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■ マイ・ベスト・アルバム2008
音楽雑誌、ブログなどで年末恒例の年間ベスト・アルバム。4〜5日前に風邪をひいたうえ、書く時間と意欲があまりない。今年は見送ろうかとも思ったが、結局何とか書き上げた。 選考対象は、私が購入した2008年発売の音楽作品。部門は「新作」と「リイシュー/発掘音源・映像」。それぞれ10作品を上限として特に良かった作品を挙げた。「新作」、「リイシュー/発掘音源・映像」ともに順不同。海外盤では2007年以前に発売済みながら、日本盤・直輸入国内盤としては2008年発売の作品も選考対象に含めた。
◆新作◆
■アトミックの『Retrograde』 12月の来日公演も圧巻だった北欧のアコースティック・ジャズ・クインテットの、やや期待外れの前作とは別次元の高みへと一気に上り詰めた感のある大作3CD(スタジオ録音2枚+ライヴ1枚)。アトミックなどのドラマー、ポール・ニルセン・ラヴとその周辺アーティスト(ペーター・ブロッツマン、ケン・ヴァンダーマークなど)の活動からも目が離せない1年だった。
■ランディ・ニューマン(Randy Newman)の『Harps And Angels』 アメリカを代表するシンガー・ソングライターの一人による、オリジナル・アルバムとしては9年ぶりの新作。私が聴いたロックの新作のなかではダントツの1位(ブライアン・ウィルソンとマーク・スチュワートの新作も良かった)。
■アル・グリーン(Al Green)の『Lay It Down』 近年絶好調の“ソウル・レジェンド”がブルーノートから発表した3作目。Ahmir“?uestlove”Thompson(クエストラヴ)とJames Poyserとの共同プロデュース、ラリー・ゴールドのストリングス・アレンジなどによって得た、現代的な感覚を湛えつつも往年をありありと彷彿させる「ハイ・サウンド」をバックに、アルのソウルフルで艶やかなファルセット、慈愛溢れるヴォーカルが心に響く会心作。ジョン・レジェンド、コリーヌ・ベイリー・レイ、アンソニー・ハミルトンがゲスト参加。
■セオ・パリッシュ(Theo Parrish)の『Sound Sculptures Volume 1』 デトロイト・ハウスの鬼才が2007年に発表した12インチ3枚組の作品に、アナログ未収録曲を多数追加した2CD。生音風サンプリング&プログラミング主体のハウスによって、セオならではのドス黒いグルーヴが深く妖艶に渦巻き、ジャズ、ソウル、ファンクなどのブラック・ミュージックを集大成したかのような大作。
■カサイ・オールスターズ(Kasai Allstars)の『Congotronics 3 - in the 7th moon, the chief turned into a swimming fish and ate the head of his enemy by magic 七番目の月の夜に、酋長は魔術によって泳ぐ魚に化けて敵の頭を食べた』 コンゴのカサイ出身の部族による電化親指ピアノ系の大所帯バンドの1stアルバム。電化リケンベ(親指ピアノ)を始めとして、ツイン・ギターなども導入したポスト伝統音楽&土着的/プリミティブなトランス・ミュージック。コノノNo.1で知られるコンゴトロニクス・シリーズ第3弾(同シリーズ第2弾であるDVD付きコンピレーション盤にも参加)。
■サミーラ・サイード(Samira Said)の『Ayaam Hayati 我が人生の日々』 モロッコ出身の「アラブ歌謡の女王」が約4年ぶりに発表した通算33作目のオリジナル・アルバム。欧米などの打ち込み主体のきらびやかなポップ・ミュージックの要素がかなり取り入れられているが、当代アラブ歌謡随一の歌唱力、細やかなコントロールの効いたコブシ回しなどに魅せられ、本作くらいの欧米ポップ寄りなら許容範囲。ジャケット写真のサミーラはあまりにも若く見えすぎ。
■フリア・アイシ&ヒジャーズ・カール(Houria Aichi & L'Hijaz' Car)の『オーレスの騎兵 Cavaliers De L'Aures / Riders Of The Aures』 アルジェリアのベルベル系イシャウィエン人の女性歌手が、フランス・ストラスブール出身の男性5人組グループとコラボレートした意欲作。伝統歌謡の素養のあるフリア・アイシの歌声、強烈なコブシ回しが、主にアラブ楽器(+バス・クラリネット)を駆使してバックを務める若き俊英たちのアグレッシヴなサウンド、個性的なアンサンブルと交錯し、鮮烈な印象を受ける。
■Dinosaurs With Hornsの『Return Of The Disco-Aristo-Sarcophagus』 1970年代中頃に米国カリフォルニア州パサディナで生まれたロサンジェルス・フリー・ミュージック・ソサエティ(LAFMS)。LAFMSのRick Pottsと、LAFMSのメンバーでテープ奏者のJoseph Hammerによるアヴァン・ユニットの、既存の音楽の枠に収まらないライヴ録音作(2007年1月と2000年11月録音、全2曲・約16分+53分)。
■遠山サキさん親子のDVD-R『アネサラ シネウプソロ(姉茶 ひとつのふところ)』 アイヌ文化の伝承者で、北海道浦河町姉茶にお住まいの遠山サキさん(80歳)が、浦河・姉茶に伝わるアイヌの歌を、長女、次女、三女とおもに輪唱で歌った自費制作DVD-R(約49分, 2008年7月に浦河町姉茶で収録, アイヌ語歌詞の日本語字幕付き, CD-Rも発売)。歌のバックの映像として、浦河・姉茶の自然風景を中心に、4人の歌う姿や遠山サキさんの日常生活の一場面などを収録。 フチ(アイヌ民族の女性の古老)のなかでも数少ない幼い頃からのアイヌ語話者で、これほどしっかり歌える方が今も健在とは驚き。遠山サキさんと次女、三女が参加したCD『Mukkuri Hawehe ムックリの響き:アイヌ民族の口琴と歌』(2001年, 日本口琴協会)との聴き比べも一興。購入などの問い合わせ: 浦河町堺町生活館(TEL 0146-22-5795)
【次点】 ■バコ・ダグノン(Bako Dagnon)の『Titati』 ■オマーラ・ポルトゥオンド(Omara Portuondo)の『Gracias』 ■Original Silenceの『The Second Original Silence』
◆リイシュー/発掘音源・映像◆
■オーティス・レディングの『Live In London & Paris』 名盤『ヨーロッパのオーティス・レディング』と同一公演である1967年3月21日のパリでのライヴを収録した、『ヨーロッパ〜』の拡大版。『ヨーロッパ〜』ではカットされていた箇所も収められ、音質も向上。そのうえ、4日前の3月17日のロンドン公演を追加収録。オーティス及びブラック・ミュージックの新たな定番が誕生した。
■V.A.のDVD『Respect Yourself The Stax Records Story リスペクト・ユアセルフ〜スタックス・ストーリー / Stax Volt Revue Live In Norway 1967 スタックス/ヴォルト・レヴュー〜ライヴ・イン・オスロ 1967』 サザン・ソウルの名門レーベルであるスタックスの歴史を綴ったドキュメンタリー作品と、スタックスが1967年4月7日にノルウェーのオスロで行った「スタックス/ヴォルト・レヴュー」(ブッカー・T.&ザ・MG's, サム&デイヴ, オーティス・レディングなどが参加したパッケージ・ショウ)をカップリングした2枚組DVD。言わずもがなだが、ソウル/ブラック・ミュージック好きなら是が非でも見ておくべき作品。海外盤は2007年にバラ(単体)で発売済み。
■V.A.の『マグレブ音楽紀行 第1集 アラブ・アンダルース音楽歴史物語 A Musical Trip To Maghreb Vol.1 Arab Andalous Music And Kabyle Songs』 9世紀にイスラム王朝下のイベリア半島南・東部(南スペインのアンダルシア地方)で生まれ、15世紀以降、北アフリカのモロッコやアルジェリア、チュニジアなどに伝播。近年はパリのアラブ系移民たちの音楽としても知られるアラブ・アンダルース音楽の歴史を、20世紀に録音された音源で辿る2CDオムニバス盤。ライス・レコード(田中勝則氏)渾身の独自制作盤。アラブ・アンダルース音楽に関する予備知識はほとんどなかったが、古典音楽そのものではないこともあってか、通勤時のお伴として今年最も楽しませてもらったアルバムの一つ。本作の発売により、アラブ・アンダルース音楽が、ワールド・ミュージック・ファンの一部の間で静かなブーム(?)となった。
■ダフマン・エル・ハラシ(Dahmane El Harrachi)の『Ya El Hadjla やまうずら 〜アルジェリア移民の声〜』 アルジェリアの大衆歌謡シャアビの代表的歌手(1925or1926-1980)の復刻盤。1975年の録音集とされる。ダフマン・エル・ハラシの先輩格である「シャアビの始祖」ムハメド・エル・アンカの『Le Grand Maitre du Chaabi シャアビの創始者』と迷ったが、聴いた回数の多さから本作を選出。
■Bernard Bonnierの『Casse-Tete』 カナダの電子音楽家(1952-1994)が1984年に発表したレア盤の復刻CD。奇天烈なアイデア満載の、コミカルですっとぼけた電子音楽/ミュージック・コンクレート/変態ダンス・ミュージック。テクノ、クラブ・ミュージックを通過した耳で聴いても、まったく古びて聴こえない。
■Warner Jepsonの『Totentanz And Other Electronic Works 1958-1973』 アメリカの電子音楽家のレア盤『Totentanz』(1967年作)に、1958年から1973年までの未発表作品(ブックラ・シンセサイザーやテープ編集による電子音楽、ミュージック・コンクレートなど)を14曲追加した2枚組CD。LAFMS関係のレーベルであるMelon Expanderからの発売ということもあり、内容の面白さ、クオリティの高さは保証付き。
■ザ・フーの『My Generation』 ザ・フーの代表作の一つである1965年12月発表の1stアルバムの日本独自制作盤。10代後半からの愛聴盤。音質、リマスタリングにやや不満があるが、英国オリジナル・モノラル盤を世界で初めて完全収録したオフィシャルCDゆえ、挙げないわけにはいかない。
■シュプルング・アオス・デン・ヴォルケン(Sprung Aus Den Wolken)の『Faux Pas 1』 1982年発表の1stアルバムの初復刻CD。ジャーマン・ニュー・ウェイヴ(NDW=Neue Deutsche Welle)の傑作の一つ。キディ・シトニーのアジテーション/ヴォーカルに、歪んだダブ音響、ノイズ、アヴァン・エレクトロ、テープ編集、屈折した虚無的ビートなどを基調とする、従来のロックから逸脱した異形のアルバム。
■V.A.の『アイヌ・北方民族の芸能』 1953〜1976年に現地録音されたアイヌ民族の諸地域の歌を中心に、ムックリ(アイヌ民族の口琴)やトンコリ(樺太アイヌの弦楽器)の演奏などを収録した3CD。近代文明に覆われる前のアイヌモシリ(アイヌ語で「人間の住む静かな大地」、北海道・南樺太・千島列島といったアイヌ民族のかつての生活領域)から、アイヌの歌が真空パックされて届けられたかのような、コミュニティー・ミュージック/民族音楽そのもの(一部を除く)として聴ける。現代的なアレンジが施されていないアイヌ音楽を深く知るうえで欠かせない後世に遺る作品。ウィルタとニヴフの音源も2トラック収録。
【次点】 ■ルー・リードの『Berlin: Live At St. Ann's Warehouse』(2006年ライヴ録音、新作扱いにしなかった) ■Monajat Yultchieva(Munojat Yo'lchieva)の『OUZBEKISTAN | UZBEKISTAN Monajat Yultchieva』 ■サン・ラの『Media Dreams』 ■ハリス・アレクシーウ(HARIS ALEXIOU)の『酸っぱいチェリーと苦いオレンジ GUINDA Y NARANJA AMARGA』(2006年発表) ■フランコ&TPOKジャズ(Franco & Le TPOK Jazz)の『Francophonic Vol.1 1953-1980 フランコフォニック 第1集』
2008年12月31日(水)
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