先週の金曜日に『貸本版 河童の三平 限定版BOX』が発売になりました。先週の土曜日に届いていたのですが、いろいろあって、紹介が今日になったことをご了承ください。全8冊セットだから、分厚いし重い。小学館クリエイティブの貸本復刻セットのBOXはいつもデザインが素敵です。中身は、1961年から62年にかけて出版された貸本の完全復刻版全8巻と別冊付録として、1969年発行『週刊少年サンデー増刊』に掲載された「河童の三平外伝 ふしぎな甕」と解説書の「貸本版河童の三平読本」と、複製原画3点が付いています。値段は10,500円だけど、一冊数十万円はする当時の貸本を買うことを思えば、全8冊揃って、また貴重な付録もついているので、とてもリーズナブルです。これで、ようやく読みたかった貸本版の河童の三平を読むことが出来ました。水木先生の貸本時代の漫画は、貧しくてアシスタントが雇えず、ほとんど1人で描いていたことと、できるだけ短時間で描き上げ出版社に持ち込まないと、原稿料が入らず餓死する恐れがあった理由から、勢いに任せて描いているぶん絵が荒いのですが、メジャーな雑誌に連載を持つようになってからの緻密で繊細なタッチとは、また違った生々しい「味」が感じ取られて、これはこれで悪くないんですよね。さて、『河童の三平』は水木先生の代表作の1つですが、『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』と違って、地味な作品なので題名だけは知っていても内容まではあまり知られていない感じがします。しかし、『河童の三平』こそ、もっとも水木先生の叙情詩的な趣や味わいが全面に出ている作品だと思います。主人公である三平は、終始、大人の都合に振り回され、最初から最後まで不幸な境遇の少年です。しかも、最後は、死神によってあの世へ連れて行かれます。三平は、死から逃れようとあの手この手を使うのですが、最後は、あっけなく死んでしまいます。しかしながら、最初から最後まで不幸な境遇の『フランダースの犬』や『火垂るの墓』に比べれば、同じ主人公の死であっても、逃れられない死というものを、あまりにも淡々と描いており、しかも、この作品では、三平の祖父と父親も死神によってあの世へ連れて行かれ、三平の死後、身代わりとなり母親のもとで生活していた三平にそっくりな河童のかん平も、元の河童の生活へと戻るために母親のもとを離れていくという、全体を通して「別れ」がテーマの根底にあっても、読後に不思議と悲壮感はありません。むしろ、あたたかな気持ちにさせてくれます。これは水木しげる先生自身の人生経験の影響によるものではないでしょうか。のんびり感、奇怪、ユーモア、大自然、叙情、諦観、死生観、そして、糞と屁(笑)水木先生の得意とするすべてが含まれた大河マンガ『河童の三平』未読の方はぜひご一読を。貸本版を再構築し描き直した週刊少年サンデー連載版。こちらの方が物語の深みを増して読みやすいです。