井口健二のOn the Production
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2024年10月06日(日) 十一人の賊軍、大きな玉ねぎの下で、ニッツ・アイランド−非人間のレポートー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『十一人の賊軍』
2002年に亡くなった脚本家笠原和夫氏が生前に企画したもの
の、その時の状況では映画化に至らなかった幕末の物語が、
2018年『孤狼の血』や2019年4月21日付題名紹介『凪待ち』
などの白石和彌監督によって実現された。
物語の舞台は越後の国で新潟湊を擁する新発田藩。徳川派の
奥羽越列藩同盟に属する長岡藩に隣接する小藩には同盟軍へ
の出兵も要請されていたが、若き城主は新政府軍に寝返るこ
とを模索していた。
そんな折、同盟軍は城主の真意を質すために軍使を送ると通
告。一方の新政府軍からも軍使の派遣が通知される。しかし
両軍が出遭えば戦闘は必至。この状況に新発田藩の家老はあ
る策略を思いつく。
それは山深い国境の峠で新政府軍の軍使を足止めして時間を
稼ぎ、その間に同盟軍を説得して追い返すというもの。その
数日間だけ峠の砦を守ればよい。そしてその任を我が娘の許
婚の武士に与える。
そこでその武士は、同盟軍に参加しない城主に不満を持つ剣
の使い手を引き入れ、様々な理由で死罪となり牢獄に繋がれ
ていた罪人たちに「成功したら無罪放免」と約束。彼らを率
いて峠へと向かうが…。

出演は山田孝之、仲野太賀。また歌舞伎役者の尾上右近、元
モーニング娘。で映画は初出演の鞘師里保。他に佐久本宝、
千原せいじ、岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬颯、小柳亮太、本
山力。
さらに野村周平、田中俊介、松尾諭、音尾琢真、柴崎楓雅、
佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松角洋平、浅香航大、佐野和
真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、木竜麻生、長井恵里、
西田尚美。そして玉木宏、阿部サダヲらが脇を固めている。
なお笠原和夫氏は映画化が頓挫した際に脚本を破り捨てたそ
うで、残っていたのは16ページのプロットのみ、本作の脚本
はそこから『孤狼の血』やTVドラマ『相棒』、配信ドラマ
『極悪女王』などの池上純哉が手掛けている。
史実では新発田藩はもっと簡単に新政府軍に寝返ったようだ
が、そこはフィクションの醍醐味というところだろう。そん
な展開の中で罪人軍団対新政府軍のかなり壮絶な戦いが繰り
広げられる。
それはアクション時代劇としても楽しめるものだ。そしてそ
こに長岡花火のルーツみたいなものがちらっと描かれるのも
嬉しく感じられた。他にも越後の国のいろいろな風物が織り
込まれているのも納得できた。

公開は11月1日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『大きな玉ねぎの下で』
爆風スランプが1985年に発表した同名の楽曲を基に、2024年
の若者と1989年の若者の青春を描いた作品。
物語の始りは1988年の田舎町で郵便局員が封書を配達する風
景。その封書は直接には会ったことのないペンフレンドから
のものだ。しかもそのペンパルの経緯にはちょっとした隠し
事もあった。
そして2024年では、夜はバー、昼はカフェという二重業態の
店舗で夜間に働く男性と昼間に働く女性。本来2人は出遭う
ことも無かったが、備品の二重発注などを避けるための業務
連絡ノートがその間を取り持ち始める。
そんな時代の違う2組のカップルは音楽の趣味が共通するこ
とを知り、それぞれの男性が武道館で行われるコンサートの
チケットを手に入れて、「大きな玉ねぎの下で」会うことを
計画するが…。

出演は神尾楓珠、桜田ひより。他に伊東蒼、藤原大祐、窪塚
愛流、瀧七海。さらに山本美月、中川大輔、伊藤あさひ、休
日課長、和田正人。そして江口洋介、飯島直子、西田尚美、
原田泰造らが脇を固めている。
映画化は2002年「文藝賞」受賞でデビューした中村航が原案
ストーリーを執筆。そこから2024年1月紹介『彼女はなぜ、
猿を逃がしたか?』などの高橋泉が脚色し、2018年5月紹介
『世界でいちばん長い写真』などの草野翔吾が監督した。
物語の展開はほぼ楽曲の内容に則しているのだが、ここで問
題は昭和末期の文通の状況をいかに21世紀に合わせるかとい
うこと。この点で映画は実に巧みにその状況を作り出し、さ
らにそこから派生する問題も見事にクリアしていた。
因に原作ストーリーを書いた中村航は芝浦工業大学工学部卒
だそうで、元々技術畑の人間が構築したストーリーは理詰め
というか技術的に端々まで納得できるように構築され、これ
はもうある種のSFと呼べる作品になっていた。
そしてそれを脚色し監督したのが上記の2人だから、こちら
も科学的に裏付けされた内容をしっかりと映画化できるスタ
ッフが集まったと言えそうだ。タイムマシンもタイムスリッ
プもしないけれど、これは時間テーマのSF映画だ。
因に男女が出遭う武道館コンサートの顛末も史実通りの出来
事だ。ただ一点、チケットぴあの発券店が藤沢南口というの
は湘南出身者の自分としては少し違和感かな。三浦からなら
もっと行き易い店があったと思うのだが。

公開は2025年2月7日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『ニッツ・アイランド−非人間のレポートー』
                   “Knit's Island”
メタバースに滞在する人々を、監督らが自らアバターとなり
メタバース内でインタヴューするというドキュメンタリー。
舞台となるのは〈DayZ〉と呼ばれるサヴァイヴァルゲームが
繰り広げられているネット上の島。そこには「ゾンビ」が徘
徊しており、アバターはその「ゾンビ」と闘いながら隠され
た食料などを発見して生き延びる…というものだそうだ。
そしてその世界ではアバター同士で音声によるチャットが可
能となっており、そんな世界に監督らはインタヴュアー、技
師、カメラマンとなって潜入、「撮影」を開始する。そこに
はゲームをするだけでない様々な「生き方」が存在した。

監督は、いずれもフランスのモンペリエ美術学校で2017年に
造形表現の修士号を取得したエキエム・バルビエ、ギレム・
コース、カンタン・レルグアルク。すでに同旨の短編作品も
発表している3人が本格的な長編に挑んだものだ。
実在のPCゲームが題材でその映像も登場する作品としては
2023年12月紹介『PLAY!』などもあったが、実際にその世界
に入ってのドキュメンタリーというのは確かに新機軸と言え
るのだろう。
そしてそこでは現実世界とは異なる考え方や倫理観なども登
場し、人間の二面性みたいなものも垣間見られる作品になっ
ている。確かに殺人や窃盗なども許される世界での発言なの
だから、現実とは違うものになるのは当然だが…。
ただ、作品がヴァーチャル環境に拘り過ぎたのかその世界の
設定などが判り難いのは気になったところ。「ゾンビ」との
闘いが主眼らしいが、突然空中浮遊したり、その辺のゲーム
の設定を明瞭にして欲しかった。
それが判らないと実際の戦場でのドキュメンタリーと変わら
ない訳で、逆に宗教が絡むあたりは『地獄の黙示録』を観て
いるのかと思ってしまったくらいのものだ。新機軸ではある
がゲームやメタバースの特性を生かし切ったか…?
いずれにしても新たなドキュメンタリーの舞台は開かれた訳
で、ここから新しい作品が生まれてくることも期待したいも
のだ。人間は新たな環境で如何に変貌するか、そんなことも
テーマになりそうだ。

公開は11月30日より、東京地区は渋谷シアター・イメージフ
ォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投
稿するものです。


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井口健二