2008年11月30日(日) |
ポチの告白、制服サバイガール、三国志、はじめはコドモだった、かさぶた姫、約束の地、ロルナの祈り |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ポチの告白』 菅田俊、野村宏伸、井上晴美の共演で、日本警察の横暴と、 警察機構+検察+裁判所+報道機関の癒着による警察腐敗の 隠蔽工作を告発した作品。 裏金作りや囮捜査、さらには悪徳警官による暴力団との取り 引きなど、マフィアものではよく観る物語が日本の警察でも 行われていることを描き出す。その一端はすでに裏金問題で 明らかにされているが、それが氷山の一角であることを描い ている。 警察問題ジャーナリストの寺澤有氏の資料提供及び原案協力 を得て創作された物語で、社団法人・日本外国特派員協会が 撮影に協力、日本映画では初めて同協会の記者会見場での撮 影が実現している。また、記者や通訳などもエキストラ出演 しているようだ。 上映時間3時間15分。この手の意識の高すぎる作品の陥りが ちな、ダラダラとした作品かと思いきや、初っぱなから警官 の横暴ぶりを描いて、観客をいらいらさせる掴みも見事な構 成で、そこから後は強引な展開ながら引き摺られるように観 てしまった。 主人公はノンキャリアながら刑事に抜擢された元巡査。同僚 巡査の横暴さとは対照的な実直さで住民の評判もよく、それ が刑事課長の目に留まって刑事に選抜昇進されたものだ。し かし、彼の実直さは上司への盲従となり、組織ぐるみの腐敗 に巻き込まれて行く。 一方、警察の不正を告発しようとしていた男が、覚醒剤で暴 れた男の逮捕劇の中、居合わせた新聞社のカメラマンにその 決定的な写真を撮影させる。しかし、大手の新聞社が記事に するのは警察の公式発表だけで、その写真は握り潰される。 さらに、拳銃取り引き現場の逮捕劇でも、決定的場面の撮影 に成功する男だったが、その情報も握り潰された挙げ句、男 は何者かに襲われて姿を消してしまう。 やがて歳月が流れ、刑事になった主人公は完全に悪の水に漬 かり、日夜上司のための金集めに奔走していた。そんなとき 姿を消していた男が舞い戻り、新たに起きた刑事殺しと過去 の事件のつながりを調べ始める。それに対して警察は… 実直だった1人の巡査が、上司の命令の下、あっという間に 落ちて行く姿が描かれる。それは弱みを握られたとかの理由 もなく、ただ上司の命令であれば正しい、それが国民のため になると信じて行う行為だ。 そんな恐ろしい警察組織の実体が描かれる。上映時間は長丁 場だが、それなりの見応えはあった。 ただし結末はこれでも甘い感じで、もっとガツンとした衝撃 的なものが欲しかった。確かに衝撃的な結末だが映像が静か すぎる。野村のシーンを後にした方が絵的にも良いし、空し さも強調されると思うのだが、そのためにはそれなりの伏線 がもっと必要になりそうだ。
『制服サバイガールI&II』 12月6日から東京のキネカ大森で限定公開される女子高生ア クション映画2本立のDVDを送付してもらったので紹介し ておこう。 作品は2部作だが、物語のテーマはそれぞれ異なっていて、 第1部は『ウェストワールド』の流れを汲む題名通りのサバ イバルアクションであるのに対して、第2部は『ローズマリ ーの赤ちゃん』を髣髴とさせるストーリーとなっている。 つまりこの作品は、出演者が共通するシリーズものでありな がら、物語は同じ話の繰り返しではなくそれぞれが独立して いるもので、正しく「1粒で2度おいしい」(byアーモンド グリコ)という感じのお得な2本立なのだ。 その物語の第1部は、学校から美術のスケッチにやってきた 7人の女子高生が、その内の1人の叔父の経営する江戸の町 を模したアミューズメントランドを訪れるというもの。そこ では敵役が客を襲うことはなく、客たちは思う存分銃撃戦を 楽しめるはずだった。 ところがその場所に、近くの遺伝子組み替え研究所で作られ た謎の植物が入り込み、その植物は人間をゾンビ化し、ゾン ビ化された人間は他の人間を襲うようになっていく。こうし て、ゾンビ化によって突如客を襲い始めた敵役を相手にした サバイバルが始まる。 そして第2部では、第1部を生き抜いた女子高生の1人がゾ ンビたちを抹殺すべくランドを再訪する。しかしそこで彼女 は妊娠が判明し、その胎児は異常な速度で成長し始める。果 たして生まれてくる赤ん坊の正体は……となっている。 企画の成立がどういう経緯かは知らないが、元々1本に纏め るのはかなり難しい話だし、それをあえて2本立とすること で、それぞれの物語のテーマも明確化するなど、これはなか なか上手い方策だとも思えるところだ。 まあ映画自体は低予算で、さほどの大仕掛けが観られるもの ではないが、上記のアイデアでは見所があるようにも感じら れ、2本で2時間28分の上映時間はそれなりに楽しめた。 出演は、飛鳥凛、有末麻祐子、紗綾、仲村みう、白石隼也。 いずれもグラビアやモデル出身の若手たちだが、それぞれい ろいろな演技の経験も積んできて、それなりに観られるよう になってきている。 なお、キネカ大森での上映は、出演者のトークショウなどイ ヴェントも盛り沢山のようだ。
『三国志』“三國之見龍卸甲” 中国+韓国合作による「三国志」映画。数100人いると言わ れる原作登場人物の中から、ジョン・ウー監督の『レッドク リフ』ではフー・ジュンが演じていた趙雲の生涯を描く。 『レッドクリフ』では、最初の方で劉備の妻子救出に向かう ぐらいでしか活躍していない趙雲だが、原作「三国志演義」 の作者である羅貫中には最も愛された英雄とも言われ、その 記述は多岐に渡っているとのことだ。 本作はその趙雲に焦点を当てて「三国志」の物語を再構築し ているもので、もちろん劉備の妻子を救出に向かうエピソー ドを含め、平民の出身でありながら五虎大将軍の1人にまで 上り詰めた武将の生涯が描かれる。 出演は、趙雲役に『LOVERS』『墨攻』などのアンディ ・ラウ。他に、『M:i:Ⅲ』などのマギー・Q、『カンフー・ ハッスル』などのサモ・ハンらが共演。監督は、ジェット・ リー主演作『ブラック・マスク<黒侠>』などのダニエル・ リー。また、戦闘シーンのアクション監督をサモ・ハンが務 めている。 なお、「三国志演義」の中の趙雲は、記述は多いもののそれ ぞれのエピソードの脈絡が乏しいようだ。そこで本作ではサ モ・ハンが演じる同郷の武将を創作し、彼に語らせることに よって物語の繋がりを構築している。 また、老境の趙雲が戦う敵の将軍として、マギー・Q扮する 曹操の孫娘(原作では義理の息子に当たる)を配し、冒頭の 救出劇との間に因縁話を作るなど、いろいろな工夫が施され ているものだ。 ただし、脚色も手掛けたリー監督によると、「三国志」に記 述された全てのエピソードを詰め込むようなことはしなかっ たとのことで、物語は極めて判り易く作られている。 しかも歴史が示すように、全体の戦いは趙雲の時代には終ら なかったものだが、この映画には、その戦いの空しさの様な ものも見事に描かれており、ただ戦うだけの「三国志」では ない側面も見せているものだ。 なお、主要なシーンの撮影は敦煌など中国本土で行われてお り、本物の雪の舞う中での戦闘シーンは迫力満点。また、故 郷に凱旋した趙雲を村人たちが讃えて演じる影絵芝居などに も興味深いものがあった。
『みんな、はじめはコドモだった』 大阪の朝日放送が新社屋完成記念に製作した5人の監督によ る子供をテーマとしたオムニバス。最初は記念イヴェントと しての上映のみの予定だったが、評判が良かったために一般 公開されることになったそうだ。 その1本目は阪本順治監督の『展望台』。通天閣を舞台に、 閉館してエレベーターも止まった後に取り残された中年男と 子供の姿が描かれる。正直かなりシビアな物語。でも、最後 の子供のせりふに、いきなり涙腺を直撃されてしまった。子 供を侮ってはいけないというお話。その前のVFXもきれい だった。 2本目は井筒和幸監督の『TO THE FUTURE』。小学校を舞台 にした、ちょっと異常な教師と、その生徒たちの物語。見方 によっては問題にされるかも知れないストーリーだが、ある 意味これが今の子供たちの置かれた現実なのかも知れない。 そんなことを考えるとかなり恐ろしい作品で、納得できた。 3本目は大森一樹監督の『イエスタデイワンスモア』。時代 劇仕立てのファンタシー。あまり儲かっていない食堂の女将 の幼い一人息子が誘拐され、身の代金が請求されるのだが、 それは女将には払えない大金だった。…ネタバレは承知の上 だが、ここからの展開が予想以上に見事な作品だった。 4本目は李相日監督の『タガタメ』。余命わずかと宣告され た男と死神の物語。男には1人では食事もまともに取れない 精薄の息子がいて、その息子を残しては死ねないと男は訴え る。しかし死神はそんな話は受け付けない。そして男の死期 は徐々に迫ってくるのだが…結末が見事な作品だった。 5本目は崔洋一監督の『ダイコン』。題名の意味は「ダイニ ングテーブルのコンテンポラリー」だそうで、老夫婦と娘の 3人家族の食卓の情景が淡々と綴られる。それは本当に何気 ない会話の連続だが…。我が家も良く似た状況で、正しくこ こに描かれた通りの情景が展開している。見事にやられたと 感じた。 「子供」という共通テーマでも、それは親にとっての子供で あったり、社会における子供であったり、幼かったり長じて いたりと、その捉え方は監督によっていろいろだが、それぞ れ素敵な物語が描かれている。数年前からオムニバス映画は 何本か紹介しているが、玉石混淆が多い中、本作は一番の粒 選りに感じられた。
『かさぶた姫』 avexニュースター・シネマ・コレクションと題するavex製作 による長編作品集の1本。 かさぶたを見ると無性に剥がしたくなるという性癖を持つ女 性が、合コンで出会ったイケ面の男性を好きになったことか ら始まるちょっとオタクな恋物語。 主人公はOL3人組の1人。大学生との合コンなどにも精を 出しているが、主人公自身はちょっと他人とは違う性癖のた めに、なかなか男性とは付き合えない気分だ。だがその合コ ンで1人の男性が気になり始める。 その後、ちょっとしたきっかけで思いの男性と付き合い始め た彼女だったが、自分の癖のことはうかつには話せない。し かも仲間のOLからも、「相手が引くから、絶対に話しては 駄目!」と忠告される。 しかし、隠せば隠すほど2人の関係はぎくしゃくし、ついに は誤解から破局。その上、彼の傍に仲間のOLの姿を認めた 主人公は姿を隠す。ところが、ふと見たサイトで自分と同じ 嗜好の仲間を見つけた彼女は、一躍その世界のアイドルとな ってしまい… 大学の合コンサークルにフェチサイトやオタク、正しく今の 若者文化が満載という感じの作品だ。監督は、TBSで「花 より男子2」などを手掛けているディレクターとのことで、 その辺の感覚は持っているということなのだろう。 だが問題はそこから、元々「相手が引く」としているものを 扱っているのだから、それを上回るドラマが必要なのにそれ が出来ていない。つまり引いている観客をそれでも映画に引 き摺り込むパワーが、それ以外の部分に感じられないのだ。 はっきり言ってしまえば、合コンサークルでの集団レイプや 暴行などは、かなり前に事件化したものでいまさら旬ではな い話題だし、彼女を持ち上げたサイトの主催者が豹変するの も、何とも古くさい展開としか言いようがない。 フェチ文化というのは、それなりに面白い着眼点だと思うの だが、基本それをネガティヴに捉えているから、その他の部 分がステレオタイプになってしまっている。それが結局、映 画全体を引いたものにしている感じがした。 主演は、映画『夜のピクニック』『さくらん』にも出ていた という近野成美と、『カフェ代官山』などの相葉弘樹。ドタ バタの演技は演出としてそれは悪いとは思わないが、話し全 体のオタクっぽさに僕はちょっと引いてしまった。
『約束の地』 avexニュースター・シネマ・コレクションと題するavex製作 による長編作品集の1本。 千葉県九十九里町を舞台に、父親の残した愛馬を再びレース 場に立たせたいと奮闘する若い女性の物語。 主人公の父親は地元の競馬場の厩務員だったが、その競馬場 が廃止されて失職、大学進学を目指す娘のために出稼ぎに向 かった東京で事故に遭ってしまう。そして残された娘は、父 親が残した愛馬と共に叔父の経営する乗馬クラブに居候して いるが、すでに母親も亡くしていた彼女は周囲に心を閉ざし ている。 そんな彼女のいる乗馬クラブの近くに、東京から3人家族の 一家が引っ越してくる。一家の幼い息子は喘息持ちで、その 転地療養のためこの地にやってきたのだが、息子は道沿いの 乗馬クラブを発見して大はしゃぎ、一家は早速そこを訪ねて くる。 しかしそんな一家を疎ましく感じる主人公は、子供にも辛く 当たってしまうのだが、一家の父親は彼女に暖かい目を向け る。 その父親が転職した町役場には、毎日のように主人公が現れ ていた。彼女は、競馬場の再開を嘆願していたのだが…それ は亡き父親が彼女と交わした約束でもあった。 中央競馬はそこそこの収益を挙げているようだが、地方競馬 は若者のギャンブル離れなどもあって赤字の場所も少なくな く、廃止して跡地の再活用が検討されることも多くなってい るようだ。従ってこの映画の物語のようなことも、少なから ず有ることかも知れない。 そんな状況の中で夢を語ることはなかなか難しいものだが、 本作では亡き父親の残した夢という形でそれが設定されてい る。しかしそれは、ある意味、主人公にとっては負担でもあ り、いろいろ微妙な部分も含んでしまうものだ。 さらに本作では、次々にいろいろなことが起きて、物語を飾 って行くが、その出来事の多さが、逆にそれぞれのエピソー ドの底を浅くしてしまっている感は否めない。それが映画全 体も軽い物にしてしまっているようにも思える。結局、監督 は何を描きたかったのか、監督の描きたかったものを、もっ と明確に追った方が良かったように感じられた。 主演は、CM「午後の紅茶」などの伊藤ゆみ、乗馬はかなり 特訓の成果のようだ。他に、菅田俊、赤星昇一郎らが出てい た。
『ロルナの祈り』“Le Sileuce de Lorna” 2003年9月に紹介した『息子のまなざし』、2005年9月紹介 の『ある子供』などのダルデンヌ兄弟の監督による最新作。 今年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、兄弟の作品は2度の パルムドールを含む4作連続の主要賞受賞となった。 常に社会問題を作品の根底に置いてきた兄弟が今回選んだ題 材は、偽装結婚による国籍取得。主人公の女性は旧東欧圏の 出身者で、EU圏内での国籍を取得するため、ベルギーで麻 薬中毒の男と偽装結婚をしている。 彼女には、同郷の男性の恋人がいて、2人の夢はベルギーで カフェを開くこと。ようやく国籍取得の目処も付き、銀行の 融資も受けられることになって夢は実現に向かっている。 ところが、裏の組織の手引きで国籍を取得した彼女には、次 に今度はロシア人男性の国籍を得るための偽装結婚の話が舞 い込む。その報酬は大きいが、そのためには今の麻薬中毒の 男との離婚を早急に成立させる必要が生じる。 その手っ取り早い方法は、麻薬中毒男の死だったが、彼女の ために麻薬を抜こうとし始めた男の苦しむ姿に、何時しか彼 女は情を移していた。 彼女の出身国はアルバニアという設定になっている。歴史的 には常に他国に占領され、戦後ようやく勝ち取った独立は共 産主義独裁者によって踏みにじられた。そんな国がようやく 自由を得たとき、その国民は海外へと出稼ぎに出発したが、 その道も不況によって閉ざされ始めている。そんな現実がこ の物語の背景には有るようだ。 日本でも、就労のための偽装結婚の話は報道で耳にするが、 ヨーロッパのそれは日本以上に厳しい現実と、まさに犯罪組 織との繋がりによる危険も孕んでいる。そんな危険な状況下 を気丈に生き抜く女性の姿が描かれる。 その描き方は、ダルデンヌ兄弟特有の余分な描写を全て排除 したドライなものであるが、そのドライな描写の中で見せ付 けられる主人公の情愛が、崇高にさえ思えてくる見事な物語 を生み出した。 主演は、コソヴォ出身のアルタ・ドブロシ。それに、『ある 息子』に出演のジェレミー・レニエとファブリツィオ・ロン ジョーネが共演。 それにしても、余分な描写の排除は見事なものだ。それでも ストーリーが保たれる、その構成力も見事と言える。そして 見事に断ち切られた最後のシーンに希望は有るか無いか…、 その判断は観客に委ねられる。
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