Leaflets of the Rikyu Rat
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惚れるのは、憎しみながらでもできることだ。おぼえておくといい! (ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」より)
九時半梅田ビッグマン前 先月別れた元彼と合流する。 そのまま「おでん」を一緒に食べる。僕のリクエストだ。 僕はおでんの大根とじゃがいもが本当に好きで、 よくバイト帰りに彼は僕におでんを買ってくれていた。 彼は卵が好きだった。
「大丈夫だ」と思っていたものの、実際会うと少し心は揺れた。 まあ、減らず口を叩けたので大丈夫なのだろう。 二時間くらい話をしたけど、概ねすごく仲良く会話してたんじゃないかなあと思う。
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「僕にとってお前は本当に弟みたいな奴なんや」
ありがとう。でも、 だったら、なんで前まで付き合ってたんだろう?
「僕と啓介の関係ってなんか不思議で複雑だよね」
よく分からない。僕はフツーに恋人同士で居たかったよ。
「対等じゃなかったやん。実際対等じゃなかったやん。仕方無いやろ?」
対等じゃなかった。 どんなに頑張っても、対等にはなれなかったし、そうだと認めてくれなかった。 経済力の差は数年で埋まるはずが無いし、 年齢の差は一生縮まらない。 それに一番左右されてたのは、誰でもない君だったと思う。 分かっていたけど、すこしやりきれなかったなあ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− あれこれ考えてみたけど、やっぱり僕は彼と別れて正しかったのかもしれない。 彼の家は彼の一生変えることのできない住処で、来るものは決して拒まない素敵な家だ。 ひとりひとりがみんなとてもやさしい。 けれどどうしてか自分は馴染むことができなかった。 完成された世界に不完全な自分がひとりで入って行くような印象だった。 隣りに居る彼は完成された世界で、 そこにいるべき完成された人間として安心しきっていて大きな鼾をかいていた。 僕はその隣りで精一杯振舞って適応しようとするけど、 その「精一杯」の力を出すのに疲れた。
彼は家族と恋人は違うと言う。 僕もそう思う。 けれど彼は「輪」を望み僕は「線」を望んだ。 その時点でお手上げだったのかなあ。
「もしかしたらまた付き合うことになるかもしれんで。」
なんて、ずるいことを彼は言う。 “もしかしたら”そうかもしれない。 そうなったら素敵だと思う。 けど、一度終わってしまったものをまた始めるのは とても大変なのだということを僕は知っている。
「今でもときどきもやもやっとした気分になることがあるんだよね」と彼が言ったので、 「たぶん僕を振ったことに対して罪悪感みたいなものを感じてるんじゃないかなあ」と答えた。 僕のことが嫌いになったから別れたのではなく、 東京と大阪という物理的な距離、そして僕と彼の家族との実質的距離、 それらによって別れたのだという。 僕のことが嫌いになったから別れたんじゃないって、 またずるい言葉だなあ。
僕は強く彼を愛していた。 そして正直に書くと、時折憎んでいた。 僕は自分の愛情に対して、愛情で返してくれることを望むような人間だ。 そしてそれが満たされないとき、僕は憎しみを抱いていた。(その名の通り愛憎だ。) 彼はいつでも躊躇していた。 僕と一緒にいて、僕がどこかへ行ってしまうことを恐れていた。 それは僕がまだ二十歳で、彼は三十二歳だったからだ。 僕は彼と別れてもまだ長い未来があるのだという。 彼はもう年だから取り返しが付かないのだという。 彼は僕に愛情を捧げきることを躊躇っていた。 そのことを僕は憎んでいた。 けど、そんな憎しみも今はもう無い。 大好きだなあと思うし、ときどきずるいなあとも思う。けど別に憎んではいない。
なぜなら、僕と彼はいい友達になったからだ。
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かりにあたくしの<実行的な>人類愛に即座に水をさすものが何かあるとしたら、 それはただ一つ、忘恩だけですわ。 一言で申してしまえば、あたくしは報酬目当ての労働者と同じなのです。 ただちに報酬を、つまり、自分に対する賞賛と、愛に対する愛の報酬とを求めるのでございます。 それでなければ、あたくし、だれのことも愛せない女なのです!(引用、同上)
題名も引用同上。プロとコントラとは、ラテン語で「肯定と否定」、「賛否」を意味するらしい。
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