井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2006年03月01日(水) 第106回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、前回予告したVESAwards受賞結果の報告から。
 まず、4本がノミネートされたVFX主導映画のVFX賞
は“King Kong”。3本ノミネートのVFX主導でない映画
のVFX賞は“Kingdom of Heaven”。3本ノミネートの単
独のVFX賞には“War of the Worlds”での近隣の人々が
逃げ惑うシーンが選ばれた。
 この他、背景賞は“King Kong”でのニューヨークの攻撃
シーン。ミニチュア賞は“War of the Worlds”。合成賞も
“War of the Worlds”。実写映画におけるアニメーション
キャラクター賞は“King Kong”のコング。そしてアニメー
ション映画におけるキャラクター賞は“Wallace & Gromit:
The Curse of the Were-Rabbit”のグルミットが選ばれた。
 つまり、VFX主導映画では、“King Kong”と“War of
the Worlds”が3賞ずつを分け合ったものだが、これはIL
Mとウェタが分け合ったことにもなった訳で、しっかりバラ
ンス感覚を伴った結果とも言えそうだ。一方、この結果は、
最終的な興行成績ではトップ3となる“Star Wars”“Harry
Potter”“Narnia”を蹴落として、下位の作品が受賞した
ことにもなるものだが、この辺がプロの見方ということにな
るのだろう。この結果がアカデミー賞にどのように影響する
かも面白くなりそうだ。
 なお映画部門の結果は以上だが、ついでにテレビ部門も結
果だけ報告しておくと、まずミニシリーズ、スペシャル番組
におけるVFX賞は“Walking with Monsters”。シリーズ
番組におけるVFX賞は“Rome-Episode 1”。VFX主導で
ない番組におけるVFX賞は“Lost-Exodus Part 2”。また
実写番組(CF、ミュージックヴィデオを含む)におけるア
ニメーションキャラクター賞は“Battlestar Galactica”の
サイロン・センチュリオン。背景賞は“Into the West”。
ミニチュア賞は“Las Vegas”。合成賞は“Empire”となっ
ている。
 さらに個人に贈られる芸術貢献賞としてのジョルジュ・メ
リエス賞を、ピクサーの創始者のジョン・ラセターが受賞し
たことも報告されていた。
 因に、往年の話題シリーズをリメイクした“Battlestar
Galactica”は、受賞対象は第2シーズンのものだったが、
第1シーズンのエピソードも同時にノミネートされるなど、
頑張っているようだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは前回、次回作として“Maps to the Stars”という
作品の計画を紹介したデイヴィッド・クローネンバーグ監督
から、さらにもう1本の計画が発表された。
 今回発表された作品は、“Eastern Promises”という題名
で、2002年にスティーヴン・フリアーズ監督で映画化された
『堕天使のパスポート』(Dirty Pretty Things)などの脚
本家スティーヴ・ナイトの新作を映画化するもの。物語は、
脚本家の前作と同じくイギリスの首都ロンドンで社会の底辺
で暮らす人々を描いており、本作では若い助産婦の女性が、
クリスマスイヴの日に出産で死亡したロシア人女性の身元を
辿る内に、国際的な売春組織の抗争に巻き込まれて行くとい
う内容のようだ。
 題名の「東方の約束」というのは、何だか宗教的なイメー
ジも湧きそうで、しかもクリスマスイヴに関わる物語という
ことでは一層その思いが高まるところだが、監督がクローネ
ンバーグということでは、これも一筋縄では行きそうにない
感じのものだ。
 そしてこの脚本の映画化は、元々はBBCの映画製作部門
で進められていたものだが、BBCが海外配給権をユンヴァ
ーサル傘下のフォーカスと契約したことから、クローネンバ
ーグの起用につながったようだ。また製作には、リメイク版
の『プライドと偏見』などを手掛けるポール・ウェブスター
が当ることになっている。
 撮影は今年の秋にロンドンで行う予定とのことだが、現状
では前回紹介した作品とどちらが先になるかは未定。ただし
撮影が開始されると、クローネンバーグ監督の同地での撮影
は、2002年公開の『スパイダー』以来のことになるものだ。
因に製作費は、1500−2000万ドルが予定されている。
 なお、今回の作品に関しては、クローネンバーグがナイト
と共に、撮影台本の執筆に着手したという情報もあるようだ
が、前回報告した“Maps to the Stars”では、クローネン
バーグはワグナーの脚本を信頼して「自分は年の功を加える
だけ」としていたもので、この情報だけでロンドンでの撮影
が先行するとは言えないようだ。
        *         *
 『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』が好調なジェー
ムズ・マンゴールド監督と、彼の妻で製作者のキャシー・コ
ンラッドが、監督の次回作として1957年コロンビア映画製作
の西部劇『決断の3時10分』(3:10 to Yuma)のリメイクを
手掛けることが発表された。
 オリジナルはデルマー・デイヴィス監督、グレン・フォー
ド、ヴァン・ヘフリン共演によるもので、ヘフリン扮する金
の必要な農夫が、フォード扮する護送されるならず者を列車
が到着するまでの間だけ見張ることになるが、ならず者はい
ろいろな手立てで農夫を懐柔しようとし…というサスペンス
に満ちた物語。後に犯罪小説のベストセラー作家になるエル
モア・レナードが映画会社に所属していた時に執筆した短編
小説を映画化したもので、1950年代の西部劇の最高作の1本
とも呼ばれているものだ。
 そして今回のリメイク計画では、最初に『ワイルド・スピ
ード×2』などのマイクル・ブラントとデレク・ハースが書
き上げた脚本を、『コラテラル』のスチュアート・ビーティ
がリライトし、このリライト脚本にマンゴールドが乗ったも
の。因にマンゴールド監督は、「善人と悪人をテーマにした
作品はいろいろあるが、この作品にはオリジナルな手触りが
ある。また最近の西部劇は精神的に描くものが多いが、この
作品では映画史上最高と成り得るガンファイトを含めて全て
の要素が描かれる」と語っているそうだ。
 報道では製作時期は明確ではなかったが、監督の次回作で
あることは確かなようだ。また、マンゴールドとコンラッド
は、この他にも3本の計画を各社で進めていて、それぞれの
状況も紹介されていた。
 その1本目は、2003年12月15日付の第53回で一度紹介して
いるが、1995年にイギリスで製作された“Mute Witness”の
リメイクをスパイグラスと共同で進めているもの。内容は、
モスクワで撮影されるホラー映画に参加した口の利けないメ
イクアップアーチストが殺人現場を目撃し、そこから始まる
恐怖を描いているということだ。そしてこの計画は、以前の
紹介ではソニーで進められていたが、その後同社は降板して
現在はユニヴァーサルが権利を引き継いでいるそうだ。
 2本目は“The Rich Part of Life”という作品で、妻に
先立たれたシカゴの大学教授が、1億9000万ドルのロトくじ
に当ったことから始まる家族の出来事を描いた作品。ジム・
ココリス原作の長編小説の映画化で、計画はフォックス2000
で進められている。
 そして3本目は“Follow Me”という作品で、自分の写真
を撮ってもらうために写真家を雇った女性を巡るスリラー。
なおこの計画は、最初にディメンションで立上げられ、次に
ディズニーが権利を保有したが、現在はパラマウントで進め
られているということだ。
 さらにマンゴールドとコンラッドは、コンラッドが10年以
上温めてきた“Men in Trees”と題されたアラスカがテーマ
のテレビシリーズの計画も、アン・ヘッシュの主演を得てワ
ーナーの製作で進めているということで、まったく大忙しの
夫妻というところのようだ。
        *         *
 お次は、昨年は『キャプテン・ウルフ』でコメディにも挑
戦した俳優ヴィン・ディーゼルが、ゲームメーカーのミッド
ウェイ社で開発中の新世代ゲーム“The Wheelman”の映画版
に、製作、主演の2役で参加することが発表された。
 この計画は、ミッドウェイとパラマウント/MTVが先に
締結したゲームの映画化に関する契約に基づくもので、さら
にディーゼルは、主演作『リディック』のゲーム化をミッド
ウェイで行ったことから3者が顔を揃えた。そしてミッドウ
ェイ側は、ディーゼルのゲームに対する取り組みの姿勢から
彼に新作への協力を求めることで思惑が一致したようだ。
 映画版の物語は、特別な品物の運び屋だった男が稼業から
足を洗ったものの、恋人の女性を過去のしがらみから護らな
ければならなくなる、というアクションアドベンチャー。こ
れに対してゲームでは、主人公の運び屋稼業を描いている。
つまり映画のストーリーはその後日談となるものだが、相互
に関連した出来事も描かれるということだ。
 そして、この映画版の脚本は『XXX』のリッチ・ウィル
クスが担当して、2カ月以内の完成が期待されているという
ことだ。というのも、ゲームは新世代ゲーム機のXbox 360と
PS3用に開発されているものだが、ゲームの発売が2007年
後半に予定されており、できればそれと同時期に映画の公開
も期待されているものだ。ただしゲームの開発は、往々にし
て遅れるもので、その場合は映画単独での公開も行うとして
いる。因にゲームの開発には1500万ドルが費やされ、これは
ゲームの開発費としては最高額に近いものだそうだ。
 なお、ミッドウェイとパラマウント/MTVは、資本系列
が近いということで上記の契約も締結されたようだが、この
他にも、すでに“L.A.Rush”という作品が今年後半にゲーム
と映画の同時公開で予定されている。また、ミッドウェイ社
の“The Suffering”と“Area 51”というゲームの映画版の
計画も進行中で、さらにジョン・シングルトン監督が進めて
いる“Fear and Respect”という作品も映画とゲームの同時
進行が計画されているが、こちらは開発の遅れで公開時期は
未定だということだ。
 前回は、映画スターとコミックスの関係を紹介したが、今
度はゲームということで、業種を超えた協力がいろいろな方
面で現れてきているようだ。
 なお、ディーゼルの映画の新作では、シドニー・ルメット
監督による“Find Me Guilty”の全米公開が3月17日に予定
されている。
        *         *
 2003年に“The Texas Chainsaw Massacre”(悪魔のいけ
にえ)のリメイクを成功させたマイクル・ベイ主宰のプラテ
ィナム・デューンズとニューラインでは、同じくスプラッタ
ーホラーの人気シリーズ“Friday the 13th”(13日の金曜
日)の第11作を製作することを発表した。
 オリジナルのシリーズは1980年にスタートしたものだが、
第1作だけで4000万ドルの興行を記録。しかし以後の作品は
これを超えることはできなかったものだ。ところが2003年に
公開された『フレディvsジェイソン』が、客演作品ではある
が8200万ドルを稼いだとして新作の気運が生まれたもので、
新作のタイトルは未定だが、脚本は、オリヴァー・ストーン
監督の次回作“Son of the Morning Star”などにも参加し
ているマーク・ウィートンが担当し、オリジナルの4作目ま
でのジェイソン・ボアヒーズのキャラクターに基づいて作ら
れるということだ。
 また監督には、リメイク版の前日譚となる“The Texas
Chainsaw Massacre: The Beginning”を担当したジョナサン
・リーブスマンが抜擢されて、公開は今年の10月13日金曜日
が予定されている。この監督には、一時はクェンティン・タ
ランティーノが参加するという誤報も登場して糠喜びもさせ
てくれたものだが、今回は正真正銘本物のようだ。
 因に、オリジナルシリーズは、1984年に公開された第4作
に“The Final Chapter”の副題が付けられて一旦終了とな
ったものだ。ところがその翌年には、“A New Beginning”
の副題で堂々と復活。その後は、ジェイソンがマンハッタン
に現れるなど、かなり思い切った展開にされたものだが、そ
れも1993年公開の第9作“Jason Gose to Hell: The Final
Friday”で完結していた。
 さらに2002年には第10作として“Jason X”が製作されて
いるが、この作品は2455年の未来が舞台になるなど、かなり
傍系的な作品で、2003年の客演作品と併せて別立てにしても
いいと思えるものだ。ということで、今回4作目までの設定
に基づくということは、基本のスプラッターに戻すというこ
とのようにも取れるが、さてシンプル・イズ・ベストだった
オリジナルの味が現代に通用するものかどうか。興味津々と
いうところだ。
 なお、プラティナム・デューンズは、『アイランド』など
のマイクル・ベイ監督が、自ら監督する大作映画とは別に、
低予算のホラー映画を専門に製作する目的で2001年に設立し
たプロダクションだが、当初はオリジナルの作品も製作して
いたものの、最近ではリメイクばかりが目立つようになって
しまっているようだ。別段リメイクが悪いとは言わないが、
たまにはオリジナルな企画の情報も期待したいものだ。
        *         *
 『ナルニア国物語』の日本公開も始まったところだが、こ
の映画を製作したウォルデン・メディアから、さらに『ナル
ニア』スケールのファンタシーの計画が発表されている。
 この計画は、イギリスの作家ディック・キング=スミスの
“The Water Horse”という児童向けのファンタシーを映画
化するもので、スコットランドを舞台に、孤独な少年が見つ
けた不思議な卵から、伝説の海の怪獣が誕生して…という物
語。これで『ナルニア』スケールというのは一体何が起きる
のかという感じだが、監督のジェイ・ラッセルは、5年以上
も前からこの原作の映画化を計画していたようだ。しかし今
までは映画化を可能にする技術がなかったということだ。
 その技術が、『ナルニア』によってようやく完成したとい
うことで、ウォルデンでは、『ナルニア』を手掛けたウェタ
・ディジタルにVFXを依頼して、実写とCGIの合成にな
るこの作品の完成を目指すことにしている。
 脚色はロバート・ネルスン・ジェイコブスが担当し、5月
にニュージーランドでの撮影開始が期待されている。なお製
作は、ウォルデンとビーコン、それにリヴォルーションの3
社共同で、配給はソニーになる可能性が高いようだ。
        *         *
 続いてはまたまたCGアニメーション話題をいくつか紹介
しよう。
 まずは、1920年代のニューヨークを舞台に、ゴキブリとハ
ムスターが、離れ離れになったゴキブリの一家を探してさ迷
うという物語を、3Dアニメーションで描く計画が発表され
ている。
 この作品は“A Hard Life”と題されているもので、題名
からはピクサー製作の『バグズ・ライフ』を連想させるが、
製作者の発言によると「ピクサー作品との最大の相違点は、
動物を擬人化しないこと」だそうだ。つまりこの作品では、
リアルなゴキブリとハムスターがスクリーンを駆け回ること
になるようで、ハムスターはともかく、ゴキブリに対する観
客の反応はどうなのだろうか。
 因に、製作はベルリンに本拠を置くプロダクションが行う
ものだが、製作者及び監督はそれぞれルーマニア出身の人た
ちのようだ。そして製作者は、「我々の最初のアイデアは、
100%リアルなゴキブリを作ることだったが、余りに気持ち
悪くなるのでそれはやめた」ということだ。まあ現代のCG
Iの技術なら相当リアルなものも作れそうだが、今回それを
止めたというのは賢明というところだろう。
 製作費は2500万ドルが予定され、5月のカンヌ映画祭まで
に予告編を完成して、映画祭のマーケットで製作資金調達の
ためのセールスを行う計画だが、すでに声優との交渉は始め
られているようだ。また音楽には、20年代のジャズと東欧か
らの移民たちのジプシー音楽を使用するとしており、この音
楽のセンスには、ルーマニア出身の監督の才能が発揮されそ
うだ。
        *         *
 お次は、6年ぶりの新作『アンジェラ』がもうすぐ公開さ
れるフランスのリュック・ベッソン監督が、続いてはCGア
ニメーションに進出し、5月のカンヌ映画祭でのプレミア上
映に向けて仕上げの段階に入っていることが報告された。
 “Arthur and the Minimoys”という題名のこの作品は、
ベッソンの自作の児童書を映画化するもので、10歳の少年の
主人公が、祖父の家の取り壊しを阻止するために、自然と共
に暮らす小人たちの世界で、隠された宝物を探すという冒険
物語。そしてこの少年の声を、『チャーリーとチョコレート
工場』のフレディ・ハイモアが担当し、他に歌手のマドンナ
が王女セレニア、デイヴィッド・ボウイがマルタザードとい
う役で声の出演をしているということだ。
 なお、報道ではアニメーションの製作会社名は紹介されて
いなかったが、特殊効果はBUFという会社が担当している
ということだ。また、フランス製のCGアニメーションは、
確か昨年1本見ているはずだが、従来のセルアニメーション
より監督の意図などは容易に反映されそうで、題材によって
は今後もいろいろな監督が進出してくることになりそうだ。
        *         *
 CGアニメーションの話題の最後は、2月1日付第104回
で“Hoodwinked!”の続編の情報を紹介したTWCから、同
作の脚本家のトニー・リーチとコーリー・エドワーズによる
別の作品も進めることが発表されている。
 この作品は“Escape from Planet Earth”という題名で、
アメリカ政府がエイリアンを隠していると言われるエリア51
を舞台に、ここに捕えられたゲイリーという名のエイリアン
が、宇宙中から集められたエイリアン達のグループと共に、
地球を脱出するまでを描くというもの。パロディの要素があ
るかどうかは不明だが、全体はファミリーコメディのように
なっているということだ。
 なお、TWCではこの他にも、エクソダス・フィルム・グ
ループ製作による“Igor”という作品と、さらに“Doogal”
というCGアニメーションも公開するなど、ワインスタイン
兄弟がディズニーから独立して半年、一気に牙城へ攻め込む
勢いのようだ。
        *         *
 最後に続報で、昨年12月1日付第100回でも紹介したフィ
リップ・K・ディック原作の“Next”に、さらにジェシカ・
ビールの出演が発表されている。一方、リー・タマホリ監督
が変な罪で逮捕されたりして多少流動的な面はあるが、全体
としては撮影の準備が整ってきたようだ。
 ただし最近の情報によると、映画のストーリーは国際的な
テロ組織とFBIの闘いが背景にあるということで、以前に
原作を紹介したときの核戦争後の世界という設定とは多少違
っている。まあ、ディックの原作の映画化は、いつも何かし
ら変更や付け加えが起きるものだが、超能力者と一般の人間
の関わりという物語の本質が変わらなければいいとはいうも
のの、この設定の変更は多少気になるところだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二