井口健二のOn the Production
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2025年02月09日(日) 私の親愛なるフーバオ、教皇選挙、プロフェッショナル

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『私の親愛なるフーバオ』“안녕, 할부지”
2016年に韓国にやってきた2頭のジャイアントパンダ。その
番の間で2020年に誕生した史上初の韓国生まれのフーバオ。
その個体が4歳になり規定によって中国に帰るまでの最後の
日々を追ったドキュメンタリー。
日本では1972年に日中国交正常化記念で中国から贈呈された
カンカンとランランが最初。その後は1967年と72年にフェイ
フェイとホアンホアンが来日して、その2頭の間で1986年誕
生のトントンは2000年死亡まで日本で過ごした。
しかし近年はワシントン条約によって絶滅危惧種の国際取引
が禁止され、中国国外での飼育は研究・繁殖のための貸与の
みとされる。このため誕生した子供は一定の期間を経ると中
国へ返還されることになっている。
そんな事情で中国に返還されることになった仔パンダの最後
の日々が記録された作品だ。とは言うものの被写体の中心は
フーバオの誕生から成長を見守ってきた飼育員たちの姿で、
特に別れが迫ってからの様子が描かれる。
それでなくてもジャイアントパンダは、その愛くるしい姿や
仕草などで韓国でも人気だったようだが、実際にフーバオは
韓国で初めて誕生した子供ということで、人気は絶大だった
ようだ。従ってその騒ぎはかなりのものとなる。
それに対して飼育員たちは仔パンダを送り出すための様々な
イヴェントを用意。そして検疫のための隔離期間前の最後の
一般公開の日には、広い園内が観客でぎっしり埋まるほどの
盛況となり、多くの人が別れの涙を流すことになる。
そんなフーバオを囲む人々の姿が記録されている。

監督は、数多くの映画、TVドラマ、ミュージックヴィデオ
などを手掛けるシム・ヒョンジュンと、インディペンデント
映画、CM、ミュージックヴィデオなどを手掛けるトーマス
・コー。
この2人にヴェテラン撮影監督のキム・スルギとチョ・ヨン
スが参加。さらにハリウッド映画でも活躍しているアニメー
ション監督のイ・ギョンホも加わって94分の作品が作り上げ
られている。
実はフーバオ誕生の前には死産などの苦い経験もあったよう
で、そんな経緯の後に生まれた子供には一層の愛着があった
ことは理解できる。とは言うものの日本ではここまでセンチ
メンタルにはならないかな。
まあ日本の場合はそれまでに日本で生まれて天寿を全うした
トントンのような存在もあるから、仔パンダの中国への帰還
はそれなりの話題にはなるが、今では比較的冷静に観られて
いる気がする。
でもこの映画を観ていると、本当はこれくらいにセンチメン
タルになってもいいのかな、という気はしてきた。因に本作
の製作費は3000人を超える人々のクラウドファンディングで
賄われたということで、その熱意も感じる作品だった。

公開は4月18日より、東京地区は新宿武蔵野館、ヒューマン
トラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋他にて全国ロード
ショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ファインフィルムズの招待で試
写を観て投稿するものです。

『教皇選挙』“Conclave”
ローマ法王が逝去した後の20日以内に始められる教皇選挙。
本来は密室で行われるその内情を2011年7月紹介『ゴースト
ライター』などの原作者ロバート・ハリスが綿密な調査の許
に描いた小説の映画化。
ローマ法王が心臓発作で突然の死去、その教皇選挙は法王の
側近だった首席枢機卿の指揮で行われることになる。そして
世界中から 100名を超える枢機卿がローマに参集し、密室で
の選挙が始まるが…。
物語は前法王が内密に任命していたという謎の枢機卿の登場
など、開幕からいろいろな波乱を含んだ展開となるが、そこ
で有力な候補は3名の枢機卿。しかしリベラル派と保守派の
対立や過去のスキャンダルの暴露も勃発。
さらにはイスラム過激派による爆弾テロなど、正しく現代を
象徴するような出来事が次々に起こり始める。そんな事態を
首席枢機卿は次々と捌き、ようやく次のローマ法王の選出に
漕ぎ着ける。果たして選ばれた人物は?

出演は『ハリー・ポッター』シリーズでヴォルデモート役の
レイフ・ファインズ、『ハンガー・ゲーム』シリーズでフリ
ッカーマン役のスタンリー・トゥッチ、2014年11月紹介『イ
ンターステラー』などのジョン・リスゴー、2012年1月紹介
『最高の人生をあなたと』などのイザベラ・ロッセリーニ。
さらに世界規模のオーディションで選ばれたカルロス・ディ
エス、2009年3月紹介『ザ・バンク 堕ちた巨像』などのル
シアン・ムサマティ、2004年9月紹介『赤いアモーレ』など
のセルジオ・カステリットらが脇を固めている。
監督は2022年 Netflix版『西部戦線異状なし』などを手掛け
たエドワード・ベルガー、脚本は2012年2月紹介『裏切りの
サーカス』などのピーター・ストローハン。2人は製作総指
揮も担当し、原作者のハリスも製作に名を連ねる作品だ。
教皇選挙は立候補制ではなく、単純な互選で2/3の得票を
得られるまでやるというのだから、これは時間が掛かるのも
当然だろう。日本語では「根比〜べ」などと揶揄気味に呼ば
れるその模様が描かれる。
そこに上に例記したような様々な事象が矢継ぎ早に襲い掛か
るのだから、これは観ていて飽きさせない。しかもその結論
がここにあるとは…、正に現代を鏡のように映し出した作品
と言えそうだ。キリスト教会も真っ青かな?

公開は3月20日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に
て全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『プロフェッショナル』
          “In the Land of Saints & Sinners”
1974年のアイルランドを舞台に、1952年生まれのリーアム・
ニースンが伝説の殺し屋に扮するシニアアクション。
主人公は従軍の後にある事情から元締めに誘われて殺し屋に
なった男。その手口は標的を拉致した後に森の空き地に連れ
て行き、自分で穴を掘らせて殺害するというもの。何とも残
忍な手口だ。
そんな男が寄る年波に疲れ、引退を考え始める。ところがそ
んな男が、いつも立ち寄る酒場で店主の女性の幼い娘を見た
時、違和感を覚える。そしてその原因の若い男を最後の仕事
として殺害するが…。その男は過激派の一味だった。
こうして主人公とIRA過激派との壮絶な戦いが始まる。映
画は巻頭でIRA過激派による爆弾テロが描写され、その残
忍さから主人公には必殺仕事人のようなイメージも与えられ
る仕組みになっている。
そんな物語がアイルランドの荒野を舞台に繰り広げられる。

共演は2012年2月紹介『きっとここが帰る場所』などのケリ
ー・コンドン。他にジャック・グリーソン、キアラン・ハイ
ンズ、デズモンド・イーストウッド、コルム・ミーニーらが
脇を固めている。
監督は、クリント・イーストウッドの製作会社マルパソ・プ
ロダクションズ所属で1995年『マディソン郡の橋』以降の作
品で助監督を務めてきたロバート・ローレンツ。脚本はマー
ク・マイクル・マクナリーとテリー・ローンという作品だ。
人は沢山死ぬし何とも殺伐とした話だが、主人公の人間性み
たいなもので救われるのかな。物語の展開は西部劇のような
趣もあるが、舞台がアイルランドで敵がIRA過激派という
ことで、テイストは全く違う作品になっている。
でも、主人公が立ち寄る酒場でフィドルの演奏があったり、
最後の決闘のシーンは正しく西部劇の流れだろう。イースト
ウッドの血筋がここに活かされているような感じもした。原
題にも意味を感じる作品だ。
それにしてもIRAって今の人に判るのかな? 以前は結構
映画で扱われることも多かったけど、今回は久しぶりにその
名前を聞いた気もした。とは言えこれが世界の歴史の一部な
のだし、それくらいは解って観に来て欲しいものだ。

公開は4月11日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社AMGエンタテインメントの招
待で試写を観て投稿するものです。


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