井口健二のOn the Production
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2004年05月31日(月) ぼくセザール10歳半1m39cm、MIND GAME、マッハ!!!!!、CODE46、好きと言えるまでの恋愛猶予

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ぼくセザール10歳半1m39cm』         
              “Moi Cesar 10ans1/2 1m39”
俳優としても知られるリシャール・ベリの長編監督第2作。
パリ在住、身長1m39cm、小太りで、10歳半の少年セザールの
人生を変える冒険が描かれる。             
父親の共同経営者が亡くなり、盛大な葬儀が行われるが、そ
の共同経営者には闇の部分があるらしい。そして家にも警察
が来るようになる。そんなとき、父親が長期に家を空けるこ
とになり、セザールはてっきり父親が刑務所に入れられたと
思ったのだが…。                   
一方、セザールは2週間前に転校してきたサラに恋心を抱い
ている。しかし彼とサラとの間には、幼い頃からの親友で、
どんなときにも頼りになるモルガンの姿がある。しかもモル
ガンはセザールよりも背が高く、スポーツマンで、頭も良い
のだ。                        
そんなある日、母子家庭で育ったモルガンは、ロンドンにい
るはずの父親を捜しに行くと言い出す。モルガンは、彼が生
まれる前に帰国してしまった父親のことを、名前の他には何
も知らない。そして3人は、親の金を借用して、ロンドン行
きを決行するのだが…。                
ベリはオリジナル脚本も書いているが、実に子供の視点を良
く捉えた見事な作品になっている。主人公にはナレーション
の形で心情も語らせているが、ユニークな発想や、子供らし
い勘違い、さらに鋭い指摘などもあって、結構頷かされると
ころもある。                     
子役3人の芸達者なこともあるが、嫌らしさや引けてしまう
ようなところもなく、素直に物語に入ることができた。子供
が主人公の映画で、素直にこのような気持ちになれたのは久
しぶりのことだ。高さ1m39cmの子供の目線に拘わったカメラ
位置も良かった。                   
主人公のセザールを演じるのは、すでに主演作もあるジュー
ル・シトリュク。サラ役には、監督の娘のジョセフィーヌ・
ベリ。そしてモルガン役は舞台出身で映画デビュー作のマボ
・クヤテ。この3人が何しろ上手かった。        
他には、ロンドンで3人に救いの手を差し伸べるカフェの女
主人役にアンナ・カリーナ。間違いなく老けたけれど、良い
感じの女傑を気持ち良く演じていた。          
またモルガンのロンドンの父親役で、ジョン・ブアマン監督
の息子のチャーリーが出演。『エメラルド・フォレスト』の
あの子が…という感じだった。なお、サラの母親役にも、ブ
アマン監督の娘のカトリーヌが扮している。       
                           
『MIND GAME』                
ロビン西の原作コミックスから、『クレヨンしんちゃん』劇
場版の設定デザインなどを手掛ける湯浅政明の脚本・演出、
『アニマトリックス』などのスタジオ4℃が製作した長編ア
ニメーション。                    
ふとしたことで初恋の幼馴染みと再会した主人公は、彼女の
姉が営む焼き鳥屋に招待される。ところがそこで主人公は、
彼女の婚約者を紹介された上に、借金の取り立てにやってき
たやくざの銃撃で殺されることに…。          
しかし、人生に未練たっぷりの主人公は、神に逆らって現世
に舞い戻り、逆にやくざを殺してしまう。そして、彼女と姉
と共にやくざの自動車で逃亡を始め、追いつめられ、絶体絶
命のところをクジラに呑み込まれ、こうして九死に一生を得
るのだが…。                     
何しろハチャメチャな物語が、結構調子良く展開する。原作
がどんなものか知らないが、作品の雰囲気は、『クレしん』
に通じるところがある。その『クレしん』の新作も評判が良
いようだが、本作もエネルギッシュで結構面白かった。  
絵の雰囲気をどんどん変えていったり、どちらかというと実
験的な部分もあるが、それぞれが様になっていて、全体を通
してはバランスが良かった感じだ。そしてクライマックスに
向かっての盛り上げ方が尋常ではなく見事だった。    
ヴォイスキャストを、主人公役の今田耕司を始め、吉本の芸
人がやっていて、それを聞いたときはちょっと引いたものだ
が、やたらと長台詞がある割りには、どうしてなかなかの出
来だった。そして長台詞もあまり押しつけがましくなく、全
体の感じは良かった。                 
押井作品など、結構重い感じの日本アニメ作品が海外進出し
ているようだが、直接『クレしん』の進出は難しくても、こ
のような作品も海外に出すことは考えてほしいものだ。日本
語の文字もシーンは英語に直せば良いし、その突破口にもな
れる作品と思う。                   
                           
『マッハ!!!!!』“Ong-Bak”              
タイ製作で、本場のムエタイの技をとことん見せてくれる格
闘技アクション映画。                 
タイで撮影された『モータルコンバット2』で、主人公のス
タントダブルも務めたことがあるというスタントマン=トニ
ー・ジャーの初主演作品。               
タイの素朴な田舎の村から、村の守護神の仏像の頭部が盗ま
れる。それを取り戻すべく、一人の村の青年が犯人の住む首
都バンコックへ向かうのだが…。着いて早々、身を寄せた村
出身の男に、村人たちのなけなしの金品を集めた餞別を盗ら
れてしまう。                     
その金を取り返そうと賭けムエタイの闘技場に足を踏み入れ
た青年は、一撃で前チャンピオンを倒してしまう。しかし、
ムエタイを危険な技として禁じられている青年は、賞金には
目もくれず仏像の頭を盗んだ犯人を捜し求める。     
これに仏像の盗掘や密輸を企む裏社会の顔役などが絡んで、
物語は、主人公と裏社会との闘いへと発展して行く。   
ジャーは、元々ジャッキー・チェンに憧れ、タイ映画界のス
タントマンの元祖と言われる人物を師として、訓練を積んで
きたということで、正に満を持しての主演作。しかもこうい
う経緯なので、映画的なアレンジは抜群、見ていて本当に面
白い映画だった。                   
実は、試写前の舞台挨拶でジャー本人によるムエタイの演舞
があり、そこでとんでもない身体能力を見せられていた。従
って、僕らは映画に登場するアクションもすべて本物と確認
できている訳で、その迫力は最高だった。        
夏の一般公開前にも、再来日してプロモーションを行うとい
うことだが、是非とも上手いプロモーションを行って、この
迫力を一般の観客にも伝えて欲しいものだ。       
映画の展開は、格闘技アクションだけでなく、街中での追い
かけっこなどもふんだんに取り入れられている。これらはジ
ャッキー映画で何度も見ているような気もするが、ジャッキ
ー本人がすでにこういうシーンを作らなくなった昨今では、
久しぶりに堪能できたという感じで、うれしかった。   
すでに第2作も製作中ということだが、舞台挨拶に立った俳
優も監督も素朴そうで、思い切り支援したくなるような作品
だった。                       
                           
『CODE46』“Code 46”              
『ウェカム・トゥ・サラエボ』などで注目を浴びるマイクル
・ウィンターボトム監督による近未来SF作品。     
今年のオスカー助演女優賞候補になったサマンサ・モートン
と、助演男優賞を受賞したティム・ロビンスの共演作品。 
体外受精やクローン技術が横行する世界。コード46は、こ
の時代に即応した国際的な取り決め。それに従うと、男女は
妊娠に至る前に遺伝子の検査が義務付けられ、遺伝子が25%
以上一致するカップルの妊娠は厳禁。違反者には過酷な処罰
が待っている。                    
主人公は、その世界を効率良く取り締まるために作られた制
度=パベル(滞在許可証)の発行を独占する企業の捜査員。
ある日、上海の工場で不正の行われていることが発覚し、彼
はその調査のため上海に向かう。そして、そこで一人の女性
に巡り会う。                     
女性は25歳、彼女は毎年の誕生日に不思議な予知夢を見てお
り、今年その予知夢が終局を迎えるかもしれない誕生日に、
彼と巡り会う。                    
SFでしか有り得ない出来事や運命を描く作品は、相当に上
手く描かないと、観客に違和感を抱かせる恐れが多い。この
作品もそんな一篇と言える。特殊な世界観や設定のための規
則、これらが違和感を生じると映画は台無しになる。   
しかしこの作品では、主演の2人の演技力もあってか、違和
感の生じる前にドラマに入り込めたような感じもした。正直
なところは、そんな世界観や設定を外しても2人の関係は描
けたのかも知れない。                 
ただしその設定が、さらに2人の運命を過酷なものにしてい
る。そしてそこに、この作品のSFであることの所以が存在
している。そこが素晴らしい、とも言える作品だった。  
なお、モートンは『マイノリティ・リポート』のプレコグ役
でも知られる女優だが、ロビンスに抱かれるシーンでは、そ
の小柄なところが印象的だった。ところが、映画の中に出て
くる彼女の身上書では、身長165cmとあり、一体ロビンスの
身長は幾らだったのかと、今更ながら驚かされた。    
                           
『好きと言えるまでの恋愛猶予』            
               “La Bande du Drugstore”
1966〜67年を背景にした青春映画。主人公の男性は18歳とい
う設定だから、1948年の生まれ、女性の方の年齢は出てこな
かったが、いずれにしてもこの映画が描いているのは、僕と
ほぼ世代の人たちの物語ということになる。       
しかも男性の部屋には、当時のSF映画専門誌Midi/Minuit
Fantastiqueが無造作に置かれ、本棚にはBarbarellaの単行
本が見えている。また、女性の部屋の本棚にはラヴクラフト
があるといった具合。さらに古本屋で出会った二人は、ジュ
ール・ヴェルヌや未来文庫のUFOという本の話をする。 
僕自身、当時すでにSFファンだったから、この映画を見て
いると何か当時の自分が描かれているような感じもしたが、
実は映画で描いていることは、当時は本当にSFが若者カル
チャーの先頭にいた時代だった、ということなのだろう。 
そして物語は、このような男女2人が互いに好きであること
が意識していながら、もう一歩を踏み出すまでの悶々とした
8カ月が描かれる。ここで現代の若者なら、こんなにも悶々
とすることはないのだろうが、当時はそういう時代だったと
いうことだ。もちろん映画にも、もっと進んだ行動をする若
者は描かれるが、これが青春と言えた時代の物語だ。   
とは言うものの、これを現代の若者たちが見るとどう感じる
のだろうか。因に、原作者で脚本も書き、本作で監督デビュ
ーを果たしたフランソワ・アルマネは、1951年の生まれだそ
うだ。                        



2004年05月15日(土) 第63回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、ちょっと喝采したくなったこんな話題から。
 ジョニー・デップ主演で、昨年度全米興行成績で実写No.1
の大ヒットとなった『パイレーツ・オブ・カリビアン』の続
編“Pirates of the Caribbean: The Treasure of the Lost
Abyss”に、ローリング・ストーンズのギタリスト、キース
・リチャーズの出演が取り沙汰されている。
 この作品では、元々前作で海賊船の船長役をオファーされ
たデップが、その役作りの手本としてキースのキャラクター
をイメージしたという経緯が発表されており、キースはデッ
プがイメージする海賊船々長そのもの。そして今回の出演は
デップ自身が強く希望して、今年の1月頃から本人が出演交
渉しているという情報もあったようだ。
 それが実現に向かっている(契約したという情報もある)
ということだが、ストーンズではヴォーカルのミック・ジャ
ガーは、1992年の『フリージャック』などで俳優としても活
躍しているが、キースには『ギミシェルター』などコンサー
トシーンを撮影したドキュメンタリーはあるものの、役者と
しては未知数。従って、本当に出演するか否かはまだ確実で
はないが、実現したら相当の話題になりそうだ。
 因に役柄は、デップ扮するジャック・スパロー船長の父親
ということで、続編のタイトルにもなっているカリブ海に最
初に君臨した海賊船The Abyss号の船長役ということのよう
だ。ただし、情報では撮影期間は4日間だそうで、これでは
当然のことながら出演はカメオ。一体どこでどのようにして
出てくるかも楽しみだが、これがデップとの共演となれば、
注目のシーンになること必至というところだろう。
 撮影は2005年1月に開始の予定で、公開は2006年夏。なお
2003年11月1日付第50回にも書いたように、この続編では同
時に2本分を撮影して、間を置かずに第3作も公開する計画
もあるようだ。
        *         *
 お次は、前々回紹介した“Napoleon and Betsy”に続いて
またまた競作の話題が登場した。しかも今回は、全部で4本
という大盤振舞だ。
 内容は、紀元1世紀のイギリスでローマ帝国の侵略に立ち
向かった王妃ボアディシアを描くというもの。
 お話は、百科事典などの記述によると、A.D.60年、現在の
イギリス・ノーフォークに当るイケニの地を支配していた古
代ケルト族の王が死去し、その領地の支配権を要求するロー
マと、王の遺志を継いで女王となったボアディシアとの戦い
が始まる。この戦いで女王は、圧倒的なローマ軍の前に惨敗
を喫してしまうのだが、彼女が結集を促したケルト族は9世
紀に至るまでローマ帝国への抵抗を続けたとされる。また彼
女は、イギリス最初の女王とも呼ばれているようだ。
 そしてこの映画化では、まず、パラマウントとトライベカ
の計画で“Proof”などの劇作家デイヴィッド・オウバーン
が執筆した脚本に基づく“Warrior Queen”。続いて脚本家
ワロン・グリーンが執筆した“Queen Fury”という計画がド
リームワークスで進められている。さらに、マーサ・リトル
執筆による“My Country”という計画が、ローラ・ビックフ
ォードの製作で進められているようだ。
 そしてさらにこの競作群に、『パッション』の大ヒットを
引っ提げてメル・ギブスン主宰のイコンが参戦してきた。
 今回発表されたギブスン=イコンの計画は、この物語をブ
ライアン・クルグマン、リー・スタンタールの脚本、1999年
公開の“Tumbleweeds”という作品が高い評価を受けている
ギャヴィン・オコンナーの監督で映画化するというもので、
つまりギブスンが監督する計画ではないが、イコンでは、ギ
ブスンがオスカー監督賞を受賞した『ブレイブハート』でも
イギリスの歴史を描いた経験があり、また『パッション』の
成功で資金も潤沢に用意できるということで、一気にトップ
ランナーに躍り出てきそうだ。
 一般的に歴史ものは事実の映画化なので競作に陥りやすい
ものだが、それにしても4本は多過ぎる。今後は、これらの
計画の間で調整が行われて、多分1、2本にまとめられて行
くことになるのだろうが、そこでもギブスン=イコンは一歩
リードしそうな感じだ。
 なおイコンは、現在はフォックスと配給の優先契約を結ん
でいるが、今回の計画ではフォックスがその権利を放棄する
可能性があるようで、その場合はイコン独自で全世界の契約
を結ぶことになる。ここで何故フォックスが権利を放棄する
かについて理由は明らかでないが、確か『ブレイブハート』
はパラマウントとの共同製作だったが、フォックスはあまり
良い思いをしなかったという話もあり、イギリスが舞台の歴
史ものには会社としてトラウマがあるのかもしれない。
        *         *
 続いてはトム・ハンクスの話題で、『レディキラーズ』で
もちょっと思い上がりの強そうな感じの犯罪者を演じていた
ハンクスが、多少共通点のありそうな小悪党を演じる計画が
発表されている。
 この計画は、1994年にポール・ニューマンの主演で映画化
された『ノーバディーズ・フール』などの原作者としても知
られるリチャード・ルッソの小説“The Risk Pool”の映画
化権を、ワーナーとキャッスルロックが獲得し、ローレンス
・カスダンの脚色と監督で映画化するもので、カスダンはす
でに脚本の第1稿を書き上げたとも報じられている。
 お話は、ニューヨーク暮らしで魅惑的だが、実はこそ泥で
ギャンブラーの男が、疎遠だった妻が突然病に倒れたことか
ら息子を引き取る羽目になるというもの。男は自分の暮らす
世界に息子を連れて行き、それまで過保護だった少年の目に
父親の住む世界は、少し暗くはあるが素晴らしい世界に映る
のだが…。そんな生活の中で、徐々に親子の絆が生まれて行
くというものだそうだ。
 そしてカスダンは、この原作を手に取るなりハンクスの主
演を思い浮かべたのだそうで、実は同じ思いは1988年にウィ
リアム・ハートの主演で映画化した『偶然の旅行者』の原作
を手にしたときにも感じたものだが、その時には実現できな
かった思いを、今回は遂げられるということだ。
 因に、ハンクスとキャッスルロックは、1999年の『グリー
ンマイル』と、今年秋公開の“The Polar Express”の映画
化を一緒に行っており、またカスダンは、昨年春公開された
『ドリームキャッチャー』の映画化をキャッスルロックで行
っている。そして今回は、そのキャッスルロックの仲立ちで
2人が一緒に仕事をするチャンスが生まれたものだ。
        *         *
 なお、ついでに“The Polar Express”に関しては、今年
4月1日付の第60回で、Imax-3Dでの上映計画について報告
したが、その計画が正式に発表されている。
 その発表によると、11月19日の通常版の全米封切りから時
間を置かずにImaxの大画面に登場させるということ。また、
3Dの効果については、テスト版の上映を見学したロバート
・ゼメキス監督が、「観客にこのような経験を味わってもら
えることには、最高の興奮を覚える」と絶賛したコメントも
伝えられていた。
 因に、昨年末の集計でImax-3Dの上映できる映画館は、240
カ所、世界35カ国以上に展開しているそうだ。
        *         *
 昨年8月15日付の第45回で紹介した“The Longest Yard”
のリメイクに、オリジナルに主演したバート・レイノルズの
出演が発表されている。
 この計画では、元々はアダム・サンドラー主宰のハッピー
・マディスンが、サンドラーの出演抜きでパラマウントで進
めていたものだったが、その後、今年2月1日付の第56回で
紹介したように、脚本を気に入ったサンドラー本人が出演を
決め、契約の関係で急遽ソニーとの共同製作となった。そし
て共演者には、クリス・ロックらの名前も発表されている。
なお以前の紹介で報告したスヌープ・ドッグの出演は、その
後にキャンセルされたようだ。
 その計画にさらにレイノルズの登場が発表されたもので、
今回彼が演じるのは、サンドラーらの囚人チームを指揮する
コーチの役。オリジナルではマイクル・コンラッドという俳
優が演じていたものだが、あまり印象に残っていない。とい
うことは、それほど重要な役ではなかったのだろうが、今回
それをレイノルズが演じるということは、ちょっと話が変わ
ってくるのかも知れない。
 因にオリジナルのお話は、看守の暴力が横行する刑務所を
舞台に、この刑務所にアメリカンフットボールの元花形選手
が収監されたことから、囚人対看守の試合が行われることと
なり、この試合で日頃の恨みを晴らそうとする囚人たちの痛
快なアクションを描いたもの。ロバート・オルドリッチの監
督で、元フロリダ州立大の花形選手だったレイノルズが、膝
の怪我のためにプロを諦め俳優に転向した後の、最初に成功
を納めた作品と呼ばれるものだ。
 なお、1936年生まれのレイノルズは、1997年の『ブギーナ
イツ』でオスカー候補になった後も次々新作に出演している
が、昨年10月1日付第48回で紹介した“Without a Paddle”
には、『脱出』で演じた役で登場するなど遊び心も豊富なよ
うだ。そしてこの“Without a Paddle”が彼の次回作となる
が、さらにラクウェル・ウェルチ、チャールズ・ダニング、
ロバート・ロッジア共演の“Forget About It”という作品
が撮影完了しており、“Cloud Nine”という作品も待機中だ
そうだ。また、“The Longest Yard”のリメイクの撮影は、
本年6月に開始の予定になっている。
        *         *
 続いてもパラマウントのリメイク情報で、1976年にウォル
ター・マッソー、テイタム・オニールの共演で映画化された
“The Bad News Bears”(がんばれ!ベアーズ)を、ビリー
・ボブ・ソーントン主演で再映画化する計画が発表された。
 オリジナルは、マッソー扮する元マイナーリーグ投手だっ
たが今は飲んだくれの男が、万年最下位候補の弱体少年野球
チームの監督に就任し、オニール扮するおてんば娘や、不良
少年をスカウトして、チームを優勝候補と呼ばれるまでに鍛
え上げるというもの。
 そしてこの作品は、当時のアメリカ国内だけで3200万ドル
を稼ぎ出すヒット作となり、1977年には第1作で不良少年を
好演したジャッキー・アール・ヘイリーの主演に、ウィリア
ム・ディヴェインを監督役として“The Bad News Bears in
Breaking Training”(がんばれ!ベアーズ特訓中)、さら
に1978年には、ヘイリーにトニー・カーティスの監督役で、
“The Bad News Bears Go to Japan”(がんばれ!ベアーズ
大旋風)が作られている。
 なお、第3作は原題通り日本ロケが行われたもので、若山
富三郎が共演。確か、現在は都庁が建っている新宿新都心に
あった空き地で、試合シーンの撮影が行われたはずだ。そし
て主演のヘイリーが成長して、子供ではなくなったために、
この第3作でシリーズは終了となった。
 というヒット作のリメイクだが、今回はこの脚本に、昨年
秋に全米公開されて6000万ドルを稼ぎ出したソーントン主演
のコメディ“Bad Santa”を手掛けたグレン・フィカーラと
ジョン・レクアの脚本家チームを起用し、アップデート版を
製作するという計画で、パラマウントではこの脚本に、7桁
(ドル)の契約金を積んだとされている。
 なお、パラマウントの昨年度の興行成績では、1億600万
ドルを稼ぎ出した『ミニミニ大作戦』のリメイクが稼ぎ頭だ
ということで、僅差(30万ドル差)でオリジナルの『10日間
で男を上手にフル方法』が続いてはいるものの、今後もリメ
イクへの期待は大きいようだ。
 そんな訳で、パラマウントの製作リストでは、上記の2作
品の他、“Stepford Wives”“The Manchurian Candidate”
“What's It All About Alfie”のリメイクがすでに開始さ
れており、さらに、“The War of the Worlds”“Seconds”
“Pet Sematary”“The Warriors”“Last Holiday”“It
Takes a Thief”“The Reincarnation of Peter Proud”の
リメイク計画が進行中となっている。
 オリジナルがあって初めてリメイクが可能であることは、
誰の目にも明白な事実だが、すでに膨大な過去の作品を抱え
ているハリウッドのメイジャー映画会社では、オリジナルの
人気でそこそこの興行が保障されるリメイクの勢いは、今後
も押さえられそうにない感じだ。
        *         *
 お次は、先日『ペイチェック』が公開されたフィリップ・
K・ディック原作の映画化で、1977年に出版された長編小説
“A Scanner Darkly”の計画が発表されている。
 お話は、未来の警察組織で、風貌から人格まで変えて麻薬
捜査を行う潜入捜査官が主人公。彼には2つの人格があり、
その一方の人格は麻薬売人のボブ・アークター。ある日、ボ
ブは仲間の男を殺し、彼自身が究極の麻薬サブスタンスDの
虜になってしまう。そしてもう一方の人格フレッドは、すで
に麻薬常習者となっている捜査官だが、彼は、ボブ・アーク
ターと名乗る麻薬売人を追っていた。
 この物語は、ディックの麻薬体験に基づいて執筆されたも
のと言われ、内容的には、ほとんどのシーンが麻薬による幻
覚を描いているとされる。
 従ってその映画化では、視覚的にいろいろなテクニックが
要求されると言われているが、今回この映画化に挑むのは、
昨年『スクール・オブ・ロック』でスマッシュヒットを飛ば
した監督のリチャード・リンクレイター。実は、彼はその前
の2001年に“Waking Life”という実験的な作品を手掛けて
おり、今回はそのテクニックが再現されると言うことだ。
 そしてそのテクニックとは、一旦実写で撮影を行い、その
映像をアニメーションに移し変えるというもので、このテク
ニックの実現のため、彼は前作でも協力を得たアニメーショ
ン監督のボブ・サビストンに今回も協力を仰ぐとしている。
また全体の調和を図るために、短編アニメーション作家で、
ミュージックヴィデオやゲーム映像などで実績のあるトミー
・パロッタを、プロデューサーとして参加させている。
 製作は、スティーヴン・ソダーバーグとジョージ・クルー
ニー主宰のセクション8で、アメリカ配給はワーナー傘下で
アート系の作品を手掛ける部門のインディペンデンス。出演
は、ワーナー作品には『マトリックス』シリーズ以来となる
キアヌ・リーヴスが主演の他、ウィノナ・ライダー、ウッデ
ィ・ハレルソン、ロバート・ダウニーJrら錚々たる顔ぶれが
揃っており、作品への期待が現れているようだ。
 リンクレイターの脚色で、撮影は5月中に開始される。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 最初はテリー・ギリアム監督の情報で、ベルリンで製作中
の“Brothers Grimm”に続く作品を、9月7日からカナダの
サスカチュアンで撮影することが発表されている。
 この新作は“Tideland”という題名で、ミッチ・コーリン
の原作をギリアムとトニー・グリソーニが脚色したもの。内
容は、テキサスの田舎町に住む少女が過酷な現実から逃れる
ために、胴体から切り放された4個の人形の頭の導きで、い
ろいろなファンタシー世界に入って行くというもの。そして
映画化では、これらの人形の頭の声には、高名な俳優たちが
参加するということだ。
 なお、製作はイギリスとカナダの共同で行われ、ヨーロッ
パ地区の配給権はイギリス側の出資者が確保しているという
ことだが、その他の地域の配給に関してはこれから交渉が行
われるそうだ。
        *         *
 続いても、良く似た感じのファンタシーの計画で、ニュー
ヨークを舞台にした“The Nature of Enchantment”という
作品を、ダニー・デヴィート、クリスティン・スコット=ト
ーマス、そしてマイクル・ケインの共演で9月に撮影開始す
る計画が発表されている。
 物語は、ニューヨークで凶暴な浮浪児の少年が保護され、
ケイン扮する精神科医の元に連れてこられたことに始まる。
やがて医師は、少年が街を妖精の世界として見ていることに
気付く。そこでは、高層ビル群が森林となり、通勤者たちは
小人であり、大鬼であり、魔女たちなのだ。
 そして心優しいトロールと認識された医師は、少年と共に
少年のトラウマとなっている大鬼の城を求めて、ニューヨー
クの街をさまようことになるというもの。因に、スコット=
トーマスは医師の娘、デヴィートは最近死去した医師の元同
僚という配役になっている。どうやらこのデヴィートの役柄
が物語のキーになりそうだ。
 スティーヴン・フォルクのオリジナル脚本から、ミュージ
ックヴィデオ監督のニック・ブランーントが長編デビューを
飾ることになっている。この作品もイギリス/カナダの共同
製作で、撮影はモントリオールで行われるようだ。
        *         *
 もう1本ファンタシーの計画で、昨年11月1日付の第50回
でも報告したスティーヴン・キング、ピーター・ストローブ
共作の“The Talisman”の映画化について、前回報告したヴ
ァディム・ペレルマン監督が降板し、その後を、『ラストサ
ムライ』のエド・ズウィックが引き継ぐことが発表された。
 この物語は、アメリカと同じ地形だが魔物の棲む平行世界
との間を行き来できる少年が、不治の病に罹った母親を救う
ため、平行世界にあるタリスマンを求めて、現実世界と平行
世界を行き来しながら冒険の旅を繰り広げるというもの。内
容的にかなり大掛かりな作品になりそうで、ペレルマンには
荷が重すぎると判断されたのか4月末に降板が発表され、た
だちにズウィックの起用となっている。
 なお脚本は、『ザ・リング』のアーレン・クルガーが執筆
しており、計画では今年8月からの撮影となっていたが、監
督の交替でこの計画はどうなるのだろうか。因にズウィック
は、『ラストサムライ』でも自ら脚本を手掛けているので、
脚本から手直しとなると、ちょっと時間が掛かりそうだ。
        *         *
 最後に映画の製作ニュースではないが、“Harry Potter”
の原作シリーズの第6巻が今年の9月に出版されるという情
報が流れている。前作の“Harry Potter and the Order of
the Phoenix”は、昨年6月21日に発売開始されたが、この
日は夏至だったということで、今度は秋分の日の9月22日が
有力だそうだ。なお、表紙を飾るイラストもすでに完成して
いるとの情報も添えられていた。前作は本の重さにも増して
物語の重さが大変だったが、全7巻が予定されているシリー
ズではその直前となる今回のお話は、一体どんなものになる
のだろう。映画化の行方と共に気になるところだ。



2004年05月14日(金) イブラヒムおじさんとコーランの花たち、トロイ、ヒロイック・デュオ、トスカーナの休日、カーサ・エスペランサ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』       
      “Monsieur Ibrahim et les Fleurs du Coran”
オマー・シャリフが、2003年のヴェネチア映画祭で特別功労
賞を受賞した作品。                  
1960年代のパリの裏町を舞台に、街娼の居並ぶその町に住み
家族の愛情を知らずに育ったユダヤ人の少年と、トルコから
の移民でやはり家族を持たないイスラム教徒の老人の交流を
描いた物語。                     
ユダヤ人とイスラム教徒。今の時代では、それだけでいろい
ろな考えが浮かんでしまう組み合わせだが、1960年代の彼ら
は何の屈託もなく、互いに信頼の置ける関係として物語は進
んで行く。                      
主人公の少年モモは、13歳の誕生日に16歳と偽り、長年貯め
た貯金箱の金で街娼を買う。そんな彼を、日曜日にも朝8時
から夜12時まで店を開けていることからアラブ人と呼ばれて
いる老人は、いつも優しい眼差しで見守っている。    
しかし老人は、トルコからアラビア半島までを指す三日月地
帯の出身で、コーランを読むイスラム教徒と名乗るが、戒律
主義を否定するスーフィーだから飲酒も厭わないと言う。そ
して本当は別のユダヤ人の名前を持つ少年を、親しみを込め
てモモと呼ぶ。                    
一方、少年は、割礼をしているイスラム教徒の老人に、ユダ
ヤ人と同じだとして、親しみを持つ。そんな2人の交流の始
まりから、互いの信頼を築いて行く姿が描かれる。    
1999年の『13ウォリアーズ』以降、一度は引退を考えていた
シャリフは、この作品に出会い、映画界への復帰を決めたそ
うだ。現代の、互いの信頼が失われ、それを再構築しようと
さえしない時代に、この映画は大きなメッセージを伝えてく
れる。                        
                           
『トロイ』“Troy”                  
ブラッド・ピットが演じるアキレス、オーランド・ブルーム
のパリス、エリック・バナのヘクトル、そして、監督ウォル
フガング・ペーターゼンが繰り広げるホメロスの叙事詩「イ
リアス」にインスパイアされた歴史絵巻。        
トロイの王子パリスによるスパルタの王妃ヘレン誘拐に端を
発し、トロイとギリシャ軍との間で10年に渡って戦われたト
ロイ戦争。その戦いの全貌が、CGIなどの最新の映画技術
を駆使して再現される。                
CGIで描いた戦いというと、最近では“The Lord of the
Rings”が比較の対象になるが、魔物も登場するLOTRに比べ
るとスケールや多彩さでは一歩譲るものの、肉弾合い打つと
いうリアルさでは、本作は迫力満点に描かれている。   
元々の物語は、ヘラ、アテナ、アフロディテの3女神による
美の競い合いに始まり、アキレスやオデッセウスなどの神話
の人物も巻き込んで展開するが、今回の映画化では、一応ア
キレスは神の血を引くとされているものの、全体は人間ドラ
マとして描かれている。                
従ってトロイ戦争もかなりリアルな描き方で、登場する武器
は弓矢と剣、槍や矛と行った普通のものばかり、そしてこれ
らを力任せに打ち合うという戦い方なのだから、まさに古代
の戦いが再現されているという感じだった。       
ただし、その中でアキレスだけは特別で、人物としては人間
臭く描かれているものの、戦いぶりは身軽さを強調した殺陣
が見事に決まっていた。実際この部分はVFXを使って描か
れている訳だが、リアルとノンリアルが見事に交錯してその
バランスも見事だった。                
ギリシャ一の美女ヘレン役は、『ミシェル・ヴァイヨン』に
も出ていたドイツ出身のダイアナ・クルガー。他に、ブライ
アン・コックス、ショーン・ビーン。またピーター・オトゥ
ール、ジュリー・クリスティらのベテランも共演している。
上映時間2時間40分の大作だが、事前に展開を知っているせ
いかも知れないが、ちょっと短く感じられるくらいだった。
                           
『ヒロイック・デュオ−英雄捜査線−』“双雄”     
本土の返還以来、ちょっと勢いの落ちていた香港映画だが、
昨年の『インファナル・アフェア』以降、復活の兆しを見せ
始めたとも言われている。そんな新生香港映画の一篇。  
映画の発端は、催眠術によってベテラン刑事が犯した犯罪。
その事件を追う刑事は、殺人の罪で服役していた催眠術師を
事件の捜査のために仮釈放させる。しかし、その刑事もまた
催眠術に掛かり罪を犯してしまう。           
自分自身が追われる身となった刑事と、彼に援助の手を差し
伸べる仮釈放中の催眠術師。催眠術師は果たして事件解決の
糸口なのか、二人の虚々実々の心理戦が始まる。     
クンフーを中心にアクション映画の一時代を築いた香港映画
だが、その香港映画が開発したワイアーワークは、逆に訓練
を積んでいないハリウッドスターでも華麗なアクションが可
能なことを証明してしまい、結局自らの首を絞めてしまった
感がある。                      
そんな香港アクション映画がようやく復調してきたというこ
とだが、確かに本作で描かれるアクションは、ある意味で原
点に戻った感じもする。スタントシーンには、当然安全策は
講じられているのだろうが、何というか生身のアクションと
いう感じがした。                   
ただし本作は、話をちょっと捻り過ぎて、かえって散漫にな
ってしまった感じもする。その辺のバランス感覚を磨き直し
て、往年の香港映画の輝きを取り戻すことを期待したい。 
                           
『トスカーナの休日』“Under the Tuscan Sun”     
夫に裏切られて離婚した女性ライターが、傷心旅行先のイタ
リアで一軒の家を衝動買いしてしまったことから始まる人間
ドラマ。果たして彼女は、その家に賭けた自らの思いを遂げ
ることが出来るのか。                 
原作は、実際にトスカーナに家を購入したアメリカ人作家の
回想録ということだが、実はこの原作には映画化できるよう
なドラマはなかったそうだ。              
そこにドラマを構築したのは、監督も手掛けたオードリー・
ウェルズ。1997年に公開された『ジャングル・ジョージ』の
共同脚本家の一人でもある彼女は、本作の脚色では原作には
ない人物を主人公にして、見事なドラマを作り上げている。
なお彼女は、『Shall we ダンス?』のハリウッドリメイク
の脚本も手掛けているということで、リチャード・ギア、ジ
ェニファー・ロペス共演で、この秋全米公開される作品も楽
しみになってきた。                  
お話は、家を購入するまでの経緯や購入した家の改修工事の
顛末、そしてそれを取り巻く人間模様で、敢えてここに書く
ようなものではないが、そのドラマの展開が実に巧く、また
そこで語られるいろいろなエピソードが素敵なものだった。
さらにトスカーナ地方の風景の美しさ。風光明媚という言葉
がピッタリのこんな場所に素敵な家を見つけたら、僕だって
衝動買いしてしまうかも知れない。実際には無理でも、そん
な夢を見る気持ちにさせてくれる作品だった。      
                           
『カーサ・エスペランサ〜赤ちゃんたちの家〜』     
                 “Casa de los babys”
マギー・ギレンホール、ダリル・ハナ、マーシャ・ゲイ・ハ
ーデン、スーザン・リンチ、メアリ・スティーンバーゲン、
リリ・テイラーと、リタ・モレノ、ヴァネッサ・マルチネス
の共演、ジョン・セイルズ監督による社会派ドラマ。   
舞台は南米の架空の国、国力は貧しく、町にはストリートキ
ッズが溢れている。その国の唯一の輸出品は、映画の中でも
現地の登場人物が自嘲気味に言うように赤ん坊。つまりアメ
リカ人が現地の赤ん坊との養子縁組のためにやってきて外貨
を落として行くのだ。                 
そして上記の初めの6人は、その養子縁組のために当地を訪
れているが、その手続きには時間が掛かり長い人は2カ月に
も及ぼうとしている。そして滞在の資金が底を尽きかけた人
は、食費を削ってまで希望を繋ごうとしている。     
この手続きの長さには裏の事情も垣間見せるが、実際、セイ
ルズが映画のヒントを得たというベトナム戦争孤児との養子
縁組を描いたドキュメンタリーでも、1カ月以上待たされて
いるという話が出てきたそうで、その手続きの長さは現実の
ようだ。                       
ただし映画は、彼女たちの物語だけでなく、中年になっても
革命を夢見ている現地の男たちや、ストリートキッズの実態
なども描き、どこに焦点を絞れば良いのか迷うような展開に
なっている。それくらいに問題の根は深いところにあると言
いたいかのようだ。                  
しかし映画の中では、彼女たちの一人と現地人のメイドが、
母親になりたいと願う気持ちと、子供を手放した母親の気持
ちを、互いに理解できない英語とスペイン語で話すシーンが
見事に描かれており、監督の気持ちがここにあるようにも感
じた。                        
それにしても、オスカー受賞者3人を含む女優たちの共演が
見事。年齢もキャリアもばらばらな彼女たちが、それぞれの
個性を全開にした演技は、セイルズがキャスティング実現の
段階で、95%出来上がったと豪語しただけのことはある。 
この顔ぶれは、ハリウッド映画で主演を貼る人たちではない
かも知れないが、彼女たちのキャリアはハリウッド映画を語
る上で決して忘れてはならないものばかりだ。そんな個性派
の演技のぶつかり合いが素晴らしかった。        
それと、試写会で配られたプレスに寄稿された2つのエッセ
イが、映画の背景を知る上で貴重だった。この種のエッセイ
は、通常は言わずもがなのことが綴られていることが多いも
のだが、今回のエッセイは内容も鋭く、ここだけでなく広く
公表してもらいたいとも思った。            



2004年05月01日(土) 第62回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは、昨日付の映画紹介にも書いた記者会見の報告から
で、『シュレック2』の特別映像の上映に合わせて来日した
製作者ジョフリー・カツェンバーグの口から、“Shrek”の
今後の展開について聞くことができた。
 それによると、このシリーズではかなり早い時期から4部
作にすることが計画されており、従ってこの後には“Shrek
3”と“Shrek 4”が作られる予定だとのこと。そしてすでに
“Shrek 3”は、準備が開始されているということだ。
 さらにその内容については、今回上映された『シュレック
2』の特別映像では、フィオナ姫の故郷が舞台になり、その
生い立ちや、何故ドラゴンの塔に閉じ込められるようになっ
たかが描かれていたが、“Shrek 3”では、シュレックがあ
の沼地にやってきた経緯が描かれ、シュレックが故郷に戻る
展開にもなるということ。またその旅には、フィオナとドン
キーも同行することになるようだ。
 ということは、おとぎ話のキャラクターたちの住む森を中
心に、フィオナの故郷である人間界と、シュレックの故郷の
モンスター界との位置関係が大体決ってきそうだが、そこか
ら“Shrek 4”の展開を考えると、これはやはり、人間Vs.モ
ンスターの闘いということになってしまいそうだ。
 そしてそこでのシュレックとフィオナの立場は、「ロミオ
とジュリエット」を予想するのが単純だが、どんなものだろ
うか。出来ればこの予想を裏切るような物語であって欲しい
ものだが…。
 いずれにしても、シリーズは全4作となるようで、前作の
公開された2001年から第2作までは3年掛かったが、準備が
すでに始まっているということは、“Shrek 3”の公開は、
もう少し間隔が狭まる可能性もありそうだ。ただし、次回作
の日本配給は、角川になるようだが。
        *         *
 お次は、日本のマスコミでもいろいろ取り上げられていた
が、4月22日付の報道でソニーがMGMを買収するという話
について少し気になったことを書いておこう。
 まずは今回の報道で、ソニーの目的が、覇権争いを展開し
ているHD−DVDの戦略で、ソニー陣営のブルレイ・ディ
スクを有利にしようとするものであることは確かだが、日本
での報道の中で、『ベン・ハー』をその対象作品としていた
のには問題がある。何故なら今回の買収には、この作品は含
まれないはずなのだ。
 これについては、昨年6月15日付第41回で“Westworld”
のリメイクについて書いたときにも触れたが、実は、1986年
以前のMGM作品の権利に関しては、現在はワーナーが管理
しており、現行の会社にはその権利が存在しない。これは、
1986年当時にMGMを所有していたテッド・ターナーが、そ
の後ワーナーと組むことになって同社を現所有者のカーク・
カーコリアンに売却した際に、それ以前の映画の権利につい
ては会社から分離して手放さなかったことによる。
 このため『ベン・ハー』を始め、『雨に唄えば』『風と共
に去りぬ』『オズの魔法使い』『2001年宇宙の旅』など
の、MGMの代表作と呼ばれる作品の大半は、現行のMGM
ではなく、現在ターナーが副社長になっているワーナーが管
理しているものだ。
 ただし、1987年以降のMGM作品と、当時から合併状態に
あったユナイテッド・アーチスツ(UA)の作品については
現行のMGMが管理しており、従って、『007』や『ロッ
キー』『ピンク・パンサー』などについては今回の買収に含
まれるが、少なくとも『ベン・ハー』の権利は今回は含まれ
ていないはずのものだ。
 なお今回、買収に含まれる作品の数は約4100本ということ
だが、これは約4700本と言われるMGM作品の総数の中から
ターナーが分離した1839本を除いた上で、UA作品を加えた
ものと考えられ、辻褄は合う。また、買収総額の50億ドルと
いうのは、2年前の情報で4700本のMGM作品の総額が70億
ドルと言われていたデータもあり、妥当な線と言えそうだ。
 ところで、ソニーによるMGM買収の話は、実は今回が初
めてではない。ソニーは1989年にコロムビア/トライスター
を買収したが、その前にはMGMかディズニーを対象に買収
計画が進められたことがある。つまりターナーがMGMの売
却を進めていた頃のことだ。
 しかし、当時は上記の代表作も含めてハリウッドの至宝と
呼ばれていたMGMが外国企業に売却されることについては
アメリカ世論の抵抗も強く、ソニーは断念せざるを得なかっ
た。これはディズニーについても同様だったものだ。確か、
「レオ(MGMのシンボルのライオン)と、ミッキー(マウ
ス)を外国人にするな」というようなキャンペーンだったと
記憶している。
 そして結局ソニーは、自由の女神(コロムビア)を買収す
ることになるのだが(因にコロムビアは、当時のハリウッド
では一流とは見られていなかった)。以来ディズニーが急速
に盛り返して今やハリウッドのトップに君臨するのに対し、
MGMがその後も低迷を続け、今回は何の抵抗の声も聴かれ
無いのには、隔世の感としか言いようがない。
 とは言え、今回の買収はまだ成立してはいないのだが、今
後この話がどのように進展するかは気になるところだ。
        *         *
 さて以下は、いつものように製作情報を紹介しよう。
 まずはスティーヴン・スピルバーグの情報で、夏にアテネ
オリンピックの開催を控えているこの時期に、1972年のミュ
ンヘンオリンピックで発生した事件の映画化を、ドリームワ
ークス製作、スピルバーグ監督で行うことが発表された。
 この事件は、当時のオリンピックに参加していたイスラエ
ル選手団が、選手村でパレスチナゲリラに襲われて人質とさ
れ、最終的に代表選手も含めたかなりの人命が奪われたとい
うもの。もちろん、事件はイスラエル=ユダヤとパレスチナ
の抗争を受けてのものだが、起きた場所がドイツ国内だった
だけに、一層の悲劇として世界に報じられたものだ。
 なおこの事件については、過去にも映画化された記憶があ
るが、今回はこの事件の全容を、『フォレスト・ガンプ』の
エリック・ロスの脚本で描くもので、すでにスピルバーグは
出演者の一人として、『シンドラーのリスト』のベン・キン
グズレーの起用も決めているそうだ。そして、スピルバーグ
の関係者の情報では、すでにヨーロッパ地域でのロケハンも
完了して、6月からの撮影が準備されている。
 なお、スピルバーグの監督作品では、トム・ハンクス主演
の“Terminal”の公開が6月に予定されており、その後には
“The Rivals”と、トム・クルーズ主演の“The War of the
World”の計画が発表されているが、本作はその前に製作さ
れるものだ。スピルバーグとしては“Indiana Jones”第4
作の計画も頓挫したところで、久々のユダヤ人社会向けの作
品ということになるが、このタイミングは、ちょっとやりす
ぎの感じもしないでもない。
        *         *
 続いては、こちらも“Indiana Jones”の関係者で、最近
はちょっとひねった役柄の多かったハリスン・フォードが、
本格的にヒーローモードに復帰する企画が発表された。
 作品の題名は“The Wrong Element”。世界的規模の銀行
を舞台に、保安担当のトップを務める主人公が家族を誘拐さ
れ、誘拐犯に銀行から3700万ドル盗み出すことを要求される
というもの。もちろん、ヒーローである主人公がそれを実行
する訳はないが、窮地に陥った主人公が、これにどう対処す
るかが描かれる作品だ。
 ジョー・フォートの脚本で、監督はまだ決っていないが、
フォード主演の『エアフォース・ワン』を手掛けたビーコン
社とワーナーの製作配給で進めることになっている。なおこ
の計画は、当初は元ビーコン社々長のジョン・シェスタック
がMGMで進めていたが、MGMが計画を放棄したために、
現ビーコン社々長のアーミアン・バーンスタインに企画が持
ち込まれ、同社で進められることになったもの。因に、バー
ンスタインも『エア…』の製作者の一人ということだ。
 なおこの報道で“Indy 4”については、一応、本作に続け
て製作されることにはなっていたが、どうなるのだろうか。
        *         *
 先日は『ゴシカ』が公開されたジョール・シルヴァ主宰の
ダーク・キャッスルから、次回作として1953年ワーナー製作
“The House of Wax”(邦題・肉の蝋人形)をリメイクする
計画が発表された。
 この作品は、元々は舞台劇の映画化ということだが、実は
1933年に“Mystery of the Wax Museum”の題名で映画化さ
れており、1953年作品もすでにリメイクだった。お話は、蝋
人形館のオーナーで元人形師の男が、自分の作品をより完璧
なものとするため、人を殺して展示品にしようとするもの。
1933年作品では、ホラー映画史上初の現代社会を舞台にした
作品とも言われているようだ。
 そして1933年作品では、人形師を“Doctor X”などのライ
オネル・アトウィルが演じ、彼の次の獲物の役に、同年のオ
リジナル版“King Kong”でアン・ダーロウ役を演じたフェ
イ・レイが扮していた。また、1953年作品では、『シザーハ
ンズ』などのヴィンセント・プライスが主演、脇役ではチャ
ールズ・ブチンスキー(後のブロンスン)の名前も記録され
ている。
 という作品の2度目のリメイクだが、今回の映画化では、
チャド&カーリー・ヘイズの脚本で、監督はコマーシャル出
身のジャウム・セラ。また主演には、エリサ・カスバート、
チャド・マイクル・マーレイの他、『ズーランダー』などに
出ていた女優のパリス・ヒルトンの起用が発表されている。
 因に、今回のお話は、ヒルトンを含む若者のグループが、
カレッジフットボールの試合に行くために小さな町を通過し
ようとしたことから始まるということで、ヒルトンは1933年
版のレイの役ということのようだ。
 なお、今回のオリジナルとされる1953年版は3Dで製作さ
れ、当時の3D映画の代表作の一つとされるものだが、オリ
ジナルのテイストを大事にするダーク・キャッスルで、本作
はどうするのだろうか。撮影は5月にオーストラリアで開始
され、アメリカ公開は10月に予定されている。
 一方、シルヴァは、ダーク・キャッスルとは別に主宰して
いるシルヴァ・ピクチャーズで、2000年に公開されたゲーム
の映画化“Dungeons and Dragons”の続編にもタッチしてい
る。この作品は、ドイツのスタジオ・ハンブルグが共同製作
しているもので、ゲリー・レヴィの監督で年内にヨーロッパで
撮影されることになっている。
 なおこれらの2作のアメリカ配給は、ワーナーが扱う。
        *         *
 トム・クルーズ主演で、8月の撮影開始が予定されている
シリーズ第3作“Mission: Impossible 3”の相手役に、キ
ャリー=アン・モスの起用が報告されている。
 役柄の詳細ついて、今回は発表されていないが、以前の報
道ではリーア・クイントという名前のIMF訓練生で、天賦
の上品さがあり、暖かさと弱さもあるが、一旦ことが決ると
鉄の意志を持って行動するとなっていた。『マトリックス』
のトリニティとダブル印象もあるが、そこが製作者の狙いで
もあるところだろう。
 というのが、キネ旬5月下旬号のワールドニュースに掲載
される情報だが、その原稿の入稿直後に、さらに追加のキャ
スティングが報告された。それによるとこの第3作には、ス
カーレット・ヨハンセンとケネス・ブラナーの出演も予定さ
れているということだ。
 ヨハンセンについては、前々回と前回、競作になるかも知
れない“Napoleon and Betsy”について報告したが、同作の
撮影は早くても今年の秋以降になるということで、その前に
ハリウッド大作への出演ということになりそうだ。なお、ヨ
ハンセンは、ユニヴァーサル製作で“Synergy”という作品
がすでに撮影終了しており、さらに今年1月15日付第55回で
紹介したブライアン・デパルマ監督の“The Black Dahlia”
に出演の情報もあるが、これも先になるようだ。
 また、報告されているキャスティングの役柄については、
製作サイドが厳秘扱いだそうで、クルーズ=イーサン・ハン
ト以外は、悪役か善玉かも全く判らない。ただし、上記のク
イントについては、昨年9月15日付第47回でも報告したよう
に24−36歳の女優という指定があり、これはモスに決まりの
ようだ。といってもこの役が善か悪かは不明だが…。他に、
前2作にも登場したハントの同僚ルーサー・スティッケル役
のヴィング・レイムは今回も登場するようだ。
 脚本には、ディーン・ジェオガリス、ロバート・タウン、
ダン・ギルロイが名を連ね、最新の脚本はフランク・ダラボ
ンが手掛けているが、これも厳秘扱い。製作状況は、アフリ
カ各地でのロケーションハンティングが進行中とのことだ。
『ナーク』のジョー・カーナハンの監督は変わらず、公開は
パラマウントの配給で2005年夏の予定になっている。
        *         *
 一方、前作『M:I2』を第1作を上回る5億4600万ドル
(ワールドワイド)の大ヒットに導いたジョン・ウー監督に
は、2005年夏公開予定のユニヴァーサル作品で、ドウェイン
“ザ・ロック”ジョンスン主演の“Spy Hunter”への起用の
噂されている。
 実はウー監督は、2000年公開の前作の後では、ニコラス・
ケイジ主演による戦争物の『ウインドトーカーズ』と、今年
正月公開でSFの『ペイチェック』を手掛けているが、いず
れも期待したほどの成績には至らなかったということで、こ
こは再度純粋なアクションに挑戦して、感覚を取り戻したい
という考えがあるようだ。
 といってもヴィデオゲームの映画化のこの作品で、どのよ
うな展開が待ち受けているのか全く不明だが、元々展開だけ
なら純粋のアクションに近いゲームで、しかもザ・ロックの
主演では、間違いなく純粋なアクション映画になりそうだ。
 ただしこの作品は、ユニヴァーサルで2005年夏向けには唯
一決定しているテントポール作品ということで、その面のプ
レッシャーもきつそうだが、香港出身で最初に成功したウー
監督には、是非とも良い結果を残してほしいものだ。
 因にウー監督の予定では、他に任天堂ゲーム“Metroid”
の映画化の計画もあるようで、今回の作品がすんなり決まる
かどうかは不明だが、2005年夏に間に合わせるには、今月中
の決断が必要になりそうだ。
        *         *
 お次はまたまたトリロジーの映画化で、すでに“Artemis
Foul”などの3部作も計画しているミラマックスから、出版
前の新作の映画化権を獲得したことが発表された。
 この作品は、“Mistmantle Chronicles”と題されている
もので、イギリスの児童文学作家マージ・マカリスターが、
2005年の春から3年連続で1作ずつ発表する計画のもの。お
話は、霧に隠された孤島に住むリス、カワウソ、ハリネズミ
にモグラといった面々が繰り広げる冒険を描いたもので、来
春出版の第1作“Urchin of the Riding Stars”では、孤児
のアカリスの主人公が、忠義や友情を学びながらいろいろな
難問に立ち向かって行くというものだそうだ。
 実写の映画化はかなり難問になりそうな作品だが、物語は
シェークスピア作品にも通じる雰囲気があるということで、
ミラマックスでは、以前から紹介しているファミリー向けの
作品シリーズの一環として進める計画ということだ。
 なおこの計画では、先日4月第2週にアン・ハサウェイ主
演によるファンタシーの“Ella Enchanted”が公開されたば
かりだが、上記の“Artemis Foul”の他にも“The Tiger's
Apprentice”“The Bartimaeus Trilogy”、また傘下のディ
メンションで進められている“The Lost Years of Merlin”
などが予定されており、今後もこれらの作品が続々と製作さ
れることになるようだ。
        *         *
 コミックスの映画化で、ニューラインでマーヴルコミック
スを映画化する“Iron Man”の脚色に、『X−メン』とその
続編も手掛けたデイヴィッド・ハイターの契約が発表されて
いる。
 この原作は、1962年からマーヴルで発表されているシリー
ズで、大金持ちの発明家トニー・スタークが、自ら開発した
ハイテクのアーマーを装着し、国際的なテロリスト集団との
闘いを繰り広げるというもの。何だか今の国際情勢を見越し
て作られたような物語だ。
 そして今回の映画化では、当初はワーナー製作の人気テレ
ビシリーズ“Smallville”などを手掛けているアルフレッド
・ゴーフとマイルズ・ミラーのコンビが脚色に起用されてい
たが、その契約を解消してハイターとの契約が結ばれたもの
だ。因にハイターは、上記の他に『スコーピオンキング』の
脚本も手掛けており、この手の作品の脚本はお手のものとい
うところだろう。
 なお、ニューラインのマーヴル作品映画化では、先にウィ
ズリー・スナイプス主演の『ブレイド』シリーズが発表され
ているが、その第3作となる“Blade: Trinity”は12月10日
の全米公開が決定したようだ。
        *         *
 最後にちょっと面白い話題で、2001年に製作され、翌年日
本でも公開されたジェイク・ギレンホール主演による超自然
ホラー映画“Donnie Darko”(ドニー・ダーコ)のディレク
ターズカットを再公開する計画が発表された。
 この作品は、リチャード・ケリーの脚本・監督によるもの
で、元々はインディーズの製作会社がギレンホールを主演に
迎え、総予算200万ドルで計画された。ところがこの脚本が
ジェイクの姉のマギー・ギレンホールの目に留まり、さらに
ドリュー・バリモアやパトリック・スウェイジらも参加、最
終的にはバリモアが製作総指揮を買って出て、340万ドルで
完成させたというものだ。
 そしてこの作品は、サンダンス映画祭でも好評を博したと
いう触れ込みだった。しかし僕自身、当時の試写で見た印象
は、ちょっとピンと来ない感じだった。実際アメリカのガイ
ドブックでも、全体的に話が中途半端などと書かれている。
もっとも今回参照したガイドブックでは上映時間が122分と
なっていたが、キネ旬の資料では113分となっており、日本
版はさらにカットされていた可能性はあったようだ。
 その作品のディレクターズカットが登場する訳だが、紹介
によるとこの新版では、オリジナルでカットされた21分が追
加され、さらにサウンドやF/Xも新たに作り直されたとい
うことだ。そしてこの新版は5月末のシアトル映画祭で上映
され、そこで好評なら全米公開も目指すとしている。
 実は、劇中で使われた音楽がその後ヒットしたとか、いろ
いろな要因はあるようだが。物語全体の雰囲気は良かった記
憶もあるので、出来れば日本でも新版の再上映を期待したい
ものだ。


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井口健二