2004年06月14日(月) |
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人、雲−息子への手紙、父、帰る、危情少女、誰も知らない、16歳の合衆国、シュレック2 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 “Harry Potter and the Prisoner of Azkaban” 待望のシリーズ第3弾。ポッターら3人組のホグワーツ魔法 学校での3年目が始まる。 今回は、魔法界での究極の刑務所アズカバンから脱走したシ リアス・ブラックを巡って、それを追うため派遣された吸魂 鬼ディメンターを交えたポッターの冒険が展開する。 上映時間は2時間22分。『王の帰還』が3時間を超えたのに はかなわないが、観客の年齢層が低いことを考えれば、これ がぎりぎりのところだろう。そして今回の映画化は、この上 映時間の中に、実に手際良く物語が納められている。 以前、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』がジ ョージ・ロイ・ヒルによって映画化されたときに、試写を見 た原作の翻訳者の伊藤典夫さんが、「本の挿絵を見ているよ うな映画化だ」と評したことがあったが、この映画化もそれ に近い。 実際に映画を見ていると、原作のこのシーンが見たいと思っ たシーンが次々に登場してくる。しかし、例えばダーズリー 家を飛び出したポッターがナイトバスに辿り着くまでがあっ と言う間だったり、もっといろいろあったはずの部分がほと んど欠落している。 それでも上映時間は2時間22分もあるのだから、これはもう 仕方がないとしか言いようがない。原作の読者としては、映 画を見終って、もう一回原作を読み直したくなる気分に誘わ れる感じだった。 とは言うものの、映画は間違いなく楽しめる。原作を読んで いない人にどうかは判らないが、見たいシーンが次々に万華 鏡のように飛び出してくるのだから、ファンには堪らない作 品だ。この映画は原作の読者への最高のプレゼントと言える かもしれない。 なお、翻訳本が出たときに、新たな登場人物のLupinをルー ピンと読ませていたのが疑問だったが、映画の中でもルーピ ンと発音されていたようだ。フランス人ならルパンだと思う が、イギリス人はそうは呼ばないらしい。フランス語版はど うなっているのだろうか。 原作はこの後どんどん話が重くなって行くが、今回の映画化 はその前哨戦として、恐怖感はそれなりに描いたものの、全 体の雰囲気は極力軽くしようとした意図も感じられる。これ で第4巻の結末の重さをどこまで軽減できるか、今後の展開 につながりそうだ。 『雲−息子への手紙』“Nuages lettres a mon fils” 『ノー・マンズ・ランド』などの製作者でもあるフランス生 まれの女性監督マリオン・ヘンセルによるドキュメンタリー 作品。 世界中の雲を撮影しながら、自らの妊娠、出産、離婚などの 人生を、息子への手紙として綴って行く。そしてこの手紙の 朗読を、フランス語版はカトリーヌ・ドヌーヴ、英語版はシ ャーロット・ランプリングなど6カ国のトップ女優が務めて いる。 監督は僕と同い年で、息子は18歳。彼女の言いたいことは判 るような気のする部分もあるし、また男性では判りにくいと ころもある。しかしこれが彼女の人生で、その人生の山谷が 淡々と綴られているのは、それだけの年月がそこに費やされ たということだろう。 そして映像では、次々に変化して行く雲の姿が、ディジタル 処理による時間の流れの変化も付けて美しく描かれる。この ディジタル処理と編集作業に、製作費の15%が費やされたと いうことで、その映像への思い入れが判る。 ただ、今回この作品を字幕で見ていると、字幕を読まなけれ ばならないために、どうしても映像の全てを追い切れないと ころがある。6カ国語のナレーションが用意されたのも、そ の辺の理由があるのだろう。できれば日本語のナレーション も付けてもらって、この映像を堪能してみたかった。 『父、帰る』“Vozvrashchenie” 2003年のヴェネチア映画祭でグランプリ金獅子賞を受賞した ロシア映画。 長く不在だった父親が12年ぶりに帰ってくる。しかも突然。 10代の2人の少年が遊びから家に帰ると、そこにはすでにベ ッドで眠りこける父親の姿があるのだ。 その父親は、2人の息子を小旅行へ連れ出す。それは息子た ちとの絆を取り戻す目的だったのかも知れない。しかし、多 少は父親の記憶のあるらしい上の子は、徐々に父親に打ち解 けるが、下の子にはそれができない。 一方、父親も子供への対し方が判っていない。この親子の関 係が、物語の緊張を嫌が上にも高め続ける。そして父親の取 る謎の行動。やがて親子は、大きな湖を渡って、無人島へと 辿り着くのだが…。 監督も、製作者も、カメラマンも、作曲家も、全員が映画は ほとんど素人と言うロシアの民間テレビスタジオで製作され た作品。その作品が、名だたる作家の集まった映画祭でグラ ンプリを受賞した。 しかし、その理由は映画を見れば明らかだ。新人とは言え、 映画の歴史から学び尽くした知識の深さ、そしてそれが知識 だけで終わらない映画への愛情、さらに真摯な態度。それら が画面の隅々から感じ取れる。 東京国際映画祭でも、ここ数年何本かのロシア映画を見てき たが、到底映画への愛情が感じられなかった作品も含め、い ずれも僕は気に入らなかった。しかしこの作品には、何か懐 かしいロシア映画の味と、その一方で新鮮さも感じさせるも のがあった。 映画は、父親と特に下の息子との関係を巧妙に描いて行く。 それが全く不自然でなく、それでいてドラマティックなのは 見事だった。この作品が、新しいロシア映画の歴史を作り始 める、そんな予感がした。 アンドレイ・タルコフスキーにオマージュを捧げているよう な床に水の撒かれた屋内のシーン。そんなところも好ましい 作品だった。 『危情少女』“危情少女” 2000年の『ふたりの人魚』で国際的に評価されたロウ・エイ 監督が、1995年に発表した監督デビュー作。 自分の見る悪夢の原因を探ろうとした少女の行動を描いた中 国映画史上初(?)の本格恐怖映画。中国でも、幽霊ものの 映画は戦前からいろいろ作られていたと思うが、いわゆる現 代風のホラー映画では最初の作品ということのようだ。 毎夜悪夢にうなされる少女。悪夢に現れるのは、雲行きの怪 しい空模様の下、無表情に彼女を見つめる街の人々、そして 古びたアパート。やがて少女は、実在したそのアパートを探 し当てるが、今度はそのアパートで死んだはずの母親が夢に 現れ始める。そして悪夢の続きは、彼女の周囲で過去に起っ た悲劇を再現して行く。 まあ、いろいろ言えることはあるのだけれど、映画の全体の 雰囲気は中々良い感じのものだった。 物語の辻褄が前半と後半とで、ちょっと合わなくなっている ような感じもするが、その辺の何かモヤモヤしているところ が、ちょっと変な言い方だが一種の魅力にもなっていて、そ のまま最後まで見せられてしまった感じもする。またそれを 見続けさせるだけのものは感じさせる作品だった。 因に本作は、元はテレビ向けに作られたもののようだが、一 応プロの作品というレベルはクリアしている。実際、この後 の活躍を見れば、監督の才能は認められている訳で、その監 督のデビュー作が見られるということで評価すれば良いもの ともいえる。 『誰も知らない』 『ワンダフルライフ』などの是枝裕和の脚本、監督、編集に より、本年度カンヌ映画祭で主演男優賞を受賞した作品。 1988年東京で実際に起きた、未婚の母親による幼い4人の子 供の置き去り事件を題材に、14歳の少年を最年長とする4人 がどのように生活したかを描いた物語。ただし、映画は事件 を題材にはしているが、物語のほとんどはフィクションで作 られている。 とあるアパートに、夫は海外出張中と称する母親と息子が引 っ越してくる。実は、その一家には他に3人の子供がいるの だが、彼らは全て父親が異なり、しかもいずれも出生届けが 出されておらず、社会からは存在しない子供たちだった。 だから長男を除く3人は、外出はおろかベランダに出ること も許されない。こんな弟妹を、長男は帰宅の遅い母親に代っ て世話している。しかしある日、母親が姿を消してしまう。 そして残された4人は、時折送られてくる現金書留を頼りに 生活を続けるが…。 試写会で配られたプレスブックには、4頁に渡って物語が綴 られている。そんなふうに詳細に綴りたいほど、この映画に は大事にしたい物語が一杯に納められている。確かに悲しい 物語なのだけれど、ここには精一杯生きた子供たちの素晴ら しい姿が描かれている。 事件は、当時未成年の子供が絡むものだし、取材などは不可 能だったと思われる。だからここに描かれた生活の様子は全 て是枝監督の想像によるもののはずだが、彼の子供たちを見 つめる目の優しさが、境遇に立ち向かう子供たちの姿を見事 に描き出している。 といっても、子供たちは雄々しいわけでもなく、遊びたい盛 りの子供たちは、世間からは隠れながらもそれをゲームのよ うにして生活して行く。そんな生き生きとした描き方が、こ の映画をさらに素晴らしいものにしている。 ドキュメンタリー出身の是枝監督は、『ワンダフルライフ』 でも、その手法を活かした素晴らしい作品を作り上げたが、 本作もそれに劣らず見事に作られている。実際、子供たちの 撮影には台本を見せず、ほとんどが即興に近いものだったと いうことだ。 僕は、『ワンダフルライフ』の素人のお婆さんが出演したド キュメンタリーのシーンが最高に好きだが、この作品にも、 演出ではできない素晴らしいドラマが描かれている。 『16歳の合衆国』“The United States of Leland” 16歳の普通の少年が犯した殺人事件が引き起こす様々な出来 事を描いたドラマ。脚本監督は、自身が少年院での教師の経 験を持つマシュー・ライアン・ホーグ。俳優ケヴィン・スペ イシーの製作で、そのデビュー作が実現した。 映画は、その殺人のシーンから始まるが、主人公はその時の ことはよく覚えていないという。そして物語は、その動機を 探ろうとする作家志望の少年院の教師を第2の主人公として 展開して行く。 佐世保の事件が起きた後にこの作品を見たが、取り返しのつ かない犯罪を犯してしまった少年の、戸惑いと悔悟の気持ち がよく描かれた作品のように感じた。最終的に判明する動機 などは佐世保の事件とは異なるが、いずれにしても殺人とい う重大な事件を、その重大さに気付かずに犯してしまう現代 の悲劇は見事に描かれている。 製作を買って出て出演もしているスペイシーは、1999年度オ スカー主演賞を『アメリカン・ビューティー』で受賞以来、 『K−PAX』や『ペイ・フォワード』、そして本作の後に 主演した『ライフ・オブ・デビット・ゲイル』など、社会派 というのではないけれど、現代の一面を捉えた、ちょっとひ ねった作品を好んで出演しているようだ。 その中で本作は、受賞作に一番近いようにも感じるが、いず れにしても現代社会の中で、見て見ぬ振りをしがちな部分を 判りやすく提示してくれたような思いがした。 『シュレック2』“Shrek 2” アメリカでは早くも3億ドル突破を記録した人気CGアニメ ーションシリーズの第2弾。 今回は、新たな仲間として長靴をはいたネコが登場し、前作 にも増したパロディ満載の物語が展開する。前作は一応原作 のあったものだが、今回は映画オリジナルの物語、その分映 画的な展開が思う存分繰り広げられている感じだ。 物語は、前作でめでたく結ばれたシュレックとフィオナの住 む沼辺の家に、遠い遠い王国のフィオナの両親から祝いの晩 餐会を開くという手紙が来るところから始まる。しかしその 手紙には、なぜか結婚相手としてチャーミング王子の名前が 記されていた。 その手紙にしたがい王国に向かうフィオナの馬車、そこには 気乗りのしないシュレックとドンキーも同乗していたが…。 そしてようやく王国に着いたとき、そこで待ち受けていたの は、王家を裏で操る妖精ゴッドマザーの陰謀だった。 前作は基本的に森や草原が舞台だったが、今回は王宮の建つ 大都会。ハリウッドを模した街の景観は正しくパロディの宝 庫という感じだ。多分、日本人の我々には判らないネタも多 いのだろうが、判る部分だけでも充分に楽しめる。 そのくらいに、いろいろなものが盛り込まれている訳で、ア メリカでの記録的な興行成績は、それを探すためのリピータ ーが多いせいではないかと思えるほどだ。 なお、以前の記者会見で製作総指揮のカッツェンバーグは、 「ディズニーが寛容であることを祈りたい」としていたが、 その問題になりそうなシーンはほんの0.5秒ほど、瞬きし てたら見逃しそうだが、確かにこれは…という感じだった。 まあ、そんなシーンも含めて、全く目の離せない上映時間は 1時間33分。なお試写会は、マイク・マイヤーズ、キャメロ ン・ディアスによる英語版での上映だったが、予告編で流れ た日本語も良い感じで、浜田雅功、藤原紀香の吹き替え版も 楽しみだ。
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