「つまりは……時間の感覚が狂ってきてたってことよね?」 お弁当を食べながら、話をする。 「そうそう」 とレン。 『石』が落ちてきた場所を中心に、近辺に住む住人と遠くに住む住人との時間の感覚に、誤差が出てきたのだ。 あたし達みたいに間近に住む者達は、今、時間の進みがとてもゆっくりに感じられる。 その原因は『石』にあると、レンは言う。 あの石には、月の精が宿っている。月は時間を司る力を持っていて、その一部が欠けたことにより、バランスが狂っているんだそうな。 「でも、なんだってゆっくりに感じられるの?」 「欠けた月から満ちた月へと、変わってったからだよ」 ……なんとなく……わかるような、わからないような…… 「それで……どうやったら、元にもどせるんだ?」 と、あの野郎がレンに質問した。 できれば口に出したくも、考えたくもないから普段からヤツ呼ばわりしているが── 彼の名は、神無月達郎という。 あたしとは、小学校に入ってからの顔見知り。 昔は、そこそこ喋りもしたんだけど……今は、それ程仲良くない。 というか、犬猿の仲というか。 今現在、あたしは彼を嫌っているから── 仕方なく名前を呼ぶ時、あたしは名字で呼ぶ。 レンは親しみを込めて『タッちゃん』とか言ってるけど。 「それは──」 ミルクコーヒーを飲み終えて、レンガ答えた。 「石に宿る月の精を、月に還してやれば良いんだよ」 「じゃあ、早く還そう!」 とあたし。 「まだダメだよ」 「そうなの?」 「うん。石が降ってきたのと同じ、月齢のあたりじゃないとね……」 「そんな〜」 あたしはちょっとがっかりした。 「となると……まだ、だいぶ先だな?」 とヤツ──神無月。 「うん。今丁度、満月期だし……二週間は先」 とレンは答えた。 二週間…… (ほんと、まだ先ね……) あたしはドッと疲れた。 「還す時は真夜中になるけどさ。どう? タッちゃんも一緒する?」 ニコッとして、レンは誘う。 そしたらヤツは、 「平日だったら、部活の朝練があるから……そん時ャやめとく」 と言った。 それを聞いて、あたしはホッとした。 でも何故か、少しだけ寂しくも感じた。 (気の迷いだろうけど……) そんなことを考えてたら、レンはあたしにどうするか訊いてきた。 あたしは、 「もちろん、あたしは行くよ」 きっぱりと参加を告げた。
つづく
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