頂いたメールのお返事をぺそぺそと打っております。 近日中にこのサイトに足を運んでくださるお客様に、現在進行中の宴を発表したいです。 ――――― 先日、少し遠い所に一人でお遣いに行く機会があったのですが。 話す相手も無く延々と見知らぬ路線の電車に揺られていると、様々な妄想が浮かんで止まらなくなりました。 ――――― 邪竜族との大戦から遥かに時が流れ、すっかり現代風社会へと様変わりしたアースティア。 その中で暮らす少年アデューは、ある日突然妙なバケモノに襲われる。 まるでおとぎ話やゲームに出てくる竜の様なそのバケモノから必死で逃げ惑っている内に、人の姿の見えぬ路地に迷い込んでしまうアデュー。 叫べど誰も来ず、隠れようにも場所は無く、背後に迫るバケモノに遂に観念しかけたその時、アデューとバケモノの間に一つの影が割って入った。 瞬間、炸裂する稲光。 思わず目を閉じたアデューは、やがてバケモノの気配が消えている事に気付き、恐る恐る目を開く。 其処に立っていたのは華奢な男。 ゴシックや時代錯誤という言葉では片付けられぬ黒衣を身に纏った彼は、やたらときらきらしい銀髪を靡かせ、呆気に取られているアデューに微笑む。 「漸く見つけたぞ、今代のゼファーの乗り手よ」 浮世離れした典雅な雰囲気と優美な容姿を併せ持つ男。 彼はその手に何故か、ショートして火花を散らす電気剃刀を持っていた――――― ――――― 「自分の運命を知らぬリュー使いの元に、現役バリバリのガルデンがやってくる」パターンの話。 ずっと未来のアースティアには魔力の源たるミストルーンが無くなっており、その代わりとしてガルデンは、充電した電化製品(電気剃刀、ノートパソコン、懐中電灯etc.)を「雷」の魔法の触媒として使用する。 大きな魔法を使うにはそれなりの「電力」が要る上、一度使った触媒はたいていの場合ぶっ壊れるので、おいそれと濫用は出来ない。 シュテルを呼ぶ為には屋台で使う発電機くらいのパワーが必要。 他のリューや魔法も、それぞれの属性に応じたモノ(例:ゼファーや炎の魔法ならガスコンロ、焚き火、火災など。マジドーラや水の魔法ならお風呂、噴水、缶ジュースなど)が必要になってくる。 サルトビは第2話で、ガルデンに自分の携帯電話を魔法の触媒にされ、彼女から貰ったデートのお誘いのメール(未読)ごとお釈迦にされる。 何かそんな感じで。 ついでにもう一つ。 ――――― ――――― やはり現代風社会になっているアースティアの先進国、パフリシア。 その首都の大型百貨店、5Fパーティグッズ売り場。 その中の手品グッズ売り場の前に、黙々と手品をし続けている販売員が居る。 彼は…肩に変なぬいぐるみみたいなものを乗せている以外は…ちょっと見ない位の良い男であるのだが、何故か周囲の風景や雑音に溶け込んでしまっており、殆どの客からは見向きもされていなかった。 しかし彼はそれを気にする風も無く、毎日毎日淡々と延々と手品を繰り返し続けている。 そんな販売員の事が、一目見かけた時から気になってしょうがない近くの高校の女学生、パティ。 彼女はある日、勇気を出して彼に話し掛けてみる。 「貴方って、毎日此処でずーーっと手品をしているみたいだけど」 「……」 「疲れたりしない?その…あんまりお客さんも来ないみたいだし…」 「……」 何を話し掛けても応えず、黙々と手の中のボールを消したり増やしたり肘からコインを出したりしている男。 もともと気の短いパティは彼の態度に痺れを切らし、「ちょっと」と声を荒げようとするが。 その時初めてパティの方を向き、唇に人差し指を当てるジェスチャーをして見せてから、男は懐から、普通より大ぶりのいかにも手品用なカードを一組取り出す。 「何?」 小声で尋ねるパティの目の前で、カードを鮮やかに切り始める男。 裏向けたそれを二人の間の卓にざっと扇状に広げ、内一枚を取る様、彼は小さなゼスチャーでパティに促す。 「……」 パティが一枚を取る。「見ても良い?」と尋ねると、彼は小さく頷き……急に売り場を片付け始めてしまう。 「えっ、ちょ、ちょっと、手品の続きは?」 慌てるパティを無視し、溢れ返っていた手品グッズを小さなトランクに納め終えて立ち去ろうとする彼。 「ちょっと!」 今度こそ大きな声を出した彼女に、彼は口を開き、 「そのカードは貴女のものだ」 とだけ言って、人ごみの中に紛れてしまった。 ……肩に変なぬいぐるみを乗せたままで。 釈然としないまま、カード…ハートのQ…を持って帰宅するパティ。 宿題も手につかず、明日も売り場に行って問い詰めないと、とそんな事ばかり考えている内に、ついついうたたねしてしまう。 暫しの奇妙な夢の後にはっと目を覚ましてみると、目の前に置いておいた筈のカードは、白銀と花の様なピンクで出来た、不思議な模様の刻まれた「札」に変わっていた……。 ……その頃、都内の人気の無い公園、街灯もロクに当たらぬ薄汚れたベンチ。 貰った日当を数えながら販売員の男は、肩のぬいぐるみに「そろそろ宿替えだな」と語りかける。 「次は何処へ行くハグか?」と口を開くぬいぐるみ…の様な「何か」。 「ハグハグはもうぬいぐるみの真似は嫌ハグ」 「文句を言うな、私がお前を連れて歩くにはそれくらいしか手段が思い当たらんのだ」 「ハグハグに話し掛けているだけでおかしな目で見られる、世知辛い世の中ハグな……」 妙にしんみりとしている「何か」を他所に、販売員の男は日当を懐に戻し、変わりに何かを取り出す。 光無くとも自らほのかな輝きを放つ、色取り取りのカード……。 「マジドーラを元来の所有者に渡す事は成功したが」 そのカードをハンカチで拭いてやりながら、一人ごちる男。 「他は中々うまくいかんな。他の乗り手も彼女の様に、もっと好奇心旺盛であるといいのだが」 「今時、手品や腹話術じゃあ若者の興味は惹けないハグ」 「うむ……次は『こっそりと所有者のポケットや鞄に忍ばせる』でいくか」 「前にその方法で、バウルスの所有者からチカン呼ばわりされて大事になったのを忘れたハグか…」 「むう……参ったな、もう余り時間が無いというのに」 考えあぐね、天に視線を向ける一人と一匹。 その先では、これだけは変わらない二つの月が、静かに鎮座ましましていた。 ――――― どうも自分は、何千年経ってもガルデンは現役、というのに囚われているようです。
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