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2002年01月11日(金) |
彼と彼と僕らの事情(プロローグ) |
一瞬、時間が止まったかと思った。 みんなその場に立ち尽くして、一歩も動かない。 ぴんと張りつめた空気が漂う。一発触発のアブナイ状態。 ええっと・・・あのー もしもし? 僕は、おろおろして、睨みあったままのお兄ちゃんと大輔君の顔を見比べる。 「オイなんだって? もう一回言ってみろ」 静かだけれど、確実に怒っている時の声色でお兄ちゃんが言う。 挑発的なその言い方に、大輔くんがかっとなったのがわかった。 ま、待って、ちょっと。 「だからぁ、俺はタケルが好きなんでぃ!!」 でぃ。って・・。 ・・・えーと。 あ、でも、よかった。 やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ。さっきの。 耳悪くなったかと思っちゃった。あはは。 ・・・って、ちょっと待て。 こういう場合、聞き間違いの方がいいって言わない? なんだか、余計に険悪な空気が・・・。 だいたい、なんだよ大輔くん。君、僕のこと、あれほど嫌いだ嫌いだって。 そうだよ、ヒカリちゃんとかにだってよく言ってたじゃない。 ねえってば。 睨みあったまま、硬直しているように動かない2人の間に、一乗寺賢がつかつかと歩み寄る。 ああ、助かった。 一乗寺くん、悪いけど、どうにかしてよ。 とりあえず、大輔くんつれて帰ってくれない? そう心で願っていた僕の甘さを、彼はさわやかな笑みで、木っ端微塵に打ち砕いた。 「抜けがけは困るなあ、大輔。お互いフェアに行こうって約束したじゃない」 「賢・・!」 大輔くんが、はっとして一乗寺賢を振り返る。 え? 何、きみ、止めてくれるんじゃないの? 抜けがけって何それ。約束って? いや、そんなことはキミたちの事情であって、僕には関係ないよね? だから、とにかく。 「僕も、タケルくんが好きだ」 ふぇ?・・・今・・・・何と? あああ、そうか! ゴメン。わかってる。 君は、君がデジモンカイザーだった時に、思いきり殴りつけた僕を、まだ恨んでいるんだね。 あの時のことは僕が悪かったよ。あやまるからお願い。 ふざけてないで、大輔くんをどうにかしてー! 「賢・・」 いぶかしむように、大輔くんが一乗寺くんを見る。 君もそう思うよね。おかしいって。いや、君だっておかしいけど。 「悪い、大輔。けど、僕は本気なんだ」 ええ? 本気? 本気って何が? ところで、君、学校ちがうのにどうしてここにいるんだよ。 あ、そか。 デジタルワールドから帰ってきて、校門のとこまで来たら、お兄ちゃんが待っててくれて。 迎えにきてくれたんだ?と喜んで駆けよろうとした僕の腕を、大輔くんが急に掴んで引きとめて・・・。 気がついたら、こうなってた。 「賢、おまえとの友情を壊すようなこたぁしたかねえけど・・・これだけはゆずれねえ!」 いや、いいよ。譲り合いのキモチは大事だって。・・・いや、そうじゃなく。 「一乗寺さんも、大輔さんもやめてください」 「伊織くん!」 「タケルさんが、困ってるじゃありませんか!」 そうそう。いいぞ。3年生だけど、いざって時は君が一番頼りになるかも。 さすがジョグレスパートナーだけはあるじゃない。 「僕もタケルさんが好きです!」 うんうん。さすがにパートナー。やはり心身共にわかりあわねば。 ・・・・・へ? 「あのー・・・・」 言いかけた僕の言葉を遮るように、大輔君が言う。 「伊織! ガキはひっこんでろ。これは俺とヤマトさんの問題だ」 えっ? 「君とヤマトさんと僕の問題だろ?」 君はいいって、一乗寺くん。第一、そこでどうしてお兄ちゃんが・・・。 「だったら、僕だって! 僕と大輔さんと一乗寺さんとヤマトさんの問題です!」 ・・・・・・・ いけない。混乱してきた。 整理しよう。 つまり大輔くんは僕が好き? 一乗寺くんも僕が好き?? 伊織くんも僕が好き??? え? と、じゃあ、お兄ちゃんは・・? さっきから腕組みして、なんだか事の成り行きをじっと窺ってるけど。 もしかして、みんなで僕をハメようとしてるとか? えと、でもエイプリルフールはまだ先だし。 第一、そんなことしてどうするんだよねえ? あ、わかった。 これはきっと夢だよ。きっとそうだ。なんだ、そうだよ。 やだなー。僕ってこんな願望があったんだ? みんなに好きだって言われてみたいって。そんなこと思ったことあったかなー? そんなに僕って愛に飢えてたの? まあ、いいや。 とにかく、こんな疲れる夢はもうゴメンだ。 それに、どうせみんなからモテるなら、男じゃなくて、女のコがいいよ。 やっぱり。 だいたい、この中にヒカリちゃんが入ってないってのが真実味がないもん。 ああ、ほっとしちゃった。夢でよかった。 ヨシ、もう起きよう。1、2、の、3!で起きるからね。 せーえの、1、2の、3!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〈泣) 「みんなの言いたいことは、わかったわ。でもこういうことは本人の気持ちもあることだし。ね? タケルくん」 「そうそう、我々、新・選ばれし子供たちの士気にもかかわる事だしさあ! 事は慎重に運ばないと。とりあえず抜けがけはナシってことで!」 「タケルくんも、それならいいでしょ?」 ・・・・・よくない。 ってか、ヒカリちゃんも京さんも、なんてこと言ってるの??? いや、それより醒めないじゃん、この夢! どうなってんだよ、なんとかしなくちゃあ・・・・。 焦る僕の腕を、誰かがぎゅっと掴んだ。 「いた・・・・」 え? 痛いってことはもしかして? これ夢じゃあ・・・。 腕を掴んでいる人は、僕に向って怒ったかのように言った。 「帰るぞ、タケル」 「え?」 「ちょっと待てよ!」 「まだ話は終わっていない」 「逃げるんですか、ヤマトさん!」 「話になんねえから帰るんだよ。おまえら少し頭冷やせ」 そ、そうだよね。確かに。お兄ちゃんの言う通り。さすが、パチパチ。 「こいつはもうすでに俺のもんなんだよ!」 ・・・・ぱちぱ・・・・・・ え・・・・っ。 「なんだとお!」 「ああ、生憎だったな。じゃあな。行くぞタケル」 「まさか! 本当なのか! タケルくん!」 「そんなこと、しかも実の兄弟で許されることではありません! ヤマトさんは畜生です!」 「そうだそうだ、このケダモノ!!」 「け、ケダモノだとー! 兄が弟に手出して何が悪い!」 「あなたには道徳心というものがないんですか! 世の中にはしていいことと悪いことが・・・」 「一乗寺さんだって、デジモンカイザーの時はさんざん道徳心を欠いたことをしていたではありませんか! あなたにタケルさんを好きだって言う資格はありません!」 「あの時の僕と、今の僕はちがうッ」 「だいたいヤマトさんだって、そんなこと言いながら、空さんとデキてんじゃないすか!」 「空はただの友達だ!」 「へー、ただの友達と腕組んで、渋谷とかに買い物いったりすんですか、へえええええっ」 「うるせえ!」
あのー・・・・・ ねえ、真っ暗になってきたよ? 伊織くん、夕飯の時間すぎちゃうよ? 一乗寺くん、塾は? 大輔くんだって、ジュンさんに頼まれてた番組、ビデオ録りするんじゃあ・・。 お兄ちゃんも。お父さんのご飯はどうするの? だいいち、手出しって何のこと? 手出しも口出しも、最近、僕のことあまり構ってくれないくせに。
ねえ、帰りたいよー・・・ 泣きたい気分で喧喧轟々と低レベルの言い争いをしている4人を呆然と見つめていると、ふいに両側から腕を取られた。 にっこりと女性陣が両脇を固めている。 「なかなか決着がつきそうもないし」 「今日のところは私たちと帰りましょ」 「あ、う、うん。そうだよね」 「明日からは、私とヒカリちゃんで、きっちりガードしてあげるからね」 「心配しなくて大丈夫だから」 ・・・ありがと。心強いよ。 でも、どうして、二人ともそんなに嬉しそうなの?? 僕の両腕にぶらさがるようにして、2人で顔を見合わせて、とっても楽しそうなんだけど。 本当に無事にうちに帰れるのかな・・?
それにしても、ところでこの夢、いったいいつになったら醒めるんだろ・・? もー、お願い。だれか何とかしてよー。 みんな僕のこと、嫌いだって言っていいからさぁ・・・・。
今年はタケルがモテまくる話が書きたい!と豪語していた私ですが、欲望にまかせて早速書いてしまいました。一応、プロローグなので、これから続けて書けたらいいなーvと。タイトルの「彼」は一人足りませんが、まあ、それもおいおいと。〈単に長くなるからやめただけと言えなくもないけど)「僕ら」が誰と誰になるかも、その時々で変えられたら楽しいかな。一応、今の段階ではヤマト優勢ですが、賢タケにもトキメキを隠せないし、ダイタケは読むの専門で来ましたが、楽しそうなのでちょっと書いてみたい気も。伊タケはさすがにないと思うけど、一応大穴ってことで。お兄ちゃんとタケルは、この段階ではまだ何もありません。はい。兄ちゃん、ハッタリかましただけです。 ・・しかし、ほんとに続くのかな? コレ。
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