![]() |
![]() |
シュテルは純正のリューではない。 何の変哲も無いリューとしての時代も有ったが、それももう昔の話。 今では機体に無数の改造が施され、邪竜の技術と様式がそこかしこに組み込まれてある。 戦いの中で完成したシュテルの禍々しい姿と力は、リューとドゥームの合成品としか言いようの無いものであった。 そんなシュテルに「元の姿に戻りたくはないか」という誘いがあったのは、邪竜族本隊との最終決戦直前、エルドギアにて主と共に傷を癒していた時の事。 機械都市の主にして古代の叡智の守り手である年老いた白竜は、シュテルとその乗り手を呼びつけ重々しく告げた。 「ダークナイトも元々は、アースティアで生まれたれっきとしたリュー。 エルドギアの魔法科学を用いれば、ダークナイトを『本来の姿』に戻す事もできる」 それはつまり、シュテルの体から「邪竜」の因子を取り除くという事だ。 「お前達にはこれからクラスチェンジの儀式を受けて貰う。 それで手に入る力を考えれば、わざわざ『邪竜』の力に拘る事もあるまい」 それはつまり、シュテルには最早「邪竜」の因子は不要という事だ…… 迷う必要も無いだろうという顔で、白竜はシュテルとその主を見た。 シュテルは傍に立つ主に意識を向けた。 主は無表情に白竜を見つめていたが、その目には諦念に近い色が滲んでいた。 暫しの後。 静寂に倦んだように主は「シュテルがそれを望むなら」と言った。 殆ど呟くような、独り言のような調子であった。 白竜は耳敏く反応し、うむとやはり重々しく頷いて「ならば早速、手筈を整えよう」と宣言する。その様子は何処か嬉しげで、主と対照的であった。 其処に、それまで黙りこくっていたシュテルが「わたしはそんな事を望んでいない」と冷や水を浴びせかけた。 「……何故だ、ダークナイト」 思いもよらぬ反発に、白竜はやや憮然として問いかけた。 「力の喪失を憂慮しているのか? だが、恐れる事はない。 お前達の能力の高さを考えるに、クラスチェンジに失敗する事はないと言える…… もしくは、『邪竜』を取り除く工程そのものへの不安か? この都市に遺された魔法科学の技術レベルの高さは、お前から見ればすぐに判るものの筈だが」 流石の白竜もリューの意思を無視する事は出来ないのか、懸命に説得を続ける。 が、シュテルは応じず、ただただ「否」と返すのみ。 そうしている内に他のリューとその乗り手からの呼び出しを受け、「お前の考えは読めん」とまったく納得のいかぬ顔をしながらも、白竜は渋々と引き下がった。 取り残されるシュテルと主。 主は戸惑いを隠しきれない表情で、「何故だ?」と白竜と同じ問いを投げた。 それにシュテルは、数瞬逡巡した後……白竜へのものとは比較にならない真摯さでもって……答えた。 『わたしにとって「邪竜の因子」は、とても大事なものですから』 「……何?」 『……捨てる事など出来ませんし、捨てたいとも思いません』 主の戸惑いの色が濃くなる。 彼にとってシュテルの答えは、予想もつかず、理解も出来ないものであるらしかった。 「呪わしい『邪竜』の血を厭わないのか?」 『わたしにとっては、「アースティアのリュー」である事よりもずっと重要で誇らしい事です』 「……シュテル、お前の言っている事が判らない」 まるで迷子のように途方に暮れた顔をした主の前に跪き、シュテルは静かに言った。 『この体には、アースティアと邪竜族の血が流れています。 丁度あなたと同じように』 微かに肩を震わせる主に、「だから」と言葉を続ける。 『だから、わたしはこの身が誇らしい。 あなたと同じである事がたまらなく嬉しい。 あなたが邪竜の血を呪いと言うのなら、その呪いも全て余さず、わたしにとっての誇りと喜びなのです』 ……主は見開いていた目を瞬き、閉じて、溜息を漏らした。 そして薄く目を開き、真剣そのもののシュテルに向かって「バカだな」と緩く笑った。 理性や常識からくる困惑と、純粋な感情からくる安堵、そしてほんの微かな喜び。 それら全てがない交ぜになった目で主は「私などと同じである事が嬉しいなんて」と呟き、息をついてからもう一度「バカだな」と笑った。 そしてシュテルは「邪竜の因子」を排除しないままクラスチェンジを遂げた。 使う必要が無くなった今でも「それ」は彼の身に在り、己に対する誇りや主への想いと共に彼の体を構成している。 ――――― シュテルが「アースティアのリュー」と「邪竜族のドゥーム」の合成品である事が、ガルデンの孤独を多少なりと癒していればいいなあと。 そして、シュテル自身もあっさり「クラスチェンジで完全にアースティアのリューになる」事を選んでいなければいいなあと。 そんな夢を見ているもんで、TV最終回の皇帝撃破後にアースブレードから降りてくるシーンにて、シュテルがちゃんと「元の姿=ダークナイト」に戻ってくれるのがとても嬉しいのです。 カイオリスや聖約では「ルーンナイト」として登場するシュテルですが、「ダークナイト」としての姿を完全に失ったわけではないとアタイ信じてる。(この辺についても書きたい事が色々あるのですが、まあまあ) ――――― そんな訳で、2005年度シュテル月間一応の終了。 やり残した事は来年の自分へのお楽しみにとっておきます。 明日からは本格的に原稿書きに入ります。
|
![]() |
![]() |