2度目 - 2002年03月01日(金) 年度末の大掃除をしていたら箪笥の中から、懐かしい死体が出てきた。 小学3年生の頃、一番好きだった体の切れ端。そっと、さわってみる。日なたに寝転がって、頬擦りすると気持ち良かった、柔らかな毛並みは、バサバサと干涸びて、指の間から短い毛がすり抜ける。 思わずため息をつくと、毛が吹き落ちて、隠れていた緑の目玉が顔を出した。目があうと、ぬらりと光って笑う。すっかり、風化した体の、そこだけがまだ生きている。 私が初めて見つけた時、既にそれは死んでいた。雪解けが始まった3月、川べりの雪溜まりに半分溶け出ていた死体を、私が拾ったのだ。ベランダで風にあてて乾かしても、雪の匂いは消えなかった。 今も、息を吸うと黴を埃に混じって冷たい空気が肺の底に落ちてきた。陽の温もりと、体の中の冷たさが、くらくらするほど気持ちいい。 あんなに大好きだったこの体を、いつ私は忘れてしまったのだろう。 見つけだした死体を、私は生き返らせはしなかった。死んだまま、必要な時だけ取り出して遊んで。そしていつか、死体さえも殺した。 死んでいたから、怖くなかった。生き返ってしまったら、隣に眠ることさえ怖くて出来なかっただろう。 もうすっかり溶けた体を、頬にあてて息を吸う。吐く。 雪の匂い。 頬に、ぬらりとしたものが触れた。片方だけの目玉が、とろとろと陽に溶けそうになってる。 目を閉じて、それを握った。手のひらで、かすかに滑る。最後の抵抗。 そして、動かなくなる。 しっかりと握りしめて、引っ張った。一度死んだ体は何の抵抗もなく、命を手放す。 手のひらに残った、ガラスのボタンを握りしめて、私は今度こそ埋葬に立ち会った。 -
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埃の積もった本棚 |