狛の日記...狛。

 

 

- 2006年09月11日(月)


彼女ね、死にたくないとかじゃなくて、生きたいって言うのよ。
でも、多分彼女自身が自分の事は一番良く分かってたのね。
…先生に挨拶がしたいから、呼んでくれって言ってて…
先生忙しいから、って言ったんだけど、明日は自分のお葬式だからって。
看護婦さんたちには、多分言わなくたって伝わると思ってるのよね。





それが、彼女について家族から聴いた最後の言葉だった。
夜勤で病棟の担当表をみて、彼女の名前がどこにもなかった理由を理解した瞬間、
久し振りに、感情がその衝撃で打ち砕かれてしまったような気がした。

前日に、担当でもないのに病室を訪れた時のその会話を思い出して、
頭の芯が、じん、と痺れてしまった。

あの時、自分は何と応えただろう。
ただ黙って、その話を聴きながら、
彼女の手を擦っているくらいしかできなかったような気がする。

肩で呼吸をするようになって。
声を掛けてもほとんど返事がなくて。
それでも、家族はずっと彼女に話しかけていて。
ご飯も食べれなくたって、食べる時のために準備をしていて。

そんなことが、風のように頭にふわりと過ぎった。

そんな記憶がぐるぐると頭の中を渦巻いて、
まず一番最初に、担当ではない彼女のカルテを読んでいた。








看護師1年目は、患者さんが亡くなると本当に辛くて、悲しくてね。
でも、何年もたつと、いつの間にか何も考えないようにするんだろうね。
感情の上の方だけで、何となく、さらりと流せるようになっちゃってたんだ。





真夜中に、ふ、とそんなことを呟いた先輩の言葉に、
決してその先輩は何も感じていないわけではないような気がした。
死に触れて、じん、と痺れてしまった感情が、
自分が働くために必死に取繕っているのだと思った。
じゃなければ、何度も繰り返して記録を読んだりなんてしないと思うし。
なによりも、自分に向かって、そんな風には呟くことはないような気がするのだ。

病院にいながら、いまだに死の衝撃に慣れることのない自分に、苦笑する。
慣れたくはないけれど、もう少し巧く切り替えることができれば良いのに、と。



...



 

 

 

 

INDEX
past  will

 Home