井口健二のOn the Production
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2024年07月07日(日) ニューノーマルNEW NORMAL、若き見知らぬ者たち

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『NEW NORMAL』“뉴 노멀”
2018年12月紹介『コンジアム』が韓国ホラー映画史上第2位
の興行を記録したというチョン・ボムシク監督が、映画出演
は2016年以来というチェ・ジウを迎えて描いたサスペンスド
ラマ。
舞台は2022年6月のソウル。そこでは観測史上初という季節
外れの雪が降っている。そんな中で連続殺人事件が起きてお
り、捜査は進んでいるようだが、若い女性には夜間外出しな
いようにとの注意喚起も行われている。
そして映画の物語は6つのチャプターで展開され、それぞれ
が2日目→3日目→1日目→3日目→2日目→1日目と時間
軸を錯綜させると共に、各チャプターには「M」「正しいこ
とをしろ」「殺しのドレス」「いま会いに行きます」「のぞ
き魔」「ろくでもない人生」と、映画ファンにはおや?と思
わせる副題が添えられている。
また映画の中では、チャップリンの指芸など映画ファン向け
の仕掛けもいろいろと設けられているものだ。そして映画は
チャプターごとにそれぞれ異なる状況の殺人を描いて行く。

出演はチェ・ジウ以外に、2022年7月紹介『人質 韓国トッ
プスター誘拐事件』などのイ・ユミ。さらにチェ・ミンホ、
ピョ・ジフン、新星のハ・ダイン、2007年生まれで国民的歌
手とされるチョン・ドンウォンらが登場する。
チェ・ジウの出演を含めていろいろな意味での仕掛けの多い
作品で、映画ファン的にはそれらを楽しめればいいのかなと
は思ってしまう。その辺で世界各国の映画祭への正式出品も
頷けるものだ。
但し描かれた物語的にはいずれもありがちな展開で斬新さと
言うには物足りないし、特にこの手の時間軸を錯綜させた展
開では最後に一点に収斂してこその醍醐味だと思うのだが、
監督にその意志はなかったようだ。
そのため各チャプターのエピソードが尻切れトンボな感じが
して、中でもチャプター2の少年の運命は、最後にちょっと
台詞だけの説明があった気はしたが、末路がどうなったのか
気になったものだ。
でもまこんなのが最近の流行りなのかな。その辺も認められ
ての映画祭の正式出品なのだろう。

公開は8月16日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社AMGエンタテインメントの招
待で試写を観て投稿するものです。

『若き見知らぬ者たち』
2016年PFFアワードに出品した『ヴァニタス』で観客賞を
受賞、2020年に自主制作した『佐々木、イン、マイマイン』
では新藤兼人賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞などを受賞した
内山拓也原案、脚本、監督による商業映画第1作。
登場するのはアラサーの兄と少し年の離れた弟の兄弟。同居
の家には認知症の症状に似た「前頭側頭葉変性症」という難
病を患う母親がいて、特に兄はその介護と仕事に追われっぱ
なしの生活だ。
その兄には恋人と言える女性もいて、看護師の彼女は職場で
の軋轢に悩みながらも兄弟の介護に手を貸し、いつも笑顔で
接している。そして弟は、亡き父親に手ほどきされた格闘技
でチャンピオンを目指せる位置にいた。
そんな兄弟のつつましやかな生活が根底から覆される事件が
起きる。

出演は、2022年5月紹介『ビリーバーズ』などの磯村勇斗と
2018年4月29日付題名紹介『ガチ星』などの福山翔大。また
2019年12月2日付題名紹介『前田建設ファンタジー営業部』
などの岸井ゆきのがヒロイン役。
そこに染谷将太、滝藤賢一、豊原功補、霧島れいからが脇を
固め。さらに伊島空、長井短、東龍之介、松田航輝、尾上寛
之、カトウシンスケ、ファビオ・ハラダ、大鷹明良らが出演
している。
物語の核となる事件に関しては、監督自身が友人から聞いた
実話に基づいているそうだ。その実話では最終的に加害者側
が非を認めて賠償に応じたとのことだが、それでもやるせな
い話が根底に置かれている。
そんなどん詰まりのような若者たちの姿が展開されているも
のだが、映画はそれをさらにトリッキーな手法で描き込んで
いる。しかしそのトリッキーな展開を一つに纏め上げた手腕
は見事と言えるものになっていた。
それは特に後半に「修斗」という総合格闘技を据えることで
目先の変化とリズムの転換も行っているものだが、それは前
半のドラマとは全く異なるテイストになっている。しかしそ
れがスムースに繋がっているのも見事なものだ。
因にこのタイトル戦のシーンでは通常はコレオグラファーに
任せるところを、監督自身が細かな試合展開を脚本に描き込
み、プロ格闘家であり本作が初映画出演のファビオ・ハラダ
と共に作り上げたとのこと。
一方、対戦相手の福山翔大も1年かけて総合格闘技を学び、
プロになれるというお墨付きの上でシーンに挑んでおり、正
しくリアルで物語に沿った試合が描かれている。その撮影も
見事なものになっていた。

インディーズのテイストを残しながらエンターテインメント
に昇華させた。正に見事な商業映画第1作と言える作品だ。
公開は10月11日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社クロックワークスの招待で試写
を観て投稿するものです。


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井口健二