井口健二のOn the Production
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2003年10月16日(木) ブルドッグ、ヴァンダの部屋、ストーリー・ビギンズ・アット・ジ・エンド、悪い男、アフガン・零年、ジョゼと虎と魚たち、キル・ビル

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ブルドッグ』“A Man Apart”             
『トリプルX』のヴィン・ディーゼル主演、『ミニミニ大作
戦』のF・ゲイリー・グレイ監督によるアクション映画。 
今回のディーゼルの役柄は、米司法省麻薬取締局(DEA)
の捜査官。ストリートギャング上がりの彼は、7年の捜査の
末にドラッグの総元締めルセロの逮捕に成功する。しかし新
たにディアブロと呼ばれる元締めが現れ、ルセロ以上に過酷
な取り引きを始める。                 
そしてディアブロの魔手は主人公にも及び、銃撃戦で最愛の
妻を殺され、彼自身も重傷を負わされる。その傷の癒えた主
人公は、復讐の鬼と化してディアブロを追いつめて行く。 
まあ、典型的なアクション映画のパターンではあるが、その
分安心して見ていられると言うか、変にごたごたした裏話が
ないのはすっきりと楽しめる。アクションも、銃撃戦と、後
は走って悪者を追いつめるというシンプルさで、かえって新
鮮な感じだった。                   
そして最後の犯人逮捕の描き方も、ちょっと最近のハリウッ
ド映画とは違う美学が感じられて、良い感じだった。   
ディーゼルは、『ワイルド・スピード2』に続いて、『XX
X』の続編も降板してしまったが、そんな彼が、多分一番B
級の『ピッチ・ブラック』の続編には出演している。そんな
彼の好漢振りが発揮された作品というところだ。     
                           
『ヴァンダの部屋』“No Quarto da Vanda”       
リスボン市内で、移民たちが多く住むスラム街フォンタイー
ニャス地区。ここにDVカメラを持ち込んで、2年間に亙っ
て撮影されたドキュメンタリー。この地区は、現在再開発が
進んでおり、次々に破壊される住宅のすぐ傍に住む人々の生
活が描かれる。                    
街は、昔は活気もあったのだろうが、今や住んでいるのは行
き場のない人々ばかりで、そのほとんどはジャンキーという
ありさま。その中から、母親と妹、それに刑務所に入ってい
る姉の子供などと一緒に暮らしている女性ヴァンダと、その
幼なじみの黒人青年ニョーロに焦点は向けられている。  
ところがこの2人もジャンキーで、ほとんどの場面は麻薬の
吸引ばかりという状況だ。ただしヴァンダは、同じ監督の前
作の劇映画には演技者として出ているということで、彼女の
麻薬吸引がフェイクであるかどうかは解からない。なおエン
ディングクレジットでは、母親とやはりジャンキーの妹も同
じ苗字だった。                    
ということで、どこまでがドキュメンタリーでどこからがフ
ィクションか判然としない作品だが、映画全体はドキュメン
タリーらしく淡々と進む割りに、3時間の上映時間をほとん
ど飽きさせることなく見せ切っているのは凄い。     
これはやはり演出された作品のようにも思えるが、進行中の
いくつかのストーリーを並行して見せるなど、テクニック的
には上手く作られていた。               
そして現在進行形のドキュメンタリーらしく、結論らしい結
論もないまま映画は終ってしまうのだが、何かずっしり重た
いものを持たされたような、そんな感覚が残った。    
こういうのを見せられると、日本のホームレスなんて甘いも
のだと思ってしまう。もっともこの映画の人々には、一応家
はあるのだが。                    
                           
『ストーリー・ビギンズ・アット・ジ・エンド』     
                     “Arimpara”
12月13日から開催されるNHKアジア・フィルム・フェステ
ィバルで上映される新作の1本。このフェスティバルは、N
HK出資でアジア各国の映画作家と共同製作するプロジェク
トの一環として2年に1度開催され、今回が5回目。僕は2
年前の前回から試写を見せてもらえるようになった。   
本作はインドのムラリ・ナイール監督の新作で、同監督は過
去にカンヌ映画祭の新人監督賞も受賞、今年のカンヌでは、
その部門の審査員も勤めたそうだ。           
物語の主人公は、落ちぶれかけた地主の末裔。一応農地は守
っており、裕福ではないが、若い妻と幼い一人息子とまずま
ずの暮らしはしている。そんな主人公の口元に、突然、黒い
いぼが生じる。                    
そのいぼを、最初は幸運の印などと言っているが、日々大き
くなるいぼに妻も懸念を隠せない。しかし主人公は医者に行
くことを拒み、薬草で直すと主張する。ところが、いぼはど
んどん大きくなり・・・。               
このいぼに何か寓意でもあるのかとも思ったが、別にそうい
うこともないらしい。しかも90分の映画の後半30分ほどは、
このいぼのせいで話が突然シュールに展開し始め、ちょっと
信じられない結末になる。               
資料にインフォメーションはなかったが、これはやはり民話
か何か下敷きがあるのではないかという印象だ。それとも、
そういう展開を真似て作られた作品ということなのか。いず
れにしてもこの後半の展開には唖然とした。       
単に監督の構成力に難があるということも考えられるが、そ
れにしては上記の経歴は立派すぎる。なんとも狐に摘まれた
ような感じ。                     
ただし映画は、見終ってあっけらかんとした結末などのせい
か、悪い気分にはならなかった。それだけの手腕はあると言
うことになるが、それにしてもこの展開は謎だ。     
                           
『悪い男』(韓国映画)                
映画祭常連監督キム・ギドクの02年作品。本作はベルリン映
画祭のコンペティションに選出されている。       
ヤクザの男が女子大生に目を止め接近するが、汚らわしいも
のを見るような目で避けられてしまう。そんな女を男は策略
で陥れ、借金の形として風俗街に売り飛ばす。環境の激変に
とまどい悲嘆する女。そんな姿を男はマジックミラー越しに
見続ける。                      
今時の女がこんな手口に引っ掛かるものかという部分もある
が、全体が男女の関係を描いたファンタシーという感じが強
く、そういうこととして見るべきものだろう。      
結局、男の愛の本質は映画の後半になって提示されるが、そ
の心情は理解できないこともない。男女の愛には、いろいろ
な形があると思うが、その一つの姿が提示されているという
ところで、そのテーマは解かりやすい。         
韓国製のヤクザ映画も何本か見ているが、初めてその心情を
理解できる作品だった。主人公の男は、一面ではタイトルと
は裏腹の男なのだ。それに登場する他のヤクザたちも、それ
なりに道理を踏まえた男たちであることも、納得できるもの
だった。                       
なお、プレスに<韓国の北野武>というコピーを見たが、ま
ったく失礼な言い草だ。ストーリーテリングの上手さでは、
何かと無意味な暴力シーンに逃げるたけしなど足下にも及ば
ない。年齢的にはたけしより若いが、人間に対する洞察力も
数段上だ。                      
海外の作品を扱うのに、こういう他国人を見下すような言い
方は止めるべきだろう。                
                           
『アフガン・零年』“Osama”              
第5回NHKアジア・フィルム・フェスティバルで上映され
る新作で、アフガニスタンのセディク・バルマク監督とNH
Kの共同製作作品。タリバン政権崩壊後、初めて撮影された
アフガニスタン映画で、今年のカンヌ映画祭で新人監督特別
賞を受賞している。                  
タリバン政権下のカブール。女性一人の外出が禁止され、男
性のいない一家は収入の術を失ってしまう。そこで窮余の策
として娘の髪を切り、少年として働かせるのだが、街の少年
は全員タリバンの学校に行くことを命じられる。そこで食糧
も配給されるが、やがて少女であることが発覚してしまう。
82分の作品で、物語は深くは描かれない。監督もそれを語り
切れるほどの技術は持っていないのかも知れない。しかし、
ここには真実の重みがある。恐らくは、タリバン政権下のカ
ブールで日常的に起こっていた出来事なのだろう。    
強かに生きる女たち、無邪気だが残酷な子供たち。特に、兵
器で遊ぶ子供たちの姿が恐ろしかった。         
                           
『ジョゼと虎と魚たち』                
田辺聖子原作の長編小説の初めての映画化。       
大学生の主人公は、ある日、ジョゼと自称する足の不自由な
女性と出会う。彼女は、障害者であるとの僻みからか、粗暴
な行動や言葉づかいで人々を遠ざけるが、主人公は逆にそこ
に惹かれて行く。そして、一緒に暮らし始めた彼らの生活が
描かれる。                      
この作品の最大のポイントは、障害者を特別な目で見ていな
いことだろう。しかし主人公は彼女を特別な目で見てしまっ
ている。そんなずれが、観客に真の物語を語りかける。  
恐らくは、原作の素晴らしさもあるのだろうが、それを真面
目に映画化した制作者たちにも敬意を表したい。     
大学生を演じるのは妻夫木聡。今の時点では、多分この人が
ベストだろう。等身大だし、特に演技していると言うより自
然体の雰囲気が良い。                 
対するジョゼ役は池脇千鶴。感情表現を抑えた役柄だから、
演技力はそれほど要求されなかったかも知れないが、体当た
りで演じているところは良かった。また、池脇とお婆役の新
屋英子の柔らかな大阪弁も心地よかった。        
同じ日に韓国映画の『悪い男』とこの作品を見たが、恐らく
正反対の二つの愛が、どちらも見事といえる作品だった。 
                           
『キル・ビル』“Kill Bill vol.1”           
クェンティン・タランティーノ監督の6年ぶりの新作。  
本当は5年ぶりの作品になるはずだったが、撮影開始直前に
主演のユマ・サーマンの妊娠が発覚したために、彼女の回復
を待って撮影公開を1年近く延期したという作品。    
また、当初は1本の作品として計画撮影されていたが、編集
段階で短縮できなくなり、結局2部作で公開されることにな
ったもので、今回はその第1部。しかしこの第1部だけで1
時間53分の作品に仕上がっている。           
映画の全体は、日本のヤクザ映画とマカロニウェスタンにオ
マージュを捧げたものということだが、今回はその前半の日
本映画篇ということにもなる。             
物語は、凄腕の女殺し屋がボスに裏切られ、結婚式を襲われ
て出席者は皆殺しにされる。しかし主人公は奇跡的に一命を
取り留め、4年間の昏睡の後に回復、襲った4人とボスに復
讐するという筋立て。                 
そして襲った内の1人、ルーシー・リュー扮するオーレン・
イシイ(石井お廉?)は、今や東京裏社会の大ボスになって
おり、彼女を倒すために、まず沖縄で日本刀を作らせ、その
日本刀を携えて東京に乗り込んでくるというものだ。   
日本映画へのオマージュと書いたが、トリビュートと言った
方が良いのかも知れない。実際、映画の最初で故深作欣二監
督にささげられてもいるが、タランティーノの日本映画への
思い入れがひしひしと感じられる作品だ。           
何しろ、本当の意味での日本刀によるチャンバラが見事で面
白いし、そこに挟み込まれるユーモアや、英語・日本語取り
混ぜての決め台詞も多彩に見事に決まっている。これは本当
に日本映画を愛する人の作品といえる。         
また、登場人物の一挙手一投足がスタイリッシュに決まって
見ていて気持ちが良いし、さらに4年間の昏睡から覚めた主
人公の、身体がまともに動くようになるまでの時間経過をち
ゃんと描いているなど、脚本の周到さと言うか作者の頭の良
さも感じられた。                   
そして上映時間の1時間53分は、おそらく今年見た映画の中
では最も短く感じられたものだ。            
ただし、タランティーノの作品なので描写はかなり過激で、
血糊の量も尋常ではない、その辺が苦手の人にはちょっと勧
められないが、そうでない人には、今年一番映画らしい映画
と言って過言ではないだろう。             
        *         *
今回は少し余白が残ったので、このページの考え方を記して
おきたい。                      
このページでは、基本的に映画を誉めることを念頭に置いて
いる。と言うか、他人が貶している映画でも何とか誉められ
るところを見つけてそれを書くことを目的としている。  
特に僕しかできない誉め方ができたら最高だと考えている。
しかし僕も人間なので、全ての映画を気に入る訳ではなく、
中には良いところを見つけられない作品もある。そのような
作品の多くは、映画をバカにしていると感じられたもので、
映画を愛する者として許せなかったものだ。       
そしてそのような作品に関しては、書くこと自体が不愉快な
ので、個人的にまとめたものは残しているが、ここには載せ
ないことにしている。                 
実際、今年は先月末までに150本ほどを見ており、1月16日
〜10月3日分でここに掲載された数との差が、僕の気に入ら
なかった作品ということになる。            
つまりここに掲載している映画は、トップにも書いた通り、
少なくともどこかで僕が気に入った作品ということであり、
書いていない作品は気に入らなかったということになる。 
ただし見ていない映画も数多くあるので、その辺はご了承願
いたい。また入場料を払って見た作品は、評価の基準が変っ
てしまうので含めないことにしている。         
以上の考え方で今後も続けて行く予定ですので、気に入った
方はご愛読をお願いします。              



2003年10月15日(水) 第49回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はこんな話題から。               
 1930年代から、第2次世界大戦の戦前戦後を通じて活躍し
たコメディ・チーム“The Three Stooges”(3ばか大将)
の再映画化の計画がワーナーから発表された。      
 『3ばか大将』は、主にモー、ラリー、カーリーの3人を
中心に展開される典型的なスラップスティックコメディで、
60年代には約190本の往年の2巻物の短編作品がテレビにも
登場して人気を博していた。しかし93年、52年に早世したカ
ーリーの跡を継いだジョー・デライタが最後のStoogesとし
て死去し、その歴史は閉じたのだが、それと同時に彼らの業
績を見直す動きも出ていたようだ。           
 そして今回の計画は、98年にキャメロン・ディアス主演に
よる『メリーに首ったけ』などを手掛けたボビー&ピーター
・ファレリー兄弟の脚本、監督で再映画化を進めるもので、
兄弟は、『メリー…』を製作する以前の97年頃から、すでに
この計画を公表し、チャンスを狙っていたものだ。因に、こ
の計画にはデライタの遺族も参画しているようだ。    
 しかしこの映画化権については、元々The Three Stooges
の作品の版権はコロムビア=ソニーが所有しており、一方、
ファレリー兄弟はフォックスと優先契約を結んでいるために
実現が困難となっていた。ところが、ソニーが諸般の事情で
映画化を断念し、それをワーナーが引き継ぐことになった。
そしてファレリー兄弟には、2001年にクリス・ロック主演で
ワーナーで製作された“Osmosis Jones”を手掛けたなどの
実績もあって、計画が実現可能となったものだ。     
 なお兄弟は、今年の冬から春にかけて脚本家のマイク・セ
ローネと共にThe Three Stoogesの3人のキャラクターを現
代に甦らせた脚本を完成させており、つまり今回の発表は、
その脚本に、ワーナーから正式にゴーサインが出たというも
のだ。またワーナーの発表では、撮影は来年早期に行われ、
公開は05年夏とされている。              
 正直なところ、僕は『3ばか大将』には、同様のコメディ
チームの『マルクス兄弟』などより過激で暴力的だった印象
を持つが、アメリカでの人気はかなり根強いようだ。その感
覚が現代にどう甦るかも気になるところだ。因に映画化は、
伝記ではなく、当時のThe Three Stoogesのキャラクターを
再現したフィクションの映画になるということだ。    
        *         *        
 続いては続編の情報。                
 まずはヴィン・ディーゼルの主演でヒットした『XXX』
の続編にディーゼルは出演せず、替って同じく黒人スターの
アイス・キューブが主演。また監督を、ロブ・コーエンに替
って『ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリが担当する
ことが発表された。                  
 この続編に関しては、ディーゼルがオリジナルの製作まで
勤めた作品であるだけに、彼の再演が期待されていたものだ
が、実は“XXX 2”と名付けられている続編の脚本が、オリ
ジナルのようなEXスポーツを背景と言うよりも、ワシント
ンが舞台のスリラー的要素の高いものに出来上がったという
ことで、敢えてディーゼルは主演を降り、コミカルからシリ
アスまでこなせるキューブの配役を決めたということだ。 
 なお、物語の基本コンセプトでは、「XXX」というのは
アメリカの刑法で3回罪を犯すと重罰に処すという3ストラ
イク制度に由来したもので、今回のキューブの役柄もその3
度目の罪を犯して、刑務所に入るかエージェントになるかの
選択を迫られるという設定。その辺でシリーズとして、まっ
たく問題はないということだ。             
 脚本は、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの
共演で進められることになった“Mr.and Mrs.Smith”のサイ
モン・キンバーグが担当。撮影は来年夏に行い、公開は05年
が予定されている。                  
 因にディーゼルは、すでに『ピッチ・ブラック』の続編の
“The Chronicles of Riddick”の撮影を完了しているが、
彼の次回作としては、『XXX』と同じリヴォルーションの
製作で、『グラディエーター』のデイヴィッド・フランゾー
ニの脚本による紀元前3世紀が舞台の歴史大作“Hannibal”
への主演が期待されているようだ。           
        *         *        
 もう1本続編は、マット・デイモン主演の『ボーン・アイ
デンティティー』の続編“The Bourne Supremacy”で、共演
者に、『ロード・オブ・ザ・リング』でエオメル役を演じる
カール・アーバンが交渉されていることが報告された。  
 このシリーズでは、以前にも紹介したようにロバート・ラ
ドラムの原作は3作あり、今回の作品はその第2作に当たる
もの。舞台は中国で、要人暗殺の犯人とされたジェイソン・
ボーンがCIAに呼び戻され、世界の平和と自分自身のアイ
デンティティーに掛けて真犯人を探り出すというお話。なお
アーバンの役柄は、主要な悪役と紹介されている。    
 また、すでに発表されている計画では、主人公のジェイソ
ン役にはデイモンが再登場し、舞台出身のヴェテラン女優ジ
ョアン・アレンの共演も報告されている。脚本は第1作を手
掛けたトニー・ギルロイ、監督はバズ・ラーマンに替ってポ
ール・グリーングラスが担当することになっている。撮影は
12月に開始されるということだ。            
 なおアーバンは、上の記事でも紹介したディーゼル主演の
“The Chronicles of Riddick”にも出演しているそうだ。
        *         *        
 またまたコミックスの映画化で、ワーナーからダグ・マイ
アーズ原作のカルトコミックス“The Exes”の映画化を、ク
リストファー・ノーランの監督で進めることが発表された。
 『メメント』『インソムニア』で高い評価を得ているノー
ランは、ワーナーではすでにクリスチャン・ベイルの主演で
“Batman 5”を監督することも発表されているが、今回の計
画はその前に製作されるという情報もあるようだ。    
 お話は、未来の企業が実権を握る社会でのビジネス戦争を
描いたものということで、この原作から、クリストファーの
兄弟で『メメント』の原案も提供したジョナサン・ノーラン
が脚色を担当することになっており、その作業はただちに始
められるということだ。                
 因にジョナサンは、クリストファー・プリーストの原作で
ノーランの監督が予定されている“The Prestige”の脚色も
手掛けており、魔術師の戦いを描いたこの作品の映画化は、
ワーナーとディズニーの共同製作で“Batman 5”に続けて行
われるとされていて、この文脈だと来年2月1日からの撮影
が予定されている“Batman 5”の前に本作ということになり
そうだが・・・。                      
 なお、この作品の製作には、『ハリー・ポッター』シリー
ズのデイヴィッド・ハイマンと、リヴォルーションで上記の
“Mr.and Mrs.Smith”も手掛けるアキヴァ・ゴールズマンが
共同で当っており、ワーナーの意気込みが感じられる。  
        *         *        
 お次はヴィデオゲームの映画化で、80年代に発表されたヴ
ィデオゲームでは古典とも言える作品“Spy Hunter”を、プ
ロレスラーのザ・ロックことドウェイン・ジョンスンの主演
で映画化する計画がユニヴァーサルから発表されている。 
 ジョンスンは、01年の『ハムナプトラ2』に続いて、昨年
は『スコーピオン・キング』に主演し、今9月末に全米公開
された新主演作の“The Rundown”も初登場第1位を獲得す
るなど、いずれもユニヴァーサルで出演した作品が好調を極
めているが、次回作にはMGM配給で73年に製作された現代
アクション“Walking Tall”のリメイクが予定されている。
 そのジョンスンのユニヴァーサルでの4本目の作品として
ゲームの映画化が計画されているもので、ユニヴァーサルで
は製作費9000万ドルを予定し、05年夏のテントポール作品と
する意向のようだ。因に、前3作はいずれも5月と9月の公
開でテントポール作品ではなかった。          
 なおユニヴァーサルでは、昨年の夏に当初からジョンスン
の主演を想定してゲームの発売元のミドウェイゲームズ社か
ら映画化の権利を獲得し、準備を進めていたもので、映画化
のストーリーは元戦闘機パイロットの主人公が、ハイテク搭
載のG-6155インターセプター車を駆使して、スパイや暗殺者
との戦いを続けるというものになる。そしてこの脚本は、今
年の夏公開された『ワイルド・スピード2』を手掛けたマイ
クル・バンディットとデレク・ハースにすでに発注されてい
るということだ。                   
 監督は未定だが、撮影は来年の春に行われることになって
いる。                        
        *         *        
 ゲームの話題の流れで、第17回で紹介した日本製ヴィデオ
ゲーム『Zero〜零』(アメリカ題名:Fatal Frame)の
映画化に、新たに脚本家として『ザ・コア』のジョン・ロジ
ャースの起用が発表された。              
 この計画は、『ザ・リング』に続くジャパニーズホラーの
映画化としてドリームワークスが進めているもので、昨年の
5月にゲーム会社との間で契約が結ばれ、今年の2月には、
スクリーンジェムズ社に“Streaming Evil”という脚本を契
約したロバート・ファイヴォレント、マーク・R・ブリンカ
ーという脚本家の契約も報告されていた。なお、このときロ
ジャースは製作者として名前が挙がってたものだ。    
 しかし結局、ロジャース自身が撮影台本を書くことになっ
たようで、現在その作業が進められているということだ。そ
してロジャースは、今回の脚本は日本を舞台にした内容にす
るとし、「アメリカの観客に馴染みのない、日本文化に根差
した幽霊を登場させ、ちょっと古風な感じのお化け屋敷映画
を実現したい」と抱負を語っている。          
 なお、監督は未定だが、脚本の完成を待って決定されると
いうことで、その後は直ちにキャスティグなど撮影に向けた
作業に入るとされている。また、原作ゲームでは、今年11月
に続編(アメリカ題名:Fatal Frame: Crimson Butterfly)
が発表されることになっており、今回の映画化もシリーズの
第1作として計画されているということだ。       
 因にロジャースは、現在ハル・べリー主演で撮影中のワー
ナー作品“Catwoman”の脚本も手掛けている。      
        *         *        
 ジャパニーズホラーの話題をもう一つ。        
 『リング』の中田秀夫監督が昨年1月に発表した『仄暗い
水の底から』のハリウッドリメイクが、“Dark Water”の題
名で、ディズニーと契約を結んでいるペンデモニウムという
プロダクションで計画され、その監督に、『セントラル・ス
テーション』のウォルター・セイルズの起用が決定された。
 ブラジル映画の『セントラル…』は、浮浪児の少年を彼の
父親の許に送り届けようとする女性が、いろいろな困難に立
ち向かって行く姿を描いており、一種の母子ものに近い感覚
も持っていることから、その意味では母親と娘を中心にした
『仄暗い…』の映画化には好適といえそうだ。      
 そのセイルズ監督の最新作は、スペイン語でチェ・ゲヴァ
ラの若き日の冒険を描いた“The Motorcycle Diaries”の撮
影を完了したところで、この作品は現在ポストプロダクショ
ン中ということだ。                  
 そして“Dark Water”の撮影は来年1月に予定され、主演
には『ハルク』のジェニファー・コネリーが配役されて、ニ
ューヨークとトロントで撮影が行われることになっている。
 なお、この他に中田監督関連では、99年公開の『カオス』
のリメイクがユニヴァーサルで計画されており、また、昨年
ドリームワークスが製作公開した『ザ・リング』の続編の計
画も進行中ということだ。一方、中田監督本人もMGMから
“True Believers”という作品の監督を要請されており、作
品に続いて監督のハリウッド進出も実現するようだ。   
        *         *        
 お次は続報で、第43回で紹介したコロムビア製作、ダン・
ブラウン原作の“The Da Vinci Code”の映画化の計画に、
監督ロン・ハワード、製作ブライアン・グレイザー、脚色ア
キヴァ・ゴールズマンの、『ビューティフル・マインド』で
オスカーを独占したトリオの参加が発表された。     
 この原作は、以前にも紹介したように、記号学の大学教授
を主人公にしたシリーズの第2作で、本作では美術館長殺人
事件を発端にダ=ヴィンチの絵画に隠された謎を解明して行
くというもの。そしてこの原作は、今年の春に出版された後
26週間に亙って全米ベストセラーリストに登場し、その多く
の週で第1位に輝いている大ベストセラーということだ。 
 またこの計画では、9月にソニー・ピクチャーズの最高責
任者の座を退いたジョン・コーリーが共同製作者として名を
連ね、新たに一製作者となってソニーと契約したコーリーの
再出発の第1作となるもので、その意味でも注目の作品とな
っている。                      
 なお今回の計画は、上記のトリオ+ラッセル・クロウの主
演で来年3月1日の撮影開始が発表されている“Cinderella
Man”の次のハワード監督作品として予定されており、早け
れば来年後半の撮影という可能性もあるようだ。     
 因に、ハワード、グレイザーが経営するイマジン・ピクチ
ャーズは、本来はユニヴァーサルに本拠を置いているが、最
近は各社との距離を調整しているようで、ハワードの監督最
新作で11月19日公開の“The Missing”はアメリカではソニ
ー配給、また2人が製作を務める年末公開の“The Alamo”
はブエナ・ヴィスタの配給になっている。        
 さらに、グレイザーの製作で“The Incredible Shrinking
Man”“Fun With Dick and Jane”のリメイク2作もソニー
の配給になっているようだ。              
        *         *        
 後半はリメイクの情報をまとめて紹介しよう。まずは新し
い計画を2本。                    
 1本目は、65年製作のオットー・プレミンジャー監督作品
“Bunny Lake Is Missing”(バーニーレイクは行方不明)
をリーズ・ウェザスプーンの製作主演でリメイクする計画が
コロムビアから発表されている。            
 オリジナルは、ローレンス・オリヴィエとキャロル・リン
リーの共演で、バニーという少女が行方不明になったとその
母親から訴えがあり、警察が動くが足取りが掴めない、しか
も母親の証言がだんだんあやふやになり・・・というもの。
映画はイギリスで撮影され、同性愛者など怪しげな登場人物
が次々に登場する不思議なムードの作品と言われている。 
 この作品を、ウェザスプーン主宰のタイプAフィルムスの
製作で再映画化するもので、脚本、監督などは未定だが、元
フォックスのトップで01年に独立し、最近ソニーと製作契約
を結んだマーク・ゴードンのプロダクションが第1回作品と
して共同製作することも発表されている。        
 因に、ゴードンは第23回で紹介したヴィデオゲーム映画化
“Return to Castle Wolfenstein”の製作も担当している。
        *         *        
 2本目は、69年にユニヴァーサルで製作されたコメディ作
品“The Love God?”(日本未公開)のリメイクが、ユニヴ
ァーサルとイマジンの共同で行われる。         
 オリジナルは、一時期リメイクの情報もあった『秘密兵器
リンペット』などのドン・ノッツの主演で、バードウォッチ
ング雑誌の編集者だった主人公が、ある日ヌード満載の男性
雑誌の企画を思いつき・・・という、Playboy誌のヒュー・
ヘフナーを髣髴とさせるお話。『禁断の惑星』などのアン・
フランシスが共演している。              
 この作品を、マ−ティン・ローレンス主演の『ビッグ・マ
マス・ハウス』などのダリル・クォールスの脚本で現代化し
てリメイクするもので、製作スケジュールなどの詳細は不明
だが、新しい脚本にはここ30年ほどの時代背景の変化がどの
ように反映されるかも楽しみだ。            
 製作は、ブライアン・グレイザーが担当している。   
        *         *        
 後は続報で、バート・ランカスター主演で68年に映画化さ
れた“The Swimmer”(泳ぐひと)のリメイクが以前から計
画されていたが、その製作、主演にアレック・ボールドウィ
ンの参加が発表され、さらに脚本、監督をジョン・ミリウス
に依頼していることが公表された。ジョン・チーヴァースの
短編小説の映画化で、オリジナルの内容は、会社重役の主人
公が、ある日近隣の邸宅のプールを泳ぎながら家路に着くこ
とを思いつくが、それぞれの家にはいろいろな問題があり・
・・というもの。現代社会を鋭く描いた作品として知られて
いる。撮影は、来年の春〜夏に予定されている。     
 もう1本は、上にも書いた77年にジョージ・シーガル、ジ
ェーン・フォンダ共演で映画化された“Fun With Dick and
Jane”(おかしな泥棒/ディックとジェーン)を、ジム・キ
ャリー、キャメロン・ディアスの『マスク』コンビでリメイ
クする計画で、一時予定されたバリー・ソネンフェルド監督
の後任に、『ギャラクシー・クェスト』のディーン・パリゾ
ット監督の起用が発表されている。オリジナルは、上流階級
に属する主人公の夫婦が、ある日泥棒の才能に目覚めて・・
・というもの。まあこのテーマも一種の現代の病巣みたいな
ものだが、こちらはコメディで映画化される。      
 なおこの2本は、いずれもコロムビア=ソニーの製作。 
        *         *        
 最後に、ちょっと気になる話題で、M・ナイト・シャマラ
ン監督で進められている新作の題名が、“The Village”に
変更になった。これは第47回で紹介したように先に発表され
ていた“The Woods”という題名が他社で使われていたため
だが、他にも、ロバート・アルトマン監督が予定していた新
作の題名“Ultraviolet”が前回紹介したミラ・ジョヴォヴ
ィッチ主演作品との関係で使用できなくなったということも
あり、もっと事前に調査でいないものかという感じだ。少な
くともシャマラン作品の題名については、僕でも気づいてい
たくらいなのだから。                 



2003年10月03日(金) 東京ゴッドファーザーズ、ロイヤル・セブンティーン、かげろう、チャーリーと14人のキッズ、1980、ピニェロ、リクルート

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『東京ゴッドファーザーズ』              
『千年女優』などの今敏監督の第3作。         
実写では映像化の難しいSFやファンタシーのアニメーショ
ンは理解できるが、普通の現代劇のアニメーションなんて、
実写で描けるものだし、あまり意味が無いと思っていた。し
かしこの作品では、なるほどこの感覚はアニメーションでな
くては得られないという感じがした。          
クリスマスイヴの夜、中年男と、オカマと家出少女の3人の
ホームレスが、ごみ捨て場に置かれた赤ん坊を発見する。天
から授かった喜ぶオカマは警察に届けることを拒否、結局3
人で親を捜すことにするが…、手掛かりは数枚の写真だけ。
そして雪の降り頻る東京で、3人の活躍が始まる。    
恐らくリアルに描けば嫌みになるし、汚らしくなる。そこを
アニメーションという手段で見事にオブラートにくるみ、物
語の本質に集中できるようにする。アニメーションにこんな
使い方があったのかという感じだ。           
次々起こる奇跡のような出来事も、実写だとばかばかしくな
ってしまうところだろうが、アニメーションでそれを救って
いる。ソニーが世界配給も計画していということで、海外展
開も面白くなりそうだ。                
                           
『ロイヤル・セブンティーン』“What a Girl Want”   
17歳のアメリカ人の少女が、イギリスの貴族家庭で騒動を巻
き起こすティーンコメディ。              
主人公ダフネの母親は、17年前に北アフリカを旅行中、イギ
リス人との恋に落ちる。そしてベドウィン式の挙式の後イギ
リスに渡るが、伝統ある家柄を守ろうとする人々にその仲を
裂かれ、アメリカに帰国する。             
その後に生まれたダフネは、毎年の誕生日に父親に会うこと
を願うが、その望みは叶わない。しかし17歳の年、彼女は単
身イギリスに向かい、父親に会うことを決意する。その父親
は下院選挙に出馬して次期首相を噂され、参謀の娘との婚約
も発表されていた。                  
ということで、ニューヨークのチャイナタウン育ちの少女が
イギリス貴族社会に旋風を巻き起こすのだが、まあ夢物語の
骨頂という感じ。最後はアメリカのスタイルが勝つというの
が、アメリカ人のお好みというところだろうが、貴族社会へ
の憧れみたいなものがそこここ見えるのも微笑ましい。  
少女小説というのはどこの国でもあまり変わらないというと
ころだろうが、イギリス貴族社会の俗物性をちくちくとやる
辺りは結構笑えるし、選挙が絡むシチュエーションも結構描
いていて、ライトコメディとしてはよくできていると思う。
                           
『かげろう』“Les Agares”              
エマニュエル・ベアールの主演、アンドレ・テシネの監督で
描く、第2次世界大戦を背景にしたドラマ。       
戦争の早期に夫を戦場で亡くした主人公は、子供2人とパリ
を離れ南仏に向かっている。しかし爆撃で乗ってきた車は炎
上、逃れた一家は不思議な青年の導きで森の中の屋敷に逃げ
込む。そこは戦火から遠く離れた楽園のような場所だった。
そこで一家と青年の微妙な共同生活が始まるが、謎に包まれ
た青年の行動に一家の生活は翻弄される。何か起きそうで何
も起きない、しかしいつも異様な緊張感に包まれている。戦
争という背景が見事にドラマを作り上げて行く。     
95年のシラク大統領発言によって、フランス・ヴィシー政権
によるナチス協力が公式に認められてから、ヨーロッパでの
第2次大戦を描いた映画製作が盛んになったということだ。
その中で『戦場のピアニスト』のような作品も生まれている
訳だが、戦場以外にも戦争に翻弄された人々はいた。このド
ラマは戦争が無ければ起こらない物語。原作は実話に基づい
ているそうだが、21世紀になって、いよいよ、こういう物語
が語られ始めることになりそうだ。           
                           
『チャーリーと14人のキッズ』“Daddy Day Care”   
エディ・マーフィ主演で、アメリカでは1億ドル突破の大ヒ
ットを記録したコメディ。               
エリートサラリーマンがリストラされ、妻に替って子供の面
倒を見る内に、町の保育園不足に気づく。そこで自宅を使っ
て男性保育士だけの保育園を開設。それは大成功するが、ラ
イヴァルのエリート教育が売りものの保育園と対立すること
になり…。                      
男性の育児参加というのは世界的な傾向なのだろうが、それ
を見事に映画の題材にした作品。男の育児というと、『スリ
ーメン&ベイビー』など先行作も無い訳ではないが、男が率
先して育児を始めるというのは、さすがにようやく作られた
というところだろう。                 
ということで、自分もそれなりに育児に参加したつもりの僕
としては、1時間32分のこの映画は文句無く楽しめた。  
とは言うものの、この映画の場合は、出演している子供たち
のキャラクターのユニークさが、男の育児というメインテー
マを押し退けるくらいに面白い。子供には皆個性があるとい
うサブテーマも見事に描かれている感じだ。       
それに加えて楽しめるのが、『スター・トレック』ネタのギ
ャグのオンパレード。                 
何しろ、保育されている子供の1人がトレッキーという設定
で、クリンゴン語しか喋らない。一方、大人の1人も初期の
ユニフォームで登場するようなトレッキーで、この2人の間
でクリンゴン語の会話が成立してしまう。この部分は丁寧に
字幕まで出る。                    
この他にも、『スタ・トレ』の決まり文句のファイナル・フ
ロンティアが本当に出てきたり…、人気もここに極まったと
いう感じがした。因に本作は、UIPの配給ではあるが、パ
ラマウントの製作ではない。              
それから、アンジェリカ・ヒューストン扮するライヴァル保
育園々長の助手を演じるレイシー・シェバートという女優が
ちょっと気になったので調べてみたら、98年製作の『ロスト
・イン・スペース』のペニー・ロビンスン役で映画デビュー
とあった。だからどうという訳ではないが、『スタ・トレ』
ネタも含めてSF映画ファンにもアピールしたい作品と言え
そうだ。                       
                           
『1980』                     
舞台演出やCDプロデュースなどで知られるケラリーノ・サ
ンドロヴィッチ(日本人)の初映画監督作品。      
題名の通り1980年を背景に、3人姉妹のグラフィティが展開
する。この3人姉妹を犬山イヌコ、ともさかりえ、蒼井優が
演じ、他に及川光愽、田口トモロウらが脇を固める。   
ノスタルジアを感じさせる年代を背景にした作品で、いろい
ろな当時を思い起こさせる出来事やアイテムがちりばめられ
ているから、その時代を生きた人間にとっては面白く見るこ
とができるだろう。                  
2時間3分という上映時間はちょっと長いが、全体的にはテ
ンポもよく、退屈するようなことはなかった。特に、女優3
人がそれぞれ個性豊かに30代、20代、10代を演じてくれるの
には、かなり楽しめた。                
ただ、3人の物語が付かず離れず平行して進むのは良いのだ
が、それぞれの話の掘り下げ方に物足りないところはあり、
ちょっと散漫な感じは残った。多分バランスを気にしすぎた
のだろうが…。                    
物語の語り手であるはずの男子が途中消えてしまったり、構
成的に疑問の点もあるが、まあ、初めての作品でこれだけ作
れれば合格だろう。取り敢えず、サーヴィス精神の旺盛なと
ころは買える。次回作ができたら、また見てみたいものだ。
                           
『ピニェロ』“Pinero”                
プエルトリコ出身の詩人・俳優・劇作家ミゲル・ピニェロの
生涯を描いた作品。なお原題のnの上には〜が付く。   
ピニェロは子供の頃に親と共にアメリカに移住。しかし移民
の子の定番で、麻薬や犯罪に手を出し監獄との間を行き来す
る人生となる。ところがその監獄で彼は詩の才能を発揮、さ
らに監獄での経験に基づく戯曲“Short Eyes”は評判となり
オビー賞も受賞する。                 
この戯曲は映画化もされ、彼は一躍ニューヨーク在住のプエ
ルトリカン(ニューヨリカンと自称)の中心的存在となる。
そして『刑事コジャック』などにゲスト出演するようにもな
るのだが、若い頃からの酒と麻薬で肝臓病を悪化させ、88年
に40歳で死去する。                  
という彼の人生が、医者から余命6カ月を宣告された辺りを
中心に描かれるのだが、多分この映画の想定する観客はピニ
ェロを熟知しているというつもりなのだろう。話は前後の脈
絡がなく描かれるので、最初はちょっと面食らった。   
しかし、元々詩人の話なのだし、これくらいの感性で描くの
が正解なのだろう。いろいろ朗読される詩のリズムも心地よ
く、ラテン系の音楽も楽しめて、1時間35分の上映時間もち
ょうど良い感じだった。                
なお、ピニェロの母親役でリタ・モレノが出演。さすがに老
けたが、子供時代のピニェロとダンスをするシーンなどは良
かった。                       
また映画の製作を、『ショート・サーキット』に出演し、そ
の続編ではインド人まがいのロボット学者の役で主演したフ
ィッシャー・スティーヴンスが担当しており、途中の劇場の
シーンでは切符売りの役で顔も見せていた。       
                           
『リクルート』“The Recruit”             
『13デイズ』のロジャー・ドナルドスンの監督で、アル・パ
チーノ、コリン・ファレルが共演したCIA内幕もの。  
ファレルが扮するのは、コンピュータが専門でMITを優秀
な成績で卒業した前途有望な若者。しかし彼は、石油会社に
勤めていたはずの父親の突然の死に疑問を抱いていた。そん
な彼に、パチーノ扮するCIAのスパイ訓練官バークが接近
してくる。バークは彼にスパイになることを勧め、父親の死
の謎をほのめかす。                  
こうしてスパイになる決心をした主人公を待ち構えていたの
は、他人を信用することを忘れさせる過酷な訓練だった。し
かも、バークは訓練生の中に2重スパイがいることを告げ、
彼にその摘発のための捜査を命令する。それは愛する人も裏
切らなくてはならない非情な任務だった。        
この2重スパイの狙っているのが、CIAが開発した電源ラ
インを通じて浸透するコンピュータウィルスで、その名前が
「アイス9」。実はこの名前がカート・ヴォネガットの『猫
のゆりかご』に準えて付けられ、その後も主人公が『スロー
ターハウス5』を読んでいたり、主人公の作る朝食が『チャ
ンピオンたちの朝食』だったりと、何かファンには嬉しいエ
ピソードが用意されていた。              
お話は、途中でネタは割れるが、後半までかなりサスペンス
を盛り上げて面白い。結末はもっと衝撃的でも良かったと思
うが、ハリウッド映画ではこの程度が限界だろう。多分これ
を超えると、嫌みに感じる人も多くなってしまうと思う。 
ということで、大作をどっぷり見た後の、正月明けの時期の
公開には、もって来いの作品のように感じられた。    



2003年10月02日(木) ブルース・オールマイティ、味、女神が家にやってきた、シャンハイ・ナイト、ミッション・クレオパトラ、ボブ・クレイン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ブルース・オールマイティ』“Bruce Almighty”    
アメリカではコメディ作品の興行記録を塗り替えたジム・キ
ャリー主演の最新作。                 
主人公は、軽妙なリポートで人気のニュース番組のリポータ
ー。ところが、狙っていた番組のアンカーになるチャンスを
逃し、自暴自棄になり勢いで神を呪うと、その神が現れて、
ヴァカンスの間の代役を務めることになる。そして最初はオ
ールマイティの力で特種をリポートし、アンカーの席も手に
入れるが…、というハートフルコメディ。        
キャリーは、アメリカでは最も安定してヒットの狙えるコメ
ディアンといえる。本作もすでに世界興収で4億ドルを突破
している。日本では『グリンチ』のような例もあるが、あの
場合は原作の認知度の問題など仕方のない面もある訳で、そ
ういう点を除けば、概ね良い成績を残しているはずだ。  
そこで本作は、トークギャグからパフォーマンスのギャグ、
VFXのギャグまでいろいろ取り揃えられていて、ギャグ自
体がそこそこ解かり易いし、日本でも受け入れられる部分は
多そうだ。全体もハートウォーミングだし、正月映画には好
適と言える。                     
ただし、トークのギャグは字幕にするのがかなり困難な感じ
で、多分もっと面白いのだろうと思えるところがちょっと悔
しい感じもする。一方、ただ単純にサプライズゲストによる
ギャグには、予期せずに見て本当に驚かされた。     
2001年9月11日から2年が過ぎて、アメリカ人には未だわが
かまりが残っているのだろうが、そんな気持ちをある意味癒
してくれるようなところも、この映画のヒットの要因のよう
な感じもした。神も決してオールマイティではないのだ。 
監督は、キャリー主演の『エース・ベンチュラ』『ラーアー
・ライアー』のトム・シャドヤック。共演はジェニファー・
アニストンとモーガン・フリーマン。特に、フリーマンの神
が素晴らしい。                    
                           
『HELL』“In Hell”                
ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の刑務所アクション。
主人公はロシアの製鉄所に技術指導にやってきているアメリ
カ人技師。契約期間の終了まで6カ月となったある日、妻が
レイプ殺人の被害者に…。しかも捕えられた男は、賄賂によ
って無罪となり、怒った主人公は男を射殺して終身刑になっ
てしまう。                      
こうして主人公が収監されたロシアの刑務所は、正に地上の
地獄だった。そこでは賄賂が横行し、殺人も金でもみ消され
てしまう。劣悪な環境の懲罰房や、所長が友人との賭けに興
じる囚人同士の命がけの格闘技の戦いなど。       
主人公は、最初は生き残るために体を鍛えるが、やがて力だ
けでは物事は変化しないことに気づいて行く。      
絶体絶命からの脱出劇というのは、ヴァン・ダムやセガール
など格闘技系の俳優には最高のパフォーマンスを発揮できる
テーマだが、あえて戦わないという展開の持って行くところ
は、ちょっと進歩の跡が見られるというところか。    
しかしちゃんと最後の戦いが用意されている辺りは、構成も
上手くなったものだ。これもある意味2001年9月11日以降の
作品の感じがした。                  
エンディングのクレジットでは、やたらとSKIとか、Vで終る
名前が多く、映画の中でもロシア語が巧みに使われていて、
どうやら本当にロシアで撮影が行われたようだが、そこでこ
のようなロシアにとって殆ど国辱のような映画がよく作られ
たものだと感心した。                 
                           
『味〜Dream Cuisine』          
文化大革命のためにほとんど失われてしまった山東省の魯菜
料理。その味を日本で守り続けた佐藤夫妻。中国政府から与
えられた正宗魯菜伝人魯菜特級厨師の称号を持つ夫妻と、中
国との関わりを追ったドキュメンタリー。        
上映時間2時間14分で、映画は夫妻の蛇酒論議から始まる。
この恐ろしくテンポの無いプロローグに、正直言って退屈さ
との戦いを覚悟したのだが…。どうして、いろいろ問題が山
積する展開に、最後まで息を抜けずに見てしまった。   
問題はまず夫妻が78歳と72歳という高齢であることから始ま
る。日本人だが山東省生まれで中国に帰りたいと言う妻と、
東京生まれで土地を離れたくない夫。          
さらには、夫妻が東京四谷に開いている店の存続を巡っての
中国側との考えの違い。                
そして極めつけは、砂糖も化学調味料もラードも使わないの
が正統と主張する夫妻に、それらを平然と使って新魯菜料理
と言い切る中国の料理人など。これらが次々に登場して、話
をややこしくしてしまう。               
ドキュメンタリーであるから、作られた物語ではないのだろ
うが、それにしてもこれらの問題に立ち向かって行く夫妻の
姿、特に支えあって行く夫婦愛には頭が下がった。自分もだ
んだん年を取ってきて、こういう物語が身に染みるようにな
ってきたようだ。                   
                           
『女神が家にやってきた』“Bringing Down the House”  
スティーヴ・マーティンの主演、『シカゴ』のクイーン・ラ
ティファの製作総指揮・共演で、『ウェディング・プランナ
ー』のアダム・シャンクマンが監督、アメリカでは今年の春
に大ヒットを記録したハートフル・コメディ。      
仕事一途の生活で家族にも見放された堅物弁護士が、インタ
ーネットの出会い系法律相談サイトで知り合った女性を家に
招くが、現れたのは指名手配中の脱獄囚だが無実を主張する
黒人女性。しかも彼女は弁護士の家に居座り、このため弁護
士の生活は危機の連続となる。             
しかし彼女とのつきあいを通じて、弁護士は今まで見ようと
もしなかった世界を知り、彼自身の人生観も徐々に思いも寄
らぬ方向に変えられて行く。              
この堅物弁護士を演じるマーティンがはまり役で、また、彼
の生活を掻き回すラティファが実にそれらしい。さらに脇役
陣も、ベテランから子役まで良い演技を見せてくれる。  
中でも、保守的な富豪の老婦人を演じるジョーン・プロウラ
イトは、黒人蔑視の言葉を無神経に次々に発するという物語
の一面を代表する役柄で、さすがオールド・ヴィックの出身
でデームの称号を持つという貫禄。           
さらに彼女の飼犬がフレンチブルドッグで、名前がウィリア
ム・シェークスピアという辺りも気が利いている。    
ラップ音楽に合せてのダンス合戦など、マーティンの芸達者
ぶりも見られ、アメリカでの大ヒットも理解できる。僕も、
主人公とは年齢的にそう離れていない状況で、主人公の考え
方も理解できるし、いろいろな面で納得できる映画だった。
                           
『シャンハイ・ナイト』“Shanghai Knights”      
ジャッキー・チェン、オーウェン・ウィルスン共演で、00年
にヒットした『シャンハイ・ヌーン』の続編。      
前作でアメリカに渡ったチョン・ウエンは、西部の町で保安
官として活躍していた。しかしそんな彼の許に父親の訃報が
届く。それはウエンの一族が代々守ってきた中国皇帝の証で
ある龍玉の盗難の知らせでもあった。          
この知らせにウエンは、犯人を追ってロンドンに向かった妹
に合流するため、今はニューヨークで暮らすロイを訪ね、彼
に預けた金を受け取ろうとするのだが、ロイの手元に金はな
く、やむなく密航でロンドンに向かうウエンの側にはロイが
ついてきていた。                   
そしてロンドンに着いた2人は、若き日のチャーリー・チャ
ップリンやコナン・ドイルの助けを借り、妹リンと共に龍玉
を追うのだが、それは同時に英国王室の危機にも対抗するこ
とになるものであった。                
前作は西部の荒野が舞台で、チェンのアクションに上下の動
きが少ないのが物足りなかったが、今回は大都市ロンドンを
舞台にビッグベンなど上下の動きも存分に見せてくれる。ま
た屋根の上でのアクションでは、『メアリー・ポピンズ』を
思い出した。                     
また敵役に、ハリウッドではアクション監督としても活躍し
ている『HERO』などのドニー・イェンを招いて、クンフ
ーの組打ちも存分に見せてくれる。また、ウィルスンのアク
ションもかなり様になっていた。            
お話も解かりやすいし、要所でちゃんと中国語が話されると
ころも良い感じだった。                
                           
『ミッション・クレオパトラ』             
        “Asterix & Obelix Mission Cleopatra”
フランスでは絶大な人気を誇るコミックスをクリスチャン・
クラヴィエ、ジェラール・ドパルデュー主演で映画化したシ
リーズ第2弾。本作では、ゲストのクレオパトラ役にモニカ
・ベルッチを招いている。               
主人公のガリア人は、史実では比較的容易にローマ帝国に占
領されたようだが、本作の主人公たちは魔法の薬の力も借り
て、いともた易くローマ兵を撃退している。       
そのガリア人2人と、魔法使い、それに愛犬が、今回はシー
ザーと賭けをしたクレオパトラの命令で、3カ月で壮大な宮
殿を作らなくてはならなくなった建築家の窮状を救うため、
アレクサンドリアへと向かう。             
物語は多分原作通りなのだろうが、コミックスのはちゃめち
ゃな展開を、そのまま映像化してしまう力は大したものだ。
さすがに前作に続いて本作も大ヒットさせた製作者の自信の
現れと言えそうだ。                  
ギャグ自体はちょっと細切れの感もあるが、パロディあり、
アクションギャグありの多彩さで、それぞれに楽しめる。い
ろいろ背景のあるギャグもあるが、そこはそれなりというこ
とで楽しめるところだけでも楽しみたい。        
魔法の薬は、ポパイのほうれん草のようなものだが、ポパイ
の様に溜めることなく、ふんだんに使ってしまうところも、
単純で心地よい。前作(ゲストはロベルト・ベニーニ)はヴ
ィデオで紹介されているが、それもちょっと見てみたくなっ
た。                         
なお、本作はフランス映画だが、タイトルはフランス語のク
レジットと共に英語表記の題名が表示されていた。    
                           
『ボブ・クレイン』“Auto Focus”           
65〜71年に放送されたドイツ領内捕虜収容所が舞台のヒット
コメディ“Hogan's Heroes”(0012捕虜収容所)で大人
気を博しながら、その後没落、78年に殺人事件の被害者で生
涯を終えた俳優ボブ・クレインの後半生を描いたドラマ。 
クレインが主演したテレビシリーズは僕も大好きだった番組
で、そのクレインがモーテルで殺されたという報道には僕も
ショックを受けたものだ。当時は同性愛絡みという報道もあ
り、いろいろ汚い話も暴露されたが、本作でそれらを丁寧に
まとめ上げている。                  
本人の息子がテクニカルアドヴァイザーとして製作に参加し
ており、その辺りはクレイン寄りに描かれているということ
にもなるが、作品自体はR−18に指定されるほどの、かなり
スキャンダラスな描き方をされている。         
ジャズドラマーとしてプロの腕を持ち、ラジオではNo.1DJ
と呼ばれ、その人気を引っ提げてテレビに進出、大成功を納
める。しかし本人はジャック・レモンが目標で、映画に出ら
れないディレンマに苦しみ、それを紛らわすために淫らな快
楽へと落ちて行く。                  
その背景に登場するのがソニー製のVTRで、初期のヘリカ
ルスキャン型オープンリールからU−マチック、ベータへの
変遷も描かれている。RGBのレンズがデルタ配置されたプ
ロジェクターまで登場したのにはさすがと思ったが、映画の
制作当時はソニーの配給は決まっておらず、全てインターネ
ットを通じて一般から集められたものだそうだ。     
先に公開された『コンフェッション』でも、普段のシーンで
はそれほど似ていないと思ったサム・ロックウェルが『ゴン
グショウ』の再現場面になった途端にそっくりになるのに驚
かされたが、本作でもテレビの再現場面のそっくり振りには
感心した。                      
再現場面は所長室のシーンが何カットか登場するが、中でも
葉巻のボックスを使ったお決まりのシーンでは、クリンク所
長ことウェルナー・クレンペラー役の相手の俳優の似せ方も
見事で、うなってしまった。              
衣装やメイクアップのお陰もあるのだろうが、身体全体の動
かし方や、細かい仕種などが本当に良く研究されているのだ
ろう。いろいろな意味で拘わりの1作という感じがした。 



2003年10月01日(水) 第48回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、いよいよ動き始めたこの話題から。      
 第37回で紹介したピーター・ジャクスン監督による“King
Kong”のリメイクが本格的に始動した。         
 この計画では、まず8月上旬にジャクスンとユニヴァーサ
ルとの間で、契約金2000万ドル、若しくは興行収入の20%と
いう契約が結ばれた。監督の契約金で8桁というのは、M・
ナイト=シャマラン、スティーヴン・スピルバーグ、ロバー
ト・ゼメキスらが先に達成しているが、いずれも1番上の桁
の数字は1だったということで、2の大台に達したのは初め
てのようだ。                     
 ただし、この契約金には脚本料も含まれているということ
で、ジャクスンは“The Lord of the Rings”も共同で脚色
したフラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエンにも契約金
を分配するとしている。なおウォルシュ(女性)は、現在ニ
ュージーランドでジャクスンと生活を共にしているそうだ。
 また、今回の計画では、ロケーション及びセットの撮影か
ら視覚効果までの全作業をニュージーランドで行うとしてい
るが、それらの予算は別に建てられることになっている。そ
の場合に、使われる撮影所及び視覚効果工房はいずれもジャ
クスンが経営にタッチしているもので、その分の収益は別に
入ることになりそうだ。                
 物語の始まりは大恐慌時代のニューヨーク。ブロードウェ
イ女優のアン・ダーロウは、仕事にあぶれていたところを、
友人で探検家のカール・デンハムに誘われ、南太平洋の孤島
へとやってくる。そこで彼女らは巨大な猿に遭遇し…、とい
うことで、今回の計画では、1976年のリメイクのような現代
化はせず、時代背景を1933年製作のオリジナルの時代に戻し
て、その雰囲気の中での物語の展開を考えているようだ。 
 そしてジャクスンは、この主人公の女優アン・ダーロウ役
をナオミ・ワッツにオファーしていることを表明した。  
 この役は、オリジナルでフェイ・レイが演じ、リメイクで
はジェシカ・ラングが演じているが、レイに至っては、「96
分間(上映時間)叫びっぱなし」と評されたもので、この役
を、ハリウッドリメイク版“The Ring”の主演で注目された
ワッツがどのように演じてくれるのかも楽しみだ。    
 なお、モデル出身で、後にアカデミー賞の助演女優賞、主
演女優賞を獲得するジェシカ・ラングは、ディノ・デ=ラウ
レンティス製作、ジョン・ギラーミン監督による76年作品で
映画デビューを飾ったものだ。             
 撮影計画は未発表だが、ユニヴァーサルは05年クリスマス
シーズンの公開を予定している。            
 因にこの話題、アメリカでは「“The Rings”の監督が、
“The Ring”の女優を希望」というように報じられていた。
        *         *        
 お次はメル・ギブスンの話題で、イエス・キリストの最後
の12時間を新解釈で描いて論議を呼んでいた監督作品“The
Passion”に対しては、キリスト教の総本山ヴァティカンの
お墨付きも出て一安心のギブスンに、新しい主演作品の計画
が発表されている。                  
 作品の題名は“Under and Alone”。2000年に摘発された
不法バイカーグループ・モンゴルスに対する潜入捜査に従事
したATF(アルコール・タバコ・火器取締り局)の捜査官
ビル・クィーンを描いた実話に基づく物語で、彼はサン・フ
ェルナンド・ヴァレーを中心に活動していたグループの支部
に2年間潜入して徐々にその地位を上げ、00年5月に約40人
の容疑者を、無許可銃、コカイン、及び盗難バイクの所持で
摘発した捜査の証拠を集めたというものだ。       
 この物語は、アメリカではテレビ番組などでも広く取り上
げられたが、現在はクィーン自身が上記の題名の自伝を執筆
中ということで、この自伝はランダムハウス社から出版され
ることになっている。そしてその自伝に基づく映画化権を、
ギブスンが主宰するプロダクションのイコン社が獲得し、ギ
ブスンの主演でワーナーで製作する計画だ。       
 なお製作状況は、すでに脚本の執筆を、ナショナル・ジェ
オグラフィックの製作でディズニーが配給するリチャード・
ギア主演作品“Emperor Zehnder”や、ユニヴァーサルでビ
ル・コンドンが監督する“Suger Kings”など、実録ものの
脚本を数多く手掛けているネッド・ゼマンとダニエル・バー
ンズのコンビが、6桁後半〜7桁中盤($)の金額で契約し
たことが発表されている。               
 因に、ギブスンでバイクものというと、フォックス製作に
よる“Mad Max”の新作が先に計画されていたが、今年6月
にナミビアで予定されていた撮影は、イラク戦争勃発の影響
で延期が発表されたままで、その後音沙汰が無いようだ。 
        *         *        
 続いては最新の話題で、9月第3週の全米興行で第1位を
記録したソニー傘下のスクリーン・ジェムズ(SG)社配給
のホラーアクション作品“Underworld”の続編の計画が発表
されている。                     
 この作品は、昨年のミラ・ジョヴォヴィッチ主演『バイオ
ハザード』に続いて、SGが展開する女性中心のアクション
路線に載ったもので、お話は、女吸血鬼の主人公が、敵対す
る狼男の1人と恋に落ちてしまうという、シェークスピアの
『ロミオとジュリエット』のホラー版といった作品。元々は
レイクショアで進められていた計画を、脚本段階でSGが契
約し、アメリカ国内及び海外の配給権を獲得していた。  
 そして9月19日に全米公開され、第1週の週末興行収入で
2180万ドルを稼ぎ出している。この金額は超大作並みとは行
かないものの、いわゆるジャンルムーヴィでは充分に期待に
応えるもの。SGの作品では『バイオハザード』を上回って
歴代最高の成績となっている。そしてその続編の計画が早く
も発表されたものだ。                 
 その発表によると、続編はSGとレイクショアの両社が共
同で製作するもので、すでに前作を手掛けた脚本のダニー・
マクブライドと、脚本監督のレン・ワイズマンが契約を結ん
だということだ。また、前作に主演したケイト・ベッキンセ
イルは、未だ契約はしていないものの同じ役を演じることに
は強い興味を示しているということで、会社側も出来るだけ
早い契約と続編の製作を望んでいる。          
 さらにSG側は、第1作以前の物語も希望しているという
ことで、こちらは第3作としての製作が期待されている。そ
れが作られると全体として3部作の構成となるようだ。  
 因に、SGの女性アクション路線では、すでに『バイオハ
ザード』の続編の“Resident Evil II”が、ジョヴォヴィッ
チ主演で製作されている他、同じくジョヴォヴィッチ主演で
近未来の上海を舞台にした吸血鬼ものの“Ultraviolet”、
さらに女子高生を主人公にしたスパイ・アクションコメディ
“D.E.B.S.”などの計画が進められている。       
        *         *        
 次もホラー映画の話題で、1979年にMGM配給で公開され
た“The Amityvill Horror”(悪魔の棲む家)の実話に基づ
く物語を、再度映画化する計画が発表された。      
 この物語は、元々は1974年にニューヨーク州アミティヴィ
ルに所在する家で起きた親殺し事件に端を発し、その後に生
じた数々の超自然的な出来事を調査した研究者が、その原因
を家に住み着く悪霊の仕業として77年に発表した書物に基づ
くもので、第1作の映画化はスチュアート・ローゼンバーグ
監督、ジェームズ・ブローリン、マーゴ・キダー、ロッド・
スタイガーの出演で行われている。           
 そしてこの作品は、2000年までに、劇場用映画やTVムー
ヴィ、ダイレクト・ヴィデオなどで計8作のシリーズが発表
されているということだ。               
 これに対して今回の計画を発表しているのは、エメット/
ファーラ・フィルムスというプロダクションで、発表による
と、先に“The Amityvill 2000”というTVドキュメンタリ
ーを発表しているダニエル・ファランドを脚本家に招いて、
新たな恐怖物語を作り出すとしている。因にファランドは、
95年製作の“Halloween: The Curse of Micheal Myers”の
脚本も手掛けているそうだ。              
 今回の計画とMGM作品との関係がどのようになっている
のか、報道では明らかにされていなかったが、8本作られた
シリーズでは、第1作以外は只のお化け屋敷ホラーになって
いるようで、今回の計画で先にドキュメンタリーを発表して
いる作家を招くことは、原点に立ち返るという意味では面白
くなりそうだ。                    
 なおエメット/ファーラ・フィルムスでは、ティム・ハン
ター監督、レイ・リオッタ、ウィレム・デフォー、ミシェル
・ロドリゲス共演による“Control”という作品の撮影を、
9月中旬に開始したばかりということだ。        
        *         *        
 またまたユース・ファンタシーの計画が報告された。  
 今回の紹介は2本で、まずはニューラインから“Titans”
という計画が発表されている。             
 この作品は、古代ギリシャを舞台に、未来のゼウスや、ヘ
ラや、ポセイドンとなる若者たちの成長を描くというもの。
なんとも壮大な構想だが、これを『ハルク』のマイクル・フ
ランスの脚本で映画化するという計画だ。        
 元々このアイデアは、『デアデビル』を手掛けた製作者の
ゲイリー・フォスターと監督のマーク・スティーヴ・ジョン
スンが主宰するホースショア・ベイ・プロダクションで、フ
ォスターのアシスタントを勤めるエリル・コクラムという女
性が思いついたもの。神になる運命の若者たちが、先に地球
を支配していた巨人族タイタンとの戦いを通して、神として
の自覚を持って行く姿を描くということだ。       
 そしてこの脚本を、『ハルク』の脚本家が手掛けるという
訳だが、『ハルク』も巨大な能力を持ちながらそれを支配で
きない男の物語を丁寧に描いていたということで、これは結
構当たりのような感じがする。因にフランスは、『007ゴ
ールデンアイ』と『クリフハンガー』も手掛けている。  
 なお、監督が予定されるジョンスンは、先にソニー製作、
ニコラス・ケイジ主演の“Ghost Rider”の映画化が来年春
の開始で予定されており、また『デアデビル』の続編などの
計画もあって、今回の作品の実現は少し先になりそうだ。 
        *         *        
 もう1本は原作もので、イギリスの作家デイヴィッド・ア
ーモンドが1998年に発表した“Skellig”の映画化権を、フ
ェニックスピクチャーズが獲得したことが発表されている。
 この原作は、この年のChildren's Book of the yearを、
『ハリー・ポッター』を押さえて受賞した他、カーネギー・
メダルにも輝くなど高い評価を受けている。内容は、スケリ
グと名乗る謎の生物が、1人の少年や彼の新しい友達、また
幼い妹などに変身して騒動を起こすということで、一応はフ
ァンタスティックな内容のもののようだ。        
 さらにこの原作は、今年の11月にアーモンド自身の脚色、
『ピーター・パン』などのトレヴァー・ナンの監督で、ロン
ドンのヤングヴィック劇場に掛かることにもなっている。 
 そして映画化では、脚色をBBC出身のイレーナ・ブリグ
ナルが担当し、『マックス・ヘッドルーム』のアナベル・ジ
ャンケルが製作監督を手掛けることになっている。因にジャ
ンケルは、『マックス・ヘッドルーム』の他に、88年にメグ
・ライアン、デニス・クェイドが共演した『D.O.A.』
と、93年に『スーパーマリオ』を監督しているが、これらの
作品はいずれもロッキー・モートンとの共同監督になってい
る。しかし今回は単独で手掛けるようだ。        
 また、ジャンケルは、現在もテレビでCGIと実写の合成
シリーズを手掛けているということで、本作にもその方面の
手腕が期待されているのだろう。            
        *         *        
 第45回で“The Longest Yard”のリメイクの情報をお伝え
しているが、そのオリジナルに主演したバート・レイノルズ
が、彼の出世作『脱出』で演じた役を再び演じる計画が発表
された。                       
 といってもこの計画、実はオリジナルをパロディ化したよ
うな“Without a Padle”という作品にゲスト的に登場する
もので、都会人の3人組がキャンプ旅行でやってきた森の中
で恐ろしい体験をするという物語に、世捨て人のような山男
の役で現れるということだ。しかし報道では、72年作品の役
と書かれており、ということは、彼はあのまま山を下りなか
ったということらしい。                
 そして今回恐怖の旅を体験するのは、『オースティン・パ
ワーズ』などのセス・グリーンと、『スクービー・ドゥー』
のマシュー・リーランド、それにMTVのコメディシリーズ
“Punk'd”でアシュトン・カッチャーらと共演しているダッ
クス・シェパード。                  
 この内、シェパードの風貌は不明だが、後の2人の雰囲気
では『脱出』のジョン・ヴォイド、レイノルズ、ネッド・ビ
ーティらに比べて明らかにひ弱な感じの彼らが、いったいど
んな冒険を繰り広げるかも面白そうだ。         
 監督は、『リトル・ニッキー』のスティーヴン・ブリル。
パラマウントの製作で、9月末にニュージーランドで撮影が
開始されている。                   
        *         *        
 久しぶりにテレビシリーズからの映画化の話題で、1980年
〜88年にCBSで放送されたトム・セレック主演のアクショ
ンシリーズ“Magunam P.I.”(私立探偵マグナム)の映画化
を、ロン・ハワードと共にイマジンを経営するブライアン・
グレイザーが進めていることが公表された。       
 オリジナルの物語は、元海軍情報士官のトーマス・マグナ
ムが、ちょっと変わり者の不動産王の保安責任者として雇わ
れる一方、私立探偵となって愛車の308GTSフェラーリを駆っ
て活躍するもので、かなり派手目のアクション作品となって
いる。因に、声だけの出演の雇主ロビン・マスターズのオリ
ジナルの声は、オースン・ウェルズが担当していたそうだ。
 この作品を今回は、『オースティン・パワーズ』の第2、
第3作の脚本をマイク・マイヤーズと共に手掛けたマイクル
・マクルーアスの脚本で進めるもので、製作にはグレイザー
と共に、シリーズの共同立案者だったドナルド・ベリサリオ
も参加している。                   
 なおこの計画では、一時期、セレックの大ファンを公言し
ていた作家のトム・クランシーがかなり熱心に映画化を目指
していたことがあったということで、その時は実現しなかっ
たが、今回はイマジンとユニヴァーサルの共同製作でようや
く実現に漕ぎ着けたというものだ。           
 この他のスタッフ・キャストは未定だが、最近、テレビシ
リーズからの映画化にちょっと勢いがなくなっているので、
ここらで一発しっかりした作品を決めてもらいたいものだ。
        *         *        
 後半は短い情報をまとめておこう。          
 まずは、『サラマンダー』のロブ・ボウマン監督が、第2
次大戦中に失われた財宝を追って南太平洋で繰り広げられる
冒険映画を手掛けることが発表された。作品の題名は“The
Last Buffalo Hunt”というもので、内容は、冒険仲間のグ
ループが、戦争中に失われた財宝の後を追う内に、傭兵部隊
に遭遇したり、怒り狂う原住民の部族や政府の殺し屋に命を
狙われるというお話。前作でも、かなり極限状態の冒険をう
まく描き、傭兵部隊的な登場人物を結構良い雰囲気で描いて
いたボウマン監督の腕に期待したいところだ。製作は、オリ
ヴァ・ストーン監督の“Alexander the Great”なども手掛
けているインターメディア。              
 『ファイト・クラブ』の脚本を執筆したジム・ウールスが
独自のプロダクションを設立し、ハイド・パークとの提携に
よる第1回作品の計画が発表されている。計画されている作
品は“Hard Hearts”という題名で、内容は、賞金稼ぎのカ
ップルが自らの結婚式を計画している間に、彼らが狙う最も
危険なターゲットを追いつめるというもの。もちろんウール
スの脚本で、内容的にはかなりコミカルな作品のようだ。撮
影は来年の春に行う予定で、監督や出演者などは未定だが、
製作もウールスが手掛けることになっている。      
 ウィリアム・フリードキンと共に『ハンテッド』を手掛け
た脚本家のアート・モンテラステリが、“Silver Strike”
という作品をフォックス2000と契約している。この作品は、
コマーシャル監督のジョン・ベニトが長編デビューを飾る予
定のもので、軍隊の1団が東ヨーロッパの戦線で戦う内、彼
らが対しているのが狼男の集団であることに気づくというも
の。詳細な計画は不明だが、吸血鬼に続いて今度は狼男が、
ちょっとブームになってきそうだ。           


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井口健二