2004年12月06日(月)
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正しく、分りやすく、おもしろく
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「読者や関係者をはじめ会社に多大なご迷惑をおかけしたことを心からお詫び申し上げるとともに、以後このようなことのないよう、細心の注意を払い仕事にあたる所存です」
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午前中の取材を終えて、喫茶店でのんびりしていた。さーて、これからどうしよっかなぁーと午後の予定を考えながら、のんびり新聞を読んでいた。昨日自分が書いた記事が目に入る。あー、昨日は忙しかったっけなどと思いながら。そうすると、突然携帯が鳴り出す。非通知で。嫌な予感がした。
「君さぁ、昨日のあれ、間違ってますって苦情が来てるんだけど」。東京のデスクからだった。一瞬で、血の気が引く。「ちゃんと確認したわけ?君ね、これは『訂正』だなぁ。とにかく確認してさ、どう対応したらいいか、そっちで相談してくれ」。慌てて直接の上司にTEL入れ、職場へ急ぐ。
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前日、夕方になって突然、東京から記事の出稿要請があった。「こっちでこんなリリースが出てるんだけど、この会社、大阪の担当だから、そっちで書いてよ」。「外国で新工場設立」、たいして大きいニュースではないけれど、翌日の新聞に差し込むべき「是非モノ」という扱いのものだった。
資料を取り寄せざっと目を通してから、その会社の広報へ電話する。担当者は席をはずしていた。仕方がないのでとりあえず書ける範囲で原稿を作り、折を見てまた電話。担当者が捕まったのは、締め切りの数十分前。名数を確認し、詳しい事情を聞き、引き出した情報を原稿に書き加える。一応、上司のチェックも受け、締め切りギリギリでやっと出稿。記事を送った時間が遅かったこと以外は、特にいつもと変わりないのない作業。
ただ、「訂正」につながった要因は、まさにその時間の遅さだった。記事を送った後、刷りが届く。それを見て、改めて間違いが無いかを確認する。もし間違いがあるのならばデスクに連絡し、整理部という紙面を作るところで修正してもらう。正真正銘ギリギリの場合、輪転機にかける前の版元を「削り」、その場で差し替えてもらう。ただでさえ遅れて製作現場に迷惑をかけていたのに、更に「修正してください」とは言いづらい。「大丈夫かな?」と思いながら、刷りを簡単にチェックしてOKを出した。それが、甘かった。
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間違ったのは、2箇所。あらためて取材先に事実を確認するとともに、訂正原稿を作成する。「☆日付け☆☆の記事中の☆☆は、☆☆の誤りでした」。そういうやつ。それを作成した後は、顛末書の執筆。誰がどのような間違いをなぜおかし、今後どう対応するのか、そういう報告をまとめたもの。「締め切り間際の不注意で」とか、そんな理由にしておいた。
それから始末書を書いた。手書き、ボールペン付加。先輩に過去の見本を借りて。偉い人宛に、何月何日、こんなこと仕出かして、反省してます、以後気をつけます、そんな内容。本社に上がり、部長に手渡し。「馬鹿やろう。こういうのは、封筒に入れて持ってくるんだよ」。どうして間違えたのかの聞き取りと訓示が中心で、それほどは怒られなかった。
基本、新聞は毎日発行され、記者は毎日記事を書くものだから、案外「訂正」を出したことのある人は多い。もちろん、1回も出さないまま十数年を過ごす人もいるのだが。訂正・始末書は避けられるべきことだけれど、取り返しのつかないミスだとか、極端に評価を下げるとかいうことはない。
というわけで焦点は、今後同じミスをしないようにどう工夫するかになる。始末書に書いたように「不注意で」とか、もしくは「気が緩んでた」で片付けてしまっては何の進歩もない。確かに気が緩んではいたんだけど。なぜミスをしたのか突き詰めると、確認を怠ったのもそうだけど、「怪しいけど、大丈夫だろう」と見切ったのが外れたことにある。
会社の方針で、記事が出る前に三度確認をしろと言われている。1回目は、原稿を出稿する前。2・3回目は、刷りが届いた時。実際の紙面に載る記事を見て、最後にOKを出す。3回確認して、間違いましたということはまずない。だから、これを徹底すればいいだけのこと。逆に言うと、どんなに忙しくても、それだけはやらねばならない。そこを、なおざりにしてた。
なんだ、けっきょく、気が緩んでたってことか。
「『正しく』『分かりやすく』『おもしろく』が記事の条件。その中でも『正しく』は満たさなければならない最低条件だよ。個人的にはそれらに加えて、『上手に』が大事だと思うけれどね」。先輩記者の言葉。上手な記事を書くのは程遠い。まずは『正しく』を満たすのに精一杯の、一年目の俺。
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