2023年07月16日(日) |
メドゥーサ・デラックス、熊はいない、ハント、6月0日アイヒマンが処刑された日 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『メドゥーサ・デラックス』“Medusa Deluxe” 2023年6月紹介『インスペクション』など近年多くの話題作 を製作・提供するA24が北米配給権を獲得したという英国の 若手監督による作品。 物語の背景は年に一度のヘアデザイン・コンテストの会場。 ファイナリスト4人が競う最終コンテストの開幕直前に事件 が起きる。それはデザイナーの1人が猟奇的な手口で殺され たのだ。 このため警察が出入り禁止とした会場を舞台に、残った3人 のデザイナーと4人のモデル、さらに警備員やコンテストの 主催者も入り混じって、犯人捜しのドラマがワンショット風 の映像で展開される。 脚本と監督は、映画やテレビでアートディレクターやライン プロデューサーを務めてきたというトーマス・ハーディマン の長編デビュー作。母親が美容師だったという思い出から作 られた作品だそうだ。 出演はテレビシリーズ『ヴァンパイア・アカデミー』などの アニタ=ジョイ・ウワジェ。1994年ケン・ローチ監督の『レ ディバード・レディバード』などのクレア・パーキンス。テ レビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』などのダレル・ ドゥシルヴァ。 他に本作で映画デビューのデブリス・スティーヴンスン、神 戸生まれのカエ・アレキサンダー、舞台俳優のニコラス・カ ミリ、2013年11月紹介『スノーピアサー』などのルーク・パ スカリーノらが脇を固めている。 映像は敢えてワンショット風と書いたが、編集点は何か所か 見受けられる。そしてそこまでしてする意味があったのかに は疑問も生じる。特にステージの裏を延々と移動するシーン などにはもっと工夫が欲しかったかな。 この辺は同じワンショット風なら2023年4月紹介『ソフト/ クワイエット』の方に軍配を上げる。少なくとも移動シーン にはいろいろと仕掛けが施されていた。 それと殺人の手口にも少し違和感があったもので、それはヘ アデザインというテーマとの絡みのつもりかもしれないが、 本来ならもっと呪術的な意味を持つものが少し安易に使われ ている感じもした。その辺はイギリス人だからなのかな。 公開は10月14日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
『熊は、いない』“خرس نیست/Khers nist/No Bears” 2007年5月紹介『オフサイド・ガールズ』や2019年10月13日 付題名紹介『ある女優の不在』などのジャファル・パナヒ製 作、脚本、監督、主演による2022年ヴェネチア国際映画祭・ 審査員特別賞受賞の作品。 2019年の記事でも書いた通り、パナヒ監督は2010年から20年 間映画制作禁止とされているものだが。その間に5本の長編 作品を発表、それらは全て母国のイラン国内では上映禁止と され、本作の発表後には再び収監されたということだ。 そんな作品はかなりトリッキーな構成で、監督は国境近くの 辺境の村におり、そこからリモートでトルコで撮影されてい る映画を演出しているというもの。そして映画の撮影現場で トラブルが発生し、それに呼応するように監督の居る村でも 問題が起きる。しかもそれらには共通項がある。 異なる場所で進行する物語が一点に収斂するという構成は、 2007年1月紹介『バベル』などのアレハンドロ・コンザレス ・イニャリトウ監督が得意とするところだが、本作はそれと は全く別の次元で、本作の制作意図をより鮮烈且つ明確に描 くために採用されているものだ。 従って本作では、感動よりも衝撃が優先される。その衝撃は 映画の終了後にすぐには席から立ち上がれないくらいのもの だった。監督の思想は明らかで、2019年紹介作の時はそれな りにオブラートに包まれている感じもしたが、今の監督には そんなことは言ってられない心境なのかな。 監督以外の出演者はイラン出身だが国外追放の目に遭ってい る女優のミナ・カヴァニ。『ある女優の不在』の続編的作品 でパナヒが共同脚本を務めた“Namo”に出演のバクティアー ル・パンジェイ。映画の録音スタッフでもある『ある女優の 不在』に出演のレザ・ヘイダリ。 さらに“Namo”に出演のナセル・ハシェミ、『ある女優の不 在』に出演のナルジェス・デララム、『ある女優の不在』で 共同脚本を務めたヴァヒド・モバセリらが脇を固めている。 正直に言って本作に描かれている状況の切実さは日本人には 判り難い。しかしそれがこの映画の結末を招くほどの重大事 であることは理解できる。そんなイラン社会が抱える問題を 巧みに海外に知らしめる、その目的は見事に果たす作品と言 えそうだ。 公開は9月15日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国順 次ロードショウとなる。
『ハント』“헌트(HUNT)” 2019年4月紹介『神と共に』や2021年放送の『イカゲーム』 などの俳優イ・ジョンジェが初監督に挑戦し、2022年のカン ヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門など各地の 映画祭で上映、多数の受賞も果たした1980年代の韓国情報部 が舞台のアクション作品。 物語の背景は1979年の朴正煕暗殺事件から4年後、1980年の 光州事件から3年後の1983年。米国訪問中の全斗煥大統領に 暗殺未遂事件が発生し、韓国の安全企画部(旧KCIA)内部では 北朝鮮へ情報漏洩の疑念が高まる。 そこで安全企画部の部長は海外次長のパクと国内次長のキム に直々の調査指令を下すが…。2人の間には朴正煕暗殺事件 の捜査での因縁があった。それでも互いに競い合いながらの 調査が開始される。 しかしそこには、独裁色を強めて強硬路線に走る全斗煥への 反発や北朝鮮からの巧みな接触など様々な思惑が絡み付く。 そして物語は、韓国部隊の北への侵攻やラングーン事件など 虚実を織り交ぜて壮大なスケールで展開される。 イ・ジョンジェは監督と共にパク次長を演じ、キム次長には 2005年7月紹介『私の頭の中の消しゴム』などのチョン・ウ ソンが扮している。24年ぶりの共演という2人の対決はなか なかの見ものだ。 他に2019年11月紹介『スピード・スクワッド』などのチョン ・ヘジン、『イカゲーム』などのホ・ソンテ、モデル出身で 本作で新人賞受賞コ・ユンジョン、2018年7月紹介『1987』 などのキム・ジョンス、2022年4月24日付題名紹介『モガデ ィシュ』などのチョン・マンシクらが脇を固めている。 映画の中では1980年代の東京での銃撃戦なんてのも登場し、 これは凄いと思わせるが、その再現性はまずまずかな。歩行 者用信号機も当時の感じだし、良くやっているものだ。まあ 台詞は少し覚束ないけど。 それにしても初監督の俳優によくぞここまでやらせたという のも凄いところで、これができるのが韓国映画の底力と言え るのかな。銃撃戦にカーアクション、CGIを駆使した大爆 発まで、かなりのベテラン監督でも大変そうな展開だ。 それをイ・ジョンジェ監督はしっかりとものにしたという感 じの作品だ。 公開は9月29日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ ードショウとなる。
『6月0日 アイヒマンが処刑された日』“June Zero” 元ナチスの戦犯で、戦後逃亡の末に1960年にモサドによって 確保、イスラエルに連行されて翌年裁判、死刑の判決が下り 処刑されたアドルフ・アイヒマンの死に纏わる秘話を描いた 作品。 アイヒマンは絞首刑の末に火葬され、その遺灰は墓が聖地と なることを怖れた当局の判断でイスラエル領海外の地中海に 撒かれたが、そもそもイスラエルでは死刑はまれであり、さ らに宗教的に火葬もありえなかったという。 そんな状況の下で死刑の準備が進められ、その一方でとある 町工場に遺体を焼却するための炉の製作が依頼される。そん な作業の様子が、リビアから移住してきたアラブ人の少年の 眼を通して描かれる。 つまり少年はユダヤ人ではなくユダヤ教徒でもない。従って ユダヤ人のアイヒマンに対する想いも理解できないし、ただ 冷静かつ誠実に出来事を見ているものだ。日本人には今さら の感もするが、焼却炉製作の顛末などは面白かった。 撮影はイスラエルと、一部はウクライナ・キーウの近郊でも 行われており、恐らくはロシアの侵攻で破壊されたであろう 強制収容所跡地の映像は、今や貴重な時代の証言にもなって いるようだ。 脚本と監督は、オスカー女優グウィネス・パルトロウの弟の ジェイク・パルトロウ。共同脚本にイスラエル出身で受賞歴 を持つ監督でもあるトム・ショヴァルが参加している。因に 言語はヘブライ語で撮られた作品だ。 また出演者にはイスラエル人の俳優が起用され、キーとなる 少年の役には11歳で演技未経験のノアム・オヴァディアが抜 擢されている。撮影はスーパー16mmフィルムで行われた。 まあユダヤ人によるユダヤ人のための映画という感じの作品 だが、ユダヤ人以外に対してナチスが行った行為を伝えると いう目的も理解できる。そのための仕掛けも巧みに配されて いる作品だ。 公開は9月8日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に て全国ロードショウとなる。
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