GARTERGUNS’雑記帳

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You're My Only Better Half
2005年07月31日(日)


シュテルは純正のリューではない。
何の変哲も無いリューとしての時代も有ったが、それももう昔の話。
今では機体に無数の改造が施され、邪竜の技術と様式がそこかしこに組み込まれてある。
戦いの中で完成したシュテルの禍々しい姿と力は、リューとドゥームの合成品としか言いようの無いものであった。

そんなシュテルに「元の姿に戻りたくはないか」という誘いがあったのは、邪竜族本隊との最終決戦直前、エルドギアにて主と共に傷を癒していた時の事。
機械都市の主にして古代の叡智の守り手である年老いた白竜は、シュテルとその乗り手を呼びつけ重々しく告げた。

「ダークナイトも元々は、アースティアで生まれたれっきとしたリュー。
 エルドギアの魔法科学を用いれば、ダークナイトを『本来の姿』に戻す事もできる」

それはつまり、シュテルの体から「邪竜」の因子を取り除くという事だ。

「お前達にはこれからクラスチェンジの儀式を受けて貰う。
 それで手に入る力を考えれば、わざわざ『邪竜』の力に拘る事もあるまい」

それはつまり、シュテルには最早「邪竜」の因子は不要という事だ……

迷う必要も無いだろうという顔で、白竜はシュテルとその主を見た。
シュテルは傍に立つ主に意識を向けた。
主は無表情に白竜を見つめていたが、その目には諦念に近い色が滲んでいた。
暫しの後。
静寂に倦んだように主は「シュテルがそれを望むなら」と言った。
殆ど呟くような、独り言のような調子であった。
白竜は耳敏く反応し、うむとやはり重々しく頷いて「ならば早速、手筈を整えよう」と宣言する。その様子は何処か嬉しげで、主と対照的であった。

其処に、それまで黙りこくっていたシュテルが「わたしはそんな事を望んでいない」と冷や水を浴びせかけた。

「……何故だ、ダークナイト」

思いもよらぬ反発に、白竜はやや憮然として問いかけた。

「力の喪失を憂慮しているのか?
 だが、恐れる事はない。
 お前達の能力の高さを考えるに、クラスチェンジに失敗する事はないと言える……
 もしくは、『邪竜』を取り除く工程そのものへの不安か?
 この都市に遺された魔法科学の技術レベルの高さは、お前から見ればすぐに判るものの筈だが」

流石の白竜もリューの意思を無視する事は出来ないのか、懸命に説得を続ける。
が、シュテルは応じず、ただただ「否」と返すのみ。
そうしている内に他のリューとその乗り手からの呼び出しを受け、「お前の考えは読めん」とまったく納得のいかぬ顔をしながらも、白竜は渋々と引き下がった。

取り残されるシュテルと主。

主は戸惑いを隠しきれない表情で、「何故だ?」と白竜と同じ問いを投げた。
それにシュテルは、数瞬逡巡した後……白竜へのものとは比較にならない真摯さでもって……答えた。

『わたしにとって「邪竜の因子」は、とても大事なものですから』
「……何?」
『……捨てる事など出来ませんし、捨てたいとも思いません』

主の戸惑いの色が濃くなる。
彼にとってシュテルの答えは、予想もつかず、理解も出来ないものであるらしかった。

「呪わしい『邪竜』の血を厭わないのか?」
『わたしにとっては、「アースティアのリュー」である事よりもずっと重要で誇らしい事です』
「……シュテル、お前の言っている事が判らない」

まるで迷子のように途方に暮れた顔をした主の前に跪き、シュテルは静かに言った。

『この体には、アースティアと邪竜族の血が流れています。
 丁度あなたと同じように』

微かに肩を震わせる主に、「だから」と言葉を続ける。


『だから、わたしはこの身が誇らしい。
 あなたと同じである事がたまらなく嬉しい。
 あなたが邪竜の血を呪いと言うのなら、その呪いも全て余さず、わたしにとっての誇りと喜びなのです』


……主は見開いていた目を瞬き、閉じて、溜息を漏らした。
そして薄く目を開き、真剣そのもののシュテルに向かって「バカだな」と緩く笑った。
理性や常識からくる困惑と、純粋な感情からくる安堵、そしてほんの微かな喜び。
それら全てがない交ぜになった目で主は「私などと同じである事が嬉しいなんて」と呟き、息をついてからもう一度「バカだな」と笑った。




そしてシュテルは「邪竜の因子」を排除しないままクラスチェンジを遂げた。
使う必要が無くなった今でも「それ」は彼の身に在り、己に対する誇りや主への想いと共に彼の体を構成している。




―――――

シュテルが「アースティアのリュー」と「邪竜族のドゥーム」の合成品である事が、ガルデンの孤独を多少なりと癒していればいいなあと。
そして、シュテル自身もあっさり「クラスチェンジで完全にアースティアのリューになる」事を選んでいなければいいなあと。

そんな夢を見ているもんで、TV最終回の皇帝撃破後にアースブレードから降りてくるシーンにて、シュテルがちゃんと「元の姿=ダークナイト」に戻ってくれるのがとても嬉しいのです。

カイオリスや聖約では「ルーンナイト」として登場するシュテルですが、「ダークナイト」としての姿を完全に失ったわけではないとアタイ信じてる。(この辺についても書きたい事が色々あるのですが、まあまあ)

―――――

そんな訳で、2005年度シュテル月間一応の終了。
やり残した事は来年の自分へのお楽しみにとっておきます。

明日からは本格的に原稿書きに入ります。



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