2024年09月01日(日) |
SPIDERスパイダー增殖、香港、裏切られた約束、対外秘、拳と祈り-袴田巌の生涯- |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『SPIDERスパイダー增殖』“Vermines” 本国公開では過去20年間でジャンル最高のヒットを記録した という2023年製作のフレンチホラー作品。 プロローグは中東と思しき砂漠。そこで回教ゲリラと思われ る男たちが灼熱の地に生息する蜘蛛を採集する。そこでは犠 牲も出るが、蜘蛛は外貨を得るためにプラスティックの箱に 入れてフランスへと密輸されたようだ。 そして映画の舞台はパリ郊外に建つ公共アパート。円形の外 観が特徴的なその建物には、移民や低所得者など下層階級の 人々が暮らしていた。そんな中で主人公のカレブは妹のマノ ンと2人暮らし、スニーカーの転売を生業としていた。 一方、カレブには爬虫類園を作るという子供の頃からの夢が あり、彼はスニーカーの元売りの店に在った蜘蛛の箱を買い 取るが…。実はその蜘蛛には、他の生物の体内に卵を産み付 ける習性と、環境に応じて巨大化する特徴があった。 果たしてカレブが持ち帰った蜘蛛は箱を抜け出し、アパート の住人を襲って一気に増殖を始める。そして変死体が発見さ れ、事態の分からない警察は建物を封鎖、住人を閉じ込める 作戦に出る。それは地獄の始まりだった。 脚本と監督は、2021年にYouTube に載せた短編が 100万回再 生を記録したというセヴァスチャン・ヴァニセックの長編デ ビュー作。本作ではシッチェス・カタロニア国際ファンタス ティック映画祭で審査員賞などを受賞している。 出演は、2023年『グランツーリスモ』などのテオ・クリステ ィーヌ、2022年フランス版『キャメラを止めるな!』などの フィネガン・オールドフィールド、テレビのコメディ番組で ホストを務めたこともあるというジェローム・ニール。 さらにパリの劇団やパリ郊外のアートスクールなどで俳優部 門に抜擢され、本作で映画デビューのリサ・ニャルコ、カン ヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『レ・ミレザブル』など のソフィア・ルサーフルらが共演している。 蜘蛛が題材の映画というと、2002年10月紹介『スパイダー・ パニック』なんていう珍品もあったが、その時にも書いたが 蜘蛛の恐怖は大きさより大量発生な訳で、その点で本作は巨 大化と言っても相応で、正に期待した作品だった。 しかも文字通りの蜘蛛の子を散らすシーンもあって、子供の 頃に実体験のある自分としては、ぞくぞくする気分も味わえ たものだ。正に蜘蛛を蜘蛛として描いた作品と言える。その 点では1991年『アラクノフォビア』に匹敵するかな。 公開は11月1日より、東京地区は新宿武蔵野館、ヒューマン トラストシネマ渋谷他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観 て投稿するものです。
『香港、裏切られた約束』“因為愛所以革命” 2021年にイギリスに渡り2024年に難民認定された1987年中国 福建生まれ、1歳から香港育ちというトウィンクル・ンアン 監督が2019年の香港を捉えたドキュメンタリー作品。 元々新人脚本家だったンアン監督は、アルバイトで貯めた金 でヴィデオカメラを買って2019年6月4日にビクトリアパー クで開かれた天安門事件の追悼集会に向かい、その道筋でも 多くのデモ隊に遭遇した監督は撮影を開始する。 しかしその時の監督自身はまだデモの真の意味合いが何処に あるかは解っていなかったし、デモ参加者の多くにも明確で はなかったようだ。しかしそこから始まる香港政府による弾 圧が多くを語り始める。 実際に外部にいる我々にとっては香港から亡命した人たちの 発言なども耳にする機会があったから、逆にそこに潜む問題 は明らかなのかもしれないが、報道制限が徹底された現地で は民衆が知らないことも多いのかもしれない。 そしてそんな真実に気付いた監督はデモ参加者と行動を共に し、香港の現実を記録し続ける。だがそれは多くの危険を伴 い、ぎりぎりの脱出劇や外国メディアとの接触による救援な ども受けることになって行く。 実は数行前では外部の人間の方が知っている事実などと書い たが、この後からは外部への報道も制限され、外部の人間が 知り得なかった香港の現実が描かれ始めるものだ。それらは 多くのデモ参加者へのインタヴューで描き尽くされる。 その悲惨な現状や官憲の横暴さなどは、見聞きした知識で知 る以上の戦慄するものだし、正直にはそこを追求し切れない 本作のもどかしさも感じてしまったものだ。いや正に地獄が そこにある感覚だった。 僕自身は70年安保闘争時代の大学生で、それはいくら反対し ても条約は自動延長されるという現実に対してただ虚しさだ けがある感覚だったが。この香港の現実も強大な敵に対して 何ができる? という感覚も持つ。 しかしこの映画を観た世界の世論が強大な敵を追い詰める。 そんな夢を見たくなるような感じもした。そんな世論が巻き 起こることも願いたいものだ。因に映画の登場する賛成派は 北京の雇われ者なんだろうな、そんな印象も持つ作品だ。 公開は東京地区では8月30日よりアップリンク吉祥寺にて、 関西地区は9月6日よりアップリンク京都にてロードショウ となる。 なおこの紹介文は、配給会社アップリンクの招待で試写を観 て投稿するものです。
『対外秘』“대외비” 1992年の釜山で行われた国政選挙を背景に、汚職にまみれ権 力闘争に明け暮れる男たちを描いて本国で初登場ナンバー1 ヒットを記録した韓国映画。 主人公は地元生まれで国政選挙に初挑戦を目指す男。地元の 人気は絶大で、後は与党の公認を得られれば当選確実の状況 だった。ところがその座が見も知らないパラシュート候補に 奪われる。 実はその裏には釜山で進められる再開発に絡む利権が動いて おり、そのフィクサーが自分の言いなりになる人間を公認の 座に押し込んだのだ。この事態に状況の分かる主人公は、再 開発に係る機密文書を使った逆転の策に出るが…。 フィクサー側はさらに悪辣な手段に打って出る。その結末や 如何に。 脚本と監督は、2020年5月紹介『悪人伝』のイ・ウォンテ。 出演は2019年5月紹介『工作 黒金星と呼ばれた男』などの チョ・ジヌンとイ・ソンミン。さらに『悪人伝』や本年7月 紹介『犯罪都市 PUNISHMENT』などのキム・ムヨル。 出演者の顔触れを見れば判る通りの悪い奴ばかりの映画で、 まあ政治を描けばこんなものだろうという感じではあるが、 日本と同じく韓国政界の実情も裏金や人脈にまみれているよ うだ。正に「政界アウトレイジ」。 映画の巻頭には登場する人物名などはフィクションと言う字 幕が出るが、時代も場所も特定されていれば韓国の人には実 際のところも透けて見えてくるのかな。日本映画にもこれく らいの作品は期待したいものだ。 もちろん日本映画でも『Village/ヴィレッジ』みたいな作品 はあったが、本作の凄いのはそこにしっかりと政治問題を提 起し、さらにエンターテインメントとしても十二分に仕上げ ていることだろう。 この辺は本当に韓国映画の素晴らしいところで、このような 政治意識は日本映画では大手はもちろん独立系でもなかなか 踏み込めないところのようだ。と言うか企画を立てても潰さ れるという声は聞いたことがある。 そんな韓国映画の実力が発揮された作品と言える。何しろエ ンターテインメントとして面白いし、政治問題も判りやすく 描かれている。見事な作品だ。 公開は11月15日より、東京地区はシネマート新宿、ヒューマ ントラストシネマ渋谷他にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を 観て投稿するものです。
『拳と祈り-袴田巌の生涯-』 2010年3月に高橋伴明監督『BOX 袴田事件 命とは』を紹 介している1966年に静岡県で起きた事件による死刑囚の姿を 追ったドキュメンタリー。 背景となる事件については2010年の映画で知っていたものだ が、そこから再審までに14年もの歳月が費やされた。ただし 再審は2014年に一度静岡地裁で認められたが、そこから検察 の抗告などで、さらに10年が費やされたものだ。 実際にはその間に高裁での再審取り消しなども挟むが、最終 的に最高裁が認めるものに何故にこのように抗うのか。日本 の裁判制度の矛盾も描かれている。因に海外では、検察側に 抗告を認めない国もあるようだ。 そんな中で2014年の判決で本人の釈放が認められており、本 作はそこから始まっている。ただし実際にはそれ以前から親 族、特にお姉さんとの接触は行われており、そこでの信頼関 係によって釈放直後からの撮影が可能になったものだ。 こうして収監から48年ぶりに解放された袴田巌氏の生活ぶり が描かれて行く。そこでは自分を神と呼ぶような異常性も垣 間見られるが、他の作品でも紹介されていた家の中を歩き回 る姿から、徐々に外出できるまでも描かれる。 そこには認知症と見られる症状もあって、それは長期の死刑 囚=いつ処刑の日が来るかわからない恐怖…なども原因かと も疑わせる。兎にも角にも、これが長く過酷な日々を送って きた人の姿だ。 そんな袴田氏の姿が正しく愛情をこめて描かれている。それ は長きに亙る取材での交流によるものかもしれないし、逆に 長きに亙る再審請求に対する司法への怒りの裏返しもあるの かもしれない。いずれにしても愛情のこもった作品だ。 監督・撮影・編集は山梨県出身の笠井千晶。2002年に静岡の テレビ局で報道記者となり、その2年目に袴田事件を知って 以来お姉さんとの交流を保ち、フリーランスとなってすでに 4本のTVドキュメンタリーも発表している。 本作はその劇場向け長編の第1作となる。つまりこれは監督 にとっても人生を捧げた作品と言えそうだ。 なお本作では、元プロボクサーだった袴田氏の姿にも焦点を 当てており、そこではほぼ同時期にアメリカで起きたプロボ クサーの殺人冤罪事件も紹介される。その取材記録やWBC からの名誉チャンピオンベルトなども貴重な情報だ。 なお再審公判は2024年9月26日となっており、映画の公開は それを見届けた後となる。 公開は10月19日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて 全国順次ロードショウとなる。 この紹介文は、配給会社太秦の招待で試写を観て投稿するも のです。
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