればそれでいいのだが、でもしばらくはあの衝撃か ら抜け出せそうにない。 ついでに言えば、映画の中でブレイクダンスのルーツが太極 拳にあると言わんばかりの展開になった辺りで、多少ずっこ けた部分もあるのだが。
『飛び魚を待ちながら』 台湾の南海の離島を舞台に、都会から来たOLと島の青年の 交流を描いた物語。 主人公の青年は、年長の兄弟は皆都会に出て行った中で、島 に残って観光客相手のその日暮らしような生活をしている。 一方、都会から来たOLは島で携帯電話の受信状態の調査を すると言っているが、彼女が離島に来た理由はそれだけでは ないようだ。そして青年は、島で1台だけのオープンカーを 彼女に貸したり、島の案内をして彼女に接近して行くが… 素朴な離島の風景を背景にした青春映画という感じの作品だ が、台湾本土に戻るためには身分証明を要求されたり、ちょ っと日本人では思いつかないような現実も描かれている。 と言っても物語自体は、本当に美しい南海の海を背景にした 青春ドラマで、自分が主人公のどちらかだったらどうするだ ろうと思いつつも、まあそんなことはないだろうという感じ の作品だ。結局のところ、それだけの作品ではあるが、見て いる間だけは、美しい海に心洗われるような気分になれる。 それだけでも良いのではないかとも思える作品だった。
『おまえの勝手にしやがれ』 ゴダール作品にインスパイアされたと言う1991年製作の韓国 映画。何故かアメコミのThe Silver Surferがフィーチャー されていて、スーパーヒーローに心酔するチンピラの主人公 が、日本人留学生なども巻き込んで騒動を引き起こす。 アメコミ風のイラストやアニメーションなどもちりばめて実 験的な映像が展開され、多分当時は斬新だったのだろうが、 今の時点で見るとかなり古くさい感じは否めない。まあそれ も時代の流れだから仕方ないことではあるが、出来ればその 時代に見て置きたかった作品と言うところだろう。 なお、日本人留学生はイ・ヘジンという韓国人女優が演じて いるが、ちょっと有森也実に似た感じで、韓国人にとっての 日本人女性のイメージがこういうものと判ったことは面白か った。
『愛と卵について』 ジャカルタ市街のマーケットで暮らす人々の姿を、3人の子 供を中心に描いた物語。 3人の子供の一人は水害の混乱で兄と別れ別れになり、一人 は母親が家出し、一人は孤児だがマーケットに引っ越してき た女性を母のように慕ったことからトラブルが発生する。そ んな3人の子供と、イスラム最大の祝日ラマダンでの出来事 が描かれる。 インドネシア映画では、以前の映画祭で国旗を巡って子供た ちが大冒険をする作品を見たことがあるが、今回の作品も子 供たちが主人公で、何か特別なメリットでもあるのかと思っ てしまうところだ。特に本作では、最後のシーンの子供表情 には、何か特別な仕掛けでもあるのではないかとも思えた。 配られた資料には特別なインフォメーションはなかったよう だが、何かありそうな気がしてならない作品だった。 それは別にして、子供たちが生き生きと描かれていることに は、それだけで嬉しいものも感じてしまうところで、それは それで良かった。
『バージン』 結婚するまでバージンでいることを誓った16歳の少女を中心 に、大都会ジャカルタに住む少女たちの生態を描いた作品。 主人公は、同級生3人組の一人。他の一人は政府高官の娘で タレント志望の発展家の少女と、もう一人は母子家庭で必死 に生きている感じの少女。3人はいろいろな悩みも分かち合 う間柄だったが、ライヴァルの同級生が人気タレントの共演 者として映画デビューをすることになった辺りから、焦りと 共にいろいろな出来事が起こり始める。 自分にも娘がいて、同じような年代を通り過ぎてきたことを 考えると、まあこういうことが起きていても不思議ではない し、実際に起こっているのだろうと思われる作品だ。それが 不幸なことなのか、幸運なことなのかも判らないし、それで もこの物語の少女たちのように強かに生き残って行く。それ が若者ということなのだろう。 少し前だったら、こんな不謹慎な映画と言ってしまいそうな 作品だが、これが現実と認識しなければいけない世の中でも あるようだ。
『愛シテ、イマス。1941』 太平洋戦争勃発前後のフィリピンの村を舞台にしたドラマ。 物語の発端は現代、村の英雄を讃える碑を建立するために、 当時のことをよく知る年配の女性が担当者の許に招かれる。 そこには、彼女自身も含め数奇な運命に翻弄された昔の仲間 たちの名前が並んでいた。中でも彼女と一つ名前を分け合っ た青年には、裏切り者という説もあったが…彼こそが最高の 英雄だったと彼女は主張する。その青年は、女装した姿で日 本軍将校と生活を伴にしていたのだ。 単純にはオカマものの作品ではあるのだが、故意と偶然が重 なって歴史の陰に翻弄された人々の悲しくも毅然とした物語 が綴られて行く。実際にあったことかどうかは別として、実 にうまく作られた物語で、あってもおかしくないという感じ にはできあがっていた。 日本人将校役のフィリピン人俳優の怪しげな日本語は、最初 の内こそ失笑が起きたが、物語が進むに連れてそんなことは どうでも良くなってしまう。勿論日本軍は悪役の物語だが、 それすらも超越した人間ドラマという感じの作品だった。
『ミッドナイト、マイラブ』 『マッハ!!』にも出ていたペットターイ・ウォンカムラオの 主演作。深夜の都会を流すタクシーの運転手と風俗で働く女 性の交流を描いたドラマ。 中年の運転手は時代遅れのAMラジオを愛し、懐メロ番組を 聞き続けている。そしてふと乗り込んできた女性は、都会で の生活に疲れ、そんな運転手に親しみを覚え、毎夜同じ場所 に迎えに来てくれるように頼むのだが… ウォンカムラオは、タイではもっとも人気のあるコメディア ンということで、その彼が比較的シリアスな演技に挑戦した ということでも話題になった作品だそうだ。そしてその演技 力は、コメディの技量に裏打ちされた見事なもので、哀愁漂 う中年男の姿を見事に演じ切っていた。 僕も仲間入りする中年男にとっては、ファンタシーのような お話で、その意味でも見ていて心地よかった。なお結末は、 本当はもっと大規模なものをやりたかったが、予算の都合で 断念したのだそうで、それを聞いて、ちょっと弱い結末も納 得した。
『長恨歌』 1990年代に、中国でもっとも影響力のある小説に選ばれた王 安憶の原作の映画化。ジャッキー・チェンがチーフ・プロデ ューサーを務めている。 1947年から81年までの激動の上海を舞台に、激変する社会に 翻弄されながらも、力強く生き抜いた女性の物語。特に文化 大革命の時代には、香港や海外に逃亡する人々を見ながらも 上海に残り、いろいろな男にだまされたりしながらも、信念 を貫き通した一人の女性の生涯が描かれる。 共産主義の台頭や、さらに文革など、日本では計り知れない 辛苦に襲われる。それは中国という特殊な事情によるところ も大きいが、その中を生き抜いて行った主人公の姿には、国 や社会を超えて尊敬の念を持たざるを得ない。 なお、以前に見たドキュメンタリーで、ジャッキー・チェン の父親が本土に家族を残して香港にやってきたという話が紹 介されていたが、チェンがこの映画に関わったことには何か 意味があったのだろうか、その辺の事情も知りたくなった。
『呪い』 女流監督の李虹による「恐怖映画ジャンルに挑戦した」と称 される作品。しかし映画の内容は多少のショックシーンはあ るが恐怖映画と言うほどのものではない。 第一に原題(詛咒)にもある呪いというものが、映画の物語 にはほとんど出てこない。むしろ映画は、照明師の男性を巡 るラヴストーリーに絡むサスペンスといった感じのものだ。 その点について監督は、上映後のQ&Aで、「実は自分では 『秘密』という題名にしたかったが、配給会社の意向でこう なった」と発言しており、いろいろ事情はあるのだろうが、 僕としてはちょっと期待外れになってしまった感じだ。 その点を除くと、監督の演出も俳優の演技もしっかりしたも のだし、特にヒロインのティエンを演じたティエン・ユアン のダンスシーンなども素晴らしかっただけに、姑息なことを した配給会社を呪いたくなる作品だった。
『この一刻』 『世界』のジャ・ジャンクー監督や、『呪い』の李虹監督も 含む中国第六世代の男女8人の監督による短編集。と言って も全体で29分だから、それぞれは3分強のシュートショート 集という感じの作品だ。 3分強と言うと本当に短くて、ほとんど物語も描けないくら いだが、監督それぞれに、情景をただ写しているだけのもの や、それなりに起承転結のある物語に構成されているものま で様々だった。 その中では李虹監督の卵を温める少年の話と、チアン・リフ ェン監督の花嫁を巡る話が個人的には好きだが、意味不明の 作品や、あまり感心できない作品もあり、正直に言って、全 体的にはまとまりに欠ける感じで、ちょっと物足りない感じ もした。
『恋愛は狂気の沙汰だ』 『おまえの勝手にしやがれ』のオ・ソックン監督の今年製作 の新作で、監督にとっては12年ぶりの第3作ということだ。 監督の出身地釜山を舞台に、2人の子供を抱えて離婚し、ホ ステスとして働きながら子育てをしている女性の姿を描いた 作品。主演は『殺人の追憶』で主人公の恋人役を演じていた チョン・ミソンの初主演作。 ホステスと言っても、ほとんど娼婦に近い仕事で、そん中で の男との出会いやホステス同士の確執などが描かれて行く。 監督の12年前の第2作は『101回目のプロポーズ』の韓国 版だそうで、男女の関係を描くのは得意な監督のようだ。他 にも子育ての問題などもうまく織り込まれていて、中々良い 感じの作品だった。 ただこの作品も邦題はちょっと変な感じで、ハングルの原題 に添えられた漢字はただ『恋愛』だけのように見えたが、内 容も邦題から想像するような軽薄なものではないし、英語題 名は邦題と同じになっているが…一体誰がこの邦題をつけた のだろうか。
<日本映画・ある視点> 『ベルナのしっぽ』 1981年をスタート点として、バリアフリーなど言葉もなかっ た時代に盲導犬との生活を実践した女性の物語。 20代になってから失明し、盲人の男性と結婚、生きた証とし て誰の助けも借りずに子育てすることを目指し、そのために 盲導犬を使うことにするが、彼女は大の犬嫌いだった。 盲導犬と一緒では電車に乗ることも、区役所の喫茶室に入る こともままならなかった時代。そんな時代を一歩一歩個人の 力で改革して行く。それは本当に大変なこと。そんな芯の強 い女性の姿を白石美帆が中々の好演で描いている。 実際、彼女の行動は傍から見てもやり過ぎという部分もない 訳ではないが、その時代にこうした人たちがいたからこそ、 今ようやくバリアフリーという言葉が一般的になってきた。 そんなことも考えさせられた。 犬の健気さや人間より先に老いてしまう盲導犬の現実なども 丁寧に描かれ、もちろん感動的な話ではあるが、敢えてお涙 頂戴に持っていっていないことも、すがすがしく感じられる 作品だった。
『ベロニカは死ぬことにした』 主人公は、自殺を試みて大量の薬物を飲む。しかし一命を取 り留め、ちょっと異様なサナトリウムで目を覚ますが、彼女 は薬物の影響で死期が迫っていると宣告されてしまう。 一方、そのサナトリウムには、精神病の患者が多く収容され ているのだが、中には治療は済んでいるのに退院を希望しな い患者や、芸術的な才能を発揮している患者もいた。 そして彼女は、そんな患者たちと共に最後の時を過ごすこと になるのだが… パウロ・コエーリョ原作のベストセラーの映画化。海外の原 作を日本を舞台に翻案したもので、登場人物は皆日本名、従 ってベロニカは登場しないのだが、敢えて原作の題名のまま と言うのも面白いところだ。 映像もCGIやVFXも織り込むなど、いろいろ凝ったもの で、原作を知っている人の目にどう映るかは判らないが、原 作を知らない僕は楽しむことが出来た。 主演は真木よう子だが、脇役の風吹ジュン、中島朋子らの怪 演ぶりも楽しかった。
ということで、今年はコンペティション部門全作品15本と、 アジアの風部門12本、日本映画・ある視点部門2本を見るこ とが出来た。ある視点部門に関しては事前に2本を試写で見 ているので、映画祭のコンテストに関連した部門の作品は、 全部で31本見たことになる。 因に、今年の映画祭ではアジアの風部門は37本、ある視点部 門は11作品が上映されているから、この両部門に関しては3 分の1しか見られなかった訳だが、僕はコンペティションを 優先して見ているので、これは仕方がないところだ。 しかし、アジアの風部門ではチケットの手配に失敗して見る ことが出来なかった作品もあり、その点では少し残念にも思 っている。と言うのも、昨年までは前日に申し込めたチケッ トが、今年は当日分のみとなって、このため手配がままなら なかったこともあるもので、この点の改善というか、昨年ま でのやり方に戻してもらいたいと思っているのは、僕だけで はないだろう。 それはさておき、今年のコンペティションは日本映画初のグ ランプリ受賞で幕を閉じた訳だが、僕は先に書いたように、 中国作品2本の方を買っていた。と言っても受賞作の完成度 の高さが群を抜いていたことは確かなことで、この受賞に文 句を付けるつもりはない。 ただし、主演男優賞については、受賞した本人も驚いていた ようだが、主演者でない人に贈られたのはどうしたものか、 一昨年にも同様のことが起きたが、この辺の主演者の規定は もう少し明確にしてもらいたいところだ。とは言っても、今 年は主演男優賞を選べなかったのも事実で、全体を見ても、 この人はと言える男優はいなかったような気がする。なお、 受賞対象をアジアの風部門まで範囲を広げて良ければ、僕は 『ミッドナイト、マイラブ』のペットターイ・ウォンカムラ オに贈りたいと思ったものだ。 と言うことで、僕が選んだ各賞は 作品賞:ドジョウも魚である 監督賞:ヤン・ヤーチョウ(ドジョウも魚である) 男優賞:該当者なし 女優賞:ジン・ヤーチン(私たち) 芸術貢献賞:女たちとの会話 としておきたい。選んだ作品は、いずれも今回受賞の対象に なったものばかりだが、僕自身は審査結果の発表以前に決め ていたものだ。 実は、例年滅多に当らなかった受賞作を、今年は日本映画の 1本を除いてかなり当てることが出来たものだが、それだけ コンペティションに選ばれた作品に優劣があったようにも感 じている。作品の選出が難しいことは承知の上だが、今年は 選出されたこと自体に疑問を感じる作品も何本かあったもの で、その辺はなんとか改善してほしいと思うところだ。
2005年11月07日(月) |
東京国際映画祭2005(コンペティション) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、東京国際映画祭のコンペティション、※ ※アジアの風および日本映画・ある視点部門で上映された※ ※作品から紹介します。なお紹介する作品は、コンペティ※ ※ション部門の作品が14本と、その他の作品が13本です。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <コンペティション部門> 『バイ・バイ・ブラックバード』 フランスでフォトグラファーとして活躍するロバソン・サヴ ァリ監督の長編第1作。ヴィム・ヴェンダースが絶賛したと も伝えられる。 高所享楽症とでも言うのかな、高いところが大好きな男が、 サーカス団の空中ブランコ乗りの女性に憧れ、そのサーカス に入団して彼女を空中で受けとめることを夢見るが… 巻頭、雪の降り頻る川の上空、多分架橋の工事現場で、ワイ アーに吊るされた鋼鉄材の上でくつろぐ主人公が描かれる。 このシーンはCGIの合成で作られているものだが、これが 物凄い高さの感じを出しており、下の凍結しかけた川を進む 船の描写などが見事に美しかった。それ以降も、夜のサーカ ステントの上で花火を見上げるシーンなど、背景にCGIを 配したり、暗い画面でも背景をちゃんと写し込んだり、とに かく画像の美しさはさすがフォトグラファーの作品という感 じのものだ。 でも、如何せんお話ができていない。結局のところ物語は、 すでに恋人のいるブランコ乗りの女性に勝手に片思いした主 人公が、振られて精神に異常を来すというだけのもので、こ れではドラマも何もあったものではない。 出演した俳優、特にヒロインを演じたイザベラ・マイコは、 2000年公開の『コヨーテ・アグリー』にも出演していたよう だが、それなりのサーカス芸なども演じて見せてがんばって いただけに、ちょっともったいない感じの作品だった。
『女たちとの会話』 ハンス・カノーサ監督の長編第1作。ほぼ全編が左右2分割 画面という思い切った構成で、映画祭では審査員特別賞と、 主演のヘレナ・ボナム=カーターが女優賞を受賞した。 物語は、元夫婦の2人が、元夫の妹の結婚式で花嫁の介添え 役として招かれた元妻と再会し、思い出話をしている内に、 行き掛かりで一夜を伴にしてしまうが… 左右の画面に男女の一人ずつが配され、横並びで話すシーン ではあえてその間隔が分からないようにしたり、向かい合う シーンではそれぞれがほぼ正面を向くなど、トリッキーな画 面が連続する。さらに、その一方の画面が登場人物の想像に なったり、思い出になったり、とにかく2分割画面が最大限 有効に使われた作品と言えそうだ。 主演2人(相手役は『ザ・コア』のアーロン・エッカート) は、終始2台以上のカメラで撮影されていたということで、 その緊張感も普通ではなかったと思われるが、観る方もかな り緊張を要求される作品。幸い英語の作品なので映画祭では お決まりの英語字幕が付かなかったのは救われたが、日本語 の字幕を追いながらの鑑賞には体力も要求される。ただし、 物語自体はあえて他愛ないものに作られているし、その点は 計算された作品と言えそうだ。 なお、最初にほぼ全編と書いたが、実は最後に一瞬だけ画面 が一つになる。これは俳優だけ観ていると気が付かないが、 背景で確認できるもので、その意味は…?というところだ。
『ダラス地区』 ルーマニア生まれだが、幼い頃からオーストリアで育ったと いうアドリアーン・ローベルト・ベヨー監督の作品。今やゴ ミの集積場と化したジプシー村を再訪した元ジプシーの教師 を巡る物語。 映画の題名は、その村の中心に置かれたバスを改造したカフ ェの店主が、テレビシリーズ『ダラス』のビデオを所有して いて、それがその店及び地区の呼び名になっているというも の。村といっても一面がゴミの集積場で、住民たちはその中 からペットボトルなどを回収して現金収入を得ているが、そ の価格は地元の顔役に搾取されている。また、回収には子供 も動員されるが、そこにはいろいろな危険も潜んでいる。 主人公は、子供の頃に母親と共にその村を脱出し、外部で教 育を受け成功したが、その村には子供の頃に将来を誓いあっ た女性もいた。そして主人公は、村に残って生涯を閉じた父 親の葬儀を行うために戻ってきたが、村の現状を目の当りに してしまう。 ジャーナリストの評価はかなり高かったようだが、僕として は3年前の映画祭で上映された『シティ・オブ・ゴッド』の 衝撃が大きかっただけに、この程度ではという感じもした。
『ヒトラー・カンタータ』 ドキュメンタリー作品などで多くの受賞歴を持つという女性 監督ユッタ・ブルックナーの作品。 ナチス華やかな頃のドイツを舞台に、ユダヤ人の妻を持ちな がら作曲家として認められ、忠誠を試す意味でもある総統の 誕生日に演奏されるカンタータを依頼された作曲家と、親衛 隊々員の婚約者の依頼で助手としてその作曲家に付き添い、 監視をすることになったヒトラーに心酔する女性音楽家を巡 るドラマ。 これにベルリンの撮影所でのナチス宣伝映画の製作の話や、 その裏で行われているポルノ映画の制作の話、さらに人種の 証明を巡る話なども交錯するが、正直に言ってどの話も中途 半端というか、全体のまとまりがない。特に、ポルノに出演 する女性音楽家に瓜二つの女優の話などは、これだけでは何 のためにあるのかよく判らないほどだ。 もっとも当時のドイツの状況などは、戦後生まれの日本人の 僕には判らなくて当然なのかも知れないが、それにしてもピ ンと来ない作品だった。ただし、劇中で宣伝映画の残りフィ ルムで作られたとされるパロディ映画は上出来で、そこだけ は感心して見ていた。
『レター・オブ・ファイアー』 スリランカで1992年から活動している映画監督アソカ・ハダ ガマの作品。 父親は元検事、母親も判事という名門一家の一人息子が犯し た殺人事件を巡る物語。母親は、判事として警察に逮捕を指 示する一方、偶然息子を保護してしまった警備員には、隠し 続けることを依頼する。しかしこの不自然な行動の陰には、 一家に隠された大きな秘密があった。 実は、上映の際に配られた資料の中の監督のコメントに飛ん でもないspoilerがあって、僕はそれが原因となる民族的な 因習のようなものが描かれるものと思い込んでいた。ところ が映画の内容は、そのコメントで語られた内容そのものが映 画の結論というかオチになるもので、ちょっと映画の内容を 見間違えてしまった感じがするものだ。 従って、それを知らずに見たらもっと衝撃があったのかも知 れないが、それを除くと、ただのエキゾチックな物語という 感じだけのものになってしまった。もっともそれがオチだと 知った瞬間の衝撃は多少あったが… スリランカの作品では、3年前の『風の中の鳥』の印象が強 かっただけに、社会性を伴わない作品にはそれ以上のものは 感じられなかった。後半の母親の狂乱ぶりなども唐突で、映 画としてのまとまりも今一つの感じがした。
『ドジョウも魚である』 中国の庶民派監督として知られるヤン・チャーヨウの最新作 で、映画祭での上映がワールドプレミアとなった作品。映画 祭では最優秀芸術貢献賞を受賞した。 北京での紫禁城修復工事に従事する農村からの出稼ぎ労働者 の生活を描いた作品。ドジョウ(泥鰍)は、離婚して双子の 幼い娘を連れて出稼ぎに来た女性の名前であり、彼女と同じ 姓を持つ出稼ぎ手配師との交流を中心に物語は進められる。 無賃乗車なのか貨物列車で到着し、暗闇の中を逃げるように 移動する人々。そんな不正も厭わず首都を目指し、そこでの 生活が夢。しかし首都での生活も一朝一夕にうまく行くもの ではない。でも人々には夢があり、その夢に向かって突き進 んで行く勇気も持ち合わせている。 僕の両親も、戦後に農村から上京し、闇相場を利用してそれ なりの成功は納めたことや、いろいろな苦労話なども聞かさ れて来たから、この物語の内容にはそれなりの共感を持つ。 だから評価が甘いのかも知れないが、僕としてはこの作品が 今年のグランプリだったと思っているものだ。 僕の両親の時代の日本も、多分この映画のように貧しかった が、それでも人々は夢を追って活気に溢れていた時代だった のだろうと思う。そんな時代を見事に歌い挙げた作品で、特 に結末のシーンでは、久しぶりにスクリーンの前で落涙させ られてしまったものだ。 また映画の自体も、シーンを描き切らずにその直前で止める 手法だが、それでいて独り善がりになっていない構成の巧み さや、2人のドジョウを演じた男優女優の駆け引きの演技の うまさにも心を奪われた。なお、撮影は実際の紫禁城修復工 事の現場でも行われているということだ。
『落第』 チリでMTVのナヴィゲーターなども務める22歳の新人監督 ニコラス・ロペスの作品。僕は参加しなかったが、一般上映 後のQ&Aでは、『スターシップ・トゥルーパーズ』のバッ ヂや『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のネクタイを付 けて登場するなど、オタクぶりを発揮していたそうだ。 厳しい現実からの逃避のためだけにコミックスを読みふける 若者が、転校してきた美女の同級生を巡って一躍奮闘を始め る。そこに彼自身の夢やいろいろな思いが渾然一体となって シュールでスラップスティックな世界が展開する。 三池崇史や宮崎駿、大友克洋、鳥山明が好きという日本びい きの監督だそうで、そんな監督が日本に招待されただけでも 大変ということになるが、映画の出来は正直に言って大した ことはない。勿論、僕みたいな人間は彼の言いたかったこと は理解するし、そういう評価はできるのだが、いくらなんで も映画としての完成度は低いものだった。
『恋愛の目的』 2002年の韓国製SF映画『ナチュラル・シティ』で助監督を 務めたハン・ジェリムの作品。03年に本作の脚本が受賞し、 今年その映画化で監督デビューしたということだ。 遊びのセックスの方が本当の恋より良いとうそぶく高校教師 と、彼の助手となったちょっと訳ありの教育実習生の恋の駆 け引きを描いた作品。 韓国という国は、不倫に関して厳しい罰則があったり、儒教 国として性に関しては厳格な社会だと思っていたが、数年前 に映画祭で見た『オー!スジョン』以来、そのイメージはが らがらと崩れてしまった。この作品もそんな最近の韓国の風 俗を描いたもののようだが、正直に言って映画の前半は話の 展開もいい加減だし、ちょっといらいらしたものだ。 しかし結末に至って何と言うか、ちょっと不思議な感覚にも されたもので、その意味では映画の全体として納得はできた のだが、やはり前半の展開は途中で見る気を失せさせる感じ もしたものだ。それが狙いなのかも知れないが、だとしたら ちょっとやり過ぎというところだろう。映画はもう少し観客 のことも考えて作ってほしいものだ。
『サングレ』 2002年にロサンゼルス市立大学映画科卒というアマ・エスカ ランテ監督作品。テレビを見るのとセックスをするのが日々 の生活という男女の姿を描いた作品。監督は、ドラマを描く のではなく、ただ人々を観察するだけで面白い、という感覚 で撮った作品ということだが… 主人公は前妻と別れ、別の女と同棲しているが、その生活ぶ りは、仕事の後はテレビを見るかセックスをするかという何 とも非生産的なもの。そこに、前妻との間に生まれた娘から 助けを求める電話が掛かってくる。しかし嫉妬深い同棲者と の間のトラブルを嫌う主人公は、娘をひとまずホテルに住ま わせることにするが… はっきり言って、上記の監督のコメント通りなら、そんなも のは映画でもなんでもなくて、素人にヴィデオカメラでも与 えればできてしまうものだろう。それを敢えて映画にするの だから、それなりの何かがあると期待したが、何も得られな い作品だった。特に後半が突然不条理劇になってしまうのだ が、僕には理解できない宗教的な暗示でもあるのかどうか、 そうでないなら全く無意味な作品としか言いようがない。 今年はちょっとこの手の作品が目立つようにも感じた。
『シレンティウム』 1991年の東京国際映画祭のヤングシネマ部門でブロンズ賞を 受賞したウォルフガング・ムルンベルガー監督の新作。ザル ツブルグを舞台に、音楽祭を主催するカソリック教会のスキ ャンダルを巡る物語。 監督脚本のムルンベルガーと原作脚本のウォルフ・ハース、 脚本主演のヨセフ・ハダーのトリオはすでにヒット作もある 顔ぶれということで、本作はその続編という位置付けかも知 れないが、いずれにしても手慣れたサスペンススリラーとい う感じの作品だ。 映画で言うとジャン・レノ主演の『クリムゾン・リバー』に も似た感じで、古びた町での教会の権力に隠された秘密が暴 露されるという展開。そこにはアクションもあり、ユーモア もありで完成度は高い。日本で一般公開できるかというと、 俳優その他の知名度から難しいところはあるが、こういう作 品を映画祭で見せてもらえるのが、僕にとっては一番うれし いことと言える。普通に楽しめる作品だった。
『13人のテーブル』 1946年生まれで、1984年には監督デビューをしているエンリ コ・オルドイーニの作品。トスカーナ地方の古びた別荘を舞 台に、その別荘で青春時代を過ごした主人公がその思い出を 語る物語。 時代は1960年代。3人兄弟の末っ子の主人公はちょっと遅手 で、周囲からはゲイかも知れないと疑われている。勿論そん なことはないのだが、ある日、彼らが暮らすトスカーナの家 に母親の友人の娘が休暇を過ごしにやってきたことから、い ろいろな出来事が起こり始める。3兄弟は彼女と寝ることで 賭けをし、一方、同居している従兄妹がそれに絡んで… 現在の主人公をジャンカルロ・ジャンニーニが演じていて、 物語自体は多分監督自身の青春時代を描いたものだと思われ るが、僕はもう少し年下とは言えほぼ同世代で、その物語は 僕にとっても心地よいものだった。 また、映画のテクニックも、現代の風景からカメラがパンす るとそのまま過去になったり、現代と過去の会話が微妙にシ ンクロしたりと、いろいろなことをしてくれて楽しめた。さ すがにベテランの仕事という感じの作品だった。
『3日間のアナーキー』 1953年生まれで大学の映画化で教鞭も取っているというヴィ ート・ザッカリオ監督の作品。1943年7月のアメリカ軍のシ チリア上陸から、実際にアメリカ軍が人々の前にやってくる までの無政府状態の3日間を描いたドラマ。 日本の終戦は、上層部が勝手に白旗を揚げてしまったものだ から、この映画のような混乱はなかったと思われるが、アメ リカ軍が侵攻したイタリアでは、ファシズムからの開放と未 来への希望で、人々の間にいろいろな夢が渦巻いたようだ。 この映画はそうした時代を描いている。 この映画では上映後のQ&Aにも参加したが、監督の説明で は3日間というのは象徴的なもので、実際は戦後の1950年代 頃までに起きたことが凝縮して描かれているということだっ た。そうしてみるとこの映画には、共産主義への憧れやアメ リカ軍への幻滅、また農地開放やそれに対する闘争なども描 かれ、実に判りやすく戦後の混乱が描かれているという感じ だった。 そこに性の開放までも盛り込まれたのは、ちょっと日本人の 感覚と違うかなとも思えるが、まあ日本でももっと後までの 歴史で考えればこうなのかも知れない。その辺も理解しない と多少混乱する物語だが、戦後を戯画化した作品としては、 中々良くできているという感じの映画ではあった。
『雪に願うこと』 北海道ばんえい競馬を背景にした根岸吉太郎監督作品。映画 祭ではグランプリ、監督、主演男優と観客賞も受賞した。な お、日本映画の大賞受賞は、第1回の相米慎二監督『台風ク ラブ』以来となるが、当時はヤングシネマ賞だったもので、 グランプリ受賞は今回が初めてとなる。 東京に出てIT関連の事業で成功した弟。しかし詐欺まがい の被害にあって事業も家族も失い、北海道で地道にばんえい 競馬の厩舎を経営する兄の元へ帰ってくる。そんな兄弟には 確執もあるが、もの言わぬ馬を相手にした作業を続ける内に 心も解け行く。 根岸作品は、昨年『透光の樹』で感激したばかりだし、この 作品が今回のコンペティション作品の中でも、その完成度で 群を抜いていたことは確かと言える。ただ僕としては、もっ と粗削りで未完成な作品が好みなもので、その点でだけ多少 不満が残るものだ。しかし、だからと言ってこの受賞が素晴 らしいものであることに変わりはなく、またこの受賞によっ て監督が海外でも認められれば、さらにそれは素晴らしいこ とと言える。おめでとうございます。
『私たち』 一昨年の本映画祭でアジア映画賞の特別賞を受賞したマー・ リーウェン監督の新作。老婦人役のジン・ヤーチンが主演女 優賞を受賞した。 地方から上京してきた女子学生と、町中に古家を構える老婦 人。その古家の一角に半ば強引に引っ越した女子学生は、現 代っ子ぶりを発揮してことごとく老婦人と衝突するが…傍若 無人な若者と強かな老人。その対立の図式は今までにもいろ いろの映画で描かれたと思うが、そんな中でこの作品はどち らの言い分もそれなりに納得できて良い作品だったと思う。 それに2人の生活をいろいろな角度から、ほぼ1年に渡って 描いているのも良い感じの作品だった。 実は僕はこの作品がグランプリでも良いと思ったものだが、 確かに映像のインパクトなどは受賞作ほどではないし、演技 から受ける感銘はこちらが勝ると思うが、映画全体の完成度 では受賞作に譲るのは仕方ないという感じだろう。まあ、そ の意味で主演女優賞というのは妥当なところかも知れない。 老若女性2人のやり取りは、間違いなく見ごたえがあった。
なお、コンペティションにはもう1本出品されているが、こ の作品に関して僕は言葉を持たないし、監督も「分かりあえ ない他者」がいることは想定しているようだから、これ以上 は何も言わない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ようやく東京国際映画祭が終ったところだが、そこで見た 作品の紹介はもう少し後に書かせてもらうことにして、今回 はその前の10月20日に行われたティム・バートン=『コープ スブライド』の記者会見の報告から。バートンは9月4日に ジョニー・デップと共に『チャーリーとチョコレート工場』 の記者会見を行っており、1月半ぶりの会見となった。 そこで今回も質問をさせてもらったが、今回はジョニー・ デップと、もう1人僕が気になったマイクル・ゴーフを声優 に使った理由を聞いてみた。ゴーフは、バートンが1989年の 『バットマン』でアルフレッド役に起用し、その後1997年の 『バットマン&ロビン』まで、監督主演が替っても一貫して その役を演じたが、今年の新生『バットマン・ビギンズ』で はマイクル・ケインがその役を演じていたものだ。 そしてその回答は、デップに関しては、「ヘレナ・ボナム =カーター、クリストファー・リーらと共に、『チャーリー …』にも出演していたから」というもので、実際は、「同じ 俳優と昼間と夜に別々の仕事をするのは、かなりcrazyな状 況だったが、convenientだった」ということだ。 一方、ゴーフに関しては、実は通訳の人はその名前を知ら なかったようだが、僕が名前を言うなりバートンはにこりと してくれたもので、「クリストファー・リーとピーター・ク ッシング、それにマイクル・ゴーフは、ハマー映画時代から の自分にとってヒーローだった。だから起用した」というこ とだ。僕としては、元々アルフレッド役に起用したことにつ いても聞きたかったものだが、ちょうどそれについての答え にもなっていた感じで、うれしい回答だった。 この他の質問に対しても、撮影中にデップと共に現在ロン ドンに居住しているレイ・ハリーハウゼンの家を訪ねたこと や、そのハリーハウゼンが後日スタジオを訪れて、その日は アニメーターたちが大騒ぎになって、1日撮影が進まなかっ たことを話したり、さらに、ブライドに蜘蛛が着付けをする シーンは、ディズニーの作品で小動物たちが着付けを手伝う シーンへのオマージュのつもりだなど、かなりマニアックな 話題が多く飛び出した。 また、会見中のバートンの横には撮影に使用した人形と、 日本で販売用に作られたキャラクター人形が置かれていたの だが、最初に「人形の顔が蒼いのは時差ボケのせいだ」と言 ったり、後では、何度か日本製のキャラクター人形が倒れる 度に係の人が立て直すのを見て、「彼らが出演していたら、 今頃はまだ撮影中だっただろう」とジョークを飛ばすなど、 バートンにとっても僕らにとっても楽しい会見になった。 次回作の計画などは聞けなかったが、人形アニメーション については、また適当な題材があれば続けていきたいと言う ことで、それを将来への展望としてこの報告としたい。 * * さて、以下は定例の製作ニュースだが、最初は続報と言う より訂正に近いもので、前回報告した“Deja Vu”に関し、 トニー・スコット監督の降板が撤回されることになった。 前回の情報では、撮影を予定していたニューオルリンズの 市街がハリケーン・カタリーナの直撃で破壊されたために撮 影の延期を余儀なくされ、このため監督とのスケジュール調 整がつかなくなった…ということだったが、実は降板の理由 は、製作者側から撮影地をサンフランシスコ若しくはシアト ルに移すという案が出て、それにスコットが難色を示したこ とも一因だったようだ。 しかし、代替ロケ地をただちに用意するのは難しく、主演 のデンゼル・ワシントンが認める監督を見つけるのも困難。 また、元々が税金対策で決めたルイジアナ州を離れるのは、 製作資金の面でも問題がある。さらに市からの要請もあって ニューオルリンズで撮影を行うことがほぼ確認され、これに よりスコットも復帰を了承したというものだ。ただし、撮影 の予定されているドックとフェリーの発着場などは未だ修復 が済んでおらず、またホテルなど施設の復旧もまだで、この ため撮影はさらに遅れて、来年2月からになる模様だ。 とは言え、これでスコット監督の許での撮影は確定したも ので、これによりワシントンとの3度目のコラボレーション が実現することになった。またこれは、ハリケーン来襲後に 当地で行われる初めてのメイジャー作品の撮影になるという ことで、地元の経済復興や、特に地元に希望を与えるという 面でも大きな期待が寄せられているようだ。 一方、スコット監督にとっては、新作“Domino”の封切り 週末の全米興行が、470万ドルで第7位とちょっと期待外れ だっただけに、前作『マイ・ボディガード』が米国内だけで 7800万ドルを稼いだワシントンとのコラボレーションは、ち ょうど良いリハビリにもなりそうで、期待されるところだ。 * * お次は、1976年に自ら脚本を書いて主演し、映画の製作自 体がアメリカンドリームだと言われたシルヴェスター・スタ ローンの“Rocky”シリーズで、1990年公開の『ロッキー5 最後のドラマ』以来の第6作が製作されることになった。 第6作の題名は“Rocky Balboa”。因にこのシリーズの題 名は、邦題では第4作に『炎の友情』と第5作に上記の副題 が付いているが、原題は最初の題名にローマ数字が附された だけだったもので、そうでない題名は今度が初めてになる。 物語は、シリーズ全作の脚本を手掛けるスタローンの発言 によると、今回は妻と死別した元チャンピオンのロッキー・ バルボアが、現チャンピオンとのチャリティを兼ねたタイト ルマッチへの出場を求められ、最初は断るものの、やがて勝 利のためはでなく、自らの闘いの人生を完結させるために出 場を決意する。そして、計算されたテクニックで勝利を掴み 取る(?)というもの。 主演はスタローンで、相手役のチャンピオンには前ヘヴィ 級チャンピオンのロイ・ジョーンズJr.に出演交渉が行われ ているということだ。また共演者には、第1作から連続のバ ート・ヤングの名前が挙がっているが、他には無名の新人を 起用するとしている。しかしここに、名脇役バージェス・メ レディスの名前が無いことは残念だ。さらに音楽は、第1作 からのビル・コンティが担当することになっている。 スタローンは脚本の他、第2~4作に続いて監督も担当す る予定で、撮影は2006年の第1四半期にフィラデルフィアと ラスヴェガスに行われることになっているが、公開は未定。 なおこのシリーズは、元はMGMで製作されていたもので、 今回は同社とコロムビア、それにリヴォルーションの共同製 作配給となるものだ。 ところでスタローンの映画出演は、2003年の『スパイキッ ズ3-D』が最後となるようだが、その一方で、テレビでは ボクシングチャンピオンを目指す視聴者参加番組の製作総指 揮を務めたりもしていて、かなり多忙だったようだ。 そしてその中で、今回の計画も進めて来たものだが、実は 4年前にこの計画を立上げたときにはスタジオは余り良い顔 をしなかったそうだ。しかも、その後にMGMとコロムビア が一緒になって2社相手の交渉は困難を極めたとしている。 しかし今回は第1作の精神に戻って執筆された脚本が両社の 賛同を得られたことと、特にリヴォルーション社長ジョー・ ロスが間に入って両社をまとめてくれたことにも感謝してい るということだ。 なおスタローンは、今年6月1日付の第88回で紹介したよ うに、もう一つの当り役“Rambo”シリーズの第4作の計画 も発表しているが、こちらはミレニアム・フィルムスとエメ ット/ファーラの製作で、最近の報告ではまだ脚本が初期段 階にあるということだ。また、ロバート・ダウニーJrを主演 に迎えて、アメリカの作家エドガー・アラン・ポーの伝記映 画“Poe”の脚本と監督も、同じくミレニアムで予定してい るが、現状ではこちらも少し遅れることになりそうだ。 * * 続いて、2006年8月11日の全米公開が予定されているティ ム・アレン主演のスーパーヒーロー・コメディ“The Return of Zoom”(Zoom's Academy for the Super Gifted 改題) の原作者ジェイスン・レスコーの未出版の新作“Tales from the Wishworks Factory”の映画化権が、6桁($)でユニ ヴァーサルと契約された。 2003年12月1日付の第52回などで紹介した来年公開の作品 は、以前の紹介から内容がかなり方向転換され、映画化では 引退してスーパーヒーロー養成学校を開校している元ヒーロ ーが、教え子たちを襲う悪の手に再度立ち上がるが…という ものになっているようだ。実はこの作品に関しては、フォッ クスが“X-Men”に似過ぎているとして公開の差し止めを求 める訴訟を起こし、その時は原作の内容では違うだろうと思 ったものだが、こうしてみるとちょっと似ているかも…とい う感じだ。ただしこの訴訟は却下されたようだが。 これに対して、今回の新作はさらにファンタスティックな 内容で、その物語は、3歳から10歳までの子供の誕生日の夢 を叶えてくれる組織 Wishworks Factoryと、これに対抗する 悪の組織Curseworksとの因縁の闘いを描いたもの。つまり、 1993年の『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』で描かれた クリスマスとハロウィーンの闘いが、永続的に行われている という物語のようだ。そしてこの原作の出版社は未定なもの の、レスコーはシリーズ化も目指しているということで、映 画化もシリーズ化が期待されているものだ。 また、今回の映画化は、レスコー作品の映画化を仕切って いるアンダーグラウンド・フィルムスが直接製作を行うもの で、レスコーも製作総指揮を担当するなど、原作者自身がか なり深く関わることになりそうだ。因にアンダーグラウンド は“Zoom”の製作にも参加しているが、その他に“License to Wed”という作品をワーナーで、また“Black Autumm”を フォックス2000で映画化を進めているということだ。 * * 前の情報でレスコーの映画化された原作は、元々は若年向 けのファンタシーだったはずだが、続いても若年向けのお話 で、ディズニーと製作者のジェリー・ブラッカイマーから、 アーメット・ザッパという新人作家によるこちらも未出版の 小説“Monstrous Memoirs of a Mighty McFearless”の映画 化権を150万ドルで獲得したことが発表された。 この小説は、口喧嘩の絶えない幼い兄妹が、自分たちの家 系が代々凶悪なモンスターとの闘いを続けてきた血筋である ことを知り、やがて2人は、協力して史上最悪の悪の帝王と の闘いに挑むことになるというもの。原作本は来年8月ラン ダムハウス社から、ザッパ自身の描いた300枚のフルカラー イラストを添えてハードカバーで出版されるということだ。 そしてこの映画化権は、ザッパが原稿を書き上げた当日の 10月11日の月曜日に最初にワーナーに情報が流され、同社は 直ちに獲得に乗り出したのだが、作家の女性エージェントは 他社へのオファーも希望、元フォックスの最高責任者だった 夫に相談して、彼からパラマウント傘下のプランBやディズ ニーに情報が流された。 これに対してディズニーの担当者は、原稿を手に入れるや その晩の内に読み終えて、翌朝にはブエナヴィスタのトップ に獲得を勧めたということだ。一方その頃には、ニューヨー クの出版エージェントからも情報が流され始め、それをキャ ッチしたブラッカイマーが獲得を指示。これによる3社の争 奪戦の末、同週金曜日の10月14日に、ディズニー+ブラッカ イマーとの契約が行われたものだ。 なおザッパは、“200 Motels”などの映画も監督したこと のある伝説のロックミュージシャン、故フランク・ザッパの 末息子ということだが、本人は「自分では子供たちのために 書いたつもりだったが、もっと成長した人たちも楽しんでく れたようだ」と思わぬ展開に驚いていたようだ。これだけの 大人たちを熱狂させた物語がどんなものか、早く知りたいと ころだが、因に原作を出版するランダムハウス社は、2003年 に8ページの概要だけで出版の契約を結んだということで、 最初からかなりの注目作だったようだ。 * * リメイクの話題で、1954年に製作されたユニヴァーサル・ ホラーの一篇“Creature From the Black Lagoon”(大アマ ゾンの半魚人)の再映画化が、今春公開された『サハラ』の ブレック・アイスナー監督で行われることになった。 オリジナルは、『縮み行く人間』などの作品でも知られる ジャック・アーノルドの監督で、元々は3Dで製作された作 品だが、その効果が無くても素晴らしいとの高評価が与えら れているものだ。また今回の監督を担当するアイスナーも、 「オリジナル版は子供の頃に、自分の最も好きな作品だった と記憶している。この映画の持つ1950年代の象徴的なイメー ジに、さらに現代的なSFの感性を加えて、『エイリアン』 や、ジョン・カーペンター版の『遊星からの物体X』のよう な作品にしたい」と抱負を語っている。 物語は、謎の半魚人(Gill Man)を求めてアマゾンの奥地 に向かった探検隊を襲う恐怖を描いたもので、それまでは、 ドラキュラやフランケンシュタイン、狼男など、専ら中世の 町や古城を舞台に描かれていたユニヴァーサル・ホラーが、 一気にその世界を拡大した作品とも言われているようだ。 なおリメイクの製作と脚本は、オリジナル版の脚本を手掛 けたアーサー・A・ロスの息子で、映画製作者のゲイリー・ ロスが担当。彼が書き上げた現代版の脚本から、撮影はアメ リカ国内と、中米若しくは南米で行う計画ということだ。 またアイスナーは、前ディズニー社代表の息子ということ だが、『サハラ』以前には、テレビでスピルバーグ製作によ る『テイクン』や“The Invisible Man”などの演出も手掛 けており、この手の作品にはベテランと言えそうだ。まあ前 作でも、かなり荒っぽい内容を、それなりに纏め上げていた 感じはしているので、比較的きっちりとした演出の求められ るホラー映画の監督には向いているような感じもする。それ に監督が挙げている2作品も、ホラーとしての評価が高い作 品で、その意味ではよく判っている人というところだろう。 映画の完成を期待して待ちたい。 因にオリジナルからは、“Revenge of the Creature”と “The Creature Walks Among Us”という2本の続編も作ら れているものだ。 * * 残量も少ないので、後半は短くニュースを纏めていこう。 『呪怨』ハリウッド版に主演のサラ・ミッシェル・ゲラー と、『ターミナル』などに出演のディエゴ・ルナ、それに渡 辺謙という異色顔合せのサスペンスドラマを、1月にメキシ コシティで撮影することが発表された。 この作品は、“The Air I Breathe”と題されているもの で、物語は、中国の故事に準えた4つの感情=幸福、歓喜、 悲嘆、恋愛を描く犯罪ドラマとされている。脚本は、監督も 務めるイエホ・リーと、ボブ・ディロサが執筆。メキシコ系 の芸術活動を支援しているエミリオ・ディエス・バローソが 新たに設立したナラ・フィルムスと、『メイド・イン・マン ハッタン』などを手掛ける製作者のポール・シーフが製作す る。なお製作費は1000万ドル以下の予定だが、ナラ社がこれ 以外にも進めている映画製作の中では高額の作品のようだ。 またシーフは本来はソニー傘下の製作者だが、この作品は別 枠と発表されている。 * * クリス・ヴァン=オールズバーグ原作のファンタシー作品 『ザスーラ』が今秋公開されるジョン・ファヴロウ監督が、 オリジナル脚本による長編CGIアニメーションをソニー・ ピクチャー・アニメーション(SPA)で計画している。 この作品は、“Neanderthals”と題されたもので、内容は 極秘扱いとされているが、2003年の“Elf”などファンタシ ー得意の監督には同傾向の内容が期待されているものだ。因 にファヴロウは、SPAで2006年秋の公開が予定されている 長編CGIアニメーションの第1作“Open Season”では、 登場キャラクターの声の出演をしているということで、その 関係から今回の計画が進められたようだ。ただしSPAは、 2007年夏公開向けには“Surf's Up”の製作をすでに進めて おり、今回の計画はそれより後の作品となる。 * * 『ヘルボーイ』などの俳優ロン・パールマンが、アニメー ションで製作される“Conan: Red Nails”の主人公コナンの 声を担当することが発表された。 この計画は、カリフォルニアに本拠を置くソードプレイ・ エンターテインメントという会社が進めているもので、2006 年以降に2Dまたは3Dのアニメーションでロバート・E・ ハワードが描いたコナンの物語を長編作品で発表する計画と いうことだ。因に、ハワードのコナンが長編アニメーション になるのは今回が初めてのことだそうだ。なお本作は、アメ リカ国内ではニューラインから直接DVDで販売されること になるようだが、海外配給はシネマ・マネージメントという 会社が権利を所有しており、同社ではカンヌ映画祭への出品 も考えているということだ。『スパイダー・マン』や『ゴー ストバスターズ』『ロボコップ』などのアニメーションシリ ーズを手掛けるベテランのヴィクター・ダル・シェリが監督 を担当、コミックス作家のスティーヴ・ゴールドが脚本を執 筆し、アニメ版の『Xメン』『バットマン』などのラリー・ ヒューストンがアニメーション監督を務めている。 * * 『ターミネーター』“Aeron Flux”などの製作者ゲイル・ アン・ハードが、トップカウ・コミックスから出版されてい る“Magdalena”の映画化を進めることが発表された。 この作品は、若い女性の主人公が、自分がマグダラのマリ アの血を引く女性戦士であることに気付き、超自然の悪と闘 って行く姿を描いたもので、ハードは「強い女性の主人公が 闘う姿に魅力を感じた」と製作の意図を語っている。また物 語には、多くの謎や強力なキャラクターが登場するというこ とで、「冒険物語に新たな次元を切り開くもの」だというこ とだ。なお製作は、トップカウ作品の映像化を多く手掛けて いるプラチナム・スタジオとの共同になるが、ハードとプラ チナムでは、この他にも“Atlantis Rising”などの計画も 進めているということだ。 * * 最後に、いよいよ第4作『炎のゴブレット』が公開目前の “Harry Potter”シリーズで、第5作の撮影もイギリスで行 われることが発表された。このシリーズの撮影は、今までは 全作がロンドンのパインウッド撮影所で行われていたものだ が、今回は“Casino Royale”の撮影が重なるために経費の 高いイギリスから海外に流出するのではないかと言われてい たようだ。しかしワーナーは、イギリス国内での撮影を正式 に発表したもので、今回の撮影には、ロンドン北部のリヴァ ースデン撮影所が使われることになっている。そして第5作 の“Harry Potter and the Order of the Phoenix”は、英 国テレビ界のベテラン、デイヴィッド・イェーツ監督の許、 2007年の公開を目指して、来年2月に撮影開始されるという ことだ。
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