井口健二のOn the Production
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2005年09月30日(金) イエスタデイ・ワンスモア、ミリオンズ、コープスブライド、ビッグ・スィンドル、旅するジーンズと・・・、ビタースイート、探偵事務所5

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『イエスタデイ、ワンスモア』“龍鳳鬥”        
『ベルベット・レイン』に続くアンディ・ラウ主演作品。ま
た本作は、相手役のサミー・チェン、監督のジョニー・トー
と共に、ゴールデントリオと呼ばれる3人による3部作の最
終編(物語は独立)だそうで、ゴージャスな雰囲気の中で描
かれるちょっと切ないロマンティックサスペンスだ。   
主人公は、人も羨む富豪夫妻。しかしある日、夫が一方的に
離婚を宣言し姿をくらましてしまう。実はこの2人、本業は
高級品専門の泥棒というか詐欺師で、それまでは2人の協力
で順調に仕事をしてきたのだったが…          
そして2年後、元妻は資産家の息子からプロポーズを受けて
いたが、その誠意の証として彼の母親が所有する宝飾品のネ
ックレスを要求する。ところがそのネックレスが銀行の貸金
庫から取り出されたとき、突然現れた窃盗団がそれを強奪し
てしまう。                      
その様子をビルの上から監視していた元妻は、その手口が元
夫のものであると見抜き、彼の後を追い始める。そして映画
は、この2人の姿を香港各所の高級店や高級車、さらにイタ
リアロケまで織り込んで、ゴージャスにそして華麗に描いて
行く。                       
香港のセレブになった気持ちで、これらの高級店や高級車を
堪能できればそれで良い作品かも知れない。しかし映画を見
ている内に、物語はそこから一歩踏み込んで、本当に人を愛
するということが、一体どのようなことなのかを説いている
ことに気づかされる。                 
原題の意味は、王者同士の頭脳合戦というようなことを表し
ているもののようだ。詐欺師元夫婦の虚々実々の頭脳戦。し
かしその裏にあるのは、愛する人のために全てを捧げ尽くす
主人公の物語なのだ。                 
以下にネタばれあります。       
詐欺師の物語らしく、真実がどこにあるのかは最後まで判ら
ないように作られている。しかしラウのちょっとした仕種な
どで、徐々に真実が明かされて行く。それが実に切ない。で
も自分がもし同じ立場だったら、多分同じことをしてしまう
だろう。そんな共感も持てる作品だった。
 
                           
『ミリオンズ』“Millions”              
『28日後...』などのダニー・ボイル監督の最新作。    
イギリスポンドのユーロ転換を目前にしたある年の年末。母
親を病気で亡くし、その上の引っ越しと転校で多少情緒不安
定になっている兄弟の弟の前に、大量のポンド紙幣を詰めた
スポーツバッグが空から落ちてくる。          
弟はそれを兄に話すが、兄弟はそれを隠して2人のために有
効に使おうと決心する。そして弟は、宗教的な考えに基づい
て貧しい人々への施しを始めるが、幼い弟には貧しい人々を
見つけることもなかなかできない。           
これに、弟の気持ちに応えるいろいろな聖人や、一風変った
人物たちが登場してさまざまなドラマを作り上げて行く。 
先日『チャーリーとチョコレート工場』を見てきた家内が、
「主人公が拾ったお金で最後のチョコレートを買うのが教育
上良くないのではないか」と言い出した。これはダールの原
作も同じで、そのことは家内が原作を読んだときにも言い出
したものだったが…                  
そのことを友人と話し合ったところ、ニューオルリンズでの
略奪横行を見ても感じるが、元々が狩猟民族の西欧人には、
所有者の判らないものは自分のものにしていいという考えが
あるのではないか、という結論になった。        
本作でも、主人公の弟は宗教的な観点から悪いことだと言い
はするが、警察に届けようという話しはほとんど出てこなか
った。もっともニューオルリンズでは警察が率先して略奪を
しているのだから話にならないが、本作はイギリス映画で多
少は違うのではないかと思えるところだが…       
しかしそういうところを除けば、本作ではいろいろと悩む弟
が実に愛らしく、一方、その弟を守ろうとする兄の姿も凛々
しくて、なかなか良い感じの兄弟愛の物語と言える作品だ。
因に監督は、「自分の子供たちに堂々と見せられる作品」と
称しているようだ。                  
前作の『28日後...』からは180度方向転換したような作品だ
が、監督の次回作は本格SFになりそうで、それもまた期待
したいものだ。                    
                           
『コープスブライド』“Corpse Bride”         
人形アニメーションの最高作と言われた1993年の『ナイトメ
アー・ビフォア・クリスマス』で原案、製作を担当して以来
12年、ティム・バートンが再び挑んだ人形アニメーションの
最新作。今回のバートンは、製作に加えて自ら監督も手掛け
ている。                       
物語の舞台は19世紀のヨーロッパ。とある片田舎の町で裕福
な商人の息子と没落貴族の娘が結婚することになる。それま
で面識のなかった新郎新婦だったが、2人は結婚式の前日の
リハーサルで初めて顔を合わせて、即座に互いを気に入るこ
ととなる。                      
ところが新郎は、緊張のあまり結婚の誓いの言葉もまともに
述べられない。そして厳格な神父から練習を命じられ、言い
つけ通り一人森をさ迷いながら練習していた彼は、誤ってそ
の誓いの言葉を、その場に埋められていた死体の花嫁に捧げ
てしまう。                      
しかもこの誤解によって、新郎は生きたまま死者の国に連れ
て行かれる。果たして2人はめでたく結婚できるのか、そし
て死体の花嫁の運命は…                
元はロシアの民話に基づくもののようだが、これがバートン
の手に掛かると、死者の国が妙にカラフルで活気があり、そ
こに登場するいろいろな死体にも愛嬌がある。いや、もちろ
ん死体なのだからグロテスクではあるのだが…      
『ナイトメアー…』のハロウィンの国と同様、ちょっと無気
味な異形のキャラクターたちが大活躍を繰り広げる物語だ。
そしてこの新郎新婦の声をジョニー・デップとエミリー・ワ
トスン、死体の花嫁の声をヘレナ・ボナム=カーター、さら
にクリストファー・リー、アルバート・フィニーらが共演。
なお作品はミュージカル仕立で、ボナム=カーターとフィニ
ーは歌も歌っている。                 
因にデップの録音は、『チャーリーとチョコレート工場』の
撮影と並行して行われたということだが、昼間は子供たちと
ちょっと傲慢なウィリー・ウォンカを演じて、それが終ると
夜は臆病な新郎の声に切り替えなければならず、かなり大変
だったようだ。                    
また、初めての声だけの出演については、先日の『チャーリ
ー…』での記者会見の席で、「演技なしで声だけで演じるの
は大変だったが、空気の中から演技をつかみ出してくるよう
な感じで、貴重な体験だった」と語っていた。      
人形アニメーションの製作の大変さはいまさら述べるまでも
ないが、1日掛かって1〜2秒分と言われる大変な作業が、
見事に結実した作品と言えそうだ。           
ただ、映画の台詞などには、2nd hand shopとか、dead end
とかの駄洒落もいろいろ登場して、この辺は字幕もかなり苦
労しているようだったが、できれば原語を聞き取れると、も
っと面白く楽しめるように感じられるものだ。      
とは言え、ちょっと根暗でカラフルなティム・バートンワー
ルド満開のこの作品を、じっくりと楽しんで行っていただき
たい。                        
                           
『ビッグ・スィンドル』(韓国映画)          
現代の韓国を舞台に詐欺師たちが繰り広げる犯罪ドラマ。 
銀行を舞台にした大掛かりな詐欺事件が発生する。しかしそ
の完遂直前に事件は発覚し、追跡を受けた犯人の車の1台は
事故で炎上。奪われた50億ウォンの現金と、キム先生と呼ば
れる主犯格の男の行方は判らなくなる。         
警察は、事故で死亡した犯人の兄に事情聴取をするが、その
兄は古書店を営みながら作家を続けているという物静かな男
で、事情はほとんど知っていそうにない。        
そしてもう一人、警察が注目するのはキム先生の愛人だった
が、彼女も何もしゃべることはない。ところがこの女もした
たかで、兄に死亡保険金が入ると知るや、その古書店に入り
込み、一緒に暮らし始めてしまう。           
一方、警察には逃亡に失敗した犯人の一人が重症で捕えられ
ており、その口から徐々に犯行の全貌が明かされて行くが…
プロローグのカーチェイスに始まって、そこから時間を遡っ
て犯罪の全貌が明らかにされて行く形式の作品。それに並行
して犯罪捜査の様子や取られた大金の行方が織り込まれ、こ
れが実に巧妙に描かれていて面白い作品だった。     
詐欺師ものと言うのは一般的には人死にや血糊の量が少なく
て、それなりに安心して見ていられるものだが、最近はそう
も言えなくなってきたようだ。と言っても血みどろべたべた
というほどではないが、本作ではプロローグからかなり迫力
の映像が描かれる。                  
でも本筋は、定番通りの虚々実々の頭脳戦という感じのもの
だ。と言っても、実は最初の銀行の事件の手口が僕はよく判
らなかったのだが、まあ取り敢えず50億ウォンが奪われたと
いうことで、そこは余り気にしなくても全体の筋には問題な
いものだった。                    
ただし、それ以外の話の筋もだんだん入り組んでくるのは、
詐欺師もののお定まりの展開というところだが、この部分は
実に判りやすく説明されていて、最後はお見事という感じの
納まり方をする。さすがに韓国の各映画賞で脚本賞を総嘗め
にした作品というところだ。              
                           
『旅するジーンズと16歳の夏』            
       “The Sisterhood of the Traveling Pants”
アン・ブラッシェアーズ原作でNYタイムズのリストに1年
以上載り続けたというベストセラー小説の映画化。    
母親たちが同じマタニティスクールに通っていたことから、
生まれたときからずっと一緒に過ごしてきた4人の少女が、
16歳の夏休みを初めてばらばらに過ごすことになる。そこで
4人は、古着屋で見つけた1本の不思議なジーンズを1週間
ずつ廻して旅を楽しむことにする。           
4人はそれまでにも、親の離婚や母親の自殺など、いろいろ
な辛い思い出を姉妹のように共有して育ってきた。その4人
が、ギリシャやメキシコなどそれぞれの向かった土地でいろ
いろな期待に胸を膨らまし、ジーンズにはそれを叶える魔法
の力があると考えていたのだが…            
4人の少女の一夏の経験と挫折、それによる成長を見事に描
いた作品。さらにそこには友情という掛け替えのない素晴ら
しいものが後ろ楯として控えている。こんな友情を持てるこ
との素晴らしさも、この作品は訴えているのだろう。   
主演の4人を演じるのは、アンバー・タンブリン、アメリカ
・フェレーラ、ブレイク・ライヴリー、アレクシス・ブレー
デル。この内、ブレーデルは『シン・シティ』にも出演して
いるが、180度違う役柄で驚かされる。          
他には、『トータル・リコール』のレイチェル・ティコティ
ン、2003年の『ミッシング』でトミー・リー・ジョーンズ、
ケイト・ブランシェットらと共演したジェナ・ボイドが、そ
れぞれ重要な役で出演している。            
ワシントンポスト紙の紹介は「大の男が泣かされてしまう」
だったそうだが。確かにこれだけの物語が提示されると、ど
こかに自分でも思い当たるものが出てきそうだ。それが出て
こない人は、多分本人が鈍感なのだろう。        
見ているときに、同じワーナー映画で2003年3月に紹介した
『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』を思い出した。ちょ
うどあの作品も4人の姉妹のような女性たちの物語だが、多
分この子たちもあんな風になるのだろうなと考えると、ちょ
っと微笑ましくもなった。               
因に、物語は4つの場所が同時進行で交互に登場するが、世
界中に広がったロケーションをその通りに撮影したはずはな
く、それぞれの土地で集中させて行われたものだ。それをこ
のように見事に繋いでみせた編集も素晴らしいものだった。
それにしても、ジーンズの最初の旅先であるギリシャのサン
トリーニ島の風景がこの上なく美しく、この物語の開幕には
最高のものに感じられた。               
                           
『ビタースイート』“濃厚不倫 とられた女”      
国映/新東宝製作によるピンク映画が一般上映されることに
なり、試写会が催された。なお、一般上映に当って題名が変
更されるということだ。                
同様に一般上映されるピンク映画の試写会は何本か見ている
が、今まではなんと言うか、ピンクなのか一般なのか中途半
端な作品が多い感じで、正直に言って気に入った作品は少な
かった。                       
しかし今回は、4月に紹介したドキュメンタリーの『ピンク
リボン』でも中心的に取り上げられていた女池充監督の作品
で、さすがに今一番人気の高い監督の作品という感じのもの
だった。特に間違いなくピンク映画という作品なのが良い感
じでもあった。                    
主人公は結婚を控えた若い女性。その彼女が婚姻届けの用紙
をもらいに行った区役所で、次に来た男が離婚届けをもらう
のを見てしまう。その後、以前の同僚の女性と会食した彼女
は、その店のオーナーシェフが次に来た男性であることに気
付く。                        
一方、オーナーシェフの男には離れて住む妻子がいたが、妻
との関係は冷え切っている。その妻は親友だった男の彼女を
奪ったもので、以来10年近くが経って、今ではその親友は堕
落して酒浸りの生活となっている。そして…       
ピンク映画の物語をだらだらと書いても仕方がないとは思う
が、この複雑な人間関係の物語を、58分の上映時間の中で、
しかも幾度ものベッドシーンを織り込んで描いているのだか
ら、この構成力というか、物語をまとめ上げる力は大したも
のだと思う。                     
言い古されたフレーズだが、たかがピンク、されどピンクと
言うところだろう。                  
因に女池監督は、ピンク映画の監督としては初めて、文化庁
の新進芸術家海外留学制度の芸術家在外研修員として昨年秋
からニューヨークに留学中だそうで、今年10月に予定されて
いる帰国後にどのような作品を生み出すか注目されていると
いうことだ。                     
またこの作品は、今年6月に急逝したピンク女優の林由美香
が出演していることでも話題になっている。       
                           
『探偵事務所5』                   
永瀬正敏主演による『濱マイク』シリーズなど、現代劇の探
偵ものを数多く手掛けている林海象監督の集大成とも言える
作品。                        
舞台は川崎。数字の5をあしらった古風なエンブレムを掲げ
る探偵事務所があり、そこには5で始まる3桁の番号で呼ば
れる探偵たちが所属している。入り口には517番の女性がい
て、その背後には各人の現在の活動状況を示す巨大な掲示板
が設置されている。                  
物語は2部構成で、第1部は成宮寛貴扮する新人探偵591の
初仕事が描かれる。それは会長の孫と名告る宍戸瞳が依頼し
た案件で、彼女のタレント志望の親友の行方を探すというも
の。因に会長の500番は宍戸錠その人であり、ナレーション
も務めている。                    
調査を進めるうち、その陰に巨大整形外科クリニックの存在
が現れる。そこは内科医の男が創設したものの事故続きで、
その後アメリカ帰りの女医を看板に据えて繁盛し始めたとい
う。しかし、入退院の人数の不一致や犯罪者絡みの問題など
怪しい噂も尽きない。                 
そして、依頼者の宍戸瞳や先輩探偵たちの支援のもと、調査
は進んで行くが…                   
第2部は宮迫博之扮する浮気調査専門のベテラン探偵522の
物語。彼は探偵家業は生活のための手段とうそぶくような男
だったが、実は事務所の許可を受けて巨大整形外科クリニッ
クの調査も続けていた。                
そんな彼には、怪しげな秘密兵器を開発する町工場や、情報
屋兼鍵の専門家や、内偵などの多彩な協力者もいた。そこに
探偵591や宍戸瞳も加わって、遂にクリニックの息の根を止
める作戦が開始されるが…               
マンガチックというよりは、アニメチックに近い活劇調の探
偵物語。荒唐無稽な部分もいろいろあるけれど、それなりに
センスは良いし、特に第2部の人情味ある物語は、さすが大
ベテランの作品という感じだ。             
と言っても僕は、林作品は『ZIPANG』と『Cat’s
 Eye』ぐらいしか見ていないのだが…やたらと凝った設
定の探偵七つ道具や走り回るレトロな国産車などは、なるほ
どこれが海象ワールドなのだなと感じさせてくれた。   
多彩なゲストや友情出演もあるし、また主要な出演者では、
田中美里が偏執的な女医役を演じているが、どうやら彼女の
作品歴からは、主演作品が1本消されてしまったようだ。 
なお、このシリーズでは、『濱マイク』と同時期の2002年に
北村一輝主演の『探偵551』と、2003年にともさかりえ主
演の『黒の女』(探偵661)のいずれも短編2作が製作さ
れており、今後もウェブ公開向けに短編の連作が予定されて
いるようだ。どうせなら、このままテレビシリーズ化しても
行けるようにも思えたが。               


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井口健二