井口健二のOn the Production
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2025年01月26日(日) HERE 時を越えて、サブスタンス、犬と戦争

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『HERE 時を越えて』“Here”
1994年『フォレスト・ガンプ/一期一会』でオスカー監督賞
受賞のロバート・ゼメキス、脚本賞受賞のエリック・ロス、
主演男優賞受賞のトム・ハンクス、それに共演のロビン・ラ
イトが30年ぶりに再結集したファンタシー要素の強い作品。
物語の舞台は北アメリカ大陸の東海岸。遠方に活火山が臨ま
れるその土地には、大古は恐竜が跋扈し、またハチドリやト
カゲ、トンボなども生息していた。やがてその土地に人類が
現れ、開墾が進められて住居が建ち始める。
そして道を挟んだ向かいには大きなコロニアル様式の邸宅が
建ち、その邸宅を臨む位置に本編の真の主人公である住宅が
建設される。そこには最初、ジョンとポーリーンという夫妻
が入居した。
やがて時が流れ、住人は代替わりしてアルとローズという夫
妻が入居、夫妻の間にリチャードが誕生する。さらに2人は
全部で4人の子供に恵まれ、リチャードはマーガレットと結
婚、2人の間にはヴァネッサが誕生する。
そんなリチャードも時を経て家を売却するに至り、そこには
ヘレン、デヴォンと息子のジャスティンが入居するが…。そ
んな住人の変遷を街角に建つその家は 100年以上にわたって
見続けていた。

上記以外の共演者は2014年5月紹介『トランセンデンス』な
どのポール・ベタニー、2014年10月紹介『天国はほんとうに
ある』などのケリー・ライリー、それに2011年5月紹介『ハ
ンナ』で映画デビューしたというミシェル・ドッカリーらが
脇を固めている。
なお本作はリチャード・マグワイアが2014年に刊行したグラ
フィック・ノヴェルに基づいており、その原作からロスとゼ
メキスの共同脚本で映画化されたものだ。
またその撮影では、ハンクス、ライトらは高校生から初老に
至るまでのすべての年代を自ら演じており、CGIによる若
返り及び老化のシステムを駆使して映像が作られているのも
話題となっているところだ。
家屋を主人公にしてそれを定点で描く作品としては、1942年
にアメリカの絵本作家ヴァージニア・リー・バートンが発表
した『ちいさいおうち』を思い出すが、本作ではそれを内側
から描いた作品と言える。
しかも結末では1952年にウォルト・ディズニーが映像化した
短編映画『小さな家』を思い出させる演出もあったりして、
そのどちらも好きな自分には本当に嬉しくなる作品だった。
正しくゼメキスの真骨頂と言える作品だろう。

公開は4月4日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『サブスタンス』“The Substance”
1990年『ゴースト:ニューヨークの幻』などの主演女優デミ
・モーアに、初のゴールデングローブ主演女優賞の受賞と、
初のオスカー主演女優賞ノミネートをもたらした作品。
主人公はハリウッド大通りの星にも刻まれた人気女優。しか
し50歳の誕生日を迎えた今、テレビのエクササイズ番組で頑
張ってはいるものの容姿の衰えは隠せない。そんな彼女が主
役の交代を耳にしたとき、ある情報が寄せられる。
それは彼女の身体から若い分身を創り出し、意識はそのまま
に1週間交代でその分身と入れ替わるというもの。その処置
が出来れば彼女は自分自身のままで若い身体が手に入るとい
うものだった。
そんな情報に最初は耳を貸さない彼女だったが、新人募集の
広告を見付けた彼女は遂にそれを受け入れ、創り出された分
身で募集に応募。やり方を分かっている彼女は瞬く内に番組
にフィットして大きな人気を博してしまう。
とは言え若い姿は1週間交代でしか得られないもの。そこは
何とか誤魔化していた彼女だったが、人気が急上昇する彼女
は厳格に守らなけらばならなかったルールに抜け穴を見つけ
出してしまう。その結末は…。

共演は2024年3月紹介『ドライブアウェイ・ドールズ』など
のマーガレット・クアリー。他に2016年4月紹介『ニュース
の真相』などのベテラン、デニス・クエイドらが脇を固めて
いる。
脚本と監督は、フランス出身で2017年『REVENGE リベンジ』
という作品が日本公開されているコレリー・ファルジャ。前
作も相当ハードな作品だったようだが、本作も女性監督らし
い細やかさとエグさが同居しているような作品だ。
若い頃から活躍していた女優が、若い女優がしかも若さを売
りにするキャラクターを相手にこのような作品に登場する。
これはかなりの葛藤を感じさせられる作品だ。でもそこに果
敢に挑戦して成功したのだから、デミのルネッサンス=「デ
ミッセンス」という造語も納得できる。
それにしても人格は一つなのになぜにこのようなことが…、
とも思わせるが、これは身体に悪いのは解っているのにタバ
コを止められない、そんな心理に似ているのかな。そんな風
にも考えてみた。
とにかく科学的かつ心理的にも納得のできる見事なSF作品
だった。その上、結末のエグさも抜群の作品だ。

公開は5月16日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。

『犬と戦争』
2015年『犬に名前をつける日』などの山田あかね監督が戦地
に残された犬を救助する活動に従事している人々を記録した
ドキュメンタリー。
試写状のタイトルを観て、最近見た別の映画の影響もあって
軍用犬の話かなと思ってしまった。しかし監督の名前を観て
そんなはずはないと気付き、今度はこの監督が何を描いたの
か興味が深まった。
その作品は、何とロシア軍に攻め込まれたウクライナで、戦
地に残された犬たちを救助する活動を描いたものだった。そ
の作品は巻頭でかなり残酷な場面から始まる。それは思わず
目をそむけたくなるが、正にそれが始まりなのだ。
登場するのは、ペットに埋め込むアニマルIDの開発者でロシ
アの侵攻後はシェルターに避難しながらウクライナ軍と共に
1万個以上を無償配布して飼い主との再会に寄与したという
ウクライナ在住のビクトール・コパッチ。
ポーランド在住でロシアの侵攻直後から国境に赴き、ペット
を連れた避難民の援護活動を開始。さらに農場を借りてウク
ライナで被災した犬と猫の臨時シェルターを設置。動物達の
援護を行っているというプシェムィスワフ・マリク。
キーウ市近郊の動物シェルターでボランティア活動をしてい
たが、ロシアの侵攻で施設が閉鎖。ロシア軍の撤退後に直ち
にシェルターに駆け付け、その惨状を目撃したというオレー
ナ・コレンスヌコヴァとアナスタシア・オニコヴァ。
ウクライナの激戦地ヘルソン市の出身で、一旦はキーウ市に
避難したものの、ロシア軍の撤退後ダムの決壊で水没したヘ
ルソン市に駆け付けて残されたペットに餌を与えるなど救援
活動を行っているイーラ・モサレンコ。
そして元イギリス軍の兵士で、重度のPTSDで苦しんでいた時
にドッグセラピーに救われ、その体験からドッグセラピーの
事業を立ち上げ、さらに戦地に赴いて犬猫の救援に当ってい
るトム。
正に頭の下がる活動を続けている人たちが登場して、戦災に
巻き込まれた犬や猫、小動物たちの状況やその救援活動が紹
介されているものだ。正しく山田あかね監督ならではという
感じの作品だった。
実は僕は2015年の作品も観ているが、福島原発災害で避難勧
告地域に残された犬を救助する人々と監督自身を反映したと
思われる女性を、ドラマを交えたセミドキュメンタリーで描
いた作品は、何か中途半端で紹介を割愛してしまった。
それに対して本作では、映像の中に監督自身も登場して明確
に事象を紹介して行く。しかも地雷設置個所などかなり危険
な中にも踏み込んで行く、その姿に使命感を感じてこれがド
キュメンタリーだと思わせてもくれた。
はっきり言ってテレビの登場する戦場カメラマンという人た
ちは、仕事であったり単に戦場が好きでそこに行っているよ
うにも見えるが、この監督はここに描かれる人々を紹介する
という使命でこの作品を描いている。そこも素晴らしい。

公開は2月21日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社スターサンズの招待で試写を観
て投稿するものです。


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