井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2005年09月01日(木) 第94回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はこの情報から。
 昨年公開の“Troy”では神話に描かれた戦争を見事に再現
してみせたワーナーから、今度は史実に基づく古代の戦いを
映画化する計画が発表された。
 その戦いとは、紀元前481年から480年に掛けてギリシャの
テルモピレーで勃発したスパルタ軍vs.ペルシャ軍の戦争。
この攻防では、スパルタの王レオニダスに率いられた300人
の精鋭戦士たちが、圧倒的な勢力を持つペルシャ軍に挑むが
全滅。しかしこの行為がギリシャの国民にペルシャへの反攻
の気運を呼び起こし、この民衆からの動きが後の民主主義の
種を根付かせた意味も持つとも言われるものだそうだ。
 といっても今回の計画は、実は“Sin City”などのフラン
ク・ミラーが手掛けた“300”と題されたグラフィック・ノ
ヴェルを原作とするもので、その意味ではコミックスの映画
化でもあって、いわゆる歴史ものとはちょっと違った雰囲気
の作品になりそうだ。あのスタイリッシュな画面構成が、古
代の戦いをどのように表現しているかにも興味を引かれる。
 そしてこの計画では、2004年のリメイク版“Dawn of the
Dead”を手掛けたザック・スナイダーが監督に起用され、前
作にも協力したカート・ジョンスタッドと共に、ミラーの原
作に基づく脚色も行っている。
 僕自身は、“Dawm…”のリメイク版に関してはあまり評価
していないものだが、若いファンの間では結構話題になって
いたようで、それなりのスタイルやスピード感は評価された
ようだ。その評価に見合う作品を期待したい。ただし今回の
計画では、原作者のミラーが製作総指揮に名を連ねているの
で、あまり原作から掛け離れたものには出来ないだろう。
 撮影は10月17日にモントリオールで開始の予定で、主人公
のレオニダス王役には、“Phantom of the Opera”や“Lara
Croft Tomb Raider: Cradle of Life”、それに“Dracula
2000”(ドラキュリア)などのジェラルド・バトラーの出演
が発表されている。
 歴史を描いたエピックものと呼ばれるジャンルの映画は、
“Troy”も含めて今一つアメリカ国内で興行成績が上がらな
いようだが、海外での興行の伸びは著しいものがあるという
ことで、今回の計画もその辺りを踏まえてイギリス出身のバ
トラーの起用ということにもなっているようだ。また、今回
の題材となるテルモスピーの戦いは、人類史上の偉大な戦い
の一つと言われ、現在のアメリカ軍でも士官学校での戦術研
究の対象になっているということで、その辺りの現代に通じ
る部分にも期待が持たれそうだ。
        *         *
 お次は、1974年のニクソン政権の崩壊を、その周囲にいた
女性たちの目で捉えたジョン・ジェッターの舞台劇“Dirty
Tricks”の映画化が、“Running With Scissors”などのラ
イアン・マーフィの製作、脚色、監督により、パラマウント
で進められることが発表された。
 そしてこの映画化では、主人公となる大統領の取り巻きス
タッフのチーフだったジョン・ミッチェルの妻マーサ役を、
メリル・ストリープが演じる他、ホワイトハウス報道官のヘ
レン・トーマス役をアネット・ベニング、ミッチェルに対抗
していたジョン・ディーンの妻モウリーン役をグウィネス・
パルトロー、大統領の妻パット・ニクソン役をジル・クレイ
バーグが演じることになっている。因に、ストリープを除く
3人は“Running…”でも共演しているものだ。
 一方、マーフィは、以前からストリープが主演する映画の
題材を探しており、昨年の秋にジェッターの舞台劇を見て、
自己資金で映画化権を獲得していたというもの。そして映画
化に際しては、女性と政治の問題を前面に出した内容にする
ということで、これには原作者も賛成しているそうだ。
 物語は、ストリープ演じるマーサが、政権内の実情をいろ
いろ喋り過ぎたために政権の崩壊を早めさせたという出来事
に基づいており、彼女を黙らせるために政党関係者が取った
汚い手口が描かれる。そして最後に彼女は子供を連れて夫の
許を離れることを余儀なくされるというものだ。またベニン
グ演じるヘレンは、マーサの発言をいちいち否定する役割を
演じることになる。
 マーサ自身は、現在でもかなりエキセントリックな人物だ
ったと評されているようだが、その真実はどうだったのか、
ストリープは“The Manchurian Candidate”(クライシス・
オブ・アメリカ)でもかなりエキセントリックな政治家の母
親を演じていたが、マーサの真実がストリープの熱演でどの
ように描かれるかにも興味を引かれるものだ。
 ただし、現在のマーフィは総指揮を務める人気テレビシリ
ーズ“Nip/Tuck”の第3シーズンがスタートしたところで、
映画の製作はそれが一段落する来年春になるようだ。
        *         *
 続いては、この夏公開の“Herbie: Fully Loaded”(ハー
ビー/機械じかけのキューピッド)が予想通りのヒットとな
ったアンジェラ・ロビンスン監督の次回作が、ニューライン
で製作されることになった。
 この作品は“Genbot”と題されているもので、彼女とアレ
ックス・コンドライキーが共同で執筆したオリジナル脚本を
映画化するもの。物語は、一人の若い女性が、政府の秘密計
画によって自分の身体がサイボーグに作り替えられているこ
とに気付き…というちょっとSFチックなお話で、ジャンル
はアクション・コメディとなっている。
 なおこの計画では、ロビンスンは本来はディズニーとの間
で優先契約を結んでいるものだが、本作に関しては、ディズ
ニー側が内容的にちょっとダークで自社の基準に合わないと
判断して優先権を放棄したもの。ところがその結果は、各社
の争奪戦となって、ニューラインが7桁($)の契約金で権
利を獲得したということだ。
 因にロビンスンは、2004年サンダンス映画祭で話題となっ
た長編監督デビュー作の“D.E.B.S.”も、若い女性が主人公
のアクション・アドヴェンチャー・コメディということで、
その路線に沿った新作は各社の注目の的だったようだ。また
本作の製作は、ロビンスンが、“Almost Famous”(あの頃
ペニー・レインと)の製作者のリサ・スチュアートと、“50
First Dates”(50回目のファースト・キス)の製作者の
ラリー・ケナーと共に設立したピンク・サンダーというプロ
ダクションで行うもので、新会社の第1作となるものだ。
        *         *
 1998年に“American History X”で物議を醸したイギリス
出身のトニー・カイ監督が、“Paranoia”という作品で再び
ハリウッドに挑戦することになった。
 物語は、広告会社の女性重役が金曜日に職場を離れてから
日曜日までの2日間の記憶を失い、その間に起きた殺人事件
の容疑者にされる。その嫌疑を晴らすため彼女は、その間の
記憶と失ったハンドバッグを求めて、行動の再構築を始める
というもの。この内容に、さらに“Sixth Sence”的な捻り
があるということだ。
 “Catch Me If You Can”や“I,Robot”などの製作総指揮
を担当したマイクル・シェインのアイデアから、これから公
開される“Dirty Deeds”などのティーン・コメディを手掛
けているジョン・ランドが脚本を書き、シェインとパートナ
ーのアンソニー・ロマノが製作も務める。インディーズでの
製作だが、すでに資金の調達は出来ているということだ。
 ところで、エドワード・ノートンとエドワード・ファーロ
ングの共演で映画化された“American…”は、南カリフォル
ニアの小都市を舞台に、路上に集う若者たちの過激な生態を
スタイリッシュに描き切ったもので、その映像の見事さと共
に、そこに描かれた強烈な内容は見るものを震撼とさせたも
のだ。そしてこの作品では、過激な内容だけでなく、カイ監
督と製作会社のニューラインとの間で最終編集権を巡っての
トラブルも発生し、一時は監督が自分の名前をクレジットか
ら外すことを要求したり、新聞に意見広告を出したり、さら
には宗教家をともなって本社に抗議行動を起こすなど、監督
の取った態度も問題にされた。
 しかしカイ監督は、その後に「あの頃の自分は、感情の面
でまともではなかった」と反省の弁を述べたということで、
過激な映画の内容が監督の心境にもかなりの影響を与えてい
たということのようだ。その点で言えば、今回の作品は内容
的にもそれほど影響が出るようなものでもなさそうで、取り
敢えずは順調に進みそうな感じのものだ。製作時期や、出演
者などの情報もまだ出てきてはいないが、前作の強烈な印象
を覚えているものとしては、今回の作品にも期待を持ってし
まうところだ。
 なおカイ監督は、先にカナダのメディア8・エンターテイ
ンメント社との間で“Reaper”という作品の契約も結んでい
るようだ。
        *         *
 1999年の東京国際映画祭・コンペティション部門に出品さ
れた“Twin Falls Idaho”のマーク&マイクル・ポーリッシ
ュ兄弟の新作に、ビリー・ボブ・ソーントンの主演が発表さ
れ、ワーナーの子会社のワーナー・インディペンデンス(W
I)で製作されることになった。
 この作品は“Astronaut Farmer”と題されたもので、家庭
の事情でNASAを退職して農家を継いだ主人公が、宇宙へ
の夢を捨て切れず、ついに自前のロケットを組み立てるが…
政府がこれを止めに掛かるというもの。さらにこれにご近所
さんやメディアなども絡むというもので、ソーントンらしい
反骨精神に満ちた作品になりそうだ。
 日本でも先に、吉本の芸人の出演で個人で宇宙ロケットを
打ち上げる作品が作られているが、他にもグアム島を舞台に
した同様の“Guam Gose to the Moon”という作品も以前か
ら計画されているなど、NASAのスペースシャトルがトラ
ブル続きの中で、この種の作品がちょっと注目を集めている
ようだ。なお、新作は“Twin…”と同様、兄弟で書き上げた
脚本からマイクルが監督。撮影は9月初旬にニューメキシコ
で開始の予定だが、今回報告の時点では主演女優を選考中と
なっていた。
 また、今回の計画では、先にソーントンに脚本が提示され
て、彼の出演が決まった段階でそれをセットにしてWIへの
売り込みが行われたようだ。つまりこの作品は、ソーントン
の信用で実現した企画ということになる。因にポーリッシュ
兄弟の作品では、2001年に“Jackpot”という作品が、ダリ
ル・ハナの出演で製作されているが、日本では未公開に終っ
ているものだ。
 一方、ソーントンの次回作では、ジョン・キューザックの
共演、ハロルド・ライミス監督による“Ice Harvest”とい
う作品が年末に全米公開が予定されている。この作品はスコ
ット・フィリップスの同名の小説をリチャード・ロッソが脚
色したもので、クリスマスイヴの日に、ソーントン扮するス
トリップクラブのオーナーと、キューザック扮する無能な弁
護士が犯罪組織から1200万ドル横領を企むという犯罪もの。
ソーントンは今年もクリスマスの犯罪を企むようだ。
 その他、ソーントンの計画では、ウェインスタインCo.傘
下のディメンションが進めている1960年製作のイギリス映画
“School for Scoundrels”のリメイク計画にも主演が発表
されている。
        *         *
 1992年にディズニーから発表された長編アニメーションの
“Aladdin”は、ロビン・ウィリアムスによる声のパフォー
マンスなどの人気で、アメリカ国内だけで2億1700万ドル、
全世界では5億400万ドルの興行収入と、テレビシリーズ化
やダイレクトヴィデオなどで大成功を納めているが、そのデ
ィズニーから新たに現代版の実写映画の計画が発表された。
 この計画は、1999年にブレンダン・フレーザー主演で映画
化された“Blast from the Past”(タイムトレベラー)な
どの脚本家ビル・ケリーのアイデアに基づくものということ
だが、物語の内容は、上記の「アラディンと魔法のランプ」
の現代版という以外の情報は一切公表されていない。ただし
製作は、“The Pacifier”(キャプテン・ウルフ)などのア
ダム・シャンクマンのプロダクションが担当し、現状ではシ
ャンクマンの監督予定として、ケリーによる脚本の完成が待
たれているということだ。
 因にケリーは、実写とアニメーションの合成による妖精物
語の現代版として、今年6月15日付の第89回などで紹介して
いる“Enchanted”の脚本も担当しているということで、こ
の手の内容では信用があるようだ。
 なお上記のように、この作品ではシャンクマンの監督予定
となっているものだが、2003年11月1日付の第50回などでも
書いているようにシャンクマンの監督予定は常にスケジュー
ルが一杯で、上記の“Enchanted”でも当初はシャンクマン
の監督が予定されていたが、第89回で紹介したようにケヴィ
ン・リマに変更されている。従って今回の作品もその手順を
踏む可能性は高そうだ。
        *         *
 ソニー・ピクチャーズから、“Black Hawk Down”などの
脚本家ケン・ノーランが提出した75ページのscript-mentに
対して、300万ドルという同社最高額の契約が結ばれたこと
が発表された。因に、script-mentというのは、script(台
本)と呼ぶには短いし、treatment(概要)では長すぎると
いうことで、新たに作られた言葉のようだ。
 そして今回の作品は、ワイトリー・ストリーバーという作
家による来年8月刊行予定の小説“The Grays”を脚色した
もので、その内容は、秘密裏に地球を訪れていた異星人と地
球人との関係を描いたものと言われている。また詳細な内容
は明らかにされていないが、中心となる主人公は女性だとい
う情報もあるようだ。
 因に原作者のストリーバーは、1981年にアルバート・フィ
ニーが主演した現代が舞台の狼男ものの“Wolfen”や、83年
にトニー・スコット監督がデビュー作として映画化した吸血
鬼ものの“The Hunger”のようなモダンホラー作品で知られ
るが、その一方で、アート・ベルという作家と共作した終末
ものの“The Coming Global Super Storm”は、ローランド
・エメリッヒ監督の“The Day After Tomorrow”の元になっ
た作品として公認され、彼自身が映画のノヴェライゼーショ
ンも手掛けているというものだ。
 従ってこれだけの実績と、それにノーランの脚色という条
件が加われば、上記の契約金も納得できるというもので、こ
の金額についてとやかく言っている報道も見掛けたが、まあ
あまり邪推はしたくないという感じのものだ。
 監督や製作時期などは未定だが、状況から考えるとかなり
大規模な作品になりそうで期待して待ちたいところだ。
        *         *
 後半は続報を2つ紹介しておこう。
 まずは、ウォシャウスキー兄弟の脚本、製作、ナタリー・
ポートマン主演による“V for Vendetta”の公開について、
当初予定されていた11月4日の全米公開を来年3月17日に延
期することが配給元のワーナーから発表された。
 この延期の理由は、表向きはVFXなどのポストプロダク
ションが遅れているためとされているものだが、実はこの作
品の内容が、去年12月1日付の第76回でも紹介しているよう
に、1950年代のナチスドイツが勝利した平行世界のロンドン
を舞台に、全体主義に支配された人々を解放するためのテロ
活動を描いているというもので、先日来のロンドンでのテロ
攻撃の印象の強いうちは、公開を待った方が良いという判断
が働いたものと考えられているようだ。
 ということで公開延期が決定された訳だが、この3月17日
には、元々ワーナー製作でドリュー・バリモア、エリック・
バナ共演の“Lucky You”という作品が予定されていたもの
で、公開はこの作品との入れ替えということになるようだ。
ただし、これによって押し出される“Lucky You”の公開日
は未定となっている。
 一方、この3月17日には、他にソニーからロビン・ウィリ
アムス主演の大型コメディ作品の“R.V.”と、フォックスか
らリンジー・ローハン主演のロマンティックコメディ“Just
My Luck”が予定されているものだが、これにアクションも
のの“V for…”が加わると、ちょうど良いバランスになり
そうな感じだ。
 公開日の仕切り直しというのは、宣伝キャンペーンの組直
しなどの手続きも大変なもののようだが、今回ばかりは事情
が事情だけに仕方がないもので、その点の関係者には頑張っ
てもらいたいものだ。また、実際にポストプロダクションに
は時間の余裕が生まれる訳で、その分の仕上げも充分に行っ
てもらいたいものだ。
        *         *
 もう1本は、昨年6月1日付の第64回で紹介した“Bruce
Almighty”の続編が“Evan Almighty”の題名で製作される
ことになり、前作でジム・キャリー扮するブルースにコケに
され続けたスティーヴ・カレル扮するニュースキャスター=
エヴァン・バクスターが主人公に昇格することになった。
 この作品では、以前にも紹介したように“The Passion of
the Ark”という別の脚本を続編として改作することになっ
ていたものだが、当時の状況ではキャリーの出演が叶うか否
か不明で、改作はキャリーの出演の有無の両面で行うとされ
ていた。しかし結局はキャリーの出演はなかったということ
で、替ってエヴァンが続編の主人公となったようだ。
 物語は、オリジナルの題名からも判るように、主人公は神
様の命令で箱船を作らされることになるもので、旧約聖書の
ノアも周りからは相当に馬鹿にされたものだが、これが現代
だと本当に飛んでもないことになりそうだ。そしてこの命令
をする悪戯好きの神様役には、前作同様モーガン・フリーマ
ンへの出演交渉が行われているということだ。また監督は、
前作と同様トム・シャディアックが担当している。
 なお、製作会社のユニヴァーサルでは、フリーマンの神様
役が再現されて、さらに興行成績がそこそこの数字になった
場合には、シリーズ化も考えたいとしており、その時の題名
は“…Almighty”という形式にするそうだ。つまりフリーマ
ンの神様に振り回される主人公は、毎回交代するということ
になるようだが、さてその場合の第3作のテーマは…。聖書
からなら、十戒かバベルの塔、それともソノムとゴモラ辺り
も面白いと思うのだが、どうなるのだろうか。
        *         *        
 最後に、前回の記事で極めて不注意なミスをしてしまいま
した。余りに恥ずかしいミスなので内容は書きませんが、ミ
ス自体は1週間半ほど前に修正してあります。そこでもし、
それ以前に別の媒体などに記事をコピーされている方がいら
っしゃいましたら、コピーのし直しをお願いします。
 なお、記事の内容自体を修正することは滅多にありません
が、表現等は多少修正していることがありますので、記事を
流用される場合には、出来るだけ最新のものを使用されるよ
うにお願いします。以上、ご迷惑をおかけします。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二