井口健二のOn the Production
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2004年02月29日(日) ゴッド・ディーバ、スイミング・プール、イン・ザ・カット、リアリズムの宿、スクール・オブ・ロック、卒業の朝、上海家族

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ゴッド・ディーバ』“Immortal Ad Vitam”       
フランスのグラフィックノヴェル作家エンキ・ビラル原作、
脚本、監督によるSF映画。              
ビラルが1980年から発表しているニコポルのシリーズ3部作
の中から、第1作の『不死者のカーニバル』と第2作『罠の
女』に基づく映画化。                 
『ブレードランナー』のヴィジュアルイメージの基になった
作家と宣伝コピーにあるが、確かにこの原作は1980年の発表
だから、1982年公開の作品には符合している。本作にも登場
する空中に浮かぶメッセージボードなどの映像は、なるほど
と思わされた。                    
2095年ニューヨーク。ハドソン川の上空には巨大なピラミッ
ドが出現し、一方、セントラルパークに出現した異空間は、
人々の調査を拒絶している。また街にはミュータントやエイ
リアンが溢れている。                 
そのピラミッドの中では、一人の古代の神が反逆罪に問われ
死刑を宣告されている。彼は刑の執行までに7日間の猶予を
与えられ、地上へと降り立つ。そして冷凍監獄を脱出した政
治犯ニコポルの助けを借りて、一人の女性の探索が始まる。
物語は複雑と言うほどではないが、程よくいろいろな要素が
組み合わされ、それに見事な未来世界の映像が展開されて、
1時間44分は飽きさせない。特に、架線から給電を受けて空
中を行き来する古びた乗用車の映像は気に入った。    
ビラルは、映画の監督作品も既に3本目と言うことで演出も
手慣れているし、また、主演にシャーロット・ランプリング
や、『戦場のピアニスト』のトーマス・クレッチマンらを据
えているから、見ているほうにも安心感が有る。     
しかも生身の出演者を主要な人物だけにして、ほとんどの登
場人物がCGIという作り方も、ビラルのヴィジュアルを再
現するには適当な方法だったようだ。これらが見事に融合し
て、相乗効果を上げている。              
基本はビラルのヴィジュアルを楽しむ作品。従来のアニメー
ションでは描き切れなかった世界が、3D−CGIで見応え
充分に描き出されている。               
                           
『スイミング・プール』“Swimming Pool”        
シャーロット・ランプリングとリュディヴィーヌ・サニエの
共演、『8人の女たち』のフランソワ・オゾン監督で、2003
年カンヌ映画祭で上映された作品。           
見終って一言、やられましたと言う感じだった。     
年代の違う女性2人の共演で、ジェネレーション・ギャップ
を描くのかと思いきや、事件が起こり、さらに謎に満ちた結
末に導かれる。誰が誰を騙しているのか、はたまた本当に事
件は起きたのか。観客の想像力を見事に掻き立てる。   
オゾン監督は、『8人の女たち』の時も、見事に映画ですと
言う感じの作品を提示してくれたが、本作もまた別の意味で
映画を感じさせてくれた。               
最近、別の映画の宣伝コピーで、「アメリカ中が騙された」
というような文を見かけたが、観客を騙すと言う意味では、
この作品の方が数段上だ。               
ランプリングは、『ゴッド・ディーバ』に続いて見ることに
なったが、未来映画の中で、ある意味中性的に描かれた主人
公に対して、本作ではいろいろな意味で女を演じている。し
かも監督が、女性を撮らせたら当代一とも言えるオゾンなの
だから、その演じっ振りも見事なものだった。      
一方、サニエは『8人の女たち』に続くオゾン作品だが、ち
ょっと蓮っ葉な感じが、最初は違和感を感じさせない訳では
ない。しかし、それが逆に最後に活かされているというとこ
ろでもあった。                    
それにしても、結末の解釈がいろいろできて、いつまでも楽
しめる作品だ。                    
                           
『イン・ザ・カット』“In the Cut”          
この題名で、カットという言葉が何を意味しているのか疑問
だったが、まさかバラバラ殺人事件の話とは思わなかった。
もちろん他の意味も含んでいるが。           
主人公は、ニューヨークのスラム街で英語の授業をしている
女性教師。作家志望でもある彼女は、生徒にスラングなどの
言葉集めもさせている。そんな彼女が、生徒と会うために立
ち寄ったバーで、男女の営みを目撃してしまう。     
数日後、彼女の住むアパートに刑事が現れ、バラバラ殺人事
件の聞き込みを始める。その被害者は、彼女がバーで見かけ
た女性だった。しかも刑事は、単に聞き込みをするだけでな
く、主人公に好意を抱いていることを告白する。     
こうして、彼女の生活の中に事件が入り込んでくる。しかも
その事件は、連続殺人へと発展する。          
刑事は登場するが、映画は事件を捜査しているところを描く
訳でもなく、推理ものとしては中途半端な感じは否めない。
それに真犯人もちょっとアンフェアな感じもする。    
でも、ジェーン・カンピオン監督の作品は、別段、推理を描
くことが目的ではないし、結局事件に翻弄され、その中で成
長して行く女性を描いている訳で、しかもその主人公をメグ
・ライアンが演じているのだから、これは正に鬼に金棒だ。
決して若くはないのに、何か浮ついた感じの主人公が、いろ
いろな出来事の中で、徐々に足が地に着いて行く。そんな感
じが見事に描かれていた。               
それにしても、ライアンの大胆な演技には恐れ入った。最近
の映画には珍しくぼかしや、フィルムが削られた画面も登場
して、しかもそういうシーンのいくつかはライアンが演じて
いるのだから、本当に思い切った作品と言えるだろう。よく
がんばったものだ。                  
                           
『リアリズムの宿』                  
つげ義春の原作から、『ばかのハコ船』の山下敦弘監督が映
画化した作品。                    
実は、山下監督の前作は試写状をもらいながら見に行ってい
なかった。つげ原作の映画化も過去に何本かあるが、これも
見てはいない。これらは僕の食わず嫌いによるところだ。そ
ういう組み合わせの作品を今回は見てしまった。     
それで感想は、面白かった。              
主人公は、面識はあるが今まではろくに話をしたこともない
2人の男。この2人が共通の友人に誘われて冬の鳥取にやっ
てくる。しかし、共通の友人は現れない。こうしてほとんど
知らない者同士、2人の男のロードムーヴィが始まる。  
中国地方日本海側が舞台のロードムーヴィということでは、
大島渚の『帰ってきたヨッパライ』を思い出した。ヒット曲
をモティーフにしたこの作品は、期待して見に行った割りに
は面白くなく、がっかりしたものだが、今回は面白かった。
主人公2人の設定が映画青年で、一人は脚本家、一人は監督
という辺りから、映画ファンの気持ちをくすぐる。実際、こ
の2人の会話が実にありそうで、タイトル通りリアリズムな
のだが、それがまた本当のリアルさでない辺りが巧く作られ
ている。                       
それにしても日本映画のコメディ作品で、声を上げて笑えた
のは久しぶりのことだ。『ゲロッパ』も『1980』もそれ
なりに面白かったが、声を出して笑うほどではなかった。 
井筒作品のように見慣れていると、笑い方も判ってくるが、
初めて見た監督でこれだけ笑えたのは大したものだ。日本人
のコメディセンスも、正統派の映画監督の手になると捨てた
ものではないと言う感じを持った。           
本当にありそうで、でも本当はある訳が無くて、この感じは
ファンタシーに通じるところがある。そんな感覚でも楽しめ
る作品だった。                    
                           
『スクール・オブ・ロック』“The School of Rock”   
主演のジャック・ブラックが、今年のゴールデン・グローブ
賞のコメディ/ミュージカル部門の主演男優賞にノミネート
された作品。                     
実は、ちょっと太めの主人公がギターの極めポーズを取って
いるポスターには、多少退くところがあった。しかもブラッ
クは、アメリカではそこそこの人気はあるようだが、日本で
はまだ有名と言うほどではないから、これはかなりきつい。
しかし、本作でノミネートの実績は伊達ではなかった。  
過激な演奏スタイルで、バンド仲間からも嫌われてしまった
主人公が、取り敢えず家賃を稼ぐために、友人の名をかたっ
て小学校の代用教員になる。しかもそこは、厳格なしつけで
評判の名門校。                    
最初は2週間をごまかし続ければ金は稼げると思い、授業態
度もいい加減だったのだが、ふと子供たちの音楽の才能に気
付いたことから、子供と一緒にバンド合戦に出ることを思い
つく。こうして、子供たちをロック・ミュージシャンにする
指導を始めるのだが…。                
第一に資格もないのに教師をやっているし、それも学校には
隠れてロックを教えている。その上、子供たちにもバンド合
戦の意味については嘘をついている訳で、2重3重に嘘で固
まってしまっている。                 
それを乗り越えて行く話だから、下手に作ったら本当に嫌み
になってしまうところだが、それを見事にクリアしているの
だから大したものだ。                 
それに、子供たちの演奏がどこまで本物かは判らないが、見
ている限りは見事なものだったし、実際にかなり様になって
いる。こういう辺りも手を抜かないのが、ハリウッド映画の
底力と言うところだろう。               
なお、僕が見た試写会は、音楽関係者が多く来場していたよ
うで、上映前はプレスシートの内容に文句を着けたり、あま
り芳しい状況でなかったのだが、それが映画が始まると、途
中で拍手は出るは、最後は「感情移入しちゃうよな」なんて
言う発言が出ていたから、かなり良い感じだったようだ。 
                           
『卒業の朝』“The Emperor's Club”          
イーサン・ケイニン原作『宮殿泥棒』の映画化。     
原作者は1960年生まれということで、1976年の名門高校が舞
台のこの作品は、彼自身が学生の時代を描いている。そして
主人公は、その名門校で歴史を教えるベテラン教師。そのク
ラスに、上院議員を父親に持つ転校生が入ってくる。   
この転校生がかなりの悪餓鬼で、授業の妨害などもしょっち
ゅうだが、彼には同級生の心を掴むカリスマ性がある。そし
て、その生徒がある切っ掛けから、一旦は教師が信頼を寄せ
るまでの優等生になるのだが…。            
物語は、その教師が引退し、一方、生徒は大企業家になり、
その元生徒が学生時代に優勝を果たせなかった学内のコンテ
ストに再挑戦したいと言い出すところから始まる。しかしそ
のコンテストには、教師も苦い思い出があった。     
実に、いろいろなことを考えさせられる物語。原作者は現在
大学のライターズ・クラスで教鞭を取っているということだ
が、それを聞くとなるほど、テクニック的には巧い物語を作
り上げていると感じる。                
そしてその物語の中に、教師や生徒のそれぞれの持つ挫折感
などが巧妙に描かれている。              
映画は、教師役のケヴィン・クラインと、生徒役のエミール
・ハーシュをフィーチャーしたもので、その一点でも良くで
きている。なお、1970年代に男子高だった学校が、最後に映
る現在では共学になっているという辺りに時代性を感じた。
                           
『上海家族』“假装没感覚”              
中国の女性監督が描いた現代上海を舞台にした女性映画。 
主人公は、英語の教師をしている母親とその15歳の娘。その
母親が2年間の不倫を解消できない夫と離婚し、娘を連れて
実家に戻る。しかし実家は弟の結婚を控え母子のいる場所は
ない。やむなく子連れの男性と再婚するが、男はけちで入浴
にまで注文をつける。                 
そんな母子の行き着く先は…。             
女性監督と言うこともあるのだろうが、主人公の母子を含め
登場する女性たちが見事に本音を語るところが気持ち良い。
祖母の昔の女性を代表するような発言や、弟の嫁なども見事
に言いたいことを言う。                
それに対して男たちのだらしなさ。これを見ると、中国の男
性も日本の男性と同様、相当に目標を見失っているようだ。
そんな男たちを尻目に女たちはしたたかに生き抜いて行く。       
なおプレスの解説によると、中国は政治体制の変革で不動産
の個人所有が認められたが、法律上の問題でその権利のほと
んどは男性が独占してしまったのだそうだ。その事実を踏ま
えると、この映画の結末の意味は、日本人が考える以上のも
ののようだ。                     



2004年02月15日(日) 第57回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは衝撃的なこの話題から。
 『トイ・ストーリー』から『モンスターズ・インク』、そ
して『ファインディング・ニモ』まで、3D−CGIアニメ
ーションの時代を築き上げてきたピクサーとディズニーのコ
ンビが解消されることになった。
 ピクサーは、元々はジョージ・ルーカスの下でVFX用の
3D−CGIアニメーションを研究開発していたチームで、
1985年の『ヤング・シャーロック』に登場したステンドグラ
スの剣士などを手掛けていた。そのチームが独立、1991年の
ディズニー作品『美女と野獣』の舞踏場のシーンで注目を集
め、1995年の『トイ・ストーリー』以後、ほぼ2年に1作の
ペースで、ディズニーを配給元として作品を発表してきた。
 しかし、昨年1月にピクサーが行った新作の製作発表で、
ディズニーとの離別を示唆するなど、今年の契約更改に向け
た行動が始まっていた。そして昨年の『ファインディング・
ニモ』の記録的大ヒットで発言力を強くしたピクサーは、作
品から派生する各種の利権についてより多くの権利を要求、
その結果、交渉が決裂となったものだ。
 確かに交渉しているのだから、それが常にまとまるという
ものではないが、ヒット作、話題作を次々に生み出してきた
コンビの解消はやはり衝撃と言える。ただし、ピクサーとデ
ィズニーの契約はあと2本残っていて、その1本目の“The
Incredibles”は今年の11月、そして最終作となる“Cars”
は2005年末公開の予定になっている。因に、ルート66を走る
自動車を主人公にした“Cars”では、ポール・ニューマンが
声優に挑戦することでも話題になっているようだ。
 また、今回の契約解消では、ディズニー側が過去の作品に
関する権利を確保、この結果、ディズニーは上記の作品や、
1998年の『バグズ・ライフ』などの続編、テレビシリーズを
自由に作ることができ、それに対してピクサーは、通常のロ
イヤリティーを得られるだけとなるようだ。
 とは言え、ピクサーには新しい未来が開かれる訳で、その
第1作は昨年1月に製作発表された作品になるようだが、そ
の作品の題名は未定なものの、内容は、巨大なレストランを
舞台にしたネズミたちの冒険とされている。まあ、ネズミが
主人公の作品を、ミッキーマウスのディズニーで発表すると
いうのもちょっと変だったかも知れないというところだ。 
 そしてその配給権には、フォックス、ワーナー、ソニー、
ユニヴァーサルの各社が名乗りを挙げているということだ。
従って、この内の1社からピクサーの新作が配給されること
になる訳だが、ディズニーとの契約には、最終作が公開され
てから1年間は新作を発表できないとする条項があるという
ことで、新作の公開は早くて2006年11月になるようだ。
 一方、ディズニーも交渉決裂を見越しての準備は進めてい
たようで、昨年来、東京やフロリダに分散していたアニメー
ション部門を、本社スタジオのあるバーバンクに結集。さら
に、今後は3D−CGIを主流としたアニメーションの製作
を進めるとした発表も行われている。
 そしてその第1弾には、絵本作家のウィリアム・ジョイス
が自ら脚本を執筆した“A Day With Wilbur Robinson”の映
画化を、今年の6月に製作開始、2006年夏の公開で行うこと
が発表された。因にこの原作は、失われた過去の記憶を再現
する機械を発明した天才少年が活躍するコメディ・アドヴェ
ンチャーで、映画化の情報は10年以上前から流されていた。
なお映画化は、『ブラザー・ベア』のスティーヴ・アンダー
スンが監督し、製作費は『リロ&スティッチ』並の8000万ド
ルが当てられるということだ。
 またディズニーでは、『シュレック』を手掛けたヴァンガ
ード・フィルムスや、カナダのアニメーション製作会社と提
携を結ぶ動きもあるようだ。
 いずれにしても2006年には、ディズニーから自家製第1号
の3D−CGIアニメーションと、ピクサーの独立第1作の
対決となる訳で、これに恐らくはドリームワークスの作品も
加わって、この年度のアカデミー賞長編アニメーション作品
賞はますます面白いことになりそうだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 最初に、スティーヴン・スピルバーグ関連の話題で、長年
彼が関ってきた2作品の実現に向けた動きに、多少明暗が分
かれてきた。
 まずは明の方で、以前から介している日本女性が主人公の
歴史ドラマ“Memoirs of a Geisha”の計画で、新たな脚色
を行う脚本家が決定され、今年秋からの撮影に向けた準備が
本格的にスタートした。
 この計画では、以前にも紹介したように1997年に発表され
たアーサー・ゴールデンの小説からスピルバーグが監督する
予定で脚色が進められ、ロン・バスやアキヴァ・ゴールズマ
ンの脚本が準備された。しかしこの計画は実現せず、2001年
にスピルバーグが断念を発表したものだ。
 その計画が、昨年のオスカー作品賞を受賞した『シカゴ』
のロブ・マーシャル監督の次回作として浮上。これに対して
当初は、監督の次回作の権利を保有していたミラマックスが
難色を示していたが、最終的に同社はイギリス国内の配給権
と引き換えに権利を放棄、実現が可能となっていた。
 しかし、先に準備された脚本はいずれもマーシャルの意に
合わず、新たに脚色が行われることになったもので、その脚
本家には、1994年版の『若草物語』や、1996年にダニー・デ
ヴィートが監督した『マチルダ』、さらに1998年の『プラク
ティカル・マジック』などを手掛けたロビン・スウィコード
が起用されることになった。
 なおスウィコードは、先に発表した“The Rivals”という
オリジナル脚本がドリームワークスで取り上げられ、19世紀
を時代背景にライヴァル関係にあった2人の舞台俳優を巡る
物語が展開するこの作品は、スピルバーグの監督も視野に入
れて計画が進められているということで、今回の起用には、
本作の製作総指揮も務めるスピルバーグの意向も働いている
ようだ。
 ということで、脚本はどうやら英語で作られることになり
そうだが、『ラスト・サムライ』が話題になった後で、最終
的にどのような決断が下されるかも楽しみだ。
        *         *
 そしてもう一つは、直ちに暗という訳ではないが、ちょっ
と気になる情報で、“Indiana Jones 4”の製作が、また少
し遠退く感じになってきた。
 この計画では、『ショーシャンクの空に』などのフランク
・ダラボンが脚本を担当していることが以前から報告され、
実は今回の報道の数日前にも、新たにパラマウントとの優先
契約を結んだダラボン本人が、“Indy 4”の脚本はすでに完
成していると発言したばかりだった。
 ところがこの脚本に、監督のスピルバーグ、製作のジョー
ジ・ルーカス、主演のハリスン・フォードの3人組の中で、
今回はルーカスが反対したということで、結局ダラボンの脚
本は撤回され、その後釜の脚本家には、何と“Memoirs of a
Geisha”と同じロビン・スウィコードが起用されることに
なったという話だ。
 元々この計画では、最初にルーカスが用意した脚本にスピ
ルバーグとフォードが反対したという経緯もあり、ダラボン
の起用もスピルバーグの発案だったという話もあるが、続け
てスピルバーグ側の脚本家で上手く行くものかどうか。
 しかもスウィコードには、先にやるべき脚色がある訳で、
その後の脚本の執筆では、パラマウントが期待した2005年夏
の公開は到底不可能。さらに2005年夏に撮影が行われるとす
ると、その時のフォードは65歳になっているということで、
アクション中心の“Indiana Jones”は大丈夫かという心配
もあるようだ。
 なお今回の計画は、元々が“Indiana Jones”のDVDの
発売に合わせるという思惑もあったということだが、その発
売も既に終了して、この先、本当に実現できるのか、かなり
不安な状況になってきた感じだ。
        *         *
 ついでに、上の記事にも書いたフランク・ダラボンの動向
を紹介しておこう。
 ダラボンは、ここ数年は主宰するダークウッズ・プロダク
ションを通じてキャッスルロックと契約してたもので、脚本
のみを手掛けた“The Salton Sea”と、脚色監督を担当した
『グリーン・マイル』『マジェスティック』を同社から発表
している。しかし今回、その契約を解消して、新たにパラマ
ウントと3年間の優先契約を結んだということだ。
 そして現在、ダークウッズの計画では、まず進行中なのが
ドリームワークスが製作している“Collateral”。トム・ク
ルーズ主演で、マイクル・マンが監督しているこの作品で、
ダラボンは脚本の準備稿を執筆すると共に、マン監督の起用
を実現し、製作総指揮も務めているということだ。
 また、以前に紹介したレイ・ブラッドベリ原作の2度目の
映画化となる“Fahrenheit 451”が進行中。ただし、メル・
ギブスンの主演で、ダラボンの監督も予定されているこの計
画は、ワーナーで進められるということだ。
 と言うことで、ここから後が今回のパラマウントとの契約
に関ることになるが、まずは、伝記ものが2作品で“Tokyo
Rose”と“Rivers in the Desert: William Mulholland and
the Inventing of Los Angels”、前者は第2次大戦秘話に
なりそうだ。
 続いて、アクション・アドヴェンチャーも2作品で“Doc
Savage: The Man of Bronze”と“Way of the Rat”、前者
は、1975年に一度映画化されたケネス・ロブスン原作のちょ
っとファンタスティックな冒険小説のリメイク。さらにスリ
ラーで“Mine”、ロマンスの“Standing Down”、ドラマの
“Back Roads”“Runt of the Litter”となっている。 
 まあ、かなり企画は抱えている感じだが、パラマウントも
目算があって今回の契約を結んだはずで、さて、この内のど
れが実現するのだろうか。
        *         *
 続いては、SF映画の話題で、“The Island”と題された
オリジナル脚本に対して入札による争奪戦が行われ、マイク
ル・ベイの監督が予定されているこの脚本の映画権を、最低
100万〜150万ドルの契約金でドリームワークスが獲得した。
 アンジェリーナ・ジョリー主演の『すべては愛のために』
などを手掛けた脚本家カスピアン・トレッドウェル=オーウ
ェンが執筆したこの脚本は、収穫されることを前提として育
てられる人類をテーマにしたもので、その宿命に疑問を抱い
た主人公がユートピアのような飼育場から逃亡する冒険が描
かれる。
 そしてこの脚本の争奪戦には、パラマウントも参加してい
たということだが、実は同社では、1月1日付第54回で紹介
した“Spares”という作品がよく似たテーマを描いており、
今回の争奪戦で映画化権を獲得した場合には、両者を合体し
て製作する期待もあったということだ。
 しかしドリームワークスに破れてしまった訳だが、ここで
面白いのは、実は“Spares”の企画は、元々は1997年頃にド
リームワークスが進めていたもので、その時はスピルバーグ
の監督で、主演にはトム・クルーズが予定されていた。とこ
ろがドリームワークスでの製作は断念され、それをクルーズ
がパラマウントに持ち込んだものだったようだ。
 ということで、何とも複雑な関係になってしまったものだ
が、このまま両作とも製作されると競作になる恐れもあり、
またドリームワークスとパラマウントでは、『ディープ・イ
ンパクト』から『ペイチェック』まで、SF映画の共同製作
の作品も数多い。となると、今後その可能性も無いとは言え
ないが、それなら今回の争奪戦は一体何だったのかというこ
とにもなりそうだ。
 なお、昨年『バッド・ボーイズ2』の監督と、『テキサス
・チェーンソー』のリメイクの製作を手掛けたベイ監督は、
現在は以前に紹介した“The Amityvill Horror”のリメイク
と、“The Texas Chainsaw Massacre”の続編にタッチして
いるということで、今回の計画が直ちに進められるというこ
とではないようだ。
        *         *
 昨年の4月15日付の第37回と5月1日付の第38回で紹介し
たロバート・A・ハインライン原作“Have Spacesuit-Will
Travel”の映画化で、脚色に『ファインディング・ニモ』で
オスカー脚本賞にノミネートされているデイヴィッド・レイ
ノルズの起用が発表された。
 高校で卒業年次学生の主人公が、大学で学ぶための学資を
捻出する目的で手放そうとした本物の宇宙服が切っ掛けで、
生涯を掛けた大冒険に誘われるというこの物語は、1958年に
発表された原作者の円熟期の作品。1997年にポール・ヴァホ
ーヴェンが映画化した『スターシップ・トゥルーパーズ』の
前年に発表されたものだ。
 そして今回の映画化の計画は、『ハリー・ポッター』シリ
ーズを手掛けるデイヴィッド・ヘイマンが昨年来進めていた
もので、この時期の脚本家の発表は、早ければ今年の秋から
の撮影開始も考えられるということで、前回の報告で一緒に
紹介した同じ原作者の“The Moon Is a Harsh Mistress”よ
り先に実現できる状況になってきたようだ。
 ということで本作は、ワーナー配給で来年中の公開も期待
できそうだが、できれば“The Moon …”の早期の実現も期
待したいものだ。
        *         *
 次もオスカー候補になっている脚本家の情報で、今年度の
脚色賞に“American Splendor”がノミネートされているシ
ャリ・スプリンガー・バーマンとロベルト・パルチーニのコ
ンビに、1935年製作のユニヴァーサルホラーの古典“Bride
of Frankenstein”のリメイクがオファーされている。
 本作のオリジナルは、メアリ・シェリーの原作を映画化し
た1931年の“Frankenstein”の続編として製作されたものだ
が、この作品は前作より高い評価が与えられて、多くのガイ
ドブックで満点が与えられるなど名作として名高いものだ。
 そのリメイクの脚本と監督が、コンビにオファーされてい
る訳だが、実はすでにいくつか作られていた脚本から、さら
に今回コンビにオファーするに当り、ユニヴァーサル側が提
示した条件は、既存の脚本に捕われる必要なしということ。
つまり彼らは自らのコンセプトで、自由に作品を創造できる
ということで、この要望に対して彼らは、現代ニューヨーク
を舞台にした『ローズマリーの赤ちゃん』のような作品を目
指すとしている。
 因に、同作のリメイクでは、1985年にスティングとジェン
ファー・ビールス主演で作られた『ブライド』あるが、今回
の発表ではほとんど無視されていたようだ。また、今年5月
公開予定の“Van Helsing”は19世紀が時代背景で、その中
にフランケンシュタイン博士とその怪物に関するシーンがあ
るそうだが、それとのつながりも持たせないということだ。
 なお事前に作られていた脚本は、実はVFXを多用した未
来的な物語だったそうで、彼らのコンセプトとは大幅に異な
るようだが、すでに『ハムナプトラ』や“Van Helsing”で
VFX満載のリメイク路線を突き進んでいたユニヴァーサル
が、今回はちょっと方向転換しているようだ。
        *         *
 元クリントン大統領の演説原稿の執筆者で、昨年公開され
た『ビロウ』の脚本家としても知られるルーカス・サスマン
が、ダーレン・アロノフスキー監督の新作の脚色しているこ
とが発表された。
 この作品は、“Song of Kali”という題名で、ダン・シモ
ンズという作家の小説を映画化するもの。内容は、インド人
の妻と赤ん坊を連れてカルカッタを訪れたアメリカ人の詩人
が、インドの女神カリ神を歌うインド人の詩人を訪ねるが、
彼が訪れたときインド人の詩人は女神を信奉するカルト集団
によって拉致され行方不明になっていた、という発端で始ま
る物語のようだ。
 インドのカルト集団の話では、昨年日本公開された『ホー
リー・スモーク』が面白かったが今度はどうだろうか。製作
はフォックス傘下のニュー・リジェンシー。
 なお、サスマンはこの他に、『ファイト・クラブ』を手掛
けたジム・ユルスと共同で、“Flicker”というオリジナル
作品もリジェンシーで進めており、この作品はBムーヴィが
地球上の生物を絶滅させるプロットに繋がっていることに気
づいたロサンゼルスの映画学生の物語だそうだ。
 また、同じくフォックス傘下のファームというプロダクシ
ョンで、“Silver”というSF西部劇も担当しており、この
脚本は既に完成しているようだ。
        *         *
 最後に続報で、昨年7月1日付の第42回で報告した“The
Hitchhiker's Guide to the Galaxy”の映画化で、出演者に
“The Office”という作品にも出演しているマーティン・フ
リーマン、ズーイー・デシャネル、モス・デフという顔ぶれ
が発表され、4月19日からロンドンで撮影開始されることが
公式に発表された。
 噂では、既にアイスランドで一部撮影が行われたという情
報もあるようだが、俳優も含めての正式のスタートはこれか
らとなるようだ。
 なお監督は、前回も紹介したガース・ジェニングスとニッ
ク・ゴールドスミス(前回紹介のときのチーム名ではなく、
個人名でクレジットするようだ)。
 また製作総指揮として、前任監督のジェイ・ローチも名を
連ね、さらに映画化を夢見ながら2001年に他界した原作者ダ
グラス・アダムスの名前も、製作スタッフとしてクレジット
されることになっている。
 スパイグラスとウォルト・ディズニーの共同製作で、世界
配給はブエナ・ヴィスタが担当する。



2004年02月14日(土) 大脱走、妄想代理人、かまち、パピヨンの贈りもの、ランダウン、真珠の耳飾りの少女、ケイナ、H、恋愛適齢期

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『大脱走』“The Great Escape” 
1963年製作ジョン・スタージェス監督作品のリヴァイバル。
日本でも63年に初公開され、その後70年に一度リヴァイバル
公開されたようだが、僕自身は初公開当時にロードショウで
見て以来40年ぶりの再見だった。
とは言うものの、正直のところ初公開を見た頃はまだ子供だ
ったから、印象に残っているのは、スティーヴ・マックィー
ンのオートバイなどアクションばかりで、今回は全く新鮮な
気持ちで見られたものだ。
そして今回見直して、いろいろ細かい要素もあったことに改
めて気付かされた。
実際、この物語の捕虜たちは、ほとんどがイギリス軍人で、
アメリカ人はほとんどマックィーン一人だけだったというこ
とにも、以前は全く気がついていなかった。アメリカ映画な
のだし、当然アメリカ人が主人公だと思っていたのだが…。
また、当時はマックィーン始め、ジェームズ・ガーナー、チ
ャールズ・ブロンスンといったすでにテレビで見慣れていた
俳優たちに目が行っていたものだが、実はこの後の『ナポレ
オン・ソロ』で人気を得るデイヴィッド・マッカラムがかな
り重要な役だったことも記憶していなかった。
さらに最終的に逃げ切れたのは、映画に登場する3人以外に
も10人以上いたようだ。それも今回初めて最後の方でちゃん
と報告が行われていることに気がついた。
ハリウッド映画らしくドイツ軍も英語を喋るが、それでも要
所ではちゃんとドイツ語だったりフランス語だったり、そん
なところが違和感なく細かく演出されているところにも、今
回初めて気がついたところだ。
ついでに脚本がジェームズ・クラヴェルだったことにも、今
回初めて気がついたし、上映時間が2時間57分もあったこと
にも初めて気がついた。
なお、昔のアクション映画を見直すと、テンポがかなり遅く
て驚くことがあるが、この作品ではそのようなこともなく、
さすがスタージェスという感じもした。
ということで、昔見た映画を見直すのも、結構面白いものだ
ということが解かったのも収穫だった。

『妄想代理人』
『東京ゴッドファーザーズ』の今敏監督がWOWOW用に製作し
たアニメーションシリーズ。全13回の内の第1回と第2回放
送分の上映と、声優及び監督の舞台挨拶。そして上映後に監
督を交えたディスカッションというイヴェントを鑑賞した。
正直なところ、全13回の内の第1回と第2回しか見ていない
のだし、その2回分もこの記事をホームページにアップする
頃には放送が終わっている。従って、いまさらここに何を書
いても仕方ないのだが、一応、記録しておきたい。
それで、その上映された2回分だが、実はこれが、これから
の物語を構築するであろう両極の登場人物の紹介に終始して
いて、結局これからどのような物語が展開するかもまるで解
からない。
でも、この作品には、何か描かれているものにものすごく引
かれるものを感じてしまう。確か『東京…』の時にも書いた
と思うが、今監督の作品というのは、僕が期待しているアニ
メーションとは違うのだけれど、それでも何か親しみやすさ
を感じてしまうのだ。
それで今回、イヴェントの中での発言をいろいろ聞いていた
のだが、実は、監督は筒井康隆のファンなのだそうで、その
辺で親しみが沸く理由が納得できた気がした。結局、この監
督には、宮崎や押井より「SFファン」に近い部分があるの
かもしれない。
なお、監督の発言の中で、いろいろなシーンの使い回しの話
が出てきて、その一部は『東京…』のプレスシートにも紹介
されていたものだったが、そのことでディジタルアニメーシ
ョンの有効性のようなことを力説していた。
でもこの使い回しは、手塚治虫が『鉄腕アトム』をアニメー
ションシリーズ化したときのセルの使い回しと共通する話。
確かに今はディジタルで手軽だろうが、手塚さんはそれをア
ナログでやっていたのだと考えると、その凄さも改めて思っ
てしまった。

『かまち』
1977年に17歳で死んだ山田かまちが残したメッセージを基に
描いた作品。詩と絵を描くことが好きで、ビートルズが好き
だった少年の残したメッセージがスクリーンに甦る。
僕は今までかまちの作品に触れたことはなかったが、この映
画の中で描かれるメッセージが、見事に現代に通用すること
に驚かされる。
もちろん、現代の目で見て、大人の解釈として、そういった
ことを見つけ出してしまっているのだとは思うが、逆に25年
前も現在も、子供の悩みに変りがなく、それが現在はいろい
ろな形で顕在化してしまっているということも考えさせられ
てしまった。
それで映画は、そのかまちの最後の2年間と、現代の同年代
の子供たちが描かれる。そこにメッセージ性を盛り込もうと
した意図が明白な作品だ。そしてそのメッセージは、多分か
まちに興味を曳かれて来るであろうこの映画の観客には正確
に伝わると思う。
しかし映画としてみたとき、僕は、どうしてもこの映画の過
去と現在の描き方に違和感を感じてしまう。恐らく、この映
画の制作者が想定している観客には、そのようなことはどう
でもいいのだろうが、この映画を万人に見せるには、それが
弱点のようにも思える。
普通に考えれば、この映画で現代の部分は不要であろう。も
っとかまち本人に迫っても良かったはずだ。しかしそれでは
メッセージ性が弱くなってしまう。で僕は、逆に過去のシー
ンをカットしてしまっても良かったのではないかと考える。
もちろんそんなことをしたら、かまちのファンに不満を募ら
せるかも知れないが、僕は過去から始まっている物語を、思
い切って現代から始めて、そこにフラッシュバックで過去の
かまちの実像が入った方が、映画的には馴染んだものになっ
たのではないかと思った。
この映画の制作者たちは、当然その辺までも考えて、この構
成にしたのだとは思うが。
なお、本作は日本ヘラルドの製作だが、今回は宣伝会社の関
係で試写を見られたものだ。
実は、僕宛のヘラルドの試写状を昨年末で切られたらしく、
“The Lord of the Rings: The Return of the King”も、
“The Texas Chainsaw Massacre”も、試写を見せて貰えな
かった。
ということで、今後このページでは、今回のようなケースを
除いて、ヘラルド作品は紹介できませんのでご了承下さい。
まあ、そういう会社は他にもいろいろあるが、肝心の時に急
に切られるのは、こちらも対応に困ってしまうところだ。

『パピヨンの贈りもの』“Le Papillon”
蝶だけを愛する孤独な老人と、家族の愛に飢えた少女の交流
を描いた物語。
少女の年齢は8歳。シングルマザーの母親と共に、老人の住
んでいるアパートの階上の部屋に引っ越してくる。その少女
は施設での暮らしが辛かったと語るが、臨時雇いの看護師と
して働く母親は、小学校の下校時の迎えにも来られず、休み
も思うように取れない。
そんな少女と老人が、何となく親しくなって行く。そしてあ
る日、老人は幻の夜行性の蝶の情報を掴み自家用車でその捕
獲に向かうのだったが、その車に少女が潜んでいた。
子供の扱いが解からず、同行者も煩わしい老人は、最初に少
女を警察につれて行く。しかし少女は、言葉巧みに老人を変
心させ、挙げ句の果てに、蝶捜しの山歩きにまで同行するこ
とになるが…。
この少女が、こましゃくれていると言うか、機転が利くと言
うか、見事なキャラクターになっている。そして、この役を
演じているクレール・バニッシュは、1994年生まれだそうだ
から、実際に撮影当時8歳だった訳だが、これがまた抜群に
巧い。しかもこれが、嫌みにならないのだから、見事な演技
力と言えるだろう。
何しろ彼女は、この作品の前に、『千と千尋』や『サイン』
のフランス版の吹き替えの声優もしていたと言うのだから、
並の8歳ではない。
まあ、お話は心暖まる良い話ではあるけれど、それ以上に何
かあると言うものではない。でも子役の見事な演技も見られ
て、一服の清涼剤のような感じのする映画だった。
 
『ランダウン』“The Rundown”  
ドゥエイン“ザ・ロック”ジョンスン主演アクション映画。
主人公は闇金融の取り立て屋。腕っ節は強いが銃は嫌い。そ
して、実は本人も多額の借金を抱えており、その棒引きとさ
らにその後の事業資金も提供するという約束で、ある仕事を
請け負う。それは、ブラジルに行ったまま帰ってこない金融
業者の息子の連れ戻し。
こうしてアマゾンの奥地にやってきた主人公は、考古学的発
見を夢見る息子は簡単に見つけ出すが、彼が発見したと主張
する遺物を巡って、現地の金鉱を暴力で支配する白人独裁者
や、反乱軍ゲリラとの抗争に巻き込まれることになる。
日本公開では、『ザ・ロック・イン・アマゾン』という副題
が付くらしいが、実にその通り。ジャングルで猿に襲われる
は、巨大な露天掘りの金鉱の景観は登場するはで、撮影はハ
ワイで行われたが、その気分は充分に味あわせてくれる。
ザ・ロックは、『スコーピオンキング』に続く主演2作目だ
が、到底他分野から来たとは思えないしっかりした演技で、
安心して見ていられた。アクションも、トリッキーあり、体
力任せありで、まずまずの出来だろう。
それに脇を、クリストファー・ウォーケンやロザリオ・ドー
スンらが固めているのも魅力で、特にウォーケンの怪演ぶり
は楽しめた。
なお、最初の方でサプライズゲストが登場する。僕のホーム
ページを読んでいれば誰だかは解かってしまうが、一応プレ
スでは伏せられていたようなので、ここでは割愛する。

『真珠の耳飾りの少女』“Girl with a Pearl Earring”  
17世紀のオランダの画家フェルメールの代表作とも言える絵
画(別名:青いターバンの少女)の誕生を巡る物語。
優秀なタイル制作者の娘グリートは、怪我で仕事を続けられ
なくなった父に代って生活費を得るために奉公に出る。そこ
は、画家フェルメールの住まい。しかし入り婿である画家の
家は、その妻と義母によって支配されていた。
すでに著名な画家にはパトロンもいたが、一度に1枚の絵し
か描かない画家は寡作で、妻や義母は虚勢を張ってはいるも
のの、生活は裕福ではなかった。そんな中で娘は、父譲りの
美術の才能を発揮、家事から画家の手伝いもするようになる
のだったが…。
元々は1999年に発表され、200万部を超えるベストセラーに
なったという小説の映画化で、物語は全くのフィクションだ
が、17世紀の当時の風景や、絵の具の作り方など当時の絵の
描き方も丁寧に紹介され、タイムマシンで過去世界を見るよ
うに興味深いものがあった。
それに、娘役のスカーレット・ヨハンソンが巧い。1984年生
まれで、まだ19歳ということだが、本当に17世紀にいた少女
ような純粋さ素朴さが見事に演じられていた。
コリン・ファース、キリアン・マーフィ共演。なお本作は、
今年度のオスカーで、美術、撮影、衣裳デザインの各賞にノ
ミネートされている。

『ケイナ』“Kaena”
2003年にフランスで製作されたヨーロッパ初のフルCGアニ
メーション。
フランス製作のアニメーションというと、グリモウの『やぶ
にらみの暴君』や、ラルーの『ファンタスティック・プラネ
ット』などが記憶に残るが、アメリカ製とは一線を画するイ
メージの豊さに素晴らしさを感じるものだ。
本作は、そんなフランスアニメの歴史を引き継いで、さらに
CGアニメーションに新風を吹き込む作品と言えそうだ。と
言っても今回、液体の表現などはありものの映像ではあるの
だが、これがこの先どう発展するか期待したくなるような作
品と言える。
宇宙の果てのとある惑星。その衛星に昔、異星の宇宙船が墜
落し、その影響で1本の樹が巨大化。その樹はある種の知性
を持つまでになり、その世界を支配しようとしている。
一方、樹の幹の半ばには人類に似た住民が暮していたが、彼
らに神として君臨する樹は、住民たちに過酷な貢ぎ物を要求
し、それにより住民たちの生存が脅かされるまでになってい
た。そして住民の一人であるケイナは、そんな神の存在に疑
問を持っていた。
巨大な樹の中に住む住民という設定は、ブライアン・オルデ
ィスの『地球の長い午後』を思い出させるが、別にそれを下
敷きにしている訳ではなさそうだ。
また本作では、墜落した宇宙船の乗員の末裔や樹の精のよう
な存在が登場して、オルディスとは異なる物語が展開するの
だが、それでも『地球の長い午後』が好きだった僕にとって
は、その一端が映像化されたような気分で楽しめた。
パソコンレベルの環境でのCG作成など、制作体制はまだ充
分とは言えないようだが、歴史のあるフランスアニメの復活
が楽しみだ。
なお本作はヴォイスキャストに、キルスティン・ダンスト、
リチャード・ハリス(遺作)、アンジェリカ・ヒューストン
らが揃い、台詞はすべて英語になっている。
それで気がついた面もあるのだが、実は本編の途中でremove
と発音されている台詞が、字幕はmoveとして訳されていた。
物語の流れはそれでも理解はできるのだが、やはり意味合い
がちょっと違ってくる感じもしたので、一応指摘しておく。

『H』(韓国映画)
猟奇的な連続殺人を追う刑事を主人公にしたサイコサスペン
ス。
塵集積場で女性の遺体が発見され、続いて別の女性殺人事件
が起こる。それらは異なる事件のように見えたが、実は、そ
の手口は、数年前に6人を連続殺人し自首してきた男の1回
目と2回目の犯行と同じものだった。
捜査に当るのは、前の事件にも関った女性刑事と刑事部に配
属されたばかりの新人刑事。新人刑事は、すでに死刑が決ま
っている前の事件の犯人を尋問するが、死刑囚は謎めいた言
葉ばかりを並べて捜査は遅々として進まない。
そして一人の男が犯人として逮捕されるが、以前の犯行を模
倣した犯罪は続いて行く。
まず事件が連続殺人であることや、主人公が女性刑事であっ
たり、犯罪捜査のために死刑囚に会いに行くが謎めいた言葉
ばかり言われるなど、この作品が『羊たちの沈黙』から想を
得たことは間違いないだろう。しかしそこから、実に見事に
別の物語を紡ぎ出している。
確かこの前にも、連続殺人ものの韓国映画を紹介したが、こ
れらの作品で共通して言えるのは、物語が少なくとも映画の
中では完結していることが素晴らしい。
これが日本映画だと、得てして曖昧模糊とした結末にして、
それを想像力を逞しくするなどとしてもてはやす向きがある
ようにも感じるが、そんなのは、脚本を完璧に仕上げられな
いことへの言い訳に過ぎない。
その点これらの韓国映画の毅然とした感じは、韓国の映画文
化が大人のものであることの証拠だろう。テレビでヴァラエ
ティまがいの作品を2、3本撮っただけの奴が、見よう見真
似で映画を撮れるような国とは違うと言うことだ。  

『恋愛適齢期』“Something's Gotta Give” 
ジャック・ニコルスン、ダイアン・キートン共演のロマンテ
ィック・コメディ。
10社もの会社を経営し、世間的には成功者だが、結婚願望は
なく、付き合う女性は30歳以下限定と言い切る63歳の男と、
演出家と結婚して一人娘の儲けたが離婚、その後は男を寄せ
つけたことの無い54歳の女流劇作家。この2人が巡り合い、
互いの真の思いに気付いてしまうのだが…。
製作、脚本、監督は、メル・ギブスンがゴールデン・グロー
ブのコメディ主演賞を受賞した『ハート・オブ・ウーマン』
などのナンシー・メイヤーズ。今回は、はっきり言って初老
の2人の恋を、一杯の愛情を込めて見事に描き出している。
そしてそれを見事に演じてみせたのが主演の2人。2人はゴ
ールデングローブに揃ってノミネートされ、受賞はキートン
のみだったが、その演技の素晴らしさがこの作品の全てと言
い切れるくらいだ。
特にキートンは、メイヤーズ脚本には4度目の主演というこ
とで、正に填り役。中でも、泣きわめきながらパソコンに向
かって新作の戯曲を打ち込んで行くシーンは、余りに大げさ
でありながら、それを観客に納得させてしまう演技力は見事
と言う他はない。
一方、多分初共演となるニコルスンは、コメディからシリア
ス、さらに怪優と呼ばれるような演技ぶりまでを変幻自在に
表現し、昨年オスカーにノミネートされた『アバウト・シュ
ミット』は僕の好みではなかったが、今回は見事にありそう
な魅力的な初老の男を活き活きと演じている。
そして、この年代の2人が、eメールでお互いの気持ちを近
づけて行くという描き方も良い感じだった。
他に、キアヌ・リーヴス、フランシス・マクドーマンド、ア
マンダ・ピート、ジョン・ファヴロー、ポール・マイクル=
グレイザーが共演。
マクドーマンドの一つの仕種だけで観客の目を引き付ける演
技も見事だったし、近くリメイク版が登場する『スタスキー
&ハッチ』のスタスキーことマイクル=グレイザーの久しぶ
りの映画出演も話題になりそうだ。



2004年02月01日(日) 第56回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、1月27日(日本時間28日)に発表されたアカデミ
ー賞候補作の話題から。なおメインの部門については、他の
メディアでもいろいろ紹介されると思うので、ここでは僕が
興味を引かれた作品に関連した部門だけ報告する。    
 まず視覚効果賞候補は、第54回で予想した通り“The Lord
of the Rings”と“Pirates of the Caribbean”に加えて、
第3の候補には“Master and Commander”が選ばれた。  
 この第3の候補作品については、その後に試写を見たが、
1月31日付でも紹介したように、ホーン岬のシーンでのミニ
チュア撮影を始め、最近のディジタルFXとは違う視覚効果
の味わいがあり、選ばれて成程という感じがした。期待した
“Hulk”ではなかったが、まあ納得というところだろう。 
 なおこの3作は、メイクアップ賞候補にも一緒に選ばれて
いる。因にメイクアップ賞部門も予備候補は7作で、最終候
補に選ばれた3作の他には、“Cold Mountain”“The Last
Samurai”“Monster”と“Perter Pan”が挙げられていた。
 また、長編アニメーション作品賞候補も、第52回で予想し
た通り“Finding Nemo”と、他にはディズニーの“Brother
Bear”、そしてソニー・クラシックスが配給したフランス作
品の“Belleville Rendez-Vous”(アメリカ公開題名:The
Triplets of Belleville)が選ばれた。         
 またしてもディズニー対決の様相だが、実は、第3候補の
フランス作品の評価が極めて高く、昨年の『千と千尋』のよ
うな捉えられ方もされているようだ。しかし、今度ばかりは
ちょっと難しそうだ。                 
 さらに他の部門も見渡すと、“The Lord of the Rings”
は全11部門(他は、作品、監督、脚色、編集、作曲、歌曲、
美術、衣裳、音響ミックス)、“Master and Commander”は
全10部門(他は、作品、監督、撮影、編集、美術、衣裳、音
響編集、音響ミックス)、“Pirates of the Caribbean”は
全5部門(他は、主演男優、音響編集、音響ミックス)で候
補になっている。                   
 また“Finding Nemo”は他に、脚本賞と音響編集賞の候補
になり、“The Triplets of Belleville”も、他に歌曲賞の
候補になっている。                  
 この他、気になる作品では、昨年がチャンスだった外国語
映画賞には本国の推薦が得られず、候補にすらなれなかった
ブラジル映画“City of God”が、昨年度アメリカ公開され
たことで、今年は晴れて監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞の
4部門で候補になっている。また1月31日付で映画紹介した
“Big Fish”は、作曲賞の候補になっている。              
 以上が、今年のオスカーで気になる作品だが、先日のゴー
ルデングローブ賞でも、候補になった4部門の全てを受賞し
た“The Lord of the Rings”が、今度はどこまで受賞の数
を伸ばせるか。もし全11部門を制覇すると、これは『ベン・
ハー』『タイタニック』に並ぶ史上最多の記録となる。  
 発表受賞式は、2月29日(日本時間3月1日)の予定だ。
        *         *        
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。なお、今回
はかなりニュースの数が多いので、多少端折りながら紹介す
ることにする。                    
 まずは待望の情報で、『タイタニック』の歴史的な大ヒッ
トから6年、ついにジェームズ・キャメロン監督の次回作の
構想が公表された。                    
 “Titanic”以後のキャメロンの作品では、製作を担当し
たテレビシリーズの“Dark Angel”と、監督作品では、Imax
で上映されたドキュメンタリーの“Ghosts of the Abyss”
(タイタニックの秘密)、それにドイツの戦艦ビスマルクを
撮影したドキュメンタリーが公開され、もう1本Imaxドキュ
メンタリーで“Extreme Life”という作品が待機中のようだ
が、本格的な劇映画となると、1998年のアカデミー賞で11部
門を獲得した“Titanic”以来のことになる。       
 なおこの情報は、1月21日にロサンゼルスで行われた『T
2』の特別上映会の席で監督本人の口から明らかにされたも
ので、題名は未定だが内容は大型予算のSF映画になるとい
うこと。また、撮影には“Ghosts of …”で開発したHD-3D
ヴィデオカメラが使用されるということだ。       
 さらに監督は、「“The Lord of the Rings”などの作品
で、デジタル・エフェクトの可能性を目の当りにし、自分で
もやりたい気持ちを押さえられなくなった」ということで、
正にエフェクト満載の作品が期待できそうだ。      
 因に、キャメロンの計画では以前から、海洋SFと言われ
る“Avatar”と、実在のフリーダイヴァー、フランシス・フ
ェレラスとその妻を描く“The Dive”、それに日本製アニメ
ーションの実写版で“Battle Angel Alita”などの情報が流
されていたが、今回の計画は、そのどれでもないとのこと。
また監督は、史上初の有人火星探査を描いた作品を撮りたが
っているという情報もあり、今後の詳細の発表が待たれると
ころだ。                       
        *         *        
 お次は、『ステュアート・リトル』などの原作者E・B・
ホワイトの作品をCGIと実写の合成で映画化する計画が、
パラマウントで2本進められている。          
 その1本目は、1970年に発表された“The Trumpet of the
Swan”。この原作は、1985年に他界した作者の最後の童話
とも言われるもので、生まれつき声の出ない白鳥が、父白鳥
が楽器店から盗んできたトランペットを吹いて声の代りをさ
せることになるが…という寓意に満ちた物語。実は同じ原作
では、2001年にトライスターが長編アニメーションを製作し
ており、この作品はビデオ発売に先立って劇場公開が行われ
たために、同年のアカデミー賞長編アニメーション作品部門
の予備候補にも上げられていた。            
 その原作を、今回は実写を絡めた映画化で計画しているも
ので、脚色に、“Miss Congeniality”(デンジャラス・ビ
ューティー)のケイティ・フォードが契約したことも公表さ
れている。                      
 そしてもう1本は、1952年に発表されたホワイトの代表作
とも言える“Charlotte's Web”。農場を舞台に小豚とクモ
の交流を描いたこの作品も、1972年にハナ=バーベラ製作で
長編アニメ化されたことがあるが、こちらも新たにCGIと
実写の合成で再映画化するということで、この映画化では、
“Erin Brockovich”のスザンナ・グラントの脚色が発表さ
れている。                      
        *         *        
 2002年1月に急死したテッド・デミ監督が、当時エスケイ
プ・アーチスツで進めていた映画“Nautica”を、話題のテ
レビシリーズ『24』を手掛けるスティーヴン・ホプキンス
監督が引き継ぐことが発表された。            
 この作品は、バハマの海に遊びに来た3人の若者が興味本
位で始めた沈没船の宝捜しで、隠し置かれた大量のドラッグ
を見つけてしまうというもの。1977年に公開されたピーター
・ベンチュリー原作の映画“The Deep”に似ているという指
摘もあったが、若者向けの海洋サスペンスアクションには好
適なお話と言えそうだ。                
 なおこの計画は、脚本家のリチャード・マクブラインが発
表した企画を、2001年にエスケイプ社が6桁($)半ばの金
額で獲得したもので、同社とアメリカ国内の配給権で優先権
を持つコロムビアとの間でもすでに契約が結ばれていた。
 このためエスケイプ社も、早期の製作実現を目指していた
ものだが、後任の監督には、一時予定されてアメリカで昨秋
公開された“The Rundown”に関わるために降板したピータ
ー・バーグの他、“The Cell”のターセム・シンの名前も挙
がっていたそうだ。                  
 しかし、最終的に今話題の監督の起用が決まったことで、
製作にも弾みが付きそうだ。因にホプキンスは、映画製作に
使用されるストーリーボード画家の出身で、1998年に公開さ
れた映画版の“Lost in Space”や、昨年日本公開されたリ
メイク版の“Under Suspicion”なども手掛けている。   
 また主演には、2002年当時はヒース・レジャーが決ってお
り、その後ユアン・マクレガーにリプレイスされていたが、
現在はレジャーに戻っているようだ。          
        *         *        
 1986年に全米放送された新版“The Twilight Zone”のエ
ピソードからホラー作品を映画化する計画が発表された。 
 この作品は、原題名が“Button Button”というもので、
“Duel”(激突!)などの原作者リチャード・マシスンが、
米版プレーボーイ誌の1970年6月号に発表した短編を映像化
したもの。因にこの短編は、日本版では1979年11月号に『死
を招くボタンゲーム』の題名で翻訳掲載されている。     
 内容は、ある日、若いカップルが住む家の玄関口に置かれ
た木の小箱。その上に付けられたボタンを押すと、直ちに富
が得られると同時に、どこかで同じボタンを押した見知らぬ
誰かが殺される。つまり富か死かの究極のゲームが行われる
という仕組みの物語だ。                
 そして今回はこの原作から、“Donnie Darko”のリチャー
ド・ケリーと、ティーンズホラー作品の“Cabin Fever”が
話題になっているエリー・ロスが脚色、ロスが監督すること
になっている。                    
 なお、映画化の題名は“The Box”とされ、また製作は、
先日開催されたサンダンス映画祭で、500万ドルの配給権が
契約されて話題になった“Garden State”などのキャメロッ
トが担当している。                  
        *         *        
 第45回で紹介した“The Longest Yard”のリメイクで、ア
ダム・サンドラーとクリス・ロック、それにスヌープ・ドッ
グの出演が発表された。                
 この計画は、元々サンドラー主宰のハッピー・マディスン
とパラマウントが進めていたものだが、前に報告したように
当初の計画ではサンドラーの出演は予定されていなかった。
しかしその後にシェルドン・ターナーが書き上げた脚本を見
たサンドラーが、自ら出演を決めたもので、このためサンド
ラー作品の優先権を持つソニーも製作に参加、海外配給権を
獲得することになっている。              
 オリジナルのお話は、前にも紹介したように、刑務所を舞
台にした囚人と看守の因縁のアメフトゲームを描いたもの。
また、一昨年日本公開されたイギリス映画の『ミーン・マシ
ーン』は、それをサッカーに置き換えてインスパイアされた
作品として製作されたものだが、いずれも元選手だった俳優
が主演していたものだった。              
 これに対してサンドラーには、元スポーツ選手という経歴
はないが、1998年にディズニーで主演した“The Waterboy”
はアメリカンフットボールを背景にした作品で、彼の作品で
は最初に1億2500万ドル以上の興収を挙げてブレイクした作
品としても知られており、その辺で映画ファンの納得は得ら
れそうだ。因に、今回パラマウントの代表を務めているドナ
ルド・デラインは、当時のディズニーの代表だったそうだ。
 なお以前の計画では、パラマウント傘下MTVのミュージ
シャンを出演させることになっていたが、その計画は今も踏
襲され、さらに現役及び元NFLの選手たちの出演も交渉さ
れているそうだ。またサンドラーは主人公なので囚人で選手
の役ということになるはずだが、対するロックの役柄は世話
人、ドッグの役はチームのメムバーとなっている。    
        *         *        
 日本でも今夏の公開が予定されている続編“Shrek 2”に
続いて、“Shrek 3”を製作する計画がドリームワークスか
ら発表された。                    
 “Shrek 2”については、今年のカンヌ映画祭に招待され
るという情報もあるようだが、その続編の脚本を担当したデ
イヴィッド・ステム、ジョー・スティルマン、デイヴィッド
・N・ウェイスに対して、3部作とする要請が出されたとい
うこと。また、この第3部では、主人公のシュレックがアー
サー王の円卓の騎士に列せられるという話もあるようだ。 
 ただし“Shrek 2”の製作では、製作費が第1作の6000万
ドルから8〜9000万ドルに高騰。これは、声の主演のキャメ
ロン・ディアス、マイク・マイヤーズ、エディ・マーフィが
それぞれ500万ドルの出演料を得たためという話もあり、さ
らに第3作ではどうなるかと心配もされているようだ。  
 因に、第1作の興行収入はアメリカだけで2億6700万ドル
で、第2作もこれに匹敵すれば何の問題もないと思えるが。
        *         *        
 往年の作品のリメイクの情報で、“Lassie”を再映画化す
る計画が発表されている。               
 ラッシーと言えば、僕らにはテレビシリーズでお馴染みだ
ったが、元は1940年にエリック・ナイトという作家が発表し
た小説に基づくもので、1943年にMGMから最初の映画化の
“Lassie Come Home”が、子役時代のロディ・マクドール、
エリザベス・テイラーらの出演で発表されている。    
 また1945年には、欧州戦争を背景に、同じタレント犬パル
と一部の出演者の再登場で、続編の“Son of Lassie”が製
作され、さらに1954年と78年に第1作のリメイクと、1994年
にはインスパイアされた作品も製作されているようだ。  
 そしてテレビシリーズでは、1954年の放送開始から71年ま
ではCBSで、さらに地方局向けには74年まで連続したシリ
ーズが製作され、またABCでアニメーションシリーズや、
地方局向けには1989年から91年にもアップデート版のシリー
ズが再製作されていたようだ。             
 そして今回の再映画化だが、ラッシーのキャラクターに関
しては、現在はクラシック・メディアという会社が管理して
おり、今回の計画も同社が進めているもの。すでにチャール
ズ・スターリッジという脚本家が脚色を済ませて、彼の監督
で春からの撮影と、2005年の公開が計画されているようだ。
 なお今回の物語は、MGM作品のリメイクではなく、原作
に立ち返って、1938年のスコットランドを舞台にしたものに
なるということだ。                  
        *         *        
 新しいヴィデオゲームの映画化の情報で、2002年1月15日
付の第7回でも紹介したゲームクリエータのAmerican McGee
が、新たに開発中のゲーム“American McGee's Oz”につい
て、その映画化権をジェリー・ブラッカイマー、及びディズ
ニーと契約したことが発表された。           
 以前に紹介した“American McGee's Alice”は、Alice in
Wonderlandのゲーム化で、ルイス・キャロルの物語をゴシッ
ク調に再構成したものということだったが、今回の作品につ
いては、Wizard of Ozであることは明らかなものの、その詳
細は不明。しかしAliceと同様のゴシック調の作品だろうと
いうことだ。                     
 そして、今回契約された映画化については、すでにダン&
ケヴィン・ヘイグマンという兄弟脚本家チームが、撮影用の
スクリプトを執筆しているということで、そのスクリプトは
3部作の第1作となるように執筆されているそうだ。   
 ウェス・クレイヴンの製作監督、ジョン・オーガスト脚本
で進められる計画だった“Alice”についてはその後の情報
がないが、今回の“Oz”につては意外と早く実現しそうな感
じで、その勢いで“Alice”の計画にも火が点いてくれるこ
とを期待したい。                   
        *         *        
 以下は、短いニュースをまとめて紹介しよう。     
 まずは“Hulk 2”の計画がマーヴルから発表されている。
この続編についてマーヴルでは、前作が心理描写をし過ぎて
失敗したとの批判に応え、よりアクション中心の、より面白
い作品にするということで、すでにそのためのタレントを備
えた脚本家との交渉に入っているということだ。     
 ジャパニーズホラーのハリウッドリメイクで、すでに何度
か紹介している『ターン』の監督に、“The Texas Chainsaw
Massacre”のリメイクを成功させたマーカス・ニスペルが
発表された。この計画については2002年6月1日付の第16回
で紹介したが、見直すと同じ回に“Chainsaw”の記事も書い
ていたようだ。なおニスペルは、先にダイアン・レイン主演
の精神科医もので“Need”という作品を監督することになっ
ており、本作はそれに続いて計画されている。      
 またニスペルは、マーティン・スコシージと作家のディー
ン・クーンツが計画している“Frankenstein”のテレビシリ
ーズ化の計画にも参加しているようだ。         
 ポール・ヴァーホーヴェン監督の新作で、2000年の“The
Hollow Man”(インビジブル)以来となる計画が発表されて
いる。この計画は“One Step Behind”と題されているもの
で、スウェーデンの作家ヘニング・マンケルの原作に基づく
映画化。クルト・ワランダーという刑事を主人公に連続殺人
事件を題材にしたスリラーということだ。そしてこの計画で
は、ヴァーホーヴェンのオランダ時代の盟友であるジェラル
ド・ソエトマンが脚色を担当することも発表されている。な
お原作は刑事を主人公にしたシリーズの第5作だそうだが、
今回の映画化はシリーズ化を目指すものではないようだ。ま
たソエトマンの脚色では、舞台を原作のスウェーデンからア
メリカに移すことになっている。撮影は今年の秋か来年早々
に開始の予定。
 ワーナーの計画で、なかなか進まない“Superman”のキャ
スティングに、VFXバイクアクションの新作“Torque”に
出演したマーティン・ヘンダースンの名前が浮上している。
ヘンダースンはハリウッド版“The Ring”にも出演し、その
続編にもオファーされたが出演は断っているそうだ。しかし
“Torque”の続編には出演したいということで、その製作会
社のワーナーからのオファーに応えて“Superman”のスクリ
ーンテストを受けたということだ。次から次へいろいろな名
前の挙がるキャスティグだが、今回はどうなることか。  
 最後に、“The Ring”と“The Ring 2”の脚本も手掛けた
アーレン・クルガーが、アネット・カーティス・クラウス原
作のヤングアダルト小説“Blood and Chocolate”の脚色を
担当することが発表された。この作品は16歳の狼人間の少女
と人間の少年とのラヴストーリーを描いたもので、『ロミオ
とジュリエット』のような要素もある作品ということだ。M
GMの製作で夏からの撮影が予定されている。      


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井口健二