井口健二のOn the Production
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2006年01月31日(火) ウォ・アイ・ニー、送還日記

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ウォ・アイ・ニー』“我愛你”
愛し合って結婚したはずの男女が、結婚によって微妙なすれ
違いが生じるようになる姿を描いたドラマ。
堕胎の手術も行える看護士の女性と企業に勤める男性が、お
互いに理想の相手であることを確かめ合って結婚して新生活
を始めるが、間も無く2人は心の隙間を感じ始め、お互いの
言葉もすれ違いを生じるようになり、喧嘩が絶えなくなって
しまう。
自分も結婚してン10年になるが、所詮は育った環境も違う男
女が一緒に暮らすのだから、考え方の違いもあるし、いさか
いが生じないことの方がおかしいと言うものだろう。ただ時
が経ればそれは乗り越えられるものだし、それが家庭と言う
ものだ。
しかし若いうちはそうも言っていられないし、実際この物語
の主人公の場合では、男性は勤め先でも周囲との折り合いが
取れていないのだから、これはもう破綻して行くしかないの
かもしれない。
一方、本作の場合は最初に事件があり、主人公の女性にとっ
てこの男性が、本当に理想の相手であったかどうかにも問題
があるのだが、その辺の経緯は、劇中の迫真の夫婦喧嘩の描
写に圧倒されて、どこかで消えてしまったようにも感じる。
結局この女性の立場が明確でないことから、夫婦の愛憎とい
うテーマが際立ってしまっており、監督がこの映画で本当に
言いたかったことがそれで良いのかどうかも、ちょっと心配
になるのだが、夫婦の愛憎と言うことではかなり見事に描か
れている。
まあ、自分にも身に詰まされるところは多々ある作品で、そ
れを乗り越えられるかどうかが夫婦を続けられるかどうかの
瀬戸際となるものだが、その点でこの映画は見事に描かれて
いるし、反面教師として若い夫婦の参考になるところも多い
ようにも感じられた。
なお、原題は“I love you”の意味だったと思うが、映画
のタイトルに出る現代中国語の文字では「愛」の中の「心」
が省かれているのは面白いところだ。

『送還日記』“送還”
韓国で逮捕収監され、30年以上の長期間の服役の後、非転向
のまま釈放、太陽政策により送還された北朝鮮スパイの姿を
12年間に渡って記録した韓国製ドキュメンタリー。
韓国と北朝鮮の緊張状態の中で、北は数多くのスパイを南に
送り込み、そのスパイは逮捕されると共産主義から南の思想
に転向することを強いられた。そしてそれにより転向する者
もゼロではなかったが、しかし数多くの北のスパイがそれを
拒み続けた。
その転向工作は、韓国政府は否定し続けるが拷問的なもので
あったことは明らかであり、また、戦時捕虜は速やかに送還
するとのジュネーブ条約にも関わらず、45年間の長期収監囚
(ギネス認定)が存在したことも事実のようだ。
そんな転向を拒否し続けた信念のスパイたちの姿を描いた作
品。と言っても、彼らも人の子であり、直接付き合えばユー
モアも解し、周囲の人々には暖かく接する。ところが、時に
北の将軍様を称える歌を歌い、一旦議論になると共産主義の
優位を唱え始める。
監督のキム・ドンウォンは思想的には左寄りの人のようで、
実際に本作の製作中に当局の取り締まりを受けるシーンも登
場するが、その監督もこのスパイたちの信念には戸惑いを見
せる。その姿は、確かに尋常なものではない。
しかも、その信念を作り上げたのが、結局のところは北の教
育のお陰と言うよりも、南に来てからの厳しい取り調べの結
果に見えてしまうところが、第三者として見ている我々には
可笑しく思えるところだ。
そしてそのスパイたちが北に送還されたときの北朝鮮の熱烈
歓迎ぶりは、当然予想されるものではあったが、北の政府の
異様性も見事に描き出している。またそれに満足し切ってい
るスパイたちの姿も、人間とは所詮そんなものだという感じ
がしたものだ。
しかしその一方で、南出身でありながら北のスパイとなり、
家族から拒絶されて北に行かざるを得ない人や、転向したた
めに北に帰ることのできない人の問題も描かれており、分断
国家の悲劇が全く終っていないことも明らかにされる。
韓国映画を見るといつも感じてしまうことだが、隣国であり
ながらその実体を全く知らされていない国。この映画もそん
な隣国の姿を垣間見せてくれた。


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井口健二