だから,キャンセルしろとあれほど言ったじゃないですか。
妻は,娘の風邪が移り,昨日から発熱しているのだ。 微熱だから大丈夫だと言い張り,予定通り那須に行くことになったのだが。
あきらかに昨日より悪化してませんか。
「大丈夫。私は寝てれば着くんだから」 「誰にも迷惑はかけないから」
たしかに積極的に迷惑はかけてませんが,役立たずという迷惑も…。
「だって,みんな旅行に行きたいでしょ」 「私だって頑張ってるんだから」
うーむ。 何がこの人をそこまで駆り立てるのか…。
ま,まあとりあえず横に積んで行けばすむ話だし,娘たちはすっかり行く気になっているし,と,出発。
車が動き出すなり,寝やがった。
一応要所要所で目を覚まし,財布から金を出すくらいはするのだが,やたらとでかい札をどんどん出してくる…。 頭が働いてないな…。
ドライブ自体は順調で,予定より早く佐野のアウトレットに到着。 このときばかりは,子どもにDSを解禁して,大人はゆっくり買い物というのがお約束なのだが…。
「あ,私はここで少し休んでから行きますからお気になさらず…」
こ,こいつかなり悪いな。 大丈夫なんだろうか。いや,しかし大人なのだから一応自分でわかってるんだろうな。 絡んでも何も得るものはなさそうなので,そそくさと探索に出る。
ゆっくり見て約束の時間に戻ると,妻はいない。 なるほど,思ったより元気なのか?
と,思う間によろよろとご登場。
「私,うどんにしよう…。辛いやつ」 と,さっさとメニューを決めて買いに行ってしまった。
おかしい。
あのいつもいつも食べるものが決まらない妻が即決。
案の定食べながら, 「全然味がしない。辛くない。失敗した」 と,ぶつぶつ言っている。 いや,それ真っ赤ですから。
「そういえば,今回はこれって言うものにも出会わないんだよね」 「品ぞろえが悪いっていうか」 「購買意欲がわかないなあ」
当たり前ですよ。 熱のある状態で購買意欲なんてわくもんですか。 あなた,かなり高熱なんじゃないですか。
「測ったら歩けなくなるから測らない」
ひー。 これはもう早々に宿に向かわなければ。 世間様にも迷惑だし。
しかし,結局ホワイトデーだとか,誕生日だとか言って,バッグを買わされた。恐るべし。買い物魂。
車に戻るとまたとたんにぐーぐー寝る。
こう隣で寝られると,こっちも眠くて仕方がない。 上の娘もぎょーざぎょーざとうるさいので,SAに寄る。
「私も売店見る…」
よろよろと妻が起き上がり,一度車の外に出たのだが…。
あなた,歩き方がよぼよぼしてますよっ。 あきらかにいつもと違いますよっ。
「やっぱり車に戻る…」
結局,妻は餃子も食べず宿に着くまでこんこんと寝ていた。 宿に着くと荷物も持たず,よろよろと椅子に座り込み,
「すみませんが,頭痛薬をもらってください」
と一言。
部屋に入ると,ばったりと倒れ込み,
「水ください」 「ティッシュください」 「ふとんかけてください」
とだけ話すとそのまま寝てしまった…。
仕方ないので子どもたちとプールに行き,風呂に入って数時間後に戻ると,全身にびっしょり汗をかいたまま,むくりと起き上がり,
「お風呂に行ってきます」
とさっさと支度をして風呂に行ってしまった。
帰ってくると,さっぱりとした顔で,
「夕飯,蟹だよね」 「かーに,かーに,かーに♪」 「お腹空いた〜。みんなと違って餃子食べてないしね」
とまくし立て,ほんとにたらふく蟹を食べてました。
これか,妻を駆り立てたものは。 おそるべし。
蟹。
じゃなくて妻。
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