前潟都窪の日記

2005年01月12日(水) 密葬 連載の2

疑惑

 稔子も淑子もこの文面のあいまいな表現に疑問を持った。「呼吸停止」したら死ぬのは当たり前のことである。専門用語でいえば呼吸不全というのではないだろうか。また弟が姉達に対して「連絡だけは知らせる」という言葉の用法の間違い、無礼な表現方法とその含む意味である。
 最初に浮かぶ疑念は呼吸停止といえば首をくくって自殺か或いは締め殺ろされたかと考えるのが普通だ。死に方が異常だったから密葬にしたのではないか。
 連絡だけは知らせるというのは「母寿子の死を知らなかったとは言わせないぞ」という言外に含む脅しである。本心は二人の姉に出席して欲しくない事情があるのではないか。
 淑子は性格が父親譲りで勝気である。早速父親に電話した。自宅に何回電話しても誰もでないので、国光病院へかけた。暫く待たされてやっと父がでた。開口一番父の発した言葉は
「淑子よ、財産は全然残っていないよ」であった。

淑子は唖然としたが、疑念をぶっつけた。
「お父さん何故母が生きているうちに知らせて下さらなかったの。」
「6年も出入りしていないで何を言うか」
「出入り出来ない状況を作ったのは誰なのよ。お父さんが自分で呼んで集めた二人の姉達を目の前で殴った弟に対して父親としてけじめをつけさせることができないからでしょう。家長として長男に謝らせるのが当然でしょう。稔子姉さんなんかは尾てい骨骨折で2カ月も治療にかかったのよ。」
「そんなことがあったっけな。年だから忘れた」
「いつもそう言って逃げるから示しがつかないのよ。いくら田舎に寄付してもあなたのやっていることは偽善行為で世間体を繕うだけなのよ。」
「親に向かって何を言う」
「事実を言っているだけですよ。それに今朝、福吉がファックスで送りつけてきた無礼な訃報をみましたか。あれは告別式には出席してくれるなという意味ですか」
「俺は知らせるように指示したが原稿は読んでいないから判らない」
「あなたの妻が亡くなったのでしょう。それを娘に肉声で知らせるのがあなたの務めでしょう。それを欲ぼけした馬鹿な福吉にまかせるからですよ」
「・・・・・・」
「何か言ったらどうですか。」
  ガチャンと一方的に電話が切られた。




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