井口健二のOn the Production
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2005年01月31日(月) 最後の晩餐、クライシス・オブ・アメリカ、レーシング・ストライプス、フレンチなしあわせのみつけ方

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『最後の晩餐』                    
大石圭原作の『湘南人肉医』(角川ホラー文庫)を、『渋谷
怪談』などの福谷修の脚色、監督で映画化した作品。といっ
ても、僕は原作も読んでいないし、監督の前作も見ていない
のだが、本作に限って言えば、想いの他、真面目に作られた
佳作とも言える作品だった。              
内容は、原作の題名の通りカニバリズムをテーマにしたホラ
ー。カニバリズムも、『ハンニバル』のお陰で一般的な用語
になってしまったが、本作では主人公がカニバリズムに走る
過程が、それなりに丁寧に描かれていて面白く見られた。 
特に、原作にはないという香港のシーンは、物語の展開上も
良いキーポイントになっているし、映像にも雰囲気があって
上々の仕上がりという感じだ。なおここでは、これ以上の物
語はあえて紹介しないが、脚本は破綻を生じることもなく、
うまくまとめられていた。               
また本作では、主演が加藤雅也に匠ひびきというかなり雰囲
気のある顔合せで、他にも、三輪ひとみ、原史奈、前田綾花
といった和製ホラーの常連が脇を固め、さらにキャスト表に
は特別出演とあるから海岸のシーンだけのちょい役かと思っ
た松方弘樹は、後半かなり重要な役を演じているなど、キャ
スティングもよく頑張ったものだ。           
ただし作品は、特に映像がスタイリッシュというか、ホラー
の割りにはオドロオドロしさが薄い。恐らく監督は、本作で
はスタイリッシュに描くのが意図だったと思えるし、元々が
超常現象が出てくるようなお話ではないから、それはそれで
良いのだが…                     
ホラーと銘打つ以上は何か一発、仕掛けが欲しかった感じは
持つ。例えば『スクリーム』のドリュー・バリモアのシーン
ように、プロローグの三輪のシーンだけでも、もっとホラー
っぽくする、そんなサーヴィスがあっても良かったのではな
いかという感じだ。                  
和製ホラーは、そのショック表現の巧みさでハリウッドリメ
イクされるなどの評価を得ているが、本作はそれとは一線を
画した作品で、その点での評価はしたい。ただし、テーマは
カニバリズムで、それなりの表現はありますので、観るとき
はご注意ください。                  
公開は、東京は2月12日から渋谷のアップリンクXで行われ
るが、このキャスティングでこの出来なら、僕はもっと大き
な映画館でも行けるのではないかと感じたものだ。    
                           
『クライシス・オブ・アメリカ』            
             “The Manchurian Candidate”
1962年にジョン・フランケンハイマー監督、フランク・シナ
トラ主演で映画化(邦題・影なき狙撃者)されたロバート・
コンドン原作の再映画化。シナトラは生前、本作の再映画化
を希望していたそうで、今回の映画化には娘ティナが製作者
に名を連ねている。                  
湾岸戦争で生じた英雄的行為。偵察部隊が敵の奇襲に合い、
指揮官の大尉が意識不明、隊は全滅しかかるが、その時一人
の軍曹が反撃を開始、敵を殱滅して、部隊を安全な場所まで
誘導したという。                   
その軍曹は、帰国後は英雄となり、受賞者1000人に満たない
という名誉勲章を受け、血筋もあって政界に進出、ついには
若くして副大統領の座を狙うまでになる。しかし名誉勲章の
推薦状にもサインした大尉は、伝えられる戦闘よりもリアル
な悪夢に悩まされていた。               
オリジナルは朝鮮戦争だったようだが、リメイクは湾岸戦争
を背景に、さもありそうな物語が展開する。まあ背景はヴィ
エトナムでも、パナマでも良かった訳で、今イラクで起きて
いてもおかしくはない。こうしてみるとアメリカは、実によ
く戦争をしている国だ。                
ただ、オリジナルはもっと単純に洗脳の問題を扱っていたは
ずだが、そこにインプラントチップのアイデアを持ち込んだ
のはちょっとやりすぎの感じもする。現代技術の恐怖を盛り
込みたい気持ちは解かるが、ちょっと絵空事になってしまう
心配が生じた。                    
もちろんこのような技術が研究されていることは事実なのだ
ろうし、ジョナサン・デミ監督が全くの絵空事を描く監督で
ないことは承知しているが、普通の観客がこれをどう捉える
かは、多少微妙なところだろう。            
しかし微妙とは言えこのような問題(conspiracy theory?)
を、ここまで大真面目に描けるのも、デミ監督の魅力という
ところで、フランケンハイマー監督の跡を継ぐ資格は充分に
あると言えそうだ。                  
なお、オリジナルではアンジェラ・ランズベリーがオスカー
候補になった母親役を、今回はメリル・ストリープが演じて
いるが、残念ながら今回は候補にはなれなかったようだ。 
                           
『レーシング・ストライプス』“Racing Stripes”    
競争馬を目指すシマウマの活躍を描く動物ファンタシー。 
主人公は、嵐の夜に事故で混乱したサーカス団に置き去りに
されたシマウマの子供。これを保護したのは、ケンタッキー
州で牧場を営むやめもの男。そしてシマウマは、男の一人娘
の手で育てられるが、いつしか丘から見える競馬場で走るこ
とを夢見るようになる。                
実は男は、何頭もの優秀な競争馬を育てた調教師だったが、
騎手だった妻を競馬中の事故で亡くし、以来調教を止めて、
娘にも乗馬を禁じていた。しかし…           
これに、『夢見る小豚ベイブ』以来お馴染みとなった動物に
喋らせるCGI技術を使い、気位の高いサラブレッドのいじ
めに合ったりして、何度も挫折しそうになる主人公が、大レ
ースに挑戦して行く姿を描くものだ。          
そして今回は、主人公のシマウマの声を、『エージェント・
コーディ』に主演したフランキー・ムニッズが演じる他、彼
を助ける牧場の動物たちの声を、ダスティン・ホフマン、ウ
ーピー・ゴールドバーグ、マイクル・クラーク=ダンカンら
が担当して、雰囲気を盛り上げている。         
またコメディリリーフ的な蠅のコンビには、テレビでの実績
のあるコメディアンが声を充てていて、かなりどぎついギャ
グも飛び出してくる。                 
サラブレッドとシマウマが本当に競争してどちらが勝つかは
知らないが、ただ走るだけの能力しかないシマウマを競争馬
に仕上げて行く訓練の様子や、また限界まで来ている競技者
を最後に奮い立たせるテクニックなど、それなりに納得でき
るシーンもあって楽しめた。              
                           
『フレンチなしあわせのみつけ方』           
   “Ils se marierent et eurent beaucoup d'enfants”
2001年に、実生活の妻である女優シャルロット・ゲインズブ
ールを主人公に『僕の妻はシャルロット・ゲインズブール』
を発表した俳優監督のイヴァン・アタルが、再びゲインズブ
ールを主演に起用して発表した作品。          
といっても本作は、前作の続編という訳ではなく、パリに住
む3人の男性と、その妻や愛人たちが繰り広げる人間模様を
スケッチ風に綴ったもの。日本のテレビ風に言えば、トレン
ディドラマといった感じの、他愛もない恋愛物語が進むもの
だ。                         
まあ基本的にはそれ以上でも、それ以下でもないもので、フ
ランスではベスト10に入る興行を記録しているようだが、観
客にとってはある意味の憧れもあるかも知れないし、その辺
をうまく捉えた作品というところだろう。        
ただし、作品にはちょっと仕掛けがあって、ゲインズブール
扮するガブリエルの憧れの男性役で、今年のオスカーに2年
連続で候補になっているハリウッドスターが登場する。彼の
名前なキャスト表にも出てこないが、物語の最後で1枚テロ
ップが出るのは面白い。                
他に、アタルの演じる夫の母親役でアヌーク・エーメも出演
している。                      



2005年01月30日(日) ロング・エンゲージメント、エターナル・サンシャイン、レクイエム、ライトニング・イン・ア・ボトル、アイ・アム・デビッド、コーラス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ロング・エンゲージメント』             
         “Un long diamanche de fiancailles”
『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督と、主演女優の
オドレイ・トトゥが再びコンビを組んで繰り広げる歴史ロマ
ン。                         
第1次世界大戦を背景に、戦場での死が伝えられた恋人を、
「彼に何かあれば、私には分かるはず」という直感だけを信
じて、恋人の後を追い続けた女性の物語。        
ドイツ軍と対峙するフランス軍最前線の塹壕。その中を5人
の兵士が連行されて行く。彼らは戦場を逃れようと自らの身
体を傷つけ、その罪で死刑を宣告されているのだ。その5人
の中に、若い兵士マネクも含まれていた。        
しかし刑の執行を嫌った塹濠の隊長は、彼らをドイツ軍との
中立地帯に追い出すことにする。そこは両軍の砲弾が飛び交
い、誰に目にも生きたまま脱出できる場所ではなかった。そ
してその中で、次々倒れる彼らの姿が目撃される。    
マチルドは幼い頃に罹ったポリオのために片足が少し不自由
だった。そして内向的で、友達もいなかった。そんな彼女に
マネクは声を掛けた。やがて2人は愛し合うようになり、将
来を誓い合う。しかしそんな2人の間を戦争が引き裂く。 
そして戦争が終って3年後、マチルドにマネクが死んだとい
う情報が伝えられる。しかし彼女には、マネクが死んでいな
いという直感があった。彼女は探偵を雇い、弁護士を使って
マネクの行方を追い求める。それは、戦場で起きた真実を暴
くことでもあった。                  
映画を見ていて、『コールド・マウンテン』を思い出した。
あの作品も、恋人が生きていると信じて疑わなかった女性の
物語だったが、ニコール・キッドマンが演じた主人公がただ
待ち続けたのに対して、トトゥの演じるマチルドは積極的に
彼を追い求める。この行動力が何とも素晴らしかった。  
そして戦場の描き方も、その残虐さと狂気を見事に描き出し
ており、この点でも『コールド…』に通じるものを感じた。
また、宣伝には使わないようだがジョディ・フォスターの演
じる兵士の妻のエピソードにも、戦争の悲劇が見事に描かれ
ていた。                       
ただし、『コールド…』が映画全体として文芸の香り高く描
いているのに対して、本作はトトゥの個性もあり、時にはユ
ーモアも交えて絶妙に描き出す。僕は『コールド…』も高く
評価するが、それ以上に、この作品の描き方には脱帽してし
まったものだ。                    
セバスチャン・ジャプリゾの原作はミステリーとして発表さ
れたもののようだ。本作でも謎解きの面白さなども描かれて
はいるが、この映画化には、それとは別のちょっと不思議な
魅力が生まれていた。                 
                           
『エターナル・サンシャイン』             
       “Eternal Sunshine of the Spotless Mind”
人気脚本家のチャーリー・カウフマンが、2001年に『ヒュー
マンネイチュア』で組んだ映像作家ミシェル・ゴンドリーを
再び監督に迎えた作品。ただし計画は、『ヒューマン…』よ
り先にあったようだ。                 
恋人と別れるとき、その恋人の記憶を全て消し去ることが出
来たら…人の記憶の中から特定の条件のものだけを消去する
という医療技術を背景に、ジム・キャリーとケイト・ウィン
スレットが男女の愛憎を演じる物語。          
ある朝、目覚めの悪かったキャリー扮する主人公は、通勤の
ための乗車駅から逆方向の電車に乗り、人影もまばらな海岸
を訪れる。そこで1人の女性(ウィンスレット)と出会い、
2人は思いもかけず意気投合してしまうのだが…     
上記の設定でこの発端、これだけで物語は大方読めてしまい
そうなものだが、これが一筋縄では行かないのがカウフマン
の魅力だ。といっても、別段トリッキーな物語ではない。実
にありそうな物語が、ちょっと異常な設定の中で見事に進め
られる。                       
カウフマンの脚本では、いつも設定にオーソドックスな映画
からはかけ離れたものが提示されるが、その基本にあるのは
人への信頼のように感じる。見た目は奇を衒ったような展開
の物語だけれど、大元がいつも暖かいと感じられるのだ。 
キルスティン・ダンストのサイドストーリーも良いし、さら
にイライジャ・ウッドの絡みも納得できるものだった。そし
てこれらが絶妙のバランスで描かれる。すでにゴールデング
ローブの脚本賞を受賞したのも分かるところだ。     
その他、思わず頬が緩むような描写(待合室に注目)なども
あり、1時間47分が短く感じられる作品だった。     
                           
『レクイエム』“Wake of Death”            
ウェズリー・スナイプス主演の『アウト・オブ・タイム』、
スティーヴン・セガール主演の『一撃』とセットで公開され
るアクションシリーズの一篇で、本編の主演はジャン・クロ
ード・ヴァンダム。                  
舞台はロサンゼルス(ただし撮影のほとんどは南アフリカ、
ケープタウンで行われたようだ)。マルセイユを起源とする
組織のナイトクラブで用心棒をしている主人公が、惨殺され
た妻の復讐のため中国系組織の首領と対決する。     
物語をもう少し詳しく書こうと思ったのだが、どうにも展開
がいい加減で、お話がうまくまとめられなかった。まあ所詮
B級のアクション映画なのだから、これで良いのかもしれな
いが、ちょっと度が過ぎる感じだ。           
しかもよく人の死ぬお話で、これもB級のアクション映画だ
から仕方がないと言われればそれまでだが…       
ということで頭を切り替えて、B級のアクション映画の魅力
ということで考えれば、カーアクションからバイクアクショ
ン、銃撃戦に格闘戦、さらにベッドシーンと、何しろてんこ
盛り。しかも爆発に至ってはかなり大掛かりなものが仕掛け
られている。この爆破シーンについては、主演にヴァンダム
を迎えたことで製作費が上積みされたとかで、成るほどそう
いう効果もあるのかと再認識した。           
作品の全体を見ても、これだけサーヴィス精神を旺盛に描い
てくれれば、それなりの価値はあると言わざるを得ない感じ
だ。残念ながら他の2本は試写を見逃したが、このレヴェル
で揃っているなら、まあ文句を言う人は少ないだろう。  
でもこの3人は、もっとA級の作品でも活躍しそうな顔触れ
だが、最近のアクション映画はVFX全盛で、なかなかこの
人たちに陽が当たらないのかも知れない。そう言った意味で
も、これらの作品が日本で公開されたことに価値があると言
えそうだ。                      
                           
『ライトニング・イン・ア・ボトル』          
               “Lightning in a Bottle”
2003年2月7日に、ブルース誕生100年を記念してニューヨ
ークのラジオシティ・ミュージックホールで開催されたコン
サート「Salute to the Blues」の模様を収録したドキュメ
ンタリー。                      
製作総指揮というかコンサート自体の主催をマーティン・ス
コセッシが務めており、監督は『キング・アーサー』などの
アントワン・フークアが担当。オリジナルのコンサートは5
時間に及ぶものだったということだが、本作はそれを1時間
50分に凝縮。さらにアーカイヴの映像やリハーサルシーンな
ども交えて構成されている。              
映画の開幕は、楽屋にいろいろな顔触れが集まって来るとこ
ろから始まる。その様子は同窓会のようでもあり、ブルース
音楽に詳しくない自分でも、この顔触れが物凄いものである
ことが分かってくる仕組みだ。             
そしてコンサートは、ブルースのルーツである黒人音楽をさ
らに遡って西アフリカの民俗音楽でスタート、ここからディ
ープサウスのデルタと呼ばれる黒人音楽を経て、ブルースへ
と歴史がたどられて行く。そこには、会場のスクリーンにも
写し出された奴隷売買の様子や、大樹から果物のようにぶら
下がる虐殺死体など、音楽に同期した画像も挿入される。 
しかしブルースの時代に入ると、そこにはすでに故人となっ
たミュージシャンたち演奏風景や歌唱する姿が写し出され、
会場は一気に盛り上がって行く感じとなる。そして彼らの音
楽が、若いミュージシャンによって引き継がれて行く。  
最近、音楽ドキュメンタリーがいろいろ公開されているが、
ただ1回のコンサートを記録して、ここまで奥深い作品に仕
上げた作品には、見事としか言う言葉がない。      
もちろん、スコセッシの関わり方からして、最初から構成さ
れたコンサートであり映画であることは見えてくるが、それ
にしても、この作品がブルースに対する最高のサリュートで
あることは間違いない。                
                           
『アイ・アム・デビッド』“I Am David”        
1963年の北欧児童書コンクールで最優秀賞に選ばれ、その後
18カ国で翻訳されたという原作を、ニューヨーク在住のプロ
デューサーとUSC出身の監督が映画化した作品。    
1950年代のブルガリアの収容所を脱出し、自由があるという
デンマークを目指した12歳の少年の冒険を、ジム・カヴィー
ゼル、ジョアン・プロウライトらの共演で描く。     
主人公のデイヴィッドは、1950年代のブルガリアの収容所に
いた。そこでは、文化人だった両親とも引き離され、一人で
過酷な労働や日々の生活に耐えていた。頼れるのは、ヨハン
という名の青年だけ。しかしある日、その生活に耐え切れな
くなった少年は…                   
そして収容所を脱出した少年は、いろいろな人たちの助けや
妨害に合いながらも、イタリアからスイス、そしてデンマー
クへ向かって旅を続ける。               
原作は東西冷戦のさ中に発表されたもので、かなり政治的、
道徳的なものが押し付けがましい作品だそうだが、現代の映
画化ではそのような思想的なものは薄められて、いたいけな
少年の冒険の旅という描き方にされている。       
先の登場人物が良いタイミングで再登場したり、御都合主義
の点は多々あるが、まあそういう作品ということで我慢する
しかない。それは別としても、結末があっけないのも気にな
るが、これも原作がそうであるなら仕方ないところだろう。
差し当たってはお子様向けの作品なのだろうし、その意味で
は適当な謎解きがうまく挿入されていたり、純真な心で見れ
ば結末はそれなりに感動できるものになっている。試写会で
は涙している女性も見られたものだ。          
                           
『コーラス』“Les Choristes”            
アカデミー賞の外国語映画部門の候補にも挙がっているフラ
ンス映画。本国では昨年3月に公開されて、『アメリ』を抜
いて歴代第1位の興行成績を記録したようだ。      
「池の底」と名付けられた寄宿学校。そこにはいろいろな事
情で他校には行けない生徒たちが集まっていた。当然、風紀
は最悪で、校長はそれに体罰を以て応えていたが…    
そこに一人の音楽教師が新たな舎監として赴任してくる。し
かし、早々に用務員が男性が生徒のいたずらで重傷を負うな
ど、前途多難の仕事始めとなる。ところがそんなある日、彼
は生徒が先生たちの陰口を歌にしているのを耳にする。そし
て…                         
簡単に言ってしまえば、熱血教師の奮戦記という感じの作品
だが、その奮闘が生徒にコーラスを教えるという展開になる
のがうまい。しかもその生徒の主人公を演じるのが、実際に
サン・マルクという合唱団でソリストをしている少年という
のが見事だ。                     
なお劇中のコーラスは、このサン・マルク合唱団が吹き替え
ているようだが、主人公の少年は当然ながら吹き替えではな
い。そしてこの歌声が、まさに天使の歌声という感じで、そ
の上、ちょっと陰のある少年の風貌が…これは間違いなく女
性の心を捉えそうだ。                 
俳優でもあるジャック・ペランが製作と出演も兼ね、他にジ
ェラール・ジュニョ、フランソア・ベルレアンらが出演。そ
して、少年を演じるのはジャン=バティスト・モニエ。彼は
昨年合唱団と共に来日して、日本の家庭にホームステイもし
たことがあるそうだ。                 
脚本、監督はペランの甥のクリストフ・バラティエ。彼は、
劇中で歌われるコーラス曲の作詞作曲も手掛けており、その
1曲はアカデミー賞の歌曲部門にノミネートされている。 
なお物語は、1944年公開の映画『春の凱歌』からインスパイ
アされたと記されていた。               



2005年01月15日(土) 第79回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から。昨年も紹介したアカデミー賞視覚効
果部門の予備候補が発表された。
 発表によると、今回のアカデミー賞には、
“The Aviator”
“The Day After Tomorrow” 
“I,Robot”
“Harry Potter and the Prisoner of Azkaban” 
“Lemony Snicket's A Series of Unfortunate Events”  
“Sky Captain and the World of Tomorrow” 
“Spider-Man 2”
の中から、3本の最終候補が選ばれることになったようだ。
 この内、“The Aviator”と“Lemony Snicket's A Series
of Unfortunate Events”の2本は日本未公開だが、前者に
ついては何度か紹介しているようにハワード・ヒューズの伝
記を映画化したもので、航空機製造会社も率いていたヒュー
ズの製造した飛行機などが、無線操縦のミニチュアも使って
映像化されているそうだ。また後者では、ジム・キャリーの
スタントシーンなどがディジタルエフェクトで作り上げられ
ているということだ。
 因に、VFXの製作会社の別では、“The Aviator”“Spi
der-Man 2”がソニー・イメージワークス、“The Day After
Tomorrow”“I,Robot”がディジタル・ドメイン、“Harry
Potter”“Lemony Snicket”がILM、“Sky Captain”は
メインの会社なしで13社の共同によるというもの。ただし、
ILMは“Sky Captain”“The Day After Tomorrow”にも
参加しており、また、“The Day After Tomorrow”“Harry
Potter”にもそれぞれ複数の会社が参加している。
 とはいうものの、基本的には老舗の3社が手掛けた6作+
13社連合の“Sky Captain”となる訳で、そうなると最終候
補3本に残るのは、案外強力と言われるソニーの2本と、あ
と1本はどこに…という展開になるのかどうか。ウェタ制作
の“The Lord of the Rings”が3年連続で獲得した後の最
初のオスカーレースは、かなり混沌としているようだ。
 一方、今年は予備候補に残らなかった作品にも注目が集ま
っている。特にユニヴァーサルでは、“Van Helsing”“The
Bourne Supremacy”“The Chronicles of Riddick”が全滅
したことにショックを隠せないようだが、中でもILMが担
当した“Van Helsing”の落選は問題になりそうだ。また、
ワーナーでは、ソニー・イメージワークスが手掛けた“The
Polar Express”の落選が問題になっているようだが、この
作品についてはアニメーション部門でのエントリーも取り沙
汰されており、そちらの動向も気になるところだ。
        *         *
 ということで、続いて長編アニメーション作品部門の予備
候補も紹介しようと思ったのだが、前回は前年の11月半ばに
発表された予備候補が、何故か今回はまだ発表がない。
 これについて、実は今回、上記の“The Polar Express”
の他にも、パラマウントからマリオネットで撮影された映像
に、1駒ずつレンダリングを施したという“Team America:
World Police”もエントリーを表明するなど、境界作品のエ
ントリーが相次いでいる。そしてこれらの境界作品について
は、前々回に“Stuart Little 2”の予備選出を見送ったこ
とが問題にされたこともあり、アカデミーがアニメーション
の変貌への対応に苦慮しているという感じもするところだ。
 なお、今回の長編アニメーション部門には、ドリームワー
クスの“Shrek 2”“Shark Tale”、ディズニー=ピクサー
の“The Incredibles”の3大CGIアニメーションが有力
視されているが、この他にも、セル/2Dアニメーションで
は、ディズニーの“Home on the Range”、パラマウントの
“Sponge Bob Square Pants Movie”などもエントリーされ
ている。また、日本作品でドリームワークスの子会社が配給
した“Ghost in the Shell 2: Innocence”と、韓国製作で
“Sky Blue”というセル+CGI+実写の合成による作品も
エントリーされているようだ。
 因に、2004年にアメリカで公開された長編アニメーション
作品は全部で16本だったそうで、これは16本の閾値を超えな
かったということで、最終候補は3本となるようだ。そして
その最終候補は、他の部門と合わせて1月25日に発表され、
受賞式は2月27日に予定されている。
        *         *
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。とい
っても、新年早々はまだニュースがあまり無いので、落ち穂
拾いのような情報から。
 まずは、前々回の第77回に噂として紹介したブライアン・
シンガー監督による新“Superman”のレックス・ルーサー役
に、既報通りケヴィン・スペイシーの配役が正式に発表され
た。この配役については以前にも紹介したように、大作映画
への出演を渋るスペイシーに対して、『ユージュアルサスペ
クツ』で1995年度のオスカー助演賞をもたらしたシンガー監
督が直々に口説いていたもののようだが、元々この役柄は、
1971年度のオスカー受賞者のジーン・ハックマンがその受賞
の後に演じていたものであり、全く役に不足はないところ。
スペイシーにも、その跡を継ぐ演技を期待したいものだ。
 そして主な配役ではもう一人、デイリープラネット新聞社
でのクラーク・ケントの先輩記者ロイス・レーン役に、ケイ
ト・ボスワースの起用が発表された。この役には、11月1日
付の第74回で別の候補者を紹介したが、実は昨年12月31日付
の映画紹介に掲載した『ビヨンドTHEシー』で、ボスワース
はスペイシー扮するボビー・ダーリンの結婚相手サンドラ・
ディー役を演じており、どうやらこの映画を見たシンガーが
急遽起用を決めたということのようだ。ただし、ボスワース
は1983年生まれで、まだ22歳。ちょっと若いのが気になると
ころだが、上記の作品でも16歳から20代後半までを見事に演
じていたから、まず心配はいらないだろう。
 ということで、配役も決って撮影は3月3日にシドニーで
開始されることになるようだ。
        *         *
 お次も続報で、2004年12月1日付の第76回で紹介したウォ
シャウスキー兄弟の新作“V for Vendetta”の主演の一人と
して、ナタリー・ポートマンへの出演交渉が最終段階に入っ
ていることが公表された。
 ポートマンは、年末に全米公開されたマイク・ニコルズ監
督作品“Closer”での演技によって、ゴールデン・グローブ
助演女優賞にノミネートされているが、今年の夏には“Star
Wars-Episode III: Revenge of the Sith”の公開も控えて
いて、今一番注目の女優というところだ。そして今回の作品
は、以前の紹介でも報告したように、“Episode III”の第
1助監督も務めたジェームズ・マクティーグが監督デビュー
を果たすもので、その繋がりでも最適な女優の起用というこ
とになりそうだ。
 また今回の発表に関連して、作品の内容も多少詳しく紹介
されていたが、それによると物語は、以前に紹介したように
第2次世界大戦でドイツが勝利したという歴史を持つ世界を
背景に、現在より少し未来のイギリスを舞台にしている。そ
してこの世界で、Vと名乗る謎の人物によって秘密警察から
救出、若しくは誘拐されたヒロインが、ナチスのもたらした
全体主義国家を打倒するためのゲリラに変身して行く姿を描
くということだ。
 さらに今回の起用に関して、製作者のジョール・シルヴァ
からは、「ポートマンは、現役の女優の中で最も素晴らしい
天賦の資質を与えられた演技者であり、彼女がこの作品にも
たらすであろう素晴らしい才能には、興奮を禁じえない」と
期待のコメントも発表されている。撮影は3月第1週にベル
リンで開始され、公開は今年の11月に予定されている。
 そう言えば、11月1日付の第74回の記事でポートマンは、
ロイス・レーン役の有力候補の一人だったものだが、これで
ちょうどよく配役が決まったという感じだ。ただしポートマ
ンは、現在はイスラエル出身のエイモス・ギタイ監督による
“Free Zone”という作品の撮影に入っており、3月までに
この作品の撮影を完了することが必要になるようだ。
        *         *
 続いては、前回の情報が2000年の3月ということなので、
このページで紹介するの初めてになるようだが、イギリスの
SF作家ジョン・クリストファーが1960年代後半に発表した
ジュヴナイル向けの3部作“The Tripods Trilogy”の映画
化が、ディズニー傘下タッチストーンの製作で、“Buffalo
Soldiers”(戦争のはじめかた)のグレゴール・ジョーダン
監督によって進められることが発表された。
 この計画については、キネマ旬報では2000年の5月上旬号
などで紹介しているが、1970年にコーネル・ワイルド監督で
映画化された“No Blade of Grass”(最後の脱出)の原作
“The Death of Grass”(草の死)の作者として記憶される
クリストファーが、1967〜68年に発表した“The White Moun
tains”(鋼鉄の巨人)“The City of Gold and Lead”(銀
河の征服者)“The Pool of Fire”(もえる黄金都市)の3
部作を映画化するもの。
 その内容は、21世紀の時代背景で、Tripodと呼ばれる異星
人に征服されて数年を経た地球が舞台。そこで15歳になると
異星人に絶対服従するチップを頭に埋め込まれる直前の少年
が真実に気づき、2人の友人と共に異星人への反抗を始める
というお話。典型的なジュヴナイルという感じの作品だが、
出版当時の評価はかなり高かったということだ。
 そしてこの映画化権を1997年にディズニーが獲得し、『ナ
チュラル・ボーン・キラー』などの製作者ドン・マーフィを
指名して、2000年の時点では、当時『ツイスター』の続編な
どもオファーされていたダーレン・レムケという脚本家が脚
色を担当することが発表されたものだ。しかし、その後にレ
ムケは降板し、さらにこの計画にはテリー・ヘイズという脚
本家も参加したが、結局当時は映画化に至らなかった。
 その計画が復活したもので、今回はオーストラリア出身の
ジョーダンが、脚本のリライトと監督も契約したことが発表
されている。なお、上記の監督作品については、2004年11月
31日付の映画紹介に掲載しているが、2001年に完成していな
がら2003年まで公開できなかったという曰く付きの作品。し
かし公開には手間取ったものの、評論家からは極めて高い評
価を受けたものだ。また、この作品のアメリカ配給は、ディ
ズニー傘下のミラマックスが手掛けていた。
 この他に、ジョーダン監督は、オーストラリアの伝説の無
法者を描いて昨年公開された“Ned Kelly”という作品でも
評価されているようだが、これらの2作はどちらも反体制的
な主人公を描いているように見える。一方、クリストファー
の原作には、集団主義に対して個人主義を擁護しようとする
底流があるとの見方がされているようで、このような原作の
思想と、監督の資質との相性はどうなのだろうか。
 因に、製作者のマーフィは、『鉄腕アトム』のアメリカ版
の製作も進めている。また脚本家のレムケは、当時紹介され
ていた企画はどれも実現しなかったが、今年2月に全米公開
される予定のサム・ライミ製作のホラー作品“Boogyman”の
脚本に名前を連ねているようだ。
        *         *
 2004年7月1日付第66回で紹介したマーヴェルコミックス
原作“Sub-Mariner”の映画化に、新たな動きが出てきた。
 この計画では、前回はクリス・コロンバスの監督で、ユニ
ヴァーサルが進めていることを報告したが、実は、当時はま
だ製作が正式に決定されたものではなかった。その計画に今
回は、元ユニヴァーサルの製作担当重役から、独立して傘下
の製作プロダクションを経営しているケヴィン・マイシャー
が製作者として参加することが発表され、7月頃の撮影開始
に向けて準備が進められることになったということだ。
 脚本は、前回報告したように『ロード・トゥ・パーディシ
ョン』のデイヴィッド・セルフが執筆し、セルフは製作総指
揮も担当する。一方、製作は上記のマイシャーとマーヴェル
コミックスのアヴィ・アラド、それにコロンバスが担当。そ
してコロンバスが、2002年の『ハリー・ポッターと秘密の部
屋』以来の監督復帰を果たす計画になっているものだ。
 なお、前回の記事では“Sub-Mariner”の主人公ナモーを
“Fantastic Four”のサブキャラクターのように書いてしま
ったが、元々このキャラクターは1939年に発刊されたMarvel
Comicsの第1号に登場したマーヴェル最初のスーパーヒー
ローの一人と呼ばれているもので、“Fantastic Four”のコ
ミックスがスタートする1961年以前に誕生していたものだ。
しかし1950年代に一度姿を消し、その後“Fantastic Four”
のサブキャラクターとして復活したということで、前回の記
事を少し修正しておきたい。
 また“Sub-Mariner”は、1960年代の半ば頃にマーヴェル
のキャラクターを揃えたシリーズの一篇としてTVカートゥ
ーン化もされており、この時代にファンになった人も多いと
いうことだ。1959年生まれのコロンバスは、案外この当時の
ファンなのかも知れない。
 なお、今回製作に加わったマイシャーは、先にニコール・
キッドマン、ショーン・ペン共演の“The Interpreter”な
どの製作を手掛けている。
        *         *
 コミックスの次はグラフィックノヴェルの映画化で、『X
−メン』や『スーパーマン』の原作を担当したこともあるジ
ョー・ケイシーが執筆した“Full Moon Fever”という未出
版のグラフィックノヴェルの映画化が、レニー・ハーリンの
監督で進められることになった。
 この作品は、そう遠くない未来、人類初の月の裏側に設置
された基地を舞台に、その修理のために派遣された作業員の
グループが、そこに居るのが自分たちだけではないことに気
付くというもの。実はそこには、飢えた狼男の群れも居たと
いうのだが…そこから先は、映画の公開をお楽しみにという
ところだ。
 なおこの計画で、製作はエイドリアン・アスカリエとダニ
エル・アルターという2人が担当しているが、この計画につ
いては、昨年の夏に開催されたコミックコンヴェンションの
会場でケイシーがアスカリエに計画を持ち掛け、その後にア
ルターとハーリンが参加したということだ。しかし製作者た
ちは、『エイリアン3』や1999年の『ディープ・ブルー』を
手掛けたハーリンこそ、この計画にベストフィットの監督と
考えているようだ。
 因に、アルターは2002年7月15日付の第20回で紹介したサ
ム・ライミ監督の“30 Days of Night”をライヴァル作品と
考えているようだが、その計画についてもハーリンがベスト
と思っているそうだ。また、アスカリエは、ジョン・ウー監
督、ドウェイン“ザ・ロック”ジョンスン主演で、2006年に
ユニヴァーサルから公開が予定されているヴィデオゲームの
映画化“Spy Hunter”の製作も担当している人物で、今回の
作品については、映画化と同時にヴィデオゲーム化の計画も
立てているということだ。
 ただしこの計画は、現状では製作会社が決まっていないも
ので、これから原作の映画化権と、ハーリンの監督をセット
にして、各社への売り込みが行われることになるようだ。な
お、ケイシーは映画化の脚本も担当することになっている。
        *         *
 『チャーリーズ・エンジェル』のMcG監督が主宰するプ
ロダクション=ワンダーランド・サウンド&ヴィジョンが、
エンドゲームというプロダクションとの共同製作で、“Stay
Alive”というホラー映画の計画を進めている。
 この計画は、ブレット・ベルとマシュー・ピーターマンが
執筆した脚本を、ベルの監督で映画化するもので、内容は、
ニューオーリンズに住む10代の少年が、オンラインのホラー
ゲームで遊んでいる内に、ゲームの中のキャラクターが死ぬ
とそのプレーヤーも死ぬという事実に気付くもの。ゲームで
キャラクターが死ぬことに慣れている世代には、かなり衝撃
的なお話になりそうだ。
 と言ってもこれだけでは、ただのティーンズホラーで終り
そうな企画だったのだが、この映画化に際して、映画に登場
するホラーゲームのデザインやゲーム中のエフェクトの制作
を、アメリカン・マッギーが担当することが発表された。
 アメリカン・マッギーについては、2002年1月15日付の第
7回や2004年2月1日付の第56回で映画化の計画を紹介した
“American McGee's Alice”“American McGee's Oz”など
の原作ゲームを制作したゲームクリエーターで、以前にも紹
介したようにアメリカを代表するゲームクリエーターの一人
と言われている人物。そんなクリエーターの参加が、映画に
どのような影響を及ぼすか、結果が楽しみだ。
 なお製作は、エンドゲーム側が資金を調達して、3月にニ
ューオーリンズで撮影開始の予定ということだが、実は配給
会社が未定。ワンダーランドはソニーと優先契約を結んでい
るが、本作に関しては決定していないとのことだ。
 因に、ベルとピーターマンのコンビは、ゲイル・アン=ハ
ード主宰のワルハラとディジタル・ドメインの共同製作で、
ユニヴァーサルが配給するスパイスリラー“Mercury”や、
ワーナー製作の子供向けアクション“Ignition”、ディズニ
ーでジョナサン・フレイクスが監督する“Illusion”などの
脚本も手掛けているようだ。
 そう言えば、“American McGee's Alice”の脚本は、『チ
ャーリーズ・エンジェル』のジョン・オーガストが担当して
いたもので、その辺の関係で今回の企画が実現した気がしな
いでもない。それにしても、“Alice”と“Oz”の計画はど
うなってしまったのだろう。
        *         *
 最後にちょっと面白い話題で、アメリカ・フロリダ州オー
ランドのウォルト・ディズニー・ワールドのアトラクション
“Pirates of the Caribbean”にジャック・スパロー船長が
登場することになるようだ。
 昨年夏の大ヒット作『パイレーツ・オブ・カリビアン』が
ディズニーランドのアトラクションからインスパイアされた
作品であることは有名だが、その後にアトラクションを訪れ
た観客からは、スパロー船長はどこにいるのだ?という声が
多く聞かれたということだ。
 そこでディズニー側が、アトラクションの中にオーディオ
アニマトロクスによる船長を登場させることにしたもので、
その姿はジョニー・デップの風貌を模したものであることは
もちろん、その声もデップが吹き込むことになっている。ま
た、リニューアルされた“Pirates of the Caribbean 2”の
オープニングには、デップ本人がテープカットに訪れる計画
もあるようだ。
 今のところスパロー船長の登場は、ディズニーワールドの
アトラクションだけの計画ということだが、できることなら
東京ディズニーランドの『カリブの海賊』にも登場させても
らいたいものだ。



2005年01月14日(金) セルラー、恋は五・七・五!、香港国際警察、スパイダー・フォレスト−懺悔−

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『セルラー』“Cellular”               
携帯電話(セルラ−)に掛かってきた1本の通話。それは女
性の声で、自分が誘拐され家族の命が危ないと訴えている。
その声に真実であることを感じ取った主人公は、まず警察に
駆け込むが、他の仕事で忙しい彼らは取り合ってくれない。
そして…                       
ローランド・エメリッヒの盟友ディーン・デヴリン製作で、
『フォーンブース』などのラリー・コーエンの原案から新人
のクリス・モーガンが脚本化、『デッドコースター』のデヴ
ィッド・R・エリスが監督した作品。          
物語は女性の声の主(キム・ベイシンガー)が、ジェイソン
・ステイサム(トランスポーター)扮する犯人たちに拉致さ
れるところから始まり、その監禁場所に放置されたバラバラ
の電話機を、理科の教師でもある彼女が修復して通話を試み
るという展開になる。                 
で、この通話をクリス・エヴァンス扮する主人公が受信する
のだが…                       
上記のストーリーとベイシンガーの登場では、かなりサスペ
ンス色の強いものを予想したのだが、その予想は見事に覆さ
れる。アクションから、時には笑い声が上がるほどのユーモ
アも交えて、実に軽快で快調な仕上がりの作品だった。  
しかもサスペンスの押さえどころはしっかりと押さえられて
いるから、ハラハラドキドキもあるし、1時間35分の上映時
間をたっぷり堪能できる。何しろベイシンガーの恐怖演技に
ステイサムの強面だから、そこだけでサスペンスは完璧とい
う感じだ。                      
それに、ベイシンガーとステイサムの演じる役柄が何しろ頭
が良い。常に相手の先を読んで先回りし続けるし、一方、エ
ヴァンスはセルラー片手に駆けずり回らされる役柄だが、こ
ちらはセルラーの特徴をしっかりと掴んだ展開で、この脚本
の見事さにも感心した。                
さらに次々に登場する謎が、観客をぐいぐいと引っ張り続け
る。コーエンは、前作で電話ボックスから動けなくなる主人
公を描いたので、今度は電話のお陰で移動しっぱなしになる
主人公を描いたということだが、その発想にも納得できると
ころだ。                       
監督のエリスは、前作は正直言って素材を掴み損ねている感
じがしたが、今回は彼の資質に合ったのか、ローラーコース
ター並に瞬時に変わる展開を生き生きと描き出している。な
お途中で写るテレビ画面には前作が放映されていたようだ。
主人公たちが最後まで諦めずに最善を尽くすことで、その結
果が勝ち取られる。そんなハリウッド映画の王道を行くよう
な作品。こういう映画は見ていて本当に気持ちが良い。  
                           
『恋は五・七・五!』                 
主人公の一人の高校生の餓鬼が煙草を吸い続けている。しか
も、物語の中では1カ所だけそれに言及するエピソードがあ
るが、それ以外は全く何の理由もなく喫煙のシーンが何度も
登場する。このような描写は青少年保護に関する現行法で認
められるのだろうか。                 
なお、僕が見たのは3月に公開予定の最終編集版ではなく、
それより数分長いということだったが、公開版ではこれらの
シーンがカットされることを切に望む。そうしないと青少年
に対する喫煙助長ということで、取り締まりの対象になる恐
れもある。                      
これは、憲法で保障された表現の自由とは全く違う次元の問
題だ。                        
ということで、本来ならこれだけで終りにしてしまってもい
いところだが、本作は内容的にもいろいろ問題があるので、
以下にはそれを記す。なお、以下の文には重大なネタバレが
ありますので、読む人はご注意ください。反転すると読めま
す。        
物語は、統廃合によって廃校になろうとしている県立高校が
舞台。その校長が、校名を記録に残すため、全国で開かれる
高校生選手権と呼ばれるものに全てエントリーすることを思
いつく。そこで一つでも優勝すれば、歴史に名が残るという
計算だ。                       
そんな訳で、主人公たちの全国高校生俳句甲子園大会への挑
戦が始まるのだが…まあこのシチュエーションは理解すると
しても、いくらなんでもその後の展開がいい加減すぎる。大
体、県別の代表が競う全国大会に、このチームがいきなり出
場というのは…                    
それに、準決勝を終えて次のシーンがいきなり優勝盾という
のも、ちょっと話が飛び過ぎでしょう。確かに準決勝で吹っ
切れたということは描かれているが、それでも決勝のハイラ
イトシーンぐらいは入れておいて欲しいものだ。     
この他にも、枝葉末節の事柄はいろいろあるが、正直に言っ
て、主人公が喫煙以外にも、どこで勃起しようとマスを掻こ
うと知ったことではない。でも、少なくとも上記の点ぐらい
は、観客へのサーヴィスとしてクリアしてもらいたいという
感じだ。                       
監督はUSCで映画の勉強をしてきたそうだが、この作品に
は、まだ学生気分が抜け切っていない、そんな感じがした。
撮影を始める前に、まずは脚本の完成度を高めて欲しいし、
製作者も、この脚本ではまだグリーンライトを出すべきでは
なかったと思う。
                  
                           
『香港国際警察』“新警察故事”            
1985年から96年まで4作が製作されたジャッキー・チェン主
演『ポリス・ストーリー』シリーズの再開作。チェンがアメ
リカで正当に評価されるのは、98年の『ラッシュアワー』か
らだから、その直前まで主演し、これを以て香港を離れたシ
リーズとも言える。                  
そして今回は、アメリカでの成功を引っ提げてのシリーズ再
開と言いたいところだが、正直に言ってアメリカでのチェン
の人気は、最近ちょっと頭打ちの感もあり、本作では心機一
転というか、初心に返って体勢を立て直そうという感じにも
見える。                       
お話は、チェン扮する香港警察の敏腕刑事と、凶悪犯罪をゲ
ームのように行う若者集団との対決が描かれる。その発端は
1年前、巨額の現金を強奪した一味を追った主人公率いる刑
事課の面々が返り討ちに合い、主人公は現場から命からがら
脱出するが…                     
そして1年後、事件以来廃人のようになっている主人公の許
に、殉職した刑事の弟と名乗る巡査が現れる。巡査は主人公
を激励し、現場への復帰を求めるのだが、主人公はかたくな
に拒否し続ける。そんな折、犯罪集団が活動を再開する。 
アメリカでは、期待されているものが自分の思惑から外れて
いた。そんなことを語るチェンがこの映画で見せるのは、シ
リアスな演技、しかもかなり重い。これはアクションを期待
して見に行った僕には思惑外れのものだった。      
ただし、この演技がそれなりに見られたのだから、やりたか
ったのがこれだと言われれば納得せざるを得ない。しかしこ
れがジャッキー・チェンの本領かと言われると、ちょっと疑
問符を挟まざるを得ない。               
とは言うものの、1954年生まれで昨年50歳に成ったチェンに
いつまでもアクションを期待するのも酷な訳で、それなりに
変化して行くことは、我々観客も受け入れなければいけない
ところだろう。                    
そして今回、チェンが助っ人に呼んだのが、チェン製作『ジ
ェネックス・コップ』に主演したニコラス・ツェーとダニエ
ル・ウー。さらにジェット・リーの跡を継いだ『ブラック・
マスク2』のアンディ・オンら、若手を揃えての作品だ。 
でも、チェンも簡単には彼らに負けていないのは立派と言え
るところだろう。特に、映画の後半には、かなりハードなア
クションも見せてくれる。この後半こそ、チェンの本領発揮
と思うのだが…なお、ツェーとの本格的な共演は、これから
も期待したいところだ。                    
                           
『スパイダー・フォレスト−懺悔−』(韓国映画)    
昨年の東京フィルメックスや、サン・セバスチャン映画祭の
新人監督部門、トロント映画祭などに出品されたソン・イル
ゴン脚本、監督による作品。              
誰の思い出にも残っていない死者の魂が彷徨うという蜘蛛の
森。主人公はその森の中で二つの死体を発見する。一つは自
分の上司、もう一つは恋人。その現場から逃げた男を追った
主人公は返り討ちに合い、さらに意識が朦朧としたまま車に
跳ねられる。                     
病院で意識を取り戻した主人公は、意識不明のまま14日間が
経過したことを知る。そして事件を警察に通報し、警察は二
つの死体を発見するが…怪しげな気配の森の中で、怪しげな
気配の事件が進行して行く。そして捜査に当る刑事は、次々
に謎に突き当たる。                  
雰囲気は良いし、これでもう少しお話がファンタスティック
だったらと思ってしまう。いや充分ファンタスティックなの
だが、何かもう一歩踏み込むことを躊躇しているような、そ
んなもどかしさを感じる作品だった。          
監督は生真面目な人なんだろうな…そんな印象を持つ。その
真面目さが好感できる作品ではあるが、そこで止まってしま
っている感じだ。先に書いたように雰囲気は良いし、その雰
囲気を楽しむだけでも良いと言える作品なのかもしれない。
でも、何かもったいない感じもした。             



2005年01月01日(土) 第78回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 明けましておめでとうございます。
 いよいよこのページも4回目の正月を迎えました。毎度変
りませんが、今年もよろしくお願いいたします。
 というところで、新年最初の話題は、ちょっと楽しみなこ
の情報から。
 ジョニー・デップ主演で、今春の撮影開始が予定されてい
る『パイレーツ・オブ・カリビアン』の2本の続編に、チョ
ウ・ユンファ出演の情報が流されている。
 この情報は、チョウの夫人が中国の新聞に語ったもので、
それによるとオファーされているのは、張保仔という実在し
た海賊の役。そしてこの出演交渉のために、ゴア・ヴァビン
スキー監督自身が香港に出向いて脚本の検討を行ったという
ことで、期待が膨らむところだ。
 因にこの海賊は、1800年前後に香港島を拠点に活動してい
たというもので、最盛期には3万人以上の部下と270隻以上
の船を保有していたとも言われている。また、彼が財宝を隠
したという洞窟は、現在も香港の観光名所の一つになってお
り、この他にも香港島には、彼に因んだ地名が随所に見られ
るということだ。
 そして張保仔本人は、海賊と言いつつも人望を集め、時の
清朝政府に対抗する勢力の象徴ともなるが、1810年に清朝か
ら派遣された香港総督の取った融和策によって投降、その後
は張宝と名を変えて海軍副長官も勤めるなど天寿を全うし、
中国史にも名を留める数少ない香港人の一人として、現在も
人気のある人物だそうだ。
 そんな訳で、この張保仔が当時のカリブ海まで出張って行
ったという可能性はほとんど無いものだが、そこはお話とし
て楽しみな登場人物になりそうだ。なお、出演交渉は続編の
2本分で行われたとされている。
 一方、この続編の撮影に関連しては、ロサンゼルスで総数
7000人という大規模なエキストラの募集も始まっている。
 これで募集されているのは、まず海賊役として、18歳から
50歳ぐらいまでの贅肉の無い痩せ形の人物で、特に美しい顔
立ちの必要はなく、歯が欠けていたり、目が虚ろだったり、
連続殺人鬼のような顔立ちが、特に好まれるということだ。
また、長髪で髭が生えていることも必要だが、これらは鬘や
メイクで見破れないものはOKとされている。
 この他にも、海兵隊員や水兵、町の人々、手足の無い人や
若い娘なども募集されているが、特に海賊の衣装を着けて、
一日中剣を振り回しながら走り回る役に、一番人気が集まる
だろうというのが大方の予想のようだ。
 撮影場所は、ロサンゼルスと、カリブ海のセントヴィンセ
ント島、期間は2月から2006年の始めまでということで、そ
の間の日当は118ドルが支払われる。1日約1万2千円で、
しかも期間が1年とは、毎日出番がある訳ではないにしても
かなり割りの良い仕事と言えそうだ。しかもその募集人数が
7000人というのだから、これは目茶苦茶大規模な募集という
ところだが、大ヒット間違いなしのハリウッド映画ではこの
ようなことが平然とできるということだ。
 なお、同時に撮影される計画の第2作、第3作には、すで
にジョニー・デップと、キーラ・ナイトレー、オーランド・
ブルームの出演が発表され、他に、ジェフリー・ラッシュの
再登場や、さらにスパロー船長の恋人のジプシー女役でサル
マ・ハエック、同じく船長の父親役でローリング・ストーン
ズのキース・リチャーズらの登場の情報もあり、かなり華や
かな作品になりそうだ。
 公開は、2006年の夏とクリスマスの予定になっている。
        *         *
 お次は、新シリーズ誕生かという情報で、すでに4作品が
映画化されているJack Ryanシリーズの作家トム・クランシ
ーが原案を担当し、ヴィデオゲームの形式で発表されている
“Splinter Cell”という作品について、その映画化権をパ
ラマウントが獲得したことが発表された。
 この作品は、“スティルス”アクションと呼ばれるジャン
ルで最も成功したゲームの一つと言われるもので、政府機関
のスパイでサム・フィッシャーという名前の主人公が、敵と
なる国際的なテロリスト組織の本部に侵入し、その機密など
を盗み出すことを目的とするもの。当然、罠や迷路などの仕
掛けられた中を、知性と勇気を持って切り抜けて行く姿を描
いたものということだ。
 そしてこのゲームシリーズでは、すでに初編の“Splinter
Cell”と、続編の“Splinter Cell: Pandora Tomorrow”の
2作が発表されて全世界で600万本を売り上げ、さらに今年
3月に第3作の“Splinter Cell: Chaos Theory”が発表さ
れる予定になっている。
 この映画化権を、Jack Ryanシリーズも手掛けるパラマウ
ントが獲得したもので、同社では、昨年公開されたザ・ロッ
ク主演『ランダウン』などのピーター・バーグ監督と契約し
て映画化を進めるとしている。なお、映画の製作にはクラン
シーのマネージャーのマイクル・オーヴィッツが当り、バー
クとクランシー、それにゲームの出版元の代表を務めるイヴ
・ギージャモウが製作総指揮を担当する。
 また契約で、バーグは本作の脚色も担当するが、それには
ヴィデオゲーム作家のJ・T・ペティと、ジョン・J・マク
ローリンも共同執筆の形で参加するということだ。つまり、
この契約では、バーグとクランシーがかなり隅々まで目を光
らせることになるが、これは以前にJack Ryanの映画化を巡
って、クランシーとパラマウントの間で一時確執が生じたこ
とに対する予防策のようだ。
 因に、Jack Ryanシリーズの映画化に関しては、2004年の
第61回でも紹介した“Red Rabbit”と、そこからスピンオフ
される“Without Remorse”と“Rainbow Six”の計画が進め
られているが、この内の“Rainbow Six”は、元々はヴィデ
オゲーム形式で発表されたもので、今回の計画がうまく行け
ばそちらにも拍車がかかりそうだ。この他にクランシー原作
のゲーム作品では“Ghost Theory”というのもあるようだ。
 なおバーグ監督は、マイクル・マンの製作でユニヴァーサ
ルが進めている、中東が舞台のスパイアクション作品“The
Kingdom”にも起用が発表されている。 
        *         *
 今年は『バットマン』、来年には『スーパーマン』と続く
ワーナーから、またまたDCコミックス原作のスーパーヒー
ロー映画化の計画が発表された。そのスーパーヒーローの名
前は“The Flash”。
 “The Flash”は、1939年の年末(日付は1940年1月)に
第1巻が発行されたというから、上記の2シリーズとほとん
ど同時期に誕生したシリーズだが、今まで映像化はされてい
なかったようだ。因に1938年開始の“Superman”は、Action
Comics、1939年開始の“Batman”は、Detective Comicsに
掲載されたものだが、“The Flash”はFlash Comicsという
自らの名前の冠された連載誌に掲載されたものだ。
 物語は、本名をジェイ・ガリックという中西部の大学で化
学を学んでいた学生が、深夜一人で行っていた実験中に謎の
液体から分離された蒸気を吸い込んで昏睡、数週間後に目覚
めるが、そのとき彼には、動くことも考えることも普通の人
より数倍早いという能力が備わっていたというもの。
 やがて彼は、秘密を知る唯一の人物である同級生のジョア
ン・ウィリアムスと結婚し、大学の研究室で光速に関する研
究をしたり、科学警察の研究員や、科学研究所の主任研究員
などの職に就きながら、その能力を正義のために発揮させる
ことになる。また彼は、1940年代に設立されたThe Justice
Society of Americaの初代議長でもあったということだ。 
 因に、ガリックがThe Flashとして活動するときのコスチ
ュームは、速さの神マーキュリーに準えて、胸に黄色の稲妻
の描かれた真紅のボディシャツと、脇に黄色の線の引かれた
青のタイツ、黄色の羽根の付いたマーキュリーのヘルメット
に、黄色の羽根の付いた真紅の短靴というものだ。
 そしてこのスーパーヒーローの映画化がワーナーで進めら
れることになったもので、今回はその計画に、ニューライン
で『ブレイド』シリーズを完結させたばかりのデイヴィッド
・S・ゴイヤーが脚本、製作、監督の契約を結んだことが発
表された。
 なおゴイヤーは、撮影中の“Batman Begins”の脚本も担
当しているが、今回の契約は、2004年9月15日付の第71回で
紹介したゴイヤーとワーナーの包括契約に基づくもの、この
契約では最初の公式に発表された計画となるものだ。
 また、今回の情報はワーナーから公式に発表されたものだ
が、実はウェブサイトでは1月程前からゴイヤーサイドから
の情報が流されていた。そこでゴイヤーは、“The Flash”
について、「自分の最も好きなキャラクター」と公言してお
り、さらにこのスーパーヒーローは特殊な武器などを使用せ
ず、ただ動くスピードが速いという特徴だけを持つことにつ
いても、「これが最高!」と言っていたということだ。ここ
まで言うゴイヤーが、そのアイデアを存分に盛り込んだ脚本
を執筆することを期待したい。
        *         *
 古くは『トロン』や『エイリアン』、最近では『フィフス
エレメント』などのコンセプトデザインで知られるフランス
のアーチスト、ジャン“メビウス”ジロー原作による3D−
CGIアニメーションが香港のスタジオで製作されている。
 この作品は、“Thru the Moebius Strip”と題されたもの
で、元はHari Kiriという雑誌に発表されたジローの原作か
ら、ジム・コックスとポール・ガーツという2人の脚本家が
脚色したもの。内容は遠い未来を背景にしたファミリー・ア
ドヴェンチャーと称されており、1人の少年が不思議な巨大
異星人の住む世界を、長く行方不明となっている父親を探し
て旅しながら、自分自身の宿命を探る物語ということだ。
 そしてこの映画化の計画は、2000年にジロー自身が率いる
ロサンゼルスのアーチストチームによって立上げられ、その
後2001年に香港のGDCというスタジオに製作母体が引き渡
されて、すでに映像は完成してポストプロダクションの段階
になっているということだ。
 因に監督は、グレン・チャイカという人が担当しており、
また、声の出演者には、マーク・ハミル、『新スター・トレ
ック』シリーズのウォーフ役のマイクル・ドーン、ジョナサ
ン・テイラー・トーマス、ジーン・シモンズらが参加してい
るということだ。
 なおこの作品の配給権は、元はセネター・インターナショ
ナルが保有していたが、最近ファンタスティック・フィルム
スという会社が獲得したことで再び話題となったものだが、
作品はそろそろ完成しているはずで、日本の配給権はどうな
っているのだろう。
        *         *
 続いてもアニメーションの話題で、昨日付の映画紹介で掲
載した『火星人メルカーノ』と同じアルゼンチンで200万人
を動員するヒット作が誕生し、その勢いで新たなアニメーシ
ョンスタジオが設立されることになっている。
 この作品は“Patoruzito”と題されたもので、アルゼンチ
ン南部のパタゴニアに住む少年が、題名にもなっている地方
のチーフの座を賭けて闘う姿を描いたもの。元々は75年前に
ダンテ・クインターノというアニメーション作家によって創
造されたキャラクターということだが、今回のアニメーショ
ンの製作者ジョルジ・ロドリゲスの意見によると「アルゼン
チンのミッキーマウスのような存在」だそうだ。
 そして今回の作品は、ホセ・ルイス・マッサという監督が
アルゼンチン国内の150人のアニメーターを動員して、長編
アニメーションとして完成させたもので、これが200万人の
観客を集める大ヒットを記録したものだ。
 そして製作者のロドリゲスは、本作の続編の製作とテレビ
シリーズ化、さらにスピンオフの計画を進めているというこ
とだが、実は今回の製作ではパタゴニック・フィルムスとい
う会社が共同製作しており、この会社が海外の配給権を独占
してしまっていた。このためロドリゲスは、自らの製作配給
会社を設立して、旧来の会社に対抗しようという目論見のよ
うだが、続編の権利についてはこの会社との関係がまだ明確
ではないようだ。
 因にパタゴニック社は、“Dibu”や“Condor Crux”とい
った作品で、すでに7本の長編アニメーションの製作実績が
あるということで、アルゼンチンは意外なアニメーションの
製作国だったようだ。
        *         *
 この後は、SF映画の情報を3本ほど紹介しておこう。
 まずは続報で、2004年6月1日付の第64回で紹介したピア
ズ・アンソニー原作の“Xanth”シリーズ第1巻“Spell for
Chameleon”の映画化の脚色に、『ウォルター少年と夏の休
日』で脚本監督を手掛けたティム・マッキャンリスの起用が
発表された。
 この映画化では、ウォルフガング・ペーターゼンの監督と
共に、『トロイ』の脚本を担当したデイヴィッド・ベニオフ
の参加が発表されていたものだが、結局ベニオフは製作だけ
を担当することになるようだ。因にマッキャンリスは、SF
ファンの賞賛を浴びた『アイアン・ジャイアント』の脚本で
も知られるが、その他に“Dancer, Texas Pop.81”という作
品でも再び脚本監督を担当している。
 ただし、本作の監督はペーターゼンが変らず担当している
もので、配給はワーナーが行う。
        *         *
 以下は新しい情報で、いずれもヒューゴー賞受賞作の映画
化の計画が発表されている。
 その1本目はクリフォード・D・シマック原作の1964年の
受賞作“The Way Station”(中継ステーション)の映画化
権を、ピーター・ウィンサーとランディ・サイモンの2人が
主宰するレヴェルストーンというプロダクションが契約し、
ウィンサーの監督で映画化を目指すことになった。
 銀河を縦横に巡る物質転送装置による交通機関。その中継
ステーションが地球にも置かれていた。その管理を任される
のは南北戦争の退役軍人イノック・ウォーレス。彼の容姿は
30代にしか見えないが、実は100年以上の歳月をそのステー
ションを守って生きてきたのだ。しかしそんな彼の秘密が暴
露され、地球壊滅とさらには銀河文明消滅の危機が訪れる。
 原作者のシマックは、1930年代から執筆を始め、1950年代
のアメリカSFの絶頂期を支えた作家の一人だが、今まで映
画化の話を聞いたことが無く、今回の情報も意外な感じで受
け取ったものだ。作風は叙情的な描写で知られ、このような
短文の紹介では到底その良さは伝えられないが、今回の計画
が成功して、それに続く動きが出てくることを期待したい。
 なお映画化は、サイモン・バリーという脚本家の脚色で行
われることになっている。
        *         *
 そしてもう1本は、アーシュラ・K・ルグインの原作で、
1970年にネビュラ賞とのダブルクラウンに輝いた“The Left
Hand of Darkness”(闇の左手)が、2001年のアカデミー
賞で主演男優賞など3部門にノミネートされた『クイルズ』
の製作者サンドラ・シュールバーグによって映画化されるこ
とが発表された。
 物語は、一旦構築された銀河文明が衰退した後の未来を背
景に、忘れられた惑星「冬」で繰り広げられる。そこに再び
銀河文明への参加を呼びかける使者が来訪するが、中世さな
がらの文化程度となった人々にその意味を伝えることは至難
の技。それでも使者は、国々を巡って説得を続けるのだが…
 1970年代以降のSFの女王と呼ばれたルグインが、最初に
開花した作品と言われる名作で、以前にも何度か映画化の計
画はあったと思うが、今回はついに本格的に動き出しそうな
発表となったものだ。因にルグインの原作では、この発表の
行われた12月13日から2夜連続で、“Earthsea”のテレビ化
がアメリカSci Fiチャンネルにより放送されており、今回の
発表はそのタイミングを図ってのものだったと思われる。
 なお、シュールバーグはこの発表に先立ってフォボス・エ
ンターテインメントというプロダクションを設立して、今回
の計画もそこを通じての製作となるものだが、このプロダク
ションでは、Sci Fiチャンネルで放送予定の“Graveland”
という作品も手掛けるなど、プロダクションの名称を考え併
せると、ちょっと面白い動きになりそうだ。
 ただし、紹介した受賞作2作品の映画化計画については、
どちらも配給会社が発表されていないが、特に後者は、脚本
監督がなどが決まる内に、契約が結ばれることになるものと
思われる。理解のある配給会社の登場を待ちたいものだ。
        *         *
 最後は続報で、2004年2月1日付の第56回で紹介した実写
CGI合成による“Charlotte's Web”のリメイクで、蜘蛛
と子豚の友達となる農場の娘役としてダコタ・ファニングの
出演が発表された。ファニングは、現在スティーヴン・スピ
ルバーグ監督、トム・クルーズ共演の“War of the World”
を撮影中だが、それに続けて1月末からオーストラリアで行
われる撮影に参加するようだ。
 もう1人女優の話題で、2004年11月15日付の第75回で紹介
したリー・タマホリ監督、ニコラス・ケイジ主演によるフィ
リップ・K・ディック原作の映画化“Next”の相手役に、ジ
ュリアン・モーアの共演が発表された。ただし、ケイジはそ
の前に“Ghost Rider”、またモーアも“Freedomland”とい
う作品に出演が決定しており、本作の撮影は、早くて今年の
後半になりそうだ。
 なお、ケイジは先日行われた“National Treasure”の来
日記者会見で、中田秀夫監督と清水崇監督の次回作に出たい
と叫んでいたが、あれはその後どうなったのだろうか。
        *         *
 もう1本、これは直接続報ではないが、2004年10月1日付
第72回で紹介したビーチバレーを題材にした映画の話題に関
連して、今度はソニー傘下のコロムビアから“Bronze God”
という計画が発表された。
 この計画は、テレビの構成作家を勤めてきたアレックス・
グレゴリーとピーター・ヒュイックという脚本家チームが、
初の映画作品として執筆した脚本に基づくもので、物語は、
ビーチバレーのトーナメント出場を夢見るライフガードの主
人公が、ワイルドカードでの出場権を得るというもの。そし
てこの作品に、今年の夏全米公開予定のニコール・キッドマ
ン主演によるリメイク版“Bewiched”でダーリン役に扮した
ウィル・フェレルの主演が発表されている。
 以前に紹介したパラマウントの計画が、その後どうなって
いるか不明だが、ビーチバレーは一昨年のアジア大会では日
本人チームが金メダルを獲得するなど、近年日本でも盛んに
なってきており、ワールドトーナメントツアーには日本人選
手の登場も期待されるもの。撮影時期などは未発表だが、ち
ょっと気になるところだ。


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井口健二