TOM's Diary
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S氏のハイジャックの疑いが晴れたのは1週間ほど経ってからだった。
地球に戻った宇宙船は3日がかりで点検が行われた。S氏の荷物は徹底的に チェックされ(と言っても着替えにカメラ1台しか持っていなかったため 1時間ほどで終わってしまった)、S氏自身も体内になにか隠していないか 徹底的にチェックされた。 もちろん何も疑わしきものは出なかったが、S氏は、点検を終えて4日後に 再出発した宇宙船には乗せて貰えず、執拗な取り調べが続けられた。 S氏は事実をありのままに言うしかなかったのだが、取調官はS氏が言う ことにまったく耳をかさなかった。 1週間が経過し、S氏が疲れ果てた頃、取調官は証拠不十分だがS氏の行動 は明らかにハイジャックを目論んでいたとみなされるとした起訴状をS氏に 見せ、サインをするように迫った。疲れ果てていたS氏は抵抗する気力もなく サインをすることにした。ただし、S氏自身はすべてを否認していると言う ことを記載させることは忘れなかった。
サインをした直後、取調官の上司と思われる人物が部屋に入ってきた。 上司はS氏の顔をじっくりと観察したあと、取調官の持っていた起訴状を 取り上げ、真っ二つに破った。 「バックにどんな組織が付いているかは知らんが、次回同じことをしたら バックの組織の裏をかいて絶対起訴に持ち込んでやる。今回はおまえの ような奴にバックが付いているなどと言う調査結果は出てこなかったから 油断したが、次回からはそうはいかんからな」
S氏には「バック」だの「組織」だのさっぱり判らなかった。 もしかしたら会社の人が助けてくれたのか?
実は政府の秘密組織が国際宇宙旅行協会の有事の対応方法を調査するために S氏が送り込んだなどということは、S氏本人さえ知らなかったことだ。 成田空港の、いち取調官ごときにそんなことが判るはずもなく、次回も 同じ結果に終わるなどという事は、いち取調官には想像もできないことだ。 まして、S氏には次回どころか今回のことでさえなにが起っているのか さっぱり判らなかった。
そんなわけで無事に解放されたS氏だが、まさか会社の同僚たちに 火星に行けなかったなどとは言えない。のこり3週間なんとか時間を 潰さねばならなかった。挙句にお土産もなんとかしなければならない。
とりあえず、時間を潰す場所は観光案内所で相談して、成田空港から クルマで1時間ほどで行けて、S氏自身、前から行ってみたかった 養老温泉に行って3週間過すことにしたのだが、お土産だけはよい アイデアが見つからなかった。
ふと目に付いたのは、免税店だった。よく見ると、世界中のお土産が 売っている。もしや火星のお土産もあるのではないか? 果たしてS氏は火星のお土産を大量に購入し養老温泉へと旅立った。
ちなみに、お土産の裏には「Made in China」と書かれていた。
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