068:蝉の死骸 地面を小さな指先ほどのヨットが走っていく、と思って見てみると、それは朽ちかけた蝉の羽を誇らしげに立てて運ぶ蟻の群れだった。 蝉時雨を聞かなくなったと思った矢先の事だったので、ガルデンは妙に納得した様な気分になって、何となくその後をついていった。 蝉と蟻のヨットは、するすると熱い地面を滑っていく。それは滝壷に落ち込む様に、やがて地に穿たれた蟻の巣穴に呑み込まれていくのだろう。 ふと、「土に還る」という言葉が頭をよぎった。 短命と言われる蝉だが、あれは昆虫としては異例とも言える長い時間を土の下で過ごす。 ほんの短い実りの時間の為に、その数百倍の時間を地面の下で費やしているのだ。 そして一週間ほどでまた土に還る。 それは幸せな事なのか? 蝉で無い自分が思っても仕方がないし、何の益も無い事だけれど。 しかし二百余年を偽りの中で過ごし、今やっとこうして目を開いている自分というものを考えてみると、その疑問に親身な興味を覚えないでもなかった。 これは幸せな事なのか。 ヨットを追いつつ何度も胸中で繰り返す。 明日この身が朽ち、蟻に引き摺られて土に還るとしたら。 「ガルデン」 不意に声を掛けられてガルデンは顔を上げた。 「こんなとこで何してるんだ」 本屋に行ったんじゃなかったのかよ、と問う彼は、屈託の無い笑顔でガルデンの正面に立つ。 その足元を案外素早く走っていくヨット。 「ん?」 ガルデンの視線に気付いたのか、彼は一瞬それに目をやったが 「蟻か」 呟き、すぐに興味を失った様子でこちらに向き直った。 ――――― 「文字書きさんに100のお題」配布元:Project SIGN[ef]F様 ――――― もう夏も終わりということで、少々順番が飛ぶのですが、このお題に。 ――――― WING108様主催のお絵描きチャット大会以来、一週間ほどまともにネットに繋げなかっただけで浦島太郎状態です。おおお。(無線LANカードとノートPCを前に膝を屈しながら) 掲示板とメールのお返事はこれからじわじわと返させて頂きます。有難う御座います、命の綱です。 しかしこの一週間、色々な事がありました。 金メダルとか 金ネクタイとか 古代詩の朗読とか 忍者ムービーの名を借りた「ちっちゃい主とでかい下僕のラブムービー」だとか 少しずつ書けていけたら良いなと思っております。
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