「あれー?冷えてないよ〜」
妙にうれしそうな妻の声。 冷蔵庫に片手を突っ込んでひらひらさせている。
ああ。 ついに。 最近、飛行機が離陸するような音をたてているとは思ったのだが。
壊れた。
洗濯機を買い替えたばかりだというのに。
「ほらほらぼーっとしてないで」 「子供たちはうちの実家で預かってもらうことにしたから」 「駐車場が混まないうちに」
こういうときだけは動きの早い妻。 開店前に、電器屋の駐車場についた。
店に入るとすぐにメーカーから派遣されてきたな、とすぐにわかるおやじにつかまる。
「氷にこだわるならこの機種ですよ」 と、やたら勝手に氷の機能ばかりをおすすめだ。 このメーカーのウリはこれだけなんだな…。
しかし、僕がいちばんこだわるのはもちろんノンフロン。 古い機種は安いが、ノンフロンではないのだ。
「さすがエコな男」 「じゃあ、この新機種の中から選ぶんだね」
新しい物好きで金に糸目をつけない妻は非常にうれしそうだ。 それがちょっと気に障るが、まあ仕方ない。
と、いうわけで結局おやじのおすすめの機種を購入。
「勝手に氷をつくる機能なんていらないけど」 「新しいのにはみんなついてるんだもんね」 「それならいちばん衛生的に思えるこの機種しかないもんね」
部屋がちらかってるのは平気なのに、台所だけはきれいでないと許せない妻らしい発言である。
帰宅するなりうちの冷蔵庫に手を突っ込んだ妻。
「あれ?冷えてるみたい〜」
なんですって? デマですかっ。
でも、夕食のときに飲んだビールは生ぬるかった。
「少しでも冷たくしようとして肉の部屋になんかいれるからだよ〜」 「普通のところにいれておいたコントレックスは冷たいよ〜」 「あー、おいしー」
くそー。
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