せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2006年02月03日(金) 読者カード

 ブックオフで買い物。現代の日本の劇作家のもの。数年前に発行されたハードカバーが100円になっていた。それと劇書房の翻訳戯曲。これも100円。どちらもどうしようかな?と前から思っていたものだったので、迷わず購入。
 日本ものを読もうと開いたら、アンケートハガキが入っていた。それも記入された状態で。この本を買ったのは、24歳のフリーターの彼で、購入場所は新宿の青山ブックセンター。要望等のところには「戯曲をもっと出してほしい」とあった。ここまで書いてそのままになっているのは、50円切手を貼らなきゃいけないことにあとで気がついたからかもしれないと想像する。
 僕は、古い本に蔵書印があったりするのが、とても好きだ。昔、本は財産で、必ず誰かのものだったのだ。戦前のハンコやサインを見ると、買った人の思いが、僕までつづいているようなそんな気がしてくる。
 手元にある、大事な本にも蔵書印とサインがある。戦前に発行された岩波文庫、泉鏡花の「注文帳 白鷺」という本だ。全集にしか入っていない、この「白鷺」という小説が僕はとても好きで、古本やで見つけたときには、大喜びでゲットした。奥扉に蔵書印。「注文帳」「白鷺」それぞれの最後のページに赤鉛筆で日付のサインがしてある。「注文帳」は「30.august.1939」、「白鷺」は「31.august.1939」。1939年、昭和14年の8月の終わりに、この人は、この本を読んで、このサインを書いたんだと、それまでなんだか曖昧だった戦前が一気に身近に思えるようになった。
 この年の9月に鏡花は亡くなっている。この夏の終わりの2日、というか、その人が「白鷺」を読んだ昭和14年8月31日は、何年か前の日記に記された一日のように感じられる。このサインのおかげで。
 はさまっていた愛読者カードは、お礼の意味をこめて、50円切手を貼って投函しておいた。


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