井口健二のOn the Production
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2023年12月17日(日) 雨降ってジ・エンド、フィリピンパブ嬢の社会学、コヴェナント約束の救出

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『雨降って、ジ・エンド。』
2016年4月紹介『秘密 THE TOP SECRET』などの脚本を手掛
ける高橋泉と、高橋脚本の2013年『凶悪』などに出演の廣末
哲万による映像ユニット「群青いろ」製作で、2007年に公開
された前作以来17年ぶり劇場公開という作品。
主人公はフォトグラファーを目指している若い女性。しかし
自分が何を撮るべきなのか迷っている。そんな女性が雨宿り
で飛び込んだ空店舗で、ピエロの扮装の男性に遭遇。咄嗟に
撮った写真がSNSでバズることになる。
そこでそのピエロの男性を追い始めた女性は、本人の許可を
得てピエロの生活ぶりを撮り始めるが…。バズりを狙うばか
りの彼女の写真はプロの眼からは酷評されてしまう。そして
落ち込む彼女をピエロは優しく受け止めてくれた。
こうしてピエロに信頼を寄せるようになった女性は、ピエロ
のために何でも希望する写真を撮ってくると提案するが、そ
こでピエロが求めた写真には彼女の恋心を拒絶するある秘密
が隠されていた。

出演は、2020年2月23日付題名紹介『街の上で』などの古川
琴音。その相手役に廣末哲万。他に「群青いろ」常連の大下
美歩、新恵みどり。それにアメリカ生まれでMEN's NON-NOの
専属モデルでもあった若林拓也らが脇を固めている。
脚本と監督は高橋泉。本作はゆうばりファンタスティック映
画祭2022にてワールドプレミアされ、なら国際映画祭2022、
第15回下北沢映画祭などでも上映されたものだ。
本作のタイトルを入力して行くと予測変換で「雨降って地固
まる」が出てくる。上記の題名とは正反対の意味合いだが、
正にそこが狙いなのだろう。実際に映画の内容はかなりの賛
否両論を呼びそうなものだ。
それはこのピエロの位置に立った時に、そこには単なる差別
以上の苦難を感じさせる。実際にこれはある種のLGBTと
同様の障害であるはずなのだ。しかしこれには犯罪の要素も
強く指摘され、LGBT以上の差別感が生じる。
この映画はそんな究極の問題に足を踏み入れている。そこに
は映画に新たな地平を切り開こうとする、そんな意識も感じ
られた。これからの時代、社会を考える上で深く考察すべき
作品とも感じた。
コメディと呼ぶのは内容的にはかなりきついが、しっかりと
したコメディ作品ではある。

公開は2024年2月より、東京地区はポレポレ東中野他にて全
国順次ロードショウとなる。

『フィリピンパブ嬢の社会学』
ジャッピーノを描いた2022年12月紹介『世界は僕らに気づか
ない』で脚本監修を務めた中島弘象氏の同名著作(新潮社刊)
を基に、2008年6月紹介『能登の花ヨメ』などの白羽弥仁監
督が描いた日本に暮らすフィリピン人女性を巡る物語。
主人公は愛知県春日井市で「就職には新卒が有利」という周
囲の声を振り切って地元大学の大学院に進んだ学生。そこで
国際関係学を専攻する彼は研究テーマとしてフィリピンパブ
に勤める女性たちの実態の調査を始める。
そのためフィリピンパブに入店した彼は1人の女性と付き合
い始めるが…。そこには偽装結婚やヤクザの後ろ盾など様々
な闇が広がっていた。そんなフィリピンパブ嬢の実態が描か
れて行く。

出演は、主演は2011年3月紹介『奇跡』以来で単独主演は初
という前田航基。相手役にオーディションで選出されたフィ
リピン生まれで12歳の時に来日したという一宮レイゼル。
他に2022年『PLAN75』などのステファニー・アリアン、4歳
からモデル活動をしているという浦浜アリサ。さらに近藤芳
正、勝野洋、田中美里、仁科貴、津田寛治、2019年12月22日
付題名紹介『東京不穏詩』などの飯島珠奈らが脇を固めてい
る。
正直に言ってフィリピンパブの実態などは良く知らなかった
が、以前はタレントヴィザなどで比較的容易に入国できたも
のが近年は厳しくなったのだそうだ。そこで偽装結婚という
手段が登場し、そこには裏社会の暗躍があるという。
そんな訳で彼女たちには相当な搾取があると考えられるが、
それでも母国への仕送りで大家族の生活が賄え、比較的大き
な家も持てるというのだから、これをもっと健全に行えるよ
うにするのが日本という国家の責任のようにも感じる。
タイトルに「社会学」とあるのは、そういう意味にも捉えら
れると思ったものだ。とは言うものの、映画化がどこまで実
話に則しているかは知らないが、一大学院生が良くここまで
やったとも思える作品だった。
なお映画はコメディタッチで描かれており、気楽に楽しむこ
とができる。そこに前田航基のキャラクターが良くマッチし
ているとも言える作品だ。

春日井市市制80周年と銘打たれた作品で、公開は2023年11月
から愛知県内各地で先行上映の後、東京では2024年2月17日
より新宿K's cinema他にて全国ロードショウとなる。

『コヴェナント約束の救出』
            “Guy Ritchie's the Covenant”
2023年8月紹介『オペレーション・フォーチュン』などのガ
イ・リッチー監督が初めて戦争映画に挑戦し、アフガニスタ
ンで現在も続いている状況を描いた作品。
物語の背景は2018年3月、アフガン駐留の米国軍はタリバン
の武器や爆発物の隠し場所の捜索に明け暮れていた。そんな
中で主人公の小隊は爆弾テロで通訳を失い、その後任にやっ
てきたのは他隊で問題があるとされた男だった。
しかし主人公はその男を採用し、男は期待以上の実力を発揮
する。こうして主人公の信頼を得た通訳だったが、武器庫の
掃討に向かった小隊がタリバンの反撃を受け、主人公と通訳
以外が殲滅されてしまう。
このため2人は基地までの遠路をタリバンの追跡を受けなが
ら潜行することになるが…。主人公は途中で瀕死の重傷を負
い、そんな主人公を通訳の男はあらゆる手段を駆使して基地
まで連れ戻した。
その後の主人公は傷も癒えて家族の許に帰国するが、実は通
訳の家族には約束されていた米国ヴィザが発給されず、タリ
バンの標的となって行方が判らなくなっていた。この事態に
主人公は国家の支援なしに救出に向かう。

出演は、2019年4月21日付題名紹介『ゴールデン・リバー』
などのジェイク・ギレンホールと、イラク出身でデンマーク
で活動する2016年9月紹介『ある戦争』などに出演のダール
・サリム。
他にエミリー・ビーチャム、ジョニー・リー・ミラー、アレ
クサンダー・ルドウィグ、アントニー・スター、ボビー・ス
コフィールドらが脇を固めている。
映画の最後には2021年に米国軍が撤退し、タリバンの支配と
なったアフガンでは多くの元通訳が処刑され、さらに多くの
通訳とその家族が逃亡生活を強いられているとのテロップが
掲示される。
実際にリッチー監督はその状況を伝えるBBCのドキュメン
タリーから本作の企画を立ち上げたとも伝えられており、現
況はかなり厳しいようだ。そんなメッセージ性も強く謳われ
た作品になっている。
それにしても本作全編に漂う緊張感は只ならぬもので、実際
に 123分の上映中は息継ぎもままならない感じがした。正に
ここが戦場でその現場にいるという感覚にもなった。見事な
演出の作品だ。
上記の『ある戦争』の紹介記事でも書いたが、反戦を謳って
戦闘を描く作品を僕は信用していない。しかし本作は反戦を
謳っているのではなく、戦争がもたらす様々な愚かしい事象
を描いているもので、そこを高く評価するものだ。

公開は2024年2月22日より、全国ロードショウとなる。
        *         *
 なおこの週はもう1本試写を観ましたが、映画評の解禁が
2024年1月30日午前8時以降とされているため、本ページで
の紹介はそれ以降とさせていただきます。


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井口健二