井口健二のOn the Production
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2006年02月13日(月) SPL、プリティ・ヘレン、ヒストリー・オブ・バイオレンス、沈黙の脱獄、シムソンズ、トム・ヤム・クン!、スカイ・ハイ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『SPL狼よ静かに死ね』“SPL殺破狼”
『ブレイド2』などのハリウッド映画や、『セブンソード』
などの大型中国映画でも活躍するドニー・イェンと、ブルー
ス・リー時代からの大ベテラン=サモ・ハン共演の格闘技ア
クション作品。
殺破狼(シャ・ポー・ラン=SPL)とは、中国占星術で反
乱を司る七殺・破軍・貧狼の3星を示す。それらはそれぞれ
悪の象徴であるが、その組み合わせによっては人を豊かにす
ることもできるという。この映画はそんな宿命を背負った3
人の男の物語だ。
主演の1人サモ・ハンが演じるのは、極悪非道な裏社会の帝
王ポー。しかしついに、ポーを終身刑にできる証人が現れ、
ポーは収監されて裁判を待つ身となるが、その証人を乗せた
警護車が襲われ、証人の居ない裁判ではポーは無罪放免とな
る。
それから数年後、警察ではチャン刑事(『トゥームレイダー
2』などのサイモン・ヤム)をリーダーとするチームがポー
をマークし続けているが、ポーの権勢は変らないまま。しか
もチャン刑事には、脳腫瘍で余命1年との診断が下される。
そこでチームは、格闘技の達人で容疑者を廃人にしてしまっ
た過去を持つマー刑事(イェン)を迎えることになる。しか
しチームとの融和は難しい。そしてチャン刑事の退職の前日
チームにポーの殺人を立証する新たな証拠が提供されるが…
画面外から衝突の音響が響き、カメラが移動すると大破した
自動車が画面に入ってくるなど、映画の前半は音響を利用し
た演出で観客を引きつける。特にイェンが参加してからの最
初のサモ・ハン登場シーンでの音響による導入演出は見事だ
った。
観客は、当然イェン対サモ・ハンの新旧格闘技対決を期待し
てくる訳だが、そう簡単に安売りはしない。勿論そこまでを
引っ張るアクションシーンはいろいろ提供されるが、それに
緩急をつけるかのような音響の演出は、特に効果的に使われ
ていた。
そして、最後の対決へと雪崩れ込む展開だが、その前哨戦に
は4度の中国武術チャンピオンに輝くという新時代のアクシ
ョンスター=ウー・ジンとイェンとの激烈な対決が描かれる
など、特に後半のアクションの強烈さは、さすが香港映画と
いう作品だった。
監督は、『トランサー・霊幻警察』などのウィルソン・イッ
プ。また、原題タイトルの筆文字をアンディ・ラウが手掛け
ている。

『プリティ・ヘレン』“Raising Helen”
1990年にジュリア・ロバーツを一躍トップスターにした『プ
リティ・ウーマン』(Pretty Woman)のゲイリー・マーシャ
ル監督による2004年作品。
マーシャル監督+タッチストーン作品では、『プリティ』の
冠がつけられる。原題を見れば判る通り別段シリーズという
訳ではないが、いわゆるラヴ・コメとはちょっと違って、男
女の恋愛よりも女性自身の生き方を主題にしているという共
通点があり、その意味ではブランドの意味はありそうだ。
そして今回の主人公は、モデル業界で社長の右腕と目される
敏腕エージェント=ヘレン。ファッション雑誌の表紙を飾る
トップモデルを次々に誕生させ、その選出眼や売り込みの上
手さは超一流だ。そしてその生活も、マンハッタンに住み独
身を謳歌していた。
ところが、主人公を3女とする3人姉妹の長女夫妻が事故で
亡くなり、3人の子供が残される。しかも母親の遺書には、
子供の親権を結婚して子育ての経験もある2女ではなく、主
人公に委ねると書かれていた。
これには主人公も2女も猛反発だったが、2人は姉の残した
手紙を手渡され、なぜか納得してしまう。そして突然3人の
子持ちとなった主人公は、最初は大張り切りだったが、子供
にかまけてトラブルを頻発させ、ついに職場を馘になってし
まう。
しかも思春期を迎えた子供たちの長女は非行に走り…そんな
どん底から、主人公が自らの生きる道を見出し、立ち直って
行く姿を描いた作品だ。
まあ元々がモデルエージェントとか、一般庶民とはちょっと
違うところで始まる作品で、しかもその後の展開も都合よく
行き過ぎるが、最初から夢物語と言われればそんなものだろ
う。とは言え、こんな夢物語には男の僕でも羨望を持つし、
それがこの映画の目的でもあるところだ。
主演のケイト・ハドソンは、女優ゴーディ・ホーンの娘。彼
女には『あの頃ペニー・レインと』から注目しているが、少
し大人になった本作では、最後に笑顔になる瞬間がお母さん
にそっくりなのも懐かしく感じられた。
共演は、『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』のジョ
ン・コーベットと、『スクール・オブ・ロック』のジョーン
・キューザック。さらにディームの称号を持つヘレン・ミレ
ン。それに子供の長女役を、『レーシング・ストライプス』
のヘイデン・パネッティーアが演じている。

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
               “A History of Violence”
『ロード・トゥ・パーディション』などのパラドックス社発
行のグラフィック・ノヴェルを、『スキャナーズ』のデイヴ
ィッド・クローネンバーグ監督で映画化した作品。
片田舎に暮らして20年、弁護士の妻と2人の子供にも恵まれ
た主人公。ところが、彼の経営する食堂に2人組の強盗が押
し入ったときから生活が狂い始める。
主人公からはカウンターを挟んで銃を構える1人目の男と、
その後ろで女性に銃を突きつける2人目。その2人を一瞬の
うちに倒した主人公は、一躍地元の英雄として全国ニュース
にもなるのだが…
仕事に復帰して、主人公の人気で大繁盛となった食堂に、怪
しげな風体の男たちが現れ、主人公には普段とは異なる名前
で話しかける。そして最初は取り合わなかった主人公に、男
たちは暴力的な脅しを掛けるようになってくる。
長く平和だった男の人生が、そして家庭が崩壊して行く。
クローネンバーグ監督は、今まで家族というものを描いたこ
とがないのだそうだ。しかし本作では、この異様な事態に巻
き込まれる家族を描いた脚本に共鳴したという。その脚本は
アカデミー賞の脚色部門にもノミネートされたものだ。
しかし映画は、導入部から強烈なヴァイオレンスに彩られ、
これが普通の家族の映画ではないことを鮮明にしている。と
ころが描かれているのは本当に普通だった家族、その辺りの
ギャップの捉え方が、クローネンバーグの視点に完全に活か
されている。
という家族を描いた作品ではあるが、映画は題名通りヴァイ
オレンスで綴られたものだ。特に秒殺、瞬殺とでも言えそう
なアクションの見事さは、最近のアクション映画を見慣れた
目にも衝撃的なものだった。
最近の映画のアクションというと格闘技系のものが多いし、
肉弾相打つ格闘技の面白さは実に映画的なものだと思うが、
本作の中心はガンプレイ。しかも、正に一瞬で終る銃による
射殺を、ここまで見事にアクションに仕立てた演出は見事な
ものだ。
銃社会とまで言われるアメリカでしか描けない、そんな現実
が見事に反映された作品とも言えそうだ。
主演は、ヴィゴ・モーテンセンとマリア・ベロ。エド・ハリ
スとウィリアム・ハートの共演で、ハートはオスカー候補に
もなっている。

『沈黙の脱獄』“Today You Die”
題名で説明するまでもなくスティーヴン・セバール主演のア
クション作品。ついこの間も紹介したばかりだが、よくもま
あ作り続けられるものだと感心もするところだ。
お話は、裏の社会を相手に義賊的な仕事を続けてきた主人公
が、恋人のために危険な稼業から足を洗うことを決意し、警
備会社に現金輸送の運転手として就職する。ところが最初の
勤務で輸送車が襲われ、現金は紛失。主人公は強盗犯として
逮捕収監されてしまう。
こうして荒野のど真中の刑務所に入れられた主人公は、自分
を填めた奴を見つけ出し、自らの無実を証明するために、刑
務所を脱獄することに…これに警察内の汚職や、いろいろな
要素が絡まって物語が展開する。
と言っても、まあセガールアクションだし、それほど深い話
がある訳でもなく、気楽に楽しめばいい作品だろう。紛失し
た2000万ドルの行方など、多少辻褄の合わないところもある
が、そんなこともアクションが決まれば問題はない。
脱獄アクションというと、ちょっと前にジャン=クロード・
ヴァンダム主演でも1本あったように思うが、アクション俳
優としてはやっておきたい題材なのだろうか。といっても本
作では多少あっけない作戦ではあるが。
僕自身は、どちらかというと前作の『沈黙の追撃』の方が好
きだが、物語としては本作の方が現実味はある。元々セガー
ルは現実の武術家である訳だから、物語は現実に近い方が似
合っているし、その意味では本作の方を好む人も多いかも知
れない。
ただ本作でも、主人公の恋人に予知能力を想像させる部分が
あるなど、そういう要素を入れてくるのは、果たしてセガー
ルの好みなのだろうか。そうだとするなら、僕としてはそう
いう面をもう少し深めた作品も見てみたいものだ。
それと、セガールアクションは、最後は格闘技で決めて欲し
い。マンネリになるのを嫌ったのかも知れないが、銃撃戦や
爆破シーンは途中に挟み込まれるのは構わないが、最後はや
はり…。前作でもあったような真剣勝負のシーンが最後に欲
しかった気がした。

『シムソンズ』
2002年のソルトレーク冬季オリンピックに日本代表として出
場した女子カーリングチーム「シムソンズ」をモデルにした
ガールズムーヴィ。
舞台は北海道・登呂町。その町の高校2年生和子のカーリン
グ経験は授業でやった程度にもの。ところがある日、憧れの
君である町出身のカーリング選手の凱旋大会を見に行き、そ
こで思いがけずもその本人からカーリングチームを作ること
を勧められてしまう。
これに有頂天になった和子は、言われるままに友達2人を誘
ってチームを結成。そこに、経験者の4人目の選手と本業は
漁師のコーチが現れて練習が開始される。しかし初参加の大
会は0封コールド負けと惨敗。そして仲間割れが始まって…
とまあ、スポーツものの定番を絵に書いたような物語が展開
する作品だ。勿論これはモデルの「シムソンズ」の実話では
なくフィクションで、どうせフィクションならもう少しは捻
って欲しいとも思うものだが…正直なところは今回はそれが
あまり気にならなかった。
と言うのも僕は、カーリングという競技の名前は知っていた
がルールもよく判らず、実体はほとんど知らなかった。これ
は日本人の多くが同じだと思うものだが、その日本人に対し
てこの作品では、実にうまくルールから見所までを解説して
くれるものだ。
実際に、今年のトリノ冬季オリンピックにも日本代表は参加
しているようだが、ルールを知らなくては応援のしようもな
いと思っていた。それがこの映画のお陰で判るようになって
しまったという訳だ。
これで実際に応援するかどうかは別としても、聞きかじりの
ルールで変に思っていたところも納得できたし、氷上のチェ
スと言われるほど緻密な競技であることもよく理解できた。
そういう知識が増えるだけでもうれしいと思うところだ。
製作総指揮は、格闘技の「PRIDE」などを運営している
榊原信行。実はこの人の映画製作は2作目だが、僕は前作を
あまり気に入らずホームページでも紹介しなかった。しかし
今回は啓蒙という意味で理解もしたし、その意味では気に入
った作品と言えるものだ。
脚本と監督はそれぞれテレビ出身者で、それなりにそつなく
作っている。また主演の加藤ローサは、今までテレビのヴァ
ラエティ番組でしか見たことがなかったが、思いのほか良い
と言うか、このままコメディエンヌとして育って欲しいとい
う感じも持った。
公開は2月18日で、オリンピック絡みではちょうど良いタイ
ミングの作品と言えそうだ。

『トム・ヤム・クン!』(タイ映画)
『マッハ!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督、トニー・
ジャー主演、アクション監督パンナー・リットグライによる
新作。前作が世界各地で公開され、収入を挙げた彼らが、海
外(シドニー)ロケまで敢行した大型作品。
前作の主人公は、盗まれた村の守り神を探してバンコクの町
をさ迷ったが、今回は、幼い頃から一緒に育った象の親子を
探してシドニーの町をさ迷う。物語の展開は、同じと言えば
その通りだが、アクションは格段にスケールアップしている
し、新たな見所は満載だ。
数100年に亙って国王に献上する象を育ててきたタイ東部の
村。そこには、象と共に国王を護って闘うムエタイ兵士チャ
トウラバートの末裔が暮らしていた。
その村で象と共に育ってきたカーム(ジャー)は、ある日、
父親と共に王に献上する象を選ぶと称する品評会に親子の像
を連れて行くが…それは象の密売組織が仕組んだもので、父
親がそれに気づきカームが後を追ったものの、育てた象の親
子は行方不明になってしまう。
しかし、密売組織のルートがオーストラリアに向かっている
ことを察知したカームは、単身シドニーに乗り込み、そこで
「トム・ヤム・クン」という店名のタイ料理店が、その根城
であることを突き止めるが…
これに、在シドニーの中国マフィアの内部抗争やそれに蔓む
汚職刑事などのストーリーが絡むが、まあ正直に言ってそん
なストーリーはどうでも良く、見所は何と言ってもジャーの
格闘技アクションの見事さだ。
登場するのは、インラインスケーターやモトクロスライダー
らを相手にしたものや、カポエラからカンフーまでの各種格
闘技、さらに身長212cmの巨漢との対決など。そしてその白
眉は、4階建てのセットで進む4分間のノーカット長回しに
よる大アクションだ。
セットの建設に1カ月、リハーサルに1週間を掛けたと言う
このシーンでは、4階建てを駆け上がるだけでも大変だと思
われるところを、次々に襲いかかる敵や投げ込まれる家具な
どを打ち破りながら突進で、これ自体が映画史に残ると言っ
ても過言ではない。
前作の時には試写会でジャーの生の演武を見せられて、トリ
ックのないことを信じなくてはいけないと思わされたが、今
回はこの大アクションを見れば、全てが信じられるようにな
ると言えるもの。それにしても途轍もないアクションスター
が誕生したものだ。
共演は、前作にも登場したタイの人気コメディアンのペット
ターイ・ウォンカムラオ。彼の演技は、昨年東京国際映画祭
で上映された『ミッドナイト、マイ・ラブ』でも気に入った
ところだが、今回も人情味あふれる役柄は良い感じだった。

『スカイ・ハイ』“Sky High”
これぞディズニー、と言いたくなるようなファミリー向け特
撮アクション映画。
ディズニーと言えばアニメーションの老舗だが、第2次大戦
後の1950年にイギリスでの凍結資産消化のために製作された
という『宝島』を初め、最近にリメイクされた『フラバー』
『ラブバッグ』や、『ボクはむく犬』など特撮を活かした実
写作品にも伝統がある。
これらの作品は、最近のジェリー・ブラッカイマー製作によ
る超大作とは違うけれど、それぞれの時代の要素を敏感に取
り入れながらも子供に夢を与える、そんな楽しさに溢れたも
のだ。全米では昨年夏公開の本作は、その伝統を引き継ぐ最
新作と言える。
物語の舞台は、反重力装置で大空に浮かぶ所在地秘密の高校
スカイ・ハイ。そこには世界を守るスーパーヒーロー(ヒロ
イン)となるべき超能力を持つ子供たちが集められて、日々
スーパーヒーロー養成のための教育が行われていた。
しかしスーパーヒーローの卵といっても、そこは若者たちの
こと、学園生活は普通の高校と同じで、特に、入学直後の能
力判定で選別されるヒーロー組とサイドキック(脇役)組の
間では、ヒーロー組からサイドキック組に対する陰湿ないじ
めも横行していた。
そして主人公は、世界最高のスーパーコンビ、ザ・コマンダ
ーとジェットストリーム夫妻の間に生まれた一人息子だった
が、当然偉大な力があるものと期待された彼の超能力は、未
だに発揮されないでいた(これはよくあることらしい)。
このため彼はサイドキック組とされるが、そこには身体の液
化や小動物への変身、さらにただ身体が光るだけといった地
味な能力の持ち主たちが集まっていた。そして…
両親がスーパーヒーローのため最初は一目置かれていたり、
普通の家庭の出身でちょっと鼻っ柱の強い仲間の女子がいた
り、クラス別けや食堂でのいじめなど、まあ見事に『ハリー
・ポッター』を下敷きにしている。
でもパクリと言うには、そこからの展開はオリジナリティに
溢れているし、パロディとはまた違った面白さを追求してい
る作品だ。実際、次の『ハリー・ポッター』が待ち切れない
人には、その穴埋めになりそうな感じもする。
もちろんスーパーヒーローものということで、アメコミ映画
などのパロディも満載だが、ここでも自社の『Mr.インクレ
ディブル』を中心にしている辺りは、おふざけも抑制が利い
ているという感じで気持ちが良かった。
主演は、『ロード・オブ・ドッグタウン』などのマイクル・
アンガラノ。
また、ザ・コマンダー役をディズニー子役育ちのカート・ラ
ッセルが演じる他、意地悪な体育教師を『死霊のはらわた』
のブルース・キャンベル、校長を『ワンダー・ウーマン』の
リンダ・カーターという配役も、ファンにはニヤリという感
じだった。


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井口健二