井口健二のOn the Production
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2008年06月14日(土) Movie-High 8、愛流通センター、コドモのコドモ、Made in Jamaica、《a》symmetry、ストリート・レーサー、Sex and the City

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Movie-High 8』
ニューシネマワークショップの生徒さんたちの発表会。例年
は2日間ほど出席して相当数のプログラムに観させてもらっ
てきたが、今回は個人的な都合で1日2プログラムのみの鑑
賞となった。観させて戴いた<クリエイタープログラム >
6作品と、<HDプログラム>4作品の個々の感想を書かせ
てもらいます。

<クリエイタープログラム >
「塩ラーメンのレシピ」は、アイデアとしては有り勝ちだと
思います。特に、キーとなる隠し味を先にあそこまで明瞭に
出してしまうと、落ちのネタが割れてしまいます。最後は、
別の隠し味で評価が変わってしまうとか、そんなもう一捻り
が欲しかった感じですね。
「フト気づく女はいない」のアヴァンギャルドな感じは、僕
の好みです。一般的な評価はなかなか得られないものかも知
れませんが、こんな感覚を一般映画の中にスーっと入れられ
ると良いですね。『地下鉄のザジ』とか思い出しました。頑
張って欲しいです。
「ピンクの傘」は、実体験の基づく作品の強みでしょうか、
全体に自然な感じが良いですね。ただ、このような思い出が
関わる傘を、果たして自分で使えるかどうか。ちょっと気に
なりました。作者は平気だった訳でしょうが、気にする人も
いると思います。その辺も気にしてください。
「ドントレットミーダウン」は、何も始まらないし、何も終
わらない、人生の一駒といった感じですね。そんな一駒が丁
寧に捉えられているのは感心しました。でもこれだけで評価
を下すのは難しいです。もっと別の作品を見せてもらいたい
ものです。
「コロッケじゅっ」も前の作品と同じですね。この種の作品
で子役を使うのは、いずれにしても評価は受けやすいでしょ
う。特に本作の女の子は良かったです。ただこの物語では、
調理の前に手を洗うシーンを入れて欲しかったですね。そう
いう基本を押さえるのも、映画の基本だと思います。
「不法投棄の夜」は、観ながら蒼井優主演の新作を思い出し
てしまいました。もちろん関係は全く無いのだけれど、タイ
ミングというのは恐ろしいものです。ただ、運び出す物が多
い割りにそこにドラマがあまり無くて、時間ばかり食ってい
るのはもったいないですね。そこに何か工夫が欲しかった。

<HDプログラム>
「生活」は、今回観せてもらった10本の中では一番注目した
作品でした。物語のアイデアも素晴らしいし、演出、演技も
良かった。それに何よりレクイエムの気持ちが見事に表現さ
れている感じでした。25分は今回観た中では一番長い作品で
すが、一番短く感じられました。
特に、モノクロとカラーで滅り張りを付けたり、ちょっとホ
ラー的な演出もあったり、その辺のバランスも良くて、上映
後の監督のコメントはかなり控え目でしたが、短編映画とし
ては見事に完成されていると思いました。
「猫のひげ」「じっちゃん」。という訳でこの2本は、上の
作品の後に上映されたもので、僕的にはかなり不利だったと
思います。どちらも人生の一瞬という感じの作品で、短編映
画としての面白さは充分だったと思いますが、もう一歩、何
かアピールするものが欲しかった感じです。
「シミル」は、テスト的に撮られた作品ということを上映後
に聞かされて納得できました。ワンアイデアで、短時間で撮
られた作品ということでは良くできていると思います。技術
もいろいろ使っているようですし、特にHDは、これからど
んどん面白くなるはずですから、このプログラム全体も期待
したいものです。
以上、今回のMovie-Highも多いに楽しませてもらいました。
次回もよろしくお願いいたします。

『愛流通センター』
携帯電話向けの投稿サイトに掲載されたケータイ小説からの
映画化。
なおこの投稿サイトは、当初から映画化を目指して設定され
ていたそうで、その映画化が大手芸能プロダクションの協力
で実現したものだ。本作はその第1回作品とされている。
物語は、現在彼氏なしの女子高生が主人公。実は以前につき
あっていた彼氏には、今でも「やり直そう」とメールをして
いたが、彼氏からは返信が無いままだった。
そんな彼女はいつも神社で、「本当の愛が見つかりますよう
に」と願っていたが…。その彼女の携帯電話に、突然「愛流
通センター」と称する勧誘メールが届く。しかも誤って登録
してしまった彼女の許に、稲羽と名告る人の良さそうな営業
マンが現れた。
稲羽は彼女に「失った愛はすぐ取り戻せる」と説明するが、
半信半疑の彼女は直ぐには理解できない。しかし説得されて
稲羽の指示通りのメールを彼氏に送ってみると、何と彼氏か
らいきなりOKの返事が来てしまう。
こうして失った愛を取り戻した主人公だったが、それは彼女
の昔からの親友の愛を奪うことになってしまう。
原作者は執筆当時は10代の女性だそうだ。基本的には他愛な
い話ではあるが、ケータイストラップで相手の気持ちを察す
るなど、今の若者の視点がいろいろ取り入れられていて、そ
ういった点でも興味深い作品だった。
それに本作は、SFとまでは言わないがかなりファンタシー
の要素が強い物語で、それが今の若者にどんな風に受け入れ
られるのか、その辺にも興味を引かれるところだ。なお脚本
は、『アクエリアンエイジ』などのなるせゆうせいが担当し
ている。
実は、稲羽(イナバ)の名前が兎、先輩がサルタヒコ、上司
がスサノオといった具合で、大体その意味は見当が付くもの
だが、ちょっと『ベルリン天使の歌』のような趣があったり
もして、映画ファンとしてもそれなりに楽しめた。
その稲羽の役を、2007年『シルバー假面』などの水橋研二が
良い感じで演じている。

主演は足立梨花。昨年のホリプロスカウトキャラバンのグラ
ンプリ受賞者だそうだ。また、共演の前田公輝、入来茉里ら
もホリプロ所属の新人タレントとのことで、それを応援して
同プロの大物たちもゲスト出演で作品を賑やかしている。
その辺が、あまりこれ見よがしでなく扱われているのも、悪
い感じはしなかった。
ただし、エンディングの主題歌も同じホリプロ所属の森翼が
担当しているが、できたらここにはバンドをやっている設定
の主人公たちの歌も聞きたかった。それは物語の復習にもな
るし、主人公が一所懸命に書き上げた歌詞の歌が欲しかった
ところだ。
でもまあ、出演者の演技などはあまり気にならなかったし、
この線で頑張ってくれれば、この企画は今後もそれなりに楽
しめそうだ。

『コドモのコドモ』
小学5年生女子の妊娠・出産というセンセーショナルな内容
を描いた作品。
双葉社刊「漫画アクション」に2004年5月から05年7月まで
連載されたさそうあきら原作のコミックスの映画化。
実はこの発表媒体名などからは、かなり興味本位の作品を予
想してしまった。正直なところは、「そんな作品だったら嫌
だな」とも思いながらも試写会に向かったものだ。
しかし作品には、特殊だが絶対に無いとは言い切れないシチ
ュエーションの中で、大人と子供、特に子供たちが精一杯の
努力を繰り広げる見事なドラマが描かれていた。
主人公は、ちょっと勝ち気な感じの11歳の少女春菜。そんな
春菜は、内気でいじめられっ子のヒロユキをいつも庇ってい
た。そんな2人は校外でも一緒に遊ぶことがあったが、そん
な遊びの一つが「くっつけっこ」だった。
そんな2人もいるクラスの担任は、以前は東京の進学校にい
たという八木先生。進歩的な考えの先生はクラスで性教育の
授業を始めるが、周囲からは快く思われていない。ところが
その授業の中で、春菜は重大なことに気付いてしまう。
一方、春菜の姉の友達が妊娠中絶するという騒ぎが起こり、
春菜は自分の妊娠を真剣に考えなければならなくなる。しか
し、いろいろな騒ぎの中で家族や周囲の関心は彼女に向けら
れず、どんどん時が過ぎていってしまう。
自分が子育てをした親として、このように無関心でいられる
かということにはいろいろ考えてしまうところもあったが、
実は物語は見事に子供の視点に立っていて、その物語に引き
込まれて行く内に自分が親の立場であったことを忘れてしま
った。
それくらいに見事に子供のドラマが展開し、特にいろいろの
事情から子供たちだけで出産を行わなければならなくなって
しまう状況から、その後の事後処理に至るストーリーは、感
動的ですらあった。

もちろん、現実にはあってはならない物語だし、現実がこの
ようにうまく行くこともないお話ではある。しかし、そんな
言ってみれば反社会的な物語を、この映画は見事にメルヘン
として昇華させている。
しかもそこには、性教育の遅れが招く出来事としての批判的
な精神も明確にされており、全体として納得できる作品にな
っていた。

『MADE IN JAMAICA』“Made in Jamaica”
1970年代にピンク・フロイドなどのドキュメンタリーを手掛
け、80年代以降は第3世界を中心に活動を続けてきたフラン
スのドキュメンタリー監督ジェローム・ラペルザが、カリブ
海に浮かぶ独立国ジャマイカの現状とレゲエ音楽の歴史を追
った作品。
レゲエ音楽を追った作品は既に何本か見ているが、今回は本
格的なドキュメンタリストによる作品とのことで期待した。
しかしそれは、多分監督は「矛盾に満ちたジャマイカの現状
を描いた」と主張するのだろうが、観客にも混乱が避けられ
ない作品になっていた。
確かにジャマイカの現状は厳しいものであるようだ。そこに
は暴力や貧困が蔓延り、貧富の差も広がり続けている。そん
な中でのいろいろな意見を、レゲエ音楽のミュージシャンた
ちの発言と演奏で綴って行く。
だがこの作品で、その矛盾が充分に描き切れたかどうかは、
疑問に感じる。一方、この作品で監督は中立の立場を貫こう
としているようで、それはドキュメンタリーの基本のように
言われることもあったものだが、この作品にそのやり方が良
かったのかどうか。
確かに、マイクル・モーア式の自己主張だけの作品も困りも
のだが、詳しくは知らない国の状況を、このように羅列的に
事象だけを提示されても、一般の観客としてそれをどのよう
に解釈していいのか、それも解らなくなってしまう。
ましてや遠い日本の観客には…というところだが、作品自体
はレゲエの演奏をふんだんに取り入れたもので、それが楽し
みな人たちにはそれで充分なのかも知れない。でも、それが
この作品の評価になってしまうのは、果たして監督の意図な
のだろうか…
歴史の矛盾や宗教の矛盾、社会国家の矛盾までいろいろな矛
盾が描かれている。それが、ジャマイカという国を知る上で
重要なことであることは確かだろう。それを音楽に乗せて描
くと言うのは、方法論としては間違いはないと思う。
しかしこの国には、その矛盾が多すぎたようだ。その全てを
描き切ることには、この作品は必ずしも成功していないよう
に思える。ただ音楽を聴くだけならそれで充分な作品だが、
そこに描かれたものの重さを僕は消化し切れなかった。

『《a》symmetry』
高校時代にお互い写真部で実力を競った2人が、ある切っ掛
けで別々の道を歩んで行く。やがて2人は偶然の再会を果た
すが、そこにはいろいろなドラマが待ち構えていた。
主演の和田正人と荒木宏文は演劇集団のD−BOYSに所属
し、それぞれテレビシリーズの主演や準主演で、特に女性に
人気が高いようだ。そんな2人の共演作ということで、作品
のアピールしようとする観客層にはそれで充分というものだ
ろう。
ただし作品の内容には、現代社会が抱えるある種の矛盾点な
ども描き出して、それなりに観られるものになっていた。特
にジャーナリズムに関わるエピソードなどは、映画の製作が
出版販売の会社であることを考えると、面白くも感じてしま
うところだ。
脚本は、昨年堤幸彦監督の『自虐の詩』などを手掛けた関え
り香。他には『スシ王子』のテレビシリーズなども手掛けて
いるようだが、若い男性の心理なども巧みに描いて、本作で
も良い仕事をしている。
主人公はフリーライターの若者。彼は高校時代に写真コンテ
ストで受賞し、夢はプロカメラマンとして世界を撮影旅行す
ることだったが、現実は程遠く、風俗雑誌でグルメルポなど
を書いている。
そんな彼には、家庭教師をしたことが切っ掛けという恋人が
いたが、その彼女が若年性の乳ガンの疑いで入院。その病室
を見舞った主人公が担当医として紹介されたのは、高校時代
に写真の腕を競い合った親友だった。
こうして再会した2人は、昔通りの付き合いも再開するが、
2人の間には高校時代に秘められたある特別な思い出が存在
していた。そしてそれは、ある報道を巡って事件を起こすこ
とになって行く。
この特別な思い出というのは、最近の作品では有り勝ちで、
自分が男性の立場ではいろいろ考えてしまうものだが、この
作品の目指す女性の観客にはすんなりと受け入れられるもの
なのだろうか…その割りには映画の中での扱いはかなり微妙
にも感じられたが。

それはともかく、映画全体の流れは、それらを超越した友情
のような感じで描かれ、それはそれでうまく描かれている感
じがしたものだ。

『ストリート・レーサー』“Стритрейсеры”
『ワイルド・スピード』に触発されたと思われるストリート
レース物のロシア映画。
同様の作品では、先月も『レッドライン』という作品を紹介
したばかりだが、世間にカーマニアというのは相当多いもの
らしく、この手の作品は尽きないようだ。
とは言え本作はロシア映画ということで、その特徴みたいな
ものは出て欲しい訳だが、その初っ端に戦車レースが登場し
たのには恐れ入った。戦車レースと言っても『ベン・ハー』
ではなくて、キャタピラーの付いたタンクが原野でレースを
展開しているのだ。
しかも、その戦車レースが除隊の権利を賭けたものというの
も、如何にもロシアらしいと言うことになりそうだ。
こうして街に戻ってきた主人公が、ストリートレースに参加
して鍛えた腕を披露することになるが、そこにはレースに紛
れた犯罪の匂いもしてくる…と言うのは、まあこの手の作品
では通り相場の展開とも言えそうだ。しかもこの犯罪も、如
何にもロシアらしいとも言えそうなものだった。
ということで、かなりロシア、ロシアした作品だが、映画の
見所はストリートレース、及びそれを取り締まろうとする警
察との対決となる訳で、そのカーアクションがサンクトペテ
ルブルグの市街を背景に展開される。
その他にも、飛行場でのレースシーンや、郊外の自動車道で
の大型トラックを相手にしたアクションなども展開され、そ
れなりにアクション満載の作品になっている。
主演は、2001年のモントリオール映画祭で主演男優賞を受賞
しているというアレクセイ・チャドフ、相手役はハンガリー
出身というマリーナ・アレクサンドロワ。女優は日本人にも
好かれそうなタイプの人だ。
そして登場する車種は、フェラーリF348、トヨタ・セリ
カ、アルファロメオ155、メルセデスベンツ190E、日
産・フェアレディZ、マツダRX−7、BMW−Z3、スバ
ル・インプレッサ、トヨタMR2など。
これに1950年製のロシア車=ガズM20をチューンナップし
た車が、主人公の愛車として登場するのもご愛嬌だった。

『SEX AND THE CITY』
                 “Sex and the City”
1998年から2004年まで、アメリカをセンセーションに巻き込
んだ大人気テレビドラマの映画化。テレビシリーズの主人公
たちが全員再登場して、シリーズでは一応のハッピーエンド
だった物語のその後が描かれる。
実はオリジナルのシリーズは観ていないのだが、映画は予備
知識があまり無くても理解できるように作られている。もち
ろん解っていればもっと面白いのかも知れないが、それなり
に現代女性の本音のようなものも描かれていて、それは楽し
めた。
とは言え、これは間違いなく女性のための作品で、登場する
男性陣はかなりこけにもされるし、男性の観客はかなり自虐
的な思いにもなってしまうものだ。ただし、それが解ってい
て観に行けば、男性もそれなりに楽しめるようにも作られて
いるが…
物語の中心は、テレビシリーズと映画の製作者でもあるサラ
・ジェシカ・パーカーが演じるキャリー。彼女とMr.ビッグ
がついに結婚を決意することからドラマが始まる。この知ら
せに、サマンサ、シャーロット、ミランダの仲間が再結集す
るが…
これに、世間一般でもありそうなエピソードがいろいろ重な
って、人生のある時期に遭遇しそうな物語が展開して行く。
ただし、そこはニューヨークのセレブ社会が背景の物語で、
ファッションから何からが豪華絢爛。
特に、この映画化が発表されるや世界中から申し込みが殺到
したという有名ブランドが提供したファッションの数々は、
その辺に疎い男性としては、エンディングクレジットを観る
だけでも圧倒されるもの。女性にはそれを観るだけでも楽し
める作品となっている。
その為もあってか、ドラマ自体は多少軽めではあるけれど、
でもまあ人生の機微みたいなものもいろいろと描かれている
からそれなりには楽しめる。それに、ここにあまり重いドラ
マがあっても作品の趣旨には沿わないものだろう。
なお、物語の途中で主人公たちがメキシコ旅行をするエピソ
ードがあり、そこでメムバーの1人がMontezooma's Revenge
に遭ってしまうのは、いまだに通用する話なのだと再確認で
きて面白かった。


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井口健二