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2007年01月24日(水) 累犯障害者

昨年の暮れから年明け5日ぐらいまでに、

11〜12月に買いだめしていた本を読んでいたのですが、

その中の1冊に山本譲司著『累犯障害者』(新潮社)がありました。

※「累犯」は犯罪を繰り返すという意味であり、
 障害者だから犯罪を繰り返すという意味ではありません。

著者の山本譲司氏といえば民主党菅直人氏の秘書から衆議院議員の政治家となるも、

政策秘書給与の流用事件を犯し2000年に実刑判決を受け、

1年6ヵ月の実刑判決を受け服役し、その433日間の獄中生活を綴り

刑務所の現状を指摘した『獄窓記』を出版された人物です。

山本氏は服役してすぐに受刑者の4人に1人が、

知的障害者だったいうことに驚きます。

そういった方々の罪状のほとんどは、無銭飲食や自転車泥棒などの軽犯罪。

服役中の間、山本氏はに刑務所内の障害者のお世話係を任され、

刑務所内で出会った受刑者から、

「今までの人生でここがいちばん暮らしやすかった」という言葉を聞かされます。

約1年半の刑期を終え出所後の山本氏は福祉の仕事に携わりながら、

障害者の犯罪の実態を調べ始めました。

全国の刑務所で服役する知的障害者の多さ、

7割以上が再入所で10回以上服役が約2割、

刑務所が障害者の施設の代わりになっているとという事実に驚き、

その時に感じたことや独自取材を元に綴った本が『累犯障害者』です。

犯罪を犯した障害者の多くが、

障害を持って生まれたにも関わらず、親や周囲から虐待・冷遇されたり、

福祉とは何の接点も持たず、あるいは自ら接触を断っているため、

それ故に罪を犯すか、暴力団に利用される現実が書かれています。

逮捕され取調べのとき、外国人であれば通訳がつきますが、

知的障害者には医療や福祉の専門家が誰もつかないので、

扱いに慣れていない警察官の取調べでは意思の疎通がうまくできず、

本当のことが伝えられていない恐れがあり、

出会った知的障害の受刑者の中には冤罪ではないかと思う人も存在したそうです。

初犯であれば身元引受人が居れば執行猶予になるのですが、居なければ実刑。

裁判官も執行猶予をつけるか悩むそうです。

また、罪を犯した知的障害者は裁判の内容も理解できず、

服役中も、こういった方々にはカウンセラーなど専門家の指導など

独自の矯正のプログラムが用意されているわけではなので、

反省という意味もほとんど理解できず、

出所後に身元引受人が居ない人たちや家族から厄介者扱いされた障害者は、

福祉によるケアが何もなされていない状態のまま見捨てられるという、

釈放されても行くところが無く、

また周囲の助けも無い悪循環が待っているだけなので、

住みにくい(生きにくい)シャバよりは刑務所の方が良いと、

また同じような犯罪を犯してしまう。

先週の17日、大阪八尾市で男性が歩道橋から子どもを投げ落とすという

非常に痛ましい事件がありました。

男性は軽度の知的障害者で過去にも6回事件を起こしていました。

被害者とその家族にとっては、非常に気の毒としか言いようがありません。

男性は施設でクッキーの製造や販売に関わっていたわけですが、

調べに対して、「悪いことをすれば仕事を辞められる」と言ったそうです。

この事件も累犯障害者の典型的な例に当てはまるのではないでしょうか。

本書には、累犯障害者の事件として有名な

「レッサーパンダ男浅草・女子短大生刺殺事件」と

「下関駅放火事件」の事件を紹介しています。

メディアは犯罪者が逮捕されるまでは何度も報道しますが、

逮捕された人物が知的または精神障害者の場合は、報道を収束させます。

これは、障害者=犯罪を起こしやすいという誤解や偏見を

世間一般に与えかねないことを考慮してと、

人権派からの抗議を恐れて報道を封印(タブー化)しているからなのですが、

タブー化して封印しまうよりも、誤解を与えないように配慮をしつつ、

事件は事件として報道することこそ、メディアの使命であるのではないでしょうか。

また、人権派はそういった方々の人権を守りたいのであれば、

犯罪を繰り返さないと生きられない障害者が多く存在しているという事実を

世間一般に知ってもらい、一歩も二歩も踏み込んだ再発防止のための

施設作りなど支援策を講じるように働きかけるべきだと思うのですが、

しかしながら、人権派は差別に繋がるとは声高に叫んでも、

累犯障害者の支援の枠組み作りには疎かったのではないかと感じざるを得ません。

なにせ、厚生労働省が知的障害がある受刑者らの自立支援策と

再犯防止を支援するため、研究班を発足させモデル事業が

去年の秋からスタートしましたが、このきっかけとなったのが、

山本氏が服役体験をまとめ、

2003年に出版した「獄窓記」だったぐらいですから。

大阪八尾市の事件は、今後、問題のある累犯障害者を

福祉施設が受け入れなくなるということにも繋がりかねません。

施設にも受け入れられず、家族からも見放された障害者は、

犯罪を繰り返してしまう可能性がもっと高まります。

大阪八尾の事件は、罪は罪として健常者と同じように裁きながらも、

刑期を終えた障害者が犯罪を繰り返さないための社会支援を、

福祉施設だけでなく行政や専門家も含めたチームによる

より強力な支援体制が不可欠で急務だということを提示しています。

障害者に限らず、軽犯罪を繰り返し刑務所に何度も戻る健常者も、

刑務所での生活の方が暮らしやすいという理由からですが、

これは今の日本社会の様々なことを象徴していると思います。



関連ブログ:『sokの日記』さま2007年01月23日
「累犯障害者」の現実 −朝日放送『ムーブ!』1月22日放送分テキスト起こし−









名塚元哉 |←ホームページ