GARTERGUNS’雑記帳

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お手軽ダンジョン経営
2005年03月06日(日)

昨日紹介しましたフリーゲーム、「D-MASTER」なのですが……。
(以下ネタバレ(?)・微妙にスプラッタ注意)



某所、地下迷宮建設予定地にて、銀髪の主と異形の下僕が何やら話し合っている。

「……ガルデン様、此度の迷宮は如何致しましょうか」
「うむ、最初からやたらと規模を大きくしても、侵入者共の動向を見ているのに気をとられて、罠や配下の怪物共まで目が行き届かんしな。
 とりあえず深さは地下三階まで、部屋は各階10個ずつで良かろう」
「はっ、承知致しました。して、その罠や魔物はどの様に……」
「そうだな、此処に『腐人(ゾンビ)』、此処には『突刃(突き出す刃)』を配置しよう。『突刃』は維持コストが低い罠の割に、侵入者共への効果が高いからな。多めに配置しておけ」
「侵入者共をおびき寄せる『宝物』は何処に配置致しますか?」
「今は配置する必要はない。
 こちらの手勢や資金源がまだ乏しい内は、置いておいた所でそう大した効果は無いし、しかも盗賊どもにすぐに盗られてしまうのだから」
「ははっ。
 それではガルデン様、今こそ新たな死の場を創り出し、無機質なる無情と死呼ぶ使い魔共の召喚を」

下僕に促され、主はその三日月の様な唇から、禍々しく響く言霊を二十、三十と零す。
その「力ある言葉」は、幾許かの「資源」(それは例えば、配下の魔物や敵対する冒険者から絞り取った血や魂などだ)を代償に、主の望んだ通りの地下迷宮をこの世に顕現せしめた。
下僕は、主の大いなる力への崇拝の念と、これから訪れる歓喜の刻への喜色をない交ぜにした表情で以って、主の前に跪いた。

「……時は満ちました。
 血肉と罠、魔物と宝物の上に君臨せし我らが主よ、あぎとの開かれたこの迷宮にて、さもしく愚かな冒険者共に死出の制裁を……」
「ガルデン様ー」

折角カッコつけてキメようとした所で、何とも緊張感の無い横槍を入れられて、下僕は「む……」と渋面を作った。
それも意に介さず、主の下に馳せ参じてきたのは、やはり下僕と同様に主の下に仕えている死霊術師の魔女である。

「うん?イドロではないか。どうした?」
「いえ、風呂の用意が出来ましたのでお知らせに参ったのですが……」
「ああ、そうか……もうそんな時間だったか。
 ……シュテル!」
「は、はい、何でしょうか」

悪い予感を覚えつつ、下僕は主を仰ぎ見る。
それを睥睨し、主は偉そうにとんでもない事を命じた。

「私は小一時間ほど風呂に入ってくるから、その間この迷宮に異常が無いか見ていろ」
「ええっ?!そ、そんな、何を仰るのですか!!もうすぐにでも侵入者共が現れるというのに!」
「最初のうちはそう大したことの無い奴らばかりだから大丈夫だ、盗られるようなものも無いしな」
「そういう問題ではありません!この迷宮の主はガルデン様唯一人、何か異常があったところで、しもべでしかないわたしにはどうする事も……」

いきなりふってわいた災難に慌て、必死で訴える下僕。
しかし主は大物の余裕で、それをばっさり切り捨てる。

「まあ、駄目になった時は駄目になった時で、その経験を生かして次に挑戦すれば良かろう。
 ともかく私は風呂に入ってくるからな、呼びに来たりするなよ」
「が、ガルデン様ーー……」

情けない叫びに、遠ざかる主と魔女の足音が被さる。
しばらく呆然としていた下僕だったが、やがて、迷宮に押し入ってきた冒険者達とそれを迎え撃つ配下の魔物達が争い合う物音、更に仕掛けた罠の炸裂音まで耳にして、

(せめてこの迷宮がどの様な末路を辿るかを記録しておかねば……)

……と、悲壮極まりない決意を胸に現場へ向かったのであった。



小一時間後



……ほこほこと温まった体を寝間着と半纏で包み、銀髪の半エルフが風呂場から出てきた。
片手にスポーツドリンク、もう片手にバスタオルを持って、ゴキゲンな様子である。

「……ふう、良い湯だった」

湯冷めしない内に寝よう、とぺたぺたスリッパを鳴らしながら寝室へ向かう。
と、其処に物凄い勢いで下僕が走ってきた。

「が、ガルデン様!大変です!!」

その姿を見た瞬間、自分が彼に地下迷宮を任せていた事を思い出した半エルフは、途端にきりっと「主」の顔になり、落ち着き払って尋ねた。

「騒々しいな、何があった?やはり駄目になったか?」

すると下僕は(湯上りの熱で少々潤んだ眼差しや、いつにも増して瑞々しく血色の良い肌、濡れて乱れた細い髪などに少なからず動揺しつつも)「し、失礼致しました」と姿勢を正し、深呼吸を一回してから改めて口を開いた。

「じ、実は―――――」



……下僕の報告に、(冷えるといけないからと魔女に防寒着を着せ付けられてから)急いで馳せ参じた地下迷宮は、それはもうとんでもない有様になっていた。

まず、妙に静まり返った迷宮内の其処彼処に仕掛けられた罠や魔物。
コストは良いがそう大した威力は無かった刃の罠は、幾千もの血と魂を啜った挙句、発動した瞬間に哀れな獲物の体力の実に四割を奪ってしまう凶悪無比な死の剣と成り果て。
やはりコストは良いもののそう強くもなかったゾンビ兵達は、戦の場数を踏んだからか浴びた血から生気を奪ったか、敵の体力を最高で七割近く奪う極悪非道な攻撃力を身につけていた。

また、二千弱ほどしか残っていなかった筈の「資源」は、どうした事か八万九千余りに膨れ上がり、最初はゼロからスタートしたこの迷宮の「知名度」や、同じ闇に棲む者共からの「評価」も、五万だの十万だのと恐ろしい数値を示している。
たった一つしかなく、しかもどうせ盗まれるだろうからと倉庫にしまっておいた「宝物」は、刃の露と消えた侵入者達が落としたものか、現存する限りの全ての種類が所狭しと並べられていた。
そして―――――

「……何だ、これは」

表情を作るのも忘れてぽかんとしている主に追い討ちをかけるのは、下僕が必死で作成した「侵入者」達のリスト。
最初はレベル1や2の初心者(ノービス)や剣士、僧侶、魔法使いなどばかりであったのが、どんどんと高ランク・高レベルのものになってゆき、最後には「剣王」だの「天王」だの「魔王」だのと各職業のマスタークラスがずらっと名前を連ねている。
まさかそんな筈は、と迷宮内の隅に置き去られた侵入者達の成れの果てを検分してみるが、どれも今ではボロボロに傷つき汚れながらも、嘗ては素晴らしい物であっただろうと判る程に立派な装備をしている。
……下僕の記録に間違いは無いわけだ。

「……最初は確かに、あなた様の仰る通り、取るに足りぬ無謀者ばかりが踏み込んでまいりました。
 が、彼奴等を屠っている内に罠や魔物は力を増し、周辺にも『あの迷宮は一度入れば二度と出られぬ』との噂が流布し……
 その為、ただの向こう見ずばかりでない、腕に覚えのある者共がやって来るようになりまして……」

普通ならば、その時点でこの迷宮は制圧されて終わりなのであろう。
「迷宮の主」による新たな罠や魔物の召喚、細かな判断や策を仰げぬ状況で、どんどんと勢力を増す侵入者共に抗うのはとてつもなく難しい。

だが、この迷宮はどうやら、初歩も初歩の罠と魔物、浅い階層と少ない部屋だけで、死をも恐れぬ連中の猛攻を防ぎきったらしい。

「……ラッキーだったな」
「斯様な事、運や偶然だけで成し得る事ではありませぬ。
 最初の段階での、あなた様の罠や魔物の設置が絶妙であったからでありましょう」

と、下僕が血や灰に塗れた冷たい床に膝を着いた。
それを見たか、魂無き筈のゾンビ兵までもが一斉に跪く。

「な……何だ?」

只ならぬ様相に気色ばむ主に、下僕は深々と頭を垂れ、告げた。


「我らが主よ、今このとき死招く者達の王として主が選ばれました。
 此度より王として、あらゆる厄災を遍く全てに・・・」


「な……何……?」

またもぽかんとする主に、顔を上げた下僕は苦笑を浮かべる。

「『評価』が既に十万を超えたのを、御覧になったでしょう」
「あ、ああ……」
「あなた様と同じ道を歩む彼方此方の『迷宮の主』達は、この悪魔の業とでも言うべき『偉業』に畏怖と敬意をあらわし、あなた様こそが己らの頂点に君臨する『迷宮の王』……『ダンジョンマスター』である、と認めたのです」
「…………」

まさか風呂に入ってのんびりしている間に、そんなどえらいものに祭り上げられるとは思ってもいなかった主……王は、言葉も無く目をぱちぱちさせた後、ひとつ大きな溜息をついた。

「……シュテル」
「何でしょうか、我が王よ」
「とりあえず……これからどうしたら良いのだ?」

途方にくれた王に尋ねられ、下僕は小さく笑った。

「それは無論、このまま技を磨き、迷宮の王として君臨し続けるか……
 または、同類共からの評価を撥ねつけ、今一度迷宮の構成からやり直す事も可能です」

如何致しますか?と逆に尋ねられた王は、また溜息をついて、

「……とりあえず、一晩寝てから考える……」

言い終わると同時に、迷宮中に響くようなくしゃみをしたのだった。




そんな訳で、ちょっと油断して目を離すと(普通とは違う意味で)えらい事になるゲームだったのでした。
太字部分はゲームからの引用です。不覚にもこれを見た時はちょっと感動してしまいました。

取り敢えず、最初から最後まで吃驚するほどのやりこみ主従ゲーだったという事で……



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