2001年10月28日(日)
1895年フランスのリュミエール兄弟によって現代型映画の原型ともいえる作品が公開されてから、数多くの映画が制作・公開されて来ました。当然〝戦争映画〟もその中に含まれる訳ですが、世界で最初に制作された「戦争映画って何?」と問われて直ぐに答えられる方はいらっしゃいますか? 前述の如く、古代・中世・近世の時代劇・史劇ともいわれる作品まで範疇を広げれば、特定するのは非常に難しいと言えます。勉強不足のため、初期の映画にどのようなタイトルの作品があるかわかりませんが、昔の英雄や戦いを描いた作品が無かったとは言い切れません。ただし現在のような長編ストーリーでセットや衣装等が凝った作品ではなかったことでしょう。 現在刊行されている〝戦争映画〟について書かれた書籍資料では、ほとんどが戦後公開された戦争映画=第一次大戦以降作品がリスト形式で掲載されています。 前述の如く、第一次大戦以前の戦争を扱った作品は世間一般的には歴史ドラマ・史劇として分類されているようなので、戦争映画として世界最初の作品は第一次大戦を扱った作品の内のどれかなのでしょう。が、実際「これが世界最初の戦争映画だ」と言えるだけの資料が手元にありません(ご存知の方、ご教授下さい) それでは各国の戦争映画の制作(公開)状況について見てみましょう。
【アメリカ】 1911年ハリウッドに本格的な映画スタジオが設立され、アメリカ映画界の繁栄が始まります。初期の映画ですから娯楽面が強調されているのは当然ですが、やはり歴史上の英雄やヒーロー、西部劇のガンマンが活躍する作品が多く制作されます。その中には戦争映画と言えるものもあるかもしれないですね。 1904年から始まった第一次大戦では、参戦が遅かったこともあり、それをテーマとした作品は少ないようで、しかもほとんどが戦後に作られているようです。 第二次大戦が始まると、政府の指導により、映画が国家の戦略に組入れられます。いわゆる「映画戦」というもので、初期の情報戦・メディア戦的もので、映像情報によって国民の意思を操作しようというものです。ジョン・フォード等の映画人が政府の後援により反日・反独の作品を多数制作します。 この状況は戦後も続き、冷戦による東西緊張状態と朝鮮戦争なども影響して、多くの戦争映画が50年代~60年代にかけて制作されます。 ベトナム戦争以後、俗に「ベトナム戦争後遺症候群」と言われるような作品が多数制作される訳です。アメリカ人にとって「ベトナム戦争とは何だったのか」「ベトナム戦争が残したものは」という問いかけが、この時期の戦争映画の主流だったといえます。 共産主義・ソ連の崩壊とともに〝敵〟を失ったハリウッド戦争映画は急激に衰退します。この状況はスピルバーグ監督の「SPR」の公開まで続く訳です。
【日本】 世界初の映画公開の翌年には、早くも映写機が輸入されていた日本では、1897年には国内初の映画興行が行われ、1899年には初の国産映画が制作されています。初期の日本映画界もハリウッドのそれと似た状況で、娯楽性の高い時代劇や男女のロマンスを扱った作品が多かったようです。1900年に勃発した「北清事変」(北京の55日の舞台)には撮影班が派遣され、また1904年の「日露戦争」にも撮影隊が従軍し、情報メディアとしての映画が活用され始めています。大陸への侵出と激化する戦闘により、前線での兵士の姿や戦場での美談・英雄的行為を描いた作品が多数制作されます。1939年「映画法」の制定により、国内での映画制作と公開に規制か加えられると、この傾向はますます顕著となり、太平洋戦争突入後は情報局管理の下、映画制作各社の統合が行われます。軍隊・軍人・戦争美化、鬼畜米英をテーマとした作品が軍部の後援により多数制作され、前線の報道フィルム(日本ニュース)とともに各地の映画館で上映されます。 戦後、社会の復興とともに日本映画界も復興し、軍隊から多くの映画人が復員してきたことにより多くの作品が制作されます。これらは軍隊内部暴露、戦争の悲惨さ、非合理性、非人道性を扱った作品が多いようです。1950年代~60年代にかけて高度成長による生活のゆとり創造とともに、娯楽作品としての戦争映画が多数制作されます。これらはアクション・任侠映画や特撮映画としての一面も兼ね備えているのが特徴です。その後は、幾つかの大作と呼ばれる作品が制作されますが、洋画作品の大量流入による日本映画の人気下降による影響で、経費のかかる戦争映画の制作は一挙に減少しています。
【ドイツ】 第一次大戦の敗戦後、政治の実権を握ったヒトラー率いる国家社会主義ドイツ労働党(略してナチス)の庇護のもと、ファシズムや国家への奉仕を礼賛する作品が数多く制作されます。ナチスが政権を握るとゲッペルス宣伝相により、この傾向は一層進み、加えてドイツ民族優位ユダヤ民族排斥が顕著になります。 第二次大戦勃発により、前線での兵士の姿を描いた作品が多数制作され、記録フィルム(ドイツ週間ニュース)とともに国民に公開されました。 戦後は、旧軍の非人道性や非合理性を描いた作品が多数制作されますが、ネオナチズムの成長とともに、政府によるナチス排斥が行われ、国内での旧独軍を描いた作品が制作できなくなります。この傾向は1981年の「Uボート」の公開まで続きます。
【旧ソ連】 1917年のロシア革命により政権を握った共産党の庇護の下、芸術性の高い映画が多数制作されますが、戦争映画的な作品は少ないようです。 第二次大戦では「大祖国防衛戦争」のスローガンのもと、戦場での英雄行為や共産主義を称えた作品が幾つか制作されます。 戦後の東西冷戦の中で、共産主義助長の一貫として1950年代後半から1970年代にかけて戦争映画史上に名の残る超大作や名作が幾つも製作されますが、アフガニスタン侵攻を経て共産主義体制の崩壊とともに、ソ連映画界自体も衰退し、ここ最近では殆んどロシア制作の戦争映画は観ることがありません。
【フランス・イタリア】 優れた映画制作技術とスタッフを擁する両国ですが、フランスはドイツによる占領、イタリアは実質的敗戦国という訳で、戦争中に発表された作品は少ないようです。ただ両国とも戦後は精力的に映画が制作されています。 フランスでは、占領下の反独地下抵抗運動を描いた作品が幾つか制作されますが、フィルム・ノワール主義に代表される暗黒街のギャング主体の作品や男女のロマンスを描いた作品の人気が高い為か、戦闘シーンを主体としたような作品は少ないです。その後は植民地(アルジェリア・インドシナ)での戦いを描いた作品が制作されるようになります。現在ではアクション映画が主流で戦争や軍隊を描いた作品は少ないようです。 イタリアでは、戦後直ぐにロッセリーニ監督に代表されるネオリアリズム主義による作品が政策されますが、派手な戦闘シーンを描くよりは、戦場での兵士の姿や戦時下の一般民衆の生活を描いた作品が多いようです。その後ハリウッドでの西部劇人気の影響を受けたイタリア製戦争映画いわゆる「マカロニ・コンバット」モノが多数制作される訳ですが、この分野は、戦争映画ファンの中でも一分野をなすほど根強い人気を誇っています。また同時期にエログロを主体とした「ナチ女収容所」モノも多数制作されます。朝鮮戦争での野戦病院を描き戦争を風刺した名作「MASH」の影響を受けた軍隊風刺劇「マッシュ・イタリアーノ」シリーズも多く制作されますが、ここ最近ではイタリア製戦争映画自体あまり聞かなくなっています。
【イギリス】 第二次大戦時、アメリカの参戦まで単独でドイツとの戦いを行ったイギリスでは、一般民衆も日々の生活が戦争と密接していただけに、戦意高揚の作品が多く制作されたようです。日々独軍機の爆撃を受け、Uボートによる物資輸送への妨害により生活の困窮を余儀なくされた市民にとって、苦しい戦いっを続けながらも最後は勝利を勝ち取る(または勝利のための犠牲となる)前線の兵士たちや物資輸送の船員たちの姿は、自分たちの苦しい生活への励みとなった訳です。 戦後暫くは、この傾向を引きずった作品が制作され続けますが、外貨の稼ぎ頭である「007シリーズ」等の人気により戦争映画の制作は下火になったようです。
【旧ユーゴ・その他東欧諸国】 独軍の占領により苦しい戦いを続けた東欧各国ですが、戦後は、これらの苦しい戦いを描いた国策映画的作品を多数制作しています。 旧ユーゴではチトー大統領による独自の共産主義路線の下、対独パルチザン戦争を描いた大作が多数制作されました。政府と国軍の援助により制作された作品は戦争映画として迫力は凄いですが、反面国策カラーが出すぎていてエンターテインメント性に欠けると言えます。 チトー大統領の死後、宗教・民族等の対立の激化により国家が分裂、激しい内戦状態が起こり、現在でも対立は消えていません。この内戦を描いた作品が多く制作されるようになりましたが、多くは日本国内での劇場公開ではなく、ビデオやDVDのソフト発売といった状況です。 その他の東欧諸国ではチェコやポーランドで第二次大戦を描いた名作が制作されていますが、その数は少ないです。 また、単独でロシア軍と戦ったフィンランドでは、祖国防衛を描いた戦争映画が幾つか制作されています。戦闘シーンも丁寧に描かれており、人気が高いです。
【イスラエル・中東】 ナチスによる迫害を生き延びたユダヤ人たちが、英国の政策により中東パレスチナの地に建国したイスラエルでは、建国以来パレスチナ人や周辺イスラム諸国との争いが絶えておらず、これらの戦いを描いた作品がいくつか制作されています。まもなく公開される「キプールの記憶」は前評判も良いようです。 中東諸国の中では、イランが多くの戦争映画を制作しています。多くがイラン・イラク戦争を舞台とした作品ですが、国軍の全面協力で制作された作品が多いだけあって、登場する戦車や戦闘機の数は半端じゃありません。
【中国・東南アジア・韓国】 太平洋戦争後、国民党との激しい内戦に勝利した中国共産党は、国策の一環として対日戦を描いた作品を制作しています。ただ国策映画の定めとして海外マーケット的なアピール度が低いことにより、ほとんど知られた作品がない状況です。香港返還により、娯楽エンターテインメント性の高い香港映画の技術が多数取り入れられたこともあり、今後の作品には期待できそうです。 東南アジアでは、タイ、ベトナム、カンボジア、フィリピンなどの国で幾つかの戦争映画が制作されているようです。主流はインドシナ・ベトナム戦争ですが作品規模が小さいのと、海外マーケットに殆んど流れない為に殆んど知られていない状況です。 韓国では、朝鮮戦争モノやベトナム戦争モノが数多く制作されていましたが、ほとんどが日本国内での上映が無く、また制作技術的にもハリウッド製映画などに押されていた為、日本国内ではレンタルビデオのシリーズで目にする程度でした。 しかし近年「シュリ」の大ヒット後、その実力を海外に示した韓国映画界は、それに続く「JSA」や「ユリョン」といった作品により地盤を固めています。
と、まあザッと各国での戦争映画制作の歴史について述べてみました。うろ覚えの内容も多いので「それは違うぞッ」という点があれば、ご一報下さい【続く】
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