井口健二のOn the Production
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2004年11月30日(火) きみに読む物語、照明熊谷学校、永遠のハバナ、戦争のはじめかた、ネオ・ファンタジア、シャーク・テイル

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『きみに読む物語』“The Notebook”          
1996年に出版されて、NYタイムズのベストセラーリストに
56週間(1年以上)連続で掲載され、全米で450万部が発行
されたというニコラス・スパークス著の長編小説の映画化。   
老人ケア施設で、一人の老女に熱心にノートに綴られた物語
を読み聞かせる老人。そこに綴られたのは、1940年の夏に起
った17歳の金持ちの娘と、時給40セントで働く労働者の青年
の恋の物語。                     
青年は、夏の別荘に逗留して町に遊びに来ていた娘に一目惚
れし、最初はすげなくされるが、猛烈なアタックで彼女の心
を射止める。しかし娘には大学への進学が決まっており、夏
が終れば別れなくてはならない運命が待っていた。    
そして2人の恋は激しく燃え上がるのだが…ラヴ・ストーリ
ーの部分は、いわゆる青春ものによくあるパターンかも知れ
ない。しかしここに織り込まれるのが、アルツハイマー病の
女性と、彼女にこの物語を読み聞かせる老人の、もう一つの
ラヴ・ストーリーだ。                 
実は、身内にこの病の患者を持っており、その目で見ている
と、この物語の真の悲しみがひしひしと伝わってくる。幸い
僕の身内はまだここまでの症状にはなっていないが、いつか
こうなってしまうのかと思うと、その恐ろしさも感じてしま
うところだ。                     
しかし全体は、至上の愛の物語と言って良いだろう。恋愛映
画では『マディソン郡の橋』と比較されているようだが、今
から考えるとただの情欲に走るばかりの写真家との不倫の話
などとは、比較することができないほどの純愛の物語が本作
では描かれている。                  
ただ、アルツハイマー病の患者に対する接し方の部分では、
ちょっと説明不足の感じがした。多分治療の一環として、こ
のような接し方が正しいのだろうが、展開として奇異な感じ
もしたし、もう少しその辺の説明が欲しかったところだ。 
それから、ノートが書かれた経緯についても説明があってし
かるべきだろう。原作がどうなっているのかは知らないが、
本来ならここにも大きなドラマがあったはずだ。その物語が
原作にもないとしたら、それはちょっと残念なところだ。 
映画のような奇跡が起ることは、医学的には何の根拠もない
ものだが、やはり奇跡を願わずにはいられない、それが患者
を身近に持つものとしての感想だ。           
                           
『照明熊谷学校』                   
大映京都を出発点に、日活のSP(sister pictureの略だと
いうことを初めて知った)で一本立ちし、その後はロマンポ
ルノから『人間の証明』までの日本映画を支えてきた照明マ
ン、熊谷秀夫氏の足跡を辿ったドキュメンタリー。    
以前『さよならジュピター』の撮影を見学したときに、照明
係の人が長い竹竿1本で天井に吊るされたライトの向きなど
を、いとも簡単に変えるのを見たことがある。原始的なやり
方だと思う反面、こういう人たちが映画を支えているのだと
思ったものだ。                    
このドキュメンタリーでは、そんな原始的な話までは出てこ
ないが、熊谷氏が編み出したいろいろなテクニックや苦労話
が、完成された作品の映像と共に紹介される。その映像の数
25本というのは、日本のこの手のものとしてはよく集められ
たものだ。                      
僕自身、元々が技術系の勉学をした人間であるし、このよう
な創意工夫や苦労話は聞いていて非常に興味がある。その点
では面白く見させてもらった。しかし半歩下がって、このド
キュメンタリーを一般の人が楽しめるかというとちょっと疑
問に思う。                      
ほとんどがインタビューと映像の羅列というのは、余りに芸
が無さ過ぎる。確かに、出演俳優やスタッフ・監督などへの
インタビューで変化は付けられているのだが、何かもっと工
夫があってもいいのではないかと感じた。        
少なくとも都内で行われたロケの現場などは再訪して、その
場で何をしたのかを再現映像を交えて聞く、そんな構成があ
っても良かったのではないかとも思う。音声が充分に取れて
いないところもあり、プロが題材なのにプロの作品ではない
感じがした。                     
題名にある通りの「学校」での教科書としては、良い内容だ
とは思うが。                     
                           
『永遠のハバナ』“Suite Habana”           
各地の映画祭で数々の受賞に輝くキューバの映画作家フェル
ナンド・ペレス監督が、自らの生まれ育ったハバナを題材に
作り上げたドキュメンタリー。政治も何も絡まない現在のハ
バナに暮らす複数の家族の生活が描かれる。       
モロ要塞の灯台の明りが消え、ハバナが朝を迎えるところか
ら映画は始まる。その町での暮らしは楽ではないし、将来に
大きな希望を持つこともできないのが現実。そんな中で人々
は日々の暮らしを続けている。             
病気の息子に寄り添うために、定職をなげうって、就業時間
の短い職に就いた父親や、市場で仕入れたピーナッツを自宅
で煎り、紙筒に詰めて公園で売る老婆。鉄道や壊れかけた家
を黙々と修理し続ける人々。それしかできない人たちの姿が
淡々と描かれる。                   
昼間は黙々と働きながら、夜になるとダンスホールに粋な出
で立ちで出かける人々。そんなことで良いのかと思いながら
も、ラテンの乗りの中で一日が終ってしまう。目標を持って
努力している人もいるが、夢も希望も失ってしまった人もい
る。人は様々だ。                   
でも考えてみれば僕らだって、彼らと同じようなものかも知
れない。そんな共感を覚えてしまったりするところも、この
映画の魅力なのかも知れない。             
                           
『戦争のはじめかた』“Buffalo Soldiers”       
ピュリッツアー賞の候補にもなったロバート・オコナー原作
の映画化。                      
映画は2001年に完成。9月8日のトロント映画祭で上映され
て絶賛を浴び、10日にはミラマックス配給で全米公開が決ま
ったが…。11日以降は、一気に高まるナショナリズムの中で
試写の度に罵声を浴び、2003年まで全米公開ができなかった
という作品。                     
舞台は、1989年の西ドイツ、シュツットガルトの駐留米陸軍
基地。主人公のエルウッドは窃盗の罪で1年の服役か3年の
軍役かの選択を迫られ駐留軍にやってきた男。しかし、もは
や戦争の気配はなく、「戦争は地獄だが、平和は死ぬほど退
屈」という状態。                   
平和ボケの中、軍の上層部は昇進を狙った上官のもてなしパ
ーティに明け暮れ、基地にはドラッグも蔓延している。そし
て主人公は、当然その中を掻い潜って補給物資の横流しやド
ラッグの売買で稼いでいたが…             
ある日、ヴェトナムの勇士だったという曹長が赴任し、基地
内の浄化を始める。しかも、主人公はその曹長の娘に恋心を
持ち、当然父親である曹長の目の敵にされることに…   
『キャッチ22』や『M★A★S★H』などの流れを汲む戦争
コメディだが、舞台は平時の基地、従って戦闘シーンはない
のだが、これが何とも最初から死人の続出でかなりブラック
な物語。しかも、その死は全て服務中の名誉の死として処理
される。                       
原作者のオコナーは、軍隊経験も、ドラッグ経験も、ドイツ
を訪れたこともないということだが、この作品は取材に基づ
いた真実の物語だと言う。また映画化にあたって監督らが行
った調査でも、真実の裏づけが取れたという。      
「平和なとき、戦争は自らと戦争する」ニーチェの言葉だそ
うだが、その通りの愚かな軍人の姿が描かれる。9月11日以
降のアメリカで糾弾されたのも頷ける作品だ。しかし糾弾し
なければならないほど、ここには真実が描かれているという
ことなのだろう。                   
そして、こういう連中を支援するために、「思いやり予算」
があるということだ。                 
                           
『ネオ・ファンタジア』“Allegro non Troppo”     
1976年にイタリアで製作されたオムニバスアニメーション。
クラシック音楽をモティーフにした6本の短編と、プロロー
グ、エピローグ、及び各短編の間を繋ぐ実写のシーンとから
構成される。                     
クラシック音楽は、『牧神の午後のための前奏曲』『スラヴ
舞曲第7番』『ボレロ』『悲しみのワルツ』『ヴァイオリン
協奏曲ハ長調』『火の鳥』の6曲。           
当然『ファンタジア』から想を得たものだが、本作にはディ
ズニーとは違ってかなり毒がある。その毒の具合が滅法面白
く、大人の楽しめる作品になっているというものだ。   
またディズニー作品では、それなりに統一されたイメージが
あったが、本作では各曲ごとに、セルやクレイも使って全く
違うイメージのアニメーションが展開される。オーソドック
スなものや実験的なものもあり、いろいろ楽しめた。   
実は、1980年に一度日本公開されており、その当時に見てい
るはずだが、全く記憶から抜けていた。見直してそれなりに
思い出したところもあったが、全部ではなく、おかげで新鮮
に見られたものだ。                  
その感想としては、今見ても全く古びたところが無く、却っ
て24年前より今のほうがマッチするのではないかと思ったほ
どだ。特にポスターにもなる『悲しみの…』の猫などは、今
時のアイドルキャラとしても充分通用する感じだ。    
また、『スラヴ…』や『火の鳥』の文明風刺の部分が、今も
通用することにも感心した。逆に、当時は感動したはずのS
F的な『ボレロ』が、今見るとちょっと物足りない感じがし
た。SFの難しさがここにあるという感じだ。      
上映時間は85分。試写は本編だけの上映だったが、1月2日
からの一般公開では、本作と同じブルーノ・ポツェットの監
督による短編が同時上映されるようだ。         
                           
『シャーク・テイル』“Shark Tale”          
今春『シュレック2』を公開したばかりのドリームワークス
・アニメーションが製作した最新作。アメリカでは10月1日
に公開され、3週連続の興行成績第1位を記録した。   
珊瑚礁の海の海底の物語。そこには沢山の小魚たちの住む街
が広がり、人間社会と同じような生活が営まれている。ただ
問題は、時々現れては小魚たちを捕食するサメの存在。サメ
が現れるとサメ警報が発せられ、小魚たちは姿を隠さなけれ
ばならない。                     
ところがある日、1匹の小魚が凶暴なサメを倒してしまう。
それは偶然の作用によるものだったが、彼は自分の活躍を調
子よく吹聴し、そのため一躍英雄となる。そして…    
この小魚の主人公の声をウィル・スミス、そのガールフレン
ドをレネー・ゼルウィガー(本作からレネーという表記にな
るようだ)、英雄となった主人公に言い寄る雌魚をアンジェ
リーナ・ジョリー。                  
一方、マフィアを模したサメ一家のドンをロバート・デ=ニ
ーロ、その息子で、心優しいヴェジタリアンのサメをジャッ
ク・ブラック。さらにマーティン・スコセッシら錚々たる顔
ぶれのヴォイスキャストが共演している。        
ドリームワークスのアニメーション作品は、『シュレック』
シリーズがディズニー作品のパロディ満載なのは見て判る通
りだが、その前にはディズニーの『バグズ・ライフ』に対抗
して『アンツ』を作るなど対抗意識は旺盛。そして今回は、
『ファインディング・ニモ』に対抗しての『シャーク・テイ
ル』という訳だ。                   
しかも、ディズニーの作品がそれなりに魚の世界を描こうと
していたのに対して、本作はサメをマフィアに模すなど、完
全に人間社会のパロディ。従ってかなり汚いギャグも出てく
るし、その辺は大人向けとしてみなければいけない作品とい
えそうだ。                      
登場するパロディも、『シュレック』以上に捻りが利いてい
るし、本作ではさらに大人の観客を目標にしている感じだ。
これで3週連続の1位というのだから、アメリカの観客のレ
ヴェルの高さを感じてしまう。             
ただし日本では、アニメーションは子供向きに売らなければ
ならないというのが難しいところで、本作も来年3月の春休
み公開となっているが、その辺りの壁をなんとか打破しても
らいたいものだ。



2004年11月15日(月) 第75回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは記者会見の報告で、昨日付の映画紹介でも触れてい
るが、11月12日に『ポーラー・エクスプレス』の公開に合せ
たトム・ハンクスとロバート・ゼメキスの会見が行われた。
 その会見では特に新しい情報はなかったが、質問の中で、
「登場するホーボーのキャラクターについて、1973年公開の
『北国の帝王』を意識したか」という問が出て、ゼメキスか
ら、「当然意識しているが、ホーボーというのはアメリカの
アイコンの一つで、他にも『怒りの葡萄』等も参考にした」
という答えが返された。なるほどそうかという感じの答えだ
が、こういう裏打ちがキャラクターに真実味を出しているこ
とを理解できたものだ。
 また、パフォーマンス・キャプチャーの今後については、
すでに2作目の“Monster House”の製作に掛かっており、
今後も使える題材があれば、どんどん製作したいとのこと。
技術的にはアニメーションと実写の中間に位置するものと考
えており、アニメーションにはしたくないが、実写では不可
能なものを映画化していきたいということだった。これから
も作り続けるということで期待したい。
 なお、100年後の映画についてゼメキスは、フィルムはな
くなり、全てディジタルになるという意見だったようだ。当
然の答えではあるが。
        *         *
 ということで、以下は製作ニュースだが、最初は記者会見
の行われた『ポーラー・エクスプレス』を製作したトム・ハ
ンクス主宰プレイトーン社の情報で、同社から、新たな若年
向けファンタシーの計画が発表されている。
 作品の題名は“The City of Ember”。ジーン・デュプロ
ウという作家の原作を映画化するもので、この原作は、ヤン
グアダルト向けの書籍で全米ベストセラーを記録したものだ
そうだ。
 物語は、大気汚染によって地表での生活が困難となり、人
類は地下に潜って生き長らえている未来の地球を舞台にした
もの。その世界で、エムバーと呼ばれる地下都市に住み、地
上に出て各都市を結ぶメッセンジャーになりたいと願う少女
リナ・メイフリーと、防具を着けて地表に出て都市のエネル
ギー設備の修繕に従事している少年ドーン・ハローを主人公
にして進められるということだ。
 なお物語は、都市のエネルギー供給が減少し始め、設備の
根本的な修理が必要になるが、人々はその知識をすでに失っ
てしまっている。そこで、主人公の2人が古代の知識と、彼
らの世界がなぜこうなってしまったかを探る冒険の旅に出る
という展開になるようだ。
 そしてこの脚色に、『シザーハンズ』やティム・バートン
製作の新作“Corpse Bride”を担当しているキャロライン・
トムプスンが交渉され、さらに監督には、パフォーマンス・
キャプチャーによる第2作の“Monster House”で長編監督
デビューを飾ったジル・ケナンの起用が発表されている。
 なお、ケナンは本作で実写監督デビューを果たすとなって
いて、つまりこの作品は、パフォーマンス・キャプチャーに
よるものではないということだが、VFX多用の作品になる
ことは間違いないものだ。
 また、原作者のデュプロウは現在本作の続編を執筆中とい
うことで、今回6桁半ば($)で結ばれた映画化権の契約金
は、続編に関する分も含まれたものと言われている。つまり
シリーズ化の可能性もあるということだ。
        *         *
 お次は、ハリウッド映画では珍しいサッカーの話題で、日
本でも人気抜群のデイヴィッド・ベッカムや、ジダン、ラウ
ルらが登場するサッカーを題材にした3部作映画が製作され
ることになった。
 この3部作は、全体が“Goal!”と名付けられたもので、
マイク・ジェフリーズ、エイドリアン・ブッチャーの原案か
ら、1991年にアラン・パーカーが監督した『ザ・コミットメ
ンツ』のディック・クレメントとイアン・ラフレナイスが脚
本を担当。『ジャッジ・ドレッド』等のダニー・キャノンが
監督する。総製作費は1億ドルで、第1作は2005年1月に撮
影開始されて8月に公開される予定。
 物語は、イーストロサンゼルスに育った少年が、サッカー
のスキルを発揮して、やがてイギリスの名門ニューカッスル
・ユナイテッドの選手になるというもの。また、最初の2作
はニューカッスル・ユナイテッドとスペインのレアル・マド
リードの対抗試合を中心に進められるが、2006年6月に公開
予定の第3作では、同年開催されるドイツワールドカップを
背景にしたものになるということだ。
 主演は、『天国の口、終わりの楽園』のディエゴ・ルナ。
同作でもサッカーに興じるシーンがあるが、今回の撮影に向
けてニューカッスルの練習に参加、プロ選手としてのスキル
を身に付けているそうだ。FIFA(国際サッカー連盟)の
正式後援も受けた作品で、アメリカでは今一つのサッカー人
気に火を点けたいという思惑もあるようだ。
 因に、ベッカムは3部作の全てに出演する契約になってい
るということだが、この契約にあたって本人からは「自分は
将来、子供にサッカーを教える仕事をしたいと考えており、
この3部作は世界中の子供たちに前向きなメッセージを送る
ものになる」というコメントが出されているそうだ。
 また、この3部作の製作では、メル・ギブスン主宰イコン
社のパートナー、ブルース・デイヴィが共同製作に加わって
おり、デイヴィは、興行的に難しいとされた『パッション』
を成功に導いたビジネスモデルを活かして、この作品も成功
に導きたいとしている。上記のようにアメリカでは今一つの
サッカー人気だが、この映画の成功が注目されるところだ。
        *         *
 来年“Charlie and the Chocolate Factory”(チョコレ
ート工場の秘密)の映画化が公開されるロアルド・ダールの
原作で、1970年に発表された“The Fantastic Mr.Fox”(父
さんキツネばんざい)を、ストップモーションアニメーショ
ンで映画化する計画が発表された。
 この計画は、2001年公開の『ザ・ロイヤル・テネンバウム
ズ』などのコメディ作品がアメリカでは高く評価され、ディ
ズニー製作の海洋アドヴェンチャー作品“The Life Aquatic
With Steve Zissou”が近日公開されるウェス・アンダース
ン監督が、元ディズニーのジョー・ロス主宰のレヴォルーシ
ョンで進めるもので、両者にとっては初のアニメーション作
品になるようだ。
 お話は、人里近くに住むキツネ一家のお父さんと、3人の
農場主とのニワトリを巡る攻防戦を描いたもので、最初のニ
ワトリを奪うところから、話がどんどんエスカレートして行
く様子など、ダールらしい機知と多少の毒も含まれた作品。
 因に、ダール原作によるストップモーションアニメーショ
ン作品では、1996年に公開された『ジャイアント・ピーチ』
(James and the Giant Peach)が有名で、本作はそれに続
く作品になることが期待されるものだが、準備状況は、アン
ダーソンと、“Aquatic”でも組んだノア・バウムバックに
よる脚本は、これから執筆されるということで、作品の完成
までにはまだ時間が掛かりそうだ。
 なお、アンダースンは、ロスがディズニー社々長だった当
時に、アニメーションに適した感覚の持ち主として採用し、
一時はピクサーに籍を置いたこともあるそうだが、本人がア
ニメーションを志向せず、実写の監督になっていたそうだ。
しかしディズニーとの契約が切れたところで今回の原作に遭
遇し、この原作はアニメーションの映画化に適していると判
断して、予めダールの遺族から映画化の許可を得た上で、昔
の付き合いのロスに企画を持ち込んだということだ。
 従って、アニメーションの製作については本人が熟知して
いると思われるが、とは言うものの、特にストップモーショ
ンアニメーションは、ディズニーのアニメーター出身だった
ティム・バートンですら、『ナイトメア・ビフォア・クリス
マス』の企画した際に、直接監督はしなかったというくらい
のもので、これをどこまで本気で作れるのか、ちょっと注目
してみたいところだ。
        *         *
 2001年の『ハンニバル』に続いて、2002年に『レッド・ド
ラゴン』が映画化された『ハンニバル・レクター』シリーズ
の最新作で、来年秋に出版が予定されているトマス・ハリス
の新作“Behind the Mask”の映画化計画が、製作者のディ
ノ&マーサ・デ・ラウレンティスから発表されている。
 その発表によると、この新作は、レクターの若き日を描く
もので、リトアニア生まれの少年が、第2次大戦中の悲劇か
ら残忍な殺人鬼になって行く姿が描かれている。そして、そ
の映画化では、脚本を原作者のハリス自身が執筆し、監督を
『真珠の耳飾りの少女』のピーター・ウェッバーが担当する
ということだ。
 なお、ハリスは著作への影響を恐れて『羊たちの沈黙』の
映画化を見ることも避けたと言われているが、今回は古くか
らの友人であるディノ・デ・ラウレンティスの説得で脚本の
執筆に応じ、その脚本は、一読したウェッバーが直ちに監督
を了承するほどの出来映えだったそうだ。
 また、脚本の内容は豊富で、2部作とする可能性もあると
いうことで、その場合には、レクター少年がフランスに移住
し、そしてフランスを脱出するまでを第1部とし、その後の
アメリカでの行動を第2部とすることになるようだ。
 製作者と監督は、近日中にリトアニアとチェコ、フランス
でのロケハンを開始し、同時にキャスティングも開始すると
いうことだが、今回の主演はさすがにアンソニー・ホプキン
スとは行かないもので、レクター役の選考が重要になる。因
に、レクター役には3つの世代の若い俳優が必要ということ
だが、成長してホプキンスのような風貌になることも考慮し
なければいけないだろうし、ホプキンス並とは行かなくても
それなりの存在感も要求される訳で、このキャスティングは
結構大変になりそうだ。
 公開は2006年夏。配給権はユニヴァーサルとMGMがシェ
アしているということだが、日本はどうなるのだろうか。
        *         *
 007シリーズの次回作への出演拒否が話題になっている
ピアーズ・ブロスナンの計画で、1999年に公開された『トー
マス・クラウン・アフェアー』の続編に出演することが発表
された。
 この作品は、元々は1968年にスティーヴ・マックィーン、
フェイ・ダナウェイ共演、ノーマ・ジュイスン監督で映画化
された『華麗なる賭け』(原題The Thomas Crown Affair)
をリメイクしたもので、ブロスナンはこのリメイクの主演と
共に製作も務めていた。そして興行的にも成功したこの作品
には、早い時期から続編が打診されたということだが、ブロ
スナン側では当時は続編を作る意志はなかったそうだ。
 その理由は、当時は続編にする題材が見つからなかったと
いうことだったが、今回はその題材が見つかったようだ。
 その続編は、“The Topkapi Affair”と題されているもの
で、1964年に公開されたMGM映画『トプカピ』の要素が取
り入れられるというもの。64年作は難攻不落のトルコ・イス
タンブールのトプカピ宮殿に所蔵された宝物を、メリナ・メ
ルクーリ扮する女盗賊を中心とした一味が大胆不敵な手口で
盗み出すというお話で、共演のピーター・ユスティノフがオ
スカーの助演賞を受賞している。
 そして今回は、この作品からヒントを得て考えられたもの
で、当然トーマス・クラウンが狙うのはトプカピ宮殿の宝物
ということになりそうだが、映画化は、64年作の単なるリメ
イクではなく、映画の元となったエリック・アンブラーの原
作“The Light of the Day”にも基づくとされていて、ハー
レイ・ペイトンによる新たな脚本が執筆されている。
 またこの続編で、主人公は2001年9月11日にNYに居たと
いう設定になっており、以後の国際情勢を取り入れた現代化
も行われているということだ。
 撮影時期などは未定だが、MGMとしては予定されていた
“Bond 21”の替りに、これも期待できる作品を手に入れた
ことになりそうだ。
        *         *
 続編の流れで、11月27日に日米同時公開された“Saw”の
続編の計画が発表されている。計画しているのは、オリジナ
ルのアメリカ配給を手掛けたライオンズ・ゲイトと、オリジ
ナルの製作を担当したツイステッド・ピクチャーズで、計画
では、2005年2月に撮影を開始して、10月28日の全米公開を
目指すということだ。
 ただしこの続編では、オリジナルを手掛けた脚本、主演の
リー・ワネルと監督のジェームズ・ウォンは製作総指揮の肩
書きになっており、彼らが直接映画に関わるものではない。
つまり、オリジナルのアイデアから、別の脚本家及び監督が
続編を作るということで、ここにプロフェッショナルな脚本
家が入ると、それなりの作品の誕生も期待されるが、オリジ
ナルの新鮮な感覚が再現できるかというと、また別の話にな
るものだ。
 まあ、よく似たケースでは1999年の『ブレア・ウィッチ・
プロジェクト』に対して翌年続編が作られているが、この時
はいろいろ捻りは加えたものの、結局オリジナルの感覚とは
異なるものになってしまって、ファンの賛同は得られなかっ
た。今回は、オリジナルのストーリー性がしっかりしている
ので、あまり変な捻りを加える必要はないが、どんな続編が
作られるか楽しみだ。
 ただし、続編の脚本家も監督もまだ決まっていないという
ことで、そんなことで大丈夫かという気はする。
 因に、ワネルとウォンの2人には、すでにユニヴァーサル
で、“Shhh”というスリラー作品の計画が進行中だそうで、
もはや続編に関われる状態ではなかったようだ。
        *         *
 またまたフィリップ・K・ディック原作の映画化で、今回
は1954年4月号のIf誌に発表された“The Golden Man”と
いう作品が、“Next”という題名で、リー・タマホリ監督、
ニコラス・ケイジの製作、主演により計画されている。
 この作品は、核戦争後の世界を舞台にしたもので、放射能
の影響で誕生したミュータントの男が、超能力によって普通
の人々を支配するようになるが…というお話。ディック本人
の言葉によると、ミュータントという存在が必ずしも恐ろし
いものではないけれども、同時に人類とは相容れない存在で
あることを描きたかった作品だそうだ。
 そしてこの原作から、1990年の『トータル・リコール』を
手掛けたゲイリー・ゴールドマンが脚色を担当している。因
に『トータル・リコール』はダン・オバノンが最初の脚本を
手掛けたものだが、その後幾多の紆余曲折があり、その中に
いろいろ登場する脚本家の一人ということだ。
 なお、ディックの原作では、1982年の『ブレード・ランナ
ー』以降、いろいろなSFアクション映画が製作されている
が、特に最近では、フォックス製作の『マイノリティ・リポ
ート』、パラマウント製作の『ペイチェック』と各社で大型
予算の大作映画が作られており、この後にも、キアヌ・リー
ヴス主演で、ワーナー製作の“A Scanner Darkly”も控えて
いる。今回の計画も、その大作路線の一角を担うものという
ことで、製作はレヴォルーション。ジョー・ロス主宰の同社
はソニー傘下の会社で、いよいよ大手各社の揃い踏みという
感じになってきたようだ。
        *         *
 ヴィデオゲームの映画化の情報で、コナミが発売している
ホラーアクション“Silent Hill”を実写で映画化する計画
が発表されている。
 この計画は、コナミと、『バイオハザード』を手掛けたプ
ロデューサーのサミュエル・ハディダが進めているもので、
すでに脚本を『パルプ・フィクション』のロジャー・アヴェ
リーが執筆し、監督を『ジェヴォーダンの獣』のクリストフ
・ガンズが担当することも公表されている。
 ゲームのストーリーは、サイレント・ヒルと名付けられた
ゴーストタウンと化した町を舞台に、その町に隠された秘密
を探る母親と娘を主人公としたもので、その町で起きる超常
現象などが描かれている。特にアクションというものではな
く、謎解きの方に主眼が置かれているようだが、コナミでは
すでに3部作としてゲームを発表しているものだ。
 そして、このゲームの映画化が進められているもので、今
回の情報ではキャスティングは紹介されていなかったが、撮
影は2005年3月に開始されるということだ。なお、配給はフ
ォーカスが担当しているが、フランス圏はハディダが掌握し
ており、一方アメリカは未定だそうだ。
 因にハディダは、現在トニー・スコット監督の“Domino”
という作品を製作中で、一方、2003年1月15日付の第31回で
紹介した“Onimusha”は、準備中ということになっていた。
        *         *
 ピュリツァー賞受賞作家で、『スパイダーマン2』の脚本
の第1稿を手掛けたことでも知られるマイクル・シェイボン
が、またもやちょっと不思議な作品の脚本に関っている。
 今回、シェイボンが脚本を執筆しているのは、“Snow and
the Seven”。ディズニー長編アニメーションの第1作『白
雪姫』(Snow White and the Seven Dwarfs)を再話すると
いうものだが、ディズニーで進められているこの計画では、
監督を『マトリックス』等のアクションコレオグラファーの
ユエン・ウーピンが担当することになっている。
 実はこの計画、元々はウーピンが英語作品の第1作として
以前から温めていたもので、以前の題名は“Snow White and
the Seven Shao Lin”。オリジナルの脚本は、ジョッシュ
・ハーマンとスコット・エルダーが執筆していたものだ。
 つまりこの作品は、『白雪姫』を、少林寺拳法と中国ファ
ンタシーの捻りで再話するというカンフー映画なのだが、そ
れにしてもこの計画を、ディズニーで実現するというのも気
が利いているし、その脚本をピュリツァー賞作家が手掛ける
というのも面白いところだ。
        *         *
 最後に、クライヴ・バーカー主宰の映画プロダクション、
ミッドナイト・ピクチャー・ショウから、未来もののホラー
スリラー“Plague”の計画が発表されている。
 この作品は、ハル・メイスンバーグとティール・ミントン
の脚本から、メイスンバーグが監督するもので、ある日、世
界中の子供たちが原因不明のコーマに陥る。ところがそのま
ま成長を続けた子供たちがあるとき目覚め始め、そして両親
を殺戮し始めるというもの。バーカーらしい、かなりすごそ
うな内容だが、撮影は2月に開始されるということだ。
 また、バーカーの映画作品では、フォックスで自作の短編
を映画化した“Dread”という作品の製作中ということで、
続いてユニヴァーサルで、これも自作の“Tortured Souls”
という作品を監督する計画だそうだ。



2004年11月14日(日) ポーラー・エクスプレス、Mr.インクレディブル、ふたりにクギづけ、プリティ・プリンセス2−ロイヤル・ウェディング、ネバーランド

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ポーラー・エクスプレス』“The Polar Express”    
クリス・ヴァン・オールズバーグ原作の『急行「北極号」』
をロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演で映画化し
た作品。                       
オールズバーグの映画化では、過去にロビン・ウィリアムス
主演で実写(VFXを含む)ドラマ化した『ジュマンジ』が
あるが、今回は、原作の絵をそのままCGI化し、さらにハ
ンクスらの演技をデータ化してCGIに取り込む手法が採ら
れた。                        
つまり絵本の中にハンクスらが飛び込んで演技をしている感
じだ。そしてこの技術によりハンクスは、主人公の少年とそ
の父親、車掌、ホーボー、そしてサンタクロースと5役を一
人で演じている。(なお11月12日に行われた記者会見では、
記者会見ではもう1役あるという意見が出されたが、それは
他のキャラクターに操られているものだから役ではないとい
うのがゼメキスの考えのようだ)            
物語は、原作に沿っているが、10数ページの絵本から長編を
作り出すためにはいろいろなエピソードが付け加えられてい
る。その多くは全く新規のものだが、中には、原作の絵の前
と後のシーンといったものもあり、これは原作の読者へのプ
レゼントという感じだ。なお、エピソードの追加には、原作
者のオールズバーグもアイデアを出したそうだ。     
それにしても、作品の全体は見事に子供の絵本の感じになっ
ている。実際、アメリカでの年齢制限のレイティングはG。
全くの年齢制限なしということで、これはディズニーアニメ
ーションでも、最近はなかなか取れないくらいのものだ。 
従ってこの作品を大人の目で見ると、多少の物足りなさは禁
じえない。しかし、ここまで見事にGレイトを勝ち取った映
画製作者には敬意を表して、大人もしっかりと童心に帰って
鑑賞するべき映画ということだろう。          
とは言っても、列車の暴走やプレゼント工場での冒険など、
スピード感あふれるシーンの数々は、一級品以上のアクショ
ン映画の仕上がりになっている。この辺は見事なものだ。 
ただし今回は、新技術のパフォーマンス・キャプチャーに拘
わり過ぎたせいか、キャラクターの表情が少し乏しい感じが
する。これは例えば車掌などの大人のキャラクターではあま
り目立たなかったが、子供の表情は特に平板な感じがした。
例えば“The Lord of the Rings”のスメアゴルの表情など
は、一々アニメーターが手書きで描き込んでいる訳だが、こ
の作品ではそういう作業はしていないということだろう。こ
れは技術の進歩のためにも、敢えてしなかったという感じも
あり、それに対する一般観客の反応が注目されるところだ。
なおアメリカでは、Imax 3-Dによる上映も同時公開で行われ
る。日本でのImax上映はまだ未定のようだが、2D版で見て
いてもかなりの迫力のあるシーンが描かれており、これはぜ
ひとも3Dで見てみたいものだ。            
                           
『Mr.インクレディブル』“The Incredibles”     
ディズニー=ピクサー・アニメーションの最新作。    
両親と子供たち、家族のそれぞれがスーパーパワーを持つ一
家の活躍を描いたアドヴェンチャー物語。        
主人公のMr.インクレディブルは、スーパーパワーを使って
幾多の危機から人々を救い続けてきた。しかしあるとき、予
期せず救われてしまった人物からその行為を訴えられ、いろ
いろなパワーを持つ仲間達とともにそのパワーの使用を禁じ
られてしまう。                    
そして15年、彼らは政府機関の保護プログラムの管理の下、
一般市民に混じって平凡な生活を送ろうとしていた…が、彼
らには天性の人助けの心があり、それは現代社会の生活にお
いて、特に企業活動の中では、周囲との軋轢を生むことの多
いものであった。                   
さらにMr.インクレディブルには、同じくスーパーパワーの
持ち主の妻との間に3人の子供が誕生したが、子供たちもま
たパワーに使用を禁じられているために性格が暗くなりがち
で、家庭内の問題も山積みとなっていた。        
そんなある日、Mr.インクレディブルに、政府機関の代理人
と称する女性から、極秘任務の依頼が届けられる。それは、
絶海の孤島に設けられた秘密基地で、極秘に開発された秘密
兵器の暴走を止めるというものだったが…        
邦題は父親の名前になっているが、原題はそうではないとこ
ろに注目。この原題にこそ物語の本質がある訳で、このお話
は父親個人の物語ではなく、家族全体の物語なのだ。   
それにしても、ピクサーの物語を展開させる上手さには感心
する。オリジナルのアイデア(この作品で言えばパワーの使
用を禁じられたスーパーヒーロー)から、意外性に富んで、
しかも実にありそうな展開が見事に生み出されている。  
これは登場キャラクターたちの性格の捉え方の上手さでもあ
るのだろうが、尋常ではないキャラクターなのに、こんな一
家が隣にいてもおかしくないような、そんな現実味を持った
キャラクターたちが見事に描かれているのだ。      
その一方で、主人公たちの主戦場となる秘密基地の楽しさ。
ここにも子供から大人まで堪能できる仕掛けが一杯に詰め込
まれており、こういったサービスも、ピクサー作品の人気の
秘密と言えそうだ。                  
いわゆるスーパーヒーローもののパロディも満載で、その種
の作品のファンにも納得できる仕掛けも存分に仕込まれてお
り、そういった目で見ても楽しめる作品だった。     
                           
『ふたりにクギづけ』“Stuck on You”         
マット・デイモンとグッレグ・キニアが、30代まで成長した
結合双生児を演じる、かなり過激なコメディ作品。    
東部の漁村でハンバーガーレストランを営むウォルトとボブ
兄弟は結合双生児。しかも、絶妙のコンビネーションで面倒
な客の注文も次々こなす人気者だった。しかし俳優志望で毎
年「一人芝居」を上演しているウォルトには、ハリウッドで
スターになる夢があった。               
そんなウォルトの夢を叶えるため2人はハリウッドへと旅立
ったが、そこはいろいろな思惑が渦巻く大変な場所だった。
それでもウォルトは、偶然も作用してシェール主演のテレビ
番組の共演者の座を得、一躍人気者となったが…     
製作、脚本、監督は『メリーに首ったけ』などのファレリー
兄弟。従来から毒のあるコメディで人気のある兄弟の作品だ
が、今回はそれにもまして過激な設定で、普通ではなかなか
実現しそうもない感じのものだ。しかし、それを見事にコメ
ディに昇華させているところがただ者ではない。     
しかもこれに、デイモン、キニアといういずれもオスカーノ
ミネートの実力俳優を主演させ、さらに共演者にはシェール
本人や、メリル・ストリープも本人役で、かなりポイントと
なる役柄で登場するなど、映画ファンをうならせる作品とな
っている。                      
腰の部分で繋がった結合双生児の2人が、いかにして単独で
番組に出演するかなどの問題が見事に解決されていたり、2
人のコンビネーションプレイの見事さなど、いろいろな要素
が見事に組み合わされたすばらしい作品だった。     
                           
『プリティ・プリンセス2−ロイヤル・ウェディング』  
     “The Princess Diaries 2: Royal Engagement”
2001年に公開されたメグ・キャボット原作の少女小説の映画
化の続編。前作で、ロサンゼルスの女子高生から、突如ヨー
ロッパの小王国の王女になった主人公が、今度はその国の女
王の座に挑戦する。                  
プリンセス・ミアは21歳の誕生日を迎え、女王の座に着ける
ようになる。そこで現女王の祖母クラリスは退位して、ミア
に女王の座を譲ろうとしたのだが…誰もいないと思われてい
た王位継承者がもう一人いたことが判明。しかもそれは、王
国の政権奪取を狙う子爵の甥だった。          
一方、女王となるためには結婚が条件であることが王国の法
の定めであり、その結婚式は30日以内に行われなければなら
ないことになる。こうして花婿捜しが始まり、選ばれた理想
的なイギリス青年との結婚式の日取りも決定するが…   
『プリティ・ウーマン』の大ヒットを生み出したゲイリー・
マーシャル監督が前作に引き続き監督を担当。ミア役のアン
・ハサウェイ、女王役のジュリー・アンドリュースを始め、
前作の登場人物もそのまま引き継がれている。      
マーシャル監督はソフィスティケートされたコメディでは抜
群の力を発揮するが、本作の開幕の部分で、ちょっとドタバ
タコメディ調に進行する部分は少しリズムが合わないように
も感じた。しかしそれも発端だけで、本編が始まれば笑いあ
り、感動ありの見事なコメディが展開する。       
物語も、若年向けのロマンティックコメディにしては、政権
争いといった政治的なものもそれなりに描けていて、大人の
目で見てもそれなりに面白くなっている。その点で、続編を
作るだけの価値はあったという感じだ。         
そしてもう一つの目玉は、劇中でのアンドリュースの歌声。
喉の病気とかで歌は歌えないということだったが…確かに往
年の朗々と歌うという感じではないし、若い歌手の応援を得
たりはしているものの、『メリー・ポピンズ』や『サウンド
・オブ・ミュージック』のマリア先生を思い出させる優しい
歌声には、思わず涙してしまうところだった。      
                           
『ネバーランド』“Finding Neverland”         
ジェームズ・M・バリが『ピーター・パン』を書くに至った
経緯を、事実に基づいて描いたとされる戯曲“The Man Who
Was Peter Pan”の映画化。               
『チョコレート』でハリー・べリーにオスカーをもたらした
マーク・フォースターが監督した。           
1903年、ロンドンのデューク・オブ・ヨーク劇場。上演され
たバリの新作戯曲は評判が芳しくなく、興行主のフローマン
は次の戯曲の執筆を要求する。そして翌日、犬の散歩でケン
ジントン公園を訪れたバリは4人の息子を連れた未亡人シル
ヴィアと出会う。                   
その子供たちの中でも、父親の死で大きな心の傷を負ったピ
ーターが気になるバリは、翌日もその場所で会うことを約束
し、徐々に子供達を支援する行動に動き出す。しかし、美し
い未亡人の家に出入りするバリの姿は噂の種となって行く。
またシルヴィアの母親も、妻のいるバリが傍に寄ることは、
娘の再婚の妨げになるとバリを拒否するが…その時すでにシ
ルヴィアの身体は病魔に侵されていた。そして、1904年12月
27日子供たちの心を癒すために書かれた戯曲『ピーター・パ
ン』が上演される。                  
事実はもっとどろどろしたものだったようだが、映画は未亡
人との関係より、バリと少年ピーターとの心の交流を主題に
して、喪失の悲しみを乗り越えて行く力の偉大さを描く。そ
の点で『チョコレート』の監督が手掛けた理由が判るような
気がした。                      
出演は、バリにジョニー・デップ、未亡人にケイト・ウィン
スレット、その母親役にジュリー・クリスティ、興行主にダ
スティ・ホフマンの錚々たる顔ぶれが揃うが、注目は少年ピ
ーターを演じたフレディ・ハイモア。          
すでに『トゥー・ブラザース』で日本でも知られるが、本作
の後にはネスビット原作の『砂の妖精』に出演、さらに来年
夏公開の“Charlie and the Chocolate Factory”ではジョ
ニー・デップの相手役でチャリーを演じる。       
映像効果にはCGIを含めたVFX等も使用され、ファンタ
シーに満ちた物語が見事に映像化されている。      



2004年11月06日(土) 第17回東京国際映画祭(コンペティション+アジアの風)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、東京国際映画祭のコンペティション、※
※およびアジアの風部門で上映された作品から紹介ます。※
※なお紹介するのはコンペティション部門全作品15本と、※
※アジアの風部門の中で見ることのできた7本です。  ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<コンペティション部門>               
『風のファイター(韓国公開バージョン)』       
極真空手の大山倍達(韓国名:チェ・ペダル)が、日本一の
空手武道家になるまでを描いた韓国の人気コミックスの映画
化。                         
元々朝鮮半島の出身だったペダルは、戦前の日本に密航して
航空学校に入学、しかし特攻は拒否して終戦を迎える。そし
て池袋で浮浪児のような生活を始めるが、そこで朝鮮で彼の
家の使用人だった達人と再会し、強くなりたいと思うように
なる。                        
やがて芸者の陽子とつきあうようになったペダルは、米兵か
ら婦女子を守る正義の味方として活躍するようになるが…。
日本でも評判になった『リベラ・メ』のヤン・ユノ監督の作
品で、韓国ではこの夏大ヒットしたということだ。今回の上
映ではタイトルに但し書きついたが、韓国俳優が喋る日本語
のせりふにはかなり辛いものがあった。         
しかし、メインの相手役の陽子は平山あや、敵役の加藤は加
藤雅也が演じるなど、その辺りがちゃんとしているのは良か
った。                        
この他にも、再現された日本シーンにはかなり誤解や間違い
も目立つが、この辺は日本人の観客でも最早気が付かないよ
うな部類に属しそうだ。あえてその部分を取り上げて、文句
を言い出す連中は出てきそうだが、この辺は鷹揚に楽しみた
い。                         
姫路城などの現地ロケも上手く取り込まれているし、娯楽作
品としては良い感じだった。特にスタントなしで演じられた
空手のシーンは、専門家が見るとどうかは判らないが、それ
なりに様になっていて気持ちが良かった。        
                           
『るにん』                      
俳優の奥田瑛二が監督した第2作。           
松坂慶子の主演で、江戸時代(天保6年)の流刑地八丈島を
舞台した愛憎物語。                  
松坂が演じる女は、元々が廓の出身で流刑地でも娼婦の仕事
で生活を続けている。そして役人にも取り入って赦免状を待
っているが、何時まで待っても届きはしない。そんな彼女は
潮の音を聞き分け、何かが変りそうだと感じている。   
そんな八丈島に新たな流人が到着する。その中にはやはり廓
出身の若い女や、何やら仕掛けそうな若い男の姿もあった。
女は黄八丈の機屋に行き生活を立て直そうとする。男は島を
巡って、いろいろと調べ始める。そして彼らによって島には
変化が訪れるが…。                  
絶海の孤島の流刑地という設定では、『パピヨン』を思い出
さざるを得ないが、本作は、そこからは着かず離れず上手く
展開されている。女性を主人公としているので変化は付け易
かったかも知れないが、オリジナル脚本にしては骨太の良い
作品だった。                     
幕府の禁制品が流人の手元にあったり、かなり強引な展開も
あるが、それはフィクションとして認める範囲だろう。芸術
貢献賞は別の作品に行ってしまったが、同じ日本映画なら、
僕はこの作品の方が芸術には貢献していると感じたものだ。
                           
『インストール』                   
芥川賞を史上最年少で受賞した綿矢りさ原作による映画化。
自宅マンションの押入に隠したパソコンで、小学生の男の子
と登校拒否の女子高生が風俗チャットを始め、大成功してし
まうというお話。                   
こういうことが有り得ない訳ではないし、原作もベストセラ
ーになっているのだから、内容をどうこうと言うつもりはな
いが、それにしても幼い発想の作品だ。いまさらこんなもの
を見せられても、感動もしないし、ここから得るものなど何
もない。                       
ただの娯楽作品というのならそれでもいいが、これを映画祭
に出品するというのは何かの間違いだろう。今回は日本作品
の3本の内2本は間違いだった(1本は受賞しているが)と
思うが、他に出品できる作品がなかったのかと問いたくなる
感じだ。                       
昨年出品のの日本映画は、好き嫌いの問題を別にすれば、そ
れなりに意欲的な作品だったと思う。しかし今年は、何か選
考の仕方が変だったとしか言いようがない。少なくとも星取
表で下から数えて2本目と3本目の作品が日本映画というの
は問題だろう。                    
                           
<アジアの風部門>                  
『ジャスミンの花開く』                
チャン・ツイィーが、ジャスミンの中国名に準えて茉、莉、
花と名付けられた三代の母子を演じ分け、ジョアン・チェン
が、それぞれの母親(ツイィーの成長した姿)を順番に演じ
て、第2次世界大戦前から現代にいたる中国を描いたエピッ
クドラマ。                      
戦前の映画スターを夢見る少女や、戦後を力強く生き抜く女
性などを、ツイィーが可憐にまた骨太に演じ分ける。特に、
映画の巻頭での夢見る少女の姿は、『初恋のきた道』の頃を
思い出させてファンには堪らないところだ。       
その発端で、ツイィーは女手一つで切り盛りしている写真館
の一人娘。ある日映画のプロデューサーに誘われてスタジオ
を訪れ、スクリーンテストを受けて女優になるのだが…。こ
のスクリーンテストでの余りにも下手糞な演技も見ものだっ
た。                         
また、映画では主人公の暮らす写真館の名前が時代ごとに変
って行くのも、面白く時代の変化を表わしており、その辺の
端々にも良く気の使われた作品という感じがした。    
監督は、チャン・イーモウ作品の撮影監督などを務めたホウ
・ヨンのデビュー作。カメラもしっかりしているし、それ以
上に戦前戦後の中国の風物が見事に再現されている。   
物語も、ほぼ同じ話が3回繰り返されるにも関わらず、それ
ぞれの時代背景や社会情勢でまったく違う展開になる。その
辺の面白さも見事な作品だった。            
                           
『恋愛中のパオペイ』                 
現代中国を舞台にした現代的なラヴ・ストーリー。ナント映
画祭のグランプリやベルリン映画祭などでも受賞歴のある女
性監督リー・シャオホンの作品。            
ヴィデオテープに残された男が心情を吐露する映像と、その
テープを偶然手に入れた女性パオペイの恋愛関係が描かれる
が…。確かに雰囲気は伝わってくるし、主人公たちの行動も
判るのだが、何か言いたいことが伝わってこない、そんな印
象を受けた。                     
巻頭では、密集した住宅が並ぶ住宅街を取り壊して行く風景
に続いて、そこに高層ビルを建てるCGI映像が挿入された
り、海外出張する男の乗る飛行機の窓の外をパオペイが飛ん
でいる映像があったりなどで、興味は繋がれる。     
しかし全体的には単純な男女の物語の中に、それらのシーン
の脈絡がうまく溶け込んでいない感じがした。なお、音楽に
は小室哲哉が参加して、KEIKOが歌うエンディング曲も
提供している。                    
ところで映画の中でパオペイについて、「愛称は山口百恵だ
った」というせりふがあり、多分中国語でもそうなのだろう
が、これが英語の字幕では、「Audrey Hepburn」となってい
て、なるほどという感じがした。            
                           
『可能なる変化たち』                 
「アジアの風」部門で最優秀アジア映画賞を獲得した作品。
韓国での脚本コンテストの受賞作の映画化ということで、前
評判はかなり高かった。実際受賞も果たした訳だから、その
評価も妥当ということだろうが、僕にはあまり感心できる作
品ではなかった。                   
30代半ば男2人が、生活に飽きてアバンチュールを楽しもう
と決意する。そして、一人はネットで知り合った女性を呼び
出し、もう一人は学生時代の後輩を呼び出す。こうして望み
通りのアバンチュールがスタートするのだが…      
最近の韓国映画なので、ベッドシーンはかなり過激に描かれ
る。ただし、今まで紹介された作品では、それなりに意味を
持った描き方だったと理解していたこれらのシーンだが、こ
の作品で全くの願望充足でしかない。          
映画全体がつまらないと言うか、何の意味もなさないばかば
かしさに終始しており、不快さだけが残る感じだった。確か
に世間がどんどん不条理になって行く中で、この不快さを映
画の価値と捉える向きもあるのだろうが、僕はそのような価
値観には賛同しない。                 
                           
『見知らぬ女からの手紙』               
1948年にジョーン・フォンテインの主演で映画化された作品
(邦題『忘れじの面影』)のリメイク。1997年公開の『スパ
イシー・ラブスープ』などの主演女優シュー・ジンレイの脚
本・監督・主演による作品。              
本作の舞台は1949年の北京。作家の男の許に1通の手紙が届
く。そこには18年前に彼と巡り合い、その後も何度も顔合せ
ながら、彼に自分の思いを伝えられなかった一人の女性の生
涯が綴られていた。                  
彼女は、彼の子を身籠もりながらもその事実さえも伝えず、
男の目には彼女の面影すらも残っていない。       
ジンレイは1974年生まれだそうだが、18年間という長い年月
に渡るこれだけの物語を見事に描き切っている。実際、これ
だけの期間に渡る物語の時代背景の把握なども容易ではなか
ったはずだが、この脚本までも手掛けているというのは大変
なことだ。                      
97年の主演作は見ており、コメディ調の青春映画だったと記
憶している。本作はジンレイの監督第2作のようだが、これ
からも期待して見ていきたいと思わせた。        
                           
『美しい洗濯機』                   
思い通りに動かない洗濯機を巡って描かれるちょっとファン
タスティックな作品。                 
主人公は、販売店で一目見て気に入った中古の洗濯機を買っ
てしまう。しかしその洗濯機は途中で動かなくなり、修理を
依頼するにもメーカーでは保証期間切れで、販売店も取り合
ってくれない。                    
ところがある深夜、洗濯機のそばに一人の女性が現れる。そ
して女性は、かいがいしく手で洗濯を始めるのだが…   
これだけ書くと、洗濯機に宿った精霊が登場するファンタシ
ーという感じだが、この後は殺人事件が起ったり、いろいろ
殺伐としたムードになってしまう。かと言ってホラー仕立て
という訳でもないし、何とも中途半端な作品だった。   
ファンタシーならファンタシー、お笑いならお笑い、ホラー
ならホラーでそれぞれの目的を持って作ってくれないと、観
客はどう楽しんでいいのか混乱してしまう。作品の意図も見
えてこないし、全く何のために作られた作品なのか理解でき
ない作品だった。                   
ヴィデオ作品で画質が悪い上に、僕の見た上映ではスクリー
ン横の非常口のランプが消灯されず、見辛かったのも評価を
下げた。                       
                           
『ひとりにして』                   
2001年の映画祭で特別招待上映された『レイン』を監督した
パン兄弟の片割れ、ダニーの監督作品。双子のパン兄弟は基
本的には、オキサイドが監督で、ダニーは編集者だったはず
だが、本作はオキサイドの製作で、ダニーの監督となってい
る。                         
主演のイーキン・チェンが演じるのは双子の兄弟。兄は発展
家で今も海外で派手に暮らしているが、その陰に隠れた形の
弟は消極的で女性関係にも恵まれず、香港でゲイの人生を送
っている。                      
そんな弟の許に兄が帰国してくる。ところがその兄は、弟の
免許証を携帯して車を運転中に事故を起こし、弟と思われた
まま昏睡状態に…。そこにはゲイの恋人も駆けつけるが、本
物の弟は真実を告げることができない。         
一方、兄の携帯電話を受けた弟は、タイに住む兄の恋人に事
情を説明するが、彼女からはすぐに来いと呼び出され、兄の
身代わりで融資の交渉に臨むのことに…。しかしその交渉が
失敗して2人は窮地に立たされることになってしまう。  
双子の兄弟が製作する双子のお話ということになるが、演じ
るのは一人の俳優でその辺がちょっとややこしいが、これを
見事に演じ分けているのも見所だ。そしてこの双子の登場シ
ーンは当然VFXで描かれるが、パン兄弟は元々VFXも得
意な訳で、最後には大サービスも用意されている。    
ただ、映画の中では中国語とタイ語が使い分けられているよ
うなのだが、その区別が日本版の字幕で判然としなかった。
最近マルチ言語の映画が増えているが、その言語に意味があ
るときの字幕の付け方には工夫が要りそうだ。      
                           
『ビヨンド・アワ・ケン』               
東京国際映画祭でワールドプレミアとして公開された作品。
事前の資料では最後まで上映時間が未定という、本当にぎり
ぎりで完成された作品のようだ。            
恋人との関係も順調な女性のもとに、元彼女と称する女性が
現れる。彼女は恋人を奪い返すつもりはないが、インターネ
ット上に公開された自分のヌード写真を返して欲しいと要求
する。それは彼のパソコンに入っていると言うのだが…  
この要求に、自分も別れた後で写真を公開される恐怖を感じ
た主人公は、彼女に協力して彼の部屋に侵入することを試み
るが、消防士の彼はかなり防備が固かった。こうして彼に部
屋に侵入するための作戦が始まるが…          
彼と付き合う振りをしながら、彼の部屋への侵入方法を模索
する。その過程が、実に納得ずくで見事に描かれていて感心
した。その展開も実にスピーディでエンターテインメントに
満ちた作品だった。                  
しかも・・・という感じが、これも見事としか言いようのな
いもので、最近流行りの時間軸の入れ替えや、他の視点から
の映像も上手く決まっている感じだった。        
なお、最終的な上映時間は1時間40分になっていたようだ。



2004年11月05日(金) 第17回東京国際映画祭(コンペティション)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、東京国際映画祭のコンペティション、※
※およびアジアの風部門で上映された作品から紹介ます。※
※なお紹介するのはコンペティション部門全作品15本と、※
※アジアの風部門の中で見ることのできた7本です。  ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<コンペティション部門>               
『ココシリ:マウンテンパトロール』          
コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した作品。  
ココシリとはチベットの地名で、中国語では「可可西里」と
書くらしい。映画の中の説明だと、チベット語では「美しい
山」、モンゴル語では「美しい娘」の意味だと言う。映画は
この地域で1996年から97年に掛けて起きた実話に基づくもの
だそうだ。                      
この地域でのチベットカモシカの個体数が、毛皮を狙った密
猟で激減し、それを守ろうとした人たちが民間で山岳パトロ
ールを組織して密猟団のボスを追跡する。その行動が同行し
た新聞記者によって報道され、最終的には政府を動かしたと
いう物語だ。                     
物語は、パトロール隊員の一人が密猟団に殺され、それを記
事にしようとした新聞記者がココシリを訪れるところから始
まる。ちょうどその時、密猟団の動きが察知され、記者も同
行してそれを追跡することになるのだが…        
彼らは民間組織ゆえに資金もなく、人材も乏しいままで、荒
野を追跡して行く。これに対して密猟団は、当然資金も豊か
で人材や武器も揃っている。しかもそこには、過酷な自然条
件や高山病、さらに流砂などの危険が待ち構えているのだ。
以前に紹介した『運命を分けたザイル』も今回の特別招待作
品として上映されているが、それにも増して過酷なサヴァイ
ヴァルが繰り広げられる。               
それにしても、ここまでしてカモシカを守ろうとした彼らの
原動力は何だったのか…。それが映画の中にもほのめかされ
ているように、決してきれいごとだけではなかったという辺
りも、映画の真実味を増しているように感じた。     
                           
『ニワトリはハダシだ』                
コンペティション部門で最優秀芸術貢献賞を受賞した作品。
舞鶴を舞台に、検察トップの汚職事件を暴く証拠を巡って、
知的障害児とその家族、若造の刑事、擁護学級の女教師、そ
れに指定暴力団の組長らが繰り広げるどたばたコメディ。こ
れに、戦後の引揚げ船の沈没で祖国に帰れなかった朝鮮人の
話などが絡む。                    
『男はつらいよ』第1作の共同脚本や、第3作では監督も務
めた森崎東の監督作品。                
それにしても面白くない作品だった。主人公たちの行動の意
味も判らないし、最終的にこれで何が解決したのかも判らな
い。多分脚本家の頭の中では決着しているのだろうが、それ
がちゃんと説明されていない感じだ。障害児をこのように描
くことにも疑問に感じた。               
東京国際映画祭のコンペティションは、以前は監督3作目ま
での作品という規定があったが、昨年からその規定は外され
ている。とは言うものの、功なり名を遂げた人が応募すると
いうのはいかがなものか。増してや審査委員長がこの人の時
にという感じがした。                 
会場で配られた各紙の記者による星取表では、最低に近い評
価だったが、僕もその評価には異論がない。この作品のどこ
が芸術に貢献したのかも判らない。           
                           
『サマーソルト』                   
オーストラリアで短編作品やテレビドラマでの実績を持つ女
性監督ケイト・ショートランドの長編デビュー作品。製作に
は、ジェーン・カンピオンが名を連ねていた。      
シドニーでシングルマザーの母親と暮らしていた少女が、あ
るきっかけで家を飛び出し、スキーリゾートにやってくる。
そして、その土地で奔放な生活をしようとするのだが…。い
ろいろな社会情勢が彼女を成長させて行く。       
さすがにカンピオンが目を付けた作品だけのことはあるとい
う感じで、現代の若い女性の姿が見事に描かれている。星取
表の評価はかなり割れていたようだが、僕は、寒々としたス
キーリゾートという背景の中で、女性の心情がうまく描かれ
ていたと思った。                   
なおこの作品は、最近発表されたオーストラリアの映画賞で
はかなりの受賞を果たしたようだ。           
それから、映画の巻頭のシーンで部屋に置かれたテレビにア
ニメーションが写っていて、「東京…」というような日本語
のせりふが流されていた。エンドクレジットで確認すること
ができなかったが、何の作品か気になるところだ。    
                           
『狼といた時』                    
ロシアの寒村を舞台に、ふとしたことから傷ついた雌オオカ
ミを保護してしまった猟師を主人公に、オオカミと人間との
共生の問題を提起した作品。              
物語はオオカミと人間の関係で描かれるが、そこには宗教や
政治理念などの、互いに相容れない思想の対立の問題が描か
れ、寓意に満ちた作品と理解することもできる。     
とある村の家畜がオオカミに襲われる。村人はオオカミ狩り
の名手といわれる猟師の男にその退治を依頼するのだが、よ
うやく仕留めた雌のオオカミにまだ息が合ったことから、猟
師はそれを連れ帰り、介護して檻で飼い始める。     
ところが檻に閉じ込められたオオカミは雄を呼び寄せてしま
う。この事態に村人たちは、猟師に檻にいるオオカミの処分
を迫るのだが…                    
自然の中でのオオカミの生態なども良く描かれ、特に子供の
オオカミの愛くるしさが見事に写されている。実際には、主
人公を演じた俳優も何度も咬まれるなど、大変な撮影だった
らしいが、雪に包まれていても、何となく暖か味のある映像
も素晴らしかった。                  
                           
『ウィスキー』                    
コンペティション部門で東京グランプリと主演女優賞を受賞
した作品。                      
主人公は、老朽化した靴下工場の初老の社長と、彼の片腕と
も言えるベテランの女性従業員。毎朝同じ時間に出勤して他
の従業員を迎え入れ、同じ靴下を製造して発送する。社長室
のブラインドが壊れても、その修理もなかなか行われない。
そんな全く変らない日々に、ある日変化がやってくる。外国
に出てやはり靴下製造をしているが、奇抜なファッションな
どを取り入れて成功している社長の弟が、母親の墓の建立に
合わせて帰国してくることになったのだ。        
ところが社長は、弟には家族がいると言っていたらしく、ベ
テラン従業員の女性に数日間の妻の代役を頼み込む。こうし
て弟がいる間だけの夫婦生活が始まったのだが…。弟はなか
なか帰ろうとせず、ついには一緒にリゾート地への旅行をす
るはめに…                      
確かに面白いし、人間の機微を描いて秀逸な作品だと思う。
特に結末には笑えた。星取表の評価でも、『ココシリ』に次
ぐ2番目に高いものだった。しかし、どちらが優れているか
と言われれば、僕は『ココシリ』の方に軍配を挙げる。  
今回の結果については、審査委員長の普段の作品のジャンル
に近いものが選ばれたという感じを強く持つ。確かに今年の
カンヌも審査委員長の趣味で選ばれたようだが、国際映画祭
のグランプリがそんなことでいいのかという疑問は残る。 
なお、本作はNHKが製作した作品だったようだ。    
                           
『ライス・ラプソディー』               
シンガポールの中華街が舞台のホームコメディ。     
主人公は、女手一つで3人の息子を育て上げ、しかも屋台か
ら始めたという「海南鷄飯」の店を成功させた立志伝中の女
性。ところが、彼女の3人の息子の上2人はゲイをカミング
アウトしており、末っ子の様子もおかしい。       
そこで一計を案じた彼女は、近所の料理店の主人と図って、
フランスからの女子留学生をホームステイさせ、末息子の気
を彼女に向かせようとしたのだが…。          
こういうシチュエーションは、最近の中国語圏の映画で多く
なっているような気がする。まあ、日本のテレビでもカマが
売りの芸人が幅を利かせているから状況は変らないのかも知
れないが、もはやゲイが文化として定着してしまっているよ
うだ。                        
そういう状況の話は別として、物語は古風な意識に固まった
母親と、新しい文化に染まった息子たちの確執という描き方
で、それなりに巧く作られている。この辺の巧さを見ると、
ゲイに対する考え方では日本より進んでいるようだ。   
ただ、フランス人女子留学生の置かれている状況が今一つ不
明確でもどかしいが、これは物語の触媒として作用する部分
なので、かえって不明瞭で良いということなのだろう。  
なお「海南鷄飯」とは、蒸し鶏の料理のようだったが、海南
島からの移民たちが作り上げた家庭料理なのだそうで、元々
の海南島にはなかったものだそうだ。          
                           
『時の流れの中で』                  
台湾の故宮博物館を舞台に、そこに働く男女と、そこに所蔵
されている書を訪ねて日本からやって来た若者を巡る物語。
その書は、左遷された武人が書いたもので、それが書かれた
ときの武人の心境などが、研究の成果として克明に説明され
て行く。また、その書自体も数奇な運命を辿ったものとして
説明されるが、それ自体が現代の物語とどう関わるのか。 
確かに、日本人青年の思いなどはそれによって明らかになる
のだが、肝腎の主人公であるはずの台湾側の男女の話とのつ
ながりが見えてこず、結局はただのエピソードでしかないも
のになってしまっている。それなら何でこんなに丁寧に描い
たのかという感じだ。                 
結局、主人公の男女の話は最後までごたごたしたままで、何
が言いたいのかさっぱり理解できなかった。       
最初に故宮博物館製作の映画とクレジットされるので、もっ
と所蔵品なども丁寧に紹介されるかと期待もしたが、そうい
うこともなく。中では所蔵品をいろいろな災害から守り通し
たという老人の話がアニメーションを交えて紹介されるが、
それも本編とどうつながるのか良く判らないままだった。 
何かの意図を持って製作されたと思う作品だが、その意図が
全くこちらに伝わってこないというか、描く上でその辺の説
明の何かが欠落しているように感じられた。       
                           
『ミラージュ』                    
混乱の続くマケドニアの一般社会を背景に、学力は優秀なの
に将来の道を閉ざされた少年の日常を描いた物語。    
自由経済社会になったとはいえ、いくら働いても向上しない
生活。そしていまだにセルビア人が幅を利かせる警察組織。
そんな歪んだ社会の中で、少年は押しつぶされ、先の見えな
い日々を送り続ける。                 
そして少年には、教師から優秀者はパリに招待されるという
詩作コンテストの話が伝えられるのだが…。一方、少年が隠
れ家としていた鉄道の廃車置場に、ある日パリスと名乗る男
が現れる。男は、少年に銃の扱い方などを教え始める。  
脚本、監督を手掛けたのは、各国の映画祭での受賞経験もあ
るドキュメンタリー作家ということで、おそらくここに描か
れた物語は、すべて実際に起った出来事に基づくものと思わ
れる。あまりに過酷な物語だが、これが現実ということだ。
受賞はなくても、これが伝えられただけで価値があったと言
えるだろう。                     
                           
『ハリ・オム』                    
インドのラジャスタン地方を舞台に、地元のボスに追われる
リクショー(3輪タクシー)の運転手と、恋人との豪華列車
での旅行中に彼とはぐれ、列車に乗り遅れてしまったフラン
ス人女性が、列車の次の停車駅を目指して繰り広げるまさに
ロードムーヴィ。                   
この地方に残る宮殿や、屋敷や、寺院などが次々に写し出さ
れ、乗物も豪華列車からヴィンテージベンツ、リクショー、
乗り合いバスや、これもヴィンテージもののオートバイ、ラ
クダまで次々に繰り出される。             
そして物語は、恋人とはぐれたことで自分自身を見直すこと
になった女性自身の思いや、自分の生活を考え直さなければ
ならなくなった運転手、そして彼女との電話を通じて徐々に
変って行く恋人の男性の思いなどが、いろいろなエピソード
の中で展開して行く。                 
さらにインド映画特有の歌や踊りも、それぞれの場面や、登
場する人々の状況に即して繰り出されてくる。正直、今まで
のインド映画のミュージカルでは、歌や踊りがちょっと押し
つけがましいところがあったが、この作品では自然に歌や踊
りが挿入される。                   
物語や、歌、踊りの挿入の仕方には、インド映画が洗練され
てきたことを伺わせる。インド資本のインド映画だが、主人
公をヨーロッパ人にする辺りも、本格的に海外を意識した作
品と言えそうだ。                   
なお、インド人の運転手は『モンスーンウェディング』でウ
ェディングプランナーの役を好演していたヴィジェイ・ラー
ズ、フランス人の女性は『クリムゾン・リバー』のカミール
・ナタ、男性は『スイミング・プール』のジャン・マリー・
ラムールが演じている。                
物語の途中で語られる古い屋敷での少年と少女の話なども素
晴らしかったし、物語の結末の造り方も良かった。    
                           
『スキゾ』                      
コンペティション部門で主演男優賞を受賞した作品。   
カザフスタンを舞台に、病気のために「スキゾ」と仇名され
る少年を主人公にした物語。              
少年は病気故に知恵遅れと見做されており、母親の恋人が仕
切る違法な拳闘試合で選手の世話をしていたが、ある日、致
命傷を負った選手の賞金を託され、彼の妻の許に届けたこと
から人生が変り始める。                
一目でその女性を好きになった少年は、いろいろな悪知恵を
働かし始めるのだ。                  
本当に彼が知恵遅れかどうかは判然としない。しかし本当に
賢くなくても、世の中を上手く渡って行いけるしたたかさ。
そんな小気味よさが上手く描かれた作品だった。     
正直に言って上手く行き過ぎの感もある作品だが、監督はド
キュメンタリーの出身ということで、社会を見つめる目には
鋭さが感じられる。その辺の裏打ちの確かさが、映画に存在
感を与えている感じがした。それでいて娯楽作品という感じ
だ。                         
映画祭ではいろいろな国の作品が上映されるが、その中でそ
れぞれの国の国情が見えてくるのも有意義なことだ。もちろ
んドラマ作品であるから、真実からは誇張や隠蔽もあるだろ
うが、それでも垣間見える真実をしっかりと見届けたいと思
った。                        
                           
『ダンデライオン』                  
映画は巻頭、自殺を示唆する映像からスタートする。この映
像は主人公の夢であることが次ぎに明らかにされるが、この
映像の持つ意味が最後まで不明のままに終わってしまう。 
主人公は郡議会の議員を目指す父親を家長とする一家で暮ら
している。しかし父親との会話はなく、家族の揃う食卓も殺
伐としている。                    
そんな一家の近所に母娘の家族が引っ越し来る。彼はその家
の少女とつきあうようになるが、彼女の家にも問題は多い。
他にも親友はいるが、その家にも家庭内の問題はある。そし
てある事件が起こり…                 
アメリカが舞台で、アメリカの抱える家庭の問題が次々とえ
ぐり出されるような作品だ。といってもこのような状況は日
本でも考えられるし、家族という視点に置いたときに直面す
るドラマを描いている。                
共感するところもなくはないし、良くできた作品だとは思う
のだが、ただ映画は妙に冷静に描かれていて、その辺で何か
作り物めいた感じがした。               
もちろんフィクションだから作り物でも良いのだが、足の置
きどころというか、物語と作者の距離が違う感じがした。そ
れでは体験なしには何も描けないのかと言われそうだが、そ
うではなくて、その距離を埋める努力が本作では感じられな
かったものだ。                    
                           
『大統領の理髪師』                  
コンペティション部門で最優秀監督賞と観客賞を受賞した作
品。                         
韓国の大統領官邸・青瓦台の近くに住み、朴大統領時代に青
瓦台の理髪師として、大統領を始め政権トップの髪を切り続
けた男の人生を描いた作品。              
といっても、最初に大きくフィクションですと出る通り、こ
の映画はその政権内部の抗争を戯画化してコメディタッチで
描いている。しかしその描き方には毒が充満し、良くこれだ
け描けたものだとも思わせるが、それだけ観客への受けは良
いものになったようだ。                
語り手は主人公の息子。この息子は父親と店に働きに来てい
た女性の間に生まれるが、これが李政権による四捨五入政策
(?)のおかげという辺りから毒が撒かれ始める。やがて父
親は秘密警察のトップの差し金で諜報機関の陰謀を摘発する
ことになり、その功績で青瓦台に呼ばれることになる。  
そして仕事が始まるのだが、世間では北からの伝染病が蔓延
し始め、それによって近所の人々が処刑されたり、ついには
息子までもが逮捕されてしまう。そしてその息子を取り戻す
ため、父親の活躍が始まるが…             
正直に言って日本人の僕らには判りにくいところもあるが、
腐敗して行く政権内部の様子などはどの国でも同じようなも
のだろうから、その意味では充分に楽しめる作品だった。監
督賞もうなずけるところだ。              



2004年11月01日(月) 第74回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずはこの話題からで、ブライアン・シンガー監督で進め
られている復活版“Superman”に、ついに主演俳優の名前が
発表された。この役には、一時はジョッシュ・ハートネット
などの名前も上がっていたが、シンガー監督が決まった時点
で全てキャンセルされ、新たに選考が行われていたものだ。
 そして登場した俳優の名前は、ブランドン・ジェームズ・
ロス。「誰だそいつは」と言われそうだが、実際、彼の名前
は、“One Life to Live”などのテレビシリーズにいくつか
クレジットされてはいるものの、主役はようやく最近になっ
て“Deadly”という作品1本だけという、ほとんど無名に近
いアイオワ州出身25歳の新人ということだ。なお、テレビシ
リーズで初代スーパーマンを演じたジョージ・リーヴスの出
身もアイオワ州だったそうで、2人の生地は100マイルほど
しか離れていないとも言われている。ただし、日本でも報道
された写真を見ると、風貌はクリストファー・リーヴに通じ
たところがあるようだ。
 また情報では、今回のストーリーは基本的にリーヴ主演版
の最初の2本の展開を引き継ぎ、3悪人との闘いの末に、一
旦は超能力を失ったスーパーマンが、20代後半になって再び
力を取り戻すところから始まるとも言われている。つまり、
当初言われていた第1作のクリプトン星の崩壊からリメイク
するのではなく、第3作、第4作のプログラムピクチャー化
した部分を新たに再構築する考えのようだ。そしてこの新作
の製作に当っては、シンガーはリーヴにコンサルタントとし
て映画製作に参加を要請することも考えていたそうだが、そ
れは叶わぬ夢となってしまった。因にリーヴは、第4作では
ストーリーや第2班監督でもクレジットされるなど、映画製
作に積極的に関わっていたものだ。
 一方、ロイス・レーン役では、最終候補6人に絞り込まれ
たとの噂も流されている。この配役も近日中に正式発表とな
りそうだが、差し当って最終候補とされているのは、“The
O.C.”のミシャ・バートン、“Angel”のカリスマ・カーペ
ンター、“The Crow: City of Angels”のミア・クリシュナ
ー、“Lost”のエヴァンゲリン・リリー、“Star Wars”の
ナタリー・ポートマン、“Felicity”のケリ・ラッセルとい
うことだ。なお、1980年公開の“Superman II”では、スー
パーマンとロイスは完全に恋人同士という描き方になってお
り、それを引き継ぐ新作も、そういう関係ということになる
のだろうか。
 さらにフライングエフェクトを含む特殊効果を、“Peter
Pan”“Charlie's Angels: Full Throttle”を手掛けたソニ
ー・イメージワークスのマーク・ステットスンが担当するこ
とも決まったようだ。その発表によると、今回の撮影には約
800のエフェクトショットが予定されているということで、
これは“Spider-Man 2”と同じ水準だそうだが、同作でもリ
アルなニューヨークの町並を再現してくれたイメージワーク
スの参加で、スーパーマンの飛行も順調に行けそうだ。
 本編撮影はオーストラリアで年明けからになるようだが、
製作は11月に開始され、公開は2006年夏に予定されている。
        *         *
 ところで“Sperman”コミックスには、その姉妹編として
“Supergirl”が発表されているが、この姉妹編も、1984年
にジャノー・シュワーク監督、ヘレン・スレイターとフェイ
・ダナウェーの共演で映画化されたことがある。そしてこの
姉妹編のリメイクもワーナーで計画されているようだ。
 この計画も、実は数年前から噂にはあったものだが、以前
の情報はアキヴァ・ゴールズマンが脚本を手掛けているとい
うものだった。しかし最近になって、彼の脚本は暗礁に乗り
上げ、改めて脚本からの検討が行われているということだ。
ただしゴールズマンは製作者としては残っているようだ。そ
して、今回の“Superman”復活の動きを受けて、この姉妹編
についても計画が本格的になってきている。
 なお、計画はあくまでも復活版の興行が成功したら、とい
う条件付きで、従って正式発表は2006年の復活版の公開以降
ということになるが、計画では2作連続で製作されることに
なりそうだ。また、主人公のスーパーガール役には、テレビ
シリーズの“Akias”が好評のメリッサ・ジョージの起用が
話し合われているということだ。
 確か、84年作の“Supergirl”では、“Superman”のシリ
ーズとは関係なく物語が展開したと記憶しているが、今回は
どうなるのだろうか。いずれにしても製作は、2、3年先の
ことではあるが。
        *         *
 第2作の大ヒットも記憶に新しい“Spider-Man”の映画化
で、この物語を3部作で完結させる計画であることが報告さ
れた。この情報は、現在第3作の脚本を執筆中のサム・ライ
ミ監督から出されたもので、ソニー・ピクチャーズの製作ト
ップを務めるエイミー・パスカルからライミに対して、本シ
リーズの物語を第3作で適切に終らせるよう要請があったと
いうことだ。
 一方、マーヴェル・コミックス側の製作者アヴィ・アラド
は、先にこのシリーズを6部作にするというようなことを発
言していたが、実際問題として、主演のトビー・マクガイア
やキルスティン・ダンストも3本の契約であることを公言し
ていたし、ソニー側としてはキャストを変えてまで続ける意
志はないということのようだ。また、ライミも今回の要請に
関しては、このまま自分が続けていてもマンネリになるだけ
であることは認めているようだ。もっとも、ライミ個人とし
ては“Spider-Man”の監督には愛着があるようだが…
 従ってシリーズは、次回“Spider-Man 3”で完結というこ
とになるが、果たしてハリー・オズボーンはグリーンゴブリ
ンになってしまうのか、そしてスパイダーマンとの決着は付
くのか、ピーター・パーカーとMJとの恋の行方は、また、
新怪人としてザ・リザードの登場はあるのかなど、いろいろ
楽しみはつきないものだ。
        *         *
 2月15日付の第57回で紹介したマイクル・ベイ監督による
SF大作“The Island”の撮影が、2005年7月22日の全米公
開を目指して、ロサンゼルスとネヴァダ、それにデトロイト
で10月25日に開始された。
 この作品は、『すべては愛のために』などのカスピアン・
トレッドウェル=オーウェンによるオリジナル脚本を映画化
するもので、臓器移植などの材料として養殖されている人間
が自我に目覚めて、ユートピアのような養殖場から逃亡する
という物語。以前の情報では、この脚本を100万ドル以上で
ドリームワークスが獲得したというものだったが、さらに映
画化には、1億ドルの製作費が注ぎ込まれるということだ。
 そしてこの巨額の製作費を賄うため、新たに製作へのワー
ナーの参加が発表され、これによりアメリカ圏外の配給は、
ワーナーが担当することになったようだ。因に、ドリームワ
ークスとワーナーは、2001年の“A.I.”と02年の“The Time
Machine”を共同で製作している。また、前回の紹介では、
パラマウントとの提携も考えられるとしたが、現実はそう甘
くはなかったようだ。
 配役は、逃亡する若者役にユアン・マクレガー。そして、
海外の情報では同じ役柄でスカーレット・ヨハンセンとなっ
ていたが、元の情報では主人公の逃亡を助ける女性教師など
の役もあったはずで、その辺はどうなっているのだろうか。
他にスティーヴ・ブシェミの出演も発表されている。
 10月の撮影開始で来年の夏公開とはかなり忙しそうだが、
ドリームワークスでは、さらに11月撮影開始で、スティーヴ
ン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演による“War of
the Worlds”の公開も来年夏に計画している訳で、これで
両作ともヒットさせる自信があるものなのか、ちょっと心配
になってくる。
        *         *
 スピルバーグ監督の名前が出たついでに、こちらはそろそ
ろ両耳にタコができそうな話題で、またまたまた“Indiana
Jones 4”に新たな脚本家の名前が発表された。
 この計画では、今年2月に前任者フランク・ダラボンの脚
本がキャンセルされて以来、ペンディングが伝えられていた
ものだが、今回はこの脚本家として、ジャッキー・チェン主
演の“Rush Hour”などでも知られるジェフ・ネイザンスン
の名前が挙げられた。
 因にネイザンスンは、スピルバーグ監督の“Catch Me If
You Can”の脚本を手掛けた他、同監督による今年の東京国
際映画祭クロージング作品“The Terminal”の共同脚本家で
もある。その他“Speed 2: Cruise Control”なども手掛け
ているようだ。そして彼が執筆する脚本で、今年末からの撮
影が期待されているというのだが…
 この計画の3人の関係者の内、製作のジョージ・ルーカス
は、現在は“Star Wars”の最終作の仕上げのまっただ中。
監督のスピルバーグは、上記の“War of the Worlds”に続
いて、8月にエリック・ロスの脚本がペンディングとなった
ミュンヘンオリンピック絡みの作品の再開が、トニー・カシ
ュナーによるリライトを待って、2月撮影開始で計画されて
いる。さらに、主演のハリスン・フォードも、“The Wrong
Element”や“Godspeed”などの計画が目白押し。というこ
とで、果たしてこの状態で今度こそとなるのかどうか…?
        *         *
 またまたテレビシリーズの映画化で、1984−89年に放送さ
れたマイアミを舞台にした刑事アクション“Miami Vice”の
映画版が、コリン・ファレルと、トム・クルーズと共演した
“Collateral”の演技が評判高いジェイミー・フォックスの
共演で計画されていることが発表された。
 このオリジナルは、ドン・ジョンスンが扮したジェームス
‘ソニー’クロケット刑事と、フィリップ・マイクル・トー
マスが扮したリカルド・タブ刑事の活躍を描いたものだが、
同時にシリーズでは、リトル・リチャーズやジェームズ・ブ
ラウン、フィル・コリンズなど、数多くのセレブがゲスト出
演し、さらにシーナ・イーストンがセミ・レギュラーで出演
するなど、1980年代ファッションの一翼を担ったとも言われ
た番組だった。
 そしてこのシリーズの製作では、“Collateral”のマイク
ル・マン監督が総指揮を務めていたが、そのマン監督とのコ
ラボレーションを終えたばかりのフォックスは、マンに映画
版の監督も担当してもらえるならと、出演を希望しているそ
うだ。なお、製作するユニヴァーサルも、マンには脚本、監
督、製作の線で交渉を続けているものだ。
 シリーズの企画を担当したアンソニー・ヤーコヴィッチが
製作総指揮の席に座り、また、主人公たちの上司の役には、
シリーズの人気者だったエドワード・ジェームズ・オルモス
の再登場も期待されているようだ。
        *         *
 もう一つ、ジェイミー・フォックスの情報で、来年出版が
予定されている“The Executioner's Game”というスパイ・
スリラー小説の映画化をコロムビア(ソニー)で行うことに
なり、その主演がフォックスにオファーされている。
 この小説は、2001年にソニー傘下のスクリーン・ジェムズ
から“The Brothers”というコメディ作品を脚本、監督で発
表しているゲイリー・ハードウィックが執筆したもので、政
府機関のエージェントの主人公が、政府が進める超極秘の任
務に就き、悪に走った自分の師匠の暗殺をしなければならな
くなるというもの。ハードウィック自身の脚色で映画化され
ることになっている。
 なお、今回の作品の内容は、アクションに彩られるなど、
監督作品に見られるハードウィックの普段のテーマとはちょ
っと違っているようだが、彼自身の執筆の目的は、主人公の
人間に関わるドラマを描くことだったそうで、この作品でも
主人公は、政府御用達の殺し屋になってしまう以前の、真の
姿を見つけだすことが描かれているということだ。
 製作は、撮影完了したロブ・コーエン監督の“Stealth”
や、続編の“XXX: State of the Union”も手掛けるニール
・モリッツ。監督は未定。なお、ハードウィックは映画化の
監督にはタッチしない計画のようだが、続編執筆の契約は結
んでいるということで、さらにシリーズ化も検討されている
そうだ。
        *         *
 8月1日付第58回で紹介したProject Greenlight(PG)
から、もう1本の映画化の計画が発表された。
 この計画は、今年の最終選考に残った3本の内の1本で、
マーシャル・モーズリーが応募した“Wild Card”という脚
本を映画化するもの。内容は、犯罪者のカップルが大きな仕
事を計画するが、その計画が徐々に崩壊して行く過程の恐怖
を描いたものだそうだ。
 そしてこの計画では、PGのコンサルタントも務めるウェ
ス・クレイヴンが、脚本の手直しと監督を担当することにな
っているが、実はこの計画は、PGの優勝者が決まった後の
レセプションの席で、クレイヴンからモーズリーに伝えられ
たということで、優勝を逃して消沈していたモーズリーにと
っては、途方もない谷と山が立て続けにやってきた気分だっ
たと語っていたそうだ。
 なお、PGの規定では優勝作品の映画化は、同時に行われ
る監督コンテストの受賞者によって行われることになってい
るが、今回は優勝作ではないので、クレイヴンの監督が認め
られるようだ。因に、優勝作のパトリック・メルトンとマー
カス・ダンストンによる“Feast”は、10月18日にディメン
ション向けの製作が開始されたということだ。
        *         *
 ジョン・ウーの計画がまた2本発表されている。
 まずは、玩具のマテル社から発売されていたアクション・
フィギア“Masters of the Universe”のキャラクターに基
づく、“He-Man”の物語を実写で映画化する計画が、ウーの
製作監督で進められることになった。
 このアクション・フィギアのキャラクターに基づく作品で
は、1983年からテレビのアニメシリーズが展開されており、
また、1987年にはドルフ・ラングレンの主人公He-Man役で、
フランク・ランジェラが敵役スケルターを演じた“Masters
of the Universe”という作品が、キャノン・フィルムスで
製作されたこともある。
 そして今回の計画では、この脚本を『スモール・ソルジャ
ーズ』や『マウスハント』のアダム・リフキンが担当すると
いうことだ。因に物語は、地球人とエターニアンの混血児で
プリンス・アダムの名の許に生まれた主人公が、18歳の時に
グレイスカル城に赴いてスーパーパワーを得、He-Manとなっ
てスケルターらとの闘いを繰り広げるというもの。典型的な
ヒーローものと呼べそうな作品だ。
 キャスティングは未定だが、製作はフォックス2000で行わ
れることになっている。なお、オリジナルのアクション・フ
ィギアは、1987年に製造終了されているそうだ。
        *         *
 そしてもう1本は、1970年にアラン・ドロン主演で映画化
されたフィルム・ノアール作品“Le Cercle Rouge”(邦題
仁義)のアメリカ版リメイクが、“The Red Circle”の題名
で計画されている。
 この作品は、ジャン・ピエール=メルヴィル監督が、ドロ
ンと共に、ジャン=マリア・ヴォロンテ、アンドレ・ブール
ヴィル、イヴ・モンタンらのオールスターを集めて製作した
もので、特にドロンとモンタンの初共演でも話題になった。
 お話は、刑期を終えて出所したばかりの主人公(ドロン)
と、同じ日に脱獄を果たした男(ヴォロンテ)が、モンタン
の手引きで手を組み、宝石強奪を計画するというもの。今の
時期だと、何となく『オーシャンズ11』に似た感じの作品に
なってしまいそうだが、70年作では、彼らを追うブールヴィ
ルらの警察側の動きも描かれており、香港ノアールの名手と
呼ばれたウーにはピッタリの作品になりそうだ。
 また脚本は、テレビシリーズの“Alias”や“Lost”を手
掛けるジェフ・ピンクナーが担当しているが、すでに2つの
異なるシナリオを書き上げたということだ。というのも、実
はピンクナーが最初にウーと接触したときは、リメイク権の
所在がトラブルになっており、このため彼は、実在のギャン
グの生涯に基づく物語としてシナリオを書き上げた。しかし
その後にトラブルが解消されたため、改めてリメイクのシナ
リオを書いたということだ。現状ではどちらが映画化される
か判らないようだが、できれば両方見たい気もする。
 因に、ウーの計画は、最近いろいろと発表されているが、
今回Variety紙に掲載された記事によると、次回作は、ザ・
ロック主演のユニヴァーサル映画“Spy Hunter”が来年春の
撮影開始ということで、続いては9月15日付の第71回で紹介
した中国映画の“The War of the Red Cliff”、そしてその
後に今回のリメイクという予定だそうだ。他の作品は…?
        *         *
 最後にホラー映画のリメイクの情報をまとめて紹介してお
こう。
 まずは、1980年にジェイミー・リー・カーチス主演で映画
化された“Prom Night”のリメイクが、『呪怨』のアメリカ
版リメイク“The Grudge”を手掛けたスティーヴン・サスコ
の脚本で計画されている。このオリジナルは、カナダ製作の
作品で、後に『新スタートレック』のテレビシリーズなどを
手掛けるポール・リンチがデビュー作として監督、学年末の
プロム・パーティの夜に起こる恐怖の連続殺人が描かれる。
そして今回のリメイクでは、同じ物語を視点を変えて描くと
いうことで、製作は来年早々に開始されるということだ。因
にこの情報は、“The Grudge”の全米公開の前に流されたも
のだが、その後の注目度が変っていそうだ。
 お次は、1979年の製作でジョン・カーペンターが監督した
“The Fog”のリメイクを、『ザ・コア』などのクーパー・
レインの脚本で、来年2月の撮影開始で進めることが発表さ
れている。このオリジナルは、北カリフォルニアの漁村を舞
台に、100年前に沈没し成仏できないままでいた船の乗組員
たちの怨念が引き起こす恐怖を描いたもの。当時のカーペン
ターは、100万ドルの製作費と2台のフォッグマシンで映画
を作り上げたということだが、今回は物語に合わせてそれな
りのエフェクトも使用する計画だそうだ。なお、リメイクの
製作者にはカーペンターとオリジナルの製作者のデブラー・
ヒルも名を連ねている。
 そしてもう1本は、1958年にスチーヴ・マックィーン主演
で製作された“The Blob”のリメイク。宇宙から飛来して人
間を溶かして吸収する謎の生物の恐怖を描いたこの作品は、
実は1988年にもリメイクされているが、その時の脚本はフラ
ンク・ダラボンが手掛けていた。今回はこの作品を、『スク
ール・オブ・ロック』などのスコット・ルーディンの製作で
リメイクするもので、脚本家の名前は明らかにされていない
が、現代化した物語として進めているということだ。

(なお、東京国際映画祭の上映作品の紹介及び各授賞に対す
る僕の意見は、今週末までにまとめてアップする予定です)


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井口健二